説明

蒸気タービン翼及び蒸気タービン翼の製造方法

【課題】初期の表面粗さの増大を招くことなく耐酸化性を向上させることができ、また、製造工程が簡易で製造コストが安価な蒸気タービン翼及び蒸気タービン翼の製造方法を提供する。
【解決手段】蒸気タービン3は、タービンロータ4と、タービンロータ4に植設される動翼5と、動翼5の上流側に配設される静翼6と、静翼6を支持するとともにタービンロータ4、動翼5、静翼6を内包するタービンケーシング13とを具備し、動翼5と静翼6との対により一つの段落7を形成すると共にタービンロータ4の軸方向に複数の段落7を並べて蒸気通路8を形成した構成である。静翼6表面、動翼5表面の少なくとも一部にセラミックマトリックス中にナノシート粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン翼及び蒸気タービン翼の製造方法に係り、特に蒸気タービンを構成する動翼(ブレード)、及び静翼(ノズル)の空力性能を維持し、性能向上を図ることのできる蒸気タービン翼及び蒸気タービン翼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンでは、ボイラから供給された高温高圧蒸気の圧力・温度エネルギーを静翼と動翼を組合せた翼列を用いて回転エネルギーに変換する。図3は、このような蒸気タービンを用いた発電システムの概念図を示したものである。
【0003】
図3に示すように、ボイラ1で発生した蒸気は過熱器2でさらに加熱され、蒸気タービン3へ導かれる。
【0004】
蒸気タービン3は、タービンロータ4の周方向に植設された動翼(ブレード)と、ケーシングで支持される静翼(ノズル)の組み合わせからなる段落をタービンロータ4の軸方向に複数段並べて構成されている。そして、蒸気タービン3に導かれた蒸気が、蒸気通路内で膨張することにより、その高温・高圧のエネルギーがタービンロータ4に回転エネルギーとして変換される。
【0005】
上記タービンロータ4の回転エネルギーは、タービンロータ4に接続された発電機9に伝わり電気エネルギーへと変換される。一方、そのエネルギーを失った蒸気は蒸気タービン3から排出され復水器10へと導かれ、ここで海水等による冷却媒体11により冷却され凝縮して復水となる。この復水は給水ポンプ12で再びボイラ1へ供給される。
【0006】
ところで、蒸気タービン3は、供給される蒸気の温度・圧力の条件により、高圧タービン、中圧タービン、低圧タービン等に分けて構成されている。そして、上記のような発電システムの場合、特に高圧タービン、中圧タービンの段落では高温に晒されるため、蒸気タービンの動翼、静翼部品等の酸化が顕著である。
【0007】
蒸気タービンの動翼、静翼等においては、部品として組み込む際、表面に微細な粒子を吹き付けたりする等の方法により表面粗さをできるだけ小さくしている。これは、部品の表面粗さが大きい場合、翼等の表面において流体の流れが乱れ、剥離を起こすことによって翼としての空力特性が低下し、これがタービン全体の効率を低下させる原因となるためである。
【0008】
しかしながら、これらの部品は、実際のプラント中において使用された場合、初期の状態では表面粗さが小さいため高い空力性能を示すが、徐々に表面の酸化が進むことにより表面粗さが次第に大きくなり、運転時間の経過とともに翼の空力性能が徐々に低下し、タービン全体の効率も低下するという問題が指摘されている。これらの問題に関連する技術として、以下のような提案がなされている。
【0009】
蒸気タービン部品等の耐エロージョン性、耐酸化性及び疲労強度を向上させるために、窒化硬質層(ラジカル窒化層)を形成させた後、その上にさらにCrN、TiN、AlCrN等の物理蒸着硬質層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
また、蒸気タービン翼等の高温用部材に対し、ニッケルメッキをした後、浸漬によるホウ化処理を行い、翼表面に鉄ホウ化物とニッケルホウ化物からなる層を形成し、翼の耐食性、高温耐エロージョン性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
また、蒸気タービン翼等に対し、溶射と熱処理の組み合わせによりCr236の層を形成させ、耐食性、耐摩耗性、耐エロージョン性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)。
【0012】
また、蒸気タービンブレードを対象として、組成を厳密にコントロールしたコバルト系合金を基材に接触配置した後、レーザを用いてこれを溶解・接着する、いわゆるレーザめっきにより耐腐食性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−37212号公報
【特許文献2】特開2002−38281号公報
【特許文献3】特開平8−74024号公報
【特許文献4】特開平8−74025号公報
