説明

自動車パネル構造体

【課題】 自動車パネル構造体の重量をあまり増加させずに、エネルギーの吸収特性を向上させた、自動車パネル構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】 自動車側面側のパネル構造体の中空構造4 の内部で、かつこの中空構造4 の長手方向に渡って、アウタパネル1 の特に外部壁1c側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材30を延在させ、中空形材30の後面フランジ33、34を中リブとなして、この後面フランジの両端部33、34において、前記アウタパネル1 およびインナパネル2 と接合し、自動車パネル構造体への側突に対する衝撃吸収部を構成させ、エネルギーの吸収特性を向上させることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側面側に設置される衝突エネルギーの吸収性に優れた自動車パネル構造体(同じ意味として、他に、自動車骨格部材、自動車車体構造材、自動車中空構造部材とも言う)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、自動車の車体を構成する構造材の多くに、基本的な特性である剛性や強度とともに、車体の衝突に対する、衝突エネルギー吸収性を有していることが求められ、かつ、近年、その基準が厳しくなってきている。例えば、米国のFMVSS214基準において、車体側面からの衝突(側突)基準についても、従来は20mph(32km/h)での側突条件であった。それが、近年では、MDB(ムービング デフォーマル バリア)による33.5mph(53.6km/h)の側突条件へと、基準の強化が行なわれている。
【0003】
自動車の車体構造材の内、サイドシル(ロッカ)、ルーフサイドレール、ピラー、ドアなど、車体側面側に設置される比較的大型のパネル構造体 (中空構造部材) は、基本的に、鋼板をプレス成形されたアウタパネルとインナパネルとを互いに接合し、中空構造乃至袋構造とした成形パネルにより構成される。
【0004】
図6 に自動車サイドシルなどのパネル構造体の自動車幅方向の断面を例示する。図6 において、図の左側からの矢印は自動車外部からの側突などの衝突荷重の負荷方向を示しており、図の右側が自動車内部側である。車体側面側に設置されるサイドシルなどのパネル構造体は、基本的に、プレス成形された鋼板製アウタパネル1 と、プレス成形された鋼板製インナパネル2 から構成される。そして、選択的には、これらの間に鋼板製パネルからなる中リブ3 を中空構造を仕切るように介在させ、これによって形成される、車体幅方向の外側と内側との中空構造4 、5 からなる二重の中空構造を有している。そして、アウタパネル1 の両端部 (フランジ部)1a 、1bと、インナパネルの両端部 (フランジ部)2a 、2bとを各々互いに接合している。なお、図6 では、中リブ3 の両端部 (フランジ部)3a 、3bを介して一体に接合している態様を示している。しかし、3 枚の板を同時に接合するのは困難な場合があり、実際には、アウタパネル1 の端部と中リブ3 、あるいは、インナパネル2 端部と中リブ3 など、2 枚ずつを位置をずらして接合することも多い。
【0005】
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車などの輸送機の車体の軽量化による燃費の向上が追求されている。この自動車の車体軽量化指向に伴い、これら成形パネルの板厚は、アウタパネルやインナパネルとも、薄肉化されている。これに伴い、成形パネルに用いられる鋼板は高強度化されている。しかし、成形パネルの薄肉化は、パネル構造体としての強度、剛性の低下や、衝突エネルギー吸収性の低下を必然的に伴う。
【0006】
このため、前記車体側面側に設置されるパネル構造体には、軽量化を図って薄肉化した場合にも、前記した厳しい側突基準を満足して、車室内の乗員を保護できる機能が要求されている。即ち、この中空構造部材が、衝突 (側突) による荷重を受けても、あまり屈曲せず、車室内側へ屈曲乃至変形する量を低減するような車体構造が要求されている。
【0007】
これに対しては、従来から、上記車体側面側に設置される鋼製パネル構造体の中空構造内 (内部) に補強部材などを設置して補強することが代表的である。
【0008】
この例として、成形パネルにより構成されたセンターピラー、ドア、サイドシルなどの鋼製パネル構造体内部に、側面衝突方向に向かって中空形材の一部が張り出す湾曲形状をした、補強用アルミニウム合金中空形材を別途延在させることが提案されている (特許文献1参照) 。
【0009】
また、鋼製センターピラーのパネル構造体内部に、別途、荷重伝達部を設けて、衝突時の荷重を吸収させる技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
