説明

自動変速機の変速制御装置

【課題】変速段の変速時における変速の応答性を確保できる自動変速機の変速制御装置を提供すること。
【解決手段】変速段の変速時に、変速前の変速段が2つの摩擦係合要素40を係合することにより形成されている場合に、2つの摩擦係合要素40のうち一方を解放し、他方を係合することによって形成される他の変速段を変速時の候補となる変速段である初期判断候補変速段とし、初期判断候補変速段に変速する際に解放する摩擦係合要素40と同じ摩擦係合要素40を解放し、初期判断候補変速段に変速する際に係合する摩擦係合要素40とは異なる摩擦係合要素40を係合することにより形成される変速段であり、且つ、変速前の変速段に対する変速比の変化する方向が同じ方向で、初期判断候補変速段とは変速比が異なる変速段を追加候補変速段とし、初期判断候補変速段と追加候補変速段とが存在する場合に、これらの変速段のうちより適切な変速段に変速する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の変速制御装置に関するものである。特に、この発明は、自動変速機に複数設けられる係合要素の係合状態を制御することにより変速制御を行う自動変速機の変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、エンジンから伝達される動力の回転を変速して駆動輪の方向に伝達する変速機が搭載されているが、この変速機は、近年では運転者が変速操作を行わなくても自動的に変速する自動変速機が多用されている。この自動変速機は、当該自動変速機を制御する制御装置によって変速可能に設けられているが、このような自動変速機の変速制御装置は、車両の走行状態に応じて、適切な変速段を選択して、自動変速機の変速制御を行う。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の車両の制御装置は、運転者による車両の駆動力上昇の要求の度合いの変化率に基づいて、目標変速段を確定し、確定した目標変速段に変速するように自動変速機を制御する。これにより、車両の駆動力上昇の要求がある場合に、要求に応じた適切な変速段に変速することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−106849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の自動変速機の変速制御装置は、特許文献1に記載の車両の制御装置のように、運転者の駆動力の要求に応じて変速の制御を行うが、変速時には駆動力が途切れるため、変速は短時間で行うのが好ましい。このため、所望の駆動力を実現できる変速段に変速するまでの変速段の変速回数を減らし、変速を短時間で終わらせるために、従来の自動変速機の変速制御装置では、変速段を一段ずつ変速するのではなく、変速段を飛び越えて変速する飛び変速の制御を行う場合がある。このように飛び変速を行った場合には、例えば、要求駆動力が大幅に大きくなっている場合でも、変速を一段ずつ行う場合と比較して要求駆動力を発生することができる変速段に短時間で変速することができる。
【0006】
しかし、変速時に飛び変速を行う場合において、選択した変速段が適切でなかった場合、より適切な変速段に変速をすることになるが、変速の途中での他の変速段への変速は困難であるため、一旦、飛び変速による変速を終了させてから、他の変速段へ変速することになる。このため、この場合、要求駆動力を発生することができる変速段に短時間で変速することを目的として飛び変速を行ったにも関わらず、適切な変速段への変速が完了するまでの時間が長くなり、変速の応答性が悪化する場合があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、変速段の変速時における変速の応答性を確保できる自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係る自動変速機の変速制御装置は、車両の走行時の動力源である内燃機関の動力を出力可能に設けられていると共に複数の変速段と前記変速段に対応した複数の係合要素とを有しており、且つ、前記複数の係合要素の解放と係合とを切り替えることにより前記内燃機関の前記動力を出力する際における前記変速段を変速可能に設けられた変速装置と、前記係合要素の解放と係合との切り替えを制御することにより前記変速段の変速制御を行うと共に、変速前の前記変速段が2つの前記係合要素を係合することにより形成されている場合における前記変速段の変速を、係合している2つの前記係合要素のうち一方の前記係合要素を解放し、他の前記係合要素を係合することによって形成される他の前記変速段を変速時の候補となる前記変速段である初期判断候補変速段として行う場合に、前記初期判断候補変速段に変速する際に解放する前記係合要素と同じ前記係合要素を解放し、前記初期判断候補変速段に変速する際に係合する前記係合要素とは異なる前記係合要素を係合することにより形成される前記変速段であり、且つ、変速前の前記変速段に対する変速比の変化する方向が同じ方向で、前記初期判断候補変速段とは変速比が異なる前記変速段である追加候補変速段が存在する場合に、前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段に変速する制御を行う変速制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明では、変速段の変速を行う場合に、初期判断候補変速段とは異なる変速段のうち、変速前の変速段に対する変速比の変化する方向が同じ方向で、且つ、初期判断候補変速段とは変速比が異なり、さらに、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速をする際における動作数と同じ動作数で変速をすることができる変速段である追加候補変速段がある場合には、初期判断候補変速段と追加候補変速段とのうち、車両の走行状態により適切な変速段に変速する。これにより、変速段の変速を行う際に、変速時における変速時間の増加を抑制しつつ、より適切な変速段を選択する機会を増加させることができ、また、車両の走行状態に、より適切な変速段を選択する機会を増加させることにより、変速後に再び変速する状態になることを回避することができる。この結果、変速段の変速時における変速の応答性を確保することができる。
【0010】
また、この発明に係る自動変速機の変速制御装置は、上記自動変速機の変速制御装置において、前記追加候補変速段の変速比は前記初期判断候補変速段の変速比よりも大きくなっており、前記変速制御手段は、車速の調節に用いるアクセルペダルの開度が大きくなっている場合に前記変速段を変速前の前記変速段よりも変速比が大きい前記変速段にする変速であるキックダウン変速時に前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とが存在する場合には、前記追加候補変速段に変速する制御を行うことを特徴とする。
【0011】
この発明では、キックダウン変速時に初期判断候補変速段と追加候補変速段とが存在する場合には、双方の変速段のうち変速比が大きい方の変速段である追加候補変速段に変速するので、初期の判断よりも変速比が大きく、大きな駆動力を発生することのできる変速段に変速することができる。これにより、変速時における変速時間及び変速ショックは、初期の判断と同レベルで、且つ、駆動力は初期の判断で変速をした場合における駆動力よりも余裕が大きくなるので、より確実に、変速後に再び変速する状態になることを回避することができる。この結果、キックダウン変速時における変速の応答性を確保することができる。
【0012】
また、この発明に係る自動変速機の変速制御装置は、上記自動変速機の変速制御装置において、前記変速制御手段は、前記キックダウン変速時に前記アクセルペダルの開度が急激に大きくなる場合に、前記追加候補変速段に変速する制御を行うことを特徴とする。
【0013】
この発明では、キックダウン変速時にアクセルペダルの開度が急激に大きくなる場合にのみ、初期判断候補変速段よりも変速比が大きい追加候補変速段に変速するので、必要以上に変速比が大きい側の変速段、即ち、低速側の変速段に変速することを抑制できる。これにより、動力を発生する内燃機関の回転数が、キックダウン変速時に必要以上に高くなることを抑制することができ、回転数が必要以上に高くなることに伴う燃費の悪化や、内燃機関から発生する音が大きくなることを抑制することができる。この結果、キックダウン変速時における変速の応答性を確保することができると共に、内燃機関の回転数が高くなることに起因する不具合を抑制することができる。
【0014】
また、この発明に係る自動変速機の変速制御装置は、上記自動変速機の変速制御装置において、前記変速制御手段は、前記変速時に前記追加候補変速段が存在する場合には、前記車両の走行時における車速の調節に用いるアクセルペダルの開度の変化率に応じて、前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段との中から、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段に変速する制御を行うことを特徴とする。
【0015】
この発明では、変速段の変速時に追加候補変速段が存在する場合には、アクセルペダルの開度の変化率に応じて、初期判断候補変速段と追加候補変速段との中から、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速するので、必要以上に変速前の変速段に対する変速比の差が大きい変速段に変速することを抑制できる。これにより、動力を発生する内燃機関の回転数が変速時に必要以上に高くなったり低くなったりすることを抑制することができるので、燃費が悪化したり、内燃機関から発生する音が大きくなったり、駆動力が不足したりすることを抑制できる。この結果、変速時における変速の応答性を確保することができると共に、内燃機関の回転数が高くなり過ぎたり低くなり過ぎたりすることに起因する不具合を抑制することができる。
【0016】
また、この発明に係る自動変速機の変速制御装置は、上記自動変速機の変速制御装置において、前記変速制御手段は、前記変速時に前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とが存在する場合において前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち変速前の前記変速段との変速比の差の絶対値である変速比差絶対値が大きい前記変速段に変速する制御を行う判定をした場合に、前記内燃機関から前記変速装置に入力される前記動力の回転数が前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち前記変速比差絶対値が小さい前記変速段への変速時に同期する回転数になる前に、変速する前記変速段の再判断を行い、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段が前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち前記変速比差絶対値が小さい前記変速段であると判定された場合には、当該変速段に変速する制御を行うことを特徴とする。
【0017】
この発明では、変速段の変速時に、初期判断候補変速段と追加候補変速段とのうち変速比差絶対値が大きい変速段に変速する場合において、変速装置への入力回転数が、変速比差絶対値が小さい側の変速段への変速時に同期する回転数になる前に、変速する変速段の再判断を行っているので、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速することができる。つまり、変速段の変速時に、変速比差絶対値が大きい側の変速段に変速する際に、変速比が小さい側の変速段への変速が可能な期間内に変速段の再判断を行うことにより、変速の判断を行うタイミングを実質的に遅らせることができ、変速する変速段の選択を、より正確に行うことができる。これにより、変速後に再び変速する状態になることを、より確実に回避することができる。この結果、変速段の変速時における変速の応答性を、より確実に確保することができる。
