説明

自動車の下部車体構造

【課題】車両前後方向の衝突に対する緩衝効果を得つつ、後突時におけるシャフトの変形に伴う不都合から補機を保護することができる自動車の下部車体構造を提供する。
【解決手段】パワーユニット2とリヤ差動装置3とパワーユニット2の駆動力をリヤ差動装置3に伝達するプロペラシャフト4とリヤ差動装置3の前方に配設された燃料タンク29とを備える。プロペラシャフト4を車体前後方向の中間部における差動装置側の位置で回転可能に支持する中間軸受部16を含む中間支持部をさらに備える。プロペラシャフト4は、自在継手を介して後側が前側に対して短くなるように前後に分割され、車体変形に伴い縮小可能に構成される。燃料タンク29は、車体前後方向について、プロペラシャフト4における前後分割シャフト4a,4bのうち後側分割シャフト4bの上方または側方に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部に設けられたエンジンなどのパワーユニットからの駆動力をプロペラシャフトなどの動力伝達シャフトを介してリヤ差動装置に伝達する自動車の駆動力伝達装置を備えた自動車の下部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、四輪駆動式やいわゆるFR駆動式の自動車のように、パワーユニットであるエンジンが車体前部に配置され、このエンジンの駆動力を車体前後方向に沿って配設されたプロペラシャフトで車体後部に配置されたリヤデファレンシャル装置などに伝達する自動車が広く知られている。
【0003】
一般的に、例えば前突においては、車体前部に配置されたエンジンを後方に変位させつつ、車体前部を圧壊させて衝撃力を吸収するようになされている。上記のようにプロペラシャフト等の動力伝達シャフトを有する自動車においても、同様にエンジンを後方に変位させつつ車体の前部を圧壊させるようになされているが、エンジンが後方からプロペラシャフトによって支持され(突っ張り状態)当該エンジンの後退が阻害されることから、この種の駆動伝達装置においては、衝突に伴いプロペラシャフトによる突っ張り状態を緩和するための様々な工夫が施されている。
【0004】
例えば特許文献1の駆動伝達装置を備えた下部車体構造は、第1シャフトと第2シャフトとを中間継手によって連結するプロペラシャフトを有し、車両前後方向の衝突などシャフトの軸方向に外力が作用することにより第2シャフトの先端部が第1シャフトの基端部に嵌り込み、これによりプロペラシャフトを軸方向に縮小可能に構成されている。この特許文献1記載の下部車体構造によれば、該シャフトの軸方向の縮小によって、その分エンジンを後方に変位させることができ、これにより上記突っ張り状態を緩和させることができるようになっている。
【0005】
また、特許文献2の駆動力伝達装置を備えた下部車体構造は、車体前部に設けられたエンジンと、車体後部に設けられたデファレンシャル装置と、エンジンの駆動力を当該デファレンシャル装置に伝達するプロペラシャフトとを備え、上記デファレンシャル装置はその前後部を車体に支持する前後支持部をそれぞれ有し、前方支持部は前突時に破断するように構成されている一方、後方支持部は衝突時に該デファレンシャル装置を揺動可能に支持するように構成されている。この下部車体構造によれば、前突時にプロペラシャフトに衝撃荷重が入力されることによりこのプロペラシャフトが連結されたデファレンシャル装置の前方支持部が破断し、この破断に伴いデファレンシャル装置の前部が下方に揺動し、これによりプロペラシャフトによる上記突っ張り状態を緩和させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−215120号公報
【特許文献2】特開2001−171373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1および特許文献2では車両の前突時については記載されているものの、車両の後突時については積極的に記載されていない。車両の後突時の対応についてこれらの特許文献1および特許文献2の下部車体構造についても安全性の観点では十分であるとは考えられるものの、さらなる改善が望まれることがある。
【0008】
例えば、後突時に車体後部が圧壊してリヤデファレンシャル装置が前進した場合にこのリヤデファレンシャル装置に接続されたプロペラシャフトに荷重が作用して該プロペラシャフトが座屈することがある。通常、リヤデファレンシャル装置の周辺、特にその前方には燃料タンクなどの後突時に保護されるべき補機が配置されることが多く、この屈曲したプロペラシャフトが燃料タンクなどの衝突時保護対象たる補機に干渉することはできる限り避けたいという要望があり、この点特許文献1および特許文献2記載の下部車体構造では具体的な提案は何らなされていない。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、プロペラシャフトなどの動力伝達シャフトを有する自動車において、車両前後方向の衝突に対する緩衝効果を得つつ、後突時における該シャフトの変形に伴う不都合から補機を保護することができる自動車の下部車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明に係る自動車の下部車体構造は、車体前部に設けられたパワーユニットと、車体後部に設けられた差動装置と、車体の前後方向に延び上記パワーユニットの駆動力を上記差動装置に伝達する動力伝達シャフトと、上記差動装置の前方に配設された補機とを備えた自動車の下部車体構造において、上記動力伝達シャフトを車体前後方向の中間部における上記差動装置側の位置で車体に対して回転可能に支持する中間支持部をさらに備え、上記動力伝達シャフトは、自在継手を介して後側が前側に対して短くなるように前後に分割され、車体変形に伴い上記パワーユニットと差動装置とが近接方向に変位する場合に上記自在継手の少なくとも一部とともに前後分割シャフトのいずれか一方が他方の分割シャフトの端部内に所定範囲にわたって嵌入されることにより縮小可能に構成され、上記補機は、車体前後方向について、上記動力伝達シャフトにおける前後分割シャフトのうち後側分割シャフトの上方または側方に配置されることを特徴とするものである。なお、上記補機は、その全体が差動装置の前方に配設されているもの以外に、その一部が差動装置の前方に配設されているものも含む。
【0011】
この発明によれば、上記動力伝達シャフトが、自在継手を介して前後に分割され、自動車の衝突時などパワーユニットと差動装置とが近接方向に変位する場合に前後分割シャフトのいずれか一方が他方の分割シャフトの端部内に所定範囲にわたって嵌入されることにより縮小可能に構成されているので、この縮小に伴い、車両前後方向の衝突に対してパワーユニットと差動装置とを近接する方向に変位することができ、これにより車両前部または後部を圧壊させて衝撃を吸収することができる。
【0012】
しかも、中間支持部によって、動力伝達シャフトを車体前後方向の中間部における上記差動装置側の位置で車体に対して回転可能に支持するので、動力伝達シャフトの前側に比べて後側の支持剛性が向上し、これにより動力伝達シャフトの後部、特に後側分割シャフトの変形を効果的に抑制することができる。加えて、動力伝達シャフトは、後側が前側に対して短くなるように前後に分割されているので、前後分割シャフトのうち後側分割シャフトは前側分割シャフトに対して座屈等変形し難くなる。そして、補機は後側分割シャフトの上方または側方に配置されているので、上記のように後側分割シャフトの変形を可及的に抑制していることと相俟って、自動車の衝突に伴い動力伝達シャフトと補機とが干渉することを確実に抑制することができ、衝突による車体変形から補機を十分に保護することができる。
【0013】
この発明において、上記差動装置は、装置本体と、この装置本体と上記動力伝達シャフトとの連結部に対して上方であって該装置本体の後部を支持することにより、上記近接方向の変位時に該装置本体の前部が下方に回動可能に該装置本体を支持する後側支持部とを有するのが好ましい。
【0014】
