説明

自動車部材

【課題】既存プロセスで製造が可能であり、環境に配慮し、電着塗装膜厚が従来必要とされる膜厚の半分以下であっても、極めて優れた耐食性を有する自動車部材を提供する。
【解決手段】本発明は、金属材の少なくとも片面に、導電性粒子(α)及び防錆顔料(β)を含有する有機塗膜(A)を有し、この有機塗膜(A)の上層に、鉛を実質的に含まない電着塗料から形成される電着塗膜(B)を有することを特徴とする、自動車部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面部のみならず傷部、端面部、加工部の耐食性も極めて優れる自動車部材(交換用補修部材なども含む)に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部材は、鋼板等の金属材を素材とし、(i)ブランキング、(ii)プレス加工、(iii)組立て・接合、(iv)洗浄、(v)化成処理、(vi)電着塗装の工程を経て製造され、外面で使われる部材は、更に中・上塗り等の塗装が施されるのが一般的である。自動車部材の耐食性は、化成処理を施した後の電着塗装の被覆によって確保していることが多いが、袋状部品の内面の合わせ部や折り曲げヘム部等では、電着塗装の付きまわりが悪く、電着塗装の膜厚を十分に確保することが難しい。そのため、シーラー、アドヒーシブ、ワックス等の防錆副資材の適用によって、それらの耐食性を補っている。その他にも、腐食環境の厳しい自動車部材の耐食性を担保するために、防水シート等の様々な防錆副資材が用いられているのが現状である。これらの防錆副資材は、自動車製造コストの増加要因になっていることは言うまでもなく、生産性低下、車体重量増加の要因にもなっているため、これら副資材を削減しても耐食性が確保できる、もしくは電着塗装の膜厚が十分に得られなくても耐食性が確保できる自動車部材が強く望まれている。
【0003】
従来、自動車部材の防錆対策として、素材である金属材の耐食性を向上させる研究開発が盛んに行われてきた。例えば、特許文献1では、金属材表面に亜鉛(Zn)を含有した塗膜を形成する手法が開示されている。しかしながら、このようなZn含有塗膜は、プレス成形時に著しい塗膜剥離が生じ、塗膜が剥離した部分の耐食性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
このような塗装金属材に対して、特許文献2や特許文献3には、Zn等の導電顔料を含まない薄膜の塗膜を有した表面処理鋼板が開示されている。しかしながら、これらの薄膜の塗膜では大幅な耐食性の改善効果は認められず、電着塗装の膜厚確保、防錆副資材の適用前提で耐食性を確保していた。
【0005】
一方、最近では化成処理、電着塗装工程の省略を目的とした塗装金属材が開発されている。例えば、特許文献4、特許文献5では、導電顔料を含有する塗装金属材が開示されているが、電着塗装を省略できるまでの高い耐食性を担保することはできず、実用化には至っていない。
【0006】
ところで、昨今の環境対応の流れを受けて、特許文献6に開示されているような従来耐食性機能の高い防錆顔料として使用されていた鉛を実質的に含有しない無鉛性電着塗料が開発され、実用化されている。このように防錆能の高い鉛化合物を実質的に含まない電着塗装では、耐食性が十分に確保できない懸念がある。特に、防錆顔料に起因する傷部、端面部、加工部の耐食性や薄膜での耐食性が低下する懸念がある。
【0007】
【特許文献1】特開昭55−17508号公報
【特許文献2】特公平4−48348号公報
【特許文献3】特開平2−15177号公報
【特許文献4】特開平10−128906号公報
【特許文献5】特開2000−70842号公報
【特許文献6】特開2005−194390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記現状に鑑み、既存プロセスで製造が可能で、環境に配慮し、電着塗装膜厚が従来必要とされる膜厚の半分以下であっても、極めて優れた耐食性(平面部だけでなく、傷部、端面部、加工部も含む)を有する自動車部材を提供することを目的とするものである。すなわち、プレス加工、溶接による接合が可能な塗装金属材を素材とし、実質的に鉛を含まない電着塗料による塗装を薄膜で用いても極めて優れた耐食性を有する自動車部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主旨とするところは、
(1) 金属材の少なくとも片面に、導電性粒子(α)及び防錆顔料(β)を含有する有機塗膜(A)を有し、前記有機塗膜の上層に鉛を実質的に含まない電着塗料から形成される電着塗膜(B)を有することを特徴とする、自動車部材、
(2) 前記自動車部材の上層に更に一層以上の塗膜を有することを特徴とする、(1)に記載の自動車部材、
(3) 前記有機塗膜(A)の厚みをTとし、前記電着塗膜(B)の厚みをTとしたときに、T≧2μm、T≧3μm、T+T≧8μmを満足することを特徴とする、(1)もしくは(2)に記載の自動車部材、
(4) 前記電着塗膜(B)の膜厚Tの最小値が10μm以下であることを特徴とする、(1)から(3)のいずれかに記載の自動車部材、
(5) 前記導電性粒子(α)がフェロシリコンを含有することを特徴とする、(1)から(4)のいずれかに記載の自動車部材、
(6) 前記フェロシリコンに含まれるSiの含有量が70質量%以上であることを特徴とする、(5)に記載の自動車部材、
(7) 前記有機塗膜(A)に含まれる前記導電性粒子(α)の含有量が15〜60体積%であることを特徴とする、(1)から(6)のいずれかに記載の自動車部材、
(8) 前記防錆顔料(β)がクロムを含有しないことを特徴とする、(1)から(7)のいずれかに記載の自動車部材、
(9) 前記防錆顔料(β)がケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオンのうち1種以上を放出できる化合物を含むことを特徴とする、(1)から(8)のいずれかに記載の自動車部材、
