説明

自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造

【課題】内燃機関の機関ケースの外側に補機類に干渉することなく変速用アクチュエータを設けながら、変速用アクチュエータを外部に突出させずに保護するとともに外観を良好に保つ自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造を供する。
【解決手段】機関ケース1の外壁の一部を内側に凹ませて変速用アクチュエータ80を収納可能な凹部1Dが形成され、凹部1Dに変速用アクチュエータ80のアクチュエータ本体80aが配置された自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に搭載される内燃機関に付設される変速機を変速切換え駆動する変速用アクチュエータの配置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車に搭載される内燃機関は、一般に機関ケースに変速機を一体に備えており、かかる内燃機関が車体フレームに搭載されるスペースは狭く、補機類が内燃機関の周りに配置されると益々スペースは狭くなり、変速機を変速切換え駆動する変速用アクチュエータも補機類に干渉しないように配置しなければならない。
変速用アクチュエータは比較的大きいアクチュエータで、通常機関ケースに突設されるので、補機類に制約されて配置することが容易でない。
【0003】
自動二輪車に搭載された内燃機関が、機関ケース(クランクケース)に一体に変速機を有し、同変速機を変速切換え駆動するための変速用アクチュエータを機関ケースに突設した例がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−137417
【0005】
同特許文献1では、変速用アクチュエータである電動モータが変速機を一体に備える機関ケースの補機類に干渉しない左側方下部に突設されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された変速用アクチュエータは、機関ケースの左側方下部から突出して設けられるので、アクチュエータを特別な構造とする必要はないが、側方に突出して外観上好ましくない。
また、飛石などの異物の衝突から変速用アクチュエータを保護するために保護部材などを特別に設けなければならない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、内燃機関の機関ケースの外側に補機類に干渉することなく変速用アクチュエータを設けながら、変速用アクチュエータを外部に突出させずに異物の衝突から保護するとともに、外観を良好に保つことができる自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、機関ケースに変速室を一体に備えた自動二輪車搭載内燃機関の前記変速室内の変速機を変速切換え駆動する変速用アクチュエータの配置構造において、機関ケースの外壁の一部を内側に凹ませて前記変速用アクチュエータを収納可能な凹部が形成され、前記凹部に前記変速用アクチュエータのアクチュエータ本体が配置された自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造とした。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造において、前記凹部は、機関ケースの外壁の車体巾方向の中央にその両側に相対向する機関ケース外側壁を残して内側に凹ませた凹部であることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造において、前記変速機のメイン軸とカウンタ軸と前記変速用アクチュエータとを互いの距離が略等しくなる三角形の頂点に配置したことを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造において、前記カウンタ軸と前記変速用アクチュエータとの間にシフトドラムを配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造によれば、機関ケースの外壁の一部を内側に凹ませた凹部に変速用アクチュエータのアクチュエータ本体を配置したので、機関ケースの外側に補機類に干渉することなく変速用アクチュエータを設けながら、特別に保護部材を要せずに変速用アクチュエータを異物の衝突から保護するとともに、変速用アクチュエータを外部に突出させずに外観を良好に保つことができる。
また、アクチュエータ本体は機関ケースの外側に配置されるので、アクチュエータを特別な構造にすることなく、汎用のアクチュエータを使用することができる。
【0013】
請求項2記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造によれば、機関ケースの外壁の車体巾方向の中央にその両側に相対向する機関ケース外側壁を残して内側に凹ませた凹部に変速用アクチュエータが配置されるので、変速用アクチュエータの大部分を凹部に隠すことができ、外観を良好にするとともに、空気抵抗を少なくすることができる。
【0014】
請求項3記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造によれば、変速機のメイン軸とカウンタ軸と変速用アクチュエータとを互いの距離が略等しくなる三角形の頂点に配置したので、コンパクトな配置構造とし変速機および内燃機関の小型化を図ることができる。
【0015】
請求項4記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造によれば、カウンタ軸と前記変速用アクチュエータとの間にシフトドラムを配置したので、シフトドラムをメイン軸に近づけて集約的に配置でき、益々コンパクトな配置構造とし変速機および内燃機関の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多段変速機が組み込まれた内燃機関の一部省略した右側面図である。
【図2】多段変速機の断面図(図1のII−II線断面図)である。
【図3】機関ケースの右側面図である
【図4】軸受蓋部材の右側面図である。
【図5】取付ブラケットの左側面図である。
【図6】変速用モータの取り付け方法を説明するための説明図である。
【図7】シフトドラムの外周面の展開図である。
【図8】シフトドラムの回動角度と各変速段の関係およびポテンショメータの検出角度の対応関係を示す図である。
【図9】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す断面図(図11,図12のIX−IX線断面図)である。
【図10】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す別の断面図(図11,図12のX−X線断面図)である。
【図11】図9,図10のXI−XI線断面図である。
【図12】図9,図10のXII−XII線断面図である。
【図13】シフトロッドとロストモーション機構の分解斜視図である。
【図14】シフトロッドにロストモーション機構組み付けた状態とカムロッド等の分解斜視図である。
【図15】カウンタ歯車軸およびピン部材とスプリングの一部の分解斜視図である。
【図16】カウンタ歯車軸の左側面図(図15のXVI矢視図)である。
【図17】揺動爪部材および支軸ピン,ピン部材,スプリングの分解斜視図である。
【図18】カウンタ歯車軸に変速駆動機構の一部および係合手段を組み付けた状態を示す斜視図である。
【図19】図18に示す状態のカウンタ歯車軸に1軸受カラー部材を外装した状態を示す斜視図である。
【図20】シフトアップ開始時の1速状態を示す説明図である。
【図21】シフトアップ作業途中の1過程を示す説明図である。
【図22】次の過程を示す説明図である。
【図23】次の過程を示す説明図である。
【図24】シフトアップ完了時の2速状態を示す説明図である。
【図25】シフトダウン開始時の2速状態を示す説明図である。
【図26】シフトダウン作業途中の1過程を示す説明図である。
【図27】シフトダウン完了時の1速状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図27に基づいて説明する。
本実施の形態に係る多段変速機10は、自動二輪車に搭載される内燃機関に組み込まれて構成されている。
図1は内燃機関Eの一部省略した右側面図であり、図2は多段変速機10の断面図(図1のII-II線断面図)であり、同図1および図2に示すように、該多段変速機10は、内燃機関と共通の機関ケース1に設けられている。
【0018】
機関ケース1の右側面図である図3に示すように、機関ケース1は、左右水平方向に指向するクランク軸6を境に上下割りの上側機関ケース1Uと下側機関ケース1Lが合体して構成されており、同機関ケース1は変速室2を一体に形成しており、同変速室2内に多段変速機10のメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12が互いに平行に左右水平方向に指向して回転自在に軸支される。
上側機関ケース1Uと下側機関ケース1Lは、クランク軸6およびクランク軸6と同じ高さ位置で変速室2内の高い位置にあるカウンタ軸12を上下から挟むように軸支して合体する。
【0019】
合体した機関ケース1の後半部に変速室2が形成され、機関ケース1は変速室2内のメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の左側部位を軸支するが、右側は大きく開いた変速室開口2hが形成され、同変速室開口2hを軸受蓋部材8が覆い、同軸受蓋部材8がメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12の右側部位を軸支する。
【0020】
メイン歯車軸11は、下側機関ケース1Lの側壁と軸受蓋部材8にベアリング3L,3Rを介して回転自在に軸支され、右ベアリング3Rを貫通して変速室2から突出した右端部には多板式の摩擦クラッチ5が設けられている。
摩擦クラッチ5の左側には、クランク軸6の回転が伝達されるプライマリ被動ギヤ4がメイン歯車軸11に回転自在に軸支されている。
内燃機関のクランク軸の回転がプライマリ被動ギヤ4から係合状態の摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達される。
【0021】
図2を参照して、メイン歯車軸11は中空円筒状をなし、中空内は比較的大きな内径の長尺の大径孔部11aと右側部の若干縮径した小径孔部11bとからなり、大径孔部11aに長尺プッシュロッド15lがが挿入され、小径孔部11bに短尺プッシュロッド15sが摺動自在に嵌挿され、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrは小径孔部11bに嵌挿され、短尺プッシュロッド15sの左端部との間に3個のボール16を挟んでいる。
ボール16は小径孔部11bに軸方向の同位置に3個が入る外径を有し、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrと短尺プッシュロッド15sの左端部の互いに対向する端面には円環状に浅い環状溝が形成されていて3個のボール16を安定して挟持することができる。
