説明

自動二輪車のサスペンションストローク検出装置

【課題】サスペンションセンサを複数車種で共通化することができるようにする。
【解決手段】ステアリング軸28の真下、つまりフロントフォーク22を支持するボトムブリッジ20の車幅方向中央部下面にサスペンションセンサ26を設ける。サスペンションセンサ26は、超音波送受方式またはレーザ光送受方式の非接触式センサであり、超音波やレーザ光をフロントフェンダ25の上面に指向させるように配置される。サスペンションストローク検出装置50は、超音波やレーザ光の送出タイミングと受信(受光)タイミングとの時間差により、前輪サスペンション装置の伸縮量を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のサスペンションストローク検出装置に関し、特に、非接触式センサを用いてサスペンションのストロークを検出することができる自動二輪車のサスペンションストローク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の車輪は、車体フレームに対してサスペンション装置を介して連結されている。自動二輪車の前輪を支持するサスペンション装置としてのフロントフォークは、車体フレーム側に連結された上部筒体と前輪側に連結された下部筒体とを互いに摺動自在に嵌め合わせ、両筒体の間にばねを配置することによって伸縮自在とし、車体フレームと前輪とが弾力性を有して連結されるように構成されている。つまり、運転状態によって前輪側にかかる荷重が変化すると、この荷重の変化はばねの伸縮による上部筒体と下部筒体との距離の変化で吸収される。この距離の変化量がサスペンションストロークである。サスペンションストロークを検出して、その結果により、例えば、サスペンション装置のばね定数を設定する等して、快適な乗り心地や、良好な走行性能を得られるようにすることは従来行われている。
【0003】
特許文献1には、自動二輪車の後輪用サスペンションストロークセンサが開示されている。このストロークセンサは、シリンダ部とピストン部とからなり、ピストン部の一端がリヤショックアブソーバの車体フレーム側取付部近傍に取り付けられ、シリンダ部の一端がリヤショックアブソーバのスイングアーム側取付部に取り付けられている。そして、リヤショクアブソーバの摺動方向軸線と平行になるように取り付けられているこのストロークセンサが、ピストン部の動きに応じたリヤショックアブソーバの伸縮量(サスペンションストローク)を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−208529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているサスペンションストロークセンサは、該センサのピストン部およびシリンダ部がいずれもリヤクッションアブソーバつまりリヤサスペンション装置に連結されている。したがって、リヤサスペンション装置のサイズが異なる車種毎に、異なるサイズのストロークセンサを使用しなければならない。この課題は、前輪のサスペンション装置に取り付けるストロークセンサにおいても同様に起こり得る。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に対して、サスペンション装置の仕様の違いによりストロークセンサの仕様を変える必要性を減らし、できるだけ多くのサスペンション装置に共通して適用することができる自動二輪車のサスペンションストローク検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明は、自動二輪車のサスペンションストローク検出装置において、自動二輪車のステアリング軸の延長線上に設けられた距離測定用の非接触センサ(例えば、超音波送受方式やレーザ光送受方式)を具備し、前記非接触センサが、フロントフェンダの上面に指向させて配置されている点に第1の特徴がある。
【0008】
また、本発明は、フロントフェンダが、前輪のサスペンション装置としてのフロントフォーク下部分に結合されている構成を有する自動二輪車に使用されるサスペンションストローク検出装置である点に第2の特徴がある。
【0009】
また、本発明は、前記非接触式センサが、超音波またはレーザ光の送信部および受信部を単一のケースに組み入れて一体化したユニットである点に第3の特徴がある。
【0010】
また、本発明は、前記非接触式センサに、信号入出力および動作電力供給用の電線が接続されており、該電線が、筒状であるステアリング軸の中空部を通して外部に引き出されるように配線されている点に第4の特徴がある。
【発明の効果】
【0011】
第1〜第4の特徴を有する本発明によれば、非接触式センサから送出される超音波やレーザ光が、フロントフェンダの上部で反射され、反射音や反射光が非接触式センサで受信または受光される。超音波やレーザ光が送出されたタイミングと、反射音や反射光を受信したタイミングとの時間差は、非接触式センサとフロントフェンダとの距離を代表するので、この時間差を検出することで前輪のサスペンション装置の伸縮量(サスペンションのストローク)を精度良く検出することができる。