このように構成すれば、動力伝達シャフトの縮小に加え、装置本体の前部を下方に回動させることにより動力伝達シャフトと装置本体との連結部が後方に変位することから、簡単な構成でパワーユニットの後退量(前突時)または差動装置の前進量(後突時)を増大させることができる。またこの際、後側支持部が装置本体の後部を支持するので、この装置本体の前部が下方に回動することによる前傾に伴い装置本体の後部が上方に跳ね上げられるのを効果的に抑制することができ、装置本体前部の円滑な回動を確保することができるとともに、装置本体とその周辺との干渉を効果的に抑制することができる。また、後突時に差動装置が前進して上記補機と干渉する前に装置本体が回動するように構成すれば、差動装置と補機との干渉を確実に回避することができる。つまり、差動装置の干渉による補機の損傷を効果的に防止することができる。
【0015】
この場合において、上記中間支持部は後突時の車体変形にかかわらず車体から離脱しないように構成し、或いは後突時に直ちに車体から離脱するように構成してもよいが、上記中間支持部は、後突時の車体変形に伴い上記差動装置が前方に変位する場合にその変位量が所定量に達することにより車体から離脱するように構成されているのが好ましい。具体的には、例えば差動装置の変位に伴い変位する動力伝達シャフトに中間支持部と干渉するフランジを設け、差動装置の変位に伴いこのフランジも移動させ、所定量変位することにより中間支持部と干渉するように構成してもよい。
【0016】
このように構成すれば、差動装置の変位量が所定量に達するまでの間は、中間支持部によって動力伝達シャフトが車体に対して支持されているので、動力伝達シャフトは例えば上記自在継手において不測に屈曲等することなく、前後分割シャフトの一方を他方に嵌入させることにより確実に縮小(短縮)させることができる。
【0017】
この場合、差動装置の前進量に関する上記所定量について、特に限定するものではないが、上記所定量は、上記差動装置と補機との車体前後方向における水平最短距離よりも短く設定されているのが好ましく、また上記動力伝達シャフトの縮小範囲(所定範囲)は、上記所定量よりも長く、上記水平最短距離よりも短く設定されているのが好ましい。
【0018】
このように構成すれば、差動装置と補機とが干渉する前に中間支持部を車体から離脱させることができ、この離脱によって差動装置の装置本体の前部を容易に回動させ、或いは同装置本体を回動させる場合に容易にその回動を行わせることができる。また、動力伝達シャフトの縮小範囲が上記所定量よりも長く、上記水平最短距離よりも短く設定することにより、差動装置と補機とが干渉する前に動力伝達シャフトの縮小限界に達し、この限界に伴う反力を差動装置に入力することができる。これにより、装置本体の下方への回動を促して、装置本体と補機との干渉を抑制することができる。
【0019】
また、後突時だけでなく、上記中間支持部は、前突時における車体変形に伴い離脱するように構成してもよく、具体的には上記中間支持部は、前突時の車体変形に伴い上記パワーユニットが後退する場合に離脱するように構成されているのが好ましい。
【0020】
このように構成すれば、前突時における緩衝効果も十分に得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る自動車の下部車体構造によれば、動力伝達シャフトの縮小に伴い、車両前部または後部を圧壊させて衝撃を吸収することができる。しかも、後側分割シャフトは前側分割シャフトよりも短く設定されるとともに、この後側分割シャフトが補機に対応して配置されているので、後側分割シャフトの座屈などの変形を抑制して、この変形に伴う補機との干渉を確実に抑制することができる。すなわち、衝突による動力伝達シャフトの変形から補機を十分に保護することができる。更に、中間支持部によって、動力伝達シャフトを差動装置側の位置で車体に対して回転可能に支持するので、動力伝達シャフトの前側に比べて後側の支持剛性が向上し、これにより後側分割シャフトの変形をより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る下部車体構造を含む車両を模式的に示す側面図である。
【図2】同車両の車体前部の構造を示す平面図である。
【図3】同車体前部の構造を示す側方断面図である。
【図4】第3の自在継手および中間軸受部を拡大して示す一部断面図である。
【図5】第2トンネルクロスメンバの取付構造を拡大した状態で模式的に示す底面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】第1トンネルクロスメンバの取付構造を拡大した状態で模式的に示す底面図である。
【図9】リヤ差動装置を含む車体後部を示す底面図である。
【図10】リヤ差動装置と燃料タンクとの関係を示す側面説明図である。
【図11】リヤ差動装置の斜視図である。
【図12】図9におけるIX−IX線断面図である。
【図13】図9におけるX−X線断面図である。
【図14】車両後突時におけるリヤ差動装置、プロペラシャフトおよび燃料タンク等を含む車体下部構造を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る駆動力伝達装置が搭載された車両を模式的に示す側面図である。なお、本実施形態では、この駆動力伝達装置が搭載された車両はハッチバック型のFR車について説明するが、搭載される車両は特に限定されるものではなく、セダン型、スポーツ型、ミニバン型等の車両だけに限定されるものでなく、車体前部にパワーユニットがあり動力伝達シャフトを通じて車体後部に駆動力を伝達する車両であればその車種を限定しない。また、本実施形態では、前後3列シート27を有する車両について説明するが、2列シート、2シータの車両であっても良い。
【0024】
本実施形態に係る下部車体構造には駆動力伝達装置1が搭載されている。この駆動力伝達装置1は、車体前部に配設されたパワーユニット2と、車体後部に配設されたリヤ差動装置3と、車体の前後方向に延びパワーユニット2とリヤ差動装置3とを連結するプロペラシャフト(動力伝達シャフトに相当)4とを備える。
【0025】
パワーユニット2は、図2に示すように、駆動力を発生するエンジン部2aと、このエンジン部2aとプロペラシャフト4との間に介在する変速機2bとを備え、エンジンマウントなどの取付手段によって車体前部に取り付けられている。
【0026】
図2は車体前部の構造を示す平面図であり、図3は車体前部の構造を示す側面図である。図1に加えてこれらの図を用いて車体前部についてまず説明する。
【0027】
この車体前部には、車体の前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム5と、このフロントサイドフレーム5の前端部間に架設されたバンパレインフォースメント6とを備え、このフロントサイドフレーム5の下方に、略矩形枠状のフロントサブフレーム7が配設されている。
【0028】
各フロントサイドフレーム5は、図3に明示するように、その後部が後下がりに傾斜することによりキックアップ部5aが形成され、その後端部がフロアフレーム8(図1では省略)に接続されている。このフロアフレーム8上には、フロアパネル9が接合されており、このフロアパネル9の前端縁はエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル10に連設されている。フロアパネル9の車幅方向中央部には、車体前後方向に延在するフロアトンネル部9aが上方に向かって突設され、このフロアトンネル部9aには車体前後方向に沿ってプロペラシャフト4が収容されている。また、このフロアトンネル部9aは、ダッシュパネル10の車幅方向中央部に設けられたダッシュトンネル部10aに連設されている。なお、このダッシュトンネル部10aは、ダッシュパネル10の車幅方向中央部が後方に凹入して構成されている。また、各フロアフレーム8の車幅方向内側であってフロアトンネル部9aの両側にはトンネルフレーム11が車体前後方向に沿って延設され、フロアトンネル部9aを補強している。一方、各フロアフレーム8の車幅方向外側には、サイドシル12が配設されている。
【0029】
