説明

自動車両制動装置

【課題】自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる自動車両制動装置を提供すること。
【解決手段】前輪6はディスクブレーキ31により制動可能に設けられ、後輪7はドラムブレーキ35により制動可能に設けられる車両1に、前輪6の制動力を検出可能な前輪前後力センサ55を設ける。自動制動制御部で自動制動制御を行う際には、前輪前後力センサ55で前輪実制動力を検出し、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は前輪前後力センサ55による検出結果のみで制動力のフィードバック制御を行う。これにより、制動力が不安定な期間におけるドラムブレーキ35の制動力は、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35の油圧の制御には反映されないため、不安定な制動力がフィードバックされることに起因して制動力が不安定になることを抑制できる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車両制動装置に関するものである。特に、この発明は、ディスクブレーキとドラムブレーキとを併用する車両の自動制動を行う自動車両制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両には、走行時の安全性の確保や走行の安定化を図るために、運転者の制動操作とは別に必要に応じて自動的に制動を行う自動車両制動装置を備えているものがある。このような自動車両制動装置は、例えば、車輪の駆動力が過大であること起因して、車輪の駆動スリップ、つまりホイールスピンが発生する場合に、自動制動制御によってホイールスピンが発生する車輪の回転を抑制することによりホイールスピンを抑制する制御であるトラクションコントロールを行う場合に用いられる。
【0003】
ここで、車両に備えられる制動手段としては、主にディスクブレーキとドラムブレーキとがあるが、従来の車両の中には、例えば前輪にはディスクブレーキが用いられ、後輪にはドラムブレーキが用いられる場合のように、ディスクブレーキとドラムブレーキとを併用しているものがある。このうち、ドラムブレーキは、車輪と共に回転するブレーキドラムと、このブレーキドラムの内側から押圧するブレーキシューとを有しており、ブレーキドラムの内側からブレーキシューで押圧した際の摩擦力により、ブレーキドラムの回転を低減させ、制動力を発生可能になっている。また、従来のドラムブレーキは、ブレーキドラムとブレーキシューとの間隙であるシュー間隙を機械的に自動調整するオートアジャスタを備えているものが多く、ブレーキシューの摩耗時も、シュー間隙が所定値以上にならないようになっている。
【0004】
しかし、ブレーキシューによってドラムブレーキに対して大きな押圧力が作用することによりブレーキドラムが弾性変形したり、制動時にブレーキドラムが高温になることによってブレーキドラムが熱膨張をしたりした場合には、シュー間隙が大きくなり、オートアジャスタが不必要に作動する場合がある。このようにオートアジャスタが不必要に作動した場合、シュー間隙が不適切な大きさになり、所望の制動力を得られない場合がある。このため、従来の自動車両制動装置では、自動制動制御時におけるドラムブレーキの制動力を、より適切に得ることができるようにしたものがある。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の自動ブレーキの制動力制御装置では、ドラムブレーキを用いて自動ブレーキにより車両の走行状態を制御する時の制動力を、オートアジャスタが作動してシュー間隙を自動調整し過ぎることのない範囲内に制限している。このように、自動ブレーキ時に制動力を制限することにより、シュー間隙が過剰に自動調整されることを抑制することができるため、シュー間隙を適切なものにすることができ、ドラムブレーキの制動力を、より適切に得ることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−149088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、このように制動手段を制御して、運転者による制動操作とは別に自動的に制動を行う場合には、通常、目標となる制動力を導出し、導出した制動力で車両を制動できるように制動手段を制御して、制動力を発生させる。さらに、このように制動手段を制御することにより発生した実際の制動力は、目標となる制動力に対してずれが生じている場合があるので、フィードバック制御を行って実際の制動力を目標となる制動力に近付けさせる。これにより、自動的に制動を行う場合に、車両を適切に制動することができる。
【0008】
しかし、ドラムブレーキは制動初期には制動力が安定しないため、1つの車両でディスクブレーキとドラムブレーキとを併用している場合、自動制動時にフィードバック制御を行った際に、制動力が安定していない状態のドラムブレーキの制動力もフィードバックすることになる場合がある。この場合、制動力が安定していない状態の実際の制動力がフィードバックされることになるため、このフィードバックにより補正される目標となる制動力も不安定になり、制動が安定せずにハンチングが生じる場合がある。このため、自動制動を行った際のフィーリングが悪くなる場合があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる自動車両制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係る自動車両制動装置は、車両が有する複数の車輪のうちディスクブレーキにより制動可能なディスク側車輪と、複数の前記車輪のうちドラムブレーキにより制動可能なドラム側車輪と、前記ディスク側車輪の制動力を検出可能なディスク側車輪制動力検出手段と、前記ディスクブレーキ及び前記ドラムブレーキによって前記車輪を制動する際に前記ディスクブレーキ及び前記ドラムブレーキに付与する付与力を前記車両の運転者による制動操作とは独立して制御する自動制動制御を行うと共に、制動初期における前記ドラムブレーキの制動力が不安定な期間は前記ディスク側車輪制動力検出手段による前記制動力の検出結果のみで前記付与力のフィードバック制御を行う自動制動制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明では、ディスク側車輪制動力検出手段でディスク側車輪の制動力を検出し、自動制動制御手段で自動制動制御を行う際にドラムブレーキの制動力が不安定な期間は、ディスク側車輪制動力検出手段による検出結果のみでフィードバック制御を行っている。これにより、制動力が不安定な期間におけるドラムブレーキの制動力は、ディスクブレーキ及びドラムブレーキの付与力の制御には反映されないため、不安定な制動力がフィードバックされることに起因して付与力が不安定になり、制動力がさらに不安定になることを抑制できる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる。
【0012】
また、この発明に係る自動車両制動装置は、上記発明において、前記ディスクブレーキと前記ドラムブレーキとは前記付与力の制御が独立していないことを特徴とする。
【0013】