【0022】
長尺プッシュロッド15lの左端部は、下側機関ケース1Lを左方に貫通して、クラッチ油圧アクチュエータ17のピストン17pに嵌着されている。
一方、短尺プッシュロッド15sの右端部は、メイン歯車軸11から右方に突出して摩擦クラッチ5のプレッシャプレート5pの中心部に当接している。
【0023】
したがって、クラッチ油圧アクチュエータ17が作動してピストン17pが長尺プッシュロッド15lを右方に押すと、ボール16を介して短尺プッシュロッド15sが押されて、プレッシャプレート5pをクラッチスプリング5sの弾性力に抗してプレッシャプレート5pを右方に移動させてクラッチスプリング5sの弾性力により係合していた摩擦クラッチ5の係合を解除することができる。
3個のボール16はスラストベアリングの役割をなし、短尺プッシュロッド15sの回転を長尺プッシュロッド15lに伝達しない。
【0024】
メイン歯車軸11は、比較的大きな内径の大径孔部11aが長尺に形成されているので、軽量化が図れる。
また、長尺プッシュロッド15lと短尺プッシュロッド15sの間に介装される3個のボール16を小径孔部11bに挿入する際に、大径孔部11aに3個のボール16を左側から入れて、長尺プッシュロッド15lを左から挿入していくと、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrにより3個のボール16は、右方に押し込まれていき、小径孔部11bに入り、右方から嵌挿されていた短尺プッシュロッド15sの左端部の端面に押し当てられる。
すると、3個のボール16は、長尺プッシュロッド15lの右端部15lrと短尺プッシュロッド15sの左端部15slに挟まれて自然と周方向に散開して両端面の環状溝に収まって安定して支持されるので、組付作業も容易である。
【0025】
カウンタ歯車軸12は、その左側部位が上側機関ケース1Rと下側機関ケース1Lの両側壁間に挟まれたベアリング7Lを介して軸支され、右端部が軸受蓋部材8にベアリング7Rを介して軸支される。
カウンタ歯車軸12は、駆動軸であり、ベアリング7Lより左方に突出した軸端部分に出力スプロケット32が取り付けられる。
この出力スプロケット32にチェーン38が巻き掛けられて、チェーン38を介して後輪側に動力が伝達され、車両が走行する。
【0026】
カウンタ歯車軸12の軸端部分は、最外端に雄ねじ12eが形成され、雄ねじ12eの内側(右側)にスプライン溝12sが形成され、雄ねじ12eとスプライン溝12sの境目部分に外周溝12fが形成されている(図9参照)。
図6を参照して、カウンタ歯車軸12の軸端部分に環状のカラー部材33が外装されてベアリング7Lのインナレースに当接し、次に軸端部分に外装された皿バネ34をスプライン溝12sにスプライン嵌合した出力スプロケット32がカラー部材33との間に挟み、次に、外周溝12fに半割コッタ35を嵌合し、この半割コッタ35に環状リテーナ36が外嵌される。
【0027】
環状リテーナ36は、半割コッタ35の外周面と外側面に対向する外周壁と環状側壁とからなり、環状側壁が半割コッタ35の外側面に当接すると外周壁が半割コッタ35の外周面に沿って半割コッタ35より内側(右側)に突出し、スプライン溝12sにスプライン嵌合した出力スプロケット32に当接する。
そして、カウンタ歯車軸12の最外端の雄ねじ12eに袋状のナット部材37を螺合させ、環状リテーナ36を半割コッタ35との間に挟んで固定する。
【0028】
このようにカウンタ歯車軸12にスプライン嵌合した出力スプロケット32は、ベアリング7Lのインナレースに当接したカラー部材33と半割コッタ35に当接して固定された環状リテーナ36との間に規制されて、皿バネ34により弾性的に環状リテーナ36に押圧されているので、出力スプロケット32に加わる軸方向に振れる力成分を皿バネ34により吸収しながら所要の軸方向範囲内に出力スプロケット32を常に位置させて、チェーン38に安定して動力を伝達することができる。
【0029】
メイン歯車軸11には、左右のベアリング3L,3Rの間に駆動変速歯車m群がメイン歯車軸11と一体に回転可能にメイン歯車軸11に構成されている。
右ベアリング3Rに沿って第1駆動変速歯車m1がメイン歯車軸11に一体に形成され、メイン歯車軸11の同第1駆動変速歯車m1と左ベアリング3Lとの間に形成されたスプラインに右から左へ順に順次径を大きくした第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m2,m3,m4,m5,m6がスプライン嵌合されている。
なお、第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m3,m4,m5,m6は、そのスプライン嵌合部が形成される内周面に周方向に内周溝mvが形成されて軽量化が図られている。
【0030】
他方、カウンタ歯車軸12には、左右のベアリング7L,7Rの間に被動変速歯車n群が円環状の軸受カラー部材13を介して回転自在に軸支されている。
カウンタ歯車軸12において、右ベアリング7Rの左に介装されたカラー部材14Rを介して外装された右端の軸受カラー部材13と、左ベアリング7Lの右に介装されたカラー部材14Lを介して外装された左端の軸受カラー部材13との間に、等間隔に5つの軸受カラー部材13が外装され、この全部で7つの軸受カラー部材13の隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして右から左へ順に順次径を小さくした第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6が回転自在に軸支されている。
【0031】
メイン歯車軸11と一体に回転する第1,第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m1,m2,m3,m4,m5,m6は、カウンタ歯車軸12に回転自在に軸支される対応する第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6にそれぞれ常時噛み合っている。
【0032】
第1駆動変速歯車m1と第1被動変速歯車n1の噛合が、最も減速比の大きい1速を構成し、第6駆動変速歯車m6と第6被動変速歯車n6の噛合が、最も減速比の小さい6速を構成し、その間順次減速比が小さくなって2速、3速、4速、5速が構成される。
カウンタ歯車軸12に変速段が奇数段の奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)と変速段が偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)が交互に配列されることになる。
【0033】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、各被動変速歯車nと係合可能な係合手段20が後記するように組み込まれ、後記するように係合手段20の1構成要素である種類ごと2本ずつ4種類の計8本のカムロッドC(Cao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbe)がカウンタ歯車軸12の中空内周面に形成された後記するカム案内溝12gに嵌合して軸方向に移動自在に設けられる。
【0034】
このカムロッドCを駆動して変速する変速駆動機構50の1構成要素であるシフトロッド51が、カウンタ歯車軸12の中空中心軸に挿入されており、シフトロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介して連動してカムロッドCを軸方向に移動する。
【0035】
このシフトロッド51を軸方向に移動する機構が、右機関ケース1Rに設けられている。
シフトロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介してカムロッドCを軸方向に連動し、このカムロッドCの移動がカウンタ歯車軸12に組み込まれた係合手段20により各被動変速歯車nを選択的にカウンタ歯車軸12と係合して変速を行う。
【0036】
図13を参照して、変速駆動機構50のシフトロッド51は、円柱棒状をなし、軸方向の左右2か所に縮径して形成された外周凹部51a,51bがそれぞれ所定長さに亘って形成されている。
シフトロッド51の右端は雄ねじが形成された雄ねじ端部51bbとなっており、雄ねじ端部51bbの手前に6角形状のナット部51cが形成されている。
【0037】
このシフトロッド51の左右の外周凹部51a,51bにそれぞれ対応してロストモーション機構52,53が組み付けられる。
左右のロストモーション機構52,53は、同じ構造のものを互いに左右対称になるように配設している。
【0038】
左側のロストモーション機構52は、シフトロッド51を摺動自在に嵌挿するスプリングホルダ52hが長尺ホルダ52hlと短尺ホルダ52hsの連結で構成され、内周面にシフトロッド51の外周凹部51aに対応する内周凹部52haが形成されている。
【0039】
このスプリングホルダ52hにシフトロッド51を貫通させてスプリングホルダ52hを外周凹部51aに位置させたとき、スプリングホルダ52hの内周凹部52haとシフトロッド51の外周凹部51aの両空間が共通の空間を構成する。
【0040】
スプリングホルダ52hの内周凹部52haとシフトロッド51の外周凹部51aの両空間に跨るようにスプリング受けである左右一対のコッタ52c,52cが対向して嵌挿され、両コッタ52c,52c間にシフトロッド51に巻回される圧縮コイルスプリング52sが介装されて両コッタ52c,52cを離間する方向に付勢する。
なお、コッタ52cは、スプリングホルダ52hの内周凹部52haの内径を外径とし、シフトロッド51の外周凹部51aの外径を内径とした中空円板状をなし、組み付けのため半割りにされている。
【0041】
右側のロストモーション機構53(スプリングホルダ53h,長尺ホルダ53hl,短尺ホルダ53hs,内周凹部53ha,コッタ53c,圧縮コイルスプリング53s)も同じ構造をしてシフトロッド51の外周凹部51bに配設される。
したがって、シフトロッド51が軸方向に移動すると、左右のロストモーション機構52,53の圧縮コイルスプリング52s,53sを介してスプリングホルダ52h,53hが軸方向に移動する。
【0042】
このシフトロッド51の左右の外周凹部51a,51bに取り付けられたロストモーション機構52,53のスプリングホルダ52h,53hの外周面に、8本のカムロッドC(Cao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbe)が放射位置にあって当接される(図14参照)。
【0043】
カムロッドCは、断面が矩形で軸方向に長尺に延びる角柱棒状部材であり、スプリングホルダ52h,53hと接する内周側面の反対側の外周側面がカム面を形成しており、カム面にカム溝vが所要3か所に形成され、内周側面にはスプリングホルダ52h,53hのいずれか一方を左右から挟むように係止する一対の係止爪pが突出している。
