説明

蜜蝋を含有する抗血管形成組成物

本発明は、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含む組成物に関する。特に、本発明は、鮫肉の抽出物、またはイガイ肉の抽出物を、場合によりキノコ抽出物も含めて、蜜蝋とともに含有する組成物に関する。本発明は、血管形成を阻害するのが望ましい疾患または障害を、本発明の組成物を用いて治療もしくは予防する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含む組成物に関するものである。特に、本発明は、鮫肉の抽出物、またはイガイ肉の抽出物を蜜蝋とともに含有する組成物に関するものである。本発明は、血管形成を阻害するのが望ましい疾患または障害を、本発明の組成物を用いて治療もしくは予防する方法にも関するものである。
【0002】
背景技術
血管形成は、新たな血管の成長および増殖である。血管形成は、多くの生理学的および病理学的状態に重要な役割を果たす。健康な身体では、血管形成は、創傷治癒の増殖期の際に、傷害または損傷後の組織への血流を回復するために、また女性では、月次生殖周期の際、および妊娠の際に生じる。
【0003】
健康な身体は、血管形成を一連の「入」および「切」のスイッチを通じてコントロールする。「入」スイッチは、血管形成刺激成長因子として知られ、「切」スイッチは、血管形成インヒビターと称される。正常な健康体では、血管形成成長因子および血管形成インヒビターの発現は、血管形成の活性化および抑制を助長するために、精密な均衡が保たれている。
【0004】
血管形成のコントロールの欠失は、多くの重大な疾患状態へと導きかねない。いわゆる「過剰血管形成」に起因する、公知の多くの状態が存在する。そのような状態は、関節炎[Giatromanolaki et al., Arthritis Research & Therapy, 5: R193-201;DeBusk et al., Arthritis & Rheumatism, 48: 2461-71]、網膜症[Bainbridge et al., Clinical Science, 104: 561-75;Umeda et al., Ophthalmic Research, 35: 217-23]、黄斑変性症[Bainbridge et al., Clinical Science, 104: 561-75;Yamaza et al., Journal of Electron Microscopy, 51: 127-31;Ohno-Matsui et al., Journal of Cellular Physiology, 189: 323-33]および腫瘍[Sivridis et al., Journal of Pathology, 201: 173-80;Longo et al., Angiogenesis, 5:237-56]を包含する。血管形成のインヒビターは、これらの状態の進行を遅延させることになる。
【0005】
脂質を基剤とする製剤をはじめとする、数多くの公知の抗血管形成化合物および製剤が存在する[Scappaticci, Expert Opinion on Investigational Drugs, 12: 923-32;Caceres & Gonzales, Puerto Rico Health Sciences Journal, 22: 149-51]。これらの一つは、サメのいくつかの種の筋組織に由来する。
【0006】
サメ軟骨が抗血管形成活性を有することは、かねてから知られている。より最近の研究は、鮫肉から得られた抽出物が、in vitroおよびin vivo双方での方法論によって評価されたとき、有意な抗血管形成活性を有することを示している[WO 02/49654として公開されたPCT/NZ01/00285を参照されたい]。
【0007】
溶媒抽出、次いで溶媒の除去によって得られた鮫肉の抽出物は、放置すると沈澱する傾向がある多少の粒状物質を有する粘稠な油である。ゼラチンカプセル内のそのような沈澱は、カプセルの形状の歪曲へと導きかねない。この問題に対処するために、蜜蝋が抽出物に添加された。
【0008】
しかしながら、驚異的にも、蜜蝋は、カプセル形状の歪曲を最小化するばかりでなく、蜜蝋および抽出物の組合せは、抽出物の抗血管形成効果を強化することも見出された。これは、蜜蝋の既知の特性からは予測されなかったであろう。
【0009】
そうして、蜜蝋の存在は、抗血管形成活性を有するその他の天然産物抽出物の活性を強化するか否かに考慮が払われた。本出願人は、蜜蝋が、イガイなる貝類の肉の抽出物の抗血管形成活性を強化できることを発見した。本出願人は、また、キノコ抽出物と組み合わせた鮫肉抽出物の抗血管形成活性が、蜜蝋の存在下で強化されることも見出した。