更に、車両の側面衝突時などに、座屈変形を防ぐために、鋼製センターピラー内に、鋼製あるいはアルミニウム合金製のリインフォースメントを設けた技術も提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004-51065号公報 (特許請求の範囲、図1 、1〜2頁)
【特許文献2】特開2003-2234 号公報 (特許請求の範囲、図1 、1〜2頁)
【特許文献3】特開2003-276639 号公報(特許請求の範囲、図1 、1〜2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、座屈変形を抑えるために、パネル構造体内部に補強部材などを設ける手段は、これら部材により重量が増加することや、パネル構造体自体の形状設計に影響を与えるという問題がある。また、車両のデザイン上、センターピラー内に設ける荷重伝達部やリインフォースメントの形状にも限界がある。
【0012】
また、乗員保護の高まりから、さらに、衝突時の座屈変形抑制の要求レベルはより高くなっている。これに対して、これらパネル構造体内部に補強部材などを設ける手段では、座屈変形抑制と重量抑制の両立には限界があるのが実状である。
【0013】
因みに、自動車パネル構造体におけるアウタパネルとインナパネルの板厚を上げれば、座屈変形を抑制できるが、大面積を有するパネル重量の増加となり、パネル構造体の軽量化ができず、軽量化と衝突エネルギーの吸収特性を両立させることができない。
【0014】
したがって、本発明の目的は、自動車パネル構造体の重量をあまり増加させずに、エネルギーの吸収特性を向上させた、自動車パネル構造体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するために、本発明自動車パネル構造体の第一の要旨は、 互いに接合された鋼製アウタパネルとインナパネルおよびこれらの間に介在する中リブによって形成される、車体幅方向の外側と内側との二重の中空構造を有して、車体側面側に設置される自動車パネル構造体であって、前記車体外側の中空構造内部で、かつこの中空構造の長手方向に渡って、前記アウタパネル側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材を延在させることを含み、この中空形材は略矩形の断面形状を有するように、車体幅方向外側に略縦向きに配置された前面フランジと、車体幅方向内側に略縦向きに配置された後面フランジと、この両フランジに略直交するように略横向きに配置された二つの上下ウエブとからなり、前記後面フランジを、前記中リブとなして、この後面フランジの両端部において、前記アウタパネルおよびインナパネルと接合し、前記中空形材の中空部が自動車パネル構造体への側突荷重に対し、中空部の幅方向に、この側突荷重と向き合う形で配置されていることである。
【0016】
また、この目的を達成するために、本発明自動車パネル構造体の第二の要旨は、互いに接合された鋼製アウタパネルとインナパネルおよびこれらの間に介在する中リブによって形成される、車体幅方向の外側と内側との二重の中空構造を有して、車体側面側に設置される自動車パネル構造体であって、前記車体外側の中空構造内部で、かつこの中空構造の長手方向に渡って、前記アウタパネル側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材を延在させることを含み、この中空形材は略矩形の断面形状を有するように、車体幅方向外側に略縦向きに配置された前面フランジと、車体幅方向内側に略縦向きに配置された後面フランジと、この両フランジに略直交するように略横向きに配置された二つの上下ウエブとからなり、前記前面フランジを前記中リブとなすとともに、前記後面フランジを前記インナパネルとなし、前面フランジと後面フランジとの両端部において、前記アウタパネルと接合し、前記中空形材の中空部が自動車パネル構造体への側突荷重に対し、中空部の幅方向に、この側突荷重と向き合う形で配置されていることである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車体側面側に設置される自動車パネル構造体として、前記中空構造内部で、かつこの中空構造の長手方向に渡って、前記鋼製アウタパネル側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材を延在させた、所謂ハイブリッド構造を有している。
【0018】
このため、車体幅方向外側である、鋼製アウタパネル側から、側突荷重が負荷された際に、鋼製アウタパネル側に近接した補強用アルミニウム合金中空形材が、衝突荷重を受けた鋼製アウタパネルが変形後に、鋼製アウタパネルとともに衝突力に抵抗して、衝突荷重のエネルギー吸収を行うことができる。
【0019】
