説明

芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩およびその製造方法

【課題】本発明は、ポリベンゾアゾールの製造に好適な芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩モノマーを提供するものである。
【解決手段】特定の構造を有する芳香族ポリアミンおよびそれらの塩酸塩からなる群より選ばれる1種の水溶液に、特定の構造を有する芳香族ジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種の水溶液を、温度70度以下、かつ、該芳香族ポリアミン、及び該芳香族ポリアミン塩酸塩からなる群の合計と、該芳香族ジカルボン酸、及び該芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩からなる群の合計とのモル比が1.0〜1.2となる条件にて添加して反応させることを特徴とする、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンゾアゾールの原料である芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾビスオキサゾールに代表されるポリベンゾアゾールは優れた物性を有する重縮合系ポリマーであり、ポリベンゾビスオキサゾール系化合物については広範な紹介例がある(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ポリベンゾアゾールの製造方法としては、4,6−ジアミノレゾルシノール(4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール)、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール、などの芳香族ポリアミンと、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸又はその塩とを、ポリリン酸などの脱水作用を有する溶剤中で重縮合反応させる方法が最も一般的である。
【0004】
また、ポリベンゾアゾールの原料として、芳香族ポリアミンと芳香族ジカルボン酸との塩を用いる製造方法や、芳香族ポリアミンと芳香族ジカルボン酸塩からポリベンゾアゾールを製造する方法が紹介されている(例えば、特許文献2および3)。
また、特定官能基を有する2種の芳香族ジカルボン酸基を含むポリベンゾアゾールも報告されている(例えば、特許文献4)。
【0005】
ポリベンゾアゾールに用いられる芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、芳香族ポリアミンと芳香族ジカルボン酸の化学組成比が1:1であり、末端停止剤添加などによる重合度制御を行わない場合は、極めて高い重合度のポリベンゾアゾールが得られるはずである。しかし、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、芳香族ポリアミンの一部が酸化により、分解を受けていると考えられ、結果として芳香族ポリアミンと芳香族ジカルボン酸の化学組成比がずれ、ポリベンゾアゾールの重合度が上がらないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第85/04178号パンフレット
【特許文献2】特開2001−172238号公報(米国特許第6617414号明細書)
【特許文献3】特開2007−161757号公報
【特許文献4】国際公開第2005/100442号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特定官能基を有する芳香族ジカルボン酸と芳香族ポリアミンからなるモノマー塩に関するものであり、ポリベンゾアゾールの製造に適した品質の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行い、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の製造方法についての本発明を完成した。本発明の構成を以下に示す。
【0009】
1. 下記一般式(A)および(B)
【化1】

(上記一般式(A)及び(B)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わす。)
で表わされる芳香族ポリアミンおよびそれらの塩酸塩からなる群より選ばれる1種の水溶液に、
下記一般式(C)および(D)
【化2】

(上記一般式(D)において、YはNまたはCHを表す。)
で表される芳香族ジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種の水溶液を、温度70度以下、かつ、該芳香族ポリアミン及び該芳香族ポリアミン塩酸塩からなる群の合計と、該芳香族ジカルボン酸、及び該芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩からなる群の合計、とのモル比が1.0〜1.2となる条件にて添加して反応させることを特徴とする、下記一般式(E)〜(H)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(上記一般式(E)〜(H)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わし、YはNまたはCHを表す。)
からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
【0010】
2. 反応時間が5〜10分間であり、かつ反応温度が40〜70℃であることを特徴とする上記1項記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
3. 酸化防止剤を、芳香族ポリアミン1モルあたり0.1〜5.0mol添加することを特徴とする上記1項又は2項に記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
4. 酸化防止剤が二価のスズ化合物である上記3項に記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
5. 上記1項〜4項のいずれかに記載の製造方法によって製造された、メジアン径が5〜50μmである芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。