【0010】
蜜蝋がある範囲内の天然産物抽出物の抗血管形成活性を強化するという、驚異的な発見が、本発明の根拠を形成する。
【0011】
上記により、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含む抗血管形成組成物を提供するか、少なくとも有用な選択肢を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
発明の記載
第一の態様では、本発明は、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含有する抗血管形成組成物を提供する。
【0013】
本発明の一実施態様では、該抽出物は、鮫肉抽出物、好ましくは該肉がサメの筋組織の場合のそれである。あるいは、該抽出物は、イガイ肉の抽出物であり、好ましくはニュージーランドミドリイガイ(Perna canaliculus)由来であり得る。
【0014】
更に一つの実施態様では、抗血管形成抽出物は、鮫肉抽出物とキノコ抽出物との組合せである。キノコ抽出物は、抗血管形成活性を有するいかなるキノコの抽出物であってもよいが、好ましくは、メシマコブ(Phellinus linteus)であるか、またはマイタケ(Grifola frondosa)である。
【0015】
好ましくは、該組成物は、食用油、たとえばオリーブ油を更に含有する。組成物がビタミンEを含有することも、好ましい。
【0016】
該組成物は、抗血管形成抽出物および蜜蝋の量を、相乗的な抗血管形成効果を与えるいかなる比率でも含有し得るが、該比率は、好ましくは、1:1〜10:1の範囲内、最も好ましくは約4:1または5:1である。
【0017】
本発明の第二の態様では、血管形成を阻害するのが望ましい疾患または障害を治療もしくは予防する方法であって、対象者に、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含有する抗血管形成組成物を投与することを含む方法が提供される。
【0018】
本発明は、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含有する抗血管形成組成物の使用であって、血管形成を阻害するのが望ましい疾患または障害を予防もしくは治療する医薬を製造するための使用も提供する。
【0019】
本発明の好適実施態様では、疾患または障害は、関節炎、網膜症、黄斑変性症またはガンである。好ましくは、該対象者はヒトである。
【0020】
詳細な説明
本発明は、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含有する抗血管形成組成物を提供する。特に、本発明は、相乗的有効量の鮫肉の抽出物またはイガイ肉の抽出物を、場合によりキノコ抽出物を伴って、蜜蝋とともに含む抗血管形成組成物に関する。
【0021】
本明細書に用いられる限りでの用語「抽出物」は、いかなる抽出方法によっても得られる物質を意味して、該未精製抽出物が、クロマトグラフィーおよび濾過のような常法によって分画または精製されたものであるか否かを問わない。抽出方法は、溶媒抽出を非限定的に包含する。適切ないかなる溶媒を用いてもよい。溶媒は、有機溶媒もしくは水性溶媒、または有機および水性溶媒の混合物であり得る。エタノールは、有機溶媒(または水エタノールミックス)として代表的に用いられるが、他の有機溶媒を用いてもよい。抽出用溶媒は、超臨界CO2のような超臨界液体であってもよい。
【0022】
本明細書に用いられる限りでの用語「鮫肉」は、サメ、リグ(レモンフィッシュ)、ツノザメ、カイブツギンザメ、アオザメ、ヨシキリザメ、ギンザメ、ネズミザメおよびツマグロを非限定的に包含する、いかなるサメまたはサメ様生物のいかなる食肉もしくは肉も意味する。
【0023】
本明細書に用いられる限りで、用語「イガイ抽出物」は、ニュージーランドミドリイガイ(Perna canaliculus)およびムラサキイガイ(Mytilus edulis)を非限定的に包含する、いかなるイガイなる貝類の品種の肉から得られる抽出物も意味するものとする。
【0024】
本明細書に用いられる限りでの用語「キノコ抽出物」は、メシマコブ(Phellinus linteus)およびマイタケ(Grifola frondosa)を非限定的に包含する、いかなるキノコから得られる抽出物も意味する。
【0025】
本明細書に用いられる限りで、用語「蜜蝋」は、いかなる種類の蜜蝋も含有するいかなる組成物または調製物も意味する。蜜蝋は、キャッピング蜜蝋、溶融蜜蝋、または他の適切ないかなる形態もしくは種類の蜜蝋であってもよい。
【0026】
本出願人は、驚異的にも、蜜蝋を抗血管形成抽出物、たとえば鮫肉抽出物またはイガイ抽出物とともに含有する組成物は、蜜蝋なしの抽出物に比して、著しく強化された抗血管形成活性を示すことを見出した。
