説明

蒸着マスクの洗浄装置および洗浄方法

【課題】有機EL素子の蒸着マスクを低ダメージで効率よく洗浄し、蒸着剤を効率よく回収することで、蒸着マスクの利用回数を上げ、蒸着剤の再利用効率を上げることができる装置を実現する。
【解決手段】蒸着マスク2にパルスレーザ10を照射して、蒸着剤を蒸着マスク2から分離する。吸引ノズル3から蒸着剤を吸引し、サイクロン6で空気と蒸着剤を分離し、サイクロン6の底部に蒸着剤を堆積させる。その後、バルブ12を開き、蒸着剤を蒸着剤回収部7に回収する。その後、バルブ13を開け、蒸着剤精製部8に蒸着剤を移動させて蒸着剤を精製する。バルブ14を開け、精製された蒸着剤を蒸着剤保管部9に保管する。これにより、蒸着マスク2をダメージなく洗浄出来るとともに、蒸着剤を高い効率で回収することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造装置に関し、蒸着マスクに堆積した蒸着剤をレーザーにより除去し、サイクロンで回収し再利用する蒸着マスクの洗浄装置及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、有機EL表示装置等は、画面がフラットで薄型であるということで、モニタ、TV等でのフラットディスプレイとして需要が拡大している。有機EL表示装置は自発光であることから、視野角特性が優れているとともに、バックライトが不用であるという特徴からディスプレイとして種々の応用分野が見込まれている。
【0003】
有機EL表示装置は発光をする複数の層からなる有機EL層と有機EL層を駆動するTFTとから画素が構成され、この画素がマトリクス状に配置されることによって表示領域が形成されている。光を発生する有機EL層は、画素部において、薄膜トランジスタ(TFT)等が形成された層の上の平坦化膜の上、あるいは、TFTが形成されていない層の上の平坦化膜の上に蒸着によって形成される。
【0004】
現在主流である有機EL素子の製造方法は、蒸着マスクを用いてパターンを成膜する方法である。素子パターンはチャンバ内で蒸着剤を加熱昇華し、蒸着マスクの開口部を通して基板に蒸着されることで形成される。蒸着マスクの開口部以外の場所には、蒸着剤が堆積するため、成膜枚数に応じて蒸着マスクの洗浄を行っている。
【0005】
蒸着マスクの洗浄方式はウェット方式が用いられているが、処理に時間を要する、有機の溶剤を用いるため環境負荷が増加する、微細パターンにダメージが発生する、蒸着剤の回収再利用が困難という理由で、レーザーを用いたドライ方式が開発されている。「特許文献1」には、蒸着マスクにレーザーを照射して蒸着剤を剥離し、これを超純粋および有機溶媒に浸漬して洗浄する技術が記載されている。また、「特許文献2」には、マスクを粘着性を有するフィルムで覆い、該フィルムを通してにレーザーを照射して、マスクから剥離した蒸着剤をフィルムに回収する技術が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−192426号公報
【特許文献2】特開2006−169573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
「特許文献1」に記載の技術では、レーザーによって蒸着剤を剥離することが出来るが、剥離した蒸着剤を回収する技術についての記載が無い。「特許文献1」には、マスクから蒸着剤を剥離した後、超純水あるいは有機溶媒にマスクを浸漬して洗浄する技術が記載してあるが、この場合は、蒸着剤の回収が難しい。
【0008】
「特許文献2」に記載の技術は、マスクを粘着性を有するフィルムによって覆い、該フィルムを通してレーザーを照射して、マスクから蒸着剤を剥離し、粘着性を有するフィルムによって蒸着剤を回収するものであるが、フィルムが粘着性を有するために、蒸着剤が粘着剤等に付着し、蒸着剤の回収率が問題となる。また、回収した蒸着剤に粘着剤等の不純物が混入する危険がある。
【0009】