【0018】
また、この発明に係る自動変速機の変速制御装置は、上記自動変速機の変速制御装置において、前記追加候補変速段が複数存在する場合には、前記変速装置に入力される前記動力の回転数が、前記初期判断候補変速段と複数の前記追加候補変速段とのうち前記変速比差絶対値が最も小さい前記変速段から順に前記変速段ごとに、当該変速段への変速時に同期する回転数になる前に変速する前記変速段の再判断を行い、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段が当該変速段であると判定された場合には、当該変速段に変速する制御を行うことを特徴とする。
【0019】
この発明では、変速段の変速時に追加候補変速段が複数存在する場合には、初期判断候補変速段と複数の追加候補変速段とのうち変速比差絶対値が最も小さい変速段から順に変速段ごとに、変速装置への入力回転数が各変速段への変速時に同期する回転数になる前に変速段の再判断を行っているので、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速することができる。つまり、変速段の変速時に初期判断候補変速段または追加候補変速段に変速する際に、各変速段への変速が可能な期間内に、変速段の再判断を行うことにより、変速の判断を行うタイミングを実質的に遅らせることができ、変速する変速段の選択を、より正確に行うことができる。これにより、変速後に再び変速する状態になることを、より確実に回避することができる。この結果、変速段の変速時における変速の応答性を、より確実に確保することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、キックダウン変速時における変速の応答性を確保することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る自動変速機の変速制御装置の概略図である。
【図2】図2は、図1に示す自動変速機の変速制御装置の要部構成図である。
【図3】図3は、図1に示す自動変速機が有する摩擦係合要素の係合状態の組み合わせと変速段との関係を示す説明図である。
【図4】図4は、実施例1に係る自動変速機の変速制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【図5】図5は、実施例1に係る自動変速機の変速制御装置でキックダウン変速を行う際の候補変速段の説明図である。
【図6】図6は、実施例2に係る自動変速機の変速制御装置の要部構成図である。
【図7】図7は、実施例2に係る自動変速機の変速制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【図8】図8は、キックダウン変速時に変速段の再判断を行う場合の説明図である。
【図9】図9は、実施例1の変形例に係る自動変速機の変速制御装置の処理手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る自動変速機の変速制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1に係る自動変速機の変速制御装置の概略図である。同図に示す変速制御装置1は、車両(図示省略)に搭載される自動変速機20の変速制御が可能に設けられており、この自動変速機20は、車両の走行時の動力源として車両に搭載される内燃機関であるエンジン10に接続されている。このエンジン10は、ガソリンを燃料とするレシプロ式の火花点火式内燃機関となっている。なお、エンジン10は、これに限定されるものではない。エンジン10は、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)やアルコールを燃料とする火花点火式内燃機関であってもよいし、いわゆるロータリー式の火花点火式内燃機関であってもよいし、ディーゼル機関であってもよい。エンジン10は、ECU(Electronic Control Unit)60に接続されており、ECU60によって回転数やトルク(出力)が制御可能に設けられている。
【0024】
また、自動変速機20は、トルクコンバータ21、変速装置30及び油圧制御装置35を含んで構成されている。エンジン10で発生し、自動変速機20に入力される動力は、トルクコンバータ21を介して変速比可変手段である変速装置30に伝達可能に設けられており、エンジン10の動力が変速装置30に伝達された場合には、変速装置30で車両の走行条件に応じて選択された変速比で回転数が変更され、変速したトルクを車両の駆動輪(図示省略)側に出力可能に設けられている。
【0025】
このように設けられる自動変速機20のうち、トルクコンバータ21は、回転可能に設けられると共にエンジン10の動力の入力側となるポンプ22と、回転可能に設けられると共に変速装置30への出力側となるタービン23と、ポンプ22とタービン23との間に配設されたステータ24とを備える流体伝動機構により構成されている。このうち、ポンプ22は、エンジン10の出力軸であるエンジン出力軸11に接続され、エンジン出力軸11と一体に回転するカバー25に接続されており、これらのエンジン出力軸11、カバー25及びポンプ22は、一体となって回転可能に設けられている。
【0026】
また、タービン23は、変速装置30の入力軸である変速装置入力軸31に接続されており、ポンプ22を介して伝達されたエンジン10の動力を変速装置30に伝達可能に設けられている。即ち、タービン23は、変速装置入力軸31に対して当該タービン23の回転を伝達することにより、エンジン10から伝達された動力を、変速装置30に出力可能に設けられている。また、ステータ24は、回転をしないケース(図示省略)に、ワンウェイクラッチ26を介して接続されており、このワンウェイクラッチ26によって、ステータ24は一方向にのみ回転可能になっている。
【0027】
また、ポンプ22、タービン23及びステータ24の間には、動力を伝達する作動流体であるオイル(図示省略)が循環可能に封入されており、エンジン10から伝達された動力は、このオイルを介して互いに伝達可能に設けられている。つまり、ポンプ22は、エンジン10からの動力が入力されることにより回転可能に設けられると共に作動流体であるオイルに対して回転時の運動エネルギーを伝達することにより動力を伝達可能に設けられている。また、タービン23は、ポンプ22で運動エネルギーを伝達するオイルを介して動力が伝達されることにより回転可能に設けられており、さらに、変速装置入力軸31に回転を伝達することを介してエンジン10から伝達された動力を変速装置30に出力可能に設けられている。
【0028】
さらに、トルクコンバータ21は、共に回転可能なポンプ22とタービン23とを断続可能なロックアップ機構27を備えている。このロックアップ機構27は、タービン23と共に回転可能なロックアップクラッチ28と、ポンプ22と一体となって回転可能なカバー25とにより構成される。このうち、ロックアップクラッチ28は、タービン23とカバー25との間に配設されており、トルクコンバータ21内の油圧を制御することにより、カバー25と係合したりカバー25から離間したりする。このため、ロックアップクラッチ28とカバー25とが係合した場合には、ロックアップクラッチ28及びカバー25を介して、ポンプ22とタービン23とが係合した状態になる。この場合、エンジン10から伝達された動力は、このポンプ22とタービン23との係合により、機械的に伝達される。
【0029】
また、ロックアップクラッチ28とカバー25とを離間させた場合には、エンジン10から伝達された動力は、ポンプ22とタービン23とを循環するオイルを介して伝達される。このように、ロックアップクラッチ28とカバー25とにより構成されるロックアップ機構27は、ロックアップクラッチ28とカバー25とを係合させたり離間させたりすることにより、ポンプ22とタービン23との間の動力の伝達をオイルによる伝達である流体伝達と、ポンプ22とタービン23とを係合させることにより行う伝達である係合伝達とで切り替え可能に設けられている。
【0030】
また、自動変速機20が有する変速装置30は、複数の変速要素である遊星歯車装置と、摩擦力を利用して係合が可能な複数の係合要素である複数の摩擦係合要素(クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2、ブレーキB3)40と、ワンウェイクラッチFとを組み合わせて構成される多段式の変速装置30となっている。ここで、ブレーキは、変速装置30の筐体に取り付けられる摩擦係合要素40であり、クラッチは、変速装置30の筐体ではなく、回転軸に取り付けられる摩擦係合要素40である。また、ワンウェイクラッチFは、ワンウェイクラッチFを介して接続される部分同士の相対回転が、一方向のみ回転可能になるように設けられるものである。なお、変速装置30が備える変速要素や摩擦係合要素40やワンウェイクラッチFの数は、自動変速機20の仕様に応じて適宜変更してもよい。
【0031】
また、油圧制御装置35は、各摩擦係合要素40を動作させるための油圧を発生可能に設けられており、発生した油圧を所定の摩擦係合要素40へ配分すると共に、摩擦係合要素40に供給する制御油の油圧を調整する機能も有している。
【0032】
また、変速装置30は、変速要素である遊星歯車装置の回転要素(キャリアやリングギヤ)を、摩擦係合要素40であるブレーキB1、B2、B3等によって停止させ、また、エンジン10の動力を入力する変速装置30の回転要素を摩擦係合要素40であるクラッチC1、C2等によって切り替えることにより、変速比を変更可能に設けられている。そして、停止させる回転要素の組み合わせを変更することにより、変速段を切り替え可能に設けられている。即ち、回転要素の回転や停止の各組み合わせは、それぞれ自動変速機20の変速段として設定されており、自動変速機20は、エンジン10から伝達された動力の回転数を変速可能なこの変速段を、複数有している。
【0033】
自動変速機20は、これらのように設けられているため、エンジン10が発生する動力は、トルクコンバータ21を介して自動変速機20の変速装置30へ入力される。また、変速装置30は、当該変速装置30の出力軸である変速装置出力軸32を有しており、変速装置出力軸32には、出力歯車33が設けられている。出力歯車33は、自動変速機20の外部の回転部材(図示省略)に連結されており、変速装置出力軸32の回転を、この回転部材に伝達可能に設けられている。つまり、出力歯車33が設けられる変速装置出力軸32は、自動変速機20の出力軸となっている。
【0034】
また、エンジン10には、エンジン出力軸11の回転数を検出可能な機関回転数検出手段であるエンジン回転数センサ15が設けられている。また、自動変速機20には、変速装置入力軸31の回転数を検出可能な変速装置入力軸回転数検出手段である変速装置入力軸回転数センサ41と、変速装置出力軸32の回転数を検出可能な変速装置出力軸回転数検出手段である変速装置出力軸回転数センサ42とが設けられている。
【0035】
これらのエンジン10、エンジン回転数センサ15、変速装置入力軸回転数センサ41、変速装置出力軸回転数センサ42、及び油圧制御装置35は、ECU60に接続されている。さらに、ECU60には、車両の運転席に設けられるアクセルペダル50の近傍に設けられ、アクセルペダル50の開度であるアクセル開度を検出可能なアクセル開度検出手段であるアクセル開度センサ51が接続されている。
【0036】
