説明

薬液供給方法及び薬液供給装置

【課題】スラリーを使用する化学機械的研磨工程に、過硫酸塩を含む溶液を供給する方法であって、過硫酸塩の有効成分量を迅速に計測管理する薬液供給方法及び装置を提供する
【解決手段】粉末または固形物の過硫酸塩を溶媒に溶解して所望濃度の過硫酸塩溶液として、スラリーを使用する化学機械的研磨工程に供給する薬液供給装置であって、溶解直後における導電率(En)を測定することによって過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)を算出し、その後、薬液供給時における導電率(en)を測定し、薬液供給時における過硫酸塩溶液の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)を算出することにより、薬液供給時の過硫酸塩溶液の濃度(C)を計算して、酸化力の低下を管理する薬液供給方法及び装置を構成したことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程のうち、スラリーを使用する化学機械的研磨工程(CMP:Chemical Mechanical Polishing)(以下、CMPと称す)に薬液を供給する薬液供給方法及び薬液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶の駆動デバイスなどの集積回路を製造するに際して、CMPは層間絶縁膜、シャロー・トレンチ分離用絶縁膜、導電性金属膜等の複数の膜に対して平坦化の目的で用いられているが、特に導電性金属膜の平坦化を目的とする場合は酸化力を有する成分を必須としている。特に最近では、ダマシン法により銅配線を形成する際のCMP工程では、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化セリウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの砥粒を含むスラリーに、酸化剤として過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素水、硝酸第二鉄、硝酸第二アンモニウムセリウムなどのいずれかを混合させるが、なかでも、過硫酸塩は過酸化水素よりも酸化電位が高いため、その酸化力が高く、配線材料である銅やバリア膜であるタンタルやタンタル化合物を研磨する際の研磨特性がすぐれており最も有力な候補と言える。その反応式の一例は、以下の通りである。
【0003】
2H2O→H22+2H++2e−E0=1.78V
【0004】
2SO42-→S282-+2e−E0=2.01V
【0005】
しかしながら、過硫酸塩を含む溶液は他の酸化剤と比べて分解が早く、溶液で輸送する場合は10度以下に保冷して輸送しなければならない制約があるため、通常は粉末または固体として輸送し半導体製造工場内で溶解している。
【0006】
半導体製造工場内で粉末または固体を溶解して所望の濃度に調合して供給する場合も経時的な分解を起こすため、溶解後に過硫酸の酸化力が保たれている一定時間内でできるだけ使い切るような運用を行いながら、一定時間を経過した場合は破棄することが多い。しかしながらこの方法だけでは、その過硫酸塩の溶解後の溶液の保管条件や環境変化の影響による分解速度の変化をとらえることができず、保管条件や環境変化の影響に対するマージンをおかなければならず破棄する量が多い。また半導体工場の生産量は常に一定ではないため、生産量が低下した場合は残液の量が更に多くなる傾向にある。
【0007】
上記の問題に対し、従来はこれを防ぐためには一定量のサンプリングを行い、酸化還元滴定法分析またはイオンクロマト法などを行うことにより濃度を確認しながら使用可能か破棄するかどうかを判断している。
酸化還元滴定法については、JIS K8252に記載のペルオキソ二硫酸の純度を確認する試験方法が紹介されている(非特許文献1参照)。
【0008】
然るに、酸化還元滴定法やイオンクロマト法はいずれもサンプリングを必要とするオフラインの分析であり、酸化還元滴定法では滴定にて終点を求めるための時間が必要であり、イオンクロマト法ではカラムでの反応時間であるリテンションタイムを必要とするため、いずれも長時間を要し、また分析操作が複雑である。
【0009】
また、従来の他の方法としては、N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン硫酸塩とヨウ化カリウムとを添加して反応させ、反応液の発色度合を比色法により排水中のペルオキソ二硫酸を短時間で測定する方法が公開されているが、やはりこれも自動化には適するもののオフラインの分析であり、発色までの化学反応時間が必要であり時間的なロスという課題が残ると同時に、試薬の準備や発色反応後の廃液の処理といった追加コストを生じることになる(特許文献1参照)。
【0010】
このように、従来の測定方法では、いずれの方法においても、オフラインによる分析であり、操作が複雑となり且つ時間的なロスがあり、また試薬や廃液の処理コストを追加的に発生させるという課題がある。
【0011】
【特許文献1】特開平7−333153号公報
