説明

自動変速機

【課題】 物理的な部材を用いずにインターロックを防止する自動変速機を提供する。
【解決手段】 2つの摩擦締結要素を備え、この2つの摩擦締結要素の伝達トルクを制御する制御手段を有する自動変速機において、前記制御手段は、前記2つの摩擦締結要素の伝達トルクの合計を所定値以下に制御することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掛け替え制御を行う複数のクラッチ同士の二重係合(インターロック)防止に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数クラッチ同士のインターロック防止装置にあっては、所望のクラッチ以外のクラッチ締結圧が所定値以上となった場合、スプリングによって締結圧を低下させている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−317875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来技術にあっては、機械的にクラッチ圧を低下させているため、装置構造の複雑化、大型化およびコストアップを招くおそれがあった。
【0004】
本発明は上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、機械的手段によらずクラッチ同士のインターロックを防止した自動変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、2つの摩擦締結要素を備え、この2つの摩擦締結要素の伝達トルクを制御する制御手段を有する自動変速機において、前記制御手段は、前記2つの摩擦締結要素の伝達トルクの合計を所定値以下に制御することとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、機械的手段によらずクラッチ同士のインターロックを防止した自動変速機を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の自動変速機を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
[自動変速機の全体構成]
図1は本願自動変速機が適用されたツインクラッチ式自動変速機のスケルトン図である。ツインクラッチ式自動変速機は、駆動入力軸1、第1クラッチCA、第2クラッチCB、第1変速機入力軸10A、第2変速機入力軸10B、変速機出力軸20、アクチュエータ油圧モジュール30、およびコントロールユニットCUを備えている。
【0009】
第2変速機入力軸10Bは中空軸であり、内部に第1変速機入力軸10Aが挿通されて互いに相対回転可能に設けられている。第1変速機入力軸10Aは第1クラッチCAに接続し、第2変速機入力軸10Bは第2クラッチCBに接続する。
【0010】
第1クラッチCAは奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用であり、第2クラッチCBは偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用である。両クラッチCA,CBのドライブ側はエンジン等の駆動源から駆動力を入力する駆動入力軸1に連結される。それぞれのクラッチCA,CBは図外のオイルポンプからの作動油によって締結/解放される。
【0011】
奇数変速段締結時には、第1クラッチCAのドリブン側は駆動源からの駆動力を第1変速機入力軸10Aに入力する。偶数変速段締結時には、第2クラッチCBのドリブン側は駆動源からの駆動力を第2変速機入力軸10Bに入力する。
【0012】
(1,3,5速および後退速)
第1変速機入力軸10Aには奇数変速段グループ(第1速、第3速、第5速)、および後退速のギアが設けられている。エンジン側から順に、第1速ギアG1、後退ギアGR、第3速ギアG3、および第5速ギアG5が配置される。
【0013】
第1速ギアG1は、第1変速機入力軸10Aに設けられた第1速入力歯車11と、変速機出力軸20上に設けられた第1速出力歯車21と、を互いに噛み合わせて構成する。
【0014】
第3速ギアG3は、第1変速機入力軸10Aに設けた第3速入力歯車13と、変速機出力軸20上に設けられた第3速出力歯車23と、を互いに噛み合わせて構成する。
【0015】
第5速ギアG5は、第1変速機入力軸10Aに設けられた第5速入力歯車15と、変速機出力軸20上に設けられた第5速出力歯車25と、を互いに噛み合わせて構成する。
【0016】
後退ギアGRは、第1変速機入力軸10Aに設けられた後退入力歯車17と、変速機出力軸20上に設けられた後退出力歯車27と、両歯車17,27に噛み合うリバースアイドラギア10Cと、により構成する。
【0017】
(2,4,6速)
第2変速機入力軸10Bには偶数変速段グループ(第2速、第4速、第6速)のギアが設けられている。エンジン側から順に第6速ギアG6、第2速ギアG2、および第4速ギアG4が配置される。
【0018】