この発明では、ディスクブレーキとドラムブレーキとは付与力の制御が独立していないので、容易に付与力を制御することができる。つまり、ドラムブレーキの制動力が不安定な期間にディスク側車輪制動力検出手段による検出結果のみでフィードバック制御を行う場合でも、1つのフィードバック量でディスクブレーキの付与力とドラムブレーキの付与力との双方をフィードバック制御することにより、容易に付与力を制御することができる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を容易に図ることができる。
【0014】
また、この発明に係る自動車両制動装置は、上記発明において、前記ディスクブレーキと前記ドラムブレーキとは独立して前記付与力の制御が可能に設けられていることを特徴とする。
【0015】
この発明では、ディスクブレーキとドラムブレーキとで独立して付与力の制御が可能に設けられているので、ドラムブレーキの制動力が不安定な期間でも、ディスクブレーキはフィードバック制御によって制動制御を行うことができる。従って、ドラムブレーキの制動力が不安定な期間でも、ディスクブレーキの制動力を安定させることができ、ディスク側車輪の制動力を安定させることができる。この結果、より確実に自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる。
【0016】
また、この発明に係る自動車両制動装置は、上記発明において、さらに、前記ドラム側車輪の前記制動力を検出可能なドラム側車輪制動力検出手段を備えており、前記自動制動制御手段は、前記ドラムブレーキの前記制動力が不安定な期間の経過後は、前記ディスク側車輪制動力検出手段による前記制動力の検出結果と前記ドラム側車輪制動力検出手段による前記制動力の検出結果とを共に用いて前記付与力のフィードバック制御を行うことを特徴とする。
【0017】
この発明では、ドラムブレーキの制動力が不安定な期間の経過後は、ドラム側車輪制動力検出手段による制動力の検出結果も用いて付与力のフィードバック制御を行っているので、より適切に付与力の制御を行うことができる。つまり、ドラムブレーキの制動力が不安定な期間の経過後は、ドラムブレーキによる制動力をフィードバックしているので、実際の制動力が目標となる制動力になるように制動制御を行う際に、より確実に実際の制動力を目標となる制動力に近付けることができる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図りつつ、所望の制動力で自動制動での制動制御を行うことができる。
【0018】
また、この発明に係る自動車両制動装置は、上記発明において、前記ディスク側車輪は前記車両の前輪として設けられており、前記ドラム側車輪は前記車両の後輪として設けられていることを特徴とする。
【0019】
この発明では、ディスク側車輪は車両の前輪とし、ドラム側車輪は車両の後輪としているため、制動初期における制動力を、目標となる制動力に近付けることができる。つまり、車両の制動時には後輪よりも前輪に大きな荷重が作用するため、前輪の制動力は後輪の制動力よりも大きくすることができる。このため、車両全体の制動力における後輪の制動力の割合は、前輪の制動力の割合と比較して小さくなっている。従って、後輪の制動力は車両全体の制動力に対する影響が小さいので、制動初期にはディスク側車輪である前輪の制動力のみをフィードバックしてドラム側車輪である後輪の制動力はフィードバックしない場合でも、車両全体の制動力を、目標となる制動力に近付けることができる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図りつつ、制動初期における制動力を、より所望の制動力に近い制動力にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自動車両制動装置は、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係る自動車両制動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車両制動装置が設けられた車両の概略図である。なお、以下の説明では、車両1の通常の走行時における進行方向を前方とし、進行方向の反対方向を後方として説明する。実施例1に係る自動車両制動装置2を備える車両1は、内燃機関であるエンジン10が動力発生手段として車両1の進行方向における前側部分に搭載されている。このエンジン10が発生した動力は、自動変速機15で走行状態に適した変速比で変速可能になっており、自動変速機15で変速した動力はプロペラシャフト16、デファレンシャルギヤ17、ドライブシャフト18を介して、車両1が有する車輪5のうち駆動輪として設けられる後輪7へ伝達されることにより、車両1は走行可能になっている。
【0023】
このように、実施例1に係る自動車両制動装置2を備える車両1は、エンジン10が車両1の進行方向における前側部分に搭載され、後輪7が駆動輪として設けられた、いわゆるFR(Front engine Rear drive)の駆動形式となっているが、車両1の駆動形式はFR以外でもよい。また、実施例1において、エンジン10はガソリンを燃料とするレシプロ式の火花点火式エンジンであるが、エンジン10はこれに限定されるものではない。エンジン10は、例えば、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)やアルコールを燃料とする火花点火式エンジンであってもよいし、いわゆるロータリー式の火花点火式エンジンであってもよいし、ディーゼル機関であってもよい。また、エンジン10の回転を変速する変速機は自動変速機15以外のものでもよく、例えば、手動で変速をする手動変速機でもよい。
【0024】
車両1が有する車輪5のうち後輪7は駆動輪として設けられるのに対し、前輪6は車両1の操舵輪として設けられている。操舵輪である前輪6は、車両1の運転席に配設されるハンドル20によって操舵可能に設けられている。
【0025】
また、各車輪5の近傍には車輪5に制動力を作用させることができる制動手段であるブレーキ30が設けられており、前輪6の近傍には前輪6に制動力を作用させることができるブレーキ30であるディスクブレーキ31が設けられている。このディスクブレーキ31は、回転しないように設けられたホイールシリンダ32及びブレーキパッド33と、車輪5と共に回転可能に設けられたブレーキディスク34とにより構成されている。また、後輪7の近傍には後輪7に制動力を作用させることができるブレーキ30であるドラムブレーキ35が設けられている。このドラムブレーキ35は、回転しないように設けられたホイールシリンダ36及びブレーキシュー37と、車輪5と共に回転可能に設けられたブレーキドラム38とにより構成されている。これらのため、前輪6はディスクブレーキ31により制動可能なディスク側車輪となっており、後輪7はドラムブレーキ35により制動可能なドラム側車輪となっている。
【0026】
