航空機用スキッドレール及びその製造方法
【課題】 耐摩耗性及び加工性に優れた航空機用スキッドレール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 (i) 航空機の胴体下腹部に接合される長板部21、及びその長手方向に一体的に隔設されたボス部22a〜22iを有する基部2と、(ii) レール状一体構造物を形成するように、ボス部22a〜22iの間に接着された芯部3a〜3hと、(iii) ボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hを被覆する外皮部4とを有し、基部2及び外皮部4がガラス繊維及び/又は炭素繊維の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、芯部3a〜3hが前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなる航空機用スキッドレール。
【解決手段】 (i) 航空機の胴体下腹部に接合される長板部21、及びその長手方向に一体的に隔設されたボス部22a〜22iを有する基部2と、(ii) レール状一体構造物を形成するように、ボス部22a〜22iの間に接着された芯部3a〜3hと、(iii) ボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hを被覆する外皮部4とを有し、基部2及び外皮部4がガラス繊維及び/又は炭素繊維の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、芯部3a〜3hが前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなる航空機用スキッドレール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性及び加工性に優れた航空機用スキッドレール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
滑走路等に接触した場合に航空機の胴体の損傷を防ぐ保護装置として、航空機の胴体下部に設けられるスキッドレールや、尾部の下部に設けられるテールスキッド等がある。胴体着陸時にスキッドレールが全て磨耗してしまうと、キャリースルータンクを十分に保護することができないので、スキッドレールは十分な耐摩耗性を有する必要がある。従来スキッドレールやテールスキッドはガラス繊維強化プラスチックにより作製されていた。例えば特開2000-344196号(特許文献1)は、磨耗の少ない航空機用テールスキッドとして、ガラス繊維強化プラスチックからなるローラ式パッドを先端に有する格納式のテールスキッドを提案している。しかし、ガラス繊維強化プラスチックは耐摩耗性が十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-344196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の目的は、耐摩耗性及び加工性に優れた航空機用スキッドレール及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ガラス繊維強化プラスチックの耐摩耗性が不十分であることに鑑み、例えばポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維のような高耐摩耗性繊維の強化プラスチックによりスキッドレール全体を形成することが考えられる。しかし、このような高耐摩耗性繊維強化プラスチックは加工性が低いので、スキッドレールにファスナ用の凹部や孔を加工するのが著しく困難であるという問題がある。上記問題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、(a) 長手方向に一体的に隔設された複数のボス部を有する長板部からなる基部と、長板部上のボス部の間に接着された複数の芯部と、ボス部及び芯部を被覆する外皮部とにより構成し、(b) 長板部及び外皮部をガラス繊維及び/又は炭素繊維製を含み、加工性に優れた第一の繊維強化プラスチックにより形成するとともに、芯部を第一の繊維強化プラスチックより耐摩耗性に優れた第二の繊維強化プラスチックにより形成すると、耐摩耗性及び加工性にともに優れた航空機用スキッドレールが得られることを見出し、本発明に想到した。
【0006】
すなわち、航空機の胴体下腹部に設けられる本発明のスキッドレールは、(i) 前記航空機の胴体下腹部に接合される長板部、及び前記長板部の外面に長手方向に一体的に隔設された複数のボス部を有する基部と、(ii) レール状の一体構造物を形成するように、前記長板部上の前記ボス部の間に接着された複数の芯部と、(iii) 前記ボス部及び前記芯部を被覆する外皮部とを有し、前記基部及び前記外皮部がガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部が前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなることを特徴とする。
【0007】
前記芯部は前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させてなり、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材は前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように配置されているのが好ましい。この構成により、一層優れた耐摩耗性が得られる。
【0008】
前記第一の繊維強化プラスチックはガラス繊維布基材とマトリックス樹脂とからなり、前記第二の繊維強化プラスチックはガラス繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材とマトリックス樹脂とからなるのが好ましい。
【0009】
(1) 前記基部及び前記外皮部がともにガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、(2) 前記基部がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、及び(3) 前記基部及び前記外皮部がともに炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せのいずれかであるのが好ましい。
【0010】
前記基部はガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部は炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部は第二の繊維強化プラスチックからなるのが好ましい。
【0011】
前記耐摩耗性繊維はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリイミド繊維及び芳香族ポリエステル繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0012】
前記ボス部にファスナ挿入用凹部が設けられているのが好ましい。前記芯部は前記ボス部に隙間なく密着しているのが好ましい。
