自動車の操作ペダル装置
【課題】操作ペダルの枢軸の支持孔を,枢軸の外周面と対応した円形に形成し得て,両者間にガタを発生させず,しかもダッシュボードの後退変形時には,枢軸を後方移動させて,操作ペダルの踏み部のドライバへの接近を防ぐようにする。
【解決手段】ダッシュボード3の後面に固設されるブラケット5に,操作ペダル10の枢軸16を支持する支持孔15に隔壁24を挟んで隣接する長孔25を設けると共に,操作ペダル10を介して枢軸16の前面に下部アーム21aを対向させるコントロールレバー21を軸支し,このコントロールレバー21の上部アーム21bに,車体に固設されたストッパ部材23を後方から対向させ,ダッシュボード3の後退変形に伴ないコントロールレバー21がストッパ部材23に当接して回動したとき,枢軸16が該レバー21から受ける過大荷重F2により隔壁24を破断して長孔25内を後方へ移動するようにした。
【解決手段】ダッシュボード3の後面に固設されるブラケット5に,操作ペダル10の枢軸16を支持する支持孔15に隔壁24を挟んで隣接する長孔25を設けると共に,操作ペダル10を介して枢軸16の前面に下部アーム21aを対向させるコントロールレバー21を軸支し,このコントロールレバー21の上部アーム21bに,車体に固設されたストッパ部材23を後方から対向させ,ダッシュボード3の後退変形に伴ないコントロールレバー21がストッパ部材23に当接して回動したとき,枢軸16が該レバー21から受ける過大荷重F2により隔壁24を破断して長孔25内を後方へ移動するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車体のダッシュボードの前面に取り付けられた作動機器を作動する操作ペダル又はそれに連動する中継レバーを,前記ダッシュボードの後面に固設されるブラケットに枢軸を介して取り付けた,自動車の操作ペダル装置に関し,特に,車両の正面衝突時,ブラケットを支持するダッシュボードが後退変形した場合でも,操作ペダルの踏み部がドライバに接近して来ないようにした操作ペダル装置の改良にに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において,正面衝突時,ブラケットを支持するダッシュボードが後退変形した場合でも,操作ペダルの踏み部がドライバに接近しないようにした操作ペダル装置は,下記特許文献1に開示されるように,既に知られている。
【特許文献1】特開平11−139346号公報
【特許文献2】特開2001−47986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1及び2に開示された自動車の操作ペダル装置の何れにおいても,ブラケットには,正面衝突時,ブラケットを支持するダッシュボードの後退変形に伴ない操作ペダルの枢軸を後方へ逃がす逃がし孔を,操作ペダルの枢軸を支持する支持孔に連通して形成してあるため,支持孔は欠円状となり,その内周面と枢軸との間に逃がし孔側でガタが発生し易く,操作ペダルの操作フィーリングを損なう欠点がある。
【0004】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,支持孔を,枢軸の外周面と対応した円形に形成し得て,両者間にガタを発生させず,操作ペダルの操作フィーリングを良好にしながら,ダッシュボードの後退変形時には,枢軸を後方移動させて,操作ペダルの踏み部のドライバへの接近を防ぐことができるようにした,自動車の操作ペダル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,車体のダッシュボードの前面に取り付けられた作動機器を作動する操作ペダル又はそれに連動する中継レバーを,前記ダッシュボードの後面に固設されるブラケットに枢軸を介して取り付けた,自動車の操作ペダル装置において,前記ブラケットに,前記枢軸を支持する支持孔と,この支持孔に隔壁を挟んで隣接して支持孔の後方に延びる長孔とを設けると共に,前記操作ペダル又は中継レバーを介して前記枢軸の前面に下部アームを対向させるコントロールレバーを回動可能に軸支し,このコントロールレバーの上部アームに,車体の強度メンバに固設されたストッパ部材を後方から対向させ,前記ダッシュボードの後退変形に伴ない前記コントロールレバーが前記ストッパ部材に当接して回動したとき,前記枢軸がコントロールレバーから受ける過大荷重により前記隔壁を破断して前記長孔内を後方へ移動するようにしたことを第1の特徴とする。
【0006】
