説明

薄膜のマイクロ波加熱方法

【課題】薄膜のマイクロ波加熱を行う際に、膜の割れや基板のプラズマ着火を未然に防止できるようにする。
【解決手段】基板2と透明導電性膜(半導体)3とからなる透明電極1の透明導電性膜3の表面に、酸化チタンの微粒子のペーストを塗布して乾燥させてなる酸化チタン粒子集合体薄膜4aを設ける。導電体13の上側に、透明電極1を、酸化チタン粒子集合体薄膜4a側が下に、基板2側が上になるような姿勢で載置して、押え板14で上方より押えて保持する。酸化チタン粒子集合体薄膜4aの表面に導電体13が接した状態でマイクロ波12を透明電極1側から照射し、酸化チタン粒子集合体薄膜4aを焼結させて多孔質の半導体粒子薄膜4を形成させる。形成される半導体粒子薄膜4の内部に、マイクロ波照射に伴って部分的な電位差が生じても、導電体13を介して通電させることで電位差を解消させ、これにより、沿面放電現象の発生を未然に防止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池の半導体電極にて所要の色素を吸着させるための半導体粒子薄膜の焼成時等の如き半導体の薄膜をマイクロ波の照射により加熱する際に用いる薄膜のマイクロ波加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池は、光電変換材料として結晶性シリコンやアモルファスシリコン等を用いたシリコン系太陽電池が主流であったが、近年、光電変換材料として、上記シリコン系材料に代えて、色素で増感された半導体薄膜を用いるようにした色素増感太陽電池が開発されてきており、かかる色素増感太陽電池は、上記シリコン系太陽電池に比して製造コストの低減化を図ることができるものとして注目されてきている。
【0003】
上記色素増感太陽電池の基本的構造は、図2(イ)にその一例の概略を示す如き構成としてある。すなわち、ガラス製の基板2の片面に、たとえば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)あるいは酸化インジウムと酸化スズからなる化合物(ITO)等による透明な導電性膜(半導体)3を、蒸着等により設けて導電性ガラス基板である透明電極1を形成する。該透明電極1における上記透明導電性膜3の表面には、酸化チタン(TiO)の微粒子を焼結してなる多孔質の半導体粒子薄膜4を設け、更に、該半導体粒子薄膜4に、増感用の色素を吸着させて、上記透明電極1上に色素吸着した半導体粒子薄膜4を備えてなる半導体電極5を形成する。更に、上記半導体電極5における色素吸着させた半導体粒子薄膜4側に、上記透明電極1と同様に基板2とITO等の透明導電性膜3とからなる透明電極1における該透明導電性膜3の表面にPt(図示せず)を蒸着した対向電極6を重ね、両電極5と6の隙間に、ヨウ素−ヨウ素化合物や臭素−臭素化合物等の酸化還元対を含んだ電解質溶液7を含浸させて、上記半導体電極5と対向電極6の周縁部を、上記電解質溶液7が外部へ漏れないように図示しないシール部材にてシールした構成としてある。
【0004】
これにより、図2(ロ)に発電機構の概要を示す如く、上記色素増感太陽電池に光8を当てると、半導体電極5の半導体粒子薄膜4に吸着されている色素9が、上記光8を吸収して電子を放出し、この放出された電子が、半導体粒子薄膜4を形成している酸化チタンへ素早く受けられて、該半導体薄膜4より透明電極1の透明導電性膜3へ伝えられる。この透明導電性膜3へ達した電子は、半導体電極5と対向電極6との間に接続されている外部負荷10を経た後、対向電極6へ伝えられ、該対向電極6の部分にて、たとえば、酸化還元物としてヨウ素−ヨウ素化物を含んだ電解質溶液7中の三ヨウ化物イオン(I)を還元してヨウ化物イオン(I)とさせる。この生成したヨウ化物イオン(I)は、上記半導体電極5の半導体粒子薄膜4に吸着されている上記電子を放出した色素9により酸化され、このヨウ化物イオン(I)と三ヨウ化物イオン(I)が半導体電極5と対向電極6の間をサイクルすることにより、電池としての機能が発揮されることとなる。
【0005】
