説明

自己免疫性疾患および炎症性疾患を処置する方法

本発明は、自己免疫性疾患および/または炎症性障害の処置の方法を提供する。本発明は、炎症性障害の症状を処置するかまたは軽減する方法であって、この方法は、上記炎症性障害に罹患しているかまたは発症する危険のある被験体を同定する工程、およびこの被験体に抗CD3抗体を投与する工程を包含する。本発明は、CD3の発現または活性の調節が、臨床的ブドウ膜炎についてのラットモデルにおいては炎症の阻害をもたらし、そしてアテローム性動脈硬化症についてのマウスの臨床モデルにおいてはアテローム硬化症性プラークの減少をもたらすという発見に基づいている。従って、本発明は、体内組織における炎症を予防または阻害する方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、自己免疫性疾患および/または炎症性障害の処置のために免疫寛容および免疫応答の調節を誘導するための、CD3調節因子(例えば、抗CD3抗体)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
免疫系は、高度に複雑でかつ厳密に調節されており、この系の他の部分における欠陥を補い得る多くの代替経路を有する。しかし、免疫応答が疾患の原因になるかまたは活性化された場合にその他の望ましくない状態の原因になる場合がある。このような疾患または望ましくない状態とは、一般的に、例えば、自己免疫性疾患、移植後の移植片拒絶、無害な抗原に対するアレルギー、乾癬、慢性炎症性疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症)、および炎症である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの場合および不適切または望まれない免疫応答に関与するその他の場合において、免疫抑制に対する臨床上の必要性が存在する。
【0004】
従って、免疫関連疾患および/または免疫関連障害の処置において使用され得る組成物の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、CD3の発現または活性の調節が、臨床的ブドウ膜炎についてのラットモデルにおいては炎症の阻害をもたらし、そしてアテローム性動脈硬化症についてのマウスの臨床モデルにおいてはアテローム硬化症性プラークの減少をもたらすという発見に基づいている。従って、本発明は、体内組織における炎症を予防または阻害する方法を特徴とする。炎症性組織は、一般に、その組織の発赤、疼痛、および膨張によって特徴付けられる。ブドウ膜炎は、視力の低下、硝子体(眼の後部)および前眼房中の細胞および混濁(フィブリン、変性タンパク質)によって特徴づけられる。上記組織としては、眼組織(例えば、ブドウ膜)または心臓組織(例えば、静脈、動脈、または毛細血管)が挙げられる。
【0006】
炎症は、炎症誘発性サイトカインの産生の減少(抗炎症性サイトカインの増加)を生じる量または免疫寛容を生じる量のCD3調節因子に、細胞または組織を曝露することによって阻害される。
【0007】
本発明は、CD3発現細胞をCD3調節因子に曝露することによりアテローム硬化症性プラークの形成を阻害する方法を提供する。アテローム硬化症性プラークは、動脈壁に結合するプラークの量がCD3インヒビターへの曝露の前と比較してCD3調節因子への曝露の後に減少されるように阻害される。
【0008】
細胞は、CD3を発現し得る任意の細胞(例えば、T細胞のようなリンパ球)である。T細胞は、循環性T細胞(すなわち、血液またはリンパ球中のT細胞)である。あるいは、T細胞は、組織(例えば、リンパ節、リンパ管(lymph duct)、リンパ管(lymph vessel)および脾臓)の内にある。組織は、炎症性組織(または、炎症を起こす危険のある組織)である。曝露することによってとは、細胞または組織がCD3調節因子と接触させられることを意味する。組織の細胞は、直接的かまたは関節的に(すなわち、全身的に)接触させられる。細胞は、インビボ、インビトロ、またはエキソビボで接触させられる。
【0009】
本発明はまた、炎症性障害に罹患しているかまたは炎症性障害を発症する危険がある被験体を同定し、そしてその被験体にCD3調節因子を投与することによって、炎症性障害の症状を予防するかまたは軽減する方法を提供する。
【0010】
CD3調節因子は、CD3の発現または活性を減少させる化合物である。CD3の活性は、T細胞の活性化を含む。T細胞の活性を測定する方法は、当該分野において周知である。CD3調節因子は、例えば、抗CD3抗体を含む。CD3調節因子は、単独で投与されるか、または炎症性障害を処置するために使用される別の抗炎症性剤もしくは免疫抑制剤と組み合わせて投与される。例えば、CD3調節因子は、コルチコステロイド、スタチン、インターフェロンβ、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、メトトレキサート、シクロスポリンAまたは疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)とともに投与される。
【0011】
被験体は、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、およびブタのような哺乳動物である。被験体は、炎症性障害に罹患しているかまたは炎症性障害を発症する危険がある。炎症性障害としては、心血管炎症、眼炎症、胃腸炎症、肝臓炎症、肺炎症、自己免疫障害または筋肉炎症が挙げられる。炎症性障害に罹患しているかまたは炎症性障害を発症する危険がある被験体は、当該分野で公知の方法(例えば、組織の肉眼検査、または組織もしくは血液に関連する炎症の検出)によって同定される。炎症の症状としては、罹患した組織における疼痛、発赤、および膨張が挙げられる。
【0012】
他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者にとって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似するかまたは同じ方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、適切な方法および材料は、以下に記載される。全ての刊行物、特許出願、特許、および本明細書中で言及されたその他の参考文献は、それらの全体が参考として援用される。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が、優先(control)される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示のみであり、限定であることを意図されない。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、CD3の発現の調節または活性が免疫応答および抗体炎症効果の減少をもたらすという発見に部分的に基づいている。より詳細には、抗CD3抗体の投与は、ブドウ膜炎と関連する徴候および症状の低減ならびにアテローム硬化症性プラークの発生の減少をもたらす。
