説明

蛍光検出方法および蛍光検出装置

【課題】装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象から発生する蛍光を高いSN比で検出できる蛍光検出装置を提供する。
【解決手段】励起光源102から射出される励起光を観察対象115に照射し、該観察対象115から発生する蛍光を光増幅器110により光増幅して検出する蛍光検出装置1において、励起光源102から射出される励起光を光増幅器110に入射させて、観察対象115から発生する蛍光を光増幅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体等の観察対象が発する蛍光を検出する蛍光検出方法およびその方法を実施する蛍光検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体または非生体物質からの蛍光現象を観察する蛍光顕微鏡や、生体組織内の蛍光物質が発する蛍光を観察する蛍光内視鏡等の蛍光検出装置が知られている。ところが、物質が発する蛍光は、その蛍光を発生させるために照射された励起光に比較してはるかに弱い。このため、蛍光顕微鏡や蛍光内視鏡で得られる像は、他の照明方法による像、例えば顕微鏡におけるケーラー照明の透過像や、内視鏡における白色光照明の反射像と比較すると、極めて暗く、その観察はより困難であるのが一般的である。
【0003】
その解決策の一つとして、観察対象に照射する励起光を強めて、明るい蛍光像を得ることが考えられる。また、他の解決策として、蛍光を光電変換する光検出器からの電気信号を、高利得増幅器で増幅することが考えられる。
【0004】
しかし、前者のように、観察対象に強い励起光を照射する場合は、観察対象すなわち顕微鏡における標本や、内視鏡における患者の体にダメージを与えることになる。また、後者のように、蛍光を光電変換する光検出器からの電気信号を高利得増幅器で増幅する場合は、光電変換された段階で不可避的に一定量の雑音が生じて信号に加わるために、後段の高利得増幅器で増幅しても、光電変換で加わった雑音に埋もれるほどに小さな信号は取り出すことができない。
【0005】
一方、従来の顕微鏡として、例えば、観察対象が発した散乱光を光増幅器で増幅して検出するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる顕微鏡によれば、たとえ散乱光が光電変換で生じる雑音よりも小さくても、その散乱光を雑音よりも高いレベルにまで光増幅器により光増幅してから光電変換するので、光電変換信号のSN比を改善し、より小さな散乱光を取り出すことが可能となる。
【0006】
したがって、このような光増幅器を蛍光検出装置に応用して、観察対象から発生する微弱な蛍光を、光増幅器で増幅してから検出するようにすれば、観察対象に照射する励起光の強度を、観察対象にダメージを与えない程度に抑えながら、それによって生じた弱い蛍光を雑音に埋もれさせることなく、SN比の高い電気信号として取り出すことができ、より明るく良好な蛍光像を得ることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6351325号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光増幅器により蛍光を増幅するには、光増幅の主体である利得媒質を励起する光源が必要となる。その代表的な光源として、レーザ発振器の使用が想定される。また、蛍光検出装置は、例えば、レーザ走査型蛍光顕微鏡に代表されるように、観察対象の励起光源としてレーザ発振器を備えるものが多い。
【0009】
このため、従来の蛍光検出装置に、上記の特許文献1に開示の技術を単に応用して、蛍光を光増幅するようにすると、観察対象を励起するレーザ発振器と、光増幅器の利得媒質を励起するレーザ発振器との二つの励起光源を要し、装置全体の大型化、複雑化およびコストアップを招くことになる。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決し、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象から発生する蛍光を高いSN比で検出できる蛍光検出方法および蛍光検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る蛍光検出方法は、励起光源から射出される励起光を観察対象に照射し、該観察対象から発生する蛍光を光増幅器により光増幅して検出するにあたり、
前記励起光源から射出される励起光を前記光増幅器に入射させて、前記観察対象から発生する蛍光を光増幅する、ことを特徴とするものである。
