説明

舶用主機蒸気タービン設備

【課題】タービントリップ時に、減速機を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができ、オートスピニング時に、後進方向および前進方向の両方向へプロペラを速やかに回転させることができて、IPタービンに何等かの不具合が生じている場合でも、HPタービンおよびLPタービンに何等の不具合も生じていない場合には、前進方向にプロペラを回転させることができる舶用主機蒸気タービン設備を提供すること。
【解決手段】再熱器25で加熱された蒸気を低圧側タービン22に導く再熱蒸気管34の途中から枝分かれして、前記再熱器25にて加熱された再熱蒸気を主復水器37に直接導くバイパス蒸気管51が設けられているとともに、前記バイパス蒸気管51の途中に、再熱蒸気ダンプ弁52が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つのプロペラを備えた船舶に搭載される舶用主機蒸気タービン設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一つのプロペラを備えた船舶に搭載される舶用主機蒸気タービン設備としては、例えば、特許文献1に開示された舶用推進プラントが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−223358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1に開示された舶用推進プラント等では、タービントリップ時(危急時)に、前進操縦弁(高圧タービン(以下、「HPタービン」という。)に流入する主ボイラからの主蒸気(main steam)の流量を制御する弁)が全閉するようになっている。しかしながら、特許文献1に開示された舶用推進プラントでは、前進操縦弁が全閉するまでにHPタービンに流入した主ボイラからの主蒸気が、HPタービンで仕事を成した後、再熱器(re-heater)に導かれて再熱され、中圧タービン(以下、「IPタービン」という。)に導かれ、IPタービンで仕事を成した後、低圧タービン(以下、「LPタービン」という。)に導かれて、LPタービンで仕事を成した後、主復水器(main condenser)に導かれ、主復水器で凝縮し、復水となる。そのため、減速機(reduction gear)を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができず、プロペラが前進方向に回転してしまうおそれがあった。
【0005】
また、特許文献1に開示された舶用推進プラントでは、オートスピニング時(プロペラアイドリング時)においてプロペラを後進方向に回転させる際、主ボイラからの主蒸気が、後進タービン(以下、「ASTタービン」という。)に導かれ、ASTタービンで仕事を成した後、主復水器に導かれ、主復水器で凝縮し、復水となる。これに対して、プロペラを前進方向に回転させる際、主ボイラからの主蒸気は、HPタービンに導かれ、HPタービンで仕事を成した後、再熱器に導かれて再熱され、IPタービンに導かれて、IPタービンで仕事を成した後、低圧タービンに導かれ、LPタービンで仕事を成した後、主復水器に導かれ、主復水器で凝縮し、復水となる。そのため、オートスピニング時(プロペラアイドリング時)において、後進方向へはプロペラを速やかに回転させることができるが、前進方向へはプロペラを速やかに回転させることができないといった問題点があった。
【0006】
さらに、特許文献1に開示された舶用推進プラントでは、HPタービンおよびLPタービンに何等の不具合も生じていない場合でも、IPタービンに何等かの不具合が生じている場合には、前進方向にプロペラを回転させることができず、蒸気タービン船を前進させることができないといった問題点もあった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、タービントリップ時に、減速機を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができ、オートスピニング時に、後進方向および前進方向の両方向へプロペラを速やかに回転させることができて、IPタービンに何等かの不具合が生じている場合でも、HPタービンに何等の不具合も生じていない場合には、前進方向にプロペラを回転させることができる舶用主機蒸気タービン設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備は、主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備であって、前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を主復水器に直接導くバイパス蒸気管が設けられているとともに、前記バイパス蒸気管の途中に、再熱蒸気ダンプ弁が設けられている。
【0009】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備によれば、再熱蒸気ダンプ弁は、タービントリップ時(危急時)およびオートスピニング時(プロペラアイドリング時)のプロペラを前進方向に回転させる時、高圧タービンに何等の不具合も生じていない場合、かつ、低圧側タービンに何等かの不具合が生じている場合等に全開状態とされ、再熱器にて加熱された再熱蒸気が主復水器に導かれるようになっている。
