説明

荷電粒子顕微鏡及び解析方法

【課題】従来に比べて分解能をより一層向上させることができる荷電粒子顕微鏡及び解析方法を提供する。
【解決手段】試料20内で広がった電子線プローブをCCDカメラ23で撮影し、電子線プローブ(実効的プローブ)の形状、大きさ及び強度分布のデータを取得する。その後、CCDカメラ23を電子線の通過域から退避させ、STEM検出器22により観察像を取得するとともに、EELS検出器24によりEELSスペクトルを取得する。次いで、電子線プローブ(実効的プローブ)の形状、大きさ及び強度分布のデータを使用し、分析目的位置毎に分析目的位置に照射される電子線量(強度)とその周囲に照射される電子線量とを演算し、その結果に基づいてSTEM検出器22又はEELS検出器24により得た測定値を演算処理して、周囲の影響を排除した真の測定値を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子(電子及びイオン等)を用いて試料の観察及び分析を行う荷電粒子顕微鏡及びその荷電粒子顕微鏡の分解能を向上させる解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)は、極めて小さく収束された電子線プローブを試料表面に平行な方向に走査することによって、空間分解能が極めて高い観察像を得ることができる。また、走査透過型電子顕微鏡は、電子線の照射にともなって試料から放出されるX線を検出する検出器や試料により散乱された電子のエネルギー損失スペクトルを検出する検出器等を備えている。これにより、観察位置と測定値又は物性値とを関連付けて分析評価を行うことができる。そのため、走査透過型電子顕微鏡は、半導体デバイスの開発にも広く使用されている。
【0003】
近年の半導体デバイスの微細化にともない、走査透過型電子顕微鏡にはより一層高い分解能が要求されている。走査透過型電子顕微鏡の分解能を上げるためには、電子線のプローブサイズ(直径)を更に小さくすることが考えられる。しかし、プローブサイズを極端に小さくすると、電流量も小さくなるため、良好な精度で分析評価を行うことができなくなる。また、試料に入射した電子線は試料と相互作用してプローブサイズが広がってしまうため、プローブサイズを小さくしても空間分解能の向上には限界がある。そこで、従来から電子顕微鏡により得たデータを演算処理して分解能を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−227750号公報
【特許文献2】特開平6−163373号公報
【特許文献3】特開2000−82437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来から、電子顕微鏡により得たデータを演算処理して分解能を向上させることが提案されている。しかしながら、従来の方法では電子線の実効的プローブサイズが考慮されてなく、分解能を十分に向上させることができない、又は定量分析ができないなどの問題点がある。
【0006】
以上から、従来に比べて分解能をより一層向上させることができる荷電粒子顕微鏡及び解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一観点によれば、収束された荷電粒子線を試料の表面に沿って走査して前記試料の解析を行う荷電粒子顕微鏡の解析方法において、前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータを得る工程と、前記試料に荷電粒子線を照射しながら前記荷電粒子線を前記試料の表面に沿って走査し、分析目的位置毎に前記荷電粒子線の照射にともなって発生する現象を測定器で測定する工程と、前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータから前記分析目的位置毎に前記分析目的位置に照射される荷電粒子線量とその周囲に照射される荷電粒子線量とを演算し、その結果に基づいて前記測定器により得た測定値に対し前記分析目的位置の周囲の影響を排除する演算を行う工程とを有する解析方法が提供される。
【0008】
なお、荷電粒子線の照射にともなって発生する現象には、X線の放出、荷電粒子線の回折及び荷電粒子線のエネルギー損失等がある。
【発明の効果】
【0009】
荷電粒子線を分析目的位置に照射する場合、分析目的位置のサイズが小さいと、分析目的位置の周囲にも荷電粒子線が照射されて、目的とする分析結果に分析目的位置の周囲の影響が含まれてしまう。