【0012】
本発明によると、一つの励起光源から射出される励起光の一部が観察対象の励起に寄与し、残りの一部が光増幅に寄与することになる。したがって、一つの励起光源を、観察対象の照明用と光増幅用とに共用することができるので、それらを別々の励起光源とする場合と比較して、装置の小型化、構成の簡略化、コストダウンを図りながら、観察対象から発生する蛍光を高いSN比で検出することが可能となる。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る蛍光検出方法においては、前記励起光源から射出される励起光を、前記光増幅器を経て前記観察対象に照射する。
【0014】
本発明によると、励起光源から射出される励起光の一部が光増幅器で吸収されて、該光増幅器を構成する利得媒質が励起され、該利得媒質で吸収されなかった残りの励起光により観察対象が励起される。そして、観察対象から発生する蛍光が光増幅器に入射して光増幅される。
【0015】
このように、光増幅器を経て観察対象に励起光を照射することは、観察対象に対する励起光の光路中に光増幅器を配置して用いることを意味する。そしてこの方法は、観察対象の励起光路と利得媒質の励起光路を共通とするために、光路径の増大を避け得る長所を有し、例えば内視鏡等に好適に採用することが可能となる。
【0016】
本発明の一実施の形態に係る蛍光検出方法においては、前記励起光源から射出される励起光を、少なくとも二つの励起光に分離し、該分離された一方の励起光を前記観察対象に照射し、前記分離された他方の励起光を前記光増幅器に入射させる。
【0017】
本発明によると、分離された一方の励起光により観察対象が励起され、他方の励起光により光増幅器を構成する利得媒質が励起されて、観察対象から発生する蛍光が光増幅器に入射して光増幅される。
【0018】
このように、励起光源から射出される励起光を観察対象用と光増幅用とに分離することにより、これらの分離された励起光を、例えば強度や光束径や照射方向等について、個別に制御することが可能となり、照明条件を設定する上での自由度を向上させることが可能となる。
【0019】
さらに、上記課題を解決するため、本発明に係る蛍光検出装置は、励起光源から射出される励起光を観察対象に照射し、該観察対象から発生する蛍光を光増幅器により光増幅して検出する蛍光検出装置において、
前記励起光源から射出される励起光を前記光増幅器に入射させて、前記観察対象から発生する蛍光を光増幅するように構成した、ことを特徴とするものである。
【0020】
本発明によると、励起光源は、観察対象の照明用と、観察対象から発生する蛍光の光増幅用との共通の光源として機能し、この励起光源から射出された励起光の一部が観察対象の励起に寄与し、残りの一部が光増幅に寄与することになる。
【0021】
このように、一つの励起光源を、観察対象の照明用と光増幅用とに共用することで、それらを別々の励起光源とする場合と比較して、装置の小型化、構成の簡略化、コストダウンを図りながら、観察対象から発生する蛍光を高いSN比で検出することが可能となる。
【0022】
本発明の一実施の形態に係る蛍光検出装置においては、前記観察対象に照射する励起光と、前記光増幅器により前記蛍光を光増幅するための励起光との光量比を調整する光量調整部を備える。
【0023】
本発明によると、光量調整部により、観察対象に照射する励起光と、光増幅器により蛍光を光増幅するための励起光との光量比を最適化することが可能となる。これにより、例えば、観察対象に対してはダメージを与えないように比較的弱い励起照明とし、光増幅器に対しては十分な利得およびSN比が得られるように比較的強い励起照明とすることができる。また、観察の目的や観察対象の種類等に応じて、光量比を最適に設定することが可能となる。
【0024】
本発明の一実施の形態に係る蛍光検出装置においては、前記光増幅器を、利得媒質が添加された光ファイバを有して構成する。
【0025】
このように構成すると、例えば、観察対象の近くに位置する対物レンズと、観察対象から離れて位置する励起光源を有する装置本体部との間を、利得媒質が添加された光ファイバにより光学的に接続することにより、該光ファイバを、装置本体部から対物レンズへの励起光の伝送と、対物レンズから装置本体部への蛍光の伝達と、該蛍光の光増幅との3つの機能を担わせることが可能となる。
【0026】
本発明の一実施の形態に係る蛍光検出装置においては、前記利得媒質が添加された光ファイバを、内視鏡の挿入部に延在して配置する。
【0027】
このように構成すれば、例えば、内視鏡型蛍光顕微鏡、蛍光内視鏡、ファイバスコープ型の蛍光内視鏡等を容易に構成することが可能となる。