ところで、上記色素増感太陽電池に用いる半導体電極5を製造する場合、従来は、金属酸化物として、ナノオーダーの超微粒子状の酸化チタン粉末、好ましくは、アナターゼ型の酸化チタン粉末を、ポリエチレングリコール等の所要の分散媒に分散してペースト(スラリー)としたり、コロイド溶液とし、該ペーストやコロイド溶液を、透明電極1における透明な透明導電性膜3の表面に、たとえば、スキージ法、スクリーン印刷、ドクターブレード法、スピンコート等により厚さ10μm程度となるように塗布し、その後、乾燥させることにより半導体粒子としての酸化チタン粉末の集合体である薄膜を形成し、しかる後、上記透明電極1ごと電気炉に入れて400℃程度という高温に加熱して焼結させることにより、上記酸化チタン粉末の集合体である薄膜中の超微粒子状酸化チタン粉末の粒子同士を機械的、電気的に結合させて、透明電極1の透明導電性膜3の表面に、実効表面積が1000倍程度となる多孔質の半導体粒子薄膜4を形成させ、これにより、半導体粒子薄膜4へ多量の色素を吸着させることができるようにして、色素増感太陽電池の単位面積当りの発生させる電流値を大きくすることができるようにしていた。
【0006】
しかし、上記のように、半導体粒子薄膜4の焼結作業を電気炉を用いて行う場合は、半導体粒子薄膜4のみを加熱することはできず、炉体全体の加熱を伴うため、昇温及び降温に時間がかかるという問題があると共に、処理に要する電力が嵩むという問題もある。
【0007】
そこで、半導体粒子薄膜4の焼結時に要する昇温時間、降温時間の短縮化を図るための手法の1つとして、半導体粒子薄膜4の加熱を、マイクロ波の照射によって行なうようにすることが考えられてきている。
【0008】
すなわち、マイクロ波は、周波数2.45GHzのものが一般の電子レンジでも用いられ、又、セラミックスのバルク体の焼結等に均一加熱のため高周波の28GHzのものの応用が試みられているように、誘電体に照射すると、マイクロ波が電界と磁界をもつ電磁波であるため、該マイクロ波のもつ電界に応じて、誘電体物質の電子双極子が向きを揃えようとする。しかしながら、周波数が高くなるにつれて追従することができなくなり、振動や回転による分子相互の摩擦が生じるようになることから、誘電体物質自体を発熱させることができる。このエネルギー損失が所謂、誘電損失であり、これが、マイクロ波加熱の原理となる。したがって、かかるマイクロ波加熱によれば、誘電損失の大きい部分を選択的に加熱できると共に、電気炉のように炉体等の昇温を待つことなく、加熱対象となる誘電体を直接加熱できることから、短時間で昇温でき、又、昇温するのが誘電体と、該誘電体より熱伝導を受ける周辺部に限られるため、短時間で降温できるという効果を備えている。
【0009】
よって、図3(イ)に示す如く、ガラスの基板2と透明導電性膜3とからなる透明電極1における透明導電性膜3の表面に、上記と同様に酸化チタン粉末のペーストを塗布して乾燥させて酸化チタン粉末の集合体である薄膜(以下、酸化チタン粒子集合体薄膜という)4aを形成した後、アルミナの架台11上に、上記透明電極1の基板2側を下に、酸化チタン粒子集合体薄膜4a側を上に配置した姿勢で載置して、該酸化チタン粒子集合体薄膜4a側より、たとえば、周波数28GHzのマイクロ波12を照射したり、あるいは、図3(ロ)に示す如く、上記と同様に、透明電極1の透明導電性膜3の表面に、酸化チタン粒子集合体薄膜4aを形成した後、アルミナの架台11上に、酸化チタン粒子集合体薄膜4a側を下に、透明電極1の基板2側を上に配置した姿勢で載置して、上記透明電極1の基板2側より上記と同様のマイクロ波12を照射し、これにより、上記酸化チタン粒子集合体薄膜4aをマイクロ波加熱して焼結させるようにすることが提案されている。
【0010】
この場合、図3(イ)に示した姿勢では、透明電極1の透明導電性膜3と酸化チタン粒子集合体薄膜4aからの発熱は、ガラス製としてある基板2と大気へ放熱されるのに対し、図3(ロ)に示した姿勢では、上記透明導電性膜3と酸化チタン粒子集合体薄膜4aからの発熱は、ガラス製の基板2とアルミナの架台11へ伝達されてから大気へ放熱されるため、より放熱を速く行わせることができる。このために、上記図3(イ)に示した姿勢で酸化チタン粒子集合体薄膜4aの加熱、焼結を行う場合には、昇温途中でガラス製の基板2が割れることが多い。これは、酸化チタン粒子集合体薄膜4aに直にマイクロ波12が照射されるため、急激な熱応力が作用してガラス製の基板2が破損するものと推測されるが、図3(ロ)に示した姿勢で加熱を行う場合には、酸化チタン粒子集合体薄膜4aとガラス製の基板2とが比較的均一に加熱されると考えられるため、ガラス製の基板2の破損防止に有利になるということが報告されている。図中の符号11aは熱電対を示す。