【0013】
上記航空機用スキッドレールの製造方法は、(1) 前記第一の繊維強化プラスチックからなる硬化プリプレグ積層体のブロックを切削することにより前記基部を形成し、(2) 前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させることにより前記芯部を形成し、(3) 前記基部及び前記芯部を接着して前記レール状一体構造物を形成し、(4) 前記ボス部及び前記芯部を前記第一の繊維強化プラスチックからなるプリプレグで被覆し、(5) 前記プリプレグを硬化させて外皮部を形成することを特徴とする。
【0014】
前記工程(3)で、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材が前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように前記芯部を配置するのが好ましい。前記工程(5)の後で、ファスナ挿入用凹部を前記ボス部に形成するのが好ましい。前記工程(5)の後、前記外皮部の表面を平滑化してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の航空機用スキッドレールは、複数のボス部を有する長板部からなる基部と、長板部上のボス部の間に接着された複数の芯部と、両者を被覆する外皮部とにより構成されており、長板部及び外皮部は加工性に優れた第一の繊維強化プラスチックにより形成され、芯部は耐摩耗性に優れた第二の繊維強化プラスチックにより形成されているので、十分な耐摩耗性と加工性を兼備している。そのため、胴体着陸等の際外皮部が摩耗しても、芯部は航空機が停止するまでに摩耗により消失することはない。その結果、胴体下腹部が滑走路等に直接接触するのを十分に防止することができる。その上、航空機胴体への接合用孔を設ける加工等が容易である。このようなスキッドレールは、胴体の下腹部内にキャリースルータンクを有する小型航空機に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1(a)】本発明のスキッドレールの一例を示す平面図である。
【図1(b)】本発明のスキッドレールの一例を示す長手方向側面図である。
【図2(a)】本発明のスキッドレールを示す斜視図である。
【図2(b)】本発明のスキッドレールを示す分解斜視図である。
【図2(c)】図2(a)の芯部を示す部分拡大斜視図である。
【図3】第一の繊維強化プラスチックブロックとそれから得られる基部との関係を長手方向及び短手方向の側面で示す図である。
【図4(a)】芯部を形成するための二個の未硬化プリプレグ積層体を示す斜視図である。
【図4(b)】二個の硬化プリプレグ積層体を接着してなる芯部を示す斜視図である。
【図5】芯部を接着した基部を示す長手方向側面図である。
【図6】図5のA-A断面図である。
【図7】本発明のスキッドレールにおいて芯部及びボス部と外皮部との関係を示す長手方向側面図である。
【図8】図7のB-B断面図である。
【図9】外皮部の表面の平滑化工程を示す断面図である。
【図10】ボス部の一つにファスナ挿入用凹部を形成する工程を示す断面図である。
【図11(a)】別のボス部にファスナ挿入用凹部を形成する工程を示す断面図である。
【図11(b)】ファスナ接合用孔を設けた基部を示す断面図である。
【図12】本発明のスキッドレールを具備する航空機の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1] スキッドレール
図1及び図2は本発明の航空機用スキッドレールの一例を示す。このスキッドレール1は、(i) 航空機の胴体下腹部に接合される長板部21、及び長板部21の外面に長手方向に一体的に隔設され、ファスナ(リベット、ボルト等)6を挿入する凹部220が設けられた複数のボス部22a〜22iを一体的に有する基部2と、(ii) レール状の一体構造物を形成するように、長板部21上のボス部22a〜22iの間に接着された複数の芯部3a〜3hと、(iii) ボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hを被覆する外皮部4とからなる。基部2及び外皮部4はガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、芯部3a〜3hは前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維(単に「耐摩耗性繊維」という)を含む布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなる。
【0018】
(1) 材料
(a) 第一の繊維強化プラスチック
第一の繊維強化プラスチックは、ガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材と、マトリックス樹脂とを含む。布基材は織布、不織布及び編布のいずれでもよいが、強度の観点から織布が好ましい。マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用できる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等が挙げられる。
【0019】
加工性の観点から、第一の繊維強化プラスチックはガラス繊維を含有するのが好ましい。加工性、機械的強度及び耐熱性の観点から、ガラス繊維とエポキシ樹脂との組合せ、又はガラス繊維とポリエーテルエーテルケトンとの組合せがより好ましい。上記繊維とマトリックス樹脂との配合割合は適宜調整する。
【0020】
(b) 第二の繊維強化プラスチック
第二の繊維強化プラスチックは第一の繊維強化プラスチックの繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材とマトリックス樹脂とを含む。特に耐摩耗性に優れた繊維(以下単に「耐摩耗性繊維」という)としては、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリイミド繊維及び芳香族ポリエステル繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましく、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維がより好ましい。ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の市販品として、例えばザイロン(東洋紡績株式会社)がある。良好な耐摩耗性を得るために、耐摩耗性繊維の充填密度は第二の繊維強化プラスチック1cm3当たり1.5 g以上が好ましい。耐摩耗性繊維の布基材は織布、不織布及び編布のいずれでもよいが、強度の観点から織布が好ましい。マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。第二の繊維強化プラスチックは、耐摩耗性を損なわない範囲でガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含んでもよい。
【0021】
(c) 第一及び第二の繊維強化プラスチックの組合せ
