説明

自動車のラゲッジルーム用ボード及びその製造方法

【課題】強化繊維材を混入させたプラスチック材を分割金型間に配置して成形される、1対の中空ボード部と該中空ボード部間に圧縮薄肉化したヒンジ部を一体に設けてなるボードにおいて、特にそのヒンジ部における強度及び耐久性の向上と、ボード全体における外観の向上を図ることができるようにした自動車のラゲッジルーム用ボード及びその製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維材を混入させたプラスチック材を分割金型間に配置して成形される1対の中空状をした前後のデッキボード部17a,17bと、デッキボード部17a,17b間に圧縮薄肉化してなるヒンジ部17cを一体に設けてなるデッキボード17において、ヒンジ部17cの裏面側に、成形過程の溶解樹脂が浸透されて付着された不織布22を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のリヤシートバックの直後に設けられたラゲッジルーム(荷室)のフロア等を覆い隠す自動車のラゲッジルーム用ボード及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハッチバックタイプの自動車等では、リヤシートバックとバックドアの間にラゲッジルームが形成されている。ところで、従来、デッキボードやラゲッジボードは、一般にブロー成形により、中空板状をしたプラスチック成形体として形成されている。それらのボードでは、ラゲッジルーム内に軽量の物からかなり重量のある物まで、様々な荷物が載せられることを想定して、例えば60キロ程度の荷物が載せられても耐え得るように設計されている。また、その強度を上げるのに、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維材を混入させたプラスチック材を使用することもある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献1等で知られるラゲッジルームは、ラゲッジルームのフロアパネル上に、工具類やスペアタイヤ等を収納する収納ボックスが設置されており、さらに収納ボックスの上部に、必要に応じて開閉及び取り外し可能なデッキボードが載置されている。そのデッキボードは、前端部分または中間部分等に薄肉部で形成されたヒンジ部(これを「インテグラルヒンジ」ともいう)が設けられており、その薄肉部の柔軟性を利用し、ヒンジ部を中心にして上下方向に回動させることにより開閉できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−503231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維材を混入させたプラスチック材を、ブロー成形により、中空板状体に形成するとともに、その一部に可撓性を有する薄肉のヒンジ部を設けたボードでは、強化繊維材を混入させたプラスチック材の性質から薄肉部分での柔軟性が乏しくなり、ヒンジ部が上下方向に繰り返し折り曲げられると、樹脂材が疲労してヒビが発生し易くなる。そして、ヒビの発生によってヒンジ部が脆くなり、耐久性が低下するという問題点があった。特許文献1にあってはこの問題点を解決するために、非補強プラスチックストリップをカーペットの裏面の部分に隣接して配置することが開示されている。しかしながら、このような構成にあっては、非補強プラスチックストリップを成形時に所定の箇所に位置決めすることが困難であり、特にその薄肉ヒンジ部の幅が大きい場合にはヒンジ部と非補強プラスチックストリップとの位置がズレてヒンジ部に発生するヒビを防止できないおそれがある。さらに、非補強プラスチックストリップはカーペットと一緒にブロー成形時にプラスチック材(パリソン)と一体に溶着固定する必要があるが、カーペットと異なり容易に貼着することができず、補強の効果を得ることができないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、強化繊維材を混入させたプラスチック材を分割金型間に配置して成形される、1対の中空ボード部と該中空ボード部間に圧縮薄肉化したヒンジ部を一体に設けてなるボードにおいて、特にそのヒンジ部における強度及び耐久性の向上と、ボード全体における外観の向上を図ることができるようにした自動車のラゲッジルーム用ボード及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る自動車のラゲッジルーム用ボードは、強化繊維材を混入させたプラスチック材を分割金型間に配置して成形した、1対の中空ボード部と該中空ボード部間に裏面側から表面側へ向けて分割金型により圧縮薄肉化して凹溝状に形成されたヒンジ部とを一体に設けてなる自動車のラゲッジルーム用ボードであって、前記ヒンジ部の裏面側に、成形過程の溶融状態のプラスチック材が浸透されて付着された不織布を設けてなる。