尚,前記作動機器は,本発明の後述する実施例中の負圧ブースタ4に対応し,また前記操作ペダルは,同実施例中のブレーキペダル10に対応し,前記強度メンバは,同実施例中のステアリングハンガビーム22に対応する。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記隔壁の一端部に,前記過大荷重により破断される脆弱部を設ける一方,前記長孔の一側に,前記脆弱部の破断により変形した隔壁を受容する凹部を形成したことを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,支持孔は,隔壁の存在により,枢軸の外周面に対応した円形にすることができるので,支持孔及び枢軸間にガタを発生させず,操作ペダルの操作フィーリングを良好にすることができる。しかもダッシュボードの後退変形時には,コントロールレバーがストッパ部材に当接して回動し,枢軸がコントロールレバーから受ける過大荷重により隔壁を破断して長孔内を後方へ移動するので,操作ペダルが,その踏み部を前方へ移行させるように回動することで,踏み部のドライバへの接近を防ぐことができる。
【0009】
また本発明の第2の特徴によれば,破断した隔壁を凹部に押し込むことで,をその隔壁に何等邪魔されることなく,枢軸の長孔内での移動を確実にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を,図面に示す本発明の好適な実施例に基づき以下に説明する。
【0011】
図1は本発明の第1実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図,図2は同操作ペダル装置の側面図,図3は図1の3矢視図,図4は図2の4−4線拡大断面図,図5は図2の要部の拡大横断側面図,図6は図2に対応する作用説明図,図7は図5に対応する作用説明図,図8は本発明の第2実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図,図9は同操作ペダル装置の側面図,図10は図9に対応する作用説明図,図11は本発明の第3実施例を示す,図9との対応図である。
【0012】
先ず,図1〜7に示す本発明の第1実施例の説明から始める。
【0013】
図1〜図3において,自動車における前部のエンジンルーム1及び後部の車室2間を仕切る車体のダッシュボード3に,エンジンルーム1に配置される負圧ブースタ4と,車室2に配置されるブラケット5とが複数のボルト6,6…により強固に固着される。その負圧ブースタ4の前面には,これによって倍力作動されるブレーキマスタシリンダ7が取り付けられ,このブレーキマスタシリンダ7の出力ポートには,前輪ブレーキ及び後輪ブレーキのホイールシリンダに連なる油圧導管(図示せず)が接続される。
【0014】
ブラケット5は,ダッシュボード3に前端部を上記ボルト6,6…により固着される左右一対の側壁板5a,5aと,これら側壁板5a,5aの上端間を一体に連結する天井板5bと,一対の側壁板5a,5aの後端間を一体に連結する後壁板5cとからなっている。両側壁板5a,5aにはブレーキペダル10の上端部が軸支され,このブレーキペダル10の中間部に,前記ダッシュボード3を貫通した,負圧ブースタ4の入力杆4aの後端のクレビス8が連結軸9を介して連結される。後壁板5cには,ブレーキペダル10の後退位置からの前進に応動して車体後尾のストップランプを点灯させるストップスイッチ11が取り付けられる。またブラケット5とブレーキペダル10との間には,ブレーキペダル10を後退方向に付勢する戻しばね12が接続される。
【0015】
さて,上記ブレーキペダル10の支持構造について詳しく説明する。
【0016】
図4及び図5に示すように,ブレーキペダル10の上端部には,支持筒14が溶接により固設されており,この支持筒14は,両側壁板5a,5aに設けられた支持孔15で両端部を支持される枢軸16に軸受ブッシュ17,17を介して相対回動自在に支承される。
【0017】
而して,ドライバがブレーキペダル10の踏み部10aを前方へ踏み込めば,ブレーキペダル10は枢軸16周りに前方へ回動して,入力杆4aを前方へ押圧することで,負圧ブースタ4がブレーキマスタシリンダ7を倍力作動し,ブレーキマスタシリンダ7は,その内部で発生した油圧を前輪ブレーキ及び後輪ブレーキに供給して,それらを作動させる。その際,ブレーキペダル10に加わるブレーキ反力F1は,枢軸16から支持孔15の内面に対して矢印方向(図5参照)に作用する。
【0018】