本発明の課題は、レーザーをマスクに照射することによって、蒸着剤をマスクから剥離するとともに、この蒸着剤を、高純度を保ったまま、高い回収率で回収し、再利用することが出来るシステムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために、レーザーで剥離した蒸着剤を、吸引する手段で吸引し、吸引された蒸着剤を分離回収する手段により分離回収し、分離回収された蒸着剤を所定の蒸着チャンバに搬送することによって蒸着剤を再利用することを特徴とする装置を提供する。
【0011】
蒸着剤が堆積した蒸着マスクに照射するレーザーはパルスレーザーが望ましい。通常のレーザーで蒸着剤を除去すると、アブレーションにより蒸着剤が変質し、回収再利用が困難である。パルスレーザーの場合は、蒸着剤を分解することなく剥離できる特徴がある。パルスレーザーで剥離された蒸着剤と蒸着マスクに堆積している蒸着剤のIR吸収スペクトルを解析したところ、同一の物質であることがわかった。従って、パルスレーザーを用いることで、蒸着剤の変質無く再利用できることが明確となった。
【0012】
パルスレーザーで剥離した蒸着剤は吸引ノズル等を用いて吸引することで、蒸着マスクへの再付着が無くなる。また、吸引ノズルで吸引された蒸着剤は粒子径が数μm以上と大きいため、サイクロンなどで同時に吸引された空気と蒸着剤を分離できる。分離された蒸着剤は蒸着剤精製部で異物などの不純物を除去し、蒸着剤保管部に移し、蒸着チャンバに搬送することで、新規蒸着剤と同様に蒸着に利用できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の洗浄装置を用いることで、蒸着マスクに付着した蒸着剤を効率よく除去再利用できる。また、洗浄後の蒸着マスクへの再付着も発生しない。さらに、蒸着マスクへのダメージが少ないため、結果としてマスクの利用効率も大幅に向上し、蒸着剤の利用効率も大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
具体的な実施例を説明する前に、本発明の製造方法が適用される、有機EL表示装置の構成を説明する。有機EL表示装置は有機EL層からの発光が素子基板側に向かうボトムエミッション型と、素子基板の反対側に向かうトップエミッション型とがある。トップエミッション型はTFT等が形成された領域の上にも発光をする有機EL層を形成することが出来るので、輝度の点からは有利である。以下では、トップエミッション型を例にとって説明するが、ボトムエミッション型の場合も本質的には同じである。
【0015】
図5はトップエミッション型の有機EL表示装置の断面図である。トップエミッション型は有機EL層122の上にアノードが形成されるトップアノード型と、有機EL層122の上にカソードが形成されるトップカソード型とがある。図5はトップアノード型の場合であるが、トップカソード型の場合も同様にして本発明を適用することが出来る。
【0016】
図5において、素子基板110の上にはSiNからなる第1下地膜111と、SiOからなる第2下地膜112が形成されている。ガラス基板からの不純物が半導体層113を汚染することを防止するためである。第2下地膜112の上には半導体層113が形成される。半導体層113はCVDによってa−Si膜が形成された後、レーザー照射によってpoly−Si膜に変換される。
【0017】
半導体層113を覆って、SiOからなるゲート絶縁膜114が形成される。ゲート絶縁膜114を挟んで、半導体層113と対向する部分にゲート電極115が形成される。ゲート電極115をマスクにして、半導体層113にリンあるいはボロン等の不純物をイオンインプランテーションによって打ち込み、導電性を付与して、半導体層113にソース部あるいはドレイン部を形成する。
【0018】
ゲート電極115を覆って層間絶縁膜116がSiOによって形成される。ゲート電極115と同層で形成されるゲート配線と、ドレイン配線117を絶縁するためである。層間絶縁膜116の上にはドレイン配線117が形成される。ドレイン配線117は層間絶縁膜116およびゲート絶縁膜114にスルーホールを介して半導体層113のドレインと接続する。
