説明

薄膜多重層を備え、赤外線および/あるいは太陽エネルギー輻射線の範囲で反射性を有する透明な基質

本発明は、例えば、銀に基づき、赤外線および/あるいは太陽エネルギー輻射線において反射性を有する一つ以上の機能金属層、機能金属層と接触している一つ以上の金属遮断層、および一つ以上の上部誘電体層を含む薄層の積重ねを備えている透明な基質に関する。本発明は、一つ以上の遮断層がジルコニウムに基づきかつ上部誘電体層が機能層あるいは遮断層と接触している一つ以上のZnOベースの層を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線および/あるいは太陽エネルギー輻射線の範囲において反射性を有する一つ以上の機能金属層、殊に銀ベースの層、機能層と接触している一つ以上の機能金属バリヤー層および一つ以上の上部誘電体層を含む薄膜多重層を備えている透明な基質(サブストレート)に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のような基質はすでに知られていて、この基質中で多重層を構成する層は太陽エネルギースペクトルあるいは赤外輻射線の所定の部分の選択的透過に至る光学的干渉システムを作り出す。
【0003】
基質上に機能層として析出した銀は、化学的ストレス、殊に酸素による攻撃に比較的鋭敏であり、続く別の層の析出の際に、殊にこの層が酸化物ベースの場合に、分解し易い。この銀層を酸素による攻撃から守るためには、一般に、これらの銀層の頂部に適用した薄い金属層により保護される。酸素に対する非常に高い親和性を有するこの層は“バリヤー層”と呼ばれる。
【0004】
同様に、銀層の下に金属バリヤー層を置き銀層が多重層の下部から来る酸素フラックスから銀層を保護するようにするのが好都合であろう。
【0005】
このタイプの多重層は、例えば、文献FR-A-2,641,271に記載されていて、グレージングユニット組込まれるように意図された基質に関し、すず酸化物、チタン酸化物、アルミニウム酸化物および/あるいはビスマス酸化物下層、ついで厚さ15 nm 以下の酸化亜鉛層、ついで銀層、Ti, Al, ステンレス鋼、Bi, Snおよびこれらの混合物から選ばれた犠牲金属の酸化物の層を含む透明な被覆層および一つ以上の他のSn, Ti, Alおよび/あるいはBi酸化物層からなるコーティングを支持している。犠牲金属の酸化物は、最初に2ないし15 nmの厚さの犠牲金属を堆積させ、ついで酸化物に転換してバリヤー層を生じるようにして形成される。
【0006】
この構造は、塗膜形成された基質の製造の際だけでなく製造物の使用期間の際にも、銀層の腐食抵抗を向上させるのに役立つ。
【0007】
実際には、3.5 nm以上の厚さを有するチタンとステンレス鋼のみが犠牲金属の例として挙げられている。
【0008】
ニッケル−クロムもまた銀ベースの多重層中のバリヤー層を形成するために非常にしばしば使われる金属である。しかしながら、このような多重層の光透過やさらに向上可能であるエネルギー性能についての光学的性能は限られている。
【0009】
スパッタリングによる低輻射性コーティングの製造と関する文献EP 104,870から知られる多重層において、銀以外の一つあるいは二つ以上の付加的な金属が0.5ないし10 nm厚の層と等しい量で銀層上にスパッタされる。これは、次の反応性スパッタリングを行なう前に行なわれる。反応性スパッタリングは、酸素あるいは酸化ガスの存在において、銀および付加的な金属の上に一つあるいは二つ以上の反射防止酸化金属層を次の条件でスパッタリングする。付加的な単数あるいは複数の金属が無ければ、得られる生成物の低輻射率の性質は実質的に減少に至るであろう。
【0010】
銅は、その酸化抵抗と低輻射率への寄与の故に有利な付加的金属として示されているが、他の金属もまた、反応性スパッタリングプロセスの後で酸化して高い光透過率に好都合な無色の酸化物になると知られている。このような金属の中では、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムが挙げられる。他の好ましい金属は、Bi, In, Pb, Mn, Fe, Cr, Ni, Co, Mo, W, Pt, Au, Vd, Taおよびステンレス鋼および真鋳等の合金である。ついで、色々な金属酸化物を合してすぐれた反射防止コーティングを生じさせる。
