説明

自動車の前部構造

【課題】最低地上高への影響を防止しつつ、歩行者保護性能の確保と、軽衝突時におけるシュラウドの破損を防止する自動車の前部構造を提供する。
【解決手段】後端がシュラウドロア14Lの前面部14aに取付けられ、前端がバンパフェース17裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材16を備え、プレート部材16の前後方向の中間部分に車幅方向に配列され前後方向の荷重に対する脆弱部21を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、後端がシュラウドロアの前面部に取付けられ、前端がバンパフェース裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材を備えたような自動車の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が歩行者と接触衝突した際、歩行者の足を払って、当該歩行者の上体をボンネット上に傾倒させて、歩行者を二次障害から守ることを目的として、足払い部材としての樹脂製のプレート部材をシュラウドロアに取付ける構造が採用されている。
【0003】
このような樹脂製のプレート部材を備えた自動車の前部構造としては、特許文献1に開示された構造がある。
【0004】
すなわち、左右一対のフロントサイドフレームの前部から下方に延びるラジエータサポートサイドを左右一対設け、これら左右一対のラジエータサポートサイドの下部相互間に、車幅方向に延びるラジエータサポートロアを横架し、このラジエータサポートロアの下面に取付けた樹脂製のプレート部材を、バンパフェース裏面に隣接する位置まで前方に延ばすと共に、歩行者の衝突荷重よりも大きな所定値以上の荷重が作用した時(いわゆる車両の軽衝突時)において、上記プレート部材とラジエータサポートロアとの間の固定を解除するように成したものである。
【0005】
この従来構造によれば、車両が歩行者と接触した場合には、上述のプレート部材で歩行者の足を払って、当該歩行者の上体をボンネット上に傾倒させて、歩行者を二次障害から保護することができる。
【0006】
また、車両の軽衝突時には、上述のプレート部材とラジエータサポートロアとの間の固定を解除して、車体前突時に発生するラジエータサポートロア、ラジエータサポートサイド、フロントサイドフレーム等の車体の損傷を防止することができる。
【0007】
しかしながら、この従来構造によれば、プレート部材がラジエータサポートロアの下面に取付けられているので、次のような問題点があった。
【0008】
つまり、車両の最低地上高を確保しようとすると、プレート部材をその下面に取付けるラジエータサポートロアの下端位置を上方に移動させる必要が生じ、このため、ラジエータサポートに設けられるラジエータ用の開口面積が小さくなって、ラジエータ容量が減少し、エンジン冷却性能に悪影響を与える問題がある。
【0009】
逆に、ラジエータの容量を確保しようとすると、樹脂製のプレート部材の取付け位置が下がって、最低地上高が小さくなるという問題点があった。
【特許文献1】特開2004−203183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明は、後端をシュラウドロアの前面部に取付け、前端をバンパフェース裏面に隣接する位置まで延ばした樹脂製のプレート部材を設け、このプレート部材の前後方向の中間部分に、車幅方向に配列された脆弱部を備えることで、最低地上高への影響を防止しつつ、歩行者保護性能の確保と、車両の軽衝突時におけるシュラウド等の車体の破損を防止することができる自動車の前部構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による自動車の前部構造は、後端がシュラウドロアの前面部に取付けられると共に、前端がバンパフェース裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材を備えた自動車の前部構造であって、上記プレート部材の前後方向の中間部分に車幅方向に配列され前後方向の荷重に対する脆弱部を備えたものである。
上述の脆弱部は、ノッチ(notch、刻み目)で形成してもよく、開口孔で形成してもよく、または、薄肉部で形成してもよい。
【0012】