第2速ギアG2は、第2変速機入力軸10Bに設けられた第2速入力歯車12と、変速機出力軸20上に設けられた第2速出力歯車22と、を互いに噛み合わせて構成する。
【0019】
第4速ギアG4は、第2変速機入力軸10Bに設けられた第4速入力歯車14と、変速機出力軸20上に設けられた第4速出力歯車24と、を互いに噛み合わせて構成する。
【0020】
第6速ギアG6は、第2変速機入力軸10Bに設けられた第6速入力歯車16と、変速機出力軸20上に設けられた第6速出力歯車26と、を互いに噛み合わせて構成する。
【0021】
第1速ギアG1と後退ギアGRとの間には1−R同期噛合機構100が設けられ、この1−R同期噛合機構100にはスリーブ(カップリングスリーブ)101が設けられている。この1−Rスリーブ101を1速ギアG1側(エンジン側)にストロークさせ、1速クラッチギアCG1にスプライン嵌合させて1速を達成する。
【0022】
一方、後退速選択時には1−Rスリーブ101を後退速ギアGR(エンジンと反対側)にストロークさせ、後退クラッチギアCGRにスプライン嵌合させることで後退速を達成する。
【0023】
同様に、第2速ギアG2と第4速ギアG4との間には2−4同期噛合機構200が設けられ、第3速ギアG3と第5速ギアG5との間には3−5同期噛合機構300が設けられている。
【0024】
各同期噛合機構200,300はそれぞれ2−4スリーブ201,3−5スリーブ301を有し、それぞれ2速ギアG2側、4速ギアG4側および3速ギアG3側、5速ギアG5側ににストロークさせて各ギアG2〜G5のクラッチギアCG2〜CG5に嵌合させ、各ギア段を達成する。
【0025】
また、第6速ギアG6と第4速ギアG4の間には6−N同期噛合機構400が設けられ、6−Nスリーブ401を6速側(エンジン側)にストロークさせて6速を達成する。
【0026】
各同期噛合機構100〜400の各スリーブ101〜401は、それぞれアクチュエータ油圧モジュール30からの油圧に基づきアクチュエータAC1〜AC4によって駆動される。また、各同期噛合機構100〜400にはポジションセンサP1〜P4が設けられ、位置信号をコントロールユニットCUへ出力する。
【0027】
1−RアクチュエータAC1は1速−後退速、3−5アクチュエータAC3は3速−5速の選択を行う。同様に2−4アクチュエータAC2は2速−4速、6−NアクチュエータAC4は6速の選択を行う。1−R,3−5アクチュエータAC1,AC3は第1、第2アクチュエータソレノイド31,32により駆動され、2−4,6−NアクチュエータAC2,AC4は第3、第4アクチュエータソレノイド33,34により駆動される。
【0028】
油圧モジュール30は、アクチュエータソレノイド31〜34および奇数、偶数変速段圧ソレノイド35,36、およびシーケンスソレノイド37を有する。シーケンスソレノイド37はOFFにより1,2,4速および後退速を選択可能とし、ONにより3,5,6速を選択可能とする。
【0029】
1−RアクチュエータAC1、3−5アクチュエータAC3の油圧はそれぞれ第1、第2アクチュエータソレノイド31,32により制御される。また、2−4アクチュエータAC2、6−NアクチュエータAC4の油圧はそれぞれ第3、第4アクチュエータソレノイド33,34により制御される。
【0030】
奇数変速段圧ソレノイド35は、ライン圧に基づき第1、第2アクチュエータソレノイド31,32(1,3,5速および後退速)へ奇数変速段圧油圧を供給する。また、偶数変速段圧ソレノイド36は、ライン圧に基づき第3、第4アクチュエータソレノイド33,34(2,4,6速)へ偶数変速段圧油圧を供給する。
【0031】
また、油圧モジュール30は第1、第2クラッチ制御圧ソレノイド38,39を有する。各クラッチ制御圧ソレノイド38,39はそれぞれ奇数、偶数変速段圧に基づき第1、第2クラッチ制御圧を調圧する。
【0032】
各ソレノイド31〜39はコントロールユニットCUからの指令に基づき駆動される。また、第1、第2変速機入力軸10A,10Bおよび変速機出力軸20には回転数センサ41,42および43が設けられ、コントロールユニットCUに回転数信号を出力する。
【0033】
[第1、第2クラッチ圧制御]
変速時において第1、第2クラッチCA,CBを掛け替える際に両クラッチCA,CBのインターロック(2重締結)が発生した場合、第1、第2クラッチ伝達トルク(伝達可能トルク)TA,TBの和=TA+TBがエンジントルクTeを一定値以上上回ると、エンジン負荷が急増して車両が急減速するおそれがある。
【0034】
したがって本願実施例では、インターロックによる車両急減速を回避するため、第1、第2クラッチ伝達トルクの和=TA+TBがエンジントルクTe+所定の閾値a以下となるよう、第1、第2クラッチCA,CBを制御する。
【0035】
なお、伝達トルクの和TA+TBとエンジントルクTeをわずかでも超過すればエンジン負荷は大きくなるが、超過する量が小さければ車両急減速が発生するほどの負荷は発生しない。そのため所定の閾値aを設け、伝達トルクの和TA+TBがエンジントルクTe+所定の閾値a以下となれば、発生する車両減速度が許容範囲内となるものとする。
