説明

蒸気タービン部材

【課題】溶射や焼結体などの合金コーティングを用いることなく低コストで、耐酸化性に優れた蒸気タービン部材を提供する。
【解決手段】蒸気タービン部材は、Feを主成分とし、Crを8〜15重量%、Mnを0.1〜1.0重量%含有するステンレス鋼を基材とする蒸気タービン部材であって、前記基材の表面に、基材の成分元素の酸化物からなる酸化膜を有する。酸化物の膜厚が1μm以下であることが好ましい。また、酸化膜の表面粗さRaが1.6a以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に保護性の酸化皮膜を有する蒸気タービン部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蒸気タービンは、高い発電効率が要求されており、蒸気温度が上昇する傾向にある。蒸気温度が566℃〜630℃の場合、蒸気タービン部材として一般的に9〜12%Cr系のステンレス鋼が使用されている。蒸気タービン部材として、例えば蒸気加減弁では、蒸気流量を制御するために、弁棒とブッシュ,スリーブと弁体が摺動する構造になっている。
【0003】
耐摩耗性を向上させる目的で窒化処理が施されていたが、窒化処理では耐酸化性がないため、蒸気加減弁が高温蒸気により酸化すると、運転時間とともに生成した酸化スケールによって摺動部の間隙が減少し、定期検査ごとにスケールを除去しなければ、摺動部が固着してしまうという問題があった。また、主蒸気管や再熱蒸気管では、生成した酸化スケールが成長,剥離してしまうという問題があった。
【0004】
これらの蒸気タービン部材の耐酸化性を向上させる方法として、一般的には溶射や焼結あるいは溶接により、基材表面に合金コーティングやセラミック等を形成することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、微細な合金形成用金属粒子を塗布・焼結することによって、鋼表面に有機媒体を含有する金属粒子組成物を形成する方法が記載されている。特許文献2には、耐食性のバインダーマトリックスを使用して、耐摩耗性及び耐エロージョン性の向上したナノ構造化コーティングを製造する方法が記載されている。
【0006】
溶射または焼結により合金コーティングを形成した場合には、耐酸化性・耐摩耗性に優れるものの、剥離する可能性があり、コストが高くなるという問題がある。溶接により合金コーティングを形成した場合には、残留応力が発生するため、割れが起きる可能性があり、さらに摺動部がある部材では間隙管理が困難になる。また、窒化処理のように耐磨耗性を向上させることによって耐酸化性が低下する場合もある。一方、表面に皮膜を形成しない表面研磨のみの蒸気タービン部材は、長時間運転中に酸化してしまう。
【0007】
以上のように、従来の技術は、いずれもタービン部材の耐酸化性とコストを満足すると言えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−309303号公報
【特許文献2】特表2007−507604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、溶射や焼結体などの合金コーティングを用いることなく、低コストで、耐酸化性に優れた蒸気タービン部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の蒸気タービン部材は、Feを主成分とし、Crを8〜15重量%、Mnを0.1〜1.0重量%含有するステンレス鋼を基材とする蒸気タービン部材であって、前記基材の表面に、基材の成分元素の酸化物からなる酸化膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストで、耐酸化性に優れた蒸気タービン部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る高中圧一体型蒸気タービンの断面図である。
【図2】本発明に係る蒸気加減弁の断面図である。
【図3】本発明の実施例における間隙距離の相対値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の蒸気タービン部材は、重量でMnを0.1〜1.0%、Crを8〜15%含むステンレス鋼を基材とし、その表面にCr,Mn,Feを含む保護性の酸化皮膜を有し、酸化皮膜の膜厚が1μm以下である。
【0014】
また、蒸気タービン部材において、更に、表面粗さRaが1.6a以下である。
【0015】
本発明者らは、蒸気タービン部材の膜厚と表面粗さに着目し、酸化スケールの生成と表面の性状について検討した。その結果、重量でMnを0.1〜1.0%、Crを8〜15%含むCrステンレス鋼を基材とし、その表面にCr,Mn,Feを含む保護性の酸化皮膜を有し、酸化皮膜の膜厚が1μm以下である蒸気タービン部材は、耐酸化性が優れていることを見出した。
【0016】
