説明

血流動態解析装置、血流動態解析プログラム、流体解析装置及び流体解析プログラム

【課題】処理時間を増大させることなく流体の動態に関する情報を安定に算出することが可能な血流動態解析装置を提供することである。
【解決手段】 本発明の実施形態に係る血流動態解析装置は、組織及び動脈の時間濃度曲線算出手段、第1及び第2の構成手段、逆畳み込み積分手段並びに血流情報算出手段を備える。組織の時間濃度曲線算出手段は、造影画像データの時相間における画素値変化を計測して組織の時間濃度曲線を算出する。動脈の時間濃度曲線算出手段は、組織の時間濃度曲線から動脈の時間濃度曲線を算出する。第1の構成手段は、組織の時間濃度曲線から第1の集合を構成する。第2の構成手段は、動脈の時間濃度曲線から第2の集合を構成する。逆畳み込み積分手段は、第1及び第2の集合の逆畳み込み積分を行い、組織の伝達関数を算出する。血流情報算出手段は、伝達関数に基づいて、血流動態に関する情報を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、血流動態解析装置、血流動態解析プログラム、流体解析装置及び流体解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線CT(Computed Tomography)装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置では、静脈から造影剤を投与し、時系列画像データを収集して、その画像を元に解析し、組織内の血流動態に関する情報を得る検査が行われている。これはパーヒュージョン検査と呼ばれ、造影剤の撮影断面への集中の度合いが画像の濃度変化として収集できることを利用したものである。
【0003】
例えば、肺循環や造影剤投与のばらつきをなくすために、組織に流入する動脈の時間濃度曲線(Time Concentration Curve:TCC):aを入力関数として、測定した組織の時間濃度曲線Cとのデコンボリューション(Deconvolution:逆畳み込み積分)を行い、組織固有のインパルス応答関数(伝達関数)R(residue function)を求め、得られたインパルス応答関数から、血流動態を定量的に表す指標である血流量(脳の場合、CBF:Cerebral Blood Flow)、平均通過時間:MTT(Mean Transit Time)、および、血液量(脳の場合、CBV:Cerebral Blood Volume)などのパラメータを算出している。この解析方法は、デコンボリューション法と呼ばれている。
【0004】
尚、時間濃度曲線は、造影剤濃度に比例する量の時間変化を表す曲線である。X線CT装置で収集された造影画像データから求められる造影剤濃度に比例する量の時間変化曲線は、TDC (Time Density Curve)とも呼ばれるが、ここではTCCと表記する。
【0005】
例えば、非特許文献1では、デコンボリューションに、standard SVD(Singular Value Decomposition)法やblock circulant SVD法を適用している。
【0006】
ここで、standard SVD法について説明する。まず、収集された画像データにおいて、画素j(位置r)の画素値の変化を計測して組織の時間濃度曲線C(r)を算出する。また、算出した組織の時間濃度曲線Cから、動脈の時間濃度曲線Aを次式(1)に示すようにして算出する。式(1)において、iは、フェーズ番号を表わし、Ωは、動脈に相当する画素の集合を表わしている。
【数1】

【0007】
組織の時間濃度曲線Cが、動脈の時間濃度曲線Aとインパルス応答関数Xのデコンボリューション(畳み込み積分)であるとすると、次式(2)に示すようなシステム方程式で表わすことができる。式(2)において、Tは、画像撮影の時間間隔(繰り返し時間 TR: repetition time)を表わし、Rは、インパルス応答関数を表わしている。
【数2】

【0008】
例えば、動脈の時間濃度曲線aおよび組織の時間濃度曲線Cを時間軸方向に離散化したもの、つまり、ibs≦i≦L−1のフェーズ範囲をL個の等区間に分割し、L個のフェーズのデータを解析に用いるとすると、上記の式(2)は、行列形式でC=AXとなり、次式(3)に示すように表わすことができる。式(3)において、Cは、L×1の列ベクトルであり、Aは、L×Lの係数行列であり、Xは、L×1の列ベクトルである。
【数3】

【0009】
上記の式(3)において、ibsは、解析対象となるフェーズ範囲の先頭フェーズを表わしており、動脈および組織の造影濃度が上昇し始めるフェーズ、もしくは、それよりも前のフェーズを用いる。また、係数行列の各要素値ai,jは、次式(4)により表わされる。式(4)において、i=0,1,・・・L−1であり、j=0,1,...L−1である。
【数4】

そして、上記の式(3)の近似解を、特異値分解により求める。すなわち、行列Aを次式(5)に示すように3つの行列に分解することができる。
[数5]
A=UDV ・・・(5)
【0010】
上記の式(5)において、Uは、m行k列の正規直交行列であり、Dは、k行k列の対角行列であり、Vは、n行k列の正規直交行列である。上記の式(3)に用いる場合、m=n=k=Lである。対角行列とは、対角成分以外の成分がすべて0である行列であり、正規直交行列とは、対角成分が1である対角行列である。
【0011】
ここで、U=(u,u,...u)、V=(v,v,...v)、D=diag(w,w,...w)であるとき、wを降順に並び替え、u、vもその順序に対応するように入れ替えを行っておく。行列Aの特異値分解の結果を用いて、Xの最小2乗解である最小ノルム推定値を次式(6)により算出することができる。
【数6】

【0012】
上記の式(6)において、Wは、Dの対角要素(特異値)の逆数からなる対角行列であって、W=diag(1/w,1/w,...1/wG−1,0,0,...)である。ここで、最大特異値のPsvd倍に満たない特異値に対しては、逆数ではなく0を対角要素とする。従って、G個の対角要素だけが0でない値を持つようになる。Psvdは、正則化の強さを左右するパラメータであり、大きい値ほど強い正則化が行われる。
そして、ノルム推定値が求められたら、次式(7)に示すようにしてインパルス応答関数Rを算出することができる。
【数7】

上記の式(7)で算出されたインパルス応答関数Rから、組織血流量、組織血液量、および平均通過時間を算出することができる。
【0013】
ところで、血流は、組織の毛細血管へ流れるが、造影剤が組織に到達する時間は、組織の場所によって異なり、設定した動脈領域から求めた動脈の時間濃度曲線と各画素の組織の時間濃度曲線は、厳密には時間軸が一致しない。従って、極端な場合、動脈の造影濃度が上昇する前に(動脈の時間濃度曲線が立ち上がる前に)、組織の造影濃度が上昇してしまう(組織の時間濃度曲線が先に立ち上がってしまう)こととなる。
【0014】
上述したstandard SVD法では、このような時間方向のずれ(ディレイ)がないことを仮定としている。しかしながら、動脈の時間濃度曲線と組織の時間濃度曲線の間には、必ず時間方向のずれが存在するため、ディレイ時間の値によってデコンボリューション結果が変わり、算出される組織血流量の値が影響を受けてしまうこととなる。
【0015】
そこで、block circulant SVD法では、時間方向のずれに対する依存性を軽減するために、次式(8)に示すようなブロック循環行列であるシステム行列を用いるようにする。
【数8】

【0016】
このblock circulant SVD法において、基本的な処理は、standard SVD法と同様であり、行列形式C=AXであるが、Aが、2L×2Lの係数行列となっている。そのため、動脈の時間濃度曲線を構成する係数行列Aの各要素値の後方に0が追加され、インパルス応答関数を構成する列ベクトルXの各要素値の後方に0が追加され、組織の時間濃度曲線を構成する列ベクトルCの各要素値の後方に0が追加され、使用する測定データの2倍の要素数となるように拡張される。特に、係数行列Aは、行および列がいずれも2倍、もしくはそれ以上に拡張され、さらに列ベクトルの要素が周期的になるように配列し直されている。
【0017】
このように、システム行列を上記の式(8)に示すように構成することで、時間方向のずれが存在した場合、インパルス応答関数が時間軸方向にシフトし、その形状が相似形を保つようになる。従って、インパルス応答関数を時間軸方向にシフトさせることによって、時間方向のずれに対する依存性を小さくした、組織血流量、組織血液量、および平均通過時間を算出することができる。
【0018】
しかしながら、システム行列において、動脈の時間濃度曲線を構成する係数行列Aが2×2倍、組織の時間濃度曲線を構成する列ベクトルが2倍となることから、解析処理時間は8倍以上にも増大してしまい、実用的ではない。
