薄板製造装置および薄板製造方法
【課題】薄板製造装置で連続して薄板を製造すると、融液を保持する坩堝の内壁上に融液の材料を主成分とする凝固物が形成される。該凝固物は薄板の製造を妨げるため、該凝固物を確実に溶融し、薄板を継続的に製造することができる薄板製造装置および薄板製造方法を提供する。
【解決手段】該凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える薄板製造装置および、該凝固物を溶融するための凝固物溶融工程を含む薄板製造方法に関する。該凝固物溶融機構は、融液に浸漬することで融液面の高さを上げ凝固物の少なくとも一部を融液で覆うことが可能な体積を有する体積物と、体積物を融液に浸漬するための体積物浸漬機構とを備える。
【解決手段】該凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える薄板製造装置および、該凝固物を溶融するための凝固物溶融工程を含む薄板製造方法に関する。該凝固物溶融機構は、融液に浸漬することで融液面の高さを上げ凝固物の少なくとも一部を融液で覆うことが可能な体積を有する体積物と、体積物を融液に浸漬するための体積物浸漬機構とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝に保持した融液に下地板を浸漬させることにより下地板の表面に薄板を成長させ、坩堝の内壁に生じた凝固物を溶融させる薄板製造装置および薄板製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の薄板製造装置の1つとして、例えば特許文献1に開示される「薄板製造装置および薄板製造方法」が挙げられる。この開示された薄板製造装置は、下地板を融液に接触させることで、下地板の表面に薄板を製造するもので、下地板を水平方向および垂直方向に搬送することができる。そして、水平方向の搬送手段と垂直方向の搬送手段は別々に制御されることで下地板の軌道を最適化したものである。
【0003】
また、別に従来の薄板製造装置の1つとして、例えば特許文献2に開示される「薄板製造装置および薄板製造方法」が挙げられる。この開示された薄板製造装置は、下地板を融液に接触させることで、下地板の表面に薄板を製造するもので、融液の原料の追加、追加融液の温度調整、融液の温度調整、融液温度の安定化および下地板浸漬動作を同時に行なうことで薄板の生産性を向上させるものである。
【0004】
これらの薄板製造装置は、共通して融液に下地板を浸漬し、下地板の表面に薄板を形成することが可能な薄板製造装置であり、融液から直接薄板を製造できるという特徴を持っている。ここで、該特徴について従来の薄板製造装置の一形態を示した図12に基づいて従来の薄板製造装置について以下説明する。
【0005】
融液1は坩堝2に保持されており、加熱ヒータ3で加熱することによって、融液1の温度を自在に設定することができる。下地板5は下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に固定されている。下地板浸漬機構6によって、下地板5は搬送され融液1に浸漬される。下地板5は融液1に浸漬されることで下地板5の表面には融液1が付着し、それが凝固することで下地板5の表面に薄板Sが形成される。
【特許文献1】特開2003−59849号公報
【特許文献2】特開2004−331429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の薄板製造装置を用いて薄板を製造した場合、下地板を融液に浸漬する動作により、融液が波立ち、融液を保持する坩堝内壁の上部に融液がかかり、融液面よりも少し上部で凝固物が発生する。図13(a)、図13(b)は、凝固物Gが発生した状態を示した図である。以下、図13(a)、13(b)を参照して説明する。図13(a)に示すように凝固物が発生し始めてまだ小さいうちは特に薄板製造装置の作動の問題にはならない。しかし、下地板(図示せず)を融液1に浸漬すると融液面がゆれるため、坩堝2の内壁の定常状態での融液面より上の部分に融液1がかかる。融液面よりも上部の坩堝2の内壁部分では放熱Rのため温度が低くなっており融液1が凝固しやすい状態になっているため、一度凝固が始まると融液1よりも固体である凝固物Gの方が輻射率が高いため、さらにその部分の低温化が進み、凝固を促進することになる。このようなメカニズムで凝固物Gは徐々に大きくなり、図13(b)のような状態になる。そして、最終的には下地板浸漬機構(図示せず)の動作を阻害するようになる。このような状態にまで凝固物Gが成長すると、融液1の温度を加熱ヒータ3で加熱して上げたとしても凝固物Gの上面からの放熱Rでエネルギーが逃げてしまい、凝固物Gを完全に溶かすことが出来なくなる。このような凝固物Gが生じると、下地板浸漬機構の動作に凝固物Gが干渉するようになり、継続的に薄板Sを製造することができない。
【0007】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、融液を保持するための坩堝と下地板と下地板を融液に浸漬するための下地板浸漬機構とを備え、融液に下地板を浸漬させることにより、下地板の表面に融液を凝固させることで、下地板表面に薄板を成長させる薄板製造装置であって、坩堝の内壁上に形成された融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える薄板製造装置に関する。
【0009】
そして、本発明の薄板製造装置は、凝固物溶融機構は、融液に浸漬することで融液面の高さを上げ凝固物の少なくとも一部を融液で覆うことが可能な体積を有する体積物と、体積物を融液に浸漬するための体積物浸漬機構とを備える。
【0010】
本発明の薄板製造装置は、体積物浸漬機構が下地板浸漬機構に対して独立して制御されるものに関する。または、本発明の薄板製造装置は、下地板浸漬機構が体積物浸漬機構を兼ねるものに関する。また、本発明の薄板製造装置において、体積物の少なくとも融液に浸漬する部分の材質は、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素のいずれかであることが好ましい。また、本発明の薄板製造装置において、体積物は、融液に接触する底部に融液面の水平方向に対して傾斜を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の薄板製造装置において、体積物は、外側部と、外側部の材質より比熱が大きい物質で形成される内側部とからなることが好ましく、該体積物の該内側部が開口部を有することが好ましく、該内側部に断熱材を設置することが好ましい。
【0012】
また、本発明の薄板製造装置において、体積物の少なくとも融液に浸漬する部分を加熱する加熱機構を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明の薄板製造装置において、凝固物の成長と融液面とを観測する観測機構を備えることが好ましい。
【0014】
また、本発明の薄板製造方法は、下地板の表面に薄板を成長させるために坩堝に融液を保持して下地板を融液に浸漬する下地板浸漬工程と、坩堝の内壁上に形成された融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融工程とを含み、凝固物溶融工程は、体積物を融液に浸漬し融液面の高さを上げることで凝固物の少なくとも一部を融液で覆う体積物浸漬工程を含む薄板製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により通常では溶融が困難であった凝固物を確実に溶融することが可能となり、薄板を継続的に製造することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の薄板製造装置は、融液を保持するための坩堝と下地板と下地板を融液に浸漬するための下地板浸漬機構とを備える。そして、該薄板製造装置は、下地板浸漬機構により、融液に下地板を浸漬させることにより、下地板の表面に融液を凝固させ、下地板表面に薄板を成長させることで、薄板の製造をすることができる。そして、本発明の薄板製造装置は、薄板の製造を連続して行なうことによって、発生する坩堝の内壁上に形成された凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える。凝固物溶融機構は、下地板および下地板浸漬機構の動作の軌跡を妨げる凝固物を除去することができる。
【0017】
以下、この発明に基づいた各実施の形態における薄板製造装置および薄板製造方法について、図を参照しながら説明する。
【0018】
(実施の形態1):薄板製造装置
〔薄板製造装置の全体構成〕
本発明の薄板製造装置の一実施形態の全体構成について図1(a)、図1(b)を参照して説明する。図1(a)は、坩堝2の内壁に凝固物Gが存在する状態を示し、図1(b)は、体積物浸漬機構8が体積物71を融液1に浸漬する状態を示す図を示す。
【0019】
まず、図1(a)に基づいて、薄板製造装置の各構成について説明する。薄板製造装置は、融液1を保持するための坩堝2と、下地板5と、該下地板5を保持するとともに該下地板5を搬送して融液に浸漬することが可能な形状を有する下地板浸漬機構6とを備える。下地板5を融液1に浸漬し、該下地板5の表面に、融液1を凝固させることで、下地板5の表面に薄板Sを成長させることができる。そして、該薄板製造装置は、坩堝2の内壁の凝固物Gを溶融するための凝固物溶融機構(図1(a)には図示せず)を備える。
【0020】
次に、図1(b)に基づいて凝固物溶融機構70の各構成について説明する。該凝固物溶融機構70は、体積物71と、該体積物71を保持するとともに該体積物71を搬送して融液1に浸漬することが可能な形状を有する体積物浸漬機構8とを備える。本発明の薄板製造装置においては、凝固物溶融機構70は、体積物71を融液1に浸漬して融液面を上昇させることにより、坩堝2の内壁上に形成された融液1の材料を主成分とする凝固物Gを溶融するために備えられる。体積物71は、上記の凝固物Gを溶融するために十分な程度に融液面を上昇させることが可能な体積を有するものであれば良い。
【0021】
そして、薄板製造装置には、融液1を加熱するための加熱ヒータ3が適宜を設けられ、下地板5と下地板浸漬機構6とは下地板固定具4で固定される形態をとることが可能である。
【0022】
〔凝固物溶融機構〕
凝固物溶融機構70は、体積物浸漬機構8と体積物71とを備える。凝固物溶融機構70は、融液1への下地板5の浸漬動作の際に融液1が波立ち、融液1を保持する坩堝2の内壁の上部に融液1がかかることで融液面よりも少し上部で発生した凝固物Gを溶融するためのものである。なお凝固物Gとは、坩堝2の内壁に形成される、融液1材料由来のバリのことをいう。また、凝固物Gは、融液1の材料を主成分とするものであって、条件によって単結晶、多結晶、非晶質、および結晶質と非晶質とが混在した物質となるものなどが挙げられる。
【0023】
〔体積物浸漬機構〕
体積物浸漬機構8は、体積物71を保持し、融液面に対して少なくとも垂直方向に体積物71を搬送することが可能で、体積物71を融液1に浸漬させるものである。体積物浸漬機構8は、体積物71が融液面に浸漬する前、浸漬する時、融液面から引き上げる時および引き上げ後の体積物71の動きを制御することができる。体積物浸漬機構8は、該垂直方向にのみ移動できるものである場合には、体積物71が融液1に浸漬できるように、体積物71が移動可能である軌道上に坩堝2は、移動することができる。若しくは薄板製造装置は、体積物71が垂直方向に移動することで融液1に浸漬することができる位置に体積物浸漬機構8を設置することができる。
【0024】
図1(c)は、体積物浸漬機構8が体積物71を融液1から引き上げる状態を示す。以下、図1(c)に基づいて、融液面と体積物浸漬機構8の動作との関連について説明する。体積物71を融液1に浸漬したあとに融液1から引き上げる際には、その動作をゆっくり行なうことにより、融液面の液ゆれを可能な限り抑制することが好ましい。特に体積物71を引き上げる際の融液面の液ゆれが大きいと、坩堝2の内壁上に融液1が飛び散り、新たな凝固物G成長の起点となりうる。そこで、体積物浸漬機構8は安定して体積物71を保持することができ、浸漬の動作のスピードは、安定した一定の速度で制御されることが好ましい。また、体積物71が融液1から引き上げられる時だけではなく、体積物71が融液1に浸漬する時にも、可能な限り融液面の液ゆれを抑制することが好ましい。体積物浸漬機構8が体積物71を浸漬し、融液面が上昇している際に液ゆれが生じていると、坩堝2から高温の融液1が溢れ出す可能性があり、危険であるためである。したがって、好ましい体積物浸漬機構8としては例示として図2に示すような形態が挙げられる。図2(a)は体積物浸漬機構8および体積物浸漬機構8に保持された体積物71の側面図であり、図2(b)は体積物浸漬機構8および体積物浸漬機構8に保持された体積物71の正面図を示す。体積物浸漬機構8は、搬送具83、調整ネジ81およびフック82からなる。フック82を体積物71の側面に設けられた溝84に引っ掛けて体積物71と固定する。体積物71は体積物浸漬機構8に強固に保持されるため、ぐらつくことが無く体積物浸漬機構8の動作に従って、体積物71をゆっくり融液1に浸漬することが可能である。なお、動作のスピードは公知の方法で制御されることができる。