左右の側壁板5a,5aの上部には,この両側壁板5a,5a間の距離を狭めた狭窄部20が設けられ,この狭窄部20で枢軸16と平行に支持される支持軸19によってコントロールレバー21が回動可能に支承される。このコントロールレバー21は,支持軸19の上下両方向に突出した上部アーム21b及び下部アーム21aを有しており,その上部アーム21bの後方に,車体の強度メンバたるステアリングハンガビーム22に固設されたストッパ部材23が対向配置され,また下部アーム21aは,前記ブレーキペダル10の,枢軸16近傍の前面に小間隙を置いて対向する。その際,コントロールレバー21の支持軸19は,枢軸16との間の距離Aが,枢軸16及び連結軸9間の距離Bより小さくなるように配置され,コントロールレバー21が支持軸19を中心に図5で反時計周りに回動したとき,下部アーム21aがブレーキペダル10の上端部前面を押圧して,前記ブレーキ反力F1の作用線からずれた方向の荷重F2を枢軸16に付与するようになっている。この荷重F2の作用線に沿って沿って延びる長孔25が,隔壁24を挟んで前記支持孔15の後方に隣接するように両側壁板5a,5aに設けられる。上記隔壁24の一端部には,溝を有する脆弱部24aが形成され,隔壁24が枢軸16から過大荷重F2を受けると,この脆弱部24aが破断するようになっている。長孔25は,隔壁24を破断した枢軸16を受容し且つ後方へ誘導するようになっており,この長孔25の一側には,脆弱部24aの破断により変形した隔壁24を受容する凹部25aが設けられる。
【0019】
ストッパ部材23とブラケット5の天井板5bとは,ボルト29により相互に前後方向滑り可能に連結される。その際,ボルト29が挿通される天井板5bのボルト孔30は,ボルト29の前方離脱を許容する切欠き状に形成される。
【0020】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0021】
ドライバがブレーキペダル10の踏み部10aを前方へ踏み込み込む,通常のブレーキ操作時には,枢軸16からブラケット5の支持孔15内面にブレーキ反力F1が作用するが,そのブレーキ反力F1の作用線外に,隔壁24及び長孔25は設けられているので,ブレーキ反力F1により隔壁24が破断することはなく,したがって,ブレーキ力を負圧ブースタ4の入力杆4aに確実に伝達することができる。しかも枢軸16を支持する支持孔15は,隔壁24の存在により,枢軸16の外周面に対応した円形にすることができるので,支持孔15及び枢軸16間にガタを発生させず,操作ペダルの操作フィーリングを良好にすることができる。
【0022】
万一,自動車の正面衝突により,図6及び図7に示すように,ブレーキマスタシリンダ7及び負圧ブースタ4に前方から過大な荷重が加わり,ダッシュボード3の変形によりブラケット5が後方へ大きく変位した場合には,ブラケット5の天井板5bがストッパ部材23に対して後方へ摺動し,ボルト29がボルト孔30から離脱し,コントロールレバー21の上部アーム21bがストッパ部材23に突き当たり,その反作用でコントロールレバー21は,図6で反時計方向に回動され,下部アーム21aがブレーキペダル10を介して枢軸16を隔壁24に向かって強く押圧するので,隔壁24の脆弱部24aが破断される。その結果,枢軸16は,破断された隔壁24を長孔25の一側の凹部25aに押し込みながら長孔25内を後方に移動し,それに伴ないブレーキペダル10は,入力杆4aとの連結軸9周りに図6で時計方向に回転して,その踏み部10aを前方へ変位させることになる。したがって,ドライバは,ブレーキ操作中でも,ブレーキペダル10からキックバックを受けずに済む。
【0023】
以上において,支持軸19及び枢軸16の軸間距離Aを枢軸16及び連結軸9の軸間距離Bより小さく設定したことは,枢軸16に作用するブレーキ反力F1の作用線と,コントロールレバー21が枢軸16に与える過大荷重F2の作用線とを相互に容易にずらすことができる上で有効であり,したがってその過大荷重F2の作用線上に配置された隔壁24には,正面衝突時のみ,コントロールレバー21からの過大荷重F2を確実に加えることができ,所期の効果を達成することができる。
【0024】
また上記隔壁24の一端部には脆弱部24aを設ける一方,長孔25の一側には,脆弱部24aで破断した隔壁24を受容する凹部25aを設けたので,正面衝突時,枢軸16は,破断した隔壁24を凹部25aに押し込むことで,その隔壁24に何等邪魔されることなく,長孔25内を移動することができ,所期の効果を達成することができる。
【0025】
尚,上記実施例において,ボルト29を用いず,ブラケット5の天井板5bを,ストッパ部材23に対して単に滑り可能に配置することもできる。
【0026】
次に,図8〜図10に示す本発明の第2実施例について説明する。
【0027】
前記入力杆4aに連結軸9を介して連結されるベルクランク状の中継レバー32が前記枢軸16に支承され,この中継レバー32の,枢軸16近傍の前面に前記コントロールレバー21の下部アーム21aが対向して配置される。
【0028】
ブレーキペダル10は,中継レバー32の下方で別の枢軸33を介してブラケット5に支持され,そしてリンク34を介して中継レバー32に連結される。その他の構成は前実施例と略同様であるので,図8〜図10中,前実施例と対応する部分には,それと同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0029】