【0028】
本発明の一実施の形態に係る蛍光検出装置においては、前記光増幅器を、利得媒質が添加されたバルク状光学素子を有して構成する。
【0029】
このように構成すれば、バルク状光学素子が容易に製造可能であることから、さらなるコストダウンが図れる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象から発生する蛍光を高いSN比で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る内視鏡型蛍光顕微鏡の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す励起光強度バランスフィルタの光学特性を説明するための図である。
【図3】本発明の第2実施の形態に係る蛍光内視鏡の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の第3実施の形態に係るファイバスコープ型の蛍光内視鏡の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の第4実施の形態に係る蛍光顕微鏡の概略構成を示す図である。
【図6】図5に示すダイクロイックミラーの光学特性を説明するための図である。
【図7】本発明の第5実施の形態に係る全反射蛍光顕微鏡の概略構成を示す図である。
【図8】本発明の第6実施の形態に係るニポウディスク型共焦点蛍光顕微鏡の概略構成を示す図である。
【図9】本発明の第7実施の形態に係る実験小動物用蛍光マクロ観察装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0033】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る蛍光検出装置の概略構成を示す図である。この蛍光検出装置は、内視鏡型蛍光顕微鏡1として構成されたもので、本体部100と挿入部であるプローブ部101とを備える。本体部100には、励起光源102、コリメートレンズ103、ダイクロイックミラー104、第1のリレーレンズ105、励起光カットフィルタ106、結像レンズ107および光検出器108が配置されている。また、プローブ部101は、可撓部101aおよび先端部101bからなり、可撓部101aには、光増幅器を構成する光ファイバ110が延在して配置されており、先端部101bには、第2のリレーレンズ111、光量調整部を構成する励起光強度バランスフィルタ112、スキャナ113および顕微鏡対物レンズ114が配置されている。
【0034】
図1において、本体部100の励起光源102から射出された励起光は、コリメートレンズ103でコリメートされてダイクロイックミラー104で反射された後、第1のリレーレンズ105を経てプローブ部101の光ファイバ110に入射する。光ファイバ110には、蛍光を増幅するための利得媒質が添加されており、該光ファイバ110に入射した励起光は、その一部が、該光ファイバ110に吸収されて利得媒質を励起し、吸収されなかった残りの励起光が、該光ファイバ110から射出されて、第2のリレーレンズ111を経て励起光強度バランスフィルタ112に入射する。
【0035】
励起光強度バランスフィルタ112は、入射した励起光を所定の割合で透過させる。そして、励起光強度バランスフィルタ112を透過した励起光は、スキャナ113を経て顕微鏡対物レンズ114により観察対象115に集光される。これにより、観察対象115の集光部位を構成する分子または集光部位に含まれる蛍光色素が励起されて、蛍光が発生する。
【0036】
観察対象115から発生した蛍光は、顕微鏡対物レンズ114、スキャナ113、励起光強度バランスフィルタ112および第2のリレーレンズ111を経て光ファイバ110に入射する。ここで、光ファイバ110は、往路において既に利得媒質が励起されているので、蛍光が入射すると誘導放出を起こして、入射した蛍光を光増幅して射出する。
【0037】
光ファイバ110で光増幅されて射出される蛍光は、第1のリレーレンズ105を経てダイクロイックミラー104に入射する。ダイクロイックミラー104を透過した蛍光は、励起光カットフィルタ106に入射し、ここで入射光に含まれる不要な励起光がカットされて、結像レンズ107により光検出器108に集光されて光電変換される。そして、プローブ部101側において、励起光がスキャナ113の作用により観察対象115をスキャンするのに伴って、観察対象115の蛍光強度分布を反映した信号が得られる。
【0038】