(10) 前記有機塗膜(A)に含まれる前記防錆顔料(β)の含有量が2〜25体積%であることを特徴とする、(1)から(9)のいずれかに記載の自動車部材、
(11) 前記有機塗膜(A)中のバインダー成分がウレタン結合を含む樹脂を含有していることを特徴とする、(1)から(10)のいずれかに記載の自動車部材、
(12) 前記金属材が亜鉛系もしくはアルミニウム系めっき鋼板であることを特徴とする、(1)から(11)のいずれかに記載の自動車部材
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の自動車部材は、非常に耐食性に優れるため、腐食環境の厳しい部材や電着塗装の付き回り性の悪い部材への適用による信頼性の向上が期待できる。更に、自動車製造コストの増加、生産性低下、車体重量増加の要因となっている各種防錆副資材の削減が期待できる。加えて、既存プロセスでの製造も可能であり、更に、鉛を実質的に含まないので環境対応部材としても有望であり、自動車分野への寄与は非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、平面部のみならず傷部、端面部、加工部の耐食性も極めて優れる自動車部材(交換用補修部材なども含む)に関するものである。詳しくは、有機塗膜を有する金属材をプレス加工、接合した後に電着塗装し、場合によって更にその上層に中・上塗り等を塗装した耐食性に極めて優れる自動車部材を提供するものである。
【0012】
自動車部材の素材として用いる塗装金属材は、電着塗装される前にプレス成形、溶接による接合が施される。そのため、溶接ができるように有機塗膜中に導電性粒子を添加する必要がある。加えて、有機塗膜中に導電性粒子を添加し導電性を確保することで、有機塗膜の上層に電着塗膜を形成させることもできる。すなわち、導電性粒子は、溶接性や電着塗装性を確保するために添加が必須となる。ところが、導電性粒子の添加は有機塗膜を脆くするため、プレス成形の際に塗膜に割れや傷が生じ易くなり、そこが腐食の起点になって耐食性が低下する場合がある。また、切断端面部や溶接部に至っては、有機塗膜の被覆が得られないため、それらの箇所の防錆は非常に難しい。これらの防錆を担保するためには、自己補修機能を持つ防錆顔料を塗膜中に添加することが好適である。しかしながら、これらの防錆顔料は、導電性粒子を添加し脆くなった有機塗膜に適用しても、プレス成形の際に塗膜に割れや傷が生じるため、これらの塗膜欠陥部から防錆顔料中の有効成分が流れ出してしまい、その効果の持続性は期待できない。このため、導電性粒子を含有する有機塗膜に防錆顔料を添加しても加工部等においては導電性粒子だけが残存する事となるため、長期に渡る耐食性を確保することは困難である。
【0013】
一方、電着塗膜はプレス成形、溶接による接合の後に施されるため、切断端面部や溶接部もある程度電着塗膜で覆うことができる。電着塗膜中にも防錆顔料は含有しているが、その効果は大きくはない。そのため、主に塗膜のバリア性に頼って耐食性を担保している電着塗膜は、塗膜厚が確保できなければ、十分な耐食性は得られない。また、膜厚が十分であっても防錆顔料の自己補修機能が低いため、電着塗膜に傷等の欠陥部があると、その部分から急激に腐食が進行する。昨今の鉛フリー化によりその傾向は顕著である。
【0014】
そこで、本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討の結果、以下で説明するように、素材として用いる金属材に施す有機塗膜を自己補修機能重視の防錆塗膜に設計し、その上層にバリア性を有する電着塗膜を施すことで、その複合効果により優れた耐食性を確保できることを見出した。すなわち、自己補修機能を持つ有機塗膜で傷部、端面部、加工部の耐食性を担保し、その上層の電着塗膜でその機能を長期に渡って保持することが可能であることを見出し、平面部だけでなく、傷部、端面部、加工部も含む耐食性を長期に渡って保持することに成功した。
【0015】
これら、塗装金属材上の有機塗膜や電着塗膜をそれぞれ単層で使用する場合には上述した課題があるが、これらの塗膜を組み合わせることで非常に優れた耐食性を確保することができる。すなわち、自己補修機能を持つ防錆顔料を含有する有機塗膜を下層にし、バリア効果を有する電着塗膜を上層とすることで、下層塗膜中の防錆顔料の持続性が向上し、長期に渡る耐食性を確保することができる。加えて、プレス加工で生じた有機塗膜の欠損部にも電着塗膜が入り込んでその欠損部を修復してくれる効果、切断端面部や溶接部等の有機塗膜が覆っていない部分に電着塗膜が覆い、バリアしてくれる効果等の上層電着塗膜による下層有機塗膜の弱点を補う効果と、逆に電着塗膜の塗装欠陥部や塗装後に生じた傷部等を下地の有機塗膜中に含まれる防錆顔料が補修してくれる効果、等も期待できる。
【0016】
また、本願発明の電着塗膜は腐食因子に対するバリア効果よりも、下層有機塗膜の防錆顔料を保持する効果を主目的としているため、ある程度下地の有機塗膜を覆ってさえいれば、腐食因子に対するバリア効果が期待できない10μm以下の薄膜でも十分に長期に渡る耐食性を確保することができる。
【0017】
以下に、本発明の好適な実施の形態を、詳細に説明する。
【0018】
本発明の自動車部材は金属材の少なくとも片面に、導電性粒子(α)及び防錆顔料(β)を含有する有機塗膜(A)を有し、その上層に鉛を実質的に含まない電着塗料から形成される電着塗膜(B)を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の自動車部材の製造方法に特に制限はないが、前記有機塗膜(A)を少なくとも片面に有する金属材を素材とし、(i)ブランキング、(ii)プレス加工、(iii)組立て・接合、(iv)洗浄、(v)化成処理、(vi)電着塗装の工程を経て製造されることが一般的である。
