説明

自動変速機

【課題】 自動変速機において、フロント側からリヤ側へと延びる潤滑油の油路を安価にする。
【解決手段】 本発明は、トルクコンバータを収納するコンバータケース14と、該コンバータケース14がフロント側に結合されるとともにリヤ側の端部を閉塞するリヤ壁部16を備えて変速機構を収納する変速機ケース12とを有する自動変速機であって、コンバータケース14に形成されて潤滑油が導入される潤滑油導入路14bと、リヤ壁部16に形成されて潤滑油を変速機構に供給するリヤ側潤滑油供給路16dと、上流端が潤滑油導入路14bに連通され、変速機ケース12内をリヤ壁部16に向かって延びて、下流端がリヤ側潤滑油供給路16dに連通された潤滑油供給パイプ30とを有し、潤滑油供給パイプ30は、コンバータケース14とリヤ壁部16とに長手方向に挟持されて支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される自動変速機に関し、自動車用自動変速機の製造技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクコンバータと変速機構とを有する自動変速機においては、変速機構の下部に配置されたオイルパンからオイルポンプにより吸入したオイルを、コントロールバルブユニットを介して変速機構を構成する摩擦要素やトルクコンバータに作動油として供給するとともに、トルクコンバータから排出された作動油は、熱交換器によって冷却し或いは加熱した上で、変速機構の各軸受部や摩擦板の潤滑油として、変速機構各部に供給するようになっている。
【0003】
その場合、変速機構においては、トルクコンバータから排出される潤滑油が該機構のトルクコンバータ側(以下、「フロント側」という)から供給されるだけでなく、反トルクコンバータ側(以下、「リヤ側」という)からも供給される。これにより、不足なく変速機構全体に潤滑油が供給される。
【0004】
そして、リヤ側にも潤滑油を供給するため、例えば特許文献1に記載された自動変速機のように、フロント側からリヤ側に延びる潤滑油用の油路が、変速機構を収納する変速機ケースの壁内に形成される。
【0005】
即ち、特許分文献1に記載された自動変速機の場合、潤滑油の油路は、変速機ケースのフロント側の壁部にトルクコンバータから排出された潤滑油が導入される導入口を有し、その導入口から周壁部内をリヤ側の壁部に向かって延び、さらにリヤ壁部内を該周壁部との接合部から中心部に向かって延びている。このリヤ壁部の中心部には、変速機構の中心部に配置された動力伝達軸を支持する支持部が形成されており、前記油路は、さらに該支持部を介して動力伝達軸内に形成されている油路に連通している。そして、この動力伝達軸内油路は、該軸の周囲に配置された変速機構に潤滑油を供給するための複数の孔を備えている。これにより、トルクコンバータから排出された潤滑油は、変速機ケースのフロント壁部、周壁部、リヤ壁部、動力伝達軸の支持部を通過する油路を介して動力伝達軸内の油路に流入し、該軸内油路から前記複数の孔を介してリヤ側から変速機構に供給される。
【0006】
なお、フロント側に配置されたトルクコンバータから排出された潤滑油をリヤ側に供給する油路としては、これ以外に、変速機構の中心部に配置された動力伝達軸内に形成することが考えられる。ただし、動力伝達軸内に変速機構の摩擦要素の制御圧の供給に使用される通路が形成される場合や、該動力伝達軸がフロント側とリヤ側とに分割されている場合などは、フロント側からリヤ側まで延びる1本の油路を形成することができず、特許文献1に記載の自動変速機のように、変速機ケースを利用して油路を形成する必要がある。
【0007】
【特許文献1】特開2007−162933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、変速機ケースの壁内にフロント側の端部からリヤ側の端部に延びる油路を形成するには、長くて細いドリルなどの切削工具を使用して時間をかけて加工する必要がある。そのため、油路の加工コストが高くなり、その結果、自動変速機の製造コストが上昇する。
【0009】
そこで、本発明は、変速機ケースのフロント側から導入される潤滑油をリヤ側に導いてリヤ側から変速機構に供給する油路を安価に形成することができる構造の自動変速機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、トルクコンバータを収納するコンバータケースと、該コンバータケースがフロント側に結合されるとともにリヤ側の端部を閉塞するリヤ壁部を備えて変速機構を収納する変速機ケースとを有する自動変速機であって、
