蓄電モジュール
【課題】簡単な構成によって蓄電モジュールの温度を適切に制御する。
【解決手段】蓄電モジュール10は所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セル13によって構成される。蓄電セル13間には冷却流路15が区画されており、この冷却流路15に沿うように各蓄電セル13には開閉部材22が設けられる。この開閉部材22は二方向性の形状記憶合金を用いて形成され、温度が0℃以上に上昇した場合には平板形状に変形する一方、温度が0℃未満に低下した場合には屈曲するように設計されている。これにより、セル温度が上昇したときには冷却流路15を開くように開閉部材22を変形させることができ、冷却流路15に冷却風を案内して蓄電セル13を冷却することが可能となる。一方、セル温度が低下したときには冷却流路15を閉じるように開閉部材22を変形させることができ、閉塞された冷却流路15を保温層として利用することが可能となる。
【解決手段】蓄電モジュール10は所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セル13によって構成される。蓄電セル13間には冷却流路15が区画されており、この冷却流路15に沿うように各蓄電セル13には開閉部材22が設けられる。この開閉部材22は二方向性の形状記憶合金を用いて形成され、温度が0℃以上に上昇した場合には平板形状に変形する一方、温度が0℃未満に低下した場合には屈曲するように設計されている。これにより、セル温度が上昇したときには冷却流路15を開くように開閉部材22を変形させることができ、冷却流路15に冷却風を案内して蓄電セル13を冷却することが可能となる。一方、セル温度が低下したときには冷却流路15を閉じるように開閉部材22を変形させることができ、閉塞された冷却流路15を保温層として利用することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セルを備えた蓄電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動力源として電動モータのみを搭載するようにした電気自動車や、動力源としてエンジンおよび電動モータを搭載するようにしたハイブリッド自動車が開発されている。電気自動車やハイブリッド自動車にはバッテリやキャパシタ等の蓄電モジュールが搭載されており、これらの蓄電モジュールから電動モータに対して電力が供給されている。また、充放電に伴って蓄電モジュールの温度が上昇することになるが、これを放置してしまうと蓄電モジュールの性能低下や劣化を招いてしまうため、蓄電モジュールを積極的に冷却することが重要となっている。そこで、蓄電モジュール内に冷却流路を形成するとともに冷却ファンを設けることにより、冷却流路に冷却風を流して蓄電モジュールの温度を引き下げるようにした冷却システムが提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2006−278327号公報
【特許文献2】特開2006−318820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、蓄電モジュールの性能を十分に発揮させるためには、蓄電モジュールの高温状態を回避するだけでなく、蓄電モジュールの低温状態を回避して出力性能を確保することが重要となっている。しかしながら、特許文献1および2に記載された蓄電モジュールにあっては、蓄電モジュールの冷却のみに着目した構造であるため、低温環境における蓄電モジュールの過冷却に対応することが不可能となっていた。また、低温環境において蓄電モジュールの温度を上昇させるため、蓄電モジュールに対して加温ヒータを組み付けることも考えられるが、加温ヒータを組み付けてこれを制御することは、蓄電モジュール構造の複雑化を招くだけでなく、制御システムの複雑化を招いてしまう要因となっていた。
【0004】
本発明の目的は、簡単な構成によって蓄電モジュールの温度を適切に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の蓄電モジュールは、所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セルを備えた蓄電モジュールであって、前記蓄電セル間に区画される流路に配置され、所定温度を上回る場合には前記流路を開く形状に変形する一方、所定温度を下回る場合には前記流路を閉じる形状に変形する開閉部材を有することを特徴とする。
【0006】
本発明の蓄電モジュールは、前記開閉部材は形状記憶合金またはバイメタルであることを特徴とする。
【0007】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルに前記開閉部材が取り付けられることを特徴とする。
【0008】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルの外装容器は、ラミネートフィルムまたは角型の外装ケースであることを特徴とする。
【0009】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルは、リチウムイオンキャパシタであることを特徴とする。
【0010】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルは、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする。