【0019】
そこで、非特許文献2では、解析処理時間を増大させずに、standard SVD法のシステム行列を応用している。すなわち、非特許文献2で提案されている方法では、システム行列として上記の式(4)を用い、既知ベクトルには、先頭フェーズからオフセット位置までの組織の時間濃度曲線の要素をノイズ(信号のひずみ)として計算上から除外している。ここでは、上記の式(3)において、ベクトルCからオフセット位置までの先頭数フェーズが除かれることから、後方には、同数の0の要素が追加されることになる。
このように、非特許文献2の技術では、システム行列を拡張せずに、時間方向のずれに対する依存性を小さくするようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Ona Wu et al,"Tracer Arrival Timing-Insensitive Technique for Estimating Flow in MR Perfusion-Weighted Imaging Using Singular Value Decomposition With a Block-Circulant Deconvolution Matrix",Magnetic Resonance in Medicine 50:164-174(2003)
【非特許文献2】M.R.Smith, H.Lu, S.Trochet, and R.Frayne "Removing the Effect of SVD Algorithmic Artifacts Present in Quantitative MR Perfusion Studies", Magnetic Resonance in Medicine 51:631-634(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
非特許文献1の技術において、standard SVD法では、時間方向のずれを考慮していないため、デコンボリューション結果の正確性に欠ける。一方、block circulant SVD法では、時間方向のずれを考慮しているものの、解析処理時間が膨大であり、いずれも実用的ではない課題があった。
【0022】
特に、X線CT装置やMRI装置の運用では、通常、多数の患者の検査を実施しなければならない。また、画像撮影後、直ちに解析処理を行って、技師が、処理結果を見て撮影に不備があるか否かを確認しなければならない。従って、解析処理時間が膨大になると、実施可能な検査数が減少してしまうとともに、患者にとっては待ち時間が増え、病院にとっては患者獲得の減少になり、双方に不利益をもたらすこととなる。
【0023】
そこで、非特許文献2の技術では、解析処理時間を増大させずに処理を行っているが、先頭フェーズからオフセット位置までの組織の時間濃度曲線の要素をノイズ(信号のひずみ)として計算上から除外してしまうことから、オフセット位置に結果が依存してしまうという新たな問題が生じてしまう。しかしながら、オフセット位置を正しく同定することは難しいため、結果的に血流動態に関する情報を安定に求めることができないという課題があった。
【0024】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、処理時間を増大させることなく流体の動態に関する情報を安定に算出することが可能な血流動態解析装置、血流動態解析プログラム、流体解析装置及び流体解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の実施形態に係る血流動態解析装置は、組織の時間濃度曲線算出手段、動脈の時間濃度曲線算出手段、第1の構成手段、第2の構成手段、逆畳み込み積分手段及び血流情報算出手段を備える。組織の時間濃度曲線算出手段は、医用画像撮影装置により得られた複数の時相における被検体の造影画像データに基づいて、前記複数の時相間における各画素の画素値の変化を計測して組織における造影剤の濃度に対応する量の時間変化を表す時間濃度曲線を算出する。動脈の時間濃度曲線算出手段は、前記組織に対応する前記時間濃度曲線から動脈領域を設定し、動脈に対応する時間濃度曲線を算出する。第1の構成手段は、前記組織に対応する前記時間濃度曲線を、第1の時刻を基準にして離散化し、異なる時刻での前記組織における前記造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を1次元に配列した第1の集合を構成する。第2の構成手段は、前記動脈に対応する前記時間濃度曲線を、前記第1の時刻より後方の第2の時刻を基準にして離散化し、異なる時刻での前記動脈における前記造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を2次元に配列した第2の集合を構成する。逆畳み込み積分手段は、前記第1の集合と前記第2の集合の逆畳み込み積分を行い、前記組織の伝達関数を算出する。血流情報算出手段は、前記伝達関数に基づいて、血流動態に関する情報を算出する。
【0026】
また、本発明の実施形態に係る血流動態解析プログラムは、コンピュータを、上述の組織の時間濃度曲線算出手段、動脈の時間濃度曲線算出手段、第1の構成手段、第2の構成手段、逆畳み込み積分手段及び血流情報算出手段として機能させる。
【0027】
また、本発明の実施形態に係る流体解析装置は、濃度変化算出手段及び流体情報算出手段を備える。濃度変化算出手段は、被検体の複数のフレームの画像データに基づいて、組織に対応する画素において画素値の濃度に応じた量の前記複数のフレーム間における第1の変化を算出する一方、流体に対応する画素値の濃度に応じた量の前記複数のフレーム間における第2の変化を算出する。流体情報算出手段は、前記第1の変化に基づいて前記第1の変化の第1の点に対応する要素を最初の要素とする解析対象となる数の第1の複数の要素を作成する一方、前記第2の変化に基づいて前記第2の変化の前記第1の点よりも後の第2の点に対応する要素を最初の要素とする前記解析対象となる数の第2の複数の要素を作成し、前記第1の複数の要素及び前記第2の複数の要素に基づいて逆畳み込み積分処理を伴って流体の動態に関する情報を算出する。
また、本発明の実施形態に係る流体解析プログラムは、コンピュータを、上述の濃度変化算出手段及び流体情報算出手段として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る血流動態解析装置の構成例を示す図。
【図2】局所血流解析アプリケーションを実行するCPUの機能の一例を示すブロック図。
【図3】ピークフェーズを説明する図。
【図4】組織の血流動態に関する情報の算出処理を説明するフローチャート。
【図5】第1の実施形態に係るシステム行列を模式的に示す図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る流体解析装置の構成例を示す機能ブロック図。
【図7】図6に示すMRI装置のイメージング部において実行される非造影流体イメージング用の撮像条件の第1の例を示す図。
【図8】図6に示すMRI装置のイメージング部において実行される非造影流体イメージング用の撮像条件の第2の例を示す図。
【図9】図6に示すMRI装置のイメージング部において実行される非造影流体イメージング用の撮像条件の第3の例を示す図。
【図10】図6に示すシステム行列作成部3dにおける解析対象となる要素の作成方法を説明する図。
【図11】図6に示す流体解析装置におけるデータ処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る血流動態解析装置1の構成例を示す図である。
【0031】
血流動態解析装置1は、CPU(Central Processing Unit)1a、ROM(Read Only Memory)1b、RAM(Random Access Memory)1c、および入出力インターフェイス1dが、バス1eを介して接続されている。入出力インターフェイス1dには、記憶部1f、通信部1g、表示部1h、入力部1i、およびリムーバブルメディア1jが接続されている。
【0032】
CPU1aは、入力部1iからの入力信号に基づいて血流動態解析装置1を起動するためのブートプログラムをROM1bから読み出して実行し、記憶部1fに格納されている各種オペレーティングシステムを読み出す。またCPU1aは、入力部1iからの入力信号に基づいて各種の制御を行ったり、ROM1bや記憶部1fに記憶されたプログラムおよびデータを読み出してRAM1cにロードしたり、あるいはRAM1cから読み出されたプログラムのコマンドに基づいて、データ演算または加工などの一連の処理を実行する。
【0033】