【0015】
CD3は、成熟T細胞中の少なくとも5つの膜結合ポリペプチドの複合体であり、これは、互いにおよびT細胞レセプターと、非共有的に結合される。CD3複合体としては、γ鎖、δ鎖、ε鎖、ζ鎖およびη鎖(サブユニットともまた呼ばれる)が挙げられる。抗原がT細胞レセプターに結合するとき、CD3複合体は、T細胞の細胞質に対する活性化シグナルを変換する。
【0016】
(CD3調節因子)
CD3調節因子は、CD3の発現または活性を調節する因子をいう。調節するとは、その因子が、CD3の発現または活性を、促進、増加、減少または中和することを意味する。CD3活性は、例えば、T細胞の活性化シグナルを変換することを含む。T細胞の活性化は、カルシウム仲介性細胞内cGMPの増加、またはIL−2についての細胞表面レセプターの増加によって定義される。例えば、T細胞活性の増加は、化合物の非存在下と比較しての、化合物の存在下における、カルシウム仲介性細胞内cGMPおよびまたはIL−2レセプターの減少によって特徴付けられる。細胞内cGMPは、市販の試験キットを使用して、例えば、競合免疫アッセイまたはシンチレーション近接アッセイによって測定される。細胞表面IL−2レセプターは、例えば、PC61抗体のようなIL−2レセプター抗体との結合を決定することによって測定される。
【0017】
CD3調節因子としては、例えば、抗CD3抗体またはそれらのフラグメントが挙げられる。必要に応じて、抗CD3抗体は、単鎖抗CD3抗体、二重特異性抗CD3抗体またはヘテロ結合体抗CD3抗体である。抗体は、活性化抗CD3抗体であり、したがってこの抗体は、CD3の活性を誘発する。あるいは、抗体は、中和抗CD3抗体であり、したがって、CD3の活性を減少させる。
【0018】
抗CD3抗体は、当該分野において周知である。例示的抗CD3抗体としては、OKT3、G4.18、145−2C11、Leu4、HIT3a、BC3、SK7、SP34、RIV−9、およびUCHT1が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、抗CD3抗体は、OKT3、G4.18、145−2C11、Leu4、HIT3a、BC3、SK7、SP34、RIV−9、およびUCHT1と同じエピトープに結合する。好ましくは、抗体は、抗体に対する宿主の免疫応答が減少するように、ヒト化またはウマ化(equinized)されている。
【0019】
当業者は、抗体が、抗CD3抗体、OKT3、G4.18、145−2C11、Leu4、HIT3a、BC3、SK7、SP34、RIV−9、およびUCHT1のような同じエピトープを有するか否かを、前者は、後者がCD3抗原ポリペプチドまたは他のT細胞表面抗原ポリペプチドとの結合することを妨げるか否かを確認することによって、過度の実験をすることなく、決定することが可能であることを認識する。CD3抗原ポリペプチドは、例えば、別のCD3サブユニットポリペプチド(例えば、γ鎖、δ鎖、ε鎖、ζ鎖およびη鎖)と複合体化したCD3εポリペプチドである。本発明の抗体による結合の減少によって示されるように、試験される抗体が本発明の抗体と競合する場合、2つの抗体は、同じかまたは密接に関連するエピトープに結合する。抗体が本発明の抗体の特異性を有するか否かを決定する別の方法は、正常に応答するCD3抗原ポリペプチドまたはT細胞抗原ポリペプチドとともに、本発明の抗体を予めインキュベートし、次いで、試験される抗体を加えて、その試験される抗体がCD3またはT細胞表面抗原ポリペプチドと結合するその抗体の能力が阻害されるか否かを決定することである。試験される抗体が阻害される場合、おそらく、その抗体は、本発明の抗体と同じかまたは機能的に同等のエピトープ特異性を有する。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン(Ig)分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、抗原に特異的に結合する(抗原と免疫応答する)抗原結合部位を含む分子)をいう。このような抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、およびF(ab’)2フラグメント、ならびにFab発現ライブラリーが挙げられる。好ましくは、抗体は、完全ヒト抗体である。「特異的に結合する」または「免疫応答する」とは、抗体が、所望の抗原の1つ以上の抗原決定基と応答し、そして他のポリペプチドと応答(すなわち、結合)しないかまたは他のポリペプチドと非常の低い親和性(K>10−6)で結合することを意味する。
【0021】
本明細書中で使用される場合、用語「エピトープ」は、免疫グロブリン、scFv,またはT細胞レセプターに特異的に結合し得る任意のタンパク質決定基を含む。用語「エピトープ」は、免疫グロブリンまたはT細胞レセプターと特異的に結合し得る任意のタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は、一般に、アミノ酸または糖側鎖のような分子の化学的に活性な表面群からなり、そして通常特有の3次元構造の特徴ならびに特有の荷電特徴を有する。抗体は、解離定数が1μM以下、好ましくは100nM以下、そして最も好ましくは、10nM以下であるときに、抗原と特異的に結合するといわれる。
【0022】
本明細書中で使用される場合、用語「免疫学的結合」および「免疫学的結合特性」とは、免疫グロブリン分子と免疫グロブリンが特異的である抗原との間で生じるタイプの非共有性相互作用という。免疫学的結合相互作用の強度または親和性は、その相互作用の解離定数(K)によって表される。この場合、Kが小さいほど、より高い親和性を表す。選択されたポリペプチドの免疫学的結合特性は、当該分野で周知の方法を使用して定量化される。このような方法の1つは、抗原結合部位/抗原複合体の形成および解離の速度を測定することを必要とする。この場合、これらの速度は、複合体のパートナーの濃度、相互作用の親和性、および両方向の速度へ同等に影響を与える幾何学的パラメーターに依存する。したがって、「オン速度定数」(Kon)および「オフ速度定数」(Koff)は、濃度ならびに結合および解離の実質速度を計算することによって決定され得る(Nature361:186−87(1993)を参照のこと)。Koff/Konの比率は、親和性と関連しない全てのパラメーターを打ち消すことを可能にし、そしてこの比率は、解離定数Kに等しい(一般的に、Daviesら(1990)Annual Rev Biochem 59:439−473を参照のこと)。本発明の抗体は、放射性リガンド結合アッセイまたは当業者に公知の類似するアッセイのようなアッセイによって測定されるとき、平衡結合定数(K)が1μM以下、好ましくは100nM以下、より好ましくは10nM以下、そして最も好ましくは100pM〜約1pM以下である場合、CD3エピトープに特異的に結合するといわれる。
