説明

荷電粒子ビーム描画装置及び試料ずれ検出方法

【課題】簡易な方法で確実にステージ上におけるマスクの微小スリップを検出可能とするとともに、検出されたスリップ量に基づいて荷電粒子ビームの補正を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びマスクの微小スリップ検出方法を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビームBの偏向を制御して、かつ自在にステージを制御して任意の原画パターンをマスク上に描画するための描画動作を制御するための制御計算機31を備える電子ビーム描画装置1であって、電子ビームBによってパターンが描画されるマスクMと、マスクMを3点支持部材64にて支持するマスク保持機構62と、マスク保持機構62及びマスクMを水平方向に加速移動させるステージ61と、電子ビームで描画される表面に対するマスク裏面とマスク保持機構62との間に設置され、マスクMの微小スリップの有無を検出する原子間力顕微鏡65とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び試料ずれ検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するために、リソグラフィー技術が用いられる。リソグラフィー技術では、情報媒体である光を透過することができる石英基板などに、この光を通さない遮光物質で形成された原画パターンが設けられたマスク(レチクル)と称される原版を使用したパターンの転写が行われる。この際、マスク上に高精度な回路パターンを設けるために、優れた解像度を備える電子ビーム(電子線)描画技術が用いられる。
【0003】
マスクに電子ビーム描画を行う荷電粒子ビーム描画装置の一方式として、例えば以下のような可変成形方式を挙げることができる。すなわち、ここでは図示しないが、この可変成形方式は、第1成形アパーチャの開口と、第2成形アパーチャの開口とを通過することで成形された電子ビームによって可動ステージに載置されたマスク上に任意の大きさの図形パターンが描画される。
【0004】
ここで真空中にて水平方向に動作可能なステージへのマスクの載置については、概ね以下の通りである。すなわち、水平方向に移動可能に制御されるステージの上にマスクを着脱可能に保持することが可能な保持機構が設けられ、この保持機構上にマスクが載置される。この際、これまでの保持機構へのマスクの載置は、描画処理中にステージ走査に伴い水平方向の加速度が働き、保持機構に対してマスク(試料)が移動してしまう(ずれてしまう)ことを避けるために、例えば、機械的なクランプといった固定具を用いてマスクの保持機構への保持がなされていた。
【0005】
一方で、固定具を用いてマスクを機械的に保持(載置)すると、保持された部分周辺における局所的な歪みが発生する。この局所的なマスクの歪みが再現性良く発生するなら、描画装置の機能によりステージの座標系を基板の歪みに合わせることで補正が可能となっている。しかし、このような局所的に発生する歪み量は、マスクの板厚によってばらつきが生じる。このばらつきによって生じる補正しきれない誤差が、描画パターンの高精度化が求められるに従って、無視できなくなってきている。
【0006】
さらに、電子ビーム描画装置の電子光学系の対物レンズ下面からマスク表面までの空間は、電子ビームの分解能向上の観点から設計的に十分なクリアランスを確保することが困難になっている。そのため、仮に局所的な高次の歪みを抑えることが可能な機械的なクランプ機構が実現できたとしても、対物レンズとマスク表面との空間に、マスクを十分な力で挟み込むための構造物を設けることは設計上非常に困難である。
【0007】
そこで、現在マスクは、機械的なクランプ機構で固定されることなく、ステージ上にて3点で支持され、マスクの自重によって期待できる摩擦力によって支持点上にて保持されている。この時、マスクに働く力は板厚に左右されなくなるため自重のみとなり、支持点付近で生じる局所的な歪みは再現性良く生じることになる。
【0008】
この状態下において、高精度なパターンを描画するため水平方向にステージが任意に走査する時の加速度がマスクを支持点上で支持する際の摩擦力よりも常に小さければ、ステージがX方向、或いは、Y方向に移動しても支持されている試料は支持点に対してスリップしない(位置ずれしない)。また、ステージ制御部を介してマスクがスリップしない程
度に加速度にステージを制御することはもちろん可能である。
【0009】
実際に、ステージの位置情報はレーザー干渉計により常時計測が可能であり、かつその位置情報から正確に算出されるステージの加速度が設定された上限値以下となるように制御されている。
【0010】
しかし、実際のステージに付加される加速度を制御していても、ステージに設けられた保持機構に支持されたマスクにかかる加速度は、ステージの姿勢の変化や、ステージ駆動機構のトルク変動によって予期しない加速度変動が生じる可能性がある。このような場合に結果的に、マスクの加速度がスリップしない加速度の上限値を超えてしまうことが起こり、結果的にマスクが支持点上で微小なスリップを起こす恐れがある。マスクの描画中に微小なスリップが生ずると、ステージの位置を監視しているレーザ干渉計の座標に対するずれが生じ、微小スリップが発生したところで描画されるパターンの位置ずれとなって現われる。