カムロッドCは、断面が特別な形状をしておらず概ね外形が単純な矩形の角柱棒状部材であるので、カムロッドCを容易に製造することができる。
【0044】
カム溝v1,v3,v5が奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する3か所に形成された奇数段用カムロッドCao,Cboには、正回転(加速時に被動変速歯車nからカウンタ歯車軸12に力が加わる回転方向)用と逆回転(減速時に被動変速歯車nからカウンタ歯車軸12に力が加わる回転方向)用の2種類があり、一方の正回転奇数段用カムロッドCaoは、内周側面に右側スプリングホルダ53hに係止する係止爪pを有し、他方の逆回転奇数段用カムロッドCboは、内周側面に左側スプリングホルダ52hに係止する係止爪pを有する(図14参照)。
【0045】
同様に、カム溝v2,v4,v6が偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する3か所に形成された偶数段用カムロッドCae,Cbeには、正回転用と逆回転用の2種類があり、一方の正回転偶数段用カムロッドCaeは、内周側面に左側スプリングホルダ52hに係止する係止爪pを有し、他方の逆回転偶数段用カムロッドCbeは、内周側面に右側スプリングホルダ53hに係止する係止爪pを有する(図14参照)。
【0046】
したがって、シフトロッド51の軸方向の移動により、右側のロストモーション機構53の圧縮コイルスプリング53sを介してスプリングホルダ53hとともに正回転奇数段用カムロッドCaoと逆回転偶数段用カムロッドCbeが軸方向に連動し、左側のロストモーション機構52のコイルスプリング52sを介してスプリングホルダ52hとともに逆回転奇数段用カムロッドCboと正回転偶数段用カムロッドCaeが軸方向に連動する。
【0047】
図14に示すように、シフトロッド51のナット部51cより右側の右端部分には、円筒状をしたシフトロッド操作子55が、その内側に嵌装されたボールベアリング56を介して取り付けられる。
【0048】
ボールベアリング56は、軸方向に2個連結したもので、シフトロッド51のナット部51cより右側の右端部分に嵌入され、雄ねじ端部51bbに螺合されるナット57によりナット部51cとの間で挟まれて締結される。
【0049】
したがって、シフトロッド操作子55は、シフトロッド51の右端部を回転自在に保持している。
このシフトロッド操作子55の螺着されたナット57より右側に延出した円筒部に直径方向に穿孔したピン孔55hが形成されており、同ピン孔55hにシフトピン58が貫通する。
【0050】
シフトピン58は、シフトロッド操作子55を貫通して一方にのみ突出するもので(図2参照)、図14に示すように、その突出する端部が後記するシフトドラム67のシフト案内溝Gに摺動自在に係合する円柱状の係合部58aであり、シフトロッド操作子55を貫通する小径円柱部58cと係合部58aとの間に直方体状をした摺動部58bが形成されている。
シフトロッド操作子55を貫通する部分を係合部58aより小径の小径円柱部58cとすることで、シフトロッド操作子55およびシフトロッド操作子55をガイドする部分を小型・軽量化し省スペース化を図ることができる。
【0051】
下側機関ケース1Lは、前記変速室2の外壁の後下部の左右中央部が両側を残して内側(前側)に凹んで変速用アクチュエータである変速用モータ80を収容する凹部1Dが形成され、凹部1Dの両側の相対向する機関ケース外側壁1Ll,1Lrのうち右側機関ケース外側壁1Lrに変速用モータ80の取付ブラケット81の外周部を嵌合する第1嵌合孔1pが形成されている。
【0052】
変速室2の右側の前記変速室開口2hと第1嵌合孔1pとは、共通の環状枠壁1fの内側に臨んで開口しており(図3参照)、変速室開口2hを覆う前記軸受蓋部材8は、環状枠壁1fを蓋するように取り付けられ、変速室開口2hとともに第1嵌合孔1pも同時に覆う。
なお、軸受蓋部材8は、周縁部を環状枠壁1fの端面に当接してボルト9により締結するので、ボルト9を外すことで着脱は可能である。
【0053】
図4に示すように、軸受蓋部材8は、メイン歯車軸11を軸支するベアリング3Rを嵌合するメイン軸受孔8mと、その斜め上方にカウンタ歯車軸12を軸支するベアリング7Rを嵌合するカウンタ軸受孔8nが形成されるとともに、カウンタ軸受孔8nと同軸に右方に突出して筒状ガイド部8gが形成されている。
筒状ガイド部8gは、カウンタ軸受孔8nと同軸で径の小さい円孔8ghを備え、その下部が斜め下方に切り欠かれてガイド長孔8glが軸方向に長尺に形成されている。
【0054】
そして、図4を参照して、ガイド長孔8glが開口した斜め下方に後記するシフトドラム67をベアリング66を介して軸支する支軸65(図2参照)を植設する軸孔8aが穿設され、軸孔8aの下方に中間軸70をベアリング70b(図2参照)を介して軸支する軸受孔8bが形成され、さらに軸受孔8bの斜め下方に変速用モータ80の駆動軸80d(図2参照)と同軸の円筒状に形成された第2嵌合孔8qが形成されている。
なお、第2嵌合孔8qの周囲の同心円上に3か所ボルト孔8cが形成されている。
【0055】
軸受蓋部材8には、予め軸孔8aに支軸65を植設し、支軸65にベアリング66を介して円筒状のシフトドラム67を回動自在に軸支しておく。
また、軸受孔8bにベアリング71を介して中間軸70を回動自在に軸支しておき、中間軸70には大径中間ギヤ71が嵌着されるとともに、小径中間ギヤ72が一体に形成されており、小径ギヤ72は前記シフトドラム67の側縁に形成されたドラムギヤ67gと噛合させておく。
【0056】
この状態の軸受蓋部材8が変速室開口2hと第1嵌合孔1pを覆って環状枠壁1fに蓋するように取り付けられる際に、メイン軸受孔8mでメイン歯車軸11をベアリング3Rを介して軸支し、カウンタ軸受孔8nでカウンタ歯車軸12をベアリング7Rを介して軸支するとともに、カウンタ歯車軸12より右方に突出するシフトロッド51の右端部のシフトロッド操作子55を筒状ガイド部8gの円孔8ghに摺動自在に嵌挿する(図2参照)。
【0057】
そして、シフトロッド操作子55を貫通するシフトピン58の直方体状をした摺動部58bを筒状ガイド部8gのガイド長孔8glに摺動自在に嵌挿し、シフトピン58の端部の係合部58aをシフトドラム67のシフト案内溝Gに摺動自在に係合させる。
【0058】
このシフトドラム67の回動によりシフトピン58を介してシフトロッド51を軸方向に移動するシフトロッド移動機構(シフトドラム67,シフトピン58,シフトロッド操作子55)は、メイン歯車軸11の右端の摩擦クラッチ5とカウンタ歯車軸12上の被動変速歯車nとの間にコンパクトに配設される(図2参照)。
【0059】
シフトドラム67のシフト案内溝Gに係合するシフトピン58の係合部58aに連続する摺動部58bを筒状ガイド部8gのガイド長孔8glが軸方向に摺動案内するので、シフトピン58の移動に伴い生じる摩擦抵抗はシフトドラム67の回動で作動力が加わる係合部58aの近傍の摺動部58bであるため、シフトピン58は移動に伴い軸方向に傾き難い構造であり、シフトピン58の傾きを防止して円滑な軸方向移動を実現し変速を円滑に行うことができる。
また、シフトピン58の傾きが防止されることは、シフトロッド操作子55の軸心の振れも防止してシフトロッド51の円滑な移動を維持して益々変速を円滑に行うことができる。
なお、シフトロッド操作子55を筒状ガイド部8gによりガイドすることで、シフトロッド51の倒れを防止することも、シフトロッド51の円滑な作動に寄与している。
【0060】
シフトピン58のシフトロッド操作子55側の小径円柱部58cの径をシフトドラム67側の部分の径より小さくしたので、シフトドラム67の回動で作動力が加わる係合部58aの強度を維持しながらシフトピン58のシフトドラム67側の径を小さくすることで、シフトロッド操作子55および筒状ガイド部8gを小型・軽量化し省スペース化を図ることができる。
【0061】
シフトドラム67のシフト案内溝Gは、ドラム外周面に2周以上に亘って螺旋を描くように形成され、その間に所定回動角度(例えば150度)毎に1速から6速までの各変速段位置が順に形成されている。
なお、1速の前にニュートラルNの位置がある。
図7にシフトドラム67の外周面の展開図を示し、図8にシフトドラム67の回動角度と各変速段の位置関係を示す。
【0062】
シフト案内溝Gは、各変速段ごとに定められた軸方向位置の該シフトドラム67の回動によりシフトピン58を軸方向に移動させない周方向に指向した変速段溝部Gsを、該シフトドラム67の回動によりシフトピン58を軸方向に移動させる螺旋状の変速溝部Gmが、順次連結して構成されている。
【0063】
本シフト案内溝Gは、シフトドラム67の外径が比較的に小さいにもかかわらず、2周以上に亘って形成されているので、各変速段溝部Gsの長さを長く設定する余裕があり、図8に示すように、各変速段溝部Gsはシフトドラム67の回動角度で90度の長さがあり、各変速段溝部Gsは、変速用モータ80の駆動停止時からシフトドラム67が空走する距離より長く設定されている。
【0064】
変速用モータ80がシフトドラム67を高速回動させても所望の変速段に容易に設定できる。
すなわち、間欠駆動機構を必要とせずに簡単な構成で変速用モータ80による変速速度が高速でもシフトロッドが所望の定位置に短時間に安定維持されて変速段が確実にかつ速やかに設定できる。
なお、変速過程にある変速溝部Gmは、シフトドラム67の回動角度で60度としている。
【0065】
シフト案内溝Gは、シフトドラム67の外周面に2周以上に亘って連続して形成されるので、変速段数が6段と多数ある本多段変速機10でも1つのシフトドラム67で、かつ外径が小さいシフトドラム67で対応でき、多段変速機10を小型・軽量化し低コスト化を図ることができる。
【0066】
なお、シフトドラム67の側縁のドラムギヤ67gが噛合する小径中間ギヤ72を一体に軸支する中間軸70は、右方に延出してその端部に小径ギヤ73が形成されており、図2に2点鎖線で示すように、軸受蓋部材8に植設された支軸74に回転自在に軸支された大径減速ギヤ75bが中間軸70の小径ギヤ73に噛合しており、大径減速ギヤ75bと一体の小径減速ギヤ75sが、さらに軸受蓋部材8に植設された支軸76に回転自在に軸支された大径ギヤ77に噛合している。
この大径ギヤ77の円筒基部77aが下側機関ケース1Lに支持されたポテンショメータ78の作動部に連結されている。
【0067】
したがって、ポテンショメータ78の回動は、大径減速ギヤ75bと小径減速ギヤ75sの減速ギヤ機構を介して減速されてポテンショメータ78により検知される。
図8には、ポテンショメータ78が検出する角度をシフトドラム67の回動角度と対応させて示している。
【0068】
ポテンショメータ78は、シフトドラム67の回動を減速ギヤ機構で減速して検出しているので、図8に示すように、シフトドラム67の回動角度の3分の1程度の検出角度となっている。
このように、シフトドラム67の回動角度を減速ギヤ機構を介して減速して検出することで、安価なポテンショメータ78を使用することができる。
【0069】
このシフトドラム67を回動する変速用モータ80は、下側機関ケース1Lの外壁の凹部1Dに配置される。