上記構成によれば、車両が歩行者と接触衝突した場合には、その前端がバンパフェース裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材で、歩行者の足を払って、当該歩行者の上体をボンネット上に傾倒させて、歩行者を二次障害から保護することができる。
【0013】
また、歩行者に対する衝突荷重よりも大きい荷重が作用する車両の軽衝突時には、この荷重入力により上述の脆弱部にてプレート部材を折り曲げて、シュラウドロアに対する荷重伝達を低減し、シュラウド等の車体の破損を防止することができる。
しかも、上述のプレート部材はシュラウドロアの前面部に取付けられているので、最低地上高の確保と、ラジエータ容量の確保との両立を図ることができる。
要するに、最低地上高への影響を防止しつつ、歩行者保護性能の確保と、軽衝突時の車体の破損防止とを達成することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記脆弱部がノッチにより形成されたものである。
上記構成によれば、脆弱部をノッチで形成したので、他部材への影響を防止しつつ、簡単な構造で、軽衝突時におけるプレート部材の折れを促進することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記プレート部材は、平板部と、該平板部の下面または上面を前後方向に延びて車幅方向で複数設けられた縦リブと、から構成され、上記ノッチが複数の各縦リブに車幅方向で略直線的に配列されるように形成されたものである。
【0016】
上記構成によれば、平板部と複数の縦リブとの両者により、プレート部材の全体的な剛性向上を図りつつ、車幅方向で略直線的に配列された複数のノッチにより、軽衝突時におけるプレート部材の折れを促進することができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記各ノッチが形成される部分の平板部に、車幅方向に略直線上に配列される複数の開口孔を備えたものである。
【0018】
上記構成によれば、上述の平板部に開口孔を設けたので、この開口孔により軽衝突時のプレート部材の折れをより一層促進することができると共に、平板部の下方を流れる走行風を該開口孔からラジエータ側に導入することができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、上記縦リブが上記平板部の下面に形成される構造であって、上記開口孔の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて延びる横リブを備え、上記ノッチが該横リブより前方に形成されたものである。
【0020】
上記構成によれば、上述の横リブによりプレート部材の平板部下方を流れる走行風を、開口孔を介してラジエータ側に案内することができると共に、該横リブにて開口孔の後側周囲部を補強することができるので、車両の軽衝突時において開口孔でのプレート部材の折れを促進することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、上記脆弱部が車幅方向に略直線上に配列された複数の開口孔から形成されたものである。
【0022】
上記構成によれば、プレート部材の前後方向の中間部分に車幅方向に略直線上に配列された複数の開口孔(脆弱部)を形成したので、これら複数の開口孔により車両の軽衝突時におけるプレート部材の折れを促進することができると共に、プレート部材の下方を流れる走行風を、開口孔を介してラジエータ側に導入することができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、上記プレート部材が、上記開口孔が形成される平板部と、該平板部の下面において前後方向に延びると共に、車幅方向で複数設けられる縦リブと、上記開口孔の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて延びる横リブと、から構成されたものである。
【0024】
上記構成によれば、上述の横リブにより平板部下方を流れる走行風を、開口孔を介して、ラジエータ側に案内することができると共に、この横リブが開口孔の後側周囲部を補強するので、車両の軽衝突時において上述の開口孔でのプレート部材の折れを促進することができる。
また、上述の縦リブにより通常時におけるプレート部材の全体的な剛性を確保することができる。
【0025】
この発明の一実施態様においては、上記平板部の後端から下方に向けて延びる縦壁部を備え、該縦壁部が締結具を介してシュラウドロア前面部に締結される構成であって、上記締結具による締結部前方の横リブには逃がし部が形成される一方、上記逃がし部を形成した上方の平板部には開口孔を形成しないものである。