この第2実施例によれば,ブレーキペダル10及び中継レバー32間のレバー比や中継レバー32における入力側及び出力側のレバー比を任意に設定することにより,ブレーキペダル10の動きを増速又は減速して入力杆4aに伝達することができる。また正面衝突時,コントロールレバー21がストッパ部材23に当接して,図10に示すように反時計方向に回転し,枢軸16が隔壁24を破断して長孔25内を後方に移動するときは,中継レバー32は,連結軸9周りに時計方向に回転し,リンク34を介してブレーキペダル10を枢軸37周りに図10で時計方向に回転するので,その踏み部10aを前方へ変位させることができる。
【0030】
最後に,図11に示す本発明の第3実施例について説明する。
【0031】
この第3実施例は,上記第2実施例においてブレーキペダル10の後退位置を調節可能にしたものである。即ち,前記枢軸16若しくはそれに近接する別の枢軸にペダル支持リンク35が回動自在に支承され,このペダル支持リンク35とブラケット5間には,ペダル支持リンク35を任意の回動位置で固定し得るペダル調節手段36が設けられる。このペダル支持リンク35とリンク34とを平行にした状態で,ペダル支持リンク35とブレーキペダル10とは枢軸37を介して連結される。その他の構成は前記第2実施例と同様であるので,図11中,第2実施例と対応する部分には,それと同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0032】
この第3実施例によれば,ペダル調節手段36によりペダル支持リンク35を前後に揺動すると,ペダル支持リンク35とリンク34との協働により,ブレーキペダル10を平行移動させ,ブレーキペダル10の後退位置における踏み部10aの位置をドライバの体格に合うように調節することができる。そしてペダル調節手段36によりペダル支持リンク35を固定すると,ペダル支持リンク35はブラケット5と一体化するので,ブレーキペダル10は,実質上,ブラケット5により支持されることになり,その後は第2実施例と同様の作用効果を発揮することができる。
【0033】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,本発明は,クラッチ系にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図。
【図2】同操作ペダル装置の側面図。
【図3】図1の3矢視図。
【図4】図2の4−4線拡大断面図。
【図5】図2の要部の拡大横断側面図。
【図6】図2に対応する作用説明図。
【図7】図5に対応する作用説明図。
【図8】本発明の第2実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図。
【図9】図9の10矢視図。
【図10】図9に対応する作用説明図。
【図11】本発明の第3実施例を示す,図9との対応図。
【符号の説明】
【0035】
3・・・・・・ダッシュボード
4・・・・・・作動機器(負圧ブースタ)
5・・・・・・ブラケット
10・・・・・制御ペダル(ブレーキペダル)
10a・・・・踏み部
15・・・・・支持孔
16・・・・・枢軸
21・・・・・コントロールレバー
22・・・・・車体の強度メンバ(ステアリングハンガビーム)
23・・・・・ストッパ部材
24・・・・・隔壁
24a・・・・脆弱部
25・・・・・長孔
25a・・・・凹部
32・・・・・中継レバー
【技術分野】
【0001】
本発明は,車体のダッシュボードの前面に取り付けられた作動機器を作動する操作ペダル又はそれに連動する中継レバーを,前記ダッシュボードの後面に固設されるブラケットに枢軸を介して取り付けた,自動車の操作ペダル装置に関し,特に,車両の正面衝突時,ブラケットを支持するダッシュボードが後退変形した場合でも,操作ペダルの踏み部がドライバに接近して来ないようにした操作ペダル装置の改良にに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において,正面衝突時,ブラケットを支持するダッシュボードが後退変形した場合でも,操作ペダルの踏み部がドライバに接近しないようにした操作ペダル装置は,下記特許文献1に開示されるように,既に知られている。
【特許文献1】特開平11−139346号公報
【特許文献2】特開2001−47986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1及び2に開示された自動車の操作ペダル装置の何れにおいても,ブラケットには,正面衝突時,ブラケットを支持するダッシュボードの後退変形に伴ない操作ペダルの枢軸を後方へ逃がす逃がし孔を,操作ペダルの枢軸を支持する支持孔に連通して形成してあるため,支持孔は欠円状となり,その内周面と枢軸との間に逃がし孔側でガタが発生し易く,操作ペダルの操作フィーリングを損なう欠点がある。
