説明

自動変速機

【課題】 ワンウェイクラッチの締結時、或いは、締結解除時に、アウタレースがガタついて異音が発生することを確実に防止すると共に、部品点数の増加を防止し、構造を簡単化且つ小型化し、組み付け性が良い、自動変速機を提供する。
【解決手段】 ワンウェイクラッチ30のインナレース31に、遊星歯車機構11,12のリングギヤ11dとピニオンキャリア12cが連動連結され、ワンウェイクラッチ30のアウタレース32が変速機ケース5の内周壁にスプライン係合され、複数のリターンスプリング60が多板ブレーキ40に対して軸方向にオーバーラップした位置に配設され、これらリターンスプリング60がワンウェイクラッチ30のアウタレース35を軸方向へ付勢して、変速機ケース5に受け止めさせるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動変速機に関し、特に、ブレーキ機構の構成とワンウェイクラッチの取り付け構造を改善したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に搭載される自動変速機には、変速機ケースが設けられ、この変速機ケースに複数のブレーキ機構及びクラッチ機構及びギヤ機構等が収容され、これらブレーキ機構とクラッチ機構が夫々制御されて、この自動変速機の変速段が複数の前進変速段と後退速段の何れに択一的に切り換えられる。自動変速機のブレーキ機構は、通常、多板ブレーキと、多板ブレーキを締結側へ押圧するブレーキピストンと、ブレーキピストンをブレーキ解放側へ付勢する複数のリターンスプリングとを備えている。
【0003】
特許文献1の自動変速機においては、ブレーキ機構(LR/B)の多板ブレーキの径方向内側に遊星歯車機構(プラネタリギヤセット)が設けられ、多板ブレーキの軸方向近傍部にワンウェイクラッチが設けられ、遊星歯車機構のピニオンキャリアが、ワンウェイクラッチのインナレースとブレーキ機構のドラムとに連動連結されている。
【0004】
ワンウェイクラッチのアウタレースは、変速機ケースの内周壁にスプライン係合され、1対のスナップリングにより軸方向に係止され取り付けられている。1対のスナップリングは、アウタレースの軸方向両側に設けられた多板ブレーキ(LR/Bと2・6/Bの多板ブレーキ)のワンウェイクラッチ側端部を夫々係止する為のものでもあり、これらスナップリングは、夫々、変速機ケースの内周壁に形成された環状溝に内嵌装着されている。
【0005】
ブレーキ機構(LR/B)において、ブレーキピストンは、多板ブレーキに対してワンウェイクラッチと反対側に配設され、このブレーキピストンのピストン部と多板ブレーキとの間にスプリングリテーナが設けられ、このスプリングリテーナとブレーキピストンのピストン部との間に複数のリターンスプリングが配設され、これらリターンスプリングは、ブレーキピストンをブレーキ解放側へ付勢することのみに機能する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−106406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のような自動変速機では、ワンウェイクラッチのアウタレースが、軸方向には1対のスナップリングにより係止されているだけであるので、ワンウェイクラッチ、スナップリングの製作及び組付上、アウタレースとスナップリングとの間に隙間が生じて、ワンウェイクラッチの締結時、或いは、締結解除時に、アウタレースがガタついて異音が発生する虞がある。
【0008】
そこで、ワンウェイクラッチのアウタレースを、1対のスナップリングの一方へ付勢するスプリングを設けることは考えられても、この場合、アウタレースを付勢するスプリングが別途必要になるため、また、1対のスナップリングは1対の多板ブレーキのワンウェイクラッチ側端部を夫々係止する為のものであることから、スナップリングを省略できないため、部品点数が多くなり、構造が複雑化し、組み付け性が悪くなる。
【0009】
本発明の目的は、ワンウェイクラッチの締結時、或いは、締結解除時に、アウタレースがガタついて異音が発生することを確実に防止すると共に、部品点数の増加を防止し、構造を簡単化且つ小型化し、組み付け性が良い、自動変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の自動変速機は、変速機ケースと、遊星歯車機構と、遊星歯車機構の所定の回転部材を変速機ケースに対して静止させる為の多板ブレーキと、多板ブレーキを締結側へ押圧するブレーキピストンと、ブレーキピストンをブレーキ解放側へ付勢する複数のリターンスプリングと、前記回転部材に連動連結されたインナレースと変速機ケースの内周壁にスプライン係合されたアウタレースとを有するワンウェイクラッチとを備えた自動変速機において、前記複数のリターンスプリングが多板ブレーキに対して自動変速機の軸方向にオーバーラップした位置に配設され、これらリターンスプリングがワンウェイクラッチのアウタレースを前記軸方向へ付勢して、変速機ケースに受け止めさせるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