【0026】
上記構成によれば、締結具による締結部前方の横リブに逃がし部を形成したので、締結具を締め付け操作する工具と横リブとの干渉を回避して、プレート部材のシュラウドロア前面部に対する組付け性(生産性)の向上を図ることができる。
【0027】
また、逃がし部が形成された部位において、その上方の平板部には開口孔を形成しないので、プレート部材の剛性が局部的に過度に低下するのを防止することができる。
【0028】
この発明の一実施態様においては、上記締結具で締結されるプレート部材の縦壁部と、上記シュラウドロア前面部とは、前高後低状に傾斜する傾斜状に形成されたものである。
【0029】
上記構成によれば、締結具を斜め前方下方から容易に締結することができ、プレート部材のシュラウドロア前面部に対する組付け性のさらなる向上を図ることができる。
【0030】
この発明の一実施態様においては、上記プレート部材は、平板部と、該平板部の下面または上面を前後方向に延びて車幅方向で複数設けられた縦リブと、から構成され、上記脆弱部が上記縦リブに形成される薄肉部により構成されたものである。
【0031】
上記構成によれば、平板部と複数の縦リブとの両者により、プレート部材の全体的な剛性の向上を図りつつ、縦リブに上記薄肉部を形成するという簡単な構造で軽衝突時におけるプレート部材の折れを促進することができる。
特に、上記各縦リブに薄肉部を車幅方向で略直線的に配列させると、斯るプレート部材の折れをより一層確実に促進することができる。
【発明の効果】
【0032】
この発明によれば、後端をシュラウドロアの前面部に取付け、前端をバンパフェース裏面に隣接する位置まで延ばした樹脂製のプレート部材を設け、このプレート部材の前後方向の中間部分に、車幅方向に配列された脆弱部を備えたので、最低地上高への影響を防止しつつ、歩行者保護性能の確保と、車両の軽衝突時におけるシュラウド等の車体の破損を防止することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
最低地上高への影響を防止しつつ、歩行者保護性能の確保と、軽衝突時の車体破損の防止との両立を図るという目的を、後端がシュラウドロアの前面部に取付けられると共に、前端がバンパフェース裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材を備えた自動車の前部構造であって、上記プレート部材の前後方向の中間部分に車幅方向に配列され前後方向の荷重に対する脆弱部を備えるという構成にて実現した。
【実施例】
【0034】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は自動車の前部構造を示すが、まず、図1を参照して自動車の前部車体構造について説明する。
【0035】
エンジンルーム1と、その後方の車室2とを前後方向に仕切るダッシュロアパネル3(ダッシュパネル)を設け、このダッシュロアパネル3の前部には、エンジンルーム1の左右両サイドを車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム4,4を設けている。
【0036】
左右一対のフロントサイドフレーム4,4の前部には、凹凸部によりエネルギ吸収部5,5を一体的に形成し、このエネルギ吸収部5により車両正面衝突時の荷重を吸収すべく構成すると共に、一般的に用いられるクラッシュカンを廃止するように構成している。
【0037】
また、上述のエネルギ吸収部5の前端には、図示しないフロントエンドブラケットを介して、バンパレインフォースメント6を取付けている。
【0038】
この実施例では、片側4組のボルト、ナット等の締結部材7を用いて、バンパレインフォースメント6と、フロントエンドブラケット(図示せず)とを締結している。
【0039】
上述のバンパレインフォースメント6は、後方が開放する断面コ字状のバンパビーム8(図3、図4参照)と、このバンパビーム8の後方開放部を閉塞するクロージングプレート9と、から成り、フロントサイドフレーム4,4の前方位置において、車幅方向に延びるように配設されている。
【0040】
さらに、上述のダッシュロアパネル3の前面部において、左右一対のフロントサイドフレーム4,4間には、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバ10を取付け、このダッシュクロスメンバ10とダッシュロアパネル3との間に、車幅方向に延びるダッシュクロス閉断面を形成して、前部車体剛性を向上するように構成している。