【0011】
実施例19では、特に付加的な金属として2.7 nmの厚さを有するジルコニウムを10 nmの厚さの銀層の上に、下側の48 nmのSnO2酸化物コーティングおよび上側の43 nmのSnO2酸化物コーティングと組合わせて使用する可能性を明らかにしている。
【0012】
記載された実施例の中で、この構造は84%の有利な光透過率を達成するのを可能にする。
【0013】
しかしながら、本出願人は、このような多重層の機械的一体性は平凡であり、基質をグレージングユニットに組入れるのに必要な操作と取扱いに十分に抵抗せず、その結果この多重層の性質、殊にその輻射率と光透過率はもちろん損なわれることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、なお良好な機械的抵抗を示しながら、光透過率、外部反射の色および輻射率について高性能を示す上記のタイプの薄膜多重層を備えている基質を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による基質は、赤外線および/あるいは太陽エネルギー輻射線の範囲において反射性を有する一つ以上の機能金属層、殊に銀ベースの層、機能金属層と接触している一つ以上の金属バリヤー層および一つ以上の上部誘電体層を含む薄膜多重層を備えていて、一つ以上のバリヤー層がジルコニウムに基づきかつ上部誘電体層が機能層あるいはバリヤー層と接触している一つ以上のZnOベースの層を含むことを特徴としている。
【0016】
本出願の意味の内において、“下部(lower)”および“上部(upper)”なる語は機能層に対する層の相対位置を定義し、必ずしも該層と機能層の間に接触があるとは限らない。
【0017】
また、本出願の意味の範囲内において、“金属バリヤー”なる語は、金属の形態で堆積(析出)するバリヤー(障壁体)を意味すると理解される。しかしながら、この層は、析出の際(この層自身の析出の際、しかしとりわけ次の層の析出の際)あるいは熱処理の際に部分酸化を受け得るのは明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
かくして、ジルコニウム金属が通常使用されている大部分の誘電体と一種の不相溶性を示し、機能性金属層を含む多重層を形成することが立証された。この不相溶性は明瞭に確認されておらず、層間の層間接着を損なうことが有り得る。ジルコニウムと酸化亜鉛を結合する多重層の引っかき抵抗あるいは磨耗抵抗は実際満足であるが、その他の多重層は許容できない短所がある。
【0019】
本発明は、殊に銀、金あるいは銅に基づき、任意であるが、例えば銀の場合はチタンあるいはパラジウムなどの一つ以上の付加的な金属でドープされた一つ以上の金属機能層を含む多重層に適用される。
【0020】
本発明によれば、ジルコニウムに基づくバリヤー層を機能金属層の下および/あるいは上に置くことができる。ZnOに基づく誘電体層をZrに基づく上部バリヤーと直接接触させる、あるいは機能層あるいは任意の上部層(もしジルコニウム低部バリヤー層が存在するならば)と直接接触させることができる。
【0021】
本発明による構造体は、かくして次のシーケンスに基づくことができる:
機能金属層/Zr/ZnO、その他。ここで、ZnO層はジルコニウムと直接接触している。
【0022】
この場合、多重層の高い機械的性質の安定性は、ジルコニウム層上の薄膜として析出した酸化亜鉛の良好な接着に帰するが、その他の公知の酸化物のZrへの接着は不良であるがこれは薄膜の析出の際にジルコニウム上への酸化物の湿潤が良くないことによる。
【0023】
多重層は、次いで銀の下にチタン、ニッケル−クロム、ニオブ、ジルコニウム等から選ばれた金属に基づく低部バリヤー層を含むことができる。
【0024】
本発明の構造体は、次のシーケンスに基づくこともできる:
Zr/機能金属層/ZnO、その他。
【0025】
この場合、多重層の高い機械的性質の安定性は次の事実による。ジルコニウムがアンダーバリヤーとして使用されているので、ジルコニウムは酸化プラズマに曝されず、その上に酸化物が析出されていないので、その結果、前に析出した層により酸化されることは殆どない。