この自動変速機では、ブレーキピストンが駆動されると、そのブレーキピストンにより多板ブレーキが締結側へ押圧され締結して、遊星歯車機構の所定の回転部材が変速機ケースに対して静止し、また、ブレーキピストンが駆動停止されると、複数のリターンスプリングにより多板ブレーキが復帰して締結解除される。
【0012】
ワンウェイクラッチのインナレースが、遊星歯車機構の所定の回転部材に連動連結され、ワンウェイクラッチのアウタレースが、変速機ケースの内周壁にスプライン係合され、複数のリターンスプリングが、多板ブレーキに対して自動変速機の軸方向にオーバーラップした位置に配設され、これらリターンスプリングにより、ワンウェイクラッチのアウタレースが軸方向へ付勢され、変速機ケースに受け止められる。
【0013】
請求項1の発明に次の構成を採用可能である。
前記多板ブレーキのうちブレーキピストンから遠ざかる側の端部に、ワンウェイクラッチのアウタレースに当接すると共に複数のリターンスプリングのワンウェイクラッチ側端部を支持するリテーナプレートを備え、このリテーナプレートを介して複数のリターンスプリングがワンウェイクラッチのアウタレースを付勢する(請求項2)。
【0014】
前記複数のリターンスプリングが、多板ブレーキの外周外側に配設される(請求項3)。前記多板ブレーキのうち変速機ケースの内周壁にスプライン係合される複数のブレーキプレートの1又は複数のスプライン歯が欠歯され、この欠歯部分を含むスペースに複数のリターンスプリングが配設される(請求項4)。
【0015】
前記ブレーキピストンは、ピストン部と、このピストン部に周方向適当間隔おきに設けられて多板ブレーキ側へ延びる複数の断面円弧状のブレーキ押圧部とを有し、前記ピストン部と多板ブレーキとの間の軸方向位置に配設されて複数のリターンスプリングのピストン部側端部を受け止めてリターンスプリングの付勢力をブレーキピストンに伝達するスプリング受け部材を備え、前記スプリング受け部材に、複数のブレーキ押圧部が夫々挿通する複数の円弧状のスリットを形成する(請求項5)。
【0016】
前記スプリング受け部材は、ブレーキピストンのピストン部に係止される環状部と、この環状部の外周部から径方向外側へ突出して複数のリターンスプリングのピストン部側端部が当接する突出部とを有する(請求項6)。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の自動変速機によれば、特に、遊星歯車機構の所定の回転部材に連動連結されたインナレースと変速機ケースの内周壁にスプライン係合されたアウタレースとを有するワンウェイクラッチを設け、ブレーキピストンをブレーキ解放側へ付勢する複数のリターンスプリングを、多板ブレーキに対して自動変速機の軸方向にオーバーラップした位置に配設し、これらリターンスプリングにより、ワンウェイクラッチのアウタレースを軸方向へ付勢して、変速機ケースに受け止めさせるように構成した。
【0018】
つまり、複数のリターンスプリングにより、ブレーキピストンをブレーキ解放側へ付勢する機能と、ワンウェイクラッチのアウタレースを軸方向へ付勢する機能とを両立させ、その後者機能により、ワンウェイクラッチを所定位置に確実に保持すると共に、ワンウェイクラッチの締結時、或いは、締結解除時に、アウタレースがガタついて異音が発生することを確実に防止することができる。そして、前記後者機能を、リターンスプリング以外のスプリングを別途設けることなく達成でき、更に、ワンウェイクラッチのアウタレースを、リターンスプリングの付勢方向と反対方向へ移動するのを規制するスナップリングを省略可能であるので、部品点数の増加を防止し、構造を簡単化して軸方向に小型化でき、組み付け性を良くすることができる。
【0019】