【0041】
一方、その車内側の下部がフロントサイドフレーム4に接合された左右のサスタワー11,11(詳しくは、サスペンションタワー)を設け、これら左右のサスタワー11,11の車外側上部には、車両の前後方向に延びるカウルサイドパネル12,12を接合固定している。
【0042】
なお、上述のフロントサイドフレーム4は、そのキックアップ部を介してフロアパネル下部に延出され、このフロアパネル下部に設けられるフロアフレーム(図示せず)と前後方向に連続するように設けられた車体剛性部材である。
【0043】
このように構成した自動車の前部車体構造において、バンパレインフォースメント6を構成する上述のクロージングプレート9の背面には,左右一対のブラケット13,13を介して、合成樹脂製のシュラウド14(詳しくはラジエータシュラウド)を取付けている。
【0044】
上述のシュラウド14はラジエータ(図示せず)を保持するもので、このシュラウド14は図2に示すように、上側において車幅方向に延びるシュラウドアッパ14Uと、下側において、車幅方向に延びるシュラウドロア14Lと、側部において、シュラウドアッパ14Uおよびシュラウドロア14Lを上下方向に連結する左右のシュラウドサイド14S,14Sと、を一体形成して、方形枠状に成したものである。
【0045】
この実施例では、3つのスポーク部15a,15b,15cを正面視Y字状に一体形成したスポーク部材15を設け、このスポーク部材15によりシュラウドアッパ14Uの中間部と、シュラウドロア14Lの中央部とを上下方向に連結している。なお、このスポーク部材15は合成樹脂により上述のシュラウド14と一体形成されたものである。
【0046】
図3は図2のA−A線矢視に相当する断面図、図4は図2のB−B線矢視に相当する断面図であって、上述のシュラウドロア14Lの前面部14aには、樹脂製のプレート部材16の後端を取付けている。このプレート部材16はその前端がバンパフェース17の裏面(詳しくは、後述するバンパフェースロア部17aの裏面)に隣接する位置まで延びる部材であり、このプレート部材16は車両が歩行者と接触(衝突)した時、歩行者の足を払う所謂足払い部材である。なお、バンパビーム8の前面とこれに対応するバンパフェース17との間にはエネルギ吸収部材(いわゆるEA部材)が設けられるが、図示の便宜上、EA部材の図示を省略している。
【0047】
上述のバンパフェース17は、その下域部に走行風の取入口18を有し、この取入口18よりも下部のバンパフェースロア部17aにも、図4に示すように走行風の取入口19を形成し、一方、バンパフェース17の上端部17bには、図3に示すように、エンジンルーム1の上方を覆うボンネット20の前端が位置している。
【0048】
図5はシュラウドロア14Lとプレート部材16との両者の組付け構造を、車両左側下方から見上げた状態で示す斜視図、図6はシュラウドロア14Lとプレート部材16との両者の組付け構造を、車両正面下方から見上げた状態で示す斜視図、図7は図6のC−C線矢視断面図である。
【0049】
図3〜図7に示すように、上述のプレート部材16は、平板部16aと、この平板部16aの左右両側端から下方に延びる左右の側片16b,16bと、平板部16aの前端から下方に延びる前片16cと、平板部16aの後端から下方に向けて延びる縦壁部16d(いわゆる後片)と、平板部16aの下面を前後方向に延びて車幅方向で間隔を隔てて複数設けられた縦リブ16e,16e…と、平板部16aの下面を車幅方向に延びて前後方向で間隔を隔てて複数設けられた補強用の横リブ16f,16f…と、を備えたリブ構造体により構成されている。
【0050】
図2、図5、図6に示すように、上述のプレート部材16における平板部16aの車幅方向の長さは、シュラウドロア14Lの車幅方向の長さと同等に設定されており、この平板部16aの前後方向の長さは、シュラウドロア14Lの前面部14aから略水平方向前方に延びてバンパフェース17裏面に隣接する位置に相当する前後長に設定されている。
【0051】
しかも、図4、図5に示すように、プレート部材16の前後方向の中間部分に対応して、上述の各縦リブ16e,16e…には、前後方向の荷重に対する脆弱部として複数のノッチ21…を形成している。
【0052】
図5に示すように、複数のノッチ21…は車幅方向で略直線的に配列されるように形成したものである。
【0053】