円柱状をなすモータ本体80aの一端面から駆動軸80dが突出しており、このモータ本体80aの駆動軸80dが突出する端部は取付ブラケット81となっている。
【0070】
取付ブラケット81は、図5に図示するように、概ね円盤状をなし、中央に変速用モータ80の駆動軸80dをベアリング82を介して軸支する軸受円筒部81sが形成され(図6参照)、その周囲に変速用モータ80の環状取付面81aが形成され、その外周囲にモータ本体取付孔81bが3か所形成されるとともに、モータ取付ボルトボス部81cが3か所形成されている。
【0071】
図6を参照して、変速用モータ80のモータ本体80aから突出した駆動軸80dを取付ブラケット81の軸受円筒部81sにベアリング82を介して嵌挿してモータ本体取付孔81bの取付座81aにモータ本体ケースの端部を当接してボルト83をモータ本体取付孔81bに螺着してモータ本体ケースに取付ブラケット81を取り付けた状態とする。
【0072】
円盤状の取付ブラケット81の外径は、下側機関ケース1Lの凹部1Dの右側面をなす右側機関ケース外側壁1Lrの第1嵌合孔1pの内径に略等しく、取付ブラケット81の中央の軸受円筒部81sの外径は、軸受蓋部材8の第2嵌合孔8qの内径に略等しい。
【0073】
図6を参照して、変速用モータ80に取り付けられた円盤状の取付ブラケット81の外周面に形成された外周溝に形成された外周溝にシール部材84を外嵌して取付ブラケット81を凹部1D側(左側)から右側機関ケース外側壁1Lrの第1嵌合孔1pに嵌合すると同時に、軸受円筒部81sを軸受蓋部材8の第2嵌合孔8qに嵌合することで、変速用モータ80を下側機関ケース1Lの凹部1Dに配設し、軸受蓋部材8の3つのボルト孔8cに右側から締結ボルト86を貫通して取付ブラケット81の3つのモータ取付ボルトボス部81cに螺着することで、変速用モータ80を取り付ける。
【0074】
このように変速用モータ80が取付ブラケット81を介して第1嵌合孔1pと第2嵌合孔8qに液密に嵌合して右側機関ケース外側壁1Lrおよび軸受蓋部材8に取り付けられると、変速用モータ80のモータ本体80aは凹部1Dに位置し、モータ本体80aより右方に突出した駆動軸80dの端部の駆動ギヤ80gが前記中間軸70の大径ギヤ71に噛み合わされる。
なお、取付ブラケット81の軸受円筒部81sの第2嵌合孔8qへの嵌合は、取付ブラケット81の第1嵌合孔1pへの嵌合より嵌合精度が高い。
【0075】
下側機関ケース1Lの凹部1Dの凹面には、凹部1Dの左側面をなす左側機関ケース外側壁1Ll寄りに半円弧状に半円突条部90が形成され、同半円突条部90の内周面にはゴム部材91が貼着されており、取付ブラケット81を介して取り付けられた変速用モータ80のモータ本体80aが半円突条部90にゴム部材91を介して嵌合する。
そして、半円突条部90に相対する半円弧状の半円支持部材92が内周面に貼着されたゴム部材93を介してモータ本体80aに嵌合して両端をボルト95により締結して半円突条部90と半円支持部材92によりモータ本体80aを締め付けるように支持する。
【0076】
また、凹部1Dの左側面をなす左側機関ケース外側壁1Llには、取り付けられた変速用モータ80の駆動軸80dと同軸に左側から脱落防止用ねじ棒96が進退自在に螺合している。
図2に示すように、脱落防止用ねじ棒96の進行により脱落防止用ねじ棒96の先端がモータ本体80aの背後(左側)の端面に近接することにより変速用モータ80の脱落が防止される。
【0077】
変速用モータ80の取り付けに際しては、脱落防止用ねじ棒96を後退させておき、半円支持部材92を取り外した状態で、下側機関ケース1Lの凹部1Dの開放する後方から変速用モータ80を嵌装するが、図6に示すように、変速用モータ80に取り付けられた取付ブラケット81の外周面の一部を右側機関ケース外側壁1Lrの第1嵌合孔1pの開口縁に当接してその当接点を略中心にして変速用モータ80を旋回するようにして第1嵌合孔1pに取付ブラケット81を嵌合させると同時に、軸受蓋部材8の第2嵌合孔8qに取付ブラケット81の軸受円筒部81sを嵌合させる。
【0078】
取付ブラケット81の外周部の第1嵌合孔1pへの嵌合は第2嵌合孔8q程高い嵌合精度が要求されないため、取付ブラケット81の嵌合は円滑に行われ、変速用モータ80の取付作業を容易にする。
取付ブラケット81が第1嵌合孔1pと第2嵌合孔8qに液密に嵌合するので、高いシール性が確保される。
【0079】
取付ブラケット81は締結ボルト86により軸受蓋部材8に固着される。
そして、脱落防止用ねじ棒96の進行により脱落防止用ねじ棒96の先端をモータ本体80aの端面に近接することにより変速用モータ80の脱落を防止し、半円突条部90に嵌合したモータ本体80aに半円支持部材92を嵌めて半円突条部90にボルト95により締結してモータ本体80aを締めつけるように支持する。
【0080】
こうして変速用モータ80がモータ本体80aを下側機関ケース1Lの凹部1Dに収容して下側機関ケース1Lに取り付けられると、変速用モータ80の駆動軸80dの駆動ギヤ80gは
中間軸70の大径ギヤ71に噛み合わされる。
【0081】
下側機関ケース1Lの変速室2の外壁の後方斜め下に形成される凹部1Dに配置される変速用モータ80は、変速室2内のカウンタ歯車軸12の下方に位置するとともに、メイン歯車軸11の後方に位置する。
すなわち、図1を参照して、メイン歯車軸11の斜め上方にカウンタ歯車軸12が配置され、そのカウンタ歯車軸12の下方に変速用モータ80が配置されることになり、変速用モータ80で駆動されるシフトドラム67が変速用モータ80とカウンタ歯車軸12との間に配置される構造であり、カウンタ歯車軸12の下方に配置されるシフトドラム67と変速用モータ80を、カウンタ歯車軸12の下方斜め前に配置されるメイン歯車軸11に近づけて集約的に配置でき、コンパクトな配置構造とし多段変速機10および内燃機関Eの小型化を図ることができる。
【0082】
変速駆動機構50は、以上のように構成されており、変速用モータ80が駆動されると、駆動軸80dの回転が中間軸70の大径ギヤ71,小径ギヤ72の減速ギヤ機構を介してシフトドラム67の回動に伝達され、シフトドラム67を順次変速段位置に回動する。
前記したように、シフトドラム67のシフト案内溝Gの変速段溝部Gsを、変速用モータ80の駆動停止時からシフトドラム67が空走する距離より長く設定しているので、変速段が確実にかつ速やかに設定できる。
【0083】
シフトドラム67の回動は、シフト案内溝Gに係合部58aを係合させたシフトピン58を軸受蓋部材8の筒状ガイド部8gのガイド長孔8glにガイドされて軸方向に平行移動してシフトロッド操作子55を介してシフトロッド51を軸方向に移動し、シフトロッド51の移動がロストモーション機構52,53を介して係合手段20の8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動する。
【0084】
ロストモーション機構52,53が組み付けられたシフトロッド51は、カウンタ歯車軸12の中空内に挿入され中心軸に配設される。
この中空円筒状のカウンタ歯車軸12は、内径がロストモーション機構52,53のスプリングホルダ52h,53hの外径に略等しく、シフトロッド51に取り付けられたスプリングホルダ52h,53hを摺動自在に嵌挿する。
【0085】
そして、カウンタ歯車軸12の中空の内周面における8か所の放射位置に断面が矩形の8本のカム案内溝12gが軸方向に指向して延出形成されている(図16参照)。
8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeは、図14に示す配列で対応するカム案内溝12gに摺動自在に嵌合する。
同種類のカムロッドCは、対称位置に配設される。
カウンタ歯車軸12に対するカム部材Cの回り止めとなるカム案内溝12gは、断面コ字状の単純な形状をして簡単に加工成形できる。
【0086】
カム案内溝12gの深さはカムロッドCの放射方向の幅に等しく、よってカムロッドCの外周側面であるカム面はカム案内溝12gの底面に摺接し、内周側面は中空内周面と略同一面をなしてスプリングホルダ52h,53hの外周面に接し、内周側面から突出した係止爪pはスプリングホルダ52h,53hのいずれかを両側から挟むようにして掴む。
【0087】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、軸受カラー部材13を介して被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aの左右両側に外径が縮径された左側円筒部12bと右側円筒部12cが形成されている(図15参照)。
【0088】
左側円筒部12bにはワッシャ14Lを介してベアリング7Lが嵌合されるとともに、一部スプライン12sが形成されて出力スプロケット(図示せず)がスプライン嵌合され、他方、右側円筒部12cにはワッシャ14Rを介してベアリング7Rが嵌合される(図2,図9,図10参照)。
【0089】
カウンタ歯車軸12の中空内は、カム案内溝12gが形成される内径がスプリングホルダ52h,53hの外径に等しい小径内周面と、同小径内周面の両側の内径がカム案内溝12gの底面と略同一周面をなす大径内周面とが形成されている(図9,図10参照)。
右側の拡大内径部の内側に前記シフトロッド操作子55が半分程挿入されている。
【0090】
このように、カウンタ歯車軸12の中空内にシフトロッド51とロストモーション機構52,53と8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeが組み込まれると、これら全てが一緒に連れ回りして、シフトロッド51が軸方向に移動すると、左側ロストモーション機構52のコイルスプリング52sを介して逆回転奇数段用カムロッドCboと正回転偶数段用カムロッドCaeが軸方向に連動し、右側ロストモーション機構53のコイルスプリング53sを介して正回転奇数段用カムロッドCaoと逆回転偶数段用カムロッドCbeが軸方向に連動する。
【0091】
ロストモーション機構52,53がカウンタ歯車軸12の軸方向に並んでシフトロッド51の外周面と複数のカムロッドCの内側面との間に介装されるので、カウンタ歯車軸12の中空内にあってシフトロッド51,ロストモーション機構52,53,カムロッドCと径方向に重なる構造で多段変速機10の軸方向の拡大を避け、ロストモーション機構52,53をカウンタ歯車軸12の中空内にコンパクトに収容して、多段変速機10自体の小型化を図ることができる。
【0092】
ロストモーション機構52,53は、シフトロッド51上に軸方向に2つ設け、各ロストモーション機構52,53は互いに別のカムロッドCを連動するので、1本のシフトロッド51の移動に対して複数のカムロッドCに2種類の異なる動きをさせて変速を滑らかにさせることを可能とするとともに、ロストモーション機構52,53を対称な構造として、製造コストを抑えるとともに組立て時の部品管理を容易とする。
【0093】
ロストモーション機構52,53がシフトロッド51の外周面と複数のカムロッドCの内側面との間に介装されるスプリングホルダ52h,53hの内周凹部52ha,53haとシフトロッド51の外周凹部51a,51bで形成される空間にコイルスプリング52s,53sが介装されるので、同じ形状のロストモーション機構52,53をシフトロッド51上に構成することができる。