【0011】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルの正極活物質は、層長が1nm以上30nm以下の層状結晶粒を備えるバナジウム酸化物を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルはリチウムイオン供給源を備え、該リチウムイオン供給源から正極と負極との少なくともいずれか一方にリチウムイオンが予めドーピングされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定温度を上回るときには流路を開くように変形する一方、所定温度を下回るときには流路を閉じるように変形する開閉部材を設けるようにしたので、セル温度が上昇したときには流路を開いて蓄電セルを冷却することが可能となり、セル温度が低下したときには流路を閉じて蓄電セルを保温することが可能となる。これにより、簡単な構成によって蓄電セルを適切な温度範囲に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の一実施の形態である蓄電モジュール10を示す斜視図であり、図2は図1のA−A線に沿って蓄電モジュール10の構造を概略的に示す断面図である。図1および図2に示すように、蓄電モジュール10は、吸気開口部11aと排気開口部11bとが形成されたハウジング11を有している。このハウジング11内には所定間隔を空けて複数のセルケース12が積層されており、それぞれのセルケース12には蓄電セル13が収容されている。また、充放電に伴って発熱する蓄電セル13を冷却するため、ハウジング11には冷却ファン14が取り付けられている。冷却ファン14によって生成された冷却風は、吸気開口部11aからハウジング11内に導入され、蓄電セル13間に区画される冷却流路(流路)15を流れた後に、排気開口部11bから外部に排出されるようになっている。
【0015】
図3はセルケース12内に収容される蓄電セル13を概略的に示す斜視図である。図3に示すように、蓄電セル13は平板状に形成されるラミネート型の蓄電セルであり、蓄電セル13の外装容器としてラミネートフィルム20が採用されている。深絞り加工が施されたラミネートフィルム20内には、後述する電極積層ユニットおよび電解液が収容されており、ラミネートフィルム20の外周部は熱溶着等によって封止されている。このような蓄電セル13は、分割式のセルケース12に挟まれて保持されるとともに、セルケース12を積み重ねた状態でハウジング11内に収容されている。また、図2に示すように、セルケース12にはクリアランスを設定するボス部21が形成されており、積層時に対向する蓄電セル13の間には冷却流路15が区画されるようになっている。なお、蓄電セル13の表面を冷却流路15に対して露出させるため、セルケース12には図示しない複数の開口部が形成されている。
【0016】
図4は図3の矢印A方向から蓄電セル13の構造を概略的に示す側面図である。図3および図4に示すように、蓄電セル13の外装容器を構成するラミネートフィルム20の縁部には、表側と裏側から挟み込むように板状の開閉部材22が取り付けられている。この開閉部材22は、マルテンサイト逆変態開始温度(As)とマルテンサイト逆変態終了温度(Af)との中間温度((As+Af)/2)が0℃になるように熱処理調整された81.8%Cu−14.2%Al−4.0%Niの形状記憶合金を用いて形成されており、図4に示すように、開閉部材22の温度が0℃以上に上昇した場合には平板形状に変形する一方、開閉部材22の温度が0℃未満に低下した場合には約30°で屈曲するように設計されている。すなわち、図示する開閉部材22は、高温時の形状と低温時の形状との双方を記憶する二方向性の形状記憶合金を用いて形成されている。
【0017】
なお、今回用いた81.8%Cu−14.2%Al−4.0%Ni以外の組成においても、0℃付近に(As+Af)/2の値をとるように熱処理や組成を制御した二方向性の形状記憶合金を用いることも可能である。また、開閉部材22とばね部材等とを組み合わせて使用することにより、高温側または低温側の形状を記憶し、同様の温度領域で変形するように制御された一方向性の形状記憶合金を用いて開閉部材22を形成しても良い。さらに、比例温度領域を0℃付近にもつ、例えばJIS・C2530・TM1(比例温度領域−20〜150℃)等の低温用バイメタルを用いることも可能である。
【0018】
続いて、蓄電セル13に設けられる開閉部材22の作動状態について説明する。図5(A)および(B)は開閉部材22の作動状態を示す説明図である。図5(A)に示すように、開閉部材22の温度が0℃以上である場合には、冷却流路15を開くように開閉部材22が平板形状に変形するため、冷却流路15に冷却風を案内して蓄電セル13を冷却することが可能となる。これにより、蓄電セル13の高温状態を回避することができ、蓄電モジュール10の劣化を抑制するとともに性能を安定させることが可能となる。一方、図5(B)に示すように、開閉部材22の温度が0℃未満である場合には、冷却流路15を閉じるように開閉部材22が湾曲形状に変形するため、閉塞された冷却流路15を保温層として利用することが可能となる。これにより、充放電に伴う蓄電セル13の発熱を利用して早期に蓄電セル13の低温状態を解消することができ、低温環境において蓄電モジュール10の出力特性を早期に改善することが可能となる。
【0019】
ここで、図6は開閉部材22を備えていない比較例としての蓄電モジュール30の構造を概略的に示す断面図であり、図7は低温環境下で放電試験を実行した際における本発明の蓄電モジュール10と比較例の蓄電モジュール30とのセル温度変化を示す線図である。なお、放電試験の条件としては、外気温が−30℃、電圧が150V、電流が4A、放電時間が800秒であり、冷却ファン14は停止した状態となっている。また、放電試験に用いた本発明の蓄電モジュール10と比較例の蓄電モジュール30とは、開閉部材22の有無のみが構造上の相違点となっている。
【0020】
まず、図6に示すように、開閉部材22を備えていない比較例の蓄電モジュール30にあっては、常に開放された冷却流路15に対して蓄電セル13から熱が逃げ易い状態となるため、蓄電セル13の自己発熱によってセル温度を上昇させることが困難となっている。図7に示すように、比較例の蓄電モジュール30にあっては、冷却流路15に対する蓄電セル13からの放熱により、800秒に渡って放電試験を行った場合であっても、セル温度が約−20℃までしか上昇しないことが確認された。
【0021】
一方、開閉部材22を備えた本発明の蓄電モジュール10にあっては、温度が0℃を下回ると、図5(B)に示すように、開閉部材22によって冷却流路15が閉塞された状態となるため、蓄電セル13間に空気の保温層が形成されることになる。このように、保温層によって蓄電セル13を覆うことにより、蓄電セル13から熱が逃げ難い状態となるため、蓄電セル13の自己発熱によってセル温度を上昇させることが容易である。図7に示すように、本発明の蓄電モジュール10にあっては、保温層による蓄電セル13の保温効果により、放電試験を開始してから約500秒でセル温度が0℃に達することが確認された。また、セル温度が0℃を上回った場合には、図5(A)に示すように、開閉部材22によって冷却流路15が開放された状態となり、冷却流路15を流れる空気に対して蓄電セル13から熱を放出することができるため、図7に示すように、セル温度の過度な上昇を抑制することが確認された。