【0023】
免疫関連疾患の処置において抗体の有効性を増強するように、エフェクターの機能に関して本発明の抗体を改変することが望ましい。例えば、システイン残基は、Fc領域へと導入され得、それによってこの領域中で鎖間でのジスフィルド結合の形成を可能にする。そのように生成されたホモダイマー抗体は、改善された内在化能力および/または増加された補体仲介性細胞殺性および抗体依存性細胞毒性(ADCC)を有し得る(Caronら、J.Exp Med.,176:1191−1195(1992)、および Shopes,J.Immunol.,148:2918−2922(1992))。あるいは、抗体は、二重のFc領域を有するように設計され得、それによって、促進された補体溶解能力およびADCC能力を有し得る(Stevensonら、Anti−Cancer Drug Design,3:219−230(1989)を参照のこと)。
【0024】
抗体は、免疫血清のIgGフラクションを主に提供する、タンパク質Aまたはタンパク質Gを使用するアフィニティークロマトグラフィーのような、周知の技術によって精製される。したがって、またはあるいは、探求される免疫グロブリンの標的である特異的な抗原、またはそのエピトープは、免疫親和性クロマトグラフィーによって免疫特異的な抗体を精製するためのカラム上に固定化され得る。免疫グロブリンの精製については、例えば、D.Wilkinsonによって議論されている(The Scientist,Inc.,Philadelphia PAによって出版された、The Scientist 第14巻、第8号(2000年4月17日)、25〜28頁)。
【0025】
(治療方法)
炎症は、組織またはCD3発現細胞を、CD3調節因子(例えば、抗CD3抗体)に曝露する(例えば、それと接触させる)ことによって阻害される。CD3発現細胞は、例えば、T細胞のようなリンパ球である。T細胞としては、T細胞障害性細胞、Tヘルパー細胞(例えば、Th1およびTh2)およびナチュラルキラーT細胞が挙げられる。処置される組織としては、胃腸組織(例えば、腸組織)、心臓組織(例えば、静脈、動脈または毛細血管)、肺組織、皮膚組織、眼組織(例えば、虹彩、毛様体、または脈絡膜)、あるいは肝臓組織が挙げられる。
【0026】
炎症の阻害は、CD3調節因子に接触させられていない組織と比較した、処置された組織の発赤、疼痛、および膨張によって特徴付けられ得る。あるいは、ブドウ膜炎に関しては、炎症の阻害は、視力の増加、硝子体(眼の後部)および前眼房中の細胞および混濁(フィブリン、変性タンパク質)の減少によって特徴づけられる。組織または細胞は、CD3調節因子と直接接触させられる。あるいは、CD調節因子は、全身的に投与される。CD3調節因子は、炎症誘発性サイトカインの生成を減少する(例えば、阻害する)のに十分な量で投与される。炎症性サイトカインは、炎症反応を誘発するサイトカインである。炎症誘発性サイトカインとしては、例えば、インターロイキン(IL)−1、腫瘍壊死因子(TNF)、IL−17、IL−8、およびマクロファージ炎症性タンパク質−1α(MIP−1α)が挙げられる。あるいは、CD3調節因子は、抗炎症性サイトカインの生成を増加する(例えば、促進する)のに十分な量で投与される。抗炎症性サイトカインは、炎症応答を低減するサイトカインである。より具体的には、抗炎症性サイトカインは、免疫応答を調節するために、炎症誘発性サイトカインの応答を制御する。抗炎症性サイトカインとしては、例えば、インターロイキン(IL)−1レセプターアンタゴニスト、TGFβ、IL−4、IL−6、IL−10、IL−11、およびIL−13が挙げられる。サイトカインは、例えば、血清中、血漿中または組織中で検出される。サイトカインの生成は、当該分野で公知の方法によって測定される。例えば、サイトカインの生成は、炎症誘発性サイトカインまたは抗炎症性サイトカインに特異的な免疫アッセイを使用して決定される。
【0027】
炎症応答は、組織の損傷、局所的な発赤、罹患した領域の膨張、眼の硝子体および前眼房中の細胞および混濁を観察することによって、形態学的に評価される。あるいは、炎症応答は、組織、血清または血漿中のc−反応性タンパク質またはIL−1を測定することによって評価される。基準白血球数の回復はまた、炎症の減少を示す。
【0028】
あるいは、炎症は、細胞(例えば、リンパ球)の表面上のCD3−T細胞レセプター複合体またはCD3複合体を再分布および/または除去する量で、組織またはCD3発現細胞をCD3調節因子に曝露することによって低減させられる。例えば、CD3発現細胞は、CD3発現細胞−細胞接触を調節する(すなわち、減少させる)量でCD3調節因子に曝露される。細胞表面の発現レベルまたはその細胞におけるTcRの活性にレベルの減少は、TcRの量または機能が減少されることを意味する。細胞表面の発現レベルまたはCD3の活性の調節は、細胞表面上のCD3の量またはCD3の機能が変更される(例えば、減少される)ことを意味する。細胞の原形質膜で発現されるCD3またはTcRの量は、例えば、細胞がCD3調節因子と接触する際のCD3またはTcRの内在化によって、減少される。あるいは、細胞がCD3調節因子と接触する際、CD3は、遮蔽される。細胞の表面上のCD3−T細胞レセプター複合体の再分布および/または除去は、免疫抑制または免疫寛容をもたらす。免疫抑制とは、全ての抗原に対する一般的な免疫応答に取りかかることに失敗することであり、これは、自己免疫障害の1つ以上の症状の軽減、または炎症応答の減少をもたらす。免疫抑制は、一旦CD3調節因子を用いる処置が中止されると、逆転可能である。したがって免疫抑制は、急性炎症障害の症状を処置または軽減するのに特に有用である。対照的に、免疫寛容は、特定の抗原に対する免疫応答に取りかかるのに失敗し、その結果、自己免疫障害の1つの以上の症状の軽減、または一旦処置が中止されると長期期間維持される炎症応答の減少をもたらす。免疫寛容は、処置が中止された後、少なくとも1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、または5年以上維持される。従って、免疫寛容は、慢性炎症性障害の症状を処置または軽減することにおいて特に有用である。長期間の免疫寛容は、サイトカインのような可溶性機構によってか、または直接的細胞−細胞接触(グランザイムA、グランザイムBおよび/またはパーフォリンに関与するがこれらに限定されない)を介するかの何れかで達成され得る。