また、中空形材の中空部が、中空部の幅(横)方向に、この側突荷重と向き合う形で配置されているために、鋼製アウタパネル側から衝突荷重が負荷された(側突の)際に、中空形材の幅(横)方向に(荷重負荷の断面方向に)変形する。このため、衝突荷重のエネルギー吸収量を高めることができる。
【0020】
これらの結果、このような補強用アルミニウム合金中空形材が無い場合に比して、自動車パネル構造体の重量をあまり増加させずに、自動車パネル構造体のエネルギー吸収能を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施態様について、図面を用いて具体的に説明する。図1 、3 は、各々本発明に係る補強用アルミニウム合金中空形材の斜視図を示す。これら各中空形材の長手方向の断面形状は、パネル構造体や他の部材との接合のために、選択的に潰し加工を施されるような端部を除いては、略同じ断面形状である。
【0022】
図2 、4 は、上記図1 、3 に各々対応して、これら補強用アルミニウム合金中空形材を各々組み込んだ本発明自動車パネル構造体の断面図を示す。なお、これら自動車パネル構造体は、車体側面側に設置されるサイドシル例などを模擬している。図2 、4 は、パネル構造体の自動車幅方向の断面を例示している。
【0023】
図2 、4 においては、前記図6 図と同様に、図の左側からの矢印は自動車外部からの側突などの衝突荷重の負荷方向を示しており、図の右側が自動車内部側である。
【0024】
(自動車パネル構造体の構成)
図2 のパネル構造体は、前提として、車室外側に配置された鋼板製アウタパネル1 と、車室内側に配置された鋼板製インナパネル2 から構成される。そして、これらの間に補強用アルミニウム合金中空形材30を中空構造を仕切るように介在させ、これによって形成される、車体幅方向の外側と内側との中空構造4 、5 からなる二重の中空構造を有している。
【0025】
アウタパネル1 とインナパネル2 とは、各々車体設計上の任意の形状に、予めプレス成形されている。これによって、アウタパネル1 は、車体外側に向かう頂部1cと、この頂部1cを囲む壁部1d、また、アウタパネル1 の外方へ延びるとともに壁部1dを囲む平坦なフランジ1a、1bを有する。また、インナパネル2 も、平坦な頂部2cと、この頂部2cを囲む壁部2d、インナパネル2 の外方へ延びるとともに壁部2dを囲む平坦なフランジ2a、2bを有する。
【0026】
このようなアウタパネル1 の両端部 (フランジ部)1a 、1bと、インナパネル2 の両端部 (フランジ部)2a 、2bとを、中リブ30の両端部 (フランジ部)33 、34を介して、各々互いに一体に接合し、中空構造4 、5 を有する中空構造乃至袋構造、あるいは閉断面構造として構成される。なお、図2 では、図の上側の中リブ30の端部33側は、接合手段6aによって、中リブ30の端部33を介して、アウタパネル1 の端部1aと、インナパネル2 の端部2aとを、一体に接合している。また、図の下側の中リブ30の端部 34 側に示すように、アウタパネル1 の端部1bと中リブ3 0 の端部34同士、インナパネル2 の端部2bとアウタパネル1 の端部1b同士などを接合手段38、6bにより各々2 枚ずつを位置をずらして接合している。中リブ30の板厚が厚いなど、図の上側の中リブ30の端部33側のように、3 枚の板を同時に接合するのは困難な場合には、図の下側の中リブ30の端部 34 側に示すように、2 枚ずつを位置をずらして接合することが好ましい。
【0027】
これらの接合手段6a、6b、38は、以下に説明する接合手段を含めて、ボルト・ナット、セルフピアシンングリベットなどの周知の機械的な接合手段、溶接などの周知の溶接手段などが、適宜あるいは組み合わせて選択される。
【0028】
このような構成からなる自動車パネル構造体1aとしては、サイドシル以外のピラー、ルーフサイドレール、ドアなど、自動車車体の側面側に設置される比較的大型のパネル構造体が例示される。
【0029】
(図1 、2 の実施態様)
図1 、2 に示す補強用アルミニウム合金中空形材10および自動車パネル構造体は、前記本発明自動車パネル構造体の第一の要旨の実施態様を示す。
この第一の要旨の実施態様では、車体外側の中空構造4 の内部で、かつこの中空構造4 の長手方向に渡って、アウタパネル1 の特に外部壁1c側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材30を延在させている。
【0030】
また、この補強用アルミニウム合金中空形材30を、略矩形の断面形状を有するように、アルミニウム合金押出形材から構成している。即ち、この略矩形の断面形状は、車体幅方向外側位置に略縦向き(図の上下方向: 略垂直方向)に配置された前面フランジ31と、車体幅方向内側位置に略縦向き(図の上下方向: 略垂直方向)に配置された後面フランジ32と、この両フランジ31、32に略直交するとともに、互いには斜めに末広がりとなるように略横向き(図の横方向: 略水平方向)に配置された二つの上下ウエブ35、36とから構成される閉断面をしている。後面フランジ32には、略矩形の断面に対して図の上下方向に対して拡がるフランジ33、34が張り出されている。