【0010】
上記一観点に係る解析方法では、試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータを取得しておく。これにより、分析目的位置の周囲の影響を見積もることができ、測定器で得た測定値から分析目的位置の周囲の影響を排除する演算を行うことで分析目的位置の真の測定値を得ることができる。その結果、荷電粒子顕微鏡の分解能が向上する。
【0011】
分析目的位置の周囲の影響を排除する演算は、例えば分析目的位置における周囲の影響を排除した測定値をAcalcとし、分析目的位置に照射される荷電粒子線の強度をIAとし、分析目的位置の周囲に照射される荷電粒子線の強度をIBとし、分析目的位置での測定値をAexpとし、分析目的位置の周囲での測定値をBexpとしたときに、Acalc=Aexp×IA−Bexp×IBで表される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係る荷電粒子顕微鏡(走査透過型電子顕微鏡:STEM)の構造を示す模式図である。
【図2】図2(a)はEELS検出器を用いたSTEM−EELSスペクトラムイメージング法を示す概念図、図2(b)はEELS検出器の出力から得られるEELSスペクトルの例を示す図である。
【図3】図3は、走査方向に沿って連続するEELSスペクトルの例を示す模式図である。
【図4】図4(a),(b)は、連続多点分析の概念を示す模式図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、2種類の材料が接して配置された試料におけるプローブサイズの影響を示す図である。
【図6】図6は、シミュレーション計算により得られた電子線プローブの形状(強度分布)を示す図である。
【図7】図7(a)〜(c)は、同じくその電子線プローブの形状を3次元表示した図である。
【図8】図8(a),(b)は、実施形態に係る解析方法の概要を示す図である。
【図9】図9は、実施形態に係る分析方法を示すフローチャートである。
【図10】図10は、実効的プローブの映像の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る荷電粒子顕微鏡(走査透過型電子顕微鏡:STEM)の構造を示す模式図である。
【0015】
本実施形態に係る走査透過型電子顕微鏡は、図1に示すように、制御部10と、電子銃11と、収束レンズ12a,12bと、収束レンズ絞り13と、走査コイル15と、EDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)検出器17と、対物レンズ18と、試料搭載部19と、投影レンズ21と、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope)検出器22と、CCDカメラ(実効的プローブ撮影部)23と、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)検出器24とを有している。
【0016】
電子銃11は、制御部10からの信号に応じた加速電圧で電子を加速し、電子線として出力する。電子銃11の下方には、複数段(図1では2段)の収束レンズ12a,12bが配置されている。これらの収束レンズ12a,12bは、制御部10からの信号に応じて、電子銃11から出力された電子線を所望の大きさに収束する。
【0017】
収束レンズ12a,12bの下方には収束レンズ絞り13が配置されている。収束レンズ12a,12bにより収束された電子線は不要な広がり部分をもつため、この収束レンズ絞り13により不要な広がり部分をカットする。
【0018】
収束レンズ絞り13の下方には、走査コイル15が配置されている。走査コイル15は、制御部10からの信号に応じて、試料搭載部19に搭載された試料20の表面を電子線プローブが走査するように電子線を屈折する。
【0019】
走査コイル15の下方には、EDS検出器(測定器)17、対物レンズ18及び試料搭載部19が配置されている。試料20は試料搭載部19に搭載され、対物レンズ18は制御部10からの信号に応じて、試料20の表面又はその近傍で焦点が合うように電子線を屈折する。EDS検出器17は、電子線の照射により試料20から放出されたX線を検出し、その検出結果に応じた信号を制御部10に出力する。
【0020】