【0022】
このように、蓄電セル13に対して開閉部材22を設けることにより、セル温度に応じて冷却流路15の開閉状態を制御することができるため、低温時にはセル温度の上昇を促すことが可能となり、高温時にはセル温度の低下を促すことが可能となる。しかも、形状記憶合金を用いて開閉部材22を形成することにより、温度変化に応じて自動的に冷却流路15の開閉状態を制御することが可能となる。このように、簡単な構成によって蓄電セル13の温度調整が可能となるため、蓄電モジュール10の高性能化や長寿命化を低コストで達成することが可能となっている。
【0023】
また、前述の説明では、形状記憶合金を用いて開閉部材22を形成するようにしているが、これに限られることはなく、熱膨張率の異なる2枚の金属板を貼り合わせたバイメタルを用いて開閉部材22を形成するようにしても良い。バイメタルを用いた場合であっても、温度に応じて開閉部材22の曲がり具合を変化させることができるため、低温時には冷却流路15を閉じるように開閉部材22を変形させ、高温時には冷却流路15を開くように開閉部材22を変形させることが可能となる。
【0024】
また、前述の説明では、所定温度としての0℃を上回ることにより、冷却流路15を開くように開閉部材22が変形する一方、所定温度としての0℃を下回ることにより、冷却流路15を閉じるように開閉部材22が変形しているが、これに限られることはなく、開閉部材22が変形する際の所定温度を適宜変更するようにしても良い。さらに、図示する場合には、冷却流路15を介して対面する一対の開閉部材22によって冷却流路15の開閉状態を制御しているが、これに限られることはなく、1枚の開閉部材22によって冷却流路15の開閉状態を制御するようにしても良い。
【0025】
また、図示する場合には、蓄電セル13のラミネートフィルム20に対して開閉部材22が取り付けられているが、これに限られることはなく、セルケース12に対して開閉部材22を取り付けるようにしても良い。さらに、蓄電セル13の外装容器としてラミネートフィルム20が採用されているが、これに限られることはなく、外装容器として角型の外装ケース(金属ケース等)を採用するようにしても良い。
【0026】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、冷却ファン14を駆動することによって冷却風を生成するようにしているが、常に冷却ファン14を駆動することなくセル温度に応じて駆動状態を制御することにより、冷却風の生成量を変化させるようにしても良い。また、走行風等の導入によって冷却性能が確保される構造であれば、蓄電モジュール10から冷却ファン14を取り外すようにしても良い。さらに、本発明の蓄電モジュール10は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電源として好適に用いることが可能である。
【0027】
また、本発明の蓄電モジュール10の構成については、様々な形式のバッテリセルやキャパシタセルを備えた蓄電モジュールに適用することが可能である。ここで、図8は蓄電セル13の内部構造を概略的に示す断面図であり、図9は蓄電セル13の内部構造を部分的に拡大して示す断面図である。図8に示すように、蓄電セル13が備えるラミネートフィルム20の内側には電極積層ユニット40が配置されており、この電極積層ユニット40はセパレータ41を介して交互に積層される正極42と負極43とによって構成されている。また、電極積層ユニット40の最外部にはリチウム極44が負極43に対向するように配置されており、電極積層ユニット40とリチウム極44とによって三極積層ユニット45が構成されている。なお、ラミネートフィルム20内には、リチウム塩を含む非プロトン性有機溶媒からなる電解液が注入されている。
【0028】
続いて、図9に示すように、正極42は、多数の貫通孔42aを備える正極集電体42bと、この正極集電体42bに塗工される正極合材層42cとを備えている。また、負極43は、多数の貫通孔43aを備える負極集電体43bと、この負極集電体43bに塗工される負極合材層43cとを備えている。相互に接続される複数の正極集電体42bには、ラミネートフィルム20から外部に突出する正極端子46が接続されており、相互に接続される複数の負極集電体43bには、ラミネートフィルム20から外部に突出する負極端子47が接続されている。さらに、電極積層ユニット40の最外部に配置されるリチウム極44は、ステンレスメッシュ等の導電性多孔体からなるリチウム極集電体44aと、これに貼り付けられる金属リチウム(リチウムイオン供給源)44bとによって構成されており、リチウム極集電体44aは負極集電体43bに対して接続されている。
【0029】
また、正極42の正極合材層42cには、リチウムイオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングすることが可能な正極活物質としてバナジウム酸化物が含有されており、負極43の負極合材層43cには、リチウムイオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングすることが可能な負極活物質として天然黒鉛が含有されている。さらに、負極43の負極合材層43cに金属リチウム44bからのリチウムイオンを予めドープすることにより、負極43の電極電位を低下させて蓄電セル13のエネルギー密度を向上させるようにしている。また、正極42に対してリチウムイオンを予めドープするようにしても良く、正極42と負極43との双方に対してリチウムイオンを予めドープするようにしても良い。なお、ドーピング(ドープ)とは、吸蔵、担持、吸着、挿入等を意味しており、正極活物質や負極活物質に対してリチウムイオンやアニオン等が入る状態を意味している。また、脱ドーピング(脱ドープ)とは、放出、脱離等を意味しており、正極活物質や負極活物質からリチウムイオンやアニオン等が出る状態を意味している。
【0030】