【0029】
動脈上(すなわち、動脈壁上)におけるアテローム硬化症性プラークの形成は、被験体にCD3調節因子を投与することによって減少または予防される。プラークは、動脈壁の内面で蓄積するコレステロールと、他の脂肪質と、カルシウムと、血液成分との組み合わせである。アテローム硬化症性プラークの減少は、管腔の狭小化が減少すること(すなわち、管腔の拡張化)によって規定される。管腔の幅は、心血管造影法およびドップラー速度波形解析のような、当該分野で公知の方法によって測定される。
【0030】
これらの方法は、種々の炎症性障害または自己免疫障害の症状を軽減するのに有用である。炎症性障害は、急性または慢性である。炎症性障害としては、心血管炎症(例えば、アテローム性動脈硬化症卒中)、胃腸炎症、肝臓炎症障害、肺炎症(例えば、喘息、呼吸器誘発肺損傷)、腎臓炎症、眼炎症(たとえば、ブドウ膜炎)、膵臓炎症、尿生殖器炎症、神経炎症障害(例えば、多発性硬化症、アルツハイマー病)、アレルギー(例えば、アレルギー性鼻炎/副鼻腔炎、皮膚アレルギーおよび皮膚障害(例えば、蕁麻疹/発疹、血管性浮腫、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬)、食物アレルギー、薬物アレルギー、昆虫アレルギー、肥満細胞症)、骨格炎症(例えば、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、脊椎関節症)、感染(例えば、細菌性感染またはウィルス性感染;口腔炎症障害(すなわち、歯周病(perodontis)、歯肉炎または口内炎;および移植(例えば、同型異種片もしくは異種移植片の拒絶または母体−胎児寛容)が挙げられる。
【0031】
自己免疫性疾患としては、例えば、後天性免疫不全症候群(AIDS、自己免疫構成要素に対するウィルス疾患である)、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳性疾患(AIED)、自己免疫性リンパ球増殖性症候群(ALPS)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、ベーチェット病、心筋症、セリアック病疱疹状皮膚炎、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、慢性炎症脱髄性多発神経障害(CIPD)、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、クレスト症候群、クローン病、デゴス病(Degos’ disease)、若年性皮膚筋炎、円板状ループス、本態混合性(essential mixed)クリオグロブリン血症、線維筋炎繊維筋痛、グレーブス病、ギヤン−バレー症候群、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、インスリン依存性糖尿病、若年型慢性関節炎(スティル病)、若年性関節リウマチ、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性(pernacious)貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発性筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症(全身性進行性硬化症(PSS)、全身性硬化症(SS)としてもまた知られる)、シェーグレン症候群、スティフマン症候群、全身性エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、白斑ならびにヴェーゲナー肉芽腫症が挙げられる。
【0032】
本明細書中で記載される方法は、本明細書中で記載されるような炎症障害または自己免疫疾患の1つ以上の症状の重症度を低減または軽減させる。処置の有効性は、特定の炎症障害の診断または処置のための任意の公知の方法と共同して決定される。炎症障害または自己免疫疾患の1つ以上の症状を軽減することは、化合物が臨床上の利益を与えることを示す。炎症障害および自己免疫障害は、代表的には、医師または獣医によって標準的な方法を使用して診断および/またはモニターされる。
【0033】
(ブドウ膜炎)
ブドウ膜炎は、ブドウ膜の炎症として定義される。ブドウ膜は、以下の3つの構造からなる:虹彩、毛様体および脈絡膜。虹彩は、瞳孔周囲の着色された構造であり、眼の前部で目に見える。毛様体は、筋肉を含む構造であり、レンズの焦点をあわせる虹彩の裏に位置する。脈絡膜は、眼の後部を裏打ちする血管を含む層であり、網膜と強膜(osclera)との間に位置する。ブドウ膜炎の症状としては、視力の低下、硝子体および前眼房内の細胞および混濁(フィブリン、変性タンパク質)ならびに網膜脈管の脈管炎が挙げられる。虹彩は、水晶体包に付着し得る(虹彩後癒着)か、または、より一般的ではないが、末梢角膜に付着し得る(虹彩前癒着)。さらに、虹彩支質内の肉芽腫性の小結節が、明らかになり得る。罹患した眼の眼内圧は、最初は毛様体の分泌物の低圧のため、低下する。しかし、反応の持続につれ、炎症の副産物が、線維柱帯内に蓄積し得る。この老廃物が顕著に増加し、かつ、毛様体が通常の分泌産出を再開する場合、この圧力は急に上昇し得、二次的なブドウ膜炎性の緑内障を引き起こし得る。
【0034】
ブドウ膜炎は、医師または獣医による眼科検査により診断される。
【0035】
(脈管炎)
脈管炎は、血管の炎症である。炎症は、組織が、組織に侵入する血球により損傷を受ける状態である。これらは、多くの場合、循環し、そして感染に対する我々の主要な防御としての役割を果たす白血球である。通常は、白血球は細菌およびウイルスを破壊する。しかしながら、これらはまた、正常な組織に侵入する場合、その組織に損傷を与え得る。脈管炎は、微細な血管(毛細管)、中程度の大きさの血管(小動脈または細静脈)または大きな血管(動脈および静脈)を冒し得る。
【0036】
脈管炎は、どの組織が関連するか、および組織の損傷の重症度に依存して、多くの異なる症状を引き起こし得る。数人の患者は気分は悪くないが、彼らの皮膚上にまばらに存在する斑に気付く。他は、全身性の症状および深刻な臓器損傷により、非常に健康を害している。症状としては、熱、全身性の悪寒(「倦怠感」)、筋肉痛および関節痛、食欲減退、体重の減少、疲労、点状出血、紫斑、死んだ皮膚の領域が潰瘍のように見え得る(特に、足根関節の周囲)、関節の痛みおよび疼痛を伴う明らかな関節炎、関節の腫れおよび熱、頭痛、行動障害、錯乱、痙攣、脳卒中、麻痺ならびに刺痛が挙げられる。脈管炎の診断は、個人の病歴、現在の症状、完全な健康診断および特化した研究室の試験の結果に基づく。脈管炎が存在する場合にしばしば生じる血液の異常としては、沈降率の上昇、貧血、高い白血球数および高い血小板数が挙げられる。血液試験はまた、循環中で脈管炎を引き起こす免疫複合体または抗体を同定し、そして補体レベルが異常であるか否かを測定するために使用され得る。