【非特許文献1】高木誠司「定量分析の実験と計算第2巻」(共立出版社 昭和60年,5月再訂版)“容量分析法”PP378/431参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来の問題点を解決し、薬液の供給装置において過硫酸塩溶液の初期濃度における導電率と薬液供給時における導電率を測定することにより、過硫酸塩溶液の濃度を管理する方法を提供するとともに、この方法を用いて管理された薬液を供給することによりCMP工程における不良の発生を未然に防止して歩留まりを向上できるようにせしめることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、化学機械的研磨工程に過硫酸塩を含む薬液を供給する薬液供給方法において、
粉末または固形物の過硫酸塩に溶媒を加えて溶解して低濃度から高濃度に亘る各種濃度の過硫酸塩溶液を作成し、任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)の導電率(En)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)と前記任意の温度における溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)との関係を示す関数である式(1)を予め作成する工程と、
式(1)より前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)における過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)を算出する工程と、
前記任意の温度における薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率(en)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と薬液供給時の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)との関係を示す関数である式(2)を予め作成する工程と、
式(2)より、前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)における薬液供給時の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)を算出する工程と、
前記工程により測定及び算出した、前記溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と、薬液供給時の過硫酸塩溶液の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)と、前記薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率の変化量(ΔEn)とを式(3)に代入し、薬液供給時の過硫酸塩溶液の濃度(残存する過硫酸塩の濃度)(C)を求める工程とよりなる、
化学機械的研磨工程に供給する過硫酸塩を含む薬液の濃度を管理することを特徴とする薬液供給方法を構成したことにある。
(Cn)=α(En) (1)
(ΔCn)/(ΔEn)=β(Cn) (2)
(C)=(Cn)−{(ΔCn)/(ΔEn)}×(ΔEn) (3)
(ただし、本明細書において、(ΔCn)は、溶解直後における過硫酸塩溶液の初期濃度と薬液供給時の濃度との変化量であり、(ΔEn)は、溶解直後における過硫酸塩溶液の導電率と薬液供給時の導電率との変化量を意味する。)
【0014】
また、第2の解決課題は、前記の過硫酸塩が過硫酸アンモニウムである薬液供給方法を構成したことにある。
【0015】
また、第3の解決課題は、前記の過硫酸塩を含む薬液が化学機械的研磨工程用の砥粒含むスラリーを混合した薬液である薬液供給方法を構成したことにある。
【0016】
また、第4の解決課題は、化学機械的研磨工程に過硫酸塩を含む薬液を供給する薬液供給装置において、
粉末または固形物の過硫酸塩に溶媒を加えて溶解して低濃度から高濃度に亘る各種濃度の過硫酸塩溶液を作成し、任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)の導電率(En)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)と前記任意の温度における溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)との関係を示す関数である式(1)を予め作成する工程と、
式(1)より前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)における過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)を算出する工程と、
前記任意の温度における薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率(en)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と薬液供給時の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)との関係を示す関数である式(2)を予め作成する工程と、