また、これらのディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とは、共に車両1の制動時に当該ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に作用させる油圧の経路である油圧経路40に接続されている。詳しくは、油圧経路40には、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32と、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36とが接続されている。この油圧経路40には、車両1の制動時に油圧経路40内の油圧を制御可能なブレーキアクチュエータ45が設けられており、ブレーキアクチュエータ45は、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に付与する付与力として用いられる油圧を、1つの制御系統により制御する。つまり、車両1の制動時には、ブレーキ30を作動させる油圧の制御を、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とで独立せずに制御する。
【0027】
また、前輪6には、前輪6の制動力を検出可能なディスク側車輪制動力検出手段である前輪前後力センサ55が設けられており、後輪7には、後輪7の制動力を検出可能なドラム側車輪制動力検出手段である後輪前後力センサ56が設けられている。これらの前輪前後力センサ55及び後輪前後力センサ56は、車輪5の径方向における中心軸寄りの部分と外周寄りの部分との回転方向の歪みを検出可能に設けられている。
【0028】
このため、制動時におけるこの歪みを検出することにより、制動時に、前輪前後力センサ55や後輪前後力センサ56が設けられている車輪5に対して前後方向に作用する力、即ち制動力を検出することができる。つまり、制動時にはブレーキ30によって車輪5に対して車輪5の回転を低下させる力を与えることにより、車輪5の径方向における中心軸寄りの部分と外周寄りの部分とには、回転方向に歪みが発生する。このため、制動時におけるこの歪みが大きい場合には、その車輪5の制動力は大きくなっていることを示しており、制動時における歪みが小さい場合には、その車輪5の制動力は小さくなっていることを示している。
【0029】
また、車両1には、車両1の運転席に運転者が座った状態における運転者の足元付近に、エンジン10の出力を調整する際に操作するアクセルペダル21と、走行中の車両1を制動する際に操作するブレーキペダル22とが併設されている。このうち、アクセルペダル21の近傍には、アクセルペダル21の開度を検出可能なアクセル開度検出手段であるアクセル開度センサ51が設けられている。また、ブレーキペダル22の近傍には、ブレーキペダル22のストロークを検出可能なブレーキストローク検出手段であるブレーキストロークセンサ52が設けられている。
【0030】
また、車両1の進行方向における前端には、進行方向状態検出手段として、前方に向けて設けられたレーダー60が配設されている。このレーダー60は、車両1に進行に向けて電磁波を放射する放射部(図示省略)と、放射部から放射した電磁波が車両1の進行方向に位置する障害物で反射した場合において、その反射した電磁波を検出する検出部(図示省略)とを有している。レーダー60は、このように放射部から放射し、障害物で反射した電磁波を検出部で検出することにより、車両1の進行方向の状態を検出可能に設けられている。
【0031】
なお、進行方向状態検出手段はレーダー60以外のものでもよく、例えば、撮像した画像情報により車両1の進行方向の状態を検出可能なCCD(Charge Coupled Device)カメラでもよい。進行方向状態検出手段は、車両1の進行方向状態を検出可能なものであれば、その手段は問わない。
【0032】
これらのエンジン10、自動変速機15、ブレーキアクチュエータ45、アクセル開度センサ51、ブレーキストロークセンサ52、前輪前後力センサ55、後輪前後力センサ56、レーダー60は、車両1に搭載されると共に車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)70に接続されている。
【0033】
図2は、図1に示す自動車両制動装置の要部構成図である。ECU70には、処理部71、記憶部85及び入出力部86が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU70に接続されているエンジン10、自動変速機15、ブレーキアクチュエータ45、アクセル開度センサ51、ブレーキストロークセンサ52、前輪前後力センサ55、後輪前後力センサ56、レーダー60は、入出力部86に接続されており、入出力部86は、これらの前輪前後力センサ55等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部85には、自動車両制動装置2を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部85は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0034】
また、処理部71は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも、アクセル開度センサ51での検出結果よりアクセル開度を取得可能なアクセル操作取得手段であるアクセル開度取得部72と、ブレーキストロークセンサ52での検出結果よりブレーキペダル22のストローク量を取得可能な制動操作取得手段であるブレーキストローク量取得部73と、エンジン10の運転状態を制御可能なエンジン制御手段であるエンジン制御部74と、レーダー60での検出結果に基づいて自車の前方を走行する車両との車間距離を適切な車間距離にする制御を行う共に、前方を走行する車両との車間距離を適切な車間距離にするための目標となる制動力である目標制動力を導出することが可能な車間距離制御手段である車間距離制御部75と、を有している。
【0035】
さらに、処理部71は、ディスクブレーキ及びドラムブレーキによって車輪5を制動する際にディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に付与する油圧を車両1の運転者による制動操作とは独立して制御する自動制動制御を行うと共に、制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は前輪前後力センサ55による制動力の検出結果のみで油圧のフィードバック制御を行う自動制動制御手段である自動制動制御部76と、また、自動制動制御部76は、車間距離制御部75で導出した目標制動力を少なくとも前輪前後力センサ55による制動力の検出結果に基づいて補正する制動力補正手段である制動力補正部77と、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35で目標制動力を発生させるのに必要となる付与力である油圧を導出する目標付与力導出手段である目標油圧導出部78と、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に付与する付与力である油圧を制御する付与力制御手段である油圧制御部79と、を有している。
【0036】
ECU70によって制御される自動車両制動装置2の制御は、例えば、前輪前後力センサ55等による検出結果に基づいて、処理部71が上記コンピュータプログラムを当該処理部71に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてブレーキアクチュエータ45等を作動させることにより制御する。その際に処理部71は、適宜記憶部85へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように自動車両制動装置2を制御する場合には、上記コンピュータプログラムの代わりに、ECU70とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
