説明

薄膜抵抗体を備えた半導体装置の製造方法

【課題】TCR値が小さく、実用上必要な膜厚を確保できるTaN膜からなる薄膜抵抗体を、その配線形成時のTaN膜の損傷を防止して形成できる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体素子が形成された半導体基板上に第1層間絶縁膜を形成し、基板温度を常温から400℃までの温度に設定し、反応ガス中の窒素ガス分圧比を3乃至10%として、第1スパッタリングにより、前記第1層間絶縁膜上に窒化タンタル膜を形成する。その後、第1層間絶縁膜上に形成した第2層間絶縁膜に窒化タンタル膜に至るビアホールを湿式エッチングにより形成し、第2スパッタリングにより金属膜を堆積して前記ビアホール内に金属膜を形成し、前記窒化タンタル膜に接続するビアを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なTCR(抵抗値温度係数)特性を保持したTaN膜からなる薄膜抵抗体を備えた半導体装置の製造方法に関し、特に、高抵抗の薄膜抵抗体の配線方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオアンプ等の音響製品において、特に、その出力段の回路に使用される抵抗体の性能が、音質に影響を与えていることは公知である。従来、このアンプの出力段の半導体集積回路には、ポリシリコンの薄膜抵抗体が使用されている。そして、この音質に影響を与える抵抗体の性能としては、TCR値がある。即ち、TCR値は抵抗値温度係数であり、温度変化によりどの程度抵抗値が変化するかという程度を示す特性であり、このTCR値が小さい方が(0に近い方が)、抵抗値が温度により変動せず、高音質が得られる。従来のポリシリコン抵抗体は、25乃至125℃程度の温度範囲で、TCR値が±100ppm/℃程度であり、更に一層の音質改善のために、TCR値を±50ppm/℃程度に小さくすることが望まれている。
【0003】
このTCR値の調整は、従来、抵抗膜をスパッタリングにより形成する際の原料ガスのN分圧比を調節することにより行っている。また、正のTCR特性を有する薄膜抵抗体と、負のTCR特性を有する薄膜抵抗体とを積層することにより、全体で、0に近い良好なTCR特性を得ることも提案されている。
【0004】
TCR値を小さくすることを目的とした窒化タンタル(TaN)薄膜抵抗体としては、特許文献1に開示されたものがある。この従来の窒化タンタル薄膜抵抗体は、窒化タンタル薄膜の上面に、Tiからなる中間膜を介してAuからなる電極膜を形成し、中間膜と電極膜との合成抵抗温度係数を第1の抵抗温度係数とし、窒化タンタル薄膜の抵抗温度係数を第2の抵抗温度係数としたとき、第1と第2の温度係数の和を−10乃至0ppm/℃としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−342705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のポリシリコン薄膜抵抗体は、その減圧CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)による成膜時の成膜温度が約600℃程度と高く、Al等の配線用金属材料が溶けてしまうことを回避するため、これらの金属配線の形成後にポリシリコン薄膜抵抗体を形成することはできない。従って、このポリシリコン薄膜抵抗体は、金属配線よりも下層に形成する必要があり、その形成位置はLOCOS(Local Oxidation of Silicon:選択酸化法)酸化膜上に制約される。このため、薄膜抵抗体にポリシリコンを使用すると、トランジスタ領域を避けてLOCOS酸化膜直上に抵抗体を配置するスペースを確保する必要が生じ、チップ面積の縮小が困難である。
【0007】
また、前述の如く、ポリシリコン薄膜抵抗体は、必ずしも、TCR値が十分に低いものではなかった。このため、オーディオアンプ出力段の半導体集積回路にポリシリコン薄膜抵抗体を使用しても、優れた音質を得ることは困難である。
【0008】