図2は、図1に示す自動変速機の変速制御装置の要部構成図である。ECU60には、処理部61、記憶部80及び入出力部81が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU60に接続されているエンジン10、エンジン回転数センサ15、油圧制御装置35、変速装置入力軸回転数センサ41、変速装置出力軸回転数センサ42、アクセル開度センサ51は、入出力部81に接続されており、入出力部81は、これらのエンジン回転数センサ15等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部80には、自動変速機20の変速制御装置1を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部80は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0037】
また、処理部61は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも、アクセル開度センサ51での検出結果よりアクセルペダル50の開度であるアクセル開度を取得可能なアクセル開度取得手段であるアクセル開度取得部62と、エンジン回転数センサ15での検出結果よりエンジン回転数を取得する機関回転数取得手段であるエンジン回転数取得部63と、変速装置入力軸回転数センサ41での検出結果より、変速装置30が有する変速装置入力軸31の回転数を取得する変速装置入力回転数取得手段である変速装置入力回転数取得部64と、変速装置出力軸回転数センサ42での検出結果より車速を取得する車速取得手段である車速取得部65と、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度に基づいて、アクセルペダル50は急踏みであるか否かを判定するアクセル開度判定手段であるアクセル開度判定部66と、エンジン10の運転制御を行う内燃機関制御手段であるエンジン制御部67と、自動変速機20の摩擦係合要素40に作用させる油圧を制御することにより自動変速機20の変速制御が可能に設けられた油圧制御手段である変速制御部68と、を有している。
【0038】
また、変速制御部68は、変速装置30の変速時における変速の候補となる変速段である候補変速段を導出する候補変速段導出手段である候補変速段導出部69と、キックダウン変速時に車両の走行状態に基づいて候補変速段導出部69で導出した候補変速段である初期判断候補変速段以外の候補変速段である追加候補変速段があるか否かを判定する候補変速段判定手段である候補変速段判定部70と、候補変速段の中から実際に変速する変速段を選択する候補変速段選択手段である候補変速段選択部71と、を有している。
【0039】
ECU60によって制御される自動変速機20の変速制御装置1の制御は、例えば、変速装置入力軸回転数センサ41等の検出結果に基づいて、処理部61が上記コンピュータプログラムを当該処理部61に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じて油圧制御装置35等を作動させることにより制御する。その際に処理部61は、適宜記憶部80へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように自動変速機20の変速制御装置1を制御する場合には、上記コンピュータプログラムの代わりに、ECU60とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
【0040】
この実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両の走行中は、アクセルペダル50を足で操作することにより、エンジン10の回転数やトルクを調節し、車速を調節する。このように、アクセルペダル50を操作している場合には、アクセルペダル50のストローク量、或いはアクセル開度が、アクセルペダル50の近傍に設けられるアクセル開度センサ51によって検出される。アクセル開度センサ51による検出結果は、ECU60の処理部61が有するアクセル開度取得部62に伝達され、アクセル開度取得部62で取得する。アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度は、ECU60の処理部61が有するエンジン制御部67に伝達され、エンジン制御部67は、伝達されたアクセル開度や、その他のセンサによる検出結果に基づいて、エンジン10を制御する。
【0041】
エンジン10は、このようにエンジン制御部67で制御されることにより運転可能になっているが、エンジン制御部67によって制御されるエンジン10の動力は、エンジン出力軸11が回転することにより外部に出力される。このエンジン出力軸11の回転は、まず、トルクコンバータ21に伝達され、トルクコンバータ21が回転し、トルクコンバータ21を介して変速装置入力軸31に伝達される。
【0042】
トルクコンバータ21を介して変速装置入力軸31に伝達されたエンジン出力軸11の回転は、変速装置入力軸31によって変速装置30へ伝達される。これにより、エンジン10の動力は変速装置30へ入力される。ここで、トルクコンバータ21は、ロックアップ機構27によってロックアップが可能に設けられているが、エンジン10の動力がトルクコンバータ21を介して変速装置30へ入力される際には、ロックアップ状態であるか否かにより、トルクコンバータ21内における動力の伝達経路が異なっている。
【0043】
まず、トルクコンバータ21がロックアップ状態ではない場合、つまり、ロックアップ機構27のロックアップクラッチ28がカバー25から離間した流体伝達の場合について説明すると、エンジン10の動力は、エンジン出力軸11からトルクコンバータ21のカバー25に伝達され、動力が伝達されたカバー25は、当該カバー25と一体となって回転可能に設けられたポンプ22と共に回転する。このようにポンプ22が回転した場合、ポンプ22は当該ポンプ22とタービン23との間に封入され、且つ、ポンプ22とタービン23との間を循環可能なオイルに、ポンプ22の回転時の運動エネルギーを伝達する。これによりオイルは流動し、ポンプ22とタービン23との間を循環する際にポンプ22から伝達された運動エネルギーをタービン23に伝達する。
【0044】
オイルから運動エネルギーが伝達されたタービン23は、伝達された運動エネルギーによって回転する。このように、オイルから伝達された運動エネルギーにより回転するタービン23は、変速装置30の変速装置入力軸31に接続されており、タービン23が回転した場合には、タービン23の回転に伴って変速装置入力軸31も回転する。これにより、エンジン10の動力は、トルクコンバータ21を介して変速装置30へ入力される。
【0045】
これに対し、トルクコンバータ21がロックアップ状態の場合、つまり、ロックアップ機構27のロックアップクラッチ28がカバー25と係合した係合伝達の場合について説明すると、エンジン出力軸11からトルクコンバータ21のカバー25に伝達されたエンジン10の動力は、カバー25からロックアップクラッチ28に伝達される。ロックアップクラッチ28に伝達された動力は、ロックアップクラッチ28から変速装置入力軸31に伝達される。これにより、トルクコンバータ21がロックアップ状態の場合には、エンジン10からトルクコンバータ21に伝達された動力は、機械的に変速装置入力軸31まで伝達され、トルクコンバータ21を介して変速装置30へ入力される。
【0046】
このように、トルクコンバータ21を介して変速装置入力軸31から変速装置30へ入力されたエンジン10の動力は、変速装置30の変速要素によって回転数及びトルクの大きさが変更されて、変速装置30が有する変速装置出力軸32から出力される。この変速装置出力軸32は、差動装置(図示省略)など自動変速機20と駆動輪との間の動力伝達手段に接続されているため、変速装置30からの出力は、この動力伝達手段を介して車両の駆動輪へ伝達される。これにより駆動輪は回転し、車両は走行する。
【0047】
また、車両の走行中には、ECU60の処理部61が有する変速制御部68は自動変速機20を制御し、車両の走行状態に応じて変速制御を行う。詳しくは、車両の走行時には、エンジン回転数センサ15でエンジン出力軸11の回転数を検出し、検出結果がECU60の処理部61が有するエンジン回転数取得部63に伝達されて、エンジン回転数取得部63で取得する。また、変速装置入力軸回転数センサ41で変速装置入力軸31の回転数を検出し、検出結果がECU60の処理部61が有する変速装置入力回転数取得部64に伝達されて、変速装置入力回転数取得部64で取得する。
【0048】
また、車両の走行時には、変速装置出力軸回転数センサ42で変速装置出力軸32の回転数を検出する。この変速装置出力軸32と駆動輪とは、変速比が一定であるため、変速装置出力軸32の回転数を検出することにより、駆動輪の回転数を推定することができ、これにより車速を推定することができる。このため、変速装置出力軸回転数センサ42は、変速装置出力軸32の回転数を検出することを介して車速を検出可能な車速検出手段として設けられている。この変速装置出力軸回転数センサ42で検出した変速装置出力軸32の回転数は、ECU60の処理部61が有する車速取得部65に伝達され、車速取得部65で所定の演算を行うことにより、車速として取得する。
【0049】
変速制御部68は、エンジン回転数取得部63で取得したエンジン回転数や変速装置入力回転数取得部64で取得した変速装置30への入力回転数、車速取得部65で取得した車速、さらに、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度などの車両の走行状態に基づいて、この走行状態に適した変速段を、変速制御部68が有する候補変速段導出部69で候補変速段として導出する。このように、車両の走行状態に基づいて候補変速段を導出する場合は、アクセル開度や車速等の車両の走行状態と変速段との関係を示すマップを参照して導出する。このマップは、アクセル開度等の車両の走行状態と、この走行状態に適した変速段との関係が燃費等を考慮して予め設定され、ECU60の記憶部80に記憶されている。候補変速段導出部69は、アクセル開度取得部62等で取得した車両の走行状態の情報を、このマップに照らし合わせることにより、候補変速段を導出する。このように、候補変速段導出部69で導出した変速の候補となる変速段である候補変速段が現在の変速段の場合には、変速段を切り替える制御は行わずに現在の変速段を維持し、候補変速段が現在の変速段以外の場合には、変速段を切り替える制御を行う。
【0050】
この変速段を切り替える制御は、変速制御部68で油圧制御装置35を制御して油圧制御装置35を作動させることにより、クラッチC1などの摩擦係合要素40を作動させ、摩擦係合要素40の係合や解放を切り替えて遊星歯車装置の回転要素の回転及び停止を切り替えることにより、変速段を切り替える。詳しくは、変速段を切り替える場合には、油圧制御装置35を作動させて、複数の変速段に対応した複数の摩擦係合要素40の解放と係合とを切り替えることにより、エンジン10の動力を出力する際における変速段を切り替えて変速する。このように摩擦係合要素40の解放と係合とを切り替えることにより変速段の変速を行う場合は、変速前の変速段に対応する摩擦係合要素40は解放し、変速後の変速段に対応する摩擦係合要素40を係合することにより行う。
【0051】
図3は、図1に示す自動変速機が有する摩擦係合要素の係合状態の組み合わせと変速段との関係を示す説明図である。なお、図中における○印は、摩擦係合要素40が係合している状態を示している。自動変速機20は、摩擦係合要素40の係合や解放を切り替え、係合する摩擦係合要素40の組み合わせを変更することにより、変速段の変速が可能になっており、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1で変速制御を行う自動変速機20は、前進6段、後進1段の変速が可能になっている。
【0052】