式(2)より、前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)における薬液供給時の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)を算出する工程と、
前記工程により測定及び算出した、前記溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と、薬液供給時の過硫酸塩溶液の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)と、前記薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率の変化量(ΔEn)とを式(3)に代入し、薬液供給時の過硫酸塩溶液の濃度(残存する過硫酸塩の濃度)(C)を求める工程とよりなる、
化学機械的研磨工程に供給する過硫酸塩を含む薬液の濃度を管理する機能を備えた薬液供給装置を構成したことにある。
(Cn)=α(En) (1)
(ΔCn)/(ΔEn)=β(Cn) (2)
(C)=(Cn)−{(ΔCn)/(ΔEn)}×(ΔEn) (3)
【0017】
本発明による薬液供給方法及び薬液供給装置によれば、薬液の供給装置において過硫酸塩溶液の初期濃度における導電率と薬液供給時における導電率を測定するだけで、過硫酸塩溶液の濃度を管理する方法を提供するとともに、管理された薬液を供給することによりCMP工程における不良の発生を未然に防止して、歩留まりを向上できる。即ち、本発明によれば、粉末または固形物の過硫酸塩を溶媒に溶解して所望濃度の過硫酸溶液とし、溶解後に導電率を測定することによって過硫酸塩の成分濃度を求め、その後導電率の変化を計測することによって過硫酸塩の分解率を捉えることにより、分解後の有効過硫酸塩成分の濃度を計算して、酸化力の低下を管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の詳細を説明する。
CMP工程に薬液を供給するにあたり、一定量の粉末または固形物の過硫酸塩を溶媒に溶解して所望濃度の過硫酸溶液に調合するが、任意の温度における溶解直後の過硫酸塩の初期濃度(Cn)と導電率(En)との間の関係は、次の関数で表すことが出来る。
(Cn)=α(En) (1)
【0019】
半導体や液晶のCMP工程では塩としてアルカリ金属は好ましくないため通常はアンモニウム塩などアルカリ金属ではない塩が用いられる。例えば過硫酸アンモニウムの粉末または固形物を水に溶解すると下記の化学式のように、イオン化をともなって解離する。
【0020】
(NH4228+2(H2O)→2(NH4++S282-+2OH-+2H+
【0021】
過硫酸アンモニウムは溶解するとアンモニウムイオンと過硫酸イオンを生じ、この系内には水酸イオンや水素イオンが存在する。溶解直後は分解が進んでいないため、これらのイオンの総量と相関する導電率から濃度を計測できる。溶液の導電率は溶かし込む過硫酸アンモニウムの量との関係を示す関数である式(1)は、以下に示す実験の結果、通常、比例関係となることが判明した。
本発明では、あらかじめ、任意の温度における、上記の導電率と過硫酸塩の初期濃度の関係を求めた検量線を得ることによって、溶解直後の導電率値から過硫酸塩の初期濃度を求める。つづいて過硫酸塩は、下記の化学式のように時間経過とともに硫酸イオンと過酸化水素に分解していく。
【0022】
2(NH4)++S2O82-+2OH-+2H+→2(NH4)++2SO42-+2H++H2O2
【0023】
過酸化水素から更に分解が進めば、下記の式に示す通り、酸素を生じて系外へ出て行くことになる。
【0024】
2(NH4)++2SO42-+2H++H2O2→2(NH4)++2SO42-+2H++H2O+1/2O2
【0025】
過硫酸塩は、時間経過や周囲の環境変化により硫酸イオンと過酸化水素に分解するが、ここで過硫酸イオンと水酸イオンの存在量に変化を伴い、それらが減少し、かつ硫酸イオンが増加するため、導電率計にてその変化を迅速且つ簡便に捉えることができる。1モルの過硫酸が分解して2モルの硫酸イオンになるとき1モルの過酸化水素が生じると同時に系内には導電率を高くするイオンの存在比が多くなり、導電率が敏感に上昇変化する。ここの変化率から分解した量を計算することができる。
【0026】
本発明者による実験の結果、後述するように、任意の温度における、過硫酸塩の初期濃度(Cn)は、その分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)と非常に相関関係が高い。したがって、任意の温度における、各過硫酸塩濃度において予め過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と過硫酸塩の分解率(ΔCn)/(ΔEn)との関係を求めた検量線を得ることによって、導電率変化率から過硫酸塩の分解率を求めることができることが判明した。任意の温度における、各過硫酸塩の初期濃度(C1・・・Cn)における過硫酸塩溶液の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)と初期濃度(Cn)の関係を示す関数は、式(2)で表すことが出来る。
