説明

虚像表示装置

【課題】 簡単な機構を用い、乗員の感覚に合わせた奥行きの調整や、表示内容に合わせて最適な虚像の前後関係を保つように変更する。
【解決手段】 凹面鏡40から液晶表示パネル11までの光路長S1より、凹面鏡40から液晶表示パネル21までの光路長S2が長くなるように、液晶表示パネル11,21が配置されているため、第一の虚像V1と第二の虚像V2との間で観察者の目から虚像表示までの表示距離に差が生じることによって、第一の虚像V1と第二の虚像V2の合成虚像である第三の虚像V3が奥行きを有して表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚像を表示する虚像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、虚像を表示する車両用表示装置が種々提案されており、例えば特許文献1,2に開示されている。特許文献1に開示された車両用表示装置は、車両のダッシュボード1に配設された表示装置2が投射する表示光Lをフロントガラス3で運転者4の方向に反射させ、虚像V1,V2を表示させるものである(図9参照)。表示装置2は、第一の表示器5と、第二の表示器6と、ハーフミラー7とを有しており、これらの第一の表示器5,第二の表示器6,ハーフミラー7はハウジング9に収容されている。
【0003】
第一の表示器5は、ハーフミラー7から所定間隔aを有して配置されており、第一の表示器5が発した表示光は、ハーフミラー7を透過し、フロントガラス3に投射される。一方、第二の表示器6は、ハーフミラー7から所定間隔bを有して配置されており、第二の表示器6が発した表示光は、ハーフミラー7で反射され、フロントガラス3に投射される。斯かる構成により、表示装置2は、第一の表示器5にて虚像V1を表示させると共に、第二の表示器6にて虚像V2を表示させることができる(図9参照)。
【0004】
一方、特許文献2に開示された車両用表示装置も同様に、第一の表示器110が発する第一の表示光L1と第二の表示光L2を、透過反射板130にて第一の表示光L1を透過させると共に、第二の表示光L2を反射させる。第一の表示器110は、透過反射板130に対して第一の所定角度A1を有して配置された第一の表示パネル160を有し、第二の表示器120は、透過反射板130に対して第二の所定角度A2を有して配置された第二の表示パネル260を有する。凹面鏡170は、透過反射板130を透過した第一の表示光L1と、透過反射板130にて反射された第二の表示光L2と、を更に反射させる。このような構成により、表示装置100は虚像V1、V2が異なる所定の角度で表示されるため、立体感のある虚像表示をすることができる(図10参照)。
【0005】
また、特許文献3には、透過反射板の位置を動かすことで、虚像が表示される位置を調整可能な車両用表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭63−164038号公報
【特許文献2】特開2007−264529号公報
【特許文献3】特開平5−124457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の車両用表示装置では、表示器が固定されている為に、虚像の表示位置が限定され、乗員が奥側にある虚像に違和感を感じる場合でも、奥行きの度合いを調整できないという問題があった。また、特許文献2に記載の車両用表示装置は、立体感のある虚像表示を可能とするが、水平に表示される虚像と略垂直に表示される虚像とが常に一定の間隔で位置するため、表示内容が限定されてしまうという問題点があった。また、特許文献3に記載の車両用表示装置は、虚像の表示位置を調整する構造であるが、透過反射板を摺動させる機構が複雑であるために、組み立て性やコストの面で改良が必要とされていた。
【0008】
本発明は、この問題に鑑みなされたものであり、簡単な機構を用い、乗員の感覚に合わせた奥行きの調整や、表示内容に合わせて最適な虚像の前後関係を保つように変更することができる虚像表示装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、請求項1に記載のように、第一の画面を有し第一の表示光を発する第一の表示器と、
第二の画面を有し第二の表示光を発する第二の表示器と、