第一及び第二の繊維強化プラスチックの組合せは、第二の繊維強化プラスチック中の繊維が第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有するという条件を満たす必要がある。この条件を満たす例には、(1) 第一の繊維強化プラスチックがガラス繊維とマトリックス樹脂とからなり、第二の繊維強化プラスチックが炭素繊維又はそれよりさらに高い耐摩耗性を有する繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド又は芳香族ポリエステルの繊維)とマトリックス樹脂とからなる場合、及び(2) 第一の繊維強化プラスチックが炭素繊維とマトリックス樹脂とからなり、第二の繊維強化プラスチックがポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド又は芳香族ポリエステルの繊維とマトリックス樹脂とからなる場合があるが、勿論限定的ではない。いずれの場合も、第一及び第二の繊維強化プラスチック中のマトリックス樹脂は熱硬化性樹脂であるのが好ましい。
【0022】
基部2と外皮部4は同じ第一の繊維強化プラスチックで形成されている必要はない。具体的には、(1) 基部2及び外皮部4がともにガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、(2) 基部2がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、外皮部4が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、及び(3) 基部2及び外皮部4がともに炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せがある。基部2がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる場合、芯部3a〜3hは炭素繊維布基材又は耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックからなるのが好ましい。基部2が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる場合、芯部3a〜3hは耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックからなるのが好ましい。特に耐摩耗性と加工性の両立を考慮すると、基部2を加工が容易なガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックにより形成し、外皮部4を強度に優れた炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックにより形成し、芯部3a〜3hを耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックにより形成するのが好ましい。
【0023】
(2) 形状
図1及び図2に示すように、スキッドレール1全体が空気抵抗の小さな流線形状となるように、ボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hは台形状の断面形状を有し、かつ両端側のボス部及び芯部は小さくなっている。ボス部22a〜22iと芯部3a〜3hとの間に段差が生じないように、芯部3a〜3hの外形及びサイズと、ボス部22a〜22iの外形及びサイズとを合わせる。芯部3a〜3hは長板部21だけでなくボス部22a〜22iとも隙間なく密着する必要がある。そのため、これらの部品はいずれも平坦な表面を有する。
【0024】
芯部3a〜3hの断面形状及びサイズは、胴体腹部内のキャリースルータンクを保護できるように、航空機の空力特性が悪化しない範囲で、胴体着陸したときのスキッドレール1の耐磨耗時間が機体滑走時間(例えば機体重量が約4.2 tで、着陸時の速度が約200 km/hの場合、約17秒)を超えるように設定する。例えば、重量が約4.2 tの小型航空機に図示のような台形状断面のスキッドレール1を並列に二本設ける場合、芯部3a〜3hの合計長さを約1〜2mとし、底面幅Wを約3〜5cmとし、高さHを約2.5〜5cmとすることができる。
【0025】
各芯部3a〜3hを構成する布基材は長板部21に対してほぼ垂直方向に配向している。図2(c)は硬化プリプレグ31からなる芯部3fを例示する。このような構成により優れた耐摩耗性が得られる。
【0026】
図1は9個のボス部を有するスキッドレール1を示すが、ボス部の数及び位置は、ファスナ6の取り付け数及び位置に応じて適宜変更しても良い。ボス部22a〜22iに設けたファスナ挿入用凹部220の位置も、ファスナ6の取り付け位置に応じて適宜設定することができる。ボス部22a〜22iの厚さT(スキッドレール1の長手方向)は、凹部220の直径Dに応じて適宜設定すればよい。基部2が比較的加工が容易な第一の繊維強化プラスチックからなるので、ボス部22a〜22iにファスナ挿入用凹部220を形成するのは容易である。
【0027】
芯部3a〜3hはボス部22a〜22iの各間に配置され接着されるので、胴体着陸時にスキッドレール1と滑走路等との強い摩擦力でも芯部3a〜3hが基部2から剥がれることはない。長板部21の一端部は、スキッドレール1を取り付ける胴体の形状に応じてカーブしても良い。長板部21は、胴体着陸した場合にボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hの脱落を防止し得るように十分な面積を有する。
【0028】
外皮部4は、加工が比較的容易な第一の繊維強化プラスチックからなるので、切削、研磨等により容易に表面を平滑化することができる。外皮部4の厚さは約0.5〜3mmでよい。
【0029】
[2] スキッドレールの製造方法
(1) 基部の形成
図3に示すように、第一の繊維強化プラスチックのプリプレグを積層・硬化してなるブロック12を切削加工し、長板部21及びボス部22a〜22iを有する基部2を形成する。
【0030】
(2) 芯部の形成
芯部3a〜3hの形成方法を芯部3fを例にとって説明する。図4(a)に示すように、まず芯部3fを布基材の配向方向に沿って二等分したほぼ三角形状の未硬化プリプレグ積層体31f’及び32f’を形成し、それらを硬化した後接着することにより芯部3fをするのが好ましい。各未硬化プリプレグ積層体31f’,32f’は、成形型を用いて第二の繊維強化プラスチックからなり徐々に幅が変化する多数の短冊状プリプレグ31’を積層することにより形成する。各プリプレグ積層体31f’,32f’を硬化させた後、図4(b)に示すように接着剤5で接着し、台形状の芯部3fを形成する。このような方法により、加工性が低い第二の繊維強化プラスチックからなる芯部3a〜3hを容易に形成することができる。
【0031】
(3) 基部及び芯部の接着
図5及び図6に示すように、ボス部22a〜22iの各間において長板部21上に芯部3a〜3hを配置し、基部2及び芯部3a〜3hを接着剤5で接着する。
【0032】
(4) 外皮部の形成
図7及び図8に示すように、芯部3a〜3hと基部2(ボス部22a〜22i及び長板部21)とを第一の繊維強化プラスチックからなる未硬化プリプレグ4’で被覆し、硬化させて外皮部4を形成する。
