説明

薄い自己支持型金属酸化物系セラミックの製造方法、金属酸化物系セラミック、燃料電池、高温電解セル、測定装置および/または検出装置、並びに、使用方法

本発明は、(a)式Zr1−xまたはCe1−xM’(ただし、Mはイットリウム、スカンジウム、および、セリウムから選択され、M’はガドリニウム、スカンジウム、サマリウム、および、イットリウムから選択され、xは0〜0.2の範囲にある)で表わされるセラミックの微結晶および微結晶集合体を含有するナノ結晶性粉末を、フラッシュ焼結(flash sintering)装置に挿入するステップと、(b)50MPa〜150MPaの圧力を850℃〜1400℃の温度で5分間〜30分間印加することによって、上記粉末をフラッシュ焼結するステップとを上記の順に含む、金属酸化物系セラミックを製造する方法に関する。なお、上記粉末は、5nm〜50nmの平均微結晶サイズと、0.5μm〜20μmの平均微結晶集合体サイズと、20m/g〜100m/gの比表面積とを有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、酸化ジルコニウムまたは酸化セリウムを基にした薄く高密度な自己支持型セラミックの製造方法、および、このようなセラミックの、燃料電池の固体電解質としての使用方法に関する。
【0002】
現在、セラミック技術は大きな関心の的である。なぜならば、セラミックは将来の応用を可能にするものおよび/またはこの必須成分であるからである。例えば、セラミックは、発電分野で最も見込みのある技術の一つを現在代表する、或る種類の燃料電池(SOFC、PCFC、高温電解セル)において使用される。
【0003】
燃料電池とは、燃料(例えば水素または水素供給源)に含まれている化学エネルギーを、電力および副生成物としての熱に変換することを可能にする、電気化学的な変換システムである。現在、二つの主要な燃料電池技術は、固体酸化物型燃料電池(“SOFC”: solid oxide fuel cell)およびプロトン交換膜型燃料電池(“PEMFC”: proton exchange membrane fuel cell)である。SOFCは総エネルギー効率が高い(一般に約80%〜90%)ので、PEMFCに比べて潜在的には有利である。ただし、SOFCは約750℃〜1000℃という高い動作温度を必要とし、これはセラミック製電解質を使用しなければならないことを意味している。このセラミックは、好適にはジルコニアを基にして任意に金属M(Zr1−x、ただし、Mはイットリウム、スカンジウム、および、セリウムから選択される)を用いて安定化されるか、または、セリアを基にして任意に金属M’(Ce1−xM’、ただし、M’はガドリニウム、スカンジウム、サマリウム、および、イットリウムから選択される)を用いて安定化される。
【0004】
SOFCの性能は、以下の理由から、この固体電解質の厚さを低減することによって改善される。
【0005】
● 電池の電気効率は、部分的に電解質の抵抗によって支配される。この特異的抵抗性は、R=(r×e)/A(ただし、rは電解質の比抵抗であって、eは電解質の厚さであって、Aは電解質の面積である)と表わされる。電解質が薄ければ薄いほど、電池の電気効率は向上する。
【0006】
● エネルギー効率を変えないとすれば、電解質の厚さを低減することによって電池の動作温度を低下させることが可能になり、温度が下がれば、その結果、電池の寿命が長くなる。
【0007】
● 電池のセラミック製電解質を薄くすると電池のサイズおよび重量を低減することが可能になる。
【0008】
● セラミックは非常に高価なので、セラミックの量を減らせば、大量市場で販売する応用商品として経済的に受け入れられるコストレベルを達成することが可能になる。
【0009】
以上の必要性を満たすために、第3世代SOFCは初めての技術的解決法を提供した。具体的には、第3世代SOFCは金属製の機械的支持部材を備え、その上に活性物質からなる複数の薄膜層が積層されている。この金属製支持部材は非常に良好な熱伝導体および電導体であるので、電池内部の温度のいかなる非一様性をも防止し、電流を容易に収集できることを保証する。温度サイクルに対する耐性は、良好な機械的一体性および良好な熱伝導性によって改善される。この機械的支持部材は半田付けまたは接続することが容易であって、内部改質メタンの場合にも使用可能である。ただし、この技術の短所は固体電解質を金属上に積層するところにある。具体的には、テープ鋳造やスクリーン印刷などの従来の手法を用いて積層した後に、セラミックを緻密化するために高温(1600℃)での焼結ステップが必要なのであるが、この焼結ステップに金属製支持部材は耐えることができない。
