説明

薄膜トランジスタのためのn型半導体材料

薄膜トランジスタは、各イミド窒素原子に結合された、その芳香族部分の少なくとも一方が少なくとも1つの電子供与基で置換されている芳香族部分を有するテトラカルボン酸ジイミドナフタレン系化合物を含む有機半導体材料から成る層を含む。そのようなトランジスタは、離隔された第一及び第二のコンタクト手段又は前記材料に接触する電極をさらに含む。また、有機薄膜トランジスタデバイスの製作方法、好ましくは、基板上への昇華堆積により、基板温度は、100℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタのためのnチャネル半導体膜内の半導体材料として、N,N'-ジアリールナフタレン-1,4,5,8-ビス(ジカルボキシミド)化合物を使用することに関する。本発明は、電子デバイスのための薄膜トランジスタにおけるこれらの材料の使用、及びこのようなトランジスタ及びデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、電子装置、例えばアクティブ・マトリックス液晶ディスプレイ、スマートカード、及び種々の他の電子デバイス及びこれらの構成部分におけるスイッチング素子として、幅広く使用される。薄膜トランジスタ(TFT)は、電界効果トランジスタ(FET)の一例である。FETの最もよく知られている例は、MOSFET(金属酸化膜半導体-FET)であり、これは高速用途のための今日のコンベンショナルなスイッチング素子である。目下のところ、たいていの薄膜デバイスは、半導体として非晶質シリコンを使用して形成される。非晶質シリコンは、結晶質シリコンに対する低廉な代替物である。この事実は、大面積用途におけるトランジスタのコスト削減のために特に重要である。しかしながら、非晶質シリコンの用途は、比較的低速のデバイスに限られる。それというのもその最大移動度(0.5〜1.0 cm2/V sec)が、結晶質シリコンの約1000分の1の小ささであるからである。
【0003】
非晶質シリコンは、TFTにおける使用に際して高結晶質シリコンよりも低廉ではあるが、非晶質シリコンは依然としてその欠点を有している。トランジスタの製造中における非晶質シリコンの堆積は、ディスプレイ用途にとって十分な電気的特性を達成するために比較的コストの高いプロセス、例えばプラズマ支援型化学蒸着法及び高い温度(約360℃)を必要とする。このような高い処理温度は、可撓性ディスプレイのような用途で使用するのに、そうでなければ望ましいはずの特定のプラスチックから形成された基板を、堆積のために使用するのを許さない。
【0004】
過去10年間、TFTの半導体チャネルにおいて使用するための無機材料、例えば非晶質シリコンの代わりになり得るものとして、有機材料が注目を集めている。有機半導体材料、特に有機溶剤中に可溶性である材料はより処理しやすく、従ってこれらの材料は、はるかに低廉な方法、例えばスピン塗布、浸漬塗布、及びマイクロコンタクト印刷によって大きな面積に適用することができる。さらに有機材料は、より低い温度で堆積させることができ、プラスチックを含む広範囲の基板材料を、可撓性電子デバイスのために利用可能にする。従って、有機材料から形成される薄膜トランジスタは、製作しやすさ、機械的フレキシビリティ、及び/又は中程度の作業温度が重要な考慮事項となるようなディスプレイ・ドライバ、ポータブル・コンピュータ、ポケットベル(登録商標)、トランザクション・カード内のメモリー素子、及び識別タグにおけるプラスチック回路の潜在的主要技術と見なすことができる。
【0005】
TFTにおける潜在的な半導体チャネルとして使用するための有機材料が、例えば、発明の名称「Thin-Layer Field-Effect Transistors with MIS Structure Whose Insulator and Semiconductors Are Made of Organic Materials(有機材料から形成された絶縁体及び半導体を有する、MIS構造を備えた薄層電界効果トランジスタ)」米国特許第5,347,144号明細書(Garnier他)に開示されている。
【0006】
0.01 cm2/Vsを十分に上回る高い移動度、及び1000を上回る電流オン/オフ比(以後「オン/オフ比」と呼ぶ)をその多くが必要とする電子構成部分において、スイッチング素子及び/又は論理素子を提供するためにTFT内に使用することができる新しい有機半導体材料を発見しようと多くの努力が為されている。このような特性を有する有機TFTは、電子用途、例えばディスプレイ及び識別タグのための画素ドライバのために使用することができる。しかし、これらの望ましい特性を示す化合物のほとんどは、「p型」又は「pチャネル」であり、これは、デバイスのチャネル領域内に正電荷(正孔)を誘発するために、ソース電圧に対して負のゲート電圧が印加されることを意味する。
【0007】
p型有機半導体材料の代わりとして、N型有機半導体材料をTFT内に使用することができる。「n型」又は「nチャネル」という用語は、デバイスのチャネル領域内に負電荷を誘発するために、ソース電圧に対して正のゲート電圧が印加されることを意味する。
【0008】
さらに、相補回路として知られる1つの重要なタイプのTFT回路は、p型半導体材料に加えてn-型半導体材料を必要とする。Dodabalapur他、「Complementary circuits with organic transistors(有機トランジスタを有する相補回路)」(Appl. Phys. Lett. 1996, 69, 4227)を参照されたい。具体的には、相補回路の製作は、少なくとも1つのpチャネルTFT及び少なくとも1つのnチャネルTFTを必要とする。相補回路のアーキテクチャを使用して、インバータのような単純な構成部分が実現されている。通常のTFT回路に対する相補回路の利点は、より低い電力散逸、より長い寿命、及びより良好なノイズ許容度を含む。このような相補回路において、pチャネル・デバイスの移動度及びオン/オフ比と同様の規模の、nチャネル・デバイスの移動度及びオン/オフ比を有することがしばしば望ましい。有機p型半導体と無機n型半導体とを使用したハイブリッド相補回路が、Dodabalapur他(Appl. Phys. Lett. 1996, 68, 2264)に記載されているように知られているが、しかし製作しやすさのために、このような回路内には有機nチャネル半導体材料が望まれる。
【0009】
TFT内で半導体nチャネルとして使用するために開発されている有機材料の数は限られたものに過ぎない。このような1材料であるバックミンスターフラーレンC60は、0.08 cm2/Vsの移動度を示すが、しかし空気中で不安定であると考えられる。R. C. Haddon、A. S. Perel, R. C. Morris、T. T. M. Palstra、A. F. Hebard及びR. M. Fleming、「C60 Thin Film Transistor(C60薄膜トランジスタ)」Appl. Phys. Let. 1995, 67, 121を参照されたい。ペルフルオロ化銅フタロシアニンは0.03 cm2/Vsの移動度を有し、そして空気中の作業に対して一般に安定であるが、しかし、この材料における移動度を最大化するために、100℃を上回る温度に基板を加熱しなければならない。「New Air-Stable n-Channel Organic Thin Film Transistor(新しい空気安定性nチャネル有機薄膜トランジスタ」Z. Bao, A. J. Lovinger、及びJ. Brown J. Am. Chem, Soc. 1998, 120, 207を参照されたい。ナフタレン・フレーム構造に基づくものを含む他のnチャネル半導体も報告されているが、しかしこれらの移動度はより低い。Laquindanum他「n-Channel Organic Transistor Materials Based on Naphthalene Frameworks(ナフタレン・フレーム構造に基づくn-チャネル有機トランジスタ材料)」J. Am. Chem, Soc. 1996, 118, 11331を参照されたい。1つのこのようなナフタレン系nチャネル半導体材料であるテトラシアノナフトキノ-ジメタン(TCNNQD)は、空気中での作業が可能ではあるが、しかしこの材料は低いオン/オフ比を示しており、また、調製して精製するのが難しい。
【0010】
ナフタレン芳香族フレーム構造に基づく芳香族テトラカルボン酸ジイミドはまた、n型半導体として、ソース電極とドレイン電極とが半導体の上側に位置するトップ・コンタクト形態のデバイスを使用して最大0.16 cm2/Vsのnチャネル移動度を提供することが実証されている。ボトム・コンタクト・デバイス、すなわち、ソース電極とドレイン電極とが半導体の下側に位置するデバイスを用いると、比較可能な結果が得られはするが、しかし、金でなければならない電極と、半導体との間に、チオール下層が適用されることが必要となった。Katz他「Naphthalenetetracarboxylic Diimide-Based n-Channel Transistor Semiconductors: Structural Variation and Thiol-Enhanced Gold Contacts(ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド系nチャネル・トランジスタ半導体:構造バリエーション及びチオール増強型の金コンタクト)」J. Am. Chem. Soc. 2000 122, 7787;「A Soluble and Air-stable Organic Semiconductor with High Electron Mobility(高電子移動度を有する可溶性且つ空気安定性の有機半導体)」Nature 2000 404, 478;Katz他の欧州特許出願公開第1041653号明細書又は米国特許第6,387,727号明細書を参照されたい。チオール下層が存在しないと、Katz他の化合物の移動度は、ボトム・コンタクト・デバイスにおいて大幅に低くなることが判った。Katz他の米国特許第6,387,727号明細書は、縮合環テトラカルボン酸ジイミド化合物を開示しており、その一例が、N,N'-ビス(4-トリフルオロメチルベンジル)ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸ジイミドである。このような化合物は還元するのがより容易な顔料である。Katz他の米国特許第6,387,727号明細書において報告された最高移動度は、N,N'-ジオクチルナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸ジイミドの場合、0.1〜0.2 cm2/Vsであった。
【0011】
パルス放射線分解時間分解マイクロ波導電率測定によって、線状アルキル側鎖を有するナフタレンテトラカルボン酸ジイミドの膜内に、比較的高い移動度が測定されている。Struijk他「Liquid Crystalline Perylene Diimides:Architecture and Charge Carrier Mobilities(液晶ペリレンジイミド:アーキテクチャ及び電荷キャリヤ移動度)」J. Am. Chem. Soc.第2000巻、122、11057を参照されたい。
【0012】
米国特許出願公開第2002/0164835号明細書(Dimitrakopoulos他)は、その一例がN,N'-ジ(n-1H,1H-ペルフルオロオクチル)ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸ジイミドであるナフタレン系化合物と比較して改善された、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド化合物から形成されたnチャネル半導体膜を開示している。ジイミド構造内のイミド窒素に結合された置換基は、アルキル鎖、電子不足アルキル基、電子不足ベンジル基を含み、鎖は好ましくは4〜18原子長を有する。有機半導体としてペリレン・フレーム構造が使用された材料に基づくデバイスは、低移動度、例えばペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)の場合には10-5 cm2/Vsを、そしてN,N'-ジフェニルペリレンテトラカルボン酸ジミド(PTCDI-Ph)の場合には1.5×10-5 cm2/Vsをもたらした。Horowitz他「Evidence for n-Type Conduction in a Perylene Tetracarboxylic Diimide Derivative(ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体中のn型伝導の証拠)」Adv. Mater. 1996, 8, 242、及びOstrick他、J Appl. Phys. 1997, 81, 6804を参照されたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、種々様々な1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドが形成され、そしてn型半導体特性に関して試験されている。一般に、これらの材料はn型半導体として、トップ・コンタクト形態のデバイスを使用して最大0.16 cm2/Vsのnチャネル移動度を提供している。トランジスタ材料のための新しい、そして改善された有機半導体材料、そしてこれらの材料の製造及び使用のための改善された技術が当業者に必要である。有機薄膜トランジスタ・デバイスにおける大きな移動度及び電流オン/オフ比を示すn型半導体材料が特に必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、2つのイミド窒素のそれぞれに、直接に結合された環内に炭素6〜14個を有する炭素環式芳香族環系、例えば、環内に炭素原子6個を有するフェニル環、を有するN,N'-ジ(アリールアルキル)ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物から成る、有機薄膜トランジスタ内で使用するためのnチャネル半導体膜に関する。2つの炭素環系は独立して、置換型又は無置換型であってよいが、しかし、環系のうちの少なくとも一方は、好ましくは炭素数1〜4の電子供与基である少なくとも1つの置換基を環上に有している。このような化合物から形成された半導体膜は、膜形態において、最大5.0 cm2/Vsの有効電界効果電子移動度を示すことができる。このような半導体膜はまた、少なくとも105の範囲のデバイス・オン/オフ比を提供することもできる。
【0015】
本発明の1つの態様は、nチャネル半導体膜に接続された、互いに離隔された第1及び第2のコンタクト手段をそれぞれが含む有機薄膜トランジスタ内に、このようなnチャネル半導体膜を使用することに関する。前記第1及び第2のコンタクト手段から所定の間隔を置いて、第3のコンタクト手段を配置することができ、そして前記膜を通る第1のコンタクト手段と第2のコンタクト手段との間の電流を、第3のコンタクト手段に印加される電圧によって制御するように、第3のコンタクト手段を適合することができる。第1、第2、及び第3のコンタクト手段は、電界効果トランジスタにおけるドレイン、ソース及びゲート電極に相当することができる。
【0016】
本発明の別の態様は、薄膜トランジスタの製作方法であって、好ましくは、nチャネル半導体膜を基板上に昇華又は液相堆積によって堆積させることにより行われ、堆積中の基板温度が100℃以下である、薄膜トランジスタの製作方法に関する。
【0017】
より具体的には、本発明は、各イミド窒素原子に結合された置換型又は無置換型炭素環式芳香族環系を有するN,N'-ジアリール置換型ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物を含む有機半導体材料から成る薄膜を、薄膜トランジスタ内に含む物品であって、芳香族環系のうちの少なくとも一方又は両方の環系上の置換基が少なくとも1つの電子供与有機基を含む物品に関する。好ましくは、2つの炭素環系のうちの一方又は両方の環系上に1つ又は2つ以上の置換基が存在する場合、このような置換基は、少なくとも1つの電子供与基を含む。より好ましくは、炭素環系上の置換基の全てが、電子供与基である。
【0018】
本発明の1つの態様の場合、本発明において使用されるN,N'-ジアリールナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物は、下記構造によって表される:
【0019】
【化1】