ところで、前述した正極活物質としてのバナジウム酸化物は、層状構造を有する層状結晶性物質であり、例えば、五酸化バナジウム(V2O5)は、VO5を1単位とする5面体ユニットが2次元方向に共有結合で広がることで1つの層を形成している。これらの層を重ねることによって全体として層状構造を有している。このような層状結晶構造を保ったまま、バナジウム酸化物をマクロ的にアモルファス化することにより、微細化された層状結晶粒を形成するようにしている。このような層状結晶性物質の状態は、nm以下のオーダーの観察が行えるミクロ的な視点では、層長が30nm以下の結晶構造のみ、もしくはこのような状態の結晶構造とアモルファス構造とが共存している状態が確認される。しかし、このような状態をnmより大きなμmオーダーの観察しか行えないマクロ的な視点からみた場合には、結晶構造が不規則に配列したアモルファス構造が観察されるのである。
【0031】
ここで、図10は層長の短い層状結晶構造を示す模式図であり、図11は層長の長い層状結晶構造を示す模式図である。図10に示すように、部分的にアモルファス化されたバナジウム酸化物にあっては、短い層長L1を備える層状結晶構造(いわゆる短周期構造)が形成されることになる。一方、図11に示すような場合にあっては、長い層長L2を備える層状結晶構造(いわゆる長周期構造)が形成されることになる。図10に示すような層長が短い層状結晶構造を電極活物質に適用すると、イオンが層状結晶構造の層間に出入りし易くなるため、充放電特性やサイクル特性等を向上させることが可能となる。
【0032】
また、層状結晶構造の最小の層長は、1nm以上であればよい。かかる層状結晶状態は、層間へのリチウムイオンの出入りという観点から、層状結晶の層長が1nm未満であるとリチウムイオンのドープ・脱ドープができず、高容量を取り出すことができないためである。逆に層長が30nmを超えると充放電に伴う結晶構造の崩壊が起こり、サイクル特性が悪くなるのである。そこで、層長は、1nm以上30nm以下であることが望ましい。より好ましくは、層長が5nm以上25nm以下であればよい。
【0033】
このように、正極活物質としてバナジウム酸化物を用い、負極活物質として天然黒鉛を用い、さらに貫通孔を有した集電箔(集電体)を用い、リチウムイオンを予めドーピングするようにしたリチウムイオン二次電池を示しているが、これに限られることはなく、他の正極活物質や負極活物質を用いるようにしたバッテリに対して本発明を有効に適用することも可能である。たとえば、正極活物質として、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、これらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2,x+y+z=1)、リチウムマンガン酸スピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム酸化物、オリビン型LiMPO4(M:Co,Ni,Mn,Fe等)、MxOy(MnO4,Fe2O3等)のいずれかを用い、負極活物質として、易黒鉛化炭素材料や黒鉛等からなる炭素材料、もしくはケイ素や錫等からなる非炭素材料を用い、貫通孔を有しない集電箔(集電体)を用い、リチウムイオンを予めドーピングしない一般的な構成で、電解液としてリチウム塩を含む非水系有機溶媒溶液を用いるようにしたリチウムイオン二次電池を用いた蓄電モジュールに対して本発明を有効に適用することが可能である。
【0034】
さらに、正極活物質として活性炭を用い、負極活物質として可逆的にリチウムイオンを担持可能なグラファイト、ハードカーボン、コークス等の炭素材料や、ポリアセン系物質(PAS)を用い、電解液としてリチウム塩を含む非水系有機溶媒溶液を用いるようにしたリチウムイオンキャパシタを用いた蓄電モジュールに対して本発明を有効に適用することも可能である。なお、リチウムイオンキャパシタにあっては、高容量化を図る観点から、正極と負極を短絡させた後の正極電位が2.0Vになるように負極活物質に対してリチウムイオンをドープさせることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態である蓄電モジュールを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿って蓄電モジュールの構造を概略的に示す断面図である。
【図3】セルケース内に収容される蓄電セルを概略的に示す斜視図である。
【図4】図3の矢印A方向から蓄電セルの構造を概略的に示す側面図である。
【図5】(A)および(B)は開閉部材の作動状態を示す説明図である。
【図6】開閉部材を備えていない従来の蓄電モジュールの構造を概略的に示す断面図である。
【図7】低温環境下で放電試験を実行した際における本発明の蓄電モジュールと従来の蓄電モジュールとのセル温度変化を示す線図である。
【図8】蓄電セルの内部構造を概略的に示す断面図である。
【図9】蓄電セルの内部構造を部分的に拡大して示す断面図である。
【図10】層長の短い層状結晶構造を示す模式図である。
【図11】層長の長い層状結晶構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
10 蓄電モジュール
13 蓄電セル
15 冷却流路(流路)
20 ラミネートフィルム(外装容器)
22 開閉部材
42 正極
43 負極
44b 金属リチウム(リチウムイオン供給源)
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セルを備えた蓄電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、動力源として電動モータのみを搭載するようにした電気自動車や、動力源としてエンジンおよび電動モータを搭載するようにしたハイブリッド自動車が開発されている。電気自動車やハイブリッド自動車にはバッテリやキャパシタ等の蓄電モジュールが搭載されており、これらの蓄電モジュールから電動モータに対して電力が供給されている。また、充放電に伴って蓄電モジュールの温度が上昇することになるが、これを放置してしまうと蓄電モジュールの性能低下や劣化を招いてしまうため、蓄電モジュールを積極的に冷却することが重要となっている。そこで、蓄電モジュール内に冷却流路を形成するとともに冷却ファンを設けることにより、冷却流路に冷却風を流して蓄電モジュールの温度を引き下げるようにした冷却システムが提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2006−278327号公報