コンバータケースに形成されて潤滑油が導入される潤滑油導入路と、
リヤ壁部に形成されて潤滑油を変速機構に供給するリヤ側潤滑油供給路と、
上流端が前記潤滑油導入路に連通され、変速機ケース内をリヤ壁部に向かって延びて、下流端が前記リヤ側潤滑油供給路に連通された潤滑油供給パイプとを有し、
前記潤滑油供給パイプは、コンバータケースとリヤ壁部とに長手方向に挟持されて支持されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動変速機において、
変速機構の中心部に配置されてリヤ壁部にその後端部が支持される動力伝達軸を有し、
前記リヤ側潤滑油供給路は、リヤ壁部の支持部を介して、前記動力伝達軸内に形成されて変速機構に潤滑油を供給する軸内油路に連通されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の自動変速機において、
前記潤滑油供給パイプは、変速機ケースのフロント側の端部に設けられたフロント壁部を貫通する支持孔に挿入されて支持されているとともに、該パイプの前記支持孔による被支持部に分岐孔が形成され、かつ、
前記フロント壁部の内部に、前記分岐孔と対向する導入口を備えて前記潤滑油供給パイプ内の潤滑油を変速機構に供給するフロント側潤滑油供給路が形成されていることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の自動変速機において、
前記潤滑油供給パイプは、変速機ケースの軸方向中間部に設けられた中間壁部を貫通する支持孔に挿入されて支持されているとともに、該パイプの前記支持孔による被支持部に分岐孔が形成され、かつ、
前記中間壁部の内部に、前記分岐孔と対向する導入口を備えて前記潤滑油供給パイプ内の潤滑油を変速機構に供給する中間部潤滑油供給路が形成されていることを特徴とする。
【0014】
加えて、請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の自動変速機において、
変速機ケースは、フロント側がリヤ側に比べて大径とされ
前記潤滑油供給パイプは、変速機ケースの内面に沿って屈曲状に配置されていることを特徴とする。
【0015】
加えてまた、請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の自動変速機において、
変速機ケースは、前記潤滑油供給パイプの配設位置近傍の周面に開口部を備えていること特徴とする。
【0016】
さらに加えて、請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の自動変速機において、
コンバータケースに取り付けられて潤滑油と他の媒体との間で熱交換する熱交換器を有し、
前記熱交換器の潤滑油導出口は、コンバータケースの前記潤滑油導入路の上流部に連通することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、トルクコンバータを収納するコンバータケースと、該コンバータケースがフロント側に結合されるとともにリヤ側の端部を閉塞するリヤ壁部を備えて変速機構を収納する変速機ケースとを有する自動変速機において、コンバータケースに形成されて潤滑油が導入される潤滑油導入路と、リヤ壁部に形成されて潤滑油を変速機構に供給するリヤ側潤滑油供給路と、上流端が潤滑油導入路に連通され、変速機ケース内をリヤ壁部に向かって延びて、下流端がリヤ側潤滑油供給路に連通された潤滑油供給パイプとが設けられる。そして、潤滑油供給パイプは、コンバータケースとリヤ壁部とに長手方向に挟持されて支持される。
【0018】
この潤滑油パイプにより、変速機ケースの壁内に油路を形成する必要がなくなる。また、潤滑油供給パイプが、コンバータケースと変速機ケースのリヤ壁部とに挟持されて支持されるため、別途、該パイプを支持するための部材を必要としない。その結果、フロント側からリヤ側に延びる油路のコストが安価で済み、自動変速機の製造コストの上昇が抑えられる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明によれば、変速機構の中心部に配置された動力伝達軸はその後端部がリヤ壁部に支持され、リヤ側潤滑油供給路は、リヤ壁部の支持部を介して、動力伝達軸内に形成されて変速機構に潤滑油を供給する軸内油路に連通される。これにより、リヤ側から変速機構に対してその中心部から潤滑油を供給することができる。