【0094】
カウンタ歯車軸12の軸受カラー部材13を介して被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aは、図15に示すように、外径が大きく厚肉に構成されており、この厚肉の外周部に周方向に一周する幅狭の周方向溝12cvが第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6に対応して軸方向に亘って等間隔に6本形成されるとともに、軸方向に指向した軸方向溝12avが周方向に亘って等間隔に4本形成されている。
【0095】
さらに、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部には、4本の軸方向溝12avで区画された4つの部分が各周方向溝12cvにおいて周方向溝12cvの溝幅を隣り合う軸方向溝12av,12av間に亘って長尺に左右均等に拡大した長尺矩形凹部12pと、周方向溝12cvの溝幅を隣り合う軸方向溝12av,12av間の一部で左右均等に拡大した短尺矩形凹部12qとが、軸方向に交互に形成されている。
【0096】
長尺矩形凹部12pの底面の周方向に離れた2か所に軸方向に長尺の楕円形をして周方向溝12cvに跨って若干凹んだスプリング受部12d,12dが形成されている。
また、短尺矩形凹部12qと軸方向溝12avとの間の厚肉部で周方向溝12cv上にピン孔12hが前記カム案内溝12gまで径方向に穿孔されている。
【0097】
すなわち、カウンタ歯車軸12の中空内周面から周方向の8か所に刻設されたカム案内溝12gの放射方向にピン孔12hが穿孔される。
各周方向溝12cv上にはそれぞれ4か所ピン孔12hが形成される。
【0098】
スプリング受部12dには、楕円形に巻回された圧縮スプリング22がその端部を嵌装させて設けられる。
ピン孔12hにはピン部材23が摺動自在に嵌挿される。
なお、ピン孔12hが連通するカム案内溝12gの幅は、ピン部材23の外径幅より小さい。
したがって、ピン孔12hを進退するピン部材23がカム案内溝12gに脱落することがないので、カウンタ歯車軸12への係合手段20の組み付けを容易にする。
【0099】
カム案内溝12gにはカムロッドCが摺動自在に嵌合されるので、ピン孔12hに嵌挿されたピン部材23は中心側端部が対応するカムロッドCのカム面に接し、カムロッドCの移動でカム溝vがピン孔12hに対応するとピン部材23がカム溝vに落ち込み、カム溝v以外の摺接面が対応するとピン部材は摺接面に乗り上げ、カムロッドCの移動により進退する。
ピン孔12h内でのピン部材23の進退は、その遠心側端部を周方向溝12cvの底面より外側に出没させる。
【0100】
以上のような構造のカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部に形成された長尺矩形凹部12pと短尺矩形凹部12qと両凹部間を連通する周方向溝12cvに、揺動爪部材Rが埋設され、軸方向溝12avに揺動爪部材Rを揺動自在に軸支する支軸ピン26が埋設される。
このようにして、全ての揺動爪部材Rが組み付けられた状態を図18に示す。
【0101】
図17の分解斜視図には、奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する周方向溝12cvおよび長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12qに埋設される4個の揺動爪部材Rと、偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する周方向溝12cvおよび長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12qに埋設される4個の揺動爪部材Rとが、互いの相対角度位置関係を維持した姿勢で図示されており、加えて各揺動爪部材Rを軸支する支軸ピン26および各揺動爪部材Rに作用する圧縮スプリング22とピン部材23が示されている。
【0102】
揺動爪部材Rは、全て同じ形状のものを使用しており、軸方向視で略円弧状をなし、中央に支軸ピン26が貫通する貫通孔の外周部が欠損して軸受凹部Rdが形成されており、同軸受凹部Rdの揺動中心に関して一方の側に長尺矩形凹部12pに揺動自在に嵌合する幅広矩形の係合爪部Rpが形成され、他方の側にはピン孔12hが形成された周方向溝12cvに揺動自在に嵌合する幅狭のピン受部Rrが延出し、その端部は短尺矩形凹部12qに至り幅広に拡大した幅広端部Rqが形成されている。
【0103】
揺動爪部材Rは、ピン受部Rrがピン孔12hが形成された周方向溝12cvに嵌合し、一方の係合爪部Rpが長尺矩形凹部12pに嵌合するとともに軸受凹部Rdが軸方向溝12avに合致し、他方の幅広端部Rqが短尺矩形凹部12qに嵌合する。
そして、合致した軸受凹部Rdと軸方向溝12avに支軸ピン26が嵌合される。
【0104】
揺動爪部材Rは、嵌合する周方向溝12cvに関して左右対称に形成されており、一方の幅広矩形の係合爪部Rpが他方のピン受部Rrおよび幅広端部Rqより重く、支軸ピン26に軸支されてカウンタ歯車軸12とともに回転したとき、遠心力に対して係合爪部Rpが重錘として作用して遠心方向に突出するように揺動爪部材Rを揺動させる。
【0105】
揺動爪部材Rは、ピン受部Rrが揺動中心に関して反対側の係合爪部Rp側より幅が狭く形成されている。
また、ピン受部Rrは、ピン部材23を受け止めるだけの幅を具えれば足りるので、揺動爪部材Rを小型に形成することができ、かつ他方の係合爪部Rpの遠心力による揺動を容易にすることができる。
【0106】
周方向に隣り合う揺動爪部材Rは、互いに対称な姿勢にカウンタ歯車軸12に組み付けられるので、互いに所定間隔を存して対向する係合爪部Rp,Rpは共通の長尺矩形凹部12pに嵌合し、他方の互いの近接する幅広端部Rqは共通の短尺矩形凹部12qに嵌合する。
【0107】
揺動爪部材Rの係合爪部Rpの内側にカウンタ歯車軸12のスプリング受部12dに一端を支持された圧縮スプリング22が介装され、ピン受部Rrの内側にピン孔12hに嵌挿されたピン部材23がカムロッドCとの間に介装される。
【0108】
このようにして、揺動爪部材Rが、支軸ピン26に揺動自在に軸支されてカウンタ歯車軸12の長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12q,周方向溝12cvに埋設され、一方の係合爪部Rpが圧縮スプリング22により外側に付勢され、他方のピン受部Rrがピン部材23の進退により押圧されることで、圧縮スプリング22の付勢力に抗して揺動爪部材Rが揺動する。
【0109】
ピン部材23が遠心方向に進行して揺動爪部材Rを揺動したときは、揺動爪部材Rは係合爪部Rpが長尺矩形凹部12pに没してカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものはない。
また、ピン部材23が退行したときは、圧縮スプリング22により付勢された係合爪部Rpがカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出し被動変速歯車nと係合可能とする。
【0110】
揺動爪部材Rの係合爪部Rpの内側面と対向するカウンタ歯車軸12の長尺矩形凹部12pとの間に圧縮スプリング22が介装されるので、軸方向にスプリング専用のスペースが不要であり、カウンタ歯車軸12の軸方向の大型化を避けることができるとともに、圧縮スプリング22を揺動爪部材Rの軸方向幅の中央に配置して揺動爪部材R自体を軸方向両側を対称に形成することができ、よって被動変速歯車nとカウンタ歯車軸12の相対回転方向の両方向で係合および係合解除がなされる2種類の揺動爪部材を同じ形状の揺動爪部材Rとすることができ、形状の異なる揺動爪部材を用意する必要がない。
【0111】
圧縮スプリング22がカウンタ歯車軸12の軸方向を長径とする楕円形状をなし、楕円形状をした圧縮スプリング22は、長径が揺動爪部材Rのピン受部Rrの幅より大きく、ピン受部Rrを揺動可能に嵌合する周方向に一周に亘って形成される周方向溝12cvを跨いで受け止められるので、カウンタ歯車軸12の加工を容易にするとともに、揺動爪部材Rを安定してカウンタ歯車軸12に組み付けることができる。
【0112】
奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する4個の揺動爪部材Rと、偶数段の偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する4個の揺動爪部材Rは、互いに軸中心に90度回転した相対角度位置関係にある。
【0113】
奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応する4個の揺動爪部材Rは、歯車の正回転方向で当接して各奇数段被動変速歯車n1,n3,n5とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する正回転奇数段揺動爪部材Raoと、歯車の逆回転方向で当接して各奇数段被動変速歯車n1,n3,n5とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する逆回転奇数段係合部材Rboとが、それぞれ対称位置に一対ずつ設けられる。
【0114】
同様に、偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応する4個の揺動爪部材Rは、歯車の正回転方向で当接して各偶数段被動変速歯車n2,n4,n6とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する正回転偶数段揺動爪部材Raeと、歯車の逆回転方向で当接して各偶数段被動変速歯車n2,n4,n6とカウンタ歯車軸12とが同期して回転するように係合する逆回転偶数段係合部材Rbeとが、それぞれ対称位置に一対ずつ設けられる。
【0115】
正回転奇数段揺動爪部材Raoが前記正回転奇数段用カムロッドCaoの移動により進退するピン部材23により揺動し、逆回転奇数段係合部材Rboが前記逆回転奇数段用カムロッドCboの移動により進退するピン部材23により揺動する。
同様に、正回転偶数段揺動爪部材Raeが前記正回転偶数段用カムロッドCaeの移動により進退するピン部材23により揺動し、逆回転偶数段係合部材Rbeが前記逆回転偶数段用カムロッドCbeの移動により進退するピン部材23により揺動する。
【0116】
カウンタ歯車軸12に係合手段20を組み込む場合、まず右端の軸受カラー部材13を中央円筒部12aの外周端部に外装し、その軸受カラー部材13の内側の軸方向溝12avに支軸ピン26の一端を嵌入するようにして右端の係合手段20を組み込み、次の軸受カラー部材13を前記支軸ピン26の他端を覆うように外装し、被動変速歯車nを組み入れた後に、前段と同じようにして次段の係合手段20を組み込むことを、順次繰り返して、最後に左端の軸受カラー部材13を外装して終了する。
【0117】