【0026】
上部バリヤーは、任意であるが、機能金属層と酸化亜鉛の間に挿入でき、また、ニッケル−クローム、チタン、ニオブおよびジルコニウムから選ぶことができる。
【0027】
本発明の構造体は、本発明による別の構造体に従ってもよく、このような場合、多重層は、前者と同一であっても良く、異なっていても良い。
【0028】
機能層上に析出した厳密には下部層および/あるいは上部層の本発明の構造体の故に、非常に満足な光透過率、外部反射の色および輻射率を有する多重層が得られるだけでなく、驚くほど良好な機械的抵抗、および適切な場合、化学抵抗を示す多重層を得ることができる。
【0029】
バリヤー層、殊にZrベースのバリヤー層の厚さは、続けて行なう酸化物の析出の際あるいは靭性処理のような酸化雰囲気中での熱処理の際に、銀層を損なうことなく部分的に酸化されるかあるいは実際に完全に酸化される層に対し十分な値になるように都合良く選ばれる。好ましくは、この厚さは、6nm以下、有利には0.2 nm以上、殊に0.4ないし6 nm、殊に0.6ないし2 nm である。
【0030】
本発明によれば、ジルコニウムベースのバリヤー層は、好ましくはジルコニウム金属をターゲットとして使用してマグネトロンスパッタリングにより析出される。このターゲットは、必要ならば、Ca, YあるいはHfなどの付加的な元素をターゲットの重量に対して1ないし10%含有してよい。
【0031】
機能金属層は、典型的には銀層であるが、本発明は、同様にして、銀合金、殊にチタンあるいはパラジウム含有の銀合金、あるいは金あるいは銅に基づく層などの他の反射性金属層に適用される。各機能層の厚さは、殊に5ないし18 nm、好ましくは6ないし15 nmである。
【0032】
本発明の基質は、一つあるいは二つ以上の機能金属層、特に二つあるいは三つの機能金属層(各層は上記範囲の厚さを有する)を含むことができる。一つ以上の機能金属層は、ジルコニウムベースのバリヤー層と関連して用いられ、好ましくは各機能金属層はジルコニウムベースのバリヤー層と関連して用いられる。ジルコニウムベースの層の機能金属層に対する位置は、多重層中の他の機能金属層についてのものと必ずしも同じではない。
【0033】
酸化亜鉛上部誘電体層の機能は、特に基質の光学的性質に寄与しながら直下の機能金属層を保護することである。
【0034】
上記の層は、一般に、5 nm以上、特に約5ないし25 nm、とりわけ5ないし10 nmの厚さで析出される。
【0035】
多重層は、酸化物あるいは窒化物に基づく低部誘電体層、特にシーケンスSnO2/TiO2/ZnOあるいはシーケンスSi3N4/ZnOを含む低部誘電体層を含むことができる。
【0036】
また、多重層は、多重層の機械的抵抗、特に引っかきあるいは磨耗に対する抵抗を向上させる機能を有する上部機械的保護層を含むことができる。
【0037】
上記機械的保護層は、酸化物、窒化物および/あるいはオキシ窒化物、殊にチタン、亜鉛、すず、アンチモニー、シリコンあるいはこれらの混合物(任意に窒化されている)の酸化物の一つ以上に基づくか、さもなければ窒化物、殊に窒化シリコンあるいは窒化アルミニウムに基づいた任意にドープされた層で良い。より具体的には次の化合物を挙げることができる:TiO2, SnO2およびSi3N4、あるいは亜鉛およびすずに基づく混合酸化物(ZnSnOx)で、必要ならばSbなどの別の元素でドープされている、あるいは亜鉛およびチタンに基づく混合酸化物(ZnTiOx)あるいは亜鉛およびジルコニウムに基づく混合酸化物(ZnZrOx)。
【0038】
保護層はまた、上記した材料、特にSi3N4/SnZnOxあるいはSi3N4/TiO2に基づく層の組合わせでもよい。
【0039】
これらの化合物のなかでは、窒化珪素は、基質に酸化熱処理を加えようとする時にさらなる利点を有する。なんとなれば、高温においてもなお、窒化珪素は酸素の多重層の内部への拡散を遮断するからである。窒化物は酸化攻撃に対して非常に不活性なので、強靭化タイプの熱処理の際に明らかな化学的(酸化)あるいは構造的改質を受けない。したがって、熱処理の場合、特に光透過率のレベルについて、多重層の光学的改質が実際に起こされることがない。この層はまた、ガラスからマイグレートする種、特にアルカリ性金属の拡散に対するバリヤーとしても作用できる。さらに、上記の化合物は、2に近いその屈折率に由来して、光学的性質を調整する見地から低輻射タイプの多重層中に容易に受入れられる。