【0012】
本発明によれば、サスペンション装置のストロークの仕様にかかわらず、同一仕様のサスペンションセンサを使用することができるので、多くの車種にサスペンションセンサを共用できる。
【0013】
なお、第4の特徴によれば、サスペンションセンサから引き出される電線を、ステアリング軸の中空部を通すことができるので、水、泥、外力などから電線を保護できるし、配線スペースが不要になる。また、外観の見栄えも確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るサスペンションストローク検出装置を適用した自動二輪車の要部拡大図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るサスペンションストローク検出装置を適用した自動二輪車の左側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るサスペンションストローク検出装置のシステム構成図である。
【図4】第2実施形態に係るサスペンションストローク検出装置を適用した自動二輪車の要部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るサスペンションストローク検出装置を適用した自動二輪車の左側面図である。同図において、自動二輪車1は、ヘッドパイプ2と、該ヘッドパイプ2から後方(図2の右方向)に延在しているメインフレーム3と、メインフレーム3および該メインフレーム3に接合されたブラケット4から後方に延長されるリヤフレーム5およびシートフレーム6とからなる車体フレーム7を有する。メインフレーム3は、ヘッドパイプ2から車体幅方向左右に分岐して後方に延長する左右一対の部材である。したがって、リヤフレーム5およびシートフレーム6も左右一対である。
【0016】
メインフレーム3は、2箇所に設けられた支持部8、9によってエンジン10を含む動力部を懸架している。メインフレーム3のうち、下方に延びるピボット支持部11に設けられた枢軸12は、後輪13を支持するスイングアーム14の一端(前端)を、該スイングアーム14が上下揺動自在となるように支持する。スイングアーム14は、さらにリヤサスペンション15によって枢軸12から後方位置で支持されている。なお、リヤサスペンション15は上部がブラケット4に連結され、下部がリンク機構を介してスイングアーム14に連結されている。
【0017】
エンジン10の出力軸に設けられた駆動スプロケット16はチェーン17を介して後輪13側のスプロケット18と連結され、エンジン10の出力が後輪13に伝達される。
【0018】
ヘッドパイプ2には、図2では示してないステアリング軸(図1に関して後述)が上下に貫通され、このステアリング軸の上端には、車両直進状態で車幅方向(左右)に延びているトップブリッジ19が連結され、このステアリング軸の下端には、同様に車幅方向(左右)に延びているボトムブリッジ20が連結されている。トップブリッジ19の上にはステアリングハンドル21が固定される。トップブリッジ19およびボトムブリッジ20には、トップブリッジ19の左右端近傍から下方に延びてボトムブリッジ20を上方から下方に貫通する左右一対のパイプ部材からなるフロントフォーク22が設けられる。
【0019】
フロントフォーク22の下端部近傍には、フロントフォーク22を構成する一対のパイプ部材間を連結するフロントアクスル23が設けられ、このフロントアクスル23には前輪24が回転自在に支持される。
【0020】
フロントフォーク22は、上部筒体221と、該上部筒体221に摺動自在に組み合わされる下部筒体222と、上部筒体221と下部筒体222とで囲まれたスペース内に収容され、上部筒体221と下部筒体222との距離を遠ざける方向に付勢するコイルばねつまりサスペンションスプリング(図示しない)とを備える。したがって、フロントフォーク22にかかる負荷の大きさによって、上部筒体221と下部筒体222との距離が変化して、前輪24から車体フレーム7、ひいてはステアリングハンドル21に伝わる振動が吸収される。
【0021】
なお、上部筒体221と下部筒体222は、一方が他方に差し込まれてサスペンションスプリングを収容するスペースを形成しているが、小外径の上部筒体221を大内径の下部筒体222に差し込むように設計するか、小外径の下部筒体222を大内径の上部筒体221に差し込むように設計するかは任意である。
【0022】