【特許文献2】特開2006−318820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、蓄電モジュールの性能を十分に発揮させるためには、蓄電モジュールの高温状態を回避するだけでなく、蓄電モジュールの低温状態を回避して出力性能を確保することが重要となっている。しかしながら、特許文献1および2に記載された蓄電モジュールにあっては、蓄電モジュールの冷却のみに着目した構造であるため、低温環境における蓄電モジュールの過冷却に対応することが不可能となっていた。また、低温環境において蓄電モジュールの温度を上昇させるため、蓄電モジュールに対して加温ヒータを組み付けることも考えられるが、加温ヒータを組み付けてこれを制御することは、蓄電モジュール構造の複雑化を招くだけでなく、制御システムの複雑化を招いてしまう要因となっていた。
【0004】
本発明の目的は、簡単な構成によって蓄電モジュールの温度を適切に制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の蓄電モジュールは、所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セルを備えた蓄電モジュールであって、前記蓄電セル間に区画される流路に配置され、所定温度を上回る場合には前記流路を開く形状に変形する一方、所定温度を下回る場合には前記流路を閉じる形状に変形する開閉部材を有することを特徴とする。
【0006】
本発明の蓄電モジュールは、前記開閉部材は形状記憶合金またはバイメタルであることを特徴とする。
【0007】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルに前記開閉部材が取り付けられることを特徴とする。
【0008】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルの外装容器は、ラミネートフィルムまたは角型の外装ケースであることを特徴とする。
【0009】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルは、リチウムイオンキャパシタであることを特徴とする。
【0010】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルは、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする。
【0011】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルの正極活物質は、層長が1nm以上30nm以下の層状結晶粒を備えるバナジウム酸化物を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の蓄電モジュールは、前記蓄電セルはリチウムイオン供給源を備え、該リチウムイオン供給源から正極と負極との少なくともいずれか一方にリチウムイオンが予めドーピングされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定温度を上回るときには流路を開くように変形する一方、所定温度を下回るときには流路を閉じるように変形する開閉部材を設けるようにしたので、セル温度が上昇したときには流路を開いて蓄電セルを冷却することが可能となり、セル温度が低下したときには流路を閉じて蓄電セルを保温することが可能となる。これにより、簡単な構成によって蓄電セルを適切な温度範囲に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の一実施の形態である蓄電モジュール10を示す斜視図であり、図2は図1のA−A線に沿って蓄電モジュール10の構造を概略的に示す断面図である。図1および図2に示すように、蓄電モジュール10は、吸気開口部11aと排気開口部11bとが形成されたハウジング11を有している。このハウジング11内には所定間隔を空けて複数のセルケース12が積層されており、それぞれのセルケース12には蓄電セル13が収容されている。また、充放電に伴って発熱する蓄電セル13を冷却するため、ハウジング11には冷却ファン14が取り付けられている。冷却ファン14によって生成された冷却風は、吸気開口部11aからハウジング11内に導入され、蓄電セル13間に区画される冷却流路(流路)15を流れた後に、排気開口部11bから外部に排出されるようになっている。
【0015】
図3はセルケース12内に収容される蓄電セル13を概略的に示す斜視図である。図3に示すように、蓄電セル13は平板状に形成されるラミネート型の蓄電セルであり、蓄電セル13の外装容器としてラミネートフィルム20が採用されている。深絞り加工が施されたラミネートフィルム20内には、後述する電極積層ユニットおよび電解液が収容されており、ラミネートフィルム20の外周部は熱溶着等によって封止されている。このような蓄電セル13は、分割式のセルケース12に挟まれて保持されるとともに、セルケース12を積み重ねた状態でハウジング11内に収容されている。また、図2に示すように、セルケース12にはクリアランスを設定するボス部21が形成されており、積層時に対向する蓄電セル13の間には冷却流路15が区画されるようになっている。なお、蓄電セル13の表面を冷却流路15に対して露出させるため、セルケース12には図示しない複数の開口部が形成されている。
【0016】
図4は図3の矢印A方向から蓄電セル13の構造を概略的に示す側面図である。図3および図4に示すように、蓄電セル13の外装容器を構成するラミネートフィルム20の縁部には、表側と裏側から挟み込むように板状の開閉部材22が取り付けられている。この開閉部材22は、マルテンサイト逆変態開始温度(As)とマルテンサイト逆変態終了温度(Af)との中間温度((As+Af)/2)が0℃になるように熱処理調整された81.8%Cu−14.2%Al−4.0%Niの形状記憶合金を用いて形成されており、図4に示すように、開閉部材22の温度が0℃以上に上昇した場合には平板形状に変形する一方、開閉部材22の温度が0℃未満に低下した場合には約30°で屈曲するように設計されている。すなわち、図示する開閉部材22は、高温時の形状と低温時の形状との双方を記憶する二方向性の形状記憶合金を用いて形成されている。
【0017】
なお、今回用いた81.8%Cu−14.2%Al−4.0%Ni以外の組成においても、0℃付近に(As+Af)/2の値をとるように熱処理や組成を制御した二方向性の形状記憶合金を用いることも可能である。また、開閉部材22とばね部材等とを組み合わせて使用することにより、高温側または低温側の形状を記憶し、同様の温度領域で変形するように制御された一方向性の形状記憶合金を用いて開閉部材22を形成しても良い。さらに、比例温度領域を0℃付近にもつ、例えばJIS・C2530・TM1(比例温度領域−20〜150℃)等の低温用バイメタルを用いることも可能である。