【特許文献5】特開2004−169176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の提案のいずれの場合も、工程が複雑でコストが高く実用的でないという問題があった。また、いずれの方法も皮膜を形成することにより表面粗さが大きくなってしまい、初期のタービン性能が落ちるという決定的な欠点を有していた。従って、表面処理による初期の表面粗さを変化させることなく、かつ耐酸化性を向上させる有効な方法はないというのが現状であった。
【0015】
本発明はこのような従来の事情に対処してなされたもので、初期の表面粗さの増大を招くことなく耐酸化性を向上させることができ、また、製造工程が簡易で製造コストが安価な蒸気タービン翼及び蒸気タービン翼の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、タービン性能維持のための蒸気タービン翼構造に関し、鋭意研究を重ねた結果、蒸気タービン翼に対し、セラミックマトリックス中にナノシート粒子が分散して存在するコーティング皮膜を施すことにより耐酸化性を向上させることができ、また、これを、溶液を塗布する工程とこれを加熱処理して皮膜を形成する工程からなるいわゆる溶液法により形成することによって初期の表面粗さの増大を招くことなく耐酸化性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成したものである。
【0017】
すなわち、本発明の蒸気タービン翼の一態様は、タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンに、前記静翼又は前記動翼として使用される蒸気タービン翼であって、表面の少なくとも一部に、セラミックマトリックス中にナノシート粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の蒸気タービン翼の製造方法の一態様は、タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンに、前記静翼又は前記動翼として使用される蒸気タービン翼の製造方法であって、表面にセラミックマトリックスとなるセラミックスの前駆体とナノシート粒子とを含む溶液を塗布する工程と、塗布した前記溶液を熱処理してコーティング皮膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、初期の表面粗さの増大を招くことなく耐酸化性を向上させることができ、また、製造工程が簡易で製造コストが安価な蒸気タービン翼及び蒸気タービン翼の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンの要部構成を模式的に示す断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る蒸気タービン翼の要部構成を拡大して模式的に示す断面図。
【図3】蒸気タービン発電システムにおけるランキンサイクルの概念図。
【図4】本発明の一実施形態に係る蒸気タービン翼断面の電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の詳細を一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸気タービン及び蒸気タービン翼の構成を示すものである。図1に示すように、蒸気タービン3は、タービンロータ4と、タービンロータ4に植設される動翼(ブレード)5と、動翼5の上流側に配設される静翼(ノズル)6と、静翼6を支持するとともにタービンロータ4、動翼5及び静翼6を内包するタービンケーシング13とを具備している。そして、動翼5と静翼6との対により一つの段落7を形成するとともにタービンロータ4の軸方向に複数の段落7を並べて蒸気通路8を形成した構成となっている。また、静翼6表面、動翼5表面の少なくとも一部(本実施形態では静翼6表面、動翼5表面の全面)に、セラミックマトリックス中にナノシート粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されている。これにより酸化による表面粗さの増大に伴う蒸気流のエネルギー損失を抑制することができる。なお、上記の静翼6、動翼5、及びエンドウォール、プラットホームを含む通路部8全体を総称して蒸気タービン翼という。
【0023】
なお、セラミックスマトリックスは、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。
【0024】