これにより、タービントリップ時に、減速機を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができ、オートスピニング時に、後進方向および前進方向の両方向へプロペラを速やかに回転させることができて、低圧側タービンに何等かの不具合が生じている場合でも、高圧タービンに何等の不具合も生じていない場合には、前進方向にプロペラを回転させることができる。
【0010】
上記舶用主機蒸気タービン設備において、前記バイパス蒸気管の途中に、前記再熱蒸気管の側から前記再熱蒸気ダンプ弁、および減温器が設けられているとさらに好適である。
【0011】
このような舶用主機蒸気タービン設備によれば、減温器により減温された蒸気が主復水器に導かれ、高温の蒸気が主復水器に導かれるのを防止することができて、主復水器を保護することができる。
【0012】
上記舶用主機蒸気タービン設備において、前記高圧タービンと前記低圧側タービンとに共通の第1軸に設けられたスラスト軸受の排油温度およびパッド温度を測定する温度検出手段、あるいは前記第1軸の軸方向における変位を測定する変位検出手段と、前記温度検出手段あるいは前記変位検出手段で測定されたデータから、前記スラスト軸受に作用するスラスト力の変化を推定し、前記スラスト軸受に作用するスラスト力がアンバランスとなるような場合に、前記スラスト軸受に作用するスラスト力をバランスさせるように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作する制御器と、を備えているとさらに好適である。
【0013】
このような舶用主機蒸気タービン設備によれば、スラスト軸受に作用するスラスト力のアンバランス(過負荷)を軽減させ、スラスト軸受が損傷するのを防止することができる。
【0014】
上記舶用主機蒸気タービン設備において、前記高圧タービンの車室温度を測定する温度検出手段、および前記低圧側タービンの車室温度を測定する温度検出手段と、前記温度検出手段で測定されたデータから、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの暖機状態を推定し、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布が不均一となるような場合に、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布を改善するように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作する制御器と、を備えているとさらに好適である。
【0015】
このような舶用主機蒸気タービン設備によれば、低温の蒸気が低圧側タービンに大量に流入するのを防止することができ、高圧タービンおよび低圧側タービンの軸方向における熱分布を改善することができる。
【0016】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備は、主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備であって、前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を系外に導くダンプ蒸気系外排出管が設けられ、前記ダンプ蒸気系外排出管の途中に、前記再熱蒸気管の側から再熱蒸気ダンプ弁が設けられているとともに、前記主ボイラにて発生した主蒸気を前記再熱器に直接導く主蒸気バイパス管が設けられている。
【0017】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備によれば、高圧タービンおよび低圧側タービンに蒸気を流すことができない船舶の艤装時においても、主ボイラにて発生した主蒸気を、主蒸気バイパス管を介して再熱器に流し、再熱器の調整(再熱バーナーの調整等)を行うことができる。
【0018】
本発明に係る船舶は、上記いずれかの舶用主機蒸気タービン設備を具備している。
【0019】
本発明に係る船舶によれば、タービントリップ時に、減速機を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができ、オートスピニング時に、後進方向および前進方向の両方向へプロペラを速やかに回転させることができて、低圧側タービンに何等かの不具合が生じている場合でも、高圧に何等の不具合も生じていない場合には、前進方向にプロペラを回転させることができる。その結果、本発明に係る船舶によれば、その運用性、応答性を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備の運用方法は、主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を主復水器に直接導くバイパス蒸気管と、前記バイパス蒸気管の途中に設けられた再熱蒸気ダンプ弁と、前記高圧タービンと前記低圧側タービンとに共通の第1軸に設けられたスラスト軸受の排油温度およびパッド温度を測定する温度検出手段、あるいは前記第1軸の軸方向における変位を測定する変位検出手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備の運用方法であって、前記温度検出手段あるいは前記変位検出手段で測定されたデータから、前記スラスト軸受に作用するスラスト力の変化を推定し、前記スラスト軸受に作用するスラスト力がアンバランスとなるような場合に、前記スラスト軸受に作用するスラスト力をバランスさせるように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作するようにした。
