説明

茶花の腸運動亢進作用および膵リパーゼ阻害作用成分とその用途

【課題】本発明は、茶花の新規用途の開発を課題とする。
【解決手段】本発明によれば、安全に使用できる茶花抽出物、または該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物の少なくとも一つを有効成分とする腸閉塞症および便秘の予防・改善用組成物、あるいは遊離脂肪酸産生阻害剤、抗肥満または抗高脂血症用組成物ならびにその組成物を含む健康食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶花抽出物および該抽出物に含まれる新規サポニン化合物またはその塩に関する。
より詳細には、本発明は、ツバキ科植物であるチャの花部である茶花の水または含水低級アルコール抽出物および/またはこの抽出物に含まれる新規サポニン化合物またはその塩の用途に関する。
【0002】
さらに詳細には、本発明は、上記の抽出物または該抽出物に含まれ、膵リパーゼ活性阻害作用を有する新規サポニン化合物の少なくとも一つを含有する遊離脂肪酸産生抑制用医薬組成物および該組成物が添加されてなる健康食品に関する。
【背景技術】
【0003】
ツバキ科 (Theaceae)植物ツバキ属 (Camellia)に属するチャ (Camellia sinensis、別名Thea sinensis)は、本来、熱帯および亜熱帯性の多年性植物であるが、インド、スリランカ、インドネシア、中国および日本などアジアにおいて広く自生または栽培されている常緑樹である。
特に、緑茶原料としては中国の福建省において大量栽培が行なわれている。
【0004】
従来、チャの幼葉を摘んで不発酵、半発酵または発酵加工して、緑茶、ウーロン茶または紅茶などに製茶し、嗜好飲料として古くから広く日常的に愛飲されている。
また、チャの興奮作用および利尿作用は古くから知られ、中国においては、明時代の「本草綱目」に、そして我が国においては、江戸時代の「本朝食鑑」に記載されているほどである。
【0005】
さらに近年、チャに関しては、主として、その葉部の成分として含まれるカテキンなどのようなポリフェノール類が、活性酸素の消去など対して有効であることが報告され、一段と注目されている。また、チャ葉には抗炎症、抗菌作用を有するサポニン化合物が含まれることも報告されている(例えば、非特許文献1および特許文献1など)。さらにチャの木の花芽が、抗菌作用を有する新規サポニンを含有することも報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0006】
また、最近、本発明者により茶花が、中性脂肪吸収抑制、糖吸収抑制および胃粘膜保護作用または抗高脂血症作用を有する新規サポニン化合物を含むことが見出されたことも報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献3)。
しかしながら、茶花含有成分が腸運動亢進作用と膵リパーゼ活性阻害作用を有することに関しては、何等報告されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平7-61998号公報
【特許文献2】特開2006-70018号公報
【非特許文献1】提坂裕子ら、薬学雑誌、116、238-243(1996)
【非特許文献2】Masayuki Yoshikawaら、Chem, Pharm, Bull. 55(4) 598-605(2007)
【非特許文献3】Masayuki Yoshikawaら、J. Nat. Prod. 2005, 68, 1360-1365
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、茶花の新規用途の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、福建省産茶花の成分およびその薬理作用を明らかにすべく研究に着手し、茶花の水または含水低級アルコール抽出物および各精製段階における茶花抽出物の薬理作用を指標としてその含有成分を鋭意研究し、新規サポニン化合物を見出し、それらの化学構造を決定すると共に、当該化合物の薬理作用についても知見を得、茶花の新規用途を確立し、上記の課題を解決する。
【0010】
すなわち、本発明によれば、次の一般式(1):
【化1】

