説明

自動車の前部車体構造

【課題】車室スペースを犠牲にすることなく、衝撃力吸収エリアを拡大できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】クロスメンバ3の前面には、サイドメンバ2の前方を覆うように車幅方向に延びる第1の衝撃吸収部材20が設けられ、左,右のラジエータサポート部材10の上部10dの前面には、第2の衝撃吸収部材21が設けられ、該第2の衝撃吸収部材21には、前記サイドメンバ2の前方かつ上方に位置する上部延長部21′が形成され、左,右のラジエータサポート部材10の下部10eの前面には、第3の衝撃吸収部材22が設けられ、該第3の衝撃吸収部材22には、サイドメンバ2の前方かつ下方に位置する下部延長部22′が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバと、該左,右のサイドメンバの前端面に車幅方向に跨がるように結合されたクロスメンバと、前記左,右のサイドメンバの前端部側壁に上下方向に延びるように結合されたラジエータサポート部材とを備えた自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部車体は、左,右のサイドメンバの前端面にクロスメンバを結合するとともに、左,右のサイドメンバの前端部に略矩形状をなすラジエータサポートを結合した構造となっている。
【0003】
前記前部車体では、剛性が高いことから、被衝突物に衝突した際の該被衝突物への影響を回避するようにした構造が採用されている。例えば、特許文献1には、左,右のサイドメンバの前側に配置されたクロスメンバに衝撃吸収部材を配置するとともに、ラジエータサポートの縦枠部材の前側に衝撃吸収部材を配置した構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−74264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記従来の衝撃吸収構造では、ラジエータサポートに配置された衝撃吸収部材はサイドメンバより車幅方向内側に偏位していることから、サイドメンバの前方部分での衝撃吸収性能が低下するという懸念がある。
【0006】
このようなサイドメンバ前方部分での衝撃吸収性能を高めるには、前記衝撃吸収部材の車両前後方向長さを長くして衝撃力吸収ストロークを大きくすることが考えられる。しかしながら、衝撃力吸収ストロークを大きくすると、車両前後長に規制がある場合はエンジン室や車室の前後長を縮小する必要があり、特に小型車の場合には室内スペースが犠牲となり、商品性が低下するという問題が生じる。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、室内スペースを縮小することなく、衝撃吸収エリアを拡大できる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバと、該左,右のサイドメンバの前端面に車幅方向に跨がるように結合されたクロスメンバと、前記左,右のサイドメンバの前端部側壁に車両上下方向に延び、その中途部が結合されたラジエータサポート部材とを備えた自動車の前部車体構造であって、前記クロスメンバの前面には、前記サイドメンバの前方を覆うように車幅方向に延びる第1の衝撃吸収部材が設けられ、前記左,右のラジエータサポート部材の上部前面には、第2の衝撃吸収部材が設けられ、該第2の衝撃吸収部材には、前記サイドメンバの前方かつ上方に位置する上部延長部が形成され、前記左,右のラジエータサポート部材の下部前面には、第3の衝撃吸収部材が設けられ、該第3の衝撃吸収部材には、前記サイドメンバの前方かつ下方に位置する下部延長部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る前部車体構造によれば、クロスメンバの前面にサイドメンバの前方を覆う第1の衝撃吸収部材を設け、左,右のラジエータサポート部材の上部前面,下部前面に第2,第3衝撃吸収部材を設け、さらに該第2,第3衝撃吸収部材に、サイドメンバの前方かつ上方,前方かつ下方に位置する上部,下部延長部を形成したので、衝撃吸収部材の前後方向長さを大きくすることなく、従って室内スペースを縮小することなく、衝撃吸収エリアを拡大できる。これにより、ラジエータサポート及びサイドメンバ前方部分での衝撃吸収性能を高めることができ、被衝突物への影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体の斜視図である。