【0021】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備の運用方法によれば、スラスト軸受に作用するスラスト力のアンバランス(過負荷)を軽減させ、スラスト軸受が損傷するのを防止することができる。
【0022】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備の運用方法は、主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を主復水器に直接導くバイパス蒸気管と、前記バイパス蒸気管の途中に設けられた再熱蒸気ダンプ弁と、前記高圧タービンの車室温度を測定する温度検出手段、および前記低圧側タービンの車室温度を測定する温度検出手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備の運用方法であって、前記温度検出手段で測定されたデータから、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの暖機状態を推定し、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布が不均一となるような場合に、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布を改善するように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作するようにした。
【0023】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備の運用方法によれば、低温の蒸気が低圧側タービンに大量に流入するのを防止することができ、高圧タービンおよび低圧側タービンの軸方向における熱分布を改善することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る舶用主機蒸気タービン設備よれば、タービントリップ時に、減速機を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができ、オートスピニング時に、後進方向および前進方向の両方向へプロペラを速やかに回転させることができて、IPタービンに何等かの不具合が生じている場合でも、HPタービンおよびLPタービンに何等の不具合も生じていない場合には、前進方向にプロペラを回転させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備の概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備の概略構成図である。
【図3】減速制御を行った場合における蒸気タービンの出力変動、主蒸気の温度および再熱蒸気の温度の変化を説明する図表である。
【図4】再熱バーナーの失火等により、高圧タービンから排気されて(低温)再熱蒸気管を介して導かれた蒸気を加熱することができなくなった場合の、高圧タービンの車室温度および中圧タービンの車室温度の変化を説明する図表である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備について、図1を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備の概略構成図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備1は、例えば、LNG船等の船舶の推進用に用いられる。この舶用主機蒸気タービン設備1は、主機とされる蒸気タービン2と、図示しない減速機(駆動伝達手段)と、図示しないプロペラ(推進器)と、を備えている。
【0028】
蒸気タービン2は、舶用主機蒸気タービン設備1の主動力機として用いられる、例えば、再熱3圧式の蒸気タービンであり、HPタービン21と、IPタービン(低圧側タービン)22と、LPタービン(低圧側タービン)23と、ASTタービン24と、再熱器25と、を備えている。
【0029】
HPタービン21には、主蒸気管31を介して主ボイラ32からの主蒸気が供給され、これによりHPタービン21が回転駆動される。
再熱器25は、HPタービン21とIPタービン22との間に配置され、HPタービン21から排気されて(低温)再熱蒸気管33を介して導かれた蒸気を加熱する。再熱器25にて加熱された蒸気は、(高温)再熱蒸気管34を介してIPタービン22へと供給される。
【0030】
IPタービン22には、再熱器25にて加熱された再熱蒸気が供給され、これによりIPタービン22は回転駆動される。IPタービン22とHPタービン21とは共通の第1軸26(図2参照)に設けられている。IPタービン22の機能としては、LPタービン23の一部と考えてよいが、配置上の制限と減速機に伝える負荷分担を平等にする目的でLPタービン23の側ではなく、HPタービン21と同軸上に配備してある。
【0031】