[式中、R1は水素原子またはヒドロキシ基であり、R2は水素原子、アセチル基またはチグロイル基(2−メチルクロトノイル基)であり、R3は水素原子またはチグロイル基である]
で表されるサポニン化合物またはその塩が提供される。
【0011】
また、茶花抽出物および該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物は、いずれも腸運動亢進作用および膵リパーゼ活性阻害作用を有する。
【発明の効果】
【0012】
したがって、茶花抽出物および該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物は、その腸運動亢進作用による腸閉塞症の予防・改善と排泄の促進による便秘の予防・改善、ならびに膵リパーゼ活性阻害作用により遊離脂肪酸の産生や腸での中性脂質の吸収を抑制でき、抗肥満、抗高脂血症および脂肪肝改善を意図する医薬用組成物および該組成物が添加されてなる健康食品が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、茶花抽出物、または該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物は、上記の作用に基づき、痔、肌荒れ、吹き出物、肥満、動脈硬化、高血圧、憩室症、胃潰瘍などに対しても有効に利用できる。
また、本発明によれば、茶花抽出物、または該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物またはその塩は、従来、食用としても用いられている茶の花部から得られるので、安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、茶花の水または含水低級アルコール抽出物および/または該抽出物を必要に応じてさらに精製した茶花抽出物に含まれる、上記の一般式(1)で表されるサポニン化合物またはその塩およびそれらの使用に関している。
【0015】
本発明において、用いられる茶花とは、ツバキ科 (Theaceae)植物ツバキ属 (Camellia)に属するチャ (Camellia sinensis、別名Thea sinensis)の花部、すなわち、雌しべ、雄しべ、花弁、萼、苞葉、花軸、花柄等を含むいわゆる花、花芽および蕾などを意味する。
本発明において、茶花は、採取したものをそのまま、または乾燥して、あるいは当業者に公知の前記のいずれかの方法で製茶して用いることができる。
【0016】
なお、通常、上記のチャは、主として2変種、すなわち、いわゆる緑茶製造に適する中国種var. sinensisおよび紅茶製造に適するアッサム種var. assamica (Mast.) Kitamに、またはこれらの雑種に分類されるが、本発明における茶花の原料としては、上記のいずれかに限定されるものではないが、中国福建省産の茶花に含まれる成分が高含量であることから好適に用いられる。
【0017】
本発明の抽出物の調製に用いられる溶媒に関して、水以外の低級アルコールとしては、炭素数1〜4のモノアルコールまたはジアルコール類が挙げられる。
具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールもしくはt-ブタノールまたはこれらの混液あるいはこれらの任意の割合における含水アルコール等が挙げられる。さらに、エタンジオール、プロパンジオールおよびブタンジオールおよびこれらの位置異性体またはこれらの混液あるいはこれらの任意の割合における含水ジアルコール等が挙げられる。
【0018】
しかしながら、抽出後の濃縮などの容易性の観点から、好ましくは、水またはメタノールもしくはエタノールが用いられる。さらに好ましくは、水または約80%エタノールが用いられるが、本発明においては、含水エタノールのエタノール量が特に80%に限定されるものではない。
これらの抽出用溶媒は、抽出材料に対して1〜50倍 (容量)程度、好ましくは2〜10倍 (容量)程度用いられる。
【0019】
なお、抽出は、熱時または室温で行うことができ、抽出温度は、室温と溶媒の沸点の間で任意に設定できる。熱時抽出の場合、例えば、50℃〜抽出溶媒の沸点の温度で、振盪(または撹拌)下もしくは非振盪下または還流下に、茶花の花部を上記の抽出溶媒に浸漬することによって行うのが適当である。抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間〜5時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間〜20日間程度行うのが適当である。また、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分〜数時間加熱還流するのが好ましい。
【0020】
また、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、上記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば、2〜5回程度繰り返すのが抽出効率の点から好ましい。
【0021】
固形物を、抽出後にろ別して得られる抽出液は、常法により濃縮して抽出エキスとしてもよい。濃縮は、減圧下に行うのが好ましい。濃縮は抽出液が乾固するまで行ってもよい。
抽出物は、そのまま本発明の組成物を調製するのに用いてもよいが、粉末状または凍結乾燥品等として用いてもよい。これらの固形物とする方法は、当該分野で公知の方法を採用することができる。
【0022】
したがって、本発明における抽出物とは、抽出液、抽出エキス、濃縮乾固物または凍結乾燥物のいずれも意味するが、本発明による抽出物は、精製せずにそのまま用いることもでき、本発明の一部を構成している。
【0023】
しかしながら、本発明では、抽出液を濃縮した抽出物を、溶媒による分配抽出、すなわち、水と非水和性有機溶媒とを用いる分配抽出に単回または複数回付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離することができる。
【0024】
非水和性有機溶媒としては、酢酸エチル、n-ブタノール、ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられるが、中でも酢酸エチルが好ましい。
すなわち、茶花の水または含水低級アルコール抽出物を濃縮して得られた抽出物を、必要に応じて酢酸エチルと水を用いて分配し、酢酸エチル可溶画分と水溶性画分として得ることができる。
【0025】
また、上記で得られる水溶性画分を、さらに水と非水和性有機溶媒を用いる分配抽出に付し、有機溶媒可溶画分と水溶性画分として分離することができる。
この場合の非水和性有機溶媒としては、n-ブタノール、ヘキサン、クロロホルムなどが挙げられるが、中でもn-ブタノールが好ましい。
すなわち、上記の酢酸エチルと水との分配後の水溶性画分をそのままn-ブタノールとの分配に付すか、または該水溶性画分を濃縮して得られる残渣をさらに水とn-ブタノールとの分配に付し、n-ブタノール画分と水溶性画分を得ることができる。
【0026】
分配抽出は、当該分野で通常行われる撹拌もしくは振盪分配法または液滴向流分配法などの常法に従って行うことができる。例えば、室温下、振盪下または非振盪下に、抽出エキスなどに対して、非水和性有機溶媒と水とを1〜10倍 (容量)程度 (1:10〜10:1)加えて行うのが適当である。
【0027】
なお、上記のアルコール抽出物および各分配抽出物は、上記のいずれの段階においても、濃縮する前後に精製処理に付すことができる。
精製処理には、上記の溶媒による分配抽出以外に、当業者に公知のクロマトグラフ法、イオン交換クロマトグラフ法等を単独で、または組み合わせて採用することができる。例えば、クロマトグラフ法としては、順相もしくは逆相担体またはイオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーまたは遠心液体クロマトグラフィー等のいずれか、またはそれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
【0028】
本発明者は、茶花抽出物を、上記の精製方法を組み合わせて精製すると同時に精製物の作用について検討した。
【0029】
そこで、本発明者は、上記の酢酸エチル画分およびn-ブタノール画分について、逆相カラムを用いたクロマトグラフィーおよびHPLCによる精製を繰り返し、含有成分の単離を行った。
【0030】
その結果、本発明者は、既知物質として酢酸エチル画分から、2種のフラボノイド配糖体ケンペロール3-O-β-D-ガラクトピラノシドおよびケンペロール3-O-β-D-グルコピラノシド;2種のカテキン(-)-エピカテキン3-O-ガレートおよび(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート;(+)-ガロカテキン;芳香族化合物として桂皮酸、プロトカテチュ酸メチルエステル、ベンジルアルコール、(S)-1-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド;およびその他の化合物としてカフェインを得た。
また、n-ブタノール画分からは、1種の既知フラボノイド配糖体ケンペロール3-O-β-D-グルコピラノシル(1→3)-α-L-ラムノピラノシル(1→6)-β-D-グルコピラノシド;3種のカテキン、(-)-エピカテキン、(-)-エピカテキン3-O-ガレートおよび(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート;2種の芳香族化合物ベンジルβ-D-グルコピラノシドおよび(S)-1-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド;ならびにカフェインを既知物質として得ると共に、さらに以下の新規化合物を見出した。
【0031】
すなわち、本発明によれば、次の一般式(1):
【化2】

[式中、R1は水素原子またはヒドロキシ基であり、R2は水素原子、アセチル基またはチグロイル基であり、R3は水素原子またはチグロイル基である]
で表されるサポニン化合物またはその塩が提供される。
【0032】
ことに、上記の式(1)の化合物において、R1が水素原子であり、R2がアセチル基であり、R3がチグロイル基であり、式(2):
【化3】