【0011】
更に、透明電極1として、ガラス製の基板2に代えて、樹脂製、たとえば、PET製のフィルム状の基板2に、ITOによる透明導電性膜3を付着させてなる透明電極1を用いることも提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【0012】
なお、上記と同様の色素増感太陽電池の半導体電極における半導体粒子薄膜を製造すべく微粒子酸化チタン粉末の粒子同士を焼結する際の処理温度を低減させるための手法として、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、又は、これらのハイブリッド型のプラズマ処理によって焼結作業を行わせたり(たとえば、特許文献1参照)、半導体粒子としての酸化チタンの粒子の集合体である薄膜の加熱操作を行うときに、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波等の電磁波の照射を併用すること(たとえば、特許文献2参照)が従来提案されている。
【0013】
【特許文献1】特開2003−308893号公報
【特許文献2】特開2002−134435号公報
【非特許文献1】富羽、内田、滝沢,「28GHzマイクロ波による酸化チタン膜の焼成と色素増感太陽電池への応用」,機能材料,2003年6月,Vol23,No.6,p.58−63
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、マイクロ波加熱は、投入エネルギーの熱に変換される効率としての誘電損失係数が温度の関数であることから、熱暴走が生じ易く、幅広い応用の妨げになっているというのが現状である。
【0015】
すなわち、図3(イ)(ロ)に示した如く、マイクロ波12の照射により酸化チタン粒子集合体薄膜4aの加熱を行う手法では、焼結により形成される半導体粒子薄膜4(図2(イ)(ロ)参照)に割れが生じたり、透明電極1の基板2を樹脂製とした場合には、該樹脂製の基板2がプラズマ着火することが多く、実用的な応用が困難であるのが現状である。これらの損傷は、いずれも上記のようなマイクロ波加熱に伴う熱暴走が原因であると考えられていたため、対策としては、放熱の工夫により熱暴走を防止するしかないと考えられてきていた。
【0016】
なお、特許文献1及び特許文献2には、色素増感太陽電池の半導体電極を構成する酸化チタンの半導体粒子薄膜を、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、又は、これらのハイブリッド型のプラズマ処理によって焼結したり、半導体粒子薄膜の加熱操作を行うときに、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波等の電磁波の照射を併用することは記載されているが、半導体粒子薄膜の割れや樹脂製としてある基板のプラズマ着火等の損傷の発生を防止するための具体的な対策は何ら示されておらず、示唆すらされるものではない。
【0017】
そこで、本発明者等は、従来、マイクロ波加熱を行う場合に生じていた如き半導体粒子薄膜4の割れや、樹脂製の基板2のプラズマ着火といった損傷を生じさせることなく、マイクロ波照射によって半導体粒子薄膜4の加熱を行って焼結を行なうことができるようにするための工夫、研究を重ねた結果、上記半導体粒子薄膜4の割れや、樹脂製の基板2のプラズマ着火等の損傷原因は、熱暴走ではなく、絶縁破壊及び放電着火に主因があることを見出した。
【0018】
すなわち、本発明者等は、マイクロ波照射による半導体粒子薄膜4の加熱、焼成を行う過程で生じる半導体粒子薄膜4の損傷の状態を詳しく観察したところ、半導体粒子薄膜4に生じる割れは、網目状に広がるという知見を得て、このことから、上記マイクロ波の照射によって半導体粒子薄膜4に生じる損傷は、その根本原因が沿面放電現象にあると推察した。つまり、上記半導体粒子薄膜4を焼結するためにマイクロ波を照射すると、半導体粒子薄膜4の内部に部分的な電位差が生じ、この際、上記半導体粒子薄膜4は、厚さ10μm程度と極めて薄い薄膜としてあるために、半導体であることから内部に所要の電気伝導率を備えており、且つ透明電極1の透明導電性膜3上に付着して設けられている状態にもかかわらず、上記膜内部に生じた電位差により、膜内部を通電するよりも外部空間を流れる沿面放電現象が生じてしまい、このため絶縁破壊により半導体粒子薄膜4に割れが生じると考えられた。又、基板2を樹脂製の基板2としている場合には、上記沿面放電現象に伴い、基板2の樹脂がプラズマによってガス化され、このガスが燃えることで、樹脂製基板2のプラズマ着火が生じてしまうと考えられた。