試料搭載部19の下方には複数段(図1では1段のみ図示)の投影レンズ22が配置されている。本実施形態においては、投影レンズ22に2つのモードが用意されている。一つはSTEM像観察時に用いられる回折像モード(観察像取得モード)であり、他の一つは電子線の実効的プローブの撮影に用いられる実像モード(実効的プローブ撮影モード)である。回折像モードから実像モードへの変更、及び実像モードから回折像モードへの変更は、投影レンズ22のレンズ条件を切り替えること、すなわち制御部10からの信号により投影レンズ22に供給する電流を変化させることにより行われる。
【0021】
投影レンズ22の下方には、STEM検出器22、CCDカメラ23及びEELS検出器(測定器)24が配置されている。
【0022】
STEM検出器22は、試料20により大きな角度で散乱された電子を検出するリング状のDF(Dark-field)検出器と、試料20を透過した電子を検出するBF(Bright-Field)検出器とを有している。制御部10は、STEM検出器22から出力された信号を処理して明視野STEM像又は暗視野STEM像を作成する。なお、本実施形態においては、STEM検出器22は制御部10により制御されて電子線の通過域から外れる位置に移動可能になっている。
【0023】
CCDカメラ23は、電子線の実効的プローブの撮影に使用される。投射レンズ22を実像モードに設定すると、電子線がCCDカメラ23の位置で結像し、電子線の実効的プローブの形状、大きさ及び電子線強度分布のデータを取得できる。CCDカメラ23も、制御部10により制御されて電子線の通過域から外れる位置に移動可能になっている。実効的プローブの詳細は後述する。CCDカメラ23に替えて、TVカメラ、イメージングプレート又は感光フィルム等を使用して電子線の実効的プローブの形状、大きさ及び電子線強度分布のデータを取得するようにしてもよい。
【0024】
EELS検出器24は、試料20を透過した電子線のエネルギー損失スペクトルの測定に使用される。
【0025】
図2(a)は、EELS検出器を用いたSTEM−EELSスペクトラムイメージング法を示す概念図である。ここで、22aはDF検出器(STEM検出器)を示している。また、図2(a)では試料20を複数の直方体に分割しているが、1つの直方体は1つの画素(分析目的位置ともいう)を模式的に示したものである。
【0026】
電子線(電子線プローブ)は、角度(電子線入射半角度)aで試料20に照射される。試料20に照射された電子線は、試料20を厚さ方向に進行する際に試料20中の原子と相互作用して、その結果電子が散乱されたり、X線が発生したりする。DF検出器22aには、試料20により大きな角度で散乱された電子線(高角度散乱電子又は熱散漫散乱電子)が検出され、EELS検出器24には試料20を透過した電子線(試料入射前の電子線と同じ向きの透過電子線)が入射される。
【0027】
制御部19は、例えばDF検出器22aから出力される信号からSTEM像を生成するとともに、EELS検出器24から出力される信号からEELSスペクトル(電子線エネルギー損失スペクトル)を取得する。
【0028】
図2(b)は、横軸にエネルギーをとり、縦軸に強度(カウント数)をとって、EELS検出器24の出力から得られるEELSスペクトルの例を示す図である。この図2(b)に示すように、EELS検出器24の出力から、電子線が透過した試料位置に対応するEELSスペクトルが得られる。実際には試料20の表面に沿って電子線を走査させながらEELSスペクトルを取得するので、図3に模式的に示すように、走査方向に沿って連続するEELSスペクトルが得られる。なお、図3は、電子線プローブをy方向に走査させた例を示している。
【0029】
このような連続多点分析を行う場合、電子線のプローブサイズよりも画素のサイズのほうが小さいと、隣接した画素にも電子線の一部が照射されてしまう。このため、DF検出器22a及びEELS検出器24から出力される信号には、隣接した画素の情報が含まれてしまう。
【0030】
図4(a),(b)は、連続多点分析の概念を示す模式図である。この図4(a),(b)に示すように、連続多点分析では、電子線プローブを試料20の表面に沿って走査しながら、試料20から放出されるX線又は試料を透過した電子線を検出して電子顕微鏡像を得るとともに、画素(分析目的位置)毎の分析(元素分析等)を行う。電子線のプローブサイズよりも画素サイズのほうが小さい場合、各画素で得られる情報には隣接する画素の情報が含まれている。