【0004】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,支持孔を,枢軸の外周面と対応した円形に形成し得て,両者間にガタを発生させず,操作ペダルの操作フィーリングを良好にしながら,ダッシュボードの後退変形時には,枢軸を後方移動させて,操作ペダルの踏み部のドライバへの接近を防ぐことができるようにした,自動車の操作ペダル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,車体のダッシュボードの前面に取り付けられた作動機器を作動する操作ペダル又はそれに連動する中継レバーを,前記ダッシュボードの後面に固設されるブラケットに枢軸を介して取り付けた,自動車の操作ペダル装置において,前記ブラケットに,前記枢軸を支持する支持孔と,この支持孔に隔壁を挟んで隣接して支持孔の後方に延びる長孔とを設けると共に,前記操作ペダル又は中継レバーを介して前記枢軸の前面に下部アームを対向させるコントロールレバーを回動可能に軸支し,このコントロールレバーの上部アームに,車体の強度メンバに固設されたストッパ部材を後方から対向させ,前記ダッシュボードの後退変形に伴ない前記コントロールレバーが前記ストッパ部材に当接して回動したとき,前記枢軸がコントロールレバーから受ける過大荷重により前記隔壁を破断して前記長孔内を後方へ移動するようにしたことを第1の特徴とする。
【0006】
尚,前記作動機器は,本発明の後述する実施例中の負圧ブースタ4に対応し,また前記操作ペダルは,同実施例中のブレーキペダル10に対応し,前記強度メンバは,同実施例中のステアリングハンガビーム22に対応する。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記隔壁の一端部に,前記過大荷重により破断される脆弱部を設ける一方,前記長孔の一側に,前記脆弱部の破断により変形した隔壁を受容する凹部を形成したことを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の特徴によれば,支持孔は,隔壁の存在により,枢軸の外周面に対応した円形にすることができるので,支持孔及び枢軸間にガタを発生させず,操作ペダルの操作フィーリングを良好にすることができる。しかもダッシュボードの後退変形時には,コントロールレバーがストッパ部材に当接して回動し,枢軸がコントロールレバーから受ける過大荷重により隔壁を破断して長孔内を後方へ移動するので,操作ペダルが,その踏み部を前方へ移行させるように回動することで,踏み部のドライバへの接近を防ぐことができる。
【0009】
また本発明の第2の特徴によれば,破断した隔壁を凹部に押し込むことで,をその隔壁に何等邪魔されることなく,枢軸の長孔内での移動を確実にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を,図面に示す本発明の好適な実施例に基づき以下に説明する。
【0011】
図1は本発明の第1実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図,図2は同操作ペダル装置の側面図,図3は図1の3矢視図,図4は図2の4−4線拡大断面図,図5は図2の要部の拡大横断側面図,図6は図2に対応する作用説明図,図7は図5に対応する作用説明図,図8は本発明の第2実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図,図9は同操作ペダル装置の側面図,図10は図9に対応する作用説明図,図11は本発明の第3実施例を示す,図9との対応図である。
【0012】
先ず,図1〜7に示す本発明の第1実施例の説明から始める。
【0013】
図1〜図3において,自動車における前部のエンジンルーム1及び後部の車室2間を仕切る車体のダッシュボード3に,エンジンルーム1に配置される負圧ブースタ4と,車室2に配置されるブラケット5とが複数のボルト6,6…により強固に固着される。その負圧ブースタ4の前面には,これによって倍力作動されるブレーキマスタシリンダ7が取り付けられ,このブレーキマスタシリンダ7の出力ポートには,前輪ブレーキ及び後輪ブレーキのホイールシリンダに連なる油圧導管(図示せず)が接続される。
【0014】