LPタービン23には、IPタービン22から排気されて蒸気管35を介して導かれた蒸気が供給され、これによりLPタービン23が回転駆動される。LPタービン23から排気されて復水管36を介して主復水器37に導かれた蒸気は、主復水器37で凝縮し、復水となる。
ASTタービン24は、船舶が後進する際に用いられ、主蒸気管31の途中から枝分かれした後進用主蒸気管38を介して主ボイラ32からの主蒸気が直接供給され、これによりASTタービン24が回転駆動されるようになっている。また、ASTタービン24とLPタービン23とは共通の第2軸(図示せず)に設けられている。
【0032】
減速機には、上述した第1軸26および第2軸が入力軸として接続され、減速機の出力側には、図示しない主軸(駆動伝達手段)が接続されている。また、この主軸には、プロペラが接続され、主軸によってプロペラが回転させられる。そして、このプロペラの回転によって船舶の推進力が得られるようになっている。
【0033】
なお、図1中の符号41,42は、主蒸気管31の途中に設けられた前進締切弁、前進操縦弁、符号43は、(高温)再熱蒸気管34の途中に設けられた再熱蒸気止弁、符号44,45は、後進用主蒸気管38の途中に設けられた後進操縦弁、後進中間弁である。
また、図1中の符号46は、主復水器37で凝縮した復水を主ボイラ32に導く給水管であり、符号47は、給水管46の途中に設けられた復水ポンプである。
【0034】
さて、本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備1には、再熱蒸気止弁43よりも上流側(再熱器25の側)に位置する(高温)再熱蒸気管34の途中から枝分かれして、再熱器25にて加熱された再熱蒸気を主復水器37に直接導く(中・低圧タービン)バイパス蒸気管51が設けられている。また、このバイパス蒸気管51の途中には、上流側((高温)再熱蒸気管34の側)から再熱蒸気ダンプ弁52、およびスプレー(減温器)53が設けられている。
【0035】
再熱蒸気ダンプ弁52は、通常全閉状態とされている。一方、再熱蒸気ダンプ弁52は、タービントリップ時(危急時)、オートスピニング時(プロペラアイドリング時)のプロペラを前進方向に回転させる時、HPタービン21の単独運転時(HPタービン21およびLPタービン23に何等の不具合も生じていない場合で、IPタービン22に何等かの不具合が生じている場合)等に全開状態とされ、再熱器25にて加熱された再熱蒸気が、主復水器37にすべて導かれるようになっている。このとき、再熱蒸気止弁43は、全閉状態とされている。
また、再熱蒸気ダンプ弁52は、IPタービン22に流入する再熱蒸気圧力を監視しながら、圧力を調整するようにしてもよい。
具体的に、IPタービン22の蒸気入口部に圧力センサーを設け、IPタービン入口の定格最大圧力および設計最大圧力を設定し、再熱蒸気ダンプ弁の開度を低格最大圧力のとき0%、設計最大圧力のとき100%のリニア制御とすることで、再熱蒸気ラインの圧力が過剰とならないよう適性に保持することができる。
【0036】
スプレー(減温器)53は、バイパス蒸気管51を介して主復水器37に導かれる蒸気の温度を低下させる装置であり、このスプレー53には、給水管46の途中から枝分かれした配管54を介して、主復水器37にて凝縮した復水の一部が供給されるようになっている。
【0037】
本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備1および舶用主機蒸気タービン設備1の運用方法によれば、再熱蒸気ダンプ弁52は、タービントリップ時(危急時)、オートスピニング時(プロペラアイドリング時)のプロペラを前進方向に回転させる時、HPタービン21の単独運転時(HPタービン21に何等の不具合も生じていない場合で、IPタービン22またはLPタービン23に何等かの不具合が生じている場合)等に全開状態とされ、再熱器25にて加熱された再熱蒸気が、スプレー53にて冷却された後、主復水器37に導かれるようになっている。
これにより、タービントリップ時に、減速機を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができ、オートスピニング時に、後進方向および前進方向の両方向へプロペラを速やかに回転させることができて、IPタービン22またはLPタービン23に何等かの不具合が生じている場合でも、HPタービン21に何等の不具合も生じていない場合には、前進方向にプロペラを回転させることができる。
【0038】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備について、図2を参照しながら説明する。
図2は本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備の概略構成図である。
【0039】
本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備61は、第1軸26に設けられたスラスト軸受62の排油温度およびパッド温度を図示しない温度計等を用いて監視したり、あるいは第1軸26の軸方向における変位を図示しない変位計等を用いて監視して、スラスト軸受62に作用するスラスト力の変化を推定する、もしくはHPタービン21およびIPタービン22の車室温度を図示しない温度計等を用いて監視し、HPタービン21およびIPタービン22の暖機状態を推定するというという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0040】