(ΔCn)/(ΔEn)=β(Cn) (2)
上記式(1)式と(2)と初期と薬液供給時の任意の温度における、導電率の変化(ΔE)を組み合わせることにより、分解が進んだあとも過硫酸塩の濃度をモニタリングすることができる。
前記工程により求められた、前記溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)における導電率(En)と薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率(en)の変化量(ΔEn)=(en)−(En)と、初期濃度(Cn)、過硫酸塩溶液の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)との関係から、薬液供給時の濃度(C)(残存する過硫酸塩の濃度)を示す関数は、式(3)で表すことができる。
(C)=(Cn)−{(ΔCn)/(ΔEn)}×(ΔEn) (3)
すなわち、任意の温度における、初期の過硫酸塩の濃度を導電率からもとめると共に、導電率を計測しておき、その後、任意の温度における、初期濃度に対する導電率の差分から分解した過硫酸塩の濃度を求めて、初期濃度より減ずることにより、残存する過硫酸塩の濃度を求めることができる。
【0027】
本発明では、CMPに必要な過硫酸塩の有効成分濃度をインラインで即時に正確に測定できる点から、導電率測定部及び温度測定部の検出器が比較的小型であることが好ましい。
過硫酸塩溶液の導電率は、濃度が同じ場合は温度によって変わり、一般的には温度が高くなるほど、導電率は高くなる傾向にあるため、温度測定もあわせて行い基準温度へ換算すべく補正をする必要がある。装置には、導電率、および温度測定値を濃度に変換表示できるソフトプログラム機能を付与することが好ましい。
【0028】
本発明において、導電率測定装置、温度測定装置自体に特に制限はなく、市販のものでよいが、測定感度の高いもの且つ測定装置からのパーティクルや構成成分の溶出のないものが好ましい。
【0029】
以下、本発明の具体的な実施の一例を示す。以下の実施例はあくまで一つの例であり、本発明を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0030】
<実施例1>
未知資料1の過硫酸アンモニウム(APS)を超純水に溶解し、溶解直後の導電率を測定し、分解放置後再度導電率を測定した。
ここでの初期濃度、導電率の変化は全て液温20℃での換算値を用いることとする。
過硫酸アンモニウムとしては粉末の過硫酸アンモニウム(ペルオキソ二硫酸アンモニウム)JIS試薬特級を用いた。本発明と比較する分析としてJIS K8252に記載のペルオキソ二硫酸の純度を確認する電位差滴定による方法に則った。
【0031】
【表1】

【0032】
先ず、未知資料1の過硫酸アンモニウムの溶解直後の導電率を測定したところ、液温30℃に於いて6.982(S/m)であった。
【0033】
次いで、既知量過硫酸アンモニウムを超純水に溶解させ、液温10〜35℃における導電率を計測し、濃度と液温と導電率の関係を予め求めた。その結果を表2及び図1に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
その結果、過硫酸アンモニウムの初期濃度(Cn)における導電率(En)(y軸)と液温(℃)(x軸)との関係を示す関数である式は、1次関数となり、次式(4−1)〜(4−7)となった。
y=0.0788x+2.715(5質量%) (4−1)
y=0.1500x+5.057(10質量%) (4−2)
y=0.2096x+7.423(15質量%) (4−3)
y=0.2673x+9.743(20質量%) (4−4)
y=0.3027x+12.22(25質量%) (4−5)
y=0.3696x+13.77(30質量%) (4−6)
y=0.3925x+15.63(35質量%) (4−7)
この式の傾きを用いて、未知の濃度の過硫酸アンモニウムの液温と導電率を測定し、近接する式の傾きを採用することによりその濃度を求めた。
【0036】
図1を用いて、測定ポイントに最も近い式の傾きを採用し、(4−1)式より、y=ax+b式のa(傾き)に0.0788を代入し、更に、上記導電率(En)(y)に6.982S/mと、液温(℃)(x)に液温30℃の値を代入すると、
6.982=0.0788×30+bとなり、切片bは、4.618
となり、測定サンプルの液温と導電率(En)の関係を表す式(4−1)は、
y=0.0788x+4.618
となることが計算された。
上式を用いて、測定したサンプルの20℃における初期過硫酸アンモニウムの導電率(En)(y)を求めると、
y=0.0788×20+4.618=6.164となり、
20℃における初期過硫酸アンモニウムの導電率(En)は、
6.194(S/m)であると計算された。
【0037】
