説明

自動分析装置

【課題】分析項目に関係なく、確実に陽性の検体を見逃すことなく、精度の高い分析結果を得ることができる自動分析装置を提供する。
【解決手段】第1試薬、検体および第2試薬の順番で反応容器20に分注し、反応容器20内で反応する反応液の吸光度を測定することで前記検体を分析する自動分析装置1において、未反応の第2試薬は、波長340nmに対する吸光度が第1試薬の吸光度に比して大きな値をもち、反応液の波長340nmの吸光度を測定する測光部18と、第2試薬分注直後の吸光度が予め設定された閾値以下である場合、第2試薬の分注に異常が生じたと判定する分注判定部34と、第2試薬の分注に異常が生じなかった場合のみ、第2試薬分注直後から所定時間経過時までの、検体判定の波長570nmの吸光度の変化量をもとに検体が陽性か陰性か判定する分析部33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器に分注された試薬と検体とを反応させ、この反応液の吸光度を測定することによって検体を分析する自動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、反応容器に分注された試薬と検体とを反応させ、この反応液の吸光度を測定することによって検体を分析する自動分析装置が知られている。この自動分析装置では、分析項目毎にそれぞれの試薬を選択し、試薬と検体とを反応させ、この反応液を透過した分析光の吸光度をもとに検体の分析を行っている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−300814号公報
【特許文献2】特開2006−023214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、分析項目の一つにC反応蛋白質(CRP)を検査するCRP検査がある。CRPは、感染症、急性の組織障害および炎症等で生体が急性侵襲を受けると、血中に増加し、生体の回復に伴い減少する急性期蛋白質の一種である。このため、CRP検査は、細菌性感染症、心筋梗塞、悪性腫瘍の疾患における重症度または治療効果等の判定に極めて有効な検査である。このCRP検査は、反応容器に第1試薬、検体および第2試薬の順番で分注し、第1試薬が検体を希釈し、第2試薬が検体と反応する。この第2試薬としては、通常、ラテックス試薬が用いられる。
【0005】
ラテックス試薬は、試薬中にCRP抗体感作ラテックス粒子を有し、このCRP抗体感作ラテックス粒子が分析光を散乱させるため、分析光の透過を妨げる。さらに、CRP抗体感作ラテックス粒子は、検体のCRP抗原と反応し、凝集することで、分析光の透過を一層妨げる。このため、ラテックス試薬の分注が行われた時点で、急激に吸光度が上昇し、この後、検体が陽性の場合、検体とラテックス試薬との反応が終了するまで、吸光度が上昇し、検体が陰性の場合、検体とラテックス試薬とがほとんど反応しないため、ラテックス試薬の分注時に急激に上昇した吸光度の値がほぼ一定に維持される。この結果、CRP検査は、ラテックス試薬が分注された時点から所定時間経過した吸光度の変化量をもとに検体の分析を行っている。
【0006】
しかしながら、CRP検査において、ラテックス試薬の分注量が不足している場合、ラテックス試薬分注時に吸光度の急激に上昇する吸光度の値が低くなる。この結果、検体が陰性の場合におけるラテックス試薬分注時の吸光度と、ラテックス試薬が反応容器に未分注あるいは分中量が極めて少ない場合におけるラテックス試薬分注時の吸光度との差が小さくなるため、正確なCRP検査結果を得ることができない。しかも、検体が陰性の場合、ラテックス試薬未分注の場合と同様に、ラテックス試薬分注時以降の吸光度はほとんど変化しないため、ラテックス試薬分注時以降における吸光度の変化をみても、検体が陰性なのかラテックス試薬が未分注なのかを判断できない場合があった。この場合、ラテックス試薬が未分注あるいは極めて少ない分注量であって検体が陽性であった場合でも、検体が陰性と判断される可能性があった。このような陽性の検体を見逃すことは、分析結果の信頼性を大きく低下させるという結果を招き、本来の分析の目的を達成することができない。
【0007】