【0019】
これらの考えに鑑みて、本発明者等は、マイクロ波による半導体の薄膜の加熱を行うときに、沿面放電現象が発生することを未然に防止することにより、上記半導体の薄膜の割れや、樹脂製の基板のプラズマ着火等の損傷が発生する虞を防止できることを見出して、本発明をなした。
【0020】
したがって、本発明の目的とするところは、半導体の薄膜に損傷を生じることなくマイクロ波の照射によって加熱を行なうことができるようにするための薄膜のマイクロ波加熱方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明に対応して、薄膜の表面に導電体を接触させた状態として、マイクロ波を照射して上記薄膜を加熱する方法とする。
【0022】
又、請求項2に係る発明に対応して、薄膜の表面に導電体を接触させた状態として、反導電体側よりマイクロ波を照射して上記薄膜を加熱する方法とする。
【0023】
更に、上記請求項1又は2に係る発明における導電体を、平滑な表面を備えてなるようにする。
【0024】
更に又、上記請求項1又は2に係る発明における導電体を、ポーラスな表面を備えてなるようにする。
【0025】
上記構成における薄膜を、ガラス又は樹脂製基板の表面に透明導電性膜を設けてなる透明電極における該透明導電性膜の表面に付着させた半導体微粒子の集合体としての薄膜とする。
【0026】
上述した構成における半導体微粒子を微粒子酸化チタンとする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の薄膜のマイクロ波加熱方法によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)薄膜の表面に導電体を接触させた状態にて、マイクロ波を照射するようにしてあるので、該マイクロ波が照射される薄膜の内部に部分的な電位差が生じたとしても、電位の高い部分と低い部分とを薄膜表面に接している導電体を通して通電させることができることから、薄膜内に生じる部分的な電位差を解消できる。したがって、薄膜の外部空間を流れる沿面放電現象が発生する虞を未然に防止できることから、該沿面放電現象の発生を根本原因とする薄膜の割れや、薄膜を樹脂製基板に支持させている場合における該基板のプラズマ着火等の損傷の発生を防止しながら、薄膜の加熱を行うことができる。
(2)上記において、マイクロ波の照射を反導電体側より行うようにすることにより、導電体を透過することによるマイクロ波の損失を回避できる。
(3)導電体の表面を平滑にすることにより、薄膜と導電体との接触面積を広くして薄膜から導電体へ効率よく熱を逃すことができるため、マイクロ波照射による薄膜の加熱時に熱暴走が生じる虞を抑制する場合に有利となる。
(4)導電体の表面をポーラスにすることにより、薄膜から導電体への熱の逃げを抑えることができるため、出力の弱いマイクロ波であっても、薄膜の加熱を効率よく行なうことができる。
(5)薄膜を、透明電極の透明導電性膜の表面に付着させた半導体微粒子の集合体である薄膜とすることにより、該薄膜中の各半導体微粒子を焼結させることで、色素増感太陽電池の半導体電極にて増感用の色素を吸着、保持させるための多孔質な半導体粒子薄膜を形成させることができる。
(6)半導体微粒子を微粒子酸化チタンとすることにより、色素増感太陽電池の半導体電極の透明電極の透明導電性膜表面に、酸化チタンによる多孔質な半導体粒子薄膜を焼結して設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0029】
