説明

色変換装置、色変換方法及びプログラム

【課題】動画像コンテンツに対して最適な色変換処理を施すこと。
【解決手段】動画像コンテンツの画像データをフレーム毎に取得する入出力部102と、フレーム毎に画像のオブジェクトを検出するオブジェクト検出部112と、検出したオブジェクトから彩色が混同する混同領域を抽出する混同領域抽出部116と、特定のフレームから混同領域が抽出された場合に、特定のフレーム及び混同領域が抽出されたオブジェクトが存在する他のフレームにおいて、少なくとも混同領域を含む領域に色変換を施す色変換部118と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色変換装置、色変換方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1〜3には、色覚保有者に画像を提示する際に、同一画像フレーム内で色相の区別がつかない領域を抽出し、色変換をして提示する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−272516号公報
【特許文献2】特開2004−246739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報に記載された技術は、いずれも静止画像フレーム内での色変換処理を想定したものである。これらの技術を動画像コンテンツを処理する際に適用すると、動画像コンテンツではフレーム毎にオブジェクトが移動するため、彩色の混同が生じる状態と、彩色の混同が生じない状態とが動的に切り換わることが想定される。このような場合、同一オブジェクト内の領域であるにも関わらず、あるフレームでは混同色のものと混在するために色変換が行われ、別のフレームでは先のフレームに存在した混同色領域が消滅したために処理が行われないケースが生じる可能性がある。そのため、色変換処理後の動画データにおいて、同一オブジェクトの色調が非連続に変化する可能性や、一連のシーケンスの中で、同一オブジェクトにまちまちの色変換処理が施されてしまう可能性がある。このような色変換が生じると、ユーザに違和感を与え、画像の不自然さが強調されてしまう問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、動画像コンテンツに対して最適な色変換処理を施すことが可能な、新規かつ改良された色変換装置、色変換方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、動画像コンテンツの画像データをフレーム毎に取得する入力部と、前記フレーム毎に画像のオブジェクトを検出するオブジェクト検出部と、検出した前記オブジェクトから彩色が混同する混同領域を抽出する混同領域抽出部と、特定のフレームから前記混同領域が抽出された場合に、前記特定のフレーム又は前記混同領域が抽出された前記オブジェクトが存在する他のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含んでいた領域に色変換を施す色変換部と、を備える、色変換装置が提供される。
【0007】
また、前記特定のフレームにおける前記色変換の処理内容を記憶する色変換処理記憶部を備え、前記色変換部は、前記他のフレームにおける前記色変換の際に、前記色変換処理記憶部に記憶された前記処理内容を使用するものであってもよい。
【0008】
また、前記特定のフレームで前記色変換が行われたオブジェクトを記憶するオブジェクト記憶部を備え、前記色変換部は、オブジェクト記憶部に記憶された前記オブジェクトが前記他のフレームに存在する場合は、前記他のフレームにおいて前記色変換を施すものであってもよい。
【0009】
また、前記混同領域抽出部は、前記オブジェクト検出部で検出された複数のオブジェクトのそれぞれから、オブジェクト間の彩色が相互に混同される可能性のある前記混同領域を抽出し、各オブジェクトにおける前記混同領域の大きさに基づいて、前記複数のオブジェクトの中から色変換を行うオブジェクトを抽出する混同領域所属オブジェクト抽出部を備え、前記色変換部は、前記複数のオブジェクトのうち、前記所属抽出部で抽出されたオブジェクトに色変換を行うものであってもよい。
【0010】