なお、分注ノズルに圧力センサを設け、試薬または検体の吸引時および吐出時の圧力変化を測定することで分注装置の分注異常を判定する方法では、分注ノズルの状態を監視するのみで、吸引および吐出される試薬または検体に対して、実際に反応容器に分注されたか否かを判定していないため、試薬または検体が反応容器に分注されていない場合がある(特許文献1参照)。さらに、反応容器に分注された試薬および検体を反応させ、この反応液の吸光度を逐次測定し、この測定結果を解析することで分注異常を判定する方法でも、分析項目によっては、吸光度の測定結果から反応容器に第2試薬が分注されたか否かを判定することができない場合がある(特許文献2参照)。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、分析項目に関係なく、陽性の検体を見逃すことなく、信頼性が高い分析結果を得ることができる自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる自動分析装置は、第1試薬、検体および第2試薬の順に反応容器に分注し、該反応容器内で反応する反応液の吸光度を測定することで前記検体を分析する自動分析装置において、少なくとも前記反応液の所定波長領域の吸光度を測定する測定手段と、前記測定手段によって測定される前記所定波長領域の吸光度であって前記第2試薬分注直後の吸光度が予め設定した閾値以下である場合、前記第2試薬の分注に異常が生じたと判定する分注判定手段と、前記分注判定手段が前記第2試薬の分注に異常が生じたと判定しない場合、前記測定手段によって測定される前記検体分析に必要な分析波長領域の吸光度であって前記第2試薬分注後から所定時間経過時までの吸光度の変化量をもとに前記検体が陽性であるか陰性であるかを判定する分析手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、未反応の前記第2試薬は、前記所定波長領域に対する吸光度が前記第1試薬の吸光度に比して大きな値をもつことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記所定波長領域は、前記分析波長領域に比して短い波長領域であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記分注判定手段は、前記第2試薬の分注に異常が生じたと判定しない場合、前記測定手段によって測定される前記第2試薬分注後所定時間経過時の吸光度をもとに前記反応液の濃度を算出し、該算出した濃度が所定濃度範囲内である場合、前記第2試薬の分注量が正常であると判定し、前記分析手段は、前記分注判定手段が前記第2試薬の分注量が正常であると判定した場合に、前記検体が陽性であるか陰性であるかの判定を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記所定濃度範囲は、第2試薬の分注量が90%以上となるときの濃度範囲であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記所定波長領域は、300nm〜400nmであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる自動分析装置は、上記の発明において、前記第2試薬は、ラテックス試薬であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、未反応の第2試薬の吸光度が所定波長領域に対する第1試薬の吸光度に比して大きな値をもたせておくことによって、第2試薬分注直後に測定した吸光度が、予め設定した閾値以下である場合、第2試薬の分注に異常が生じたと判定し、第2試薬の分注に異常が生じたと判定しない場合、第2試薬分注後所定時間経過時の吸光度の変化量をもとに検体が陽性であるか陰性であるかを判定するため、第2試薬が未分注あるいは少量の分注である場合を確実に判別でき、分析項目に関係なく、確実に陽性の検体を見逃すことなく、信頼性の高い分析結果を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の自動分析装置にかかる好適な実施の形態について説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる自動分析装置の概要構成を示す模式図である。図1に示すように、自動分析装置1は、分析対象である第1試薬、検体および第2試薬を反応容器20にそれぞれ分注し、分注した反応容器20内で生じる反応の吸光度を測定する測定機構2と、測定機構2を含む自動分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構2における測定結果の分析を行う制御機構3とを備える。自動分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体の分析を自動的に行う。
