説明

船舶

【課題】固形バルクで防熱が必要なガスハイドレート固形状物の運搬に適した安全性の高いガスハイドレート運搬用船舶を提供する。
【解決手段】ガスをガスハイドレート化して固形物状態で運搬するガスハイドレート運搬用船舶1において、固形物状態のガスハイドレートを入れるタンク10を、船体2、3、4、5、9とは別構造の二重壁構造11、12、13を一部又は全部に有する独立タンク10で形成し、この二重壁構造11、12、13の外側表面に遮熱部材又は断熱部材の少なくとも一方を有して形成される防熱部14を設けると共に、この独立タンク10を、保持機構15を介して、船体側の二重底4、トップサイド部、二重船側部の少なくとも一つの船体構造物により支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス等のガスをガスハイドレート化して固形物状態で運搬するガスハイドレート運搬用船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、天然ガスハイドレートが注目され、天然ガスをガスハイドレートペレット(GHP)の形態で運搬することが検討されている。通常のバラ積み船やタンカーの貨物艙は船体と一体構造となっているが、天然ガスを液化した形態で運搬し、防熱が必要なLNG船(液化天然ガス運搬船)等の貨物艙では、独立タンク方式の外部防熱方式などがある。
【0003】
この防熱タンクの一つとして、図5に示すようなモス(MOSS)方式の球形タンクを円形スカートで支持するMOSS方式がある。この球形タンクは、独立型圧力タンク外部防熱方式というもので、球形であるため、内部には構造材(骨材)は無く、外側に遮熱部材や断熱部材で構成される防熱部が設けられている。しかしながら、この球形タンクは、液化した天然ガス、即ち、液体を運搬することが前提となっており、固体バルクであるガスハイドレートペレットの積荷と揚荷が不可能であるという問題がある。
【0004】
また、図6に示すように、独立型タンク外部防熱方式というタンク内部に構造材を配置している独立角型と呼ばれる方形タンク(SPB)方式があるが、この方式でも、液体を運搬することが前提となっており、タンク内部に構造材を配置しているために、ガスハイドレートペレットを運搬する際の揚荷に問題が生じる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、図7に示すように、一体型タンク内部防熱方式というタンクの構造材が外板側にあるガストランスポート(GTT)の方式もあるが、この方式ではタンク内部に物理的衝撃に弱い防熱部を有しているため、固形であるガスハイドレートペレットを運搬するに当たっては、強度と耐久性に問題が生じる。
【0006】
しかしながら、ガスハイドレート運搬用船舶においては、ガスハイドレートペレットは液体状でなく、固形物状態であるため、LNG用の防熱タンクでは、上記のように、ガスハイドレートペレットの運搬には適さないため、新たなガスハイドレートペレット用の独立防熱タンクの開発が必要になっている。
【特許文献1】特開平06−298173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、固形バルクで防熱が必要なガスハイドレートの固形物の運搬に適した安全性の高いガスハイドレート運搬用船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明のガスハイドレート運搬用船舶は、ガスをガスハイドレート化して固形物状態で運搬するガスハイドレート運搬用船舶において、固形物状態のガスハイドレートを入れるタンクを、船体とは別構造の二重壁構造を一部又は全部に有する独立タンクで形成し、この二重壁構造の外側表面に遮熱部材又は断熱部材の少なくとも一方を有して形成される防熱部を設けると共に、この独立タンクを、保持機構を介して、船体側の二重底、トップサイド部、二重船側部の少なくとも一つの船体構造物により支持して構成する。
【0009】
この構成により、タンクの構造的な強度を二重壁構造で確保できるので、タンク内部に構造材(骨材)を配置する必要がなくなる。また、タンクの外側に防熱部を設けているので、固形物状態のガスハイドレートを荷役しても、このペレット等の固形物や荷揚装置によって防熱部が損傷することを回避できる。従って、タンク防熱が必要な固形バルクであるガスハイドレートの運搬に最適なタンク方式となる。