【0019】
その後、TFTを保護するために、SiNからなる無機パッシベーション膜118が被着される。無機パッシベーション膜118の上には、有機パッシベーション膜119が形成される。有機パッシベーション膜119は無機パッシベーション膜118とともに、TFTをより完全に保護する役割を有するとともに、有機EL層122が形成される面を平坦にする役割を有する。したがって、有機パッシベーション膜119は1〜4μmと、厚く形成される。
【0020】
有機パッシベーション膜119の上には反射電極121がAlまたはAl合金によって形成される。図5において、下部電極121は反射電極121が兼用している。AlまたはAl合金は反射率が高いので、反射電極121として好適である。反射電極121は有機パッシベーション膜119および無機パッシベーション膜118に形成されたスルーホールを介してドレイン配線17と接続する。
【0021】
本実施例はトップアノード型の有機EL表示装置なので、有機EL層122の下部電極121はカソードとなる。したがって、反射電極121として使用されるAlあるいはAl合金が有機EL層122の下部電極121を兼用することが出来る。AlあるいはAl合金は仕事関数が比較的小さいので、カソードとして機能することが出来るからである。
【0022】
下部電極121の上には有機EL層122が形成される。有機EL層122は複数の層から構成されている。トップアノード型の場合は、下層から、例えば、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、ホール注入層となる。これらの有機EL層はマスク蒸着によって形成される。一般には、電子注入層、電子輸送層等は、各色共通で蒸着され、発光層、ホール輸送層とは各色別々に蒸着される。
【0023】
有機EL層122の上にはカソードとなる上部電極123が蒸着によって形成される。上部電極123としては透明電極であるIZO(Indium Zinc Oxide)を用いる。IZOは、表示領域全体に蒸着される。IZOの厚さは光の透過率を維持するために、30nm程度に形成される。上部電極としては、IZOと同様、金属酸化物導電膜であるITO(Indium Tin Oxide)を用いることが出来る。
【0024】
なお、有機EL層122が端部において段切れによって破壊することを防止するために、画素と画素の間にバンク120が形成される。バンクはアクリル樹脂あるいはポリイミド樹脂をフォトリソグラフィによって形成する。有機EL層122からの光は図1のLで示すように、素子基板110とは反対側に出射して画像を形成する。
【0025】
図6に有機EL層122部分の断面模式図を示す。図6において、下部電極121の上に電子注入層1221が形成される。電子注入層1221の役割は下部電極121である陰極からの電子の注入を容易にするものである。電子注入層1221は、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニューム(以下Alq3と略す)とLiをmol比が2<Li/Alq3<4となるように共蒸着する。この電子注入層1221の膜厚は3nmである。
【0026】
電子注入層1221の上には電子輸送層1222が形成される。電子輸送層1222は例えば、真空蒸着によりトリス(8−キノリノール)アルミニューム(以下Alq3と略す)を20nmの厚さに形成する。この層の役割は電子を発光層1223まで、出来るだけ抵抗なしに、効率よく運ぶ役割を持つ。その上には発光層1223が形成される。この発光層1223において、電子とホールが再結合することによるEL発光が生ずる。発光層1223は、例えば、Alq3とキナクリドン(Qcと略す)の共蒸着膜を20nmの厚さに形成する。Alq3とQcの蒸着速度の比は40:1である。1223の上にはホール輸送層1224が形成される。このホール輸送層1224は陽極から供給されたホールをできるだけ抵抗無しに効率よく発光層1223に運ぶ役割をもつ。ホール輸送層224はα−NPDを蒸着により50nmの厚さに形成する。ホール輸送層1224の上にはホール注入層1225が形成される。このホール輸送層注入1225は、陽極からのホールの注入を容易にするものである。ホール注入層1225は銅フタロシアニンを蒸着により50nmの厚さに形成する。ホール注入層115の上に陽極である、上部電極12が形成される。