【図2】前記前部車体に配設された衝撃吸収部材の正面図である。
【図3】前記衝撃吸収部材の断面側面図である。
【図4】前記衝撃吸収部材の断面平面図(図3のIVa-IVa線,IVb-IVb線,IVc-IVc線断面図)である。
【図5】本発明の実施例2による衝撃吸収部材の断面側面図である。
【図6】前記衝撃吸収部材の特性図である。
【図7】本発明の実施例3による衝撃吸収部材の断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0011】
図1ないし図4は、本発明の実施例1による自動車の前部車体構造を説明するための図である。なお、本実施例において、前後,左右という場合は、特記なき限り、車両の前進方向に向かって見た場合の前後,左右を意味する。
【0012】
図において、1は自動車の前部車体を示しており、これは車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の前端面2aに車幅方向に跨がるように結合されたクロスメンバ3と、前記左,右のサイドメンバ2の前端部に配設されたラジエータサポート4とを備えている。
【0013】
前記左,右のサイドメンバ2は、車幅方向外側に開口する断面ハット形状のメンバ本体5と、該メンバ本体5に開口を閉塞するように結合された帯板状の板部材6とで閉断面を形成した構造を有する(図2参照)。
【0014】
また前記左,右のサイドメンバ2の前端部には、前端開口を閉塞する蓋部材7,7が結合されており、該蓋部材7の前端面2aに前記クロスメンバ3がボルト8により結合されている(図3参照)。
【0015】
前記ラジエータサポート4は、車両上下方向に延びる左,右のラジエータサポート部材10,10と、該ラジエータサポート部材10の上端部間に掛け渡して配置された車幅方向に延びるアッパサポート部材11と、下端部間に掛け渡して配置された車幅方向に延びるロアサポート部材12とを略矩形枠状をなすように形成した構造を有する。
【0016】
前記左,右のラジエータサポート部材10の上端部10c間に前記アッパサポート部材11がボルト締め固定されている。また各ラジエータサポート部材10の下端部10bは、前記ロアサポート部材10の左,右端部に溶接により結合されている。
【0017】
前記左,右のラジエータサポート部材10は、前記クロスメンバ3より少し後方に位置するよう配置されており、これの上下方向中央部10aが前記サイドメンバ2の前端部内側壁2bに溶接により結合されている。
【0018】
前記左,右のラジエータサポート部材10の下部10eの車幅方向外側には、アウタサポート部材13,13が結合されている。この左,右のアウタサポート部材13は、サイドメンバ2とロアサポート部材12との間に上下方向に延びるように配置され、該ロアサポート部材12に結合されている。
【0019】
前記ラジエータサポート4の車幅方向外側には左,右のヘッドランプ15が配設され、上方にはフード16が配設されている。また前記ラジエータサポート4の前方には、該ラジエータサポート4の前方を覆うようにフロントバンパ17が配設されている。
【0020】
前記ロアサポート部材12には、前記フロントバンパ17の下縁部17aに近接するよう前方に突出する突出部材24が取り付けられている。この突出部材24は、薄板を中空状をなすよう屈曲形成してなるものであり、前記フロントバンパ17の下縁部17aに被衝突物が衝突したときに、該被衝突物がバンパ下方に入り込むのを防止している。
【0021】
そして前記前部車体1のクロスメンバ3の前面には、左,右のサイドメンバ2の前方を覆うように車幅方向に延びる第1の衝撃吸収部材20が配設されている。
【0022】
また前記左,右のラジエータサポート部材10の上部10dの前面には、第2の衝撃吸収部材21,21が配設されている。そしてこの第2の衝撃吸収部材21には、前記サイドメンバ2の前方かつ上方に位置する上部延長部21′が形成されている。
【0023】