一方、TaN薄膜抵抗体は、スパッタリングによる成膜時の成膜温度が約400℃以下と低温であるため、金属配線を形成した後にこのTaN薄膜抵抗体を形成しても、金属配線の溶融は生じない。よって、TaN薄膜抵抗体は、金属配線の上層に形成することができ、金属配線を形成する層間絶縁膜の上に、積み上げることができる。特に、上部配線層側にいくほど、面積占有率が低下するので、TaN抵抗体を形成するスペースを確保しやすくなるため、チップ面積を縮小することができるという利点がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のTaN薄膜抵抗体は、複層(Ti膜+Au膜)金属膜との積層膜として、TaN膜を形成し、複層金属膜のTCR値とTaN膜のTCR値との和としての全体のTCR値を0に近づけている。このような金属膜との積層膜では、金属膜の抵抗値が極めて小さいために抵抗値の制御が困難であり、また、Ti膜及びAu膜の形成コストが高いと共に、複層金属膜及びTaN膜のパターニング工程が複雑であるという問題点がある。
【0010】
また、従来のTaN膜は、抵抗率が低く、100乃至300Ωのシート抵抗を得るためには、TaN膜を200乃至300Åという極めて薄い膜厚に形成する必要がある。このような薄い抵抗膜は、成膜が困難である。また、抵抗膜上に層間絶縁膜を形成し、この層間絶縁膜にビアホールを形成し、このビアホールにアルミニウム等の金属を埋め込んでビアを形成することにより、層間絶縁膜上に形成した配線と抵抗膜とを電気的に接続する際に、ビアホール形成時のエッチングにより、薄いTaN膜が削られてしまい、抵抗膜として機能しなくなる虞がある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、オーディオ信号処理回路に最適であって、TCR値が小さく、実用上必要な膜厚を確保できるTaN膜からなる薄膜抵抗体を、その配線形成時のTaN膜の損傷を防止して形成できる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る薄膜抵抗体を備えた半導体装置の製造方法は、
半導体基板に半導体素子を形成する工程と、
前記半導体基板上に第1層間絶縁膜を形成する工程と、
基板温度を常温から400℃までの温度に設定し、反応ガス中の窒素ガス分圧比を3乃至10%として、第1スパッタリングにより、前記第1層間絶縁膜上に窒化タンタル膜を形成する工程と、
前記窒化タンタル膜を含む前記第1層間絶縁膜上に第2層間絶縁膜を形成する工程と、
前記第2層間絶縁膜にこれを貫通して前記窒化タンタル膜に至るビアホールを湿式エッチングにより形成する工程と、
第2スパッタリングにより金属膜を堆積して前記ビアホール内に金属膜を形成し、前記窒化タンタル膜に接続するビアを設ける工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、ビアホールを湿式エッチングにより形成するので、ビアホール形成時に第2層間絶縁膜の下層の窒化タンタル膜を損傷させることが抑制される。また、窒化タンタル膜の形成時に、基板温度及び窒素ガス分圧比を調整することにより、得られた窒化タンタル膜の抵抗値温度係数TCRを、−50乃至+50ppm/℃に制御することができる。
【0014】
また、前記第1スパッタリング工程において、スパッタリング時のパワーを2.5kW以下とすることにより、前記窒化タンタル膜のシート抵抗を100Ω/□以上とすることができる。これにより、窒化タンタル膜の厚さを1000Å以上と厚くしても、十分に高い抵抗値を得ることができる。
【0015】
更に、前記第1スパッタリングは、スパッタリング時の基板温度をTとし、窒素ガス分圧比をmとしたとき、前記基板温度T及び窒素ガス分圧比mは、(1/165)T+(95/33)≦m≦(1/66)T+(155/33)を満たすように、決定することが好ましい。これにより、前記窒化タンタル膜の抵抗値温度係数TCRを、−50乃至+50ppm/℃、厚さを1000Å以上とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、窒化タンタル(TaN)膜のスパッタリングによる形成時に、窒素ガス分圧比を3乃至10%に調整すると共に、基板温度を常温から400℃の範囲に調整することにより、TaN膜のTCRを−50乃至+50ppm/℃に制御することができる。そして、第2層間絶縁膜に対して窒化タンタル膜に到達するビアホールを湿式エッチングにより形成するので、ビアホールを掘っていくときに窒化タンタル膜を損傷してしまうことが抑制される。また、スパッタリング時のパワーを2.5kW以下とした場合は、TaN膜の堆積速度が遅くなり、これにより、高シート抵抗のTaN膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る抵抗膜を示す断面図である。