請求項2の自動変速機によれば、多板ブレーキのうちブレーキピストンから遠ざかる側の端部に、ワンウェイクラッチのアウタレースに当接すると共に複数のリターンスプリングのワンウェイクラッチ側端部を支持するリテーナプレートを備え、このリテーナプレートを介して複数のリターンスプリングがワンウェイクラッチのアウタレースを付勢するので、多板ブレーキの前記端部の静止側のブレーキプレートとしてリテーナプレートを適用し、多板ブレーキの機能を損なわせることなく、このリテーナプレートにより、複数のリターンスプリングの付勢力をワンウェイクラッチのアウタレースに伝達して、アウタレースを軸方向に確実に付勢することができる。
【0020】
請求項3の自動変速機によれば、複数のリターンスプリングを、多板ブレーキの外周外側に配設したので、複数のリターンスプリングを多板ブレーキと干渉させないように配設することができる。
【0021】
請求項4の自動変速機によれば、多板ブレーキのうち変速機ケースの内周壁にスプライン係合される複数のブレーキプレートの1又は複数のスプライン歯を欠歯させ、この欠歯部分を含むスペースに複数のリターンスプリングを配設したので、多板ブレーキの構造を複雑化することなく、複数のリターンスプリングを多板ブレーキの外周外側に確実に配設することができ、径方向への大型化を抑制することができる。
【0022】
請求項5の自動変速機によれば、ブレーキピストンは、ピストン部と、このピストン部に周方向適当間隔おきに設けられて多板ブレーキ側へ延びる複数の断面円弧状のブレーキ押圧部とを有し、ピストン部と多板ブレーキとの間の軸方向位置に配設されて複数のリターンスプリングのピストン部側端部を受け止めてリターンスプリングの付勢力をブレーキピストンに伝達するスプリング受け部材を備え、スプリング受け部材に、複数のブレーキ押圧部が夫々挿通する複数の円弧上のスリットを形成したので、ブレーキピストンの機能を損なわせることなく、多板ブレーキの外周外側に配設した複数のリターンスプリングの付勢力をブレーキピストンに確実に伝達することができる。
【0023】
請求項6の自動変速機によれば、スプリング受け部材は、ブレーキピストンのピストン部に係止される環状部と、この環状部の外周部から径方向外側へ突出して複数のリターンスプリングのピストン部側端部が当接する突出部とを有するので、突出部により複数のリターンスプリングのピストン部側端部を確実に受け止めて、環状部により複数のリターンスプリングの付勢力をブレーキピストンに確実に伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の自動変速機は、変速機ケースと、遊星歯車機構と、遊星歯車機構の所定の回転部材を変速機ケースに対して静止させる為の多板ブレーキと、多板ブレーキを締結側へ押圧するブレーキピストンと、ブレーキピストンをブレーキ解放側へ付勢する複数のリターンスプリングと、前記回転部材に連動連結されたインナレースと変速機ケースの内周壁にスプライン係合されたアウタレースとを有するワンウェイクラッチとを備え、複数のリターンスプリングが多板ブレーキに対して自動変速機の軸方向にオーバーラップした位置に配設され、これらリターンスプリングがワンウェイクラッチのアウタレースを前記軸方向へ付勢して、変速機ケースに受け止めさせるように構成されている。
【実施例】
【0025】
図1、図3に示すように、自動車等の車両に搭載される自動変速機1は、エンジンの出力が入力される入力軸2と、車輪側へ駆動力を出力する出力ギヤ3と、これら入力軸2と出力ギヤ3との間に介在された変速機構4と、この変速機構4を収容する変速機ケース5とを備えている。
【0026】
変速機構4は、第1〜第4遊星歯車機構10〜13、LCL14(ロークラッチ)、HCL15(ハイクラッチ)、35RCL16(35リバースクラッチ)、OWCL17(ワンウェイクラッチ)、LRBrk18(ローリバースブレーキ)、26Brk19(26ブレーキ)を備えている。
【0027】
第1遊星歯車機構10において、サンギヤ10aが変速機ケース5に固定され、ピニオン10bのピニオンキャリア10cがLCL14の外周側のクラッチドラム14aに連結され、リングギヤ10dが入力軸2とHCL15の外周側のクラッチドラム15aに連結されている。
【0028】
第2遊星歯車機構11において、サンギヤ11aがLCL14の内周側のクラッチハブ14bに連結され、ピニオン11bのピニオンキャリア11cが出力ギヤ3と第3遊星歯車機構12のリングギヤ12dに連結され、リングギヤ11dがLRBrk18の内周側のドラム18aに連結されて、このドラム18a(リングギヤ11d)と変速機ケース5との間にOWCL17が介装されている。
【0029】
第3遊星歯車機構12において、サンギヤ12aが26Brk19の内周側のドラム19aと35RCL16の内周側のクラッチハブ16bに連結され、ピニオン12bのピニオンキャリア12cがLRBrk18のドラム18aとHCL15の内周側のクラッチハブ15bに連結されている。