【0027】
なお、ホール注入層1225と上部電極123の間に、バッファー層として透明金属酸化物をEB蒸着等によって15nmの厚さに形成する場合もある。このバッファー層としての金属酸化物の材料としてはV、MoO、WO等があげられる。バッファー層の主たる役割は陽極材料をスパッタリングするさいに、有機EL層11がダメージを受けるのを防止するためである。
【0028】
なお、発光層材料としては電子、ホールの輸送能力を有するホスト材料に、それらの再結合により蛍光もしくはりん光を発するドーパントを添加したもので共蒸着により発光層として形成できるものであれば特に限定は無く、例えば、ホストとしてはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム、ビス(ベンゾ{f}−8−キノリノラト)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウムオキシド、トリス(8−キノリノラト)インジウム、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム、8−キノリノラトリチウム、トリス(5−クロロ−8−キノリノラト)ガリウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノラト)カルシウム、5,7−ジクロル−8−キノリノラトアルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム、ポリ[亜鉛(II)−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリニル)メタン]のような錯体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、等であっても良い。
【0029】
また、ドーパントとしてはホスト中で電子とホールを捉えて再結合させ発光するものであって、例えば赤ではピラン誘導体、緑ではクマリン誘導体、青ではアントラセン誘導体などの蛍光を発光する物質やもしくはイリジウム錯体、ピリジナート誘導体などりん光を発する物質であっても良い。
【0030】
以上にようにして、TFTおよび有機EL層が形成された基板を素子基板と称する。有機EL層は水分によって変質し、発光効率が低下する。発光効率の低下を抑え、有機EL表示装置の寿命を延ばすために、素子基板に対して、封止基板によって封止する。具体的には、封止基板の周辺に封止材をディスペンサ等で形成し、素子基板と接着する。封止基板は一般には、ガラスで形成される。
【0031】
素子基板と封止基板の接着は、負圧にした窒素雰囲気中で行われる。したがって、有機EL表示装置の内部に窒素を充填される。素子基板と封止基板をシールする封止材は、紫外線硬化樹脂あるいは熱硬化樹脂が使用される。紫外線硬化を照射する場合は、有機EL層に紫外線が照射されると有機EL層が破壊されるので、シール部のみに紫外線を照射する。
【実施例1】
【0032】
以下図表を用いて本発明の詳細を説明する。本発明の基本構成を図1に示す。
パルスレーザー10がレーザー照射窓1から被洗浄物である蒸着マスク2に照射される。蒸着マスク2は繰り返し蒸着に使われたもので、洗浄が必要な状態である。なお、パルスレーザーはパルス幅に対してパルスの周期が非常に長いもので、蒸着マスク2に照射すると蒸着マスク2が振動を生じ、蒸着マスク2に付着した蒸着剤を剥離する作用を有する。
【0033】
蒸着マスク2は進行方向4に移動する。パルスレーザー10は進行方向4と垂直にスキャンされるように制御されている。蒸着マスク2の進行とパルスレーザー10のスキャンが組み合わされて、蒸着マスク全面にパルスレーザー10が照射される。