この各サイドシル12とフロアトンネル部9aとの間には車幅方向に延びるフロアクロスメンバ13がフロアパネル9の上面に配設されている。このフロアクロスメンバ13に対してフロアパネル9を挟んで反対側には左右一対の中間クロスメンバ14が車幅方向に沿ってフロアトンネル部9aに至るまで配設されている。左右一対の中間クロスメンバ14は車体前後方向に沿って複数本並設されている。これらの左右の中間クロスメンバ14の間には、プロペラシャフト4の下方において該フロアトンネル部9aを車幅方向に横断する態様でトンネルクロスメンバ15が配設されているとともに、フロアトンネル部9aの内壁面に沿ってトンネル補強メンバ20が配設されている(図1参照)。これらのトンネルクロスメンバ15およびトンネル補強メンバ20によってフロアトンネル部9a並びに車幅方向の車体剛性を向上させている。
【0030】
トンネルクロスメンバ15は断面視において屈曲部分を一ないし複数個有し、剛性部材として構成されている。このトンネルクロスメンバ15のうち車体後側に配設されたトンネルクロスメンバ15bには、プロペラシャフト4を回転自在に支持する中間軸受部16が取り付けられている。トンネルクロスメンバ15の中間クロスメンバ14に対する取付構造については中間軸受部16の説明とともに後述する。
【0031】
一方、バンパレインフォースメント6は、断面視略コ字状に形成され内部に配設されたクラッシュカン61(緩衝部材として機能)を介してフロントサイドフレーム5の前端面に架設されている。
【0032】
フロントサブフレーム7は、エンジンルームに配設されるエンジン部2aの振動伝達を抑制するとともに前突時の衝撃荷重を分散、吸収させる変形周囲型のサブフレームで、いわゆるペリメーターフレームと呼ばれるものである。このフロントサブフレーム7について、図2および図3を用いて簡単に説明する。
【0033】
フロントサブフレーム7は、車体前後方向に延設される左右一対のサブサイドフレーム71と、これらのサブサイドフレーム71の前端部および後端部において両者間に架設された前後各サブクロスメンバ72,73と、サブサイドフレーム71の前端部に前方に突設されたサブクラッシュカン74とを備え、全体として略矩形状、詳しくは前方に向かうに従って拡幅される略台形状に形成されている。
【0034】
また、このフロントサブフレーム7は、各サブサイドフレーム71にその長手方向に沿って設けられた複数のフレーム支持部75〜77が設けられている。そして、フロントサブフレーム7は、このフレーム支持部75〜77において、上方に配置されているフロントサイドフレーム5およびトンネルフレーム11の下面の所定箇所に取り付けられている。これらのフレーム支持部75〜77のうちの少なくとも一部、例えば中間フレーム支持部76、後側フレーム支持部77は、車両衝突時にフロントサブフレーム7に衝撃荷重が入力されることにより、フロントサイドフレーム5またはトンネルフレーム11などの車体前部から離脱可能に構成されている。具体的には、本実施形態では衝突荷重が入力されることにより、中間フレーム支持部76と後側フレーム支持部77とがこの順で離脱されるように設定されている。
【0035】
上記パワーユニット2は、ダッシュパネル10の前方におけるエンジンルーム内において、その前側上部の左右各端部がフロントサイドフレーム5に前側エンジンマウント2cを介して取り付けられるとともに、その後側下部の略中央部においてフロントサブフレーム7(特に後側サブクロスメンバ73)に後側エンジンマウント2dを介して取り付けられている。従って、前突に伴いフロントサブフレーム7の中間フレーム支持部76、後側フレーム支持部77がフロントサイドフレーム5などの車体前部から離脱した場合には、パワーユニット2はその後部が下方に回動して後傾の程度が大きくなる。この状態から更に衝突荷重が入力されると前側エンジンマウント2cも変形や破断してパワーユニット2は下方へ落下することにより変位する。
【0036】
このパワーユニット2を構成するエンジン部2aは、内燃機関であり、直列多気筒ガソリンエンジンとして構成されている。このエンジン部2aは、その出力軸としてのクランク軸を車幅方向に向けた状態で車体前部に搭載された、いわゆる横置き型のエンジンであり、図1および図3に明示するように上部が後方に傾斜した後傾状態で配置されている。
【0037】
また、このエンジン部2aは、その前面側から吸気され、後面側から排気される、前方吸気後方排気の形式が採用されている。このため、エンジン部2aの上部前方には、新気をエンジン部2aに導入するインテークマニホールド25が配置され、パワーユニット2の後方には、エギゾーストマニホールド、タービン、高温触媒などの排気装置26が配置されている。
【0038】
具体的には、パワーユニット2の水平方向後方には、ダッシュパネル10との間に後退許容空間1aが設けられ、この後退許容空間1aに排気装置26が配設されている。この排気装置26は、冷却のために周辺の通気性を確保する必要があり、隙間を設けて散点的に配設されている。従って、排気装置26は、前突時にパワーユニット2の後退に伴い密集することによりパワーユニット2の後退を確保するための空間を作り出すことができる。すなわち、この後退許容空間1aとは、車両の前突時に、パワーユニット2の水平方向の後退(後方変位)を確保するための空間をいい、パワーユニット2とダッシュパネル10との間に介在し、何らの部材も配設されていない空間のほか、部材が配設されていてもパワーユニット2の後退に伴い圧壊(および密集)ないしは後退等することによりパワーユニット2の後方変位を可能とする空間も含み、その空間に部材が配設されているか否かは問わない。
【0039】
また、この排気装置26は排気の流れを円滑にすべく、エンジン部2aから車両後方下側へ延設されて、その後端に排気管17が接続され、この排気管17はフロアパネル9の下面に沿って車両後方側に配索され、車体後部に設けられたサイレンサー18に接続されている。
【0040】
次にプロペラシャフト4について説明する。プロペラシャフト4は、その前端部が変速機2bの出力軸2eに第1の自在継手41を介して連結されているとともに、その後端部がリヤ差動装置3の入力軸3aに第2の自在継手42を介して連結されている。また、このプロペラシャフト4は、後側分割シャフト4bが前側分割シャフト4aに比べて短くなるように前後に2分割され、その前後分割シャフト4a,4bが第3の自在継手43(自在継手に相当)を介して連結されることにより構成されている。すなわち、本実施形態では、前側分割シャフト4aは、後側分割シャフト4bよりも長く形成されている。
【0041】
具体的には、通常、プロペラシャフト4が前後に分割された場合には、前側分割シャフトは中間クロスメンバ14のうち、いわゆる第2.5クロスメンバといわれる前側の中間クロスメンバ14a付近まで延設される。しかしながら、本実施形態の前側分割シャフト4aは、中間クロスメンバ14のうち、いわゆる第3クロスメンバといわれる前側クロスメンバ14aの後方に配置された後側の中間クロスメンバ14b付近まで延設されている。言い換えると、前側分割シャフト4aの後端部は、第3クロスメンバに対応する位置にまで延設されている。その結果、後側分割シャフト4bは、後述する燃料タンク29に対応して位置することになる。
【0042】
この前後の分割シャフト4a,4bの間には、上記のように第3の自在継手43が介在している。図4は第3の自在継手43および前側分割シャフト4aの後端部に配置された中間軸受部16を拡大して示す一部断面図である。
【0043】
第3の自在継手43は、筒状アウターと、この筒状アウターとの間で角度変位を許容しながらトルクを伝達する軸状インナーとを備えた摺動型等速自在継手であって、軸方向に所定の荷重の入力があった場合に、筒状アウターに対して軸状インナーが軸方向に相対的に変位して筒状アウターと軸状インナーに連結された前後分割シャフト4a,4bが接離方向に変位するように構成されている。すなわち、プロペラシャフト4は、軸方向の荷重の入力があった場合に伸縮可能に構成されている。この第3の自在継手43は、本実施形態ではダブルオフセット型自在継手を採用しているが、軸方向に伸縮可能であればクロスグルーブ型、トリポード型等の摺動式等速自在継手等も採用することができる。
【0044】