ブラケット5は,ダッシュボード3に前端部を上記ボルト6,6…により固着される左右一対の側壁板5a,5aと,これら側壁板5a,5aの上端間を一体に連結する天井板5bと,一対の側壁板5a,5aの後端間を一体に連結する後壁板5cとからなっている。両側壁板5a,5aにはブレーキペダル10の上端部が軸支され,このブレーキペダル10の中間部に,前記ダッシュボード3を貫通した,負圧ブースタ4の入力杆4aの後端のクレビス8が連結軸9を介して連結される。後壁板5cには,ブレーキペダル10の後退位置からの前進に応動して車体後尾のストップランプを点灯させるストップスイッチ11が取り付けられる。またブラケット5とブレーキペダル10との間には,ブレーキペダル10を後退方向に付勢する戻しばね12が接続される。
【0015】
さて,上記ブレーキペダル10の支持構造について詳しく説明する。
【0016】
図4及び図5に示すように,ブレーキペダル10の上端部には,支持筒14が溶接により固設されており,この支持筒14は,両側壁板5a,5aに設けられた支持孔15で両端部を支持される枢軸16に軸受ブッシュ17,17を介して相対回動自在に支承される。
【0017】
而して,ドライバがブレーキペダル10の踏み部10aを前方へ踏み込めば,ブレーキペダル10は枢軸16周りに前方へ回動して,入力杆4aを前方へ押圧することで,負圧ブースタ4がブレーキマスタシリンダ7を倍力作動し,ブレーキマスタシリンダ7は,その内部で発生した油圧を前輪ブレーキ及び後輪ブレーキに供給して,それらを作動させる。その際,ブレーキペダル10に加わるブレーキ反力F1は,枢軸16から支持孔15の内面に対して矢印方向(図5参照)に作用する。
【0018】
左右の側壁板5a,5aの上部には,この両側壁板5a,5a間の距離を狭めた狭窄部20が設けられ,この狭窄部20で枢軸16と平行に支持される支持軸19によってコントロールレバー21が回動可能に支承される。このコントロールレバー21は,支持軸19の上下両方向に突出した上部アーム21b及び下部アーム21aを有しており,その上部アーム21bの後方に,車体の強度メンバたるステアリングハンガビーム22に固設されたストッパ部材23が対向配置され,また下部アーム21aは,前記ブレーキペダル10の,枢軸16近傍の前面に小間隙を置いて対向する。その際,コントロールレバー21の支持軸19は,枢軸16との間の距離Aが,枢軸16及び連結軸9間の距離Bより小さくなるように配置され,コントロールレバー21が支持軸19を中心に図5で反時計周りに回動したとき,下部アーム21aがブレーキペダル10の上端部前面を押圧して,前記ブレーキ反力F1の作用線からずれた方向の荷重F2を枢軸16に付与するようになっている。この荷重F2の作用線に沿って沿って延びる長孔25が,隔壁24を挟んで前記支持孔15の後方に隣接するように両側壁板5a,5aに設けられる。上記隔壁24の一端部には,溝を有する脆弱部24aが形成され,隔壁24が枢軸16から過大荷重F2を受けると,この脆弱部24aが破断するようになっている。長孔25は,隔壁24を破断した枢軸16を受容し且つ後方へ誘導するようになっており,この長孔25の一側には,脆弱部24aの破断により変形した隔壁24を受容する凹部25aが設けられる。
【0019】
ストッパ部材23とブラケット5の天井板5bとは,ボルト29により相互に前後方向滑り可能に連結される。その際,ボルト29が挿通される天井板5bのボルト孔30は,ボルト29の前方離脱を許容する切欠き状に形成される。
【0020】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0021】
ドライバがブレーキペダル10の踏み部10aを前方へ踏み込み込む,通常のブレーキ操作時には,枢軸16からブラケット5の支持孔15内面にブレーキ反力F1が作用するが,そのブレーキ反力F1の作用線外に,隔壁24及び長孔25は設けられているので,ブレーキ反力F1により隔壁24が破断することはなく,したがって,ブレーキ力を負圧ブースタ4の入力杆4aに確実に伝達することができる。しかも枢軸16を支持する支持孔15は,隔壁24の存在により,枢軸16の外周面に対応した円形にすることができるので,支持孔15及び枢軸16間にガタを発生させず,操作ペダルの操作フィーリングを良好にすることができる。
【0022】
万一,自動車の正面衝突により,図6及び図7に示すように,ブレーキマスタシリンダ7及び負圧ブースタ4に前方から過大な荷重が加わり,ダッシュボード3の変形によりブラケット5が後方へ大きく変位した場合には,ブラケット5の天井板5bがストッパ部材23に対して後方へ摺動し,ボルト29がボルト孔30から離脱し,コントロールレバー21の上部アーム21bがストッパ部材23に突き当たり,その反作用でコントロールレバー21は,図6で反時計方向に回動され,下部アーム21aがブレーキペダル10を介して枢軸16を隔壁24に向かって強く押圧するので,隔壁24の脆弱部24aが破断される。その結果,枢軸16は,破断された隔壁24を長孔25の一側の凹部25aに押し込みながら長孔25内を後方に移動し,それに伴ないブレーキペダル10は,入力杆4aとの連結軸9周りに図6で時計方向に回転して,その踏み部10aを前方へ変位させることになる。したがって,ドライバは,ブレーキ操作中でも,ブレーキペダル10からキックバックを受けずに済む。