【0019】
測定機構2は、検体移送部11、検体分注機構12、反応テーブル13、試薬庫14、試薬分注機構16、攪拌部17、測光部18および洗浄部19を備える。
【0020】
検体移送部11は、血液や尿等、液体である検体を収容した複数の検体容器11aを保持し、図中の矢印方向に順次移送する複数の検体ラック11bを備える。検体移送部11上の検体吸引位置P1に移送された検体容器11a内の検体は、検体分注機構12によって、反応テーブル13上の検体分注位置P11に搬送される反応容器20に分注される。
【0021】
検体分注機構12は、鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行うアーム12aを備える。このアーム12aの先端部には、検体の吸引および吐出を行うプローブが取り付けられている。検体分注機構12は、図示しない吸排シリンジを用いた吸排機構を備える。検体分注機構12は、検体移送部11上の検体吸引位置P1に移送された検体容器11aの中からプローブによって検体を吸引し、アーム12aを図中時計周りに旋回させ、反応テーブル13上の検体分注位置P11に搬送される反応容器20に検体を吐出して分注を行う。
【0022】
反応テーブル13は、反応容器20への検体または試薬の分注、反応容器20の攪拌、洗浄または測光を行うために反応容器20を所定の位置まで移送する。この反応テーブル13は、制御部31の制御のもと、図示しない駆動機構が駆動することによって、反応テーブル13の中心を通る鉛直線を回転軸として回動自在である。反応テーブル13の上方と下方には、図示しない開閉自在な蓋と恒温槽がそれぞれ設けられている。
【0023】
反応容器20は、容量が数nL〜数mL程度の微量な容器であり、側壁と底壁とによって液体を保持する液体保持部が形成され、液体保持部の上部に開口を有する。反応容器20は、測光部18の光源から照射された分析光に含まれる光の80%以上を透過する透明素材、例えば、耐熱ガラスを含むガラス、環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂が使用される。
【0024】
試薬庫14は、反応容器20内に分注される試薬が収容された試薬容器15を複数収納できる。試薬庫14には、複数の収納室が等間隔で配置されており、各収納室には試薬容器15が着脱自在に収容される。試薬庫14は、制御部31の制御のもと、図示しない駆動機構が駆動することによって、試薬庫14の中心を通る鉛直線を回転軸として時計回りまたは反時計回りに回動自在であり、所望の試薬容器15を試薬吸引位置P2まで移送する。試薬庫14の上部には、開閉自在な蓋(図示せず)が設けられている。また、試薬庫14の下部には、恒温槽(図示せず)が設けられている。この結果、試薬庫14内に試薬容器15が収容され、蓋が閉じられたときに、試薬容器15内に収容された試薬を恒温状態に保ち、試薬容器15内に収容された試薬の蒸発や変性を抑制することができる。
【0025】
試薬分注機構16は、検体分注機構12と同様に、検体の吸引および吐出を行うプローブが先端部に取り付けられたアーム16aを備える。アーム16aは、鉛直方向への昇降および自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行う。試薬分注機構16は、試薬庫14上の試薬吸引位置P2に移動された試薬容器15内の試薬をプローブによって吸引し、アーム16aを図中時計回りに旋回させ、反応テーブル13上の試薬分注位置P21に搬送された反応容器20に分注する。
【0026】
攪拌部17は、反応テーブル13上の攪拌位置P31に搬送された反応容器20に分注された第1試薬、検体および第2試薬の攪拌を行い、反応を促進させる。
【0027】
測光部18は、反応テーブル13上の測光位置P41に搬送された反応容器20に光を照射し、反応容器20内の液体を通過した光を分光し、反応液に特有の波長の吸光度を測定する。この測光部18による測定結果は、制御部31に出力され、分析部33において分析される。