具体的には、この第3の自在継手43は、前側分割シャフト4aに連結された内輪431と、後側分割シャフト4bに連結された外輪432と、この内輪431および外輪432の間に介装されて内外輪431,432間でトルクを伝達するボール433と、内輪431の外周面および外輪432の内周面との間に介在してボール433を保持するケージ434とを備えたダブルオフセット型ユニバーサルジョイントであり、前後分割シャフト4a,4bの間の角度変位を許容する。なお、内輪431,ボール433,ケージ434が上記軸状インナーに相当し、外輪432が上記筒状アウターに相当する。
【0045】
この第3の自在継手43は、内外輪431,432の各々にトラック溝431a,432aを有する公知のダブルオフセット型自在継手である。従って、その詳細な説明を省略するが、その前後分割シャフト4a,4bに対する配置関係に特徴があるので、その点につき簡単に説明する。
【0046】
すなわち、この第3の自在継手43の内輪431は、前側分割シャフト4aの後端部(後側分割シャフト4bに対向する端部)に配設されたロート状シャフト4cの縮径端部(後端部)に供回りするように外嵌連結されている。このロート状シャフト4cは、前側分割シャフト本体4dの後端部に設けられた縮径部4eに連結されている。一方、外輪432は、後側分割シャフト4b内にその前端縁から退入した位置に供回りするように内嵌連結されている。このように外輪432を後側分割シャフト4b内に退入した位置に設けているのは、プロペラシャフト4の縮小時に前側分割シャフト4aの縮径部4eをこの退入部分に嵌入させるためである。
【0047】
すなわち、車両前突時等、前側分割シャフト4aの軸方向について後方に向かう荷重の入力があった場合、内輪431、ボール433およびケージ434の軸状インナーは、外輪432(筒状アウター)に対して軸方向後方(図4中矢印で示す方向)に相対的に変位して、これにより前側分割シャフト4aは後側分割シャフト4bに対して相対的に変位して該後側分割シャフト4b内に嵌入される。具体的には、嵌入動作の初期において前側分割シャフト4aのロート状シャフト4cが内輪431、ボール433およびケージ434とともに後側分割シャフト4b内に嵌入され、続いて前側分割シャフト4aの縮径部4eが後側分割シャフト4b内に嵌入される。
【0048】
そして、この前後分割シャフト4a,4bは、前側分割シャフト4aが後側分割シャフト4b内に所定量嵌入されることにより、図4中二点鎖線で示されるように、前側分割シャフトの縮径部4eの前端部における拡径段部4fが後側分割シャフト4bの前端面に干渉することによりその嵌入動作が規制されるように構成されている。すなわち、プロペラシャフト4は、前側分割シャフト4aが後側分割シャフト4b内へ嵌入されるのを規制する嵌入規制手段としての拡径段部4fが前側分割シャフト4aに設けられることにより縮小範囲D1が限定されている。そして、この縮小限界においては、第3の自在継手43はその機能を喪失して前後分割シャフト4a,4bが相互に角度変位不能な状態となり、一本の棒状体として機能する。なお、外輪432の退入位置は、前側分割シャフト4aの縮径部4e長さよりも長く設定されている。
【0049】
前側分割シャフト4aの縮径部4eの後端縁から後側分割シャフト4bの前端縁までの距離は、第3の自在継手43の外輪432のトラック溝432aのストロークよりも短く設定されている。このため、前側分割シャフト4aが軸方向に変位した場合には、第3の自在継手43によって移動経路が案内され、後側分割シャフト4bの前端部内に前側分割シャフト4aの縮径部4eを確実に嵌入することができるようになっている。また、プロペラシャフト4の縮小範囲D1は、後述するリヤ差動装置3と燃料タンク29との車体前後方向における水平最短距離D5よりも短く、後側トンネルクロスメンバ15bと後述する後部押圧フランジ45との間の水平距離d2よりも長く設定されている。従って、プロペラシャフト4は、車両後突時にリヤ差動装置3と燃料タンク29とが干渉する前に短縮限界(後側分割シャフト4bの先端が拡径段部4fに干渉した状態)に達し、その前に後側トンネルクロスメンバ15bが車体から脱落する。さらにこの縮小範囲D1は、パワーユニット2の後退許容範囲(パワーユニット2とダッシュパネル10との距離であって後退許容空間1aの車体前後方向の長さ)よりも短い。このため、車両前突時にパワーユニット2の後退による軸方向の荷重はそのまま後側分割シャフト4bにも伝達される。
【0050】
本実施形態では、さらにこの縮小範囲D1について、後述する第2リヤサスフレーム23の後端縁と最後列シート27の後端縁との距離よりも短く設定されている。従って、後突時には、第2リヤサスフレーム23が前進してリヤ差動装置3を前方に押し出すが、プロペラシャフト4の縮小限界に達することにより、一時的に突っ張り状態となり、最後列シート27への浸食を、車体後部の変形のみによって荷重吸収する場合に比べて更に抑制することができる。
【0051】
なお、後突時においては、後側分割シャフト4bが前側分割シャフト4aに対して前進する点で前突時と異なるものの、その他、例えば相対的な位置関係については前突時と同様である。
【0052】
前側分割シャフト4aの第3の自在継手43側の端部は、中間軸受部16によって回転可能に支持されている。中間軸受部16は、軸受内輪161と、軸受外輪162と、軸受内外輪161,162間に介在する玉やコロなどの転動体163と、軸受内外輪161,162間に介在して転動体163を保持する保持器164と、軸受外輪162を外嵌保持するブラケット165とを備えたいわゆるベアリングである。この中間軸受部16は、ブラケット165においてボルトとナットからなる締結手段19によって第2トンネルクロスメンバ15bに取り付けられている。なお、この第2トンネルクロスメンバ15bはトンネルクロスメンバ15のうち車体後側に配設されたトンネルクロスメンバ(本実施形態では第3クロスメンバ)をいい、この第2トンネルクロスメンバ15b、中間軸受部16および締結手段19等が前側分割シャフト4aの一端部を車体(中間クロスメンバ14)に支持する中間支持部に相当する。
【0053】
この中間軸受部16が取り付けられた第2トンネルクロスメンバ15bの取付構造を図4ないし図7に基づいて説明する。図5は、第2トンネルクロスメンバの取付構造を拡大した状態で模式的に示す底面図である。なお、図5において、中間クロスメンバ14間に配設されたトンネル補強メンバ20(図1参照)は省略している。また、図6および図7は、図5のVI−VI線、VII−VII線断面図である。
【0054】
図4に明示するように、第2トンネルクロスメンバ15bは、前端部および後端部に上方に突出する屈曲部15cを有し、屈曲部15c間の上面に中間軸受部16が取り付けられている。第2トンネルクロスメンバ15bの長手方向(車幅方向)両端部、具体的には中間軸受部16の取付部分に対して車幅方向外側には、図5に明示するように、ボルト151,152を挿通させるためのボルト孔(不図示)と、このボルト孔に連通し該ボルト孔から車体前方または後方に向かってトンネルクロスメンバ15bの前後いずれかの端縁にまで延びるスリット153,154とを有する。これらのスリット153,154は平面視において相互に逆方向(前方と後方)に開口している。このスリット153,154の幅は、上記ボルト孔の径よりも狭く設定され、またボルト151,152の軸径よりも狭く設定されている。
【0055】
また、この第2トンネルクロスメンバ15bは、中間軸受部16が取り付けられた中央部に対して車幅方向両端部がビード(不図示)を介して捩れて構成され、図6および図7に示すように、車体前後方向に傾斜する傾斜接続部15d,15eを有している。この傾斜接続部15d,15eは、左右両側で相互に反対方向に傾斜するものとなされ、各々図5に示すスリット152a,152bの開口方向に向かって上方に傾斜するように設定されている。そして、この第2トンネルクロスメンバ15bは、その傾斜接続部15d,15eにおいて、フロアトンネル部9aの下端開口部を横断する態様で中間クロスメンバ14のうち後側の左右の第2中間クロスメンバ14b間に架設状態に取り付けられている。
【0056】