記憶部1fは、半導体メモリや磁気ディスクなどで構成されており、CPU1aで実行されるプログラムやデータを記憶する。記憶部1fには、CPU1aが実行するプログラムとして、例えば、局所血流動態に関する情報を解析するためのアプリケーションが用意される。以下、局所血流動態に関する情報を解析するこのアプリケーションを局所血流解析アプリケーションという。
【0034】
通信部1gは、LAN(Local Area Network)カードやモデムなどで構成されており、血流動態解析装置1をLANやインターネットといった通信媒体に接続することを可能にする。すなわち通信部1gは、通信媒体から受信したデータを、入出力インターフェイス1dおよびバス1eを介してCPU1aに送信し、CPU1aからバス1eおよび入出力インターフェイス1dを介して受信したデータを、通信媒体に送信する。
【0035】
表示部1hは、例えば液晶ディスプレイである。CPU1aからバス1eおよび入出力インターフェイス1dを介して受信した信号に基づいて、CPU1aの処理結果などを表示する。
【0036】
入力部1iは、血流動態解析装置1の操作者が各種の操作を入力するキーボードやマウスなどの入力デバイスにより構成されている。操作者の操作に基づいて入力信号を生成し、入出力インターフェイス1dおよびバス1eを介してCPU1aに送信する。
【0037】
リムーバブルメディア1jは、例えば光ディスクやフレキシブルディスクなどである。図示せぬディスクドライブによって読み出されたデータが、入出力インターフェイス1dおよびバス1eを介してCPU1aに送信され、CPU1aからバス1eおよび入出力インターフェイス1dを介して受信したデータが、ディスクドライブによって書き込まれる。
【0038】
第1の実施形態における血流動態解析装置1は、X線CT装置やMRI装置などの医用画像撮影装置(いわゆる医用モダリティ)により、ダイナミックス撮影により収集された画像データから血流動態を解析する装置である。このため、血流動態解析装置1は、かかる画像データを入手できる環境にあればよく、医用画像撮影装置と一体に構成されていてもよいし、医用画像撮影装置とは別体で構成されていてもよい。別体で構成される場合には、収集された画像データはリムーバブルメディア1jで、または通信部1gを介して図示せぬ医用画像撮影装置から血流動態解析装置1に送られる。
【0039】
また、血流動態解析装置1は、血流動態解析結果を、通信部1gを介して、PACS(Picture Archiving and Communication System)に転送し、そこに保存させることができる。これによって、特定の画像データの血流動態解析結果の検索や閲覧などを容易に行うことが可能となる。
【0040】
医用画像撮影装置には、X線CT装置やMRI装置のほか、超音波診断装置やPET(Positron Emission Tomography)装置などが含まれる。
図2は、局所血流解析アプリケーションを実行するCPU1aの機能の一例を示すブロック図である。
【0041】
図2に示すように、局所血流解析アプリケーションを実行するCPU1aは、時系列データ取得部2a、造影濃度曲線算出部2b、動脈の時間濃度曲線算出部2c、システム行列作成部2d、およびデコンボリューション部2eとして機能する。
【0042】
時系列データ取得部2aは、造影剤を静脈注入(ボーラス注入)した被検者について、医用画像撮影装置が所定時間撮影して生成した時系列の撮影データ(多時相の画像データ)を取得し、取得した時系列の撮影データを造影濃度曲線算出部2bに出力する。
造影濃度曲線算出部2bは、時系列データ取得部2aから出力される時系列の撮影データを入力し、各画素の画素値の変化を計測して造影濃度曲線を算出する。
【0043】
つまり、被検者に造影剤を比較的短時間で静脈注入すると、造影剤は静脈を通り心臓に戻り、肺を循環して再び心臓に戻り、動脈へ流入し、各臓器の組織に到達し、再び静脈を通り心臓へ戻る。ここで、例えば、医用画像撮影装置が脳の領域のCT画像やMRI画像を時系列で撮影していた場合、造影剤濃度の変化に応じた各画素の画素値の変化を計測することができる。造影濃度曲線算出部2bは、この計測した各画素の画素値の変化に基づいて、造影濃度曲線を算出することができる。
【0044】
例えば、CT画像の場合、次式(9)に示すように、各時相の画素値Sから造影剤到着前の画素値Sを引き算することにより、造影剤濃度に比例する量(TDC:Time Density Curve)が算出される。式(9)において、iは、撮影時相を表している。
[数9]
=S−S ・・・(9)
【0045】
また例えば、MRI画像の場合、次式(10)に示すように、各時相の画素値Sと造影剤到着前の画素値Sの比の対数(ΔR2)から、造影剤濃度に比例する量(TCC:Time Concentration Curve)が算出される。式(10)において、iは、撮影時相を表し、TEは、エコー時間を表している。
[数10]
ΔR2=−log(S/S)/TE ・・・(10)
【0046】
造影濃度曲線算出部2bは、上記の式(9)または式(10)で算出した造影濃度曲線を、組織の時間濃度曲線Cとし、算出値を動脈の時間濃度曲線算出部2c、および、システム行列作成部2dに出力する。
【0047】
この造影濃度曲線算出部2bは、複数の時相における被検体の造影画像データに基づいて、複数の時相間における各画素の画素値の変化を計測して組織における造影剤の濃度に対応する量の時間変化を表す時間濃度曲線を算出する組織の時間濃度曲線算出手段として機能する。
【0048】
動脈の時間濃度曲線算出部2cは、造影濃度曲線算出部2bから出力される組織の時間濃度曲線Cを入力し、その曲線から、CT画像やMRI画像の解析単位となるボクセルでの動脈の時間濃度曲線を算出する。つまり、CT画像やMRI画像の解析単位となるボクセルの大きさは、0.5mm乃至3mm程度の大きさであり、組織の中の主要な動脈であれば、血管にほぼ包含されるボクセルが存在する。
【0049】
動脈の時間濃度曲線算出部2cは、このようなボクセルを自動的あるいはユーザからの指定によって特定することで、動脈領域を設定し、その動脈領域での時間濃度曲線(ここでは、i番目の撮影時刻での濃度値ai)を算出する動脈の時間濃度曲線算出手段として機能する。なお、複数の画素が動脈領域として特定された場合には、例えば、その平均値をaiとする。
【0050】
或いは、動脈の時間濃度曲線算出部2cは、必要に応じて、次式(11)によるガンマ確率密度関数の定数倍の関数(ガンマ確率密度関数に比例する関数)を動脈の時間濃度曲線のカーブモデル(以下、「動脈カーブモデル」と称する)として適用し、算出した動脈の時間濃度曲線aのカーブフィッティング(動脈カーブモデルへの当てはめ)を行う。通常、MRI画像ではカーブフィッティングを行う場合が多いが、CT画像ではカーブフィッティングを行わない場合が多い。
[数11]
φ(t; t0, α, β, K)=K(t-t0)αexp{-β-1(t-t0)} ・・・(11)
【0051】
ここで言うガンマ確率密度関数とは、時間βに1回の割合で通過できる何重かの障壁αの全部を通過する所要時間の確率密度を表わしている。動脈関数は、肺の障壁を通過して分散された関数と考えることができるため、このガンマ確率密度関数を、動脈カーブモデルとして適用し、動脈カーブモデルへの当てはめ(近似)を行うようにする。
【0052】
動脈の時間濃度曲線a(t)は、上記の式(11)で表されるガンマ確率密度関数の定数倍の関数でのカーブフィッティングによって、次式(12)により表わされる。式(12)において、tは、時刻を表し、t0,α,β,Kは、いずれもパラメータを表している。αは、障壁の数であり、βは、障壁αの全部を通過する所要時間であり、Kは、線形パラメータである。
[数12]
a(t)=φ(t; t0, α, β, K) ・・・(12)
【0053】
動脈の時間濃度曲線算出部2cは、上記の式(12)における4つのパラメータt0,α,β,Kの全てを変数とし、次式(13)に示す、動脈カーブモデルと動脈の濃度値aとの2乗誤差を最小にするt0,α,β,Kを算出する。実際には、t0には、造影剤が対象臓器に到達する前の特定の時刻を用い、α,β,Kを算出する方法を用いる場合が多い。
【数13】

動脈の時間濃度曲線算出部2cは、カーブフィッティングした動脈の時間濃度曲線aの算出値を、システム行列作成部2dに出力する。
【0054】
システム行列作成部2dは、造影濃度曲線算出部2bから出力される組織の時間濃度曲線Cの値を入力するとともに、動脈の時間濃度曲線算出部2cから出力される動脈の時間濃度曲線aの値を入力する。
【0055】
システム行列作成部2dは、入力した組織の時間濃度曲線Cおよび動脈の時間濃度曲線aから、解析対象となる先頭フェーズibsおよびフェーズ範囲ibs≦i≦L−1を決定する。解析対象となる先頭フェーズibsは、動脈および組織の造影濃度が上昇し始めるフェーズ、もしくは、それよりも前のフェーズを用いる。フェーズとは、解析上のサンプリング間隔により決まる時刻のことであり、フェーズ範囲とはいわゆる解析範囲のことである。