下部筒体222には、前輪24を上部からカバーするフロントフェンダ25が取り付けられる。したがって、フロントフォーク22を介して前輪24にかかる負荷の大きさが変化すると、フロントフォーク22は伸縮し、これに伴い、フロントフェンダ25の上面とボトムブリッジ20の下面との距離が変動する。本実施形態では、この距離の変動量を検出するためのサスペンションセンサ26をヘッドパイプ2もしくはボトムブリッジ20の下面に取り付けている。
【0023】
図1は、本実施形態の要部である自動二輪車1の要部を示す図である。図1において、図2と同符号は同一または同等部分を示す。図1において、フロントフェンダ25は、フロントフォーク22の下部筒体221から突出している取付部223に対し、車幅方向にねじ込まれるボルト27により固定される。フロントフォーク22の下部筒体221は、前輪24を前記アクスル軸23で軸支しているので、フロントフェンダ25は、前輪24の、上下方向(フロントフォークの長手方向)の動きに追随する。
【0024】
ヘッドパイプ2には、図2に関して述べたように、トップブリッジ19に上端が結合され、下端がボトムブリッジ20に結合されるステアリング軸28が貫通して設けられている。ヘッドパイプ2は、ステアリング軸28を、上下に配設された軸受30、31によって回動自在に支持している。フロントフォーク22は、ヘッドパイプ2に対して左右に等距離をおいて配置されるので、図1では、車体幅方向の右側の筒体のみを示している。
【0025】
フロントフェンダ25の上方に、サスペンションセンサ26が設けられる。つまり、サスペンションセンサ26はボトムブリッジ20の車幅方向中央部(ステアリング軸28の延長線上)の下面に取り付けられる。
【0026】
サスペンションセンサ26は、超音波やレーザ光を送出する送信部または発光部と、超音波やレーザ光を検知する受信部または受光部とを備える非接触式センサである。以下、超音波式センサで代表して説明する。非接触式サスペンションセンサ26は、超音波の送信部および受信部をフロントフェンダ25の上面に指向させて配置する。図1において、サスペンションセンサ26から送出される超音波は符号USoutで示し、フロントフェンダ25で反射された超音波は符号USinで示す。
【0027】
サスペンションセンサ26の出力信号および出力信号を、図示しないエンジンECUや外部の測定装置との間でやりとりしたり、サスペンションセンサ26の動作電力を、図示しない車載バッテリ等から供給したりするための電線(ハーネス)29が、サスペンションセンサ26に接続され、この電線29は、ステアリング軸28の中空部を通して、外部に引き出される。
【0028】
図3は、サスペンションストローク検出装置のシステム構成を示すブロック図である。図3において、サスペンションストローク検出装置50は、サスペンションセンサ26と、超音波パルス発生器32と、増幅器33と、マイクロコンピュータ34とからなる。サスペンションセンサ26は、超音波送信部261と超音波受信部262を単一のケースに組み入れて一体化したユニットである。マイクロコンピュータ34は、超音波パルス発生器32に所定時間間隔でパルスを発生させるパルス発生指示部341と、その発生と同時に時間計測を開始するタイマ手段(カウンタからなる)342とを有する。
【0029】
さらに、マイクロコンピュータ33は、超音波受信部262で受信されて増幅器33で増幅された超音波(超音波に基づいて得られた電気信号)のうち、所定レベル(閾値)以上のものだけをマイクロコンピュータ34に入力するスレッショルド演算部343を備える。スレッショルド演算部343を通じてマイクロコンピュータ34で超音波の受信が検出されると、前記タイマ手段342は、その時点のカウンタ値を検出値として出力部35から出力する。なお、サスペンションセンサ26をレーザ光送受方式のものとする場合は、超音波パルス発生器32に代えて、レーザ発生器とすることができる。
【0030】
この構成によれば、パルス発生指示部341から所定時間毎に超音波パルス発生器32にパルス発生指示が入力されると、その指示は送信部261に伝達され、同時にタイマ手段342が時間測定開始する。送信部261は、入力された指示(電気信号)を超音波に変換して送出する。送出された超音波USoutは、サスペンションセンサ26の下方に位置するフロントフェンダ25の上面に当たり、反射される。反射超音波USinは、受信部262で受信され、電気信号に変換されて増幅器33に入力される。増幅された電気信号(つまり受信信号)は、スレッショルド演算部343で閾値と比較され、閾値を超えている信号が受信されたときに、タイマ手段342に受信検出信号を入力する。タイマ手段342は、この受信検出信号を入力されると、その時のカウンタ値を出力部35に供給し、出力部35は、カウンタ値を検出値として出力する。なお、タイマ手段342は次の動作のため、カウンタ値をリセットする。
【0031】
カウンタ値は、超音波出力時と入力時との時間差に対応するものであり、この時間差は、サスペンションセンサ26とフロントフェンダ25との距離を代表する。つまり、カウンタ値が小さいほど、自動二輪車1の前部に荷重がかかっていて車体が沈み込んでいることを示す。