【0027】
表1(下記)は、鮫肉抽出物製品および蜜蝋を含有する組成物の抗血管形成活性を示す。該抽出物の抗血管形成活性は、蜜蝋を加えたとき、倍化を上回る。蜜蝋のみは、100μg/mlという高濃度で僅か47%の阻害を生じるにすぎない。蜜蝋のこの濃度は、鮫肉抽出物−蜜蝋混合物中の蜜蝋の濃度の約40倍である。したがって、抽出物−蜜蝋の組合せが立証する52.3%の阻害は、蜜蝋を鮫肉抽出物と組み合わせることによって、相乗的な抗血管形成効果が生じることを示す。
【0028】
ミドリイガイ抽出物、および該抽出物を蜜蝋に加えて含有する組成物も、その抗血管形成活性についてアッセイした。イガイ抽出物のみは、鮫肉抽出物より僅かに低い抗血管形成効果を有する。表2(下記)は、イガイ抽出物、および該抽出物を蜜蝋に加えて含有する組成物の活性を示す。蜜蝋をミドリイガイの抽出物に加えたとき、抗血管形成活性の有意な(3倍の)増大が存在する。
【0029】
やはり、蜜蝋のみの抗血管形成活性は、蜜蝋およびミドリイガイ抽出物の組合せの抗血管形成活性に比して最小限である。高濃度(100μg/ml)の蜜蝋溶液は、約50%の阻害を導出するが、40倍も希薄な蜜蝋溶液は、イガイ抽出物の抗血管形成活性を3倍以上も増大させる。
【0030】
当初は、蜜蝋は、鮫肉抽出物を収容するゼラチンカプセルの保全および形状を単に維持するにすぎないであろうと考えられた。現在まで、蜜蝋が何らかの抗血管形成活性そのものを有することを示唆する証拠は皆無であった。そのため、蜜蝋は、不活性な成分であろうと見なされていた。しかし、蜜蝋を抽出物に加えることは、4:1の比率で加えたとき、抗血管形成活性を倍化することが驚異的にも見出された。
【0031】
抗血管形成活性に対する蜜蝋のこの効果は、ミドリイガイ抽出物に関するデータによって更に裏付けられる。イガイ抽出物は、相対的に低い抗血管形成活性を有する(事実、その抗炎症活性についての方が周知である)。しかし、驚異的にも、4:1の比率での蜜蝋の添加は、抗血管形成活性を3倍以上増大させる。
【0032】
蜜蝋が鮫肉抽出物、およびイガイの抽出物の双方の抗血管形成活性をモジュレーションするという事実は、蜜蝋が、抗血管形成活性を有するその他のある範囲の天然産物抽出物に対して相乗的効果を発揮できることを示している。
【0033】
以下、実施例を参照して、本発明を更に説明する。本発明は、この実施例に限定されないことを認識しなければならない。
【実施例1】
【0034】
in vitroでの抗血管形成アッセイ
大動脈を、ラットから取り出し、付着脂肪および結合組織を洗い落としてから、約3mmの大きさの環へと切断した。多穴培養プレートのウェルの底に、フィブリノーゲンの層を形成し、トロンビン作用によってゲル化させた。次いで、1環の層を各ゲルの上部に形成し、更に1層のフィブリンをこれに重ねた。フィブリノーゲンは、抗生物質で補強したMCDB131培地中で調製した。次いで、フィブリンの二重層に、試験材料を含有するMCDB131培地を重ねた。ゲルを、3%CO2/97%空気の雰囲気中、37℃でインキュベーションした。倒立顕微鏡を用いて、環を検査し、各環の周辺からの微細血管の成長を観察した。2日ごとにこれらのディジタル画像を記録し、NIHの画像ソフトウエアを用いて、環の大きさに対する微細血管成長の程度を決定した。これから、微細血管の成長速度を、各ウェルについて決定することができる。各試験物質は三重にアッセイし、平均成長速度を算出した。
【実施例2】
【0035】
鮫肉抽出物および蜜蝋
粉末化または凍結乾燥した鮫肉のエタノール抽出、次いで濾過および溶媒除去によって得られた、鮫肉の抽出物、および蜜蝋を加えた該抽出物を、実施例1の手順に従って、抗血管形成活性についてアッセイした。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【実施例3】
【0037】
イガイ抽出物および蜜蝋
粉末化または凍結乾燥したミドリイガイ肉のエタノール抽出、次いで濾過および溶媒除去によって得られた、イガイ肉抽出物の抽出物、および蜜蝋を加えた該イガイ抽出物を、実施例1の方法を用いて、抗血管形成活性についてアッセイした。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【実施例4】
【0039】
鮫肉抽出物/キノコ抽出物および蜜蝋
実施例1の手順を用いて、鮫肉抽出物、およびメシマコブ(Phellinus linteus)の抽出物(粉末化したキノコのエタノール抽出、次いで濾過および溶媒除去によって得られた)の9:1の重量比での混合物は、有意な抗血管形成活性を有することが示された。蜜蝋を該混合物に加えて、蜜蝋対抽出物混合物に1:4の比を与えたとき、活性が更に強化された(表3)。