また、前記色変換部は、オブジェクト間の彩色が相互に混同される可能性のある前記混同領域について、xy色度図上で同一の混同線に前記混同領域の彩色色相が存在しないように前記色変換を行うものであってもよい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、動画像コンテンツの画像データをフレーム毎に取得するステップと、前記フレーム毎に画像のオブジェクトを検出するステップと、検出した前記オブジェクトから彩色が混同する混同領域を抽出するステップと、特定のフレームから前記混同領域が抽出された場合に、前記特定のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含む領域に色変換を施すステップと、前記混同領域が抽出された前記オブジェクトが存在する他のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含んでいた領域に色変換を施すステップと、を備える、色変換方法が提供される。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、動画像コンテンツの画像データをフレーム毎に取得する手段、前記フレーム毎に画像のオブジェクトを検出する手段、検出した前記オブジェクトから彩色が混同する混同領域を抽出する手段、特定のフレームから前記混同領域が抽出された場合に、前記特定のフレーム又は前記混同領域が抽出された前記オブジェクトが存在する他のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含んでいた領域に色変換を施す手段、としてコンピュータを機能させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、動画像コンテンツに対して最適な色変換処理を施すことが可能な色変換装置、色変換方法及びプログラムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る色変換装置の構成を示す模式図である。
【図2】色変換装置における処理を示すフローチャートである。
【図3】動画像のフレームにおいて、オブジェクトが順次動いていく様子を示す模式図である。
【図4】図3に示すオブジェクトA、オブジェクトBの色をCIExy色度図上で示す特性図である。
【図5】図3に示す各フレームにおいて、混同領域存在フラグの状態、混同領域抽出部による混同領域の抽出結果、オブジェクト検出部によるオブジェクトA及びオブジェクトBの追跡結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.本実施形態の背景
2.色変換装置の構成例
3.色変換処理の例
【0017】
[1.本実施形態の背景]
ヒトの色覚には、3色型色覚(C型)のほか、これまで色盲や色弱と呼ばれてきたP型・D型色覚のような多様性が存在する。一方、カラー画像コンテンツの制作、モニタ・液晶ディスプレイに代表されるカラー表示デバイスの色再生では、大多数をしめるC型色覚保持者の視聴が前提とされているため、P型・D型色覚保有者では色差情報を見分けられないことがあった。
【0018】
以下で色覚型の種類について述べる。NPO(Nonprofit Organization)団体、CUDO(Color Universal Design Organization)によれば、色の見え方が一般と異なる人は、日本では男性の20人に1人、女性では500人に1人、日本全体では300万人以上いるとされている。そして、こうした色覚に障害を持つ色弱者は、公共の場の案内図、路線図、電光掲示板、電子機器の操作画面などにおいて色を識別しにくいケースがある。例えば、赤と緑との識別が困難である色弱者にとって、当然ながら赤と緑によって塗り分けられたグラフなどは見づらくなる。CUDOでは、網膜にある錐体のうち、どの錐体に異常があるかによって、色覚特性のタイプ(型)を次の(1)〜(6)のように分類している。(1)一般色覚者(C型)、(2)赤色に対する色弱者(P型)、(3)緑色に対する色弱者(D型)、(4)青色に対する色弱者(T型)、(5)複数色の色弱者(A型)、(6)全色盲(U型)。
【0019】