【0020】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、潤滑油供給パイプは、変速機ケースのフロント側の端部に設けられたフロント壁部を貫通する支持孔に挿入されて支持されているとともに、該パイプの前記支持孔による被支持部に分岐孔が形成される。また、フロント壁部の内部に、前記分岐孔と対向する導入口を備えて潤滑油供給パイプ内の潤滑油を変速機構に供給するフロント側潤滑油供給路が形成される。これにより、フロント側から変速機構に対して潤滑油を供給することができる。
【0021】
さらにまた、請求項4に記載の発明によれば、潤滑油供給パイプは、変速機ケースの軸方向中間部に設けられた中間壁部を貫通する支持孔に挿入されて支持されているとともに、該パイプの前記支持孔による被支持部に分岐孔が形成される。また、中間壁部の内部に、前記分岐孔と対向する導入口を備えて潤滑油供給パイプ内の潤滑油を変速機構に供給する中間部潤滑油供給路が形成される。これにより、軸方向中間部から変速機構に対して潤滑油を供給することができる。
【0022】
加えて、請求項5に記載の発明によれば、変速機ケースは、フロント側がリヤ側に比べて大径とされ、潤滑油供給パイプは、変速機ケースの内面に沿って屈曲状に配置されている。これにより、変速機ケース内部に、変速機構の構成要素を配置するための大きなスペースを確保することができる。
【0023】
加えてまた、請求項6に記載の発明によれば、変速機ケースは、潤滑油供給パイプの配設位置近傍の周面に開口部を備えている。これにより、開口部から手を入れて潤滑油供給パイプを容易に取り付けることができる。
【0024】
さらに加えて、請求項7に記載の発明によれば、コンバータケースに取り付けられて潤滑油と他の媒体との間で熱交換する熱交換器を有し、熱交換器の潤滑油導出口は、コンバータケースの前記潤滑油導入路の上流部に連通する。これにより、別途、潤滑油導入路と熱交換器の潤滑油導出口とを連通する部材が必要なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動変速機の外観を示している。符号10に示す自動変速機は、変速機構を収納する筒形状の変速機ケース本体12と、そのフロント側(図中左側)に結合されて内部にトルクコンバータを収納するコンバータケース14と、変速機ケース本体12のリヤ側(図中右側)を閉塞するリヤカバー16と、変速機ケース本体12の下部に取り付けられたオイルパン18と、コンバータケース14の側面に取り付けられた熱交換器20と、オイルパン18内に収納されたコントロールバルブユニット22とを有する。
【0026】
また、オイルパン18側から見た自動変速機を示す図2に示すように、変速機ケース本体12の周面に形成されてオイルパン18により閉じられる開口部12wを介して見える位置に、本発明の特徴である潤滑油供給パイプ30が配置されている。言い換えると、変速機ケース本体12は、潤滑油供給パイプ30の配設位置近傍の周面に開口部12wを備えている。
【0027】
図3は、図2と同一方向から見た、潤滑油供給パイプ30と、その周辺の構成要素の断面図を示している。
【0028】
図3に示すように、筒型の変速機ケース本体12と、変速機ケース本体12のリヤ側を閉塞するリヤカバー16と、コンバータケース14とケース本体12の間の空間に配置されるために図1や図2のように外観からでは視認できないが変速機ケース本体12のフロント側を閉塞するフロントカバー24とにより、変速機構を収納するケースが構成される。
【0029】
変速機ケースに収納される変速機構の構成要素として、第1クラッチ50と第2クラッチ52とがフロントカバー24側に、変速機ケース本体12の軸方向中間部に形成された中間壁部12aのリヤカバー16側に第1ブレーキ54、第2ブレーキ56、第3ブレーキ58、第1プラネタリギヤセット60、第2プラネタリギヤセット62、第3プラネタリギヤセット64が配置されている。また、中心部に、自動変速機10の動力伝達軸である、入力軸70が配置されている。この入力軸70は、リヤカバー16側の後端が、リヤカバー16の中心に形成されたボス部16aに挿入状態で支持されている。また、フロントカバー24側先端近傍で、フロントカバー24の中心に形成されたボス部24aに挿入状態で支持されている。さらに、自動変速機10の出力ギヤ72が中間壁部12aに軸受74を介して支持されている。
【0030】
第1クラッチ50、第2クラッチ52、第1ブレーキ54、第2ブレーキ56、第3ブレーキ58は、複数の摩擦板を備える多板型の摩擦締結要素である。
【0031】