【0030】
第4遊星歯車機構13において、サンギヤ13aが変速機ケース5に固定され、ピニオン13bのピニオンキャリア13cが35RCL16の外周側のクラッチドラム16aに連結され、リングギヤ13dが入力軸2に連結されている。
【0031】
LCL14、HCL15、35RCL16、LRBrk18、26Brk19が、ECU等の制御装置により夫々制御されて、変速機構4の変速段が1〜6変速段と後退速段の何れに択一的に切り換えられる。図2は、各変速段における、LCL14、HCL15、35RCL16、LRBrk18、26Brk19、OWCL17の状態を示し、「○」が締結状態になるものである。尚、1速におけるOWCL17は加速時のみ締結状態になり、マニュアルモード等のエンジンブレーキが必要な場合にのみLRBrk18を締結状態にする。
【0032】
次に、変速機ケース5、OWCL17、LRBrk18について詳細に説明する。尚、図3の矢印aの方向が軸方向であり、図3の右側を前方として説明する。
【0033】
図3に示すように、変速機ケース5は、本体ケース20と、本体ケース20の後端の開口部20aをカバーするケースカバー25とを有し、このケースカバー25は複数のボルト26により本体ケース20に固定されている。本体ケース20の内周壁20bの後半部分に、スプライン溝20cが形成され、そのスプライン溝20cに沿って前側から後側へ順に、LRBrk18、OWCL17、26Brk19が配設されている。
【0034】
図3に示すように、OWCL17は、環状のインナレース30と、環状のアウタレース31と、インナレース30とアウタレース31との間に介装された係止機構32とを有する。インナレース30は、LRBrk18のドラム45(18a)の外周部に形成されたスプライン溝45aに外嵌状にスプライン係合されて一体的に回転し、このドラム45を介して第2遊星歯車機構11のリングギヤ11dと第3遊星歯車機構12のピニオンキャリア12cとに連動連結されている。尚、リングギヤ11dとピニオンキャリア12cの少なくとも一方が所定の回転部材に相当する。
【0035】
アウタレース31は、変速機ケース5の内周壁20bのスプライン溝20cに内嵌状にスプライン係合され、このアウタレース31には、その後端面とインナレース30の後端面とに当接する環状板33が装着されている。変速機ケース5の内周壁20bには、アウタレース31の後側に環状溝20dが形成され、この環状溝20dにスナップリング34が内嵌装着され、このスナップリング34により、アウタレース31とインナレース30(OWCL17)が環状板33を介して前側から係止される。
【0036】
図3〜図8に示すように、LRBrk18は、第2遊星歯車機構11のリングギヤ11dと第3遊星歯車機構12のピニオンキャリア12cとを変速機ケース5に対して静止させる為の多板ブレーキ40と、多板ブレーキ40を締結側(後方)へ押圧するブレーキピストン50と、ブレーキピストン50をブレーキ解放側(前方)へ付勢する複数(例えば、9個)のリターンスプリング60と、複数のリターンスプリング60のピストン部側端部(後端部)を受け止めてリターンスプリング60の付勢力をブレーキピストン50に伝達するスプリング受け部材70とを備えている。
【0037】
図3に示すように、多板ブレーキ40は、変速機ケース5のスプライン溝20cに内嵌状にスプライン係合された複数(例えば、6枚)のブレーキプレート41と、これらブレーキプレート41の径方向内側に配設されたドラム45のスプライン溝45aに外嵌状にスプライン係合された複数(例えば、5枚)のブレーキディスク42とを有する。
【0038】
複数のブレーキプレート41と複数のブレーキディスク42は、前後両端にブレーキプレート41が位置するように軸方向に交互に配置されている。尚、変速機ケース5のスプライン溝5cには、OWCL17のアウタレース31がスプライン係合され、26Brk19の多板ブレーキの複数のブレーキプレートもスプライン係合されている。
【0039】
図3〜図8に示すように、ブレーキピストン50は、多板ブレーキ40の前側に配設され、ピストン部51と、このピストン部51に周方向適当間隔(等間隔)おきに設けられて多板ブレーキ40側(後方)へ延びる複数(例えば、3つ)の断面円弧状のブレーキ押圧部55とを有する。例えば、ブレーキ押圧部55の数が3つの場合、各ブレーキ押圧部55は、ブレーキピストン50の中心に対して約55度に亙って設けられている。
【0040】