【0008】
一般に、強化繊維材を混入させたプラスチック材では、柔軟性が乏しくなり、また薄肉状に形成されたヒンジ部では繰り返し折り曲げられるとヒビが発生して脆くなるという問題がある。しかし、本発明の構成では、圧縮薄肉化して形成されたヒンジ部の裏面側には、成形過程の溶融状態のプラスチック材が浸透されてヒンジ部と一体化された不織布が付着されているので、このプラスチック材と一体化された不織布がヒンジ部の強度を向上させてヒビ割れを防止する。
【0009】
上記構成において、前記1対のボード部と前記ヒンジ部の表面側に、成形過程の溶融状態のプラスチック材が浸透されて付着された不織布を設けてなる、構成を採用できる。
【0010】
この構成によれば、1対のボード部とヒンジ部の表面側に設けた不織布により、ラゲッジルーム用ボードの表面を装飾して外観を向上させることができる。また、表面側にはヒンジ部の裏面側に設けた不織布と異なる材質の不織布を設けることにより、表面側の不織布で美観を向上させ、ヒンジ部裏面側の不織布で強度及び耐久性を向上させることができる。
【0011】
上記構成において、前記1対のボード部と前記ヒンジ部の表面側に設けた前記不織布は、前記ヒンジ部の裏面側に設けた前記不織布の目付重量よりも大きな目付重量を有してなる、構成を採用できる。
【0012】
この構成によれば、ボードの表面側に設けた不織布は、荷物等が直接触れて擦れることにより摩耗し、長い年月の中には見栄えを悪くすることがあるが、目付重量の大きな不織布を使用して強度を上げることにより、摩耗を少なくし、長い期間に亘って見栄えを維持することができる。
【0013】
本発明に係る自動車のラゲッジルーム用ボードの製造方法は、強化繊維材を混入させたプラスチック材で、1対の中空ボード部と該中空ボード部間に裏面側から表面側へ向けて圧縮薄肉化して形成されたヒンジ部とを一体に成形する自動車のラゲッジルーム用ボードの製造方法であって、所望の形状に形成されたキャビティ面を有する金型と溶融状態のプラスチック材との間で、かつ、前記ヒンジ部を形成する金型キャビティに対応する部位に不織布を配置する工程と、前記金型間を近接して前記パリソンと前記不織布とを圧着させ、前記不織布に前記溶解樹脂を浸透させる工程と、前記不織布に前記溶解樹脂を浸透させた状態を維持して冷却固化し、前記ヒンジ部の裏面側に前記不織布を取り付ける工程と、を経て成形するようにした。
【0014】
この製造方法によれば、圧縮薄肉化して形成されたヒンジ部の裏面側に、ブロー成形過程の溶融状態のプラスチック材が浸透されてヒンジ部と一体化された不織布を付着してなる自動車のラゲッジルーム用ボードを簡単に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧縮薄肉化して形成されたヒンジ部の裏面側には、成形過程の溶融状態のプラスチック材が浸透されてヒンジ部と一体化された不織布が付着されているので、柔軟性を乏しくする強化繊維材を混入させたプラスチック材で成形した場合でも、このプラスチック材と一体化された不織布がヒンジ部におけるヒビ割れを防止することができる。これにより、ヒンジ部での強度が向上し、強度及び耐久性に優れたラゲッジルーム用ボードが得られる。
【0016】
また、1対のボード部とヒンジ部の表面側に不織布を設けることにより、ラゲッジルーム用ボードの表面全体を装飾して外観を向上させることができる。さらに、表面側に設ける不織布とヒンジ部の裏面側に設ける不織布との材質を変え、表面側の不織布には美観を持たせ、裏面側の不織布には強度及び耐久性を持たせるようにすると、より高い強度と耐久性及び美観に優れたラゲッジ用ボードを安価に製造して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動車のラゲッジルーム用ボードの使用形態を示す図である。
【図2】図1のA部拡大断面図である。
【図3】本発明に係るヒンジ部付ラゲッジルーム用ボードの成形工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動車のラゲッジルーム用ボードの使用態様を示す断面図、図2は、図1のA部拡大断面図である。図3は本発明に係るラゲッジルーム用ボードの成形工程を示す図である。