で表わされるチャカサポニンIまたはその塩が提供される。
【0033】
また、本発明によれば、式(1)の化合物において、R1がヒドロキシ基であり、R2およびR3がチグロイル基であり、式(3):
【化4】

で表わされるチャカサポニンIIまたはその塩が提供される。
【0034】
また、本発明によれば、式(1)の化合物において、R1がヒドロキシ基であり、R2がアセチル基であり、R3がチグロイル基であり、式(4):
【化5】

で表わされるチャカサポニンIIIまたはその塩が提供される。
【0035】
さらに、本発明によれば、式(5):
【化6】

で表わされる新規フラボノイド配糖体チャカフラボノシドAまたはその塩も提供される。
【0036】
上記のチャカサポニンI、IIおよびIIIならびにチャカフラボノシドAの塩としては、常法によって形成される当該化合物が有しているカルボキシ基またはフェノール性水酸基とナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属との塩が挙げられる。
さらに、上記の化合物が有するエステル結合のいずれかが常法によって部分加水分解された化合物も本発明の一部を構成する。
【0037】
福建省産茶花抽出物の調製および該抽出物含有成分単離精製
例えば、福建省産チャ(Camellia sinensis L.)の乾燥花(1.5 kg)を、メタノールを用いて茶花抽出物を調製し、該茶花抽出物を精製した例を表1および以下に示す。
【0038】
(1)茶花のエタノール抽出物の調製
福建省産チャ(Camellia sinensis L.)の乾燥花(1.5 kg)をMeOHで熱時抽出後、溶媒を減圧留去し、MeOH抽出エキス(467.2 g、収率31.1%)を得た。得られたMeOH抽出エキスのうち450 gをEtOAcとH2Oで分配抽出、次いでH2O移行部をn-BuOHで分配抽出し、EtOAc移行部(46.6 g、3.2%)、n-BuOH移行部(238.0 g、16.4%)、H2O移行部(174.9 g、12.1%)を得た。活性が認められた EtOAc移行部およびn-BuOH移行部について含有成分の探索を行った。
【0039】
【表1】

【0040】
(2)EtOAc移行部の精製
EtOAc移行部を順相シリカゲル、逆相ODSカラムクロマトグラフィーおよび逆相HPLC で繰り返し分離精製し、2種のフラボノイド配糖体ケンペロール3-O-β-D-ガラクトピラノシド(0.0027%)、ケンペロール3-O-β-D-グルコピラノシド(0.0022%)、2種のカテキン(-)-エピカテキン3-O-ガレート(0.044%)、(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート(0.087%)、(+)-ガロカテキン(0.0011%)および芳香族化合物として桂皮酸(0.00082%)、プロトカテチュ酸メチルエステル(0.00092%)、ベンジルアルコール(0.0012%) 、(S)-1-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド(0.013%)およびその他の化合物としてカフェイン(0.037%)を単離した。
【0041】
(3)n-BuOH移行部の精製
BuOH移行部を順相シリカゲル、逆相ODSカラムクロマトグラフィーおよび順相、逆相HPLCで繰り返し分離精製し、3種の新規オレアナン(oleanane)型トリテルペン配糖体チャカサポニンI(0.49%)、チャカサポニンII(0.67%)、チャカサポニンIII(0.013%)、1種の新規フラボノイド配糖体チャカフラボノシドA(0.0078%)、1種の既知フラボノイド配糖体ケンペロール3-O-β-D-グルコピラノシル(1→3)-α-L-ラムノピラノシル(1→6)-β-D-グルコピラノシド(0.36%)、3 種のカテキン(-)-エピカテキン(0.000077%)、(-)-エピカテキン3-O-ガレート(0.067%)、(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート(0.21%)、2種の既知芳香族化合物ベンジルβ-D-グルコピラノシド(0.00012%)および(S)-1-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド(0.094%)ならびにカフェイン(0.067%)を単離した。
【0042】
上記の既知化合物については、文献値との1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルデータの比較により同定した。
但し、これらの単離成分の収率は、福建省産茶花からの単離収率である。
【0043】
(4)チャカサポニンIの構造解析
チャカサポニンIは、負の旋光性 ([α]D26 −9.0°、MeOH)を示す無色微細結晶(m.p.214−216℃)として得られた。IRスペクトルから水酸基(3468 cm-1)、カルボニル基 (1719 cm-1)、オレフィン(1664 cm-1)、およびエーテル(1078 cm-1)の存在が示唆された。
さらに陽イオンおよび陰イオンFAB-MSにおいて、擬似分子イオンピークがm/z 1239 (M+ Na)+および1215 (M − H)-に観測され、高分解能FAB-MSから分子式C59H92O26を有する化合物であることが判明した。
【0044】
また、チャカサポニンIの1H-および13C-NMR(ピリジン-d5)スペクトルデータ(表2および3)、種々の二次元NMRデータを詳細に解析した。アセチル基およびチグロイル基の結合位置については、HMBCスペクトルにおいて、21 位水素とチグロイルカルボニル炭素(δC;168.0) および22 位水素とアセチルカルボニル炭素(δC:171.0)との間にロング-レンジ相関が観測されたことから決定した。
【0045】
チャカサポニンIを、KOHの10%水溶液−50%水性1,4-ジオキサン(1:1)で加水分解することにより既知化合物デスアシル-アッサムサポニンEと酢酸、チグリン酸が得られた。酢酸およびチグリン酸については、それぞれp-ニトロベンジルエステル体とした後、HPLCで標品と同定した。
【0046】
上記の構造決定の手法の略図を以下に示す。
【化7】