【0032】
サスペンションストローク検出装置50の検出値、つまりフロントフォーク22の伸縮量は、自動二輪車1の走行中に測定され、最適な操縦性や乗り心地等の改善のために、サスペンションスプリングのばね定数を調節する等の整備に役立てられる。また、サスペンションの減衰力制御への応用も可能である。また、サスペンションストローク検出装置50の検出値は自動二輪車1の走行中に測定され、エンジン出力調整によって最適な操縦性や乗り心地を得るために、エンジンECU等の制御装置でリアルタイムに使用されることもできる。
【0033】
図4は、第2実施形態に係る自動二輪車の要部正面図であり、図1、図2と同符号は、同一又は同等部分を示す。この第2実施形態の自動二輪車1bは、フロントフォークを上下のブリッジで支持した形式を有していない。そのようなフロントフォークに代えて、ヘッドパイプ2bに支持されたステアリング軸28bの下端で、車幅方向(左右)に分岐する部材からなるフロントフォーク22を有している。したがって、この二股のフロントフォーク22の付け根、つまりステアリング軸28bの直下に、フロントフェンダ25bの上面に対向させてサスペンションセンサ26を取り付けている。このサスペンションセンサ26は図1、図3に関して説明したサスペンションセンサ26と同様に作用する。
【0034】
本明細書では、本発明を実施形態に従って説明したが、本発明はこれに限定されない。当業者は、請求項に記載した範囲で、周知技術を適用する等して本発明を実施することができる。サスペンションセンサ26は、非接触式の距離センサとして使用できるものであればよく、超音波センサに限らず、レーザ光送受方式のセンサでもよいし、ミリ波送受方式のセンサを適用してもよい。
【0035】
なお、レーザ光送受方式やミリ波送受方式を適用する場合も、超音波センサと同様に、送信部と受信部とは単一のケースに一体的に収納したユニットとして構成するのがよい。
【符号の説明】
【0036】
1…自動二輪車、 2…ヘッドパイプ、 3…メインフレーム、 19…トップブリッジ、 20…ボトムブリッジ、 22…フロントフェンダ、 24…前輪、 25…フロントフェンダ、 26…サスペンションセンサ、 28…ステアリング軸、 29…電線、 222…上部筒体、 223…フェンダ取付部、 50…サスペンションストローク検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車のサスペンションストローク検出装置において、
自動二輪車の車体フレーム(7)前部に設けられるヘッドパイプ(2)で支持されたステアリング軸(28)の延長線上に設けられた距離測定用の非接触センサ(26)を具備し、
前記非接触センサ(26)が、自動二輪車の前輪(24)を上部からカバーするフロントフェンダ(25)の上面に指向させて配置されていることを特徴とする自動二輪車のサスペンションストローク検出装置。
【請求項2】
前記フロントフェンダ(25)が、前輪(24)のサスペンション装置としてのフロントフォーク下部分(222)に結合されている構成を有する自動二輪車に使用されることを特徴とする請求項1記載の自動二輪車のサスペンションストローク検出装置。
【請求項3】
前記非接触式センサ(26)が、超音波送受方式であることを特徴とする請求項1または2記載の自動二輪車のサスペンションストローク検出装置。
【請求項4】
前記非接触式センサ(26)が、超音波の送信部および受信部を単一のケースに組み入れて一体化したユニットであることを特徴とする請求項3記載の自動二輪車のサスペンションストローク検出装置。
【請求項5】
前記非接触式センサ(26)が、レーザ光送受方式であることを特徴とする請求項1または2記載の自動二輪車のサスペンションストローク検出装置。
【請求項6】
前記非接触式センサ(26)が、レーザ光の送信部および受信部を単一のケースに組み入れて一体化したユニットであることを特徴とする請求項5記載の自動二輪車のサスペンションストローク検出装置。
【請求項7】
前記ステアリング軸(28)が筒状であり、
前記非接触式センサ(26)に、信号入出力および動作電力供給用の電線(29)が接続されており、該電線(29)が、前記ステアリング軸(28)の中空部を通して外部に引き出されるように配線されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の自動二輪車のサスペンションストローク検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−173408(P2010−173408A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16694(P2009−16694)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】