【0028】
洗浄部19は、反応テーブル13上の洗浄位置P51に搬送された反応容器20内の洗浄を行う。洗浄部19は、図示しないノズルによって、測光部18による測定が終了した反応容器20内に混合液を吸引して排出するとともに、洗剤や洗浄水等の洗浄液を注入および吸引することで洗浄を行う。この洗浄した反応容器20は、再利用され、あるいは検査内容によっては1回の測定終了後に廃棄される。
【0029】
つぎに、制御機構3について説明する。制御機構3は、制御部31、入力部32、分析部33、分注判定部34、記憶部35、出力部36および送受信部37を備える。測定機構2および制御機構3が備えるこれらの各部は、制御部31に接続されている。
【0030】
制御部31は、CPU等を用いて実現され、自動分析装置1の各部の処理および動作を制御する。制御部31は、これらの各構成部位に入出力される情報について所定の入出力制御を行い、かつ、この情報に対して所定の情報処理を行う。
【0031】
入力部32は、キーボード、マウス、入出力機能を兼ねたタッチパネル等を用いて実現され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。また、入力部32は、図示しない通信ネットワークを介して制御部31への指示情報を取得し、送信する。
【0032】
分析部33は、測光部18から取得した吸光度の測定結果に基づいて検体の成分分析等を行う。また、分析部33は、分注判定部34が第2試薬の分注に異常が生じなかったと判定した場合、測光部18によって測定された第2試薬分注後所定時間経過時の吸光度の変化量をもとに検体が陽性であるか陰性であるかを判定する。
【0033】
分注判定部34は、測光部18によって測定された第2試薬分注後の吸光度が予め設定した閾値以下である場合、第2試薬の分注に異常が生じたと判定する。また、分注判定部34は、第2試薬の分注に異常が生じなかったと判定した場合、さらに測光部18によって測定された第2試薬分注後所定時間経過時の吸光度をもとに反応液の濃度を算出し、該算出した濃度が所定濃度範囲内である場合、第2試薬の分注量が正常であると判定する。
【0034】
記憶部35は、少なくとも、測光部18が所定波長領域で反応液内を測定した吸光度の情報を記憶する。また、記憶部35は、分注判定部34の判定結果を記憶する。
【0035】
出力部36は、少なくとも、分注判定部34が第2試薬の分注に異常が生じたと判定した場合、第2試薬の分注に異常が生じた旨を報知出力する。
【0036】
送受信部37は、図示しない通信ネットワークを介して所定の形式にしたがって外部と情報の送受信を行うインターフェースとしての機能を有する。
【0037】
以上のように構成された自動分析装置1では、列をなして順次搬送される複数の反応容器20に対して、検体分注機構12が検体容器11a中の検体を分注し、試薬分注機構16が試薬容器15中の試薬を分注した後、測光部18が反応液の吸光度を測定し、この測定結果を分析部33が分析することで、検体の成分分析等が自動的に行われる。また、洗浄部19が測光部18による測定が終了した後に搬送される反応容器20を搬送させながら洗浄することで、一連の分析動作が連続して繰り返し行われる。
【0038】
(処理概要)
ここで、分析項目の一つであるCRP検査を行う場合、自動分析装置1は、第2試薬としてラテックス試薬を用いる。自動分析装置1は、まず、ラテックス試薬の分注率に対する吸光度の波長依存特性を参照し、ラテックス試薬が反応容器20に分注されているか否かの分注判定を行う。その後、自動分析装置1は、ラテックス試薬が分注されたものに対してのみ、吸光度の変化量をもとに検体が陽性か陰性かの検体判定を行う。
【0039】
(分注判定)