図19に示すように、軸受カラー部材13は、中央円筒部12aの長尺矩形凹部12pおよび短尺矩形凹部12q以外の軸方向位置に外装され、それは軸方向溝12avに一列に連続して埋設される支軸ピン26の隣り合う支軸ピン26,26に跨って配置され、支軸ピン26および揺動爪部材Rの脱落を防止する。
カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの軸方向溝12avに埋設される支軸ピン26は、中央円筒部12aの外周面に接する深さに埋設されるので、軸受カラー部材13が外装されると、ガタなく固定される。
【0118】
7個の軸受カラー部材13がカウンタ歯車軸12に等間隔に外装され、隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして被動変速歯車nが回転自在に軸支される。
各被動変速歯車nは、左右内周縁部(内周面の左右周縁部)に切欠きが形成されて左右切欠きの間に薄肉環状の突条30が形成されており、この突条30を挟むように左右の軸受カラー部材13,13が切欠きに滑動自在に係合する(図9,図10参照)。
【0119】
この各被動変速歯車nの内周面の突条30に係合凸部31が周方向に等間隔に6箇所形成されている(図9,図10,図11,図12参照)。
係合凸部31は、側面視(図11,図12に示す軸方向視)で薄肉円弧状をなし、その周方向の両端面が前記揺動爪部材Rの係合爪部Rpと係合する係合面をなす。
【0120】
正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)と逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は、互いに対向する側に係合爪部Rp,Rpを延出しており、正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)は被動変速歯車n(およびカウンタ歯車軸12)の正回転方向で係合凸部31に当接して係合し、逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は被動変速歯車nの逆の回転方向で、係合凸部31に当接して係合する。
【0121】
なお、正回転奇数段揺動爪部材Rao(正回転偶数段揺動爪部材Rae)は被動変速歯車nの逆の回転方向では係合爪部Rpが外側に突出していても係合せず、同様に、逆回転奇数段係合部材Rbo(逆回転偶数段係合部材Rbe)は被動変速歯車nの正回転方向では係合爪部Rpが外側に突出していても係合しない。
【0122】
以上の係合手段20をカウンタ歯車軸12に組み付ける手順について説明する。
シフト操作子55を取付けたシフトロッド51に左右2つのロストモーション機構52,53を組み付け、ロストモーション機構52,53の外周囲に8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを配設した状態で、カウンタ歯車軸12の中空内に嵌挿する。
【0123】
その際、8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeは、対応する8本のカム案内溝12gにそれぞれ挿入される。
そして、8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeのカウンタ歯車軸12に対する左右移動位置は、ニュートラル位置になるように設定しておく。
【0124】
このような状態のカウンタ歯車軸12を、左を上にして立てた姿勢とする。
そして、まず図12に実線で示すように中央円筒部12aの下端(右端)に右端の軸受カラー部材13を外装してから、最も下の第1被動変速歯車n1に対応する周方向溝12cvにおけるピン孔12hにピン部材23を挿入し、スプリング受部12dに圧縮スプリング22の一端を支持させて揺動爪部材Rを長尺矩形凹部12p,短尺矩形凹部12q,周方向溝12cvに嵌合し、支軸ピン26を右端の軸受カラー部材13の内側の軸方向溝12avに嵌入すると同時に揺動爪部材Rの軸受凹部Rdに嵌合して揺動爪部材Rを組み付ける。
【0125】
カムロッドCはニュートラル位置にあって、ピン部材23はカム溝以外の摺接面に接して進行して揺動爪部材Rのピン受部Rrを内側から押圧して圧縮スプリング22の付勢力に抗して揺動し係合爪部Rpを長尺矩形凹部12pに没して中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものがない状態にしている。
【0126】
第1被動変速歯車n1に対応する周方向溝12cvにおける4個揺動爪部材Rを組み付けると、第1被動変速歯車n1を上から嵌挿して軸受カラー部材13に第1被動変速歯車n1の突条30を当接し切欠きを係合して組み付け、次に第2の軸受カラー部材13を上から嵌挿し第1被動変速歯車n1の切欠きに係合してカウンタ歯車軸12の所定位置に外装して第1被動変速歯車n1を軸方向に位置決めして取り付ける。
【0127】
次に、第2被動変速歯車n2用の係合手段20を組み付け、第2被動変速歯車n2を取り付け、以後、この作業を繰り返して残りの第3,第4,第5,第6被動変速歯車n3,n4,n5,n6が順次組み付けられ、最後に第7の軸受カラー部材13を外装する。
【0128】
こうして6個の被動変速歯車nがカウンタ歯車軸12に組み付けられた状態で、カウンタ歯車軸12が機関ケース1の側壁および軸受蓋部材8に嵌着される左右のベアリング7L,7Rに回転自在に軸支されると、6個の被動変速歯車nと7個の軸受カラー部材13が交互に組み合わされて左右から挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
軸受カラー部材13は、各被動変速歯車nの軸方向の力を支え、軸方向の位置決めとスラスト力を受けることができる。
【0129】
このようにしてカウンタ歯車軸12に軸受カラー部材13を介して第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6が回転自在に軸支される。
【0130】
カムロッドCがニュートラル位置にあるので、全ての被動変速歯車nは、それぞれ対応する係合手段20のカムロッドCの移動位置によりピン部材23が突出して揺動爪部材Rのピン受部Rrを内側から押し上げ係合爪部Rpを内側に引っ込めた係合解除状態にあって、カウンタ歯車軸12に対して自由に回転する。
【0131】
一方、係合手段20のカムロッドCのニュートラル位置以外の移動位置によりピン部材23がカム溝vに入り揺動爪部材Rが揺動して係合爪部Rpを外側に突出した係合可能状態となれば、対応する被動変速歯車nの係合凸部31が係合爪部Rpに当接して、該被動変速歯車nの回転がカウンタ歯車軸12に伝達されるか、またはカウンタ歯車軸12の回転が該被動変速歯車nに伝達される。
【0132】
前記変速駆動機構50において、変速用モータ80の駆動によってシフトドラム67を所定量回動し、シフトドラム67の回動がシフト案内溝Gに嵌合したシフトピン58を介してシフトロッド51を軸方向に所定量移動し、ロストモーション機構52,53を介して係合手段20の8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動する。
【0133】
カムロッドCが軸方向に移動することで、カムロッドCのカム面に摺接するピン部材23がカム溝vに入ったり抜けたりして進退し、揺動爪部材Rを揺動して、被動変速歯車nとの係合を解除し、他の被動変速歯車nと係合してカウンタ歯車軸12と係合する被動変速歯車nを変えることで変速が行われる。
【0134】
ここで、本多段変速機10のカウンタ歯車軸12における潤滑構造について説明する。
図6を参照して、カウンタ歯車軸12の前記カラー部材33が嵌合される箇所に径方向に貫通された給油導入孔12xが複数穿孔され、対応してカラー部材33にも導入孔33xが形成され、その外周を環状シール部材39が覆っている。
【0135】
そして、図16のカウンタ歯車軸12の左側面図に示すように、カウンタ歯車軸12の中空の内周面には、前記8か所のカム案内溝12gを2つおきにした4か所の放射位置(周方向に等間隔位置)に軸方向給油溝12yがカム案内溝12gに平行に削成されている(図11,図12参照)。
【0136】
各軸方向給油溝12yは所要のピン部材23が存在する軸方向位置で径方向に穿孔された径方向給油孔12zに連通し、径方向給油孔12zは軸方向給油溝12yと揺動爪部材Rが嵌合される周方向溝12cvとを連通する。
なお、各軸方向給油溝12yはピン部材23が位置する軸方向位置のうち隣り合う軸方向位置で穿孔された径方向給油孔12zには連通せず、1つおきの軸方向位置の径方向給油孔12zと連通する。
【0137】
すなわち、4本の軸方向給油溝12yのうち一方の対向する2本の軸方向給油溝12yは、奇数段歯車(第1,第3,第5被動変速歯車n1,n3,n5)に対応するピン部材23が位置する周方向溝12cvに開口する径方向給油孔12zに連通し(図11参照)、他方の対向する2本の軸方向給油溝12yは、偶数段歯車(第2,第4,第6被動変速歯車n2,n4,n6)に対応するピン部材23が位置する周方向溝12cvに開口する径方向給油孔12zに連通する(図12参照)。
【0138】
給油導入孔12xによりカウンタ歯車軸12の中空端部に導入された潤滑油を、軸方向給油溝12yがカウンタ歯車軸12の中空部内周面に沿ってを軸方向に導くので、軸方向の通油の油路抵抗を小さくして小型の給油アクチュエータでも係合切換機構(揺動爪部材R、ピン部材23、圧縮スプリング22等の係合手段20およびカムロッドC)の全体に円滑に給油を行い十分潤滑することができる。
【0139】
軸方向給油溝12yは4本形成され、各軸方向給油溝12yは、ピン部材23が位置する軸方向位置のうち隣り合う軸方向位置で穿孔された径方向給油孔12zには連通しないので、軸方向給油溝12yの一端から供給された潤滑油を他端まであまり油圧を下げることなく通油でき、軸方向に配列された係合切換機構に略均等に給油することができる。
【0140】
以下、内燃機関の駆動による加速時に、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする過程を、図20ないし図24に従って説明する。
図20ないし図24は、順次経時的変化を示しており、各図において、図(a)は図9(図11,図12のIX−IX線断面図)の歯車等を省略した断面図であり、図(b)は図10(図11,図12のX−X線断面図)の歯車等を省略した断面図であり、図(c)は図(a),図(b)のc−c線断面図(第1被動変速歯車n1の断面図)、図(d)は図(a),図(b)のd−d線断面図(第2被動変速歯車n2の断面図)である。
【0141】
内燃機関の動力は、摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達されて、第1,第2,第3,第4,第5,第6駆動変速歯車m2,m3,m4,m5,m6を一体に回転しており、これらにそれぞれ常時噛合する第1,第2,第3,第4,第5,第6被動変速歯車n1,n2,n3,n4,n5,n6をそれぞれの回転速度で回転させている。
【0142】
図20は、1速状態を示しており、図20(c)では第1被動変速歯車n1が矢印方向に回転し、図20(d)では第2被動変速歯車n2が矢印方向に回転しており、第1被動変速歯車n1よりも第2被動変速歯車n2が高速で回転している。