第1、第2、第3プラネタリギヤセット60、62、64は、いずれもシングルピニオン型のプラネタリギヤセットであって、サンギヤ60a、62a、64aと、これらのサンギヤ60a、62a、64aにそれぞれ噛み合った各複数のピニオン60b、62b、64bと、これらのピニオン60b、62b、64bをそれぞれ支持するキャリア60c、62c、64cと、ピニオン60b、62b、64bにそれぞれ噛み合ったリングギヤ60d、62d、64dとで構成されている。
【0032】
そして、入力軸70が第3プラネタリギヤセット64のサンギヤ64aに連結されていると共に、第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aと第2プラネタリギヤセット62のサンギヤ62a、第1プラネタリギヤセット60のリングギヤ60dと第2プラネタリギヤセット62のキャリア62c、第2プラネタリギヤセット62のリングギヤ62dと第3プラネタリギヤセット64のキャリア64cが、それぞれ連結されている。そして、第1プラネタリギヤセット60のキャリア60cに出力ギヤ72が連結されている。
【0033】
また、第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60a及び第2プラネタリギヤセット62のサンギヤ62aは、第1クラッチ50を介して入力軸70に断接可能に連結されている。また、第2プラネタリギヤセット62のキャリア62cは、第2クラッチ52を介して入力軸70に断接可能に連結されている。
【0034】
さらに、第1プラネタリギヤセット60のリングギヤ60d及び第2プラネタリギヤセット62のキャリア62cは、並列に配置された第1ブレーキ54及びワンウェイクラッチ66を介して変速機ケース本体12に断接可能に連結されており、第2プラネタリギヤセット62のリングギヤ62d及び第3プラネタリギヤセット64のキャリア64cは、第2ブレーキ56を介して変速機ケース本体12に断接可能に連結されており、さらに、第3プラネタリギヤセット64のリングギヤ64dは、第3ブレーキ58を介して変速機ケース本体12に断接可能に連結されている。
【0035】
以上の構成により、この自動変速機10によれば、第1、第2クラッチ50、52及び第1、第2、第3ブレーキ54、56、58の締結状態の組み合わせにより、前進6速と後退速とが得られるようになっており、その組み合わせと変速段の関係を図4の締結表に示す。
【0036】
即ち、1速では、第1クラッチ50と第1ブレーキ54とが締結され、入力軸70の回転は、第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aに入力され、該ギヤセット60により大きな減速比で減速されて該ギヤセット60のキャリア60cから出力ギヤ72に出力される。なお、第1ブレーキ54はエンジンブレーキを作動させる1速でのみ締結され、エンジンブレーキを作動させない1速では、ワンウェイクラッチ66がロックすることにより1速を形成する。
【0037】
2速では、第1クラッチ50と第2ブレーキ56とが締結され、入力軸70の回転は、第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aに入力されると同時に、第2プラネタリギヤセット62を介して第1プラネタリギヤセット60のリングギヤ60dにも入力され、入力軸70の回転は前記1速よりも小さな減速比で減速されて、第1プラネタリギヤセット60のキャリア60cから出力ギヤ72に出力される。
【0038】
3速では、第1クラッチ50と第3ブレーキ58とが締結され、入力軸70の回転は、第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aに入力されると同時に、第3プラネタリギヤセット64及び第2プラネタリギヤセット62を介して第1プラネタリギヤセット60のリングギヤ60dにも入力され、入力軸70の回転は前記2速よりもさらに小さな減速比で減速されて、第1プラネタリギヤセット60のキャリア60cから出力ギヤ72に出力される。
【0039】
4速では、第1クラッチ50と第2クラッチ52とが締結され、入力軸70の回転は、第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aに入力されると同時に、第2プラネタリギヤセット62を経由してそのまま第1プラネタリギヤセット60のリングギヤ60dにも入力される。これにより、第1プラネタリギヤセット60の全体が入力軸70と一体的に回転し、キャリア60cから減速比1の回転が出力ギヤ72に出力される。