【0056】
システム行列作成部2dは、決定したフェーズ範囲における動脈の時間濃度曲線aを時間軸方向に離散化したもの、つまり、ibs≦i≦L−1のフェーズ範囲をL個の等区間に分割したL個のデータを、次式(14)に示すようにして算出する。
[数14]
=a(iT) ・・・(14)
【0057】
上記の式(14)において、Tは、画像撮影の時間間隔(繰り返し時間)を表わしているが、これに限らず、ダイナミック時相、または、ダイナミック時相から得られた実際の解析時相でもよい。また、測定値aをそのままAとして使用するようにしてもよい。
【0058】
システム行列作成部2dは、組織の時間濃度曲線Cを時間軸方向に離散化することにより得た、異なる時刻での組織の濃度値からなる集合の、時間軸方向の前方に、H個の要素を追加する。
【0059】
これにより、先頭フェーズibsより前方にH個の要素が追加され、収集開始時刻または所定時刻(収集開始時刻からNフェーズ目)を基準にして、異なる時刻での組織の濃度値を含む複数の要素からなる第1の集合が1次元(時間軸方向)に配列され、(H+L)×1の列ベクトルが構成される。
【0060】
このシステム行列作成部2dは、組織に対応する時間濃度曲線を、第1の時刻(収集開始時刻または収集開始時刻からNフェーズ目)を基準にして離散化し、異なる時刻での組織における造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を1次元に配列した第1の集合を構成する第1の構成手段として機能する。
【0061】
また、システム行列作成部2dは、動脈の時間濃度曲線Aを時間軸方向に離散化することにより得た、異なる時刻での動脈の濃度値からなる集合の、時間軸方向の後方に、H個の要素を追加する。これにより、異なる時刻での動脈の濃度値を含む複数の要素からなる第2の集合が1次元(時間軸方向)に配列され、(L+H)×1の列ベクトルが構成される。そしてシステム行列作成部2dは、1次元に配列された動脈の濃度値の列ベクトルをさらに2次元(空間方向)に配列した(L+H)×(L+H)の係数行列を構成する。
【0062】
これにより、解析対象の先頭フェーズibsを基準にして、異なる時刻での動脈の濃度値を含む複数の要素からなる第2の集合が2次元(時間軸方向と空間方向)に配列され、(L+H)×(L+H)の係数行列が構成される。
【0063】
このシステム行列作成部2dは、動脈に対応する時間濃度曲線を、第1の時刻(収集開始時刻または収集開始時刻からNフェーズ目)より後方の第2の時刻(動脈の時間濃度曲線が上昇し始める時刻)を基準にして離散化し、異なる時刻での動脈における造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を2次元に配列した第2の集合を構成する第2の構成手段としても機能する。
【0064】
システム行列作成部2dは、動脈の時間濃度曲線とインパルス応答関数のデコンボリューションが組織の時間濃度曲線であることから、以上のように構成した、異なる時刻での組織の濃度値を含む複数の要素からなる列ベクトルC、異なる時刻での動脈の濃度値を含む複数の要素からなる係数行列A、および未知数X(インパルス応答関数)を用いて、次式(15)に示すようなC=AXのシステム行列を作成する。式(15)において、Cは、(H+L)×1ベクトルであり、Aは、(L+H)×(L+H)行列であり、Xは、(L+H)×1ベクトルである。ibsは、解析対象となる先頭フェーズを表わしている。
【数15】

【0065】
上記の式(15)において、Hは、L×L係数行列に追加する要素の個数を表わしている。例えば、撮影(収集)開始時刻から先頭フェーズまでの範囲をフェーズ間隔で分割した個数、または、それより多くても少なくても構わない。追加要素の個数Hの数を少なくすれば、解析対象となる行列のサイズが小さく処理時間が短縮されるが、少なすぎると時間方向のずれに対する依存性が増大することとなる。従って、撮影開始時刻から先頭フェーズまでの範囲をフェーズ間隔で分割した個数の値を用いれば、時間方向のずれに対する依存性を小さくするのに十分な値となる。
【0066】
組織の時間濃度曲線を時間軸方向に離散化した複数の要素のうち、追加分の要素値P(i=0,1,・・・H−1)には、0の要素を入力(追加)するが、部分的あるいは全部をCとして、測定された組織の時間濃度曲線の値を用いるようにしても良い。この場合、実際にはL個以上のフェーズの画像データが撮影されている必要がある。
【0067】
動脈の時間濃度曲線を時間軸方向に離散化した要素値ai,jは、次式(16)により表わされる。式(16)において、i=0,1,・・・L−1であり、j=0,1,...L−1である。
【数16】

【0068】
上記の式(16)において、追加分の要素値qi,jには、0の要素を入力(追加)するが、部分的あるいは全部を次式(17)に示すようにして、測定された動脈の時間濃度曲線の値を用いるようにしても良い。この場合、実際にはL個以上のフェーズの画像データが撮影されている必要がある。
【数17】

システム行列作成部2dは、作成した上記の式(15)をデコンボリューション部2eに出力する。
【0069】
デコンボリューション部2eは、システム行列作成部2dから出力された係数行列を入力し、SVD法やフーリエ変換法などの方法を用いてデコンボリューションを行う逆畳み込み積分手段として機能する。デコンボリューション部2eは、デコンボリューションにより得られた未知数Xから、上記の式(7)に示すようにしてインパルス応答関数Rを算出する。
【0070】
デコンボリューション部2eは、上記の式(7)で算出されたインパルス応答関数Rから、ピークフェーズ(インパルス応答関数の最大値)の存在範囲を検索し、検索したピークフェーズからピーク範囲(幅)を算出する。
図3は、ピークフェーズを説明する図である。
【0071】
図3に示すように、第1の実施形態において算出されるインパルス応答関数Rのピークは、従来のstandard SVD法に比べ、ほぼH個分後方のフェーズとなる。従って、デコンボリューション部2eは、ピークフェーズが後方にずれていることを考慮しなければならないため、局所血流動態に関する情報の算出の前に、予めピーク範囲を決定する必要がある。
【0072】
ピーク範囲の算出方法として、例えば、先頭フェーズから時間軸方向にピークフェーズを検索し、検索したピークフェーズの前後で負の値の極小値をとるフェーズまでをピーク範囲とする。なお、負の値の極小値ではなく、0の値をとるフェーズまでをピーク範囲とするようにしてもよい。
【0073】
デコンボリューション部2eは、検索したピークフェーズおよびピーク範囲に基づいて、局所血流動態に関する情報である、平均通過時間MTT(Mean Transit Time)、局所脳血流量CBF(Cerebral Blood Flow)、および局所脳血液量CBV(Cerebral Blood Volume)を、次式(18)に示すようにして算出する。つまり、インパルス応答曲線のピークの高さから局所脳血流量CBFが求まり、インパルス応答曲線のピーク範囲の面積から局所脳血液量CBVが求まり、インパル応答曲線のピーク範囲から平均通過時間MTTが求まる。
[数18]
CBF=MAX(Ri
CBV=SUM(Ri)
MTT=SUM(Ri)/MAX(Ri)・・・(18)
【0074】
このデコンボリューション部2eは、組織の伝達関数(インパルス応答関数)に基づいて、血流動態に関する情報を算出する血流情報算出手段としても機能する。
【0075】
またデコンボリューション部2eは、算出した平均通過時間MTT、局所脳血流量CBF、および局所脳血液量CBVを次式(19)に示すようにして補正する。
[数19]
CBV=(100h/ρ)TRSUM(Ri)
CBF(r)=60(100h/ρ)MAX(Ri)
MTT2(r)=TR{SUM(Ri)/MAX(Ri)} ・・・(19)
【0076】
上記の式(19)において、ρは、脳の比重を表わし、hは、ヘマトクリット値(一定量の血液中に含まれる赤血球の割合)を表わしている。なお、局所脳血流量CBFは、次式(20)の関係を用いて算出(補正)するようにしてもよい。
[数20]
CBF=CBV/MTT2 ・・・(20)
【0077】
次に、図4のフローチャートを参照して、第1の実施形態における組織の血流動態に関する情報の算出処理について説明する。この処理では、特に、脳組織を例に挙げ、その血流動態に関する情報を算出する処理について説明する。
ステップS1において、時系列データ取得部2aは、医用画像撮影装置が所定時間撮影して生成した時系列の撮影データを取得する。
【0078】
ステップS2において、造影濃度曲線算出部2bは、ステップS1の処理で取得された時系列の撮影データから、各画素の画素値の変化を計測して造影濃度曲線を算出する。この造影濃度曲線を、組織の時間濃度曲線Cとする。