上記構成において、光ファイバ110に添加される利得媒質は、種々の元素、例えば、プラセオジム(Pr)、ネオジム (Nd)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、テルビウム(Tb)等が利用可能であるが、特に可視域の蛍光を増幅する場合は、プラセオジム、ホルミウム、エルビウム、ツリウムやテルビウムが有効である。また、スキャナ113は、光学的走査が可能であれば良く、例えばMEMS(micro electro mechanical systems)型ガルバノミラーを用いて構成することもできるし、光ファイバ110の対物レンズ側端部を、アクチュエータにより光軸と直交する方向に駆動するように構成することもできる。なお、図1では、スキャナ113によりスキャンされる光路のうち、軸上光路を符号116CTで示し、軸外光路を符号116PRで示している。
【0039】
図2は、励起光強度バランスフィルタ112の光学特性を説明するための図で、図2(a)は励起光強度バランスフィルタ112に入射する励起光および蛍光のスペクトル分布を示し、図2(b)は励起光強度バランスフィルタ112の分光透過率特性を示す。なお、図2(a)において、蛍光のスペクトル強度は、図面を明瞭とするため強調して示している。図2に示すように、励起光強度バランスフィルタ112は、励起光の波長λEX(例えば、488nm)における透過率TEXを比較的低く、逆に、蛍光の波長帯域λFL1〜λFL2(例えば、500nm〜600nm)における透過率TFLは、比較的高くなるように構成する。このような励起光強度バランスフィルタ112は、例えば、ダイクロイックフィルタ等の誘電体多層膜フィルタ、チューナブルフィルタ、ファブリペロ干渉計等により構成することができる。
【0040】
このように、励起光強度バランスフィルタ112を構成して、該励起光強度バランスフィルタ112を光ファイバ110と観察対象115との間に配置することにより、励起光源102から射出される励起光のうち比較的高い割合を光ファイバ110に入射させて励起させながら、観察対象115に対しては、光ファイバ110を透過した励起光のうち透過率TEXによって制限された比較的低い割合の励起光を照射することができる。また、観察対象115から発した蛍光を、励起光強度バランスフィルタ118における透過率TFLによって、その大部分を光ファイバ110に入射させることができる。
【0041】
これにより、光ファイバ110の励起および蛍光増幅作用をほとんど妨げることなく、観察対象115を照射する励起光を適度に弱めて、観察対象115が励起光によって受けるダメージ(例えば、蛍光色素の退色)を低減することができる。すなわち、観察対象115に照射する励起光と、光ファイバ110に入射させて蛍光を光増幅する励起光との光量比を最適化することができる。
【0042】
以上のように、本実施の形態に係る内視鏡型蛍光顕微鏡1によれば、一つの励起光源102から射出される励起光を、観察対象115の照明用と、光ファイバ110による光増幅用とに最適化して用いるようにしたので、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象115から発生する蛍光が弱い場合でも、光ファイバ110により光増幅して、SN比の良好な画像を得ることができる。また、可撓部101aの撓み作用により、本体部100を移動させることなく、先端部101bの位置や方向を任意に変えることができ、さらにプローブ部101を生体の狭まった部位や管腔・内腔部に入れることができるので、例えば、実験動物や実験小動物の体内に挿入して蛍光観察を容易に行うことができる。したがって、本実施の形態によれば、生体内の組織や細胞の蛍光顕微鏡画像を高感度に観察できる内視鏡型蛍光顕微鏡1を提供することができ、特に、医学・生物学の研究に供することができる。
【0043】
(第2実施の形態)
図3は、本発明の第2実施の形態に係る蛍光検出装置の概略構成を示す図である。この蛍光検出装置は、蛍光内視鏡2として構成されたものである。この蛍光内視鏡2は、被検部位の自家蛍光や、病変部に特異的に結合する蛍光色素が発する蛍光を観察することによって診断を行う医療機器であり、対物レンズとして内視鏡対物レンズ201を用いることを除き、全体の構成および各部の作用は、図1に示した内視鏡型蛍光顕微鏡1と基本的に同じである。したがって、図1に示した構成要素と、同一作用を成す構成要素には、同一参照符号を付して説明を省略する。
【0044】
本実施の形態に係る蛍光内視鏡2においても、第1実施の形態と同様に、一つの励起光源102から射出される励起光を用いることで、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象202から発生する蛍光が弱い場合でも、光ファイバ110により光増幅して、SN比の良好な画像を得ることができる。