また、上述の複数のノッチ21が形成された部分の上方に対応して、上述の平板部16aには、図2、図4、図6に示すように、複数の開口孔22…が形成されている。この開口孔22…は脆弱部としての作用と、走行風をラジエータ側へ案内する作用とを兼ねるものであって、図2に示すように複数の開口孔22は車幅方向に略直線上に配列されている。
【0054】
さらに、図4に開口孔22に相当する部位を断面図で示すように、上述の各開口孔22…の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて傾斜状に延びる走行風導入用の横リブ23…を一体形成しており、同図に示すように、上述のノッチ21は該横リブ23よりも前方に形成している。
【0055】
一方、上述のプレート部材16の後端には、図2、図3に示すように、平板部16aから上方に延びる平面視コ字状の複数の取付け片16g…を一体形成している。これら複数の取付け片16gは前方が開放するコ字状に形成されると共に、その形成位置は左右のシュラウドサイド14S,14Sの下部と、中央のスポーク部15cの下部とに対応するものであって、これらの各取付け片16gはボルト24、ナット25等の取付け部材を用いてシュラウド14の下部に締結されている。なお、この実施例においては上述のナット25が予めシュラウド14の対応部にインサート形成されている。
【0056】
図5、図6、図7に示すように、上述の平板部16aの後端から下方に向けて延びる縦壁部16dは、締結具(図7に示すボルト26、ナット27参照)を介してシュラウドロア14Lの前面部14aに締結されるが、この実施例では上記縦壁部16dの一部として該縦壁部16dから後方に突出する複数の凸壁部16hを一体形成し、これら凸壁部16hに対応してシュラウドロア14Lの前面部14aには該前面部14aの一部としての凹壁部14bを一体形成し、各凸壁部16hをボルト26、ナット27等の締結具を用いて、上述の各凹壁部14bに締結している。なお、上述のナット27は予め凹壁部14bにインサート形成したものである。
【0057】
ここで、上述の各ボルト26、ナット27による締結位置(図5、図6、図7参照)は、図2、図3で示したボルト24、ナット25による締結位置に対して、車幅方向にオフセットした位置に設定されている。
【0058】
また、図7に示すように、上述のボルト26、ナット27で締結されるプレート部材16の縦壁部、詳しくは凸壁部16hの締結面と、シュラウドロア14Lの前面部14a、詳しくは凹壁部14bの締結面とは、ボルト26の締付け作業性を考慮して、前部が高く、後部が低い形状、すなわち前高後低状に傾斜する傾斜状に形成されている。
【0059】
さらに、上述の締結具としてのボルト26、ナット27による締結部前方の複数の横リブ16f…には、ボルト26を締付け操作する工具と、該横リブ16fとの干渉を回避する目的で、逃がし部28…を形成している。
【0060】
上述の逃がし部28による逃がし量は、図7に示すように前から2番目の横リブ16fの逃がし量が最も小さく、前から3番目の横リブ16fの逃がし量がさらに大きく、前から4番目の横リブ16fの逃がし量が最大となるように形成されている。
【0061】
しかも、上述の逃がし部28…を形成した上方の平板部16aには、図6に示すように、開口孔22を形成することなく、プレート部材16の剛性が局部的かつ過度に低下するのを防止すべく構成している。なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示す。
【0062】
このように構成した自動車の前部構造において、通常の車両走行時には、バンパフェース17の走行風取入口18から図4に矢印aで示すように走行風が取入れられると共に、バンパフェースロア部17aの走行風取入口19からも走行風が取入れられ、プレート部材16の下方を流れる走行風は、図4に矢印bで示すように、横リブ23で案内された後に、開口孔22からラジエータ(図示せず)側に向けて流出される。
【0063】
一方、車両が歩行者と衝突した場合には、プレート部材16で当該歩行者の足を払って、その上体をボンネット20上に傾倒させ、歩行者に対する二次障害を防止する。この場合には、ノッチ21および開口孔22が存在していても、プレート部材16は座屈および折れ曲がることはない。
【0064】
また、歩行者に対する衝突荷重よりも大きい荷重が作用する車両の軽衝突時には、脆弱部としてのノッチ21および開口孔22の存在により、プレート部材16が図3に仮想線αで示すように折れ曲がって、軽突エネルギを吸収するので、その後方のシュラウドロア14Lに対する荷重伝達が大幅に低減され、このシュラウドロア14L乃至シュラウド14の破損を防止することができる。