基材の8〜15%Crステンレス鋼について、通常、大気中で酸化させた場合には、Fe及びCrが酸化することによって、FeCr24のスケールが生成する。このスケールはクロミアCr23皮膜よりも保護性が低いため、酸化を抑制することはできず、長時間運転後にはFeCr24スケールの外層にマグネタイトFe34のスケールが生成する。また、8〜15%Crステンレス鋼を低酸素分圧環境で酸化させた場合には、酸化物の標準生成自由エネルギーがFeよりもCrの方が低いため、Crが優先的に酸化するが、保護性のあるクロミアCr23皮膜を均一に生成するにはCr量が不足している。しかし、Mnを0.1〜1.0%含む9〜13%Crステンレス鋼では、Mn酸化物の標準生成自由エネルギーがFe及びCrよりもさらに低いため、これを低酸素分圧環境で酸化させた場合、ノジュール状にMn酸化物が生成し、その他の部分にCrリッチな酸化物が生成することにより、長時間運転中の酸化が抑制されることが分かった。
【0017】
表面粗さについては、表面の酸化物が成長することにより表面が粗くなるため、酸化物が生成しないことが望ましい。しかし、8〜15%Cr鋼において、合金またはセラミック等によるコーティングを施す以外の方法としては、酸化物の成長を抑制することが重要である。本発明者らは、保護性の酸化皮膜の膜厚が1μm以下であれば、酸化スケールの成長が顕著に抑制されることを見出した。各種検討の結果、長時間運転後であっても耐酸化性を維持するには、保護性の酸化皮膜の膜厚が1μm以下であることと、表面粗さRaが1.6a以下であることが重要であり、本発明に至った。
【0018】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
まず、本発明を使用した蒸気タービンについて説明する。
【0019】
図1は、本発明の蒸気タービン部材を主蒸気配管28として適用した蒸気タービンプラントの一例である。
【0020】
ボイラより供給された566℃の蒸気は主蒸気配管28を通して、高圧車室18に導かれる。蒸気はノズル38を通り、高圧静翼15は蒸気の流れる方向を変えるとともに、圧力差により蒸気の速度を増加させ、高圧動翼16は蒸気エネルギーを回転エネルギーに変換し、ロータ33を回転させて、ロータ33に結合された発電機で発電を行う。
【0021】
図2は、蒸気加減弁の一例を模式的に示す断面図である。
【0022】
蒸気加減弁は、弁棒201とブッシュ202とスリーブ203と弁体204と弁座205より構成され、弁棒とブッシュ,弁体とスリーブが摺動する。鍛造材を機械加工した後、表面粗さRaを0.4aに表面研磨して作製した後に、650℃,4時間の熱処理を行って製造した。タービン部材に溶接部がある場合には、溶接後の熱処理により、タービン部材の表面に本発明の酸化皮膜を形成するため、従来、表面粗さRaを1.6aに研磨して作成した場合に必要であった、溶接後のブラストや研磨などによる酸化スケールの除去、及びその後の洗浄工程が不要となる。
【0023】
本発明の酸化膜は、タービン部材の表面に形成されている。また、酸化膜は、基材の成分元素の酸化物からなり、酸化物の膜厚が1μm以下である。
【0024】
酸化膜の表面粗さRaは、1.6a以下であり、1.0a以下が好ましく、特に、0.5a以下がより好ましい。表面粗さは、その求め方によって、最大高さRy、十点平均粗さRz、算術平均粗さRaなどが使用されている。本発明における平均粗さは、算術平均粗さRaを示す。粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分における平均線から粗さ曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値をマイクロメートルで表すことによって求める。
【0025】
酸化膜の成分は、主にCr,Fe,O,Mnを含む。さらに、これらの成分の中で、O以外の成分は基材のものであり、外部から与えられるものではない。
【0026】
蒸気タービン部材が、本発明の酸化膜を有することにより、運転中の酸化スケールの生成を抑制することができる。また、低コストで、耐酸化性に優れた蒸気タービン部材を提供できる。
【0027】
熱処理条件の雰囲気は、大気中であっても効果は見られるが、Arなどの不活性ガス雰囲気中または低酸素分圧であることが望ましい。特に、1×10-12atm以下であることが好ましい。熱処理温度は、実動温度以上の温度で行い、溶接構造を有する翼の場合には、製造時の溶接後応力除去焼鈍温度であることが望ましく、溶接構造のない翼の場合には、翼材の焼き戻し温度以下であることが望ましい。特に、650〜690℃が好ましい。熱処理時間は、低酸素雰囲気では長時間行うことによって、より保護性の高いCrリッチな酸化皮膜が形成されるが、現実的には工程上、短時間であることが望ましい。特に、3〜12時間が好ましい。
【0028】
以下、本発明に用いた蒸気タービン部材の成分限定理由について説明する。
【0029】
Crは蒸気中の耐食性,耐酸化性を向上させる。また、焼入れ性を向上させ、靭性及び強度向上効果もある。8.0%未満ではこれらの効果が十分ではなく、15.0%を超える過剰な添加はδフェライト相を形成させるため、クリープ破断強度,靭性を低下させる。特に、9.0〜13.0の範囲とすることが好ましい。