【0010】
つまり、独立タンクを2重構造化し、その内部に構造材を配置することによってタンクの強度を確保するので、独立タンク内部に構造材を配置しなくて済み、貨物の効率的な揚荷が可能となる。更に、外部にも構造材を配置しなくて済むので、防熱部の施工が容易となる。また、防熱部はタンク外面部に設けるので、防熱工事が容易になると共に、防熱部が貨物・揚荷装置によりダメージを受けることを回避できる。
【0011】
また、天然ガスのガスハイドレートペレットの温度はマイナス20度とLNGのマイナス162度と比較すると高いので、船体構造を二次防壁とすることができる。そのため、タンクと船側構造の間には隔壁を設ける必要がなくなる。
【0012】
上記のガスハイドレート運搬用船舶において、前記独立タンクと前記独立タンクを保持する船体構造物との間に、液体を入れることがない空間を設けて構成する。この構成により、この空間(ボイドスペース)に海水(バラスト水)や清水を張らずに、独立タンク周りの区画の雰囲気をドライベースとして、水分に弱い防熱部を保護することができる。
【0013】
上記のガスハイドレート運搬用船舶において、少なくとも一つの前記独立タンクの上部に、荷役用の開口部を設け、この開口部をハッチカバーで覆うことができるように構成する。つまり、ばら積み荷役のためのハッチとハッチカバーを有する。このハッチカバーにも防熱部を設ける。
【0014】
この構成により、温度と防爆の問題を別にすれば、バラ積み貨物船(バルクキャリア)の荷役と同様にしてガスハイドレートペレットを荷役できる。なお、荷役専用のハッチ付きのタンクとハッチ無しのタンクを設けて、ハッチの無いタンクからハッチ付きタンクに、ガスハイドレートペレットをガスタイトなコンベアで移送するように構成すると、ガス漏れ対策が容易になると共に、ハッチの無いタンクを液体貨物にも使用できるようになる。
【0015】
上記のガスハイドレート運搬用船舶において、前記独立タンクを保持する船体部分を、二重底とホッパー部とトップサイドタンクを有して構成する。この構成によれば、二重底により、座礁時の安全性が確保でき、ホッパー部により、荷役特に揚荷作業が容易となる。また、トップサイドタンクを配置することにより、固形物状態のガスハイドレートの移動による復原性への悪影響を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガスハイドレート運搬用船舶によれば、ガスハイドレート運搬用船舶において、固形バルク故に、タンク側に構造材を配置できず、ガスハイドレート故に、防熱を要して、タンク外側にも構造材を配置することが難しいという問題を二重壁構造の独立タンクとすることにより解決できる。また、タンク自体を二重壁構造化することにより、十分な安全性を確保できる。従って、ガスを含む固形物状態で、かつ、防熱を要するガスハイドレートの運搬に適した船舶となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係るガスハイドレート運搬用船舶の実施の形態について、天然ガスハイドレートペレット(NGHP)を運搬する船舶を例にして説明する。
【0018】
図1及び図2に示すように、この第1の実施の形態の天然ガスハイドレート運搬用船舶1は、図1及び図2に示すように、船舶1は、船側外板2や船底板3や二重底板4と上甲板9等から構成される。この船底板3と二重底板4との間に二重底の空間が設けられ、二重底板4の側方に設けられたホッパー部5の下部にも空間部6が設けられる。これらの下側の空間部6とトップサイドの空間部8はバラストタンク、ボイドスペース、パイプスペース、通行スペース等として使用される。
【0019】
天然ガスハイドレートペレット用のタンク10は、船体構造2,3,9とは別構造の独立タンク10として形成する。この独立タンク10は、低温のペレットを入れるために防熱機能を持たせる必要があるため、内壁11と外壁12とを構造材13で連結して壁12、13を二重化して全部を形成し、更に、外側に、防熱部14を設けて構成される。
【0020】
この独立タンク10では、独立タンク10の開口部16を除いて全面を二重構造化し、その内部に構造材(骨材)13を設けることにより、タンクの強度を保持する。この独立タンク10の強度としては、天然ガスハイドレートペレットからガスを取り出したあとの融解水をタンクに搭載することも考慮し、比重が海水程度の液体を積載できる強度とする。