【0040】
この保護層は、一般に、10 nm以上、例えば15ないし50 nm、特には約25ないし45 nmの厚さで析出させることができる。
【0041】
好ましくは、本発明の多重層は、500℃以上の温度の熱処理の後で、これが例えば、強靭化処理、焼鈍化処理あるいは曲げ処理であっても、その性質、殊に光学的性質を実質的に保持する。
【0042】
本発明はまた、上記のように一つ以上の基質を組込んだ低輻射率グレージングあるいは太陽エネルギー防護グレージング、特には積層グレージングあるいはダブルグレージングに関する。
【0043】
これは、塗膜形成された基質は、ダブルグレージングとして使用できるからであり、多重層は外側(フェース2)あるいは内側(フェース3)に面する積層アセンブリー内の挿入フィルムに貼り付けることができる。このようなグレージングにおいて、一つ以上の基質、殊に多重層を有する基質は、強靭化あるいは硬化させることができる。絶縁多重グレージングユニット(ダブルグレージング)を形成するために、塗膜形成された基質はまた、少なくともガス充填キャビティを経由して別のガラスに接合できる。この場合、多重層は好ましくは中間に介在するガス充填キャビティ(フェース2および/あるいはフェース3)と対する。本発明のダブルグレージングユニットは一つ以上の積層ガラスを組込める。
【0044】
本発明のグレージングは、別の基質とともにダブルグレージングとして装着すると、得られるアセンブリーが40ないし90%の光透過率を有し、都合が良い。
【0045】
さらに、本発明のグレージングは、光透過率のソーラーファクターに対する比TL/SFにより定義される選択率を1.1ないし2.1の範囲で有し、都合がよい。
【0046】
本発明はまた、赤外線および/あるいは太陽エネルギー輻射線の範囲において反射性を有する一つ以上の機能金属層、殊に銀ベースの層、機能金属層と接触している一つ以上の金属バリヤー層および一つ以上の上部誘電体層を含む薄膜多重層を備えている透明な基質の機械的強度を向上する方法であって、一つ以上の機能金属層、それぞれ該機能金属層の上および/あるいは下のZrベースの低部バリヤー層および/あるいは上部バリヤー層、およびZnOベースの上部誘電体層がスパッターリングにより基質上に析出させることを特徴とする方法に関する。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の比較例および実施例により本発明を説明する。なお、ここではいろいろなバリヤーおよび誘電体層を検討することとする。
【0048】
特に断りのない限り、比較例における基質の厚さとグレージングの厚さは、比較の基礎となる本発明の実施例の基質の厚さとグレージングの厚さと同じである。
【0049】
次の光学的な性質:光透過率、多重層側上の光反射およびL*a*b*システムにおける反射における色を評価する。
【0050】
光の透過および反射は、基質の片側上あるいは反対側上の全方向における光フラックスを測定する積算球状測定装置により測定した。
【0051】
熱的性質は、電気表面抵抗および輻射率により測定した。
【0052】
機械的抵抗性質もまた評価した:
−エリクセンスクラビングブラッシ試験において得られる多重層のせん断磨耗抵抗。この試験では、ポリマー材料で作られた剛毛を有するブラッシにより、水で覆われている多重層を摺るということが理解されるであろう;
−エリクセンスタイラス試験における引っかき抵抗。この試験では、重りが負荷されたスタイラスが所定の速度で基質上を動かされることが理解されるであろう。スタイラスが多重層に眼に見える引っかき傷を入れるのに必要な負荷(ニュートン)を記録する;および
−テーバー試験における押込み抵抗。テーバー試験においては、試験片を所定の時間磨耗ローラーにかけて、250gの負荷で20回転後に裂かれていない多重層システムの表面の割合(%)を測定することが想起されるであろう。
【0053】
比較例1