【0079】
ステップS3において、動脈の時間濃度曲線算出部2cは、ステップS2の処理で算出された組織の時間濃度曲線Cから、CT画像やMRI画像の解析単位となる動脈領域を設定し、その動脈領域での時間濃度曲線aiを算出する。このとき、動脈の時間濃度曲線算出部2cは、取得した撮影データがMRI画像の場合、ガンマ確率密度関数の定数倍の関数を動脈カーブモデルとして適用し、算出した動脈の時間濃度曲線aのカーブフィッティングを行う。
ステップS4において、システム行列作成部2dは、解析対象となる先頭フェーズibsおよびフェーズ範囲ibs≦i≦L−1を決定する。
【0080】
ステップS5において、システム行列作成部2dは、ステップS2の処理で算出された組織の時間濃度曲線Cのうち、ステップS4の処理で決定したフェーズ範囲ibs≦i≦L−1における組織の時間濃度曲線を時間軸方向に離散化し、離散化することにより得た異なる時刻での組織の濃度値からなる集合を1次元に配列して列ベクトルを構成する。
【0081】
また、ステップS5において、システム行列作成部2dは、ステップS3の処理で算出された動脈の時間濃度曲線aiのうち、ステップS4の処理で決定したフェーズ範囲ibs≦i≦L−1における動脈の時間濃度曲線を時間軸方向に離散化し、離散化することにより得た異なる時刻での動脈の濃度値からなる集合を2次元に配列して係数行列を構成する。
【0082】
ステップS6において、システム行列作成部2dは、ステップS5の処理で構成された異なる時刻での組織の濃度値からなる列ベクトル(集合)の、時間軸方向の前方にH個の要素を追加する。これにより、解析対象の先頭フェーズibsが時間軸方向にH個分ずらされ、収集開始時刻または所定時刻を基準にして、異なる時刻での組織の濃度値を含む複数の要素からなる第1の集合が1次元に配列され、(H+L)×1の列ベクトルCが構成される。
【0083】
また、ステップS6において、システム行列作成部2dは、ステップS5の処理で構成された異なる時刻での動脈の濃度値からなる係数行列(集合)の、時間軸方向の後方にH個の要素を追加する。これにより、動脈の造影濃度が上昇し始めるフェーズもしくは、それよりも前のフェーズを基準にして、異なる時刻での動脈の濃度値を含む複数の要素からなる第2の集合が2次元に配列され、(L+H)×(L+H)の係数行列Aが構成される。
【0084】
ステップS7において、システム行列作成部2dは、ステップS6の処理で得られた、異なる時刻での組織の濃度値を含む複数の要素からなる列ベクトルC、異なる時刻での動脈の濃度値を含む複数の要素からなる係数行列A、および、未知数X(インパルス応答関数)を用いて、上記の式(15)に示すシステム行列を作成する。
図5は、第1の実施形態に係る式(15)のシステム行列を模式的に示す図である。
【0085】
図5において、Cは、組織の時間濃度曲線Cを時間軸方向に離散化した(H+L)×1の列ベクトルを模式的に表わしたものであり、Aは、動脈の時間濃度曲線aを時間軸方向に離散化した(L+H)×(L+H)の係数行列を模式的に表わしたものであり、Xは未知数(インパルス応答関数)を模式的に表わしたものである。
【0086】
同図に示すように、組織の時間濃度曲線を構成する列ベクトルCにおいて、前方にH個の要素pが追加され、動脈の時間濃度曲線を構成する係数行列Aにおいて、後方にH個の要素qi,jが追加されている。追加要素の個数Hには、撮影開始時刻から先頭フェーズibsまでの範囲をフェーズ間隔で分割した個数の値を用いることが好ましい。追加分の要素値P(i=0,1,・・・H−1)と要素値qi,jには、0の要素が入力(追加)されるが、部分的あるいは全部に、実際の測定値を用いるようにしても良い。
【0087】
このようなシステム行列を構成することで、従来のblock circulant SVD法のように係数行列を2倍にする必要がなくなり、デコンボリューションの高速処理化が可能になる。
【0088】
図4の説明に戻る。ステップS8において、デコンボリューション部2eは、ステップS7の処理で作成されたシステム行列を、SVD法あるいはフーリエ変換法などの方法を用いてデコンボリューションを行い、ベクトルXを求め、上記の式(7)に示すようにしてインパルス応答関数Rを算出する。
【0089】
ステップS9において、デコンボリューション部2eは、ステップS8の処理で算出されたインパルス応答関数Rから、ピークフェーズを検索し、検索したピークフェーズからピーク範囲を算出する。
【0090】
ステップS10において、デコンボリューション部2eは、ステップS9の処理で算出されたピークフェーズおよびピーク範囲に基づいて、局所血流動態に関する情報である、平均通過時間MTT、局所脳血流量CBF、および局所脳血液量CBVを上記の式(18)に従って算出する。
【0091】
ステップS11において、デコンボリューション部2eは、ステップS10の処理で算出された平均通過時間MTT、局所脳血流量CBF、および局所脳血液量CBVを、上記の式(19)に示すようにして補正する。
【0092】
以上のように、血流動態解析装置1は、解析対象となる組織の時間濃度曲線を構成する列ベクトルの前方に所定個数の要素を追加し、動脈の時間濃度曲線を構成する係数行列の後方に所定個数の要素を追加し、組織の時間濃度曲線の先頭フェーズと、動脈の時間濃度曲線の先頭フェーズの基準位置をずらすことによって、処理時間を増大させることなく、かつ、時間方向のずれに対する依存性を小さくして、血管の血流動態に関する情報である、組織血流量、組織血液量、および平均通過時間を安定に算出することが可能となる。
【0093】
これにより、病院側は、多数の患者の検査を実施することができるようになり、患者の検査待ち時間を短縮することができる。また、安定に解析結果を得ることができるため、再検査(再解析)といった事態を減らすことができ、患者への負担を軽減することができる。
【0094】
また、血流動態解析装置1は、算出した平均通過時間MTT、局所脳血液量CBV、および局所脳血流量CBFに基づいて、対応する画像を表示部1hに表示させることができ、操作者は、血流動態の状態を容易に把握することが可能となる。
【0095】
以上においては、対象組織として、脳組織を例に挙げ説明したが、第1の実施形態では、脳組織に限られるものではなく、肝臓、心臓、あるいは肺などの他の組織を対象とすることも勿論可能である。
【0096】
また以上において、脳組織についてヘマトクリット値の補正および脳の比重による補正を行うようにした。そこで、例えば、肝臓や肺などの呼吸による動きがある組織、あるいは、心臓を対象組織とした場合については、組織の動き補正を行う必要がある。また動き補正だけでなく、ヘマトクリット値の補正、その他の補正を適宜行う必要がある。
【0097】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態に係る流体解析装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【0098】
流体解析装置3は、例えば、MRI装置4に内蔵される。但し、ネットワークを介して流体解析装置3をMRI装置4或いはMRI装置4において収集された画像データを保管する画像処理装置や画像サーバに接続してもよい。
【0099】
MRI装置4は、イメージング部4aを備える。イメージング部4aは、被検体の流体の非造影イメージング又は造影イメージングを実行することによって、複数フレーム分の非造影流体MR画像データ又は造影流体MR画像データを収集する機能を有する。流体としては、血管内の血流や脳脊髄液(CSF: cerebrospinal fluid)が挙げられる。MRI装置を用いた血管の撮影は、磁気共鳴血管撮影法(MRA: magnetic resonance angiography)と呼ばれる。
【0100】
具体的には、イメージング部4aは、静磁場磁石、傾斜磁場コイル、傾斜磁場電源、送信用高周波(RF: radio frequency)コイル、受信用RFコイル、送信器、受信器、シーケンサ及びコンピュータ等の構成要素を有する。そして、イメージング部4aでは、コンピュータにおいて設定されたパルスシーケンス等の撮像条件に従って、静磁場磁石内の静磁場下にセットされた被検体に傾斜磁場コイルからは傾斜磁場が、送信用コイルからはRFパルスが、それぞれ印加される。そして、被検体から発生した核磁気共鳴(NMR: nuclear magnetic resonance)信号が受信用コイルで受信され、受信器においてデジタル化されたNMR信号に対する画像再構成処理がコンピュータにおいて実行されることによってMR画像データが生成される。また、傾斜磁場コイル及び送信用RFコイルには、それぞれコンピュータからシーケンサを通じて出力されるパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源及び送信器から傾斜磁場パルス及びRFパルスが印加される。これにより、傾斜磁場コイル及び送信用RFコイルからは、所望の波形の傾斜磁場パルス及びRFパルスが被検体に印加される。