【0034】
パルスレーザーによって剥離された蒸着剤は、吸引ノズル3に吸引されて、雰囲気空気と共にサイクロン6に吸い込まれる。吸引ノズル3は例えば、図4に示すように、蒸着マスク2の幅をカバーする細長い吸引孔301を有しており、この吸引孔301から蒸着剤を吸引する。吸引ノズル3に吸引された蒸着剤は、吸引ダクト302から、図1のサイクロンに吸引される。
【0035】
サイクロン6は、例えば、4μm以上の粒子が捕集できるように設計されている。蒸着マスク2から剥離した蒸着剤は10μmから100μm程度であるから、ほとんどの粒子はサイクロン6によって捕集できることになる。サイクロン内では、軽い雰囲気空気は上部に引き込まれ、ブロワ5に吸引され、重量のある蒸着剤はサイクロン6の底部に堆積する。
【0036】
蒸着マスク2の洗浄が終了した後、ブロワ5を停止し、バルブA11を閉じバルブB12を開け、蒸着剤を蒸着剤回収部7に落下させる。蒸着剤落下の後バルブB12を閉じ、バルブA11を開け、ブロワ5を起動し、次の蒸着マスク2の洗浄に入る。
【0037】
上記手順を繰り返し、バルブC13を開け蒸着剤回収部7の蒸着剤を蒸着剤精製部8に落下させる。蒸着剤精製部8は異物などの不純物を除去する精製部である。蒸着剤精製部8での処理が終わった蒸着剤は、バルブD14を開けることで蒸着剤保管部9に落下する。蒸着剤保管部9に堆積した蒸着剤は、蒸着チャンバに搬送されて、新たな蒸着剤として再利用される。
【0038】
図2に、本発明を組み込んだ有機EL製造装置の構成を示す。図2では、図5で説明したトップエミッション型で、トップアノードの場合の有機EL表示装置の製造を例に説明するが、本発明は、これに限らず、トップエミッション型で、トップカソードの場合でも良いし、ボトムエミッション型でも良い。
【0039】
図2の製造装置は、大きく分けて、ステージA、ステージB、ステージC、および、ステージBに接続した蒸着マスク洗浄部から構成されている。各ステージには、ロボットアームが配置され、素子基板、封止基板あるいは蒸着マスク2を所定の位置に移動、設置する。
【0040】
図2において、左側から、下部電極まで形成された素子基板が投入される。素子基板は第1素子基板前処理部23において、紫外線を照射し、素子基板に付着した有機物等を分解して、除去しやすくする。その後、第2素子基板処理部24において、素子基板表面を清浄化する。
【0041】
清浄化した素子基板を電子注入層蒸着部24に搬送し、先に説明したような電子注入層を蒸着する。電子注入層は、各色とも共通に形成するので、電子注入層蒸着部24における蒸着マスク2は個々のサブ画素毎にホールを有する蒸着マスク2ではなく、大きな開口を有する蒸着マスク2である。電子注入層を蒸着した素子基板は電子輸送層蒸着部22に搬送され、電子輸送層が蒸着される。電子輸送層も、各色とも共通に形成するので、電子輸送層蒸着部における蒸着マスク2も個々のサブ画素毎にホールを有する蒸着マスク2ではなく、大きな開口を有する蒸着マスク2である。
【0042】
電子輸送層が形成された素子基板は、赤、緑、青の発光層の蒸着を行うために、各色の有機EL層の蒸着ステージに送られる。蒸着の順番は特に規定する必要は無いが、図2においては、まず、赤発光層蒸着部21において、赤発光有機ELが蒸着される。
【0043】
続いて、素子基板はステージBに搬送され、緑発光層蒸着部26において、緑発光有機ELが蒸着される。その後、素子基板は青発光層蒸着部30に搬送され、青発光有機ELが蒸着される。各発光の有機EL材料はサブ画素毎に、蒸着マスク2に形成されサブ画素の形状をしたホールを介して蒸着される。なお、赤、緑、青のサブ画素が組み合わされて画素が構成される。各ホールの径は小さく、正確な位置合わせが必要とされる。また、蒸着を重ねる毎に、各ホールの側壁にも有機EL材料が蒸着されるために、蒸着マスク2のホールの径が小さくなる。この点からも、定期的な蒸着マスク2の洗浄が必要である。
【0044】