【0018】
続いて、蓄電セル13に設けられる開閉部材22の作動状態について説明する。図5(A)および(B)は開閉部材22の作動状態を示す説明図である。図5(A)に示すように、開閉部材22の温度が0℃以上である場合には、冷却流路15を開くように開閉部材22が平板形状に変形するため、冷却流路15に冷却風を案内して蓄電セル13を冷却することが可能となる。これにより、蓄電セル13の高温状態を回避することができ、蓄電モジュール10の劣化を抑制するとともに性能を安定させることが可能となる。一方、図5(B)に示すように、開閉部材22の温度が0℃未満である場合には、冷却流路15を閉じるように開閉部材22が湾曲形状に変形するため、閉塞された冷却流路15を保温層として利用することが可能となる。これにより、充放電に伴う蓄電セル13の発熱を利用して早期に蓄電セル13の低温状態を解消することができ、低温環境において蓄電モジュール10の出力特性を早期に改善することが可能となる。
【0019】
ここで、図6は開閉部材22を備えていない比較例としての蓄電モジュール30の構造を概略的に示す断面図であり、図7は低温環境下で放電試験を実行した際における本発明の蓄電モジュール10と比較例の蓄電モジュール30とのセル温度変化を示す線図である。なお、放電試験の条件としては、外気温が−30℃、電圧が150V、電流が4A、放電時間が800秒であり、冷却ファン14は停止した状態となっている。また、放電試験に用いた本発明の蓄電モジュール10と比較例の蓄電モジュール30とは、開閉部材22の有無のみが構造上の相違点となっている。
【0020】
まず、図6に示すように、開閉部材22を備えていない比較例の蓄電モジュール30にあっては、常に開放された冷却流路15に対して蓄電セル13から熱が逃げ易い状態となるため、蓄電セル13の自己発熱によってセル温度を上昇させることが困難となっている。図7に示すように、比較例の蓄電モジュール30にあっては、冷却流路15に対する蓄電セル13からの放熱により、800秒に渡って放電試験を行った場合であっても、セル温度が約−20℃までしか上昇しないことが確認された。
【0021】
一方、開閉部材22を備えた本発明の蓄電モジュール10にあっては、温度が0℃を下回ると、図5(B)に示すように、開閉部材22によって冷却流路15が閉塞された状態となるため、蓄電セル13間に空気の保温層が形成されることになる。このように、保温層によって蓄電セル13を覆うことにより、蓄電セル13から熱が逃げ難い状態となるため、蓄電セル13の自己発熱によってセル温度を上昇させることが容易である。図7に示すように、本発明の蓄電モジュール10にあっては、保温層による蓄電セル13の保温効果により、放電試験を開始してから約500秒でセル温度が0℃に達することが確認された。また、セル温度が0℃を上回った場合には、図5(A)に示すように、開閉部材22によって冷却流路15が開放された状態となり、冷却流路15を流れる空気に対して蓄電セル13から熱を放出することができるため、図7に示すように、セル温度の過度な上昇を抑制することが確認された。
【0022】
このように、蓄電セル13に対して開閉部材22を設けることにより、セル温度に応じて冷却流路15の開閉状態を制御することができるため、低温時にはセル温度の上昇を促すことが可能となり、高温時にはセル温度の低下を促すことが可能となる。しかも、形状記憶合金を用いて開閉部材22を形成することにより、温度変化に応じて自動的に冷却流路15の開閉状態を制御することが可能となる。このように、簡単な構成によって蓄電セル13の温度調整が可能となるため、蓄電モジュール10の高性能化や長寿命化を低コストで達成することが可能となっている。
【0023】
また、前述の説明では、形状記憶合金を用いて開閉部材22を形成するようにしているが、これに限られることはなく、熱膨張率の異なる2枚の金属板を貼り合わせたバイメタルを用いて開閉部材22を形成するようにしても良い。バイメタルを用いた場合であっても、温度に応じて開閉部材22の曲がり具合を変化させることができるため、低温時には冷却流路15を閉じるように開閉部材22を変形させ、高温時には冷却流路15を開くように開閉部材22を変形させることが可能となる。
【0024】
また、前述の説明では、所定温度としての0℃を上回ることにより、冷却流路15を開くように開閉部材22が変形する一方、所定温度としての0℃を下回ることにより、冷却流路15を閉じるように開閉部材22が変形しているが、これに限られることはなく、開閉部材22が変形する際の所定温度を適宜変更するようにしても良い。さらに、図示する場合には、冷却流路15を介して対面する一対の開閉部材22によって冷却流路15の開閉状態を制御しているが、これに限られることはなく、1枚の開閉部材22によって冷却流路15の開閉状態を制御するようにしても良い。
【0025】
また、図示する場合には、蓄電セル13のラミネートフィルム20に対して開閉部材22が取り付けられているが、これに限られることはなく、セルケース12に対して開閉部材22を取り付けるようにしても良い。さらに、蓄電セル13の外装容器としてラミネートフィルム20が採用されているが、これに限られることはなく、外装容器として角型の外装ケース(金属ケース等)を採用するようにしても良い。
【0026】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、冷却ファン14を駆動することによって冷却風を生成するようにしているが、常に冷却ファン14を駆動することなくセル温度に応じて駆動状態を制御することにより、冷却風の生成量を変化させるようにしても良い。また、走行風等の導入によって冷却性能が確保される構造であれば、蓄電モジュール10から冷却ファン14を取り外すようにしても良い。さらに、本発明の蓄電モジュール10は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電源として好適に用いることが可能である。
【0027】
