説明

自動車の衝撃吸収構造

【課題】側面衝突時にドア内側に設けられた側突パッドの車室内側への進入を抑制するようにした自動車の衝撃吸収構造を提供する。
【解決手段】
自動車の車体側面に設けたドア用開口部10aの領域で、開口部を閉じる車室ドア22内に設けた前後方向に延びるインパクトビーム11cと、インパクトビーム11cの内側で車室ドアに設けた側突パッド12と、を備え、側面衝突時に車室ドアに側方から加えられる衝撃をインパクトビーム11cを介して車体に伝達することで吸収する自動車の衝撃吸収構造10において、側突パッド12が車室内のシート17のシートロッド13に対応して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の衝撃吸収構造に係り、特に三列シート車におけるセカンドシート用の側突パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗用車等の自動車として、ドア内に側面衝突時の衝突エネルギーを吸収するための側突パッドを設けた車種がある。例えば、図5に示すように、フロントドア1は、その乗員の腰部の側方に位置する部位に、具体的にはインパクトビーム2の内側に、側突パッド3を備えている。
【0003】
この側突パッド3は、図6に示すように、例えばPP(ポリプロピレン)から成り、2.0mm程度の厚みの板状部材3aを格子状に組み合わせて構成されており、その全体の厚さdが例えば35mm程度に設定されている。ここで、側突パッド3は、例えば三列シート車における二列目の所謂セカンドシートに隣接するドアの場合、例えば図7に示すように構成されており、後輪のタイヤハウスを避けるように形成されている。
【0004】
このような構成によれば、図6に矢印Aで示すように、側方からフロントドア1に対して側面衝突の衝突エネルギーによる荷重が加えられたとき、この荷重はフロントドア1のインパクトビーム2を介してフロントドア1の前後端に伝達され、さらにフロントドア1の前後端の下部が内側に変形して車体側に伝達される。
【0005】
これにより、フロントドア1の下部及び車体側のロッカー部等が横方向内側に変形するので、前述した衝突エネルギーが吸収される。その際、インパクトビーム2そしてフロントドア1が車室内側に向かって僅かに進入するが、乗員の腰部付近には側突パッド3が設けられているので、衝撃荷重の乗員への影響を低減できる。
【0006】
これに対して、特許文献1には、サイドドアのインナーパネルとアウターパネルとの間のシート下部と対向する位置にインナーパネルと共に第一閉断面構造部を形成する第一エネルギー吸収部材を設け、この第一閉断面構造部と対向する車室フロア上部に、第一閉断面構造部に対して前後方向に短く且つ上下方向に長い第二閉断面構造部を設けた、サイドドア開口部におけるエネルギー吸収構造が開示されている。
【0007】
特許文献2には、クロスメンバの両端付近にクラッシュボックスを固定すると共に、このクラッシュボックスに対向する車室ドアの内部に外力伝達部材を設けることにより、側面衝突時に車室ドアに側方から加えられる衝撃を外力伝達部材からクラッシュボックスに伝達して、車室ドアと車体の永久変形を防止するようにした自動車が開示されている。
【0008】
特許文献3には、側面衝突時に車体側部に加わる側突荷重を受けてトンネル部に伝達する荷重伝達部材と、側突荷重の下向き成分による荷重伝達部材の下降を抑制する下降抑制手段とを有する、側突荷重伝達構造が開示されている。
【0009】
特許文献4には、側突荷重による衝撃を吸収するためにドアトリムに備えた衝撃吸収パッドがドアトリム基材に取り付けられるケースの箱状部分とドアトリム基材の裏面により画成される空間内に発泡成形されると共に、ドアトリム基材の裏面に接着されるようにした、ドアトリムが開示されている。
【特許文献1】特開平05−246352号公報
【特許文献2】特開平07−323867号公報
【特許文献3】特開2006−248388号公報
【特許文献4】特開2003−300417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図5に示した衝撃吸収構造においては、側突パッド3は側面衝突による衝撃エネルギーを他の部材に伝達して衝撃エネルギーを軽減するようには構成されていないため、側面衝突時に側突パッドが車室内側に進入する虞がある。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みて創作されたものであり、側面衝突時にドア内側に設けた側突パッドの車室内側への進入を抑制するようにした自動車の衝撃吸収構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、自動車の車体側面に設けたドア用開口部の領域で、開口部を閉じる車室ドア内に設けた前後方向に延びるインパクトビームと、車室ドアに設けた側突パッドと、を備えており、側面衝突時に車室ドアに側方から加えられる衝撃をインパクトビームを介して車体に伝達することによって吸収する自動車の衝撃吸収構造において、側突パッドが車室内のシートのシートロッドに対応して配置されていて、側面衝突時に車室ドアに側方から水平方向内側に向かう荷重が加えられたとき、側突パッドがシートロッドに当接することによって荷重をシートロッドに伝達することを特徴としている。
【0013】