【0031】
図5(a)〜(c)は、2種類の材料が接して配置された試料におけるプローブサイズの影響を示す図である。ここでは、図5(a)の左に平面図、右に断面図を示すように、異なる材料A,Bが接して配置された試料の組成を調べるものとする。この場合、図5(b)に示すように、電子線プローブを試料の表面に沿って走査してEDS検出器17又はEELS検出器24によりX線又は電子線エネルギー損失スペクトルを検出して、各画素(分析目的位置)毎に組成を分析する。なお、図5(b)の左図は試料表面を走査する電子線プローブの軌跡を示す模式上面図であり、右図は同じくその模式側面図である。
【0032】
電子線のプローブサイズが画素のサイズよりも大きいと、材料Aと材料Bとの接触位置近傍では、図5(c)に示すようにあたかも材料Aと材料Bとが入り混じっているかのような情報が得られる。ラインプロファイルの測定においても同様であり、電子線プローブの重なりによって材料A,Bの接触位置のプロファイルがぼけてしまう。なお、図5(c)の左図は分析により得た材料A,Bの分布状態を模式的に示す平面図であり、右図は分析により得た材料A,Bの分布状態を模式的に示すグラフである。
【0033】
図6は、横軸に位置(電子線プローブの中心からの距離)をとり、縦軸に強度(相対強度)をとって、シミュレーション計算により得られた電子線プローブの形状(強度分布)を示す図である。また、図7(a)〜(c)は同じくその電子線プローブの形状を3次元表示した図である。なお、電子線プローブの形状は電子線入射条件に依存する。ここでは、STEMで用いられている一般的な条件、すなわち加速電圧が200kV、電子線入射半角度aが12mrad、球面収差係数(Cs)が1.0mm、色収差係数(Cc)が1.0mm、フォーカスずれ量(Δf)が−50nmのときのプローブ形状を示している。また、実効的プローブサイズの計算時には、試料が厚さ30nmのシリコン(Si)単結晶からなるものとした。
【0034】
試料の観察に使用する観察用プローブは、図6,図7(a)に示すようにプローブ径が例えば0.15nmと小さく、そのため空間分解能は極めて高い。しかし、このプローブ径とするためには電子線強度を低くする必要があり、EDSやEELSを用いた分析を行う場合にスペクトル強度が十分でなく良好な分析結果を得ることができない。そこで、分析を行う際には、図6,図7(b)に示すようにプローブ径を例えば0.4nmに大きくし、空間分解能を犠牲にする替わりに電流量を増加させて測定を行う。
【0035】
電子線のプローブ径は、電子線が試料を透過する際に試料中の原子と相互作用して広がる。上記した条件では、直径が0.4nmの電子線プローブを試料(厚さ30nmのシリコン単結晶)に照射した場合、試料内で電子線プローブの直径は約1.2nmまで広がり(図6,図7(c)参照)、入射時の約3倍となる。本実施形態では、試料内で広がった電子線プローブを、実効的プローブと呼んでいる。なお、試料内での電子線プローブの広がりは試料の組成や厚さ等に依存する。また、実効的プローブサイズはプローブ関数と相互作用のパラメータとのコンボリューションにより表され、電子線の中心を極大値とした強度分布となる。
【0036】
図8(a),(b)は、本実施形態に係る解析方法の概要を示す図である。図8(a),(b)において、矩形はそれぞれの画素を示しており、図8(a)中の円は実効的プローブの直径を示している。画素のサイズは例えば0.8nm×0.8nmであり、実効的プローブの直径は例えば1.2nmである。
【0037】
実効的プローブサイズが画素サイズよりも大きいと、画素Aに電子線を照射しても画素Aの周囲の画素B〜Iにも電子線が照射されてしまう。ここで、各画素A〜Iに照射される電子線の強度をIAa,IAb,…IAiとする。但し、全体の電子線強度をItotalとすると、Itotal=IAa+IAb+IAc+IAd+IAe+IAf+IAg+IAh+IAiであり、この値はどの画素に電子線を照射する場合であっても変わらないとする。また、図8(a)からわかるようにIAb=IAc=IAd=IAeであり、IAf=IAg=IAh=IAiである。
【0038】
これらの電子線IAa,IAb,…,IAiの強度は、例えば図5,図6に示すシミュレーション結果、又はCCDカメラ23により取得した電子線プローブ(実効的プローブ)の映像から計算により求めることができる。
【0039】