つまり、図3に示すように、クラッチC1、C2と、ブレーキB1〜B3との係合と解放、及びワンウェイクラッチFによる一方向のみへの回転の規制を組み合わせることにより、それぞれ変速比が異なる1速〜6速の前進の各変速段と、後進の変速段とを切り替えることができる。このうち、1速〜6速の変速段は、1速の変速比が最も大きく、6速に向かうに従って変速比が小さくなり、6速の変速比が最も小さくなっている。自動変速機20は、エンジン10から伝達された回転を、これらの変速段で減速可能に設けられており、各変速段の変速比は、変速段で減速する際における減速比になっている。また、後進の変速段は、変速装置出力軸32から出力される動力の回転方向が、前進の変速段に切り替えられた場合における回転方向とは反対方向になるように形成されている。自動変速機20が有する変速装置30は、このように変速段を切り替えることにより、変速装置入力軸31に入力されたエンジン10の回転を、変速段に対応した変速比で変速して変速装置出力軸32から出力することができる。
【0053】
車両の走行時には、変速制御部68で変速段の変速制御を行うが、車両の加速力を大きくするために運転者がアクセルペダル50の開度を急激に大きくした場合には、変速制御部68は変速装置30の変速比が現在の変速比よりも大きくなるように変速段を切り替える。つまり、変速制御部68は変速段を、現在の変速段の減速比よりも減速比が大きい変速段である低速側の変速段に切り替え、変速装置30に対して、アクセルペダル50の開度を急激に大きくした場合におけるダウンシフトであるキックダウン変速を行わせる。これにより、エンジン10から駆動輪までの減速比が大きくなるので、駆動輪におけるトルクは大きくなり、加速力が増加する。
【0054】
このように、キックダウン変速を行う場合には、候補変速段導出部69で候補変速段を導出し、変速段を候補変速段に切り替えるように変速制御部68で油圧制御装置35を制御して摩擦係合要素40の係合や解放を切り替える。その際に、車両の走行状態に基づいて導出した候補変速段よりも低速側の変速段で、且つ、候補変速段に変速する際における摩擦係合要素40の係合や解放と同じ動作数で係合や解放を行うことにより形成される変速段がある場合には、その変速段を追加候補変速段として、追加候補変速段に変速する。
【0055】
つまり、キックダウン変速時における変速前の変速段が2つの摩擦係合要素40を係合することにより形成されている場合にキックダウン変速を行う際に、候補変速段であり、且つ、係合している2つの摩擦係合要素40のうち一方の摩擦係合要素40を解放し、他の摩擦係合要素40を係合することによって形成される他の変速段を、変速時の候補となる変速段である初期判断候補変速段とする。また、この場合において、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速する際に解放する摩擦係合要素40と同じ摩擦係合要素40を解放し、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速する際に係合する摩擦係合要素40とは異なる摩擦係合要素40を係合することにより形成される変速段であり、且つ、変速前の変速段に対する変速比の変化する方向が同じ方向で、初期判断候補変速段とは変速比が異なる変速段を追加候補変速段とする。
【0056】
具体的には、追加候補変速段の変速比は、初期判断候補変速段の変速比よりも大きくなっており、変速制御部68は、キックダウン変速時に初期判断候補変速段と追加候補変速段とが存在する場合には、追加候補変速段に変速する制御を行う。
【0057】
キックダウン変速は、運転者が大きな駆動力を要求していると推測される場合に行う変速であるが、追加候補変速段は、初期判断候補変速段よりも変速比が大きい変速段であるため、追加候補変速段に変速した場合には、駆動輪で発生可能な駆動力は、初期判断候補変速段に変速した場合よりも大きくなる。このため、キックダウン変速時に初期判断候補変速段と追加候補変速段が存在する場合に、追加候補変速段に変速した場合には、駆動力の余裕が大きくなる。
【0058】
図4は、実施例1に係る自動変速機の変速制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1の制御方法、即ち、当該変速制御装置1の処理手順について説明する。詳しくは、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1でキックダウン変速の制御を行う場合における処理手順について説明する。なお、以下の処理手順は、キックダウン変速を行うとの判定があった後の処理手順であり、候補変速段導出部69で、初期判断候補変速段を導出した後の処理手順となっている。
【0059】
実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1でキックダウン変速の制御を行う場合の処理手順では、まず、アクセルペダル50は急踏みであるか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、ECU60の処理部61が有するアクセル開度判定部66で行う。アクセル開度判定部66は、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度に基づいて、アクセルペダル50は急踏みであるか否かを判定する。具体的には、アクセル開度判定部66は、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度より、(アクセル開度の変化率)>(アクセル開度の変化率の閾値)を満たし、且つ、(所定時間中のアクセル開度の変化量)>(アクセル開度の変化量の閾値)を満たす場合には、アクセルペダル50は急踏みであると判定する。つまり、アクセルペダル50を急激に、且つ、大きく踏み込んでいる場合には、アクセル開度判定部66は、アクセルペダル50は急踏みであると判定する。
【0060】
なお、この判定に用いる(アクセル開度の変化率の閾値)と(アクセル開度の変化量の閾値)とは、アクセルペダル50は急踏みであるか否かの判定の基準となる所定値として予め設定され、ECU60の記憶部80に記憶されている。このアクセル開度判定部66での判定により、アクセルペダル50は急踏みではないと判定された場合には、後述するステップST106に向かう。
【0061】
アクセル開度判定部66での判定(ステップST101)により、アクセルペダル50は急踏みであると判定された場合には、次に、追加候補変速段の検索を行う(ステップST102)。この検索は、変速制御部68が有する候補変速段導出部69で行う。候補変速段導出部69は、キックダウン変速を行う場合には、アクセル開度などの車両の走行状態に基づいて候補変速段を導出するが、候補変速段導出部69は、このように車両の走行状態に基づいて導出した候補変速段を初期判断候補変速段とし、さらに、現在の変速段と初期判断候補変速段とに基づいて、追加候補変速段を検索する。
【0062】
図5は、実施例1に係る自動変速機の変速制御装置でキックダウン変速を行う際の候補変速段の説明図である。候補変速段導出部69で追加候補変速段の検索を行う場合は、現在の変速段、即ち変速前の変速段と、初期判断候補変速段とを用いて、キックダウン変速を行う場合における初期判断候補変速段に対する追加候補変速段を示すテーブルを参照することにより、検索する。このように、追加候補変速段を検索する際に用いるテーブルは、変速前の変速段から初期判断候補変速段にキックダウン変速を行う際における追加候補変速段になる変速段が、変速前の変速段と初期判断候補変速段との組み合わせごとに予め抽出され、変速前の変速段と初期判断候補変速段と追加候補変速段になる変速段とが図5に示すように関連付けられた状態でECU60の記憶部80に記憶されている。
【0063】
なお、図5では、変速前の変速段はg0で示しており、初期判断候補変速段はg1で示しており、追加候補変速段はg2で示している。候補変速段導出部69は、ECU60の記憶部80に記憶されたテーブルに、変速前の変速段g0と初期判断候補変速段g1とを照らし合わせることによって、追加候補変速段g2を検索する。例えば、変速前の変速段g0が6速で、初期判断候補変速段g1が5速の場合、これらをECU60の記憶部80に記憶されたテーブル(図3)に照らし合わせて検索すると、追加候補変速段g2として4速が選出される。
【0064】
次に、追加候補変速段があるか否かを判定する(ステップST103)。この判定は、変速制御部68が有する候補変速段判定部70で行う。候補変速段判定部70は、候補変速段導出部69で追加候補変速段を検索した結果より、追加候補変速段があるか否かを判定する。例えば、上記のように、変速前の変速段g0が6速で、初期判断候補変速段g1が5速であることにより、追加候補変速段g2として4速が選出された場合には、候補変速段判定部70は、追加候補変速段はあると判定する。
【0065】
候補変速段判定部70での判定(ステップST103)により、追加候補変速段はあると判定された場合には、次に、変速段を選択する(ステップST104)。この変速段の選択は、変速制御部68が有する候補変速段選択部71で行い、追加候補変速段が複数ある場合に、複数の追加候補変速段の中から、要求駆動力を発生させることができる変速段など、車両の走行状態に適切な変速段を選択する。複数の追加候補変速段の中から変速段を選択する場合には、例えば、複数の追加候補変速段の中から、変速比が最も大きい変速段を選択したり、車速毎に予め使用可能な最低変速段を決定しておき、追加候補変速段g2≧(最低変速段)となる変速段を選択したりしてもよい。
【0066】
また、選出された追加候補変速段が1つしかない場合には、候補変速段選択部71は、この1つの追加候補変速段を選択する。例えば、上記のように、変速前の変速段g0が6速で、初期判断候補変速段g1が5速であることにより、追加候補変速段g2として4速が選出された場合には、追加候補変速段は1つしかないため、候補変速段選択部71は、追加候補変速段g2として選出された4速を選択する。
【0067】
次に、選択した変速段を出力する(ステップST105)。この出力は、変速制御部68で行う。つまり、自動変速機の変速段を、候補変速段選択部71で選択した変速段にする制御信号を変速制御部68から油圧制御装置35に出力する。変速制御部68からの制御信号が出力された油圧制御装置35は、変速制御部68からの制御信号に応じて摩擦係合要素40を作動させる。これにより、自動変速機20の変速段は、候補変速段選択部71で選択した変速段に切り替えられる。即ち、自動変速機20の変速段を、追加候補変速段に変速させる。このように、選択した変速段を出力することにより変速段を変速したら、この処理手順から抜け出る。
【0068】
これらに対し、アクセル開度判定部66での判定(ステップST101)により、アクセルペダル50は急踏みではないと判定された場合、または、候補変速段判定部70での判定(ステップST103)により、追加候補変速段はないと判定された場合には、次に、初期判断候補変速段を出力する(ステップST106)。この出力は、変速制御部68で行う。つまり、自動変速機20の変速段を、車両の走行状態に基づいて候補変速段導出部69で導出した候補変速段である初期判断候補変速段にする制御信号を変速制御部68から油圧制御装置35に出力する。変速制御部68からの制御信号が出力された油圧制御装置35は、変速制御部68からの制御信号に応じて摩擦係合要素40を作動させ、自動変速機20の変速段を、初期判断候補変速段に変速させる。このように、初期判断候補変速段を出力することにより変速段を変速したら、この処理手順から抜け出る。
【0069】