第2中間クロスメンバ14bは、図6および図7に示すように、傾斜接続部15d,15eが重合される傾斜下面部141,142を有する。この傾斜下面部141,142は左右の中間クロスメンバ14bにおいて各々反対方向に傾斜するものとなされている。この傾斜下面部141,142の傾斜方向は、対応するスリット153,154の開口方向と反対方向に向かうに従って下方に下降するように設定されている。
【0057】
従って、この第2トンネルクロスメンバ15bは、車体後方に向かう所定値以上の荷重の入力があった場合に図5において反時計回りに回動して脱落するようになされている。具体的には、車体後方に向かう所定の荷重の入力があった場合に、車幅方向左側のボルト152がスリット154に沿って相対的に移動し、これにより車幅方向右側のボルト151を中心に図5において反時計回りに第2トンネルクロスメンバ15bが回動するとともに、ボルト152がスリット154を通って脱落するようになっている。この回動脱落動作時に第2中間クロスメンバ14bの傾斜下面部142に沿って第2トンネルクロスメンバ15bが下方に押圧されてこの第2トンネルクロスメンバ15bが車体から脱落し易いように構成されている。すなわち、第2トンネルクロスメンバ15bおよび中間軸受部16が本発明にいう中間支持部に含まれ、この中間支持部は、プロペラシャフト4の軸方向後方に向けて所定値以上の外力の入力があった場合に、車体である第2中間クロスメンバ14bとの係合状態が解除(離脱)されるように構成されている。
【0058】
一方、第2トンネルクロスメンバ14bは、車体前方に向かう所定値以上の荷重の入力があった場合に図5において時計回りに回動して脱落するようになされている。具体的には、車体前方に向かう所定の荷重の入力があった場合に、車幅方向右側のボルト151がスリット153に沿って相対的に移動し、これにより車幅方向右側のボルト152を中心に図5において時計回りに第2トンネルクロスメンバ15bが回動するとともに、ボルト151がスリット153を通って脱落するようになっている。この回動脱落動作時に第2中間クロスメンバ14bの傾斜下面部141に沿って第2トンネルクロスメンバ15bが下方に押圧されてこの第2トンネルクロスメンバ14bが車体から脱落し易いように構成されている。すなわち、第2トンネルクロスメンバ15bおよび中間軸受部16を含む中間支持部は、プロペラシャフト4の軸方向前方に向けて所定値以上の外力の入力があった場合に、車体である第2中間クロスメンバ14bとの係合状態が解除(離脱)されるように構成されている。
【0059】
また、前突時に該第2トンネルクロスメンバ15bや中間軸受部16を含む中間支持部に軸方向に外力を作用させるために、前側分割シャフト4aのシャフト本体4dにおける中間軸受部16によって支持されている部分の前方側には、径方向外方に突出する前側押圧フランジ部44(前突時離脱手段)が設けられている。図4に示すように、この前側押圧フランジ部44の中間軸受部16からの距離d1は、プロペラシャフト4の縮小範囲D1よりも短く設定され、プロペラシャフト4の縮小過程において前側押圧フランジ部44が中間軸受部16および第2トンネルクロスメンバ15bを含めた中間支持部を押圧可能に構成されている。なお、この前側押圧フランジ部44は第2トンネルクロスメンバ15bに干渉しない程度の大きさに設定されている。
【0060】
さらに、前突時と反対方向の追突時、すなわち、後突時に該第2トンネルクロスメンバ15bや中間軸受部16を含む中間支持部に軸方向に外力を作用させるために、後側分割シャフト4bの先端部には、径方向外方に突出する後側押圧フランジ部45(後突時離脱手段)が設けられている。この後側押圧フランジ部45は、前側押圧フランジ部44と異なり、後側分割シャフト4bの変位に伴い第2トンネルクロスメンバ15bに干渉してこの第2トンネルクロスメンバ15bを通して中間支持部に対して軸方向前方への荷重を入力するものとなされている。このため、この後側押圧フランジ部45は、前側押圧フランジ部44に比べてその径が大きく設定され、上下方向について第2トンネルクロスメンバ15bと干渉し得る大きさに設定されている。
【0061】
図4に示すようにこの後側押圧フランジ部45の第2トンネルクロスメンバ15bの後端縁までの距離d2は、後述するリヤ差動装置3の水平最短距離D5よりも短くなるように設定され、プロペラシャフト4の縮小過程において後側押圧フランジ部45が中間軸受部16および第2トンネルクロスメンバ15bを含めた中間支持部、特に第2トンネルクロスメンバ15bを押圧可能に構成されている。
【0062】
一方、トンネルクロスメンバ15のうち前側に設けられた第1トンネルクロスメンバ15aは、第2トンネルクロスメンバ15bと同様離脱可能に構成されているものの、この離脱させるための構造について第2トンネルクロスメンバ15bと異なるので、この点について説明する。図8は、第1トンネルクロスメンバ15aの取付構造を模式的に示す底面図である。なお、図8において、中間クロスメンバ14間に配設されたトンネル補強メンバ20(図1参照)は省略している。
【0063】
第1トンネルクロスメンバ15aも、また断面視は第2トンネルクロスメンバ15bと同様に前後に屈曲部を有し、剛性部材として構成されている。この第1トンネルクロスメンバ15aの長手方向(車幅方向)両端部には、図8に明示するように、ボルト155を挿通させるためのボルト孔(不図示)と、このボルト孔に連通し該ボルト孔から車幅方向外方に向かって第1トンネルクロスメンバ15aの左右両端縁にまで延びるスリット156とを有する。このスリット156の幅も、上記ボルト孔の径よりも狭く設定され、またボルト155の軸径よりも狭く設定されている。この第1トンネルクロスメンバ15aも、フロアトンネル部9aの下端開口部を横断する態様で中間クロスメンバ14のうち前側の第1中間クロスメンバ14aに取り付けられている。
【0064】
従って、この第1トンネルクロスメンバ15aは、下方に向かう所定値以上の荷重の入力があった場合に第1中間クロスメンバ14aに対して相対的に下方に変位し、これによりボルト155がスリット156を通って脱落するようになっている。すなわち、第1トンネルクロスメンバ15aは、下向きの所定の荷重により車体である第1中間クロスメンバ14aからとの係合状態が解除されて離脱するように構成されている。
【0065】
次に、後側分割シャフト4bの後端部に取り付けられたリヤ差動装置3およびその車体に対する取付構造について説明する。図9はリヤ差動装置を含む車体後部を示す底面図であり、図10は車体後部を示す側面図である。図11はリヤ差動装置の斜視図であり、また、図12および図13は、それぞれ図9におけるXII−XII線、XIII−XIII線断面図である。
【0066】
リヤ差動装置3は、装置本体31と、この装置本体31の前部を車体に対して支持する左右一対の前側支持部32と、装置本体31の後部を車体に対して支持する後側支持部33とを備え、前後3点で車体後部に支持されている。
【0067】
まず、このリヤ差動装置3が支持される車体後部について簡単に説明する。
【0068】
この車体後部には、車幅方向内側に湾曲した状態で車体の前後方向に沿って延びる左右一対のリヤサイドフレーム21と、このリヤサイドフレーム21間に車幅方向に沿って架設された第1リヤサスフレーム22と、この第1リヤサスフレーム22の後方において同様にリヤサイドフレーム21間に架設された第2リヤサスフレーム23と、第1および第2リヤサスフレーム22,23間に後方に向かうに従って車幅方向内側に傾倒した状態で架設された左右一対のサスフレーム補強メンバ24とを備える。第1および第2リヤサスフレーム22,23には、後輪用のマルチリンク機構(不図示)の上端部がそれぞれ接続される。
【0069】
フロアパネル9の下方であってプロペラシャフト4の上方には、補機としての燃料タンク29が配設されている(図1,図10参照)。具体的には、この燃料タンク29は、車体前後方向について、後側分割シャフト4bに対応して、すなわち後側分割シャフト4bの上方に配置されている。また燃料タンク29は、フロアパネル9および第1リヤサスフレーム22にバンド(不図示)により固定されている。更に、燃料タンク29は、図1および図10に明示するように、後端下部が上方に凹入して形成された略直方体状のタンクであり、この凹入部291にリヤ差動装置3の先端部の上部が車体前後方向に所定の距離D5を隔てて配置されている。言い換えると、リヤ差動装置3の前方には燃料タンク29の一部が配置され、両者3,29は車体前後方向について水平最短距離D5だけ隔てて配置されている。