【0033】
(5) 表面平滑化
空気抵抗を一層小さくするために、図9に示すように、グラインダ等の研摩手段7を用いて外皮部4の表面を平滑化してもよい。また外皮部4の形成前に、芯部3a〜3hと基部2の露出部をマトリックス樹脂と同じ樹脂で被覆し、表面を平滑化しても良い。さらに樹脂被覆及び表面平滑化の後で外皮部4を形成し、さらに表面平滑化処理を行っても良い。
【0034】
(6) ファスナ挿入用凹部の形成
ボス部22a〜22iにファスナ挿入用凹部220を形成する。図10及び図11(a)に例示するように、エンドミル等の切削手段8を用いて各ボス部22a〜22iに凹部220を形成する。
【0035】
(7) 接合用孔の形成
各凹部220の平坦な底部(座面部)220aを、ドリル等により穿孔して、図11(b)に示すように、基部2の長板部21に接合用孔221を設ける。
【0036】
[3] 航空機
図12は、本発明の一対のスキッドレール1,1が胴体下腹部に並行に取り付けられた航空機の一例を示す。優れた耐摩耗性を有する本発明のスキッドレールは、胴体下腹部内にキャリースルータンクを有する小型航空機に適している。図示の例ではスキッドレールを二本設けているが、スキッドレールの数は限定的ではない。
【0037】
以上の通り本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はそれらに限定されず、本発明の趣旨を変更しない限り種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0038】
1・・・スキッドレール
2・・・基部
21・・・長板部
22a〜22i・・・ボス部
220・・・ファスナ挿入用凹部
220a・・・底部
221・・・接合用孔
12・・・第一の繊維強化プラスチックからなるブロック
3a〜3h・・・芯部
31’・・・未硬化プリプレグ
31・・・硬化プリプレグ
31f’,32f’・・・未硬化プリプレグ積層体
31f,32f・・・硬化プリプレグ積層体
4・・・外皮部
4’・・・外皮部用未硬化プリプレグ
5・・・接着剤
6・・・ファスナ
7・・・研摩手段
8・・・切削手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性及び加工性に優れた航空機用スキッドレール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
滑走路等に接触した場合に航空機の胴体の損傷を防ぐ保護装置として、航空機の胴体下部に設けられるスキッドレールや、尾部の下部に設けられるテールスキッド等がある。胴体着陸時にスキッドレールが全て磨耗してしまうと、キャリースルータンクを十分に保護することができないので、スキッドレールは十分な耐摩耗性を有する必要がある。従来スキッドレールやテールスキッドはガラス繊維強化プラスチックにより作製されていた。例えば特開2000-344196号(特許文献1)は、磨耗の少ない航空機用テールスキッドとして、ガラス繊維強化プラスチックからなるローラ式パッドを先端に有する格納式のテールスキッドを提案している。しかし、ガラス繊維強化プラスチックは耐摩耗性が十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-344196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の目的は、耐摩耗性及び加工性に優れた航空機用スキッドレール及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ガラス繊維強化プラスチックの耐摩耗性が不十分であることに鑑み、例えばポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維のような高耐摩耗性繊維の強化プラスチックによりスキッドレール全体を形成することが考えられる。しかし、このような高耐摩耗性繊維強化プラスチックは加工性が低いので、スキッドレールにファスナ用の凹部や孔を加工するのが著しく困難であるという問題がある。上記問題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、(a) 長手方向に一体的に隔設された複数のボス部を有する長板部からなる基部と、長板部上のボス部の間に接着された複数の芯部と、ボス部及び芯部を被覆する外皮部とにより構成し、(b) 長板部及び外皮部をガラス繊維及び/又は炭素繊維製を含み、加工性に優れた第一の繊維強化プラスチックにより形成するとともに、芯部を第一の繊維強化プラスチックより耐摩耗性に優れた第二の繊維強化プラスチックにより形成すると、耐摩耗性及び加工性にともに優れた航空機用スキッドレールが得られることを見出し、本発明に想到した。
【0006】
すなわち、航空機の胴体下腹部に設けられる本発明のスキッドレールは、(i) 前記航空機の胴体下腹部に接合される長板部、及び前記長板部の外面に長手方向に一体的に隔設された複数のボス部を有する基部と、(ii) レール状の一体構造物を形成するように、前記長板部上の前記ボス部の間に接着された複数の芯部と、(iii) 前記ボス部及び前記芯部を被覆する外皮部とを有し、前記基部及び前記外皮部がガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部が前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなることを特徴とする。
【0007】
前記芯部は前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させてなり、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材は前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように配置されているのが好ましい。この構成により、一層優れた耐摩耗性が得られる。
【0008】
前記第一の繊維強化プラスチックはガラス繊維布基材とマトリックス樹脂とからなり、前記第二の繊維強化プラスチックはガラス繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材とマトリックス樹脂とからなるのが好ましい。
【0009】
(1) 前記基部及び前記外皮部がともにガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、(2) 前記基部がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、及び(3) 前記基部及び前記外皮部がともに炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せのいずれかであるのが好ましい。
【0010】
前記基部はガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部は炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部は第二の繊維強化プラスチックからなるのが好ましい。
【0011】