【0045】
(第3実施の形態)
図4は、本発明の第3実施の形態に係る蛍光検出装置の概略構成を示す図である。この蛍光検出装置は、ファイバスコープ型の蛍光内視鏡3として構成されたもので、内視鏡本体部300と挿入部であるプローブ部301とを備える。内視鏡本体部300には、励起光源302、励起光集光レンズ303、ダイクロイックミラー304、リレーレンズ305、励起光カットフィルタ306、結像レンズ307および撮像素子308が配置されている。また、プローブ部301は、可撓部301aおよび先端部301bからなり、可撓部301aには、多数の光ファイバを束ねてなる光ファイババンドル310が延在して配置され、先端部301bには、励起光強度バランスフィルタ312および内視鏡対物レンズ314が配置されている。
【0046】
図4において、内視鏡本体部300の励起光源302から射出された励起光は、励起光集光レンズ303で集光されてダイクロイックミラー304で反射された後、リレーレンズ305を経てプローブ部301の光ファイババンドル310の後端部310aの端面全体に入射する。光ファイババンドル310は、各々の光ファイバが光増幅器を構成するもので、各光ファイバには、第1実施の形態における光ファイバ110と同様の蛍光を増幅するための利得媒質が添加されている。そして、光ファイババンドル310に入射した励起光は、その一部が、各光ファイバに吸収されて利得媒質を励起し、吸収されなかった残りの励起光が、光ファイババンドル310の先端部310bの端面から射出されて、励起光強度バランスフィルタ312に入射する。
【0047】
励起光強度バランスフィルタ312は、光量調整部を構成するもので、第1実施の形態における励起光強度バランスフィルタ112と同様に構成され、入射した励起光を所定の割合で透過させる。そして、励起光強度バランスフィルタ312を透過した励起光は、内視鏡対物レンズ314により観察対象315の画像観察領域に対応する照明領域(視野)316を照明する。これにより、観察対象315の照明領域316内の分子または照明領域に含まれる蛍光色素が励起されて、蛍光が発生する。
【0048】
観察対象315の照明領域316から発生した蛍光は、内視鏡対物レンズ314により励起光強度バランスフィルタ312を経て光ファイババンドル310の先端部310bの端面に集光されて、該先端面に照明領域316の蛍光像が結像される。そして、この先端面に結像された蛍光像は、光ファイババンドル310を経て光増幅されて伝送され、これにより後端部310aの端面に光増幅された蛍光像が形成される。
【0049】
この後端部310aの端面に形成される光増幅された蛍光像は、リレーレンズ305およびダイクロイックミラー304を経て励起光カットフィルタ306に入射され、ここで蛍光像に含まれる不要な励起光がカットされて、結像レンズ307により撮像素子308上に結像されて光電変換される。
【0050】
したがって、本実施の形態においても、上記実施の形態と同様に、一つの励起光源302から射出される励起光を用いることで、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象315の蛍光像が弱い場合でも、光ファイババンドル310により光増幅して、SN比の良好な画像を得ることができる。
【0051】
(第4実施の形態)
図5は、本発明の第4実施の形態に係る蛍光検出装置の概略構成を示す図である。この蛍光検出装置は、蛍光顕微鏡4として構成されたもので、上述した実施の形態と同様に、一つの励起光源401を有する。図5において、励起光源401から射出された励起光は、第1のコリメートレンズ402でコリメートされてダイクロイックミラー403に入射し、該ダイクロイックミラー403を透過および反射して二つの励起光に分離される。
【0052】
ダイクロイックミラー403を透過した一方の励起光は、反射ミラー404で反射されて再びダイクロイックミラー403に入射し、ここで反射される励起光が、スキャナ405および瞳リレーレンズ406を経て顕微鏡対物レンズ407により観察対象408に集光される。これにより、観察対象408の集光部位を構成する分子または集光部位に含まれる蛍光色素が励起されて、蛍光が発生する。
【0053】
この観察対象408から発生した蛍光は、顕微鏡対物レンズ407により捕集されて、瞳リレーレンズ406およびスキャナ405を経てダイクロイックミラー403に入射する。そして、ダイクロイックミラー403に入射した蛍光は、該ダイクロイックミラー403を透過して、第1の結像レンズ410、第1の共焦点ピンホール411および第2のコリメートレンズ412を経て、利得媒質が添加されたバルク状光学素子413に入射する。なお、第1の共焦点ピンホール411は、顕微鏡対物レンズ407の焦点以外からの光を遮光して、観察対象408の三次元計測を行うためのピンホールである。