【0020】
上記式中、任意選択的に環系上のいずれか2つの隣接するR基が合体して縮合芳香族環を形成することができ、好ましくは2つの隣接するR基が縮合フェニル環を形成し、これによりナフチル炭素環式芳香族環系を生じさせることを可能にすることを除けば、R1、R2、R3、R4、及びR5(第1の環系上、好ましくは第1のフェニル環上)、並びに、R6、R7、R8、R9、及びR10(第2の環系上、好ましくは第2のフェニル環上)は、それぞれ独立して、H又は電子供与有機基である。他の縮合炭素環式芳香族環系は、アントリル、フェナントリル、及びフルオレニル(それぞれ、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、及びフルオレン縮合多環式炭化水素から誘導された一価基)を含む。縮合炭素環式芳香族環の環原子は12〜14個である。2つの炭素環式芳香族環のうちの少なくとも一方、又は両方の環上の少なくとも1つの置換基は、電子供与基である。第1及び第2の環系が上記構造においてフェニル環である場合、アリール環系上のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10は、少なくとも1つの電子供与基、好ましくはC1〜C8有機置換基、より好ましくはC1〜C4有機置換基、最も好ましくはアルキル置換基を含む。有機基は例えば、CH3、線状又は分枝状C2〜C4アルキル、C1〜C8アルキレン(一価不飽和型脂肪族炭化水素)、又はC1〜C8アルコキシを含む。
【0021】
R1、R2、R3、R4、及びR5のうちの少なくとも2つがHであり、そしてR6、R7、R8、R9、及びR10のうちの少なくとも2つがHであることが好ましい。より好ましい構造は、R1、R2、R3、R4、及びR5のうちの少なくとも3つがHであり、そしてR6、R7、R8、R9、及びR10のうちの少なくとも3つがHである構造である。さらにより好ましい構造は、R1、R3、R4、R5、R6、R8、R9、及びR10の全てがHであり、且つR2及びR7の両方が電子供与基、好ましくはアルキル基、例えばCH3であるか;或いは、R2、R3、R4、R5、R7、R8、R9、及びR10の全てがHであり、且つR1及びR6の両方が電子供与基、好ましくはアルキル基、例えばCH3である構造である。好ましくは、前記アリール環系のうちの少なくとも一方は、C1〜C4含有アルキル基で置換されている。
【0022】
上記構造Iにおいて、第1及び第2のジカルボン酸イミド部分は、ナフタレン核の1,4位置及び5,8位置において、ナフタレン核の互いに対向する側で結合されている。ナフタレン核は任意選択的に、最大4つの独立して選択されたY基で置換することができ、mは0〜4の任意の整数である。好ましくは、Y基は独立して、R置換基に関するのと同じ電子供与基から選択される。
【0023】
有利なのは、本発明によるトランジスタ・デバイスにおいて使用されるnチャネル半導体膜が、高い移動度を得るために、膜に接続された第1及び第2のコンタクト手段の前処理を必ずしも必要としないことである。さらに、本発明において使用される化合物は高い揮発性を有するので、有機薄膜トランジスタにおいてnチャネル半導体膜を基板に適用するために、気相堆積法を所望の場合に利用することができる。
【0024】
本明細書中で、単数形で使用されている場合、「1つ又は2つ以上」の要素の言い換えを意味する「少なくとも1つ」と置き換え可能に使用されている。
【0025】
有機薄膜トランジスタ内の層に関連して本明細書中で使用された「上」「上方」及び「下」などの用語は、有機薄膜層がゲート電極の上方に位置するような層の順序を意味するが、しかし層がすぐに隣接すること、又は中間の層がないことを必ずしも示すものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の上記及びその他の目的、特徴、及び利点は、下記説明及び図面と関連させれば、より明らかになる。図面において、図面に共通の同一又は同様の構成要件を表すために、可能な場合には同一の符号を使用している。
【0027】
典型的な有機薄膜トランジスタの断面が図1及び図2に示されている。図1は、典型的なボトム・コンタクト形態を示し、図2は、典型的なトップ・コンタクト形態を示す。
【0028】
図1及び図2の態様における各薄膜トランジスタ(TFT)は、ソース電極20、ドレイン電極30、ゲート電極44、ゲート誘電体56、基板28、及びソース電極20をドレイン電極30に接続する膜の形態を成す、本発明において使用される半導体70を含有し、この半導体は、本明細書中に記載されたN,N'-ジアリール置換型1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物のクラスから選択された化合物を含む。
【0029】
TFTが蓄積モード内で作業しているときには、ソース電極から半導体へ注入された電荷は移動可能であり、主に約100オングストロームの半導体-誘電体界面内部の薄いチャネル領域内で、電流はソースからドレインへ流れる。A. Dodabalapur、L. Torsi、H. E. Katz, Science 1995, 268, 270を参照されたい。図1の形態の場合、チャネルを形成するためには、電荷をソース電極20から横方向に注入するだけでよい。ゲート電界が存在しない場合には、チャネルは理想的には電荷キャリヤをほとんど有さず、結果として、ソース-ドレイン伝導がないのが理想的である。
【0030】
オフ電流は、ゲート電圧を印加することにより電荷が意図的にチャネル内に注入されてはいないときに、ソース電極20とドレイン電極30との間に流れる電流と定義される。蓄積モードのTFTの場合、このことは、nチャネルを想定すると、ゲート-ソース電圧が閾値電圧として知られる特定電圧よりも負である場合に生じる。Sze「Semiconductor Devices--Physics and Technology(半導体デバイス--物理学及び技術)」John Wiely & Sons (1981)、第438〜443頁を参照されたい。オン電流は、適切な電圧をゲート電極44に印加することにより電荷キャリヤがチャネル内に意図的に蓄積されており、そしてチャネルが導電性であるときに、ソース電極20とドレイン電極30との間に流れる電流と定義される。nチャネル蓄積モードのTFTの場合、このことは閾値電圧よりも正のゲート-ソース電圧で発生する。この閾値電圧はnチャネル作業の場合、ゼロ又はわずかに正であることが望ましい。オンとオフとの切換えは、ゲート電極44からゲート誘電体56を横切って半導体-誘電体界面へ電界を印加してキャパシタを効果的に充電し、そしてこの電界を除去することによって達成される。
【0031】
本発明によれば、本発明において使用される有機半導体材料は、これがnチャネル膜の形態で使用される場合、特殊な化学下層を必要とすることなしに、不活性条件下で高い性能を示すことができる。
【0032】
本明細書中に記載されたN,N'-ジアリール-1,4,5,8-ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物、好ましくはN,N'-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物を含む、本発明の改善されたnチャネル半導体膜は、0.01 cm2/Vsを上回る、好ましくは0.1 cm2/Vsを上回る電界効果電子移動度を示すことができる。より好ましくは、本発明の化合物を含む膜は、0.2 cm2/Vsを上回る電界効果電子移動度を示す。
【0033】
加えて、本発明において使用されるnチャネル半導体膜は、少なくとも104、有利には少なくとも105のオン/オフ比を提供することができる。オン/オフ比は、ドレイン電流の最大値/最小値として測定される。それというのも、ゲート電圧はゼロから80ボルトまで掃引され、そしてドレイン-ソース電圧は一定値80ボルトに保持され、そして二酸化ケイ素ゲート誘電体を採用するからである。
【0034】
さらに、これらの特性は、膜堆積前にn型半導体材料を空気に繰り返し曝露した後、並びに堆積後にトランジスタ・デバイス及び/又はチャネル層を空気に曝露した後で得られる。
【0035】
理論に縛られたくはないが、本発明のナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物の望ましい特性に関与していると思われるいくつかのファクターがある。材料の固体構造は、ナフタレン環系及び/又はイミドカルボキシル基を含有する共役ナフタレン・コア系の軌道が、隣接分子と相互作用することができ、その結果、高移動度をもたらすように充填された個々の分子を有する。この相互作用の方向は、アクティブ層としてこの材料を使用するデバイスにおいて、所望の電流の方向に対して平行な成分を有する。材料によって形成される膜の形態は、実質的に連続しているので、許容できないほどの妨害なしに材料を通って電流が流れる。
【0036】
この化合物の最低空分子軌道は、妥当な作業機能を有する金属から、有用な電圧で電子を注入するのを可能にするエネルギーに位置する。この共役構造は一般に、真空エネルギーレベルを基準として、望ましい最低空分子軌道(LUMO)エネルギーレベル3.5 eV〜4.6 eVを有する。当業者に知られているように、LUMOエネルギーレベル及び還元電位はほぼ、同じ材料特性を表す。LUMOエネルギーレベル値は、真空エネルギーレベルを基準として測定され、そして還元電位値は、溶液対標準電極で測定される。デバイス用途の利点は、半導体の伝導帯である結晶性固体中のLUMO、及び固体の電子親和力の両方が、真空レベルを基準として測定されることである。後者のパラメータは通常、溶液から得られる前者のパラメータとは異なる。
【0037】
上述のように、本発明は、二価炭化水素基を介して各イミド窒素原子に置換型又は無置換型の炭素環式芳香環系が結合されたN,N'-ジアリール置換型ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物を含む有機半導体材料から成る薄膜を、薄膜トランジスタ内に含む物品であって、アリール環上の任意の置換基が少なくとも1つの電子供与有機基を含む、すなわち、2つの炭素環系のうちの一方又は両方の環系上に1つ又は2つ以上の置換基が存在する場合、このような置換基は少なくとも1つの電子供与基を含む、物品に関する。2つの炭素環系は互いに異なっていてよく、そして各炭素環系は独立して、異なる置換を有するか、又は置換を有さないことが可能である。しかしながら、各炭素環系は同じであることが好ましいものの、各環系上の置換基は、存在する場合、相異なるものであってもよい。好ましくは、両炭素環系が置換型である場合、両炭素環系は、少なくとも1つの電子供与置換基を含む。
【0038】
本発明の1つの態様の場合、nチャネル半導体膜は、一般構造I:
【0039】
【化2】