【0037】
この実施例1に係る自動車両制動装置2は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、エンジン10を運転させてエンジン10の動力を駆動輪である後輪7に伝達することにより走行する。詳しくは、エンジン10の運転中は、エンジン10が有するクランクシャフト(図示省略)の回転が自動変速機15に伝達され、自動変速機15で車両1の走行状態に適した変速比で変速される。自動変速機15で変速された回転は、プロペラシャフト16、デファレンシャルギヤ17、ドライブシャフト18を介して後輪7に伝達される。これにより、駆動輪である後輪7は回転し、車両1は走行する。
【0038】
また、エンジン10の回転が後輪7に伝達されることにより走行をする車両1の車速は、アクセルペダル21を足で操作し、エンジン10の回転数や出力を調整することにより調整する。アクセルペダル21を操作した場合には、アクセルペダル21のストローク量、即ちアクセル開度が、アクセルペダル21の近傍に設けられるアクセル開度センサ51によって検出される。アクセル開度センサ51による検出結果は、ECU70の処理部71が有するアクセル開度取得部72に伝達されてアクセル開度取得部72で取得し、さらに、取得したアクセル開度が、ECU70の処理部71が有するエンジン制御部74に伝達される。エンジン制御部74は、アクセル開度取得部72で取得したアクセル開度や、その他のセンサによる検出結果に基づいて、エンジン10を制御する。
【0039】
また、車両1の走行中に、アクセルペダル21を戻すことによる速度の低下以上の低下速度で車速を低下させる場合には、ブレーキペダル22を踏むことによってブレーキをかける。このように、ブレーキペダル22を踏んで制動操作する場合には、ブレーキペダル22のストローク量が、ブレーキペダル22の近傍に設けられるブレーキストロークセンサ52によって検出される。ブレーキストロークセンサ52による検出結果は、ECU70の処理部71が有するブレーキストローク量取得部73で取得する。
【0040】
ブレーキストローク量取得部73で取得したブレーキペダル22のストローク量は、ECU70の処理部71が有する油圧制御部79に伝達され、油圧制御部79は、ブレーキストローク量取得部73から伝達されたストローク量に応じた大きさの電流をブレーキアクチュエータ45に与える。ブレーキアクチュエータ45は、この電流に応じて作動し、油圧を発生する。これにより、油圧制御部79は、ブレーキストローク量取得部73で取得したブレーキペダル22のストローク量に応じた油圧を、ブレーキアクチュエータ45で発生させる。
【0041】
ブレーキアクチュエータ45で発生させた油圧は、ブレーキアクチュエータ45とディスクブレーキ31との間、及びブレーキアクチュエータ45とドラムブレーキ35との間に設けられる油圧経路40を介してディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に伝達され、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とに付与される。ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35は、付与された油圧により作動する。詳しくは、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35に付与される油圧は、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32及びドラムブレーキ35のホイールシリンダ36に付与され、これらのホイールシリンダ32、36が、油圧により作動する。これらのホイールシリンダ32、36が作動した場合、ホイールシリンダ32、36は、当該ホイールシリンダ32、36と組みになって設けられ、且つ、車輪5の回転時に車輪5と一体となって回転するブレーキディスク34やブレーキドラム38の回転速度を低下させる。
【0042】
つまり、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32は、油圧が付与されて作動することによりブレーキパッド33に対してブレーキディスク34の両側からブレーキディスク34を挟み込む押圧力を付与する。これにより、ブレーキディスク34は、ブレーキパッド33との摩擦抵抗により回転速度が低下する。また、ドラムブレーキ35のホイールシリンダ36は、油圧が付与されて作動することによりブレーキシュー37に対してブレーキドラム38の内側からブレーキドラム38を押え付ける押圧力を付与する。これにより、ブレーキドラム38は、ブレーキシュー37との摩擦抵抗により回転速度が低下する。
【0043】
これらのように、ディスクブレーキ31のホイールシリンダ32及びドラムブレーキ35のホイールシリンダ36が油圧によって作動した場合は、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35には制動力が発生するため、ブレーキディスク34やブレーキドラム38の回転速度が低下する。これにより、車輪5の回転速度も低下する。即ち、ディスクブレーキ31に制動力が発生した場合には、ブレーキディスク34の回転速度が低下するため、ブレーキディスク34と一体となって回転をする前輪6の回転速度も低下する。また、ドラムブレーキ35に制動力が発生した場合には、ブレーキドラム38の回転速度が低下するため、ブレーキドラム38と一体となって回転をする後輪7の回転速度も低下する。これにより、車輪5に制動力が発生し、車両1の速度が低下する。従って、ブレーキペダル22を制動操作することにより、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35にはブレーキディスク34やブレーキドラム38の回転速度を低下させる力である制動力が発生し、この制動力によって車輪5の回転速度が低下するので、走行中の車両1を制動することができる。
【0044】
また、実施例1に係る自動車両制動装置2を備える車両1は、ACC(Adaptive Cruise Control)制御が可能になっており、例えば、自車の前方を走行する車両1に対して一定の車間距離で追従したり、前方の車両1との距離が近い場合には、自動的に制動する自動制動制御を行ったりする。ACC制御を行う場合には、車両1の前端に設けられるレーダー60によって自車の前方の車両との車間距離を検出し、検出した距離に基づいて制御する。
【0045】
図3は、図1に示す自動車両制動装置の要部を示すブロック図であり、自動制動制御による制動初期の制御の説明図である。車両1の走行中に運転者の制動操作により制動する場合には、上述したようにブレーキペダル22を操作することにより制動するが、ACC制御時における自動制動制御は、レーダー60による検出結果に基づいて、ECU70の処理部71が有する自動制動制御部76で行う。自動制動制御部76で自動制動制御を行う際には、まず、レーダー60によって自車の先方を走行する車両1との車間距離を検出する。レーダー60で検出した車間距離は、ECU70の処理部71が有する車間距離制御部75に伝達される。車間距離制御部75では、レーダー60により検出された車間距離より、車間距離に応じた目標制動力を導出する。即ち、レーダー60から伝達された車間距離が、所定の車間距離以下の場合には、車間距離を大きくするために必要となる目標の制動力である目標制動力を導出する。