また、表2より、液温20℃の時の溶解時における過硫酸アンモニウムの初期濃度(Cn)(質量%)(y)と導電率(En)(S/m)(x)との関係は、次式(1)となり、これをグラフにプロットすると、図2が得られ、これを式にあらわすと、1次時関数となり、次の一次関数(1−1)が得られた。
Cn=α(En) (1)
y=1.544x−2.477 (1−1)
式(1−1)のxに、20℃における過硫酸アンモニウムの初期濃度(Cn)における導電率(En)(S/m)6.194を代入すると、20℃における過硫酸アンモニウムの初期濃度(Cn)(質量%)は、7.087質量%であると計算された。
【0038】
次に、上記過硫酸アンモニウム溶液を50℃にて数十時間放置し、液温20℃における放置後の濃度(cn)と導電率(en)の測定を、滴定により測定した。その結果を表3に示した。その結果、時間経過とともに過硫酸アンモニウムが分解して濃度が低下するに伴い、導電率が上昇する傾向のデータを得た。また、溶液によってその分解に対する導電率の変化が異なることが分かった。これは、同濃度の過硫酸アンモニウム溶液であっても、それと未分解の過硫酸アンモニウムと分解後の硫酸アンモニウムイオンとの共存溶液とでは、導電率の値が異なることを意味している。これはつまり、初期濃度によって、過硫酸アンモニウムの分解変化率(単一導電率変化当りの分解濃度の割合)が異なることを示している。
【0039】
【表3】

【0040】
表3より、液温20℃における初期濃度の過硫酸アンモニウムの導電率(En)と放置後の過硫酸アンモニウムの導電率(en)の変化量
(ΔEn)と、初期濃度の過硫酸アンモニウム濃度(Cn)と放置後の過硫酸アンモニウムの濃度(cn)の変化量(ΔCn)を計算し、これを表4に示した。図3は、表4のデータをプロットしたものである。即ち、図3における縦軸は、初期濃度の過硫酸アンモニウム濃度(Cn)と放置後の過硫酸アンモニウムの濃度(C)の変化量(ΔCn)を表し、横軸は、液温20℃における初期濃度の過硫酸アンモニウムの導電率(En)と放置後の過硫酸アンモニウムの導電率(en)の変化量(ΔEn)を表したものである。例えば、表4中の初期過硫酸アンモニウムの濃度が5質量%のときの放置後の濃度の変化量(低下APS濃度)(質量%)(ΔCn)の0.1468は、表3中の5.000−4.8532=0.1468から求めたものであり、導電率の変化量(上昇導電率)(S/m)(ΔEn)の0.44は、表3中の4.760−4.320=0.4400から求めたものである。同様にして、表4中のその他の値も表3から計算したものである。
その結果、導電率が上昇した場合、初期濃度が低いほど、分解する過硫酸アンモニウム濃度が低くなることが判明した。
【0041】
【表4】

【0042】
以上の結果から、各濃度において導電率の上昇と過硫酸アンモニウム濃度の低下との関係は初期過硫酸アンモニウム25質量%に於いて、相関係数R2=0.9995以上の一次関数で示すことできる式であることが分かる。また、その単位導電率上昇変化あたりの過硫酸アンモニウム低下量の変化は、初期過硫酸アンモニウム濃度が高いほど大きいことが分かる。即ち初期濃度が低いほど単位導電率上昇あたりの過硫酸アンモニウムの分解も小さい。
図3から得られるグラフの各直線の近似式を求めると、表5となった。
【0043】
【表5】

【0044】
表5の直線の傾きは、(Δ濃度)/(Δ導電率)、(ΔCn)/(ΔEn)であるので、この傾きである(Δ濃度)/(Δ導電率)、(ΔCn)/(ΔEn)と初期過硫酸アンモニウム濃度(Cn)をそれぞれピックアップしたものが表6の値となり、表6をグラフに表したものが図4となる。
【0045】
【表6】

【0046】
その結果、表6及び図4の関係式より、各濃度における単位導電率上昇あたりの濃度低下である、過硫酸塩溶液の分解変化率
(ΔCn)/Δ(En)((Δ濃度)/(Δ導電率))と初期濃度(Cn)との関係を示す関数である式
(ΔCn)/(ΔEn)=β(Cn) (2)
は、次の指数関数である式(2−1)で表すことが出来ることが判明した。この式は、R2=0.9285以上と良好な相関係数を得た。
y=0.2804x0.3497 (2−1)
この導電率の上昇は、下記の化学式に示す通り、過硫酸塩が時間経過とともに硫酸イオンと水素イオンに分解していることを示唆していると考えられる。
2(NH4)++S2O82-+2OH-+2H+→2(NH4)++2SO42-+2H++H2O2
次に、式(2−1)のxに、過硫酸アンモニウムの初期濃度(Cn)(質量%)である、7.087質量%を代入すると、
y=0.2804×7.0870.3497=0.5561
となり、サンプルの分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)は、0.5561であることが計算された。
【0047】
次に、放置した未知資料1の液温28℃における導電率を測定したところ、7.979(S/m)であり、図1を用いて、測定ポイントに最も近い式の傾きを採用し、(4−2)式よりy=ax+b式のa(傾き)に0.1500を代入し、上記導電率(y)と液温(x)の値とを代入し、測定サンプルの液温と導電率の関係を表す式が、
7.979=0.1500×28+b、b=3.779となり、
