説明

自動車の車体前部構造

【課題】軽衝突時に衝突エネルギ吸収を行うバンパビームエクステンション構造部の設計の如何によらず、エアバックを膨張させるべき衝突が生じた際には、そのことを衝突検知センサが的確に検知できるようにすること。
【解決手段】アッパメンバ14の前端部より車幅方向外側に張り出した張出部分34を含むセンサ取付ブラケット20を取り付け、センサ取付ブラケット20の張出部分34の車体後方側の面に衝突検知センサ50を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体前部構造に関し、特に、エアバック装置のための衝突検知センサの車体に対する取付構造を含む車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバック装置を装備した自動車には、衝突加速度を検知し、エアバック装置の作動を制御するための信号を出力するサテライトセンサと呼ばれる衝突検知センサが車体の前部に設けられる。エアバック装置は、衝突検知センサによって検出される衝突加速度が、予め設定された閾値を超えると、エアバックを膨張させる動作をする。
【0003】
衝突検知センサの取付構造として、車体前部の車幅方向両側を車体前後方向に延在する左右のフロントサイドフレームの前端部と、フロントサイドフレームの車幅方向外側にあって左右のフロントピラーから前下がりに前方へ延出する左右のアッパメンバの前端部とを車幅方向に連結する連結部材上に衝突検知センサを固定装着したものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3930004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
衝突検知センサは、クラッシュ部材であるバンパビームやバンパビームエクステンション部材の変形によって衝突エネルギを吸収できる軽衝突時には、エアバック動作の閾値を超える衝突加速度が作用せず、高速衝突等、エアバックを膨張させるべき衝突時には、エアバック動作の閾値を超える衝突加速度が立ち上がりよく速やかに付与されるように、車体に取り付けられなくてはならない。
【0006】
新しい車体前部構造として、フロントサイドフレームの前端部に加えてアッパメンバの前端部にもバンパビームエクステンション部材を設けることにより、軽衝突時のクラッシュ部材の増加を図ると共に、アッパメンバへの前突荷重の入力を増加させ、前突荷重の車体後方への伝達が良好に行われるようにする試みがある。
【0007】
このような車体前部構造では、フロントサイドフレームやアッパメンバや連結部材の強度を高めことにより、軽衝突時には、バンパビームやバンパビームエクステンション部材のみの変形に止め、修理費用の低減を図ることができる。
【0008】
しかし、このような車体前部構造において、フロントサイドフレームとアッパメンバとを連結する連結フレーム上に衝突検知センサを取り付けたのでは、軽衝突時にはエアバック動作の閾値を超える衝突加速度が衝突検知センサに作用せず、エアバックを膨張させるべき衝突時には、エアバック動作の閾値を超える衝突加速度が衝突検知センサに立ち上がりよく速やかに付与されるようにすることが難しい。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、軽衝突時に衝突エネルギ吸収を行うバンパビームエクステンション構造部の設計の如何によらず、エアバックを膨張させるべき衝突が生じた際には、そのことを衝突検知センサが的確に検知できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による自動車の車体前部構造は、車体前部の車幅方向両側を車体前後方向に延在する左右のフロントサイドフレーム(10)と、前記フロントサイドフレーム(10)より車幅方向外側にあって左右のフロントピラー(12)から前下がりに車体前方へ延出する左右のアッパメンバ(14)と、前記フロントサイドフレーム(10)の前端部より車体前方に延出した内バンパビームエクステンション部材(26)と、前記アッパメンバ(14)の前端部より車体前方に延出した外バンパビームエクステンション部材(28)と、車幅方向に延在して前記内バンパビームエクステンション部材(26)と前記外バンパビームエクステンション部材(28)とに接続されたバンパビーム(24)と、前記アッパメンバ(14)の前端部より車幅方向外側に張り出した張出部分(34)を含むセンサ取付ブラケット(20)とを有し、前記センサ取付ブラケット(20)の前記張出部分(34)の車体後方側の面に衝突検知センサ(50)が取り付けられている。
【0011】
