説明

自動車のドライブトレーン

本発明は、自動車のドライブトレーンであって、駆動エンジンと、トルクコンバータと、補助ブレーキ、例えばエンジンブレーキ、リターダまたはハイブリッドモジュールと、前記駆動エンジンの燃料調整部材用の手動操作可能な作動装置と、前記トルクコンバータの動作範囲用の手動操作可能な予選択部材と、前記補助ブレーキの所定の制動抵抗を選定するための手動操作可能な予選択部材(1)と、該自動車の走行速度を低減するブレーキを作動させるための手動操作可能な作動部と、該ドライブトレーンおよび/または該自動車の信号ならびにデータを受信および処理および送信するための電子制御ユニットとを具備するドライブトレーンに関する。
この種のドライブトレーンにおいて車両の非駆動の惰走運転または惰力運転を明示的に手動で要求できるように、本発明では、前記補助ブレーキの予選択部材(1)が、前記電子制御ユニットに接続されており、その際、制御技術上、該予選択部材が、ゼロ位置「0」から該補助ブレーキの制動抵抗の選定を信号化するための方向「I」へも、前記駆動エンジンの駆動トルクを取り除くという意味で非駆動である、該自動車の惰走運転または惰力運転の開始を信号化するための別の方向「II」へも操作可能であるように接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、自動車のドライブトレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料消費量を低減するためにフリーホイール機能を備えている車両が、かなり以前から実用上知られている。フリーホイール機能が働くことによって、例えば、運転者が燃料スロットルを絞った場合にドライブトレーンにおけるクラッチが開くことによって、駆動している内燃機関が、駆動されている車両の車輪から分離される。このとき、内燃機関の回転数をアイドリング回転数にまで戻すことで、燃料を節約することができる。また、さらに大きく消費量を低減するために、自動車がこの種の非駆動の惰行運転段階にあるとき、内燃機関への燃料供給を完全に遮断することが知られている。しかしこの場合、補助装置を駆動するために必要なコストが増大する。しかしながら、どちらの運転方法の場合も、車両の惰行運転時に内燃機関の制動作用を欠いている。
【0003】
当業者には明らかなように、内燃機関に対する上記の運転方法では、ダウンヒル走行時に自動車の速度は上昇を続けてしてしまう。この速度は、エンジンブレーキの作用がない場合、常用ブレーキまたは補助ブレーキ(リターダ)を操作することでしか低減できない。乗用車の場合、通例、車輪側の常用ブレーキしか利用できず、従って、乗用車の場合、急勾配のダウンヒル走行時、惰行運転は通常避けられる。
【0004】
さらに、貨物自動車である登録商標Volvo(R)FH12によって知られているドライブトレーンは、内燃機関として構成された駆動エンジンと、12個の予選択部材を有する自動スプリッタ変速機として構成されているトルクコンバータと、燃料調整部材(例えば燃料噴射ポンプ)用の、アクセルペダルとしての手動操作可能な作動装置と、運転者席の横に配置された、変速ギア位置選択レバーとしての手動操作可能な予選択部材とを具備しており、さらに、車両の走行速度を低減させる常用ブレーキを操作するための、ブレーキペダルとしての手動操作可能な作動部を具備している。
【0005】
このドライブトレーンに付設された電子制御ユニットが、とりわけ、駆動出力を必要としない状態またはエンジンブレーキがオンに切り替えられていない状態であるか、および、自動速度調整装置がオンに切り替えられているかどうか、および、変速機が自動モードにあるかどうか、および、前進ギア7から12のうち1つが入っているかどうかを検出する。全てのこれらの条件が共に当てはまっている場合、スプリッタ変速機は、自動的にニュートラルモードに切り替えられ、その結果、内燃機関と駆動される車輪との間のトルク伝達作用が取り除かれた状態になる。
【0006】
冒頭に挙げた、ダウンヒル走行時の問題に対処するために、この公知のフリーホイール機構は、ブレーキペダルまたはアクセルペダルが操作されたとき、あるいはエンジンブレーキがオンに切り替えられたときに、ドライブトレーンにおけるトルクの流れを新たにつなぐことによって即座に停止される。
【0007】
また、非公開の特許文献1によって、車両のドライブトレーンを駆動するための方法が提案されており、この方法には、駆動エンジン、例えば内燃機関と、トルクコンバータ、例えば自動変速機としてまたは自動化されたギアボックスとして構成されたトルクコンバータとが含まれており、さらに、駆動エンジンの燃料調整部材用の手動操作可能な作動装置と、トルクコンバータの、または変速機の動作範囲用の手動操作可能な予選択部材と、車両の走行速度を低減するブレーキを操作するための手動操作可能な作動部と、ドライブトレーンおよび/または車両の信号ならびにデータを受信および処理および送信するための電子制御ユニットとが具備されている。また、このドライブトレーンに、フリーホイール機能を有するフリーホイール機構が付設されている。