【0040】
5速では、第2クラッチ52と第3ブレーキ58とが締結され、入力軸70の回転は、第2プラネタリギヤセット62を経由してそのまま第1プラネタリギヤセット60のリングギヤ60dに入力されると同時に、第3プラネタリギヤセット64及び第2プラネタリギヤセット62を介して第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aにも入力され、入力軸70の回転は増速されて、第1プラネタリギヤセット60のキャリア60cから出力ギヤ72に出力される。
【0041】
6速では、第2クラッチ52と第2ブレーキ56とが締結され、入力軸70の回転は、第2プラネタリギヤセット62を経由してそのまま第1プラネタリギヤセット60のリングギヤ60dに入力されると同時に、第2プラネタリギヤセット62を介して第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aにも入力され、入力軸70の回転は、前記5速よりも大きな増速比で増速されて、第1プラネタリギヤセット60のキャリア60cから出力ギヤ72に出力される。
【0042】
そして、後退速では、第1ブレーキ54と第3ブレーキ58とが締結され、入力軸70の回転は、第3プラネタリギヤセット64及び第2プラネタリギヤセット62を介して第1プラネタリギヤセット60のサンギヤ60aに入力される。このとき、第2プラネタリギヤセット62において回転方向が逆転されることにより、第1プラネタリギヤセット60のキャリア60cから出力ギヤ72に入力軸70の回転方向と反対方向の回転が出力される。
【0043】
2つのクラッチ50、52と、3つのブレーキ54、56、58と、3つのシングルピニオン型プラネタリギヤセット60、62、64とにより、前進6速及び後退速が可能な自動変速機10が実現される。
【0044】
ここからは、潤滑油の流れを説明しつつ、その潤滑油が流れる油路や潤滑される変速機構の構成要素について説明する。
【0045】
潤滑油として、熱交換器20により他の媒体(例えば、冷却水)との間で熱交換されたオイルが変速機構の構成要素に供給される。
【0046】
図3に示すように、熱交換器20は、変速機ケース本体12近傍のコンバータケース14の外周部分に取り付けられており、コンバータケース14に形成された油路14aから器内に流入した、すなわちトルクコンバータの作動油として使用されたオイルを器内で他の媒体との間で熱交換する。そして、熱交換後のオイルを、コンバータケース14に形成された油路14b(請求の範囲に記載の「潤滑油導入路」に対応。)を介して変速機ケース本体12に潤滑油として供給する。熱交換器20の熱交換後のオイルを器内から外部に導出する導出口は、直接油路14bに連通されている。
【0047】
油路14bから流出した潤滑油(オイル)は、変速機ケース本体12内に配設されている潤滑油供給パイプ30内に流入する。具体的に説明すると、コンバータケース14の油路14bの流出口と対向する変速機ケース本体12のフロント側壁部12bの外周部分に軸方向に貫通する孔12cが形成されており、その孔12cに潤滑油供給パイプ30の一端が挿入支持されている。
【0048】
この潤滑油供給パイプ30は、図3および図5を用いて詳細に説明すると、パイプ部30aと、その両端に形成されて孔に挿入支持される被支持部30b、30cとで構成されている。また、潤滑油供給パイプ30は、フロント側がリヤ側に比べて大径であるために屈曲した変速機ケース本体12の内面に沿うように、屈曲状に形成されている。
【0049】
潤滑油供給パイプ30の被支持部30bはほぼ筒形状の部材であって、一端がパイプ部30aの一端と溶接などにより接合されている。この被支持部30bは、変速機ケース本体12のフロント壁部12bに形成された孔12cに挿入され、その孔12cとの隙間を密閉するためのシール部材30c、30dがパイプ部30a側と反パイプ部30a側とにそれぞれ取り付けられている。また、被支持部30bには、パイプ部30a側にストッパ部30eが形成されている。このストッパ部30eが、変速機ケース本体12のフロント壁部12bに形成された孔12cの反コンバータケース14側の端部の小径部12dにあたり、該孔12cからの潤滑油供給パイプ30の抜け落ちが防止される。なお、小径部12dは、潤滑油供給パイプ30のパイプ部30aと被支持部30cとが通過可能な大きさの径である。さらに、被支持部30bの2つのシール部材30c、30dの間には、内部から外部を連絡する、すなわち潤滑油の流れがパイプ部30aから分岐する分岐孔30fが形成されている。この分岐孔30fについての詳細は後述する。