【0011】
また、載置されるマスクの位置精度が集積率の増加等に合わせて次第に厳しくなってきていることとも相まって、スリップが発生しないように加速度の上限値を下げて設定することも可能であるが、描画処理を行うに当たってのステージ制御が有効に行えなくなってしまい、このことは描画処理のスループットを低下させることにも繋がる。
【0012】
ここで以下の特許文献1においては、加速度がかかった状態での試料としてのマスクの位置ずれを低減或いは補正する装置について示されている。例えば、反射ミラーの重心高さ位置と支柱の接続位置とが同じ高さ位置になるように構成されていることから、試料移動機構を加速度Gで水平方向に加速移動させると、力点となる接続位置と反射ミラーの重心高さ位置が同じ高さ位置であるため、反射ミラーにモーメントが働かず反射ミラーのレーザー照射位置における変形量Δxをなくす、或いは、小さくすることができる。その結果、マスクと反射ミラーとの相対距離が変化せず、或いは、微量で済ますことができるため、加速度がかかる移動状況においても高精度な位置検出を行うことができる、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−184332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明では、試料(マスク)そのもののずれに対処する方法については明らかにされていない。すなわち、ステージの加速度がマスクを支持点上で支持する際の摩擦力よりも大きい場合、ステージの移動に伴ってマスクが微小なスリップをする可能性が高くなるが、そのスリップの検出や検出された場合の修正についての記述は見られない。
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、簡易な方法で確実にステージ上におけるマスクのスリップを検出可能とするとともに、検出されたスリップ量に基づいて電子ビームの補正を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及び試料ずれ検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施の形態に係る特徴は、荷電粒子ビームの偏向を制御する制御計算機を備える荷電粒子ビーム描画装置であって、荷電粒子ビームによってパターンが描画される試料
と、試料を支持部材にて支持する試料のマスク保持機構と、マスク保持機構及び試料を水平方向に自在に移動させるステージと、試料と試料が支持されるマスク保持機構との間に設置され、マスク保持機構に対する試料のずれの有無を検出する原子間力顕微鏡とを備える。
【0017】
また、上記荷電粒子ビーム描画装置において、試料のうち荷電粒子ビームによりパターンが描画される試料表面に対する試料裏面には、原子間力顕微鏡による試料のずれ量を検出する際に利用されるスケールが貼付されていることが望ましい。
【0018】
さらに、上記荷電粒子ビーム描画装置において、原子間力顕微鏡によって検出された試料のずれ量を示す情報を受信し、ずれ情報を基に偏向制御部を介して荷電粒子ビームの偏向量を補正することが可能であることが望ましい。
【0019】
本発明の実施の形態に係る特徴は、試料ずれ検出方法において、支持するマスク保持機構と荷電粒子ビームによりパターンが描画される試料表面に対する裏面にスケールを貼付する工程と、スケールが貼付された試料をマスク保持機構に載置する工程と、マスク保持機構及び試料が載るステージを水平方向に移動させる工程と、マスク保持機構に対する試料のずれの有無を原子間力顕微鏡にて検出する工程とを備える。
【0020】
また、上記試料ずれ検出方法は、原子間力顕微鏡にて試料のずれが検出された場合に、試料のずれを示す量が予め定められている閾値より小さい場合には、ずれ量を示す情報に基づいて荷電粒子ビームの偏向量を補正する工程と、試料のずれを示す量が予め定められている閾値よりも大きい場合には、描画を途中で中止する工程とを備える。
【発明の効果】
【0021】
簡易な方法で確実にステージ上におけるマスクの微小スリップを検出可能とするとともに、検出されたスリップ量に基づいて電子ビームの補正を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及びマスクの微小スリップ検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における電子ビーム描画装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるスケールを示す外観図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるスケールを貼付した試料の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるマスクの微小スリップの検出方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態における電子ビーム描画装置1の全体構成を示すブロック図である。なお、以下の実施の形態においては、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、電子ビームに限られるものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームであっても良い。