図1は本発明の薄膜のマイクロ波加熱方法の実施の一形態として、図2(イ)(ロ)に示したのと同様の色素増感太陽電池における半導体電極5の構成要素である半導体粒子薄膜4を、透明電極1に設けてある透明導電性膜(半導体)3の表面にて焼結する場合への適用例を示すものである。すなわち、図3(イ)(ロ)に示したと同様に、基板2とその表面に設けた透明導電性膜3とからなる透明電極1における該透明導電性膜3の表面に、微粒子酸化チタン粉末のペーストを塗布し、乾燥させて酸化チタン粒子集合体薄膜4aを形成させた後、トレイ状、又は、シート状としてある導電体13上に、上記酸化チタン粒子集合体薄膜4aが下になるようにして載置して、上記導電体13に、酸化チタン粒子集合体薄膜4aの膜表面が接するようにする。更に、必要に応じて、図1に二点鎖線で示す如く、上記基板2上に押え板14を載置して上方より抑えることにより、上記導電体13と酸化チタン粒子集合体薄膜4aとを接触状態で確実に保持させるようにする。しかる後、反導電体13側となる押え板14の上方よりマイクロ波12を照射して、上記酸化チタン粒子集合体薄膜4aを加熱して、焼結させることで、半導体粒子薄膜4を形成させるようにする。なお、図1は、半導体粒子薄膜4の焼結後の状態を示すもので、焼結前の酸化チタン粒子集合体の薄膜は括弧内の符号4aとして示してある。
【0030】
上記導電体13は、酸化チタンによる半導体粒子薄膜4の電気伝導率よりも大きな電気伝導率を有する、たとえば、ニッケルやアルミ、鉄、ステンレス等の金属体を使用すればよい。
【0031】
更に、マイクロ波加熱時に、熱暴走を効率よく抑えることができるようにするためには、上記導電体13を、表面が酸化チタン粒子集合体薄膜4aの膜表面に全面に亘って接触するような平滑な表面を備えてなるものとして、焼結される酸化チタンの半導体粒子薄膜4から導電体13へ効率よく熱を逃すことができるようにすればよい。この場合、上記導電体13に、たとえば、反薄膜接触面側の形状を、外部空間等へ積極的に放熱を図ることが可能な形状とすること等により放熱機能を持たせるようにして、熱暴走の防止効果を積極的に得るようにしてもよい。一方、照射するマイクロ波12の出力が弱い等の理由から、加熱すべき酸化チタン粒子集合体薄膜4aからの熱の逃げを抑制したい場合には、上記導電体13を、ポーラスな表面を有するものとして、導電体13を、酸化チタン粒子集合体薄膜4aの膜表面に対して全面接触ではなく、両者間の通電を確保できる範囲内において、全面に亘り均等に点接触させるようにすればよい。
【0032】
上記押え板14は、誘電損失係数が加熱を所望する酸化チタン粒子集合体薄膜4aよりも十分小さくて、照射するマイクロ波12を透過する材質のもので、且つ所要の耐熱性を備えた材質であれば、任意の材質のものとしてよい。
【0033】
基板2は、誘電損失係数が十分小さくて、マイクロ波の吸収が加熱対象である酸化チタン粒子集合体薄膜4aよりも小さい材質であれば、ガラスあるいはPETやその他の樹脂製のものとしてよい。
【0034】
上記本発明の薄膜のマイクロ波加熱方法にしたがって透明電極1の透明導電性膜3の表面に設けられた酸化チタン粒子集合体薄膜4aにマイクロ波12を照射すると、誘電体物質である該酸化チタン粒子集合体薄膜4aが加熱されることにより焼結されて、酸化チタンの半導体粒子薄膜4とされる。
【0035】
この際、形成される上記半導体粒子薄膜4の厚みが非常に薄いことに起因して、マイクロ波照射時に該半導体粒子薄膜4の内部に電位差が生じたとしても、電位の高い部分と電位の低い部分が、上記導電体13を介して接続されて導通されるようになるため、半導体粒子薄膜4の内部に生じる電位差を解消でき、このため、該半導体粒子薄膜4に沿面放電現象が発生する虞を未然に防止できる。
【0036】
したがって、薄膜表面に導電体13を接触させるという簡便な方法により、形成される半導体粒子薄膜4が割れを生じたり、基板2が樹脂の場合であってもプラズマ着火する等の損傷が発生する虞を未然に防止した状態で薄膜のマイクロ波加熱を行なうことができる。
【0037】
又、マイクロ波12としては、特殊な周波数28GHzのものではなく、一般の電子レンジに採用されている汎用的な周波数2.45GHzのマイクロ波12であっても安定した薄膜の加熱を行なうことができる。
【0038】
更に、酸化チタン粒子集合体薄膜4aをマイクロ波12により直接的に加熱できることから、焼結作業に電気炉を用いていた場合に比して、昇温、降温に要する時間を短縮できると共に、処理に要する電力の引き下げを図ることができる。
【0039】
更に又、マイクロ波12の照射は、酸化チタン粒子集合体薄膜4aに対して反導電体13側より行うようにしてあるため、照射されるマイクロ波12の損失を回避できる。