【図2】基板温度Tと窒素分圧比との相関関係を示すグラフ図である。
【図3】VCRとTCRとの関係を示すグラフ図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る抵抗膜を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る高抵抗抵抗膜が形成された半導体装置を示す断面図である。この半導体装置は、先ず、シリコン基板等の基板1に種々のトランジスタ等を作り込む。このとき、基板1の表面上に、第1層間絶縁膜10が形成され、この第1層間絶縁膜10上に、アルミニウム又は銅等により第1配線層21が形成される。この第1配線層21は、第1層間絶縁膜10上にアルミニウム又は銅の層を通常の膜形成技術により形成した後、この層を、通常のレジストを使用したパターニング方法により所望の配線パターンにパターニングすることにより形成される。
【0019】
次いで、これらの第1配線層21を含む第1層間絶縁膜10上に第2層間絶縁膜11を形成し、この第2層間絶縁膜11上に、第2配線層22を形成する。そして、第2配線層22上を含む全面に第3層間絶縁膜12を形成し、この第3層間絶縁膜12上に第3配線層23を形成し、第3配線層23を含む第3層間絶縁膜12上に第4層間絶縁膜13を形成する。
【0020】
この第4層間絶縁膜13は、下層絶縁膜13aと上層絶縁膜13bの2層に分けて形成する。そして、下層絶縁膜13aを形成した後、上層絶縁膜13bを形成する前に、下層絶縁膜13a上に、窒化タンタル(TaN)膜2を所定の寸法及び形状になるように、パターン形成する。このTaN膜2は、以下のようにして形成することができる。即ち、下層絶縁膜13a上にTaN膜2の形成予定領域が開口したレジストパターン(図示せず)を形成した後、このレジストパターンをマスクとし、Taターゲットを使用して、Arガスに窒素ガスを所定の分圧比で添加した反応ガスによりスパッタリング(第1スパッタリング)することにより、TaNを全面に堆積する。その後、レジストを除去することにより、レジスト上のTaN膜2をリフトオフすることによって、TaN膜2を形成することができる。又は、以下の方法によって、TaN膜2を形成することもできる。即ち、下層絶縁膜13a上の全面にTaN膜を上記スパッタリングにより形成し、このTaN膜上にレジストパターンを形成した後、このレジストパターンをマスクとして、前記TaN膜をエッチングする。この方法によっても、TaN膜2を形成することができる。
【0021】
そして、TaN膜2の形成後、TaN膜2を含む下層絶縁膜13aの全面に上層絶縁膜13bを形成した後、この第4層間絶縁膜13上に第4配線層24cを形成する。各配線層は層間絶縁膜に形成したビアホール内に導電物質を形成することにより設けたビアにより接続される。例えば、第4配線層24cと第2配線層22とはビア4により接続される。即ち、第3層間絶縁膜12及び第4層間絶縁膜13の形成工程において、夫々第3層間絶縁膜12及び第4層間絶縁膜13にこれらの膜を貫通するビアホールを、レジスト膜をマスクとしてウエットエッチング又はドライエッチングにより形成し、その後、アルミニウム等の金属材料をスパッタリングするか、又はCVD(化学的気相成長法)により堆積し、この金属材料をビアホール内に形成することにより、ビア4を設け、このビア4に接続されるように、第3層間絶縁膜12及び第4層間絶縁膜13上に、夫々配線23及び配線24cを形成する。例えば、前記ビアホール内にWをCVDにより堆積し、このWをエッチバックすることによりWプラグを形成し、更にAlをスパッタリングすることにより、ビア及び配線を形成することができる。
【0022】
一方、TaN膜2に対する配線形成については、このTaN膜2の形成後、TaN膜2を含む下層絶縁膜13aの全面に上層絶縁膜13bを形成し、上層絶縁膜13bにTaN膜2に到達する2個のビアホールを形成する。このビアホールは、湿式エッチング(ウエットエッチング)により形成する。ウエットエッチングの場合は、ドライエッチングに比べて、オーバーエッチングによるビアホール底部のTaN膜の削れを抑制することができる。これにより、加工マージンが向上し、TaN膜2のより一層の薄膜化による高抵抗化が可能となる。
【0023】