前記耐摩耗性繊維はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリイミド繊維及び芳香族ポリエステル繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0012】
前記ボス部にファスナ挿入用凹部が設けられているのが好ましい。前記芯部は前記ボス部に隙間なく密着しているのが好ましい。
【0013】
上記航空機用スキッドレールの製造方法は、(1) 前記第一の繊維強化プラスチックからなる硬化プリプレグ積層体のブロックを切削することにより前記基部を形成し、(2) 前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させることにより前記芯部を形成し、(3) 前記基部及び前記芯部を接着して前記レール状一体構造物を形成し、(4) 前記ボス部及び前記芯部を前記第一の繊維強化プラスチックからなるプリプレグで被覆し、(5) 前記プリプレグを硬化させて外皮部を形成することを特徴とする。
【0014】
前記工程(3)で、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材が前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように前記芯部を配置するのが好ましい。前記工程(5)の後で、ファスナ挿入用凹部を前記ボス部に形成するのが好ましい。前記工程(5)の後、前記外皮部の表面を平滑化してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の航空機用スキッドレールは、複数のボス部を有する長板部からなる基部と、長板部上のボス部の間に接着された複数の芯部と、両者を被覆する外皮部とにより構成されており、長板部及び外皮部は加工性に優れた第一の繊維強化プラスチックにより形成され、芯部は耐摩耗性に優れた第二の繊維強化プラスチックにより形成されているので、十分な耐摩耗性と加工性を兼備している。そのため、胴体着陸等の際外皮部が摩耗しても、芯部は航空機が停止するまでに摩耗により消失することはない。その結果、胴体下腹部が滑走路等に直接接触するのを十分に防止することができる。その上、航空機胴体への接合用孔を設ける加工等が容易である。このようなスキッドレールは、胴体の下腹部内にキャリースルータンクを有する小型航空機に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1(a)】本発明のスキッドレールの一例を示す平面図である。
【図1(b)】本発明のスキッドレールの一例を示す長手方向側面図である。
【図2(a)】本発明のスキッドレールを示す斜視図である。
【図2(b)】本発明のスキッドレールを示す分解斜視図である。
【図2(c)】図2(a)の芯部を示す部分拡大斜視図である。
【図3】第一の繊維強化プラスチックブロックとそれから得られる基部との関係を長手方向及び短手方向の側面で示す図である。
【図4(a)】芯部を形成するための二個の未硬化プリプレグ積層体を示す斜視図である。
【図4(b)】二個の硬化プリプレグ積層体を接着してなる芯部を示す斜視図である。
【図5】芯部を接着した基部を示す長手方向側面図である。
【図6】図5のA-A断面図である。
【図7】本発明のスキッドレールにおいて芯部及びボス部と外皮部との関係を示す長手方向側面図である。
【図8】図7のB-B断面図である。
【図9】外皮部の表面の平滑化工程を示す断面図である。
【図10】ボス部の一つにファスナ挿入用凹部を形成する工程を示す断面図である。
【図11(a)】別のボス部にファスナ挿入用凹部を形成する工程を示す断面図である。
【図11(b)】ファスナ接合用孔を設けた基部を示す断面図である。
【図12】本発明のスキッドレールを具備する航空機の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1] スキッドレール
図1及び図2は本発明の航空機用スキッドレールの一例を示す。このスキッドレール1は、(i) 航空機の胴体下腹部に接合される長板部21、及び長板部21の外面に長手方向に一体的に隔設され、ファスナ(リベット、ボルト等)6を挿入する凹部220が設けられた複数のボス部22a〜22iを一体的に有する基部2と、(ii) レール状の一体構造物を形成するように、長板部21上のボス部22a〜22iの間に接着された複数の芯部3a〜3hと、(iii) ボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hを被覆する外皮部4とからなる。基部2及び外皮部4はガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、芯部3a〜3hは前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維(単に「耐摩耗性繊維」という)を含む布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなる。
【0018】
(1) 材料
(a) 第一の繊維強化プラスチック
第一の繊維強化プラスチックは、ガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材と、マトリックス樹脂とを含む。布基材は織布、不織布及び編布のいずれでもよいが、強度の観点から織布が好ましい。マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用できる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等が挙げられる。
【0019】
加工性の観点から、第一の繊維強化プラスチックはガラス繊維を含有するのが好ましい。加工性、機械的強度及び耐熱性の観点から、ガラス繊維とエポキシ樹脂との組合せ、又はガラス繊維とポリエーテルエーテルケトンとの組合せがより好ましい。上記繊維とマトリックス樹脂との配合割合は適宜調整する。
【0020】
(b) 第二の繊維強化プラスチック
第二の繊維強化プラスチックは第一の繊維強化プラスチックの繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材とマトリックス樹脂とを含む。特に耐摩耗性に優れた繊維(以下単に「耐摩耗性繊維」という)としては、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリイミド繊維及び芳香族ポリエステル繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましく、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維がより好ましい。ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の市販品として、例えばザイロン(東洋紡績株式会社)がある。良好な耐摩耗性を得るために、耐摩耗性繊維の充填密度は第二の繊維強化プラスチック1cm3当たり1.5 g以上が好ましい。耐摩耗性繊維の布基材は織布、不織布及び編布のいずれでもよいが、強度の観点から織布が好ましい。マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。第二の繊維強化プラスチックは、耐摩耗性を損なわない範囲でガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含んでもよい。