【0046】
なお、この判断に用いる所定の車間距離は、車速ごとに予め設定されてECU70の記憶部85に記憶されている。また、目標制動力も同様に、車間距離と車速とに対する目標制動力がマップとして予め設定され、記憶部85に記憶されている。
【0047】
車間距離制御部75で導出した目標制動力はECU70の処理部71が有する自動制動制御部76に伝達される。詳しくは、目標制動力は、自動制動制御部76が有する制動力補正部77に伝達される。制動力補正部77は、自動制動制御による制動初期では、車間距離制御部75から伝達された目標制動力を、前輪前後力センサ55で検出した前輪6の実際の制動力である前輪実制動力によって補正するが、自動制動制御開始直後で、前輪前後力センサ55が前輪実制動力を検出する前は、制動力補正部77は車間距離制御部75から伝達された目標制動力を、そのまま自動制動制御部76が有する目標油圧導出部78に伝達する。
【0048】
目標制動力が伝達された目標油圧導出部78は、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35によって目標制動力を発生させるのに必要となる油圧、即ち、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に付与することにより目標制動力を発生させることのできる油圧である目標油圧を導出する。目標油圧導出部78による目標油圧の導出は、制動力と油圧との関係からなるブレーキ逆モデル(図示省略)が予めECU70の記憶部85に記憶されており、制動力補正部77から伝達された目標制動力と記憶部85に記憶されたブレーキ逆モデルとより、目標制動力に対する油圧を導出する。これが目標油圧になる。目標油圧導出部78で導出した目標油圧は、自動制動制御部76が有する油圧制御部79に伝達される。
【0049】
目標油圧が伝達された油圧制御部79は、目標油圧を発生させることのできる作動量でブレーキアクチュエータ45を作動させることのできる大きさの電流を導出し、ブレーキアクチュエータ45に与える。油圧制御部79から電流が与えられたブレーキアクチュエータ45は、この電流によって作動し、油圧を発生する。この油圧は、目標油圧とほぼ同じ大きさの油圧となっている。
【0050】
ブレーキアクチュエータ45で発生した油圧は、油圧経路40を介してディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に伝達されて付与される。ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35は、この油圧により作動し、制動力を発生する。このうち、ディスクブレーキ31で発生した制動力は、前輪6の制動力として用いられ、ドラムブレーキ35で発生した制動力は、後輪7の制動力として用いられる。これらの制動力により、車輪5の回転速度は低下し、車両1には制動力に応じた減速度が生じる。
【0051】
また、自動制動制御による制動初期、具体的には、制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は、これらの前輪6と後輪7との制動力のうち、前輪6の実際の制動力である前輪実制動力が、前輪前後力センサ55によって検出され、制動力補正部77に伝達される。つまり、前輪6と後輪7との制動力のうち、前輪6の制動力のみがフィードバックされる。
【0052】
前輪前後力センサ55から前輪実制動力が伝達された制動力補正部77は、車間距離制御部75から伝達された目標制動力を、前輪実制動力に基づいて補正する。制動力補正部77で目標制動力を補正する場合には、まず、車両1全体の制動力に対する前輪6の制動力の割合の係数を乗じて、目標制動力のうち前輪6で分担する目標制動力である前輪目標制動力を算出する。前輪目標制動力を算出した後は、算出した前輪目標制動力と、前輪前後力センサ55から伝達された前輪実制動力との差に基づいてフィードバック量を算出する。このように算出したフィードバック量を、車間距離制御部75から伝達された目標制動力に加えて目標制動力を調整することにより、4輪の制動力を、擬似的に調整して補正する。
【0053】
なお、前輪実制動力に基づいて目標制動力を補正する場合は、前輪6の左右2輪の制動力をまとめた前輪実制動力に基づいてフィードバック補正をしてもよく、または、左右それぞれの前輪6の前輪実制動力に基づいてフィードバック補正をしてもよい。これは、後述する後輪実制動力に基づいて目標制動力をフィードバック補正する場合も同様である。
【0054】
このように、制動力補正部77で補正した目標制動力は、目標油圧導出部78に伝達され、目標油圧導出部78で、補正後の目標制動力に基づいて目標油圧を導出する。即ち、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35に付与することによって補正後の目標制動力を発生させることのできる目標油圧を導出する。
【0055】
油圧制御部79は、目標油圧導出部78から目標油圧が伝達されることにより、この目標油圧を発生させることのできる大きさの電流を導出してブレーキアクチュエータ45に与える。ブレーキアクチュエータ45は、この電流によって作動することにより、油圧を発生する。ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35は、この油圧が付与されることにより作動し、前輪6と後輪7とは、制動力を発生する。これにより発生した制動力は、前輪実制動力がフィードバックされた制動力になっている。即ち、自動制動制御による制動初期では、前輪6の実際の制動力のみをフィードバックするフィードバック制御によって制御する。
【0056】
図4は、図1に示す自動車両制動装置の要部を示すブロック図であり、自動制動制御を所定期間行った場合における制御の説明図である。自動制動制御を行う際に、制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は、このように前輪6の実際の制動力のみをフィードバックして制御するが、この期間の経過後は、後輪7の実際の制動力もフィードバックして制御をする。つまり、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間の経過後は、後輪7の実際の制動力である後輪実制動力を後輪前後力センサ56によって検出し、制動力補正部77に伝達する。即ち、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間の経過後は、前輪6と後輪7との双方の制動力をフィードバックする。
【0057】
前輪前後力センサ55及び後輪前後力センサ56から前輪実制動力と後輪実制動力とが伝達された制動力補正部77は、車間距離制御部75から伝達された目標制動力を、前輪実制動力及び後輪実制動力に基づいて補正する。制動力補正部77で目標制動力を補正する場合には、まず、車両1全体の制動力に対する前輪6の制動力の割合の係数、または後輪7の制動力の割合の係数を乗じて、目標制動力のうち前輪6で分担する目標制動力である前輪目標制動力と、後輪7で分担する目標制動力である後輪目標制動力とを算出する。
【0058】