以上の自動変速機20の変速制御装置1は、キックダウン変速を行う場合に、アクセル開度などの車両の走行状態に基づいて導出した初期判断候補変速段とは異なる変速段のうち、変速前の変速段、及び初期判断候補変速段よりも変速比が大きく、且つ、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速をする際における動作数と同じ動作数で変速をすることができる変速段である追加候補変速段がある場合には、追加候補変速段に変速する。これにより、初期の判断よりも変速比が大きく、大きな駆動力を発生することのできる変速段に変速することができる。従って、変速時における変速時間及び変速ショックは、初期の判断と同レベルで、且つ、駆動力は初期の判断で変速をした場合における駆動力よりも余裕が大きくなるので、より確実に、変速後に再び変速する状態になることを回避することができる。この結果、キックダウン変速時における変速の応答性を確保することができる。
【0070】
また、追加候補変速段は、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速をする際における摩擦係合要素40の動作数と同じ動作数で、変速前の変速段から変速可能な変速段となっている。これにより、初期判断候補変速段に変速をする判定を行った後、追加候補変速段に変速する場合でも、初期判断候補変速段に変速する場合と比較して変速時間があまり長くなることなく変速できる。この結果、より確実に、キックダウン変速時における変速の応答性を確保することができる。また、追加候補変速段に変速する場合でも、変速時間があまり長くならないので、変速時に運転者が違和感を覚えることを抑制できる。
【0071】
また、キックダウン変速時に初期判断候補変速段と追加候補変速段とが存在するような場合には、運転者がアクセルペダル50を急踏みし、アクセルペダル50の開度が急激に大きくなる場合にのみ、追加候補変速段に変速するので、キックダウン変速時に、必要以上に低速側の変速段に変速することを抑制できる。これにより、動力を発生するエンジン10の回転数が、キックダウン変速時に必要以上に高くなることを抑制することができ、回転数が必要以上に高くなることに伴う燃費の悪化や、エンジン10から発生する音が大きくなることを抑制することができる。この結果、キックダウン変速時における変速の応答性を確保することができると共に、エンジン10の回転数が高くなることに起因する不具合を抑制することができ、また、エンジン音の増加による運転者の違和感を抑制できる。
【実施例2】
【0072】
実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90は、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1と略同様の構成であるが、キックダウン変速時に候補変速段が複数ある場合に、変速する変速段の再判断を行う点に特徴がある。他の構成は実施例1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図6は、実施例2に係る自動変速機の変速制御装置の要部構成図である。実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90は、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1と同様に、車両に搭載されているエンジン10に接続され、エンジン10の動力を車両の駆動輪の方向に出力可能な自動変速機20が有する変速段の変速制御が可能に設けられている。詳しくは、これらのエンジン10及び自動変速機20は、ECU60に接続されており、ECU60により制御可能になっている。
【0073】
このECU60は、処理部61と記憶部80と入出力部81とを有しており、処理部61は、アクセル開度取得部62と、エンジン回転数取得部63と、変速装置入力回転数取得部64と、車速取得部65と、アクセル開度判定部66と、エンジン制御部67と、変速制御部68と、を有しており、変速制御部68は、候補変速段導出部69と、候補変速段判定部70と、候補変速段選択部71と、を有している。
【0074】
さらに、変速制御部68は、初期判断候補変速段の導出後に再判定をする変速段を選択する判定変速段選択手段である判定変速段選択部95と、判定変速段選択部95で選択した判定変速段が初期判断候補変速段であるか否かを判定する判定変速段判定手段である判定変速段判定部96と、判定変速段選択部95で選択した判定変速段の再判定を行うのに適したタイミングであるか否かの判定を行う再判定タイミング判定手段である再判定タイミング判定部97と、再判断をした際における変速段が初期判断候補変速段以下の低速側の変速段であるか否かを判定する再判断変速段判定手段である再判断変速段判定部98と、を有している。
【0075】
この実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両の走行中にキックダウン変速を行う場合には、ECU60の処理部61が有する変速制御部68で変速装置30が有する油圧制御装置35を制御することを介して摩擦係合要素40の係合や解放を制御することにより、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段に変速する。その際に、変速制御部68は、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1でのキックダウン変速時と同様に、初期判断候補変速段を導出し、追加候補変速段を検索するが、実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90では、追加候補変速段は、初期判断候補変速段よりも変速比が小さい変速段を検索する。つまり、自動変速機20の変速制御装置90では、追加候補変速段は、初期判断候補変速段に飛び変速をする際における現在の変速段と初期判断候補変速段との間の変速段になっている。
【0076】
変速制御部68は、キックダウン変速時に初期判断候補変速段と追加候補変速段とが存在する場合には、これらの初期判断候補変速段と追加候補変速段とのうち、まず、変速比が大きい変速段である初期判断候補変速段に変速をする判定をする。さらに変速制御部68は、このように初期判断候補変速段に変速する制御を行う判定をした場合に、エンジン10から変速装置30に入力される動力の回転数が、変速比が小さい側の変速段である追加候補変速段への変速時に同期する回転数になる前に、変速する変速段の再判断を行い、要求駆動力を発生させることができる変速段など車両の走行状態に、より適切な変速段が追加候補変速段であると判定された場合には、追加候補変速段に変速する制御を行う。
【0077】
また、このように変速制御をする場合において、追加候補変速段が複数存在する場合には、変速装置30に入力される動力の回転数が、初期判断候補変速段と複数の追加候補変速段とのうち変速比が最も小さい変速段から順に変速段ごとに、当該変速段への変速時に同期する回転数になる前に変速する変速段の再判断を行い、より適切な変速段が当該変速段であると判定された場合には、当該変速段に変速する制御を行う。つまり、実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90におけるキックダウン変速の制御は、初期判断候補変速段に変速すると判定された場合でも、追加候補変速段が存在し、変速ショックが大きくなることなく追加候補変速段に変速可能な期間内に変速段の再判断をし、追加候補変速段がより適切な変速段であると判定された場合には、追加候補変速段に変速をする。
【0078】
図7は、実施例2に係る自動変速機の変速制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90の制御方法、詳しくは、当該変速制御装置90でキックダウン変速の制御を行う場合における処理手順について説明する。なお、以下の処理手順は、キックダウン変速を行うとの判定があった後の処理手順であり、候補変速段導出部69で候補変速段として、初期判断候補変速段を導出した後の処理手順となっている。
【0079】
実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90でキックダウン変速の制御を行う場合の処理手順では、まず、追加候補変速段の検索を行う(ステップST201)。この検索は、変速制御部68が有する候補変速段導出部69で行う。実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90では、現在の変速段である変速前の変速段よりも変速比が大きく、且つ、初期判断候補変速段よりも変速比が小さく、さらに、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速する際に解放する摩擦係合要素40と同じ摩擦係合要素40を解放し、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速する際に係合する摩擦係合要素40とは異なる摩擦係合要素40を係合することにより形成される変速段が、追加候補変速段として用いられる。候補変速段導出部69は、変速前の変速段と、アクセル開度などの車両の走行状態に基づいて導出した初期判断候補変速段とに基づいて、追加候補変速段を検索する。
【0080】
候補変速段導出部69で追加候補変速段の検索を行う場合は、変速前の変速段と、初期判断候補変速段とを用いて、図5に示すようなキックダウン変速を行う場合における候補変速段のテーブルを参照することにより検索する。つまり、追加候補変速段は、変速比が変速前の変速段の変速比と初期判断候補変速段の変速比との間の変速比になる変速段になるため、追加候補変速段を検索する際において図5に示すようなテーブルを用いる場合、変速前の変速段は図5におけるg0となり、初期判断候補変速段は図5におけるg2になり、追加候補変速段はg1になる。また、テーブルのg2が複数になる変速段の場合は、初期判断候補変速段は、複数の変速段のうち、いずれかの変速段になり、この場合における他のg2の変速段のうち、初期判断候補変速段よりも減速比が小さい変速段がある場合には、この変速段も追加候補変速段になる。候補変速段導出部69は、このように検索した追加候補変速段のリストを作成し、ECU60の記憶部80に記憶する。
【0081】
例えば、変速前の変速段g0が4速で、初期判断候補変速段g2が2速の場合、これらをECU60の記憶部80に記憶されたテーブル(図5)に照らし合わせて検索すると、追加候補変速段として3速が選出される。また、変速前の変速段g0が4速で、初期判断候補変速段g2が1速の場合には、追加候補変速段として2速と3速とが選出される。候補変速段導出部69は、これらのように選出された3速、または2速と3速とを、追加候補変速段のリストに挙げ、ECU60の記憶部80に記憶する。
【0082】
次に、追加候補変速段があるか否かを判定する(ステップST202)。この判定は、変速制御部68が有する候補変速段判定部70で行う。候補変速段判定部70は、候補変速段導出部69で追加候補変速段を検索した結果より、追加候補変速段があるか否かを判定する。例えば、上記のように、変速前の変速段g0が4速で、初期判断候補変速段g2が2速であることにより、追加候補変速段として3速が選出された場合には、候補変速段判定部70は、追加候補変速段はあると判定する。
【0083】
候補変速段判定部70での判定(ステップST202)により、追加候補変速段はあると判定された場合には、次に、判定変速段giを選択する(ステップST203)。この判定変速段giの選択は、変速制御部68が有する判定変速段選択部95で行う。判定変速段選択部95は、初期判断候補変速段と追加候補変速段とのうち、処理手順における今回の周回で判定を行う変速段を判定変速段として選択する。
【0084】
判定変速段選択部95で判定変速段giを選択する場合には、初期判断候補変速段と、候補変速段導出部69でリストアップされた追加候補変速段とのうち、最も変速比が小さい変速段、即ち、最も高速側の変速段を判定変速段giとして選択する。即ち、上記のように初期判断候補変速段g2が2速で追加候補変速段が3速の場合は、最も高速側の変速段である3速を判定変速段giとして選択する。