前記第一の表示光または前記第二の表示光の一方を透過させると共に前記第一の表示光または前記第二の表示光の他方を反射させる透過反射板と、
前記第一の表示器に第一の画像を表示させ前記第二の表示器に第二の画像を表示させる制御手段と、
前記第一の表示光及び前記第二の表示光を反射させる投影部材と、
前記投影部材の角度を調整する角度調整機構と、を備え、
前記第一の表示光及び前記第二の表示光を第一の虚像及び第二の虚像として表示させる虚像表示装置であって、
前記制御手段は、前記第一の画面における前記第一の画像の位置と、前記第二の画面における前記第二の画像の位置と、に対応して前記角度調整機構を制御して前記投影部材の角度調整を行うものである。
【0010】
また、本発明は、請求項2に記載のように、前記制御手段は、前記第一の虚像と前記第二の虚像との合成虚像である第三の虚像の表示位置が変化しないように、前記角度調整機構を制御して前記投影部材の角度調整を行うものである。
【発明の効果】
【0011】
簡単な機構を用い、乗員の感覚に合わせた奥行きの調整や、表示内容に合わせて最適な虚像の前後関係を保つように変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す光路説明図。
【図2】同上実施形態を示す概略図。
【図3】液晶表示器の構成を示す概略図(断面図)。
【図4】本発明の実施形態を示す虚像の説明図。
【図5】同上実施形態を示す画像図(a)及び虚像図(b)。
【図6】同上の第1の表示モードを示す構成図。
【図7】同上の第2の表示モードを示す構成図。
【図8】同上の第3の表示モードを示す構成図。
【図9】従来例を示す概略構成図。
【図10】従来例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を車両用ヘッドアップディスプレイ装置に適用した一実施形態を説明する。車両用表示装置Aは、液晶表示器(第一の表示器)10と、液晶表示器(第二の表示器)20と、ハーフミラー(透過反射板)30と、凹面鏡(投影部材)40と、凹面鏡40の角度を変える角度調整機構50と、角度調整機構50を駆動するステッピングモータ60とを有している。
【0014】
液晶表示器10は、液晶表示パネル11,発光ダイオード12,導光体13を有している。液晶表示パネル11は、TFT型液晶セルの前後両面に偏光膜を貼着したものである。発光ダイオード12は、液晶表示パネル11を透過照明する。液晶表示器10は、表示光(第一の表示光)L1を発する。
【0015】
液晶表示器20は、液晶表示パネル21,発光ダイオード22,導光体23を有している。液晶表示パネル21は、TFT型液晶セルの前後両面に偏光膜を貼着したものである。発光ダイオード22は、液晶表示パネル21を透過照明する。液晶表示器20は、表示光(第二の表示光)L2を発する。
【0016】
ハーフミラー30は、ガラス基板に反射膜を蒸着形成したものである。ハーフミラー30は、傾斜配置されており、このハーフミラー30の後方に液晶表示器10が配置され、下方に液晶表示器20が配置されている。ハーフミラー30は、表液晶表示器10が発した表示光L1を透過させると共に、液晶表示器20が発した表示光L2を反射させる。
【0017】
凹面鏡40は、ポリカーボネート(PC)等の樹脂にアルミニウム(Al)を蒸着させ反射膜を形成したものである。凹面鏡40は、表示光L1,L2を車両運転者Dの方向に反射させる。車両運転者Dは、ステアリングホイールB越しに、車両用表示装置Aから出射した表示光L1,L2からなる虚像V1,V2を視認する(図2参照)。
【0018】
角度調整機構50は、PBT等の樹脂からなるミラーホルダー51と、歯車部52と、軸部53とから構成され、軸部53はハウジングに設けられた軸受部(図示せず)に軸支されている。
【0019】
ステッピングモータ60は、ステッピングモータ60の回転軸に取付られた歯車部61が角度調整機構50の歯車部52と噛み合うことで、歯車部52を駆動し、ミラーホルダー51を回動し、ミラーホルダー51に設けられた両面粘着テープによって接着されている凹面鏡40の角度を変えることで、表示光L1,L2からなる虚像V1,V2の投射方向を調整する。
【0020】
制御手段70は、マイクロコンピュータ等からなり、画像P1,P2の表示位置によって、変化する虚像V1,V2の投影方向を調整するために、ステッピングモータ60にて、凹面鏡40の角度調整を行う。