さて、本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備61では、例えば、通常航行(定格運転)から港湾航行(減速運転)に移行する場合で、かつ、再熱蒸気の温度が主蒸気の温度よりも高くなり、IPタービン22の側への負荷がHPタービン21の側への負荷よりも大きくなって、スラスト軸受62に作用するスラスト力がアンバランスとなるような場合や、あるいは通常航行(定格運転)時で、かつ、何らかの原因でスラスト軸受62に作用するスラスト力がアンバランスとなるような場合に、スラスト軸受62に作用するスラスト力をバランスさせるように再熱蒸気ダンプ弁52が開方向に操作される。
具体的に、スラスト軸受62の排油温度/パッド温度、およびタービン軸位置を連続監視し、それぞれの温度変化率および軸移動変化率が急変するなど、異常傾向を検出した時点で再熱蒸気ダンプ弁52を開き、IPタービン22の負荷を軽減させ、タービンに働くスラスト力バランスを平衡させることができる。
【0041】
なお、図3は、減速制御を行った場合における蒸気タービンの出力変動、主蒸気の温度および再熱蒸気の温度の変化を説明する図表である。
ここでは、蒸気タービン1の出力を約15分で約5分の1に低下させた場合のシミュレーション結果について説明する。図3における横軸は、減速制御を開始してからの経過時間を分単位で示すものであり、縦軸は蒸気タービンの出力、主蒸気の温度および再熱蒸気の温度を示すものである。さらに、蒸気タービンの出力は符号Pが付されたグラフで、主蒸気の温度は符号THが付されたグラフで、再熱蒸気の温度は符号TRが付されたグラフで示している。
【0042】
図3に示すように、減速制御が開始されてから3分程度経過するまでは、蒸気タービンの出力P、主蒸気の温度THおよび再熱蒸気の温度TRは一定で推移している。このとき、主蒸気の温度TMおよび再熱蒸気の温度TRは大体同じである。
その後、蒸気タービンの出力Pの減少が始まり、減速制御の開始から7分程度が経過するまでの間は、出力が一定の割合で低下し続ける。そして7分程度から10分程度までの間は、蒸気タービンの出力Pの減少率が小さくなり、10分程度が経過すると減少率は再び大きくなる。蒸気タービンの出力Pは、目標値である制御前出力の約5分の1よりも一時小さくなり(アンダーシュートして)、その後徐々に目標値に近づき、制御開始から約15分で目標値に制御される。
【0043】
その一方で、蒸気タービンの出力Pの低下に遅れて、減速制御の開始から5分程度が経過すると主蒸気の温度THおよび再熱蒸気の温度TRの低下が始まる。
再熱蒸気の温度TRと比較して主蒸気の温度THは先行して低下し、主蒸気の温度THと再熱蒸気の温度TRとの逆転が発生する。この逆転は最大で約50℃に達し、蒸気タービンの出力Pが目標値である約5分の1まで低下した後も続き、減速制御の開始から30分程度が経過するまで維持される。
【0044】
つまり、主蒸気がHPタービン21を回転駆動した後に、再熱器25により加熱されたものが再熱蒸気であることから、再熱蒸気の温度TRは、主蒸気の温度THと比較して追従性が悪いため、このような事象が発生する。具体的には、主蒸気の温度THは、再熱蒸気の温度TRと比較して、早期に温度低下が始まり、制御開始から25分程度で温度が一定になり始めている。それに対して、再熱蒸気の温度TRは、主蒸気の温度THに遅れて温度の低下が始まり、制御の開始から30分程度で主蒸気の温度THまで温度が低下している。
【0045】
また、本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備61では、例えば、再熱バーナー(図示せず)の失火等により、HPタービン21から排気されて(低温)再熱蒸気管33を介して導かれた蒸気を加熱することができなくなり、例えば、図4に示すように、時間が経過してもHPタービン21の車室温度は(略)一定に保たれ、時間の経過とともにIPタービン22の車室温度が徐々に低下し、IPタービン22の車室温度がHPタービン21の車室温度よりも低くなって、HPタービン21およびIPタービン22の軸方向における熱分布が不均一となるような場合に、HPタービン21およびIPタービン22の軸方向における熱分布を改善するように再熱蒸気ダンプ弁52が開方向に操作される。
【0046】
本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備61および舶用主機蒸気タービン設備61の運用方法によれば、スラスト軸受62に作用するスラスト力のアンバランス(過負荷)を軽減させ、スラスト軸受62が損傷するのを防止することができる。
また、本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備61および舶用主機蒸気タービン設備61の運用方法によれば、低温の蒸気がIPタービン22に大量に流入するのを防止することができ、HPタービン21およびIPタービン22の軸方向における熱分布を改善することができる。
その他の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0047】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備について、図5を参照しながら説明する。
