説明

自己流動性水硬性組成物

【課題】 高い流動性と優れた水平レベル性を有し、施工厚が薄い(施工厚:1〜5mm)場合にも硬化体表面に発生しやすいひび割れを大幅に低減できるセルフレベリング性の水硬性組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機成分と、減水剤及び/又は増粘剤とを含み、さらに収縮低減剤と樹脂粉末とを含む自己流動性水硬性組成物に関するものであり、施工厚が薄い(施工厚:1〜5mm)場合にも硬化体表面にひび割れ発生を大幅に低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般建築物の主に床下地調整に使用でき、高い流動性と水平レベル性を有し、優れた硬化体表面状態が得られるセルフレベリング材(自己流動性水硬性組成物)に関する。
【背景技術】
【0002】
各種セメントを構成材料とする水硬性組成物を用いた施工物では、硬化体の乾燥収縮や自己収縮に伴うひび割れが発生することが多く、多様な改善方法が検討されている。
特許文献1には、セメントに対してアルキレンオキサイド化合物と炭酸カルシウムを添加することでセメントの自己収縮を低減できることが開示されている。
また、セルフレベリング材のひび割れを低減する組成物として特許文献2には、セメントと天然II型無水石膏とを用い、特定の構造のアクリル系分散剤、収縮低減剤などを添加した組成物が開示されている。
特許文献3には、樹脂エマルションと収縮低減剤を含有するひび割れ抑止剤を含有するポリマーセメントモルタル層を形成することにより、モルタル・コンクリート表面のひび割れを抑止する方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−139508号公報
【特許文献2】特開平7−267704号公報
【特許文献3】特開2004−175633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高い流動性と水平レベル性に優れ、施工厚が薄い場合にも硬化体表面にひび割れ発生を大幅に低減できるセルフレベリング性の水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機成分と、流動化剤及び/又は増粘剤とを含み、さらに収縮低減剤と樹脂粉末とを含む自己流動性水硬性組成物である。
【0006】
本発明の第二は、本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルである。
本発明の第三は、本発明の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体である。
【0007】
本発明の自己流動性水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。好ましい態様は複数組み合わせることができる。
1)水硬性成分が、アルミナセメント20〜90質量%、ポルトランドセメント0〜75質量%及び石膏5〜50質量%(但しポルトランドセメントは0質量%を除く)からなる水硬性成分であること。
2)水硬性成分100質量部に対し、樹脂粉末を0.5〜5質量部、収縮低減剤を0.5〜5質量部含むこと。
3)樹脂粉末はエチレン酢酸ビニル共重合体であり、収縮低減剤はポリアルキレングリコールであること。
4)無機成分は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上を含むこと。
【発明の効果】
【0008】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水平レベル性及び流動性の優れたセルフレベリング性を有するモルタルを製造することができ、表面状態が良好で、水平レベル性の優れた硬化体を得ることができる。
さらに、本発明の自己流動性水硬性組成物を用いたモルタルは、高い流動性を有することから、施工厚1〜5mmの薄塗り施工においても優れた平滑性を得ることができ、且つ収縮低減剤と樹脂粉末とを添加することにより、施工厚が薄い場合に生じやすい乾燥によるクラックの発生も大幅に改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機成分と、流動化剤及び/又は増粘剤とを含み、さらに収縮低減剤と樹脂粉末とを含む自己流動性水硬性組成物に関する。
【0010】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる。
水硬性成分は、好ましくは
アルミナセメント30〜70質量部、ポルトランドセメント0〜45質量部及び石膏15〜50質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
さらに好ましくはアルミナセメント30〜50質量部、ポルトランドセメント23〜45質量部及び石膏15〜40質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成、
より好ましくはアルミナセメント35〜50質量部、ポルトランドセメント23〜45質量部及び石膏15〜35質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)、
特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント25〜40質量部及び石膏17〜27質量部(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計は、100質量部である。)からなる組成
を用いることにより、急硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0011】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0012】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0013】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0014】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含み、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
自己流動性水硬性組成物において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とするのが好ましい。