本発明の自動車の衝撃吸収構造において、好ましくは、側突パッドが車室ドアのアウターパネルからドアトリム内面までの領域に配置されるケースと、このケース内に収容される少なくとも一つのパッド本体と、から構成されている。このパッド本体はアルミニウム押し出し成形によって所定厚さの格子状に形成されるのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成によれば、側面衝突評価において、側方から水平方向に評価用バリアが車室ドア、特に三列シート車のセカンドシートに隣接するドアに側面衝突したとき、衝突エネルギーによる荷重が車室ドアのインパクトビームを介して車室ドアの前後端に伝達する。その際のインパクトビームの車室内側への進入により側突パッドに荷重が加えられる。これにより、側突パッドのケースが各パッド本体を介して車室内側に向かって進入して、当該車室ドアの内側に位置するシートのシートロッドに当接し、荷重がシートロッドに伝達されて吸収される。
【0015】
従って、側面衝突時に、側突パッドの車室内側への進入が抑制されることになり、例えば三列シートのセカンドシートが独立三座タイプとして構成されている場合であっても、側面衝突時に側突パッドが車室内側に進入してセカンドシートに着座している乗員に接触するようなことはない。このようにして、側面衝突時には、側突パッドが車室内側に向かってあまり進入しないので、車室内の乗員の安全がより一層確実に確保される。
【0016】
パッド本体がアルミニウム押し出し成形により所定厚さの格子状に形成されていると、従来のシートに対して設けられている樹脂製の側突パッドと比較して、高い剛性が得られる。これにより質量効率が向上するので、ケースの強度を持たせる必要がないことから、ケースが簡単な構造で済み、コストが低減される。また、パッド本体かアルミニウム押し出し成形により形成されることから、成形品であるパッド本体に抜き勾配が形成されなくなるので、幅広の形状にも十分対応することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る自動車の衝撃吸収構造10を示す図である。自動車の衝撃吸収構造10は、自動車の車体側面に設けたドア用開口部10aの領域で、この開口部10aを開閉可能に閉じる車室ドア11と、車室ドア11に設けた側突パッド12と、車室内のシートを支持するシートロッド13と、を含んでいる。なお、図示の車室ドア11は、所謂三列シート車のセカンドシートに隣接するドアとする。
【0018】
車室ドア11は、薄い鋼板から成り互いに接合されたアウターパネル11a及びインナーパネル11bから構成されており、これらのアウターパネル11a及びインナーパネル11bの間で、アウターパネル11a側に、車両前後方向に延びるインパクトビーム11cが設けられている。インパクトビーム11cは、例えば中空円筒状の鉄製パイプから構成されており、側面衝突評価試験で使用される評価用バリアMDBの上端より下側の高さ位置に配置されている。
【0019】
車室ドア11は、インナーパネル11bの内面にドアトリム11dが装着されており、このドアトリム11dにはスピーカやウィンドウスイッチ等(図示せず)が備えられている。車室ドア11には、アウターパネル11aとインナーパネル11bとの間に昇降可能にドアガラス11eが支持されている。
【0020】
側突パッド12は、車室ドア11のアウターパネル11aとインナーパネル11bとの間に配置された第一の側突パッド12aと、インナーパネル11bとドアトリム11dとの間に配置された第二の側突パッド12bと、から構成されている。これらの側突パッド12a,12bは、それぞれ車室ドア11のインパクトビーム11cに並設されている。即ち、側突パッド12a,12bは、車幅方向で車体側のシートロッド13に対応する領域に配置されている。なお、シートロッド13が後述するように前後方向に移動可能であるので、これらの側突パッド12a,12bは、シートロッドの移動範囲内の何れの位置においてもシートロッド13に対応するように、その前後方向の長さが適宜に、例えば100〜120mm程度に選定されている。
【0021】
各側突パッド12a,12bは、それぞれ図3に示すように、ケース14と、このケース14内に取り付けられた少なくとも一つ、図示の場合、三つのパッド本体15と、から構成されている。ケース14は、例えば樹脂により成形されており、内部にパッド本体15が取り付けられる。パッド本体15は、図4に示すように、格子状の断面を有するように、例えばアルミニウムから押し出し成形により形成されている。ここで、パッド本体15の格子状構造に関して、板状の各部の厚さt,格子間隔,自動車10の横方向の全体の厚さdは、パッド本体15そして側突パッド12a,12bが所定の剛性を備えるように、適宜に選定されている。
【0022】
二つの側突パッド12a,12bが横方向に互いに重なるように配置されることで、側面衝突時に、車室ドア11に側方から水平方向内側に向かう荷重が加えられたとき、この荷重が車室ドア11のアウターパネル11aから第一の側突パッド12a,インナーパネル11b,第二の側突パッド12bから、ドアトリム11dを介して車室ドア11の内側まで伝達される。
【0023】
シートロッド13は、車室フロアに固定したシートレール16上で前後方向に移動可能に支持したセカンドシート17の左右方向に延びるパイプ状の部材であって、セカンドシート17の前後方向の移動に伴って前後方向に移動する。即ち、シートロッド13は、図1における位置13aから13bまでの範囲を移動可能である。このようなシートロッド13の変更位置の何れにも対応できるように、前述した側突パッド12はその寸法が選定されている。
【0024】