CRP検査時の吸光度の時間変化は、図2に示すように、第2試薬であるラテックス試薬が分注された時点t3直後から大きく変化する。図2において、曲線L1は、ラテックス試薬の分注量が100%で分注され、検体が陽性である場合の吸光度の時間変化を示し、曲線L2は、ラテックス試薬の分注量が100%で分注され、検体が陰性である場合の吸光度の時間変化を示している。また、曲線L3は、ラテックス試薬の分注量が50%で分注され、検体が陽性である場合の吸光度の時間変化を示し、曲線L4は、ラテックス試薬の分注量が50%で分注され、検体が陰性である場合の吸光度の時間変化を示している。また、曲線L5は、ラテックス試薬の分注量が10%で分注され、検体が陽性である場合の吸光度の時間変化を示し、曲線L6は、ラテックス試薬の分注量が10%で分注され、検体が陰性である場合の吸光度の時間変化を示している。さらに、曲線L7は、ラテックス試薬が未分注の場合の吸光度の時間変化を示している。なお、CRP検査において、陽性、陰性を正しく判定するためにはラテックス試薬の分注率が90%以上必要であり、分注率が90%のときの吸光度値が吸光度の閾値LTである。
【0040】
すなわち、ラテックス試薬が時点t3で分注されない場合、吸光度は、曲線L7のように時点t3後も変化することなく、時点t3前と同じ一定値を維持する。これに対し、ラテックス試薬が時点t3で分注されると、時点t3直後、その分注率の増大に対応して吸光度が急激に大きくなる(分注率10%→点P3,分注率50%→点P2,分注率100%→点P1)。その後、検体が陰性である場合、急激に大きくなった吸光度値を維持し(曲線L2,L4,L6)、検体が陽性である場合、急激に大きくなった吸光度値から時間経過とともに徐々に大きくなる吸光度変化を示す(曲線L1,L3,L5)。したがって、ラテックス試薬の分注率が10%などと低い場合、未分注時の吸光度変化(曲線L7)と検体が陰性のときの吸光度変化(曲線L6)とは、ともに時間変化がなく吸光度値が一定であり、しかも吸光度値が近いため、ラテックス試薬が未分注の場合と、ラテックス試薬の分注が少量で検体が陰性の場合とを、確実に判別することができなかった。
【0041】
そこで、この実施の形態では、分注判定部34が、時点t3直後における吸光度が、ラテックス試薬が90%分注された場合に対応する吸光度を超えた場合に、ラテックス試薬が分注されたものとして判定するようにしている。ここで、分析光としては、検体判定で用いられる570nmの分析光で分注判定を行う。
【0042】
(検体判定)
その後、分析部33は、分注判定部34によってラテックス試薬が正常に分注されたと分注判定された反応液に対して、時点t3直後から時点t4まで、吸光度値が曲線L1に示すように変化し、時点t3直後の吸光度値P1よりも大きな吸光度値P4である場合に検体が陽性であると判定し、吸光度値が曲線L2に示すように変化なく、時点t3直後から吸光度値P1とほぼ同じ吸光度値P5である場合に検体が陰性であると判定する。
【0043】
(分注判定2)
ここで、図3は、検体が陰性と判定されるラテックス試薬の分注率と反応液の濃度値との関係を示している。ここで、濃度とは、検体が陽性の場合における所定時間経過後の吸光度から第2試薬分注後の吸光度を引いた吸光度差に比例する。具体的には、ラテックス試薬の分注率が50%の場合、図2に示した、曲線L3の時点t4の吸光度から時点t3の吸光度を引いた吸光度値に比例する。図3に示すように、検体が陰性と判定される曲線L11は、分注率の減少に伴って濃度値が上昇し、分注率が10%以下となると判定が困難なものとなる。したがって、ラテックス試薬の分注率が10%を超える場合に検体判定を行うようにするとよい。すなわち、この分注判定2では、分注判定部34が、上述した分注判定において、ラテックス試薬の分注率が90%のときの吸光度を閾値とするのに替えて、ラテックス試薬の分注率が10%に対応する吸光度を閾値として、ラテックス試薬の分注が正常に行われたか否かを判定してもよい。
【0044】
したがって、この分注判定2では、上述した分注判定において吸光度閾値LTを、ラテックス試薬の分注率が10%の時の吸光度値として設定する。ただし、上述したように、この吸光度値は、未分注の吸光度値に近い値を示すため、その判別が困難である。このため、図4に示すように、波長570nmの吸光度ではなく、波長340nmでの吸光度を求めて分注判定を行うようにしている。もちろん、この分注判定2に限らず、上述した分注判定においても、波長340nmでの吸光度を用いることが好ましい。
【0045】
すなわち、図4に示すように、ラテックス試薬の分注率が100%のときの吸光度の波長依存性を示す曲線L21と、ラテックス試薬の分注率が0%のときの吸光度の波長依存性を示す曲線L22とは、波長が短波長になるにしたがって吸光度の値が大きくなるが、吸光度の差も拡がるため、分注判定には検体判定に用いる波長570nmよりも短波長の波長340nmで、ラテックス試薬分注時の吸光度値を測定するようにしている。