【0040】
(上記式中、R1、R2、R3、R4、及びR5(第1の環上)、並び、R6、R7、R8、R9、及びR10(第2の環上)が、それぞれ独立して、H又は電子供与有機基であり、フェニル環上のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10置換基は、電子供与置換基、より好ましくはアルキル、最も好ましくはメチル基を含む。好ましい有機基は例えばCH3、線状又は分枝状C2〜C4アルキル、アルキレン(一価不飽和型脂肪族炭化水素)、及びアルコキシを含む。従って、好ましくはR1〜R10基のいずれも、フッ素、トリフルオロメチル、又は他のフッ素含有基のような電気陰性基ではなく、またアリール置換基でもない)によって表されるN,N'-ジアリール置換型1,4,5,8ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物を含む。
【0041】
1つの態様の場合、上記構造内の少なくとも一方又は両方のフェニル環が、フェニルとイミド窒素とを結合する、構造I内のフェニル環のオルト又はメタ位置にある単一の置換基(最も好ましくはアルキル基)で置換されている。より好ましくは、両フェニル環は、フェニルのオルト又はメタ位置にある単一の置換基(最も好ましくはアルキル基)で置換されている。例えば1つの特に好ましい態様の場合、2つのフェニル環のそれぞれの環上に、独立して選択された厳密に1つの電子供与有機置換基があり、そして置換基は同一性及び/又は位置において異なっているか、或いは、置換基が同一性及び位置において同じである場合は、置換基は、イミド窒素に対してフェニル上のパラ位置でなくオルト又はメタ位置にある。
【0042】
R1、R2、R3、R4、及びR5のうちの少なくとも2つがHであり、そしてR6、R7、R8、R9、及びR10のうちの少なくとも2つがHであることが好ましい。より好ましい構造は、R1、R2、R3、R4、及びR5のうちの少なくとも3つがHであり、そしてR6、R7、R8、R9、及びR10のうちの少なくとも3つがHである構造である。
【0043】
1つの態様によれば、R1、R3、R4、R5、R6、R8、R9、及びR10の全てがHであり、且つR2及びR7の少なくとも一方、好ましくは両方が電子供与基、好ましくはアルキル基、例えばCH3であるか;或いは、R2、R3、R4、R5、R7、R8、R9、及びR10の全てがHであり、且つR1及びR6の少なくとも一方、好ましくは両方が電子供与基、好ましくはアルキル基、例えばCH3である構造である。
【0044】
上記構造Iにおいて、第1及び第2のジカルボン酸イミド部分は、ナフタレン核の従来通りの番号付与に基づいて、ナフタレン核の1,4位置及び5,8位置において、ナフタレン核の互いに対向する側で結合されている。ナフタレン核は任意選択的に、最大4つの独立して選択されたY基で置換することができ、mは0〜4の任意の整数である。置換基Yは、ナフタレン核上の任意の利用可能な位置における有機基又は無機基であることが可能である。好ましくはmはゼロである。
【0045】
ナフタレン核上のY置換基は、例えば、置換型又は無置換型であってよい下記基:アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、ハロゲン、例えばフッ素又は塩素、シアノ、アリール基、アリールアルキル基、又はこのような化合物から形成された膜のn型半導体特性に著しく不都合な影響を及ぼさない任意の他の基を含むことができる。半導体特性に寄与する分子の積み重ね配列を成す化合物の共役コアの密な接近を妨害する傾向のある置換基を回避することが有利である。このような置換基は、高分枝状基、環構造、及び原子12個を上回る基であって、具体的にはこのような基又は環が、共役コアの密な接近に重大な立体障壁をもたらすように配向されるものを含む。加えて、望ましい製作プロセスが妨げられるほど化合物の溶解度及び/又は揮発度を著しく低下させる置換基も回避されるべきである。
【0046】
特に断りのない限り、「置換型」又は「置換基」という用語の使用は、任意の基又は水素以外の原子を意味する。さらに、「基」という用語が使用されるときには、これは置換基が置換され得る水素を含有する場合に、置換基の無置換形態だけでなく、置換基が半導体の有用性に必要な特性を破壊しない限り、任意の他の上記の(同じ位置に関して言及した)置換基(最大限可能な数まで)でさらに置換され得る範囲の形態をも含むことも意図される。所望の場合、置換基はそれ自体、許容され得る置換基で1回又は2回以上さらに置換されてよい。例えば、R基(R1〜R10)の場合、アルキル基をアルコキシ基で置換することができ、又はY基の場合、アルキル基を1つ又は2つ以上のフッ素原子で置換することができる。分子が2つ又は3つ以上の置換を有することができる場合には、特に断りのない限り、これらの置換基は結合して、脂肪族環又は不飽和環を形成することができる。
【0047】
R基又はY基に関連して、上記アルキル基のうちのいずれかの例は、特に断りのない限り、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、及び同種のものである。好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基は、分枝状又は線状基を含むものとする。アルケニル基は、ビニル、1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、及び同種のものであってよい。
【0048】
Y基に関連して、アリール基は、フェニル、ナフチル、スチリル、及び同種のものであってよい。アリールアルキル基はベンジル、フェネチル、及び同種のものであってよい。前述のもののうちのいずれかの基上の有用な置換基は、ハロゲン、アルコキシ、及び同種のものを含む。ナフタレン核又はナフタレン・コア上のY置換基は、電子求引基及び/又は電子供与基であり得る。
【0049】
電子供与基に言及する際には、これは、「Physical Organic Chemistry(物理有機化学)」(McGraw-Hill Book Co., NY, 1940)においてL.P. Hammettによって記載されているようなハメット置換基定数(σp, σm)によって、又は「Steric Effect in Organic Chemistry(有機化学における立体効果)」(Wiley and Sons, NY, 1956)及び他の標準的な有機テキストにおいてR. W. Taftによって定義されたタフト極性置換基定数(σi)によって示すこと又は評価することができる。反応部位の電子性質に影響を与える環置換基(パラ位置)の能力を特徴付けるこのパラメータは、当初、安息香酸のpKaに対するこれらの効果によって定量化された。その後の研究は元の概念及びデータを拡大して精緻化したが、しかし予測及び相関を目的とした場合には、例えば、C. Hansch他、J. Med. Chem., 17,1207(1973)に記載されているような化学文献において、σpの標準集合を幅広く利用することができる。好ましくは、電子供与基のσp又はσmは、ゼロ未満、より好ましくは-0.05未満、最も好ましくは-0.1未満である。上記構造Iにおけるような本発明による構造内の基の電子供与特性を示すために、たとえこの基が構造Iにおいてパラ置換基ではない場合にも、σp値を使用することができる。
【0050】
有用なN,N'-ジアリール置換型1,4,5,8ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド誘導体の具体例が、下記式によって示される。
【0051】
【化3】