この構成によれば、エアバックを膨張させる必要がない軽衝突時には、バンパビーム(24)や内バンパビームエクステンション部材(26)、外バンパビームエクステンション部材(28)のみの変形に止め、センサ取付ブラケット(20)の張出部分(34)が車体後方へ折り曲げ変形することがないことにより、衝突検知センサ(50)に大きい衝突加速度が作用することがない。エアバックを膨張させるべき衝突時には、センサ取付ブラケット(20)の張出部分(34)にバンパビーム(24)等が当たることによって張出部分(34)が車体後方へ折り曲げ変形し、これに伴い衝突検知センサ(50)に大きい衝突加速度が作用し、フロントサイドフレーム(10)やアッパメンバ(14)の強度を高めた車体構造であっても、エアバックを膨張させるべき衝突を検知することになる。
【0012】
本発明による自動車の車体前部構造は、好ましくは、前記センサ取付ブラケット(20)は、前記張出部分(34)が車体後方へ折曲した際に、当該張出部分(34)の直後方に隣接配置された車載部品(52、54)と干渉しない形状に設定されている。
【0013】
この構成によれば、センサ取付ブラケット(20)の張出部分(34)が車体後方へ折曲しても、当張出部分(34)の直後方に隣接配置された車載部品(52、54)を損傷することがない。
【0014】
本発明による自動車の車体前部構造は、好ましくは、前記センサ取付ブラケット(20)は上下周縁を折曲してなるフランジ部(40)を有する。
【0015】
この構成によれば、フランジ部(40)の設定によってセンサ取付ブラケット(20)の張出部分(34)に所要の曲げ強度を持たせた上で、張出部分(34)を含むセンサ取付ブラケット(20)の板厚を薄くでき、軽量化を図ることができる。
【0016】
本発明による自動車の車体前部構造は、好ましくは、前記センサ取付ブラケット(20)は、前記アッパメンバ(14)の箱形中空形状と同一の開口(42)が形成され、当該開口(42)の開口縁部の少なくとも一つの辺には、前記アッパメンバ(14)の中空部の側に折曲されて当該アッパメンバ(14)の中空部内面に接合する位置決め接合片(44)が形成され、当該位置決め接合片(44)が前記アッパメンバ(14)に溶接されている。
【0017】
この構成によれば、位置決め接合片(44)をアッパメンバ(14)に溶接することにより、必然的に張出部分(34)の張出寸法等が設計値に正しく合ったものとしてセンサ取付ブラケット(20)をアッパメンバ(14)に固定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による自動車の車体前部構造によれば、軽衝突時にはバンパビームや内バンパビームエクステンション部材、外バンパビームエクステンション部材を潰して衝突エネルギを吸収し、衝突検知センサに大きい衝突加速度が作用することがない。フロントサイドフレームやアッバメンバの変形を抑制するように、これら部材の強度を強化しても、エアバックを膨張させるべき衝突時には、センサ取付ブラケットの張出部分が車体後方へ折り曲がることにより衝突検知センサはエアバックを膨張させるべき衝突を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による自動車の車体前部構造の一つの実施例を示す斜視図。
【図2】本実施例による車体前部構造を示す平面図。
【図3】本実施例による車体前部構造を車体前方より見た斜視図。
【図4】本実施例による車体前部構造を車体後方より見た斜視図。
【図5】本実施例による車体前部構造を車体側方より見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による自動車の車体前部構造の実施例を、図1〜図5を参照して説明する。
【0021】
自動車の車体前部は、図1に示されているように、車体前部の車幅方向両側を車体前後方向に延在する左右のフロントサイドフレーム10と、フロントサイドフレーム10の車幅方向外側にあって左右のフロントピラー12から前下がりに前方へ延出する左右のアッパメンバ14とを有する。フロントサイドフレーム10とアッパメンバ14は、骨格部材として、高張力鋼板製で、箱形断面形状(四角形中空形状)をなしている。左右のフロントサイドフレーム10の後端部は車体前後方向に延在する左右のフロントフロアフレーム11(図2参照)に溶接等によって接合されている。
【0022】
左右のフロントサイドフレーム10の前端部と左右のアッパメンバ14の前端部とは、同じ高さ位置にあり、当該両者間に配置されて溶接等によって当該両者に接合された連結部材16(図2、図3参照)により互いに連結されている。
【0023】