【0065】
このように図1〜図7で示した実施例の自動車の前部構造は、後端がシュラウドロア14Lの前面部14aに取付けられると共に、前端がバンパフェース17裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材16を備えた自動車の前部構造であって、上記プレート部材16の前後方向の中間部分に車幅方向に配列され前後方向の荷重に対する脆弱部(ノッチ21または開口孔22参照)を備えたものである(図2、図4、図5参照)。
【0066】
この構成によれば、車両が歩行者と接触衝突した場合には、その前端がバンパフェース17裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材16で歩行者の足を払って、当該歩行者の上体をボンネット20上に傾倒させて、歩行者を二次障害から保護することができる。
【0067】
また、歩行者に対する衝突荷重よりも大きい荷重が作用する車両の軽衝突時には、この荷重入力により上述の脆弱部(ノッチ21または開口孔22参照)にてプレート部材16を折り曲げて、シュラウドロア14Lに対する荷重伝達を低減し、シュラウド14等の車体の破損を防止することができる。
【0068】
しかも、上述のプレート部材16はシュラウドロア14Lの前面部14aに取付けられているので、最低地上高の確保と、ラジエータ容量の確保との両立を図ることができる。
【0069】
要するに、最低地上高への影響を防止しつつ、歩行者保護性能の確保と、軽衝突時の車体の破損防止とを達成することができる。
【0070】
さらに、上記脆弱部がノッチ21により形成されたものである(図3、図4参照)。
この構成によれば、脆弱部をノッチ21で形成したので、他部材への影響を防止しつつ、簡単な構造で、軽衝突時におけるプレート部材16の折れ(図3の仮想線α参照)を促進することができる。
【0071】
また、上記プレート部材16は、平板部16aと、該平板部16aの下面または上面(この実施例では下面)を前後方向に延びて車幅方向で複数設けられた縦リブ16eと、から構成され、上記ノッチ21が複数の各縦リブ16eに車幅方向で略直線的に配列されるように形成されたものである(図4、図5参照)。
【0072】
この構成によれば、平板部16aと複数の縦リブ16eとの両者により、プレート部材16の全体的な剛性向上を図りつつ、車幅方向で略直線的に配列された複数のノッチ21により、軽衝突時におけるプレート部材16の折れを促進することができる。
【0073】
さらに、上記各ノッチ21が形成される部分の平板部16aに、車幅方向に略直線上に配列される複数の開口孔22を備えたものである(図2、図4参照)。
この構成によれば、上述の平板部16aに開口孔22を設けたので、この開口孔22により軽衝突時のプレート部材16の折れをより一層促進することができると共に、平板部16aの下方を流れる走行風を該開口孔22からラジエータ側に導入することができる。
【0074】
加えて、上記縦リブ16eが上記平板部16aの下面に形成される構造であって、上記開口孔22の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて延びる横リブ23を備え、上記ノッチ21が該横リブ23より前方に形成されたものである(図4参照)。
【0075】
この構成によれば、上述の横リブ23によりプレート部材16の平板部16a下方を流れる走行風を、開口孔22を介してラジエータ側に案内することができると共に、該横リブ23にて開口孔22の後側周囲部を補強することができるので、車両の軽衝突時において開口孔22でのプレート部材16の折れを促進することができる。
【0076】
また、上記脆弱部が車幅方向に略直線上に配列された複数の開口孔22から形成されたものである(図2参照)。
この構成によれば、プレート部材16の前後方向の中間部分に車幅方向に略直線上に配列された複数の開口孔22(脆弱部)を形成したので、これら複数の開口孔22により車両の軽衝突時におけるプレート部材16の折れを促進することができると共に、プレート部材16の下方を流れる走行風を、開口孔22を介してラジエータ側に導入することができる。
【0077】