各画素A〜Iの位置での測定値(例えば、EELSスペクトルの測定値)をAexp,Bexp,…,Iexpとする。この場合、画素Aの真の測定値Acalcは、下記(1)式のようになる。
【0040】
【数1】

全ての画素において測定を行い、各画素毎に(1)式のような関係式をたてて連立方程式とする。この場合、各画素において隣接する画素の測定値が常に異なる場合は解を得ることができない。しかし、例えば図5に示すように測定値が同一になる画素が多数連続する場合は連立方程式を解くことが可能になり、各画素の真の測定値、すなわち各画素毎に他の画素からの影響を除いた測定値を得ることができる。
【0041】
なお、上記の例では電子線プローブの形状が真円の場合について説明したが、電子線プローブの形状が真円でない場合についても、同様の計算により真の測定値を得ることができる。また、上記の例では画素Aに対し電子線を照射したときに同時に8つの画素(画素B〜I)にも電子線が照射される場合について説明したが、電子線が同時に照射される画素の数が8以外の場合であっても、同様の計算により真の測定値を得ることができる。
【0042】
図9は、本実施形態に係る分析方法を示すフローチャートである。なお、以下の説明には、図1も参照する。
【0043】
まず、ステップS11において、観察条件を設定する。すなわち、観察する試料のデータを入力するとともに画素数及び画素サイズ等を設定する。
【0044】
次に、ステップS12に移行し、試料台19に試料20を搭載する。その後、ステップS13において、倍率を調整する。
【0045】
次に、実効的プローブの形状、大きさ及び電子線強度分布を測定する。具体的には、ステップS14において、STEM検出器22を電子線の通過域の外に退避させ、CCDカメラ23を電子線の通過域に配置する。そして、投影レンズ21を実像モードに設定する。その後、ステップS15に移行し、電子銃11を稼働して試料20に電子線を照射する。
【0046】
試料20を透過した電子線は投影レンズ21によりCCDカメラ23の位置で結像し、例えば図10に示すような実効的プローブの映像がCCDカメラ23により撮影される。このCCDカメラ23で撮影された映像は制御部10に伝達され、制御部10はこの映像から実効的プローブの形状、大きさ及び電子線強度分布を求める。これらの実効的プローブに関するデータは、制御部10内に記憶される。
【0047】
なお、実効的プローブのサイズ(大きさ)を測定するためには、金(Au)等のように格子間隔が既知の単結晶を用いて予め電子顕微鏡像のスケールを校正しておくことが必要である。CCDカメラ23により実際に実効的プローブの形状、大きさ及び電子線強度分布を測定する替わりに、シミュレーション計算により実効的プローブの形状、大きさ及び電子線強度分布のデータを得てもよい。
【0048】
次に、ステップS16において、投影レンズ21を回折像モードに設定する。また、CCDカメラ23を電子線の照射域から退避させ、STEM検出器22(DF検出器22a)を電子線の照射域に配置する。それ以外の条件は、実効的プローブ測定時の条件と同じとする。
【0049】
次に、ステップS17において、STEM像を取得するとともにEELSスペクトルを測定する。すなわち、電子銃11を稼働して試料20に電子線を照射するとともに、走査コイル15を稼働して電子線を試料の表面に沿って走査する。制御部10は、STEM検出器22から出力される信号によりSTEM像を生成するとともに、EELS検出器24から出力される信号によりEELSスペクトルを得る。
【0050】
次いで、ステップS18において、制御部10は画素サイズのデータ及び実効的プローブのデータを使用し、前記(1)式に示すような計算を行って、各画素毎の観察像強度及びEELSスペクトルを解析計算する。このようにして、各画素毎に他の画素の影響を排除した測定値を得ることができ、分解能が高い解析を行うことができる。これにより、例えば正確な元素組成像又は物性値分布像を得ることができる。
【0051】
なお、上記の実施形態は走査透過型電子顕微鏡について説明したが、上記に開示した技術を電子線の替わりに水素又はヘリウムのイオンビームを使用するイオン顕微鏡に適用することも可能である。
【0052】
以下、本発明の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
【0053】
(付記1)収束された荷電粒子線を試料の表面に沿って走査して前記試料の解析を行う荷電粒子顕微鏡の解析方法において、