図7は、図6に示すMRI装置4のイメージング部4aにおいて実行される非造影流体イメージング用の撮像条件の第1の例を示す図である。
【0101】
図7において横軸は時間を示す。図7は、非造影で周期性のないCSFを描出するためのパルスシーケンスの一例を示している。図7に示すように、ラベリングパルス(タグ付けパルスとも言う)をCSFまたは着目領域に印加し、続いて連続的に複数回に亘ってイメージングデータの収集(DATA ACQUISITION 1, DATA ACQUISITION 2, DATA ACQUISITION 3,...)を繰り返すダイナミックスキャンによって、異なる時刻t1, t2, t3, ...に対応する複数フレーム分の時系列の非造影流体画像データを収集することができる。
【0102】
ラベリングパルスとしては、t-SLIP (Time-SLIP: Time Spatial Labeling Inversion Pulse)、飽和(SAT: saturation)パルス(Rest grid pulseとも呼ばれる)、SPAMM (spatial modulation of magnetization)パルス及びダンテ(DANTE)パルスが知られている。同一種類のラベリングパルスを複数回印加したり、異種の複数のラベリングパルスを組み合わせて印加してもよい。
【0103】
例えば、複数の領域選択的90°SATパルスを組み合わせると、選択スラブ領域に放射状やストライプ状のパターンで飽和された領域を形成することができる。また、SPAMMパルスやダンテパルスの印加によってもストライプパターン、グリッドパターン(格子状のパターン)、放射状のパターン等の所望のパターンで飽和された領域を形成することができる。このため、パターンがCSFの流れに伴って移動する複数フレーム分のダイナミックCSF画像データを収集することができる。
【0104】
また、t-SLIPを用いたイメージングには、flow-in法とflow-out法がある。flow-in法は、t-SLIPを構成する領域選択反転回復(IR: inversion recovery)パルスを着目領域に印加し、着目領域の外部から着目領域に流入するラベリングされていないCSFを描出する方法である。一方、flow-out法は、t-SLIPを構成する領域非選択IRパルスを印加するとともにラベリング領域に領域選択IRパルスを印加し、ラベリング領域から着目領域に流入するラベリングされたCSFを描出する方法である。
【0105】
ラベリングパルスは、ECG (electro cardiogram)信号、呼吸センサによる同期信号又は脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号等の生体信号に同期させて印加してもよい。
【0106】
一方、イメージングデータの収集用のシーケンスとしては、SSFP (steady state free precession)シーケンスやFASE (FastASE: fast asymmetric spin echoまたはfast advanced spin echo)シーケンス等の任意のシーケンスが使用できる。
図8は、図6に示すMRI装置4のイメージング部4aにおいて実行される非造影流体イメージング用の撮像条件の第2の例を示す図である。
【0107】
図8において横軸は時間を示し、縦方向も時間を表している。図8は、IRパルスを用いて非造影で被検体の血流やCSF等の流体をイメージングするためのパルスシーケンスの一例を示している。すなわち、IRパルスの印加時刻からイメージングデータの収集タイミングまでの反転時間(TI: inversion time)をTI1, TI2, TI3, ...と徐々に変えながら、IRパルスの印加及びイメージングデータの収集(DATA ACQUISITION 1, DATA ACQUISITION 2, DATA ACQUISITION 3,...)が繰り返し実行される。
【0108】
IRパルスは単一のパルスに限らず、同時とみなせる十分に短い間隔で異種又は同種の複数のIRパルスを印加してもよい。領域選択的IRパルスは、上述のflow-in法の場合には撮像領域に印加され、flow-out法の場合には撮像領域の上流領域に印加される。そして、領域選択的IRパルス、周波数選択的IRパルス、非領域選択的IRパルス及び非周波数選択的IRパルスの組み合わせによって所望の対象物の磁化を倒すことによって撮像領域又は流体がラベリングされる。そして、TIに応じた距離だけ流体が移動したタイミングで撮像領域から収集したイメージングデータの画像再構成処理によって、撮像領域に流入する流体が選択的に描出された流体画像データを生成することができる。
【0109】
これにより、異なる複数のTIに対応する複数フレーム分の非造影流体画像データを収集することができる。すなわち、複数のTIに対応する複数フレーム分の画像データをTIの短い順に並べると、ダイナミック画像データのようにTIの増加に伴って流体が徐々に流れていく様子が描出される連続的な画像データを生成することができる。
【0110】
尚、IRパルスの印加及びイメージングデータの収集は、データ収集タイミングにおける流体の速度をより一定に近づけるために、ECG信号等の生体信号に同期させてもよい。生体信号を用いた同期イメージングは、血流のように周期性のある流体のイメージングに好適である。
【0111】
また、イメージングデータを収集するためのパルスシーケンスとしては、SE (spin echo)シーケンス、FSE (fast spin echo)シーケンス、FASEシーケンス、EPI (echo planar imaging) シーケンス等のパルスシーケンスが用いられる。
図9は、図6に示すMRI装置4のイメージング部4aにおいて実行される非造影流体イメージング用の撮像条件の第3の例を示す図である。
【0112】
領域選択的IRパルスの印加及び図9に示すような血流を含む実線で示すイメージング領域からのイメージングデータの収集を繰り返し、かつTIを一定にしつつ領域選択的IRパルスの印加領域を点線で示すようにTAGGED REGION 1,TAGGED REGION 2, TAGGED REGION 3, ...に徐々に変えるイメージングによってもダイナミック画像データのように流体が徐々に流れていく様子が描出される連続的な画像データを生成することができる。すなわち、領域選択的IRパルスの印加領域に存在していた血流はラベリングされ、領域選択的IRパルスの印加領域から下流に向かってTIに応じた距離だけ流出したタイミングでイメージングデータが収集される。従って、ラベリングされた血流が選択的に描出された画像データを生成することができる。
【0113】
このため、領域選択的IRパルスの印加領域を変えて繰り返しイメージングデータを収集することによって、異なる複数のラベリング領域に対応し、ラベリングされた血流がイメージング領域の異なる位置に存在する複数フレーム分の非造影流体画像データを収集することができる。
【0114】
さらに、血管のより上流において血流が描出された画像データを各ラベリング領域に対応する画像データと最大値投影(MIP: maximum intensity projection)処理等の合成処理によって合成することにより、血流が徐々に流れていく様子が描出される連続的な画像データを生成することができる。
尚、図8及び図9においてIRパルスの代わりにSATパルスを用いてもよい。
【0115】
ここまでは、非造影イメージングの撮像条件について例を示したが、第1の実施形態と同様に公知の造影イメージング法によって造影画像データを収集することもできる。この場合、複数の時相に対応する時系列の複数フレーム分の造影画像データが収集される。
【0116】
一方、流体解析装置3は、イメージング部4aにおいて収集された非造影流体MR画像データ又は造影流体MR画像データに基づいて、流体の動態を表す情報を取得する機能を有する。流体解析装置3は、例えば、コンピュータの演算装置に流体解析プログラムを読み込ませることにより、コンピュータをイメージデータ取得部3a、組織画素変化曲線算出部3b、流体画素変化曲線算出部3c、システム行列作成部3d及びデコンボリューション部3eとして機能させたものである。但し、回路を用いて流体解析装置3の一部又は全部を構成してもよい。
【0117】
イメージデータ取得部3aは、イメージング部4aにおいて収集された複数フレーム分の連続的な流体画像データを取得して組織画素変化曲線算出部3bに与える機能を有する。
【0118】