以上の結果から、チャカサポニンIの化学構造を前記式(2)に示すように決定した。
【0047】
(5)チャカサポニンIIおよびIIIの構造解析
チャカサポニンIIおよびIIIについて同様の方法により構造解析を行った。
チャカサポニンIIは、塩基性条件下で加水分解することによりデスアシル-フローラティーサポニンBとチグリン酸が得られ、チャカサポニンIIIからデスアシル-フローラティーサポニンB、チグリン酸および酢酸が得られた。
【0048】
また、脱アシル体、デスアシル-フローラティーサポニンBを酸性条件下で加水分解することにより、既知化合物R1-バリゲノール(barrigenol)とD-グルクロン酸、D-ガラクトース、L-アラビノース、D-キシロースが得られた。
【0049】
構成糖については、L-システイン メチルエステル塩酸塩(CMEH)、次いでN、O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)との反応により各構成糖をトリメチルシリル化した後、それぞれの標品とGCによるリテンションタイムを比較することにより同定した。
以上の結果から、チャカサポニンIIおよびIIIの化学構造を前記式(3)および式(4)に示すように決定した。
【0050】
上記の構造決定の手法の略図を以下に示す。
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
本発明者は、茶花抽出物および該抽出物に含まれる上記のチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIが、いずれも腸運動亢進作用および膵リパーゼ活性阻害作用を有することを見出した。
また、本発明者は、上記の腸運動亢進作用に基づいて、本願発明による茶花抽出物およびチャカサポニンI〜IIIが、腸閉塞症の予防・改善と排泄の促進による便秘の予防・改善を意図する医薬用組成物および該組成物を含む健康食品に用いられ得ることを見出した。
【0053】
さらに、本発明者は、上記の膵リパーゼ活性阻害作用に基づいて、本願発明による茶花抽出物およびチャカサポニンI〜IIIが、遊離脂肪酸産生抑制、抗肥満、抗高脂血症、または脂肪肝改善効果を意図する医薬組成物および該組成物を含む健康食品に用いられ得ることを見出し、本発明を完成した。
【0054】
したがって、本発明によれば、茶花抽出物または該抽出物に含まれる式(2)〜(4)で表されるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの少なくとも一つを有効成分として含む医薬組成物が提供される。
【0055】
すなわち、本発明によれば、茶花抽出物または該抽出物に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの少なくとも一つを有効成分として含む腸運動亢進作用、ひいては腸閉塞の予防・改善用組成物が提供される。
【0056】
また、本発明によれば、茶花抽出物または該抽出物に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの少なくとも一つを有効成分として含む上記の腸運動亢進作用に基づく排泄促進による便秘の予防・改善用組成物が提供される。
【0057】
さらに、本発明によれば、茶花抽出物または該抽出物に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの少なくとも一つを有効成分として含む膵リパーゼ活性阻害作用に基づく遊離脂肪酸産生抑制、ひいては抗肥満用組成物が提供される。
【0058】
また、本発明によれば、茶花抽出物または該抽出物に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの少なくとも一つを有効成分として含む抗高脂血症用組成物が提供される。
また、本発明によれば、茶花抽出物または該抽出物に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの少なくとも一つを有効成分として含む脂肪肝改善用組成物が提供される。
【0059】
したがって、本発明によれば、茶花抽出物または該抽出物に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの少なくとも一つを有効成分として含む、食生活の欧米化による高カロリー食の摂食に基づく現代病として代表的な肥満、高脂血症および脂肪肝などの生活習慣病の予防または治療を意図する医薬組成物、ならびに腸運動亢進作用による腸閉塞および便秘の予防または治療を意図する医薬組成物が提供される。
その上、本発明によれば、該組成物を含む健康食品が提供される。
【0060】
本発明の茶花抽出物、すなわち水もしくは含水アルコール抽出物、該抽出物の酢酸エチル可溶画分および/もしくはn-ブタノール可溶画分またはこれらの濃縮乾固物あるいは該抽出物に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIは、そのままの状態、または適当な媒体で希釈して、あるいは医薬品の製造分野において公知の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等、種々の医薬品の形態に製剤化して使用することができる。
【0061】
これらの医薬品形態においては、適当な媒体を添加してもよい。そのような媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤 (例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガントまたはポリビニルピロリドン)、充填剤 (例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトールまたはグリシン)、滑沢剤 (例えばステアリン酸マグネシウム、タルクまたはポリエチレングリコール)、崩壊剤 (例えば馬鈴薯澱粉)または湿潤剤 (例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0062】
錠剤は、通常の方法でコーティングしてもよい。液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、使用前に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。
【0063】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤 (例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂)、乳化剤 (例えばレシチン、ソルビタンモノオレエートまたはアラビアゴム)、(食用脂を含んでいてもよい)非水性賦形剤 (例えばアーモンド油、分画ココヤシ油またはグリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのような油性エステル)、保存剤 (例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピル、またはソルビン酸)、および所望により着色剤または香料等を含んでいてもよい。
【0064】
また、本発明による組成物を有効成分として食品に添加したものを健康食品として利用することができる。
【0065】