【0025】
次に、薄板製造装置における体積物浸漬機構8と下地板浸漬機構6との設置の関係について説明する。体積物浸漬機構8と下地板浸漬機構6とは、連動して制御できるように設置されることも可能であるが(後述する)、本実施形態において、体積物浸漬機構8と下地板浸漬機構6とは、別個独立した機構であって、独立して制御される。互いの機構の動作は、互いに干渉しないように、下地板浸漬機構6が起動している間には、体積物浸漬機構8は下地板浸漬機構6の該起動に干渉しない位置で停止しており、体積物浸漬機構8を起動する際には、下地板浸漬機構6は体積物浸漬機構8の該起動を干渉しない位置で停止させるよう設計されていることが好ましい。下地板浸漬機構6と体積物浸漬機構8との設置形態と動作とについて、図1(a)、図1(b)に基づいて説明するが、これに限定されるものではない。まず、図1(a)に示す下地板浸漬機構6は水平方向x軸、垂直方向y軸で定義される平面内を自由に移動できる。下地板浸漬機構6が起動している間には、体積物浸漬機構8は、下地板浸漬機構6の該起動に干渉しない3次元空間の所定の場所に停止している。下地板浸漬機構6の該起動に干渉しなければ、体積物浸漬機構8が停止する位置は、該水平方向x軸の延長上、該垂直方向y軸の延長上であってもよい。そして体積物浸漬機構8が起動する際には、下地板浸漬機構6の起動は停止させる。そして、下地板浸漬機構6が停止した際に、下地板浸漬機構6が体積物浸漬機構8の動作に干渉しない場合を除き、下地板浸漬機構6が体積物浸漬機構8の動作を干渉しない程度にまで、下地板浸漬機構6と坩堝2の融液1との間に距離をとる必要がある。該距離をとるためには例えば、坩堝2を移動させるか、下地板浸漬機構6を移動させる。そして、図1(b)に示すように、体積物浸漬機構8は、体積物浸漬機構8が保持する体積物71を融液1に浸漬させることによって、体積物71の浸漬前融液面の高さAは、融液面の高さが凝固物Gを覆うところまで上昇した浸漬融液面の高さBとなる。凝固物Gが溶融するまで、融液面の高さが、浸漬融液面の高さBの位置を保持されることが好ましい。
【0026】
〔体積物の形状〕
体積物71は、凝固物Gを溶融するために十分な程度に融液面を上昇させることが可能な体積を有するものである。体積物71は、前述した理由から融液1から引き上げられる際、融液面が液ゆれしにくい形状を有することが好ましい。図3(a)は、本発明における体積物の好ましい一形態を示した斜視図であり、図4は、本発明における体積物の好ましい一形態を示した斜視図である。融液1から体積物71を引き上げる際の融液面の液ゆれを防ぐために、体積物71の外部の形状は、例えば図3(a)、図4に示すような形態をとることが好ましい。
【0027】
図3(a)、図4に示すように、体積物71は、融液1に接触する底部に融液面の水平方向に対して傾斜を有することが好ましい。ここで、体積物71の底部とは、体積物71を体積物浸漬機構8に保持し、融液に浸漬する直前における一番融液1に近く、かつ体積物71を融液1に浸漬した際に実際に融液1に接する部分のことをいう。図3(a)において、体積物71は、融液面に対して底部に平面的な傾斜をつけることにより、融液面に浸漬する際の融液1の体積物71の底部に対する抵抗力を小さくすることができる。また融液1から引き上げる際の液切れをスムーズにする。そして、結果として融液面の液ゆれを抑制することができる。ここで、図3(b)は、図3(a)に示す体積物71が、融液1を保持する坩堝2に浸漬させられたのち、体積物71を垂直方向に移動させた時に、融液1から体積物71が引き上げられ、脱出する瞬間における状態を示した断面図である。図3(a)および図3(b)に示された体積物71は、図3(b)に示される状態のとき、底部に形成された辺E1E2が最後に融液1から脱出することとなる。該辺より先に融液面から脱出し、かつ頂点E1および頂点E2とそれぞれ1辺を形成する頂点を頂点F1およびF2としたとき、面E1E2F2F1と水平方向との間に形成される角度をθ1とすると、θ1=5〜45度、好ましくは15〜30度であることが好ましい。θ1がこの範囲の角度であるとき、該液切れをよりスムーズにできるためである。前述した底部に形成された、融液面から最後に脱出する辺E1E2は、底部のどこに形成されていてもよい。
【0028】
また、底部の傾斜の形状については、平面的であっても曲線的であってもよい。図4において、体積物71は底部に曲線的な傾斜をつけている。図4の体積物71は、融液1から脱出する瞬間底部の1点のみが融液面に接していることとなる。また、図4においては、曲線的な傾斜ではあるが、例えば体積物71を角錐型とすることによって、頭頂点が融液1から最後に脱出するように底部に傾斜を形成してもよい。また、別の形態として体積物71の底部に複数箇所突起を形成することで、融液1から脱出する瞬間には複数の点が融液面に接するようにしてもよい。
【0029】
ただし、前述した角度および傾斜をあまり大きくすると、体積物71の浸漬部分の体積が減少し、融液面の高さを上げるには体積物71を融液内に深く浸漬する必要が生じるため、坩堝2の深さと体積物71の大きさによって該傾斜の角度を決めることが好ましい。
【0030】
〔体積物の内部〕
体積物71は、融液1に浸漬されている間に吸熱反応によって体積物71は融液1の温度を低下させる恐れを有する。融液1の温度が低下すると、融液温度保持用の加熱ヒータ3の出力が増加することとなる。したがって、融液1の温度低下を防ぐために、体積物71は、例えば図5〜図7に示すような形態をとることが好ましい。
【0031】
図5は、直方体の体積物71の斜視図を示す。図6(a)は図5のVI(a)−VI(a)断面図である。図6(a)に示すように、体積物71は内側部9と外側部75とを有することが好ましい。体積物71は、幅L1を有する外側部75と、外側部75の内壁によってかたどられる内側部9とを有する。内側部9は、外側部75と異なる物質からなり、空気などの外側部75の材料より比熱が大きいものであることが好ましい。これは、内側部9は体積物71を融液1に浸漬させたときの体積物71による吸熱を抑制することができるためである。また、図6(a)においては内側部9を形成する内壁は平面状のものとして記載されているが、例えば凸凹状のものであってもよい。また、幅L1を調整することによって、体積物71の質量を小さくすることも可能である。なお、体積物71の材料の比重が大きい場合においては、体積物71の質量を小さく調整することによって体積物浸漬機構8の仕事量を軽減することも可能である。
【0032】
また、図6(b)は、体積物71の別の形態としての断面図を示す。図6(b)の内側部9として断熱材11が設置される場合、断熱材11の設置とは内壁に断熱材11を所定厚さ塗布することと、内側部9に断熱材11を充填することと双方の概念を含む。また、内壁に断熱材11を所定厚さ塗布し、その上から該断熱剤11の材料とは異なる別の材料からなる断熱材11をさらに塗布してもよい。本発明において、断熱材11とは、熱損失を少なくするための材料であって、好ましくは気孔の極めて多い組織を作って空気の断熱性を利用した有機物、無機物およびこれらの混合物をいう。具体的には、コルク、綿、フェルトおよび炭化コルクなどの有機質や、ガラス綿、スラグウール、ケイソウ土、炭酸マグネシウム粉および酸化マグネシウム粉などの無機物、並びにこれらの混合物が挙げられる。断熱材11の設置によって、体積物71全体の吸熱反応を抑えることができ、さらに前述した加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができる。
【0033】
次に、図7(a)、図7(b)に基づいて体積物71の形状について説明する。図7(a)および図7(b)は、体積物71の斜視図の一形態を示す。体積物71は、図7(a)のように、内側部9に開口部10を形成したものであってもよい。ここで開口部10とは、底部以外の部分に形成された内側部9を少なくとも一部開口した部分をいう。図7(a)のように開口部10を形成した場合、体積物71は、その外側部75で体積物浸漬機構8によって保持される。また、別の形態として、図7(b)に示すように、内側部9に断熱材11を設置してもよい。外部雰囲気の物質は、開口部10を設けられなければ体積物71に存在した外側部75の材料部分の比熱よりも大きいことが好ましい。この場合、開口部10によって、さらに加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができるためである。
【0034】
〔体積物の体積、材質〕
体積物71は、融液1に浸漬し融液面の高さを上げることで凝固物Gの少なくとも一部を融液1で覆うことが可能な体積を有する。
ここで図1(b)に示した浸漬前融液面の高さAと浸漬融液面の高さBとの差は、体積物71の浸漬によって、流体である融液1が排除されることにより形成される。そこで、例えば体積物71を浸漬する垂直方向の深さを小さくする場合には、この体積物71の体積は、坩堝2の大きさや坩堝2に保持された融液1の体積を考慮して決定することができる。
【0035】
体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分の材質は、薄板Sを製造する融液1の融点以上の耐熱性を有する必要がある。また、該材質は、製造される薄板Sの使用用途により、融液1を汚染しないものが好ましい。そこで、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分の材質、さらに好ましくは体積物71の材質は、融液1がシリコン融液である場合には、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素のいずれかであることが好ましい。しかし融液1の材料に応じて、炭化ケイ素、石英、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ジルコニウムまたは窒化アルミニウムなど適切な材質を選択することもできる。また、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分に、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素などで形成された膜を密着させ、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する表面を強化することも可能である。
【0036】
〔加熱機構〕
図8は、加熱機構を備える薄板製造装置を示す。体積物71は、上述したとおり融液1に浸漬されている間に吸熱反応によって体積物71は融液1の温度を低下させる恐れを有する。融液1の温度が低下するにしたがって、融液温度保持用の加熱ヒータ3の出力が増加することとなる。したがって、融液1の温度の低下を極力抑制するために、本発明の薄板製造装置は、図8のように体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分を加熱する加熱機構121を備えることが好ましい。加熱機構121とは、例えばヒータのようなものである。例えば、体積物浸漬機構8が単純に垂直方向にのみ稼動できる場合について図8に基づいて説明する。体積物71を加熱するための加熱機構121は、加熱機構搬送具13と接続されており加熱機構搬送具13によって水平方向に稼動できるよう設計されている。熱輻射による放熱Rを有する凝固物Gが成長した場合には、体積物71を融液1に浸漬する前に、体積物71を加熱可能な位置まで加熱機構121を水平方向に移動させる。そして同時に、体積物71を加熱機構121直上まで垂直方向に移動させる。加熱機構121にて体積物71の表面が例えば500℃〜体積物71の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物71の耐熱温度まで加熱する。加熱後は、体積物浸漬機構8および下地板浸漬機構(図示せず)の動作に干渉しない位置まで加熱機構121を水平方向に移動させ、体積物71を融液1に浸漬することができる。
【0037】
〔観測機構〕
本発明の薄板製造装置は、凝固物Gの成長と融液1とを観測する観測機構(図示せず)を備えることが好ましい。観測機構としては、例えば本発明の薄板製造装置を設置しているチャンバ(図示せず)に設けた覗き窓を通して、坩堝2全体もしくは坩堝2の内壁周辺を、目視もしくはCCDカメラなどの観測器具にて確認することが可能な機構が例示できる。覗き窓の位置や数はチャンバ、坩堝2、体積物71、体積物浸漬機構8の形状や配置から決定することができる。
【0038】
〔下地板浸漬機構〕
図1(a)に示す下地板浸漬機構6は、下地板5を保持し搬送させることができるものであって、融液1に下地板5を浸漬させるものである。下地板5は、下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に保持されてもよい。
【0039】