前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータを得る工程と、
前記試料に荷電粒子線を照射しながら前記荷電粒子線を前記試料の表面に沿って走査し、分析目的位置毎に前記荷電粒子線の照射にともなって発生する現象を測定器で測定する工程と、
前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータから前記分析目的位置毎に前記分析目的位置に照射される荷電粒子線量とその周囲に照射される荷電粒子線量とを演算し、その結果に基づいて前記測定器により得た測定値に対し前記分析目的位置の周囲の影響を排除する演算を行う工程と
を有することを特徴とする解析方法。
【0054】
(付記2)前記試料内で広がった荷電粒子線の大きさが、前記分析目的位置の大きさよりも大きいことを特徴とする付記1に記載の解析方法。
【0055】
(付記3)前記荷電粒子線が、電子線であることを特徴とする付記1又は2に記載の解析方法。
【0056】
(付記4)前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータは、前記試料を透過した荷電粒子線を撮影して得ることを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の解析方法。
【0057】
(付記5)前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータは、シミュレーション計算により得ることを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の解析方法。
【0058】
(付記6)前記演算は、前記分析目的位置における周囲の影響を排除した測定値をAcalcとし、前記分析目的位置に照射される前記荷電粒子線の強度をIAとし、前記分析目的位置の周囲に照射される荷電粒子線の強度をIBとし、前記分析目的位置での測定値をAexpとし、前記分析目的位置の周囲での測定値をBexpとしたときに、Acalc=Aexp×IA−Bexp×IBで表されることを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項に記載の解析方法。
【0059】
(付記7)荷電粒子線を放出する荷電粒子源と、
前記荷電粒子線を試料上に収束させる収束レンズと、
前記荷電粒子線を前記試料の表面に沿って走査させる走査コイルと、
前記試料に対し前記荷電粒子源と反対の側に配置され、実効的プローブ撮影モードと観察像取得モードとに切り換え可能な投影レンズと、
前記投影レンズが前記実効的プローブ撮影モードのときに前記試料内で広がった前記荷電粒子線からなる実効的プローブを撮影する実効的プローブ撮影部と、
前記投影レンズが前記観察像取得モードのときに前記試料の観察像を取得する観察像取得部と、
前記投影レンズが前記観察像取得モードのときに前記試料の分析目的位置から前記荷電粒子線の照射にともなって発生する現象を測定する測定器と、
前記荷電粒子線源、前記収束レンズ、前記走査コイル及び前記投影レンズを制御するとともに、前記実効的プローブ撮影部で撮影した実効的プローブのデータと、前記観察像取得部で取得した観察像のデータと、前記測定器で得た測定値とが入力される制御部とを有し、
前記制御部は、前記実効的プローブのデータから前記分析目的位置に照射される荷電粒子線量とその周囲に照射される荷電粒子線量とを演算し、その結果に基づいて前記観察像取得部で取得した観察像のデータ又は前記測定器により得た測定値に対し前記分析目的位置の周囲の影響を排除する演算を行うことを特徴とする荷電粒子顕微鏡。
【0060】
(付記8)前記荷電粒子線が、電子線であることを特徴とする付記7に記載の荷電粒子顕微鏡。
【0061】
(付記9)前記実効的プローブ撮影部は、前記観察像取得モードのときに前記荷電粒子線の通過域から外れる位置に配置されることを特徴とする付記7又は8に記載の荷電粒子顕微鏡。
【0062】
(付記10)前記演算は、前記分析目的位置における周囲の影響を排除した測定値をAcalcとし、前記分析目的位置に照射される前記荷電粒子線の強度をIAとし、前記分析目的位置の周囲に照射される荷電粒子線の強度をIBとし、前記分析目的位置での測定値をAexpとし、前記分析目的位置の周囲での測定値をBexpとしたときに、Acalc=Aexp×IA−Bexp×IBで表されることを特徴とする付記7乃至9のいずれか1項に記載の荷電粒子顕微鏡。