【0020】
本発明のラゲッジルーム用ボードが使用される自動車の車室内後方には、図示しないリヤシートクッションと左右一対のリヤシートバックとを備えるリヤシートが設置されている。そのリヤシートバックの後方には、図1に示すようにラゲッジルーム14が形成され、ラゲッジルーム14のフロアパネル上には、工具類やスペアタイヤを収納する収納ボックス16と、ラゲッジルーム用ボードとしてのデッキボード17が載置されている。
【0021】
デッキボード17は、収納ボックス16の上部開口を覆って塞ぐようにして載置されている。また、デッキボード17は、取り外しが可能であるとともに、必要なときに前側半分または後側半分を上方に折り曲げると、収納ボックス16の上部開口を開放することができるように、前側デッキボード部17aと後側デッキボード部17bとの間に薄肉のヒンジ部17cを一体に設けている。
【0022】
デッキボード17の構成をさらに説明する。デッキボード17は、プラスチック成形体であり、例えば60キロ程度の荷物が載せられても耐え得るように、ガラス繊維、炭素繊維等の強化繊維材を混入させたプラスチック材をブロー成形することにより、中空ボード状の前側デッキボード部17aと、同じく中空ボード状の後側デッキボード部17bと、それらを連結してなる薄肉のヒンジ部(インテグラルヒンジ)17cとが一体に形成されている。
【0023】
ヒンジ部17cは、図1のA部拡大図として図2に示すように、前側デッキボード部17aと後側デッキボード部17bを成す樹脂壁を、その裏面17A側から表面17Bへ向けて圧縮薄肉化して形成されている。また、ヒンジ部17cの裏面側には、シート状の不織布22が強化材として一体に貼着されている。この不織布22は、成形過程の溶融状態のプラスチック材を浸透させて一体化して設けられるもので、ヒンジ部17cが上下方向に繰り返し回転されることによって樹脂材が疲労してヒビ等が入るのを、不織布の繋ぎにより補強する補強材としての役目をなす。
【0024】
一方、デッキボード17の表面側には、不織布23が、前側デッキボード部17aと後側デッキボード部17bとヒンジ部17cの全体を覆い、かつ成形過程の溶融状態のプラスチック材を浸透させることによって、デッキボード17と一体化して設けられている。その不織布23は、デッキボード17の表面側を装飾するものであり、ヒンジ部17cの補強用として設けられている不織布22の場合とは異なり、外観的に見栄えの良い材質の不織布が使用される。したがって、デッキボード17の表面側に設けた不織布23は、デッキボード17上に載せた荷物等が直接触れて擦れることにより摩耗し、長い年月の中に見栄えを悪くする虞があるので、不織布22の目付重量よりも大きな目付重量の不織布を使用して強度を上げることが好ましい。これにより、摩耗を少なくして、長い期間に亘って同じ見栄えを維持することが可能になる。ヒンジ部17cの裏面側に設けられた不織布22の目付重量は、ヒンジ部17cの表側に設けた不織布23の目付重量より小さく、300g/m2以下、好ましくは150g/m2以下である。なお、強度と美観が長い間に亘って維持できるものであれば、不織布23と不織布22は同じ目付重量を有した同じ材質の不織布を使用してもよい。
【0025】
次に、デッキボード17の成形方法について図3を用いてさらに説明すると、デッキボード17は1対の分割金型24a,24b間に溶融状態のプラスチック材を配置して成形される。特に、ブロー成形、シートブロー成形などが好適であり、溶融状態のプラスチック材はブロー成形にあっては押出機から筒状のパリソン又は2条のシートとして垂下され、シートブロー成形にあっては上下に配置した金型間に予め成形されたシートを配置し、加熱手段により溶融状態とする。同図において、一方の金型24aはヒンジ部成形キャビティ25を有している。このヒンジ部成形キャビティ25は樹脂壁を圧縮薄肉化するための突部である。ヒンジ部成形キャビティ25には不織布22を保持するための凹部27が形成されている。
【0026】
そして、ブロー成形を行う場合、図3に示すように、一対の金型24a,24b間にパリソン26を配置する。また、パリソン26と一方の金型24aのヒンジ部成形キャビティ25との間に不織布22を配置するとともに、パリソン26と他方の金型24bとの間に不織布23を配置し、この状態でブロー成形を行う。
【0027】