さらに、上記プレート部材16が、上記開口孔22が形成される平板部16aと、該平板部16aの下面において前後方向に延びると共に、車幅方向で複数設けられる縦リブ16eと、上記開口孔22の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて延びる横リブ23と、から構成されたものである(図4、図5参照)。
【0078】
この構成によれば、上述の横リブ23により平板部16a下方を流れる走行風を、開口孔22を介してラジエータ側に案内することができると共に、この横リブ23が開口孔22の後側周囲部を補強するので、車両の軽衝突時において上述の開口孔22でのプレート部材16の折れを促進することができる。
【0079】
また、上述の縦リブ16eにより通常時におけるプレート部材16の全体的な剛性を確保することができる。
【0080】
加えて、上記平板部16aの後端から下方に向けて延びる縦壁部16gを備え、該縦壁部16gが締結具(ボルト26、ナット27参照)を介してシュラウドロア14Lの前面部14aに締結される構成であって、上記締結具(ボルト26、ナット27)による締結部前方の横リブ16fには逃がし部28が形成される一方、上記逃がし部28を形成した上方の平板部16aには開口孔22を形成しないものである(図7参照)。
【0081】
この構成によれば、締結具(ボルト26、ナット27)による締結部前方の横リブ16fに逃がし部28を形成したので、締結具を締め付け操作する工具と横リブ16fとの干渉を回避して、プレート部材16のシュラウドロア14Lの前面部14aに対する組付け性(生産性)の向上を図ることができる。
【0082】
また、逃がし部28が形成された部位において、その上方の平板部16aには開口孔22を形成しないので、プレート部材16の剛性が局部的に過度に低下するのを防止することができる。
【0083】
さらに、上記締結具(ボルト26、ナット27参照)で締結されるプレート部材16の縦壁部16d(詳しくは、凸壁部16hの締結面)と、上記シュラウドロア14Lの前面部14a(詳しくは凹壁部14bの締結面)とは、前高後低状に傾斜する傾斜状に形成されたものである(図7参照)。
【0084】
この構成によれば、締結具(ボルト26参照)を斜め前方下方から容易に締結することができ、プレート部材16のシュラウドロア14Lの前面部14aに対する組付け性のさらなる向上を図ることができる。
【0085】
図8は自動車の前部構造の他の実施例を示す側面図であって、プレート部材16の平板部16aにおいて、開口孔22の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて延びる横リブ23と対向して、この横リブ23の直前の横リブ16fを前方かつ下方に指向するように傾斜状と成したものであって、このように構成すると、図4で示した実施例と比較して、プレート部材16の下方を流れる走行風を前後の横リブ16f,23から開口孔22を介して、より一層良好にラジエータ側へ導くことができる。
【0086】
図8で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例と同様であるから、図8において図4と同一の部分には、同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0087】
図9は自動車の前部構造のさらに他の実施例を示す平面図であって、プレート部材16において車両の前後方向に延び、かつ車幅方向に間隔を隔てて複数設けられた縦リブ16e,16e…を備え、このプレート部材16の前後方向の中間部分に対応して、上述の縦リブ16eには、前後方向の荷重に対する脆弱部として薄肉部29を形成し、複数の各薄肉部29,29…が車幅方向で略直線的に配列されるように形成したものである。
【0088】
このように、図9で示した実施例においては、上記プレート部材16は、平板部と、該平板部の下面または上面を前後方向に延びて車幅方向で複数設けられた縦リブ16eと、から構成され、上記脆弱部が上記縦リブ16eに形成される薄肉部29により構成されたものである。
【0089】
この構成によれば、平板部16a(前図参照)と複数の縦リブ16eとの両者により、プレート部材16の全体的な剛性の向上を図りつつ、縦リブ16eに上記薄肉部29を形成するという簡単な構造で軽衝突時におけるプレート部材16eの折れを促進することができる。
特に、上記各縦リブ16eに薄肉部29を車幅方向で略直線的に配列させると、斯るプレート部材16の折れをより一層確実に促進することができる。
【0090】