6. 上記1項〜4項のいずれかに記載の製造方法によって製造された、水分含有率が1000ppm以下である芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によって得られる芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を原料として用いることにより、重合度が高いポリベンゾアゾールを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、上記一般式(A)および(B)のそれぞれで表わされる芳香族ポリアミンおよびそれらの塩酸塩からなる群より選ばれる1種の水溶液に、上記一般式(C)および(D)で表される芳香族ジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種の水溶液を、温度70度以下、かつ、該芳香族ポリアミン、及び該芳香族ポリアミン塩酸塩からなる群(以下、芳香族ポリアミン類と称することがある)の合計と、該芳香族ジカルボン酸、及び該芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩からなる群(以下、芳香族ジカルボン酸類と称することがある)の合計とのモル比が1.0〜1.2となる条件にて添加して反応させることを特徴とする、上記一般式(E)〜(H)のいずれか1つである芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法に関する。
【0013】
本発明で用いる芳香族ポリアミンに関して、上記一般式(A)および(B)におけるArは炭素数4〜20の4価の芳香族基であり、1〜2個の環員窒素原子を含有していてもよい。Arとして例えば、
【化7】

を好ましいものとして挙げることができ、上記一般式(A)および(B)としては、式中のArが上記芳香環のいずれかであり、かつ、当該一般式中のXが酸素原子であるものが特に好ましい。
【0014】
本発明の製造方法においては、上記の芳香族ポリアミン又はその塩酸塩を、水溶液にして用いる(当該水溶液を、以下、芳香族ポリアミン水溶液と称することがある)。溶解の際に用いる水は、窒素やヘリウムなどの不活性ガスで脱気した水が好ましい。また、芳香族ポリアミンは酸化されやすく、水への溶解を高温で行うと水溶液が薄い桃色に着色しやすくなるため、酸化を抑制するために、室温、つまり0〜40℃くらいで行うことが好ましく、10〜30℃にて行うとより好ましい。
【0015】
本発明で用いられる上記の芳香族ポリアミン水溶液の濃度はなるべく高いほうが好ましいが、0.5〜1.5mol/Lであると好ましく、0.6〜1.0mol/Lであるとより好ましい。
【0016】
本発明の製造方法では、前記一般式(C)及び(D)で表される芳香族ジカルボン酸、つまり、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピラジンジカルボン酸、及びそれらのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種以上を水溶液にして用いる(当該水溶液を、以下、芳香族ジカルボン酸水溶液と称することがある)。また、上記の芳香族ジカルボン酸を、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属化合物を含む水溶液に溶解し、芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の水溶液としてもよい。
【0017】
芳香族ジカルボン酸又はそのアルカリ金属塩の溶解に用いる水も、窒素やヘリウムなどの不活性ガスで脱気した水が好ましい。芳香族ジカルボン酸又はそのアルカリ金属塩を水に溶解する時の温度は50℃以上が好ましく、50〜90℃がより好ましく、60〜80℃であると更に好ましく、最も好ましいのは70℃である。
芳香族ジカルボン酸水溶液の濃度はなるべく高いほうが好ましいが、0.2〜0.4mol/Lが好ましく、0.25〜0.35mol/Lであるとより好ましい。
【0018】
なお、本発明の製造方法においては、得られる塩を用いて製造するポリベンゾアゾールの必要な物性・品質に支障が生じない範囲において、前記一般式(C)及び(D)で表される芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を共に用いても良い。そのような他のジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。これら他のジカルボン酸の使用量は、前記一般式(C)及び(D)で表される芳香族ジカルボン酸との合計のモル量基準で30モル%以下であると好ましく、10モル%以下であるとより好ましい。
【0019】
本発明の製造方法においては、上記芳香族ポリアミン水溶液に、上記の芳香族ポリカルボン酸水溶液を添加することが肝要である。特開2007−161757号公報では、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造に関して、本願発明とは逆の添加法が記載されているが、この方法だと得られる芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩が着色しやすくなる。このような着色した芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩を原料に用いてポリベンズアゾールを製造した場合、重合反応が十分に進行しなかったり、得られたポリベンズアゾールの物性や品質に異常があったりすることがある。
【0020】
上記芳香族ポリアミン水溶液に、上記の芳香族ポリカルボン酸水溶液を添加する際、生成する塩の着色防止の為にできるだけ短時間で行うことが好ましく、スケールにも依存するが、10分を超えない時間で添加することが好ましい。同様の理由で塩を形成させる反応時間が長いと塩が着色する傾向があるため、反応時間は短いほうが好ましく、スケールにも依存するが、反応時間は30分未満が好ましく、5〜10分であるとより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、芳香族ポリアミン類と芳香族ジカルボン酸類とを70℃以上の高温で反応させると、生成する塩が着色しやすいため、反応温度は70℃以下にすることが肝要であり、40〜70℃とするとより好ましく、50〜60℃であると更に好ましい。