【0008】
燃料調整部材用の作動装置を操作することによって、またはブレーキに作用する作動部を操作することによって迅速かつ柔軟に、「フリーホイール効果が解放されている」状態と「フリーホイールが阻止されている」状態との間を切り替えることができるように、上記のフリーホイール機構が、ドライブトレーンに以下のように付設されている。すなわち、
a)惰行運転時に、燃料調整部材用の作動装置が操作されていない場合、まず、フリーホイール機能が解放され、および、
b)次に走行速度を低減するための作動部が操作されたとき、フリーホイール機能が阻止され、および、
c)フリーホイール機能を惰行運転時に再び解放しようとするとき、燃料調整部材用の作動装置を操作することによってこの解放が生じる
ように付設されている。
【0009】
さらに、補助ブレーキ、特にいわゆる流体式リターダまたは電気式リターダが実用上知られている。これらは、特に商用車で用いられ、車輪側の常用ブレーキへの負荷を軽減する働きをする。その際、補助ブレーキは、従来のエンジンブレーキに加えて、リターダ内部の流体摩擦または電気的な渦電流の発生によって制動作用を増大させる。この場合、例えば操作レバーとしての予選択部材によって、運転者側が要求する制動力があらかじめ設定される。その際、操作レバーがゼロ位置から次第にまたは段階的に移動されるに従って、制動抵抗は増大していく。リターダは、電子制御ユニットに接続されており、適宜制御することができる。
【0010】
こういったことにもかかわらず、既に述べたように、ある種の運転状態では、車両を、制動されていない惰走状態にすることが有意かつ有利となることがあり、こうすることによって、燃料を節約し、騒音およびエミッションを低減することができる。
【特許文献1】独国特許出願第102005003608.2号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景の下、本発明の課題は、補助ブレーキ、特にリターダを具備する自動車ドライブトレーンに関して、従来技術をさらに改良し、容易かつ費用対効果に優れた方法を提供することで、制動されていない車両の惰走状態(また惰走運転(Rollbetrieb)あるいは惰力運転(Segelbetrieb)とも呼ぶ)を明示的に要求できるようにすること、および、この運転状態を実現するための手順を運転者にとって容易かつ分かりやすいものにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は主請求項に記載の特徴によって解決される。また、本発明の有利な形態および発展形態については従属請求項に記載されている。
【0013】
従って、本発明は、自動車のドライブトレーンであって、駆動エンジンと、トルクコンバータと、補助ブレーキ、例えばエンジンブレーキまたはリターダまたはハイブリッドモジュールと、駆動エンジンの手動操作可能な燃料調整部材用作動装置と、トルクコンバータの手動操作可能な動作範囲用予選択部材と、補助ブレーキの所定の制動抵抗を選定するための手動操作可能な予選択部材と、自動車の走行速度を低減するブレーキを作動させるための手動操作可能な作動部と、ドライブトレーンおよび/または自動車の信号ならびにデータの受信および処理および送信を行うための電子制御ユニットとを具備するドライブトレーンに関する。
【0014】
「トルクコンバータ」という概念は、駆動エンジンの供給するトルクを変更し、伝達できる全ての装置を含むことをここで指摘しておく。従って、この概念は、どのような設計の変速機も明示的に含むものとする。
【0015】
本ドライブトレーンの場合、上記課題を解決するためにさらに以下のことが想定されている。すなわち、補助ブレーキの予選択部材が、電子制御ユニットに接続されており、その際、制御技術上、予選択部材が、ゼロ位置「0」から、補助ブレーキの制動抵抗の選定を信号化するための方向「I」へも、駆動エンジンの駆動トルクを取り除くという意味で非駆動である、自動車の惰走運転または惰力運転の開始を信号化するための別の方向「II」へも操作可能であるように接続されている。
【0016】
この措置によって、有利には、それ自体公知である補助ブレーキ用予選択部材にとって、さらに選択可能性が広がる。すなわち、駆動エンジンの駆動トルクを取り除くという意味で、また好ましくはドライブトレーンにおけるクラッチを開くという意味で、自動車の非駆動の惰走運転または惰力運転を開始することが可能となる。このために、ゼロ位置からこの惰走運転または惰力運転を開始するための予選択部材の操作機構が、補助ブレーキの制動抵抗を選定するための操作方向とは違った方向、好ましくは反対方向に動かされる。
【0017】
その際、予選択部材の各操作方向は、運転者にとって論理的に理解しやすい方向である。惰走運転または惰力運転の開始はまた、駆動エンジンの制動トルクを取り除くことを意味し、これは、補助ブレーキによる制動トルクの印加とは論理的に逆であるからである。