【0054】
一方、励起光源401から射出されてダイクロイックミラー403で反射される他方の励起光は、第1の結像レンズ410、第1の共焦点ピンホール411および第2のコリメートレンズ412を経てバルク状光学素子413に入射し、該バルク状光学素子413の利得媒質を励起する。これにより、バルク状光学素子413に入射した観察対象408からの蛍光は、光増幅されて該バルク状光学素子413から射出される。
【0055】
バルク状光学素子413から射出された蛍光は、励起光カットフィルタ414により不要な励起光がカットされた後、第2の結像レンズ415により第2の共焦点ピンホール416に集光されて、バルク状光学素子413から発生する不所望な自然放出光が遮光され、この第2の共焦点ピンホール416を透過した蛍光が第3の結像レンズ417により光検出器418に集光されて光電変換される。そして、観察対象408に照射される励起光が、スキャナ405によりスキャンされるのに伴って、観察対象408の蛍光強度分布を反映した信号が得られる。なお、図5では、スキャナ405によりスキャンされる光路のうち、軸上光路を符号419CTで示し、軸外光路を符号419PRで示している。
【0056】
ここで、ダイクロイックミラー403は、観察対象408に照射する励起光と、バルク状光学素子413により蛍光を光増幅する励起光との光量比を最適化する光量調整部を構成する。図6は、このダイクロイックミラー403の光学特性を説明するための図で、図6(a)はダイクロイックミラー403に入射する励起光および蛍光のスペクトル分布を示し、図6(b)および(c)はそれぞれダイクロイックミラー403の分光反射率特性および分光透過率特性を示す。なお、図6(a)において、蛍光のスペクトル強度は、図面を明瞭とするため強調して示している。
【0057】
図6から明らかなように、ダイクロイックミラー403は、励起光の波長λEXにおける反射率REXを比較的高く、逆に、蛍光の波長帯域λFL1〜λFL2における反射率RFLは、極力低くなるように構成する。そしてその結果、励起光の波長λEXにおける透過率TEXは、比較的低く、逆に、蛍光の波長帯域λFL1〜λFL2における透過率TFLは、高いものになる。
【0058】
このように構成することにより、一つの励起光源401から射出される励起光のうち、ダイクロイックミラー403で一回反射したもの、すなわち割合にしてREX相当分を光増幅用として用い、またダイクロイックミラー403で一回透過し一回反射したもの、すなわち割合にしてTEX×REX相当分を観察対象408の照明用として用いることができる。これにより、観察対象に照射する励起光と、光増幅器により蛍光を光増幅するための励起光との光量比を最適化することが可能となる。したがって、上述した実施の形態と同様に、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象408からの蛍光が弱い場合でも、バルク状光学素子413により光増幅して、SN比の良好な画像を得ることができる。
【0059】
(第5実施の形態)
図7は、本発明の第5実施の形態に係る蛍光検出装置の概略構成を示す図である。この蛍光検出装置は、全反射蛍光顕微鏡5として構成されたもので、上述した実施の形態と同様に、一つの励起光源501を有する。図7において、励起光源501から射出された励起光は、第1のコリメートレンズ502でコリメートされてビームスプリッター503に入射し、該ビームスプリッター503を透過および反射して二つの励起光に分離される。
【0060】
ビームスプリッター503を透過した一方の励起光は、反射ミラー504、コンデンサレンズ系505および反射ミラー506を経て、顕微鏡対物レンズ507の瞳の周縁部から観察対象508を収容するサンプル容器509に照射される。このとき、照明光がサンプル容器509と観察対象508との間で全反射を生じる条件を満たすようにする。この照明光の全反射により発生するエバネッセント光により観察対象508が照明されて蛍光が励起される。そして、この観察対象508から発生した蛍光は、顕微鏡対物レンズ507により捕集されて、集光レンズ510により、利得媒質が添加されたバルク状光学素子511内に集光される。
【0061】