【0031】
この態様では、この補強用アルミニウム合金中空形材30の後面フランジ32を、前記中リブの代わりの中リブとなして、この後面フランジ23の両端部であるフランジ33、34において、前記アウタパネルおよびインナパネルと接合し、自動車パネル構造体への衝突に対する衝撃吸収部を構成している。このように、前記中リブの代わりを、補強用アルミニウム合金中空形材30の後面フランジ32によってさせることで、自動車パネル構造体としての重量増加を抑制することができる。
【0032】
図2 において、より具体的には、中空形材30の上側の端部フランジ33は、アウタパネルのフランジ部1a、インナパネルのフランジ部2aともども、接合段6aによって接合されている。また、中空形材30の下側の端部フランジ34は、アウタパネルとの接合のために、適宜折り曲げられて延在する形状とされ、アウタパネルのフランジ部1bと接合手段38によって接合されている。
【0033】
(第二の要旨の実施態様)
図3 、4 に示す補強用アルミニウム合金中空形材40および自動車パネル構造体は、本発明自動車パネル構造体の第二の要旨の実施態様を示す。
この第二の要旨の実施態様では、中空構造4 の内部で、かつこの中空構造4 の長手方向に渡って、アウタパネル1 の特に外部壁1c側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材40を延在させている点は、前記第一の要旨の実施態様と同じである。
【0034】
また、この補強用アルミニウム合金中空形材40を、略矩形の断面形状を有するように、アルミニウム合金押出形材から構成した点も、前記図1 、2 の態様と同じである。
【0035】
ただ、この中空形材40は、前面フランジ41を前記中リブ( の代わり) となすとともに、後面フランジ42を前記インナパネル( の代わり) となす点が大きく異なる。したがって、図4 のパネル構造体は、車室外側に配置された鋼板製アウタパネル1 や、車体幅方向の外側と内側との中空構造4 、5 からなる二重の中空構造を有しているは、図2 の態様と同様であるが、車室内側に配置された鋼板製インナパネル2 が無く、アルミニウム合金中空形材40の後面フランジ42が、このインナパネル2 の役割を果たす。
【0036】
このために、中空形材40における、これら各フランジ41、42と、これらをつなぐ上下ウエブ43、44とは、車体設計上の中リブやインナパネルの形状に則した形状とされている。即ち、各フランジ41、42をつなぐ上下ウエブ43、44は、中央部に、接合用の上下に伸びる板状のフランジ45、46を各々有るとともに、このフランジ45、46部分を境に、互いに反対方向に末広がりとなるように傾斜した横向きに配置されている。
【0037】
図4 において、より具体的には、中空形材40の上側の接合用フランジ45は、アウタパネルのフランジ部1aと、接合段47によって接合されている。また、中空形材40の下側の接合用フランジ46は、アウタパネルのフランジ部1bと、接合手段48によって接合されている。
【0038】
このように、前記中リブの代わりを中空形材40の前面フランジ41となし、前記インナパネルの代わりを後面フランジ42となすことによって、従来の鋼製中リブおよび鋼製インナパネルが不要となる。この結果、図2 の態様に比しても、自動車パネル構造体としての重量増加を更に抑制することができる。
【0039】
以上説明した各態様においては、共通して、車体側面側に設置される自動車パネル構造体として、前記中空構造内部で、かつこの中空構造の長手方向に渡って、前記鋼製アウタパネル1 側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材10〜40を各々延在させた、所謂ハイブリッド構造を有している。
【0040】
このため、車体幅方向外側である、鋼製アウタパネル1 側から、各矢印のように、側突荷重が負荷された際に、鋼製アウタパネル1 側に近接した補強用アルミニウム合金中空形材30、40が、衝突荷重を受けた鋼製アウタパネルが変形後に、鋼製アウタパネルとともに衝突力に抵抗して、衝突荷重のエネルギー吸収を行うことができる。
【0041】
また、中空形材の30、40の中空部が、中空部の幅(横)方向に、この衝突荷重と向き合う形で配置されているために、鋼製アウタパネル1 側から側突荷重が負荷された(側突の)際に、中空形材30、40の幅(横)方向に(荷重負荷の断面方向に)変形する。このため、衝突荷重のエネルギー吸収量を高めることができる。
【0042】