さらに前記左,右のラジエータサポート部材10の下部10e及びアウタサポート部材13の前面には、第3の衝撃吸収部材22,22が配設されている。そしてこの第3衝撃吸収部材22には、前記サイドメンバ2の前方かつ下方に位置する下部延長部22′が形成されている。
【0024】
前記第1の衝撃吸収部材20は、前記クロスメンバ3からフロントバンパ17に近接するよう前方に膨出形成された断面ハット形状を有し、外周縁に形成された外周フランジ20aが前記クロスメンバ3の外周フランジ3aに結合されている。前記第1の衝撃吸収部材20の左,右端部は、左,右のサイドメンバ2の外周部分を囲む大きさを有している。
【0025】
前記第2,第3の衝撃吸収部材21,22は、ボルト締め,クリップ止め、溶接、あるいは接着剤等により左,右のラジエータサポート部材10に固定されている。
【0026】
前記第2の衝撃吸収部材21は、車両側方から見ると、前記第1の衝撃吸収部材20、ラジエータサポート部材10の上部10d、ヘッドランプ15及びフロントバンパ17より囲まれた空間を大略埋めるように形成されている。
【0027】
前記第3の衝撃吸収部材22は、車両側方から見ると、前記第1の衝撃吸収部材20、ラジエータサポート部材10の下部10e、突出部材24及びフロントバンパ17により囲まれた空間を大略埋めるように形成されている。
【0028】
前記第1〜第3の衝撃吸収部材20〜22は、荷重吸収特性が略同等のものにより構成されている。詳細には、荷重に対する吸収ストロークが略同じ値となるように、例えば薄板の鉄板、樹脂、ゴム、もしくは発泡材により形成されている。
【0029】
前記第1〜第3の衝撃吸収部材20〜22は、車両側方から見ると、これらの各前面20b〜22bが前後方向に略一致するように配置されており、かつフロントバンパ17との隙間aが上下方向全長に渡って略同じとなるように配置されている(図3参照)。
【0030】
また前記第2,第3の衝撃吸収部材21,22は、これの後端部21c,22cが前記サイドメンバ2の前端部に上下方向に重なるように配置されている。
【0031】
前記第2,第3の衝撃吸収部材21,22は、車両正面から見たとき、各衝撃吸収部材21,22の幅寸法w1がサイドメンバ2の幅寸法w2より大きくなるように設定されている。詳細には、第2の衝撃吸収部材21の上部延長部21′、第3の衝撃吸収部材22の下部延長部22′はサイドメンバ2より左,右に張り出すように形成されており、該左,右の張り出し量w3,w3は、サイドメンバ2の内側面及び外側面より30mm程度突出するように設定されている(図2参照)。
【0032】
本実施例によれば、クロスメンバ3の前面に左,右のサイドメンバ2の前方を覆う第1の衝撃吸収部材20を配設し、左,右のラジエータサポート部材10の上部10dの前面に第2の衝撃吸収部材21,21を配設し、前記左,右のラジエータサポート部材10の下部10eの前面に第3の衝撃吸収部材22,22を設け、さらにサイドメンバ2の、前方かつ上方に位置する上部延長部21′,前方かつ下方に位置する下部延長部22′を形成したので、衝撃吸収部材の前後方向長さを大きくすることなく、従って室内スペースを縮小することなく、衝撃吸収エリアを拡大できる。これにより、ラジエータサポート4及び左,右のサイドメンバ2の前方部分での衝撃力吸収性能を高めることができ、被衝突物への影響を抑制できる。
【0033】
即ち、サイドメンバ2の前方に位置するよう配置された第1の衝撃吸収部材20の上側及び下側にそれぞれ第2,第3の衝撃吸収部材21,22を配置することにより、衝撃力吸収エリアを上下方向に拡大したので、エンジン室及び車室を縮小することなく、エネルギー吸収量を増やすことができる。ちなみに、ラジエータサポート4とフロントバンパ17との間は、空きスペースとなっていることから、この空きスペースを有効利用して第2,第3の衝撃吸収部材21,22を配置できる。
【0034】
また前記第1〜第3の衝撃吸収部材20〜22を、これの前面20b〜22bが略面一となるように配置するとともに、該前面20b〜22bとフロントバンパ17との隙間aが略同じとなるように配置したので、被衝突物からの荷重を第1〜第3の衝撃吸収部材20〜22全体で同時に受けることができ、衝突荷重を短いストロークで効率よく吸収することができる。
【0035】