前輪目標制動力と後輪目標制動力とを算出した後は、これらの目標制動力と、前輪前後力センサ55及び後輪前後力センサ56から伝達された前輪実制動力や後輪実制動力との差に基づいてフィードバック量を算出する。即ち、前輪目標制動力と前輪実制動力との差に基づくフィードバック量と、後輪目標制動力と後輪実制動力との差に基づくフィードバック量とを、それぞれ算出する。このように算出したフィードバック量を、車間距離制御部75から伝達された目標制動力に加えて目標制動力を調整することにより、4輪の制動力を調整して補正する。
【0059】
目標制動力を補正した後は、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間な場合と同様に、目標油圧導出部78で、補正後の目標制動力に基づいて目標油圧を導出する。さらに、油圧制御部79で、この目標油圧を発生させることのできる大きさの電流を導出し、この電流によってブレーキアクチュエータ45を作動させる。これにより、ブレーキアクチュエータ45は作動して油圧を発生し、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とが、この油圧によって作動することにより、前輪6と後輪7とは制動力を発生する。これにより発生した制動力は、前輪実制動力と後輪実制動力とがフィードバックされた制動力になっている。このように、自動制動制御の制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間の経過後には、前輪6の実際の制動力と後輪7の実際の制動力とをフィードバックするフィードバック制御によって制御する。
【0060】
なお、自動制動制御の制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間が経過したか否かの判断は、一定の時間であってもよく、車速やブレーキアクチュエータ45で発生させる油圧に対する時間を予め設定してマップを作成してECU70の記憶部85に記憶させておき、このマップを参照することにより、不安定な期間が経過したか否かを判断してもよい。または、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間でも後輪前後力センサ56で後輪実制動力を検出し続け、検出結果が安定しているか否かを判定することにより、不安定な期間が経過したか否かを判断してもよい。
【0061】
以上の自動車両制動装置2は、前輪前後力センサ55で前輪6の実際の制動力である前輪実制動力を検出し、自動制動制御部76で自動制動制御を行う際にドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は、前輪前後力センサ55による検出結果のみで制動力のフィードバック制御を行っている。これにより、制動力が不安定な期間におけるドラムブレーキ35の制動力、即ち、この期間における後輪実制動力は、ディスクブレーキ31及びドラムブレーキ35の油圧の制御には反映されないため、不安定な制動力がフィードバックされることに起因して油圧が不安定になり、制動力がさらに不安定になってハンチングが発生することを抑制できる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる。
【0062】
また、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とは油圧の制御が独立していないので、自動制動制御を行う際に、容易に油圧を制御することができる。つまり、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間に前輪前後力センサ55による検出結果のみでフィードバック制御を行う場合でも、1つのフィードバック量でディスクブレーキ31の油圧とドラムブレーキ35の油圧との双方をフィードバック制御することができる。これにより、自動制動制御をフィードバック制御で行う際に、容易にブレーキアクチュエータ45で発生させる油圧を制御することができる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を容易に図ることができる。
【0063】
また、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間の経過後は、後輪前後力センサ56による制動力の検出結果も用いて油圧のフィードバック制御を行っているので、より適切に油圧の制御を行うことができる。つまり、自動制動制御時におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間の経過後は、前輪実制動力をフィードバックすることを介してディスクブレーキ31による制動力をフィードバックするのみでなく、後輪実制動力をフィードバックすることを介してドラムブレーキ35による制動力もフィードバックしている。これにより、実際の制動力が目標制動力になるように制動制御を行う際に、より確実に実際の制動力を目標制動力に近付けることができる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図りつつ、所望の制動力で自動制動での制動制御を行うことができる。
【0064】
また、ディスクブレーキ31により制動される車輪5であるディスク側車輪は前輪6として用いられており、ドラムブレーキ35により制動される車輪5であるドラム側車輪は後輪7として用いられているため、制動初期における制動力を、目標となる制動力に近付けることができる。つまり、車両1の制動時には後輪7よりも前輪6に大きな荷重が作用するため、前輪6の制動力は後輪7の制動力よりも大きくすることができる。このため、車両1全体の制動力における後輪7の制動力の割合は、前輪6の制動力の割合と比較して小さくなっている。従って、後輪7の制動力は車両1全体の制動力に対する影響が小さいので、制動初期にはディスク側車輪である前輪6の制動力のみをフィードバックしてドラム側車輪である後輪7の制動力はフィードバックしない場合でも、車両1全体の制動力を、目標制動力に近付けることができる。この結果、自動制動時の制動初期における制動の安定性を図りつつ、制動初期における制動力を、より所望の制動力に近い制動力にすることができる。
【実施例2】
【0065】
実施例2に係る自動車両制動装置100は、実施例1に係る自動車両制動装置2と略同様の構成であるが、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とで独立して油圧の制御を行う点に特徴がある。他の構成は実施例1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。図5は、本発明の実施例2に係る自動車両制動装置が設けられた車両の概略図である。実施例2に係る自動車両制動装置100は、実施例1に自動車両制動装置2と同様に、前輪6はディスクブレーキ31により制動可能に設けられており、後輪7はドラムブレーキ35により制動可能に設けられている。また、ディスクブレーキ31やドラムブレーキ35を作動させる油圧を発生するブレーキアクチュエータは、ディスクブレーキ31用とドラムブレーキ35用とが設けられており、ディスクブレーキ31用のブレーキアクチュエータは前輪用ブレーキアクチュエータ105となっており、ドラムブレーキ35用のブレーキアクチュエータは後輪用ブレーキアクチュエータ106になっている。
【0066】