【0050】
一方の被支持部30cもほぼ筒形状の部材であって、一端がパイプ30aの他端と溶接などにより接合されている。この被支持部30cは、リヤカバー16の外周の円筒部16bの先端に形成された孔16cに挿入され、その孔16cとの隙間を密閉するためのシール部材30gが取り付けられている。
【0051】
図3に戻り、潤滑油供給パイプ30の被支持部30bに熱交換器20から流入した潤滑油は、一部が分岐孔30fを介して変速ケース本体12のフロント壁部12b内に形成された油路12e(請求の範囲に記載の「フロント側潤滑油供給路」に対応。)に流入し、残りがパイプ部30aに流入する。
【0052】
フロント壁部12bに形成されている油路12eは、フロントカバー24内に形成されている油路24b(請求の範囲に記載の「フロント側潤滑油供給路」に対応。)に連通している。この油路24bは、図3の部分拡大図である図6に示すように、フロントカバー24内を中心部に向い、さらにそこからボス部24aの先端部にまで延びており、そこにボス部24aの周囲に配置されている変速機構の構成要素に潤滑油を供給するための複数の孔24cを有する。これにより、太線矢印に示すように、油路24b内に流入した潤滑油は、複数の孔24cから流出し、第1クラッチ50の遠心バランス室50aや第2クラッチ52の遠心バランス室50b、その他の第1クラッチ50、第2クラッチ52に関連する回転要素の軸受部に供給される。
【0053】
一方、図3に戻り、潤滑油供給パイプ30のパイプ部30aを流れる潤滑油は、該パイプ30の被支持部30cが挿入された孔16cと連通する油路16d(請求の範囲に記載の「リヤ側潤滑油供給路」に対応。)に流入する。この油路16dは、リヤカバー16内を外周側から中心に向かって延びており、図3の部分拡大図である図7に示すように、ボス部16a内部に流出口16eを備えるとともに、ボス部16a近傍で開口する複数の流出口16fを備えている。
【0054】
ボス部16a内の流出口16eに対向するように流入口70aを備える油路70bが、入力軸70内に軸心に沿って形成されている。この油路70bは、図3に示すように、入力軸70のほぼ中央まで延びている。また、油路70bから入力軸70の外周に配置されている変速機構の構成要素に潤滑油を供給するための複数の孔70cを有する。
【0055】
これにより、太線矢印に示すように、油路16dに流入した潤滑油は、流出口16eを介して入力軸70内の油路70bに流入し、流出口16fを介して第3ブレーキ58や第3プラネタリギヤセットのピストン64bの軸受部などに供給される。入力軸70内の油路70bに流入した潤滑油は、複数の孔70cを介して第1クラッチ50、第2クラッチ52(図6参照。)や、第1ブレーキ54、第2ブレーキ56、第1及び第2プラネタリギヤセットのピストン60b、62bの軸受部、ワンウェイクラッチ66、軸受74などに供給される。
【0056】
ここからは、潤滑油供給パイプ30の取り付け方法について説明する。図3を用いて説明すると、オイルパン18とコンバータケース14が変速機ケース本体12に結合されていない段階で、潤滑油供給パイプ30は取り付けられる。
【0057】
まず、潤滑油供給パイプ30の被支持部30cを、変速機ケース本体12のフロント壁部12bに形成された孔12にフロント側から通過させる。通過後、図2に示すように、変速機ケース本体12の開口部12wを介して潤滑油供給パイプ30を確認しながら、その被支持部30cをリヤカバー16の孔16cに挿入する。その挿入後、コンバータケース14を変速機ケース本体12に結合することにより、潤滑油供給パイプ30を、被支持部30bのストッパ部30eが孔12cの小径部12dに移動を規制されるまで押し込む。これにより、潤滑油供給パイプ30は、両端でコンバータケース14とリヤカバー16とに長手方向に挟持されて支持されるとともに、両端それぞれが対応する孔12c、16cに挿入支持される。
【0058】
本実施形態によれば、潤滑油パイプ30により、変速機ケース本体12の壁内に油路を形成する必要がなくなる。また、潤滑油供給パイプ30が、コンバータケース14と変速機ケースのリヤカバー16とに挟持されて支持されるため、別途、該パイプ30を支持するための部材を必要としない。その結果、フロント側からリヤ側に延びる油路のコストが安価で済み、自動変速機10の製造コストの上昇が抑えられる。
【0059】