健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味し、例えば、固形、半固形または液体の製品、具体的には、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記の抽出物を添加して、健康食品とすることができる。
【0066】
茶花抽出物および該抽出物が含む本発明による化合物の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、例えば該抽出物の濃縮乾固物を予防・治療に用いる場合には、成人1回につき50mg〜10g程度、好ましくは100mg〜3g程度使用できる。また、健康食品として使用する場合には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し上記乾固物を、100mg〜10g程度の範囲で用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の茶花抽出物、式(2)〜(4)で表されるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの精製法ならびにそれらの作用に関する実施例を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明をなんら制限するものではない。
【0068】
なお、実施例では、特に記載がない限り、以下の各種溶媒、クロマトグラフィー用担体およびHPLC用カラムならびに各種分析器機を用いた:
メタノール(MeOH):ナカライテスク社製、特級
エタノール(EtOH):ナカライテスク社製、特級
クロロホルム:ナカライテスク社製、特級
酢酸エチル(AcOEt):ナカライテスク社製、特級
【0069】
n-ブタノール(BuOH):ナカライテスク社製、特級
アラビアゴム:和光純薬工業株式会社製
カルボキシメチルセルロース ナトリウム塩(CMC-Na):和光純薬工業株式会社製
炭素末(活性炭;粉末状):和光純薬工業株式会社製
豚膵リパーゼ:シグマ・アルドリッチ社製
ddy系雄性マウス:紀和実験動物研究所(和歌山)
【0070】
カラムクロマトグラフィー用シリカゲル (SiO2):富士シリシア化学社製、BW-200、150〜350メッシュ
カラムクロマトグラフィー用逆相シリカゲル:富士シリシア化学社製、Chromatorex ODS DM1020T、100〜200メッシュ
HPLC用ODSカラム:YMC社製、YMC-Pack ODS-A (250×20mm)
【0071】
NMR:日本電子データム株式会社製(JEOL)、EX-270(270 MHz)、JNM-LA500(500 MHz)、ECA-600K(600 MHz)
IR:島津製作所社製、FTIR-8100
HPLC:島津製作所社製、検出器;示差屈折率検出器RID-6A
UV検出器SPD-10A
送液ユニット;LC-6AD
GC:島津製作所GC-14A
MS:日本電子データム社製(JEOL)、FABMS、HRFABMAS;JMS-SX 102A
EIMS、HREIMS;JMS-GCMATE
【0072】
また、核磁気共鳴 (NMR)スペクトルにおいて、化学シフトδは百万分の一 (ppm)で表示し、略語はそれぞれ次の意味を有する:s:シングレット; d:ダブレット;dd:ダブルダブレット;t:トリプレット; q:クァルテット;dq:ダブルクァルテット;Ac;アセチル基;Tig:チグロイル基。
【0073】
実施例1
福建省産チャ (Camellia sinensis)の乾燥花部(茶花,1.5 kg) をMeOHで熱時抽出した。抽出液を濾過し、残渣にMeOHを加え、同様の抽出操作を計3回行った。MeOH抽出液を合わせて減圧下溶媒留去し、MeOH抽出エキス(467.2 kg、収率31.1%)を得た。得られたMeOH抽出エキスのうち450 gをAcOEtとH2Oで分配抽出後、H2O移行部をn-BuOHで分配抽出し、各移行部を減圧下溶媒留去して、AcOEt移行部エキス(46.6 g、3.2%)、n-BuOH移行部エキス(238.0 g、16.4%)
、H2O移行部エキス(174.9 g、12.1%)を得た。
【0074】
(1) AcOEt移行画分の精製
得られたAcOEt移行部エキス (40 g) を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー [2.0
kg、溶出剤:ヘキサン:酢酸エチル = (10:1 → 5:1 → 1:1) → 酢酸エチル → CHCl3:MeOH = (5:1 → 1:1) → MeOH] で分画し、Fr. 1 (7.1 g)、Fr. 2 (3.8 g)、Fr.
3 (3.1 g)、Fr. 4 (8.0 g)、Fr. 5 (8.1 g)、Fr. 6 (4.4 g) を得た。
【0075】
Fr. 3 (3.1 g)を逆相ODS カラムクロマトグラフィー [300 g、溶出剤:MeOH:H2O = (30:70) → (50:50) → (70:30) → MeOH → CHCl3] にて分画し、Fr. 3-1 (36.7 mg)、Fr. 3-2 (159.0 mg)、Fr. 3-3 (254.8 mg)、Fr. 3-4 (55.3 mg)、Fr. 3-5 (1.4 g)、Fr. 3-5 (818.3 mg) を得た。
【0076】
Fr. 3-1 (36.7 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤:MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分] を用いて分離精製し、ベンジルアルコール(6.5 mg、0.0053%)を単離した。Fr. 3-2 (160 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤:MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分] を用いて分離精製し、プロトカテチュ酸 メチルエステル(11.3 mg、0.00092%)、ベンジルアルコール(8.6 mg、0.0012%)を単離した。Fr. 3-3 (250 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分] を用いて分離精製し桂皮酸(9.8 mg、0.00082%)を単離した。
【0077】
Fr. 4 (8.0 g)を逆相ODS カラムクロマトグラフィー[480 g、MeOH:H2O = (10:90) →(30:70) → (50:50) → (70:30) → MeOH → CH Cl3]にて分画し、Fr. 4-1 (654.6 mg)、Fr. 4-2 (212.5 mg)、Fr. 4-3 (2.4 g)、Fr. 4-4 (669.9 mg)、Fr. 4-5 (139.4 mg)、Fr. 4-6 (1.0 g)、Fr. 4-7 (668.9 mg) を得た。
【0078】
Fr. 4-1 (654.6 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (10:90)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、(+)-ガロカテキン(14.2 mg、0.0011%)を単離した。
【0079】
Fr. 4-2 (212.5 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート(199.6 mg、0.016%)を単離した。