【0052】
【化4】

【0053】
【化5】

【0054】
【化6】

【0055】
本発明において使用される対称N,N'-ジアリールナフタレンテトラカルボン酸ジイミドは、過剰の好適なアミン、例えばフェニルエチルアミンで、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を環化することにより、好都合に調製される。典型的な手順が、欧州特許出願公開第251071号明細書、及び米国特許第4,156,757号明細書、同第4,578,334号明細書、及び同第4,719,163号明細書に記載されている。非対称ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドを調製するための典型的な手順が、米国特許第4,714,666号明細書に記載されている。次いで、10-5〜10-6 torrで一連の昇華を施すことにより、粗材料を精製した。
【0056】
本発明の別の観点は、半導体構成部分及びこのような構成部分を内蔵する電子デバイスの製造方法に関する。1つの態様の場合、基板を提供し、そして上記半導体材料層を基板に適用することができ、この層によって電気コンタクトが形成される。正確なプロセス順序は、所望の半導体成分の構造によって決定される。このように、有機電界効果トランジスタの製造に際して、例えばゲート電極を可撓性基板、例えば有機ポリマー・フィルム上に先ず堆積させ、次いで、ゲート電極を誘電体で絶縁することができ、次いでソース電極及びドレイン電極と、nチャネル半導体材料層とを上側に適用することができる。このようなトランジスタの構造、ひいてはその製造順序は、当業者に知られた習慣的な形式で変化させることができる。従ってこの代わりに、ゲート電極を先ず堆積させ、続いてゲート誘電体を堆積させ、次いで有機半導体を適用することができ、そして最後にソース電極及びドレイン電極のためのコンタクトを半導体層上に堆積させることもできる。第3の構造では、先ずソース電極及びドレイン電極を堆積させ、次いで有機半導体を堆積させ、そして上側に誘電体及びゲート電極を堆積させることもできる。
【0057】
当業者は、他の構造を構成することができ、そして/又は、中間表面改質層を薄膜トランジスタの上記構成部分間に挿入することができることを理解するであろう。たいていの態様の場合、電界効果トランジスタは絶縁層、ゲート電極、本明細書中に記載された有機材料を含む半導体層、ソース電極、及びドレイン電極を含み、ゲート電極と有機半導体層との両方が絶縁層と接触し、そしてソース電極とドレイン電極との両方が半導体層と接触している限り、絶縁層、ゲート電極、半導体層、ソース電極、及びドレイン電極が任意の配列を成している。
【0058】
製造中、試験中、及び/又は使用中にOTFTを支持するために支持体を使用することができる。当業者に明らかなように、商業的な態様のために選択される支持体は、種々の態様を試験又はスクリーニングするために選択される支持体とは異なっていてよい。いくつかの態様の場合、この支持体は、TFTのためのいかなる所要の電気機能も提供しない。このタイプの支持体は、本明細書において「非関与支持体(non-participating support)」と称される。有用な材料は、有機又は無機材料を含むことができる。例えば、支持体は無機ガラス、セラミック・フォイル、高分子材料、充填高分子材料、被覆金属フォイル、アクリル、エポキシ、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリケトン、ポリ(オキシ-1,4-フェニレンオキシ-1,4-フェニレンカルボニル-1,4-フェニレン)(ポリ(エーテルエーテルケトン)又はPEEKと呼ばれることがある)、ポリノルボルネン、ポリフェニレンオキシド、ポリ(エチレンナフタレンジカルボキシレート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)、及び繊維強化プラスチック(FRP)を含むことができる。
【0059】
本発明のいくつかの態様において、可撓性支持体が使用される。これはロール処理を可能にし、ロール処理は連続的に行うことができ、フラット及び/又は剛性の支持体を凌ぐ、規模の経済性及び製造の経済性を提供する。選択された可撓性支持体は、好ましくは、直径約50 cm未満、より好ましくは25 cm未満、最も好ましくは10 cm未満のシリンダーの周面に、素手によるような低い力によって、歪み又は破断を生じさせずに巻き付けることができる。好ましい可撓性支持体は巻き上げることができる。
【0060】
本発明のいくつかの態様の場合、支持体は任意である。例えば、図2のトップ形態において、ゲート電極及び/又はゲート誘電体が、結果として得られたTFTの意図された用途に十分な支持力を提供するときには、支持体は必要とされない。加えて、支持体は一時的な支持体と組み合わせることができる。このような態様において、一時的な目的、例えば製造、搬送、試験、及び/又は貯蔵のために一時的な支持体が望まれる場合、支持体に一時的な支持体を取り外し可能に付着させるか、又は機械的に固定することができる。例えば、可撓性高分子支持体は剛性ガラス支持体に付着させることができ、剛性ガラス支持体は取り除くことができる。
【0061】
ゲート電極は任意の有用な導電性材料であってよい。金属、退縮ドープ型半導体、導電性ポリマー、及び印刷可能材料、例えばカーボンインク又は銀-エポキシを含む、当業者に知られた種々様々なゲート材料も好適である。例えば、ゲート電極は、ドープ型シリコン、又は金属、例えばアルミニウム、クロム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金、タンタル、及びチタンを含んでよい。導電性ポリマー、例えばポリアニリン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)を使用することもできる。加えて、これらの材料から成る合金、組み合わせ、及び多層が有用であってよい。
【0062】
本発明のいくつかの態様の場合、同じ材料がゲート電極機能を提供し、そして支持体の支持機能も提供する。例えば、ドープ型シリコンは、ゲート電極として機能し、そしてOTFTを支持することができる。
【0063】
ゲート誘電体は、ゲート電極上に提供される。このゲート誘電体は、OTFTデバイスの残りからゲート電極を電気的に絶縁する。こうして、ゲート誘電体は、電気絶縁材料を含む。ゲート誘電体は、具体的なデバイス及び使用環境に応じて幅広く変化することができる好適な誘電定数を有するべきである。例えば、約2〜100又はそれ以上の誘電定数が、ゲート誘電体に関して知られている。ゲート誘電体に有用な材料は、例えば無機電気絶縁材料を含んでよい。ゲート誘電体は、高分子材料、例えばポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、シアノセルロース、ポリイミドなどを含むことができる。ゲート誘電体は、異なる誘電定数を有する種々異なる材料から成る複数の層を含むことができる。
【0064】
ゲート誘電体にとって有用な材料の具体例は、ストロンチア酸塩、タンタル酸塩、チタン酸塩、ジルコン酸塩、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化タンタル、酸化チタン、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコン酸チタン酸バリウム、セレン化亜鉛、及び硫化亜鉛を含む。加えて、これらの例から成る合金、組み合わせ、及び多層をゲート誘電体のために使用することもできる。これらの材料のうち、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及びセレン化亜鉛が好ましい。加えて、高分子材料、例えばポリイミド、及び高い誘電定数を示す絶縁体も好ましい。このような絶縁体が、米国特許第5,981,970号明細書に論じられている。
【0065】
ゲート誘電体はOTFT内に別個の層として提供するか、又は例えばゲート誘電体を形成するためにゲート材料を酸化させることにより、ゲート上に形成することができる。誘電層は、異なる誘電定数を有する2つ又は3つ以上の層を含むことができる。
【0066】
ソース電極及びドレイン電極は、ゲート誘電体によってゲート電極から分離されるのに対して、有機半導体層は、ソース電極及びドレイン電極の上側又は下側に位置することができる。ソース電極及びドレイン電極は、任意の有用な導電性材料であることが可能である。有用な材料は、ゲート電極に関して上述した材料のうちのほとんど、例えばアルミニウム、バリウム、カルシウム、クロム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金、チタン、ポリアニリン、PEDOT:PSS、他の導電性ポリマー、これらの合金、これらの組み合わせ、及びこれらの多層を含む。
【0067】
薄膜電極(例えばゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極)は、任意の有用な手段、例えば物理的蒸着(例えば熱蒸発、スパッタリング)又はインクジェット印刷によって提供することができる。これらの電極のパターン化は、周知の方法、例えばシャドー・マスク、加法的フォトリソグラフィ、減法的フォトリソグラフィ、印刷、マイクロコンタクト印刷、及びパターン塗布によって達成することができる。