そして、これらのビアホールにアルミニウム又は銅等の金属膜を第2スパッタリングにより堆積し、ビア3a,3bを形成する。その後、上層絶縁膜13b上に、ビア3a,3bに接続されるようにして、夫々、第4配線層24a,24bを形成する。この第4配線層24a,24bにより、TaN膜2は、アンプの出力段の回路の中に、出力電流が流れる通り道に設けられた薄膜抵抗体として接続される。
【0024】
本実施形態においては、高抵抗抵抗体としてのTaN膜2を、スパッタリングにより形成し、このスパッタリング時の基板温度と、窒素ガス分圧比とを、調節することにより、TaN膜2のTCRを制御する。また、スパッタリング時のパワーを2.5kW以下とすることにより、TaN膜2のシート抵抗を100Ω/□以上に高抵抗化する。
【0025】
即ち、TaN膜2のスパッタリング時のパワーを2.5kW以下と低パワーにすることにより、TaN膜2の成膜速度を低下させ、形成されるTaN膜2の膜質を、 抵抗率ρが高いものに変え、膜厚tを厚くしても、シート抵抗Rsが十分高いTaN膜2を得る。即ち、スパッタリング時のパワーを低くすることにより、膜厚tが1000Å以上であっても、シート抵抗Rsが100Ω/□以上の高抵抗である膜質を有するTaN膜2を得ることができる。
【0026】
しかしながら、抵抗率ρが高い膜質にすると、TCRもその絶対値が大きくなり、TCRが負の場合は、より負の側に、TCRが正の場合は、より正の側に、TCRがシフトする。そこで、以下のようにして、スパッタリング時の基板温度及び/又は窒素ガス分圧比を調節することにより、TCRを0に近い値、即ち、−50乃至+50ppm/℃に制御する。又は、以下のようにして、スパッタリング時の基板温度及び/又は窒素ガス分圧比を調節することにより、TCRを0に近い値、即ち、−50乃至+50ppm/℃に制御した後、スパッタリング時のパワーを低下させることにより、 抵抗率ρ及びシート抵抗Rsが高いTaN膜2を得るようにしてもよい。このときのパワーの低下により、抵抗率ρが高くなり、TCRもその絶対値が大きくなるが、この場合は、予め、スパッタリング時の基板温度及び/又は窒素ガス分圧比の調整によりTCRが小さい値になっているので、抵抗率が上昇しても、TCRは−50乃至+50ppm/℃の範囲内にとどまるようにすることができる。
【0027】
次に、TCRの調整方法について説明する。TaN膜2を、基板温度を常温から350℃までの温度に設定し、窒素ガス分圧比を3乃至10%に設定して、スパッタリングにより形成する。この温度条件範囲及び窒素ガス分圧比条件範囲の中で、TCR値が−50〜+50ppm/℃になるように、基板温度及び窒素ガス分圧比を決める。
【0028】
基板温度を上げると、得られたTaN膜2のTCR値は、より正(+)の方向に変化する。また、窒素ガス分圧比を上げると、得られたTaN膜2のTCR値は、より負(−)の方向に変化する。この基板温度と窒素ガス分圧比とを、TCR値が0に近い値になるように、バランスをとって決める。
【0029】
この場合に、基板温度が低い場合は,窒素ガス分圧比を比較的低く、基板温度が高い場合は、窒素ガス分圧比を比較的高くすることが好ましい。即ち、基板温度が常温(20℃)の場合は、窒素ガス分圧比は3乃至5%であり、基板温度が350℃の場合は、窒素ガス分圧比は5乃至10%とすることが好ましい。この常温から350℃までの温度範囲の途中においては、窒素ガス分圧比の上限値及び下限値は温度に対して比例配分すればよい。即ち、基板温度をT、このときの好ましい窒素ガス分圧比の下限値をm1、上限値をm2とすると、下記数式1,2が成立する。
【0030】
なお、TaN膜の成膜条件は、基板温度は常温から350℃の範囲であるが、スパッタリングガスの圧力は、例えば5mTorrである。このスパッタリングガスの流量は、例えばArガスが67sccm、Nガスが8sccm(Nガス分圧比が10%)である。供給パワーは、例えば0.5〜3kWである。
【0031】
【数1】

【0032】
【数2】


これらの数式から、下記数式3,4が成立する。
【0033】
【数3】

【0034】
【数4】

【0035】