上記構成の本実施形態では、静翼6表面、動翼5表面、及びエンドウォール、プラットフラットホームを含む通路部8の少なくとも一部に、セラミックマトリックス中にナノシート粒子が分散して存在する緻密なコーティング皮膜が形成されているので、このコーティング皮膜によって基材が直接空気中の酸素と触れることがなく、従って耐酸化性が向上し、高温保持した場合の表面粗さ変化も極めて小さい。従って、実際にプラント中で運転した場合も長期に亘り初期の翼形状や表面粗さを維持することができ、タービン全体の効率についても初期の高いレベルを長期間維持することが可能となる。
【0025】
上記のコーティング皮膜の組成は、ナノシート粒子が1体積%以上、90体積%以下から成る組成とすることが好ましい。ここで、コーティング皮膜中のナノシート粒子の体積比率を1体積%以上、90体積%以下から成る組成とするのは、以下に示す理由による。すなわち、ナノシート粒子の体積比率が1体積%より小さい場合、耐酸化性に対する効果が十分でないためである。また、ナノシート粒子の体積比率が90体積%より大きい場合には、コーティング皮膜の密着強度が低下し、剥がれ等の現象が生じ実用的な皮膜とならないためである。
【0026】
また、上記のナノシート粒子としては、酸化ケイ素、又は酸化チタン等を使用することができる。ここで酸化ケイ素、又は酸化チタンのナノシート粒子は層状結晶構造を持つケイ素化合物、又はチタン化合物の層剥離によって得られる。層状結晶構造を持つケイ素化合物としては、粘土鉱物、カオリン鉱物、雲母鉱物などの天然層状ケイ酸塩、及びケイ素成分と有機結晶化調整剤としてのアミン成分から形成した合成層状シリケートなどが挙げられる。層状結晶構造を持つチタン化合物としては、層状チタン酸HxTi2-x/44・nH2O、四チタン酸塩K2Ti49、五チタン酸塩Cs2Ti511、レピドクロサイト型チタン酸塩Cs0.7Ti1.8254、K0.8Ti1.73Li0.274などが挙げられる。又、層状ケイ素化合物、又はチタン化合物の層剥離はアルキルアンモニウムでイオン交換処理することによって得られる。
【0027】
また、上記のコーティング皮膜を構成するナノシート粒子は、シート状の結晶質で非晶質に比較して、構造が緻密で酸素遮断性に優れているからである。上記のコーティング皮膜を構成するナノシート粒子は、図2に示すように、ナノシート粒子16がコーティング皮膜17の厚さ方向と直角方向に配向し、蒸気タービン翼基材14の酸化に対してこれがバリア層となり、全体としてコーティング皮膜17の耐酸化特性をより向上させることが可能となる。なお、図2において、15はコーティング皮膜17を構成するセラミックマトリックスを示している。ここで、図4に実施形態に係る蒸気タービン翼断面の電子顕微鏡写真を示す。
【0028】
また、上記のコーティング皮膜は、ナノシート粒子の厚みを0.5nm以上、10nm以下とし、横サイズを0.1μm以上10μm以下とすることが好ましい。ここで、酸化ケイ素の厚みを0.5nm以上、10nm以下、横サイズを0.1μm以上10μm以下とするのは、ナノシート粒子の厚み及び横サイズが、この範囲から外れた場合、酸化ケイ素の酸素に対するバリア効果が低下し、蒸気タービン基材の酸化が生じたり、コーティング皮膜の剥離等の問題が発生したりするためである。
【0029】
また、上記のコーティング皮膜を構成するセラミックマトリックスは、非晶質とした態様とすることができる。後述するように、コーティング皮膜は溶液法にて形成することが望ましいが、この方法では基材にダメージを与えない低温で熱処理することが望ましい。ここで溶液法とは、錯体、ゾル、金属アルコキシド等のセラミックの前駆体溶液を用いて皮膜を形成する方法であり、皮膜を形成するための溶液の塗布方法としては、ディッピング、スプレー、スピンコーティング、ロールコーティング、バーコート等の方法が例示される。
【0030】
但し、上記セラミックスマトリックスは非晶質に限定されるものではなく、基材にダメージを与えないような温度範囲において、熱処理温度を適宜に選択することによって、結晶質とすることもできる。
【0031】
上記セラミックの前駆体溶液としては、酸化ジルコニウムの前駆体溶液、又は酸化チタンの前駆体溶液、又は酸化ケイ素の前駆体、又は酸化アルミニウムの前駆体溶液等を使用することができる。酸化ジルコニウムの前駆体溶液としては、ジルコニウムのアルコキシドを加水分解して得られる酸化ジルコニウムゾルや、ジルコンフッ化水素酸、炭酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコンフッ化カリウム、ジルコンフッ化ナトリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム等のジルコニウム金属塩又はジルコニウム錯体が挙げられる。
【0032】
酸化チタンの前駆体溶液としては、チタンのアルコキシドを加水分解して得られる酸化チタンゾルや、チタンフッ化水素酸、乳酸チタン、酒石酸チタン、酢酸チタン、塩化酸化チタン、ペルオキソチタン酸等のチタン金属塩又はチタン錯体が挙げられる。
【0033】