【0010】
この解決法は、電池の残りの部材を上に積層することができるだけの十分な強度を有する、非常に薄い自己支持型電解質を提供することからなる。これを実現するためには、数平方センチメートルから数十平方センチメートルの範囲の面積を有して非常に薄く極度に高密度であって、取り扱い可能かつ十分な強度を有するセラミックを、完全な制御下にある緻密化によって生成することが必要である。
【0011】
科学論文誌には、このようなセラミックを合成しようという試みが報告されている。一例として、G. Bernard-Granger and C. Guizard “Spark plasma sintering of a commercially available granulated zirconia powder: I. Sintering path and hypotheses about the mechanism(s) controlling densification" Acta Materialia 55 (2007), pp 3493-3504を、特筆すべき論文として挙げておく。この論文には、フラッシュ焼結(flash sintering)によって金属酸化物系セラミックを製造する方法が記載されている。この方法において使用される粉末は、大きな平均粒径(50nm〜70nm)の微結晶、および、サイズは大きい(10μm〜80μm)が、比表面積が小さな(わずか16.4m/g)微結晶集合体を含有する市販のジルコニア粉末である。得られるセラミックは、直径が8mm(つまり表面積はわずか約0.5cm)であって、厚さが1.6mmのペレット状である。これらの結果は、予定している応用分野には十分ではなく、少なくとも1cmの面積に対して200μm以下の厚さを有するセラミックを得ることが望ましい。この寸法を有するウエハは、G. Bernard-Granger and C. Guizardの論文に記載された方法によって得た場合には、十分な強度を有しないと思われる。
【0012】
出願人が知る限りにおいて、高密度であって、気体および液体に対して不透過性を有し、非常に薄く、さらに、大面積および十分な機械的安定性を併せ持つセラミックは、これまでに文献に記載されておらず、Zr1−x(ただし、Mはイットリウム、スカンジウム、および、セリウムから選択される)を基にして、または、Ce1−xM’(ただし、M’はガドリニウム、スカンジウム、サマリウム、および、イットリウムから選択される)を基にして、SOFCにおいて自己支持型電解質として使用可能なセラミックを生成することは、課題として依然残っている。
【0013】
出願人は、このような自己支持型酸化物を製造する方法を自ら開発した。
【0014】
本発明の方法の新規な点は、今まで使用されることがほとんどなかった方法、つまりフラッシュ焼結法において、非常に特異な技術的特性を有するナノ結晶性粉末を使用することにある。フラッシュ焼結またはスパークプラズマ焼結(“SPS”: spark plasma sintering)と呼ばれる、高圧焼結に類似するこの手法は、いかなるタイプの物質(金属、セラミック、重合体、および、これらの複合物質)を形成するためにも非常に効果的である。特定の微細構造を有し、特に緩やかに固められた集合体の存在および大きな比表面積によって特徴付けられる、ナノ結晶性粉末と共にこの手法を用いると、フラッシュ焼結法によって、高密度であって、流体に対して不透過性を有し、極度に薄く、さらに、良好な強度を有するセラミックが得られることを出願人は見いだした。
【0015】
したがって、本発明の一つの主題は、
(a)Zr1−xまたはCe1−xM’(ただし、Mはイットリウム、スカンジウム、および、セリウムから選択され、M’はガドリニウム、スカンジウム、サマリウム、および、イットリウムから選択され、xは0〜0.2の範囲にある)で表わされるセラミックの微結晶および微結晶集合体を含有するナノ結晶性粉末を、フラッシュ焼結(flash sintering)装置に挿入するステップと、
(b)50MPa〜150MPaの圧力を850℃〜1400℃の温度で5分間〜30分間印加することによって、上記粉末をフラッシュ焼結するステップとを上記の順に含み、
上記ナノ結晶性粉末が、
● X線回折法によって測定した5nm〜50nmの平均微結晶サイズであり、
● 走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した0.5μm〜20μmの平均微結晶集合体サイズであり、
● 窒素吸収法(BET法)によって測定した20m/g〜100m/gの比表面積である、