【符号の説明】
【0063】
10…制御部、11…電子銃、12a,12b…収束レンズ、13…収束レンズ絞り、15…走査コイル、17…EDS検出器、18…対物レンズ、19…試料搭載部、20…試料、21…投影レンズ、22…STEM検出器、23…CCDカメラ、24…EELS検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収束された荷電粒子線を試料の表面に沿って走査して前記試料の解析を行う荷電粒子顕微鏡の解析方法において、
前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータを得る工程と、
前記試料に荷電粒子線を照射しながら前記荷電粒子線を前記試料の表面に沿って走査し、分析目的位置毎に前記荷電粒子線の照射にともなって発生する現象を測定器で測定する工程と、
前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータから前記分析目的位置毎に前記分析目的位置に照射される荷電粒子線量とその周囲に照射される荷電粒子線量とを演算し、その結果に基づいて前記測定器により得た測定値に対し前記分析目的位置の周囲の影響を排除する演算を行う工程と
を有することを特徴とする解析方法。
【請求項2】
前記試料内で広がった荷電粒子線の大きさが、前記分析目的位置の大きさよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータは、前記試料を透過した荷電粒子線を撮影して得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記試料内で広がった荷電粒子線の形状、大きさ及び荷電粒子の強度分布のデータは、シミュレーション計算により得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の解析方法。
【請求項5】
前記演算は、前記分析目的位置における周囲の影響を排除した測定値をAcalcとし、前記分析目的位置に照射される前記荷電粒子線の強度をIAとし、前記分析目的位置の周囲に照射される荷電粒子線の強度をIBとし、前記分析目的位置での測定値をAexpとし、前記分析目的位置の周囲での測定値をBexpとしたときに、Acalc=Aexp×IA−Bexp×IBで表されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の解析方法。
【請求項6】
荷電粒子線を放出する荷電粒子源と、
前記荷電粒子線を試料上に収束させる収束レンズと、
前記荷電粒子線を前記試料の表面に沿って走査させる走査コイルと、
前記試料に対し前記荷電粒子源と反対の側に配置され、実効的プローブ撮影モードと観察像取得モードとに切り換え可能な投影レンズと、
前記投影レンズが前記実効的プローブ撮影モードのときに前記試料内で広がった前記荷電粒子線からなる実効的プローブを撮影する実効的プローブ撮影部と、
前記投影レンズが前記観察像取得モードのときに前記試料の観察像を取得する観察像取得部と、
前記投影レンズが前記観察像取得モードのときに前記試料の分析目的位置から前記荷電粒子線の照射にともなって発生する現象を測定する測定器と、
前記荷電粒子線源、前記収束レンズ、前記走査コイル及び前記投影レンズを制御するとともに、前記実効的プローブ撮影部で撮影した実効的プローブのデータと、前記観察像取得部で取得した観察像のデータと、前記測定器で得た測定値とが入力される制御部とを有し、
前記制御部は、前記実効的プローブのデータから前記分析目的位置に照射される荷電粒子線量とその周囲に照射される荷電粒子線量とを演算し、その結果に基づいて前記観察像取得部で取得した観察像のデータ又は前記測定器により得た測定値に対し前記分析目的位置の周囲の影響を排除する演算を行うことを特徴とする荷電粒子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−22059(P2011−22059A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168576(P2009−168576)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】