【0022】
芳香族ポリアミン類は芳香族ジカルボン酸類に対して等量またはやや過剰に添加する必要がある。すなわち、前記芳香族ポリアミン、及び前記芳香族ポリアミン塩酸塩からなる群の合計と、該芳香族ジカルボン酸、及び該芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩からなる群の合計とのモル比を1.0〜1.2とすることが肝要であり、1.0〜1.1であると好ましく、1.0〜1.05であるより好ましい。芳香族ジカルボン酸が過剰だと、高重合度のポリベンズアゾールを与える芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を得ることが難しい。
【0023】
上記のように、芳香族ポリアミン類の水溶液に芳香族ジカルボン酸類の水溶液を添加すると、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩が沈殿するので、この粗芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩をろ過して、水洗を行い、塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの副生物、または未反応の芳香族ポリアミン類を除去し、高純度の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を得る。ろ過、水洗操作は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、また、水洗に使用する水も予め不活性ガスで脱気した水を使用することが好ましい。なお、水洗は、塩の生成反応時に使用した水の量に対して、2〜3倍量の水で行うことが望ましい。
【0024】
上記の、ろ過後の湿潤した芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、遠心、吸引、加圧などの方法で粗く脱水することが好ましく、加熱下減圧または加熱した窒素などの不活性ガスを吹き付けることで乾燥する。この時、残存水分率が高い状態で加熱すると芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩が変色劣化しやすく、加熱前に芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の残存水分率を50質量%以下程度まで低下させておくことが好ましい。乾燥時の温度は、塩の変色劣化を防ぐために80℃以下が好ましい。乾燥時の温度は残存水分率が高い初期段階では低温で、時間とともに温度を上げるという方法も有効である。また、均一乾燥、ダマの形成の抑制、加えて乾燥時間の短縮のため、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を攪拌しながら、系内を減圧して乾燥させる方法も有効である。また、乾燥時間の短縮のため、水溶性の有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどに置換するという方法も可能であるが、乾燥後、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩中に残存する有機溶媒がポリベンゾアゾール重合時に悪影響を与える場合があり、好ましい方法ではない。
【0025】
本発明の製造方法においては、酸化防止剤を芳香族ポリアミンに対して0.1〜5mol%添加することが好ましい。そのような酸化防止剤としては、スズ(II)、鉄(II)、銅(I)、チタン(III)などの金属塩、あるいはホスホン酸などのリン化合物、亜硫酸などの硫黄化合物などが挙げられるが、スズ(II)の金属塩、特に塩化スズ(II)の使用が好ましく、塩化スズ(II)であれば二水和物でも好ましい。該酸化防止剤の添加は、芳香族ポリアミン類を水に溶解するに先立って、その水や芳香族ポリアミン類自身に前もって添加しておくのが好ましいが、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の生成反応や、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩塩を精製する過程において、複数回に分け添加しても良い。特に、前記の粗芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を水洗する際の水に芳香族ポリアミンに対して、0.01〜0.1mol%となる量の上記酸化防止剤を添加しておくのも好適である。
【0026】
本発明の製造方法により、メジアン径が5〜50μmの前記芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を製造することができる。当該メジアン径は5〜30μmであるとより好ましく、5〜15μmであると更に好ましい。当該メジアン径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により求めたものが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法により得られる、前記芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、水分率が1000ppm(質量基準)以下であると好ましく、950ppm以下であるとより好ましい。
【0028】
本発明の製造方法による芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を用いて、国際公開第2005/100442号パンフレット等に示されている方法で重合反応を行うことにより、際立って良好な品質・物性のポリベンゾアゾールを得ることができる。すなわち、脱水剤と溶媒を兼ねたポリリン酸を重合溶媒に用い、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を80〜200℃で加熱混合することで、重縮合させ、ポリベンゾアゾールの重合溶液、すなわちドープを得る。ポリリン酸の脱水作用を高めるために、五酸化二りんを添加することも行われる。また、重合反応時に、本発明の製造方法において添加すると好ましいものとして前記した酸化防止剤を、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩1モルあたり、0.1〜3.0モル%、好ましくは0.2〜2.0モル%添加しても良い。