前記第2,第3の衝撃吸収部材21,22の幅寸法w1をサイドメンバ2の幅寸法w2より左,右に張り出すように大きくしたので、衝突荷重が衝撃吸収部材21,22から外れた位置に加わっても、サイドメンバ2に直接伝わるのを抑制でき、被衝突物への影響をより確実に防止できる。
【実施例2】
【0036】
図5,図6は、本発明の実施例2による前部車体構造を説明するための図である。図中、図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0037】
本実施例では、第1,第2の衝撃吸収部材20,21の荷重吸収特性と、第3の衝撃吸収部材22及び突出部材24の荷重吸収特性とを異なるものとした例である。
【0038】
詳細には、第1,第2の衝撃吸収部材20,21では、図6(a)に示すように、荷重(KN)に対する吸収ストローク(mm)が大きくなるように目標荷重ラインAが設定されている。なお、この目標荷重ラインAは、最大荷重特性ラインBと最小荷重特性ラインCとの間に位置するように設定されている。
【0039】
第3の衝撃吸収部材22及び突出部材24では、図6(b)に示すように、荷重に対する吸収ストロークが衝撃吸収部材20,21より小さくなるように目標荷重ラインDが設定されている。なお、この目標荷重ラインDは、図6(a)の場合と同様に、最大荷重特性ラインEと最小荷重特性ラインFとの間に位置するように設定されている。
【0040】
このように上側に位置する第1,第2の衝撃吸収部材21,22の荷重吸収ストロークを、下側に位置する第3の衝撃吸収部材22及び突出部材24の荷重吸収ストロークより大きくしたので、被衝突物に衝突したとき、第1,第2の衝撃吸収部材20,21がより大きくストロークすることとなり、被衝突物の上部への影響をより確実に抑制できる。
【実施例3】
【0041】
図7は、本発明の実施例3による前部車体構造を説明するための図である。図中、図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0042】
本実施例では、フロントバンパ17に第2,第3の衝撃力吸収部21e,22eを一体に形成した例である。
【0043】
詳細には、第2,第3の衝撃力吸収部21e,22eは、フロントバンパ17に続いて後方に延びるように形成された筒体からなり、該筒体をラジエータサポート部材10に所定の隙間aを設けて対向させた構造を有する。このようにした場合には、新たな衝撃吸収部材を不要にでき、コストを低減できる。
【符号の説明】
【0044】
1 前部車体
2 サイドメンバ
2a 前端面
2b 内側壁(前端部側壁)
3 クロスメンバ
10 ラジエータサポート部材
10a 中央部(中途部)
10d 上部
10e 下部
20 第1の衝撃吸収部材
21 第2の衝撃吸収部材
21′ 上部延長部
21e 第2の衝撃力吸収部
22 第3の衝撃吸収部材
22′ 下部延長部
22e 第3の衝撃力吸収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバと、該左,右のサイドメンバの前端面に車幅方向に跨がるように結合されたクロスメンバと、車両上下方向に延び、その中途部が前記左,右のサイドメンバの前端部側壁に結合されたラジエータサポート部材とを備えた自動車の前部車体構造であって、
前記クロスメンバの前面には、前記サイドメンバの前方を覆うように車幅方向に延びる第1の衝撃吸収部材が設けられ、
前記左,右のラジエータサポート部材の上部前面には、第2の衝撃吸収部材が設けられ、該第2の衝撃吸収部材には、前記サイドメンバの前方かつ上方に位置する上部延長部が形成され、
前記左,右のラジエータサポート部材の下部前面には、第3の衝撃吸収部材が設けられ、該第3の衝撃吸収部材には、前記サイドメンバの前方かつ下方に位置する下部延長部が形成されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−221845(P2010−221845A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71235(P2009−71235)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】