【0037】
(アテローム性動脈硬化症)
アテローム性動脈硬化症は、動脈の内側の内層での脂肪物質、コレステロール、細胞老廃物およびカルシウムの沈着物の構築(すなわち、プラーク)をもたらし、そして深刻な炎症性の要素を有する。最終的に、この脂肪組織は、動脈壁を侵食し得、動脈壁の弾性(伸縮性)を損ない得、そして血流を妨害し得る。プラークはまた、破裂し得、動脈内の下流へ移動する細片を生じ得る。このことは、心臓発作および脳卒中の一般的な原因である。血餅もまた、プラーク沈着物の周囲に形成し得、さらに血流を妨害し得、そして、それらが裂け、心臓、肺または脳へと移動するさらなる危険をもたらし得る。
【0038】
アテローム性動脈硬化症は、しばしば、血管内の流れが重度に損なわれるようになるまで何の症状も示さない。アテローム性動脈硬化症の代表的な症状としては、胸痛(冠状動脈が関与する場合)または下肢痛(脚の動脈が関与する場合)が挙げられる。時折、症状は、労作状態のみで生じる。しかしながら、幾人かの人においては、それらは、安静時に生じ得る。
【0039】
危険因子としては、喫煙、糖尿病、肥満、高い血中コレステロール、高脂肪の食事および心疾患の個人の病歴または家族歴を有することが挙げられる。脳血管疾患、末梢血管疾患、高血圧および透析を伴う腎疾患もまた、アテローム性動脈硬化症に関連し得る障害である。
【0040】
(治療用の投与)
本発明は、CD3調節因子(本明細書中では「治療化合物」と呼ばれる)を含む組成物を、被験体(例えば、ヒトまたはウマ)に投与する工程を包含する。
【0041】
治療化合物の有効量は、好ましくは、約0.1 mg/kg〜約150 mg/kgである。当業者に認識されるように、有効用量は、投与経路、賦形剤の使用および他の治療処置(特定の炎症性障害の症状を治療、予防または軽減するための他の抗炎症剤または治療剤の使用が挙げられる)との同時投与に依存して変化する。治療レジメンは、標準的な方法を使用して、炎症障害または自己免疫障害に罹患した(またはこれらを発症する危険にある)哺乳動物(例えば、ヒト患者またはウマ)を同定することにより実行される。
【0042】
薬学的組成物は、当該分野において公知の方法を使用して、このような個体に投与される。好ましくは、化合物は、経口的にか、直腸にか、経鼻的にか、局所的にか、または非経口的に(例えば、皮下に、腹腔内に、筋内に、および静脈内に)投与される。化合物は、予防的に投与されるか、または炎症の事象(例えば、喘息の発作またはアレルギー性反応)の検出後に投与される。必要に応じて、化合物は、炎症障害を処置するための治療薬物のカクテルの成分として処方される。非経口投与に適切な処方物の例としては、等張性の生理食塩溶液、5%グルコース溶液または別の標準的な薬学的に受容可能な賦形剤中の活性因子の水溶液が挙げられる。標準的な可溶化剤(例えば、PVPまたはシクロデキストリン)もまた、治療化合物の送達のための薬学的賦形剤として利用される。
【0043】
本明細書に記載の治療化合物は、従来の方法を利用する他の投与経路のための組成物に処方される。例えば、治療化合物インヒビターは、経口投与のためのカプセルまたは錠剤中に処方される。カプセルは、任意の標準的な薬学的に受容可能な物質(例えば、ゼラチンまたはセルロース)を含み得る。錠剤は、治療化合物と固体キャリアおよび滑沢剤との混合物を圧縮する工程による、従来の手順に従って処方され得る。固体キャリアの例としては、デンプンおよび糖ベントナイトが挙げられる。化合物は、結合剤(例えば、ラクトースまたはマンニトール)、従来の充填剤および錠剤化剤を含む硬い殻の錠剤またはカプセルの形態で投与される。他の処方物としては、軟膏、坐剤、ペースト、スプレー、パッチ、クリーム、ゲル、吸収可能なスポンジまたは泡が挙げられる。このような処方物は、当該分野において周知の方法を使用して生成される。
【0044】
治療化合物は、化合物と罹患した組織との直接的な接触において有効である。したがって、化合物は、局所的に投与される。例えば、接触皮膚炎を処置するために、化合物は、罹患した皮膚の領域に塗布される。あるいは、治療化合物は、全身的に投与される。さらに、化合物は、被験体の隣接する組織および周囲の組織へ化合物をゆっくり放出する固体または吸収可能なマトリクスを(臓器(例えば、腸または肝臓)へ直接的にか、または皮下にのいずれかで)移植することにより、投与される。
【0045】
例えば、胃腸の炎症障害の処置のために、化合物は、全身投与されるか、または胃組織に直接的に局所投与される。全身投与の化合物は、静脈内に、直腸に、または経口的に投与される。局所投与のために、化合物を浸透させたオブラートまたは吸収可能なスポンジは、胃組織と直接接触させて配置される。化合物または化合物の混合物は、オブラートからの薬物の拡散およびポリマーマトリクスの侵食によって、インビボでゆっくりと放出される。
【0046】
肝臓の炎症(すなわち、肝炎)は、例えば、化合物を含む溶液を肝臓の脈管系に注入することによって処置される。腹腔内注入または洗浄は、広汎性の腹腔内炎症を軽減するか、または外科的な事象後の炎症を防止するのに有用である。
【0047】
神経の炎症の処置のために、化合物は、静脈内またはクモ膜下腔内に(すなわち、脳脊髄液への直接注入により)投与される。局所投与のために、化合物を浸透させたオブラートまたは吸収可能なスポンジは、CNS組織と直接接触させて配置される。化合物または化合物の混合物は、オブラートからの薬物の拡散およびポリマーマトリクスの侵食によって、インビボでゆっくりと放出される。あるいは、化合物は、公知の方法を使用して、脳または脳脊髄液に注入される。例えば、注射ポートとしての使用のためのカテーテルを有する穿頭孔輪は、頭蓋へ穿孔された穿頭孔において頭蓋と係合するように配置される。このカテーテルに接続された流体レザーバは、穿頭孔輪の上端より上に配置される隔壁を通って挿入される針またはスタイレットにより利用される。カテーテルアセンブリ(例えば、米国特許第5,954,687号に記載のアセンブリ)は、脳の選択された位置、脳の近傍の選択された位置または脳内の選択された位置への液体の移動、あるいは脳の選択された位置、脳の近傍の選択された位置または脳内の選択された位置からの液体の移動に適切な流体の流路を提供し、長期にわたる薬物の投与を可能にする。
【0048】
心臓の炎症の処置のために、化合物は、例えば、X線透視検査の案内下で、組織(例えば、心筋層)への直接注射、または身体の内腔へ挿入されるステントもしくはカテーテルからのインヒビター注入のための、胸壁を介しての冠状動脈内直接注射によるか、または経皮カテーテルに基づく標準的な方法を使用して心組織へ送達される。任意の種々の冠状動脈のカテーテル、または灌流カテーテルは、化合物を投与するために使用される。あるいは、化合物は、冠状動脈管に配置されるステントにコーティングされるか、または浸透される。