【0068】
有機半導体層は、薄膜トランジスタ物品に関して上述したように、ソース電極及びドレイン電極の上側又は下側に提供することができる。本発明はまた、本明細書中に記載された方法によって形成された複数のOTFTを含む集積回路を提供する。上記N,N'-ジアリール置換型1,4,5,8-ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミド化合物を使用して形成されたnチャネル半導体材料は、任意の好適な基板上に形成することができ、基板は、支持体及び任意の中間層、例えば当業者に知られたものを含む誘電体又は絶縁体材料を含むことができる。
【0069】
本発明の薄膜トランジスタ又は集積回路を形成するプロセス全体を、支持体最大温度約450℃未満、好ましくは約250℃未満、より具体的には約150℃未満、及びさらにより好ましくは約100℃未満、又は室温付近の温度(約25℃〜70℃)でも、実施することができる。本明細書に含まれる本発明に関する知識を得れば、温度は一般に、支持体、及び当業者に知られた処理パラメータに応じて選択される。これらの温度は、伝統的な集積回路及び半導体の処理温度を十分に下回る。このことは、種々の比較的低廉な支持体、例えば可撓性高分子支持体のいずれかを使用することを可能にする。こうして、本発明は、顕著に改善された性能を有する有機薄膜トランジスタを含有する比較的低廉な集積回路の製造を可能にする。
【0070】
本発明において使用される化合物は容易に処理することができ、そして例えばこれらを蒸発させることができる程度に熱安定である。これらの化合物は大きな揮発度を有しているので、所望の場合には気相堆積が容易に達成される。このような化合物は、真空昇華によって基板上に堆積させることができる。
【0071】
急速昇華法による堆積も可能である。このような1方法は、基板と、化合物を粉末形態で保持する供給源容器とを含有するチャンバに、35 mtorrの真空を負荷し、そして化合物が基板上に昇華するまで数分間にわたって容器を加熱することである。一般に、最も有用な化合物は整列膜を形成し、非晶質膜はあまり有用でない。
【0072】
本発明において使用されるnチャネル半導体膜が有用であるようなデバイスは、特に薄膜トランジスタ(TFT)、特に有機電界効果薄膜トランジスタを含む。また、米国特許出願公開第2004/0021204号明細書(Liu)の第13〜15頁に記載されているような、有機p-n結合を有する種々のタイプのデバイス内に、このような膜を使用することもできる。
【0073】
TFT及びその他のデバイスが有用であるような電子デバイスは、例えば、より複雑な回路、例えばシフト・レジスタ、集積回路、論理回路、スマートカード、メモリー・デバイス、ラジオ周波数識別タグ、アクティブ・マトリックス・ディスプレイのためのバックプレーン、アクティブ・マトリックス・ディスプレイ(例えば液晶又はOLED)、太陽電池、リング・オシレータ、及び相補回路、例えばインバータ回路を、例えば入手可能なp型有機半導体材料、例えばペンタセンを使用して形成されたその他のトランジスタとの組み合わせにおいて含む。アクティブ・マトリックス・ディスプレイの場合、ディスプレイの画素の電圧保持回路の一部として、本発明によるトランジスタを使用することができる。本発明のTFTを含有するデバイスの場合、このようなTFTは、当業者に知られた手段によって、作用接続される。
【0074】
本発明はさらに、上記電子デバイスのいずれかの製造方法を提供する。このように本発明は、上記TFTのうちの1つ又は2つ以上を含む物品内で具体化される。
【実施例】
【0075】
一例であることが意図される下記例によって、本発明の利点が実証される。
【0076】
A.材料の合成
本発明において使用されるN,N'-ジアリール-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドを、Rademacher, A.他、Chem. Ber. 1982 115, 2927に記載されている一般的な方法に従って、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を過剰のm-トリジンで環化することによって、従来通りに調製した。例えば、本発明において使用されるN,N'-ジ(3-メチルフェニル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(化合物I-2)を、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を過剰のm-トリジンで環化することによって、従来通りに調製した。従って、Aldrich Chemical Companyから入手可能なナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3〜4当量過剰のアミン、例えばやはりAldrichから入手可能なm-トルイジン、触媒量の酢酸亜鉛、及び二無水物分子1グラム当たり10〜15 mlのキノリンの混合物を、温度約220℃で4〜5時間にわたって加熱した。混合物を室温まで冷やしておき、そして沈澱した固形物を捕集し、濾過し、そしてアセトンで、続いてそれぞれ200 mlの沸騰0.1 M水性Na2CO3、沸騰水、及び高温トルエンで洗浄し、これを、生成物が事実上溶解されることになる温度未満で維持する。次いで、10-5〜10-6 torrで一連の昇華を施すことにより、固形物を精製する。(上述のように、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物を過剰のm-トリジンで環化することによって、他の化合物が好都合に調製される。)次いで、10-5〜10-6 torrで一連の昇華を施すことにより、粗材料を精製した。
【0077】
B.デバイスの調製
本発明の種々の材料の電気特性を試験するために、トップ・コンタクト・ジオメトリーを使用して、電界効果トランジスタを典型的な形式で形成した。使用される基板は、トランジスタのゲートとしても役立つ、重度にドープ型シリコン・ウェハーである。ゲート誘電体は、厚さ185 nmの熱成長させられたSiO2層である。ゲート誘電体の表面を処理することにより電気特性を改善できることが、p型及びn型トランジスタの両方に関して、以前に示されている。本明細書中に記載された試験のほとんどの場合、酸化物表面は、薄い(<10 nm)スピン塗布ポリマー層、又はオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の自己組織化単分子層(SAM)で処理された。典型的には、未処理酸化物試料が比較のための試験に含まれた。
【0078】
ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドから成るアクティブ層を、熱蒸発器内で真空蒸着によって堆積させた。堆積速度は1秒当たり0.1オングストロームである一方、基板温度は大抵の試験に関しては90℃に保持した。アクティブ層の厚さはいくつかの試験において種々様々であったが、しかし典型的には25 nmであった。厚さ50 nmの銀コンタクトを、シャドー・マスクを通して堆積させた。チャネル幅を420ミクロンで保持する一方、チャネル長は50〜175ミクロンで変化させた。他のコンタクト材料の効果を見るために、いくつかの試験を実施した。いくつかのデバイスを、アクティブ材料の前にコンタクトが堆積されるボトム・コンタクト・ジオメトリーで形成した。
【0079】
C.デバイス測定及び分析
製作されたデバイスの電気的特徴付けを、Hewlett Packard HP 4145b(登録商標)パラメータ分析器で実施した。空気中のデバイスの安定性を意図的に試験することを除けば、プローブ測定ステーションは、全ての測定に対して正のアルゴン環境内で保持した。白色光に対する感受性を検査する場合を除いては、測定を硫黄光下で実施した。デバイスを試験前に空気に曝露した。
【0080】
実施されるそれぞれの試験に対して、調製された各試料に関して4〜12個の個々のデバイスを試験し、そしてその結果を平均した。各デバイスに関して、ゲート電圧(Vg)の種々の値に対するソース-ドレイン電圧(Vd)の関数として、ドレイン電流(Id)を測定した。たいていのデバイスの場合、測定されたゲート電圧のそれぞれに対して、Vdを0 Vから80 Vまで、典型的には0 V、20 V、40 V、60 V、及び80 Vで掃引した。これらの測定において、デバイスを通る漏れ電流を検出するために、ゲート電流(Ig)も記録した。さらに、各デバイスに関して、ソース-ドレイン電圧の種々の値に対するゲート電圧の関数として、ドレイン電流を測定した。たいていのデバイスの場合、測定されたゲート電圧のそれぞれに対して、Vgを0 Vから80 Vまで、典型的には40 V、60 V、及び80 Vで掃引した。
【0081】
データから抽出されたパラメータは、電界効果移動度(μ)、閾値電圧(Vth)、閾値下勾配(S)、及び測定されたドレイン電流のIon/Ioffの比を含む。電界効果移動度は飽和領域(Vd>Vg−Vth)において抽出した。この領域内では、ドレイン電流は、下記等式:
【0082】
【数1】