金属酸化物系セラミックを製造する方法である。
【0016】
本方法の第1ステップ(a)において使用されるナノ結晶性粉末は、主に、式Zr1−x、Zr1−xSc、Zr1−xCe、Ce1−xGd、Ce1−xSc、Ce1−xSm、または、Ce1−x(ただし、xは0〜0.2の範囲にある)で表わされるセラミックの粒子からなる粉末である。
【0017】
これらの任意に安定化された酸化ジルコニウムまたは酸化セリウムは、SOFCにとって良好な固体電解質を特に良好なイオン導電率によって形成する能力に従って選択される。
【0018】
焼結後のセラミックにおける上記任意に安定化されたナノ結晶性ジルコニアまたはセリウム粒子の重量百分率(%)は、好ましくは90%を超え、または、95%を超え、また、98%を超えてもかまわない。
【0019】
このナノ結晶性粉末は、個々の微結晶および微結晶集合体を備えて、以下のような粒径分布を有することを特徴とする。
【0020】
● X線回折法によって測定した5nm〜50nm、好ましくは10nm〜40nm、より好ましくは15nm〜35nmの平均微結晶サイズ。
【0021】
● 走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した0.5μm〜20μm、好ましくは0.6μm〜15μm、より好ましくは0.7μm〜10μmの平均微結晶集合体サイズ。
【0022】
● 窒素吸収法(BET法)によって測定した20m/g〜100m/g、好ましくは30〜90m/g、より好ましくは40〜80m/gの比表面積。
【0023】
上記微結晶のサイズはX線回折法によって測定される。
【0024】
上記微結晶集合体のサイズは、走査型電子顕微鏡(SEM)で粉末を観察することによって測定されてもよい。
【0025】
最後に、上記粉末は比表面積を特徴とする。この比表面積は従来、BET法にしたがって、窒素吸収法によって測定される。
【0026】
上述の酸化物粉末は大きな比表面積を有する。これは、該酸化物粉末が、フラッシュ焼結用モールドの中に設置された時点では、圧縮後の最終的な体積に比べて相対的に大きな体積を有することを意味している。この大きな体積によって、圧縮形成の前に粉末床を均等に広げやすくなり、たとえ数平方センチメートルのオーダの面積を有する試料の場合であっても、最終的な自己支持型セラミック製ウエハが良好な厚さの一様性を有することが保証される。
【0027】
好ましくは、上記粉末の粒子は、さらに、ほぼ球状である。この形状によって、粒子が圧縮されて高密度かつ固形のセラミックを形成する際に、粒子が互いに対して相対的に滑りやすくなる。
【0028】
フラッシュ焼結は、本発明に係る方法のステップ(b)において実施される。この比較的新しい手法の詳細な説明については、読者は例えばdossier IN 56 of the Editions Techniques de l'Ingenieur (September 2006)を参照されたい。一般には、微粉状態の物質は圧縮チャンバー(例えば、焼結の加熱サイクル時に一軸圧力を印加することを可能にするグラファイト製ピストンを備えたモールド)に挿入される(好ましくは焼結補助剤は挿入しない)。従来の加熱加圧成形とフラッシュ焼結との大きな差は、熱が外部熱源によって供給されるのではなく、モールドに接続された電極を介して印加されるDC電流、パルスDC電流、または、AC電流によって供給されることにある。この電流は導電性の加圧チャンバーを通って流れ、試料が導電性を有する場合には、さらにこの試料を通って流れる。
【0029】
フラッシュ焼結時には、上記微粉状態の物質の一部は圧縮力が印加される方向においてのみ変化するので、一軸圧力を印加することが好ましい。したがって、冷却後には、緻密化済みセラミックの横方向の寸法はモールドの寸法と同じである。焼結サイクル中に一軸圧力を印加すると、さらに、薄い物体を従来の手法で焼結する際に観察される望ましくない変形作用をすべて防止することが可能である。
【0030】
フラッシュ焼結ステップにおいて制御されるパラメータは、チャンバー内の圧力および温度、ならびに、該ステップの実施期間である。本発明の上記方法によれば、
● 圧力は50MPa〜150MPa、好ましくは80MPa〜120MPa、特に好ましくは90MPa〜110MPaであり、
● 温度は850℃〜1400℃、好ましくは1000℃〜1300℃、特に好ましくは1100℃〜1250℃であり、
● 上記ステップの総実施期間は5分間〜30分間、好ましくは10分間〜30分間、特に好ましくは15分間〜25分間である。
【0031】