その後、素子基板は正孔輸送層蒸着部20に搬送され、正孔輸送層が蒸着される。正孔輸送層も各サブ画素毎にホールが形成された蒸着マスク2を用いて蒸着される。正孔輸送層が蒸着された後、素子基板は正孔注入層蒸着部19に搬送され、正孔注入層が蒸着される。正孔注入層も各サブ画素毎にホールが形成された蒸着マスク2を用いて蒸着される。
【0045】
その後、素子基板は陽極蒸着部18に搬送され、陽極となる例えば、IZOが蒸着される。IZOはサブ画素毎の蒸着ではなく、有機EL表示装置の表示領域全体にわたってベタで蒸着される。このようにして形成された素子基板は、ステージCに搬送されて、基板保管部31に保管される。
【0046】
図2の右側からは、素子基板に形成された有機EL層を水分から保護するための、封止基板が第1封止ガラス前処理部15に投入される。封止ガラス前処理部15においては、封止ガラスに紫外線が照射されて有機物を分解し、除去する。その後、封止基板は第2封止ガラス前処理部16に搬送され、ディスペンサ等によって封止材が形成される。第2封止ガラス前処理部16においては、乾燥剤も封止基板に配置される。
【0047】
封止材が形成された封止基板は貼り合わせ封止部17に搬送され、基板保管部から搬送されてきた素子基板と張り合わされる。貼り合わせ封止部17においては、シール材の部分に紫外線が照射され、シール材を硬化させ、素子基板と封止基板を接着する。貼り合わせ封止部17におけるプロセスは減圧した窒素雰囲気中で行われる。以上のようにして、素子基板と封止基板が合わさった有機EL表示装置は、完成品排出部32に送られ、後工程に送られる。
【0048】
以上説明したプロセスにおいて、蒸着に使用される蒸着マスク2は、連続して使用されるが、数多く使用しているうちに、蒸着マスク2に有機EL材料が堆積して例えば、蒸着マスク2のホールの径を小さくするような現象を生ずる。また、有機EL材料は高価であるので、蒸着マスク2に付着した有機EL材料を再利用することがのぞましい。
【0049】
図2において、ステージBにおける蒸着マスク保管部271は、このように、多くの蒸着を行った蒸着マスク2を保管する。蒸着マスク保管部27は洗浄前蒸着マスク保管部271と洗浄後蒸着マスク保管部272に分かれている。洗浄前蒸着マスク保管部には、200時間程度の蒸着を行った蒸着マスク2が赤発光層蒸着部、緑発光層蒸着部、青発光層蒸着部等から搬送され保管される。
【0050】
洗浄前蒸着マスク保管部271から蒸着された蒸着マスク2が蒸着マスク洗浄部28に搬送され、図1に示すようなプロセスによって蒸着マスク2から有機EL材料が剥離され、蒸着マスク2が洗浄される。蒸着マスク洗浄部28は、有機EL層の色毎に分かれている。洗浄された蒸着マスク2は洗浄後蒸着マスク保管部272に搬送され、次ぎの蒸着に用いられる。
【0051】
蒸着マスク洗浄部28において、蒸着マスク2から分離された有機EL材料はダクトを通して蒸着剤回収ステージ29に移動する。蒸着剤回収ステージ29は、有機EL層の色毎に分かれている。蒸着剤回収ステージ29では、図1に示す蒸着剤回収部7、蒸着剤精製部8、蒸着剤保管部9が配置されて、蒸着剤の回収、蒸着剤の精製を行い、精製された蒸着剤は蒸着剤保管部に保管され、新たな蒸着に使用される。
【0052】
以下に上記基本構成を用いた具体例を示す。蒸着剤Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体)を用いて200時間の蒸着を行った蒸着マスク2を用いて、図1の基本装置で洗浄を実施した。まずバルブA11を開け、ブロワー5を起動する。バルブB12、バルブC13、バルブD14は閉じている。
【0053】
蒸着マスク2を搬送方向4に搬送しながら、レーザー照射窓1からパルスレーザー10を照射する。パルスレーザー10は搬送方向4と垂直の方向に捜査するように制御する。パルスレーザーによって蒸着マスク2から剥離した蒸着剤は、吸引ノズル3から吸引され、サイクロン6に到達する。
【0054】