【0143】
第1被動変速歯車n1に対応する係合手段20のピン部材23のみが正回転奇数段用カムロッドCaoのカム溝v1に入っており(図20(a)参照)、したがって該係合手段20の正回転奇数段揺動爪部材Raoが係合爪部Rpを外側に突出して、回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpに係合して(図20(c)参照)、カウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1とともに第1被動変速歯車n1と同じ回転速度で回転している。
なお、図20ないし図27において、有効に動力伝達している揺動爪部材Rと係合凸部31には格子ハッチを施している。
【0144】
この1速状態では、第2被動変速歯車n2は、対応する係合手段20のピン部材23が偶数段用カムロッドCae,Cbeのカム溝v2から出て突出し(図20(b)参照)、該係合手段20の偶数段揺動爪部材Rae,Rbeが係合爪部Rpを内側に引っ込めているので、空回りしている。
他の第3,第4,第5被動変速歯車n3,n4,n5,n6も同様で空回りしている(図20(a),(b)参照)。
【0145】
ここで、2速に変速すべくシフトセレクトレバーの手動操作があり、シフトドラム67が回動してシフトロッド51が軸方向右方に移動し始めると、ロストモーション機構52,53のコイルスプリング52s,53sを介して8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動して軸方向右方に移動しようとする。
【0146】
図21(a),(c)を参照して、一方の逆回転奇数段用カムロッドCboはピン部材23を介して作動する逆回転奇数段揺動爪部材Rboが第1被動変速歯車n1の係合凸部31と係合していないので、あまり抵抗なく移動してそのカム溝v1に入っていたピン部材23を抜け出させて突出し(図21(a)参照)、逆回転奇数段揺動爪部材Rboを揺動してその係合爪部Rpを内側に引っ込めていく(図21(c)参照)。
【0147】
これに対して、他方の正回転奇数段用カムロッドCaoは、ピン部材23を介して作動する正回転奇数段揺動爪部材Raoが第1被動変速歯車n1の係合凸部31と係合して第1被動変速歯車n1から動力を受けているので、正回転奇数段揺動爪部材Raoを揺動して係合を解除するのに相当大きな摩擦抵抗があり、よってロストモーション機構53のコイルスプリング53sの力により正回転奇数段用カムロッドCaoが移動してピン部材23をカム溝v1の傾斜した側面に沿って突出させようとしても正回転奇数段揺動爪部材Raoを押し上げて揺動させることはできず、カム溝v1の傾斜した側面をピン部材23が上がりかけたところで正回転奇数段用カムロッドCaoは停止されて、係合を解除できないままとなる(図21(a),(c)参照)。
【0148】
図21に示す状態では、第2被動変速歯車n2においては、正回転偶数段用カムロッドCaeは抵抗なく移動するが、まだピン部材23がカム溝v2に入るまでに至らず偶数段揺動爪部材Rae,Rbeに変化がない(図21(b),(d)参照)。
なお、正回転奇数段用カムロッドCaoがこれと係止するロストモーション機構53のスプリングホルダ53hとともに停止しているので、同スプリングホルダ53hに係合する逆回転偶数段用カムロッドCbeも停止している。
【0149】
正回転奇数段用カムロッドCaoが停止した状態で、さらにシフトロッド51が右方に移動して2速位置に達すると、逆回転奇数段用カムロッドCboとともに正回転偶数段用カムロッドCaeもさらに右方に移動し、図22(b)に示すように、正回転偶数段用カムロッドCaeのカム溝v2にピン部材23が入り、よって正回転偶数段揺動爪部材Raeが圧縮スプリング22の付勢力および係合爪部Rpの遠心力により揺動して係合爪部Rpを外側に突出する(図22(d)参照)。
なお、逆回転偶数段用カムロッドCbeは停止したままで、逆回転偶数段揺動爪部材Rbeも係合爪部Rpを内側に引っ込めたままである。
【0150】
すると、第1被動変速歯車n1とともに回転するカウンタ歯車軸12より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの外側に突出した係合爪部Rpに追いつき当接する(図23(d)参照)。
この瞬間、図23(c)と図23(d)を参照して、第2被動変速歯車n2の係合凸部31の正回転偶数段揺動爪部材Raeへの当接と第1被動変速歯車n1の係合凸部31の正回転奇数段揺動爪部材Raoへの当接とが、同時に発生する。
【0151】
したがって、この直後から、より高速で回転する第2被動変速歯車n2によりカウンタ歯車軸12が第2被動変速歯車n2と同じ回転速度で回転し始め(図24(d)参照)、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpが離れ、実際の1速から2速へのシフトアップが実行される。
【0152】
第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpが離れることで、正回転奇数段揺動爪部材Raoを固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のコイルスプリング53sにより付勢されていた正回転奇数段用カムロッドCaoが後れて右方に移動してカム溝v1に入っていたピン部材23が抜け出し、正回転奇数段揺動爪部材Raoを揺動してその係合爪部Rpを内側に引っ込める(図24(c)参照)。
【0153】
正回転奇数段用カムロッドCaoの移動は、ロストモーション機構53のスプリングホルダ53hを介して逆回転偶数段用カムロッドCbeも移動し、逆回転偶数段用カムロッドCbeのカム溝v2にピン部材23が入り、逆回転偶数段揺動爪部材Rbeが揺動して係合爪部Rpを外側に突出して変速を完了する(図24(d)参照)。
このようにして1速から2速への変速作業は完了し、図24に示す状態が2速状態である。
【0154】
以上のように、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする際に、図23に示すように、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpに当接して係合しカウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1と同速度で回転させている状態で、より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が正回転偶数段揺動爪部材Raeの係合爪部Rpに追いつき当接してカウンタ歯車軸12を第2被動変速歯車n2とともにより高速度で回転させて変速するので、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から正回転奇数段揺動爪部材Raoの係合爪部Rpは自然と離れていき係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0155】
2速から3速、3速から4速、4速から5速、5速から6速の各シフトアップも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合している状態で、減速比が1段小さい被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合してシフトアップがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトアップ時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0156】
例えば、1速状態にあるとき、図20(c)に示すように、第1被動変速歯車n1の係合凸部31に正回転奇数段揺動爪部材Raoが係合していると同時に、他方の逆回転奇数段揺動爪部材Rboの係合爪部Rpが係合凸部31に間近で係合可能状態にある。
したがって、車速が減速されて後輪からカウンタ歯車軸12への駆動力が働き、駆動力の方向が変化した時には、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が正回転奇数段揺動爪部材Raoから逆回転奇数段揺動爪部材Rboに係合が速やかに切り換わり、係合が滑らかに引き継がれて維持されることができる。
【0157】
次に、車速を減速している時に、2速状態から減速比が1段大きい1速状態にシフトダウンする過程を、図25ないし図27に従って説明する。
図25は、変速段が2速状態で、減速した直後の状態を示している。
減速により後輪からカウンタ歯車軸12への駆動力が働き、図25(d)に示すように、回転速度が低下した第2被動変速歯車n2の係合凸部31に、係合可能状態にあった逆回転偶数段揺動爪部材Rbeの係合爪部Rpが係合してカウンタ歯車軸12の回転動力を第2被動変速歯車n2に伝達する所謂エンジンブレーキが働いている。
【0158】
この状態で、1速にシフトダウンするために、シフトセレクトレバーの手動操作によってシフトドラム67を前記とは逆方向に所定量回動し、シフトロッド51を軸方向左方に移動すると、ロストモーション機構52,53のコイルスプリング52s,53sを介して8本のカムロッドCao,Cao,Cae,Cae,Cbo,Cbo,Cbe,Cbeを連動して軸方向左方に移動しようとするが、逆回転偶数段用カムロッドCbeは、ピン部材23を介して作動する逆回転偶数段揺動爪部材Rbeが第2被動変速歯車n2の係合凸部31と係合して第2被動変速歯車n2から動力を受けているので、逆回転偶数段揺動爪部材Rbeを揺動して係合を解除するのに相当大きな摩擦抵抗があり、カム溝v2の傾斜した側面をピン部材23が上がりかけたところで逆回転偶数段用カムロッドCbeは停止されて、係合を解除できないままとなる(図26(b),(d)参照)。
なお、逆回転偶数段用カムロッドCbeとともに正回転奇数段用カムロッドCaoもロストモーション機構53のスプリングホルダ53hを介して停止状態にある。
【0159】
他方、正回転偶数段用カムロッドCaeはピン部材23を介して作動する正回転偶数段揺動爪部材Raeが第2被動変速歯車n2の係合凸部31と係合していないので、あまり抵抗なく左方に移動してそのカム溝v2に入っていたピン部材23を抜けださせて突出し、正回転偶数段揺動爪部材Raeを揺動してその係合爪部Rpを内側に引っ込める(図26(d)参照)。
【0160】
第1被動変速歯車n1においては、逆回転奇数段用カムロッドCboが抵抗なく左方への移動し、逆回転奇数段用カムロッドCboのカム溝v1にピン部材23が入り(図26(a)参照)、逆回転奇数段揺動爪部材Rboが圧縮スプリング22の付勢力および係合爪部Rpの遠心力により揺動して係合爪部Rpを外側に突出する(図26(c)参照)。
前記正回転偶数段揺動爪部材Raeが係合爪部Rpを内側に引っ込めた後に、逆回転奇数段揺動爪部材Rboが係合爪部Rpを外側に突出する。
【0161】