これらの結果、このような補強用アルミニウム合金中空形材30、40が無い場合に比して、自動車パネル構造体の重量をあまり増加させずに、自動車パネル構造体のエネルギー吸収能を大幅に向上させることができる。
【0043】
(パネル強度)
このようなハイブリット構造の効果を発揮するためには、軽量化のためにも、自動車パネル構造体の前提となるアウタパネルやインナパネル、あるいは中リブウパネルの板厚が2mm 以下の薄板であることが好ましい。これらの板厚が厚いと、本発明のような補強用アルミニウム合金中空形材を新たに付加することの意味が失われ、軽量化の点からも著しく不利となる。
【0044】
そして、このような薄肉化を前提とすると、アウタパネルやインナパネル、あるいは中リブウパネルは高張力鋼板からなることが好ましい。
【0045】
(アルミニウム合金板)
本発明で用いるアルミニウム合金中空形材は、圧延板にしても、押出形材にしても良いが、押出形材の断面一体化による強度向上や、板材の中空形材への成形の手間ヒマを考慮すると、押出形材が好ましい。形材の厚みは、軽量化 (重量増加の抑制) のためには、5mm 以下であることが好ましい。また、このような薄肉化を前提とすると、調質処理後に、250MPa以上の0.2%耐力を有することが好ましく、この点、AA乃至JIS 規格に規定された、あるいは規定に類似の 3000 系、5000系、6000系等のアルミニウム合金が好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例を説明する。
前記図2 、4 の各実施態様と、比較として図6 の従来タイプの各自動車パネル構造体の形状をモデル化して、下記表1 の材質、板厚(mm)などの条件にてFEM 解析し、各々の荷重(kN)−変位(mm)関係よりエネルギー吸収量(J) と、また固有振動数(Hz)を求めた。エネルギー吸収量(J) と、また固有振動数(Hz)を表1 に示す。また、各々の荷重(kN)−変位(mm)関係を図5 に示す。
【0047】
FEM 解析条件として、解析は 3点曲げの解析モデルを用い、汎用の動的陽解法ソフトLS-DYNA を用いて行った。
【0048】
表1 において、比較例1 、2 は、本発明に係る補強用のアルミニウム合金中空形材を有さない従来タイプである。比較例1 は図6 の従来タイプの各自動車パネル構造体であって、アウタ、インナ、中リブの各パネルが590MPaの引張強さを有する鋼板製である。比較例2 は図6 の従来タイプの各自動車パネル構造体であって、アウタ、インナ、中リブの各パネルが290MPaの0.2%耐力を有する6000系アルミニウム合金板製である。
【0049】
また、表1 において、発明例3 は、図2 のタイプであり、中リブに相当する後面フランジ32を含めた各部位が表1 に示す同じ板厚2.0mm である、6000系アルミニウム合金押出形材製(0.2% 耐力:300MPa)製である。
【0050】
発明例4 は、図4 のタイプであり、インナパネルに相当する後面フランジ42の厚みが1.4mm であることを除いて、中リブに相当する前面フランジ41を含めた他の部位が板厚2.0mm である、6000系アルミニウム合金押出形材製(0.2% 耐力:300MPa)製である。
【0051】
表1から分かる通り、発明例3 は、従来の特に比較例1 の鋼板製自動車パネル構造体に比して、100:106 と重量増加が著しく少なく、かつ衝突エネルギーの吸収量の増加量も1.7 倍以上に高くなっている。この結果は図5 の荷重(kN)−変位(mm)関係からも裏付けられる。衝突エネルギーの吸収量は、図5 における荷重(kN)−変位(mm)曲線が囲む面積の大きさで示され、実線で示される発明例3 は、比較例1 、2 に比して、前記面積が著しく大きい。また、発明例3 は、構造体として必要な剛性を示す固有振動数(Hz)も、比較例1 や2 に比して、同等か高く、剛性の点からも問題がない。
【0052】
更に、発明例4 は、従来の特に比較例1 の鋼板製自動車パネル構造体に比して、100:85と、却って、大きく軽量化できている上に、衝突エネルギーの吸収量の増加量も、発明例3 よりも大きく、1.8 倍近くに高くできている。図5 における荷重(kN)−変位(mm)曲線からも、点線で示される発明例4 は、比較例1 、2 に比しては勿論のこと、発明例3 よりも前記面積が大きいことが分かる。また、発明例4 は、固有振動数(Hz)も、比較例1 や2 に比して、同等か高く、剛性の点からも問題がない。
【0053】
したがって、これらの結果から、本発明によれば、自動車パネル構造体の重量を増加させずに、あるいは、却って軽量化できた上で、エネルギーの吸収特性を向上させることが可能であることが裏付けられる。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、自動車パネル構造体の重量をあまり増加させずに、エネルギーの吸収特性を向上させた、自動車パネル構造体を提供できる。このため、サイドシル、ドア、センターピラーなどのピラー、ルーフサイドレール、など、車体側面側に設置される比較的大型のパネル構造体に適用されて、自動車の軽量化と、乗員保護などの安全性の向上との両立に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る補強用アルミニウム合金中空形材の一態様を示す斜視図である。