【0080】
Fr. 4-3 (700 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート(29.3 mg、0.076%)、(-)-エピカテキン3-O-ガレート(160.4mg、0.44%)を単離した。
【0081】
Fr. 5 (8.1 g) を逆相ODS カラムクロマトグラフィー[120 g、溶出剤: MeOH:H2O = (10:90) → (30:70) → (50:50) → (70:30) → MeOH → CHCl 3] にて分画し、Fr.5-1 (93.9 mg)、Fr. 5-2 (200.0 mg)、Fr. 5-3 (1.9 g)、Fr. 5-4 (1.3 g)、Fr. 5-5 (339.5 mg)、Fr. 5-6 (863.1 mg)、Fr. 5-7 (406.7 mg)、Fr. 5-8 (1.3 g)、Fr. 5-9 (806.0 mg) を得た。
【0082】
Fr. 5-3 (200 mg) を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (30:70)、流速:8.0 mL/分] を用いて分離精製し、カフェイン(49.1 mg、0.037%)、(S)-1-フェニルエチル β-D-グルコピラノシド(17.2 mg、0.013%)を単離した。
【0083】
Fr. 5-5 (339.5 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (45:55)、流速:8.0 mL/分]を用いて分離精製し、ケンペロール3-O-β-D-ガラクトピラノシド(34.3 mg、0.0027%)、ケンペロール3-O-β-D-グルコピラノシド(28.0 mg、0.0022%)を単離した。
【0084】
Fr. 6 (4.4 g)を逆相ODS カラムクロマトグラフィー[120 g、溶出剤:MeOH:H2O = (10:90) → (30:70) → (50:50) → (70:30) → MeOH → CHCl 3]にて分画し、Fr.6-1 (223.6 mg)、Fr. 6-2 (114.5 mg)、Fr. 6-3 (131.5 mg)、Fr. 6-4 (941.5 mg)、Fr. 6-5 (540.4 mg)、Fr. 6-6 (768.5 mg)、Fr. 6-7 (343.6 mg)、Fr. 6-8 (120.5 mg)を得た。Fr.
6-4 (941.5 mg) を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、(-)-エピガロカテキン 3-O-ガレート(94.1 mg、0.045%)を単離した。
【0085】
(2)n−BuOH移行画分の精製
得られたn-BuOH移行部エキス(170 g)を順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー[シリカゲル3.0 kg、溶出剤;CHCl3 → CHCl3:MeOH:H2O=10:3:1 (下層) → 7:3:1 (下層) → 6:4:1 → MeOH]で分画し、Fr. 1 (1.9 g)、Fr. 2 (25.5 g)、Fr. 3 (10.3 g)、Fr. 4 (115.0 g)、Fr. 5 (7.5 g) を得た。
【0086】
Fr. 2 (10.0 g)を逆相ODSカラムクロマトグラフィー[300 g、溶出剤;MeOH:H2O = (30:70) → (50:50) → (70:30) → MeOH → CHCl3] にて分画し、Fr. 2-1 (4.5 g)、Fr.
2-2 (868.8 mg)、Fr. 2-3 (309.6 mg)、Fr. 2-4 (2.0 g)、Fr. 2-5 (822.4 mg) を得た。
【0087】
Fr. 2-1 (300 mg) を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分] を用いて分離精製し、カフェイン(81.1 mg、0.30%)、(S)-1-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド(12.4 mg、0.047%)を単離した。
【0088】
Fr. 3 (10.3 g) を逆相ODS カラムクロマトグラフィー [300 g、MeOH:H2O = (10:90)→ (30:70) → (50:50) → (70:30) → MeOH → CHCl3] にて分画し、Fr. 3-1 (1.7 g)、Fr. 3-2 (4.8 g)、Fr. 3-3 (1.9 g)、Fr. 3-4 (1.8 g)、Fr. 3-5 (2.8 g) を得た。
【0089】
Fr. 3-2 (300 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤:MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、カフェイン(1.1 mg、0.30%)、ベンジルβ-D-グルコピラノシド(1.2 mg、0.00012%)、(-)-エピカテキン(0.8 mg、0.000077%)および(S)-1-フェニルエチルβ-D-グルコピラノシド(33.0 mg、0.094%)を単離した。
【0090】
Fr. 4 (115 g) を逆相ODS カラムクロマトグラフィー [530 g、MeOH:H2O = (10:90) → (30:70) → (50:50) → (70:30) → MeOH] にて分画し、Fr. 4-1 (6.6 g)、Fr. 4-2 (15.7 g)、Fr. 4-3 (9.2 g)、Fr. 4-4 (13.4 g)、Fr. 4-5 (6.7 g)、Fr. 4-6 (12.5 g)、Fr. 4-7 (24.1 g)、Fr. 4-8 (23.3 g)、Fr. 4-9 (4.7 g)を得た。
【0091】
Fr. 4-1 (654.6 mg) を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤:MeOH:H2O = (10:90)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、(+)-ガロカテキン(14.2 mg、0.0011%)を単離した。
【0092】
Fr. 4-3 (500 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (20:80)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート(118.7 mg、0.21%)を単離した。
【0093】
Fr. 4-4 (500 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤:MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、(-)-エピガロカテキン3-O-ガレート(29.3 mg、0.076%)を単離した。
【0094】
Fr. 4-5 (200 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤:MeOH:H2O = (50:50)、流速:9.0 mL/分] を用いて分離精製し、ケンペロール3-O-β-D-グルコピラノシル(1→3)-α-L-ラムノピラノシル(1→6)-β-D-グルコピラノシド(43.5 mg、0.14%)を単離した。
【0095】