組織画素変化曲線算出部3bは、複数フレーム分の連続的な流体画像データにおいて、組織に対応する複数の画素におけるフレーム間における画素値の変化から、組織内を通過するラベリングされた血流等の流体の濃度に応じた量の変化を求め、それぞれ組織の画素濃度変化曲線として算出する機能と、算出した複数の組織の画素濃度変化曲線を流体画素変化曲線算出部3c及びシステム行列作成部3dに出力する機能を有する。
【0119】
尚、非造影イメージング法では、実際には造影剤が注入されない。このため、非造影イメージング法の場合には、血流等の流体の成分の量に関する濃度ではなく、ラベリングされた流体成分の流体全量に対する比に対応する論理的な濃度が求められる。
【0120】
例えば、時刻(t1, t2, t3, ...)、TI (TI1, TI2, TI3, ...)或いはラベリング領域(TAGGED REGION 1,TAGGED REGION 2, TAGGED REGION 3, ...)等のフレーム間で変えられるパラメータのi番目の値に対応する画素値をSiとし、初期値(t1, TI1, TAGGED REGION 1)等の基準となるパラメータの値に対応する画素値をS0とする。そうすると、第1の実施形態で示した式(10)によって、組織における画素濃度に比例する量の変化を画素濃度変化曲線として算出することができる。或いは、フレーム間で変えられるパラメータに対応する組織の画素値S自体の変化を表す時間強度曲線(TIC: time intensity curve)を画素濃度変化曲線としてもよい。
画素濃度に比例する量及び画素値は、流体の流れに対応する量となる。従って、組織における画素濃度変化曲線は、組織における流体の動態情報を含んでいる。
【0121】
流体画素変化曲線算出部3cは、組織の複数の画素における画素濃度変化曲線に基づいて、動脈等の流体領域内を循環する流体の画素濃度変化曲線を算出する機能と、算出した流体の画素濃度変化曲線をシステム行列作成部3dに出力する機能を有する。流体の画素濃度変化曲線は、流体領域内を循環する流体に対応する画素値の濃度に応じた量のフレーム間の変化を表す曲線である。
【0122】
流体の画素濃度変化曲線は、第1の実施形態と同様な方法で算出することができる。このため、第1の実施形態と同様に組織の画素濃度曲線は、複数の画素についてそれぞれ求められるのに対して、流体の画素濃度曲線は流体の画素値の濃度に応じた量を代表する値を用いて1つの曲線として求められる。従って、流体部位として複数の画素を含む関心領域(ROI: region of interest)が設定された場合には、第1の実施形態と同様に画素値の濃度に応じた量を代表する値が算出される。代表値としては、画素間の平均値を用いる方法や式(11)に示すようなフィッティングパラメータを有するガンマ確率密度関数の定数倍の関数を用いたカーブフィッティングにより算出された値を用いる方法がある。流体領域に対応する画素についても、第1の実施形態と同様に自動的あるいはユーザからの指定によって特定することができる。
【0123】
システム行列作成部3dは、組織の各画素に対応する画素濃度変化曲線に基づいて、時刻(t1, t2, t3, ...)、TI (TI1, TI2, TI3, ...)或いはラベリング領域(TAGGED REGION 1,TAGGED REGION 2, TAGGED REGION 3, ...)等のパラメータの値ごとの組織の画素値の濃度に応じた量を要素とする1次元の列ベクトルCを作成する機能と、流体の画素濃度変化曲線に基づいて、パラメータの値ごとの流体の画素値の濃度に応じた量を要素とする1次元の列ベクトルを作成する機能とを有する。加えて、システム行列作成部3dは、組織に対応する列ベクトルC、流体に対応する列ベクトルを2次元に配列した係数行列A及び未知数Xを用いて、C=AXのシステム行列を作成する機能と、作成したシステム行列をデコンボリューション部3eに出力する機能とを有する。
【0124】
組織に対応する列ベクトルC、流体に対応する列ベクトル、係数行列A及びシステム行列C=AXは、それぞれ第1の実施形態における方法と同様な方法で作成することができる。換言すれば以下のような説明になる。
図10は、図6に示すシステム行列作成部3dにおける解析対象となる要素の作成方法を説明する図である。
【0125】
図10において横軸は、時刻(t1, t2, t3, ...)、TI (TI1, TI2, TI3, ...)或いはラベリング領域(TAGGED REGION 1,TAGGED REGION 2, TAGGED REGION 3, ...)等のパラメータ値を示し、縦軸は画素値の濃度を示す。
【0126】
図10に示すように、組織の各画素に対応する画素濃度曲線C1i, C2i, C3i, ...及び流体の画素濃度曲線aiが得られている場合に、複数の組織の画素濃度変化曲線C1i, C2i, C3i, ...がそれぞれ少なくとも立ち上がる前となる第1の点及び流体の画素濃度変化曲線aiが少なくとも立ち上がる前となる第2の点が決定される。例えば、第1の点は、時刻(t1, t2, t3, ...)、TI (TI1, TI2, TI3, ...)或いはラベリング領域(TAGGED REGION 1,TAGGED REGION 2, TAGGED REGION 3, ...)等のイメージングにおいて変えられたパラメータの初期値(t1, TI1, TAGGED REGION 1)に決定される。また、第2の点は、第1の点よりも順番が後の値に決定される。
【0127】
さらに、組織の画素濃度曲線C1i, C2i, C3i, ...に対応する解析対象となる要素と流体の画素濃度曲線aiに対応する解析対象となる要素が同じ数になるように、第1の点及び第2の点を開始点とする同じ広さの解析対象範囲RANGE1, RANGE2が組織の画素濃度曲線C1i, C2i, C3i, ...及び流体の画素濃度曲線aiに対してそれぞれ設定される。尚、組織の画素濃度曲線C1i, C2i, C3i, ...の解析対象範囲RANGE1のみに含まれるパラメータ値における前方の一部又は全部の要素をゼロとしてもよい。一方、流体の画素濃度曲線aiの解析対象範囲RANGE2のみに含まれるパラメータ値における後方の一部又は全部の要素をゼロとしてもよい。
【0128】
この結果、第1の点における組織の画素値の濃度に応じた量又はゼロが組織の画素濃度曲線C1i, C2i, C3i, ...に対応する解析対象となる最初の要素となり、第2の点における流体の画素値の濃度に応じた量が流体の画素濃度曲線aiに対応する解析対象となる最初の要素となる。
【0129】
このように作成された同じ数の組織の画素濃度曲線に対応する要素及び流体の画素濃度曲線に対応する要素を用いて式(15)に示すようなシステム行列を作成することができる。
【0130】
デコンボリューション部3eは、第1の実施形態におけるデコンボリューション部2eが有する機能と同様の機能を有する。すなわち、デコンボリューション部3eは、組織に対応する列ベクトルCと流体に対応する列ベクトルを2次元に配列した係数行列Aの逆畳み込み積分によって未知数Xを算出する機能と、未知数Xから得られるインパルス応答関数に基づいて流体の平均通過時間MTT、局所脳血流量CBF、局所脳血液量CBV、局所CSF流量、局所CSF量等の流体動態に関する情報を算出する機能を有する。
【0131】
また、必要に応じてデコンボリューション部3eは、第1の実施形態におけるデコンボリューション部2eと同様に、流体動態に関する情報を式(19)に示すように補正するように構成される。
次に、流体解析装置3の動作及び作用について説明する。
【0132】
図11は、図6に示す流体解析装置3におけるデータ処理の流れを示すフローチャートである。尚、第1の実施形態において図4に示されている詳細な処理と同様な処理については省略する。
まず予め、MRI装置4のイメージング部4aは非造影イメージング又は造影イメージングを実行し、複数フレーム分のMR流体画像データを収集する。
【0133】
そして、ステップS21において、流体解析装置3のイメージデータ取得部3aは、イメージング部4aから複数フレーム分の流体画像データを取得して組織画素変化曲線算出部3bに与える。
【0134】
次に、ステップS22において、組織画素変化曲線算出部3bは、複数フレーム分の流体画像データの組織に対応する複数の画素におけるフレーム間における画素値の濃度に応じた量の変化を求めることによって組織の画素濃度変化曲線を算出する。
【0135】
次に、ステップS23において、流体画素変化曲線算出部3cは、組織の複数の画素における画素濃度変化曲線に基づいて、流体の画素濃度変化曲線を算出する。
【0136】