【0020】
前記(v)化成処理工程は、金属材と電着塗膜との密着性を向上させることを目的として、金属材の表面に化成処理皮膜を形成させる工程である。本発明の自動車部材における金属材の表面に有機塗膜(A)を有する部位では、有機塗膜(A)の効果により、化成処理皮膜がなくても電着塗膜との良好な密着性を確保できる。したがって、有機塗膜(A)が金属材両面に塗装されている場合等は、化成処理工程を省略することができる。また、有機塗膜(A)を有する金属板が化成処理工程を経ても、有機塗膜(A)上には化成処理皮膜はほとんど付着しないが、仮に付着したとしても本発明の趣旨を損なうものではない。
【0021】
本発明に用いる金属材としては特に限定されるものではなく、例えば、鋼製、アルミニウム製、銅製、チタン製等の各種金属、または合金製の材料(板材、管材、線材、形材等、及び、それらを成形・接合したもの)や、それらに亜鉛、アルミニウム、ニッケル、クロム、銅、コバルト、シリコン、鉄、マグネシウム、カルシウム、マンガン等の任意の金属または合金によるめっきを施した金属材等を使用することができる。中でも本発明に用いる金属材として好適なものは、鋼板、めっき鋼板、アルミニウム板であり、より好適なものは亜鉛系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板である。
【0022】
亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板、さらにはこれらのめっき層に少量の異種金属元素または不純物としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものが含まれる。
アルミニウム系めっき鋼板としては、アルミニウムまたはアルミニウムとシリコン、亜鉛、マグネシウムの少なくとも1種とからなる合金、例えば、アルミニウム−シリコンめっき鋼板、アルミニウム−亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−シリコン−マグネシウムめっき鋼板等が挙げられる。更には以上のめっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄−リンめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきにも適用可能である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。
【0023】
本発明に用いる有機塗膜(A)は、導電性粒子(α)及び防錆顔料(β)を含有していれば特に限定されるものではないが、公知の有機樹脂をバインダー成分とし、そのバインダー中に公知の導電性粒子、防錆顔料を分散させたもの等を使用することができる。これらについては、後ほど詳述する。
【0024】
本発明に用いる電着塗膜(B)は、鉛(鉛化合物中の鉛も含む)を実質的に含有していない電着塗料から形成されるものであれば特に限定されるものではない。本明細書で実質的に含有していないということは、環境に悪影響を与えるような量で鉛を含まないことを意味し、具体的には、電着塗料中に含まれる鉛の量が10ppm以下であることをいう。
【0025】
電着塗膜は、一般的には水溶性あるいは水分散性の電着塗料を満たした塗料槽内に被塗装物を浸漬し、槽内に別に設けた電極との間に直流電圧を印加することで被塗装物表面に塗膜形成成分を析出させる塗装方式で形成される。すなわち、本発明における被塗装物は、導電性粒子(α)及び防錆顔料(β)を含有する有機塗膜(A)を少なくとも片面に有する金属板であり、その成形品や成形品が溶接等で接合された部材を含む。電着塗料には、塗膜形成成分が正に帯電したカチオン型電着塗料と負に帯電したアニオン型電着塗料とがあるが、本発明に用いる電着塗料としては、耐食性の観点からカチオン型電着塗料が好ましい。電着塗膜を形成するための基体樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂をポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド等で可塑変性し、アミノ化合物で分子中に多数のアミノ基を導入したポリアミン樹脂を酢酸等の低分子有機酸で中和して水に分散させたもの等が使用できるが、特に限定されるものではない。硬化剤には、トリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などのポリイソシアネートのアルコールブロック体が主に使用されるが、その使用形態は樹脂に組み込まれて使用される場合と単純に混合されて使用される場合があり、使用量は全樹脂固形分の20〜30%程度が一般的である。また、水溶性樹脂や界面活性剤などを基体樹脂や顔料の分散安定剤として使用することもでき、水溶性アルコールやケトン類の溶剤を、樹脂の分散安定化や電着塗装性の調整のために使用することもできる。触媒として、錫イオン、セリウムイオン、ビスマスイオン、銅イオン、亜鉛イオン等を使用することもできる。
【0026】
本発明に用いる電着塗膜(B)には、必要に応じて着色顔料、防錆顔料、体質顔料を含有させてもよい。例えば、カーボンブラックのような着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、及びシリカのような体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料、等を使用することができる。
【0027】
本発明の自動車部材は、電着塗装を施した後に、必要に応じて、更に一層以上の塗装をすることができる。例えば、自動車の外面側に要求される意匠性、耐久性、耐チッピング性等を満足するために、公知の中塗り、上塗り塗装を施すことも可能である。必要に応じて、更にその上層にクリアガード塗装を施すことも可能である。