【0021】
(c) 第一及び第二の繊維強化プラスチックの組合せ
第一及び第二の繊維強化プラスチックの組合せは、第二の繊維強化プラスチック中の繊維が第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有するという条件を満たす必要がある。この条件を満たす例には、(1) 第一の繊維強化プラスチックがガラス繊維とマトリックス樹脂とからなり、第二の繊維強化プラスチックが炭素繊維又はそれよりさらに高い耐摩耗性を有する繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド又は芳香族ポリエステルの繊維)とマトリックス樹脂とからなる場合、及び(2) 第一の繊維強化プラスチックが炭素繊維とマトリックス樹脂とからなり、第二の繊維強化プラスチックがポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド又は芳香族ポリエステルの繊維とマトリックス樹脂とからなる場合があるが、勿論限定的ではない。いずれの場合も、第一及び第二の繊維強化プラスチック中のマトリックス樹脂は熱硬化性樹脂であるのが好ましい。
【0022】
基部2と外皮部4は同じ第一の繊維強化プラスチックで形成されている必要はない。具体的には、(1) 基部2及び外皮部4がともにガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、(2) 基部2がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、外皮部4が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、及び(3) 基部2及び外皮部4がともに炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せがある。基部2がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる場合、芯部3a〜3hは炭素繊維布基材又は耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックからなるのが好ましい。基部2が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる場合、芯部3a〜3hは耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックからなるのが好ましい。特に耐摩耗性と加工性の両立を考慮すると、基部2を加工が容易なガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックにより形成し、外皮部4を強度に優れた炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックにより形成し、芯部3a〜3hを耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックにより形成するのが好ましい。
【0023】
(2) 形状
図1及び図2に示すように、スキッドレール1全体が空気抵抗の小さな流線形状となるように、ボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hは台形状の断面形状を有し、かつ両端側のボス部及び芯部は小さくなっている。ボス部22a〜22iと芯部3a〜3hとの間に段差が生じないように、芯部3a〜3hの外形及びサイズと、ボス部22a〜22iの外形及びサイズとを合わせる。芯部3a〜3hは長板部21だけでなくボス部22a〜22iとも隙間なく密着する必要がある。そのため、これらの部品はいずれも平坦な表面を有する。
【0024】
芯部3a〜3hの断面形状及びサイズは、胴体腹部内のキャリースルータンクを保護できるように、航空機の空力特性が悪化しない範囲で、胴体着陸したときのスキッドレール1の耐磨耗時間が機体滑走時間(例えば機体重量が約4.2 tで、着陸時の速度が約200 km/hの場合、約17秒)を超えるように設定する。例えば、重量が約4.2 tの小型航空機に図示のような台形状断面のスキッドレール1を並列に二本設ける場合、芯部3a〜3hの合計長さを約1〜2mとし、底面幅Wを約3〜5cmとし、高さHを約2.5〜5cmとすることができる。
【0025】
各芯部3a〜3hを構成する布基材は長板部21に対してほぼ垂直方向に配向している。図2(c)は硬化プリプレグ31からなる芯部3fを例示する。このような構成により優れた耐摩耗性が得られる。
【0026】
図1は9個のボス部を有するスキッドレール1を示すが、ボス部の数及び位置は、ファスナ6の取り付け数及び位置に応じて適宜変更しても良い。ボス部22a〜22iに設けたファスナ挿入用凹部220の位置も、ファスナ6の取り付け位置に応じて適宜設定することができる。ボス部22a〜22iの厚さT(スキッドレール1の長手方向)は、凹部220の直径Dに応じて適宜設定すればよい。基部2が比較的加工が容易な第一の繊維強化プラスチックからなるので、ボス部22a〜22iにファスナ挿入用凹部220を形成するのは容易である。
【0027】
芯部3a〜3hはボス部22a〜22iの各間に配置され接着されるので、胴体着陸時にスキッドレール1と滑走路等との強い摩擦力でも芯部3a〜3hが基部2から剥がれることはない。長板部21の一端部は、スキッドレール1を取り付ける胴体の形状に応じてカーブしても良い。長板部21は、胴体着陸した場合にボス部22a〜22i及び芯部3a〜3hの脱落を防止し得るように十分な面積を有する。
【0028】
外皮部4は、加工が比較的容易な第一の繊維強化プラスチックからなるので、切削、研磨等により容易に表面を平滑化することができる。外皮部4の厚さは約0.5〜3mmでよい。
【0029】
[2] スキッドレールの製造方法
(1) 基部の形成
図3に示すように、第一の繊維強化プラスチックのプリプレグを積層・硬化してなるブロック12を切削加工し、長板部21及びボス部22a〜22iを有する基部2を形成する。
【0030】
(2) 芯部の形成
芯部3a〜3hの形成方法を芯部3fを例にとって説明する。図4(a)に示すように、まず芯部3fを布基材の配向方向に沿って二等分したほぼ三角形状の未硬化プリプレグ積層体31f’及び32f’を形成し、それらを硬化した後接着することにより芯部3fをするのが好ましい。各未硬化プリプレグ積層体31f’,32f’は、成形型を用いて第二の繊維強化プラスチックからなり徐々に幅が変化する多数の短冊状プリプレグ31’を積層することにより形成する。各プリプレグ積層体31f’,32f’を硬化させた後、図4(b)に示すように接着剤5で接着し、台形状の芯部3fを形成する。このような方法により、加工性が低い第二の繊維強化プラスチックからなる芯部3a〜3hを容易に形成することができる。
【0031】
(3) 基部及び芯部の接着
図5及び図6に示すように、ボス部22a〜22iの各間において長板部21上に芯部3a〜3hを配置し、基部2及び芯部3a〜3hを接着剤5で接着する。