【0049】
肺の炎症は、例えば、吸入によって化合物を投与することにより処置される。化合物は、適切な噴霧剤(例えば、二酸化炭素のようなガス)を含む加圧された容器またはディスペンサーあるいは噴霧器からエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0050】
眼の炎症は、例えば、眼へ局所的に化合物を投与することにより処置される。化合物は、例えば、ゲル、液体または軟膏の形態で送達される。軟膏、ゲルまたは滴下可能な液体は、当該分野において公知の眼用送達系(例えば、塗布器または点眼器)により送達され得る。あるいは、化合物は、眼の結膜の下に配置されるポリマー移植物により送達される。必要に応じて、化合物は、全身送達される。
【0051】
脈管炎は、影響される領域に対して特異的な経路を介して処置される。一般に、脈管炎は、CD3調節因子の静脈内投与により全身的に処置される。
【0052】
CD3調節因子はまた、1つ以上のさらなる治療化合物(例えば、抗炎症剤または免疫抑制剤)と併せて投与される。例えば、CD3調節因子は、自己免疫疾患および/または炎症障害の処置のための任意の種々の公知の治療と組み合わせて投与される。本発明の方法とともに使用するための、自己免疫疾患および/または炎症障害の処置のための適切な公知の治療としては、メトトレキサート、シクロスポリンA(例えば、シクロスポリンマイクロエマルジョンおよびタクロリムスが挙げられる)、コルチコステロイド、スタチン、インターフェロンβ、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIID)および疾患修飾性抗リューマチ薬(DMARD)が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる治療が、CD3調節因子の投与の前にか、後にか、または同時に適用される。
【0053】
併用の有益な効果としては、治療剤の併用に起因する薬物動態学的な共作用または薬力学的な共作用が挙げられるが、これらに限定されない。併用におけるこれらの治療剤の投与は、代表的に、規定の期間(通常、選択された併用に依存して、分、時間、日または週)にわたって、実行される。「併用治療」は、付随的かつ任意的に本発明の併用を生じる個別の単剤治療レジメンの一部としての、2つ以上のこれらの治療剤の投与を包含することが意図され得るが、一般的にはそうではない。「併用治療」は、連続的な様式(それゆえ、各々の治療剤が異なる時間に投与される)での、これらの治療剤の投与、および、実質的に同時の様式での、これらの治療剤(もしくは、少なくとも2つの治療剤)の投与を包含することが意図される。実質的に同時の投与は、例えば、固定比の率の各々の治療剤を有する単一のカプセルまたは各治療剤の単一のカプセルの複数を、被験体に投与することにより達成され得る。
【0054】
治療剤は、同一の経路または異なる経路により投与され得る。例えば、選択された組み合わせの第一の治療剤は、静脈内注射により投与され得るが、組み合わせのその他の治療剤は、経口投与され得る。あるいは、例えば、全ての治療剤は経口投与され得るか、または全ての治療剤は静脈内注射により投与され得る。治療剤が投与される順序は、それほど重要ではない。「併用治療」はまた、他の生物学的な活性成分および非薬物治療(例えば、手術または放射線療法)とのさらに組み合わされた、先に記載される治療剤の投与も包含し得る。併用治療がさらに非薬物処置を含む場合、非薬物処置は、治療剤と非薬物処置との併用の共作用由来の有益な効果が達成される限り、任意の適切な時間において実行され得る。例えば、適切な場合において、有益な効果は、非薬物処置が治療剤の投与から一時的におそらく日単位でか、またはさらには週単位で除外される場合、依然として達成される。
【0055】
患者が、抗CD3抗体の単独または組み合わせての投与からの利益を受けているか否かを評価するために、定量的な方法で、患者の症状および/または免疫応答を検査し、そして抗体による処置の前および後で、患者の症状および/または免疫応答を比較し得る。例えば、患者の症状は、抗CD3抗体による処置の前および後の患者において、特定の症状または症状のセットを測定することにより決定され得る。例えば、当該分野において公知の任意の標準的な測定技術を使用して、症状(例えば、熱、関節痛、筋衰弱)を測定およびモニターし得る。処置の成功において、患者の状態は、改善される(すなわち、測定の数が減少するか、または持続的な進行への時間が延長する)。
【0056】
例えば、ブドウ膜炎の処置において、抗CD3抗体は、例えば、コルチコステロイド、メトトレキサート、シクロスポリンA、シクロホスファミドおよび/またはスタチンと併せて投与され得る。同様に、疾患(例えば、クローン病または乾癬)に罹患する患者は、本発明の抗CD3抗体とレミケード(インフリキシマブ)および/またはヒューミラ(アダリムマブ)との組み合わせにより処置され得る。
【0057】
慢性関節リウマチの処置において、抗CD3抗体は、コルチコステロイド、メトトレキサート、シクロスポリンA、スタチン、レミケード(インフリキシマブ)、エンブレル(エタネルセプト)および/またはヒューミラ(アダリムマブ)と同時に投与される。
【0058】
多発性硬化症を有する患者は、抗CD3と、例えば、酢酸グラチラマー(Glatiramer acetate)(コパキソン(Copaxone))、インターフェロンβ−1a(アボネックス(Avonex))、インターフェロンβ−1a(レビフ(Rebif))、インターフェロンβ−1b(ベータセロン(Betaseron)またはベータフェロン(Betaferon))、ミトザントロン(ノバントロン(Novantrone))、デキサメタゾン(デカドロン(Decadron))、メチルプレドニゾロン(デポ−メドール(Depo−Medrol))および/またはプレドニゾン(デルタゾン(Deltasone))ならびに/あるいはスタチンとの組み合わせを受容し得る。
【0059】
I型糖尿病または成人潜伏性自己免疫糖尿病(LADA)を有する患者はまた、例えば、GLP−1またはβ細胞休止化合物(すなわち、インシュリン放出を減少させるか、さもなければ阻害する化合物(例えば、カリウムチャネル開口固定薬))のような第2の薬剤を投与される。
【0060】
さらに、CD3調節因子は、予防的(すなわち、自己免疫疾患および/または炎症障害の発症の前)または治療的(すなわち、自己免疫疾患および/または炎症障害の進行中)のいずれかで、患者に投与される。
【0061】