この比較例では、先行技術によるニッケル−クロムバリヤーと酸化すず上部誘電体層を有する銀ベースの多重層を4 mmの厚さのガラス基質上に析出させた。次のタイプの多重層が得られた。
【0054】
基質/SnO2/TiO2/ZnO/Ag/NiCr/SnO2
【0055】
金属層を析出させるため、アルゴン雰囲気中で基質をチェンバー内の金属ターゲットを走行させ、酸化物を析出させるためアルゴン/酸素雰囲気中で基質をチェンバー内の金属ターゲット前を走行させ、それぞれスパッタリングにより基質を製造した。
【0056】
光学的およびエネルギーの測定の結果を下記の表1に示す。
【0057】
90°アルゴンで満たした15 mm厚さの中間キャビティを持ち、第二のグレーズドエレメントを有するダブルグレージング装置に基質を装着し、透過率、光反射、反射における色、ソーラーファクターおよび係数Uを再び測定した。
【0058】
結果を下記の表2に示す。
【0059】
機械的性質の測定結果を下記の表3に示す。
【0060】
比較例2
この比較例では、比較例1の多重層と実質的に同一の多重層を使用した。比較例2は、ニッケル−クロムバリヤーをジルコニウムと取替えた点のみが異なった。次のタイプの積重ね(スタック)が得られた。
【0061】
基質/SnO2/TiO2/ZnO/Ag/Zr/SnO2
【0062】
光学的測定の結果を表1に一体構造(モノリス)の形態で、表2にダブルグレージングの形態で示し、かつ機械的性質の測定結果を下記の表3に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
これらの結果は、NiCrをZrバリヤーと取替えると多重層側上の反射の色を向上し(より中性の色)、透過率を増加し、一体構造の形態における単位面積あたりの抵抗を減らすことを示す。
【0066】
これらの結果は、ダブルグレージングにおいては、外部反射においても僅かにより中性的であり、ダブルグレージングの形態におけるより高い透過率とより良い断熱特性を伴う(Zrバリヤーの場合のU = 1.15 W.m-2.K-1と較べて、NiCrバリヤーの場合にはU = 1.19 W.m-2.K-1)という結果になる。
【0067】
【表3】

【0068】
多重層中のNiCr バリヤーをZrと取替えることにより、Zrバリヤーを有する多重層のエリクセンスクラッビングブラッシ試験における多重層の機械的性質の完全性は破滅的であった―試験後に、多重層の激しい剥離が観察された。
【0069】
引っかき抵抗もまた減少した。
【0070】
テーバー試験に対する抵抗のみが向上し、磨耗と比較して押込みについての特別な挙動を示している。
【0071】
実施例1
この実施例においては、比較例1におけるのと同じタイプのガラス基質上に、次のタイプの多重層を析出させた。
【0072】
基質/SnO2/TiO2/ZnO/Ag/Zr/ZnO/SnO2
22 nm/8 nm/8nm/10 nm/0.6 nm/21 nm/22 nm
【0073】
光学的測定の結果を表4に一体構造の形態で、表5にダブルグレージングの形態で示し、かつ機械的性質の測定結果を下記の表6に示す。
【0074】
実施例2
この実施例は、SnO2の最終層がSi3N4で取替えられているという点でのみ実施例1と異なっている。次のタイプの積重ねが得られた。
【0075】
基質/SnO2/TiO2/ZnO/Ag/Zr/ZnO/Si3N4
22 nm/8 nm/8nm/10 nm/0.6 nm/21 nm/22 nm
【0076】
比較例1aおよび2a
これらの比較例は、多重層の厚さを相応する実施例1の多重層と同一であるように変更した点を除いて比較例1および2と類似である。実際に、厚さは以下のようであった。
【0077】
比較例1a
基質/SnO2/TiO2/ZnO/Ag/NiCr/SnO2
22 nm/8 nm/8nm/10 nm/0.6 nm/43 nm
【0078】
比較例2a
基質/SnO2/ TiO2/ZnO/Ag/Zr/SnO2
22 nm/8 nm/8 nm/10 nm/0.6 nm/43 nm
【0079】
光学的測定の結果を表4に一体構造の形態で、表5にダブルグレージングの形態で示し、かつ機械的性質の測定結果を下記の表6に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