なお、1種類の錐体の異常が、必ずしも上記(2)〜(4)の色弱者に当てはまるとは限らず、ある特定の色が見えにくい場合には、色覚異常の程度によって他の色に対しても大きく影響を及ぼすことがある。そのため、例えば、(P型)に該当する色弱者でも、赤と緑との識別が困難となる場合がある。
【0020】
このため、前述したように、C型以外の色覚保有者に画像を提示する際に、同一画像フレーム内で色相の区別がつかない領域を抽出し、色変換をして提示する方法が、主に二色型色覚型への適用例として発表されてきた。しかしながら、前述したように、動画像コンテンツを処理する際に適用すると、同一オブジェクト内の領域であるにも関わらず、あるフレームでは混同色のものと混在するために色変換が行われ、別のフレームでは先のフレームに存在した混同色領域が消滅したために処理が行われないケースが生じる可能性がある。
【0021】
本実施形態は、動画像コンテンツにおいて、あるフレームで混同色領域が存在しない場合においても、前フレームなどの参照フレームで混同色領域が存在する場合は、色変換を施すことでユーザに違和感を与えることを抑止する。この際、xy色度図上で同一混同色線上に存在する色は色覚障害者にとって色の判断が難しいため、混同色線から離れた位置に色を修正する。
【0022】
[2.色変換装置の構成例]
次に、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る色変換装置100の構成について説明する。図1に示すように、色変換装置100は、入出力部102、一次記憶部104、ディスク記憶部106、演算処理部110、を備える。各ブロックは、バス108を介して接続されている。入出力部102は、元の画像データが入力される画像入力部、および色変換処理後の画像データを液晶表示パネルなどの表示システムへ出力する画像出力部として機能する。一次記憶部104は、揮発性メモリ、または不揮発性メモリから構成される記憶部である。また、ディスク記憶部106は、ハードディスク等から構成される記憶部である。一次記憶部104、及びディスク記憶部106は、画像データを記憶し、また色変換処理内容を記憶する。また、ディスク記憶部106には、演算処理部110で実行されるプログラムが保存される。一次記憶部104は、ディスク記憶部106に保存された処理プログラム内容を展開する。演算処理部110は、CPUなどの中央演算処理装置から構成され、一時記憶部104に展開されたプログラムの判断処理を実施し、色変換処理を行う。このため、演算処理部110は、プログラムの判断処理を実施することによって、オブジェクト検出部112、混同領域所属オブジェクト抽出部114、混同領域抽出部116、色変換部118として機能する。
【0023】
[3.色変換処理の例]
次に、図2〜図4を参照して、色変換装置100における色変換処理の例について説明する。図2は、色変換装置100における処理を示すフローチャートである。また、図3は、動画像のフレームにおいて、オブジェクトが順次動いていく様子を示す模式図である。先ず、図2のステップS10に示すように、変換対象候補となる画像フレームが色変換装置100の入出力部102に入力される。ここでは、入出力部102に画像フレームk(第kフレーム)が入力される。
【0024】
次のステップS12では、画像フレームkにおいて、オブジェクト検出部112によりオブジェクト検出と追跡が行われる。フレーム内のオブジェクトは、一般的に知られる領域抽出方法ならびに領域追跡方法によって分割され、複数フレームにわたって存在するオブジェクトは、たとえば一意に割り当てたオブジェクトIDにより追跡が可能なようにオブジェクト検出部112で処理される。
【0025】
図3は、動画像のフレームにおいて、オブジェクトが順次動いていく様子を示す模式図である。ここでは、第0フレームから第7フレームまでの動画像を例に挙げ、このうち、図3では第0フレーム、第4フレーム、第5フレームを示す。図3に示すように、第0フレームでは、画面左上にオブジェクトAが存在し、オブジェクトAは、フレームの経過に伴って画面右下に向かって移動する。このため、第4フレームでは画面中央にオブジェクトAが位置し、第5フレームでは画面右下にオブジェクトAが位置している。また、オブジェクトBは第4フレーム以降に出現し、その位置はほぼ不変である。