【0021】
また、独立タンク10の内部に構造材を配置しない構成とすることにより、貨物である天然ガスハイドレートペレットの荷役を効率的にできるようになる。それと共に、タンク外部にも構造材を配置しない構成とすることにより、外部側に設ける防熱部14の施工を容易とする。
【0022】
この内壁11と外壁12には、ステンレス鋼やアルミニウム合金等の特殊な材料を使用せずに、マイナス20度の貨物温度に耐えられる程度の通常の鋼材を使用する。また、防熱部14は外側の熱が内部のガスハイドレートペレットに伝わらないようにするためのものであり、断熱材や遮熱材等で形成される。これらの断熱材としては、ポリウレタンフォーム、ウッドパネル等を使用することができる。この防熱部14を独立タンク10の外面側に設けることにより、防熱工事が容易になると共に、防熱部14が天然ガスハイドレートペレットや揚荷装置等によって損傷を受けることを回避できる。
【0023】
この独立タンク10の横断面形状は、底部が船体1の二重底板4の上に配置され、底部の側方がホッパー部5に係るので、両側方が上方向に傾斜し、船側部分では船側と同じように垂直となり、更に、上方ではトップサイドの空間部8を避けるため目に内側に傾斜して、荷役用のハッチの開口部16となる。この開口部16は上甲板9に設けられるハッチコーミング9aでその周囲を囲まれている。天然ガスハイドレートペレットは固形バルクであるので、バルクと同様に大きな開口部で荷役するために、この開口部16が独立タンク10に設けられる。
【0024】
この開口部16を塞ぐために、ハッチカバー20が設けられる。このハッチカバー20は、例えば、二重構造(ダブルスキンタイプ)とし、独立タンク10側に防熱部21を設け、断熱材や遮熱材で防熱する。
【0025】
また、船舶の運航時における積荷のガスハイドレートペレットの移動を考慮して、また、仮に、この独立タンク10に液体を積載したとした場合における、船体の復原性に対する自由表面影響を考慮する。これに対する対策の一つとして、トップサイドタンクを配置することにより、自由表面の面積、特に自由表面の横方向の幅を小さくして、ガスハイドレートペレットの移動による復原性への悪影響を少なくすることができる。
【0026】
また、この独立タンク10は、支持用アンカー15、あるいは、ベアリングシート等の適切な保持機構を介して、二重底板4やホッパー部5や、二重船側構造とする場合には二重船側部等の船体構造により保持する。独立タンク10と船体構造との間にはドライスペースを設けることにより、防熱部が海水(バラスト)又は清水に接することが無い構造とする。即ち、独立タンク10と船体構造との間をバラストタンクや清水タンクとして使用しない。
【0027】
この独立タンク10と船側外板2との間の空間部7はボイドスペースとして使用される。船側側に関しては、天然ガスハイドレートペレットの温度はマイナス20度と天然液化ガス(LNG)のマイナス162度と比べて比較的高く、しかも、船体構造の船側板4を二次防壁とすることができるので、独立タンク10と船側板4との間には隔壁は特に必要としない。しかし、バラストタンクが必要な場合は二重船側構造で船体を構成し、二重の船側板の間をバラストタンクとしてもよい。また、バラストタンクの容量は独立タンク10の内部に天然ガスハイドレートペレットから融解する水を積載することにより小さくすることができる。
【0028】
また、貨物の移動によって発生するシフティングモーメントによる復原性モーメントの減少量が少なく、復原性に問題がなければトップサイドタンクは不要になる場合もある。なお、通常は、船側部には二重船側は配置しないが、必要に応じて配置することもある。
【0029】
次に、第2の実施の形態の天然ガスハイドレート運搬用船舶1Aについて説明する。この船舶1Aの独立タンク10Aは、図3に示すように、上部に開口部を設けずに、内壁11、外壁12、構造材13、防熱部14を頂部まで設けて構成される。この場合の荷役は、積荷時はばら積み可能な部分からガスタイトなコンベア等で天然ガスハイドレートをこの独立タンク10Aに移送し、揚荷時はこの独立タンク10Aから揚荷ができる場所までガスタイトなコンベア等で天然ガスハイドレートを移送して揚荷を行う。
この場合には開口部が無いので、ガスの密閉が容易となり、また、液体貨物にも流用できる。
【0030】