酸化ケイ素の前駆体溶液としては、シランカップリング剤、ケイ酸メチル、ケイ酸エチル、ケイ酸プロピル、ケイ酸ブチルなどの有機ケイ素化合物を加水分解して得られるシリカゾルや、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウムなどのケイ酸塩が挙げられる。
【0034】
酸化アルミニウムの前駆体溶液としては、アルミニウムのアルコキシドを加水分解して得られる酸化アルミニウムゾル、又は原料として水溶性の硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどを用い、沈殿剤として炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどを用いて、公知の沈殿法により調製して得られるゾルが挙げられる。
【0035】
また、上記のコーティング皮膜は、コーティング皮膜の膜厚が0.01μm以上10μm以下とすることが好ましい。ここで、コーティング皮膜の膜厚を0.01μm以上、10μm以下とするのは、以下の理由による。すなわち、膜厚が0.01μmより薄い場合、コーティング皮膜が基材を均一に覆うことができず、部分的に基材が露出してしまい、耐酸化性が急激に低下するためである。一方、膜厚が10μmより厚い場合、コーティング皮膜の基材に対する密着強度が低下するため、コーティング皮膜にき裂が生じ、耐酸化性が低下し、また、基材からのコーティング皮膜の剥離等の問題が発生するからである。
【0036】
本発明のタービン翼製造方法の一実施形態において、上記のタービン翼表面のコーティング皮膜は、タービン翼の表面にセラミックマトリックスとなるセラミックスの前駆体とナノシート粒子とを含む溶液を塗布する工程と、塗布した溶液を加熱処理して皮膜を形成する工程を有する製造方法によって製造される。
【0037】
ここで、溶液とは、前述したように錯体、ゾル、金属アルコキシド等の溶液のことを示しており、この溶液を塗布して皮膜を形成する。溶液を塗布する方法としては、ディッピング、スプレー、スピンコーティング、ロールコーティング、バーコート等の方法が例示される。また、加熱処理における加熱方法としては、電気炉中に保持後、タービン翼全体を加熱する方法、赤外線等によりタービン翼の表面部分のみを加熱する方法等が例示されるが、これらの加熱方法に限定されるものではない。
【0038】
上記のように、タービン翼の表面にセラミックマトリックスとなるセラミックスの前駆体とナノシート粒子とを含む溶液を塗布する工程と、塗布した溶液を加熱処理して皮膜を形成する工程とを有する溶液法を用いるのは、プロセスが簡易で、かつコストが安価であり、極めて実用性に富む方法であると同時に、均一な薄膜の形成が可能であり、コーティング施工による蒸気タービン翼基材の表面粗さの変化がほとんどなく、コーティング施工後の加工が必要ないからである。
【0039】
上記の熱処理は80℃以上、600℃以下で行うことが好ましい。熱処理温度が80℃より低いとジルコニウム化合物の加熱分解が不十分となり、緻密な皮膜が得られず、また、皮膜が不安定で経時変化や剥がれ等の問題が発生するためであり、一方、熱処理温度が600℃より高いと蒸気タービン翼の基材である金属の組織が変化してしまい、疲労強度やクリープ強度等の特性が低下してしまうためである。
【0040】
なお、セラミックスマトリックスを結晶質とするには、例えば上記温度範囲内で加熱処理温度を比較的高く設定し、非晶質にするには、上記温度範囲内で加熱処理温度を比較的低く設定すればよい。
【0041】
(実施例1)
実施例1として、約7重量%の酢酸ジルコニウムの水溶液に横サイズ約1μm、厚み約1nmの酸化ケイ素ナノシート粒子を添加した。添加量は、加熱処理後に、酸化ジルコニウムが皮膜全体の70体積%、酸化ケイ素ナノシート粒子が30体積%となるように調整した。この混合溶液をマグネットスターラ、及びテフロン(登録商標)製回転子を用いて混合した後、コーティング用のスラリーとした。このコーティング液を、50mm×50mm×1mmの板状の高クロム鋼表面にディッピングにより塗布し、塗布後、常温で約1時間乾燥した後、大気中300℃で5分間加熱処理してコーティング皮膜を形成した。
【0042】
このときのコーティング皮膜の膜厚は約0.3μmで、コーティング皮膜は、アモルファスの酸化ジルコニウムマトリックス中に酸化ケイ素結晶のナノシート粒子が皮膜の厚さ方向と直角に配向した状態で分散した構造(図2に示した構造)のコーティング皮膜であった。
【0043】
このコーティング皮膜に対し、耐酸化試験を行った。耐酸化試験は大気中にて400℃で100時間保持後、重量変化と表面粗さ変化を測定した。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0044】
(実施例2)
実施例2として、スラリー中に配合する酸化ケイ素ナノシート粒子の量を減量し、添加量は最終的に酸化ケイ素ナノシート粒子が皮膜全体の10体積%になるように調整した他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0045】
