説明

自動車始動キーと自動車の電子制御装置

【課題】 デジタル制御システムを利用して真正なキーを用いなければ自動車の運転ができないような安全性の高い自動車の電子制御装置とこれに用いるキー機構を提供する。
【解決手段】 自動車の電子制御プログラムを分割して形成された複数の分割電子情報の一部を自動車始動キー20に記憶し自動車始動キーに記憶したもの以外を車載記憶装置12に記憶させておいて、電子情報統合復元装置13により始動キー20から読み込んだ分割電子情報と車載記憶装置12から読み出した分割電子情報を合体して電子制御プログラムを復元し自動車を運転する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車の始動を制御するキーと電子制御装置に関し、特に正当な持ち主しか自動車を操作できないようにするための自動車始動用キーと自動車始動と走行を制御する電子制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車は固有のキーを備えていて、決められたキーを持たない他人が自動車を操作できないようにして盗難を防止している。しかし、従来の自動車始動キーはイグニッションスイッチを兼ねるもので、特定のキー溝に合致していればよいため、マスターキーや複製キーでも解錠することができる。また、イグニッションスイッチを兼ねるキー機構を用いる場合は、配線を直接繋いでも自動車を動かすことができる。
【0003】一方、近年は自動車に電子式コントロールユニットを用いたエンジン電子制御システムが使用されるようになってきた。自動車の電子制御システムは、燃料噴射装置や点火装置の制御ばかりでなく、アイドル回転数制御、電子式スロットル制御、電子制御式過給圧制御、アンチロックシステム、ブレーキシステム、トラクションコントロール、自動診断、さらに自動運転、自動料金支払い機能、インターネット接続による情報収集、GPSを用いたナビゲーション機能など他の機能を加えて、より総合的な電子制御システムへと発展してきている。
【0004】電子制御システムは、自動車の各所に設けられるセンサと、自動車の状態を操作するアクチュエータと、電子式コントロールユニット(ECU)とからなり、ECUは、センサからの出力を取り込む入力装置と、マイクロコンピュータと、出力駆動部から構成される。マイクロコンピュータは、制御シーケンスや論理を組み込んだプログラムを格納するROMと、制御に使用する点火特性マップなどを記録しておくEPROMと、随時更新されるデータを格納するRAMと、演算ユニットで構成される。今や、電子制御システムを使用する自動車は、制御システムが稼働しなければ自動車は全く動かない状態になっている。
【0005】このような電子式コントロールユニットが用いられる自動車では、電子制御による車両走行不能化装置(イモビライザ)が採用されたものもある。イモビライザーは、イグニッションスイッチをオフにした後に自動的に働いてスターターモーター回路や燃料供給回路やイグニッション回路など車両の運転に不可欠な装置の少なくとも1個を作動しなくなるようにするもので、正当な電子キーを挿入したりコードキーパッドから予め定めたコードを入力することにより装置を駆動する回路が稼働するようにしている。従来のイモビライザーは、自動車制御装置に完全な駆動回路を内蔵していてこの駆動回路の作動を制御するものであり、同じ方法で車両走行不能状態を解除する。したがって、たとえば暗号コードを盗み取れば他人でも容易に解除することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明が解決しようとする課題は、電子制御システムを利用して真正なキーを用いなければ自動車の運転ができないようにして、さらに安全性を高めた自動車の電子制御装置とこれに用いるキー機構を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明の自動車の電子制御装置は、電子制御プログラムを分割して形成された複数の分割電子情報の一部を自動車始動キーに記憶し残部を自動車に設けた電子制御装置に記憶させておいて両者を統合することにより始動させるようにした自動車において、自動車始動キーに記憶した分割電子情報を読み込む読込み装置と、自動車始動キーに記憶したもの以外の分割電子情報を記録する書き込み可能な車載記憶装置と、自動車始動キーから入力した分割電子情報と車載記憶装置に記憶した分割電子情報と合体して制御プログラムを復元する電子情報統合復元装置を備え、復元された制御プログラムにより自動車を運転することを特徴とする。