ピストン部51は前後方向に比較的厚肉に形成され、このピストン部51の外周部と内周部に環状溝51a,51bが形成され、これら環状溝51a,51bに夫々環状シール部材52a,52bが装着されている。ピストン部51には後方へ延びる筒状部56が一体的形成され、複数のブレーキ押圧部55は、筒状部56から後方へ突出するように、この筒状部56に一体形成されている。
【0041】
本体ケース20には多板ブレーキ40の前側にシリンダ部20eが形成され、このピストンシリンダ部20eにピストン部51が環状シール部材52a,52bを介して内嵌装着され、ピストンシリンダ部20eに油圧が供給されると、ブレーキピストン50が後方へ駆動される。ピストン部51には、ピン状の規制部53が前方へ突出状に形成され、この規制部53がピストンシリンダ部20eの底部に形成された穴(図示略)に内嵌されて、ピストン部51(ブレーキピストン50)が回り止めされている。
【0042】
図3〜図6に示すように、複数のリターンスプリング60は、圧縮コイルバネからなり、多板ブレーキ40の外周外側に配設されて、多板ブレーキ40に対して軸方向にオーバーラップした位置に配設され、これらリターンスプリング60がOWCL17のアウタレース31を軸方向後方へ付勢して、スナップリング34に係止させ変速機ケース5に受け止めさせるように構成されている。
【0043】
複数のリターンスプリング60は、多板ブレーキ40のうちブレーキピストン50から遠ざかる側(後側)の端部のリテーナプレート41Aとスプリング受け部材70との間において、複数のブレーキ押圧部55に対して周方向にシフトした位置に軸心対称に配設され、リテーナプレート41Aを介してOWCL17のアウタレース31を付勢する。例えば、リターンスプリング60の数が9個の場合、周方向に隣り合う2つのブレーキ押圧部55の間に、3個のリターンスプリング60が配置されている。
【0044】
複数のブレーキプレート41の外周部には、複数のスプライン歯41aが形成されるが、複数のスプライン歯41aが欠歯されて複数(例えば、3つ)の欠歯部分41bが形成され、これら欠歯部分41bと対応する部分の本体ケース20の内周壁20bに、スプライン歯41aよりも周方向に幅広の複数(例えば、3つ)の凹溝20fが形成され、これら欠歯部分41bと凹溝20fを含むスペースに複数のリターンスプリング60が配設されている。例えば、欠歯部分41bと凹溝20fの数が3個の場合、これら欠歯部分41bと凹溝20fが周方向3等分位置に形成されている。
【0045】
リテーナプレート41Aにおいては、複数の欠歯部分41bに対応する位置に、複数のスプライン歯41aの代わりに、スプライン歯41aよりも周方向に幅広の複数(例えば、3つ)のスプリング受け部41cが形成され、複数のスプリング受け部41cが複数の凹溝20fに夫々係合されると共に、これらスプリング受け部41cにより、複数のリターンスプリング60のワンウェイクラッチ側端部(後端部)が支持されている。
【0046】
図3〜図7に示すように、スプリング受け部材70は、ブレーキピストン50のピストン部51と多板ブレーキ40との間の軸方向位置に配設され、ブレーキピストン50のピストン部51に係止される環状部71と、この環状部71の外周部から径方向外側へ突出して複数のリターンスプリング60のピストン部側端部(前端部)が当接する複数(例えば、3つ)の突出部75とを有する。
【0047】
環状部71には、ブレーキピストン50の複数のブレーキ押圧部55が夫々挿通する複数(例えば、3つ)の円弧状のスリット71aが形成されている。複数のスリット71aに複数のブレーキ押圧部55が挿通した状態で、複数のリターンスプリング60により前方へ付勢された環状部71が、ブレーキピストン50の筒状部56の前端部に当接して係止され、複数のリターンスプリング60の付勢力は、スプリング受け部材70を介して筒状部56からブレーキピストン50に入力される。
【0048】
スプリング受け部材70の複数の突出部75には、予め、複数のリターンスプリング60の前端部が固着されており、このスプリング受け部材70は複数のリターンスプリング60と共に組み付けられることになる。尚、スプリング受け部材70の環状部71には、その内周部から後方へ突出する筒状部72が一体形成され、強度が高められている。
【0049】
以上説明した自動変速機1の作用効果を奏する。
LRBrk18において、ブレーキピストン50が駆動されると、多板ブレーキ40が締結側へ押圧され締結して、リングギヤ11dとピニオンキャリア12cとが変速機ケース5に対して静止し、ブレーキピストン50が駆動停止されると、複数のリターンスプリング60により、ブレーキピストン50が復帰して、多板ブレーキ40が締結解除されて、リングギヤ11dとピニオンキャリア12cとが回転可能になる。