(実施例3)
実施例3として、スラリー中に配合する酸化ケイ素ナノシート粒子の量を増量し、添加量は最終的に酸化ケイ素ナノシート粒子が皮膜全体の80体積%になるように調整した他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0046】
(実施例4)
実施例4として、スラリー中に配合する酸化ケイ素ナノシート粒子の横サイズが0.1μmの酸化ケイ素ナノシート粒子を用いた他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0047】
(実施例5)
実施例5として、スラリー中に配合する酸化ケイ素ナノシート粒子の横サイズが10μmのナノシート粒子を用いた他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0048】
(実施例6)
実施例6として、スラリー中に配合する酸化ケイ素ナノシート粒子を酸化チタンナノシート粒子(横サイズ約1μm、厚み約1nm、30体積%)に代わり、実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0049】
(実施例7)
実施例7として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、約7重量%の炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液を酸化ジルコニウムの前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0050】
(実施例8)
実施例8として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、約7重量%のペルオキソチタン酸水溶液を酸化チタンの前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0051】
(実施例9)
実施例9として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン加水分解して得られたシリカゾルを酸化ケイ素の前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0052】
(実施例10)
実施例10として、酢酸ジルコニウムの水溶液の代わりに、約7重量%のアルミニウムのアルコキシドを加水分解して得られた酸化アルミニウムゾルを酸化アルミニウムの前駆体溶液としてスラリー中に配合した。実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0053】
(実施例11)
最終的に形成するコーティング皮膜の厚さを0.01μmとした他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0054】
(実施例12)
最終的に形成するコーティング皮膜の厚さを10μmとした他は実施例1と全く同じ方法で皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さ変化はほとんど認められなかった。
【0055】
(参考例1)
参考例1として、スラリー中に配合する酸化ケイ素ナノシート粒子の量を減量し、添加量は最終的に酸化ケイ素が皮膜全体の0.5体積%になるように調整した他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さにおいて僅かに変化が認められた。
【0056】
(参考例2)
参考例2として、スラリー中に配合する酸化ケイ素ナノシート粒子の量を増量し、添加量は最終的に酸化ケイ素が皮膜全体の95体積%になるように調整した他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成した。その結果、重量増、及び表面粗さにおいて僅かに変化が認められた。
【0057】
(参考例3)
参考例3として、スラリー中に配合する酸化ケイ素の横サイズが0.08μmのナノシート粒子を用いた他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さにおいて僅かに変化が認められた。
【0058】
(参考例4)
参考例4として、スラリー中に配合する酸化ケイ素の横サイズが12μmのナノシート粒子を用いた他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成した。その結果、コーティング皮膜の剥離が発生し、耐酸化試験を実施できなかった。
【0059】
(参考例5)
参考例5として、最終的に形成するコーティング皮膜の厚さを0.008μmとした他は実施例1と全く同じ方法で皮膜を形成し、実施例1と同じ方法で耐酸化試験を行った。その結果、重量増、及び表面粗さにおいて僅かに変化が認められた。