【0028】
本発明の自動車部材の前記有機塗膜(A)、前記電着塗膜(B)が順次形成されている部位において、前記有機塗膜(A)の厚みをTとし、前記電着塗膜(B)の厚みをTとしたときに、Tを1μm以上確保することで、従来技術に対する耐食性向上効果が確認できるが、安定した効果を得るためには2μm以上とすることが好ましい。尚、耐食性の観点からは膜厚上限を規定する必要は無いが、安定した電着塗装性や、溶接性の確保、塗料コスト等の観点から10μm以下とすることが好ましい。また、Tについては2μm以上確保する事で従来技術に対する耐食性向上効果が確認できるが、安定した効果を得るためには3μm以上とすることが好ましい。尚、耐食性の観点からの膜厚上限は無いが、20μmを超えても性能向上の効果は期待できない事から、塗料コスト、電力コスト、生産性などの観点から20μm以下とすることが好ましい。ただし、電着塗膜の膜厚は、塗装対象物の形状、電極との距離、塗料の性状等により同一部材であっても大きくばらつくため、均一な膜厚を得ることや、局部的な付着量過多発生をなくすことは困難であり、また、膜厚が厚い事による性能への悪影響はないことから、必ずしも自動車部材全面の膜厚が20μm以下である必要は無く、また部分的な異常膜厚部の発生についても特に問題とはしない。
【0029】
より安定した耐食性を確保するためには、すべての部位が、T≧2μm、T≧3μm、T+T≧8μmを満足することが好ましい。Tが2μm未満、Tが3μm未満、T+Tが8μm未満であると、十分な耐食性が得られない可能性がある。より好ましい膜厚の下限条件はT≧3μm、T≧5μm、T+T≧10μmである。
【0030】
本発明の自動車部材は、前記有機塗膜(A)、前記電着塗膜(B)が順次形成されている部位において、前記電着塗膜(B)の最も薄い部分の膜厚Tが10μm以下であっても、従来の自動車部材同等以上の耐食性を確保することができる。現状、電着塗膜は、通常10〜25μm程度の厚みで使用されている。従来の自動車部材では、電着塗膜の厚みが10μmを下回ると耐食性が極端に低下するため、10μm以上を確保する必要があり、好ましくは20μm程度の厚みを確保する必要があった。そのため、電着塗装の付きまわりの悪い部位の電着塗膜厚を確保するために、部材全体の塗膜厚を上げる等の対策を講じ、生産性や経済性の低下を招いていた。本発明の自動車部材は、前記電着塗膜(B)の最も薄い部分の膜厚Tが10μm以下であっても、2μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であれば十分な耐食性が得られるため、本発明を電着塗膜の付きまわりの悪い部位を含む自動車部材に適用した場合、特に有効である。
【0031】
前記有機塗膜(A)、前記電着塗膜(B)の厚みは、各々の塗膜を有する金属材断面の観察や電磁膜厚計等の利用により測定できる。その他に、単位面積当りに付着した塗膜の質量を、塗膜の比重又は塗料の乾燥後比重で除算して算出してもよい。塗膜の付着質量は、塗装前後の質量差、塗装後の塗膜を剥離した前後の質量差、または、塗膜を蛍光X線分析して予め皮膜中の含有量が分かっている元素の存在量を測定する等、既存の手法から適切に選択すればよい。塗膜の比重又は塗料の乾燥後比重は、単離した塗膜の容積と質量を測定する、適量の塗料を容器に取り乾燥させた後の容積と質量を測定する、または、皮膜構成成分の配合量と各成分の既知の比重から計算する等、既存の手法から適切に選択すればよい。
【0032】
次に、本発明の導電性粒子(α)及び防錆顔料(β)を含有する有機塗膜(A)について、さらに詳細に述べる。また、有機塗膜(A)と金属材との間に下地処理を施す場合についても述べる。
【0033】
本発明の有機塗膜(A)には、塗膜を保持するためのバインダー成分が含まれる。そのバインダー成分に特に制限はないが、有機樹脂を使用することが好適である。有機樹脂に特に制限はないが、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ブチラール樹脂、エーテル樹脂、スルフォン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、イソシアネート樹脂等の樹脂、これらの共重合樹脂、これらの混合物、複合物等が例示できる。常温で硬化乾燥するもの、熱で硬化乾燥するもの、紫外線や電子線等のエネルギー線で硬化乾燥するもの、等の公知の技術から選択すれば良い。また、これらの樹脂を主成分とするフィルムをラミネートして、被覆金属板を製造することもできる。
【0034】
これらの中でも、特に、塗膜中にウレタン結合を含む樹脂が使用される場合に、耐食性、加工性、導電性が高いレベルで並立できる。これは、ウレタン結合を持つ樹脂が柔軟性に優れ、溶接用の電極によって圧力をかけられた場合に容易に変形して、導電性粒子同士の接触を特に確実にすること、柔軟性によって成形加工時の塗膜の割れや亀裂を防止しやすいこと、化学的に強固な結合であるため劣化に強いこと等の理由によると考えられる。加えて、塗膜中にウレタン結合を含む樹脂が使用される場合に、優れた上層の電着塗膜との密着性を担保することができる。
【0035】
本発明の導電性粒子(α)としては、特に制限がなく公知の物質を用いることができる。例えば、Zn、Ni、Fe、Al、Ag、Au、Cu、Mg、Cr、Sn、ステンレス鋼、Si等の金属、合金や半導体の粒子、リン化鉄、フェロシリコン、フェロマンガン等の鉄系化合物、NiO、ZnO等の酸化物系の粒子、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等のカーボン系粒子、等を例示することができる。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、塊状、フレーク状、球状、不定形、繊維状、ウィスカー状、鎖状等である。これらの導電性粒子は、単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