下地板浸漬機構6は水平方向x軸、垂直方向y軸で定義される平面内を自由に移動できるものであってもよいし、3次元空間を自由に移動できるものであってもよい。また、水平方向x軸および垂直方向y軸の移動は独立して制御されてもよいし、連動して制御されてもよい。例えば、垂直方向y軸の移動速度や移動距離の制御によって、下地板5を融液1に浸漬する深さ、融液1に浸漬する際の下地板5の傾斜角度(融液面を水平方向としたときの水平方向に対する角度)、下地板5を浸漬する時間などを制御することができる。また、水平方向x軸の移動速度や移動距離の制御によって、下地板5が融液1に浸漬する時間などを制御することができる。なお、下地板5を浸漬する際の該下地板5の傾斜角度、および融液1から脱出する際の該下地板5の傾斜角度は任意に調整しうる。
【0040】
下地板浸漬機構6の具体的な形態は、公知のものを応用することが可能である。
〔下地板〕
下地板5とは、下地板浸漬機構6で保持され、融液1に浸漬されることで表面に薄板Sが成長するものである。下地板5の材質は、特に限定されないが、熱伝導性の良い材料や耐熱性に優れた材料であることが好ましく、より好ましくは高純度処理を施された黒鉛が好ましい。他に例えば、炭化珪素、石英、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ジルコニウムまたは金属などを使用することが可能であるが、目的に応じて最適な材料を選択することができる。下地板5の表面、つまり薄板Sが形成される面は、平面状で平坦であることが好ましいが、特定の形状加工を施されていてもよい。例えば表面に微細な凹凸を形成することも可能である。
【0041】
なお、本発明の薄板製造装置において、坩堝2の材質は特に限定されず、熱伝導性がよく耐熱性に優れた材料等が好ましく用いられる。例えば、黒鉛は比較的安価であり、加工性に富む材質であるため好ましい。坩堝2の大きさは、下地板浸漬機構6の形態等に合わせて選択することができる。また、融液1の材料は特に限定されず、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、ヒ素、インジウム、リン、ホウ素、アンチモン、亜鉛およびスズなどの半導体材料、またはアルミニウム、ニッケルおよび鉄などの金属材料を使用することが可能である。融液1は、これら材料を加熱することによって溶融したものをいう。
【0042】
(実施の形態2):薄板製造装置
〔薄板製造装置の全体構成〕
本発明の薄板製造装置の一実施形態の全体構成について、体積物72が融液1に浸漬する前の状態を示す図9(a)を参照して説明するが、基本構成は、同じであるため同一部分は説明を省略する。また、以下の図面において実施の形態1と同じの構成については、符号を同じくする。
【0043】
本実施形態において、実施の形態1と異なる点は凝固物溶融機構80の形態である。凝固物溶融機構80は、体積物72と体積物浸漬機構とからなり、体積物浸漬機構と下地板浸漬機構6とは同一物である。つまり、下地板浸漬機構6が体積物浸漬機構の働きも兼ね、凝固物溶融機構80は体積物72と下地板浸漬機構6を備える。下地板浸漬機構6は、下地板(図9には図示せず)を保持し搬送させることができると同時に、体積物を保持し搬送させることができる。
【0044】
〔凝固物溶融機構〕
凝固物溶融機構80は、体積物浸漬機構の働きを兼ねる下地板浸漬機構6と体積物72とを備える。体積物浸漬機構として下地板浸漬機構6を用いることにより、薄板製造装置の簡略化ができる。このとき、下地板浸漬機構6は、下地板と着脱可能であって、かつ体積物72と着脱可能な形態であることが好ましい。これは、薄板製造装置において下地板浸漬機構6の所望のところに適宜、体積物72を備えることができるためである。そして、薄板の製造と凝固物Gの溶融が連続的に可能となるためである。
【0045】
そして、体積物72と下地板浸漬機構6とは適宜、下地板固定具4で固定される形態をとることが可能である。
【0046】
〔下地板浸漬機構〕
本実施形態の下地板浸漬機構6は、体積物浸漬機構としての働きも兼ねる。図9(a)、図9(b)および図9(c)に基づいて以下、下地板浸漬機構6について説明する。図9(b)は、下地板浸漬機構6が体積物72を融液1に浸漬する状態を示す図であり、図9(c)は、下地板浸漬機構6が体積物72を融液1から引き上げる状態を示す図である。まず、図9(a)に示すように、下地板浸漬機構6は、下地板(図示せず)を保持し搬送させることができるものであって、融液1に下地板5を浸漬させるものをいう。そして本実施形態において、下地板浸漬機構6は、体積物72を保持し搬送させ体積物72を融液1に浸漬させることができる。下地板および体積物72が、下地板浸漬機構6と着脱可能であることが好ましいことは前述したが、下地板固定具4を介して下地板および体積物72が、下地板浸漬機構6と着脱可能な形態をとってもよい。本形態において、下地板固定具4は下地板浸漬機構6に固定、若しくは接続されており、かつ下地板および体積物72と着脱可能な部材が好ましい。好ましい着脱可能な下地板浸漬機構6と下地板固定具4と体積物72との形態の一例は、図10に示されるような形態である。図10は、下地板浸漬機構6および、下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に保持される体積物72の一実施形態を示した断面図である。下地板浸漬機構6は、下地板固定具4と接続されている。該接続は、接着されて取り外せないものであってもよいし、取り外し可能であってもよいが、強固な保持力を有することが好ましい。下地板固定具4には凹部41aを備える。一方、体積物72には凸部41bとを備え、凸部41bは該凹部41aと相互に嵌合させることができる。該嵌合で、下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6と体積物72が固定される。なお、図示はしないが、下地板において、凸部41bと同じ寸法であって凹部41aと嵌合することが可能な凹部が形成され、結果として下地板浸漬機構6と下地板とが着脱可能であることが好ましい。
【0047】
下地板浸漬機構6は水平方向x軸、垂直方向y軸で定義される平面内を自由に移動できるものであってもよいし、3次元空間を自由に移動できるものであってもよい。また、水平方向x軸および垂直方向y軸の移動は独立して制御されてもよいし、連動して制御されてもよい。そして、下地板浸漬機構6は、体積物72が融液面に浸漬する前、浸漬する時、融液面から引き上げる時および引き上げ後の体積物72の動きを制御することができる。図9(b)に示すように、下地板浸漬機構6が保持する体積物72を融液1に浸漬させることによって、体積物72の浸漬前融液面の高さAは、融液面の高さが凝固物Gを覆うところまで上昇した浸漬融液面の高さBとなる。凝固物Gが溶融するまで、融液面の高さが、浸漬融液面の高さBの位置を保持されるように、下地板浸漬機構6の動作を制御できることが好ましい。
【0048】
さらに、下地板浸漬機構6は、体積物72を融液面に浸漬する際の体積物72の傾斜角度(融液面を水平方向としたときの水平方向と底部とが形成する角度)および融液面から引き上げる際の体積物72の傾斜角度を制御できることが好ましい。上述した融液面の液ゆれを可能な限り抑制するために効果的であるためである。例えば、体積物72が直方体である場合には、体積物72が融液面に浸漬する際の体積物72の傾斜角度は、5〜30度、および体積物72が融液面から脱出する際の体積物72の傾斜角度は15〜45度であることが好ましい。
【0049】
なお、下地板浸漬機構6の具体的な形態は、公知のものを応用することが可能である。
〔体積物の形状〕
体積物72は、凝固物Gを溶融するために十分な程度に融液面を上昇させることが可能な体積を有するものである。体積物72は、上述した理由で、融液1から引き上げられる際、融液面が液ゆれしにくい形状を有することが好ましい。融液面の液ゆれを抑制するためには、上述したとおり、体積物72が融液面に浸漬する際および体積物72が融液面から脱出する際の融液1に接触する底部は、融液面に対して傾斜を有することが好ましい。ここで本実施の形態においては、体積物浸漬機構は下地板浸漬機構6である。したがって、例えば体積物72が直方体の形状であった場合にも、下地板浸漬機構6の動作によって、進行方向後方の一辺が最後に融液から脱出することとなることが好ましい。好ましくは、体積物72が融液面から脱出するときの水平方向と底部とで形成される傾斜角度が15〜45度となるように、下地板浸漬機構6の軌跡と体積物72の形状とを設計することが好ましい。
【0050】
〔加熱機構〕
実施の形態1で上述したとおり、本発明の薄板製造装置は、加熱機構を設けることが好ましいため、以下、図11に基づいて、加熱機構の一例について説明する。図11は、加熱機構を備える薄板製造装置を示す。本実施の形態において、体積物72は下地板浸漬機構6によって搬送される。そこで、例えば体積物72を搬送する軌跡の妨げにならず、かつ体積物72を加熱可能な位置に、加熱機構122は固定設置されることができる。そして、加熱機構122は体積物72を融液1に浸漬する前に、体積物72の表面を加熱する。このとき、体積物72の表面が一定温度、例えば500℃〜体積物72の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物72の耐熱温度になるまで、加熱機構122が加熱可能な位置で体積物72の搬送を停止することが好ましい。なお、下地板浸漬機構6が下地板(図示せず)を搬送するときには、加熱機構122は加熱を停止することが好ましい。
【0051】
ここで、本実施の形態において、下地板や体積物の材質および観測機構等、特に言及していない構成に関しては、実施の形態1と同様のものを使用することが可能である。
【0052】
(実施の形態3):薄板製造方法
本発明の薄板製造方法は、下地板浸漬工程と凝固物溶融工程とを含み、加熱工程を含むことが好ましい。
【0053】
以下、薄板製造方法の一実施形態として、シリコンの融液からシリコンの薄板を製造する場合を例にして説明する。以下、図1を参照して説明する。なお、図示はしていないが、図1に示された薄板製造装置は、チャンバ内に設置されているものとする。チャンバは公知のものを用いることができる。ここで、該下地板浸漬工程の前に任意に実施される準備工程を説明してから、本発明の薄板製造方法の各工程について説明する。
【0054】
〔準備工程〕
図1(a)に基づいて説明する。
【0055】
製造される薄板Sが半導体の場合に不純物濃度が所望の値になるように不純物濃度の調整を行なったシリコン原料を、高純度黒鉛などからなる坩堝2に必要な量充填する。このとき不純物の種類をコントロールすることで製造される薄板Sをp型とするかn型とするかの制御が可能である。また、導入する不純物の量をコントロールすることで薄板Sの比抵抗を制御することが可能である。
【0056】
次に、チャンバ内を200×10-5Pa程度の圧力まで減圧する。その後、チャンバ内にArガスを導入し、常に2L/minでチャンバ上部よりArガスを流したままにする。
【0057】
次に、融液温度保持用の加熱ヒータ3の加熱温度を1450〜1500℃程度にし、坩堝2内のシリコン原料を完全に溶融状態にする。このとき、固体のシリコン原料は溶融することで体積が減少するため、シリコン原料が全て溶融した段階で必要であれば、融液面が、坩堝2上で所望の位置になるように、新たにシリコン原料を投入してもよい。融液温度保持用の加熱ヒータ3の加熱温度は、一度に1450〜1500℃程度に上げるのではなく、1300℃位まで10〜50℃/minの昇温速度で上げて、その後、所定の加熱温度まで上げることが好ましい。これは、急激に加熱ヒータ3の加熱温度を上げて、高温で坩堝2を加熱すると、坩堝2の角部などに集中的に熱応力がかかり、坩堝2の破損につながるためである。
【0058】
その後、加熱ヒータ3を加熱温度を調整することでシリコンの融液1の設定温度が1430℃程度となるように調整し、そのまま30分間程度、設定温度を1430℃程度で保持し、融液1の設定温度の安定化を図る。このときの融液1の設定温度は、融点以上、1500℃以下程度が好ましい。本実施の形態において、シリコンの融点が1410℃付近であるため、シリコンの融液1の設定温度を下げすぎると融液1の低温部分で凝固が発生する。また、一般に融液1の設定温度が1500℃を越えると、得られる薄板Sの成長速度が遅くなり、生産性が悪くなるため好ましくない。ここで、チャンバ上部よりArガスを流し続けているため、清浄なシリコンの融液1の融液面を得ることができる。
【0059】
〔下地板浸漬工程〕
下地板浸漬工程は、坩堝2に保持された融液1に下地板5を浸漬させて下地板5の表面に融液1を凝固させて、下地板5の表面に薄板Sを成長させる。下地板5を保持した下地板浸漬機構6を起動することで、薄板Sが製造される工程である。下地板5の材質は特に限定されないが、電子デバイスに用いられるシリコンの薄板Sを成長させるような場合には、薄板S中に不必要な不純物などが混入するなどの悪影響が出ない材料が好ましい。
【0060】
また、連続して薄板Sを製造し続けた場合に、融液1が減少し融液面が低下するため、ある所定のタイミングでシリコン原料の追加投入を行なう必要がある。シリコン原料の追加投入の際には、シリコンの融液1の設定温度を例えば1500℃程度まで上げ、一旦保持することが好ましい。そして、再度下地板5の浸漬を開始する際には、さらにシリコンの融液1の設定温度を下げて、例えば1430℃程度でしばらくの間、シリコンの融液1の温度が安定化するのを待つことが好ましい。
【0061】
〔凝固物溶融工程〕