【0015】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜350質量部、より好ましくは30〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部、特に好ましくは70〜130質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0016】
本発明の自己流動性水硬性組成物では、自己流動性水硬性組成物と水とを混練したモルタルを薄層に施工した場合に発生しやすい乾燥クラックの防止・抑制効果をより高めるため、収縮低減剤と樹脂粉末とを併用して使用する。
【0017】
収縮低減剤は、乾燥による収縮を低減させてひび割れ抵抗性を高める効果がある。
収縮低減剤としては、ポリ(2〜12モル)プロピレングリコール、ポリ(2〜12モル)プロピレンポリ(2〜6モル)エチレングリコール等のポリアルキレングリコール類等の一般に公知のものを好適に使用できる。
収縮低減剤の使用量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは0.6〜4質量部、より好ましくは0.7〜3.5質量部、特に好ましくは0.8〜3質量部の範囲で用いると好適な乾燥収縮抑制効果が得られることから好ましい。
収縮低減剤の使用量が、0.5質量部未満ではひび割れ抑制の効果が不十分なことがあるため好ましくなく、5質量部を超えて添加した場合、硬化体強度の若干が見られことがあるため好ましくない。
【0018】
樹脂粉末は、乾燥によって発生する収縮応力がひび割れ発生に繋がる過程で、ひび割れの発生に対する抵抗性を向上させる効果がある。
樹脂粉末としては、樹脂の粉末化方法などの製法については特に限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、
また樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。
樹脂粉末は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化型の樹脂粉末を用いることが好ましく、特に、エチレン酢酸ビニル共重合体の再乳化型樹脂粉末を好適に用いることができる。
樹脂粉末の粒子径は、315μmふるい上残分が3%以下、さらに300μmふるい上残分が3%以下、特にさらに300μmふるい上残分が2%以下のものを好ましく用いることが出来る。
樹脂粉末は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは0.6〜4.5質量部、さらに好ましくは0.7〜4質量部、特に好ましくは0.8〜3.5質量部を配合したものを用いることができる。
【0019】
自己流動性水硬性組成物は、必要に応じてさらに細骨材を含むことができる。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは50〜400質量部、さらに好ましくは100〜300質量部、特に好ましくは150〜250質量部の範囲が好ましい。
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.075〜1.5mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.1〜1mmの骨材、特に好ましくは0.15〜0.6mmの骨材を主成分としていることが好ましい。
細骨材の種類は、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒、石灰石などの無機材料、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。
特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末、アルミナクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0020】
自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いる。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜1.0質量部、特に好ましくは0.05〜0.3質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合が考えられる。
【0021】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0022】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、水硬性組成物の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0023】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や水硬性組成物に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、水硬性組成物の可使時間と速硬性とを調整することができ、セルフレベリング材(自己流動性モルタル)としての使用が非常に容易になるため好ましい。
【0024】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸など、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0025】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムや酒石酸一ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0026】
凝結遅延剤は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部、特に好ましくは0.3〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できる
ことから好ましい。
【0027】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることが出来、例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩を好適に用いることが出来る。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0028】
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0029】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部、さらに好ましくは0.02〜0.3質量部、特に好ましくは0.02〜0.2質量部の範囲で用いることによって、水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性が得られることから好ましい。