【0029】
上記重合反応は、溶媒中で行う反応、無溶媒の加熱溶融反応のいずれも採用できるが、例えば、後述する反応溶媒中で攪拌下に加熱反応させるのが好ましい。反応温度は、50℃から500℃が好ましく、100℃から350℃がさらに好ましい。50℃より温度が低いと反応が進みにくく、500℃より温度が高いと分解等の副反応が起こりやすくなるためである。反応時間は温度条件にもよるが、通常は1時間から数十時間である。反応は加圧下から減圧下で行うことができる。
【0030】
上記重合反応は、通常、無触媒でも進行するが、必要に応じて、三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酢酸第一錫、塩化錫、オクチル酸錫、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジアセテートといった錫化合物、酢酸カルシウムのようなアルカリ土類金属塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属塩等、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸等のような触媒を用いても良い。
【0031】
上記重合反応に際しては、必要に応じてポリリン酸以外の溶媒も用いることが出来る。好ましい溶媒としては1―メチル―2−ピロリドン、1―シクロヘキシル−2―ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ジクロロメタン、クロロロホルム、テトラヒドロフラン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、リン酸等を挙げることが出来るがこれに限定されるものではない。
ポリベンゾアゾールの分解及び着色を防ぐため、上記重合反応は乾燥した不活性ガス(窒素、アルゴンなど)雰囲気下で行うことが望ましい。
【0032】
本発明の製造方法による芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を原料として用いて上記のように重合反応を行うことにより、濃度2.5mg/8mLのメタンスルホン酸溶液試料を用いて25℃にて測定した特有粘度が16〜30dL/g、より好ましくは17〜20dL/gという非常に高重合度で、かつ、その他の品質や物性も良好なポリベンゾアゾールを得ることができる。
このように得られたポリベンゾアゾールドープは150〜200℃の温度で紡糸ノズルあるいはダイから押出し、水洗によりポリリン酸等の溶媒を抽出除去し、乾燥することで、高強度、高弾性率、高耐熱性を有する繊維やフィルムに成型加工される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによっていささかも限定されるものではない。なお、以下の実施例における各測定値は次の方法により求めた値である。
【0034】
1) 芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の水分率
芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の水分率は、水分気化カールフィッシャー法にて行った。水分気化装置および水分滴定装置(ともに平沼産業株式会社製)を用い、資料を窒素雰囲気下で専用容器に採取し、密栓後、水分気化装置にセットし、150℃で過熱発生した水分を電量滴定した。
【0035】
2) 芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩のメジアン径の測定
芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の粒度分布は以下のように測定した。レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−920)中にn−プロパノールに分散させた塩の分散液をセットし、湿式バッチセルにて測定し、レーザーが粒子に当たって散乱することを利用して粒度分布を算出した。測定原理はMie散乱理論を用いて粒度分布の計算を行った。
【0036】
3) ポリマーの特有粘度(ηinh
ポリマーの特有粘度(ηinh)は、メタンスルホン酸を用いてポリマー試料濃度2.5mg/8mLで25℃において測定した相対粘度(ηrel)を基に下記式により求めた値である。
ηinh=(lnηrel)/C
(ηrelは相対粘度、Cは試料濃度を表す)
【0037】
[実施例1] 4,6−ジアミノレゾルシノール/2,5−ジヒドロキシテレフタル酸塩(以下、OH−PBOと略称することがある)の製造
4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩14質量部を、塩化スズ(II)二水和物0.0148質量を添加し、窒素で脱気した水80質量部に溶解した。溶解は窒素でバブリングさせながら行った。2,5−ジヒドロキシテレフタル酸12.361質量部を、0.58mol/L水酸化ナトリウム水溶液220質量部に窒素で脱気しながら70℃で溶解させた。該4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩水溶液に、該2,5−ジヒドロキシテレフタル酸二ナトリウム塩水溶液を添加し、4,6−ジアミノレゾルシノール/2,5−ジヒドロキシテレフタル酸塩の白色〜薄黄色沈殿を形成させた。この際、反応温度は55℃であり、反応は5分間行った。得られた塩を、ろ過し、塩化スズ(II)二水和物0.02質量部を溶解させ、窒素で脱気した水300質量部に分散混合し、再度ろ過を行った。この分散混合、ろ過操作を3回繰り返し行った。水洗、ろ過した塩を窒素雰囲気中、フィルター上で吸引し、脱水した。脱水後、70℃、1Paで減圧乾燥を24時間行い、4,6−ジアミノレゾルシノール/2,5−ジヒドロキシテレフタル酸塩(OH−PBO)19.8質量部を得た。得られたOH−PBOは薄黄色で、水分率は600ppmであり、メジアン径は9.9μmであった。
【0038】
[実施例2] 4,6−ジアミノレゾルシノール/2,5−ピリジンジカルボン酸塩(以下、N−PBOと略称することがある)の製造