【0021】
制御手段70は、液晶表示パネル11,21の画面G1,G2に画像P1,P2を表示させると共に、発光ダイオード12,22を駆動する。液晶表示パネル11に表示される画像P1は、燃料計,走行距離計,自車両を模式的に表したもの等である。液晶表示パネル21に表示される画像P2は、車両速度,道路などを模式的に表したものである。前記道路は、遠くの個所が狭く、近くの個所が広い、遠近法にて描写されている。制御手段70は、液晶表示器10,20の表示制御を行う(図5参照)。
【0022】
次に、図4から図8に基づいて、第一から第三の表示モードについて説明する。
【0023】
図4に示すように、液晶表示パネル11は、光軸に対して垂直に配置され、液晶表示パネル21は、光軸に対して傾斜を有するように配置されており、虚像V1,V2は、側面視で略垂直に表示される。
【0024】
図6に示す第一の表示モードは、凹面鏡40の曲率半径R=600mm、アイポイントセンターから虚像V1までの距離をL=1500mm、アイポイントセンターから凹面鏡までの距離をL’=1000mm、液晶表示パネル21の垂線の光軸に対する傾きを15°とし、液晶表示器10から出射される光束が凹面鏡40で反射する際の光軸の傾きの角度が28.8°(入射角14.4°)、液晶表示パネル11と凹面鏡40との間の光路長がS1=183.8mm、液晶表示パネル21と凹面鏡40との間の光路長がS2=188.1mmとなる。
【0025】
この場合、液晶表示パネル11,21は、凹面鏡40から液晶表示パネル11までの光路長S1より、凹面鏡40から液晶表示パネル21までの光路長S2が長くなるように配置されているため、虚像V1と虚像V2との間で観察者の目から虚像表示までの表示距離に差が生じることによって、虚像V1と虚像V2の合成虚像である虚像V3が奥行きを有して表示される。
【0026】
次に図7及び図8に基づいて、運転者の操作又は虚像V3の表示内容の変更によって、虚像V3の奥行きが大きくなる場合を第二の表示モード、虚像V3の奥行きが小さくなる場合を第三の表示モードとして説明する。なお、運転者の操作とは、詳細は省略するが、例えば押しボタンスイッチなどを操作することによって、液晶表示パネル11,21の画面G1,G2における画像P1,P2の位置を移動させた場合などを意味する。
【0027】
図7に示す第二の表示モードにおける虚像表示装置は、凹面鏡40の曲率半径をR=600mm、アイポイントセンターから虚像V1までの距離をL=1500mm、アイポイントセンターから凹面鏡40までの距離をL’=1000mmとしてある。画像P1,P2の表示位置が中心よりも約13mm上方に移動したことで、液晶表示パネル11と凹面鏡40との間の光路長S1と、液晶表示パネル21と凹面鏡40との間の光路長S2と、の差が第一の表示モードよりも大きくなる(例えば、+3.6mm)。
【0028】
凹面鏡40に入射する表示光L1の角度が小さくなると、凹面鏡40によって運転者側に反射され、さらに運転者側に向う投影光の角度も小さくなるので、第一の表示モードで表示される画像位置よりも下方に表示される。
【0029】
この場合、液晶表示パネル11,21は、凹面鏡40から液晶表示パネル11までの光路長S1より、凹面鏡40から液晶表示パネル21までの光路長S2がより長くなるように配置されているため、虚像V1と虚像V2の間で観察者の目から虚像表示までの表示距離に差が生じることによって、虚像V3がより奥行きを有するように表示することができる。
【0030】
また、このとき、液晶表示パネル11,21に部分的に表示される画像P1,P2の表示位置が画面の中心より約13mm上方に移動するが、凹面鏡40の角度が、軸部53を中心として反時計回りに回転(例えば2°)されることで、合成画像L3の投射方向は一定に保持され、運転者の方向に向かう虚像V3の位置は変わらずに運転者が視認できるように調整することも可能である。
【0031】
図8に示す第三の表示モードにおける虚像表示装置は、凹面鏡40の曲率半径をR=600mm、アイポイントセンターから虚像V1までの距離をL=1500mm、アイポイントセンターから凹面鏡40までの距離をL’=1000mmとしてある。画像P1,P2の表示位置が中心よりも約13mm下方に移動したことで、液晶表示パネル11と凹面鏡40との間の光路長S1と、液晶表示パネル21と凹面鏡40との間の光路長S2との差が第一の表示モードよりも小さくなる(例えば−3.5mm)。