また、図3に示しように、変速機構の中心部に配置された入力軸70はその後端部がリヤカバー16に支持され、リヤカバーの潤滑油の油路16dは、リヤカバー16のボス部16aを介して、入力軸70内に形成されて複数の孔70cを介して変速機構に潤滑油を供給する油路70bに連通される。これにより、リヤ側から変速機構に対してその中心部から潤滑油を供給することができる。
【0060】
さらに、潤滑油供給パイプ30は、図3に示すように、変速機ケース本体12のフロント側の端部に設けられたフロント壁部12bを貫通する孔12cに挿入されて支持されているとともに、該パイプ30の孔12cによる被支持部30bに分岐孔30fが形成される。また、フロント壁部12bとフロントカバー24との内部に、分岐孔30fと対向する導入口を備えて潤滑油供給パイプ30内の潤滑油を変速機構に供給する油路12e、24bが形成される。これにより、フロント側から変速機構に対して潤滑油を供給することができる。
【0061】
さらにまた、変速機ケース本体12は、図3に示すように、フロント側がリヤ側に比べて大径とされ、潤滑油供給パイプ30は、変速機ケース本体12の内面に沿って屈曲状に配置されている。これにより、変速機ケース本体12内部に、変速機構の構成要素を配置するための大きなスペースを確保することができる。
【0062】
加えて、変速機ケース本体12は、図2に示すように、潤滑油供給パイプ30の配設位置近傍の周面に開口部12wを備えている。これにより、開口部12wから手を入れて潤滑油供給パイプ30を容易に取り付けることができる。
【0063】
加えてまた、コンバータケース14に取り付けられて潤滑油と他の媒体との間で熱交換する熱交換器20の潤滑油導出口は、コンバータケース14の油路14bの上流部に連通する。これにより、別途、油路14bと熱交換器20の潤滑油導出口とを連通する部材が必要なくなる。
【0064】
以上、一実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0065】
例えば、上述の実施形態の場合、変速機構を収納する変速機ケースは、筒形状の変速機ケース本体12と、リヤ側を閉塞するリヤカバー16と、フロント側を閉塞するフロントカバー24とで構成されるものであったが、これに限らない。リヤカバー16と変速機ケース本体12とが一体に成形されて、フロントカバー24で閉塞するケース構造であってもよい。この場合、リヤカバーはケースのリヤ壁部となる。これとは逆に、フロントカバー24と変速機ケース本体12とが一体に成形されて、リヤカバー16で閉塞するケース構造であってもよい。この場合、フロントカバーはケースのフロント壁部となる。
【0066】
また、上述の実施形態の場合、変速機構に対してリヤ側とフロント側とから潤滑油を供給する、すなわちコンバータからの潤滑油をフロント側とリヤ側とに分流する構造であるが、リヤ側からのみで変速機構に対して潤滑油を供給してもよい。この場合、例えば、入力軸内に形成される油路をリヤ側先端からフロント側先端まで延びるように形成し、フロント側の油路部分にその外周に配置された構成要素に潤滑油を形成するための複数の孔を設ければよい。
【0067】
さらに、上述の実施形態の場合、変速機構の一部の構成要素に対して供給される潤滑油は、入力軸内の油路を介するものであったが、これに限らない。この場合、例えば、変速機ケースのフロント側とリヤ側から変速機構に潤滑油を直接供給してもよい。
【0068】
さらにまた、変速機構に供給される潤滑油は、熱交換器によって熱交換された後のオイルであったがこれに限らない。例えば、変速機構は、コンバータケースから熱交換器を介さず潤滑油(オイル)を直接供給されてもよい。
【0069】
加えて、上述の実施形態の場合、図3に示すように、出力ギヤ72を支持する軸受74に供給される潤滑油は、リヤカバー16内の油路16d、入力軸70内の油路70bを介したものであるが、これに限らない。例えば、図8に示すように、中間壁部112aを中心部側から変速機ケース本体112の周壁部まで達するように該本体ケース112を構成し、その中間壁部112aに貫通する孔112aaを形成し、その貫通孔112aaに挿入されて支持される潤滑油供給パイプ130の被支持部130hに分岐孔130iを形成し、その分岐孔130iと出力ギヤ172を支持する軸受174とを接続する油路112abを中間壁部112a内に形成してもよい。これにより、変速機構に対してその軸方向中間部から潤滑油を供給することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明は、自動変速機において、変速機ケースのフロント側から導入される潤滑油をリヤ側に導いてリヤ側から変速機構に供給する油路を、パイプで構成することにより、該油路を安価に形成することができる。したがって、自動車用自動変速機の製造技術の分野において好適に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動変速機の外観図である。