【0026】
オブジェクト検出部112では、図3にその一部を示すような画像フレームの入力に従い、第0フレーム〜第6フレームではオブジェクトAが、第4〜7フレームではオブジェクトBが順次検出されるものとする。検出結果は、フレーム毎に各オブジェクトの領域情報がオブジェクトAおよびオブジェクトBの属性として一次記憶部104に順次保存されるとする。領域情報としては、例えば、形状を示す円、中心位置を示す座標情報、半径を示す距離情報等が挙げられる。これらの属性は、後に混同領域所属オブジェクト抽出部114が参照し、領域の包含関係を判断するのに用いる。
【0027】
図2において、次のステップS14では、画像フレームk内に色の混同が生じる混同領域が存在するか否かが判定される。混同領域が存在するか否かの判定は、演算処理部110の混同領域抽出部116にて行われる。ステップS14において、混同領域が存在する場合は、ステップS16へ進む。ここで、図2の例に基づいて説明すると、図3の第4フレームにおいて、ステップS12でオブジェクトAとオブジェクトBが検出された場合に、オブジェクトAの領域Saの色(ここでは緑色とする)とオブジェクトBの色(ここでは赤色とする)が混同するものとする。この場合、ステップS14において、混同領域が存在すると判断されて、ステップS16の処理に進む。
【0028】
ステップS16では、混同領域の領域面積が小さい領域について、色変換処理を施す。色変換処理は、色変換部118にて行われる。第4フレームの例では、オブジェクトAの領域SaとオブジェクトBの全領域とで混同が生じているが、双方の領域を比較すると、領域面積は領域Saの方が小さい。このため、ステップS16では、領域面積の小さいSaに色変換が施される。このとき、演算処理部110の混同領域所属オブジェクト抽出部114では、オブジェクトA,Bの位置、大きさと、混同領域の面積に基づいて色変換を施すオブジェクトを決定する。
【0029】
ステップS16の後はステップS18へ進み、処理内容保存領域にステップS16の色変換操作が記憶される。ここでは、領域Saに対する色変換処理が色変換装置100の一次記憶部104に記憶される。ステップS18の後はステップS20へ進み、混同領域が他のオブジェクトの領域に含まれるか否かが判断される。第4フレームの例では、混同領域である領域Saは、オブジェクトAの領域に含まれ、オブジェクトAには領域Saの他に領域SA1と領域SA2が存在する。このため、第4フレームの場合、ステップS20からステップS22へ進む。なお、図3に示すように、第4フレームの領域SA1は領域SA1_4、第4フレームの領域SA2は領域SA2_4と表すこととする。同様に、第5フレームの領域SA1は領域SA1_5、第5フレームの領域SA2は領域SA2_5と表すこととする。
【0030】
ステップS22では、オブジェクトAのうち、非Sa領域である領域SA1_4と領域SA2_4に色変換を施す。次のステップS24では、色変換装置100が有する一次記憶部104の処理内容保存領域に、ステップS22における色変換処理を追記憶する。ここでは、領域SA1_4と領域SA2_4に対する色変換処理が追記憶される。
【0031】
ステップS24の後はステップS26へ進み、現在の画像フレームkがシーケンスの最終フレームであるか否かを判断する。そして、画像フレームkがシーケンスの最終フレームでない場合は、ステップS28へ進み、kの値をインクリメントしてステップS10以降の処理を再度行う。一方、ステップS26で画像フレームkがシーケンスの最終フレームの場合は、処理を終了する(END) 。
【0032】
また、ステップS14で混同領域が存在しない場合は、ステップS30へ進む。ここで、図2の第5フレームを例に挙げて説明すると、図2の第5フレームでは、第4フレームに対してオブジェクトAが画面右下方向へ移動し、オブジェクトAとオブジェクトBが重なっている。そして、オブジェクトAはオブジェクトBの背後に重なっており、この結果、混同領域である領域SaがオブジェクトBの背後に隠れている。オブジェクトAの領域Sa以外の領域については、オブジェクトBとの間で色の混同は生じないため、第5フレームでは、オブジェクトAとオブジェクトBとの間で混同領域が存在しない。このため、図2の第5フレームの場合は、ステップS14の判断において、ステップS14からステップS30へ進む。