y=0.1500x+3.779となることが計算された。
上式を用いて、x=20を代入すると、
y=0.1500×20+3.779となり、測定したサンプルの20℃における導電率が6.779(S/m)であると計算された。
【0048】
前記工程により求められた、前記溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)における導電率(En)と薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率(en)の導電率変化(ΔEn)=(en)−(En)と、初期濃度(Cn)、過硫酸塩溶液の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)との関係から、薬液供給時の濃度C(残存する過硫酸塩の濃度)を示す関数は、
残存する過硫酸塩の濃度=(初期濃度)−(分解変化率)×(導電率変化)となる。ここで、過硫酸塩溶液の分解変化率とは、単位導電率変化当たりの過硫酸アンモニウムの分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)であり、導電率変化(ΔEn)とは、ΔEn=(en)−(En)となり、薬液供給時の濃度C(残存する過硫酸塩の濃度)を示す上記関数は、式(3)で表すことができる。
(C)=(Cn)−{(ΔCn)/(ΔEn)}×(ΔEn) (3)
また、式(3)に、初期濃度、(Cn)=7.087、分解変化率、
(ΔCn)/(ΔEn)=0.5561、(ΔEn)=(en)−(En)=6.779−6.194を代入すると、
y=7.087−0.5561×(6.779−6.194)=6.765となり、20℃における初期導電率6.779(S/m)となる過硫酸アンモニウムの濃度は、
6.765質量%であることが計算された。
実際に滴定により、濃度を測定したところ6.737質量%であり、
計算値と実測値との差異は0.02800質量%であった。
【0049】
<実施例2−3>
同様に未知資料2、3の、溶解直後の導電率の測定後、放置後の導電率から求めた値と実測値を比較した。
【0050】
【表7】

【0051】
その結果、式(3)から求めた、過硫酸アンモニウムの劣化濃度、即ち、液供給時の過硫酸アンモニウムの濃度は、表7に示すとおり、
y=16.42質量%であり、計算値と実測値との差異は0.2500質量%であった。
【0052】
【表8】

【0053】
その結果、式(3)から求めた、過硫酸アンモニウムの劣化濃度、即ち、液供給時の過硫酸アンモニウムの濃度は、表8に示すとおり、
y=25.06質量%であり、計算値と実測値との差異は0.1600質量%であった。
【0054】
以上のように3種類の未知資料においての式1)、式2)、式3)および式4)から求めた値と滴定にて求めたそれぞれの実測値は、ほぼ同等の値であり、本方法による過硫酸アンモニウム濃度のモニタリングは可能且つ良好であることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、粉末または固形物の過硫酸塩を溶媒に溶解して所望濃度の過硫酸溶液として、スラリーを使用する化学機械的研磨工程に供給する薬液供給装置であって、溶解後に導電率を測定することによって過硫酸塩の成分分濃度を求め、その後導電率変化を計測することによって過硫酸塩の分解率を捉えることにより、分解後の有効過硫酸塩成分の濃度を計算して、酸化力の低下を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】過硫酸アンモニウム溶液の濃度/液温/導電率との関係を示す図。
【図2】液温20℃における過硫酸アンモニウム導電率と濃度との関係を示す図。
【図3】導電率変化量(ΔEn)と過硫酸アンモニウム濃度変化量(ΔCn)との関係を示す図。
【図4】初期過硫酸アンモニウム濃度(Cn)と過硫酸アンモニウム分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学機械的研磨工程に過硫酸塩を含む薬液を供給する薬液供給方法において、
粉末または固形物の過硫酸塩に溶媒を加えて溶解して低濃度から高濃度に亘る各種濃度の過硫酸塩溶液を作成し、任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)の導電率(En)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)と前記任意の温度における溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)との関係を示す関数である式(1)を予め作成する工程と、
式(1)より前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)における過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)を算出する工程と、