【0032】
(4) 外皮部の形成
図7及び図8に示すように、芯部3a〜3hと基部2(ボス部22a〜22i及び長板部21)とを第一の繊維強化プラスチックからなる未硬化プリプレグ4’で被覆し、硬化させて外皮部4を形成する。
【0033】
(5) 表面平滑化
空気抵抗を一層小さくするために、図9に示すように、グラインダ等の研摩手段7を用いて外皮部4の表面を平滑化してもよい。また外皮部4の形成前に、芯部3a〜3hと基部2の露出部をマトリックス樹脂と同じ樹脂で被覆し、表面を平滑化しても良い。さらに樹脂被覆及び表面平滑化の後で外皮部4を形成し、さらに表面平滑化処理を行っても良い。
【0034】
(6) ファスナ挿入用凹部の形成
ボス部22a〜22iにファスナ挿入用凹部220を形成する。図10及び図11(a)に例示するように、エンドミル等の切削手段8を用いて各ボス部22a〜22iに凹部220を形成する。
【0035】
(7) 接合用孔の形成
各凹部220の平坦な底部(座面部)220aを、ドリル等により穿孔して、図11(b)に示すように、基部2の長板部21に接合用孔221を設ける。
【0036】
[3] 航空機
図12は、本発明の一対のスキッドレール1,1が胴体下腹部に並行に取り付けられた航空機の一例を示す。優れた耐摩耗性を有する本発明のスキッドレールは、胴体下腹部内にキャリースルータンクを有する小型航空機に適している。図示の例ではスキッドレールを二本設けているが、スキッドレールの数は限定的ではない。
【0037】
以上の通り本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はそれらに限定されず、本発明の趣旨を変更しない限り種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0038】
1・・・スキッドレール
2・・・基部
21・・・長板部
22a〜22i・・・ボス部
220・・・ファスナ挿入用凹部
220a・・・底部
221・・・接合用孔
12・・・第一の繊維強化プラスチックからなるブロック
3a〜3h・・・芯部
31’・・・未硬化プリプレグ
31・・・硬化プリプレグ
31f’,32f’・・・未硬化プリプレグ積層体
31f,32f・・・硬化プリプレグ積層体
4・・・外皮部
4’・・・外皮部用未硬化プリプレグ
5・・・接着剤
6・・・ファスナ
7・・・研摩手段
8・・・切削手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の胴体下腹部に設けられるスキッドレールであって、(i) 前記航空機の胴体下腹部に接合される長板部、及び前記長板部の外面に長手方向に一体的に隔設された複数のボス部を有する基部と、(ii) レール状の一体構造物を形成するように、前記長板部上の前記ボス部の間に接着された複数の芯部と、(iii) 前記ボス部及び前記芯部を被覆する外皮部とを有し、前記基部及び前記外皮部がガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部が前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項2】
請求項1に記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記芯部は、前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させてなり、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材が前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように配置されていることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記第一の繊維強化プラスチックはガラス繊維布基材とマトリックス樹脂とからなり、前記第二の繊維強化プラスチックはガラス繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材とマトリックス樹脂とからなることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の航空機用スキッドレールにおいて、(1) 前記基部及び前記外皮部がともにガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、(2) 前記基部がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、及び(3) 前記基部及び前記外皮部がともに炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せのいずれかであることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項5】
請求項4に記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記基部はガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部は炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部は耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックからなることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項6】
請求項項1〜5のいずれかに記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記耐摩耗性繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリイミド繊維及び芳香族ポリエステル繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記ボス部にファスナ挿入用凹部が設けられていることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記芯部が前記ボス部に隙間なく密着していることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の航空機用スキッドレールの製造方法であって、(1) 前記第一の繊維強化プラスチックからなる硬化プリプレグ積層体のブロックを切削することにより前記基部を形成し、(2) 前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させることにより前記芯部を形成し、(3) 前記基部及び前記芯部を接着して前記レール状一体構造物を形成し、(4) 前記ボス部及び前記芯部を前記第一の繊維強化プラスチックからなるプリプレグで被覆し、(5) 前記プリプレグを硬化させて外皮部を形成することを特徴とする航空機用スキッドレールの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の航空機用スキッドレールの製造方法において、前記工程(3)で、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材が前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように、前記芯部を前記基部に配置することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の航空機用スキッドレールの製造方法において、前記工程(5)の後で、ファスナ挿入用凹部を前記ボス部に形成することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の航空機用スキッドレールの製造方法において、前記工程(5)の後、前記外皮部の表面を平滑化することを特徴とする方法。