これらの導電性粒子の中でも、特に、フェロシリコンが好ましい。フェロシリコンは、導電性を持ち、また、それ自体に耐食性向上効果もある。すなわち、一般的に相反する導電性と耐食性とを同時に向上させることのできる導電性粒子であり、溶接性や電着塗装性を担保しながら耐食性を向上させるには極めて好適である。耐食性を向上する機構は十分に解明されていないが、塗膜下が腐食によってアルカリ環境となったときに溶解し、強固なシリカ被膜を形成して腐食を抑制するためと推定される。フェロシリコンにも、Siの含有量の異なる種類があるが、特にSi含有量が70質量%以上のフェロシリコン、例えば、Si含有率が75〜80質量%のJIS2号フェロシリコン等を導電性粒子として用いることで、溶接性や電着塗装性を確保できると同時に耐食性が向上する。
【0037】
本発明の有機塗膜(A)に含まれる導電性粒子(α)の含有量は、15〜60体積%であることが好ましい。15体積%未満であると十分な溶接性や電着塗装性が得られない可能性があり、60体積%を超えると、有機塗膜(A)が脆くなり長期に渡る耐食性が低下する可能性や上層の電着塗膜(B)との密着性が低下する可能性がある。導電性粒子(α)にフェロシリコンを含む場合、フェロシリコンとしての含有量も15〜60体積%であることが好ましい。15体積%未満であると十分な溶接性や電着塗装性が得られない可能性があり、60体積%を超えると、有機塗膜(A)が脆くなり長期に渡る耐食性が低下する可能性や上層の電着塗膜(B)との密着性が低下する可能性がある。
【0038】
本発明の防錆顔料(β)としては特に限定されないが、例えば、ストロンチウムクロメート、カルシウムクロメートのような6価クロム酸塩等、公知の防錆顔料を用いることができる。
【0039】
防錆顔料としてクロムを含む化合物の使用を回避したい場合は、ケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオンのうち、一種類以上を放出する防錆顔料等を使用することが好適である。これらの防錆顔料を用いた場合、電着塗装を施す際に有機塗膜(A)と形成される電着塗膜(B)との界面がアルカリ環境になり、一部溶解し、前記イオンを放出する。放出されたイオンは、形成される電着塗膜(B)にも取り込まれ、電着塗膜(B)の架橋剤、もしくは架橋剤の触媒として作用することが考えられる。したがって、これらの防錆顔料は、有機塗膜(A)の防錆顔料としての作用のみならず、電着塗膜(B)の架橋密度を上げ、バリア性を向上させる効果も併せ持つため、その相乗効果により優れた耐食性を発現すると考えられる。これらの防錆顔料は、各々単独でも優れた防錆効果、電着塗膜のバリア性向上効果を発揮するが、中でもリン酸イオン、バナジン酸イオンを同時に放出できる防錆顔料が、防錆効果の観点でより好ましい。有機塗膜中で放出されたケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオンは難溶性の塩や酸化物の被膜を形成し、腐食を抑制すると考えられる。リン酸イオン、バナジン酸イオンが共存することで特に優れた防錆効果を発揮する理由は明確ではないが、両者の共存被膜は各々単独よりも更に緻密で強固な被膜を形成することが優れた防錆効果を発揮する理由として推定される。
【0040】
ケイ酸イオンを放出する化合物としては、例えば、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等が挙げられる。
【0041】
リン酸イオンは、水溶液中において単独で存在することが少なく、種々の形態、例えば、縮合体として存在するが、そのような場合でも、本明細書中の「リン酸イオン」とは縮合リン酸イオンも含む概念と理解される。
【0042】
リン酸イオンを放出する化合物としては、オルトリン酸、縮合リン、種々の金属のオルトリン酸塩又は縮合リン酸塩、五酸化リン、リン酸塩鉱物、市販の複合リン酸塩顔料、又は、これらの混合物などが挙げられる。ここで言うオルトリン酸塩の中には、その一水素塩(HPO2−)の塩、二水素塩(HPO)も含むものとする。また、縮合リン酸塩の中にも水素塩を含むこととする。また、縮合リン酸塩には、メタリン酸塩も含み、通常のポリリン酸塩、ポリメタリン酸塩も含むものとする。リン化合物の具体例としては、リン酸塩鉱物、例えば、モネタイト、トルフィル石、ウィトロック石、ゼノタイム、スターコライト、ストルーブ石、ラン鉄鉱石や、市販の複合リン酸塩顔料、例えば、ポリリン酸シリカ等や、複合リン酸、例えば、ピロリン酸、メタリン酸や、複合リン酸塩、例えば、メタリン酸塩、テトラメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、酸性ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩や、あるいはこれらの混合物が挙げられる。リン酸塩を形成する金属種は特に限定的でなく、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他の典型元素の金属種又は遷移金属が挙げられる。好ましい金属種の例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉛、錫等が挙げられる。
【0043】
この他に、バナジル、チタニル、ジルコニル等、オキソカチオンも含まれる。特に好ましいのは、カルシウム、マグネシウムである。アルカリ金属の多量の使用は、好ましくない。アルカリ金属のリン酸塩を用いた場合、焼成生成物が水に溶解し過ぎる傾向にある。しかしながら、アルカリ金属のリン酸塩を用いた場合において、水への溶解性の制御を防錆剤製造時あるいはその他の時点で実施できれば、使用しても良い。そのような制御は、例えば、水への溶解性の防止のためのマトリックス材(特に、ガラス状物質)の使用、あるいはコーティング等種々の態様が挙げられる。