【0030】
Mnは、Mn酸化物をノジュール上に生成するために0.1%以上にする。一方、多量に添加するとクリープ脆化を生じやすくなるため、1.0%以下とする。特に、0.5〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
その他、含まれても良い元素として、C,Si,Ni,Mo,V,W,Nb,N,Cu,Al、及び不可避不純物のS,Pなどがあるが、いずれの元素も耐酸化性及び強度を損なわないことが好ましい。
【実施例1】
【0032】
表1に、本実施例における蒸気タービン部材に用いるステンレス鋼の化学組成を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
上記組成の試験片にて、酸化試験を行った。
【0035】
高周波溶解炉した鋼塊を850〜1150℃の温度で熱間鍛造し、30mm角とした。焼入れは、1024〜1052℃で1時間行った後に油冷し、焼き戻しは、620℃以上で2時間行った後に空冷した。30mm角の供試材から寸法20×20×5mmの試験片を切断し、表面を#600エメリー紙で研磨した後、アセトンで脱脂洗浄した。
【0036】
次に、690℃の大気中で4時間の熱処理を行った。昇温及び降温速度は、それぞれ1時間毎に100℃である。
【0037】
熱処理後には、厚さが約0.5μmの酸化皮膜が鋼表面に生成した。
【0038】
この試験片を用いて、温度650℃の大気中で1000時間の酸化試験を行い、酸化皮膜の膜厚を走査顕微鏡により測定した。
【0039】
図3は、大気中での熱処理後に、650℃で1000時間の大気酸化試験をした後の膜厚から、放物線則を用いて推定した間隙距離の相対値を示す。比較例として、表1に示す試験片を、未処理のまま酸化試験に供した試験結果も示す。この結果、大気中の熱処理によって、比較例よりも間隙が減少する時間が長くなり、耐酸化性が向上したことが確認された。
【実施例2】
【0040】
実施例1と同様の試験片を作成し、低酸素分圧中での熱処理を行った場合について説明する。
【0041】
高周波溶解炉した鋼塊を850〜1150℃の温度で熱間鍛造し、30mm角とした。焼入れは、1024〜1052℃で1時間行った後に油冷し、焼き戻しは、620℃以上で2時間行った後に空冷した。30mm角の供試材から寸法20×20×5mmの試験片を切断し、表面を#600エメリー紙で研磨した後、アセトンで脱脂洗浄した。
【0042】
次に、温度690℃で4時間の熱処理を酸素分圧が1×10-12atm以下の低酸素分圧中で行った。昇温及び降温速度は、それぞれ1時間毎に100℃である。低酸素雰囲気での熱処理後には、鋼表面に厚さ約0.3μmの酸化皮膜が生成した。
【0043】
この試験片を用いて、温度650℃の大気中で1000時間の酸化試験を行い、鋼表面に生成した酸化皮膜の膜厚を走査顕微鏡により測定した。
【0044】
図3に、本実施例の結果から放物線則を用いて推定した間隙距離の相対値を示す。
【0045】
この結果、低酸素中での熱処理によって、比較例よりも間隙が減少する時間が約4倍長くなり、耐酸化性が著しく向上したことが確認された。また、低酸素雰囲気中での熱処理の方が、実施例1で示した大気中での熱処理よりも耐酸化性の向上が顕著であることが明らかとなった。
【0046】
従って、本発明の蒸気タービン部材を適用することにより、溶射や焼結体あるいは溶接などによる合金コーティングを用いることなく低コストで、耐酸化性に優れた蒸気タービン部材が提供可能となる。
【符号の説明】
【0047】
14 中圧静翼
15 高圧静翼
16 高圧動翼
17 中圧動翼
18 高圧内部車室
19 高圧外部車室
20,21 中圧内部車室
22 中圧外部車室
25 フランジ,エルボ
28 主蒸気入口
33 高中圧ロータシャフト
38 ノズルボックス
43 軸受け
201 弁棒
202 ブッシュ
203 スリーブ
204 弁体
205 弁座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを主成分とし、Crを8〜15重量%、Mnを0.1〜1.0重量%含有するステンレス鋼を基材とする蒸気タービン部材であって、
前記基材の表面に、基材の成分元素の酸化物からなる酸化膜を有することを特徴とする蒸気タービン部材。
【請求項2】
請求項1において、酸化膜は、Fe,Cr,Mnを含むことを特徴とする蒸気タービン部材。
【請求項3】
請求項1において、前記酸化膜が1μm以下であることを特徴とする蒸気タービン部材。
【請求項4】
請求項1において、前記酸化膜の表面粗さRaが1.6a以下であることを特徴とする蒸気タービン部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190478(P2011−190478A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55228(P2010−55228)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】