【0040】
マイクロ波加熱による半導体粒子薄膜4の焼結処理が終わった後は、押え板14を取り外した後、導電体13上より、透明導電性膜3の表面に半導体粒子薄膜4の形成された透明電極1を回収して、その後の色素吸着工程へ送るようにすればよい。
【0041】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、導電体13は、マイクロ波照射時に、加熱、焼結すべき半導体粒子薄膜4の内部に生じる電位差を解消できるように薄膜表面にほぼ全体に亘り均等に接触できるような面を備えていれば、トレイやシート状以外のいかなる形状のものを採用してもよく、更には、マイクロ波照射時に該マイクロ波を遮ることなく薄膜表面と導電体13との接触状態を保持できれば、導電体13と薄膜を接触状態で保持する手段はいかなる手段を採用してもよいこと、酸化チタン粒子集合体薄膜4aに対するマイクロ波12の照射は、反導電体13側より行うものとして示したが、導電体13が、たとえば、アルミ箔程度の薄さとしてあって、所要のマイクロ波透過性を備えていれば、マイクロ波12を導電体13側より照射するようにしてもよいこと、照射するマイクロ波は、加熱対象となる薄膜が誘電損失を持つ領域であれば、一般の電子レンジに用いられる2.45GHz、あるいは、28GHz、その他いかなる周波数のマイクロ波を用いてもよいこと、本発明の薄膜のマイクロ波加熱方法は、マイクロ波の照射により加熱可能な誘電損失係数を備え、且つマイクロ波照射時に膜内部に電位差が生じて沿面放電を引き起こす虞が生じるような半導体等の薄膜であれば、図1に示した如き薄膜の積層構造に限定されることはなく、更に、色素増感太陽電池の半導体電極に用いる半導体粒子薄膜以外の薄膜の加熱にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ること等は勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の薄膜のマイクロ波加熱方法の実施の一形態を示す概略側面図である。
【図2】色素増感太陽電池の一例を示すもので、(イ)は概略切断側面図、(ロ)は発電機構の概要を示す図である。
【図3】透明電極の透明導電性膜表面にて、酸化チタンの半導体粒子薄膜の焼結を行わせるために従来提案されているマイクロ波照射による薄膜加熱方法を示すもので、(イ)はマイクロ波を酸化チタン粒子集合体薄膜側より照射する場合を、(ロ)はマイクロ波を基板側より照射する場合をそれぞれ示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 透明電極
2 基板
3 透明導電性膜(半導体)
4 半導体粒子薄膜(薄膜)
4a 酸化チタン粒子集合体薄膜(薄膜)
12 マイクロ波
13 導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の表面に導電体を接触させた状態として、マイクロ波を照射して上記薄膜を加熱することを特徴とする薄膜のマイクロ波加熱方法。
【請求項2】
薄膜の表面に導電体を接触させた状態として、反導電体側よりマイクロ波を照射して上記薄膜を加熱することを特徴とする薄膜のマイクロ波加熱方法。
【請求項3】
導電体を、平滑な表面を備えてなるものとした請求項1又は2記載の薄膜のマイクロ波加熱方法。
【請求項4】
導電体を、ポーラスな表面を備えてなるものとした請求項1又は2記載の薄膜のマイクロ波加熱方法。
【請求項5】
薄膜を、ガラス又は樹脂製基板の表面に透明導電性膜を設けてなる透明電極における該透明導電性膜の表面に付着させた半導体微粒子の集合体としての薄膜とした請求項1、2、3又は4記載の薄膜のマイクロ波加熱方法。
【請求項6】
半導体微粒子を微粒子酸化チタンとした請求項5記載の薄膜のマイクロ波加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−60064(P2006−60064A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241158(P2004−241158)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】