【0046】
具体的には、波長570nmのときの曲線L21の値P21と、曲線L22の値P22との差に比して、波長340nmのときの曲線L21の値P11と、曲線L22の値P12との差の方が大きい。そして、ラテックス試薬の分注率10%のときの曲線L23を考えると、波長570nmのときの曲線L23の値P23と、曲線L22の値P22との差に比して、波長340nmのときの曲線L23の値P13と、曲線L22の値P12との差の方が大きく、波長570nmで測定するよりも波長340nmで測定する方が、確実にラテックス試薬の分注率が10%以下であるか10%を超えているかを判断することができる。なお、曲線LT1は、ラテックス試薬の分注率が90%である場合の吸光度の波長依存性を示しており、波長570nmのときの値LTが、図2に示した吸光度閾値LTに対応する。この分注率が90%か否かの判断を行う場合にも、上述したように、波長340nmで判断する方が確実な判断を行うことができる。なお、波長340nmは、波長570nmに比して短ければよく、たとえば、300nm〜400nmとする波長領域A1で測定すればよい。
【0047】
すなわち、この分注判定2では、ラテックス試薬に、波長領域A1に対する吸光度が第1試薬の吸光度(ラテックス試薬未分注時の吸光度)に比して大きな値をもたせ、ラテックス試薬分注直後に反応液の波長領域A1の吸光度を測定し、測定された吸光度が予め求められた閾値(分注率10%に相当する吸光度値)、たとえば値P13以下である場合、ラテックス試薬の分注が正常に行われなかったものとして判定する。その後の検体判定は上述したとおりである。
【0048】
なお、図4では、ラテックス試薬の分注率をパラメータとした吸光度の波長依存性を示したが、図5では、吸光度とラテックス試薬の分注率との関係を示している。図5において、曲線L31は、波長340nmで測定した吸光度とラテックス試薬の分注率との関係を示し、曲線L32は、波長570nmで測定した吸光度と分注率との関係を示している。図5からも分かるように、ラテックス試薬の分注率が10%のときであっても、波長570nmの吸光度値P23に比して、波長340nmの吸光度値P13の方が大きく、吸光度値P23に替えて吸光度値P13を閾値判定に用いることによって、閾値判定を容易かつ確実に行うことができる。
【0049】
(陰性判定)
ところで、検体が陰性である場合、図3に示したように、陰性を示す曲線L11は、分注率の減少に伴って濃度値が上昇し、分注率が10%以下となると判定が困難なものとなっている。この場合、確実に検体が陰性であるか否かを判定する反応液の濃度値は、分注精度などを含めた場合の分析制度範囲を表わす図3に示す領域D内であり、このときの分注率は、90%以上となる。したがって、上述した分注判定では、分注率が90%のときの吸光度値を閾値とすることが好ましい。
【0050】
すなわち、陰性検体の場合、分注率は90%以上であるとき、その判定の信頼度が高い。分注率が10%を超え、90%未満の場合であっても、正しく陽性として判定される可能性はあるが、この領域Dの陰性判定が実際には陽性である場合、陽性の検体を見逃すことになる。したがって、信頼度の高い分注率90%以上、換言すれば、濃度範囲D内の陰性判定のみの検体を陰性として判定出力し、その他の検体については、陽性判定を含めて再検査対象とすることが好ましい。
【0051】
この実施の形態では、図3に示した特性曲線L11と領域Dとの関係を利用し、時点t4における反応液の吸光度値(測定波長は、570nm、340nmのいずれでもよい)をもとに、反応液の濃度値を求め、さらにこの濃度値をもとにラテックス試薬の分注量を求めるようにしている。この分注量を求めることによってラテックス試薬の分注量が、最終的に信頼性を確保できる分注量であるか否かを再確認することができ、陽性検体を陰性検体として含めてしまう可能性をなくすようにしている。すなわち、ラテックス試薬の分注量が90%以上で陰性判定されたもののみを陰性検体として判定出力するようにしている。
【0052】
(分注判定処理)