【0018】
特に有利には、前述の両操作は、既存のただ1つの予選択部材にまとめられており、これにより、非駆動の惰走運転または惰力運転を開始するための操作部材を追加する必要がない。
【0019】
本発明の特に有利な1つの形態では、補助ブレーキと惰走運転または惰力運転との予選択部材が、少なくとも、駆動エンジンの駆動トルクを取り除くという意味で惰走運転または惰力運転を開始するための位置から自らのゼロ位置または非移動位置へ自動的に素早く戻る予選択部材として構成されており、従って、惰走運転または惰力運転の開始位置は、嵌まり込むようには構成されておらず、従って、この予選択部材は、操作終了後、再び自らのゼロ位置または非移動位置へ自動的に、例えばばね力によって素早く戻る。
【0020】
これにより、以下のことを実現するための前提条件が整うと有利である。すなわち、自動車の惰走運転または惰力運転が生じている場合、駆動エンジンの燃料調整部材用作動装置を操作すること、補助ブレーキの所定の制動抵抗を選定するための予選択部材を操作すること、自動車の走行速度を低減するブレーキを作動させるための作動部を操作することによって、および/または自動車の他の運転条件および/または走行条件に応じて、例えば、現在の走行速度、駆動エンジンの温度および/またはリターダの機能に必要な流体の温度、トルクコンバータまたは変速機の現在入っているギア、測定されたまたは算出された駆動トルク、他の車両に関して得られている最新の距離および/または速度の値、および/またはそれに類することに応じて、当該の惰走運転または惰力運転を終了することが可能となるのであり、しかも、この惰走運転または惰力運転を終了した後、この予選択部材が矛盾した操作状態に陥ることやそのような状態であり続けることがない。
【0021】
さらに、自動車の惰走運転または惰力運転が、駆動されている車両の車輪を駆動エンジンから分離するための、ドライブトレーン内の少なくとも1つのフリーホイール機構、例えばクラッチ機構によって可能であることが想定されている。
【0022】
最後に、補助ブレーキの予選択部材が、旋回レバー、回転レバーまたは押引レバーとして構成されていることが提案される。
【0023】
本発明を明らかにするために、本説明には図面が1枚添付されている。図1から図3に、補助ブレーキの前記予選択部材について3つの可能な実施形態が模式的に例示されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1には、それ自体公知であるので詳細には示されていない自動車ドライブトレーンの内部に配置されている、同様にここには示されていない補助ブレーキの予選択部材1が、ノブ2を具備する旋回レバー1aとして構成されている。旋回レバー1aの自らの初期位置は、「0」で示されたゼロ位置あるいは非移動位置であり、本発明では、2つの別個の操作方向「I」および「II」へ該レバーを旋回することができる。
【0025】
この図から分かるように、操作方向「I」および「II」は、好ましくは真逆方向である。しかし、操作方向「I」および「II」は、その他の互いに異なる方向も可能であり、従って、これらの操作方向も本発明に包含されている(詳述はしない)。
【0026】
操作方向「I」は、この実施形態では、補助ブレーキによって印加されるべき所定の制動抵抗を選定することを含むものとし、その際、旋回レバー1aの旋回角度が大きくなるにつれて、制動抵抗が増大するものとする。
【0027】
一方、操作方向「II」は、自動車の惰走運転または惰力運転を開始することを含み、そこに記された双方向矢印は、旋回レバー1aが、少なくとも、惰走運転または惰力運転の操作後または開始後に自動的に自らの初期位置あるいはゼロ位置へ素早く戻ることを表している。
【0028】
旋回レバー1aは、それ自体公知の、ここには示されていない制御ユニットに電気的に接続されており、この制御ユニットは、補助ブレーキの制動抵抗を選択された制動抵抗値に調節するために、あるいは例えばドライブトレーン内のクラッチを開放することによって自動車の惰走運転または惰力運転を開始するために、適当な制御信号を生成する。
【0029】
自動車の惰走運転または惰力運転が生じている場合、好ましくは、駆動エンジンの燃料調整部材用作動装置を操作すること、および/または補助ブレーキの所定の制動抵抗を選定するための方向へ予選択部材1あるいは旋回レバー1aを操作すること、および/または自動車の走行速度を低減するブレーキを作動させるための作動部を操作することによって、および/または自動車の他の運転条件および/または走行条件に応じて、例えば、現在の走行速度、駆動エンジンの温度および/またはリターダの機能に必要な流体の温度、トルクコンバータまたは変速機の現在入っているギア、測定されたまたは算出された駆動トルク、他の車両に関して得られている最新の距離および/または速度の値、および/またはそれに類することに応じて、その惰走運転または惰力運転が終了される。また、補助ブレーキの予選択部材1あるいは旋回レバー1aは、自動的に回復することによって既に自らのゼロ位置あるいは非移動位置にあり、新たな操作のための待機状態にある。