【0070】
装置本体31は、パワーユニット2からの駆動力を左右の駆動輪に振り分けるものである。この装置本体31は、第1リヤサスフレーム22の下方に配置され、該第1リヤサスフレーム22によって装置本体31の上方変位を防止するものとなされている。また、装置本体31は、前側支持部32が第1リヤサスフレーム22に接続され、前側支持部32の後方に配置された後側支持部33が第2リヤサスフレーム23に接続されることにより、車体後部に支持されている。
【0071】
前側支持部32は、装置本体31から第1リヤサスフレーム22側に向かって車幅方向外側に延びるフロントマウントブラケット35と、このフロントマウントブラケット35の先端部(リヤサスフレーム側の端部)に設けられたフロントデフマウント36と備え、後側支持部33の前方において装置本体31を支持する。
【0072】
フロントマウントブラケット35は、図8に明示するように、正面視略三角形状の偏平な中空板状体であり、車体前後方向に直交する左右方向に延びている。このフロントマウントブラケット35は、基端部においてボルト37によって装置本体31に取り付けられている。このフロントマウントブラケット35の先端部には、図9に示すように、フロントデフマウント36が内蔵され、そのブラケット35の後壁面が直接的に第1リヤサスフレーム22の前壁面に当接している。すなわち、フロントマウントブラケット35は、車体前方側から第1リヤサスフレーム22の前壁面に当接している。また、フロントマウントブラケット35は、その中間部に厚み方向に貫通するぬすみ孔351が設けられ、軽量化が図られている。
【0073】
一方、フロントデフマウント36は、車体前後方向の振動を吸収することはできないものの、上下左右方向の振動をそのマウントラバー362によって吸収するように構成されている。具体的には、フロントデフマウント36は、車体前後方向に向いて開口する外筒361と、この外筒361内に収容されたマウントラバー362と、マウントラバー362の中心孔362aに嵌入される内筒体363(軸心が車体前後方向に延びている)と、内筒体363内に挿入され第1リヤサスフレーム22の前壁面にフロントマウントブラケット35を取り付けるための取付ボルト364と、この取付ボルト364のヘッド364aを覆うキャップ365とを備え、ブラケット35に設けられた取付孔352に内筒体363が遊嵌されることにより車体上下左右方向の振動をマウントラバー362によって吸収し得るように構成されている。なお、図12中、366は第1リヤサスフレーム22に設けられて取付ボルト364の前部を支持する取付ボルト支持部であり、221は第1リヤサスフレーム22内に設けられた補強メンバである。
【0074】
このように本実施形態のフロントマウントブラケット35は、車体前後方向に直交する方向に延びるとともに、先端部において直接的に第1リヤサスフレーム22の前壁面に当接しているので、前突時または後突時に、リヤ差動装置3に車体前後方向に沿った衝撃荷重が入力されることにより、この衝撃荷重がマウントラバー362によって緩衝されることなく、直接的に剪断力ないしは曲げモーメントとして該ブラケット35に作用する。これにより、フロントマウントブラケット35は破断する。すなわち、フロントマウントブラケット35は、装置本体31が支持された状態で車体前後方向に沿った衝撃荷重が入力されることにより破断するように構成されている。
【0075】
加えて、本実施形態のフロントマウントブラケット35は、偏平な中空板状体として構成され、中央部にぬすみ孔351が設けられているので、前突時等、パワーユニット2が後退することによりプロペラシャフト4を通じてリヤ差動装置3に車体前後方向に沿う衝撃荷重の入力があった場合に一層容易に破断するように構成されている。
【0076】
一方、後側支持部33は、装置本体31から車体後方に向かって延びるリヤマウントブラケット38と、このリヤマウントブラケット38の先端部(第2リヤサスフレーム側の端部)に設けられたリヤデフマウント39と備え、車両前突時等、リヤ差動装置3に対して前方から衝撃荷重の入力があった場合にリヤマウントブラケット38がリヤデフマウント39に対して相対的に後退し、リヤマウントブラケット38がリヤデフマウント39に対して回動可能に構成されている。なお、後側支持部33は、本実施形態では1点のみ設けられているが、2点等、複数設けるものであっても良い。すなわち、装置本体31を後部において、複数点で支持するものであってもよい。
【0077】
リヤマウントブラケット38は、後側分割シャフト4bの連結部(第2の自在継手42に対応する部分)に対して上方で装置本体31を支持している。すなわち、リヤマウントブラケット38は、後側分割シャフト4bの連結部分の高さ(図10中一点鎖線Lで示す)よりも高い位置で装置本体31を第2リヤサスフレーム23に支持している。
【0078】
具体的には、リヤマウントブラケット38は、装置本体31と接続するための板状の接続部381と、この接続部381の車幅方向偏心位置(左寄りの位置)から後方に向かって延びる支持軸部382と、支持軸部382の先端(後端)にボルト384によって固定された前方移動拘束用の抜止めキャップ383とを備える。
【0079】
接続部381の背面上部には、リヤ差動装置3の幅方向略中央部に対応する位置に後方に向かって突出する突出部385が、接続部381に一体的に設けられている。この突出部385は、車両前突時等、装置本体31が後方に変位した場合に、第2リヤサスフレーム23の前壁に干渉して装置本体31に対して前部が下方に回動するような曲げモーメントを付与する。この突出部385は、図9および図11に示すように、平面視略矩形状のブロック状体であり、突出量はリヤ差動装置3を車体後部に搭載した状態で第2リヤサスフレーム23の前面に略当接した(ないしは若干の隙間を介して対向した)状態となるように調整されている。
【0080】
支持軸部382は、長尺の棒状体であり、リヤデフマウント39に対応する部分(本実施形態では先端部)が径方向外方に膨出して構成されている。この膨出部382aは、リヤデフマウント39のマウントラバー392に食い込み、通常時における前後の振動も一定の限度においてマウントラバー392で吸収し得るものとなっている。
【0081】
抜止めキャップ383は、リヤマウントブラケット38が前方に抜け落ちるのを防止するためのものであり、円錐台状に構成されている。
【0082】
一方、リヤデフマウント39は、車体の上下左右の振動に加え、車体前後方向の振動も一定の限度においてマウントラバー392によって吸収するように構成されている。具体的には、リヤデフマウント39は、車体前後方向に開口するリヤ側外筒391と、リヤ側外筒391内に収容されたマウントラバー392とを備え、マウントラバー392の中心孔392aにリヤマウントブラケット38の支持軸部382が嵌入されている。外筒391は、第2リヤサスフレーム23の前後方向に沿って貫通された支持孔231に嵌着されることにより第2リヤサスフレーム23に固定されている。
【0083】
このように本実施形態の後側支持部33は、車両の前突等、車両後方に向かって衝撃荷重が入力され、これにより装置本体31が後退した場合に、リヤマウントブラケット38がリヤデフマウント39に対して相対的に後退し、これにより膨出部382aとマウントラバー392との係合状態が解除される。このとき、リヤマウントブラケット38は、後側分割シャフト4bの連結部に対して上方で装置本体31を支持しているので、上記衝撃荷重の入力によって装置本体31に対して前部が下方に回動するような曲げモーメントを確実に作用させることができる。
【0084】
以上のように構成された駆動力伝達装置1を備えた下部車体構造における車体前突および後突時の作用について説明する。図14は、後突時におけるプロペラシャフトとリヤ差動装置とを示す側面概略図である。なお、この図14において二点鎖線は衝突前のプロペラシャフト4等を示し、実線は衝突後のプロペラシャフト4等を示す。
【0085】