そして、カウンタ歯車軸12とともに逆回転奇数段揺動爪部材Rboが回転して第1被動変速歯車n1の係合凸部31に追いつき当接すると、図26(c)と図26(d)に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と第1被動変速歯車n1の係合凸部31がそれぞれ逆回転偶数段揺動爪部材Rbeの係合爪部Rpと逆回転奇数段揺動爪部材Rboの係合爪部Rpに同時に当接する瞬間がある。
この直後から、より低速で回転する第1被動変速歯車n1との係合が有効になり、第2被動変速歯車n2との係合は解除され、2速から1速へのシフトダウンが実行される。
【0162】
第2被動変速歯車n2の係合凸部31と逆回転偶数段用カムロッドCbeとの係合が解除されることで、逆回転偶数段揺動爪部材Rbeを固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のコイルスプリング53sにより付勢されていた逆回転偶数段用カムロッドCbeが後れて左方に移動して、カム溝v2に入っていたピン部材23が抜け出し(図27(b)参照)、逆回転偶数段揺動爪部材Rbeを揺動してその係合爪部Rpを内側に引っ込める(図27(d)参照)。
【0163】
逆回転偶数段用カムロッドCbeの移動は、ロストモーション機構53のスプリングホルダ53hを介して正回転奇数段用カムロッドCaoも移動し、正回転奇数段用カムロッドCaoのカム溝v1にピン部材23が入り、正回転奇数段揺動爪部材Raoが揺動して係合爪部Rpを外側に突出して変速を完了する(図27(c)参照)。
この状態で2速から1速への変速作業は完了する。
【0164】
以上のように、2速状態から減速比が1段大きい1速状態にシフトダウンする際に、図26に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31に逆回転偶数段揺動爪部材Rbeの係合爪部Rpが当接して係合している状態で、より低速で回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31に逆回転奇数段揺動爪部材Rboの係合爪部Rpが追いつき当接して係合を切り換えるので、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と逆回転偶数段揺動爪部材Rbeの係合爪部Rpとの係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0165】
6速から5速、5速から4速、4速から3速、3速から2速の各シフトダウンも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合している状態で、減速比が1段大きい被動変速歯車nに揺動爪部材Rが係合してシフトダウンがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトダウン時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0166】
例えば、2速状態にあるとき、図25(d)に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31に逆回転偶数段揺動爪部材Rbeが係合していると同時に、他方の正回転偶数段揺動爪部材Raeの係合爪部Rpが係合凸部31に間近で係合可能状態にある。
したがって、車速が加速されて内燃機関から第2被動変速歯車n2へ駆動力が働き、駆動力の方向が変化した時には、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が逆回転偶数段揺動爪部材Rbeから正回転偶数段揺動爪部材Raeに係合が速やかに切り換わり、係合が滑らかに引き継がれて維持されることができる。
【0167】
なお、本多段変速機10は、内燃機関の駆動による加速時は、シフトダウンしようとしてシフトロッド51を軸方向左方に移動したとしても、そのままでは動力を伝達している被動変速歯車nと揺動爪部材Rとの係合状態を解除することができないので、加速時にシフトダウンするときは、変速操作をする前に摩擦クラッチ5を一時切断して減速させた状態で変速操作を行うことで1段減速比の大きい被動変速歯車nと揺動爪部材Rの係合に円滑に切り換え、それから摩擦クラッチ5を係合して加速する。
【0168】
前記摩擦クラッチ5を採用していない場合は、別途点火時期制御や燃料噴射量制御などの駆動源回転減速手段により一時的に被動変速歯車nの回転速度を低下させることで、加速時でもシフトダウンを円滑に実行することができる。
【0169】
車速を減速して後輪からカウンタ歯車軸12へ駆動力が働いるときに、シフトアップしようとしてシフトロッド51を軸方向右方に移動しても変速できず、その後加速したときに、1段減速比の小さい被動変速歯車nが揺動爪部材Rに係合するときに、変速ショックを生じるので、減速時のシフトアップ作業は禁止することで、変速ショックの生じるのを未然に防止することができる。
【0170】
カウンタ歯車軸12の中空内周面に形成されたカム案内溝12gに嵌挿されたカムロッドCを軸方向に移動することで、カウンタ歯車軸12の所要箇所に嵌合したピン部材23を進退して揺動爪部材Rを揺動し、被動変速歯車nの係合凸部31との係合および係合解除を行うので、カムロッドCの小さい移動量で所要のピン部材23を進退させて係合を切り換えて変速を行うことができ、図1に示すようにカウンタ歯車軸12に軸支される隣り合う被動変速歯車n間を接近させた構造が可能で、多段変速機10の軸方向幅を小さくできる。
【0171】
自動二輪車搭載内燃機関Eの本変速用モータ80は、機関ケース1の両側に対向する機関ケース外側壁1Ll,1Lr間の凹部1Dに補機類に干渉することなく配置されるので、変速用モータ80の大部分を凹部1Dに隠すことができ、外観を良好に保つとともに、空気抵抗を少なくすることができ、特別に保護部材を要せずに変速用モータ80を異物の衝突から保護することができる。
また、モータ本体80aは機関ケース1の外側に配置されるので、変速用モータ80を特別な構造にすることなく、汎用のモータを使用することができる。
【0172】
メイン歯車軸11の斜め上方にカウンタ歯車軸12が配置され、そのカウンタ歯車軸12の下方に変速用モータ80が配置され、変速用モータ80で駆動されるシフトドラム67が変速用モータ80とカウンタ歯車軸12との間に配置され、メイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12と変速用モータ80が互いの距離が略等しくなる三角形の頂点に配置され、かつシフトドラム67をメイン歯車軸11に近づけて集約的に配置できるので、コンパクトな配置構造とし、変速機および内燃機関の小型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0173】
E…内燃機関、1…機関ケース、1U…上側機関ケース、1L…下側機関ケース、1D…凹部、1Ll…左側機関ケース外側壁、1Lr…右側機関ケース外側壁、1p…第1嵌合孔、2…変速室、4…プライマリ被動ギヤ、5…摩擦クラッチ、6…クランク軸、7L,7R…ベアリング、8…軸受蓋部材、8m…メイン軸受孔、8n…カウンタ軸受孔、8g…筒状ガイド部、8gl…ガイド長孔、8q…第2嵌合孔、
10…多段変速機、11…メイン歯車軸、12…カウンタ歯車軸、12a…中央円筒部、12cv…周方向溝、12av…軸方向溝、12p…長尺矩形凹部、12q…短尺矩形凹部、12g…カム案内溝、12h…ピン孔、12d…スプリング受部、12x…給油導入孔、12y…軸方向給油溝、12z…径方向給油孔、13…軸受カラー部材、15l…長尺プッシュロッド、15s…短尺プッシュロッド、16…ボール、17…クラッチ油圧アクチュエータ、
20…係合手段、22…圧縮スプリング、23…ピン部材、26…支軸ピン、30…突条、31…係合凸部、32…出力スプロケット、33…カラー部材、34…皿バネ、35…半割コッタ、36…環状リテーナ、37…ナット部材、38…チェーン、39…環状シール部材、
50…変速駆動機構、51…シフトロッド、51a,51b…外周凹部、52,53…ロストモーション機構、52h,53h…スプリングホルダ、52ha,53ha…内周凹部、52s,53s…コイルスプリング、55…シフトロッド操作子、56…ボールベアリング、57…ナット、58…シフトピン、60…溝条、65…支軸、66…ベアリング、67…シフトドラム、G…シフト案内溝、Gs…変速段溝部、Gm…変速溝部、67g…ドラムギヤ、70…中間軸、71…大径中間ギヤ、72…小径中間ギヤ、
73…小径ギヤ、74…支軸、75b…大径減速ギヤ、75s…小径減速ギヤ、76…支軸、77…大径ギヤ、78…ポテンショメータ、
80…変速用モータ、80a…モータ本体、81…取付ブラケット、82…ベアリング、83…ボルト、84,85…シール部材、
90…半円突条部、91…ゴム部材、92…半円支持部材、93…ゴム部材、94…、95…ボルト、96…脱落防止用ねじ棒、
m…駆動変速歯車、m1〜m6…第1〜第6駆動変速歯車、
n…被動変速歯車、n1〜n6…第1〜第6被動変速歯車、
C…カムロッド、Cao…正回転奇数段用カムロッド、Cae…正回転偶数段用カムロッド、Cbo…逆回転奇数段用カムロッド、Cbe…逆回転偶数段用カムロッド、p…係止爪、v1,v2,v3,v4,v5,v6…カム溝、
R…揺動爪部材、Rao…正回転奇数段揺動爪部材、Rae…正回転偶数段揺動爪部材、Rbo…逆回転奇数段揺動爪部材、Rbe…逆回転偶数段揺動爪部材、Rp…係合爪部、Rr…ピン受部、Rq…幅広端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関ケースに変速室を一体に備えた自動二輪車搭載内燃機関の前記変速室内の変速機を変速切換え駆動する変速用アクチュエータの配置構造において、
機関ケースの外壁の一部を内側に凹ませて前記変速用アクチュエータを収納可能な凹部が形成され、
前記凹部に前記変速用アクチュエータのアクチュエータ本体が配置されたことを特徴とする自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造。
【請求項2】
前記凹部は、機関ケースの外壁の車体巾方向の中央にその両側に相対向する機関ケース外側壁を残して内側に凹ませた凹部であることを特徴とする請求項1記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造。
【請求項3】
前記変速機のメイン軸とカウンタ軸と前記変速用アクチュエータとを互いの距離が略等しくなる三角形の頂点に配置したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造。
【請求項4】
前記カウンタ軸と前記変速用アクチュエータとの間にシフトドラムを配置したことを特徴とする請求項3記載の自動二輪車搭載内燃機関の変速用アクチュエータの配置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−203477(P2010−203477A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47272(P2009−47272)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】