【図2】図1の補強用アルミニウム合金中空形材を用いた自動車パネル構造体の断面図である。
【図3】本発明に係る補強用アルミニウム合金中空形材の別の態様を示す斜視図である。
【図4】図3の補強用アルミニウム合金中空形材を用いた自動車パネル構造体の断面図である。
【図5】実施例における荷重−変位関係を示す説明図である。
【図6】従来の自動車パネル構造体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1:アウタパネル、2:インナパネル、4 、5:中空部、
6 、38、47、48: 接合手段、30、40: 補強用アルミニウム合金中空形材、
31、41: 前面フランジ、32、42: 後面フランジ、
35、36、43、44: 上下各ウエブ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合された鋼製アウタパネルとインナパネルおよびこれらの間に介在する中リブによって形成される、車体幅方向の外側と内側との二重の中空構造を有して、車体側面側に設置される自動車パネル構造体であって、前記車体外側の中空構造内部で、かつこの中空構造の長手方向に渡って、前記アウタパネル側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材を延在させることを含み、この中空形材は略矩形の断面形状を有するように、車体幅方向外側に略縦向きに配置された前面フランジと、車体幅方向内側に略縦向きに配置された後面フランジと、この両フランジに略直交するように略横向きに配置された二つの上下ウエブとからなり、前記後面フランジを、前記中リブとなして、この後面フランジの両端部において、前記アウタパネルおよびインナパネルと接合し、前記中空形材の中空部が自動車パネル構造体への側突荷重に対し、中空部の幅方向に、この側突荷重と向き合う形で配置されていることを特徴とする自動車パネル構造体。
【請求項2】
前記補強用アルミニウム合金中空形材がアルミニウム合金押出材からなる請求項1に記載の自動車パネル構造体。
【請求項3】
互いに接合された鋼製アウタパネルとインナパネルおよびこれらの間に介在する中リブによって形成される、車体幅方向の外側と内側との二重の中空構造を有して、車体側面側に設置される自動車パネル構造体であって、前記車体外側の中空構造内部で、かつこの中空構造の長手方向に渡って、前記アウタパネル側に近接して、補強用アルミニウム合金中空形材を延在させることを含み、この中空形材は略矩形の断面形状を有するように、車体幅方向外側に略縦向きに配置された前面フランジと、車体幅方向内側に略縦向きに配置された後面フランジと、この両フランジに略直交するように略横向きに配置された二つの上下ウエブとからなり、前記前面フランジを前記中リブとなすとともに、前記後面フランジを前記インナパネルとなし、前面フランジと後面フランジとの両端部において、前記アウタパネルと接合し、前記中空形材の中空部が自動車パネル構造体への側突荷重に対し、中空部の幅方向に、この側突荷重と向き合う形で配置されていることを特徴とする自動車パネル構造体。
【請求項4】
前記補強用アルミニウム合金中空形材がアルミニウム合金押出材からなる請求項3に記載の自動車パネル構造体。
【請求項5】
前記自動車パネル構造体が、サイドシル、ルーフサイドレール、ピラー、ドア、から選択されるものである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動車パネル構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−248461(P2006−248461A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70509(P2005−70509)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願〔平成16年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「エネルギー使用合理化革新的温暖化対策技術開発(自動車軽量化のためのアルミニウム合金高度加工・形成技術の開発事業)」からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの〕
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】