【0025】
電子ビーム描画装置1は、マスク(レチクル)に所定のパターンを描画する装置であり、特に可変成形型の描画装置の一例である。但し、描画される対象は、マスク(レチクル)に限ることなく、ウエハやナノインプリント等に使用されるテンプレート等であっても良い。
【0026】
図1に示すように、電子ビーム描画装置1は、大きく描画部2と描画制御計算機3を備えている。
【0027】
描画部2は、電子鏡筒4と描画室6を備えている。電子鏡筒4内には、電子銃41と、この電子銃41から照射される電子ビームの光路に沿って、照明レンズ42と、ブランキング偏向器43と、ブランキングアパーチャ44と、第1の成形アパーチャ45と、投影レンズ46と、成形偏向器47と、第2の成形アパーチャ48と、対物レンズ49と、対物偏向器50とが順に配置されている。
【0028】
ブランキング偏向器43は、例えば、2極、或いは、4極等の複数の電極によって構成される。また、成形偏向器47、対物偏向器50は、例えば、4極、或いは、8極等の複数の電極によって構成される。図1では、成形偏向器47、対物偏向器50、それぞれの偏向器ごとに1つのDACアンプしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つのDACアンプが接続される。なお、DACアンプにいう「DAC」は、「Digital to Analog Converter」の頭文字である。
【0029】
描画制御計算機3は、制御計算機31と、偏向制御部32と、ブランキングアンプ33と、偏向アンプ(DACアンプ)34,35と、ステージ制御部36と、レーザ干渉計37とを備えている。制御計算機31、偏向制御部32、ステージ制御部36、レーザ干渉計37は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御部32は、ブランキングアンプ33と、DACアンプ34,35と、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0030】
ブランキングアンプ33は、ブランキング偏向器43に接続される。また、DACアンプ34は、成形偏向器47に接続される。DACアンプ35は、対物偏向器50に接続される。ブランキングアンプ33、DACアンプ34,35に対しては、偏向制御部32から、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。デジタル信号が入力されたブランキングアンプ33、DACアンプ34,35は、それぞれのデジタル信号をアナログ電圧信号に変換し、増幅させて偏向電圧として接続された各偏向器に出力する。このようにして、各偏向器には、それぞれ接続されるDACアンプから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。
【0031】
なお、荷電粒子ビーム描画装置1には、上述したように電子ビームを取り囲むように成形偏向器47、対物偏向器50が4極、或いは、8極設けられており、電子ビームを挟んで各々一対(4極の場合は2対、8極の場合は4対)配置されている。そして成形偏向器47、対物偏向器50ごとにそれぞれDACアンプが接続されている。但し、図1には成形偏向器47、対物偏向器50に接続されているDACアンプそれぞれ1つずつのみを示し、その他のDACアンプを示していない。
【0032】
描画室6の中には、XYステージ61と、レーザーミラーを備えたマスク保持機構62と、が収容され、マスク保持機構62上にマスクMが載置される。XYステージ61は、図1では図示していないが、描画室6内部の図示されていないガイドにより動作をそれぞれ1軸方向に規制されたXステージと、Xステージに直交する方向に規制されたYステージとから構成される。また、XYステージ61は、ステージ制御部36の制御に基づいて所望の移動を行う。XYステージ61上には、支柱63が配置され、これら支柱63にマスク保持機構62が接続される。このXYステージ61及び支柱63が一体となって水平方向に移動することによって、マスク保持機構62も同じように移動させられる。
【0033】
なお、支柱63の設置数については特に規定はしないが、マスク保持機構62及びその
上に載置されるマスクMの高精度な水平度を担保することを考慮して設置されるのであればその数はいくつであっても良い。
【0034】
マスク保持機構62の一部外周部には、レーザ干渉計37から照射されるレーザ測長用のレーザを反射する反射ミラー62aが一体に形成されている。レーザ干渉計37の図示されていないレーザ干渉計光源から照射されるレーザを、これも図示されていない真空中に置かれた干渉計にて分光させて、参照ミラー(図示せず)を反射してきた光と反射ミラー62aで反射してきた光とを干渉させる。その干渉光をレーザ干渉計37の図示されていないレシーバで受光することで反射ミラー62aの位置を計測することが可能となっている(図1のレーザ干渉計37と反射ミラー62aとの間の矢印がレーザを表わしている)。
【0035】
マスク保持機構62には、複数の支持部材64が接続され、この支持部材64上にマスクMが載置される。マスク保持機構62に設けられる支持部材64の数は、特に規定されないが、マスクMの水平度の再現性を担保することを考慮して設置され、例えば、3つの支持部材64が設けられると好適である。