このブロー成形では、パリソン20内に空気が吹き込まれることによって1対の金型24a,24bで、前側デッキボード部17aと後側デッキボード部17bが成形されるとともに、前側デッキボード部17aと後側デッキボード部17bの間でヒンジ部成形キャビティ25が樹脂壁をその裏面17A側から表面17Bへ向けて圧縮薄肉化してヒンジ部17cを形成する。これと同時に、溶解されたパリソン20の一部がそれぞれ不織布22及び不織布23内に浸透されてプラスチック材と不織布22及び不織布23が強力に一体化される。すなわち、ヒンジ部成形キャビティ25により圧縮薄肉化されたヒンジ部18cの裏面が、不織布22で補強されてなるヒンジ部18c付きのデッキボード17が成形される。
【0028】
なお、本実施形態での強化繊維材を混入させたプラスチック材は、ABS樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンスルファイド等の熱可塑性樹脂で、そのプラスチック材にガラス繊維、炭素繊維等の強化繊維材を混入させて構成される。
【0029】
したがって、本実施形態に係るデッキボード17では、ヒンジ部17cの裏面側に、成形過程の溶融状態のプラスチック材を浸透させて一体化された不織布22を設けているので、この不織布22がヒンジ部17cの強度を向上させることができる。そして、折り曲げ時におけるヒンジ部17cのヒビ割れを防止し、強度及び耐久性に優れたデッキボード17が得られる。
【0030】
なお、デッキボード17の構造は、ブロー成形等により形成された中空二重壁構造に限ることなく中空部内に発泡剤、ハニカム構造体等の芯材が配置されたものにも適用することが可能であり、同様にヒンジ部を有するボードであればその強度及び耐久性を向上させることができる。よって、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されないことは言うまでもなく、本発明の技術的範囲は広くヒンジ部付のラゲッジルーム用ボード全般を含むものである。
【符号の説明】
【0031】
14 ラゲッジルーム
16 収納ボックス
17 デッキボード(ラゲッジルーム用ボード)
17a 前側デッキボード部
17b 後側デッキボード部
22 不織布
23 不織布
24a 金型
24b 金型
25 ヒンジ部成形キャビティ
26 パリソン
27 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維材を混入させた溶融状態のプラスチック材を分割金型間に配置して成形した、1対の中空ボード部と該中空ボード部間に裏面側から表面側へ向けて分割金型により圧縮薄肉化して凹溝状に形成されたヒンジ部とを一体に設けてなる自動車のラゲッジルーム用ボードであって、
前記ヒンジ部の裏面側に沿って、成形過程の溶融状態のプラスチック材が浸透されて付着された不織布を設けることを特徴とする自動車のラゲッジルーム用ボード。
【請求項2】
前記1対のボード部と前記ヒンジ部の表面側に、成形過程の溶融状態のプラスチック材が浸透されて付着された不織布を設けることを特徴とする請求項1に記載の自動車のラゲッジルーム用ボード。
【請求項3】
前記1対のボード部と前記ヒンジ部の表面側に設けた前記不織布は、前記ヒンジ部の裏面側に設けた前記不織布の目付重量よりも大きな目付重量を有してなることを特徴とする請求項2に記載の自動車のラゲッジルーム用ボード。
【請求項4】
強化繊維材を混入させたプラスチック材で、1対の中空ボード部と該中空ボード部間に裏面側から表面側へ向けて圧縮薄肉化して形成されたヒンジ部とを一体に成形する自動車のラゲッジルーム用ボードの製造方法であって、
所望の形状に形成されたキャビティ面を有する金型と溶融状態のプラスチック材との間で、かつ、前記ヒンジ部を形成する金型キャビティに対応する部位に不織布を配置する工程と、
前記金型間を近接して前記パリソンと前記不織布とを圧着させ、前記不織布に前記溶解樹脂を浸透させる工程と、
前記不織布に前記溶解樹脂を浸透させた状態を維持して冷却固化し、前記ヒンジ部の裏面側に前記不織布を取り付ける工程と、
を経て成形することを特徴とする自動車のラゲッジルーム用ボードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−232652(P2012−232652A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101901(P2011−101901)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】