【0032】
凹面鏡40に入射する表示光L1の角度が大きくなると、凹面鏡40によって運転者側に反射され、さらに運転者側に向う投影光の角度も大きくなるので、第一の表示モードで表示される画像位置よりも上方に表示される。
【0033】
この場合、液晶表示パネル11,21は、凹面鏡40から液晶表示パネル11までの光路長S1と、凹面鏡40から液晶表示パネル21までの光路長S2との差が短くなるように配置されているため、虚像V1と虚像V2の間で観察者の目から虚像表示までの表示距離にほとんど差が生じないために、虚像V3が奥行きを有さないように表示することができる。
【0034】
また、このとき、液晶表示パネル11,21に部分的に表示される画像P1,P2の表示位置が画面の中心より約13mm下方に移動するが、凹面鏡40の角度が、軸部53を中心として時計回りに回転(例えば2°)されることで、合成画像の投射方向は一定に保持され、運転者の方向に向かう虚像V3の位置は変わらずに運転者が視認できるように調整することも可能である。
【0035】
凹面鏡40から液晶表示パネル11までの光路長S1と、凹面鏡40から液晶表示パネル21までの光路長S2との差が短くなるように配置され、液晶表示パネル11、21の光軸に対する角度がそれぞれ異なるように構成されているため、第一の画像P1と第二の画像P2の表示位置が変化するに伴って、光路長S1、S2との差にも変化が生じ、第一の虚像V1と第二の虚像V2の合成虚像である第三の虚像V3の奥行きを変化させることができる。
【0036】
このように、本発明は、虚像表示の奥行きの調節が困難であることに着目してなされたものであり、本実施形態によれば、簡単な機構を用い、乗員の感覚に合わせた奥行きの調整や、表示内容に合わせて最適な虚像の前後関係を保つように変更することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 液晶表示器(第一の表示器)
11 液晶表示パネル
20 液晶表示器(第二の表示器)
21 液晶表示パネル
30 ハーフミラー(透過反射板)
40 凹面鏡(投影部材)
50 角度調整機構
60 ステッピングモータ
70 制御部(制御手段)
G1 第一の画面
G2 第二の画面
L1 表示光(第一の表示光)
L2 表示光(第二の表示光)
P1 第一の画像
P2 第二の画像
V1 第一の虚像
V2 第二の虚像
V3 第三の虚像
S1 第一の表示器から凹面鏡までの距離
S2 第二の表示器から凹面鏡までの距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の画面を有し第一の表示光を発する第一の表示器と、
第二の画面を有し第二の表示光を発する第二の表示器と、
前記第一の表示光または前記第二の表示光の一方を透過させると共に前記第一の表示光または前記第二の表示光の他方を反射させる透過反射板と、
前記第一の表示器に第一の画像を表示させ前記第二の表示器に第二の画像を表示させる制御手段と、
前記第一の表示光及び前記第二の表示光を反射させる投影部材と、
前記投影部材の角度を調整する角度調整機構と、を備え、
前記第一の表示光及び前記第二の表示光を第一の虚像及び第二の虚像として表示させる虚像表示装置であって、
前記制御手段は、前記第一の画面における前記第一の画像の位置と、前記第二の画面における前記第二の画像の位置と、に対応して前記角度調整機構を制御して前記投影部材の角度調整を行うことを特徴とする虚像表示装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第一の虚像と前記第二の虚像との合成虚像である第三の虚像の表示位置が変化しないように、前記角度調整機構を制御して前記投影部材の角度調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の虚像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−11645(P2013−11645A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142677(P2011−142677)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】