以下、図1(b)に基づいて凝固物溶融工程について説明する。
【0062】
連続して薄板Sを製造し続けた場合に、坩堝2の内壁の上部に放熱Rを有する凝固物Gが成長し、やがて下地板浸漬機構6の動作に干渉するようになる。場合によっては、凝固物Gが、下地板浸漬機構6や下地板5に接触し、薄板製造装置に破損を引き起こす可能性がある。また、凝固物Gが成長した状態で薄板Sの製造を続けると、下地板5の表面上に成長した薄板Sに凝固物Gがあたって割れや落下が起こる可能性がある。
【0063】
そこで、凝固物溶融工程では、坩堝2の内壁上部に成長した凝固物Gを溶融する。凝固物溶融工程は、少なくとも体積物浸漬工程を備える。以下、体積物浸漬工程について説明する。まず、凝固物Gが下地板浸漬機構6と下地板5と薄板Sとに干渉するようになる前に、薄板Sの製造を停止する。このとき、下地板浸漬機構6は体積物浸漬機構8の起動を干渉しない所定の位置で停止していることが好ましい。そして、融液面を上げるために体積物浸漬機構8を起動させ、体積物71を搬送させる。体積物71を融液1に浸漬することで、融液面の高さが凝固物Gを覆う浸漬融液面の高さBにまで上げて凝固物Gが溶融するまでそのまま体積物71を保持する。体積物71を浸漬する際の融液1の設定温度の値は、凝固物Gの溶融速度と、体積物71を引き上げた後にシリコンの融液1を設定温度に安定化させる(後述)ために必要な時間との兼ね合いで決めることができる。また、体積物71を融液1に浸漬する前に、体積物71を融液1の直上で一旦保持し、体積物71の表面の温度を上げた後、融液1に浸漬することが好ましい。体積物71の吸熱反応で融液1の温度が下がることによる、加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができるためである。
【0064】
以下、図1(c)に基づいて、凝固物溶融工程の説明を続ける。
体積物71を融液1に浸漬した後に、融液1から引き上げる際には、体積物浸漬機構8の動作をゆっくり行なうことにより、融液面の液ゆれを可能な限り抑制することが必要である。特に体積物71を引き上げる際の融液面の液ゆれが大きいと、坩堝2の内壁に飛び散り、新たな凝固物Gの成長の起点となりうるためである。また融液1の液面が大きく波立っていると、下地板5の表面に形状のよい薄板Sが成長しにくくなるため、波立ちが収まるまで薄板Sの製造を停止することが好ましい。
【0065】
凝固物Gが溶融した後、体積物71を下地板浸漬機構(図示せず)の動作に干渉しない位置まで移動させる。そして、融液1の温度は薄板Sを製造していたときの設定温度になるように加熱ヒータ3の加熱温度を設定し、融液1の温度を該設定温度に安定化させる。
【0066】
ここで、体積物浸漬工程を実施するタイミングとしては、凝固物Gが、下地板浸漬機構6の動作に干渉し始める直前に実施することが好ましい。ただし、坩堝2の内壁から所定の位置まで凝固物Gの成長が進んだ時点で実施してもよいし、薄板Sの製造を所定枚数行なった時点で定期的に実施してもよい。また、体積物71を融液1に浸漬するタイミング以前、例えばシリコン原料を追加投入し、加熱ヒータ3の加熱温度を上げる必要が生じた時に、同時に体積物浸漬工程を実施することも好ましい。そして、体積物浸漬工程を実施するタイミングは、上述した観測機構で凝固物Gの成長を観測することによって判断することが可能である。
【0067】
〔加熱工程〕
本発明の薄板製造方法は、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分を加熱する加熱工程を体積物浸漬工程の前に備えることが好ましい。図8を例に説明する。体積物71を融液1に浸漬する前に、体積物71を加熱可能な位置まで加熱機構121を移動させると同時に、体積物71を加熱機構121直上まで移動させる。加熱機構121は、例えばヒータのようなものである。そして、加熱機構121で体積物71の表面が例えば500℃〜体積物71の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物71の耐熱温度になるまで加熱する。該加熱の後は、加熱機構121を体積物浸漬機構8および下地板浸漬機構(図示せず)の動作に干渉しない位置まで移動させ、体積物71を融液1に浸漬することができる。加熱工程を設けることで、体積物71を浸漬した際の、体積物71の吸熱反応で融液1の温度が低下することを抑制することができる。そして、融液温度保持用の加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができる。
【0068】
なお、材料がシリコンでない場合には、その融液の材料に応じて体積物の材質、チャンバ内のガス種および温度条件を決めることができる。
【0069】
(実施の形態4):薄板製造方法
本発明の薄板製造方法の一実施形態について、体積物72が融液1に浸漬する前の状態を示す図9(a)、図9(b)、図9(c)を参照して説明するが、基本的な工程は、同じであるため同一部分は説明を省略する。本実施形態において、実施の形態3と異なる点は凝固物溶融工程および加熱工程である。
【0070】
〔凝固物溶融工程〕
図9(a)に基づいて以下説明する。
【0071】
本実施形態において用いられる薄板製造装置は、体積物浸漬工程に用いる体積物浸漬機構が下地板浸漬機構6の働きを兼ねたものとすることができる。また、体積物72は下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に固定されており、体積物72は下地板固定具4と着脱可能であり、下地板(図示せず)も下地板固定具4と着脱可能である。
【0072】
したがって、本実施形態においては、下地板浸漬工程と体積物浸漬工程とを同時に行なうことが可能である。ここで、下地板浸漬工程において、下地板を固定した複数の下地板浸漬機構を連続して起動させることで、連続して薄板が製造される場合を例に挙げて説明する。連続して薄板を製造することで、所定の枚数の薄板を製造したとき、凝固物Gが下地板浸漬機構6と下地板と薄板とに干渉するようになる。そこで、複数の連続して起動する下地板浸漬機構6と下地板とが該所定の枚数製造した後に、下地板浸漬機構6が体積物72を融液1に浸漬させることができるように、複数の下地板浸漬機構6における所定の位置に体積物72を固定する。下地板浸漬機構6と体積物72とは着脱可能であるために、凝固物Gの成長の速度によって定期的に体積物72が浸漬するよう連続して起動する複数の下地板浸漬機構6のなかで体積物72を固定する位置を設計する。なお、体積物72を融液1に浸漬する前に、体積物72を融液1の上で一旦保持し、体積物72の表面の温度を上げた後、融液1に浸漬することが好ましい。体積物72の吸熱反応で融液1の温度が下がることによる、加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができるためである。
【0073】
次に図9(b)に基づいて説明する。
融液面を上げるために体積物72を融液1に浸漬することで、融液面の高さが凝固物Gを覆う浸漬融液面の高さBにまで上げて凝固物Gが溶融するまで体積物72を保持することが好ましい。したがって、体積物72が融液1に浸漬しているときには、下地板浸漬機構6の動作を停止させることが好ましい。
【0074】
以下、図9(c)に基づいて、凝固物溶融工程の説明を続ける。
凝固物Gが溶融した後、体積物72を下地板浸漬機構6の動作に干渉しない位置まで移動させる。そして、融液1の温度は薄板Sを製造していたときの設定温度になるように加熱ヒータ3の加熱温度を設定し、融液1の温度を該設定温度に安定化させる。
【0075】
体積物72を融液1に浸漬した後に、融液1から引き上げる際には、体積物浸漬機構8の動作をゆっくり行なうことにより、融液面の液ゆれを可能な限り抑制することが必要である。
【0076】
〔加熱工程〕
本発明の薄板製造方法は、上述したとおり体積物72の少なくとも融液1に浸漬する部分を加熱する加熱工程を体積物浸漬工程の前に備えることが好ましい。図11を例に説明する。体積物72を融液1に浸漬する前に、体積物72を搬送する軌跡の妨げにならず、かつ体積物を加熱可能な位置に、固定設置された加熱機構122で体積物72を加熱する。そして、加熱機構121にて体積物72の表面が例えば500℃〜体積物72の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物72の耐熱温度になるまで加熱する。下地板浸漬機構6は、加熱可能な位置で体積物72の搬送を停止することがより好ましい。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】(a)は、坩堝の内壁に凝固物Gが存在する状態を示す断面図であり、(b)は、体積物浸漬機構が体積物を融液に浸漬する状態を示す断面図であり、(c)は、体積物浸漬機構が体積物を融液から引き上げる状態を示す断面図である。
【図2】(a)は体積物浸漬機構および体積物浸漬機構に保持された体積物の側面図であり、(b)は体積物浸漬機構および体積物浸漬機構に保持された体積物の正面図である。
【図3】(a)は、体積物の好ましい一形態を示した斜視図であり、(b)は、図3(a)に示す体積物71が、融液を保持する坩堝に浸漬させられたのち、体積物を垂直方向に移動させた時に、融液から体積物が引き上げられ、脱出する瞬間における状態を示す断面図である。
【図4】体積物の好ましい一形態を示した斜視図である。
【図5】直方体の体積物の斜視図である。
【図6】(a)は、図5のVI(a)−VI(a)断面図であり、(b)は、図5のVI(a)−VI(a)断面の別の形態としての断面図である。
【図7】(a)および(b)は、体積物の好ましい一形態を示した斜視図である。
【図8】加熱機構を備える薄板製造装置の一形態を示す断面図である。
【図9】(a)は、体積物が融液に浸漬する前の状態を示す断面図であり、(b)は、下地板浸漬機構が体積物を融液に浸漬する状態を示す断面図であり、(c)は、下地板浸漬機構が体積物を融液から引き上げる状態を示す断面図である。
【図10】下地板浸漬機構および、下地板固定具を介して下地板浸漬機構に保持される体積物の一形態を示した断面図である。
【図11】加熱機構を備える薄板製造装置の一形態を示す断面図である。
【図12】従来の薄板製造装置の一形態を示す断面図である。
【図13】(a)および(b)は、凝固物が発生した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 融液、2 坩堝、3 加熱ヒータ、4 下地板固定具、5 下地板、6 下地板浸漬機構、8 体積物浸漬機構、9 内側部、10 開口部、11 断熱材、13 加熱機構搬送具、41a 凹部、41b 凸部、70,80 凝固物溶融機構、71,72 体積物、75 外側部、81 調整ネジ、82 フック、83 搬送具、84 溝、121,122 加熱機構、L1 幅、A 浸漬前融液面の高さ、B 浸漬融液面の高さ、E1,E2,F1,F2 頂点、G 凝固物、R 放熱、S 薄板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝に保持した融液に下地板を浸漬させることにより下地板の表面に薄板を成長させ、坩堝の内壁に生じた凝固物を溶融させる薄板製造装置および薄板製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の薄板製造装置の1つとして、例えば特許文献1に開示される「薄板製造装置および薄板製造方法」が挙げられる。この開示された薄板製造装置は、下地板を融液に接触させることで、下地板の表面に薄板を製造するもので、下地板を水平方向および垂直方向に搬送することができる。そして、水平方向の搬送手段と垂直方向の搬送手段は別々に制御されることで下地板の軌道を最適化したものである。
【0003】
また、別に従来の薄板製造装置の1つとして、例えば特許文献2に開示される「薄板製造装置および薄板製造方法」が挙げられる。この開示された薄板製造装置は、下地板を融液に接触させることで、下地板の表面に薄板を製造するもので、融液の原料の追加、追加融液の温度調整、融液の温度調整、融液温度の安定化および下地板浸漬動作を同時に行なうことで薄板の生産性を向上させるものである。
【0004】
これらの薄板製造装置は、共通して融液に下地板を浸漬し、下地板の表面に薄板を形成することが可能な薄板製造装置であり、融液から直接薄板を製造できるという特徴を持っている。ここで、該特徴について従来の薄板製造装置の一形態を示した図12に基づいて従来の薄板製造装置について以下説明する。
【0005】
融液1は坩堝2に保持されており、加熱ヒータ3で加熱することによって、融液1の温度を自在に設定することができる。下地板5は下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に固定されている。下地板浸漬機構6によって、下地板5は搬送され融液1に浸漬される。下地板5は融液1に浸漬されることで下地板5の表面には融液1が付着し、それが凝固することで下地板5の表面に薄板Sが形成される。
【特許文献1】特開2003−59849号公報