車両前突時には、乗員に対する衝撃力を緩和するべく、車体前部のつぶれ量を確保する必要がある。このため、フロントエンドパネルが車体後方に押し込まれるとともに、フロントサイドフレーム5、フロントサブフレーム7が各々クラッシュカン61,74から順に車体後方へ押し潰されることによって衝撃を吸収する。押し込まれたフロントエンドパネルがパワーユニット2に達すると、パワーユニット2とインテークマニホールド25により平面的に衝撃荷重を受け止め、これによりパワーユニット2は水平方向後方(多少ずれるものも含む)に変位(後退)し始める。このとき、パワーユニット2の水平方向後方におけるダッシュパネル10との間に、後退許容空間1aが設けられているので、パワーユニット2を確実に真後ろ(水平方向後方)に変位させることができる。
【0086】
このパワーユニット2の後退開始に伴い、フロントサブフレーム7は、中間フレーム支持部76がまず破断し、続いて後側フレーム支持部77が破断する。
【0087】
一方、パワーユニット2はその背面側からプロペラシャフト4によって支持されるとともに、このプロペラシャフト4がリヤ差動装置3に連結されているので、このプロペラシャフト4が支え棒として機能することになるが、本実施形態の駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト4が縮小可能に構成されるとともに、リヤ差動装置3がその装置本体31の前部を下方に回動可能に車体に支持されているので、パワーユニット2の後方変位量(後退量)を十分に確保することができる。
【0088】
すなわち、パワーユニット2の後退開始に伴い、まずプロペラシャフト4、特に前側分割シャフト4aにその軸方向に衝撃荷重が入力され、これにより前側分割シャフト4aは中間軸受部16を破壊して後退する。このとき、パワーユニット2は後退許容空間1aに向かって水平方向後方に変位させることができるので、プロペラシャフト4、特に前側分割シャフト4aの軸方向に沿って確実に荷重を伝達させることができる。
【0089】
この前側分割シャフト4aの後退に伴い、第3の自在継手43において、内輪431、ボール433およびケージ434の軸状インナーは、外輪432に対して軸方向に相対的に変位して、これにより前側分割シャフト4aは後側分割シャフト4bに対して相対的に変位して該後側分割シャフト4b内に嵌入される。具体的な動作については上述しているので、ここでは省略する。
【0090】
また、前側分割シャフト4aの後退に伴い、その押圧フランジ部44が後方に変位し、中間軸受部16に干渉することによって、該中間軸受部16および第2トンネルクロスメンバ15bを含む中間支持部に対し、後方に向かう荷重が入力される。この荷重が所定値以上になった場合に、第2中間クロスメンバ14bに対して第2トンネルクロスメンバ15bがボルト151を中心軸として相対的に回動するとともに下方に押し出され、これにより該第2トンネルクロスメンバ15bと第2中間クロスメンバ14bとの係合状態が解除される(離脱する)。このように中間軸受部16および第2トンネルクロスメンバ15bを含む中間支持部が前突時に車体(第2中間クロスメンバ14b)から離脱するように構成されているので、後述するようにリヤ差動装置3が前傾姿勢に移行する場合にプロペラシャフト4が第2トンネルクロスメンバ15bに引っ掛かってその前傾が阻害されるという事態を確実に回避することができ、前突時に円滑にパワーユニット2を後退させることができる。
【0091】
そして、プロペラシャフト4が縮小して、前側分割シャフト4aの縮径部4eが後側分割シャフト4bの先端部に嵌入され、拡径段部4fが後側分割シャフト4bの前端面に干渉することによりそれ以上の嵌入が規制され、縮小後のプロペラシャフト4は一本のシャフトとして機能する。このプロペラシャフト4の縮小範囲が後退許容空間1aによって定められるパワーユニット2の後退許容範囲よりも短いので、プロペラシャフト4の縮小後においてもパワーユニット2の後退に伴ってリヤ差動装置3にも荷重を入力することができる。すなわち、このプロペラシャフト4の縮小状態においてもさらに後方に荷重が入力され、この荷重はプロペラシャフト4を通じてリヤ差動装置3に入力される。
【0092】
リヤ差動装置3にこの衝撃荷重が入力されることにより左右の前側支持部32のフロントマウントブラケット35が各々破断するとともに、後側支持部33の支持軸部382の膨出部382aがリヤデフマウント39から後方に抜出する。この状態で、プロペラシャフト4から荷重が入力されるとともに突出部385が第2リヤサスフレーム23に干渉することにより、装置本体31に前部が下方に回動するような曲げモーメントが生じる。このため、装置本体31は、その前部が下方に回動することにより前傾姿勢へと姿勢変更し、これに伴いプロペラシャフト4との連結部(第2の自在継手42に対応する部分)も車体前後方向について後方に変位することになる。従って、このプロペラシャフト4の後端支持位置が後方に変位することによりその分パワーユニット2の後方変位量が増大する。
【0093】
また、リヤ差動装置3の回動に伴い、プロペラシャフト4が第1トンネルクロスメンバ15aに干渉することも懸念されるが、本実施形態の下部車体構造によれば、第1トンネルクロスメンバ15aはスリット156が設けられることによって下向きの荷重により離脱可能に車体に接合されているので、リヤ差動装置3の前傾によってプロペラシャフト4の経路が下方に移動したとしても、プロペラシャフト4が第1トンネルクロスメンバ15aに干渉することによりこのクロスメンバ15aと第1中間クロスメンバ14aとの係合状態が解除される。
【0094】
一方、車両後突時にも、乗員に対する衝撃力を緩和するべく、車体後部のつぶれ量を確保する必要がある。このため、リヤエンドパネルが車体前方に押し込まれるとともに、リヤサイドフレーム21等の後部車体が順に車体前方へ押し潰されることによって衝撃を吸収する。このとき、リヤサイドフレーム21に接続された第1および第2のリヤサスフレーム22,23も前方に移動し、この各リヤサスフレーム22,23に押されてリヤ差動装置3も前方に変位し始める。
【0095】
このリヤ差動装置3の前進に伴い、このリヤ差動装置3に接続された後側分割シャフト4bも前方に変位する(図4で黒塗り矢印)。この変位に伴い、第3の自在継手43において、外輪432は、内輪431、ボール433およびケージ434の軸状インナーに対して軸方向前方に相対的に変位して、これにより後側分割シャフト4bは前側分割シャフト4aに対して相対的に変位する。具体的な動作については前突時と同様である。
【0096】
この後側分割シャフト4bの前進に伴い、その後側押圧フランジ部45が前方に変位し、所定量変位して第2トンネルクロスメンバ15bに干渉することによって、該第2トンネルクロスメンバ15bおよび中間軸受部16を含む中間支持部に対し、前方に向かう荷重が入力される。この荷重が所定値以上になった場合に、第2中間クロスメンバ14bに対して第2トンネルクロスメンバ15bがボルト152を中心軸として相対的に回動するとともに下方に押し出され、これにより該第2トンネルクロスメンバ15bと第2中間クロスメンバ14bとの係合状態が解除される(離脱する)。
【0097】
このように後側押圧フランジ部45の変位量が所定量、すなわち第2トンネルクロスメンバ15bと干渉する程度にまで変位することにより、後側押圧フランジ部45が該第2トンネルクロスメンバ15bと干渉してこの第2トンネルクロスメンバ15bを含む中間支持部が車体(第2中間クロスメンバ14b)から離脱するように構成されているので、リヤ差動装置3の変位量が所定量に達するまでの間は、中間支持部によってプロペラシャフト4が車体に対して支持される。このため、プロペラシャフト4は第3の自在継手43において不測に屈曲することなく、後側分割シャフト4bを前側分割シャフト4aに外嵌させることにより確実に縮小(短縮)させることができる。しかも、後述するようにリヤ差動装置3が前傾姿勢に移行する場合にプロペラシャフト4が第2トンネルクロスメンバ15bに引っ掛かってその前傾が阻害されるという事態を確実に回避することができる。
【0098】