【0036】
マスク保持機構62とマスクMとの間には、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:以下、適宜「AFM」と略して示す)65が設置されている。このAFM65は対象
となる試料表面と深針(カンチレバー)それぞれの原子間に働く力を検出するものである。AFM65は、既知の装置であることから、説明は省略する。また、測定方法には接触型、非接触型等、様々な方法があるが、どのような測定方法を採用するかは自由である。
【0037】
図示されていない描画制御計算機3は、所望のパターンを描画するために制御計算機31に指示を出す。ここで、描画制御計算機31は、レーザ干渉計37からの位置情報を元に、偏向制御部32、ステージ制御部36を制御する。制御計算機31は、ここではハードウェアとして構成した例を想定しているが、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。また、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで構成されても良い。制御計算機31が上述したようにソフトウェアを含んで構成される場合、制御計算機31に入力される入力データ、或いは、演算された結果は、都度図1には示されていない、例えばメモリに記憶される。
【0038】
さらに、図1に示す本発明の実施の形態における電子ビーム描画装置1には、本発明の実施の形態を説明する上で必要な構成のみを示している。従って、その他の構成、例えば、各レンズを制御する制御回路等が付加されていても良い。また、ここでは電子ビームの位置偏向に1段の偏向器を用いるが、これに限られるものではなく、例えば、主副2段の多段偏向器によって位置偏向を行うようにされていても良い。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態におけるスケールSを示す外観図である。スケールSは、マスクMのずれをAFM65にて計測する際に用いられる。スケールSは、どのように成形されても良いが、例えば、ナノインプリントリソグラフィによって樹脂材料に微細な凹凸をつけることで形成されている。図2に示すように、凹凸を互い違いの位置に格子状となるように成形することでマスクMのずれ量を簡易に計測することが可能となる。大きさは、マスクMやAFM65の計測範囲にもよるが、例えば、数μm〜数百μm角といった大きさが好適である。
【0040】
図1にも示されているように、スケールSは、マスク保持機構62と対向する電子ビームでパターンを描画する表面に対するマスク裏面に装着されている。具体的な装着位置としては、例えば図3に示す位置を挙げることができる。図3は、本発明の実施の形態におけるスケールSを貼付したマスクMの一例を示す説明図である。
【0041】
図3で示されている面は、マスク保持機構62と対向する電子ビームでパターンを描画する表面に対するマスク裏面であり、AFM65がマスクMのずれを計測する面である。マスクMの中央の領域(斜線で示されている領域)M1は、その裏面である対物レンズ下面と対向する裏面において電子ビームBの照射を受けてパターンが描画される領域である。一方、中央領域M1の周囲を囲むような外周の領域は、例えば、ハンドリング領域M2と呼ばれており、マスクMを搬送する際に搬送機器が接触する領域である。例えば、マスクMが152mm角の大きさである場合、各辺から試料中央に向けて、例えば5mmの幅を持つハンドリング領域M2とされる。
【0042】
ハンドリング領域M2には、3つの丸が示されている。これはマスクMがマスク保持機構62の支持部材64によって支持される部分(支持点m1ないしm3)である。本願発明の実施の形態においては、支持部材64は3箇所設けられており、マスクMを3点で支持している。支持点m1ないしm3は、3つの支持部材64がそれぞれ接触する位置である。
【0043】
支持点m1ないしm3は、ハンドリング領域M2に設けられている。これはその裏面とはいえ、描画処理が行われる中央領域M1における接触を避けるためである。スケールSは、この支持点m1ないしm3の近傍に装着される。このような位置に装着するのは、支持点m1ないしm3の近傍はマスクMの撓みが少ない場所であると考えられるからである。
【0044】
すなわちマスクMは、支持部材64上に載置されるが、その自重により撓むことが考えられる。撓みが発生した場合、その領域にスケールSが装着されていると、撓み分に加えて、表面と裏面との両方、或いは、いずれかの固有形状がマスクM毎に変わるため、マスクMが変わるたびにAFM65の探針をマスクMの計測面に対して合わせる必要がある。しかし、支持部材近傍では、表面と裏面との両方、或いは、いずれかの位置は支持部材で規制されているため、マスクMが変わってもAFM65の探針を合わせる必要が無い。そこで上述したように、スケールSは、支持点m1ないしm3の近傍に装着される。図3では、支持点m1の近傍にのみ1つ装着されている状態が示されているが、もちろん他の指示点m2、m3のいずれか、或いはいずれにも装着されていても良い。
【0045】