【特許文献2】特開2004−331429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の薄板製造装置を用いて薄板を製造した場合、下地板を融液に浸漬する動作により、融液が波立ち、融液を保持する坩堝内壁の上部に融液がかかり、融液面よりも少し上部で凝固物が発生する。図13(a)、図13(b)は、凝固物Gが発生した状態を示した図である。以下、図13(a)、13(b)を参照して説明する。図13(a)に示すように凝固物が発生し始めてまだ小さいうちは特に薄板製造装置の作動の問題にはならない。しかし、下地板(図示せず)を融液1に浸漬すると融液面がゆれるため、坩堝2の内壁の定常状態での融液面より上の部分に融液1がかかる。融液面よりも上部の坩堝2の内壁部分では放熱Rのため温度が低くなっており融液1が凝固しやすい状態になっているため、一度凝固が始まると融液1よりも固体である凝固物Gの方が輻射率が高いため、さらにその部分の低温化が進み、凝固を促進することになる。このようなメカニズムで凝固物Gは徐々に大きくなり、図13(b)のような状態になる。そして、最終的には下地板浸漬機構(図示せず)の動作を阻害するようになる。このような状態にまで凝固物Gが成長すると、融液1の温度を加熱ヒータ3で加熱して上げたとしても凝固物Gの上面からの放熱Rでエネルギーが逃げてしまい、凝固物Gを完全に溶かすことが出来なくなる。このような凝固物Gが生じると、下地板浸漬機構の動作に凝固物Gが干渉するようになり、継続的に薄板Sを製造することができない。
【0007】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、融液を保持するための坩堝と下地板と下地板を融液に浸漬するための下地板浸漬機構とを備え、融液に下地板を浸漬させることにより、下地板の表面に融液を凝固させることで、下地板表面に薄板を成長させる薄板製造装置であって、坩堝の内壁上に形成された融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える薄板製造装置に関する。
【0009】
そして、本発明の薄板製造装置は、凝固物溶融機構は、融液に浸漬することで融液面の高さを上げ凝固物の少なくとも一部を融液で覆うことが可能な体積を有する体積物と、体積物を融液に浸漬するための体積物浸漬機構とを備える。
【0010】
本発明の薄板製造装置は、体積物浸漬機構が下地板浸漬機構に対して独立して制御されるものに関する。または、本発明の薄板製造装置は、下地板浸漬機構が体積物浸漬機構を兼ねるものに関する。また、本発明の薄板製造装置において、体積物の少なくとも融液に浸漬する部分の材質は、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素のいずれかであることが好ましい。また、本発明の薄板製造装置において、体積物は、融液に接触する底部に融液面の水平方向に対して傾斜を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の薄板製造装置において、体積物は、外側部と、外側部の材質より比熱が大きい物質で形成される内側部とからなることが好ましく、該体積物の該内側部が開口部を有することが好ましく、該内側部に断熱材を設置することが好ましい。
【0012】
また、本発明の薄板製造装置において、体積物の少なくとも融液に浸漬する部分を加熱する加熱機構を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明の薄板製造装置において、凝固物の成長と融液面とを観測する観測機構を備えることが好ましい。
【0014】
また、本発明の薄板製造方法は、下地板の表面に薄板を成長させるために坩堝に融液を保持して下地板を融液に浸漬する下地板浸漬工程と、坩堝の内壁上に形成された融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融工程とを含み、凝固物溶融工程は、体積物を融液に浸漬し融液面の高さを上げることで凝固物の少なくとも一部を融液で覆う体積物浸漬工程を含む薄板製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により通常では溶融が困難であった凝固物を確実に溶融することが可能となり、薄板を継続的に製造することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の薄板製造装置は、融液を保持するための坩堝と下地板と下地板を融液に浸漬するための下地板浸漬機構とを備える。そして、該薄板製造装置は、下地板浸漬機構により、融液に下地板を浸漬させることにより、下地板の表面に融液を凝固させ、下地板表面に薄板を成長させることで、薄板の製造をすることができる。そして、本発明の薄板製造装置は、薄板の製造を連続して行なうことによって、発生する坩堝の内壁上に形成された凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える。凝固物溶融機構は、下地板および下地板浸漬機構の動作の軌跡を妨げる凝固物を除去することができる。
【0017】
以下、この発明に基づいた各実施の形態における薄板製造装置および薄板製造方法について、図を参照しながら説明する。
【0018】
(実施の形態1):薄板製造装置
〔薄板製造装置の全体構成〕
本発明の薄板製造装置の一実施形態の全体構成について図1(a)、図1(b)を参照して説明する。図1(a)は、坩堝2の内壁に凝固物Gが存在する状態を示し、図1(b)は、体積物浸漬機構8が体積物71を融液1に浸漬する状態を示す図を示す。
【0019】
まず、図1(a)に基づいて、薄板製造装置の各構成について説明する。薄板製造装置は、融液1を保持するための坩堝2と、下地板5と、該下地板5を保持するとともに該下地板5を搬送して融液に浸漬することが可能な形状を有する下地板浸漬機構6とを備える。下地板5を融液1に浸漬し、該下地板5の表面に、融液1を凝固させることで、下地板5の表面に薄板Sを成長させることができる。そして、該薄板製造装置は、坩堝2の内壁の凝固物Gを溶融するための凝固物溶融機構(図1(a)には図示せず)を備える。
【0020】
次に、図1(b)に基づいて凝固物溶融機構70の各構成について説明する。該凝固物溶融機構70は、体積物71と、該体積物71を保持するとともに該体積物71を搬送して融液1に浸漬することが可能な形状を有する体積物浸漬機構8とを備える。本発明の薄板製造装置においては、凝固物溶融機構70は、体積物71を融液1に浸漬して融液面を上昇させることにより、坩堝2の内壁上に形成された融液1の材料を主成分とする凝固物Gを溶融するために備えられる。体積物71は、上記の凝固物Gを溶融するために十分な程度に融液面を上昇させることが可能な体積を有するものであれば良い。
【0021】
そして、薄板製造装置には、融液1を加熱するための加熱ヒータ3が適宜を設けられ、下地板5と下地板浸漬機構6とは下地板固定具4で固定される形態をとることが可能である。
【0022】
〔凝固物溶融機構〕
凝固物溶融機構70は、体積物浸漬機構8と体積物71とを備える。凝固物溶融機構70は、融液1への下地板5の浸漬動作の際に融液1が波立ち、融液1を保持する坩堝2の内壁の上部に融液1がかかることで融液面よりも少し上部で発生した凝固物Gを溶融するためのものである。なお凝固物Gとは、坩堝2の内壁に形成される、融液1材料由来のバリのことをいう。また、凝固物Gは、融液1の材料を主成分とするものであって、条件によって単結晶、多結晶、非晶質、および結晶質と非晶質とが混在した物質となるものなどが挙げられる。
【0023】
〔体積物浸漬機構〕
体積物浸漬機構8は、体積物71を保持し、融液面に対して少なくとも垂直方向に体積物71を搬送することが可能で、体積物71を融液1に浸漬させるものである。体積物浸漬機構8は、体積物71が融液面に浸漬する前、浸漬する時、融液面から引き上げる時および引き上げ後の体積物71の動きを制御することができる。体積物浸漬機構8は、該垂直方向にのみ移動できるものである場合には、体積物71が融液1に浸漬できるように、体積物71が移動可能である軌道上に坩堝2は、移動することができる。若しくは薄板製造装置は、体積物71が垂直方向に移動することで融液1に浸漬することができる位置に体積物浸漬機構8を設置することができる。
【0024】
図1(c)は、体積物浸漬機構8が体積物71を融液1から引き上げる状態を示す。以下、図1(c)に基づいて、融液面と体積物浸漬機構8の動作との関連について説明する。体積物71を融液1に浸漬したあとに融液1から引き上げる際には、その動作をゆっくり行なうことにより、融液面の液ゆれを可能な限り抑制することが好ましい。特に体積物71を引き上げる際の融液面の液ゆれが大きいと、坩堝2の内壁上に融液1が飛び散り、新たな凝固物G成長の起点となりうる。そこで、体積物浸漬機構8は安定して体積物71を保持することができ、浸漬の動作のスピードは、安定した一定の速度で制御されることが好ましい。また、体積物71が融液1から引き上げられる時だけではなく、体積物71が融液1に浸漬する時にも、可能な限り融液面の液ゆれを抑制することが好ましい。体積物浸漬機構8が体積物71を浸漬し、融液面が上昇している際に液ゆれが生じていると、坩堝2から高温の融液1が溢れ出す可能性があり、危険であるためである。したがって、好ましい体積物浸漬機構8としては例示として図2に示すような形態が挙げられる。図2(a)は体積物浸漬機構8および体積物浸漬機構8に保持された体積物71の側面図であり、図2(b)は体積物浸漬機構8および体積物浸漬機構8に保持された体積物71の正面図を示す。体積物浸漬機構8は、搬送具83、調整ネジ81およびフック82からなる。フック82を体積物71の側面に設けられた溝84に引っ掛けて体積物71と固定する。体積物71は体積物浸漬機構8に強固に保持されるため、ぐらつくことが無く体積物浸漬機構8の動作に従って、体積物71をゆっくり融液1に浸漬することが可能である。なお、動作のスピードは公知の方法で制御されることができる。
【0025】
次に、薄板製造装置における体積物浸漬機構8と下地板浸漬機構6との設置の関係について説明する。体積物浸漬機構8と下地板浸漬機構6とは、連動して制御できるように設置されることも可能であるが(後述する)、本実施形態において、体積物浸漬機構8と下地板浸漬機構6とは、別個独立した機構であって、独立して制御される。互いの機構の動作は、互いに干渉しないように、下地板浸漬機構6が起動している間には、体積物浸漬機構8は下地板浸漬機構6の該起動に干渉しない位置で停止しており、体積物浸漬機構8を起動する際には、下地板浸漬機構6は体積物浸漬機構8の該起動を干渉しない位置で停止させるよう設計されていることが好ましい。下地板浸漬機構6と体積物浸漬機構8との設置形態と動作とについて、図1(a)、図1(b)に基づいて説明するが、これに限定されるものではない。まず、図1(a)に示す下地板浸漬機構6は水平方向x軸、垂直方向y軸で定義される平面内を自由に移動できる。下地板浸漬機構6が起動している間には、体積物浸漬機構8は、下地板浸漬機構6の該起動に干渉しない3次元空間の所定の場所に停止している。下地板浸漬機構6の該起動に干渉しなければ、体積物浸漬機構8が停止する位置は、該水平方向x軸の延長上、該垂直方向y軸の延長上であってもよい。そして体積物浸漬機構8が起動する際には、下地板浸漬機構6の起動は停止させる。そして、下地板浸漬機構6が停止した際に、下地板浸漬機構6が体積物浸漬機構8の動作に干渉しない場合を除き、下地板浸漬機構6が体積物浸漬機構8の動作を干渉しない程度にまで、下地板浸漬機構6と坩堝2の融液1との間に距離をとる必要がある。該距離をとるためには例えば、坩堝2を移動させるか、下地板浸漬機構6を移動させる。そして、図1(b)に示すように、体積物浸漬機構8は、体積物浸漬機構8が保持する体積物71を融液1に浸漬させることによって、体積物71の浸漬前融液面の高さAは、融液面の高さが凝固物Gを覆うところまで上昇した浸漬融液面の高さBとなる。凝固物Gが溶融するまで、融液面の高さが、浸漬融液面の高さBの位置を保持されることが好ましい。
【0026】
〔体積物の形状〕
体積物71は、凝固物Gを溶融するために十分な程度に融液面を上昇させることが可能な体積を有するものである。体積物71は、前述した理由から融液1から引き上げられる際、融液面が液ゆれしにくい形状を有することが好ましい。図3(a)は、本発明における体積物の好ましい一形態を示した斜視図であり、図4は、本発明における体積物の好ましい一形態を示した斜視図である。融液1から体積物71を引き上げる際の融液面の液ゆれを防ぐために、体積物71の外部の形状は、例えば図3(a)、図4に示すような形態をとることが好ましい。
【0027】