【0030】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0031】
自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、硅砂などの細骨材、収縮低減剤、粉末樹脂、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤を含むものである。
【0032】
水硬性成分及び無機成分、細骨材、収縮低減剤、粉末樹脂、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤などを混合機で混合し、自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得ることができる。
【0033】
自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状のセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルを製造することができ、そのモルタルを硬化させて自己流動性水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0034】
自己流動性水硬性組成物は、水と混合・攪拌してモルタルを製造することができ、水の添加量を調整することにより、モルタルの流動性、可使時間、材料分離性、モルタル硬化体の強度などを調整することができる。
水の添加量は、自己流動性水硬性組成物100質量部に対し、好ましくは10〜40質量部、さらに好ましくは14〜34質量部、より好ましくは18〜30質量部、特に好ましくは22〜28質量部の範囲で添加して用いることが好ましい。
【0035】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するモルタルのフロー値が、好ましくは190〜270mm、さらに好ましくは200〜260mm、特に好ましくは210〜250mmに調整されていることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0036】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、セルフレベリング材として用いる場合は、床下地や、工場、倉庫、駐車場、ガソリンスタンド、厨房、マンション等における床仕上げ材に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0038】
(1)モルタルの評価:
評価に用いるモルタルは、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製した混練直後のモルタルを用いる。
・セルフレベリング性:フロー値及びSL値
フロー値は、JASS・15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き練り混ぜたコンクリート組成物を充填した後、パイプを引き上げる。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
SL値は、図1に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
同様に成形後20分又は30分後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL20又はL30とする。
評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
【0039】
(2)硬化体表面のクラック評価:
モルタル硬化体表面のクラック発生状態は、アクリル樹脂系エマルジョンプライマー(プライマーG:宇部興産社製)の3倍液(固形分濃度15%)を塗布し1日間乾燥させておいたコンクリート下地上に、得られるモルタルを流し込み、硬化後材齢7日で、目視により観察した。流し込みは、75cm×200cmの広さに、厚さ3mmで流し込んだ。評価は以下の通りとした。
○:クラック1本/m以下、△:2〜3本/m発生、×:4本/m以上発生
【0040】
(3)長さ変化率:
長さ変化率の測定は、図2に示す装置を用いる。長さ変化の測定は、混練直後のモルタルを型内部の型枠の高さまで打設し、打設直後より長さ変化の測定を開始し、測定間隔は5分毎で行い、材齢28日まで測定する。測定条件は、20℃、RH65%の気中で行う。
モルタルの硬化時の長さ変化率は、図2(a)に示すSUS製円盤5bと変位センサー4の端部(SUS製円盤5b側の端部)との間隔の変化量(mm)を、SUS製円盤5aとSUS製円盤5cとの間隔(480mm)で除した値とする。
図3は、モルタルの硬化時の材齢と長さ変化との関係を示す模式図である。ほとんどのモルタルは、図3と同様の傾向を示すと考えられる。図3において、初期に最も大きく収縮が発生した時点の長さ変化率をaとし、その後に最も大きな膨張が発生した時点の長さ変化率をbとし、材齢72時間時点の長さ変化率をcとし、材齢28日時点の長さ変化率をdとする。
本発明では、長さ変化率の差C、すなわち(b−d)の値を収縮率と定義し、表2に示す。
【0041】
(4)硬化体表面の状態:
モルタル硬化体表面の状態は、得られるモルタルを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込み、硬化後材齢24時間で、粉化及び凹凸の有無を目視で観察することで評価した。評価は以下の通りとした。
評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
○:無し、×:有り。
【0042】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分
・アルミナセメント(フォンジュ、ラファージュアルミネート社製、ブレーン比表面積3100cm/g)。
・ポルトランドセメント(早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g)。
・石膏:II型無水石膏(セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g)。
2)無機成分
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)。
3)細骨材
・珪砂:6号珪砂。
4)樹脂粉末
・樹脂粉末A:エチレン酢酸ビニル共重合体、DM1646P(ニチゴ−モビニール社製)。
・樹脂粉末B:酢酸ビニル・ベオバ共重合体、DM200(ニチゴーモビニール社製)。