一方、励起光源501から射出されてビームスプリッター503で反射される他方の励起光は、バルク状光学素子511に入射して、該バルク状光学素子511の利得媒質を励起する。これにより、バルク状光学素子511に入射した観察対象508からの蛍光は、光増幅されて該バルク状光学素子511から射出される。そして、このバルク状光学素子511から射出される蛍光は、第2のコリメートレンズ512および励起光カットフィルタ513を経て結像レンズ514により撮像素子515に結像される。
【0062】
ここで、ビームスプリッター503は、観察対象508を全反射照明する励起光と、バルク状光学素子511により蛍光を光増幅するための励起光との光量比を最適化する光量調整部を構成する。これにより、本実施の形態においても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0063】
(第6実施の形態)
図8は、本発明の第6実施の形態に係る蛍光検出装置の概略構成を示す図である。この蛍光検出装置は、ニポウディスク型共焦点蛍光顕微鏡6として構成されたもので、上述した実施の形態と同様に、一つの励起光源601を有する。図8において、励起光源601から射出された励起光は、第1のコリメートレンズ602でコリメートされて、マイクロレンズアレイディスク603、ダイクロイックミラー604およびピンホールアレイディスク605を経て、利得媒質が添加されたバルク状光学素子606に入射される。
【0064】
マイクロレンズアレイディスク603には、多数のマイクロレンズが渦巻き状に配列されている。また、ピンホールアレイディスク605は、いわゆるニポウディスクと同様のものであり、これにはマイクロレンズアレイディスク603の多数のマイクロレンズと対を成す多数のピンホールが、同様に渦巻き状に配列されている。これらマイクロレンズアレイディスク603およびピンホールアレイディスク605は、モータ607により一体に回転される。
【0065】
バルク状光学素子606に入射した励起光は、その一部が、該バルク状光学素子606に吸収されて利得媒質を励起し、吸収されなかった残りの励起光が、該バルク状光学素子606から射出されて、第2のコリメートレンズ608を経て励起光強度バランスフィルタ609に入射する。励起光強度バランスフィルタ609は、光量調整部を構成するもので、上記第1〜3実施の形態の励起光強度バランスフィルタと同様に、入射した励起光を所定の割合で透過させる。そして、励起光強度バランスフィルタ609を透過した励起光は、顕微鏡対物レンズ610により観察対象611に集光される。これにより、観察対象611の集光部位を構成する分子または集光部位に含まれる蛍光色素が励起されて、蛍光が発生する。
【0066】
また、観察対象611から発生した蛍光は、顕微鏡対物レンズ610、励起光強度バランスフィルタ609および第2のコリメートレンズ608を経てバルク状光学素子606に入射して光増幅される。この光増幅された蛍光は、ピンホールアレイディスク605を経てダイクロイックミラー604で反射されて、第3のコリメートレンズ612を経て励起光カットフィルタ613に入射し、ここで不要な励起光がカットされて、結像レンズ614により撮像素子615に結像される。そして、モータ607によるマイクロレンズアレイディスク603およびピンホールアレイディスク605の回転により、観察対象611がスキャンされるのに伴って、観察対象611の蛍光強度分布を反映した蛍光画像が得られる。
【0067】
したがって、本実施の形態においても、上記実施の形態と同様に、一つの励起光源601から射出された励起光を、観察対象611の照明用と、観察対象611から発生した蛍光の光増幅用とに用いることで、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象611からの蛍光が弱い場合でも、バルク状光学素子606により光増幅して、SN比の良好な画像を得ることができる。
【0068】
(第7実施の形態)
図9は、本発明の第7実施の形態に係る蛍光検出装置の概略構成を示す図である。この蛍光検出装置は、実験小動物用蛍光マクロ観察装置7として構成されたもので、上述した実施の形態と同様に、一つの励起光源701を有する。図9において、励起光源701から射出された励起光は、励起光集光レンズ702で集光されてダイクロイックミラー703で反射された後、利得媒質が添加されたバルク状光学素子704に入射される。
【0069】
バルク状光学素子704に入射した励起光は、その一部が、該バルク状光学素子704に吸収されて利得媒質を励起し、吸収されなかった残りの励起光が、該バルク状光学素子704から射出されて、励起光強度バランスフィルタ705に入射する。励起光強度バランスフィルタ705は、光量調整部を構成するもので、上記第6実施の形態の励起光強度バランスフィルタ609と同様に、入射した励起光を所定の割合で透過させる。そして、励起光強度バランスフィルタ705を透過した励起光は、対物レンズ706により実験小動物である観察対象707の画像観察領域を照明する。これにより、観察対象707が励起されて、蛍光が発生する。