【0050】
この自動変速機1によれば、第2遊星歯車機構11のリングギヤ11dと第3遊星歯車機構12のピニオンキャリア12cとに連動連結されたインナレース30と変速機ケース5の内周壁20bにスプライン係合されたアウタレース31とを有するOWCL17を設け、ブレーキピストン50をブレーキ解放側(前方)へ付勢する複数のリターンスプリング60を、多板ブレーキ40に対して軸方向にオーバーラップした位置に配設し、これらリターンスプリング60により、OWCL17のアウタレース31を軸方向後方へ付勢して、変速機ケース5に受け止めさせるように構成した。
【0051】
つまり、複数のリターンスプリング60により、ブレーキピストン50をブレーキ解放側へ付勢する機能と、OWCL17のアウタレース31を軸方向後方へ付勢する機能とを両立させ、その後者機能により、OWCL17を所定位置に確実に保持すると共に、OWCL17の締結時、或いは、締結解除時に、アウタレース31がガタついて異音が発生することを確実に防止することができる。そして、前記後者機能を、リターンスプリング60以外のスプリングを別途設けることなく達成でき、更に、OWCL17のアウタレース31を、リターンスプリング60の付勢方向と反対方向(前方)へ移動するのを規制するスナップリングを省略可能であるので、部品点数の増加を防止し、構造を簡単化して軸方向に小型化でき、組み付け性を良くすることができる。
【0052】
多板ブレーキ40のうちブレーキピストン50から遠ざかる側の端部(後端部)に、OWCL17のアウタレース31に当接すると共に複数のリターンスプリング60のワンウェイクラッチ側端部(後端部)を支持するリテーナプレート41Aを備え、このリテーナプレート41Aを介して複数のリターンスプリング60がOWCL17のアウタレース31を付勢するので、多板ブレーキ40の後端の静止側のブレーキプレート41としてリテーナプレート41Aを適用し、多板ブレーキ40の機能を損なわせることなく、このリテーナプレート41Aにより、複数のリターンスプリング60の付勢力をOWCL17のアウタレース31に伝達して、アウタレース31を軸方向後方に確実に付勢できる。
【0053】
複数のリターンスプリング60を、多板ブレーキ40の外周外側に配設したので、複数のリターンスプリング60を多板ブレーキ40と干渉させないように配設することができる。多板ブレーキ40のうち変速機ケース5の内周壁20bにスプライン係合される複数のブレーキプレート41の1又は複数のスプライン歯41aを欠歯させ、この欠歯部分41bを含むスペースに複数のリターンスプリング60を配設したので、多板ブレーキ40の構造を複雑化することなく、複数のリターンスプリング60を多板ブレーキ40の外周外側に確実に配設することができ、径方向への大型化を抑制することができる。
【0054】
ブレーキピストン50は、ピストン部51と、このピストン部51に周方向適当間隔おきに設けられて多板ブレーキ40側へ延びる複数の断面円弧状のブレーキ押圧部55とを有し、ピストン部51と多板ブレーキ40との間の軸方向位置に配設されて複数のリターンスプリング60のピストン部側端部を受け止めてリターンスプリング60の付勢力をブレーキピストン50に伝達するスプリング受け部材70を備え、スプリング受け部材70に、複数のブレーキ押圧部55が夫々挿通する複数の円弧上のスリット71aを形成したので、ブレーキピストン50の機能を損なわせることなく、多板ブレーキ40の外周外側に配設した複数のリターンスプリング60の付勢力をブレーキピストン50に確実に伝達することができる。
【0055】
スプリング受け部材70は、ブレーキピストン50のピストン部51に係止される環状部71と、この環状部71の外周部から径方向外側へ突出して複数のリターンスプリング60のピストン部側端部が当接する複数の突出部75とを有するので、複数の突出部75により複数のリターンスプリング60のピストン部側端部を確実に受け止めて、環状部71により複数のリターンスプリング60の付勢力をブレーキピストン50に確実に伝達することができる。
【0056】
尚、ブレーキピストン50とスプリング受け部材70とを固定的に構成してもよい。また、リターンスプリング60の数や配置の変更、及び、その変更に応じた、ブレーキプレート41の形状、スプリング受け部材70の形状等の変更を加えてもよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記開示事項以外の種々の変更を加えて実施可能であり、種々の自動変速機に本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例の自動変速機を模式的に示すスケルトン図である。