また、本発明の蓄電モジュール10の構成については、様々な形式のバッテリセルやキャパシタセルを備えた蓄電モジュールに適用することが可能である。ここで、図8は蓄電セル13の内部構造を概略的に示す断面図であり、図9は蓄電セル13の内部構造を部分的に拡大して示す断面図である。図8に示すように、蓄電セル13が備えるラミネートフィルム20の内側には電極積層ユニット40が配置されており、この電極積層ユニット40はセパレータ41を介して交互に積層される正極42と負極43とによって構成されている。また、電極積層ユニット40の最外部にはリチウム極44が負極43に対向するように配置されており、電極積層ユニット40とリチウム極44とによって三極積層ユニット45が構成されている。なお、ラミネートフィルム20内には、リチウム塩を含む非プロトン性有機溶媒からなる電解液が注入されている。
【0028】
続いて、図9に示すように、正極42は、多数の貫通孔42aを備える正極集電体42bと、この正極集電体42bに塗工される正極合材層42cとを備えている。また、負極43は、多数の貫通孔43aを備える負極集電体43bと、この負極集電体43bに塗工される負極合材層43cとを備えている。相互に接続される複数の正極集電体42bには、ラミネートフィルム20から外部に突出する正極端子46が接続されており、相互に接続される複数の負極集電体43bには、ラミネートフィルム20から外部に突出する負極端子47が接続されている。さらに、電極積層ユニット40の最外部に配置されるリチウム極44は、ステンレスメッシュ等の導電性多孔体からなるリチウム極集電体44aと、これに貼り付けられる金属リチウム(リチウムイオン供給源)44bとによって構成されており、リチウム極集電体44aは負極集電体43bに対して接続されている。
【0029】
また、正極42の正極合材層42cには、リチウムイオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングすることが可能な正極活物質としてバナジウム酸化物が含有されており、負極43の負極合材層43cには、リチウムイオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングすることが可能な負極活物質として天然黒鉛が含有されている。さらに、負極43の負極合材層43cに金属リチウム44bからのリチウムイオンを予めドープすることにより、負極43の電極電位を低下させて蓄電セル13のエネルギー密度を向上させるようにしている。また、正極42に対してリチウムイオンを予めドープするようにしても良く、正極42と負極43との双方に対してリチウムイオンを予めドープするようにしても良い。なお、ドーピング(ドープ)とは、吸蔵、担持、吸着、挿入等を意味しており、正極活物質や負極活物質に対してリチウムイオンやアニオン等が入る状態を意味している。また、脱ドーピング(脱ドープ)とは、放出、脱離等を意味しており、正極活物質や負極活物質からリチウムイオンやアニオン等が出る状態を意味している。
【0030】
ところで、前述した正極活物質としてのバナジウム酸化物は、層状構造を有する層状結晶性物質であり、例えば、五酸化バナジウム(V2O5)は、VO5を1単位とする5面体ユニットが2次元方向に共有結合で広がることで1つの層を形成している。これらの層を重ねることによって全体として層状構造を有している。このような層状結晶構造を保ったまま、バナジウム酸化物をマクロ的にアモルファス化することにより、微細化された層状結晶粒を形成するようにしている。このような層状結晶性物質の状態は、nm以下のオーダーの観察が行えるミクロ的な視点では、層長が30nm以下の結晶構造のみ、もしくはこのような状態の結晶構造とアモルファス構造とが共存している状態が確認される。しかし、このような状態をnmより大きなμmオーダーの観察しか行えないマクロ的な視点からみた場合には、結晶構造が不規則に配列したアモルファス構造が観察されるのである。
【0031】
ここで、図10は層長の短い層状結晶構造を示す模式図であり、図11は層長の長い層状結晶構造を示す模式図である。図10に示すように、部分的にアモルファス化されたバナジウム酸化物にあっては、短い層長L1を備える層状結晶構造(いわゆる短周期構造)が形成されることになる。一方、図11に示すような場合にあっては、長い層長L2を備える層状結晶構造(いわゆる長周期構造)が形成されることになる。図10に示すような層長が短い層状結晶構造を電極活物質に適用すると、イオンが層状結晶構造の層間に出入りし易くなるため、充放電特性やサイクル特性等を向上させることが可能となる。
【0032】
また、層状結晶構造の最小の層長は、1nm以上であればよい。かかる層状結晶状態は、層間へのリチウムイオンの出入りという観点から、層状結晶の層長が1nm未満であるとリチウムイオンのドープ・脱ドープができず、高容量を取り出すことができないためである。逆に層長が30nmを超えると充放電に伴う結晶構造の崩壊が起こり、サイクル特性が悪くなるのである。そこで、層長は、1nm以上30nm以下であることが望ましい。より好ましくは、層長が5nm以上25nm以下であればよい。
【0033】
このように、正極活物質としてバナジウム酸化物を用い、負極活物質として天然黒鉛を用い、さらに貫通孔を有した集電箔(集電体)を用い、リチウムイオンを予めドーピングするようにしたリチウムイオン二次電池を示しているが、これに限られることはなく、他の正極活物質や負極活物質を用いるようにしたバッテリに対して本発明を有効に適用することも可能である。たとえば、正極活物質として、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、これらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2,x+y+z=1)、リチウムマンガン酸スピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム酸化物、オリビン型LiMPO4(M:Co,Ni,Mn,Fe等)、MxOy(MnO4,Fe2O3等)のいずれかを用い、負極活物質として、易黒鉛化炭素材料や黒鉛等からなる炭素材料、もしくはケイ素や錫等からなる非炭素材料を用い、貫通孔を有しない集電箔(集電体)を用い、リチウムイオンを予めドーピングしない一般的な構成で、電解液としてリチウム塩を含む非水系有機溶媒溶液を用いるようにしたリチウムイオン二次電池を用いた蓄電モジュールに対して本発明を有効に適用することが可能である。
【0034】