印加される電流の大きさについては、使用するモールドのサイズに合わせて調節し、モールドが大きければ大きいほど、印加される電流は大きくなる。例えば、直径が5cmである円柱状のモールドの場合、電流は1000A〜4000A程度である。
【0032】
フラッシュ焼結法によって、焼結速度を大幅に増加させ、こうすることによって、穀粒の成長は制限されながら、非常に緻密化された物質を非常に短い時間で得ることができるようになる。さらに、フラッシュ焼結法によって、各種物質を、互いの反応を制限しながら結合させることができ、また、高温では不安定な固体を比較的低温で焼結することができる。
【0033】
このように反応が生じないことは、複数の薄いセラミック製ウエハが分離シートによって互いから分離されている状態で同時に焼結される、本発明の方法の特に好適な実施形態において特に有用である。本実施形態は、調製後の物体の厚さが薄いことだけによって可能になるのではなく、特に、焼結温度が比較的低く焼結時間が短く、これによって、圧縮されるセラミックと、層間に挟まれた分離シートを形成している物質との間のいかなる反応も防止または抑制できるという理由によっても可能になるのである。
【0034】
本発明の方法のこの特に好適な実施形態において、ステップ(a)は、焼結ステップ(b)の後に、複数のセラミック製ウエハおよび分離シートが交互に配置された多層部を得るために、焼結ステップ(b)の熱的条件および機械的条件に耐えることができる分離シートによって互いに分離された、複数の粉末層を上記フラッシュ焼結装置に挿入する工程を含む。
【0035】
焼結後に、上記多層部はモールドから取り出される。緻密化済みセラミック製のウエハおよび分離シートからなる上記多層部は、分離シートを除去するステップに供される。このステップは、多層部の熱処理および/または化学的処理であってもかまわない。この処理では、セラミックに影響を与えたり傷めたりせずに、分離シートを選択的に消滅させなければならない。
【0036】
上記分離シートは好ましくはグラファイト製シートであって、除去ステップは、例えば上記焼結済み多層部を空気中で700℃〜900℃の温度で30分間〜120分間処理することを含む。
【0037】
したがって、この好適な実施形態では、本発明に係る方法は、複数種類のセラミックを、数分を超えない時間尺度で同時に生成可能である。従来の焼結方法に比べて相対的に極度に短いこの焼結時間は、複数のウエハの同時圧縮と組み合わせると、製造コストの大幅な低減が達成でき、平面状セラミック製物体の大量生産が可能になると考えられる。
【0038】
上述のような技術特性を有するナノ結晶性粉末は現在、市販されていない、または、未だ市販されていないが、公知のゾルゲル法を用いて比較的単純に調製可能である。ただし、本発明の方法は、後述するゾルゲル法によって、または、一般にゾルゲル経路によって合成されるナノ結晶性粉末の使用に限定されるものではない。
【0039】
したがって、本発明の方法は、ステップ(a)において使用するナノ結晶性金属酸化物粉末の製造に必要なステップを含んでもかまわない。
【0040】
したがって、上記特定の実施形態において、本発明の方法は、上記ナノ結晶性粉末を挿入するステップ(a)の前に、上記粉末を、ゾルゲル法を用いて合成することからなる別のステップをさらに含む。
【0041】
本発明において規定する物理的性質および化学的性質を有するナノ結晶性粉末を得るためには、適切な合成条件を鋭意選択することが必要である。
【0042】
ナノ結晶性粉末(例えば上述のナノ結晶性粉末)の生成に適し、かつ、生成可能な主要なゾルゲル合成法が二つある。
【0043】
第1の合成法では、上記ナノ結晶性粉末がジルコニウム塩の酸性水溶液またはセリウム塩の酸性水溶液から合成され、該ジルコニウム塩が任意にイットリウム塩、スカンジウム塩、または、セリウム塩と混合され、該セリウム塩が任意にガドリニウム塩、スカンジウム塩、サマリウム塩、または、イットリウム塩と混合され、該溶液がヘキサメチレンテトラミン(“HMTA”: hexamethylenetetramine)およびアセチルアセトン(“ACAC”: acetylacetone)をさらに含有する。
【0044】
第1ステップでは、少なくとも三つの構成物質を含有する酸性水溶液を調製する。この三つの構成物質とは、具体的には、
a)溶解した状態にある、任意にイットリウム塩、スカンジウム塩、もしくは、セリウム塩と混合される少なくとも一つのジルコニウム塩、または、任意にガドリニウム塩、スカンジウム塩、サマリウム塩、もしくは、イットリウム塩と混合される少なくとも一つのセリウム塩と、