蒸着マスク2の洗浄処理が終了すると、ブロワー5を停止させ、バルブA11を閉じる。処理した蒸着剤はサイクロン6の底部に堆積しているので、バルブB12を開け、蒸着剤回収部7に沈降させる。蒸着剤沈降後バルブB12を閉じ、バルブC13を開ける。蒸着剤は蒸着剤精製部8に沈降し、バルブC13を閉じる。蒸着剤精製部8にて異物などの不純物を取り除き、バルブD14を開け蒸着剤保管部9に回収する。
【0055】
次いで回収率を求める。蒸着マスク2の洗浄前の重量から洗浄後の重量を引いた重量をM、蒸着剤保管部9に回収された蒸着剤の重量をRとし、R/Mを求めたところ0.9となった。すなわち90%が回収できたことになる。
【0056】
次いで、洗浄効率を求めるために、洗浄後の蒸着マスク2をクロロホルムに浸漬し、残留蒸着剤を抽出した。クロロホルム抽出前後の蒸着マスク2の重量変化を測定したところ、蒸着マスク2の洗浄前後の重量差Mの100分の1以下であった。すなわち99%以上が洗浄されていることになる。
【実施例2】
【0057】
蒸着剤Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体)を用いて200時間の蒸着を行った蒸着マスク2と、蒸着剤BeBq(ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体)を用いて200時間の蒸着を行った蒸着マスク2の、2種類の蒸着マスク2を連続処理した例を示す。装置構成を図3に示す。図1の基本構成に回収部分を1系統追加し、2種の蒸着マスク2に対応した装置である。まず、Alq3の蒸着マスク2の洗浄処理を実施する。バルブF34とバルブA11は開でバルブE33とバルブG35を閉にし、ブロワー5をオンにし、パルスレーザー1を照射しながら、蒸着マスク2を搬送方向4に搬送する。Alq3の蒸着マスク2の洗浄が終了すると、バルブF34とバルブA11を閉にバルブE33とバルブG35を開にし、BeBqの蒸着マスク2を処理する。処理後の蒸着剤の回収手順は実施例1と同様に行った。
【0058】
処理が終わったそれぞれの蒸着マスク2の洗浄前後の重量変化からR/Mを計算したところ、Alq3の蒸着マスク2は0.9、BeBqの蒸着マスク2でも0.9となった。どちらも90%の回収ができた。
【0059】
次いで、2回目に回収した蒸着剤BeBqに1回目に回収した蒸着剤Alq3が混入していないか確認のために、ガククロマトグラフィーで分析したところ、検出限界以下であった。すなわちバルブの切り替えによって連続処理を行っても蒸着剤の混入は発生しない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、上記有機EL素子の製造装置以外にも、蒸着マスクを利用した装置全般に応用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明による有機EL素子の洗浄蒸着マスク洗浄及び蒸着剤回収装置の基本構成を示す図である。
【図2】本発明による有機EL素子製造装置のシステム構成を示す図である。
【図3】本発明による有機EL素子の洗浄蒸着マスク洗浄及び蒸着剤回収装置の応用例を示す図である。
【図4】本発明に使用される吸引ノズルの例である。
【図5】本発明を用いて製造される有機EL表示装置の例である。
【図6】本発明を用いて蒸着される有機EL層の例である。
【符号の説明】
【0062】
1 レーザー照射窓
2 蒸着マスク
3 吸引ノズル
4 マスクの進行方向
5 吸引ブロワ
6 サイクロン
7 蒸着剤回収部
8 蒸着剤精製部
9 蒸着剤保管部
10 パルスレーザー
11 バルブA
12 バルブB
13 バルブC
14 バルブD
15 第1封止ガラス前処理部
16 第2封止ガラス前処理部
17 貼り合せ封止部
18 陽極膜蒸着部
19 正孔注入層蒸着部
20 正孔輸送層蒸着部
21 赤発光層蒸着部
22 電子輸送層蒸着部
23 第1基板前処理部
24 第2基板前処理部
25 電子注入層蒸着部
26 緑発光層蒸着部
27 蒸着マスク保管部
28 蒸着マスク洗浄部
29 蒸着剤回収ステージ
30 青発光層蒸着部