ここで、図6に示すフローチャートを参照して、分注判定部34による分注判定処理手順について説明する。図6において、まず、分注判定部34は、反応容器20にラテックス試薬である第2試薬の分注動作が行われたか否かを判定する(ステップS101)。反応容器20に第2試薬の分注動作が行われていない場合(ステップS101:No)、ステップS113に移行する。一方、第2試薬の分注動作が行われている場合(ステップS101:Yes)、第2試薬分注直後の波長領域A1内の340nmで測定した反応液の吸光度を取得する(ステップS102)。
【0053】
その後、分注判定部34は、取得した吸光度が、予め求められた閾値(たとえば、第2試薬の分注率が90%のときの吸光度値)以下であるか否かを判定する(ステップS103)。取得した吸光度が閾値以下でない場合(ステップS103:No)、第2試薬の分注が正常であると判定し(ステップS104)、ステップS107に移行する。一方、取得した吸光度が閾値以下である場合(ステップS103:Yes)、第2試薬の分注が異常であると判定し(ステップS105)、分注判定部34は、制御部31を介して、出力部36に第2試薬の分注に異常が生じた旨を表示等の出力を行い(ステップS106)、ステップS113に移行する。
【0054】
その後、分注判定部34は、所定時間経過後(時点t4)の波長領域A1内の340nmで測定した反応液の吸光度を取得し(ステップS107)、取得した吸光度をもとに反応液の濃度を算出する(ステップS108)。その後、分注判定部34は、算出した反応液の濃度が所定濃度範囲(領域D)内(第2試薬の分注率が90%以上)を満たすか否かを判定する(ステップS109)。算出した反応液の濃度が所定濃度範囲内を満たす場合(ステップS109:Yes)、第2試薬の分注量が正常(90%以上)であると判定し(ステップS110)、ステップS113に移行する。一方、算出した反応液の濃度が所定濃度範囲内を満たさない場合(ステップS109:No)、第2試薬の分注量が異常(90%未満)であると判定し(ステップS111)、分注判定部34は、制御部31を介して、出力部36に第2試薬の分注量に異常が生じた旨を表示等の出力を行い(ステップS112)、ステップS113に移行する。
【0055】
その後、分注判定部34は、制御部31から分析終了の指示を受けたか否かを判断し(ステップS113)、分析終了の指示を受けていない場合(ステップS113:No)、ステップS101に移行し、上述した処理を繰り返す。一方、分析終了の指示を受けた場合(ステップS113:Yes)、本処理を終了する。
【0056】
なお、上述したように、ステップS103の閾値は、第2試薬の分注率が10%のときの吸光度値としてもよい。また、上述したように、ステップS102,S107における吸光度は、波長領域A1が好ましいが、これよりも波長が長く、検体判定に用いる波長570nmを含む波長領域であってもよい。また、ステップS104〜S112に示した濃度判定による分注量判定を除いた分注判定処理であってもよい。
【0057】
(検体判定処理)
つぎに、図7に示すフローチャートを参照して、分析部33による検体判定処理手順について説明する。図7において、まず、分析部33は、分注判定部34によって第2試薬の分注が正常と判定されたか否かを判定する(ステップS201)。第2試薬の分注が正常と判定されていない場合(ステップS201:No)、ステップS207に移行する。一方、第2試薬の分注が正常と判定されている場合(ステップS201:Yes)、第2試薬分注直後、波長570nmにおける反応液の吸光度を取得する(ステップS202)。
【0058】
その後、分析部33は、第2試薬分注(時点t3)後、所定時間経過時(時点t4)の波長570nmにおける反応液の吸光度を取得する(ステップS203)。その後、ステップS202,S203で取得した吸光度差が、ほぼ0に近い所定値を超えるか否かを判定する(ステップS204)。吸光度差が所定値を超えない場合(ステップS204:No)、検体を陰性と判定出力する(ステップS206)。一方、吸光度差が所定値を超える場合(ステップS204:Yes)、検体を陽性と判定出力する(ステップS205)。
【0059】
その後、分析部33は、制御部31から分析終了の指示を受けたか否かを判断し(ステップS207)、分析終了の指示を受けていない場合(ステップS207:No)、ステップS201に移行し、上述した処理を繰り返す。一方、分析終了の指示を受けた場合(ステップS207:Yes)、本処理を終了する。
【0060】