b)アセチルアセトン(ACAC)に対するヘキサメチレンテトラミン(HMTA)のモル比が0.9/1〜1.1/1である、HMTAとACACとの少なくとも一つの混合物と、
c)2〜6のpH値を得るために十分な量の有機酸またはミネラルとである。
【0045】
上記塩は好ましくは硝酸塩または酸塩化物であって、0.05mol/L〜0.5mol/Lの濃度で導入される。
【0046】
上記HMTAおよびACACは、それぞれ、好ましくは0.25mol/L〜1.5mol/Lの範囲の濃度で使用される。
【0047】
上記酸は、好ましくは酢酸、プロパン酸、および、トリフルオロ酢酸から選択される有機酸である。
【0048】
第2のステップでは、この溶液を50℃〜100℃、好ましくは60℃〜90℃、より好ましくは70℃〜80℃の温度まで加熱する。次に、上記HMTAおよびACACの重合に由来する、該溶液のゲル化を観察する。このゲル化ステップ全体を通じて、上記金属塩はHMTAおよびACAC反応物を有する配位錯体の状態である。反応物の初期濃度および加熱条件(温度および加熱時間)は、好ましくは、ゲル化ステップの終了時に、得られたゲルの25℃で測定したブルックフィールド粘度が20mPa・s〜80mPa・sになるように調節される。一般に、溶液を上述の温度まで10分間〜60分間加熱すれば、この要件は満たされる。
【0049】
得られたゲルは、次に、400℃以上の温度で6時間〜8時間の加熱処理に供され、いかなる有機残留物も含まない非結晶粉末が生成される。
【0050】
上記非結晶粉末は、次に、500℃〜1000℃の温度で少なくとも2時間か焼され、こうすることによって、所望のナノ結晶性金属酸化物粉末に転化される。
【0051】
本発明において使用可能なナノ結晶性粉末を生成することができる、もう一つのゾルゲル合成経路は、ジルコニウム金属塩またはセリウム金属塩から開始するのではなく、これらの金属のアルコキシドから開始する、より従来に近い経路である。
【0052】
この経路は、知られているように、すべての反応物を含有するゾルを調製し、アルコキシ官能基を加水分解し、こうすることによって分離された活性金属−OH官能基を凝縮することを含み、そして、溶液を放置してゲルを形成させ、さらに適宜乾燥させるステップを含む。
【0053】
一例として、イットリウム化ジルコニアのナノ結晶性粉末のゾルゲル合成についてここで説明する。
【0054】
まず、テトラアルコキシジルコニウム化合物およびイットリウム塩(例えば硝酸イットリウム)の溶液を、有機溶剤を用いて調製する。アルコキシ基は一般に炭素数が1〜6、好ましくは3〜4のアルコキシ基であり、後者は特に適した反応速度を有する。使用する有機溶剤は、好ましくは、アルコキシ基の加水分解によって分離されたアルコールに対応する有機溶剤である。テトラ(n−プロポキシ)ジルコニウムをn−プロパノール溶液中で使用することがこの上なく特に好ましい。テトラアルコキシジルコニウム化合物の初期濃度は、一般に0.01mol/L〜1mol/Lである。空気中の湿気に対するアルコキシドの反応性が非常に高いので、この溶液は不活性雰囲気下において調製される。
【0055】
該溶液は、或る量のキレート薬(例えばアセチルアセトンや酢酸)をさらに含有する。このキレート薬は、一様なゾルを形成するめに必須であって、主に、水を添加した時に固体沈殿物の形成を防止するように作用する。この溶液中に存在するジルコニウム原子およびイットリウム原子のモル数に対するキレート薬のモル数の比(つまり、複合体形成比)は、好ましくは0.1〜1である。
【0056】
次に、規定量の水をこのほぼ無水である有機溶液に添加する。溶液中に存在するジルコニウム原子およびイットリウム原子の全モル数に対する水のモル数の比(つまり、加水分解度)は、好ましくは1〜30である。
【0057】
次に、こうすることによって得られたゾルを静置して、ゾル中に生成される種が凝集することによってゲルがゆっくりと形成する様子を観察する。ゾルを乾燥器中で例えば40℃〜80℃の温度で穏やかに加熱することによって、このゲル化ステップを加速してもかまわない。
【0058】
一旦ゾルゲルの転移に達すると、乾燥させることによって液相を取り除く。乾燥法によって、得られる粉末の密度が大きな影響を受ける可能性がある。したがって、溶媒/水相を大気圧および室温で、または、乾燥器中で単純に蒸発させることによってゲルを乾燥させると、キセロゲルが形成してしまう。
【0059】