【0033】
ステップS30では、前の参照フレーム(画像フレーム(k−1))内に混同領域が存在するか否かを判定し、前の参照フレーム内に混同領域が存在する場合はステップS32へ進む。図2の第5フレームの処理の場合、前の参照フレームである第4フレーム内に混同領域(領域Sa)が存在するため、ステップS30からステップS32へ進む。
【0034】
ステップS32では、ステップS30で存在するものと判定された前の参照フレームにおける混同領域に関し、当該混同領域を含むオブジェクトが、現在処理中のフレームにも存在するか否かを判定する。この際、一時記憶部104に記憶されたオブジェクトの属性を参照して、現フレームにオブジェクトが存在するか否かを判定する。そして、前の参照フレームの混同領域を含むオブジェクトが現在処理中のフレームにも存在する場合は、ステップS34へ進む。図2の第5フレームを例に挙げると、前の参照フレームである第4フレームに存在する混同領域(Sa)を含むオブジェクトAは、第5フレーム内にも存在している。従って、図2の第5フレームの処理の場合、ステップS32からステップS34へ進む。
【0035】
ステップS34では、混同領域が所属するオブジェクトのうち、混同領域以外の領域(非混同領域)に色変換を施す。図2の第5フレームの場合、混同領域(Sa)以外の領域SA1_5と領域SA2_5に色変換を施す。この際、ステップS24において、第4フレームでのSA1_4と領域SA2_4に対する色変換処理が一時記憶部104に記憶されているため、ステップS34では、ステップS22の処理内容を一時記憶部104から読み出して、ステップS22と同様の色変換処理を行う。このように、混同領域であるオブジェクトAの領域SaがオブジェクトBの背後に隠れており、混同領域が存在しない第5フレームについても、領域SA1_5と領域SA2_5にステップS22と同様の色変換が施される。従って、第4フレームから第5フレームに表示が切り換わった際においても、オブジェクトAの領域SA1と領域SA2には第4フレームと第5フレームとで同様の色変換が行われるため、ユーザの眼に違和感が生じることを確実に抑止できる。
【0036】
次のステップS36では、色変換装置100が有するメモリの処理内容保存領域に、ステップS34における色変換処理を追記憶する。図2の第5フレームの処理においては、領域SA1_5と領域SA2_5に対する色変換処理が追記憶される。
【0037】
ステップS36の後はステップS26へ進み、現在の画像フレームkがシーケンスの最終フレームであるか否かを判断する。そして、画像フレームkがシーケンスの最終フレームでない場合は、ステップS28へ進み、kの値をインクリメントしてステップS10以降の処理を再度行う。一方、ステップS26で画像フレームkがシーケンスの最終フレームの場合は、処理を終了する(END)。
【0038】
図4は、図3に示すオブジェクトA、オブジェクトBの色をCIE(Commission Internationale d’Eclairage)xy色度図上で示す特性図である。図4に示す色度図は、例えば前述した特許文献2の図5と同様のものであり、波長の長い色から波長の短い色までが、反時計回りに扇形に表現されている。図4に示す色度図上に表わされるそれぞれの直線(混同線)は、C型色覚者には同一直線状の2色が隣り合ったときに違う色に感じるが、P型色覚者には同一直線状の2色が隣り合ったときに同じ色であると感じる色相彩度情報が表わされたCIExy色度図上の直線である。この直線上にある色相彩度情報が隣り合う二色となると、色覚障害者は色を弁別することが困難となる。
【0039】
図3に示す各フレームにおいて、オブジェクトAは、明確な輪郭やコントラストによってそのオブジェクト境界が検出され、また青〜緑領域に段階的にグラデーションの施された彩色物体であるとする。図3に示すように、オブジェクトAは、画面左上から右下に向かって青色から緑色へグラデーション状に変化する彩色であるものとする。また、オブジェクトBは、一様な赤色の彩色であるものとする。
【0040】