【0008】さらに、本発明の自動車の電子制御装置は、また、電子制御プログラムを分割して複数の分割電子情報を形成する電子割符装置と、自動車始動キーに分割電子情報を書き込むことができる書込み装置を備えて、自動車の運転を終了するときに、制御プログラムを複数の分割電子情報に分割して、書込み装置により分割電子情報の少なくとも1個を上記自動車始動キーに記憶させ、その余の分割電子情報を記憶装置に記憶させるようにしてもよい。
【0009】また、上記課題を解決するため、本発明の自動車始動キーは、電子制御プログラムを分割して形成される複数の分割電子情報の少なくとも1個を入力して記憶する読み出し可能な記憶装置を備えることを特徴とする。なお、認められた運転者のID、あるいは指紋や声紋等の生物学的特徴などを認証情報として分割記憶させても良い。また、自動車の運転データなどを加味しても良い。
【0010】本発明の自動車の電子制御装置では、車載記憶装置に記憶している制御プログラムには自動車始動キーに記憶された部分が欠けているため、自動車自体の記憶内容だけでは自動車の運転ができない。自動車始動キーに記録した電子情報を読み取って記憶装置に記録されていた電子情報と合体させて始めて自動車を動かすことができる。したがって、全く同じ電子情報を格納したキーを使用しないかぎり、暗号コードなどを盗用しても電子制御装置を動かすことはできない。また、たとえばイグニッションスイッチ周辺の配線を外部で接続したところで電子制御装置が稼働しないかぎり自動車を動かすことはできない。また、運転者の認証情報も利用すれば、さらに厳密に第三者の盗用を防止できる。
【0011】1個の電子制御プログラムを分割する方法はほぼ無限と言えるほど多様であるので、異なる自動車始動キーには異なる電子情報を格納するようにすることは極めて簡単である。しかも自動車の記憶装置にはキーに格納した部分以外の電子情報しか記憶させないようにすれば、自動車とキーは相互に補完する関係になるので両者は固有に対応づけられることになる。
【0012】さらに、運転終了毎に電子制御プログラムを改めて分割し直して、一部を始動キーの記憶装置内に格納し残りを自動車側の記憶装置に格納するようにすれば、毎時異なる自動車始動キーを作成することができる。したがって、たとえ第三者がキーの記憶内容を読み出して複製しておいても、持ち主が一旦自動車を運転した後では自動車側の記憶内容が変化するため、以前に複製したキーを使用することができない。
【0013】なお、本発明の自動車始動キーは、ICメモリカードの形態をしたものであってもよい。またキー内の記憶内容を読み出すことにより直ちに自動車を始動するのではなく、キーから読み取った電子情報を補填することにより制御プログラムを完成させた後に、キー操作あるいは別途スイッチ操作により始動するようにしてもよい。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の自動車始動キーおよび自動車の電子制御装置を実施例に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の自動車の電子制御装置の1実施例の構成を示すブロック図、図2は制御プログラムの分割配分方法の1例を説明するフロー図、図3は制御プログラムを統合復元する方法の1例を説明するフロー図である。
【0015】図1に見るように、本実施例の電子制御装置10は自動車30に搭載され、たとえば、自動車30の燃料噴射装置や点火装置の制御、アイドル回転数制御、電子式スロットル制御、電子制御式過給圧制御、アンチロックシステム、ブレーキシステム、トラクションコントロール、自動診断などを実行する総合的な電子制御装置である。
【0016】電子制御装置10は、自動車始動キー20に記憶された電子情報を読み込む読込み装置11、電子情報を記憶する書き込み可能な記憶装置(RAM)12、自動車始動キー20の電子情報とRAM12に格納された電子情報を統合して復元する電子情報統合復元装置13、復元した電子情報がもたらすコンピュータプログラム15を組み込んで自動車30を制御する自動車運転ユニット14、自動車の運転を終了したときにコンピュータプログラム15を分割して電子割符に変化させる電子割符装置16を備えている。