しかも、後突時にリヤ差動装置3が車体変形に伴い、所定の量だけ前進して中間支持部を離脱させることになるが、この水平方向の前進量d2について、リヤ差動装置3と燃料タンク29との車体前後方向における水平最短距離D5よりも短く設定されているので、リヤ差動装置3と燃料タンク29とが干渉する前に中間支持部を車体から離脱させることができ、この離脱によってリヤ差動装置3の装置本体31の前部を回動させるための準備を整えることができる。
【0099】
続けて、後側分割シャフト4bが前方に変位すると、後側分割シャフト4bの先端部は、前側分割シャフト4aの縮径部4eに外嵌されるとともに、所定量前進することにより拡径段部4fに干渉して、これ以上の前後分割シャフト4a,4bの嵌入動作が規制される(縮小限界に達する)。
【0100】
このように縮小限界に達すると、後側分割シャフト4bの前進が阻害され、この反力がリヤ差動装置3に入力され、これにより左右の前側支持部32のフロントマウントブラケット35が各々破断するとともに、後側支持部33の支持軸部382の膨出部382aがリヤデフマウント39から後方に抜出する。この状態で、プロペラシャフト4から荷重が入力されるとともに突出部385が第2リヤサスフレーム23に干渉することにより、装置本体31に前部が下方に回動するような曲げモーメントが生じる。このため、装置本体31は、その前部が下方に回動することにより前傾姿勢へと姿勢変更し、これに伴いプロペラシャフト4との連結部(第2の自在継手42に対応する部分)も車体前後方向について後方に変位することになる。
【0101】
このようにプロペラシャフト4の縮小範囲内で上記中間支持部を離脱可能に構成されているとともに、この縮小範囲について上記水平最短距離D5よりも短く設定されているので、リヤ差動装置3と燃料タンク29とが干渉する前にプロペラシャフト4の縮小限界に伴う反力をリヤ差動装置3に入力することができ、これにより装置本体31の下方への回動を促して、装置本体31と燃料タンク29との干渉を防止することができる。
【0102】
なお、以上に説明した自動車の駆動力伝達装置1およびこれを備えた下部車体構造は、本発明に係る駆動力伝達装置等の一実施形態であり、その具体的構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、その変形例を説明する。
【0103】
(1)上記実施形態では、フロントマウントブラケット35を破断容易に構成するために、1)車体前後方向に直交する方向に延出させ、2)第1リヤサスフレーム22の前壁面に直接当接させ、3)偏平な中空板状体として構成され、4)中央部にぬすみ孔351が設けられて構成されているが、この破断容易に構成するための具体的構成はこれに限定されるものではない。例えば、フロントマウントブラケットに薄肉部や、屈曲部等の脆弱部を設けることにしてもよく、これらの要素をいずれか単独で、ないしは複合して適用するものであってもよい。またフロントマウントブラケット35を硬くかつ第1リヤサスフレーム22よりも靭性の低い鋳造部材で構成してもよく、この場合、通常使用時の剛性と衝突時の破断し易さを容易に両立することができる。
【0104】
(2)上記実施形態では、パワーユニット2としてガソリンエンジン2aを用いているが、パワーユニットはこれに限定されるものではなく、例えば水素エンジン等であってもよく、また電気自動車や燃料自動車についてはモータであってもよい。
【0105】
(3)上記実施形態では、フロントサブフレーム7の後端部がトンネルフレーム11に接続されているが、トンネルフレーム11が省略されている車両においては後端部がフロアフレーム8に接続される等、他の車体部材に接続されているものであってもよい。
【0106】
(4)上記実施形態では、補機について燃料タンク29を用いて説明しているが、本発明にいう補機は燃料タンクに限定されるものではなく、例えば電気自動車や燃料電池車における電池、燃料電池等の電池部材であってもよく、その他の車載部品等であってもよい。また、動力伝達シャフトに対する補機の配設位置についても、本実施形態のように動力伝達シャフトの上方だけでなく、側方に配設されるものであってもよい。
【0107】
(5)上記実施形態では、前側分割シャフト4aの後端部に中間軸受部16を含む中間支持部が設けられているが、中間支持部について後側分割シャフト4bの先端部に設けるものであってもよく、その配置位置について特に限定するものではない。ただし、中間支持部について後側分割シャフト4bの先端部に設けられた場合には、後突時に中間軸受部であるベアリングを破壊して中間軸受部に対し後側分割シャフト4bが相対的に前進することになる。
【0108】
なお、この場合、前側押圧フランジ部と後側押圧フランジ部の大きさの条件が逆になり、すなわち、前側押圧フランジ部が後側押圧フランジ部よりも大きく設定され、前突時に前側押圧フランジ部が第2トンネルクロスメンバに干渉するように構成される。また、第2トンネルクロスメンバが後側分割シャフト4bの前端よりも前方に突出した態様で配置され、プロペラシャフト4の縮小過程において前側押圧フランジ部が第2トンネルクロスメンバに干渉し得るように構成されている。
【符号の説明】
【0109】
D1 縮小範囲
1 駆動力伝達装置
2 パワーユニット
3 リヤ差動装置
4 プロペラシャフト
4a 前側分割シャフト
4b 後側分割シャフト
9a フロアトンネル部
10 ダッシュパネル
10a ダッシュトンネル部
15 トンネルクロスメンバ
25 インテークマニホールド
26 排気装置
31 装置本体
32 前側支持部
33 後側支持部
43 第3の自在継手(自在継手に相当)
44 押圧フランジ部
152 スリット孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に設けられたパワーユニットと、車体後部に設けられた差動装置と、車体の前後方向に延び上記パワーユニットの駆動力を上記差動装置に伝達する動力伝達シャフトと、上記差動装置の前方に配設された補機とを備えた自動車の下部車体構造において、
上記動力伝達シャフトを車体前後方向の中間部における上記差動装置側の位置で車体に対して回転可能に支持する中間支持部をさらに備え、
上記動力伝達シャフトは、自在継手を介して後側が前側に対して短くなるように前後に分割され、車体変形に伴い上記パワーユニットと差動装置とが近接方向に変位する場合に上記自在継手の少なくとも一部とともに前後分割シャフトのいずれか一方が他方の分割シャフトの端部内に所定範囲にわたって嵌入されることにより縮小可能に構成され、
上記補機は、車体前後方向について、上記動力伝達シャフトにおける前後分割シャフトのうち後側分割シャフトの上方または側方に配置されることを特徴とする自動車の下部車体構造。
【請求項2】
上記差動装置は、装置本体と、この装置本体と上記動力伝達シャフトとの連結部に対して上方であって該装置本体の後部を支持することにより、上記近接方向の変位時に該装置本体の前部が下方に回動可能に該装置本体を支持する後側支持部とを有することを特徴とする請求項1記載の自動車の下部車体構造。
【請求項3】
上記中間支持部は、後突時の車体変形に伴い上記差動装置が前方に変位する場合にその変位量が所定量に達することにより車体から離脱するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の自動車の下部車体構造。
【請求項4】
上記所定量は、上記差動装置と補機との車体前後方向における水平最短距離よりも短く設定されていることを特徴とする請求項3記載の自動車の下部車体構造。
【請求項5】
上記中間支持部は、前突時の車体変形に伴い上記パワーユニットが後退する場合に離脱するように構成されていることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の自動車の下部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−207344(P2011−207344A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77039(P2010−77039)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】