図2は、横軸に基板温度Tをとり、縦軸に窒素ガス分圧比をとって、窒素ガス分圧比の上限m2及び下限m1と、基板温度Tとの関係(数式3,4)を示すグラフ図である。基板温度Tに応じて、m1及びm2を求め、m1〜m2の範囲で、窒素ガス分圧比を選択して、TCRが−50〜+50ppm/℃の範囲に入るように窒素ガス分圧比を調節するか、又は、図2の線分m2と線分m1との間の領域であって基板温度が20乃至350℃の間の領域において、窒素ガス分圧比を選択し、その上で、基板温度Tを、TCRが−50〜+50ppm/℃の範囲に入るように調節すればよい。このとき、前述の如く、基板温度Tを上げるとTCRはより正(+)の方向に変化し、基板温度を下げるとTCRはより負(−)の方向に変化するので、この基準に応じて、TCR値を−50〜+50ppm/℃の範囲に入るように制御することができる。また、例えば、一旦、一方の因子である窒素ガス分圧比又は基板温度を決め、その後、上述のようにして、他方の因子である夫々基板温度又は窒素ガス分圧比を変更して、TCR値を調整し、更に、前記一方の因子である窒素ガス分圧比又は基板温度を変更する等、2段階に限らず、3段階以上に分けて、因子を変更することにより、TCR値を調整してもよい。
【0036】
結局、スパッタリングにおいて、基板温度がT、窒素ガス分圧比がmであるとしたとき、mはm1≦m≦m2であるべきであるから、数式3,4より、mは下記数式5を満たすことが好ましい。
【0037】
【数5】

【0038】
このようにして、スパッタリングによる成膜時の成膜条件である基板温度T及び窒素ガス分圧比mを、基板温度T及び窒素ガス分圧比mが上記数式5を満たす範囲内で、基板温度を上げるとTCRが正(+)の方向に変化し、窒素ガス分圧比を上げるとTCRが負(−)の方向に変化するという基準に基づいて適宜調整することにより、TaN膜2のTCR値を所望の範囲−50〜+50ppm/℃に制御することができる。よって、本発明の実施形態においては、薄膜抵抗体としてのTaN膜2の抵抗値が高いと共に、このときの抵抗値は、温度の変化に拘わらず、ほぼ一定である。従って、温度変化に起因するアンプ出力段の出力電流の変化は少ない。なお、この効果は、スパッタリング温度が350℃を超えて、400℃までの温度範囲において、得ることができる。よって、本発明においては、TaN膜のスパッタリング温度は、常温から400℃とする。
【0039】
そして、本発明においては、TaN膜のスパッタリング温度が高々400℃であるから、アルミニウム配線等を溶融させてしまうことがないため、抵抗体としてのTaN膜2を、半導体装置製造工程の比較的後期に形成することができ、層間絶縁膜の上層に配置することができる。このため、アルミニウム配線層の上に、TaN膜抵抗膜を配置することができ、チップ面積の縮小化が可能である。また、本発明のTaN膜はスパッタリング温度が低くてもよいので、抵抗体単体ではなく、LSI(大規模集積回路)の中に組み込むことが容易であり、これにより、TCR値が小さい抵抗を具備する回路を容易に得ることができる。
【0040】
而して、TaN膜は、TCR(抵抗の温度特性)とVCR(抵抗の電圧特性)との間に、相関関係をもつ。即ち、本発明者等は、図3に示すように、TCR(x)とVCR(y)との間に、TCRが小さくなれば、それに比例してVCRも小さくなり、y=2.83xという関係式が成立することを、実験的に知見した。但し,TCR及びVCRの単位は、夫々ppm/℃及びppm/Vである。
【0041】
一般のオーディオアンプを含む集積回路においては、その回路中に使用される抵抗膜は印加される電圧に応じて抵抗の絶対値が変化する固有のVCR特性を有している。このようなVCR特性を有する抵抗体を使用したオーディオアンプを含む集積回路においては、オーディオ信号(音量)に応じて、その回路中に流れる電気信号の電圧振幅は大きく変化する。この電圧振幅に対して、回路中に用いられる抵抗値の絶対値が変化すると、最終的にこのアンプから出力されるオーディオ信号は、抵抗値の変化分の歪みが乗った歪んだ音として、再生されることとなる。一方,回路中に使用される抵抗体のVCRが小さければ小さいほど、電気信号の電圧振幅に対する抵抗値の絶対値の変化は小さくなるため、最終的にこのアンプから出力されるオーディオ信号の歪みは小さくなり、アンプのオーディオ特性が良くなる。
【0042】
例えば、電源電圧が6Vで駆動されるオーディオアンプの場合を考えてみると、VCRを仮に150ppm/Vとすれば、抵抗成分による歪み率は、0.09%となる。一般に、このような大音量においてさえ、歪み率が0.1%以下であれば、一般のユーザには十分に小さい歪み率のアンプと考えられるため、このような小さなVCRを有する抵抗体をオーディオアンプに使用することにより、オーディオアンプに要求される歪み率を十分に小さくすることが可能となる。