【0036】
これにより、機械的手段によらずコントロールユニットCUによってクラッチ同士のインターロックを防止し、インターロックによる車両急減速を回避する。
【0037】
[第1、第2クラッチ制御の経時変化]
図2は、変速時における第1、第2クラッチ伝達トルクTA,TBのタイムチャートである。変速以前において、第1、第2クラッチ伝達トルクの和TA+TBはエンジントルクTe+閾値a以下である。図2では変速に伴う第2クラッチCBから第1クラッチCAへの掛け替えの場合を示す。
【0038】
(時刻t0)
時刻t1において変速に伴うクラッチ掛け替え制御が開始され、第1クラッチ伝達トルクTBが増加を開始する。第2クラッチ伝達トルクTBは減少していないため、伝達トルクの和TA+TBの値が上昇する。
【0039】
(時刻t0〜t1)
時刻t0〜t1間において伝達トルクの和TA+TBの値が極大となるが、TA+TBの値はエンジントルクTe+閾値a以下に抑制されている。
【0040】
(時刻t1)
時刻t1において第2クラッチ伝達トルクTBが減少を開始する。これに伴い伝達トルクの和TA+TBの値も減少する。
【0041】
(時刻t2)
時刻t2において第2クラッチ伝達トルクTBと第1クラッチ伝達トルクTAの値が逆転し、TA≧TBとなる。
【0042】
(時刻t3)
時刻t3において第2クラッチ伝達トルクTBの減少が停止し、一定値となる。
【0043】
(時刻t4)
時刻t4において変速に伴うクラッチ掛け替え第1クラッチ伝達トルクTAが安定して上昇する。
【0044】
[本願実施例1の効果]
(1)2つの摩擦締結要素(第1、第2クラッチCA,CB)を備え、この2つの摩擦締結要素の伝達トルク(TA,TB)を制御する制御手段(コントロールユニットCU)を有する自動変速機において、制御手段は、2つの摩擦締結要素の伝達トルクの合計を所定値(Te+閾値a)以下に制御することとした。
【0045】
これにより、機械的手段によらずクラッチ同士のインターロックを防止し、インターロックによる車両急減速を回避することができる。
【0046】
(2)所定値は、2つの摩擦締結要素のインターロック時に発生する車両減速度が一定の値(エンジントルクTe+閾値a)以下となる値に設定されることとした。
【0047】
伝達トルクの和TA+TBがエンジントルクTeを超過する量が小さければ、大きな車両急減速が発生するほどのエンジン負荷は発生しない。したがって所定の閾値aを設け、伝達トルクの和TA+TBがエンジントルクTe+所定の閾値a以下であれば大きな車両急減速が発生しないものとすれば、第1、第2クラッチCA,CBの制御に余裕を持たせつつ車両急減速を回避することができる。
【0048】
(他の実施例)
以上、本発明の自動自動変速機を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成についてはこれらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本願自動変速機が適用されたツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの全体システム図である。
【図2】変速時における第1、第2クラッチ伝達トルクTA,TBのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0050】
CA 第1クラッチ
CB 第2クラッチ
G1〜G6 第1〜第6速ギア
GR 後退ギア
30 油圧モジュール
31〜34 アクチュエータソレノイド
35 奇数変速段圧ソレノイド
36 偶数変速段圧ソレノイド
37 シーケンスソレノイド
38,39 第1、第2クラッチ圧ソレノイド
100 1−R同期噛合機構
200 2−4同期噛合機構
300 3−5同期噛合機構
400 6−N同期噛合機構
101〜401 スリーブ
AC1 1−Rアクチュエータ
AC2 2−4アクチュエータ
AC3 3−5アクチュエータ
AC4 6−Nアクチュエータ
CU コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの摩擦締結要素を備え、この2つの摩擦締結要素の伝達トルクを制御する制御手段を有する自動変速機において、
前記制御手段は、前記2つの摩擦締結要素の伝達トルクの合計を所定値以下に制御すること
を特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機において、
前記所定値は、前記2つの摩擦締結要素のインターロック時に発生する車両減速度が一定の値以下となる値に設定されること
を特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−95728(P2008−95728A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275168(P2006−275168)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】