図5は本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備の概略構成図である。
【0048】
本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備71は、(中・低圧タービン)バイパス蒸気管51の代わりに、ダンプ蒸気系外排出管72が設けられているというという点で上述した実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した実施形態と同一の部材には同一の符号を付している。
【0049】
さて、本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備71には、再熱蒸気止弁43よりも上流側(再熱器25の側)に位置する(高温)再熱蒸気管34の途中から枝分かれして、再熱器25にて加熱された再熱蒸気を系外(船外)に導くダンプ蒸気系外排出管72が設けられている。また、このダンプ蒸気系外排出管72の途中には、再熱蒸気ダンプ弁52が設けられている。
【0050】
本実施形態に係る舶用主機蒸気タービン設備71および舶用主機蒸気タービン設備71の運用方法によれば、再熱蒸気ダンプ弁52は、タービントリップ時(危急時)、オートスピニング時(プロペラアイドリング時)のプロペラを前進方向に回転させる時、HPタービン21の単独運転時(HPタービン21に何等の不具合も生じていない場合で、IPタービン22またはLPタービン23に何等かの不具合が生じている場合)等に全開状態とされ、再熱器25にて加熱された再熱蒸気が、系外(船外)に排出されるようになっている。
これにより、タービントリップ時に、減速機を介して接続されたプロペラの回転を即座に止めることができ、オートスピニング時に、後進方向および前進方向の両方向へプロペラを速やかに回転させることができて、IPタービン22またはLPタービン23に何等かの不具合が生じている場合でも、HPタービン21に何等の不具合も生じていない場合には、前進方向にプロペラを回転させることができる。
【0051】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更して実施することもできる。
例えば、上述した第3実施形態において、船舶の艤装時に、前進締切弁41よりも上流側(主ボイラ32の側)に位置する主蒸気管31の途中から枝分かれして、主ボイラ32にて発生した主蒸気を再熱器25に直接導く主蒸気バイパス管73を設けるようにするとさらに好適である。
これにより、HPタービン21、IPタービン22、LPタービン23、およびASTタービン24に蒸気を流すことができない船舶の艤装時においても、主ボイラ32にて発生した主蒸気を、主蒸気バイパス管73を介して再熱器25に流し、再熱器25の調整(再熱バーナーの調整等)を行うことができる。再熱器25の調整時、再熱器25にて加熱された再熱蒸気は、ダンプ蒸気系外排出管72を介して系外(船外)に排出される。
【符号の説明】
【0052】
1 舶用主機蒸気タービン設備
21 HPタービン
22 IPタービン(低圧側タービン)
25 再熱器
26 第1軸
32 主ボイラ
34 再熱蒸気管
37 主復水器
51 バイパス蒸気管
52 再熱蒸気ダンプ弁
53 スプレー(減温器)
61 舶用主機蒸気タービン設備
62 スラスト軸受
71 舶用主機蒸気タービン設備
72 ダンプ蒸気系外排出管
73 主蒸気バイパス管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、
前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、
前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備であって、
前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を主復水器に直接導くバイパス蒸気管が設けられているとともに、
前記バイパス蒸気管の途中に、再熱蒸気ダンプ弁が設けられていることを特徴とする舶用主機蒸気タービン設備。
【請求項2】
前記バイパス蒸気管の途中に、前記再熱蒸気管の側から前記再熱蒸気ダンプ弁、および減温器が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の舶用主機蒸気タービン設備。
【請求項3】
前記高圧タービンと前記低圧側タービンとに共通の第1軸に設けられたスラスト軸受の排油温度およびパッド温度を測定する温度検出手段、あるいは前記第1軸の軸方向における変位を測定する変位検出手段と、
前記温度検出手段あるいは前記変位検出手段で測定されたデータから、前記スラスト軸受に作用するスラスト力の変化を推定し、前記スラスト軸受に作用するスラスト力がアンバランスとなるような場合に、前記スラスト軸受に作用するスラスト力をバランスさせるように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作する制御器と、を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の舶用主機蒸気タービン設備。
【請求項4】