好適な実施形態では、液相の除去を、オートクレーブ中で溶媒の臨界温度より高い温度および臨界圧より高い圧力で超臨界乾燥法によって実施する。このタイプの乾燥は一般に、液体の臨界点を越えた後、システムを恒温で減圧する前に、システムの温度および圧力をゆっくりと増加させることによって実施される。上述のように調製したイットリウム化ジルコニアのゲルを超臨界乾燥することによって、エアロゲルと呼ばれる、非常に気泡が多い微細構造を有する半透明の単一体が得られる。
【0060】
このキセロゲル、つまりエアロゲルを機械的に粉砕し、粉砕後のゲルを、300℃を超える温度で加熱処理し(こうすることによって、主に残留溶媒が除去される)、さらに、任意に500℃〜1000℃の温度でか焼ステップを実施した後に、所望のナノ結晶性金属酸化物粉末に対応する、50m/gを超える比表面積を有する球形状のナノスケールの結晶性粒子が得られる。
【0061】
図1は、上述の合成手順および超臨界乾燥法を用いて得られるエアロゲルの球状ナノ結晶性粒子の、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した顕微鏡写真を示している。
【0062】
本発明のもう一つの主題は、上述の方法によって得られる金属酸化物系セラミックである。
【0063】
粉末および焼結手法をどちらも鋭意選択することによって、本発明に係る方法は、厚さが200μm以下であって、好ましくは150μm以下であって、より好ましくは80nm〜100μmであり、面積が1cm〜50cmであってもよいが、好ましくは2cm〜50cmであって、より好ましくは3cm〜50cmである、非常に薄いウエハの生成を可能にする。
【0064】
また、本発明の方法は、生成するセラミックの緻密度を非常に容易に制御することができる。SOFCの固体電解質として使用可能であるために、得られるウエハは気体に対して完全に不透過性を有しなければならない。出願人は、容積密度の評価またはアルキメデスの原理のいずれかによって求めるセラミックの細孔率が4%未満、好ましくは4%〜1%、特に3%〜1%であれば、この要件は満たされることを見出した。したがって、本発明の主題であるセラミックは、好ましくはこのような細孔率を有する。
【0065】
本明細書の導入部に記載したように、本発明のセラミックは、燃料電池および高温電解セルの固体電解質としての使用に完全に適している。該セラミックの優れた強度によって、その上に、電池を構成する残りの部材を積層することが可能になる。したがって、本発明のもう一つの主題は、セラミック(例えば上記において規定したセラミック)を備えた燃料電池および高温電解セルである。
【0066】
本発明のセラミックのもう一つの好適な応用分野は、電気化学センサへの応用である。4%未満、好ましくは1%〜4%の細孔率を有する高密度かつ不透過性の物質は、O、NO、Cl、CO、CO、SO、SH、NHなどの各種化合物を測定または検出するためのシステムの電気化学プローブまたはセンサとしての使用に本当に完全に適している。したがって、本発明のもう一つの主題は、上述のセラミックの、電気化学センサとしての使用、および、このようなセラミックを電気化学センサとして備えた測定装置および/または検出装置としての使用である。
【0067】
最後に、本発明のセラミックは、ほぼすべての種類の濾過に使用可能な分離膜としても非常に好適である。具体的には、本発明の製造方法は、最終物質の細孔率を完全に制御することを可能にし、それゆえ、提供しようとする濾過タイプに応じて細孔率を変更することが容易であり、したがって、細孔のサイズを変更することが容易である。したがって、本発明のセラミックは、
● マクロ濾過(孔径は2μmを超える)、
● クロスフロー(cross−flow)精密濾過法または全量精密濾過法(孔径は0.05μm〜2μm)、
● 限外濾過(孔径は50nm〜1nm)、
● ナノ濾過(孔径は0.4nm〜1nm)、および、
● 逆浸透法(孔径は0.4nm未満)に使用される。
【0068】
当然、分離膜として機能できるためには、本発明のセラミックは不透過性であってはいけないが、分離すべき化学種(原子、分子、高分子)に対する選択的な浸透性は有していなければならない。
【0069】
したがって、上記セラミックを分離膜として使用するのであれば、セラミックの細孔率は、固体電解質または電気化学センサに適用する場合の上述の範囲より高くなければならない。
【0070】
したがって、本発明のさらにもう一つの主題は、好ましくは4%を超えて最大で30%までであって、好ましくは6%〜25%である細孔率を有する本発明のセラミックの、濾過膜としての使用である。
【0071】
この応用事例では、上記セラミックは、特に、加圧濾過法において使用可能な優れた強度、ならびに、良好な耐化学性および耐熱性を有しているので、注目に値する。したがって、上記膜の良好な耐高温性は効果的な清掃を可能にし、例えば細孔を塞いでいる有機不純物を燃焼させて除去することができる。