【図2】変速機構の複数の変速段について複数の摩擦締結要素の状態を示す図表である。
【図3】自動変速機の要部の縦断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】ブレーキピストンとスプリング受け部材とリテーナプレートの分解斜視図である。
【図6】ブレーキピストンとスプリング受け部材とリテーナプレートの分解側面図である。
【図7】ブレーキピストンとスプリング受け部材とリテーナプレートの背面図である。
【図8】ブレーキピストンの斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
1 自動変速機
5 変速機ケース
11 第2遊星歯車機構
11d リングギヤ
12 第3遊星歯車機構
12c ピニオンキャリア
17 ワンウェイクラッチ
30 インナレース
31 アウタレース
40 多板ブレーキ
41A リテーナプレート
41a スプライン歯
41b 欠歯部分
50 ブレーキピストン
51 ピストン部
55 ブレーキ押圧部
60 リターンスプリング
70 スプリング受け部材
71 環状部
71a スリット
75 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケースと、遊星歯車機構と、遊星歯車機構の所定の回転部材を変速機ケースに対して静止させる為の多板ブレーキと、多板ブレーキを締結側へ押圧するブレーキピストンと、ブレーキピストンをブレーキ解放側へ付勢する複数のリターンスプリングと、前記回転部材に連動連結されたインナレースと変速機ケースの内周壁にスプライン係合されたアウタレースとを有するワンウェイクラッチとを備えた自動変速機において、
前記複数のリターンスプリングが多板ブレーキに対して自動変速機の軸方向にオーバーラップした位置に配設され、これらリターンスプリングがワンウェイクラッチのアウタレースを前記軸方向へ付勢して、変速機ケースに受け止めさせるように構成されたことを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記多板ブレーキのうちブレーキピストンから遠ざかる側の端部に、ワンウェイクラッチのアウタレースに当接すると共に複数のリターンスプリングのワンウェイクラッチ側端部を支持するリテーナプレートを備え、このリテーナプレートを介して複数のリターンスプリングがワンウェイクラッチのアウタレースを付勢することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機。
【請求項3】
前記複数のリターンスプリングが、多板ブレーキの外周外側に配設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機。
【請求項4】
前記多板ブレーキのうち変速機ケースの内周壁にスプライン係合される複数のブレーキプレートの1又は複数のスプライン歯が欠歯され、この欠歯部分を含むスペースに複数のリターンスプリングが配設されたことを特徴とする請求項3に記載の自動変速機。
【請求項5】
前記ブレーキピストンは、ピストン部と、このピストン部に周方向適当間隔おきに設けられて多板ブレーキ側へ延びる複数の断面円弧状のブレーキ押圧部とを有し、
前記ピストン部と多板ブレーキとの間の軸方向位置に配設されて複数のリターンスプリングのピストン部側端部を受け止めてリターンスプリングの付勢力をブレーキピストンに伝達するスプリング受け部材を備え、
前記スプリング受け部材に、複数のブレーキ押圧部が夫々挿通する複数の円弧状のスリットが形成されたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の自動変速機。
【請求項6】
前記スプリング受け部材は、ブレーキピストンのピストン部に係止される環状部と、この環状部の外周部から径方向外側へ突出して複数のリターンスプリングのピストン部側端部が当接する突出部とを有することを特徴とする請求項5に記載の自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−170440(P2007−170440A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365265(P2005−365265)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】