【0023】
以上において,支持軸19及び枢軸16の軸間距離Aを枢軸16及び連結軸9の軸間距離Bより小さく設定したことは,枢軸16に作用するブレーキ反力F1の作用線と,コントロールレバー21が枢軸16に与える過大荷重F2の作用線とを相互に容易にずらすことができる上で有効であり,したがってその過大荷重F2の作用線上に配置された隔壁24には,正面衝突時のみ,コントロールレバー21からの過大荷重F2を確実に加えることができ,所期の効果を達成することができる。
【0024】
また上記隔壁24の一端部には脆弱部24aを設ける一方,長孔25の一側には,脆弱部24aで破断した隔壁24を受容する凹部25aを設けたので,正面衝突時,枢軸16は,破断した隔壁24を凹部25aに押し込むことで,その隔壁24に何等邪魔されることなく,長孔25内を移動することができ,所期の効果を達成することができる。
【0025】
尚,上記実施例において,ボルト29を用いず,ブラケット5の天井板5bを,ストッパ部材23に対して単に滑り可能に配置することもできる。
【0026】
次に,図8〜図10に示す本発明の第2実施例について説明する。
【0027】
前記入力杆4aに連結軸9を介して連結されるベルクランク状の中継レバー32が前記枢軸16に支承され,この中継レバー32の,枢軸16近傍の前面に前記コントロールレバー21の下部アーム21aが対向して配置される。
【0028】
ブレーキペダル10は,中継レバー32の下方で別の枢軸33を介してブラケット5に支持され,そしてリンク34を介して中継レバー32に連結される。その他の構成は前実施例と略同様であるので,図8〜図10中,前実施例と対応する部分には,それと同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0029】
この第2実施例によれば,ブレーキペダル10及び中継レバー32間のレバー比や中継レバー32における入力側及び出力側のレバー比を任意に設定することにより,ブレーキペダル10の動きを増速又は減速して入力杆4aに伝達することができる。また正面衝突時,コントロールレバー21がストッパ部材23に当接して,図10に示すように反時計方向に回転し,枢軸16が隔壁24を破断して長孔25内を後方に移動するときは,中継レバー32は,連結軸9周りに時計方向に回転し,リンク34を介してブレーキペダル10を枢軸37周りに図10で時計方向に回転するので,その踏み部10aを前方へ変位させることができる。
【0030】
最後に,図11に示す本発明の第3実施例について説明する。
【0031】
この第3実施例は,上記第2実施例においてブレーキペダル10の後退位置を調節可能にしたものである。即ち,前記枢軸16若しくはそれに近接する別の枢軸にペダル支持リンク35が回動自在に支承され,このペダル支持リンク35とブラケット5間には,ペダル支持リンク35を任意の回動位置で固定し得るペダル調節手段36が設けられる。このペダル支持リンク35とリンク34とを平行にした状態で,ペダル支持リンク35とブレーキペダル10とは枢軸37を介して連結される。その他の構成は前記第2実施例と同様であるので,図11中,第2実施例と対応する部分には,それと同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0032】
この第3実施例によれば,ペダル調節手段36によりペダル支持リンク35を前後に揺動すると,ペダル支持リンク35とリンク34との協働により,ブレーキペダル10を平行移動させ,ブレーキペダル10の後退位置における踏み部10aの位置をドライバの体格に合うように調節することができる。そしてペダル調節手段36によりペダル支持リンク35を固定すると,ペダル支持リンク35はブラケット5と一体化するので,ブレーキペダル10は,実質上,ブラケット5により支持されることになり,その後は第2実施例と同様の作用効果を発揮することができる。
【0033】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,本発明は,クラッチ系にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図。
【図2】同操作ペダル装置の側面図。
【図3】図1の3矢視図。
【図4】図2の4−4線拡大断面図。
【図5】図2の要部の拡大横断側面図。
【図6】図2に対応する作用説明図。
【図7】図5に対応する作用説明図。
【図8】本発明の第2実施例に係る自動車の操作ペダル装置の斜視図。
【図9】図9の10矢視図。