図3(a)、図4に示すように、体積物71は、融液1に接触する底部に融液面の水平方向に対して傾斜を有することが好ましい。ここで、体積物71の底部とは、体積物71を体積物浸漬機構8に保持し、融液に浸漬する直前における一番融液1に近く、かつ体積物71を融液1に浸漬した際に実際に融液1に接する部分のことをいう。図3(a)において、体積物71は、融液面に対して底部に平面的な傾斜をつけることにより、融液面に浸漬する際の融液1の体積物71の底部に対する抵抗力を小さくすることができる。また融液1から引き上げる際の液切れをスムーズにする。そして、結果として融液面の液ゆれを抑制することができる。ここで、図3(b)は、図3(a)に示す体積物71が、融液1を保持する坩堝2に浸漬させられたのち、体積物71を垂直方向に移動させた時に、融液1から体積物71が引き上げられ、脱出する瞬間における状態を示した断面図である。図3(a)および図3(b)に示された体積物71は、図3(b)に示される状態のとき、底部に形成された辺E1E2が最後に融液1から脱出することとなる。該辺より先に融液面から脱出し、かつ頂点E1および頂点E2とそれぞれ1辺を形成する頂点を頂点F1およびF2としたとき、面E1E2F2F1と水平方向との間に形成される角度をθ1とすると、θ1=5〜45度、好ましくは15〜30度であることが好ましい。θ1がこの範囲の角度であるとき、該液切れをよりスムーズにできるためである。前述した底部に形成された、融液面から最後に脱出する辺E1E2は、底部のどこに形成されていてもよい。
【0028】
また、底部の傾斜の形状については、平面的であっても曲線的であってもよい。図4において、体積物71は底部に曲線的な傾斜をつけている。図4の体積物71は、融液1から脱出する瞬間底部の1点のみが融液面に接していることとなる。また、図4においては、曲線的な傾斜ではあるが、例えば体積物71を角錐型とすることによって、頭頂点が融液1から最後に脱出するように底部に傾斜を形成してもよい。また、別の形態として体積物71の底部に複数箇所突起を形成することで、融液1から脱出する瞬間には複数の点が融液面に接するようにしてもよい。
【0029】
ただし、前述した角度および傾斜をあまり大きくすると、体積物71の浸漬部分の体積が減少し、融液面の高さを上げるには体積物71を融液内に深く浸漬する必要が生じるため、坩堝2の深さと体積物71の大きさによって該傾斜の角度を決めることが好ましい。
【0030】
〔体積物の内部〕
体積物71は、融液1に浸漬されている間に吸熱反応によって体積物71は融液1の温度を低下させる恐れを有する。融液1の温度が低下すると、融液温度保持用の加熱ヒータ3の出力が増加することとなる。したがって、融液1の温度低下を防ぐために、体積物71は、例えば図5〜図7に示すような形態をとることが好ましい。
【0031】
図5は、直方体の体積物71の斜視図を示す。図6(a)は図5のVI(a)−VI(a)断面図である。図6(a)に示すように、体積物71は内側部9と外側部75とを有することが好ましい。体積物71は、幅L1を有する外側部75と、外側部75の内壁によってかたどられる内側部9とを有する。内側部9は、外側部75と異なる物質からなり、空気などの外側部75の材料より比熱が大きいものであることが好ましい。これは、内側部9は体積物71を融液1に浸漬させたときの体積物71による吸熱を抑制することができるためである。また、図6(a)においては内側部9を形成する内壁は平面状のものとして記載されているが、例えば凸凹状のものであってもよい。また、幅L1を調整することによって、体積物71の質量を小さくすることも可能である。なお、体積物71の材料の比重が大きい場合においては、体積物71の質量を小さく調整することによって体積物浸漬機構8の仕事量を軽減することも可能である。
【0032】
また、図6(b)は、体積物71の別の形態としての断面図を示す。図6(b)の内側部9として断熱材11が設置される場合、断熱材11の設置とは内壁に断熱材11を所定厚さ塗布することと、内側部9に断熱材11を充填することと双方の概念を含む。また、内壁に断熱材11を所定厚さ塗布し、その上から該断熱剤11の材料とは異なる別の材料からなる断熱材11をさらに塗布してもよい。本発明において、断熱材11とは、熱損失を少なくするための材料であって、好ましくは気孔の極めて多い組織を作って空気の断熱性を利用した有機物、無機物およびこれらの混合物をいう。具体的には、コルク、綿、フェルトおよび炭化コルクなどの有機質や、ガラス綿、スラグウール、ケイソウ土、炭酸マグネシウム粉および酸化マグネシウム粉などの無機物、並びにこれらの混合物が挙げられる。断熱材11の設置によって、体積物71全体の吸熱反応を抑えることができ、さらに前述した加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができる。
【0033】
次に、図7(a)、図7(b)に基づいて体積物71の形状について説明する。図7(a)および図7(b)は、体積物71の斜視図の一形態を示す。体積物71は、図7(a)のように、内側部9に開口部10を形成したものであってもよい。ここで開口部10とは、底部以外の部分に形成された内側部9を少なくとも一部開口した部分をいう。図7(a)のように開口部10を形成した場合、体積物71は、その外側部75で体積物浸漬機構8によって保持される。また、別の形態として、図7(b)に示すように、内側部9に断熱材11を設置してもよい。外部雰囲気の物質は、開口部10を設けられなければ体積物71に存在した外側部75の材料部分の比熱よりも大きいことが好ましい。この場合、開口部10によって、さらに加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができるためである。
【0034】
〔体積物の体積、材質〕
体積物71は、融液1に浸漬し融液面の高さを上げることで凝固物Gの少なくとも一部を融液1で覆うことが可能な体積を有する。
ここで図1(b)に示した浸漬前融液面の高さAと浸漬融液面の高さBとの差は、体積物71の浸漬によって、流体である融液1が排除されることにより形成される。そこで、例えば体積物71を浸漬する垂直方向の深さを小さくする場合には、この体積物71の体積は、坩堝2の大きさや坩堝2に保持された融液1の体積を考慮して決定することができる。
【0035】
体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分の材質は、薄板Sを製造する融液1の融点以上の耐熱性を有する必要がある。また、該材質は、製造される薄板Sの使用用途により、融液1を汚染しないものが好ましい。そこで、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分の材質、さらに好ましくは体積物71の材質は、融液1がシリコン融液である場合には、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素のいずれかであることが好ましい。しかし融液1の材料に応じて、炭化ケイ素、石英、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ジルコニウムまたは窒化アルミニウムなど適切な材質を選択することもできる。また、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分に、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素などで形成された膜を密着させ、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する表面を強化することも可能である。
【0036】
〔加熱機構〕
図8は、加熱機構を備える薄板製造装置を示す。体積物71は、上述したとおり融液1に浸漬されている間に吸熱反応によって体積物71は融液1の温度を低下させる恐れを有する。融液1の温度が低下するにしたがって、融液温度保持用の加熱ヒータ3の出力が増加することとなる。したがって、融液1の温度の低下を極力抑制するために、本発明の薄板製造装置は、図8のように体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分を加熱する加熱機構121を備えることが好ましい。加熱機構121とは、例えばヒータのようなものである。例えば、体積物浸漬機構8が単純に垂直方向にのみ稼動できる場合について図8に基づいて説明する。体積物71を加熱するための加熱機構121は、加熱機構搬送具13と接続されており加熱機構搬送具13によって水平方向に稼動できるよう設計されている。熱輻射による放熱Rを有する凝固物Gが成長した場合には、体積物71を融液1に浸漬する前に、体積物71を加熱可能な位置まで加熱機構121を水平方向に移動させる。そして同時に、体積物71を加熱機構121直上まで垂直方向に移動させる。加熱機構121にて体積物71の表面が例えば500℃〜体積物71の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物71の耐熱温度まで加熱する。加熱後は、体積物浸漬機構8および下地板浸漬機構(図示せず)の動作に干渉しない位置まで加熱機構121を水平方向に移動させ、体積物71を融液1に浸漬することができる。
【0037】
〔観測機構〕
本発明の薄板製造装置は、凝固物Gの成長と融液1とを観測する観測機構(図示せず)を備えることが好ましい。観測機構としては、例えば本発明の薄板製造装置を設置しているチャンバ(図示せず)に設けた覗き窓を通して、坩堝2全体もしくは坩堝2の内壁周辺を、目視もしくはCCDカメラなどの観測器具にて確認することが可能な機構が例示できる。覗き窓の位置や数はチャンバ、坩堝2、体積物71、体積物浸漬機構8の形状や配置から決定することができる。
【0038】
〔下地板浸漬機構〕
図1(a)に示す下地板浸漬機構6は、下地板5を保持し搬送させることができるものであって、融液1に下地板5を浸漬させるものである。下地板5は、下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に保持されてもよい。
【0039】
下地板浸漬機構6は水平方向x軸、垂直方向y軸で定義される平面内を自由に移動できるものであってもよいし、3次元空間を自由に移動できるものであってもよい。また、水平方向x軸および垂直方向y軸の移動は独立して制御されてもよいし、連動して制御されてもよい。例えば、垂直方向y軸の移動速度や移動距離の制御によって、下地板5を融液1に浸漬する深さ、融液1に浸漬する際の下地板5の傾斜角度(融液面を水平方向としたときの水平方向に対する角度)、下地板5を浸漬する時間などを制御することができる。また、水平方向x軸の移動速度や移動距離の制御によって、下地板5が融液1に浸漬する時間などを制御することができる。なお、下地板5を浸漬する際の該下地板5の傾斜角度、および融液1から脱出する際の該下地板5の傾斜角度は任意に調整しうる。
【0040】
下地板浸漬機構6の具体的な形態は、公知のものを応用することが可能である。
〔下地板〕
下地板5とは、下地板浸漬機構6で保持され、融液1に浸漬されることで表面に薄板Sが成長するものである。下地板5の材質は、特に限定されないが、熱伝導性の良い材料や耐熱性に優れた材料であることが好ましく、より好ましくは高純度処理を施された黒鉛が好ましい。他に例えば、炭化珪素、石英、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ジルコニウムまたは金属などを使用することが可能であるが、目的に応じて最適な材料を選択することができる。下地板5の表面、つまり薄板Sが形成される面は、平面状で平坦であることが好ましいが、特定の形状加工を施されていてもよい。例えば表面に微細な凹凸を形成することも可能である。
【0041】
なお、本発明の薄板製造装置において、坩堝2の材質は特に限定されず、熱伝導性がよく耐熱性に優れた材料等が好ましく用いられる。例えば、黒鉛は比較的安価であり、加工性に富む材質であるため好ましい。坩堝2の大きさは、下地板浸漬機構6の形態等に合わせて選択することができる。また、融液1の材料は特に限定されず、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、ヒ素、インジウム、リン、ホウ素、アンチモン、亜鉛およびスズなどの半導体材料、またはアルミニウム、ニッケルおよび鉄などの金属材料を使用することが可能である。融液1は、これら材料を加熱することによって溶融したものをいう。
【0042】
(実施の形態2):薄板製造装置
〔薄板製造装置の全体構成〕
本発明の薄板製造装置の一実施形態の全体構成について、体積物72が融液1に浸漬する前の状態を示す図9(a)を参照して説明するが、基本構成は、同じであるため同一部分は説明を省略する。また、以下の図面において実施の形態1と同じの構成については、符号を同じくする。
【0043】
本実施形態において、実施の形態1と異なる点は凝固物溶融機構80の形態である。凝固物溶融機構80は、体積物72と体積物浸漬機構とからなり、体積物浸漬機構と下地板浸漬機構6とは同一物である。つまり、下地板浸漬機構6が体積物浸漬機構の働きも兼ね、凝固物溶融機構80は体積物72と下地板浸漬機構6を備える。下地板浸漬機構6は、下地板(図9には図示せず)を保持し搬送させることができると同時に、体積物を保持し搬送させることができる。
【0044】
〔凝固物溶融機構〕
凝固物溶融機構80は、体積物浸漬機構の働きを兼ねる下地板浸漬機構6と体積物72とを備える。体積物浸漬機構として下地板浸漬機構6を用いることにより、薄板製造装置の簡略化ができる。このとき、下地板浸漬機構6は、下地板と着脱可能であって、かつ体積物72と着脱可能な形態であることが好ましい。これは、薄板製造装置において下地板浸漬機構6の所望のところに適宜、体積物72を備えることができるためである。そして、薄板の製造と凝固物Gの溶融が連続的に可能となるためである。
【0045】