【0085】
次に、判定変速段gi=初期判断候補変速段g2であるか否かを判定する(ステップST204)。この判定は、変速制御部68が有する判定変速段判定部96で行う。判定変速段判定部96は、判定変速段選択部95で選択した判定変速段giと、車両の走行状態に基づいて候補変速段導出部69で導出した初期判断候補変速段g2とを比較し、判定変速段gi=初期判断候補変速段g2であるか否かを判定する。
【0086】
判定変速段判定部96での判定(ステップST204)により、判定変速段gi=初期判断候補変速段g2ではないと判定した場合には、次に、判定変速段giの再判定のタイミングであるか否かを判定する(ステップST205)。この判定は、変速制御部68が有する再判定タイミング判定部97で行う。再判定タイミング判定部97は、判定変速段giにおける再判定のタイミングであるか否かを判定する。この判定は、{(実際の変速装置入力回転数)≧(gi形成時の変速装置入力回転数)−(マージン)}が満たされているか否かにより行う。具体的には、変速装置入力回転数取得部64で取得した、エンジン10から変速装置30に入力される動力の回転数である変速装置入力軸31の回転数が、判定変速段giへの変速時に係合する摩擦係合要素40同士が同期する際の変速装置入力軸31の回転数から、マージンを引いた回転数以上になったか否かを判定する。
【0087】
なお、この判定を行う場合における変速段gi形成時の変速装置入力軸31の回転数は、変速段の形成時の変速装置入力軸31の回転数として予め変速段ごとに設定され、ECU60の記憶部80に記憶されているものを使用する。また、マージンは、変速段の変速を行う際における変速装置入力軸31の回転数が、実際に変速をする際のタイミングで摩擦係合要素40同士が同期する際の変速装置入力軸31の回転数になるように、判定時には実際の同期回転数よりも低い回転数で判定する。つまり、この処理手順はキックダウン変速時の処理手順であるため、エンジン回転数は上昇を続けており、これに伴い変速装置入力軸31の回転数も上昇を続けている。このため、判定変速段giに変速をするか否かの判定時に、当該判定変速段giに変速をするとの判定が行われた場合に変速ショックが大きくなることなく判定変速段giに変速することができるように、上昇する変速装置入力軸31の回転数に合わせて、判定変速段giに変速する際の同期回転数よりも低い回転数で判定を行う。
【0088】
再判定タイミング判定部97は、この変速段gi形成時の変速装置入力軸31の回転数からマージンを引いた回転数と、変速装置入力回転数取得部64で取得した変速装置入力軸31の回転数である実際の変速装置入力軸31の回転数とを比較し、実際の変速装置入力軸31の回転数が、判定変速段gi形成時の変速装置入力軸31の回転数からマージンを引いた回転数以上の場合には、判定変速段giにおける再判定のタイミングであると判定する。これに対し、実際の変速装置入力軸31の回転数が、変速段gi形成時の変速装置入力軸31の回転数からマージンを引いた回転数未満の場合には、再判定タイミング判定部97は、判定変速段giにおける再判定のタイミングではないと判定をする。この再判定タイミング判定部97による判定(ステップST205)により、判定変速段giにおける再判定のタイミングではないと判定した場合には、変速装置入力軸31の回転数が上昇し、実際の変速装置入力軸31の回転数が、変速段gi形成時の変速装置入力軸31の回転数からマージンを引いた回転数以上になるまで、再判定タイミング判定部97による判定(ステップST205)を繰り返す。
【0089】
再判定タイミング判定部97での判定(ステップST205)により、判定変速段giにおける再判定のタイミングであると判定した場合には、変速段の再判断をする(ステップST206)。この判断は、候補変速段導出部69で行う。候補変速段導出部69は、初期判断候補変速段を導出する場合と同様に、アクセル開度や車速等の車両の走行状態と変速段との関係を示すマップ、即ち、車両の走行時に自動変速機20の変速制御を行う際に用いる変速線を用いて、現在の車両の走行状態に基づいて変速段を判断し、現在の走行状態に適した変速段を導出する。なお、この変速段の再判断は、変速線以外を用いて判断してもよく、例えば、アクセル開度取得部62で取得するアクセル開度の変化率を用いて判断したり、アクセル開度の変化率と時間経緯からアクセル開度の将来値の推定を行い、推定したアクセル開度の将来値を用いて判断したりしてもよい。
【0090】
次に、(再判断をした変速段)≦(判定変速段gi)であるか否かを判定する(ステップST207)。この判定は、変速制御部68が有する再判断変速段判定部98で行う。再判断変速段判定部98は、候補変速段導出部69で変速段の再判断を行うことにより導出した変速段が、現在の周回における判定変速段gi以下の低速側の変速段であるか否かを判定する。例えば、今回の周回における判定変速段giが3速の場合には、候補変速段導出部69で導出した変速段が3速以下であるか否かを判定する。
【0091】
再判断変速段判定部98での判定(ステップST207)により、(再判断をした変速段)≦(判定変速段gi)であると判定した場合には、判定変速段giへの切替えを実施する(ステップST208)。この切替えは、変速制御部68で行う。つまり、自動変速機20の変速段を、候補変速段導出部69で再判断することにより導出した変速段にする制御信号を変速制御部68から油圧制御装置35に出力する。変速制御部68からの制御信号が出力された油圧制御装置35は、変速制御部68からの制御信号に応じて摩擦係合要素40を作動させる。これにより、自動変速機20の変速段は、候補変速段導出部69で再判断した変速段に切り替えられる。このように、候補変速段導出部69で再判断した変速段に切り替え、変速段を変速したら、この処理手順から抜け出る。
【0092】
これに対し、再判断変速段判定部98での判定(ステップST207)により、(再判断をした変速段)≦(判定変速段gi)ではないと判定した場合には、判定変速段giを算出する(ステップST209)。この判定変速段giの算出は、候補変速段導出部69で行う。候補変速段導出部69は、ECU60の記憶部80に記憶されている追加候補変速段のリストから、判定変速段giである変速段を削除する。これにより、再度判定変速段giを選択する際に、処理手順における今回の周回で選択した判定変速段giを、処理手順における次回の周回では選択されない状態にすることにより、判定変速段giの候補となる変速段を算出する。
【0093】
候補変速段導出部69で判定変速段giの算出を行った後は、上述したステップST203に向かい、再び判定変速段選択部95で、初期判断候補変速段と、リストアップされた追加候補変速段とのうち、最も高速側の変速段を判定変速段giとして選択する。以降、再判断変速段判定部98での判定(ステップST207)で、(再判断をした変速段)≦(判定変速段gi)であると判定されるまで、処理手順の周回ごとに判定変速段giを低速側の変速段にしつつ、変速段の再判断を繰り返す。
【0094】
これらに対し、候補変速段判定部70での判定(ステップST202)により、追加候補変速段はないと判定された場合、または、判定変速段判定部96での判定(ステップST204)により、判定変速段gi=初期判断候補変速段g2であると判定した場合には、次に、初期判断候補変速段への切替えを実施する(ステップST210)。この切替えは、変速制御部68で行う。つまり、自動変速機20の変速段を、車両の走行状態に基づいて候補変速段導出部69で導出した初期判断候補変速段にする制御信号を変速制御部68から油圧制御装置35に出力する。これにより、油圧制御装置35は摩擦係合要素40を作動させ、自動変速機20の変速段は、初期判断候補変速段に切り替えられる。このように、初期判断候補変速段に切り替え、変速段を変速したら、この処理手順から抜け出る。
【0095】
図8は、キックダウン変速時に変速段の再判断を行う場合の説明図である。実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90では、キックダウン変速を行う際に追加候補変速段がある場合には、上述したように追加候補変速段に変速可能な期間内に変速段の再判断を行っているが、次に、このように再判断を行なう際における変速判断、変速装置30の入力回転数、摩擦係合要素40のそれぞれの変化の相関関係について説明する。なお、以下の説明は、変速前の変速段は6速で、初期判断候補変速段は4速、追加候補変速段は5速の場合について説明する。
【0096】
キックダウン変速を行う場合には、アクセル開度OAを急激に大きくする。これにより、変速前は6速になっている変速判断は、アクセル開度OA等に基づいて候補変速段導出部69により導出された4速になる。このように変速段が切り替えられる場合は、摩擦係合要素40の係合状態も変化するが、6速では摩擦係合要素40のうち、クラッチC2とブレーキB1とが係合しており、4速ではクラッチC1、C2を係合させる。このため、ブレーキB1を解放させるために、ブレーキB1を作動させる油圧であるB1油圧OPB1を低下させ、クラッチC1を係合させるために、クラッチC1を作動させる油圧であるC1油圧OPC1を上昇させる。このように、摩擦係合要素40を作動させる油圧を上昇させる場合には、作動時の初期反応を向上させるため、一旦大幅に上昇させた後、所定の大きさの油圧にする。
【0097】
なお、この説明で用いる6速と5速と4速とは、これらの変速段を形成する場合には全てクラッチC2を係合させるので(図3参照)、この説明ではクラッチC2についての説明は省略する。即ち、この変速制御中は、クラッチC2は係合し続ける。
【0098】
アクセル開度OAを大きくし、ブレーキB1を解放させた場合には、エンジン10の出力が上昇すると共に変速装置30のフリクションも低下するため、エンジン10の回転数は上昇し、これに伴い変速装置入力軸回転数SIも上昇する。
【0099】
変速時に、候補変速段として初期判断候補変速段である4速の他に、追加候補変速段である5速がある場合には、このように6速から4速に切り替えている最中における5速への変速が可能な期間内に、変速段の再判断を行う。具体的には、上昇する変速装置入力軸回転数SIが、追加候補変速段が5速の場合における再判定タイミング回転数SRである{(5速形成時の変速装置入力回転数)−(マージン)}以上になったら、変速段の再判断を行う。
【0100】
この再判断により、車両の走行状態に適した変速段は4速であると変速判断がされた場合には、変速動作を4速への変速動作のまま維持する。即ち、4速に変速をする場合におけるB1油圧OPB1である4速変速時B1油圧OPB14は、低下した状態を維持し続け、4速に変速をする場合におけるC1油圧OPC1である4速変速時C1油圧OPC14は、高い状態を維持し続ける。この場合、変速段を4速に変速する場合における変速装置入力軸回転数SIである4速変速時変速装置入力軸回転数SI4は、変速段が4速の場合におけるエンジン10から駆動輪までの減速比と車速とに応じた回転数になるまで、上昇する。また、4速に変速をする場合におけるブレーキB3の油圧、即ちB3油圧OPB3である4速変速時B3油圧OPB34は、低い状態を維持する。
【0101】
これに対し、変速段の再判断により、車両の走行状態に適した変速段は5速であると変速判断がされた場合には、変速動作を4速への変速動作から5速への変速動作に切り替える。具体的には、5速はクラッチC2とブレーキB3とを係合させるため、5速に変速をする場合におけるC1油圧OPC1である5速変速時C1油圧OPC15、及び5速に変速をする場合におけるB1油圧OPB1である5速変速時B1油圧OPB15を低下させ、5速に変速をする場合におけるB3油圧OPB3である5速変速時B3油圧OPB35を上昇させる。
【0102】