左右のフロントサイドフレーム10の前端面には板状のエクステンション取付ブラケット18が溶接等によって接合されている。また、左右のアッパメンバ14の前端面には板状のセンサ取付ブラケット20が溶接等によって接合されている。
【0024】
センサ取付ブラケット20については、詳しく後述するが、アッパメンバ14に取り付けられるエクステンション取付ブラケットを兼ねており、エクステンション取付ブラケット18に繋がって車幅方向に略面一に連続している。
【0025】
バンパビーム組立体22は、車幅方向に延在する箱形断面形状のバンパビーム24と、左右の内バンパビームエクステンション部材26及び外バンパビームエクステンション部材28と、左右のエクステンション取付プレート30とによるサブアッシィである。
【0026】
左右の内バンパビームエクステンション部材26と左右の外バンパビームエクステンション部材28は、車幅方向に間隔をおいて配置されて、各々、車体前後方向に延在し、前端をバンパビーム24の左右端部に溶接等によって接合され、後端を左右のエクステンション取付プレート30に溶接等によって接合されている。内バンパビームエクステンション部材26と外バンパビームエクステンション部材28は、筒状をしたクラッシュ部材であって、フロントサイドフレーム10やアッパメンバ14より車体前後方向の耐圧荷重を低く設定されている。
【0027】
バンパビーム組立体22は、修理の際の交換容易性のために、左右のエクステンション取付プレート30を、各々、左右のエクステンション取付ブラケット18とセンサ取付ブラケット20とにボルト32とナット33によって着脱可能に固定される。
【0028】
この組み付け状態では、内バンパビームエクステンション部材26は、フロントサイドフレーム10に車幅方向に整合してフロントサイドフレーム10の前端部より車体前方に延出する。外バンパビームエクステンション部材28は、アッパメンバ14に車幅方向に整合してアッパメンバ14の前端部より車体前方に延出した配置になる。
【0029】
このように、フロントサイドフレーム10とアッパメンバ14とに各々整合する内バンパビームエクステンション部材26と外バンパビームエクステンション部材28とを有するものをツインエクステンション構造と云う。
【0030】
つぎに、センサ取付ブラケット20及び衝突検知センサ50の取付構造の詳細を、図3〜図5を参照して説明する。
【0031】
センサ取付ブラケット20は、プレス成形品であり、アッパメンバ14の前端部より車幅方向外側に張り出した張出部分34を含む。張出部分34の車体後方側の面には、ねじ36とナット38によって衝突検知センサ50が取り付けられている。衝突検知センサ50は、サテライトセンサとも云われ、車載のエアバック装置の作動を制御するために、衝突加速度を検出する加速度センサにより構成されている。
【0032】
センサ取付ブラケット20の上下縁部には、当該縁部を、略90度、車体後方側に折曲してなるフランジ部40が形成されている。フランジ部40は、センサ取付ブラケット20のの特に張出部分34の剛性を調整し、張出部分34の車体前後方向の曲げ強度を設定している。これにより、張出部分34に所要の曲げ強度を持たせた上で、張出部分34を含むセンサ取付ブラケット20の板厚を薄くでき、軽量化を図ることができる。
【0033】
張出部分34の所要の曲げ強度とは、組み付け時等にセンサ取付ブラケット20が他の部品と衝突した際に受ける程度の荷重に対しては変形せず、エアバック装置を動作させる必要がある衝突の際の衝突荷重では確実に車体前後方向に折り曲る強度である。なお、この所要曲げ強度の設定は、フランジ部40の付加によらずに、センサ取付ブラケット20の板厚設定によっても行えることは勿論のことである。
【0034】
張出部分34は、張出部分34が車体後方へ折曲した際に、センサ取付ブラケットの直後方に隣接配置された車載部品と干渉しない外郭形状に設定されている。この実施例では、アッパメンバ14の外側面に取り付けられた電装部品52との干渉を避けるために、張出部分34の上側部分が略三角形状に切り欠かれ、配管54との干渉を避けるために、張出部分34の下側部分が略矩形に切り欠かれ、張出部分34の車幅方向外側の形状が横転略山形形状になっている。
【0035】
図3に示されているように、センサ取付ブラケット20が車体前後方向で見てアッパメンバ14の前端部と重なる部分(非張出部分)には、アッパメンバ14の箱形(四角形)中空形状と同一の開口42が形成されている。開口42の開口縁部の少なくとも一つの辺には、本実施例では各辺には、アッパメンバ14の中空部の側に折曲されてアッパメンバ14の中空部内面に接合する位置決め接合片44が形成されている。位置決め接合片44をアッパメンバ14に溶接することにより、センサ取付ブラケット20が、位置決め状態で、必然的に張出部分34の張出寸法等が設計値に正しく合ったものとしてアッパメンバ14に固定される。