図4のCIExy色度図上で具体的に示すと、オブジェクトAは、CIExy色度図で青領域の点Pbl(0.14,0.08)から緑領域のPSa(0.29,0.60)に至る直線I−I’上にある色で、グラデーション様に彩色されているものとする。そして、図3に示す領域SA1が点Pb1に対応し、領域Sa中が点PSaに対応し、領域SA1から領域Saに向かうにつれて、直線I−I’上で点Pb1から点PSaへ彩色が変化するものとする。また、オブジェクトBは、全体が図4に示す点Pb(0.65,0.33)で彩色されているとする。
【0041】
図4に示すように、PSaとPbとは混同線X上にあるため、オブジェクトAのPSaの彩色の領域とオブジェクトBのPbの彩色の領域とは、P型色覚保持者が混同してしまう可能性が高い。しかし、領域Sa以外のオブジェクトAの領域は、混同線X上には存在せず、また一般に色差の閾値として知られているマクアダム楕円の範囲外であり、オブジェクトBと共存しても混同領域とは判定されない色相である。
【0042】
このため、上述のように、図2のステップS14では、混同領域抽出部116によって、第4フレームにて混同領域が検出される。ここで、フレーム番号を添えて、オブジェクトAの混同領域をSa4とし、オブジェクトBの混同領域をSb4とすると、Sa4はオブジェクトAの右下の一部の領域であり、Sb4はオブジェクトBの全体と等しい領域である。
【0043】
第4フレームでは、混同領域の検出に伴い、Sa4,Sb4に対して色変換部118により色変換が施される。ここでは、上述したように、領域面積の大小を条件に用いて、領域のより小さいSa4の側に色変換を施すことで混同を回避することとする(ステップS16)。つまり、オブジェクトBの領域Sb4に対しては色変換を行わない。
【0044】
また、第4フレームにおいて、領域Saは、グラデーションの一段階分であり、図4に示す点PSaの彩色にて一様に彩色されているものとする。図4では、色変換部118による色変更操作の色度座標を示している。図4に示すように、色変換部118による色変更操作では、直線I−I’上でグラデーション様に彩色されたオブジェクトAは、直線I−II上でグラデーション様に彩色された色に変換される。具体的には、第4フレームで領域Saに施す色変換操作変換は、図4のCIExy色度図にてPSaからPSa’にて表される色に変更する処理、つまりy負方向に0.15だけ移動し、PSa’=(0.29,0.45)で示される色に変更する色変更操作ja0とする。この色変換操作ja0は、一次記憶部104の処理内容保存領域に記録される。後述するステップS22における近辺領域の処理と合わせて、違和感を生じることを抑制でき、領域SA1からSaに至る範囲で滑らかに彩色が変化するため、領域Saのみを色変換した場合と比較すると、色変換による違和感が生じることを抑止できる。
【0045】
図5は、図3に示す各フレームにおいて、混同領域存在フラグの状態、混同領域抽出部116による混同領域の抽出結果、オブジェクト検出部112によるオブジェクトA及びオブジェクトBの追跡結果の表を示す図である。混同領域存在フラグは、各フレームにおける混同領域抽出部116の判定結果を示すもので、混同領域が存在する場合は“1”となり、存在しない場合は“0”となる。図3に示すように、オブジェクトAとオブジェクトBに混同領域が生じるのは第4フレームのみであるため、混同領域存在フラグは、第4フレームにて“1”となり、その他のフレームでは“0”となる。
【0046】
また、混同領域抽出部116による混同領域の抽出結果として、第4フレームにおいてオブジェクトAとオブジェクトBに混同領域が所属していることが抽出される。オブジェクト検出部112による追跡結果から、第0〜第6フレームでオブジェクトAが画面内に存在しており、第4〜第7フレームでオブジェクトBが画面内に存在していることが得られる。
【0047】
図2のステップS20では、一般に知られる領域分割方法や領域再分類・領域併合方法で構成された混同領域所属オブジェクト検出部114により、混同領域SaがオブジェクトAに含まれ、SbがオブジェクトBに含まれることが検出される。すなわち、以下の関係が成立する。
A={Sa,SA1,SA2}
Sa⊂A
Sb≡B
【0048】