この変速により、変速段が5速に切り替えられた場合、変速装置入力軸回転数SIは、変速段が5速の場合におけるエンジン10から駆動輪までの減速比と車速とに応じた回転数になる。このため、減速比は変速段が4速の場合よりも小さくなるため、変速段を5速に変速する場合における変速装置入力軸回転数SIである5速変速時変速装置入力軸回転数SI5は、4速変速時変速装置入力軸回転数SI4よりも低くなる。これらにより、4速への変速を開始した後でも、再判断をした変速段である5速に変速することができる。
【0103】
以上の自動変速機20の変速制御装置90は、キックダウン変速時に、初期判断候補変速段と追加候補変速段とのうち変速比が大きい変速段である初期判断候補変速段に変速する場合、即ち、飛び変速をする場合において、変速装置30への入力回転数が、変速比が小さい側の変速段である追加候補変速段への変速時に同期する回転数になる前に、変速する変速段の再判断を行っているので、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速することができる。つまり、キックダウン変速時に、初期判断候補変速段に変速する際に、追加候補変速段への変速が可能な期間内に変速段の再判断を行うことにより、変速の判断を行うタイミングを実質的に遅らせることができ、変速する変速段の選択を、より正確に行うことができる。これにより、変速後に再び変速する状態になることを、より確実に回避することができる。この結果、キックダウン変速時における変速の応答性を、より確実に確保することができる。
【0104】
また、このように変速の判断を行うタイミングを実質的に遅らせて変速をするので、キックダウン変速時に初期判断候補変速段を導出した際において、車両の走行状態の先読みをして導出することにより、初期判断候補変速段として、実際の車両の走行状態に適切な変速段よりも低速側の変速段を導出した場合でも、リカバーして適切な変速段に変速することができる。この結果、キックダウン変速時に変速量が多くなり過ぎることを抑制でき、ドライブフィーリングが悪化することを抑制することができる。
【0105】
また、キックダウン変速時に追加候補変速段が複数存在する場合には、初期判断候補変速段と複数の追加候補変速段とのうち変速比が最も小さい変速段から順に変速段ごとに、変速装置30への入力回転数が各変速段への変速時に同期する回転数になる前に変速段の再判断を行うので、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速することができる。つまり、キックダウン変速時に初期判断候補変速段に変速する際に、複数の追加候補変速段における各変速段への変速が可能な期間内に、変速段の再判断を行うことにより、変速の判断を行うタイミングを実質的に遅らせることができる。これにより、変速する変速段の選択を、より正確に行うことができ、変速後に再び変速する状態になることを、より確実に回避することができる。この結果、キックダウン変速時における変速の応答性を、より確実に確保することができる。
【0106】
図9は、実施例1の変形例に係る自動変速機の変速制御装置の処理手順を示すフロー図である。なお、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1では、キックダウン変速時に初期判断候補変速段と追加候補変速段とがある場合には、変速比が大きい側の変速段である追加候補変速段に変速する制御を行っているが、追加候補変速段以外の変速段に変速してもよい。即ち、変速制御部68は、キックダウン変速時に追加候補変速段が存在する場合には、アクセルペダル50の開度の変化率に応じて、初期判断候補変速段と追加候補変速段との中から、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速する制御を行ってもよい。
【0107】
このように、キックダウン変速時にアクセルペダルの開度の変化率に応じて、車両の走行状態に適切な変速段に変速する場合における処理手順は、図9に示すように、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1での処理手順と同様に、まず、アクセルペダル50は急踏みであるか否かを、アクセル開度判定部66で判定する(ステップST101)。アクセル開度判定部66での判定(ステップST101)により、アクセルペダル50は急踏みであると判定された場合には、次に、候補変速段導出部69で、追加候補変速段の検索を行う(ステップST102)。
【0108】
次に、候補変速段は複数あるか否かを判定する(ステップST301)。この判定は、変速制御部68が有する候補変速段判定部70で行う。候補変速段判定部70は、候補変速段導出部69で追加候補変速段を検索した結果より、候補変速段が複数あるか否かを判定する。つまり、初期判断候補変速段及び追加候補変速段は、共に候補変速段として用いられるため、候補変速段導出部69で追加候補変速段を検索した結果、追加候補変速段がある場合には、候補変速段判定部70は、候補変速段は複数あると判定する。
【0109】
例えば、図5に示すテーブルを用いて候補変速段導出部69で追加候補変速段の検索を行った場合において、変速前の変速段g0が6速で、初期判断候補変速段g1が5速の場合において、追加候補変速段g2として4速が選出された場合には、初期判断候補変速段g1である5速と追加候補変速段g2である4速が、共に候補変速段として用いられる。また、変速前の変速段g0が4速で、初期判断候補変速段g1が3速の場合において、追加候補変速段g2として1速と2速とが選出された場合には、初期判断候補変速段g1である3速と追加候補変速段g2である1、2速が、全て候補変速段として用いられる。候補変速段判定部70は、これらの候補変速段が複数あるか否かを判定する。
【0110】
候補変速段判定部70での判定(ステップST301)により、候補変速段は複数あると判定された場合には、次に、複数の候補変速段の中から1つを選択する(ステップST302)。この変速段の選択は、変速制御部68が有する候補変速段選択部71で行い、候補変速段が複数ある場合に、複数の候補変速段の中から、要求駆動力を発生させることができる変速段など、車両の走行状態に適切な変速段を選択する。複数の候補変速段の中から1つの変速段を選択する場合には、アクセル開度取得部62でアクセル開度を継続して取得し、取得したアクセル開度の変化率に応じて選択する。具体的には、アクセル開度の変化率の閾値を変速段ごとに予め設定してECU60の記憶部80に記憶しておき、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度と、記憶部80に記憶された閾値とを比較することにより、変速段を選択する。
【0111】
例えば、アクセル開度の変化率の閾値として、変化率が大きい閾値である第1閾値と、第1閾値よりも変化率が小さい閾値である第2閾値とを設定する。このように設定した第1閾値及び第2閾値と、アクセル開度取得部62で取得したアクセル開度の変化率とを比較し、(取得したアクセル開度の変化率)>(第1閾値)の場合には、複数の候補変速段のうち最も変速比が大きい候補変速段、即ち、最も低速側の候補変速段を選択する。また、(第1閾値)>(取得したアクセル開度の変化率)>(第2閾値)の場合は、(取得したアクセル開度の変化率)>(第1閾値)の場合に選択する候補変速段の次に変速比が大きい候補変速段、即ち、複数の候補変速段のうち2番目に低速側の候補変速段を選択する。
【0112】
なお、このようにアクセル開度の変化率に応じて候補変速段を選択する場合は、アクセル開度の変化率と時間経緯からアクセル開度の将来値の推定を行い、推定したアクセル開度の将来値を用いて、変速制御を行う際の変速線を参照して選択してもよい。
【0113】
次に、選択した変速段を出力する(ステップST105)。即ち、自動変速機20の変速段を、候補変速段選択部71で選択した変速段にする制御信号を変速制御部68から油圧制御装置35に出力する。これにより、自動変速機20の変速段を、候補変速段選択部71で選択した変速段に変速させる。このように、選択した変速段を出力することにより変速段を変速したら、この処理手順から抜け出る。
【0114】
これらに対し、アクセル開度判定部66での判定(ステップST101)により、アクセルペダル50は急踏みではないと判定された場合、または、候補変速段判定部70での判定(ステップST301)により、候補変速段は複数ないと判定された場合には、次に、初期判断候補変速段を出力する(ステップST106)。即ち、自動変速機20の変速段を、候補変速段導出部69で導出した候補変速段である初期判断候補変速段にする制御信号を変速制御部68から油圧制御装置35に出力する。これにより、自動変速機20の変速段を、初期判断候補変速段に変速させる。このように、初期判断候補変速段を出力することにより変速段を変速したら、この処理手順から抜け出る。
【0115】
このように、キックダウン変速時に候補変速段が複数存在する場合に、車両の走行時における車速の調節に用いるアクセルペダル50の開度の変化率に応じて、初期判断候補変速段と追加候補変速段との中から、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速する制御を行った場合、必要以上に低速側の変速段に変速することを抑制できる。即ち、キックダウン変速時の初期段階で初期判断候補変速段を導出した場合でも、その後のアクセル開度の変化率に応じて変速段を選択することにより、変速の直前の走行状態に適した変速段を選択することができ、例えば、必要以上に低速側の変速段に変速することを抑制できる。これにより、動力を発生するエンジン10の回転数がキックダウン変速時に必要以上に高くなることを抑制することができるので、燃費が悪化したり、エンジン10から発生する音が大きくなったりすることを抑制できる。この結果、キックダウン変速時における変速の応答性を確保することができると共に、エンジン10の回転数が高くなることに起因する不具合を抑制することができる。
【0116】
また、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1では、初期判断候補変速段とは異なる候補変速段であり、且つ、初期判断候補変速段よりも変速比が大きい候補変速段を追加候補変速段としているが、追加候補変速段は、初期判断候補変速段よりも変速比が大きくなくてもよい。
【0117】
また、実施例1、2に係る自動変速機20の変速制御装置1、90では、ダウンシフト時における変速制御について説明しており、候補変速段は、変速前の変速段よりも変速比が大きい変速段であるものとして説明しているが、本発明に係る自動変速機の変速制御装置による変速制御は、アップシフト時に適用してもよい。この場合、変速段は、高速側の変速段に変速するため、初期判断候補変速段及び追加候補変速段は、共に変速前の変速段よりも変速比が小さい変速段になる。
【0118】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置による変速制御をアップシフトに適用する場合において、実施例1に係る自動変速機20の変速制御装置1のような制御を行う場合には、追加候補変速段は、初期判断候補変速段よりも変速比が小さい変速段の中から選出し、アップシフト時に初期判断候補変速段と追加候補変速段とが存在する場合には、追加候補変速段を選択する。これにより、例えば、比較的低速側の変速段で急加速をし、車速及びエンジン10の回転数が大幅に上昇した状態になった後、定速走行をするためにアクセルペダル50を戻すことによりアップシフトをする場合に、初期の判断よりもエンジン10の回転数を低下させることができる変速段に変速することができる。従って、変速段の変速後に緩やかに加速をする状態が続いても、エンジン10の回転数は低くなっており、回転数の上昇分の余裕が大きくなっているので、変速後に再び変速する状態になることを回避することができる。
【0119】