【0083】
によって提供される(Sze「Semiconductor Devices--Physics and Technology」John Wiely & Sons (1981)参照)。上記式中、Wはチャネル幅、そしてLはチャネル長であり、Coxは酸化物層のキャパシタンスであり、これは、酸化物厚及び材料の誘電定数の関数である。この等式から、飽和電界効果移動度を、√Id対Vg曲線の線形部分に対する直線適合部分から抽出した。閾値電圧Vthは、この直線適合部分のx切片である。移動度は、線形領域(Vd ≦ Vg−Vth)から抽出することもできる。この場合、ドレイン電流は下記等式:
【0084】
【数2】

【0085】
によって提供される(Sze「Semiconductor Devices--Physics and Technology」John Wiely & Sons (1981)参照)。
【0086】
これらの試験の場合には、線形領域における移動度は抽出しなかった。それというのも、このパラメータはコンタクトにおける注入の問題点によって著しく多くの影響を受けるからである。一般に、低VdにおけるId対Vdの曲線が非線形であることは、デバイスの性能がコンタクトによる電荷の注入によって限られることを示す。所与のデバイスのコンタクトの不完全性とはほとんど無関係な結果を得るために、線形移動度ではなく飽和移動度を、デバイス性能の特性パラメータとして抽出した。
【0087】
ドレイン電流の対数を、ゲート電圧の関数としてプロットした。log Idプロットから抽出されたパラメータは、Ion/Ioff比、及び閾値下勾配(S)を含む。Ion/Ioff比は単純に、ドレイン電流の最小値に対する最大値の比であり、Sは、ドレイン電流が増大しつつある(すなわちデバイスがオンになりつつある)領域内のId曲線の勾配の逆数である。
【0088】
D.結果
下記例は、単純なN,N'-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドと比較して、N,N'-ジアリール置換型1,4,5,8-ナフタレン系テトラカルボン酸ジイミドを含む本発明のデバイスが、高い移動度及びオン/オフ比を有する、改善されたnチャネル半導体膜を提供することを実証する。飽和領域内で計算された移動度は、0.07〜2.5 cm2/Vsであり、オン/オフ比は104〜105であった。改善された性能に加えて、デバイスはまた、典型的なnチャネルTFTに対して改善された空気中の安定性、及び優れた再現性を示す。
【0089】
比較例1
この例は、N,N'-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドC-1から形成されたn型TFTデバイスを実証する。
【0090】
【化7】