そして、体積物72と下地板浸漬機構6とは適宜、下地板固定具4で固定される形態をとることが可能である。
【0046】
〔下地板浸漬機構〕
本実施形態の下地板浸漬機構6は、体積物浸漬機構としての働きも兼ねる。図9(a)、図9(b)および図9(c)に基づいて以下、下地板浸漬機構6について説明する。図9(b)は、下地板浸漬機構6が体積物72を融液1に浸漬する状態を示す図であり、図9(c)は、下地板浸漬機構6が体積物72を融液1から引き上げる状態を示す図である。まず、図9(a)に示すように、下地板浸漬機構6は、下地板(図示せず)を保持し搬送させることができるものであって、融液1に下地板5を浸漬させるものをいう。そして本実施形態において、下地板浸漬機構6は、体積物72を保持し搬送させ体積物72を融液1に浸漬させることができる。下地板および体積物72が、下地板浸漬機構6と着脱可能であることが好ましいことは前述したが、下地板固定具4を介して下地板および体積物72が、下地板浸漬機構6と着脱可能な形態をとってもよい。本形態において、下地板固定具4は下地板浸漬機構6に固定、若しくは接続されており、かつ下地板および体積物72と着脱可能な部材が好ましい。好ましい着脱可能な下地板浸漬機構6と下地板固定具4と体積物72との形態の一例は、図10に示されるような形態である。図10は、下地板浸漬機構6および、下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に保持される体積物72の一実施形態を示した断面図である。下地板浸漬機構6は、下地板固定具4と接続されている。該接続は、接着されて取り外せないものであってもよいし、取り外し可能であってもよいが、強固な保持力を有することが好ましい。下地板固定具4には凹部41aを備える。一方、体積物72には凸部41bとを備え、凸部41bは該凹部41aと相互に嵌合させることができる。該嵌合で、下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6と体積物72が固定される。なお、図示はしないが、下地板において、凸部41bと同じ寸法であって凹部41aと嵌合することが可能な凹部が形成され、結果として下地板浸漬機構6と下地板とが着脱可能であることが好ましい。
【0047】
下地板浸漬機構6は水平方向x軸、垂直方向y軸で定義される平面内を自由に移動できるものであってもよいし、3次元空間を自由に移動できるものであってもよい。また、水平方向x軸および垂直方向y軸の移動は独立して制御されてもよいし、連動して制御されてもよい。そして、下地板浸漬機構6は、体積物72が融液面に浸漬する前、浸漬する時、融液面から引き上げる時および引き上げ後の体積物72の動きを制御することができる。図9(b)に示すように、下地板浸漬機構6が保持する体積物72を融液1に浸漬させることによって、体積物72の浸漬前融液面の高さAは、融液面の高さが凝固物Gを覆うところまで上昇した浸漬融液面の高さBとなる。凝固物Gが溶融するまで、融液面の高さが、浸漬融液面の高さBの位置を保持されるように、下地板浸漬機構6の動作を制御できることが好ましい。
【0048】
さらに、下地板浸漬機構6は、体積物72を融液面に浸漬する際の体積物72の傾斜角度(融液面を水平方向としたときの水平方向と底部とが形成する角度)および融液面から引き上げる際の体積物72の傾斜角度を制御できることが好ましい。上述した融液面の液ゆれを可能な限り抑制するために効果的であるためである。例えば、体積物72が直方体である場合には、体積物72が融液面に浸漬する際の体積物72の傾斜角度は、5〜30度、および体積物72が融液面から脱出する際の体積物72の傾斜角度は15〜45度であることが好ましい。
【0049】
なお、下地板浸漬機構6の具体的な形態は、公知のものを応用することが可能である。
〔体積物の形状〕
体積物72は、凝固物Gを溶融するために十分な程度に融液面を上昇させることが可能な体積を有するものである。体積物72は、上述した理由で、融液1から引き上げられる際、融液面が液ゆれしにくい形状を有することが好ましい。融液面の液ゆれを抑制するためには、上述したとおり、体積物72が融液面に浸漬する際および体積物72が融液面から脱出する際の融液1に接触する底部は、融液面に対して傾斜を有することが好ましい。ここで本実施の形態においては、体積物浸漬機構は下地板浸漬機構6である。したがって、例えば体積物72が直方体の形状であった場合にも、下地板浸漬機構6の動作によって、進行方向後方の一辺が最後に融液から脱出することとなることが好ましい。好ましくは、体積物72が融液面から脱出するときの水平方向と底部とで形成される傾斜角度が15〜45度となるように、下地板浸漬機構6の軌跡と体積物72の形状とを設計することが好ましい。
【0050】
〔加熱機構〕
実施の形態1で上述したとおり、本発明の薄板製造装置は、加熱機構を設けることが好ましいため、以下、図11に基づいて、加熱機構の一例について説明する。図11は、加熱機構を備える薄板製造装置を示す。本実施の形態において、体積物72は下地板浸漬機構6によって搬送される。そこで、例えば体積物72を搬送する軌跡の妨げにならず、かつ体積物72を加熱可能な位置に、加熱機構122は固定設置されることができる。そして、加熱機構122は体積物72を融液1に浸漬する前に、体積物72の表面を加熱する。このとき、体積物72の表面が一定温度、例えば500℃〜体積物72の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物72の耐熱温度になるまで、加熱機構122が加熱可能な位置で体積物72の搬送を停止することが好ましい。なお、下地板浸漬機構6が下地板(図示せず)を搬送するときには、加熱機構122は加熱を停止することが好ましい。
【0051】
ここで、本実施の形態において、下地板や体積物の材質および観測機構等、特に言及していない構成に関しては、実施の形態1と同様のものを使用することが可能である。
【0052】
(実施の形態3):薄板製造方法
本発明の薄板製造方法は、下地板浸漬工程と凝固物溶融工程とを含み、加熱工程を含むことが好ましい。
【0053】
以下、薄板製造方法の一実施形態として、シリコンの融液からシリコンの薄板を製造する場合を例にして説明する。以下、図1を参照して説明する。なお、図示はしていないが、図1に示された薄板製造装置は、チャンバ内に設置されているものとする。チャンバは公知のものを用いることができる。ここで、該下地板浸漬工程の前に任意に実施される準備工程を説明してから、本発明の薄板製造方法の各工程について説明する。
【0054】
〔準備工程〕
図1(a)に基づいて説明する。
【0055】
製造される薄板Sが半導体の場合に不純物濃度が所望の値になるように不純物濃度の調整を行なったシリコン原料を、高純度黒鉛などからなる坩堝2に必要な量充填する。このとき不純物の種類をコントロールすることで製造される薄板Sをp型とするかn型とするかの制御が可能である。また、導入する不純物の量をコントロールすることで薄板Sの比抵抗を制御することが可能である。
【0056】
次に、チャンバ内を200×10-5Pa程度の圧力まで減圧する。その後、チャンバ内にArガスを導入し、常に2L/minでチャンバ上部よりArガスを流したままにする。
【0057】
次に、融液温度保持用の加熱ヒータ3の加熱温度を1450〜1500℃程度にし、坩堝2内のシリコン原料を完全に溶融状態にする。このとき、固体のシリコン原料は溶融することで体積が減少するため、シリコン原料が全て溶融した段階で必要であれば、融液面が、坩堝2上で所望の位置になるように、新たにシリコン原料を投入してもよい。融液温度保持用の加熱ヒータ3の加熱温度は、一度に1450〜1500℃程度に上げるのではなく、1300℃位まで10〜50℃/minの昇温速度で上げて、その後、所定の加熱温度まで上げることが好ましい。これは、急激に加熱ヒータ3の加熱温度を上げて、高温で坩堝2を加熱すると、坩堝2の角部などに集中的に熱応力がかかり、坩堝2の破損につながるためである。
【0058】
その後、加熱ヒータ3を加熱温度を調整することでシリコンの融液1の設定温度が1430℃程度となるように調整し、そのまま30分間程度、設定温度を1430℃程度で保持し、融液1の設定温度の安定化を図る。このときの融液1の設定温度は、融点以上、1500℃以下程度が好ましい。本実施の形態において、シリコンの融点が1410℃付近であるため、シリコンの融液1の設定温度を下げすぎると融液1の低温部分で凝固が発生する。また、一般に融液1の設定温度が1500℃を越えると、得られる薄板Sの成長速度が遅くなり、生産性が悪くなるため好ましくない。ここで、チャンバ上部よりArガスを流し続けているため、清浄なシリコンの融液1の融液面を得ることができる。
【0059】
〔下地板浸漬工程〕
下地板浸漬工程は、坩堝2に保持された融液1に下地板5を浸漬させて下地板5の表面に融液1を凝固させて、下地板5の表面に薄板Sを成長させる。下地板5を保持した下地板浸漬機構6を起動することで、薄板Sが製造される工程である。下地板5の材質は特に限定されないが、電子デバイスに用いられるシリコンの薄板Sを成長させるような場合には、薄板S中に不必要な不純物などが混入するなどの悪影響が出ない材料が好ましい。
【0060】
また、連続して薄板Sを製造し続けた場合に、融液1が減少し融液面が低下するため、ある所定のタイミングでシリコン原料の追加投入を行なう必要がある。シリコン原料の追加投入の際には、シリコンの融液1の設定温度を例えば1500℃程度まで上げ、一旦保持することが好ましい。そして、再度下地板5の浸漬を開始する際には、さらにシリコンの融液1の設定温度を下げて、例えば1430℃程度でしばらくの間、シリコンの融液1の温度が安定化するのを待つことが好ましい。
【0061】
〔凝固物溶融工程〕
以下、図1(b)に基づいて凝固物溶融工程について説明する。
【0062】
連続して薄板Sを製造し続けた場合に、坩堝2の内壁の上部に放熱Rを有する凝固物Gが成長し、やがて下地板浸漬機構6の動作に干渉するようになる。場合によっては、凝固物Gが、下地板浸漬機構6や下地板5に接触し、薄板製造装置に破損を引き起こす可能性がある。また、凝固物Gが成長した状態で薄板Sの製造を続けると、下地板5の表面上に成長した薄板Sに凝固物Gがあたって割れや落下が起こる可能性がある。
【0063】
そこで、凝固物溶融工程では、坩堝2の内壁上部に成長した凝固物Gを溶融する。凝固物溶融工程は、少なくとも体積物浸漬工程を備える。以下、体積物浸漬工程について説明する。まず、凝固物Gが下地板浸漬機構6と下地板5と薄板Sとに干渉するようになる前に、薄板Sの製造を停止する。このとき、下地板浸漬機構6は体積物浸漬機構8の起動を干渉しない所定の位置で停止していることが好ましい。そして、融液面を上げるために体積物浸漬機構8を起動させ、体積物71を搬送させる。体積物71を融液1に浸漬することで、融液面の高さが凝固物Gを覆う浸漬融液面の高さBにまで上げて凝固物Gが溶融するまでそのまま体積物71を保持する。体積物71を浸漬する際の融液1の設定温度の値は、凝固物Gの溶融速度と、体積物71を引き上げた後にシリコンの融液1を設定温度に安定化させる(後述)ために必要な時間との兼ね合いで決めることができる。また、体積物71を融液1に浸漬する前に、体積物71を融液1の直上で一旦保持し、体積物71の表面の温度を上げた後、融液1に浸漬することが好ましい。体積物71の吸熱反応で融液1の温度が下がることによる、加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができるためである。
【0064】
以下、図1(c)に基づいて、凝固物溶融工程の説明を続ける。
体積物71を融液1に浸漬した後に、融液1から引き上げる際には、体積物浸漬機構8の動作をゆっくり行なうことにより、融液面の液ゆれを可能な限り抑制することが必要である。特に体積物71を引き上げる際の融液面の液ゆれが大きいと、坩堝2の内壁に飛び散り、新たな凝固物Gの成長の起点となりうるためである。また融液1の液面が大きく波立っていると、下地板5の表面に形状のよい薄板Sが成長しにくくなるため、波立ちが収まるまで薄板Sの製造を停止することが好ましい。
【0065】
凝固物Gが溶融した後、体積物71を下地板浸漬機構(図示せず)の動作に干渉しない位置まで移動させる。そして、融液1の温度は薄板Sを製造していたときの設定温度になるように加熱ヒータ3の加熱温度を設定し、融液1の温度を該設定温度に安定化させる。
【0066】
ここで、体積物浸漬工程を実施するタイミングとしては、凝固物Gが、下地板浸漬機構6の動作に干渉し始める直前に実施することが好ましい。ただし、坩堝2の内壁から所定の位置まで凝固物Gの成長が進んだ時点で実施してもよいし、薄板Sの製造を所定枚数行なった時点で定期的に実施してもよい。また、体積物71を融液1に浸漬するタイミング以前、例えばシリコン原料を追加投入し、加熱ヒータ3の加熱温度を上げる必要が生じた時に、同時に体積物浸漬工程を実施することも好ましい。そして、体積物浸漬工程を実施するタイミングは、上述した観測機構で凝固物Gの成長を観測することによって判断することが可能である。
【0067】
〔加熱工程〕