Fr. 4-6 (12.5 g) を逆相ODS カラムクロマトグラフィー [370 g、MeOH:H2O = (50:50) → (60:40) → MeOH]にて分画し、Fr. 4-6-1 (200.2 mg)、Fr. 4-6-2 (3.8 g)、Fr. 4-6-3 (6.2 g)、Fr. 4-6-4 (1.2 g)、Fr. 4-6-5 (447.6 mg)を得た。
【0096】
Fr. 4-6-2 (1 g)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)
、溶出剤: MeOH:H2O = (55:45)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、新規フラボノイド チャカフラボノシドA (83.7 mg、0.0078%)を単離した。
Fr. 4-6-3 (1 g) を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (70:30)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、Fr. 4-6-3-1(52.1 mg)、Fr. 4-6-3-2 (159.7 mg)、Fr. 4-6-3-3 (87.2 mg)、Fr. 4-6-3-4 (28.4 mg)を得た。
【0097】
Fr. 4-6-3-2 (159.7 mg) を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (65:35)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、チャカサポニンIII(21.8 mg、0.013%)を単離した。
【0098】
Fr. 4-7 (1 g) を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤:MeOH:H2O = (30:70)、流速:9.0 mL/分]を用いて分離精製し、チャカサポニンI(212.3 mg、0.49%)を単離した。
【0099】
Fr. 4-8 (200 mg)を逆相HPLC [検出:RI、カラム:YMC-Pack ODS-A (250×20 mm i.d.)、溶出剤: MeOH:H2O = (70:30)、流速:9.0 mL/分] を用いて分離精製し、チャカサポニンII(61.3 mg、0.67%)を単離した。
【0100】
既知化合物については、文献値の1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルデータの比較により同定した。
【0101】
(3)チャカサポニンI、II、IIIの脱アシル化
チャカサポニンI(19 mg)を10 % aq. KOH-50% aq. 1,4-ジオキサン( 1:1、1 mL) 溶液中、37℃で1時間攪拌した。その反応液を陰イオン交換樹脂 Dowex HCR W2 (商標) (H+型) を用いて中和し、樹脂を濾別後、溶媒を減圧留去し粗生成物(18.5 mg)を得た。
【0102】
得られた粗生成物(17.5 mg)を順相SiO2カラムクロマトグラフィー [50 mg、溶出剤:CHCl3:MeOH:H2O (10:3:1 → 6:4:1、下層)]を用いて分離し、既知化合物デスアシル-アッサムサポニンE (14.2 mg)を得た。
【0103】
また粗生成物(1.0 mg)の(CH2)2Cl2 (2 mL)溶液にp-ニトロベンジル-N、N'-ジイソプロピルイソウレア(10 mg)を加え、80℃で1 時間攪拌し、HPLC用サンプルとした。以下に示す条件でHPLC分析を行い、標品(市販有機酸から調製したp-ニトロベンジルエステル)とのHPLCの保持時間を比較した。その結果、チャカサポニンIのアシル基がアセチル基およびチグロイル基であることが判明した。
【0104】
チャカサポニンII(6.4 mg)およびチャカサポニンIII(3.0 mg)についても上記と同様の操作を行った。その結果、チャカサポニンIIの脱アシル化によりデスアシル-フローラティーサポニンB (4.2 mg)が得られ、チャカサポニンIIのアシル基がチグロイル基であることが判明した。
【0105】
また、チャカサポニンIIIの脱アシル化によりデスアシル-フローラティーサポニンB (2.0 mg)が得られ、チャカサポニンIIIのアシル基がアセチル基およびチグロイル基であることが判明した。
【0106】
HPLC条件: カラム:YMC-Pack ODS-A (250×4.6 mm i.d.)
溶出液検出器:旋光度(Shodex OR-2)
移動相:MeCN:H2O = (50:50)
流速:1.0 mL/分
カラム温度:室温
保持時間 (tR):p-ニトロベンジル アセチレート:8.9 分、
p-ニトロベンジル チグレート:35.1 分
【0107】
デスアシル-フローラティーサポニンB の酸加水分解
デスアシル-フローラティーサポニンB (2 mg) の5% aq. H2SO4-1,4-ジオキサン(1:1、v/v、1 mL) 溶液を2 時間加熱還流した。その反応液を陰イオン交換樹脂IRA-400 (商標) (OH- 型)で中和し、樹脂を濾別後、減圧下溶媒を留去し粗生成物(2 mg)を得た。得られた粗生成物を Sep-Pak C18 カートリッジ(H2O → MeOH)で分離し、H2O 溶出部と MeOH 溶出部を得た。
【0108】
そのMeOH溶出部について、溶媒を減圧下留去し得た化合物は、1H-NMR、13C-NMR、MS スペクトルから、既知化合物 R1-バリゲノールであることが判明した。
一方、H2O 溶出部について、溶媒を減圧下留去し得た残留物のピリジン溶液(0.1 mL)にL-システイン メチルエステル 塩酸塩(CMEH、1.0 mg)を加え、60℃で1 時間攪拌した。続いて N,N-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA、0.1 mL)を反応液に加え、さらに、60℃で1 時間攪拌後、遠心分離し、GC用サンプルとして以下に示す条件でGC分析を行い標品と同定した。その結果、デスアシル-フローラティーサポニンBの構成糖は、D-グルクロン酸、D-ガラクトース、L-アラビノースおよびD-キシロースであることが判明した。
【0109】
GC条件: カラム: Supelco STB-1 (30 m×0.25 mm i.d.)
Injector temp:230 ℃
Detector temp:230 ℃
カラム temp:230 ℃
Carrier gas:N2
保持時間 (tR): D-グルクロン酸:26.5 分、
D-ガラクトース:25.6 分、
L-アラビノース:15.1 分、
D-キシロース: 19.3 分
【0110】
チャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIの1H−NMR(600 MHz)データおよび13C−NMR(150 MHz)データを以下の表にまとめて示す。
【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
本願発明により見出された新規サポニン化合物、チャカサポニンI、チャカサポニンII、チャカサポニンIIIおよびチャカフラボノシドAに関して、それぞれの化学構造式に1H−NMRおよび13C−NMRのケミカルシフトの値を記入した構造式と、C−H相関を示した構造式をそれぞれの物理データと共に以下に示す。
【0114】
【化10】