5)収縮低減剤
・ポリプロピレングリコール系収縮低減剤:ヒビダン(竹本油脂社製)。
6)凝結調整剤:
・重炭酸Na:重炭酸ナトリウム(東ソー社製)。
・酒石酸Na:L−酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)。
・炭酸Li :炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)。
7)混和剤
・流動化剤:ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)。
・増粘剤 :ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤(マーポローズMX−30000、松本油脂社製)。
・消泡剤 :ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)。
【0043】
(実施例1〜3、比較例1、2)
表1に示す水硬性成分、細骨材、無機成分、収縮低減剤、樹脂粉末、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤(総量:1.5kg)を、ケミスタラーを用いて混練して水硬性組成物を調整し、さらに水390gを加えて3分間混練して、モルタルを得た。水硬性組成物及びスラリーの調整は、温度20℃、湿度65%の雰囲気下で行った。
【0044】
得られたモルタルを用いて、SL特性、硬化体表面クラック試験、長さ変化試験、硬化体表面観察を行った結果を表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
1)比較例1及び比較例5に示すように、収縮低減剤と樹脂粉末とを含まない場合、流動性(フロー値、SL値)は良好な性状を示し、硬化体表面のクラックについても、施工厚が10mmの場合は良好な結果が得られた。しかしながら、施工厚が3mmの場合、比較例1では硬化体表面1m当たりに4〜6本のクラックが、比較例5では硬化体表面1m当たりに2〜3本のクラックが見られた。
2)収縮低減剤のみを添加した比較例2の場合、比較例1と対比するとモルタルの収縮率が小さくなるものの、施工厚が3mmの場合の硬化体表面1m当たりに認められるクラック数はいくらか減少する程度であった。
3)樹脂粉末のみを添加した比較例3の場合、比較例1と対比するとモルタルの収縮率はいくらか小さくなるものの、収縮低減剤のみを添加した比較例2ほど収縮率の低減効果は得られていない。また、施工厚が3mmの場合の硬化体表面1m当たりに認められるクラック数は、比較例1(収縮低減剤:なし、樹脂粉末:なし)の場合と比較して、若干減少する程度であった。
4)収縮低減剤と樹脂粉末とを添加した実施例1及び実施例2の場合、流動性(フロー値、SL値)は良好な性状を示し、モルタル硬化体表面のクラックについても、施工厚が10mmの場合と、施工厚が3mmの場合のいずれの施工厚においても、硬化体表面1m当たりのクラック数は1本以下であった。
収縮低減剤と樹脂粉末とを併用することにより、施工厚が3mmという薄層施工を行った場合でも、モルタル硬化体表面のクラックを大幅に抑制・低減することができた。これは、モルタル硬化体の収縮を支配する毛細管空隙の水に収縮低減剤が溶解して表面張力を低下させ、乾燥時の毛細管張力を小さくして収縮を低減させる収縮低減剤の添加効果と、モルタル硬化体中の水分が蒸発する際に発生する応力に対する抵抗性を付与する樹脂成分(樹脂粉末に由来する)の添加効果とが、相乗効果として発現されたものと考えられる。
【0048】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水平レベル性及び流動性の優れたセルフレベリング性を有するモルタルを製造することができ、表面状態が優れ、水平レベルの優れた硬化体を得ることができる。
さらに、本発明の自己流動性水硬性組成物を用いたモルタルは、高い流動性を有することから、施工厚1〜5mmの薄塗り施工においても優れた平滑性を得ることができ、且つ収縮低減剤と樹脂粉末とを添加することにより、施工厚が薄い(施工厚:1〜5mm)場合に生じやすい乾燥によるクラックの発生も大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】SL測定器を用いた、モルタルのセルフレベリング性評価の概略を示す模式図である。
【図2】モルタルが硬化する過程の長さ変化を測定する装置の模式図である。
【図3】モルタルが硬化する過程の長さ変化の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0050】
1:長さ変化測定装置
2:型枠
3:緩衝材
4:渦電流式変位センサー
5:SUS製円盤(5a,5b,5c)
6:SUS棒(6a,6b)
7:フッ素樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分と、無機成分と、流動化剤及び/又は増粘剤とを含み、さらに収縮低減剤と樹脂粉末とを含むこと
を特徴とする自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性成分が、アルミナセメント20〜90質量%、ポルトランドセメント0〜75質量%及び石膏5〜50質量%(但しポルトランドセメントは0質量%を除く)からなる水硬性成分であること
を特徴とする請求項1に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性成分100質量部に対し、樹脂粉末を0.5〜5質量部、収縮低減剤を0.5〜5質量部含むこと
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
樹脂粉末はエチレン酢酸ビニル共重合体であり、収縮低減剤はポリアルキレングリコールであること
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項5】
無機成分は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ及びシリカヒュームから選ばれる少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルを硬化させて得られる硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−127247(P2008−127247A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314824(P2006−314824)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】