前記高圧タービンの車室温度を測定する温度検出手段、および前記低圧側タービンの車室温度を測定する温度検出手段と、
前記温度検出手段で測定されたデータから、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの暖機状態を推定し、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布が不均一となるような場合に、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布を改善するように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作する制御器と、を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の舶用主機蒸気タービン設備。
【請求項5】
主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、
前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、
前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備であって、
前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を系外に導くダンプ蒸気系外排出管が設けられ、
前記ダンプ蒸気系外排出管の途中に、前記再熱蒸気管の側から再熱蒸気ダンプ弁が設けられているとともに、
前記主ボイラにて発生した主蒸気を前記再熱器に直接導く主蒸気バイパス管が設けられていることを特徴とする舶用主機蒸気タービン設備。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の舶用主機蒸気タービン設備を具備していることを特徴とする船舶。
【請求項7】
主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、
前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、
前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、
前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を主復水器に直接導くバイパス蒸気管と、
前記バイパス蒸気管の途中に設けられた再熱蒸気ダンプ弁と、
前記高圧タービンと前記低圧側タービンとに共通の第1軸に設けられたスラスト軸受の排油温度およびパッド温度を測定する温度検出手段、あるいは前記第1軸の軸方向における変位を測定する変位検出手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備の運用方法であって、
前記温度検出手段あるいは前記変位検出手段で測定されたデータから、前記スラスト軸受に作用するスラスト力の変化を推定し、前記スラスト軸受に作用するスラスト力がアンバランスとなるような場合に、前記スラスト軸受に作用するスラスト力をバランスさせるように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作するようにしたことを特徴とする舶用主機蒸気タービン設備の運用方法。
【請求項8】
主ボイラからの蒸気によって回転させられる高圧タービンと、
前記高圧タービンからの排気蒸気を加熱する再熱器と、
前記再熱器によって加熱された蒸気によって回転させられる低圧側タービンと、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力によって駆動させられる推進器と、
前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの回転動力を前記推進器に伝達する駆動伝達手段と、
前記再熱器で加熱された蒸気を前記低圧側タービンに導く再熱蒸気管の途中から枝分かれして、前記再熱器にて加熱された再熱蒸気を主復水器に直接導くバイパス蒸気管と、
前記バイパス蒸気管の途中に設けられた再熱蒸気ダンプ弁と、
前記高圧タービンの車室温度を測定する温度検出手段、および前記低圧側タービンの車室温度を測定する温度検出手段と、を備えた舶用主機蒸気タービン設備の運用方法であって、
前記温度検出手段で測定されたデータから、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの暖機状態を推定し、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布が不均一となるような場合に、前記高圧タービンおよび前記低圧側タービンの軸方向における熱分布を改善するように前記再熱蒸気ダンプ弁を操作するようにしたことを特徴とする舶用主機蒸気タービン設備の運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53570(P2013−53570A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192776(P2011−192776)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】