【0115】
【化11】

【0116】
【化12】

【0117】
【化13】

【0118】
試験例1
小腸内輸送に対する茶花成分の作用
評価方法
以下の表に示す数の30〜35gのddyマウスを1週間予備飼育した後、約24時間絶食して評価試験に用いた。
【0119】
評価試験には、茶花メタノール抽出物、n−ブタノール可溶画分の濃縮物、チャカサポニンI〜IIIを用い、各群のマウスに対し、5%アラビアゴムで懸濁したサンプル懸濁液を経口投与(10 mL/kg)し、その60分後に1.5%CMC-Naに懸濁させた5%炭素末を0.3 mL/マウスで経口投与した。投与15分後に開腹し、噴門から盲腸まで摘出し、幽門部から炭素末到達先端までの距離を測定後、小腸全長に対する百分率を算出した。
その結果を、以下の表に示す。
【0120】
【表4】

【0121】
上記の結果から、腸管輸送試験において、茶花メタノール抽出物および特にn−ブタノール画分の濃縮物は腸運動亢進作用を有することが判明した。さらに、上記のn−ブタノール画分に含まれるチャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIはいずれも、強力な腸運動亢進作用を有することが判明した。
【0122】
試験例2
膵リパーゼ活性Iに対する茶花成分の阻害効果
評価方法
トリオレイン(80 mg)、フォスファチジルコリン(10 mg)およびタウロコール酸(5 mg)の0.1 mL NaClを含む0.1 mol/L Tris-HClバッファー(pH=7.0) 9 mLの懸濁液を10分間超音波処理した。この超音波処理した基質懸濁液(0.1 mL)を豚膵リパーゼ(250 μg/mL、2型、ブランクはTris-HClバッファー0.05 mLを用いる) 0.05 mL、種々の濃度のサンプル溶液(DMSO) 0.005 mLおよびTris-HClバッファー0.095 mLと共に、最終容量0.25 mLで、37℃で30分インキュベートした。
【0123】
このインキュベートした混合物を、チューブ中のCHCl3と2%MeOH含有n-ヘプタンとの1:1(容量)混液に加えて、このチューブをシェーカーで水平方向に1分間振盪して抽出した。
【0124】
この混合物を2500 rpmで5分間遠心分離し、上部の水相を吸引除去した。次いで、下部の有機相に銅試薬(1.0 mL)を加えた。このチューブを1分間振盪し、この混合物を2500 rpmで5分間遠心分離して、抽出された遊離脂肪酸の銅塩を含む上部の有機相1 mLを、ヒドロキシアニソール0.5 g/mLを含み、バソクプロイン(bathocuproine)を1 g/Lの割合で含むCHCl3 1 mLで処理した。次いで、波長480 nmで試料の吸光度を測定した。
以下に、ティーサポニンE1、ティーサポニンE2、チャカサポニンI、IIおよびIIIの各種濃度における、豚膵リパーゼ活性に対する阻害効果の結果を示す。
【0125】
【表5】

【0126】
上記の結果から、膵リパーゼ活性阻害試験において、チャカサポニンI、チャカサポニンIIおよびチャカサポニンIIIはいずれも、対照薬として用いたチャ種子サポニン(ティーサポニンE1,E2)よりも強い膵リパーゼ活性阻害を有し、遊離脂肪酸産生抑制効果や中性脂質の吸収抑制効果を有することが判明した。
【0127】
実施例2
当該分野で公知の方法に従って、茶花抽出物10重量部を乳糖25重量部と混合し、ゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に抽出物が500 mg含有されるゼラチンカプセル剤を得た。
【0128】
実施例3
実施例1で得られた水性移行部を実施例2の茶花抽出物に替えて、実施例2と同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
【0129】
実施例4
実施例1で得られたn−BuOH可溶画分の濃縮物を実施例2の茶花抽出物に替えて、実施例2と同様にして、ゼラチンカプセル剤を得た。
【0130】
実施例5
米粉50重量部、砂糖5重量部、全卵10重量部、実施例1で得られた茶花抽出物1重量部を秤量した。
全卵に砂糖を混合した後、予め篩に通した米粉を加え、軽く混ぜ合わせて生地を作り、これを適当な形に成形し、オーブンで焼き上げて、せんべいを作った。
【0131】
実施例6
実施例1で得られた水性移行部を実施例5の茶花抽出物に替えて、実施例5と同様にしてせんべいを作った。
【0132】
実施例7
実施例1で得られたn−BuOH可溶画分の濃縮物を実施例5の茶花抽出物に替えて、実施例5と同様にして、せんべいを作った。
【0133】
実施例8
小麦粉100重量部、塩4重量部、実施例1で得られた茶花抽出物5重量部および水45重量部を秤量し、常法に従ってこれらをよく混合して、うどんを製造した。
【0134】
実施例9
実施例1で得られた水性移行部を実施例8の茶花抽出物に替えて、実施例8と同様にしてうどんを製造した。
【0135】
実施例10
実施例1で得られたn−BuOH可溶画分の濃縮物を実施例8の茶花抽出物に替えて、実施例8と同様にして、うどんを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明による茶花抽出物、または該抽出物に含まれる本発明によるサポニン化合物またはその塩の少なくとも一つを有効成分とする組成物は、腸管運動亢進作用および膵リパーゼ活性阻害作用を有しており、腸閉塞症および便秘の予防・改善用組成物、ならびに遊離脂肪酸産生阻害剤、抗肥満および抗脂血症用組成物として安全に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】

[式中、R1は水素原子またはヒドロキシ基であり、R2は水素原子、アセチル基またはチグロイル基であり、R3は水素原子またはチグロイル基である]
で表されるサポニン化合物またはその塩。
【請求項2】
式(1)の化合物において、R1が水素原子であり、R2がアセチル基であり、R3がチグ
ロイル基である請求項1に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項3】
式(1)の化合物において、R1がヒドロキシ基であり、R2およびR3がチグロイル基で
ある請求項1に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項4】
式(1)の化合物において、R1がヒドロキシ基であり、R2がアセチル基であり、R3
チグロイル基である請求項1に記載のサポニン化合物またはその塩。
【請求項5】
茶花を水または含水低級アルコールで抽出して抽出液を得、この抽出液をさらに必要に応じて酢酸エチル/水およびn-ブタノール/水で分配処理して得られる有機溶媒可溶画分
を含み、請求項1〜4に記載の少なくとも一つの化合物を含む茶花抽出物。
【請求項6】
茶花がツバキ科植物であるチャの花部である請求項5に記載の抽出物。
【請求項7】
茶花が福建省産のツバキ科植物であるチャの花部である請求項6に記載の抽出物。
【請求項8】
請求項1〜4に記載の化合物の少なくとも一つまたは請求項5に記載の抽出物を有効成分として含む医薬用組成物。
【請求項9】
前記有効成分が、腸運動亢進作用を有する請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記有効成分が、腸閉塞または便秘の予防もしくは改善に使用される請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記有効成分が、膵リパーゼ活性阻害作用を有し遊離脂肪酸産生抑制に使用される請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記有効成分が、抗肥満、抗高脂血症または脂肪肝改善に使用される請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1〜4に記載の化合物の少なくとも一つまたは請求項5に記載の抽出物を含む健康食品。

【公開番号】特開2009−57365(P2009−57365A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123487(P2008−123487)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(501361600)株式会社 日本薬用食品研究所 (8)
【Fターム(参考)】