本発明の方法において、調節因子は、治療有効量で投与される。CD3調節因子の「治療有効量」は、治療目的(例えば、自己免疫疾患および/または炎症障害の処置、あるいは自己免疫疾患および/または炎症障害に関連する症状を軽減すること)を達成するために必要とされる量をいう。
【0062】
本明細書で引用される全ての刊行物および特許文献は、あたかも各々のこのような刊行物または文献が、本明細書において参考として援用されることを特別かつ個別に示されているかのように、本明細書において参考として援用される。刊行物および特許文献の引用は、いずれも関連のある先行技術であるということの承認としては意図されず、かつ、それは、これらの刊行物または特許文献の内容または期日に関する何の承認も構成しない。本発明は、記載された説明として、ここで記述されたが、当業者は、本発明が種々の実施形態において実施され得、そして上記説明および以下の実施例が例示の目的であって、上記の特許請求の範囲の限定ではないことを認識する。
【実施例】
【0063】
(実施例1:ブドウ膜炎の処置における抗CD3抗体)
本発明の抗CD3抗体としては、例えば、OKT3、SP34、UCHTIまたは64.1のようなCD3を認識する任意の種々のモノクローナル抗体(mAb)が挙げられる(例えば、Juneら、J.Immunol.136:3945−3952(1986);Yangら、J.Immunol.137:1097−1100(1986);およびHaywardら、Immunol.64:87−92(1988)を参照のこと)。
【0064】
精製マウス抗ラットCD3モノクローナル抗体(BD Pharmingen)(G4.18抗体と呼ばれる)を、例えば、Wildner G、Diedrichs−Mohring M、Thurau SR.、Eur.J.Immunol.32(1):299−306(2002)およびWildner G、Diedrichs−Mohring M、Int.Immunol.15(8):927−35(2003)に記載されるように、誘導可能なブドウ膜炎のラットモデルにおいて試験した。G4.18抗体は、胸腺細胞、末梢性Tリンパ球および樹状表皮T細胞に見出されるT細胞レセプター関連CD3細胞表面抗原と反応する。(例えば、Nicolls M.R.ら、Transplantation 55:459−468(1993);Nelson、D.J.ら、J.Exp.Med.179:203−212(1994);Morris D.L.およびW.J.Komocsar、J.Pharmacol.Toxicol.Methods 37:37−46(1997)を参照のこと)。
【0065】
ブドウ膜炎に対する抗CD3治療の効果を評価するために、実験的な自己免疫ブドウ膜炎(EAU)を、腹腔内(i.p.)T細胞移入プロセスを使用して、ラットに誘導した。詳細には、0日目において、雌性ルイス(Lewis)ラット(各々、体重約140g)(n=3のラット/群)に、網膜の自己抗原性のS抗原(SAg)由来のPDSAg−2/3でトランスフェクトした2.4×10個のL37細胞のi.p.注射を受容させた。
【0066】
EAUを誘導するトランスジェニックT細胞の移入の30分前ならびに移入後の1日目、2日目および3日目、ラットに、300μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液のi.p.注射(群1)または300μlのPBS中のG4.18抗体のi.p.注射(群2)を受容させた。各々の群のラットを、ブドウ膜炎の臨床的徴候について毎日モニターした。本明細書で使用された臨床的等級分けの判断基準は、例えば、de Smetら、J.Autoimmun.第6巻:587(1993)に記載されるように、検眼鏡を使用して等級分けした、眼の前部の炎症のみを考慮した。本明細書に記載の実験で使用した臨床的等級分けの判断基準は、以下の表Aに示される:
(表A:臨床的等級分けの判断基準)
【表A】

【0067】
*前房蓄膿=前眼房の底部における白血球の沈殿;すなわち、白い湖
12日目において、実験を終了し、網膜の破壊の組織学的評価を、各々のラットに対して行った。本明細書に記載の組織学的判断基準は、例えば、de Smetら、J.Autoimmun.第6巻:587(1993)に記載されるように、処置後9日目の凍結切片で評価される網膜の破壊のみを考慮した。本明細書に記載の実験で使用した組織学的等級分けの判断基準は、以下の表Bに示される:
(表B:組織学的等級分けの判断基準)
【表B】

【0068】
ブドウ膜炎の臨床的徴候は、本明細書に記載の実験の3日目に現れ始めた。図1は、PBSを受容したラット(すなわち、群1)および抗CD3抗体を受容したラット(すなわち、群2)での、ブドウ膜炎の進行に対する臨床効果および組織学的効果(上記の表Aおよび表Bにおける等級分けの判断基準を使用して判断される)を示すグラフである。本明細書に示される結果は、全観察期間からの群の全ての眼由来の最大スコアの平均値として報告される。
【0069】
(実施例2:アテローム性動脈硬化症の処置における抗CD3抗体)
アテローム性動脈硬化症の処置における抗CD3抗体の効果を、ハムスター抗マウスCD3抗体を使用して評価した。本明細書に記載の実験を、アテローム硬化性プラークの発生に対する抗CD3治療の効果および確立されたアテローム性動脈硬化症の病変の進行に対する抗CD3治療の効果を評価するように設計した。
【0070】
ハムスター145 2C11モノクローナル抗体のF(ab’)フラグメント(マウスCD3ε(すなわち、マウスCD3複合体のε鎖)に結合する)を産生する細胞株を、抗CD3治療の効果を評価するために使用した。10週齢の雄性LDLR−/− C57BL/6マウスを、インビボアテローム性動脈硬化症のモデルとして使用した。組織学的分析およびアテローム硬化性プラークの発生の分析、ならびに増殖分析およびサイトカイン分析のために、同腹仔マウスを、13週間または24週間、高コレステロール食(1.25%コレステロール、0%コール酸塩)で給餌した。抗CD3 F(ab’)(1日あたり50μg/マウス)を、高コレステロール食を開始する1週間前(すなわち、アテローム硬化性プラークの発生に対する抗CD3抗体の効果を評価する)(n=5)、または高コレステロール食の開始から13週間後(すなわち、確立されたアテローム性動脈硬化症の病変の進行に対する抗CD3抗体の効果を評価する)(n=9)から開始して、5日間連続して静脈内(i.v.)に投与した。コントロールマウス(13週間の食事についてn=5;24週間の食事についてn=6)に、並行してPBSを注射した。
【0071】