本実施形態に係る自動車の衝撃吸収構造10は以上のように構成されており、側面衝突評価において、図2に矢印Aで示すように、側方から水平方向に評価用バリアMDBが車室ドア11に側面衝突したとき、衝突エネルギーによる荷重は、車室ドア11のインパクトビーム11cを介して車室ドア11の前後端に伝達され、さらに車室ドア11の前後端の下部におけるインナーパネル11bが車体側のクロスメンバ等に当接して車体側に伝達され、上述した衝突エネルギーが吸収されることになる。
【0025】
また、衝突エネルギーによる荷重は、上述のように、車体側に伝達されて吸収されるまでの間に、車室ドア11全体に対して矢印A方向に加えられるので、この荷重がアウターパネル11aからインパクトビーム11c,第一の側突パッド12a,インナーパネル11b,第二の側突パッド12bを介してドアトリム11dに伝達され、車室ドア11全体が矢印A方向に、即ち車室内側に進入しようとする。
【0026】
その際、ドアトリム11dが内側のセカンドシート17のシートロッド13に当接する。従って、上述した荷重は、側突パッド12の第一の側突パッド12a及び第二の側突パッド12bを介してシートロッド13に伝達される。これにより、上述した荷重は、さらにシートロッド13から車体側に伝達されて吸収される。即ち、第一の側突パッド12a及び第二の側突パッド12bによって、側面衝突の衝突エネルギーによる荷重が車室ドア11から車内のセカンドシート17のシートロッド13に伝達される。
【0027】
上記のように、側突荷重がシートロック13に伝達されることで側突パッド12そして車室ドア11のドアトリム11dの車室内側への進入が抑制される。よって、セカンドシート17に着座している乗員Pの安全がより一層確保されることになる。
【0028】
また、例えば側面衝突評価において、衝突エネルギーによる荷重10tに対して、車室ドア11の内面を構成するドアトリム11dの車室内側への撓み量を20mm以下にすることが可能となる。従って、独立三座タイプのセカンドシート17の場合にも、両側の座席の乗員Pが側面衝突時に確実に保護されることになると共に、欧州規格であるAE−MDB側突性能が達成される。
【0029】
以上説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。例えば、三列シートの自動車10のセカンドシート17に対応する車室ドア11に限らず、他の車室ドアに対して或いは二列シートの自動車の各車室ドアに対して本発明を適用できる。本発明において、車室ドア11は揺動式であってもスライド式であってもよい。本発明は右側の車室ドアについても適用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車の衝撃吸収構造を示す概略側面図である。
【図2】図1の自動車の衝撃吸収構造を示す概略背面図である。
【図3】図1の自動車の衝撃吸収構造における側突パッドの構成を示す概略斜視図である。
【図4】図3の側突パッド内に取り付けられるパッド本体の構成を示す概略側面図である。
【図5】従来の側突パッドを備えた自動車のドアの一例の構成を示す概略斜視図である。
【図6】図5のドアの側突パッド付近の断面図である。
【図7】側突パッドの他の例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
10 自動車の衝撃吸収構造
10a ドア用開口部
11 車室ドア
11a アウターパネル
11b インナーパネル
11c インパクトビーム
11d ドアトリム
11e ドアガラス
12 側突パッド
12a 第一の側突パッド
12b 第二の側突パッド
13 シートロッド
14 ケース
15 パッド本体
16 シートレール
17 セカンドシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体側面に設けたドア用開口部の領域で、当該開口部を閉じる車室ドア内に設けた前後方向に延びるインパクトビームと、上記車室ドアに設けた側突パッドと、を備えており、側面衝突時に上記車室ドアに側方から加えられる衝撃を上記インパクトビームを介して車体に伝達することによって吸収する、自動車の衝撃吸収構造において、
上記側突パッドが車室内のシートのシートロッドに対応して配置されていて、
側面衝突時に上記車室ドアに側方から水平方向内側に向かう荷重が加えられたとき、上記側突パッドが上記シートロッドに当接することによって上記荷重をシートロッドに伝達することを特徴とする、自動車の衝撃吸収構造。
【請求項2】
前記側突パッドが、前記車室ドアのアウターパネルからドアトリム内面までの領域に配置されるケースと、このケース内に収容される少なくとも一つのパッド本体と、から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記パッド本体はアルミニウム押し出し成形によって所定厚さの格子状に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動車の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記車室ドアが、三列シート車におけるセカンドシートに隣接するドアであることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の自動車の衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−273336(P2008−273336A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117728(P2007−117728)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】