説明

自動二輪車用ラジアルタイヤおよびその製造方法

【課題】従来の特性を維持しつつ、走行時にベルト端を起点とした損傷の発生を防止することができ、さらに高速耐久性および加工性を向上させることができる自動二輪車用ラジアルタイヤ、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】カーカスとトレッドの間にベルトが配置されている自動二輪車用ラジアルタイヤであって、ベルトは交差する第1ベルトコード配列体と第2ベルトコード配列体とを備えた網状体であり、各ベルトコード配列体はアラミド繊維製のベルトコードで形成され、5cm幅当たりの打ち込み本数は30〜50本であり、ベルトコードはタイヤ周方向に対して15〜26°の角度に配置されて各交差部は融着されており、トレッドはタイヤ半径方向内側に位置するベース層と外側に位置するキャップ層とを備えており、ベルトのベルトコード間にベース層のゴムが浸透、充填されて、ベース層とベルトとが一体に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車用ラジアルタイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動二輪車用ラジアルタイヤでは、カーカスとトレッドの間に、ベルトが配置されている。
【0003】
上記ベルトは、ベルト材により形成されており、ベルト材は、ベルトコード(縦糸)と横糸とにより簾織りされ、さらに必要に応じてベルトコードと横糸との交差部を融着して形成された原反に、ディップ処理を施した後、前記原反をトッピングゴムで被覆することにより形成され、任意の幅および角度で裁断される(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
そして、ベルトコードが交差するようにベルト材が上下で貼り合わされてタイヤ生カバーが形成される。
【0005】
このようなベルトコードとしては、高性能の自動二輪車用ラジアルタイヤの場合、タイヤ回転時の撓みを抑制するため、ナイロンやポリエステルなどに比べて伸びが小さく、強度の高いアラミド繊維が多く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−63761号公報
【特許文献2】特開平10−315708号公報
【特許文献3】特開2010−255141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のアラミド繊維製のベルトコードが用いられている自動二輪車用ラジアルタイヤにおいては撓みが小さいため、走行時にベルト端を起点とした損傷(BEL:ブレーカエッジルースなど)が発生し易いという問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑み、従来の特性を維持しつつ、走行時にベルト端を起点とした損傷の発生を防止することができる自動二輪車用ラジアルタイヤ、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載する発明により上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
カーカスとトレッドの間に、ベルトが配置されている自動二輪車用ラジアルタイヤであって、
前記ベルトは、第1ベルトコード配列体と、前記第1ベルトコード配列体と交差する第2ベルトコード配列体とを備えた網状体であり、
前記第1ベルトコード配列体および前記第2ベルトコード配列体は、アラミド繊維製のベルトコードで形成され、
5cm幅当たりの前記ベルトコードの打ち込み本数は、30〜50本であり、
前記ベルトコードは、タイヤ周方向に対して15〜26°の角度で傾斜するように配置され、
前記ベルトコードの各交差部は、融着されており、
前記トレッドは、タイヤ半径方向内側に位置するベース層と、外側に位置して走行時の接地面に相当するキャップ層とを備えており、
前記ベルトの前記ベルトコード間に、前記ベース層のゴムが浸透、充填されて、前記ベース層と前記ベルトとが一体に形成されている
ことを特徴とする自動二輪車用ラジアルタイヤである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の自動二輪車用ラジアルタイヤの製造方法であって、
前記第1ベルトコード配列体と、前記第2ベルトコード配列体とを重ね合わせた後、前記ベルトコードの各交差部を融着して網状のベルトを作製するベルト作製工程と、
前記ベルトを前記トレッドの内面に、前記ベルトコードがタイヤ周方向に対して15〜26°の角度で傾斜するように貼り付ける貼り付け工程と、
前記ベルトが前記トレッドの内面に貼り付けられた生タイヤを加硫成形する加硫成形工程と
を備えており、
前記加硫成形工程において、前記ベルトの前記ベルトコード間に、前記ベース層のゴムを浸透、充填させて前記ベース層と前記ベルトとを一体に形成することを特徴とする自動二輪車用ラジアルタイヤの製造方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
前記第1ベルトコード配列体および第2ベルトコード配列体をディップ処理するディップ処理工程を備えており、
ディップ処理された前記第1ベルトコード配列体および第2ベルトコード配列体を重ね合わせた後、ベルトコードの各交差部を融着して網状のベルトを作製することを特徴とする請求項2に記載の自動二輪車用ラジアルタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の特性を維持しつつ、走行時にベルト端を起点とした損傷の発生を防止することができ、さらに高速耐久性および加工性を向上させることができる自動二輪車用ラジアルタイヤ、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動二輪車用ラジアルタイヤを模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る自動二輪車用ラジアルタイヤのベルトを模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