【0036】
上述したように、衝突検知センサ30は、アッパメンバ14の前端部より車幅方向外側に張り出したセンサ取付ブラケット20の張出部分34に取り付けられているので、エアバックを膨張させる必要がない軽衝突時には、バンパビーム24や内バンパビームエクステンション部材26、外バンパビームエクステンション部材28のみの変形に止め、センサ取付ブラケット20の張出部分34が車体後方へ折り曲げ変形することがないことにより、衝突検知センサ50に大きい衝突加速度が作用することがなく、エアバックを不必要に膨張動作させることがない。
【0037】
これに対し、エアバックを膨張させるべき衝突時には、センサ取付ブラケット20の張出部分34に、クラッシュしたバンパビーム24等が当たることによって張出部分34が車体後方へ折り曲げ変形し、これに伴い衝突検知センサ50に大きい衝突加速度が作用する。これにより、軽衝突時には、バンパビーム24や内バンパビームエクステンション部材26、外バンパビームエクステンション部材28のみの変形に止めるべく、フロントサイドフレーム10やアッパメンバ14や連結部材16の強度を高めても、エアバックを膨張させるべき衝突を適確に検知することができる。
【0038】
このように、本実施例による車体前部構造によれば、軽衝突時に衝突エネルギ吸収を行うバンパビームエクステンション構造部の設計の如何によらず、エアバックを膨張させるべき衝突が生じた際には、そのことを衝突検知センサ50が的確に検知することができる。
【0039】
なお、衝突検知センサ50、センサ取付ブラケット20は、左右のアッパメンバ14に、右対称に配置されており、左右両側の筋ちがい衝突、斜め衝突の検出にも対応する。
【符号の説明】
【0040】
10 フロントサイドフレーム
12 フロントピラー
14 アッパメンバ
16 連結部材
20 センサ取付ブラケット
24 バンパビーム
26 内バンパビームエクステンション部材
28 外バンパビームエクステンション部材
34 張出部分
40 フランジ部
42 開口
44 位置決め接合片
50 衝突検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の車幅方向両側を車体前後方向に延在する左右のフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームより車幅方向外側にあって左右のフロントピラーから前下がりに車体前方へ延出する左右のアッパメンバと、
前記フロントサイドフレームの前端部より車体前方に延出した内バンパビームエクステンション部材と、
前記アッパメンバの前端部より車体前方に延出した外バンパビームエクステンション部材と、
車幅方向に延在して前記内バンパビームエクステンション部材と前記外バンパビームエクステンション部材とに接続されたバンパビームと、
前記アッパメンバの前端部より車幅方向外側に張り出した張出部分を含むセンサ取付ブラケットとを有し、
前記センサ取付ブラケットの前記張出部分の車体後方側の面に衝突検知センサが取り付けられている自動車の車体前部構造。
【請求項2】
前記センサ取付ブラケットは、前記張出部分が車体後方へ折曲した際に、当該張出部分の直後方に隣接配置された車載部品と干渉しない形状に設定されている請求項1に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項3】
前記センサ取付ブラケットは上下周縁を折曲してなるフランジ部を有する請求項1または2に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項4】
前記センサ取付ブラケットは、前記アッパメンバの箱形中空形状と同一の開口が形成され、当該開口の開口縁部の少なくとも一つの辺には、前記アッパメンバの中空部の側に折曲されて当該アッパメンバの中空部内面に接合する位置決め接合片が形成され、当該位置決め接合片が前記アッパメンバに溶接されている請求項1から3の何れか一項に記載の自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−11864(P2012−11864A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149093(P2010−149093)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】