第4フレームでは、領域Saの色変換後に、オブジェクトAの彩色の連続性を保つため、オブジェクトAのSa以外の領域であるSA1_4,SA2_4に対しても、色変換操作を施す(図2のステップS22)。上述したように、オブジェクトAは図4のCIExy色度図上でグラデーションに彩色されているため、SA1_4,SA2_4に施す処理は、PblとPSaを結ぶ直線I−I’をPblとPSa’を結ぶI−IIへ変換する一次変換にて記述される各点の色相変換処理を行うものとする。より詳細には、図4に示すように、領域SA1_4については色をPblと同一に保ち、領域SA2_4はPblとPsa’(0.29,0.45)を結ぶ直線上の点である(0.215, 0.265)へ変更する。この色変換操作もまた、ステップS24にて一次記憶部104に追記憶される。
【0049】
上述のように、第4フレームの処理を終了すると、図2のステップS10に戻り、図3の第5フレームの処理に進む。第5フレームでは、オブジェクトAのうち領域SaがオブジェクトBに隠れて消失する。このとき、図5に示すように、オブジェクト検出部112ではオブジェクトA及びオブジェクトBが検出されるが、混同領域抽出部116による混同領域判定の結果は、混同領域「なし」となる。
【0050】
このため、図2の処理フローでは、ステップS14からステップS30以降の処理へ進み、参照フレーム(第4フレーム)における混同領域存在フラグの状態と、オブジェクトA,Bの抽出結果に基づいて色変換を施すか否かが判定される。第5フレームの場合、参照フレームである1つ前の第4フレームでの混同領域存在フラグの状態が“1”であり、第5フレームのここまでの処理にてオブジェクトAおよびBとが双方検出されていることとを考慮し(ステップS30,S32)、オブジェクトA内のSA1_5およびSA2_5において、オブジェクトBによって隠れていない領域に対して、第4フレームで行われた色変換操作を一時記憶部104の処理内容保存領域から読み出し、これを参照しながら色変換操作を行う(ステップS34)。
【0051】
以降のフレームにおいても同様に、混同領域抽出部116によって現フレーム内に混同領域が存在しない、と判定された場合も、参照フレームでの混同領域の抽出結果と、その混同領域を含有するオブジェクトの情報を検出する。そして、処理中の現フレームで検出されたオブジェクトの中に参照フレームで混同領域を含有していたオブジェクトと共通のものが存在すれば、そのオブジェクトの混同領域以外の領域について色変換を行なう。画像フレームkの場合、オブジェクトAに含まれSaには含まれない領域SA1_k,SA2_kに対して、処理内容保存領域を参照し、混同領域存在時と同様な色相変換を行う。
【0052】
なお、上述した例では、第5フレームにて領域Saが領域Sbに隠れる場合を例に挙げたが、第5フレームで領域Saが画面枠外にはみ出るようなオブジェクトAの移動の結果として第5フレームで混同領域が消失する場合も同様の処理を行う。
【0053】
また、上述した例では、説明簡便化のため、オブジェクトAの彩色がxy色度図上で直線状となるよう3段階のグラデーション彩色がされているものと仮定したが、より細かく複雑な階調の彩色や、同一オブジェクト内部で補色・対比効果を利用した彩色に対して、色変換や明度の処理を行ってもよい。この場合においても、混同領域の出現フレームに施した画像処理色彩変換処理を利用して、他フレームの色彩変換処理を行うことができる。
【0054】
また、上述した例では、現フレームの直前の1フレーム前を参照フレームとして、混同領域を含有するオブジェクト検出結果を参照して後続フレーム内の色変換処理を行ったが、同じ動画シーケンス内をより前方までさかのぼって参照フレームとても良い。図3の例では、第0〜第3フレームには、オブジェクトBは存在しておらず、混同領域も存在しないが、全てのフレームにおける混同領域の検出結果に基づいて第0〜第3フレームのオブジェクトAに色変換を施しても良い。この場合、混同領域所属オブジェクト抽出とオブジェクト検出/追跡を対象シーケンス中の全ての画像フレームにについて検出した後に、これらの結果を利用して第0〜第3フレームのオブジェクトAの領域Sa_k,SA1_k,SA2_kに対して、第4フレームで施した色変換操作処理を参照した色変換処理を行うことができる。
【0055】