胸−腹大動脈および大動脈洞内のアテローム性動脈硬化症の病変を、脂質の沈着についてスダンIV染色により分析した(図2および図3)。互いに50μm離れた6つの切片(5μm)からの脂質の沈着の平均を、各々の大動脈起始部について計算した。脂質の沈着の定量化を、MetaMorph6 software(Zeiss)を使用するコンピュータ画像分析により実行した。本明細書に示される結果は、平均値±s.e.m.として表現される。値間の差を、両側のスチューデントのT検定を使用して、P<0.05で有意とみなした。
【0072】
図2に示されるように、抗CD3治療は、マウスにおいて、アテローム硬化性プラークの発生を阻害した。さらに、図3は、抗CD3治療が、確立された病変におけるアテローム硬化性プラークの発生の進行を低減(すなわち、阻害)したことも実証する。
(その他の実施形態)
本発明は、その詳細な説明と組み合わせて説明されているが、前述の説明は、例示することを意図しており、添付の請求項の範囲によって規定される本発明の範囲を限定することは意図していない。その他の局面、利点、および修正は、前述の請求項の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、ラットのブドウ膜炎モデルにおける抗CD3治療の臨床的かつ組織学的な効果を示すグラフである。
【図2】図2は、マウスの大動脈起始部におけるアテローム硬化症性プラークの発生に対する抗CD3治療の阻害効果を示すグラフである。
【図3】図3は、マウス中に確立されたアテローム性動脈硬化性病変の進行に対する抗CD3治療の阻害効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性障害の症状を処置するかまたは軽減する方法であって、該方法は、
該炎症性障害に罹患しているかまたは該炎症障害を発症する危険のある被験体を同定する工程、および
該被験体に抗CD3抗体を投与する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記抗CD3抗体は、炎症性サイトカインの発現を阻害するか、または抗炎症性サイトカインの発現を増加するのに十分な量で投与される、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記抗CD3抗体は、免疫抑制を生じるのに十分な量で投与される、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記抗CD3抗体は、免疫寛容を生じるのに十分な量で投与される、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記抗体は、モノクローナル抗体である、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記モノクローナル抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記炎症性症障害は、慢性炎症性障害または急性炎症性障害である、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記炎症性障害は、自己免疫性疾患である、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記炎症性障害は、ブドウ膜炎、脈管炎またはアテローム性動脈硬化症である、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記被験体は、ヒトまたはウマである、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、前記被験体に抗炎症剤または免疫抑制剤を投与する工程をさらに包含する、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記抗炎症剤または前記免疫抑制剤は、コルチコステロイド、スタチン、インターフェロンβ、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、メトトレキサート、シクロスポリンAまたは疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)である、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記シクロスポリンAは、シクロスポリンマイクロエマルジョンかまたはタクロリムスである、方法。
【請求項14】
動脈上におけるアテローム硬化症性プラークの形成を減少させる方法であって、該方法は、被験体に抗CD3抗体を投与する工程を包含する、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、前記抗CD3抗体は、前記動脈組織中で、炎症性サイトカインの発現を阻害するか、または抗炎症性サイトカインの発現を増加するのに十分な量で投与される、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記抗体は、モノクローナル抗体である、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記モノクローナル抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体である、方法。
【請求項18】
組織炎症を阻害する方法であって、該方法は、炎症性組織を抗CD3抗体に曝露する工程を包含する、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記抗CD3抗体は、前記炎症性組織中で、炎症性サイトカインの発現を阻害するか、または抗炎症性サイトカインの発現を増加するのに十分な量で投与される、方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記抗体は、モノクローナル抗体である、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、前記モノクローナル抗体は、完全ヒトモノクローナル抗体である、方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、前記組織は、血管組織かまたは眼組織である、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−532565(P2007−532565A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507498(P2007−507498)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/011767
【国際公開番号】WO2005/099755
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(506198562)
【Fターム(参考)】