電子ビーム描画装置1は、以下のように動作して試料へ描画を行う。電子銃41(放出部)から放出された電子ビームBは、ブランキング偏向器43内を通過する際、ブランキング偏向器43によってONの状態にされている場合に電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過するように制御される。一方、OFFの状態では、電子ビームB全体がブランキングアパーチャ44で遮蔽されるように偏向される(図1において破線で示している)。ブランキングアンプ33からの偏向電圧がOFFからONとなり、その後再度OFFになるまでにブランキングアパーチャ44を通過した電子ビームBが1回の電子ビームのショットとなる。
【0046】
かかる電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する偏向電圧がブランキングアンプ33から出力される。そしてブランキング偏向器43は、ブランキングアンプ33から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビームBの向きを制御して、電子ビームBがブランキングアパーチャ44を通過する状態、ブランキングアパーチャ44によって遮蔽される状態を交互に生成する。
【0047】
以上のようにブランキング偏向器43とブランキングアパーチャ44とを通過することによって生成された各ショットの電子ビームBは、照明レンズ42により矩形、例えば、
長方形の孔を持つ第1の成形アパーチャ45全体を照明する。ここで電子ビームBをまず矩形、例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ45を通過した第1のアパーチャ像の電子ビームBは、投影レンズ46により第2の成形アパーチャ48上に投影される。第1の成形アパーチャ45を通過した電子ビームBの向きを制御するための偏向電圧がDACアンプ34から印加された成形偏向器47によって、かかる第2の成形アパーチャ48上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。
【0048】
第2の成形アパーチャ48を通過した電子ビームBの照射位置を制御するための偏向電圧がDACアンプ35から対物偏向器50に対して出力される。第2の成形アパーチャ48を通過し第2のアパーチャ像とされた電子ビームBは、対物レンズ49により焦点を合わせられ、連続的に移動するXYステージ61に配置された試料の所望する位置に照射される。
【0049】
次に、スケールS及びAFM65を利用したマスクMの微小スリップを検出する方法について説明する。図4は、本発明の実施の形態におけるマスクMの微小スリップの検出方法の流れを示すフローチャートである。なお、マスクMの微小スリップを検出する処理は、実際に描画処理が開始される前及び描画処理が開始されてからは、定期的に行われる。ここでの測定結果は、例えば、電子ビームBの偏向量を調整する際の適切な情報となり、描画処理に生かされる。
【0050】
まず、大気中においてマスクMにスケールSが装着される(ST1)。マスクMへのスケールSの装着方法については、例えば、熱を印加することによって可逆的に装着と剥離とを行うことが可能な接着剤を使用して装着する方法が考えられる。その他例えば、マスクMの描画処理が行われる面に塗布されるレジストをスケールSの装着領域に塗布し、スケールSを装着する方法も考えられる。
【0051】
なお、いずれにしても、描画処理が終了した後に剥離できることが必須である。また、上述した2つの方法によれば、描画処理の後工程において通常予定される処理にて剥離が可能であり、特にスケールSの剥離のために特別な処理工程を設けることは不要であることから、処理全体の工程におけるスループットを落とすことがない。
【0052】
描画制御計算機3より描画開始の支持が出されると、図示されていない基板の搬送システムによりスケールSが装着されたマスクMをXYステージ61上(実際にはマスク保持機構62に設けられている支持部材64上)に載置する(ST2)。
【0053】
次に、最初にマスク保持機構62の周囲に配置された図示されていないマークを使って、レーザ干渉計37を基準にして電子ビームBの位置関係を認識する。この状態でXYステージ61の移動を開始する(ST3)。XYステージ61は、制御計算機31からの指示に基づいてステージ制御部36の制御によって移動する。
【0054】
描画制御計算機3の指示によりマスクMに対して所望のパターンを描画するため、XYステージを任意に移動させるが、ある時間スケジュールに従って、レーザ干渉計と電子ビームBの位置関係が確認される。そのタイミングに合わせてAFM65は、スケールSを利用してマスクMの初期の位置からのずれ量を微小スリップ量として計測する(ST4)。AFM65によるずれ量(微小スリップ量)に関する情報は、AFM65から直接に、或いは、例えばステージ制御部36を介して制御計算機31へと送信される。制御計算機31では、当該送信されたずれ量に関する情報を受領し(ST5)、まず、マスクMにステージの移動に伴う微小スリップが発生したか否かを確認する(ST6)。
【0055】