次に、第3の実施の形態の天然ガスハイドレート運搬用船舶1Bについて説明する。この船舶1Bの独立タンク10Bは、図4に示すように、内壁11、外壁12、構造材13を頂部まで設けずに、下半分程度まで設けて構成される。また、開口部16を設ける。この場合は、独立タンク10Bの底部とボトムホッパー5の部分のみが二重壁構造となり、それより上部は外壁12と外壁12に設けられた構造材13(図4の点線部は、この構造材13の内側端又は外側端を示している。)となる。
【0031】
この構成によれば、防熱部14は開口部を除き全面に設けられるが、内壁11が半分近くになるので、軽量化できる。なお、開口部16のある上部やトップサイドタンク8の近傍部分は、ばら積みであっても、荷詰まりは発生し難いので、内壁11の端部を滑らかに外壁12に接続することで、荷役上の問題は生じなくなる。
【0032】
上記の第1〜第3の実施の形態の天然ガスハイドレート運搬用船舶1、1A、1Bによれば、固形バルク故に、タンク側に構造材を配置できず、防熱を要する故に、タンク外側にも構造材を配置することが難しいという問題を解決できる。
【0033】
また、安全性についても、タンク自体を二重壁構造化することにより、十分な安全性を確保できるので、ガスを含む固形バルクでかつ、防熱を要するという特徴を持つ天然ガスハイドレートペレットの運搬に適した船舶となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるガスハイドレート運搬用船舶の構成を示す横断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態におけるガスハイドレート運搬用船舶の構成を示す横断面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態におけるガスハイドレート運搬用船舶の構成を示す横断面図である。
【図5】従来技術のモス型球形タンク方式の構成を示す横断面図である。
【図6】従来技術の独立角型タンク方式の構成を示す横断面図である。
【図7】従来技術の一体型タンク内部防熱方式の構成を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1、1A、1B、1X、1Y、1Z 船舶
2 船側外板
3 船底板
4 二重底板
5 ホッパー部
6、7、8 空間部
9 上甲板
9a ハッチコーミング
10、10A、10B、10X、10Y 独立タンク
10Z タンク
11 内壁
12 外壁
13 構造材
14、21 防熱部
15 支持用アンカー
16 開口部
20 ハッチカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスをガスハイドレート化して固形物状態で運搬するガスハイドレート運搬用船舶において、固形物状態のガスハイドレートを入れるタンクを、船体とは別構造の二重壁構造を一部又は全部に有する独立タンクで形成し、この二重壁構造の外側表面に遮熱部材又は断熱部材の少なくとも一方を有して形成される防熱部を設けると共に、この独立タンクを、保持機構を介して、船体側の二重底、トップサイド部、二重船側部の少なくとも一つの船体構造物により支持することを特徴とするガスハイドレート運搬用船舶。
【請求項2】
前記独立タンクと前記独立タンクを保持する船体構造物との間に、液体を入れることがない空間を設けて構成したことを特徴とする請求項1記載のガスハイドレート運搬用船舶。
【請求項3】
少なくとも一つの前記独立タンクの上部に、荷役用の開口部を設け、この開口部をハッチカバーで覆うことができるように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のガスハイドレート運搬用船舶。
【請求項4】
前記独立タンクを保持する船体部分を、二重底とホッパー部とトップサイドタンクを有して構成したことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のガスハイドレート運搬用船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−241906(P2009−241906A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94310(P2008−94310)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】