【請求項1】
航空機の胴体下腹部に設けられるスキッドレールであって、(i) 前記航空機の胴体下腹部に接合される長板部、及び前記長板部の外面に長手方向に一体的に隔設された複数のボス部を有する基部と、(ii) レール状の一体構造物を形成するように、前記長板部上の前記ボス部の間に接着された複数の芯部と、(iii) 前記ボス部及び前記芯部を被覆する外皮部とを有し、前記基部及び前記外皮部がガラス繊維及び/又は炭素繊維製の布基材を含む第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部が前記第一の繊維強化プラスチック中の繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材を含む第二の繊維強化プラスチックからなることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項2】
請求項1に記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記芯部は、前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させてなり、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材が前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように配置されていることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記第一の繊維強化プラスチックはガラス繊維布基材とマトリックス樹脂とからなり、前記第二の繊維強化プラスチックはガラス繊維より高い耐摩耗性を有する繊維の布基材とマトリックス樹脂とからなることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の航空機用スキッドレールにおいて、(1) 前記基部及び前記外皮部がともにガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、(2) 前記基部がガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部が炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せ、及び(3) 前記基部及び前記外皮部がともに炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなる組合せのいずれかであることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項5】
請求項4に記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記基部はガラス繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記外皮部は炭素繊維布基材を含有する第一の繊維強化プラスチックからなり、前記芯部は耐摩耗性繊維布基材を含有する第二の繊維強化プラスチックからなることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項6】
請求項項1〜5のいずれかに記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記耐摩耗性繊維がポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、芳香族ポリアミド繊維、芳香族ポリイミド繊維及び芳香族ポリエステル繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記ボス部にファスナ挿入用凹部が設けられていることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の航空機用スキッドレールにおいて、前記芯部が前記ボス部に隙間なく密着していることを特徴とする航空機用スキッドレール。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の航空機用スキッドレールの製造方法であって、(1) 前記第一の繊維強化プラスチックからなる硬化プリプレグ積層体のブロックを切削することにより前記基部を形成し、(2) 前記第二の繊維強化プラスチックからなるプリプレグ積層体を硬化させることにより前記芯部を形成し、(3) 前記基部及び前記芯部を接着して前記レール状一体構造物を形成し、(4) 前記ボス部及び前記芯部を前記第一の繊維強化プラスチックからなるプリプレグで被覆し、(5) 前記プリプレグを硬化させて外皮部を形成することを特徴とする航空機用スキッドレールの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の航空機用スキッドレールの製造方法において、前記工程(3)で、前記第二の繊維強化プラスチックの布基材が前記長板部に対してほぼ垂直方向に配向するように、前記芯部を前記基部に配置することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の航空機用スキッドレールの製造方法において、前記工程(5)の後で、ファスナ挿入用凹部を前記ボス部に形成することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の航空機用スキッドレールの製造方法において、前記工程(5)の後、前記外皮部の表面を平滑化することを特徴とする方法。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12】
【図1(b)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図2(c)】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図12】
【公開番号】特開2010−247820(P2010−247820A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47000(P2010−47000)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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