なお、この実施の形態では、第2試薬としてラテックス試薬を用いた場合の分注異常を判定する例に説明したが、これに限らず、分注判定の波長領域に対する未反応の第2試薬の吸光度が第1試薬の吸光度に比して大きな値をもたせておくことによって、第2試薬の分注が異常であるか否かを判定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態にかかる自動分析装置の概要構成を示す模式図である。
【図2】CRP検査において吸光度の時間変化を示す図である。
【図3】検体が陰性と判定されるラテックス試薬の分注率と反応液の濃度値との関係を示す図である。
【図4】ラテックス試薬の分注率をパラメータとした吸光度の波長依存性を示す図である。
【図5】波長をパラメータとしたラテックス試薬の分注率と吸光度との関係を示す図である。
【図6】分注判定部による分注判定処理手順を示すフローチャートである。
【図7】分析部による検体判定処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 自動分析装置
2 測定機構
3 制御機構
11 検体移送部
11a 検体容器
11b 検体ラック
12 検体分注機構
12a,16a アーム
13 反応テーブル
14 試薬庫
15 試薬容器
16 試薬分注機構
17 攪拌部
18 測光部
19 洗浄部
20 反応容器
31 制御部
32 入力部
33 分析部
34 分注判定部
35 記憶部
36 出力部
37 送受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1試薬、検体および第2試薬の順に反応容器に分注し、該反応容器内で反応する反応液の吸光度を測定することで前記検体を分析する自動分析装置において、
少なくとも前記反応液の所定波長領域の吸光度を測定する測定手段と、
前記測定手段によって測定される前記所定波長領域の吸光度であって前記第2試薬分注直後の吸光度が予め設定した閾値以下である場合、前記第2試薬の分注に異常が生じたと判定する分注判定手段と、
前記分注判定手段が前記第2試薬の分注に異常が生じたと判定しない場合、前記測定手段によって測定される前記検体分析に必要な分析波長領域の吸光度であって前記第2試薬分注後から所定時間経過時までの吸光度の変化量をもとに前記検体が陽性であるか陰性であるかを判定する分析手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
未反応の前記第2試薬は、前記所定波長領域に対する吸光度が前記第1試薬の吸光度に比して大きな値をもつことを特徴とする請求項1に記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記所定波長領域は、前記分析波長領域に比して短い波長領域であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記分注判定手段は、前記第2試薬の分注に異常が生じたと判定しない場合、前記測定手段によって測定される前記第2試薬分注後所定時間経過時の吸光度をもとに前記反応液の濃度を算出し、該算出した濃度が所定濃度範囲内である場合、前記第2試薬の分注量が正常であると判定し、
前記分析手段は、前記分注判定手段が前記第2試薬の分注量が正常であると判定した場合に、前記検体が陽性であるか陰性であるかの判定を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の自動分析装置。
【請求項5】
前記所定濃度範囲は、第2試薬の分注量が90%以上となるときの濃度範囲であることを特徴とする請求項4に記載の自動分析装置。
【請求項6】
前記所定波長領域は、300nm〜400nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記第2試薬は、ラテックス試薬であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−48788(P2010−48788A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215976(P2008−215976)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】