【0040】
マイタケ(Grifola frondosa)の抽出物および鮫肉抽出物を用いて、同様な製剤を製造した。やはり、蜜蝋の添加は、抗血管形成活性を強化した。
【0041】
【表3】

【0042】
鮫肉抽出物/Phellinus linteus抽出物(9:1)および鮫肉抽出物/Grifola frondosa抽出物(9:1)の双方について、蜜蝋の添加は、抗血管形成活性を62〜65%向上させた。
【0043】
実施例への参照によって本発明を説明したが、本発明の範囲から逸脱せずに、変化および改変を加え得ることを認識しなければならない。更に、特定の特徴に対して公知の等価体が存在する場合、そのような等価体は、本明細書に具体的に記載されたかのように組み込まれる。
【0044】
産業上の利用可能性
本発明の抗血管形成組成物は、広い範囲の疾患の治療または予防に役立つ。これらは、関節炎、網膜症、黄斑変性症およびガンのような、血管形成に関連する疾患を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含有する抗血管形成組成物。
【請求項2】
抗血管形成抽出物が鮫肉抽出物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
鮫肉抽出物がサメの筋組織の抽出物である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
抗血管形成抽出物がイガイ肉抽出物である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
イガイ肉がニュージーランドミドリイガイから得られる、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
キノコ抽出物を更に含有する、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
キノコがメシマコブ(Phellinus linteus)であるか、またはマイタケ(Grifola frondosa)である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
食用油を更に含有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
食用油がオリーブ油である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
ビタミンEを更に含有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
抗血管形成抽出物対蜜蝋の比が1:1〜10:1の範囲内にある、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
比がほぼ4:1〜5:1である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
血管形成を阻害するのが望ましい疾患または障害を治療もしくは予防する方法であって、対象者に、相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含有する抗血管形成組成物を投与することを含む方法。
【請求項14】
疾患または障害が関節炎、網膜症、黄斑変性症またはガンである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
相乗的有効量の抗血管形成抽出物および蜜蝋を含有する抗血管形成組成物の使用であって、血管形成を阻害するのが望ましい疾患または障害を予防もしくは治療する医薬を製造するための使用。
【請求項16】
疾患または障害が関節炎、網膜症、黄斑変性症またはガンである、請求項15記載の使用。

【公表番号】特表2008−507511(P2008−507511A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522462(P2007−522462)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【国際出願番号】PCT/NZ2005/000179
【国際公開番号】WO2006/009477
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(500240379)ユニバーシティ オブ オタゴ (5)
【出願人】(507022259)イミュノ・リサーチ・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】IMMUNO RESEARCH LIMITED
【Fターム(参考)】