比較例1aおよび比較例2aはまたNiCrバリヤーをZrバリヤーと取替えると光透過率が増加し、一体構造の形態における輻射率が減少する結果になることを示す。ダブルグレージングの形態では、バリヤーがNiCr よりもジルコニウムの場合に、光透過率がやはり増加し、ファクターUは同じ銀厚さに対して低くなる。
【0083】
実施例1および比較例2により達成されたレベルは、NiCrバリヤーによるよりはより良い光透過と反射におけるより中性的な色を示す。
【0084】
【表6】

【0085】
実施例1は、ZnO層をZr層とSnO2層の間に挿入するとテーバー試験における挙動を非常に僅かに向上させるが、特にエリクセン試験における挙動をNiCrバリヤーを有する多重層の挙動と類似させることを示す。
【0086】
エリクセンブラッシ試験において、Zr/SnO2シーケンスを有する比較例2の多重層は非常に劣った接着を示したので、この結果は予想外である。
【0087】
実施例2からは、最終Si3N4層を有する多重層の挙動はSnO2最終層を有する多重層の挙動よりなお良く、エリクセンスタイラス試験およびテーバー試験に対しより良い抵抗を示すことに留意すべきである。
【0088】
HCL試験および高湿度(40℃, 90%湿度、5日間)におけるHH 試験における本発明の多重層の挙動は、NiCrベースのバリヤーを有する多重層についてすでに得られている挙動と極めて類似しているかあるいはなお僅かにより良かった。
【0089】
実施例3
この実施例では、ジルコニウム低部バリヤー層を有する二つの銀層を含む次のタイプの多重層を扱う。
【0090】
Si3N4/ZnO/Zr/Ag/ZnO/Si3N4/ZnO/Zr/Ag/ZnO/Si3N4
22/10/0.5/8.2/10/69/10/0.5/10/10/28 nm
【0091】
多重層を1.6 mm厚さのガラスシートからなる基質上に析出させた。
【0092】
多重層の機械的性質をテーバー試験と剥離試験で測定した。剥離試験では、粘着テープを多重層に貼付け、テープを剥がし、多重層の完全性を評価した。機械的性質の測定結果を下記の表7に示す。
【0093】
基質を640℃を越える温度で6分間のベンディングタイプの熱処理をして、空冷し、熱処理後の光学的変化を測定した。基質は、熱処理後も同じ光学的品質を有していた。
【0094】
この基質を、0.76 mm厚さのPVB挿入フィルムを用いて、積層グレージングユニット中の2.1 mm厚さのガラスシートに接合した。この際、多重層は積層物の内側に面した。
【0095】
多重層の光学的性質を上記のようにして測定し、測定結果を下記の表8に示す。
【0096】
比較例3a
この比較例は、ジルコニウムバリヤー層がニッケル―クロム層と取替えられている点を除いて実施例3と類似である。次のタイプの多重層が得られた。
【0097】
Si3N4/ZnO/NiCr/Ag/ZnO/Si3N4/ZnO/Zr/Ag/ZnO/Si3N4
22/10/0.7/8.2/10/69/10/0.7/10/10/28 nm
【0098】
この基質を実施例3と同様な熱処理に供した。熱処理後、基質は曇り、ピットが観察された。
【0099】
光学的および機械的性質の測定の結果を表7および表8に示す。
【0100】
【表7】

【0101】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線および/あるいは太陽エネルギー輻射線の範囲において反射性を有する一つ以上の機能金属層、殊に銀ベースの層、機能金属層と接触している一つ以上の金属バリヤー層および一つ以上の上部誘電体層を含む薄膜多重層を備えている透明な基質であって、一つ以上のバリヤー層がジルコニウムに基づきかつ上部誘電体層が機能層あるいはバリヤー層と接触している一つ以上のZnOベースの層を含むことを特徴とする透明基質。
【請求項2】
機能層は、ZnOベースの誘電体層を少なくとも上方に有するジルコニウムベースの上部バリヤー層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の基質。
【請求項3】
基質は、銀の下に、例えばチタン、ニッケル−クロム、ニオブ、ジルコニウムなどの金属に基づく低部バリヤー層含むことを特徴とする請求項2に記載の基質。