【0043】
上述のように、150ppm/Vよりも小さなVCR特性を有するTaN膜は、高音質抵抗膜ということができる。これを、図3を使用して、TCRの値に変換すると、53ppm/℃となる。前述のごとく、図2のm1とm2との間の窒素ガス分圧比−基板温度特性を有している場合は、TCRが±50ppm/℃の範囲内であるので、VCRも±150ppm/Vの範囲内になり、高音質のオーディオ用抵抗膜となる。
【0044】
なお、このTaN膜2は、上述の実施形態のように、最上層の層間絶縁膜(第4層間絶縁膜13)内に形成する場合に限らず、図3に示すように、第1配線層21の下層の第1層間絶縁膜10内に形成しても良い。この場合に、このTaN膜2にビア3a、3bを介して接続される配線層24a、24bは第1配線層21と同層に形成される。このように、このTaN膜2を配置すべき層間絶縁膜は、任意であり、最上層に限らないが、配置位置の選択の余裕度からすると、最上層の層間絶縁膜内が有利である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の製造方法は、基板温度及び窒素ガス分圧比を調節してTCRが小さいTaN膜からなる薄膜抵抗体を得ることができ、更に、スパッタリングパワーを低くすることにより、前記TaN膜からなる薄膜抵抗体を高抵抗化することができると共に、配線のためのビアホールを湿式エッチングにより形成するので、TaN膜のエッチングによる損傷を防止することができる。このため、本発明は、TCRが小さく高抵抗の抵抗膜を必要とする半導体集積回路の製造に有益である。更に、TaN膜は、その形成のためのスパッタリング温度が低いので、半導体集積回路の製造工程の後期に、容易に組み込むことができるため、TCR値が小さい高抵抗抵抗膜を備えた半導体集積回路のチップ面積の縮小に有益である。
【符号の説明】
【0046】
1:シリコン基板、2:窒化タンタル(TaN)膜、3a、3b、4:ビア、10:第1層間絶縁膜、11:第2層間絶縁膜、12:第3層間絶縁膜、13:第4層間絶縁膜、13a:下層絶縁膜、13b:上層絶縁膜、21:第1配線層、22:第2配線層、23:第3配線層、24a、24b、24c:第4配線層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に半導体素子を形成する工程と、
前記半導体基板上に第1層間絶縁膜を形成する工程と、
基板温度を常温から400℃までの温度に設定し、反応ガス中の窒素ガス分圧比を3乃至10%として、第1スパッタリングにより、前記第1層間絶縁膜上に窒化タンタル膜を形成する工程と、
前記窒化タンタル膜を含む前記第1層間絶縁膜上に第2層間絶縁膜を形成する工程と、
前記第2層間絶縁膜にこれを貫通して前記窒化タンタル膜に至るビアホールを湿式エッチングにより形成する工程と、
第2スパッタリングにより金属膜を堆積して前記ビアホール内に金属膜を形成し、前記窒化タンタル膜に接続するビアを設ける工程と、
を有することを特徴とする薄膜抵抗体を備えた半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1スパッタリング工程は、スパッタリング時のパワーが2.5kW以下であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜抵抗体を備えた半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1スパッタリングは、スパッタリング時の基板温度をTとし、窒素ガス分圧比をmとしたとき、前記基板温度T及び窒素ガス分圧比mは、(1/165)T+(95/33)≦m≦(1/66)T+(155/33)を満たすように、決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜抵抗体を備えた半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−138993(P2011−138993A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299261(P2009−299261)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】