【図2】図1の自動変速機をオイルパン側から見た、またオイルパン内部を一部示した図である。
【図3】図2と同一方向から見た、潤滑油供給パイプ周辺の断面図である。
【図4】自動変速機の変速段を決める締結表を示す図である。
【図5】潤滑油供給パイプの詳細図である。
【図6】図3の部分拡大図である。
【図7】別の図3の部分拡大図である。
【図8】別の実施形態の潤滑油供給パイプと変速機ケース本体の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
12 変速機ケース(変速機ケース本体)
14 コンバータケース
14b 潤滑油導入路(油路)
16 リヤ壁部(リヤカバー)
16d リヤ側潤滑油供給路(油路)
30 潤滑油供給パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータを収納するコンバータケースと、該コンバータケースがフロント側に結合されるとともにリヤ側の端部を閉塞するリヤ壁部を備えて変速機構を収納する変速機ケースとを有する自動変速機であって、
コンバータケースに形成されて潤滑油が導入される潤滑油導入路と、
リヤ壁部に形成されて潤滑油を変速機構に供給するリヤ側潤滑油供給路と、
上流端が前記潤滑油導入路に連通され、変速機ケース内をリヤ壁部に向かって延びて、下流端が前記リヤ側潤滑油供給路に連通された潤滑油供給パイプとを有し、
前記潤滑油供給パイプは、コンバータケースとリヤ壁部とに長手方向に挟持されて支持されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機において、
変速機構の中心部に配置されてリヤ壁部にその後端部が支持される動力伝達軸を有し、
前記リヤ側潤滑油供給路は、リヤ壁部の支持部を介して、前記動力伝達軸内に形成されて変速機構に潤滑油を供給する軸内油路に連通されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動変速機において、
前記潤滑油供給パイプは、変速機ケースのフロント側の端部に設けられたフロント壁部を貫通する支持孔に挿入されて支持されているとともに、該パイプの前記支持孔による被支持部に分岐孔が形成され、かつ、
前記フロント壁部の内部に、前記分岐孔と対向する導入口を備えて前記潤滑油供給パイプ内の潤滑油を変速機構に供給するフロント側潤滑油供給路が形成されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項4】
請求項1または2に記載の自動変速機において、
前記潤滑油供給パイプは、変速機ケースの軸方向中間部に設けられた中間壁部を貫通する支持孔に挿入されて支持されているとともに、該パイプの前記支持孔による被支持部に分岐孔が形成され、かつ、
前記中間壁部の内部に、前記分岐孔と対向する導入口を備えて前記潤滑油供給パイプ内の潤滑油を変速機構に供給する中間部潤滑油供給路が形成されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の自動変速機において、
変速機ケースは、フロント側がリヤ側に比べて大径とされ
前記潤滑油供給パイプは、変速機ケースの内面に沿って屈曲状に配置されていることを特徴とする自動変速機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の自動変速機において、
変速機ケースは、前記潤滑油供給パイプの配設位置近傍の周面に開口部を備えていること特徴とする自動変速機。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の自動変速機において、
コンバータケースに取り付けられて潤滑油と他の媒体との間で熱交換する熱交換器を有し、
前記熱交換器の潤滑油導出口は、コンバータケースの前記潤滑油導入路の上流部に連通することを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−25213(P2010−25213A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186671(P2008−186671)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】