【0070】
観察対象707から発生した蛍光は、対物レンズ706および励起光強度バランスフィルタ705を経てバルク状光学素子704に入射して光増幅され、その光増幅された蛍光が、ダイクロイックミラー703を透過し、さらに励起光カットフィルタ708で不要な励起光がカットされた後、結像レンズ709により撮像素子710上に結像されて光電変換される。
【0071】
このように、本実施の形態においても、上記実施の形態と同様に、一つの励起光源701から射出された励起光を、観察対象707の照明用と、観察対象707から発生した蛍光の光増幅用とに用いることで、装置の大型化、複雑化およびコストアップを招くことなく、観察対象707からの蛍光が弱い場合でも、バルク状光学素子704により光増幅して、SN比の良好な画像を得ることができる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、光量調整部を構成する励起光強度バランスフィルタやダイクロイックミラーは、観察の目的や観察対象の種類等、あるいは、使用する励起光の波長や検出する蛍光の波長等に応じて、交換あるいは切り替え可能に構成することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 内視鏡型蛍光顕微鏡
2,3 蛍光内視鏡
4 蛍光顕微鏡
5 全反射蛍光顕微鏡
6 ニポウディスク型共焦点蛍光顕微鏡
7 実験小動物用蛍光マクロ観察装置
100,300 本体部
101,301 プローブ部
102,302,401,501,601,701 励起光源
108,418 光検出器
110 光ファイバ
112,312,609,705 励起光強度バランスフィルタ
115,202,315,408,508,611,707 観察対象
308,515,615,710 撮像素子
310 光ファイババンドル
104,304,403,604,703 ダイクロイックミラー
503 ビームスプリッター
413,511,606,704 バルク状光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光源から射出される励起光を観察対象に照射し、該観察対象から発生する蛍光を光増幅器により光増幅して検出するにあたり、
前記励起光源から射出される励起光を前記光増幅器に入射させて、前記観察対象から発生する蛍光を光増幅する、ことを特徴とする蛍光検出方法。
【請求項2】
前記励起光源から射出される励起光を、前記光増幅器を経て前記観察対象に照射する、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出方法。
【請求項3】
前記励起光源から射出される励起光を、少なくとも二つの励起光に分離し、該分離された一方の励起光を前記観察対象に照射し、前記分離された他方の励起光を前記光増幅器に入射させる、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光検出方法。
【請求項4】
励起光源から射出される励起光を観察対象に照射し、該観察対象から発生する蛍光を光増幅器により光増幅して検出する蛍光検出装置において、
前記励起光源から射出される励起光を前記光増幅器に入射させて、前記観察対象から発生する蛍光を光増幅するように構成した、ことを特徴とする蛍光検出装置。
【請求項5】
前記観察対象に照射する励起光と、前記光増幅器により前記蛍光を光増幅するための励起光との光量比を調整する光量調整部を備える、ことを特徴とする請求項4に記載の蛍光検出装置。
【請求項6】
前記光増幅器は、利得媒質が添加された光ファイバを有する、ことを特徴とする請求項4または5に記載の蛍光検出装置。
【請求項7】
前記光ファイバは、内視鏡の挿入部に延在して配置されている、ことを特徴とする請求項6に記載の蛍光検出装置。
【請求項8】
前記光増幅器は、利得媒質が添加されたバルク状光学素子を有する、ことを特徴とする請求項4または5に記載の蛍光検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−196873(P2011−196873A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65168(P2010−65168)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】