【図10】図9に対応する作用説明図。
【図11】本発明の第3実施例を示す,図9との対応図。
【符号の説明】
【0035】
3・・・・・・ダッシュボード
4・・・・・・作動機器(負圧ブースタ)
5・・・・・・ブラケット
10・・・・・制御ペダル(ブレーキペダル)
10a・・・・踏み部
15・・・・・支持孔
16・・・・・枢軸
21・・・・・コントロールレバー
22・・・・・車体の強度メンバ(ステアリングハンガビーム)
23・・・・・ストッパ部材
24・・・・・隔壁
24a・・・・脆弱部
25・・・・・長孔
25a・・・・凹部
32・・・・・中継レバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のダッシュボード(3)の前面に取り付けられた作動機器(4)を作動する操作ペダル(10)又はそれに連動する中継レバー(32)を,前記ダッシュボード(3)の後面に固設されるブラケット(5)に枢軸(16)を介して取り付けた,自動車の操作ペダル装置において,
前記ブラケット(5)に,前記枢軸(16)を支持する支持孔(15)と,この支持孔(15)に隔壁(24)を挟んで隣接して支持孔(15)の後方に延びる長孔(25)とを設けると共に,前記操作ペダル(10)又は中継レバー(32)を介して前記枢軸(16)の前面に下部アーム(21a)を対向させるコントロールレバー(21)を回動可能に軸支し,このコントロールレバー(21)の上部アーム(21b)に,車体の強度メンバ(22)に固設されたストッパ部材(23)を後方から対向させ,前記ダッシュボード(3)の後退変形に伴ない前記コントロールレバー(21)が前記ストッパ部材(23)に当接して回動したとき,前記枢軸(16)がコントロールレバー(21)から受ける過大荷重(F2)により前記隔壁(24)を破断して前記長孔(25)内を後方へ移動するようにしたことを特徴とする,自動車の操作ペダル装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動車の操作ペダル装置において,
前記隔壁(24)の一端部に,前記過大荷重(F2)により破断される脆弱部(24a)を設ける一方,前記長孔(25)の一側に,前記脆弱部(24a)の破断により変形した隔壁(24)を受容する凹部(25a)を形成したことを特徴とする,自動車の操作ペダル装置。
【請求項1】
車体のダッシュボード(3)の前面に取り付けられた作動機器(4)を作動する操作ペダル(10)又はそれに連動する中継レバー(32)を,前記ダッシュボード(3)の後面に固設されるブラケット(5)に枢軸(16)を介して取り付けた,自動車の操作ペダル装置において,
前記ブラケット(5)に,前記枢軸(16)を支持する支持孔(15)と,この支持孔(15)に隔壁(24)を挟んで隣接して支持孔(15)の後方に延びる長孔(25)とを設けると共に,前記操作ペダル(10)又は中継レバー(32)を介して前記枢軸(16)の前面に下部アーム(21a)を対向させるコントロールレバー(21)を回動可能に軸支し,このコントロールレバー(21)の上部アーム(21b)に,車体の強度メンバ(22)に固設されたストッパ部材(23)を後方から対向させ,前記ダッシュボード(3)の後退変形に伴ない前記コントロールレバー(21)が前記ストッパ部材(23)に当接して回動したとき,前記枢軸(16)がコントロールレバー(21)から受ける過大荷重(F2)により前記隔壁(24)を破断して前記長孔(25)内を後方へ移動するようにしたことを特徴とする,自動車の操作ペダル装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動車の操作ペダル装置において,
前記隔壁(24)の一端部に,前記過大荷重(F2)により破断される脆弱部(24a)を設ける一方,前記長孔(25)の一側に,前記脆弱部(24a)の破断により変形した隔壁(24)を受容する凹部(25a)を形成したことを特徴とする,自動車の操作ペダル装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−160150(P2006−160150A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356978(P2004−356978)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(592037790)株式会社エフテック (34)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(592037790)株式会社エフテック (34)
【Fターム(参考)】
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