4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩14質量部を、塩化スズ(II)二水和物0.0148質量を添加し、窒素で脱気した水80質量部に溶解した。溶解は窒素でバブリングさせながら行った。2,5−ピリジンジカルボン酸10.694質量部を、0.58mol/L水酸化ナトリウム水溶液220質量部に窒素で脱気しながら70℃で溶解させた。該4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩水溶液に、該2,5−ピリジンジカルボン酸二ナトリウム塩水溶液を添加し、4,6−ジアミノレゾルシノール/2,5−ピリジンジカルボン酸塩の白色〜薄桃色沈殿を形成させた。この際、反応温度は55℃であり、反応は5分間行った。得られた塩を、ろ過し、塩化スズ(II)二水和物0.02質量部を溶解させ、窒素で脱気した水300質量部に分散混合し、再度ろ過を行った。この分散混合、ろ過操作を3回繰り返し行った。水洗、ろ過した塩を窒素雰囲気中、フィルター上で吸引し、脱水した。脱水後、70℃、1Paで減圧乾燥を24時間行い、4,6−ジアミノレゾルシノール/2,5−ピリジンジカルボン酸塩(N−PBO)17.8質量部を得た。得られたN−PBOは白色〜薄桃色で、水分率は900ppmであり、メジアン径は13μmであった。
【0039】
[製造例1] ポリベンゾビスオキサゾールの製造
実施例1及び実施例2で得た2種類の塩を用いて、OH−PBO4.07質量部、N−PBO7.4質量部(OH−PBOとN−PBOとのモル比=2)、ポリリン酸23.8質量部、五酸化ニリン14.2質量部を秤量し、100mLフラスコ反応器に添加した。加えて芳香族アミンの酸化防止剤として塩化スズ(II)二水和物を0.08質量部添加した。ポリリン酸中におけるポリマー濃度は17.8質量%であった。重合は80℃で30分、150℃で6時間、160℃で5時間、180℃で20時間撹拌を行い、反応を終了させた。最終的に得られたポリマー(ポリベンゾビスオキサゾール)の特有粘度は17.8dL/gであった。
【0040】
[比較例1] OH−PBOの製造(特開2007−161757号公報の添加方法)
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸の水酸化ナトリウム水溶液に、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩水溶液を添加し、反応時間が60分であった以外は、実施例1と同様に操作を行った。得られたOH−PBOは、黄色で、水分率は900ppm、メジアン径は64μmであった。
【0041】
[比較例2] N−PBOの製造(特開2007−161757号公報の添加方法)
2,5−ピリジンジカルボン酸の水酸化ナトリウム水溶液に、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩水溶液を添加し、反応時間が60分であった以外は、実施例2と同様に操作を行った。得られたN−PBOは薄桃色〜桃色で、水分率は780ppm、メジアン径は68μmであった。
【0042】
[比較製造例1] ポリベンゾビスオキサゾールの製造
比較例1で得られたOH−PBOと、比較例2で得られたN−PBOを用いた以外は、製造例1と同様に操作を行った。得られたポリマーの特有粘度は15.4dL/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の製造方法による芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、ゴムやプラスチックの補強材、耐熱フェルトといった産業資材、消防服や安全手袋といった防護用途などでの利用に好適なポリベンゾアゾールの原料として非常に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)および(B)
【化1】

(上記一般式(A)及び(B)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わす。)
で表わされる芳香族ポリアミンおよびそれらの塩酸塩からなる群より選ばれる1種の水溶液に、
下記一般式(C)および(D)
【化2】

(上記一般式(D)において、YはNまたはCHを表す。)
で表される芳香族ジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種の水溶液を、温度70度以下、かつ、該芳香族ポリアミン、及び該芳香族ポリアミン塩酸塩からなる群の合計と、該芳香族ジカルボン酸、及び該芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩からなる群の合計、とのモル比が1.0〜1.2となる条件にて添加して反応させることを特徴とする、下記一般式(E)〜(H)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(上記一般式(E)〜(H)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わし、YはNまたはCHを表す。)
のうち少なくとも1種の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
【請求項2】
反応時間が5〜10分間であり、かつ反応温度が40〜70℃であることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
【請求項3】
酸化防止剤を、芳香族ポリアミン1モルあたり0.1〜5.0mol添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
【請求項4】
酸化防止剤が二価のスズ化合物である請求項3に記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造された、メジアン径が5〜50μmである芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造された、水分含有率が1000ppm以下である芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。

【公開番号】特開2011−136940(P2011−136940A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297719(P2009−297719)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】