1.自動二輪車用ラジアルタイヤの構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る自動二輪車用ラジアルタイヤを模式的に示す断面図である。図2は、本発明の一実施の形態に係る自動二輪車用ラジアルタイヤのベルトを模式的に示す平面図である。
【0017】
図1に示すように、自動二輪車用ラジアルタイヤAは、ラジアル構造を有するカーカス1およびトレッド3と、カーカス1およびトレッド3の間に配置されるベルト2、サイドウォール4とを備えている。
【0018】
トレッド3は、タイヤ半径方向内側に位置するベース層3aと、外側に位置して走行時の接地面に相当するキャップ層3bとを備えており、ベース層3aは、加硫時にベルト2に浸透してコーティングゴムの役目をし、かつアンダートレッドの代用となるような配合がされ、キャップ層3bは、一般的に、MCに使用されるような配合がされる。
【0019】
ベルト2は、第1ベルトコード配列体2aと、第1ベルトコード配列体2aのタイヤ半径方向の外側に配置される第2ベルトコード配列体2bとを交差させた網状に形成されている。第1ベルトコード配列体2aおよび第2ベルトコード配列体2bは、多数本のアラミド繊維製のベルトコード21を所定間隔で配置することにより形成されている。
【0020】
第1ベルトコード配列体2aのベルトコード21と第2ベルトコード配列体2bのベルトコード21は傾斜の向きが互いに逆であって、それぞれ、タイヤ周方向に対して15〜26°の角度で傾斜して配置されている。また、第1ベルトコード配列体2aと第2ベルトコード配列体2bのベルトコード21の各交差部は融着されている。また、5cm幅当たりのコード打ち込み本数(エンズ)は、30〜50本である。
【0021】
トレッドとベルト2とは、加硫成形時に、ベルト2のベルトコード21間に、トレッドのベース層3aのゴムが浸透、充填されることにより一体化され複合体が形成されている。
【0022】
2.自動二輪車用ラジアルタイヤの製造方法
本実施の形態の自動二輪車用ラジアルタイヤAは、以下のようにして製造される。
【0023】
(1)ベルト作製工程
イ.第1および第2ベルトコード配列体の作製
まず、所定の繊度、具体的には1000〜1800dtex/2程度の繊度のアラミド繊維をベルトコード21として用い、ベルトコード21が前記所定の間隔で配列されている第1および第2ベルトコード配列体2a、2bを作製する。
【0024】
ロ.ディピング処理
次に、作製した第1および第2ベルトコード配列体2a、2bを、ディピングして粘着性を付与する。
【0025】
ハ.ベルトコードの交差部の融着
次に、第1および第2ベルトコード配列体2a、2bをベルトコード21が所定の角度で交差するように重ね合わせ、ベルトコード21の交差部を融着する。
【0026】
(2)トレッドへのベルトの貼り付け
作製したベルト2を、タイヤの周方向に対するベルトコード21の角度が15〜26°の角度となるようにトレッド3のベース層3aの内面に貼り付ける。
【0027】
(3)加硫成形
次に、ベルト2が取り付けられた生タイヤを加硫成形する。加硫成形工程では、流動化するベース層3aのゴム材が、ベルト2のベルトコード21間に浸透、充填されることにより、トレッド3とベルト2とが一体化される。なお、この場合において、キャップ層3bとベルト2が接触しないように、ベルト2の厚さなどの条件が定められている。以上のようにして、本実施の形態の自動二輪車用ラジアルタイヤAを製造することができる。
【0028】
3.本実施の形態の効果
(1)本実施の形態によれば、ベルトコード21がタイヤ周方向に適切な角度で、適切な本数配置された第1ベルトコード配列体2aと第2ベルトコード配列体2bのベルトコード21が交差部で融着されているため、タイヤの周方向の剛性が適切に確保できる。このため、従来の裁断材料を貼り合わせる製法で作られたタイヤと同等のコーナリングフォース特性など各種の従来特性を維持することができる。
【0029】
(2)そして、ベルトコード21を予め融着させてベルト2を網状に形成しているため、複数のベルト材を上下に重ね合わる構造と比べ、上下のベルト材のコード端が接触し合うことがなくなる。このため、BELなどの損傷を防止することができる。
【0030】
(3)加硫成形工程では、トレッド3のベース層3bのゴム材が流れてベルト2のベルトコード21間に浸透するため、加硫成形前に、ベルト2にトッピングゴムで被覆するトッピング工程が不要になる。このため、生産設備の簡素化が図れ、生産性を向上させることができる。
【0031】
(4)また、ベルトコード21を予め融着させ、ベルト2を網状に形成しているため、トレッド3とベルト材との接着性およびタイヤの仕上がり時のエアー残りなどの不具合の発生頻度を抑えることができる。また、従来の貼り合わせ製法のベルト材に比べて厚さを薄くできるため、発熱が低く抑えられ、高速耐久性が向上する。
【実施例】
【0032】
サイズが120/70ZR17M/C(58W)の自動二輪車用ラジアルタイヤを作製し、加工性、耐久性(耐損傷)および高速耐久性のテストを行った。
【0033】
(実施例1〜9)
上記の実施の形態に記載した方法により作製した表1に示す仕様のベルト材を用いて自動二輪車用ラジアルタイヤを作製した。
【0034】
(比較例1、2)
従来技術、即ちベルト材を2枚重ねて貼り合わせて作製した表1に示す仕様のベルトを用いて自動二輪車用ラジアルタイヤを作製した。
【0035】
(比較例3〜6)