これらの前輪用ブレーキアクチュエータ105と後輪用ブレーキアクチュエータ106とは、共にECU110に接続されており、前輪用ブレーキアクチュエータ105で発生させる油圧を制御することによりディスクブレーキ31の制動力を制御することができ、後輪用ブレーキアクチュエータ106で発生させる油圧を制御することによりドラムブレーキ35の制動力を制御することができる。これにより、実施例2に係る自動車両制動装置100では、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とは、独立して油圧の制御が可能に設けられている。
【0067】
図6は、図5に示す自動車両制動装置の要部構成図である。実施例2に係る自動車両制動装置100が有するECU110は、実施例1に係る自動車両制動装置2が有するECU70と同様に、処理部71と記憶部85と入出力部86とを有している。また、このECU110の処理部71には、実施例1に係る自動車両制動装置2が有するECU70と同様に、アクセル開度取得部72と、ブレーキストローク量取得部73と、エンジン制御部74と、車間距離制御部75、自動制動制御部115とが設けられている。
【0068】
さらに、このECU110の処理部71が有する自動制動制御部115は、車間距離制御部75で導出した目標制動力を前輪前後力センサ55による制動力の検出結果に基づいて補正するディスク側車輪用制動力補正手段である前輪制動力補正部121と、車間距離制御部75で導出した目標制動力を後輪前後力センサ56による制動力の検出結果に基づいて補正するドラム側車輪用制動力補正手段である後輪制動力補正部122と、ディスクブレーキ31で目標制動力を発生させるのに必要となる付与力である油圧を導出するディスク側車輪用目標付与力導出手段である前輪目標油圧導出部125と、ドラムブレーキ35で目標制動力を発生させるのに必要となる付与力である油圧を導出するドラム側車輪用目標付与力導出手段である後輪目標油圧導出部126と、ディスクブレーキ31に付与する付与力である油圧を制御するディスク側車輪用付与力制御手段である前輪油圧制御部131と、ドラムブレーキ35に付与する付与力である油圧を制御する付与力制御手段であるドラム側車輪用付与力制御手段である後輪油圧制御部132と、を有している。
【0069】
この実施例2に係る自動車両制動装置100は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。図7は、実施例2に係る自動車両制動装置で自動制動制御を行う場合における制動初期の制御の説明図である。ACC制御時に自動制動制御を行う場合には、レーダー60によって検出した車間距離より、車間距離に応じた目標制動力を車間距離制御部75で導出する。車間距離制御部75で導出した目標制動力は、自動制動制御部115が有する前輪制動力補正部121と後輪制動力補正部122とに伝達される。このうち前輪制動力補正部121は、車両1全体の制動力に対する前輪6の制動力の割合の係数である前輪係数を乗じて、目標制動力のうち前輪6で分担する目標制動力である前輪目標制動力を算出する。同様に、後輪制動力補正部122は、車両1全体の制動力に対する後輪7の制動力の割合の係数である後輪係数を乗じて、目標制動力のうち後輪7で分担する目標制動力である後輪目標制動力を算出する。
【0070】
また、自動制動制御を行う際に、制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は、実施例1に係る自動車両制動装置2と同様に、前輪実制動力と後輪実制動力とのうち前輪実制動力のみを、前輪前後力センサ55によって検出して前輪制動力補正部121に伝達する。このように、前輪前後力センサ55から前輪実制動力が伝達された前輪制動力補正部121は、当該前輪制動力補正部121で算出した前輪目標制動力と、前輪前後力センサ55から伝達された前輪実制動力との差に基づいてフィードバック演算をする。これにより、前輪目標制動力を補正する。前輪制動力補正部121によって補正をした前輪目標制動力は、自動制動制御部115が有する前輪目標油圧導出部125に伝達される。
【0071】
前輪目標油圧導出部125は、ディスクブレーキ31によって補正後の前輪目標制動力を発生させるのに必要となる油圧である前輪目標油圧を、前輪制動力補正部121から伝達された前輪目標制動力に基づいて導出する。前輪目標油圧導出部125で前輪目標油圧を導出する際には、予めECU110の記憶部85に記憶されたブレーキ逆モデルを用いて、前輪目標制動力に基づいて導出する。前輪目標油圧導出部125で導出した前輪目標油圧は、自動制動制御部115が有する前輪油圧制御部131に伝達される。
【0072】
前輪目標油圧が伝達された前輪油圧制御部131は、前輪目標油圧を発生させることのできる大きさの電流を導出して前輪用ブレーキアクチュエータ105に与える。前輪用ブレーキアクチュエータ105は、この電流によって作動することにより油圧を発生し、ディスクブレーキ31は、この油圧が付与されることにより作動する。これにより、前輪6は制動力を発生する。この前輪6の制動力は、前輪実制動力がフィードバックされた制動力になっている。
【0073】
このように、前輪6の制動力はフィードバック制御をするのに対し、後輪7は、自動制動制御の制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は、フィードバック制御をせずに制動力を制御する。つまり、後輪制動力補正部122で算出した後輪目標制動力は、フィードバック演算を行わずに、そのまま自動制動制御部115が有する後輪目標油圧導出部126に伝達される。
【0074】
後輪目標油圧導出部126は、ドラムブレーキ35によって後輪目標制動力を発生させるのに必要となる油圧である後輪目標油圧を、後輪制動力補正部122から伝達された後輪目標制動力に基づいて導出する。後輪目標油圧導出部126で後輪目標油圧を導出する際には、予めECU110の記憶部85に記憶されたブレーキ逆モデルを用いて、後輪目標制動力に基づいて導出する。後輪目標油圧導出部126で導出した後輪目標油圧は、自動制動制御部115が有する後輪油圧制御部132に伝達される。
【0075】
後輪目標油圧が伝達された後輪油圧制御部132は、後輪目標油圧を発生させることのできる大きさの電流を導出して後輪用ブレーキアクチュエータ106に与える。後輪用ブレーキアクチュエータ106は、この電流によって作動することにより油圧を発生し、ドラムブレーキ35は、この油圧が付与されることにより作動する。これにより、後輪7は制動力を発生する。このように、後輪7の制動力は、自動制動制御の制動初期では、フィードバック制御をせずに制御する。これらのように、実施例2に係る自動車両制動装置100では、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とを独立して制御し、車両1の制動時には、独立して制御するディスクブレーキ31とドラムブレーキ35との制動力に応じた減速度が車両1に生じる。
【0076】
図8は、実施例2に係る自動車両制動装置で自動制動制御を行う場合における所定期間経過後の制御の説明図である。実施例2に係る自動車両制動装置100は、実施例1に係る自動車両制動装置2と同様に、自動制動制御の制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間中と、この期間が経過した後とでは制動力の制御が異なっており、この期間の経過後は、後輪7の制動力もフィードバック制御する。つまり、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間の経過後は、後輪実制動力を後輪前後力センサ56によって検出し、後輪制動力補正部122に伝達する。