【0044】
バナジン酸イオンを放出する化合物としては、バナジウムの原子価が0、2、3、4又は5のいずれか1つの価数又は2種以上の価数を有する化合物であり、これらの酸化物、水酸化物、種々の金属の酸素酸塩、バナジル化合物、ハロゲン化物、硫酸塩、金属粉等が挙げられる。これらは、加熱時又は水の存在下で分解して、酸素と反応し高級化する。例えば、金属粉又は2価の化合物は、最終的に3、4、5価のいずれかの化合物に変化する。0価のもの、例えば、バナジウム金属粉は、上記の理由で使用可能であるが、酸化反応が不十分等の問題があるので、実用上好ましくない。5価のバナジウム化合物を1つの成分として含むのも好ましい。5価のバナジウム化合物は、バナジン酸イオンを有し、リン酸イオンと加熱反応し、ヘテロポリマーを作り易い。バナジウム化合物の具体例としては、バナジウム(II)化合物、例えば、酸化バナジウム(II)、水酸化バナジウム(II)、バナジウム(III)化合物、例えば、酸化バナジウム(III)、バナジウム(IV)化合物、例えば、酸化バナジウム(IV)、ハロゲン化バナジル等、バナジウム(V)化合物、例えば、酸化バナジウム(V)、バナジン酸塩、例えば、種々の金属のオルトバナジン酸塩、メタバナジン酸塩又はピロバナジン酸塩、ハロゲン化バナジル等、又はこれらの混合物が挙げられる。バナジン酸塩の金属種は、リン酸塩で示したものと同じ物が挙げられる。これは、バナジウムの酸化物と種々の金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩等とを600℃以上に焼成して作っても良い。この場合も、アルカリ金属は溶解性の故にあまり好ましくないが、リン酸塩において説明した適当な処理をして溶解性を制御すれば、これらの使用も差し支えない。また、ハロゲン化物、硫酸塩も同様である。
【0045】
配合するリン酸イオン源とバナジン酸イオン源との比は、PとVのモル比に換算して1:3〜100:1とするのが好ましい。バナジン酸イオン源の量が上記モル比で1:3を超える場合には、リン酸塩イオンによる防錆効果が低下し、バナジン酸イオン源の量が上記モル比で100:1よりも少ない場合には、バナジン酸イオンによるオキシダイザー機能が不十分であるため、好ましくない。
【0046】
これらの防錆顔料と一緒にさらにシリカを添加すると、耐食性がより一層向上する。シリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、凝集シリカ等が挙げられる。また、カルシウム沈着シリカを用いることもできる。
【0047】
すなわち、優れた耐食性を確保するためのより好ましい導電性粒子(α)、防錆顔料(β)の態様は、導電性粒子(α)にフェロシリコンを使用し、防錆顔料(β)にリン酸イオン、バナジン酸イオンを同時に放出できる化合物、及びシリカを共存させることである。
【0048】
防錆顔料(β)の含有量は、有機塗膜中に2〜25体積%であることが望ましい。好ましくは3〜20体積%である。2%未満であると、十分な耐食性が得られない可能性があり、25体積%を超えると、溶接性や加工性が低下する可能性や電着塗膜(B)の上層に中塗り、上塗り塗装を施した際の耐水密着性が低下する可能性がある。防錆顔料(β)にケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオンのうち、1種以上を放出できる化合物を含む場合にも、その含有量は該化合物合計で有機塗膜中に2〜25体積%であることが望ましい。2%未満であると、十分な耐食性が得られない可能性があり、25体積%を超えると、溶接性や加工性が低下する可能性や電着塗膜(B)の上層に中塗り、上塗り塗装を施した際の耐水密着性が低下する可能性がある。
【0049】
本発明の有機塗膜(A)を形成する方法は、公知の方法によることができる。例えば、バインダー成分に導電性粒子を混合した塗料を製造し、この塗料を塗布することによって製造できる。バインダー成分や含有成分によって、必要に応じて熱で溶剤などを揮発させたり、硬化させたり、あるいはエネルギー線で硬化する等、公知の方法で成膜することができる。塗布の方法は、公知の方法によることができ、例えば、ロールコーター、ローラー塗装、はけ塗り、カーテンコーター、ダイコーター、スライドコーター、静電塗布、スプレー塗布、浸漬塗布、エアナイフ塗布等が例示できる。塗料の形態も、粉体、固体、溶剤系、水系等、特に限定されるものではない。固体塗料に熱をかけて溶融して、ダイで押し出しながら被覆することも可能である。
【0050】
あるいは、導電性粒子を予めフィルム層中に練り混み、このフィルムをラミネートすることによっても、被覆金属板を製造することができる。ラミネートには、接着剤を使用してもよいし、フィルムを熱溶融して直接金属板にラミネートしても良い。
【0051】
本発明における有機塗膜(A)は、金属の少なくとも片面に形成されればよいが、両面に形成してもよい。片面に形成した場合、もう片面には、何らかの処理層や被覆層を形成してもよいし、金属面のままでも良い。
【0052】
本発明の金属板と有機塗膜(A)との密着性を向上したり、耐食性を向上したりする目的で、下地処理層を形成しても良い。下地処理層としては、公知の技術を使用することができ、例えば、リン酸塩系処理、3価クロム酸処理、クロメート処理、Zr系処理、Ti系処理、Mn系処理、Ni系処理、Co系処理、V系処理、カップリング剤(Si系、Ti系等)処理、有機物による処理等が例示できる。下地処理層は1層である必要はなく、例えば、リン酸亜鉛処理層を形成して、その上にシーリング処理をする、酸性Ni含有液による前調整後にクロメート処理を施す、等の複数の処理を組み合わせても良い。
【0053】