【0091】
厚さ185 nmの熱成長させられたSiO2層を有する重度ドープ型シリコン・ウェハーを、基板として使用した。ウェハーをピラニア溶液中で10分間にわたって洗浄し、続いてUV/オゾン・チャンバ内に6分間にわたって曝露した。次いで、洗浄された表面を、湿度制御環境下でヘプタン溶液から形成されたオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の自己組織化単分子層で処理した。処理された表面の品質を保証するために水接触角及び層厚を測定した。良好な品質のOTS層を有する表面の水接触角は>90°であり、偏光解析法から測定された厚さは27Å〜35Åであった。
【0092】
精製されたN,N'-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドC-1を、2×10-7 Torrの圧力及び1秒当たり0.1オングストロームの速度の真空昇華により、水晶結晶によって測定して10 nmの厚さまで堆積させた。堆積中に基板を一定温度75℃で保持した。短時間にわたって試料を空気に曝露したあと、続いて、シャドー・マスクを通して50 nmの厚さまでAg源及びドレイン電極を堆積させた。形成されたデバイスのチャネル幅は420ミクロンであり、チャネル長は50〜175ミクロンで変化した。複数のOTFTを調製し、そして4〜12個のOTFTの代表試料を、それぞれの堆積作業に関して試験した。平均した結果を下記表1に示す。
【0093】
Hewlett Packard HP 4145B(登録商標)半導体パラメータ分析器を使用してアルゴン雰囲気中で測定する前に、デバイスを空気に曝露した。それぞれのトランジスタに関して、電界効果移動度μを、(ID)1/2対VGプロットの勾配から計算した。平均移動度は、飽和領域において0.064 cm2/Vsであることが判った。平均オン/オフ比は2.3×104であり、そして平均閾値電圧は57.3 Vであった。こうして調製されたデバイスに関して、最大0.12 cm2/Vsの飽和移動度が測定された。
【0094】
例2
この例は、本発明によるN,N'-ジ(4-メチルフェニル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物I-1を使用したn型TFTデバイスの改善された性能を実証する。
【0095】
アクティブ材料として化合物I-1を含むn型TFTデバイスを、例1におけるように形成した。従って、化合物I-1は、2×10-7 Torrの圧力及び1秒当たり0.5オングストロームの速度の真空昇華により、水晶結晶によって測定して25 nmの厚さまで堆積させた。堆積中に基板を一定温度90℃で保持した。短時間にわたって試料を空気に曝露したあと、続いて、シャドー・マスクを通して50 nmの厚さまでAg源及びドレイン電極を堆積させた。形成されたデバイスのチャネル幅はほぼ420ミクロンであり、チャネル長は50〜175ミクロンで変化した。複数の有機薄膜トランジスタ(OTFT)を調製し、そして4〜12個のOTFTの代表試料を、それぞれの堆積作業に関して試験した。平均した結果を下記表1に示す。
【0096】
Hewlett Packard 4145B(登録商標)半導体パラメータ分析器を使用してアルゴン雰囲気中で測定する前に、デバイスを空気に曝露した。電界効果移動度μは、(ID)1/2対VGプロットの勾配から、飽和領域において0.13 cm2/Vsであることが計算された。平均オン/オフ比は4.8×104であり、そして平均閾値電圧はVT = 47.09 Vであった。こうして調製された同様のデバイスから、最大0.36 cm2/Vsの飽和移動度が測定された。
【0097】
【表1】

【0098】
この例はn型材料として化合物I-1を使用することの利点を明示する。移動度は、比較例C-1を凌いで改善され、デバイス性能に対する、フェニル環上のパラ-メチル基置換の比較的改善された有益な効果を実証する。
【0099】
例3
この例は、本発明によるN,N'-ジ(3-メチルフェニル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物I-2を使用したn型TFTデバイスの改善された性能を実証する。
【0100】
アクティブ材料として化合物I-3を含むn型TFTデバイスを、例1におけるように形成した。従って、化合物I-3は、2×10-7 Torrの圧力及び1秒当たり0.1オングストロームの速度の真空昇華により、水晶結晶によって測定して10 nmの厚さまで堆積させた。堆積中に基板を一定温度90℃で保持した。短時間にわたって試料を空気に曝露したあと、続いて、シャドー・マスクを通して50 nmの厚さまでAg源及びドレイン電極を堆積させた。形成されたデバイスのチャネル幅はほぼ420ミクロンであり、チャネル長は50〜175ミクロンで変化した。複数の有機薄膜トランジスタ(OTFT)を調製し、そして4〜12個のOTFTの代表試料を、それぞれの堆積作業に関して試験した。平均した結果を下記表2に示す。
【0101】
Hewlett Packard 4145B(登録商標)半導体パラメータ分析器を使用してアルゴン雰囲気中で測定する前に、デバイスを空気に曝露した。平均電界効果移動度μは、(ID)1/2対VGプロットの勾配から、飽和領域において0.49cm2/Vsであることが計算された。平均オン/オフ比は、4.8×104であり、閾値電圧はVT = 55 Vであった。こうして調製された同様のデバイスから、最大0.8 cm2/Vsの飽和移動度が測定された。
【0102】
【表2】

【0103】
この例はn型材料として化合物I-2を使用することの利点を明示する。移動度は、比較例C-1を凌いで改善され、デバイス性能に対する、フェニル環上のメタ-メチル基の有益な効果を明示する。
【0104】
例4
この例は、本発明によるN-(4-ブチル-フェニル)-N'-(4-t-ブチル-フェニル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物I-7を使用したn型TFTデバイスの改善された性能を実証する。
【0105】
アクティブ材料として化合物I-7を含むn型TFTデバイスを、例1におけるように形成した。従って、化合物I-7は、2×10-7 Torrの圧力及び1秒当たり0.1オングストロームの速度の真空昇華により、水晶結晶によって測定して20 nmの厚さまで堆積させた。堆積中に基板を一定温度90℃で保持した。短時間にわたって試料を空気に曝露したあと、続いて、シャドー・マスクを通して50 nmの厚さまでAg源及びドレイン電極を堆積させた。形成されたデバイスのチャネル幅はほぼ420ミクロンであり、チャネル長は50〜175ミクロンで変化した。複数の有機薄膜トランジスタ(OTFT)を調製し、そして4〜12個のOTFTの代表試料を、それぞれの堆積作業に関して試験した。平均した結果を下記表3に示す。
【0106】
Hewlett Packard 4145B(登録商標)半導体パラメータ分析器を使用してアルゴン雰囲気中で測定する前に、デバイスを空気に曝露した。平均電界効果移動度μは、(ID)1/2対VGプロットの勾配から、飽和領域において0.49cm2/Vsであることが計算された。平均オン/オフ比は、4.8×104であり、閾値電圧はVT = 55 Vであった。こうして調製された同様のデバイスから、最大0.8 cm2/Vsの飽和移動度が測定された。
【0107】
【表3】