なお、図9で示したこの実施例においても、その他の点については、先の実施例とほぼ同様の作用、効果を奏するので、図9において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0091】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の脆弱部は、実施例のノッチ21、開口孔22、薄肉部29に対応し、 以下同様に、
締結具は、ボルト26、ナット27に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明のバンパ構造を備えた自動車の前部車体構造を示す斜視図
【図2】自動車の前部構造を示す斜視図
【図3】図2のA−A線矢視に相当する断面図
【図4】図2のB−B線矢視に相当する断面図
【図5】自動車の前部構造を側部下方から見上げた状態で示す斜視図
【図6】自動車の前部構造を前部下方から見上げた状態で示す斜視図
【図7】図6のC−C線矢視断面図
【図8】自動車の前部構造の他の実施例を示す側面図
【図9】自動車の前部構造のさらに他の実施例を示す平面図
【符号の説明】
【0093】
14L…シュラウドロア
16…プレート部材
16a…平板部
16d…縦壁部
16e…縦リブ
16f…横リブ
17…バンパフェース
21…ノッチ(脆弱部)
22…開口孔(脆弱部)
23…横リブ
26…ボルト(締結具)
27…ナット(締結具)
28…逃がし部
29…薄肉部(脆弱部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端がシュラウドロアの前面部に取付けられると共に、前端がバンパフェース裏面に隣接する位置まで延びる樹脂製のプレート部材を備えた自動車の前部構造であって、
上記プレート部材の前後方向の中間部分に車幅方向に配列され前後方向の荷重に対する脆弱部を備えたことを特徴とする
自動車の前部構造。
【請求項2】
上記脆弱部がノッチにより形成されたことを特徴とする
請求項1記載の自動車の前部構造。
【請求項3】
上記プレート部材は、平板部と、該平板部の下面または上面を前後方向に延びて車幅方向で複数設けられた縦リブと、から構成され、
上記ノッチが複数の各縦リブに車幅方向で略直線的に配列されるように形成されたことを特徴とする
請求項2記載の自動車の前部構造。
【請求項4】
上記各ノッチが形成される部分の平板部に、車幅方向に略直線上に配列される複数の開口孔を備えたことを特徴とする
請求項3記載の自動車の前部構造。
【請求項5】
上記縦リブが上記平板部の下面に形成される構造であって、
上記開口孔の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて延びる横リブを備え、
上記ノッチが該横リブより前方に形成されたことを特徴とする
請求項4記載の自動車の前部構造。
【請求項6】
上記脆弱部が車幅方向に略直線上に配列された複数の開口孔から形成されたことを特徴とする
請求項1記載の自動車の前部構造。
【請求項7】
上記プレート部材が、上記開口孔が形成される平板部と、該平板部の下面において前後方向に延びると共に、車幅方向で複数設けられる縦リブと、上記開口孔の後側周囲部分から前方かつ下方に向けて延びる横リブと、から構成されたことを特徴とする
請求項6記載の自動車の前部構造。
【請求項8】
上記平板部の後端から下方に向けて延びる縦壁部を備え、
該縦壁部が締結具を介してシュラウドロア前面部に締結される構成であって、
上記締結具による締結部前方の横リブには逃がし部が形成される一方、
上記逃がし部を形成した上方の平板部には開口孔を形成しないことを特徴とする
請求項5または7記載の自動車の前部構造。
【請求項9】
上記締結具で締結されるプレート部材の縦壁部と、上記シュラウドロア前面部とは、前高後低状に傾斜する傾斜状に形成されたことを特徴とする
請求項8記載の自動車の前部構造。
【請求項10】
上記プレート部材は、平板部と、該平板部の下面または上面を前後方向に延びて車幅方向で複数設けられた縦リブと、から構成され、
上記脆弱部が上記縦リブに形成される薄肉部により構成されたことを特徴とする
請求項1記載の自動車の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−265399(P2008−265399A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107822(P2007−107822)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】