下地処理層を形成する前に、あるいは下地処理層を形成しない場合には被覆層を形成する前に、金属板表面を公知の方法で処理することができる。例えば、水や湯、脱脂液による脱脂、酸やアルカリによるエッチング、ぶらし等による機械的な研削、等の処理をすることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
(1)金属材
使用した金属材の種類を、表1に示す。金属材の基材には、板厚0.8mmの軟鋼板を使用した。
【0056】
【表1】

【0057】
(2)下地処理層
下地処理層の内容を、表2に示す。下地処理層を形成するための水性の処理液を所定の付着量になるようにバーコートし、到達板温度70℃の条件で乾燥させた。
【0058】
【表2】

【0059】
(3)有機塗膜
有機塗膜を構成する樹脂の内容を表3に、導電性粒子の内容を表4に、防錆顔料の内容を表5にそれぞれ示す。下地処理層を形成した金属材上に有機塗膜を形成するための溶剤系塗料を所定の乾燥膜厚になるようにバーコートし、到達板温度200℃の条件で焼付けた後、直ちに水冷した。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
(4)試料調整(その1)
上記(3)で作製した塗装金属材を以下の試験片に加工した。
試験片A:70×150mmサイズの平板(平面部、端面部調査用試験片)
試験片B:70×150mmサイズの平板(傷部調査用試験片)
試験片C:円筒カップ成形加工品(加工部調査用試験片)
試験片Cの円筒カップ成形はポンチ径50mmφ、ポンチ肩半径3mm、ダイス径50mmφ、ダイス肩半径3mm、絞り比1.8、しわ押さえ圧1トン、加工油(PG3080/日本工作油社製)塗布の条件で実施した。
【0064】
(5)洗浄
上記(4)で作製した試験片A、B、CをサーフクリーナーEC92(日本ペイント社製)の2質量%水溶液で40℃、2分間スプレー処理(脱脂)した後、水道水で30秒間スプレー処理(水洗)した。
【0065】
(6)化成処理
上記(5)で洗浄した試験片A、B、Cをサーフファイン5N−8(日本ペイント社製)の0.1質量%水溶液で40℃、30秒間スプレー処理(表面調整)し、続いてSD5350(日本ペイント社製)の6質量%水溶液で35℃、2分間スプレー処理(化成処理)した後、水道水で30秒間スプレー処理(水洗)した。
【0066】
(7)電着塗装
上記(6)の化成処理工程を経た試験片A、B、Cをパワーニクス110(日本ペイント社製、鉛を実質的に含まない塗料)を用いて所定の乾燥膜厚になるように電着塗装し、水道水で30秒間スプレー処理(水洗)した後、170℃で20分間加熱して焼付けを行った。
【0067】
(8)試料調整(その2)
上記(7)で電着塗装を施した試験片Aについては下半分にカッターナイフでクロスカットを入れた後、上下左右端面、裏面を塗装シールした(上半分は平面部、下半分は傷部調査用)。試験片Bについては、上下端面、裏面のみ塗装シールした(左右端面で端面部を調査)。試験片Cについては、端面、裏面を塗装シールした(成形品肩部、側面部で加工部を調査)。
【0068】
(9)中塗り・上塗り塗装
上記(7)で電着塗装を施した試験片について、OP−2(日本ペイント社製)を用いて乾燥膜厚35μmになるように、スプレー塗装し、140℃で20分間加熱して焼付けを行い、中塗り塗膜を形成した。次いで、中塗り塗膜上にOP−058(日本ペイント社製)を用いて乾燥膜厚35μmになるように、スプレー塗装し、140℃で20分間加熱して焼付けを行い、上塗り塗膜を形成した。
【0069】
(10)試料調整(その3)
上記(9)で中塗り・上塗り塗装を施した試験片Aについては下半分にカッターナイフでクロスカットを入れた後、上下左右端面、裏面を塗装シールした(上半分は平面部、下半分は傷部調査用)。試験片Bについては、上下端面、裏面のみ塗装シールした(左右端面で端面部を調査)。試験片Cについては、端面、裏面を塗装シールした(成形品肩部、側面部で加工部を調査)。
【0070】
上記(8)もしくは(10)で作製した試験片の内容を、表6に示す。各塗膜層の膜厚は、切断した試験片をエポキシ樹脂中に埋め込み、切断面を研磨した後、その切断面を光学顕微鏡で観察することにより実測した。上記(8)で作製した試験片については、下記に示す耐食性試験を実施し、上記(10)で作製した試験片については、下記に示す耐食性試験と耐水密着性試験(試験片Bのみ)を実施した。
【0071】
【表6】

【0072】
【表7】

【0073】
<耐食性試験>
塩水噴霧2時間、乾燥4時間、湿潤2時間の合計8時間を1サイクルとしたサイクル腐食試験を実施した。塩水噴霧の条件は、JIS Z 2371のとおりとした。乾燥条件は、温度60℃、湿度30%RH以下とし、湿潤条件は、温度50℃、湿度95%RH以上とした。平面部、クロスカット部(試験片A)、端面部(試験片B)、加工部(試験片C)の赤錆発生状況を、以下の評価基準により評価した。
【0074】
評点5:600サイクルで赤錆発生なし
評点4:450サイクルで赤錆発生なし
評点3:300サイクルで赤錆発生なし
評点2:150サイクルで赤錆発生なし
評点1:150サイクルで赤錆発生あり
【0075】
<耐水密着性>
40℃の純水に240時間浸漬した後、試験片Bの中央部にカッターナイフで2mm間隔の碁盤目(100個)を形成し、その面に粘着テープを貼り付けた後、そのテープを剥離して、剥離した塗膜の数を測定した。
【0076】
上記(8)で作製した有機塗膜(A)+電着塗膜(B)の性能調査結果を表7に示す。本発明の実施例は、いずれの試料形態においても評点3以上の優れた平面部、クロスカット部、端面部、加工部の耐食性を示した。また、実施例の構成によっては、評点4、5と、より良好な耐食性を示している。なお、No.42は、耐食性には優れるが防錆顔料にCrを含有している。
【0077】
一方、本発明の範囲を外れた比較例である、有機塗膜(A)に防錆顔料を含まないNo.51、有機塗膜(A)がないNo.52〜54、電着塗膜(B)がないNo.55、56は、いずれも評点2以下の耐食性が低下する試料形態がある。