31 基板保管部
32 完成品排出部
33 バルブE
34 バルブF
35 バルブG
36 サイクロンB
37 蒸着剤回収部B
38 蒸着剤精製部B
39 蒸着剤保管部B
40 バルブH
41 バルブI
42 バルブJ
110 素子基板
111 第1下地膜
112 第2下地膜
113 半導体層
114 ゲート絶縁膜
115 ゲート電極
116 層間絶縁膜
117 SD配線
118 無機パッシベーション膜
119 有機パッシベーション膜
120 バンク
121 下部電極
122 有機EL層
123 上部電極
1221 電子注入層
1222 電子輸送層
1223 発光層
1224 ホール輸送層
1225 ホール注入層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着剤が付着した蒸着マスクにパルスレーザを照射して、蒸着剤を蒸着マスクから分離する手段と、前記蒸着マスクから分離された蒸着剤を吸引する手段と、前記蒸着剤を空気と分離する分離手段と、前記分離手段によって分離した蒸着剤を回収する手段と、回収された蒸着剤を精製する手段と、回収された蒸着剤を保管する手段を有することを特徴とする蒸着マスク洗浄装置。
【請求項2】
蒸着剤を吸引する手段は吸引ノズルとブロワであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の蒸着マスク洗浄装置。
【請求項3】
前記蒸着剤を空気と分離する分離手段はサイクロンであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の蒸着マスク洗浄装置。
【請求項4】
蒸着剤が付着した蒸着マスクを洗浄する蒸着マスク洗浄装置であって、
前記蒸着マスクにパルスレーザを照射して蒸着剤を蒸着マスクから分離する手段と、
前記蒸着マスクから吸引ブロワとサイクロンによって前記蒸着マスクに近接して配置された吸着ノズルを介して前記蒸着剤を吸引し、前記サイクロン内において、空気を吸引ブロワに吸引させ、蒸着剤は前記サイクロンの底部に堆積させる手段と、
前記サイクロンと前記ブロワの間には第1のバルブが存在し、
前記サイクロンの底に堆積した前記蒸着剤を蒸着剤回収部に移動させるための第2のバルブと、
前記蒸着剤回収部から、前記蒸着剤を蒸着剤精製部に移動させる第3のバルブと、
前記蒸着剤精製部から、前記蒸着剤を蒸着剤保管部に移動させる第4のバルブを有し、
前記サイクロンと前記蒸着剤回収部と、前記蒸着剤精製部と、前記蒸着剤保管部は直列に接続されていることを特徴とする蒸着マスク洗浄装置。
【請求項5】
蒸着剤が付着した蒸着マスクを洗浄する蒸着マスク洗浄方法であって、
前記蒸着マスクにパルスレーザを照射して蒸着剤を蒸着マスクから分離し、
サイクロンと吸引ブロアとの間に配置した第1のノズルを開き、サイクロンと蒸着剤回収部の間に配置された第2のバルブを閉じ、
前記蒸着マスクから吸引ブロワとサイクロンによって前記蒸着マスクに近接して配置された吸着ノズルを介して前記蒸着剤を吸引し、前記サイクロン内において、空気を吸引ブロワに吸引させ、蒸着剤は前記サイクロンの底部に堆積させ、
前記第1のバルブを閉じて、前記第2のバルブを開くことによって、前記蒸着剤を前記蒸着剤回収部に回収することを特徴とする蒸着マスク洗浄方法。
【請求項6】
前記蒸着剤回収部は蒸着剤精製部と第3のバルブを介して接続し、前記蒸着剤回収部に回収された蒸着剤を、前記第2のバルブを閉じ、前記第3のバルブを開くことによって前記蒸着剤精製部に前記蒸着剤を移動させることを特徴とする請求項5に記載の蒸着マスク洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−106304(P2010−106304A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278289(P2008−278289)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】