実施例と同じベルトコードが融着されているベルトであるが、本発明に規定された条件に該当しない仕様のベルトを用いて自動二輪車用ラジアルタイヤを作製した。
【0036】
なお、表1に示すように、ベルトコードには、いずれも、アラミド繊維製であり、従来使用されている2/1100(dtex)と2/1670(dtex)の2種類の繊度のベルトコードを用いた。
【0037】
(評価方法および評価基準)
(1)加工性
加工性については、タイヤ成形時におけるトレッドとベルト(比較例1、2はベルト材)との接着性およびタイヤの仕上がり時のエアー残りなどの不具合の発生頻度により、○△×の3段階で評価した。
【0038】
(2)耐久性(BELなどの耐損傷性)
耐久性については、高速安全基準FMVSS119で定められた試験条件をもとにドラム走行試験を行い、損傷発生の有無により、○△×の3段階で評価した。
【0039】
評価基準は、以下の3段階である。
○:UNFAIL (損傷なし)
△:NO FAIL(軽微な損傷はあるが機能上問題なし)
×:FAIL (BELなどの損傷発生)
【0040】
(3)高速耐久性
高速耐久性については、ECE75で定められた試験条件をもとにドラム試験を行うことにより段階で評価した。
【0041】
評価基準は、以下の2段階である。
○:規格規準に対し合格
×:規格基準に対し不合格
【0042】
各実施例および比較例の評価結果をまとめて表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、実施例1〜9の場合は、損傷が発生しないことが確認できた。これに対して、比較例1、2の場合は、損傷が発生した。これにより、ベルトの構造をベルトコードが融着された構造とすることにより耐久性が向上することが確認された。
【0045】
また、実施例1〜9の場合は、加工性、高速耐久性の面でも、または全体として高い評価が得られた。これに対して、角度が14°と小さい比較例3は、加工性が悪く、角度が28°と大きい比較例4の場合は、高速耐久性の評価が低かった。
【0046】
また、仕上がりエンズが55と大きい(ベルトコードの間隔が狭い)比較例5の場合は、加工性、耐久性が良好とは言えず、高い評価は得られなかった。
【0047】
また、トレッドを1層とした比較例6は、損傷が発生し、加工性および高速耐久性が劣っていることが確認された。
【0048】
これにより、ベルト2を網状に形成し、しかもベルトコードのコード角度を15〜26°に設定すると共に、タイヤ幅方向における5cm幅当たりのコード打ち込み本数を30〜50本に設定し、さらにトレッドを2層タイプにすることにより、加工性、耐久性および高速耐久性が向上することが確認された。
【0049】
以上、本発明を実施例に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 カーカス
2 ベルト
2a 第1ベルトコード配列体
2b 第2ベルトコード配列体
3 トレッド
3a ベース層
3b キャップ層
4 サイドウォール
21 ベルトコード
A 自動二輪車用ラジアルタイヤ
θ ベルトコードとタイヤ周方向との角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスとトレッドの間に、ベルトが配置されている自動二輪車用ラジアルタイヤであって、
前記ベルトは、第1ベルトコード配列体と、前記第1ベルトコード配列体と交差する第2ベルトコード配列体とを備えた網状体であり、
前記第1ベルトコード配列体および前記第2ベルトコード配列体は、アラミド繊維製のベルトコードで形成され、
5cm幅当たりの前記ベルトコードの打ち込み本数は、30〜50本であり、
前記ベルトコードは、タイヤ周方向に対して15〜26°の角度で傾斜するように配置され、
前記ベルトコードの各交差部は、融着されており、
前記トレッドは、タイヤ半径方向内側に位置するベース層と、外側に位置して走行時の接地面に相当するキャップ層とを備えており、
前記ベルトの前記ベルトコード間に、前記ベース層のゴムが浸透、充填されて、前記ベース層と前記ベルトとが一体に形成されている
ことを特徴とする自動二輪車用ラジアルタイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載の自動二輪車用ラジアルタイヤの製造方法であって、
前記第1ベルトコード配列体と、前記第2ベルトコード配列体とを重ね合わせた後、前記ベルトコードの各交差部を融着して網状のベルトを作製するベルト作製工程と、
前記ベルトを前記トレッドの内面に、前記ベルトコードがタイヤ周方向に対して15〜26°の角度で傾斜するように貼り付ける貼り付け工程と、
前記ベルトが前記トレッドの内面に貼り付けられた生タイヤを加硫成形する加硫成形工程と
を備えており、
前記加硫成形工程において、前記ベルトの前記ベルトコード間に、前記ベース層のゴムを浸透、充填させて前記ベース層と前記ベルトとを一体に形成することを特徴とする自動二輪車用ラジアルタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記第1ベルトコード配列体および第2ベルトコード配列体をディップ処理するディップ処理工程を備えており、
ディップ処理された前記第1ベルトコード配列体および第2ベルトコード配列体を重ね合わせた後、ベルトコードの各交差部を融着して網状のベルトを作製することを特徴とする請求項2に記載の自動二輪車用ラジアルタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−192789(P2012−192789A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56997(P2011−56997)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】