【0017】自動車始動キー20は、書き込み可能な記憶装置(RAM)21を内蔵したもので、たとえばICカードで形成することができる。RAM21には入出力端子22を介して自動車30の電子制御装置10に送り込むべき電子情報が記憶されている。また、自動車始動キー20は、入出力端子22を介して電子制御装置10から送り込まれる電子情報を記憶することができる。
【0018】図2は、自動車の運転を終了したときに、電子割符装置16により自動車始動キー20と電子制御装置10の間で制御プログラムを分配する手順を説明するフロー図である。図2に示すように、制御プログラム41は0と1を羅列した電子情報として表される。これを任意に指定された分割アルゴリズムCtに従って細分する。細分された電子情報エレメント42は、適当な位置で分断された2値化数の集合となる。電子情報エレメント毎の大きさは同じである必要はない。
【0019】さらに、任意に選定された分配アルゴリズムDsに従って、細分された電子情報エレメント42の一部43を選択して自動車始動キー20の側に分配し、残りの部分44を自動車30側に分配する。自動車始動キー20の側に分配された電子情報エレメント43は、任意に決められた配列アルゴリズムAr1に従って順序を入れ替え再配列し、キー保管用割符電子情報45として自動車始動キー20の記憶装置に格納される。自動車始動キー20は従来の形態のキーに記憶装置を内蔵させたものであってもよいが、ICカードであってもよい。
【0020】一方、自動車側に分配された電子情報エレメント44は、任意に決められた配列アルゴリズムAr2に従って順序を入れ替え再配列し、自動車保管用割符電子情報46として自動車30に搭載された電子制御装置の書き込み可能記憶装置12に記録される。同時に分配アルゴリズムCt、分配アルゴリズムDs、配列アルゴリズムAr1,Ar2を記憶装置12に記憶する。その後、元の電子制御プログラム41は電子制御装置10から削除される。
【0021】従来のイモビライザは、自動車内に制御アルゴリズムを完全な状態で保有するため、暗証番号など秘密化する手段さえ盗用することができれば、正しい制御アルゴリズムを利用して運転が可能になる。しかし、本実施例のシステムでは、自動車の運転を終了した後には、自動車30を運転するための制御アルゴリズムはその一部しか自動車30の内部に存在しない。したがって、自動車始動キー20を持たない他人が自動車を運転することできない。また、自動車始動キー20内の情報を読み出すことができても、それを意味のある部分毎に分割することも、それぞれの部分を制御アルゴリズムのどこに当て嵌めればよいかも知ることができない。
【0022】さらに、自動車の運転を終了するたびに電子情報を改めて割符化してキーと車両に分配するので、他人がキーから情報を盗んで複製しても、利用するまでに本人が自動車運転をすれば複製キーが役に立たず安全である。このように、本実施例のシステムは、従来の方式と比較すると、極めて高い安全性を確保することができる。
【0023】図3は、割符電子情報を統合して制御プログラムを復元する手順を示したものである。自動車始動キー20を読込み装置11にかけると、キー内の書き込み可能な記憶装置21に割符として記憶されていた電子情報エレメント45が読み出される。また、電子制御装置10内の記憶装置12から電子情報エレメント46を読み出す。
【0024】これら電子情報エレメントの情報は、電子割符から元の情報に復元する電子情報統合復元装置13に供給され、車載の記憶装置12に記録されていた分配アルゴリズムCt、分配アルゴリズムDs、配列アルゴリズムAr1,Ar2を逆作用させる統合アルゴリズムCmに基づいて、元の電子情報47まで復元される。復元された電子情報47に含まれる制御アルゴリズム15が電子制御ユニット14に納められて、自動車の制御が可能になる。
【0025】なお、統合アルゴリズムCmは、自動車の代わりにキー20の記憶装置に格納しておいても良い。また、両者に分配して保管しても良い。また、本実施例において電子割符化する対象となる制御プログラムは、電子制御装置における一部の機能を果たす部分的なものであってもよいことは言うまでもない。また、割符電子情報は、自動車運転終了毎に生成する代わりに、出荷時に予め固有に形成された分割情報であってもよい。このような固定された分割情報を利用する場合であっても、従来の方式と比較すれば十分な安全性が得られることは言うまでもない。