さらに、正極活物質として活性炭を用い、負極活物質として可逆的にリチウムイオンを担持可能なグラファイト、ハードカーボン、コークス等の炭素材料や、ポリアセン系物質(PAS)を用い、電解液としてリチウム塩を含む非水系有機溶媒溶液を用いるようにしたリチウムイオンキャパシタを用いた蓄電モジュールに対して本発明を有効に適用することも可能である。なお、リチウムイオンキャパシタにあっては、高容量化を図る観点から、正極と負極を短絡させた後の正極電位が2.0Vになるように負極活物質に対してリチウムイオンをドープさせることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態である蓄電モジュールを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿って蓄電モジュールの構造を概略的に示す断面図である。
【図3】セルケース内に収容される蓄電セルを概略的に示す斜視図である。
【図4】図3の矢印A方向から蓄電セルの構造を概略的に示す側面図である。
【図5】(A)および(B)は開閉部材の作動状態を示す説明図である。
【図6】開閉部材を備えていない従来の蓄電モジュールの構造を概略的に示す断面図である。
【図7】低温環境下で放電試験を実行した際における本発明の蓄電モジュールと従来の蓄電モジュールとのセル温度変化を示す線図である。
【図8】蓄電セルの内部構造を概略的に示す断面図である。
【図9】蓄電セルの内部構造を部分的に拡大して示す断面図である。
【図10】層長の短い層状結晶構造を示す模式図である。
【図11】層長の長い層状結晶構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
10 蓄電モジュール
13 蓄電セル
15 冷却流路(流路)
20 ラミネートフィルム(外装容器)
22 開閉部材
42 正極
43 負極
44b 金属リチウム(リチウムイオン供給源)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セルを備えた蓄電モジュールであって、
前記蓄電セル間に区画される流路に配置され、所定温度を上回る場合には前記流路を開く形状に変形する一方、所定温度を下回る場合には前記流路を閉じる形状に変形する開閉部材を有することを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電モジュールにおいて、
前記開閉部材は形状記憶合金またはバイメタルであることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項3】
請求項1または2記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルに前記開閉部材が取り付けられることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルの外装容器は、ラミネートフィルムまたは角型の外装ケースであることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルは、リチウムイオンキャパシタであることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルは、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項7】
請求項6記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルの正極活物質は、層長が1nm以上30nm以下の層状結晶粒を備えるバナジウム酸化物を含むことを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルはリチウムイオン供給源を備え、該リチウムイオン供給源から正極と負極との少なくともいずれか一方にリチウムイオンが予めドーピングされることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項1】
所定間隔を空けて積層される複数の蓄電セルを備えた蓄電モジュールであって、
前記蓄電セル間に区画される流路に配置され、所定温度を上回る場合には前記流路を開く形状に変形する一方、所定温度を下回る場合には前記流路を閉じる形状に変形する開閉部材を有することを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電モジュールにおいて、
前記開閉部材は形状記憶合金またはバイメタルであることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項3】
請求項1または2記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルに前記開閉部材が取り付けられることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルの外装容器は、ラミネートフィルムまたは角型の外装ケースであることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルは、リチウムイオンキャパシタであることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルは、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項7】
請求項6記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルの正極活物質は、層長が1nm以上30nm以下の層状結晶粒を備えるバナジウム酸化物を含むことを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の蓄電モジュールにおいて、
前記蓄電セルはリチウムイオン供給源を備え、該リチウムイオン供給源から正極と負極との少なくともいずれか一方にリチウムイオンが予めドーピングされることを特徴とする蓄電モジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−300103(P2008−300103A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142945(P2007−142945)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]