前記任意の温度における薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率(en)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と薬液供給時の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)との関係を示す関数である式(2)を予め作成する工程(ただし、(ΔCn)は、溶解直後における過硫酸塩溶液の初期濃度と薬液供給時の濃度との変化量であり、(ΔEn)は、溶解直後における過硫酸塩溶液の導電率と薬液供給時の導電率との変化量である)と、
式(2)より、前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)における薬液供給時の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)を算出する工程と、
前記工程により測定及び算出した、前記溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と、薬液供給時の過硫酸塩溶液の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)と、前記薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率の変化量(ΔEn)とを式(3)に代入し、薬液供給時の過硫酸塩溶液の濃度(残存する過硫酸塩の濃度)(C)を求める工程とよりなる、
化学機械的研磨工程に供給する過硫酸塩を含む薬液の濃度を管理することを特徴とする薬液供給方法。
(Cn)=α(En) (1)
(ΔCn)/(ΔEn)=β(Cn) (2)
(C)=(Cn)−{(ΔCn)/(ΔEn)}×(ΔEn) (3)
【請求項2】
前記の過硫酸塩が過硫酸アンモニウムである請求項1に記載の薬液供給方法。
【請求項3】
前記の過硫酸塩を含む薬液が化学機械的研磨工程用の砥粒を含むスラリーを混合した薬液である請求項1に記載の薬液供給方法。
【請求項4】
化学機械的研磨工程に過硫酸塩を含む薬液を供給する薬液供給装置において、
粉末または固形物の過硫酸塩に溶媒を加えて溶解して低濃度から高濃度に亘る各種濃度の過硫酸塩溶液を作成し、任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)の導電率(En)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)と前記任意の温度における溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)との関係を示す関数である式(1)を予め作成する工程と、
式(1)より前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の導電率(En)における過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)を算出する工程と、
前記任意の温度における薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率(en)を測定する工程と、
前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と薬液供給時の分解変化率(ΔCn)/(ΔEn)との関係を示す関数である式(2)を予め作成する工程(ただし、(ΔCn)は、溶解直後における過硫酸塩溶液の初期濃度と薬液供給時の濃度との変化量であり、(ΔEn)は、溶解直後における過硫酸塩溶液の導電率と薬液供給時の導電率との変化量である)と、
式(2)より、前記任意の温度における溶解直後の各種濃度の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)における薬液供給時の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)を算出する工程と、
前記工程により測定及び算出した、前記溶解直後の過硫酸塩溶液の初期濃度(Cn)と、薬液供給時の過硫酸塩溶液の分解変化率
(ΔCn)/(ΔEn)と、前記薬液供給時の過硫酸塩溶液の導電率の変化量(ΔEn)とを式(3)に代入し、薬液供給時の過硫酸塩溶液の濃度(残存する過硫酸塩の濃度)(C)を求める工程とよりなる、
化学機械的研磨工程に供給する過硫酸塩を含む薬液の濃度を管理することを特徴とする薬液供給装置。
(Cn)=α(En) (1)
(ΔCn)/(ΔEn)=β(Cn) (2)
(C)=(Cn)−{(ΔCn)/(ΔEn)}×(ΔEn) (3)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−302293(P2009−302293A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155216(P2008−155216)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(597140523)アプリシアテクノロジー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】