【0108】
この例はn型材料として化合物I-7を使用することの利点を明示する。移動度は、比較例C-1を凌いで改善され、デバイス性能に対する、2つのフェニル環上の2つの異なるアルキル基の比較的改善された効果を明示する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、ボトム・コンタクト形態を有する典型的な有機薄膜トランジスタを示す断面図である。
【図2】図2は、トップ・コンタクト形態を有する典型的な有機薄膜トランジスタを示す断面図である。
【符号の説明】
【0110】
20 ソース電極
28 基板
30 ドレイン電極
44 ゲート電極
56 ゲート誘電体
70 半導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各イミド窒素原子に結合された、それぞれ6〜14個の環炭素を有する、第1及び第2の炭素環式芳香族環系を有するN,N'-ジアリール置換型ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含む有機半導体材料から成る薄膜を、薄膜トランジスタ内に含む物品であって、該炭素環式芳香族環系のうちの少なくとも一方に、1つ又は2つ以上の置換基が存在しており、該置換基が、独立して選択された電子供与有機置換基である物品。
【請求項2】
該第1及び第2の炭素環式芳香族環系は独立して、置換型又は無置換型フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、又はフルオレニル環である請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記構造内の第1及び第2の炭素環式芳香族環系の両方が、少なくとも1つの電子供与基で置換されている請求項1に記載の物品。
【請求項4】
該第1及び第2の炭素環式芳香族環系のうちの一方又は両方が、CH3、線状又は分枝状C2〜C4アルキル、アルケニル、アルコキシ、又は炭素原子数1〜4の他の電子供与有機基から選択された少なくとも1つの電子供与基によって置換されている請求項3に記載の物品。
【請求項5】
該薄膜トランジスタが、誘電層、ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極を含む電界効果トランジスタであり、そして該ゲート電極と該有機半導体材料薄膜との両方が該誘電層と接触し、該ソース電極と該ドレイン電極との両方が該有機半導体材料薄膜と接触している限り、該誘電層、該ゲート電極、該有機半導体材料薄膜、該ソース電極、及び該ドレイン電極が任意の配列を成している請求項1に記載の物品。
【請求項6】
該有機半導体材料薄膜が、0.01 cm2/Vsを上回る電子移動度を示すことができる請求項1に記載の物品。
【請求項7】
該有機半導体材料薄膜が、下記構造:
【化1】

(上記式中、2つのフェニル環のうちの第1の環上で、R1、R2、R3、R4、及びR5が、そして2つのフェニル環のうちの第2の環上で、R6、R7、R8、R9、及びR10が、それぞれ独立して、H又は電子供与有機基であり、該構造内の該第1及び第2のフェニル環のうちの一方又は両方が少なくとも1つの電子供与基で置換されるように、R1〜R10基のうちの少なくとも1つは電子供与有機基であり、そしてYは、該有機半導体材料の効果的な半導体特性に不都合な影響を及ぼさない置換基であり、そしてmは0〜4である)
によって表されるN,N'-ジアリール置換型1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含む請求項1に記載の物品。
【請求項8】
R1〜R10基のいずれも電気陰性基ではない請求項7に記載の物品。
【請求項9】
R1〜R10基のいずれもフッ素含有基又はアリール置換基ではない請求項8に記載の物品。
【請求項10】
前記構造内の該第1及び第2のフェニル環の両方が、少なくとも1つの電子供与基で置換されている請求項7に記載の物品。
【請求項11】
該第1及び第2のフェニル環のうちの一方又は両方が、アルキル基である少なくとも1つの電子供与基によって置換されている請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記構造内で、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10が、それぞれ独立して、H、CH3、線状又は分枝状C2〜C4アルキル、アルケニル、アルコキシ、又は炭素原子数1〜4の他の電子供与有機基から選択される請求項7に記載の物品。
【請求項13】
前記構造内で、R1、R2、R3、R4、及びR5のうちの少なくとも2つがHであり、そしてR6、R7、R8、R9、及びR10のうちの少なくとも2つがHである請求項7に記載の物品。
【請求項14】
前記構造内で、R1、R2、R3、R4、及びR5のうちの少なくとも3つがHであり、そしてR6、R7、R8、R9、及びR10のうちの少なくとも3つがHである請求項13に記載の物品。
【請求項15】
前記構造内で、R1、R3、R4、R5、R6、R8、R9、及びR10の全てがHであり、且つR2及びR7のうちの少なくとも一方がアルキル基であるか;又は、R2、R3、R4、R5、R7、R8、R9、及びR10の全てがHであり、且つR1及びR6のうちの少なくとも一方がCH3である請求項7に記載の物品。
【請求項16】
該2つのフェニル環のそれぞれの環上に、独立して選択された電子供与有機置換基が厳密に1つあり、そして該置換基が同一性及び/又は位置において異なっているか、又は、該置換基が同一性及び位置において同じである場合は、該置換基が、該イミド窒素に対して該2つのフェニル環のそれぞれの環上のパラ位置でなくオルト又はメタ位置にある請求項7に記載の物品。
【請求項17】
該電子供与基及び/又はY基が独立して、アルキル、アルケニル、及びアルコキシ基から選択される請求項7に記載の物品。
【請求項18】
該薄膜トランジスタのソース/ドレイン電流のオン/オフ比が、少なくとも104である請求項1に記載の物品。
【請求項19】
該ゲート電極が、該有機半導体材料薄膜を通る該ソース電極と該ドレイン電極との間の電流を、該ゲート電極に印加される電圧によって制御するように適合されている請求項5に記載の物品。
【請求項20】
該誘電層が、無機又は有機の電気絶縁材料を含む請求項5に記載の物品。
【請求項21】
該薄膜トランジスタが、任意選択的に可撓性である非関与支持体をさらに含む請求項1に記載の物品。
【請求項22】
該ソース電極、ドレイン電極、及びゲート電極がそれぞれ独立して、ドープ型シリコン、金属、及び導電性ポリマーから選択された材料を含む請求項5に記載の物品。
【請求項23】
電子デバイスであって請求項1に記載の複数の薄膜トランジスタを含む集積回路、アクティブ・マトリックス・ディスプレイ、及び太陽電池から成る群から選択される電子デバイス。
【請求項24】
該複数の薄膜トランジスタは、任意選択的に可撓性である非関与支持体上にある請求項23に記載の電子デバイス。
【請求項25】
必ずしも下記順序通りではなく、
(a) 各イミド窒素原子に結合された、それぞれ6〜14個の環炭素を有する、第1及び第2の炭素環式芳香族環系を有するN,N'-ジアリール置換型ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を含むnチャネル有機半導体材料から成る薄膜を、基板上に堆積させる工程、
ここで、該炭素環式芳香族環系のうちの少なくとも一方に、1つ又は2つ以上の置換基が存在しており、該置換基は、該有機半導体材料が0.01 cm2/Vsを上回る電界効果電子移動度を示すように独立して選択された電子供与有機置換基である、
(b) 離隔されたソース電極とドレイン電極とを形成する工程、ここで、該ソース電極と該ドレイン電極は、nチャネル半導体膜によって分離され、そして該nチャネル半導体膜と電気的に接続されている;そして
(c) 該nチャネル有機半導体材料薄膜から離隔されたゲート電極を形成する工程
を含んで成る薄膜半導体デバイスの製作方法。
【請求項26】
該化合物が、昇華によって該基板上に堆積され、そして該基板が、堆積中に100℃以下の温度を有している請求項25に記載の方法。
【請求項27】
該化合物が、N,N'-ビス[2-メチル-フェニル]-ナフタレン-1,4,5,8テトラカルボン酸ジイミド、N,N'-ビス[3-メチル-フェニル]-ナフタレン-1,4,5,8テトラカルボン酸ジイミド、又はN,N'-ビス[4-メチル-フェニル]-ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸ジイミド、又はN,N'-ビス[3-メチル-フェニルメチル]-ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸ジイミド、又はN-(2-メチル-フェニル)、N'-(3-メチル-フェニル)-ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸ジイミド、又はN-(4-メチル-フェニル)、N'-(3-メチル-フェニル)-ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸ジイミドである請求項25に記載の方法。
【請求項28】
必ずしも下記順序通りではなく、
(a) 基板を用意する工程;
(b) 該基板上にゲート電極材料を用意する工程;
(c) 該ゲート電極材料上にゲート誘電体を用意する工程;
(d) 該ゲート誘電体上に、nチャネル有機半導体材料薄膜を堆積させる工程;
(e) 該nチャネル有機半導体材料薄膜に隣接して、ソース電極及びドレイン電極を用意する工程
の各工程を含んで成る請求項25に記載の方法。
【請求項29】
該工程が記載順序で行われる請求項28に記載の方法。
【請求項30】
該基板が可撓性であり、そして該方法が、全体的に100℃のピーク温度より下で行われる請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−514223(P2009−514223A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537779(P2008−537779)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/040750
【国際公開番号】WO2007/053303
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】