【0077】
後輪前後力センサ56から後輪実制動力が伝達された後輪制動力補正部122は、当該後輪制動力補正部122で算出した後輪目標制動力と、後輪前後力センサ56から伝達された後輪実制動力との差に基づいてフィードバック演算をする。これにより、後輪目標制動力を補正する。
【0078】
後輪制動力補正部122によって補正をした後輪目標制動力は、自動制動制御部115が有する後輪目標油圧導出部126に伝達され、後輪目標油圧導出部126は、ECU110の記憶部85に記憶されたブレーキ逆モデルを用いて、後輪目標制動力に基づいて後輪目標油圧を導出する。
【0079】
後輪目標油圧導出部126で導出した後輪目標油圧は、自動制動制御部115が有する後輪油圧制御部132に伝達され、後輪油圧制御部132は、後輪目標油圧を発生させることのできる大きさの電流を導出して後輪用ブレーキアクチュエータ106に与える。これにより、後輪用ブレーキアクチュエータ106は油圧を発生し、ドラムブレーキ35がこの油圧で作動することにより、後輪7は制動力を発生する。この後輪7の制動力は、後輪実制動力がフィードバックされた制動力になっている。
【0080】
このように、実施例2に係る自動車両制動装置100は、実施例1に係る自動車両制動装置2と同様に、自動制動制御の制動初期におけるドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間の経過後には、前輪6の実際の制動力と後輪7の実際の制動力とをフィードバックするフィードバック制御によって制御する。
【0081】
以上の自動車両制動装置100は、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とで独立して油圧の制御が可能に設けられているので、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間でも、ディスクブレーキ31はフィードバック制御によって制動制御を行うことができる。つまり、ディスクブレーキ31とドラムブレーキ35とで独立して油圧の制御を行うことにより、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間は、ディスクブレーキ31の制動力のみをフィードバック制御することができる。従って、ドラムブレーキ35の制動力が不安定な期間でも、ディスクブレーキ31の制動力を安定させることができ、前輪6の制動力を安定させることができる。この結果、より確実に自動制動時の制動初期における制動の安定性を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明に係る自動車両制動装置は、ディスクブレーキとドラムブレーキとの双方を用いる車両に有用であり、特に、自動制動制御を行う場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施例1に係る自動車両制動装置が設けられた車両の概略図である。
【図2】図1に示す自動車両制動装置の要部構成図である。
【図3】図1に示す自動車両制動装置の要部を示すブロック図であり、自動制動制御による制動初期の制御の説明図である。
【図4】図1に示す自動車両制動装置の要部を示すブロック図であり、自動制動制御を所定期間行った場合における制御の説明図である。
【図5】本発明の実施例2に係る自動車両制動装置が設けられた車両の概略図である。
【図6】図5に示す自動車両制動装置の要部構成図である。
【図7】実施例2に係る自動車両制動装置で自動制動制御を行う場合における制動初期の制御の説明図である。
【図8】実施例2に係る自動車両制動装置で自動制動制御を行う場合における所定期間経過後の制御の説明図である。
【符号の説明】
【0084】
1 車両
2、100 自動車両制動装置
5 車輪
6 前輪
7 後輪
10 エンジン
20 ハンドル
21 アクセルペダル
22 ブレーキペダル
30 ブレーキ
31 ディスクブレーキ
35 ドラムブレーキ
40 油圧経路
45 ブレーキアクチュエータ
51 アクセル開度センサ
52 ブレーキストロークセンサ
55 前輪前後力センサ
56 後輪前後力センサ
60 レーダー
70、110 ECU
71 処理部
72 アクセル開度取得部
73 ブレーキストローク量取得部
74 エンジン制御部
75 車間距離制御部
76、115 自動制動制御部
77 制動力補正部
78 目標油圧導出部
79 油圧制御部
85 記憶部
86 入出力部
105 前輪用ブレーキアクチュエータ
106 後輪用ブレーキアクチュエータ
121 前輪制動力補正部
122 後輪制動力補正部
125 前輪目標油圧導出部
126 後輪目標油圧導出部
131 前輪油圧制御部
132 後輪油圧制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が有する複数の車輪のうちディスクブレーキにより制動可能なディスク側車輪と、
複数の前記車輪のうちドラムブレーキにより制動可能なドラム側車輪と、
前記ディスク側車輪の制動力を検出可能なディスク側車輪制動力検出手段と、
前記ディスクブレーキ及び前記ドラムブレーキによって前記車輪を制動する際に前記ディスクブレーキ及び前記ドラムブレーキに付与する付与力を前記車両の運転者による制動操作とは独立して制御する自動制動制御を行うと共に、制動初期における前記ドラムブレーキの制動力が不安定な期間は前記ディスク側車輪制動力検出手段による前記制動力の検出結果のみで前記付与力のフィードバック制御を行う自動制動制御手段と、
を備えることを特徴とする自動車両制動装置。
【請求項2】
前記ディスクブレーキと前記ドラムブレーキとは前記付与力の制御が独立していないことを特徴とする請求項1に記載の自動車両制動装置。
【請求項3】
前記ディスクブレーキと前記ドラムブレーキとは独立して前記付与力の制御が可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動車両制動装置。
【請求項4】
さらに、前記ドラム側車輪の前記制動力を検出可能なドラム側車輪制動力検出手段を備えており、
前記自動制動制御手段は、前記ドラムブレーキの前記制動力が不安定な期間の経過後は、前記ディスク側車輪制動力検出手段による前記制動力の検出結果と前記ドラム側車輪制動力検出手段による前記制動力の検出結果とを共に用いて前記付与力のフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車両制動装置。
【請求項5】
前記ディスク側車輪は前記車両の前輪として設けられており、前記ドラム側車輪は前記車両の後輪として設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車両制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−76624(P2010−76624A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247789(P2008−247789)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】