【請求項4】
基質は、ジルコニウムベースの低部バリヤー層と、機能金属層と直接接触するZnOベースの上部誘電体層とを含むことを特徴とする請求項1に記載の基質。
【請求項5】
基質が、酸化物、窒化物および/あるいはオキシ窒化物、殊にSnO2, TiO2, ZnSnOx, ZnTiOxおよび/あるいはSi3N4に基づく上部機械的性質保護層を含み、かつこの上部層は任意にドープされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の基質。
【請求項6】
バリヤー層の厚さは、6 nm未満であるか6 nm、殊に0.2ないし6 nm であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の基質。
【請求項7】
機能層の厚さは5ないし18 nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の基質。
【請求項8】
誘電体層の厚さは5 nm以上、殊に5ないし25 nmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基質。
【請求項9】
多重層は、500℃以上の温度での熱処理後、実質的にその性質、殊に光学的性質を保持することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の基質。
【請求項10】
一つ以上のZrベースのバリヤー層は、任意に1ないし10重量%の付加的な元素、例えばCa, YあるいはHfを含有してよいジルコニウム金属ターゲットを用いてマグネトロンスパッタリングにより堆積されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の基質。
【請求項11】
多重層は、酸化物あるいは窒化物に基づく低部誘電体層を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の基質。
【請求項12】
低部誘電体層は、シーケンスSnO2/TiO2/ZnOを含むことを特徴とする請求項11に記載の基質。
【請求項13】
低部誘電体層は、シーケンスSi3N4/ZnOを含むことを特徴とする請求項11に記載の基質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の基質を一つ以上組入れた、低輻射率グレージングあるいは防太陽エネルギーグレージング、および特に積層されたグレージングあるいはダブルグレージング。
【請求項15】
該グレージングは、ダブルグレージングとして別の基質を乗せた本発明の一つ以上の基質を含み、アセンブリーが40ないし90%の光透過率を有することを特徴とする請求項14に記載のグレージング。
【請求項16】
該グレージングは、光透過率のソーラーファクターに対する比TL/SFにより定義される選択率を1.1ないし2.1の範囲で有することを特徴とする請求項14又は15に記載のグレージング。
【請求項17】
赤外線および/あるいは太陽エネルギー輻射線の範囲において反射性を有する一つ以上の機能金属層、殊に銀ベースの層、機能金属層と接触している一つ以上の金属バリヤー層および一つ以上の上部誘電体層を含む薄膜多重層を備えている透明な基質の機械的強度を向上する方法であって、
一つ以上の機能金属層、それぞれ該機能金属層の上および/あるいは下のZrベースの低部バリヤー層および/あるいは上部バリヤー層、およびZnOベースの上部誘電体層をスパッターリングにより基質上に堆積させることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2007−507404(P2007−507404A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523657(P2006−523657)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002164
【国際公開番号】WO2005/019126
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】