【0030】
図2に記載の実施例は、旋回レバー1aの代わりに回転レバー1bが用いられている点でのみ、前述の実施例と異なっている。また、図3では、押引レバー1cが設けられている。これらの場合も、有利には、前述の両操作機能は、車両内に既に存在するただ1つの予選択部材1にまとめられている。ここでは、トレーンの各反応を引き起こすための操作方向「I」および「II」は異なっているものの、それぞれの操作方向に割り当てられている車両運転方法、例えば、惰力運転あるいは補助ブレーキ運転、特にリターダ制動運転は、3つの全ての実施形態において同じである。
【符号の説明】
【0031】
1 予選択部材1
1a 旋回レバー
1b 回転レバー
1c 押引レバー
2 ノブ
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドライブトレーンであって、駆動エンジンと、トルクコンバータと、補助ブレーキ、例えばエンジンブレーキ、リターダまたはハイブリッドモジュールと、前記駆動エンジンの燃料調整部材用の手動操作可能な作動装置と、前記トルクコンバータの動作範囲用の手動操作可能な予選択部材と、前記補助ブレーキの所定の制動抵抗を選定するための手動操作可能な予選択部材(1)と、該自動車の走行速度を低減するブレーキを作動させるための手動操作可能な作動部と、該ドライブトレーンおよび/または該自動車の信号ならびにデータを受信および処理および送信するための電子制御ユニットとを具備するドライブトレーンにおいて、
前記補助ブレーキの予選択部材(1)が、前記電子制御ユニットに接続されており、その際、制御技術上、該予選択部材が、ゼロ位置「0」から該補助ブレーキの制動抵抗の選定を信号化するための方向「I」へも、前記駆動エンジンの駆動トルクを取り除くという意味で非駆動である、該自動車の惰走運転または惰力運転の開始を信号化するための別の方向「II」へも操作可能であるように接続されていることを特徴とするドライブトレーン。
【請求項2】
前記補助ブレーキの予選択部材(1)が、少なくとも、該自動車の惰走運転または惰力運転を開始するための自らの位置から自らのゼロ位置または非移動位置へ自動的に素早く戻る予選択部材(1)として構成されていることを特徴とする請求項1に記載のドライブトレーン。
【請求項3】
該自動車の惰走運転または惰力運転が生じている場合、前記駆動エンジンの燃料調整部材用の作動装置を操作すること、および/または前記補助ブレーキの所定の制動抵抗を選定するための方向へ予選択部材(1)を操作すること、および/または該自動車の走行速度を低減するブレーキを作動させるための作動部を操作することによって、および/または自動車の他の運転条件および/または走行条件に応じて、例えば、現在の走行速度、該駆動エンジンの温度および/または前記リターダの機能に必要な流体の温度、前記トルクコンバータの現在入っているギア、測定されたまたは算出された駆動トルク、他の車両に関して得られている最新の距離および/または速度の値、および/またはそれに類することに応じて、該惰走運転または惰力運転を終了できることを特徴とする請求項1または2に記載のドライブトレーン。
【請求項4】
該自動車の惰走運転または惰力運転が、駆動されている該車両の車輪を駆動エンジンから分離するための、該ドライブトレーン内の少なくとも1つのフリーホイール機構、例えばクラッチ機構によって可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のドライブトレーン。
【請求項5】
前記補助ブレーキの予選択部材(1)が、旋回レバー(1a)または回転レバー(1b)または押引レバー(1c)として構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のドライブトレーン。

【公表番号】特表2009−524544(P2009−524544A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551665(P2008−551665)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012268
【国際公開番号】WO2007/085294
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(504111347)ツェットエフ フリードリヒスハーフェン アクチエンゲゼルシャフト (75)
【氏名又は名称原語表記】ZF Friedrichshafen Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】