ずれ量に関する情報を制御計算機31内において解析した結果、マスクMにずれが発生している状態で、しかもずれ量が予め定められている閾値よりも大きくない場合(小さい場合)には(ST7のNO)、最初に確認された電子ビームBとレーザ干渉計37の位置関係に対して当該ずれ量に関する情報を基に、そこから続くパターンの描画の際の電子ビームBの偏向量を調整する(ST8)。これはずれが発生していても、描画処理に影響を及ぼすほどの微小スリップではない上に、続く描画領域では補正が可能なのでスリップが起きた個所以外は位置ずれが無いものと判断することができるからである。これは例えば、マスクMのパターン領域を複数のチップ領域に分割した場合、分割されたチップ内部は非常に密なパターンが配置されている。そのため、速度の変化が小さくマスクの微小スリップが発生しにくい状態であるが、分割されたチップとチップの間の部分は、パターンが疎な領域となり、加速度変化が大きくなって、結果的に微小なスリップが発生する場合が想定される。
【0056】
しかし、分割されたチップとチップの間に、重要なチップ内部のパターンとは別の周辺マークが配置されている場合は、微小スリップが起きていても、その量が判っていればその後のプロセスに影響を与えない。その調整後の情報を基に描画するように偏向制御部32へ制御信号を送信することにより、マスクM上に高精度なパターンの描画が行われることになる。
【0057】
なお、ずれ量の比較の対象とされる「閾値」については、個々の荷電粒子ビーム装置1の状態に応じて事前にその値を設定しておくことが可能である。
【0058】
一方、ずれ量が予め定められている閾値よりも大きい場合には(ST7のYES)、このマスクMは使用できないため、このまま描画を継続しても無駄となる。この場合には描画制御計算機3から描画中止の指示を出すことで、マスクMは搬出されて次の描画プロセスを開始することが可能となる(ST9)。
【0059】
なお、スケールSを利用してAFM65によってマスクMのずれを計測した結果、微小スリップが認められない場合には(ST6のNO)、この微小スリップによる位置ずれ量を電子ビームBの偏向量として特に調整することなく実際の描画処理が行われる。
【0060】
以上説明したように、スケールSを利用してAFM65によってマスクMの微小スリップを計測するという簡易な方法で確実にステージ上におけるマスクの微小スリップを検出可能とするとともに、検出されたずれ量(微小スリップ量)に基づいて荷電粒子ビームの補正を行うことができる荷電粒子ビーム描画装置及び試料ずれ検出方法を提供することができる。
【0061】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 荷電粒子ビーム描画装置
2 描画部
3 制御部
6 描画室
36 ステージ制御部
37 レーザ干渉計
61 XYステージ
62 マスク保持機構
63 支柱
64 支持部材
65 AFM
m 支持点
M マスク
S スケール



【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームの偏向を制御する制御計算機を備える荷電粒子ビーム描画装置であって、
前記荷電粒子ビームによってパターンが描画される試料と、
前記試料を支持部材にて支持する前記試料のマスク保持機構と、
前記マスク保持機構及び前記試料を水平方向に自在に移動させるステージと、
前記試料と前記試料が支持される前記マスク保持機構との間に設置され、前記マスク保持機構に対する前記試料のずれの有無を検出する原子間力顕微鏡と、
を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記試料のうち前記荷電粒子ビームによりパターンが描画される前記試料表面に対する試料裏面には、前記原子間力顕微鏡による前記試料のずれ量を検出する際に利用されるスケールが貼付されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記原子間力顕微鏡によって検出された前記試料のずれ量を示す情報を受信し、前記ずれ情報を基に偏向制御部を介して前記荷電粒子ビームの偏向量を補正することが可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
支持するマスク保持機構と荷電粒子ビームによりパターンが描画される試料表面に対する裏面にスケールを貼付する工程と、
前記スケールが貼付された前記試料を前記マスク保持機構に載置する工程と、
前記マスク保持機構及び前記試料が載るステージを水平方向に移動させる工程と、
前記マスク保持機構に対する前記試料のずれの有無を原子間力顕微鏡にて検出する工程と、
を備えることを特徴とする試料ずれ検出方法。
【請求項5】
前記原子間力顕微鏡にて前記試料のずれが検出された場合に、
前記試料のずれを示す量が予め定められている閾値より小さい場合には、前記ずれ量を示す情報に基づいて前記荷電粒子ビームの偏向量を補正する工程と、
前記試料のずれを示す量が予め定められている閾値よりも大きい場合には、描画を途中で中止する工程と、
を備えることを特徴とする請求項4に記載の試料ずれ検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−42031(P2013−42031A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178936(P2011−178936)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】