【0026】なお、本実施例では制御プログラムを表す電子情報を電子割符にして利用しているが、安全に対する要求度合いによっては、他の秘密保持方法を適用したものを分割しても良い。また原始状態のまま分割しても十分な場合もあることは言うまでもない。また、自動車始動キーとして、従来型のイグニッションキーに記憶装置と電子信号入出力装置を組み込んだものを用いても良い。この場合に、キー内の情報と車載記憶装置内の情報を統合して始めてイグニッションの始動ができるように構成されるべきことは言うまでもない。なお、自動車の動力は内燃機関であっても電気モータであっても良い。またこれらを混用したハイブリッド型であってもよい。また、ここでは自動車を対象として本発明の装置を説明したが、同じ技術的思想は、オートバイや鉄道車両などの陸上走行車両、船舶、飛行機などにも応用できることは言うまでもない。
【0027】
【発明の効果】以上詳細に説明した通り、本発明の自動車始動キーおよび自動車の電子制御装置によれば、キーの複製や暗号の盗用によっては自動車を運転することができないので、自動車の盗難を予防して安全に保管できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の自動車の電子制御装置の1実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施例における制御プログラムの分割配分方法の1例を説明する流れ図である。
【図3】本実施例における制御プログラムの統合復元方法の1例を説明する流れ図である。
【符号の説明】
10 電子制御装置
11 読込み装置
12 書き込み可能な記憶装置(RAM)
13 電子情報統合復元装置
14 エンジン運転ユニット
15 コンピュータプログラム
16 電子割符装置
20 自動車始動キー
21 書き込み可能な記憶装置(RAM)
22 入出力端子
30 自動車
41 制御プログラム
42 電子情報エレメント
43 キー保管用電子情報エレメント
44 車両保管用電子情報エレメント
45 キー保管用割符電子情報
46 車両保管用割符電子情報
47 復元された電子情報
Ar1,Ar2 配列アルゴリズム
Cm 統合アルゴリズム
Ct 分割アルゴリズム
Ds 分配アルゴリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】 自動車の電子制御プログラムを分割して形成された複数の分割電子情報の一部を自動車始動キーに記憶し残部を自動車に設けた電子制御装置に記憶させておいて両者を統合することにより運転する自動車において、前記自動車始動キーから該キーに記憶した分割電子情報を読み込む読込み装置と、該自動車始動キーに記憶させた分割電子情報以外の分割電子情報を記録する書き込み可能な車載記憶装置と、前記読込み装置により前記自動車始動キーから入力した分割電子情報と前記車載記憶装置に記憶した分割電子情報と合体して制御プログラムを復元する電子情報統合復元装置を備え、復元された制御プログラムに従って自動車を運転することを特徴とする自動車の電子制御装置。
【請求項2】 さらに、前記電子制御プログラムを分割して複数の分割電子情報を形成する電子割符装置と、前記自動車始動キーに分割電子情報を書き込むことができる書込み装置を備えて、前記自動車の運転を終了するときに、前記電子制御プログラムを複数の分割電子情報に分割して、前記書込み装置により該分割電子情報の少なくとも1個を自動車始動キーに備えるキー搭載記憶装置に記憶させ、その余の分割電子情報を前記車載記憶装置に記憶させることを特徴とする請求項2記載の自動車の電子制御装置。
【請求項3】 さらに、運転を認められる人の認識情報を分割電子情報に加えることを特徴とする請求項1または2記載の自動車の電子制御装置。
【請求項4】 自動車の電子制御プログラムを分割して形成される複数の分割電子情報の少なくとも1個を入力して記憶する書き込み可能なキー搭載記憶装置を備える自動車始動キー。
【請求項5】 さらに、運転を認められる人の認識情報を分割電子情報に加えることを特徴とする請求項4記載の自動車始動キー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−264765(P2002−264765A)
【公開日】平成14年9月18日(2002.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−71510(P2001−71510)
【出願日】平成13年3月14日(2001.3.14)
【出願人】(398035796)
【Fターム(参考)】