【0072】
〔実施例〕
〔自己支持型イットリアによって安定化されたジルコニアセラミック(ZrO−8%Y)〕
〔(a)ゾルゲル経路による金属塩からの酸化物粉末合成〕
1.68mol/Lの硝酸ジルコニウム、0.32mol/Lの硝酸イットリウム、0.94mol/Lのアセチルアセトン(ACAC)、および、0.94mol/Lのヘキサメチレンテトラミン(HMTA)を含有する、pH値が3.2の酸性水溶液を調製した。この混合物を、25℃で約40mPa・sの粘度のゲル化したの溶液が得られるまで、80℃の温度で15分間加熱した。
【0073】
ゲルを乾燥させて空気流内で、400℃で7時間の分解処理に供した後、非結晶性残留物を800℃で2時間か焼した。
【0074】
平均粒径が20nmである球状の単結晶基本粒子からなる、空間群Fm3mを有する蛍石構造で結晶化した粉末が得られた。該基本粒子は、平均サイズが10μmである非常に気泡が多い集合体を形成して固まっていた。この粉末の比表面積は約50m/gであった。
【0075】
〔(b)フラッシュ焼結法によるセラミックの製造〕
イットリアによって安定化されたジルコニア粉末の五つの層(各層の重量は0.36g)を、各層を互いにグラファイト製シートによって分離した状態で、内径が20mmの円柱状のグラファイト製モールドに挿入した。このアッセンブリーを50℃/分の温度勾配で1200℃まで昇温した(この後、この温度を20分間維持した)。所定の温度(1200℃)に到達すると、ピストンを使用して一軸圧力を印加した。圧力は2分後に100MPaに到達し、その後はこの圧力を13分間維持した。次に、温度は1200℃で維持しながら、この印加圧力を常圧に達するまで5分間かけて徐々に低下させた。
【0076】
圧力低下の終了後、温度を20℃/分の速度で徐々に室温まで下げた。
【0077】
印加電流は上記加熱段階において徐々に増加させて、圧縮開始時には約1600Aに達した(この圧縮開始時に、温度は所定の温度(1200℃)に達した)。
【0078】
グラファイト製シートによって分離されたセラミック製ウエハの多層部を、空気中で、700℃で加熱処理に供して、層間に挟まれたグラファイト製シートを分解した。
【0079】
このようにして、厚さが200μm未満であって、直径が20mmであって、細孔率が2%未満であり、五つの層を有する自己支持型セラミック製ウエハが製造できた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、上述の合成手順および超臨界乾燥法を用いて得られるエアロゲルの球状ナノ結晶性粒子の、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した顕微鏡写真を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式Zr1−xまたはCe1−xM’(ただし、Mはイットリウム、スカンジウム、および、セリウムから選択され、M’はガドリニウム、スカンジウム、サマリウム、および、イットリウムから選択され、xは0〜0.2の範囲にある)で表わされるセラミックの微結晶および微結晶集合体を含有するナノ結晶性粉末を、フラッシュ焼結装置に挿入するステップと、
(b)50MPa〜150MPaの圧力を850℃〜1400℃の温度で5分間〜30分間印加することによって、上記粉末をフラッシュ焼結するステップとを上記の順に含み、
上記ナノ結晶性粉末が、
X線回折法によって測定した5nm〜50nmの平均微結晶サイズであり、
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した0.5μm〜20μmの平均微結晶集合体サイズであり、
BET法によって測定した20m/g〜100m/gの比表面積である、
金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項2】
ステップ(a)が、焼結ステップ(b)の後に複数のセラミック製ウエハおよび分離シートが交互に配置された多層部を得るために、焼結ステップ(b)の熱的条件および機械的条件に耐えることができる分離シートによって互いに分離された、ナノ結晶性粉末の複数の層を上記フラッシュ焼結装置に挿入する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項3】
上記分離シートを選択的に消滅させるために、焼結ステップ(b)の後に得られた上記多層部を熱的および/または化学的に処理するステップ(c)をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項4】