また、本発明に係る自動変速機の変速制御装置による変速制御アップシフトに適用した場合において、実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90のような制御を行う場合には、追加候補変速段は、変速前の変速段よりも変速比が小さく、初期判断候補変速段よりも変速比が大きい変速段の中から選出し、アップシフト時に初期判断候補変速段と追加候補変速段とが存在する場合には、変速装置30への入力回転数が、初期判断候補変速段よりも変速比が大きい側の変速段である追加候補変速段への変速時に同期する回転数になる前に、変速する変速段の再判断を行う。これにより、上記と同様に、急加速後、アクセルペダル50を戻すことによるアップシフト時に、初期判断候補変速段に変速する際に、追加候補変速段への変速が可能な期間内に変速段の再判断を行うことにより、変速の判断を行うタイミングを実質的に遅らせることができ、変速する変速段の選択を、より正確に行うことができる。これにより、変速後に再び変速する状態になることを、より確実に回避することができる。
【0120】
つまり、実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90のように、初期判断候補変速段の導出後に変速段の再判断を行う場合には、初期判断候補変速段と追加候補変速段との、変速前の変速段との変速比の差の絶対値である変速比差絶対値に基づいて制御を行う。即ち、ダウンシフトを行う場合でも、アップシフトを行う場合でも、変速比差絶対値が小さい変速段から順に変速段ごとに、当該変速段への変速時に同期する回転数になる前に変速する変速段の再判断を行い、エンジン10の回転数を所望の回転数まで低下させることができる変速段など、車両の走行状態に、より適切な前記変速段が当該変速段であると判定された場合には、当該変速段に変速する制御を行う。これにより、変速の判断を行うタイミングを実質的に遅らせることができるため、変速する変速段の選択を、より正確に行うことができ、変速後に再び変速する状態になることを、より確実に回避することができる。
【0121】
これらのように、追加候補変速段は、初期判断候補変速段に変速する際に解放する摩擦係合要素40と同じ摩擦係合要素40を解放し、初期判断候補変速段に変速する際に係合する摩擦係合要素40とは異なる摩擦係合要素40を係合することにより形成される変速段であり、且つ、変速前の変速段に対する変速比の変化する方向が、変速前の変速段に対する初期判断候補変速段の変速比の変化する方向と同じ方向で、初期判断候補変速段とは変速比が異なる変速段であればよい。即ち、追加候補変速段は、変速前の変速段に対する変速比の変化する方向が、変速前の変速段に対する初期判断候補変速段の変速比の変化する方向と同じ方向で、且つ、変速前の変速段から変速する際の摩擦係合要素40の動作の動作数が、変速前の変速段から初期判断候補変速段に変速する際の摩擦係合要素40の動作の動作数と同じになる変速段であればよい。
【0122】
これにより、変速段の変速時において、このような追加候補変速段がある場合に、初期判断候補変速段と追加候補変速段とのうち、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速することにより、変速段の変速を行う際に、変速時における変速時間の増加を抑制しつつ、より適切な変速段を選択する機会を増加させることができる。また、より適切な変速段を選択する機会を増加させることにより、変速後に再び変速する状態になることを回避することができる。この結果、変速段の変速時における変速の応答性を確保することができる。
【0123】
また、実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90では、変速装置入力回転数取得部64で取得した変速装置入力軸31の回転数が、{(gi形成時の変速装置入力回転数)−(マージン)}以上である場合に、変速段の再判断を行っているが、初期判断候補変速段を導出した後の変速段の再判断は、これ以外のタイミングで行ってもよい。例えば、初期判断候補変速段を導出した後、継続して変速段の再判断を行ってもよい。変速段の再判断は、少なくとも、再判断をした変速段に変速をする際に当該変速段への変速時に係合する摩擦係合要素40同士を同期させることができるタイミングで変速できれば、変速段を再判断する時期は問わない。
【0124】
また、実施例2に係る自動変速機20の変速制御装置90では、変速段の再判断を行うタイミングは、変速装置入力回転数取得部64で取得した変速装置入力軸31の回転数に基づいて行っているが、変速段の再判断を行うタイミングは、変速装置入力軸31の回転数以外に基づいて行ってもよい。例えば、トルクコンバータ21のロックアップ機構によるロックアップの状態とエンジン10の回転数とにより、所定の変速段への変速時に係合する摩擦係合要素40同士を同期させることができるタイミングがわかる場合には、変速段の再判断を行うタイミングは、エンジン回転数取得部63で取得するエンジン出力軸11の回転数に基づいて行ってもよい。
【0125】
また、上述した自動変速機20は、クラッチC1、C2と、ブレーキB1〜B3との係合と解放、及びワンウェイクラッチFによる一方向のみへの回転の規制を組み合わせることにより、前進6段、後進1段の変速が可能になっているが、自動変速機20は、これ以外の構成でもよい。自動変速機20がこれ以外の構成で設けられている場合でも、複数の摩擦係合要素40の係合と解放とを組み合わせることにより変速段を形成するように設けられている場合には、変速段の変速時に、初期判断候補変速段を形成する際の摩擦係合要素40の動作数と同じ動作数で形成できる追加候補変速段が存在する場合に、これらの変速段のうち、車両の走行状態に、より適切な変速段に変速することにより、変速段の変速時における変速の応答性を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上のように、本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、変速段の変速の制御を行う変速制御装置に有用であり、特に、係合や解放を切り替えることにより変速段を切り替える自動変速機の変速制御装置に適している。
【符号の説明】
【0127】
1、90 変速制御装置
10 エンジン
20 自動変速機
21 トルクコンバータ
30 変速装置
35 油圧制御装置
40 摩擦係合要素
50 アクセルペダル
60 ECU
61 処理部
62 アクセル開度取得部
63 エンジン回転数取得部
64 変速装置入力回転数取得部
65 車速取得部
66 アクセル開度判定部
67 エンジン制御部
68 変速制御部
69 候補変速段導出部
70 候補変速段判定部
71 候補変速段選択部
80 記憶部
81 入出力部
90 変速制御装置
95 判定変速段選択部
96 判定変速段判定部
97 再判定タイミング判定部
98 再判断変速段判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行時の動力源である内燃機関の動力を出力可能に設けられていると共に複数の変速段と前記変速段に対応した複数の係合要素とを有しており、且つ、前記複数の係合要素の解放と係合とを切り替えることにより前記内燃機関の前記動力を出力する際における前記変速段を変速可能に設けられた変速装置と、
前記係合要素の解放と係合との切り替えを制御することにより前記変速段の変速制御を行うと共に、変速前の前記変速段が2つの前記係合要素を係合することにより形成されている場合における前記変速段の変速を、係合している2つの前記係合要素のうち一方の前記係合要素を解放し、他の前記係合要素を係合することによって形成される他の前記変速段を変速時の候補となる前記変速段である初期判断候補変速段として行う場合に、前記初期判断候補変速段に変速する際に解放する前記係合要素と同じ前記係合要素を解放し、前記初期判断候補変速段に変速する際に係合する前記係合要素とは異なる前記係合要素を係合することにより形成される前記変速段であり、且つ、変速前の前記変速段に対する変速比の変化する方向が同じ方向で、前記初期判断候補変速段とは変速比が異なる前記変速段である追加候補変速段が存在する場合に、前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段に変速する制御を行う変速制御手段と、
を備えることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記追加候補変速段の変速比は前記初期判断候補変速段の変速比よりも大きくなっており、前記変速制御手段は、車速の調節に用いるアクセルペダルの開度が大きくなっている場合に前記変速段を変速前の前記変速段よりも変速比が大きい前記変速段にする変速であるキックダウン変速時に前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とが存在する場合には、前記追加候補変速段に変速する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
前記変速制御手段は、前記キックダウン変速時に前記アクセルペダルの開度が急激に大きくなる場合に、前記追加候補変速段に変速する制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記変速制御手段は、前記変速時に前記追加候補変速段が存在する場合には、前記車両の走行時における車速の調節に用いるアクセルペダルの開度の変化率に応じて、前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段との中から、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段に変速する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項5】
前記変速制御手段は、前記変速時に前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とが存在する場合において前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち変速前の前記変速段との変速比の差の絶対値である変速比差絶対値が大きい前記変速段に変速する制御を行う判定をした場合に、前記内燃機関から前記変速装置に入力される前記動力の回転数が前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち前記変速比差絶対値が小さい前記変速段への変速時に同期する回転数になる前に、変速する前記変速段の再判断を行い、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段が前記初期判断候補変速段と前記追加候補変速段とのうち前記変速比差絶対値が小さい前記変速段であると判定された場合には、当該変速段に変速する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置。
【請求項6】
前記追加候補変速段が複数存在する場合には、前記変速装置に入力される前記動力の回転数が、前記初期判断候補変速段と複数の前記追加候補変速段とのうち前記変速比差絶対値が最も小さい前記変速段から順に前記変速段ごとに、当該変速段への変速時に同期する回転数になる前に変速する前記変速段の再判断を行い、前記車両の走行状態に、より適切な前記変速段が当該変速段であると判定された場合には、当該変速段に変速する制御を行うことを特徴とする請求項5に記載の自動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−216618(P2010−216618A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66406(P2009−66406)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】