以上説明したように本実施形態によれば、色覚異常者が弁別しにくい配色を含む動画シーケンスにおいて、同一画像フレーム内に混同される色相が存在しない場合であっても、前後するフレームに混同の可能性のある色相が存在すれば、色変換が施される。従って、連続する動画フレームにおいて、シーケンスを通じて時間的・領域的に連続的となる色変換が適用されることとなり、非連続な色調変化で動画像視聴感覚が損なわれてしまうことを確実に抑止することが可能となる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0057】
100 色変換装置
102 入出力部
112 オブジェクト検出部
116 混同領域抽出部
118 色変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動画像コンテンツの画像データをフレーム毎に取得する入力部と、
前記フレーム毎に画像のオブジェクトを検出するオブジェクト検出部と、
検出した前記オブジェクトから彩色が混同する混同領域を抽出する混同領域抽出部と、
特定のフレームから前記混同領域が抽出された場合に、前記特定のフレーム又は前記混同領域が抽出された前記オブジェクトが存在する他のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含んでいた領域に色変換を施す色変換部と、
を備える、色変換装置。
【請求項2】
前記特定のフレームにおける前記色変換の処理内容を記憶する色変換処理記憶部を備え、
前記色変換部は、前記他のフレームにおける前記色変換の際に、前記色変換処理記憶部に記憶された前記処理内容を使用する、請求項1に記載の色変換装置。
【請求項3】
前記特定のフレームで前記色変換が行われたオブジェクトを記憶するオブジェクト記憶部を備え、
前記色変換部は、オブジェクト記憶部に記憶された前記オブジェクトが前記他のフレームに存在する場合は、前記他のフレームにおいて前記色変換を施す、請求項1に記載の色変換装置。
【請求項4】
前記混同領域抽出部は、前記オブジェクト検出部で検出された複数のオブジェクトのそれぞれから、彩色が相互に混同する前記混同領域を抽出し、
各オブジェクトにおける前記混同領域の大きさに基づいて、前記複数のオブジェクトの中から色変換を行うオブジェクトを抽出する混同領域所属オブジェクト抽出部を備え、
前記色変換部は、前記複数のオブジェクトのうち、前記所属抽出部で抽出されたオブジェクトに色変換を行う、請求項1に記載の色変換装置。
【請求項5】
前記色変換部は、オブジェクト間で彩色が相互に混同する前記混同領域について、xy色度図上で同一の混同線に前記混同領域が存在しないように前記色変換を行う、請求項1に記載の色変換装置。
【請求項6】
動画像コンテンツの画像データをフレーム毎に取得するステップと、
前記フレーム毎に画像のオブジェクトを検出するステップと、
検出した前記オブジェクトから彩色が混同する混同領域を抽出するステップと、
特定のフレームから前記混同領域が抽出された場合に、前記特定のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含む領域に色変換を施すステップと、
前記混同領域が抽出された前記オブジェクトが存在する他のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含んでいた領域に色変換を施すステップと、
を備える、色変換方法。
【請求項7】
動画像コンテンツの画像データをフレーム毎に取得する手段、
前記フレーム毎に画像のオブジェクトを検出する手段、
検出した前記オブジェクトから彩色が混同する混同領域を抽出する手段、
特定のフレームから前記混同領域が抽出された場合に、前記特定のフレーム又は前記混同領域が抽出された前記オブジェクトが存在する他のフレームにおいて、少なくとも前記混同領域を含んでいた領域に色変換を施す手段、
としてコンピュータを機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−250167(P2011−250167A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121670(P2010−121670)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】