上記分離シートがグラファイト製シートであって、
ステップ(c)が、上記焼結済み多層部を、空気中で700℃〜900℃の温度で処理することを含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項5】
上記ナノ結晶性粉末を挿入するステップ(a)の前に、上記粉末を、ゾルゲル法を用いて合成する工程からなる別のステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項6】
上記ナノ結晶性粉末がジルコニウム塩の酸性水溶液またはセリウム塩の酸性水溶液から合成され、
該ジルコニウム塩が任意にイットリウム塩、スカンジウム塩、または、セリウム塩と混合され、
該セリウム塩が任意にガドリニウム塩、スカンジウム塩、サマリウム塩、または、イットリウム塩と混合され、
該溶液がヘキサメチレンテトラミン(HMTA)およびアセチルアセトン(ACAC)をさらに含有することを特徴とする、請求項5に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項7】
上記ナノ結晶性粉末が、上記ゾルゲル経路によってキレート薬の存在下でテトラアルコキシジルコニウム化合物およびイットリウム塩から合成されることを特徴とする、請求項5に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項8】
ステップ(b)の温度が1000℃〜1300℃であって、好ましくは1100℃〜1250℃であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項9】
ステップ(b)において印加する圧力が80MPa〜120MPaであって、好ましくは90MPa〜110MPaであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項10】
ステップ(b)の実施期間が10分間〜30分間であって、好ましくは15分間〜25分間であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の金属酸化物系セラミックを製造する方法によって得られる、金属酸化物系セラミック。
【請求項12】
厚さが200μm以下であって、好ましくは80nm〜150μmであり、面積が1cm〜100cmであるウエハであることを特徴とする、請求項11に記載の金属酸化物系セラミック。
【請求項13】
細孔率が4%〜1%、好ましくは3%〜1%であることを特徴とする、請求項11または12に記載の金属酸化物系セラミック。
【請求項14】
請求項13に記載の金属酸化物系セラミックを固体電解質として備えている、燃料電池。
【請求項15】
請求項13に記載の金属酸化物系セラミックを固体電解質として備えている、高温電解セル。
【請求項16】
請求項13に記載の金属酸化物系セラミックを電気化学センサとして備えている、測定装置および/または検出装置。
【請求項17】
細孔率が4%を超えて最大で30%までであって、好ましくは6%〜25%であることを特徴とする、請求項11または12に記載の金属酸化物系セラミック。
【請求項18】
請求項17に記載の金属酸化物系セラミックを、濾過膜として用いる使用方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−530039(P2012−530039A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515546(P2012−515546)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051204
【国際公開番号】WO2010/146311
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(504462489)エレクトリシテ・ドゥ・フランス (25)
【出願人】(511307616)ウニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワジェーム (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PAUL SABATIER TOULOUSE III
【住所又は居所原語表記】118,ROUTE DE NARBONNE,F‐31400 TOULOUSE,FRANCE
【Fターム(参考)】