【0060】
(参考例6)
参考例6として、最終的に形成するコーティング皮膜の厚さを12μmとした他は実施例1と全く同じ方法でコーティング皮膜を形成した。その結果、重量増、及び表面粗さにおいて僅かに変化が認められた。
【0061】
以上説明したとおり、上記の実施例の蒸気タービン翼によれば、セラミックマトリックス中にナノシート粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されていることにより耐酸化性が優れている。また、上記の実施例の蒸気タービン翼の製造方法では、溶液法によるため、初期の表面粗さを変化させることなくコーティング皮膜を形成することが可能である。従って、実際にプラント中で運転した場合も長期に亘り初期の翼形状や表面粗さを維持することができ、当初の翼の空力特性が低下することがなく、タービン全体の効率についても初期の高いレベルを長期間維持することが可能となる。
【0062】
なお、上記実施例では、コーティング皮膜がアモルファス(非晶質)である場合について述べたが、結晶質の場合においても同様の結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0063】
3……蒸気タービン、4……タービンロータ、5……動翼(ブレード)、6……静翼
(ノズル)、7……段落、8……蒸気通路部、13……ケーシング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンに、前記静翼又は前記動翼として使用される蒸気タービン翼であって、
表面の少なくとも一部に、セラミックマトリックス中にナノシート粒子が分散して存在するコーティング皮膜が形成されていることを特徴とする蒸気タービン翼。
【請求項2】
前記ナノシート粒子が、前記コーティング皮膜全体に対して1体積%以上90体積%以下含まれていることを特徴とする請求項1記載の蒸気タービン翼。
【請求項3】
前記ナノシート粒子が、酸化ケイ素、又は酸化チタンから構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の蒸気タービン翼。
【請求項4】
前記ナノシート粒子は、厚みが0.5nm以上、10nm以下であり、横サイズが0.1μm以上10μm以下とされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項5】
前記ナノシート粒子は、一定の配向性を持って積層した微細構造を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項6】
前記セラミックマトリックスが、酸化ジルコニウム、又は酸化チタン、又は酸化ケイ素、又は酸化アルミニウムから構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項7】
前記コーティング皮膜は、膜厚が0.01μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の蒸気タービン翼。
【請求項8】
タービンロータと、前記タービンロータに植設される動翼と、前記動翼の上流側に配設される静翼と、前記静翼を支持するとともに前記タービンロータ、前記動翼及び前記静翼を内包するタービンケーシングとを具備し、前記動翼と前記静翼との対により一つの段落を形成するとともに前記タービンロータの軸方向に複数の段落を並べて蒸気通路を形成した蒸気タービンに、前記静翼又は前記動翼として使用される蒸気タービン翼の製造方法であって、
表面にセラミックマトリックスとなるセラミックスの前駆体とナノシート粒子とを含む溶液を塗布する工程と、塗布した前記溶液を熱処理してコーティング皮膜を形成する工程と、を有することを特徴とする蒸気タービン翼の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックの前駆体が、酸化ジルコニウムの前駆体、又は酸化チタンの前駆体、又は酸化ケイ素の前駆体、又は酸化アルミニウムの前駆体から構成されていることを特徴とする請求項8記載の蒸気タービン翼の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理してコーティング皮膜を形成する工程の熱処理温度が、80℃以上、600℃以下であることを特徴とする請求項8又は9記載の蒸気タービン翼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−169081(P2010−169081A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248559(P2009−248559)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】