本発明の薄板製造方法は、体積物71の少なくとも融液1に浸漬する部分を加熱する加熱工程を体積物浸漬工程の前に備えることが好ましい。図8を例に説明する。体積物71を融液1に浸漬する前に、体積物71を加熱可能な位置まで加熱機構121を移動させると同時に、体積物71を加熱機構121直上まで移動させる。加熱機構121は、例えばヒータのようなものである。そして、加熱機構121で体積物71の表面が例えば500℃〜体積物71の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物71の耐熱温度になるまで加熱する。該加熱の後は、加熱機構121を体積物浸漬機構8および下地板浸漬機構(図示せず)の動作に干渉しない位置まで移動させ、体積物71を融液1に浸漬することができる。加熱工程を設けることで、体積物71を浸漬した際の、体積物71の吸熱反応で融液1の温度が低下することを抑制することができる。そして、融液温度保持用の加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができる。
【0068】
なお、材料がシリコンでない場合には、その融液の材料に応じて体積物の材質、チャンバ内のガス種および温度条件を決めることができる。
【0069】
(実施の形態4):薄板製造方法
本発明の薄板製造方法の一実施形態について、体積物72が融液1に浸漬する前の状態を示す図9(a)、図9(b)、図9(c)を参照して説明するが、基本的な工程は、同じであるため同一部分は説明を省略する。本実施形態において、実施の形態3と異なる点は凝固物溶融工程および加熱工程である。
【0070】
〔凝固物溶融工程〕
図9(a)に基づいて以下説明する。
【0071】
本実施形態において用いられる薄板製造装置は、体積物浸漬工程に用いる体積物浸漬機構が下地板浸漬機構6の働きを兼ねたものとすることができる。また、体積物72は下地板固定具4を介して下地板浸漬機構6に固定されており、体積物72は下地板固定具4と着脱可能であり、下地板(図示せず)も下地板固定具4と着脱可能である。
【0072】
したがって、本実施形態においては、下地板浸漬工程と体積物浸漬工程とを同時に行なうことが可能である。ここで、下地板浸漬工程において、下地板を固定した複数の下地板浸漬機構を連続して起動させることで、連続して薄板が製造される場合を例に挙げて説明する。連続して薄板を製造することで、所定の枚数の薄板を製造したとき、凝固物Gが下地板浸漬機構6と下地板と薄板とに干渉するようになる。そこで、複数の連続して起動する下地板浸漬機構6と下地板とが該所定の枚数製造した後に、下地板浸漬機構6が体積物72を融液1に浸漬させることができるように、複数の下地板浸漬機構6における所定の位置に体積物72を固定する。下地板浸漬機構6と体積物72とは着脱可能であるために、凝固物Gの成長の速度によって定期的に体積物72が浸漬するよう連続して起動する複数の下地板浸漬機構6のなかで体積物72を固定する位置を設計する。なお、体積物72を融液1に浸漬する前に、体積物72を融液1の上で一旦保持し、体積物72の表面の温度を上げた後、融液1に浸漬することが好ましい。体積物72の吸熱反応で融液1の温度が下がることによる、加熱ヒータ3の出力増加を抑制することができるためである。
【0073】
次に図9(b)に基づいて説明する。
融液面を上げるために体積物72を融液1に浸漬することで、融液面の高さが凝固物Gを覆う浸漬融液面の高さBにまで上げて凝固物Gが溶融するまで体積物72を保持することが好ましい。したがって、体積物72が融液1に浸漬しているときには、下地板浸漬機構6の動作を停止させることが好ましい。
【0074】
以下、図9(c)に基づいて、凝固物溶融工程の説明を続ける。
凝固物Gが溶融した後、体積物72を下地板浸漬機構6の動作に干渉しない位置まで移動させる。そして、融液1の温度は薄板Sを製造していたときの設定温度になるように加熱ヒータ3の加熱温度を設定し、融液1の温度を該設定温度に安定化させる。
【0075】
体積物72を融液1に浸漬した後に、融液1から引き上げる際には、体積物浸漬機構8の動作をゆっくり行なうことにより、融液面の液ゆれを可能な限り抑制することが必要である。
【0076】
〔加熱工程〕
本発明の薄板製造方法は、上述したとおり体積物72の少なくとも融液1に浸漬する部分を加熱する加熱工程を体積物浸漬工程の前に備えることが好ましい。図11を例に説明する。体積物72を融液1に浸漬する前に、体積物72を搬送する軌跡の妨げにならず、かつ体積物を加熱可能な位置に、固定設置された加熱機構122で体積物72を加熱する。そして、加熱機構121にて体積物72の表面が例えば500℃〜体積物72の耐熱温度、より好ましくは融液1の温度〜体積物72の耐熱温度になるまで加熱する。下地板浸漬機構6は、加熱可能な位置で体積物72の搬送を停止することがより好ましい。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】(a)は、坩堝の内壁に凝固物Gが存在する状態を示す断面図であり、(b)は、体積物浸漬機構が体積物を融液に浸漬する状態を示す断面図であり、(c)は、体積物浸漬機構が体積物を融液から引き上げる状態を示す断面図である。
【図2】(a)は体積物浸漬機構および体積物浸漬機構に保持された体積物の側面図であり、(b)は体積物浸漬機構および体積物浸漬機構に保持された体積物の正面図である。
【図3】(a)は、体積物の好ましい一形態を示した斜視図であり、(b)は、図3(a)に示す体積物71が、融液を保持する坩堝に浸漬させられたのち、体積物を垂直方向に移動させた時に、融液から体積物が引き上げられ、脱出する瞬間における状態を示す断面図である。
【図4】体積物の好ましい一形態を示した斜視図である。
【図5】直方体の体積物の斜視図である。
【図6】(a)は、図5のVI(a)−VI(a)断面図であり、(b)は、図5のVI(a)−VI(a)断面の別の形態としての断面図である。
【図7】(a)および(b)は、体積物の好ましい一形態を示した斜視図である。
【図8】加熱機構を備える薄板製造装置の一形態を示す断面図である。
【図9】(a)は、体積物が融液に浸漬する前の状態を示す断面図であり、(b)は、下地板浸漬機構が体積物を融液に浸漬する状態を示す断面図であり、(c)は、下地板浸漬機構が体積物を融液から引き上げる状態を示す断面図である。
【図10】下地板浸漬機構および、下地板固定具を介して下地板浸漬機構に保持される体積物の一形態を示した断面図である。
【図11】加熱機構を備える薄板製造装置の一形態を示す断面図である。
【図12】従来の薄板製造装置の一形態を示す断面図である。
【図13】(a)および(b)は、凝固物が発生した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 融液、2 坩堝、3 加熱ヒータ、4 下地板固定具、5 下地板、6 下地板浸漬機構、8 体積物浸漬機構、9 内側部、10 開口部、11 断熱材、13 加熱機構搬送具、41a 凹部、41b 凸部、70,80 凝固物溶融機構、71,72 体積物、75 外側部、81 調整ネジ、82 フック、83 搬送具、84 溝、121,122 加熱機構、L1 幅、A 浸漬前融液面の高さ、B 浸漬融液面の高さ、E1,E2,F1,F2 頂点、G 凝固物、R 放熱、S 薄板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融液を保持するための坩堝と下地板と前記下地板を前記融液に浸漬するための下地板浸漬機構とを備え、前記融液に前記下地板を浸漬させることにより、前記下地板の表面に前記融液を凝固させることで、前記下地板の表面に薄板を成長させる薄板製造装置であって、
前記坩堝の内壁上に形成された前記融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える薄板製造装置。
【請求項2】
前記凝固物溶融機構は、前記融液に浸漬することで融液面の高さを上げ前記凝固物の少なくとも一部を前記融液で覆うことが可能な体積を有する体積物と、
前記体積物を前記融液に浸漬するための体積物浸漬機構とを備える請求項1に記載の薄板製造装置。
【請求項3】
前記体積物浸漬機構は、前記下地板浸漬機構に対して独立して制御される請求項2に記載の薄板製造装置。
【請求項4】
前記下地板浸漬機構が前記体積物浸漬機構を兼ねる請求項2に記載の薄板製造装置。
【請求項5】
前記体積物の少なくとも前記融液に浸漬する部分の材質は、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素のいずれかである請求項2〜4のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項6】
前記体積物は、前記融液に接触する底部に前記融液面の水平方向に対して傾斜を有する請求項2〜5のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項7】
前記体積物は、外側部と、前記外側部の材質より比熱が大きい物質で形成される内側部とからなる請求項2〜5のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項8】
前記体積物の前記内側部が開口部を有する請求項7に記載の薄板製造装置。
【請求項9】
前記内側部に断熱材を設置する請求項7または8に記載の薄板製造装置。
【請求項10】
前記体積物の少なくとも前記融液に浸漬する部分を加熱する加熱機構を備える請求項2〜9のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項11】
前記凝固物の成長と前記融液面とを観測する観測機構を備える請求項1〜10のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項12】
下地板の表面に薄板を成長させるために坩堝に融液を保持して前記下地板を前記融液に浸漬する下地板浸漬工程と、
前記坩堝の内壁上に形成された前記融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融工程とを含み、
前記凝固物溶融工程は、体積物を前記融液に浸漬し融液面の高さを上げることで前記凝固物の少なくとも一部を前記融液で覆う体積物浸漬工程を含む、
薄板製造方法。
【請求項1】
融液を保持するための坩堝と下地板と前記下地板を前記融液に浸漬するための下地板浸漬機構とを備え、前記融液に前記下地板を浸漬させることにより、前記下地板の表面に前記融液を凝固させることで、前記下地板の表面に薄板を成長させる薄板製造装置であって、
前記坩堝の内壁上に形成された前記融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融機構を備える薄板製造装置。
【請求項2】
前記凝固物溶融機構は、前記融液に浸漬することで融液面の高さを上げ前記凝固物の少なくとも一部を前記融液で覆うことが可能な体積を有する体積物と、
前記体積物を前記融液に浸漬するための体積物浸漬機構とを備える請求項1に記載の薄板製造装置。
【請求項3】
前記体積物浸漬機構は、前記下地板浸漬機構に対して独立して制御される請求項2に記載の薄板製造装置。
【請求項4】
前記下地板浸漬機構が前記体積物浸漬機構を兼ねる請求項2に記載の薄板製造装置。
【請求項5】
前記体積物の少なくとも前記融液に浸漬する部分の材質は、黒鉛、炭化珪素、または窒化珪素のいずれかである請求項2〜4のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項6】
前記体積物は、前記融液に接触する底部に前記融液面の水平方向に対して傾斜を有する請求項2〜5のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項7】
前記体積物は、外側部と、前記外側部の材質より比熱が大きい物質で形成される内側部とからなる請求項2〜5のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項8】
前記体積物の前記内側部が開口部を有する請求項7に記載の薄板製造装置。
【請求項9】
前記内側部に断熱材を設置する請求項7または8に記載の薄板製造装置。
【請求項10】
前記体積物の少なくとも前記融液に浸漬する部分を加熱する加熱機構を備える請求項2〜9のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項11】
前記凝固物の成長と前記融液面とを観測する観測機構を備える請求項1〜10のいずれかに記載の薄板製造装置。
【請求項12】
下地板の表面に薄板を成長させるために坩堝に融液を保持して前記下地板を前記融液に浸漬する下地板浸漬工程と、
前記坩堝の内壁上に形成された前記融液の材料を主成分とする凝固物を溶融するための凝固物溶融工程とを含み、
前記凝固物溶融工程は、体積物を前記融液に浸漬し融液面の高さを上げることで前記凝固物の少なくとも一部を前記融液で覆う体積物浸漬工程を含む、
薄板製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−28173(P2008−28173A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199460(P2006−199460)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]