【0078】
【表8】

【0079】
【表9】

【0080】
上記(10)で作製した有機塗膜(A)+電着塗膜(B)+中塗り、上塗り塗膜の性能調査結果を、表8に示す。本発明の実施例は、いずれの試料形態においても評点3以上の優れた平面部、クロスカット部、端面部、加工部の耐食性と剥離数1以下の優れた耐水密着性を示した。また、実施例の構成によっては、評点4、5と、より優れた耐食性を示し、剥離数0のより耐水密着性を示している。なお、No.42は、耐食性、耐水密着性には優れるが、防錆顔料にCrを含有している。
【0081】
一方、本発明の範囲を外れた比較例である、有機塗膜(A)に防錆顔料を含まないNo.51、有機塗膜(A)がないNo.52〜54、いずれも評点2以下の耐食性が低下する試料形態がある。また、電着塗膜(B)がないNo.55、56は、評点3以上の優れた平面部、クロスカット部、端面部、加工部の耐食性を有しているが、耐水密着性が悪い。
【0082】
【表10】

【0083】
【表11】

【0084】
(実施例2)
上記(1)〜(3)と同じ要領で有機塗膜(A)を両面に施した金属材を作製し、以下の試験片に加工した。
試験片D:袋状加工品(電着付きまわり不良部調査用試験片)
試験片Dの袋状加工品は、角筒成形加工品を2個作製し、各々の凸形状が上下になるように合わせ、フランジ部をレーザー溶接で接合することで作製した。袋状部品の上下に20mmφの電着孔を開けた。角筒成形はポンチサイズ65mm×115mm、ポンチ肩半径10mm、ダイス肩半径:5mm、成形速度:40spm、成形高さ:50mm、しわ押さえ圧:4トン、加工油(PG3080/日本工作油社製)塗布の条件でクランクプレス成形機を用いて実施した。
【0085】
次いで、上記(5)〜(7)と同じ要領で化成処理、電着塗装を施した。袋状加工品の外面部が所定の乾燥膜厚になるように電着塗装した。作製した試験片の内容を表9に示す。袋状加工品内面部における電着塗膜が外面部よりも薄い(電着塗膜のつきまわりが悪い)部位A、Bを切り出し、上記耐食性試験を実施した。この時の部位A、Bの実績膜厚は、表9に示した。耐食性試験結果を表10に示す。
【0086】
【表12】

【0087】
【表13】

【0088】
本発明の実施例は、電着塗装の付きまわりの悪い薄膜部位においても評点5の優れた耐食性を示した。一方、有機塗膜(A)がない比較例は、電着塗装の付きまわりの悪い薄膜部位において耐食性が低下していた。
【0089】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想定し得ることは明らかであり、それらについても当然に発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の少なくとも片面に、導電性粒子(α)及び防錆顔料(β)を含有する有機塗膜(A)を有し、
前記有機塗膜の上層に鉛を実質的に含まない電着塗料から形成される電着塗膜(B)を有することを特徴とする、自動車部材。
【請求項2】
前記自動車部材の上層に更に一層以上の塗膜を有することを特徴とする、請求項1に記載の自動車部材。
【請求項3】
前記有機塗膜(A)の厚みをTとし、前記電着塗膜(B)の厚みをTとしたときに、T≧2μm、T≧3μm、T+T≧8μmを満足することを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の自動車部材。
【請求項4】
前記電着塗膜(B)の膜厚Tの最小値が10μm以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の自動車部材。
【請求項5】
前記導電性粒子(α)がフェロシリコンを含有することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の自動車部材。
【請求項6】
前記フェロシリコンに含まれるSiの含有量が70質量%以上であることを特徴とする、請求項5に記載の自動車部材。
【請求項7】
前記有機塗膜(A)に含まれる前記導電性粒子(α)の含有量が15〜60体積%であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の自動車部材。
【請求項8】
前記防錆顔料(β)がクロムを含有しないことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の自動車部材。
【請求項9】
前記防錆顔料(β)がケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオンのうち1種以上を放出できる化合物を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の自動車部材。
【請求項10】
前記有機塗膜(A)に含まれる前記防錆顔料(β)の含有量が2〜25体積%であることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の自動車部材。
【請求項11】
前記有機塗膜(A)中のバインダー成分がウレタン結合を含む樹脂を含有していることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の自動車部材。
【請求項12】
前記金属材が亜鉛系めっき鋼板もしくはアルミニウム系めっき鋼板であることを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の自動車部材。


【公開番号】特開2010−75859(P2010−75859A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247771(P2008−247771)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】