次に、ステップS24において、システム行列作成部3dは、組織の画素濃度変化曲線及び流体の画素濃度変化曲線に基づいて、組織の画素濃度に対応する列ベクトルをC、流体の画素濃度に対応する列ベクトルを2次元に配列した係数行列をA、未知数をXとするC=AXのシステム行列を作成する。このとき、組織に対応する列ベクトルCの最初の要素は、組織の画素濃度変化曲線の横軸上の第1のパラメータ値に対応する値とされる。一方、流体に対応する列ベクトルの最初の要素は、流体の画素濃度変化曲線の横軸上の第1のパラメータ値よりも後方の第2のパラメータ値に対応する値とされる。また、組織に対応する列ベクトルCの要素数と流体に対応する列ベクトルの要素数が同じになるように各列ベクトルが作成される。そのために、列ベクトルを構成する要素として画素濃度の代わりにゼロを用いてもよい。
【0137】
次に、ステップS25において、デコンボリューション部3eは、システム行列の未知数Xを算出し、未知数Xから得られるインパルス応答関数に基づいて流体動態に関する情報を算出する。この流体動態に関する情報は、式(19)によって補正してもよい。
【0138】
このように、流体解析装置3では、複数の時相に対応する時系列の造影画像データに限らず、撮像パラメータを変えて収集された連続的な複数フレーム分の非造影画像データに基づいて、造影画像データに対する処理と同様な処理で血流やCSF等の流体の動態に関する情報を求めることができる。
【0139】
尚、第2の実施形態では、流体解析装置3がMRI装置で収集された画像データに基づいて流体動態に関する情報を取得する例について説明したが、X線CT装置、超音波診断装置又はPET装置等の医用画像撮影装置で収集された造影画像データ又は非造影画像データに基づいて流体解析装置3が流体動態に関する情報を取得するように構成することもできる。
【0140】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0141】
1 血流動態解析装置
2 局所血流解析アプリケーション
2a 局所血流解析アプリケーション
2b 造影濃度曲線算出部
2c 動脈の時間濃度曲線算出部
2d システム行列作成部
2e デコンボリューション部
3 流体解析装置
3a イメージデータ取得部
3b 組織画素変化曲線算出部
3c 流体画素変化曲線算出部
3d システム行列作成部
3e デコンボリューション部
4 MRI装置
4a イメージング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医用画像撮影装置により得られた複数の時相における被検体の造影画像データに基づいて、前記複数の時相間における各画素の画素値の変化を計測して組織における造影剤の濃度に対応する量の時間変化を表す時間濃度曲線を算出する組織の時間濃度曲線算出手段と、
前記組織に対応する前記時間濃度曲線から動脈領域を設定し、動脈に対応する時間濃度曲線を算出する動脈の時間濃度曲線算出手段と、
前記組織に対応する前記時間濃度曲線を、第1の時刻を基準にして離散化し、異なる時刻での前記組織における前記造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を1次元に配列した第1の集合を構成する第1の構成手段と、
前記動脈に対応する前記時間濃度曲線を、前記第1の時刻より後方の第2の時刻を基準にして離散化し、異なる時刻での前記動脈における前記造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を2次元に配列した第2の集合を構成する第2の構成手段と、
前記第1の集合と前記第2の集合の逆畳み込み積分を行い、前記組織の伝達関数を算出する逆畳み込み積分手段と、
前記伝達関数に基づいて、血流動態に関する情報を算出する血流情報算出手段と
を備える血流動態解析装置。
【請求項2】
前記第1の時刻は、前記画像データの収集開始時刻、または前記収集開始時刻と前記第2の時刻の間の所定時刻であり、前記第2の時刻は、前記動脈に対応する前記時間濃度曲線が上昇し始める時刻である請求項1に記載の血流動態解析装置。
【請求項3】
前記第1の集合は、1次元に配列されたL個の異なる時刻での前記組織における前記造影剤の濃度に対応する値の集合に対して、時間軸方向の前方にH個の第1の要素が追加された集合であり、前記第2の集合は、2次元に配列されたL個の異なる時刻での前記動脈における前記造影剤の濃度に対応する値の集合に対して、前記時間軸方向の後方にH個の第2の要素が追加された集合である請求項1又は2に記載の血流動態解析装置。
【請求項4】
前記第1の要素は、0及び前記組織における前記造影剤の濃度に対応する値の少なくとも一方であり、前記第2の要素は、0及び前記動脈における前記造影剤の濃度に対応する値の少なくとも一方である請求項3に記載の血流動態解析装置。
【請求項5】
前記血流情報算出手段は、前記伝達関数の最大値を検索し、検索した前記伝達関数の最大値からピーク範囲を算出し、前記伝達関数の最大値および前記ピーク範囲に基づいて、前記血流動態に関する情報を算出する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の血流動態解析装置。
【請求項6】
コンピュータを、
医用画像撮影装置により得られた複数の時相における被検体の造影画像データに基づいて、前記複数の時相間における各画素の画素値の変化を計測して組織における造影剤の濃度に対応する量の時間変化を表す時間濃度曲線を算出する組織の時間濃度曲線算出手段、
前記組織に対応する前記時間濃度曲線から動脈領域を設定し、動脈に対応する時間濃度曲線を算出する動脈の時間濃度曲線算出手段、
前記組織に対応する前記時間濃度曲線を、第1の時刻を基準にして離散化し、異なる時刻での前記組織における前記造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を1次元に配列した第1の集合を構成する第1の構成手段、
前記動脈に対応する前記時間濃度曲線を、前記第1の時刻より後方の第2の時刻を基準にして離散化し、異なる時刻での前記動脈における前記造影剤の濃度に対応する値を含む複数の要素を2次元に配列した第2の集合を構成する第2の構成手段、
前記第1の集合と前記第2の集合の逆畳み込み積分を行い、前記組織の伝達関数を算出する逆畳み込み積分手段、及び
前記伝達関数に基づいて、血流動態に関する情報を算出する血流情報算出手段、
として機能させる血流動態解析プログラム。
【請求項7】
被検体の複数のフレームの画像データに基づいて、組織に対応する画素において画素値の濃度に応じた量の前記複数のフレーム間における第1の変化を算出する一方、流体に対応する画素値の濃度に応じた量の前記複数のフレーム間における第2の変化を算出する濃度変化算出手段と、
前記第1の変化に基づいて前記第1の変化の第1の点に対応する要素を最初の要素とする解析対象となる数の第1の複数の要素を作成する一方、前記第2の変化に基づいて前記第2の変化の前記第1の点よりも後の第2の点に対応する要素を最初の要素とする前記解析対象となる数の第2の複数の要素を作成し、前記第1の複数の要素及び前記第2の複数の要素に基づいて逆畳み込み積分処理を伴って流体の動態に関する情報を算出する流体情報算出手段と、
を備える流体解析装置。
【請求項8】
前記濃度変化算出手段は、複数のフレームの造影画像データに基づいて、造影剤の濃度に応じた量の時間変化を前記第1及び第2の変化として算出するように構成される請求項7に記載の流体解析装置。
【請求項9】
前記濃度変化算出手段は、複数のフレームの非造影画像データに基づいて、前記第1及び第2の変化を算出するように構成される請求項7に記載の流体解析装置。
【請求項10】
前記濃度変化算出手段は、磁気共鳴イメージング装置により共通のラベリングパルスからイメージングデータの収集タイミングまでの時間を変えてダイナミック収集された複数のフレームの非造影画像データに基づいて、前記第1及び第2の変化を算出するように構成される請求項9に記載の流体解析装置。
【請求項11】
前記濃度変化算出手段は、磁気共鳴イメージング装置により反転回復パルス又は飽和パルスの印加とイメージングデータの収集とを繰り返し、かつ前記反転回復パルス又は飽和パルスの印加タイミングから前記イメージングデータの収集タイミングまでの時間を変えて収集された複数のフレームの非造影画像データに基づいて、前記第1及び第2の変化を算出するように構成される請求項9に記載の流体解析装置。
【請求項12】
前記濃度変化算出手段は、磁気共鳴イメージング装置により反転回復パルス又は飽和パルスの印加とイメージングデータの収集とを繰り返し、かつ前記反転回復パルス又は飽和パルスの印加領域を変えて収集された複数のフレームの非造影画像データに基づいて、前記第1及び第2の変化を算出するように構成される請求項9に記載の流体解析装置。
【請求項13】
コンピュータを、
被検体の複数のフレームの画像データに基づいて、組織に対応する画素において画素値の濃度に応じた量の前記複数のフレーム間における第1の変化を算出する一方、流体に対応する画素値の濃度に応じた量の前記複数のフレーム間における第2の変化を算出する濃度変化算出手段、及び
前記第1の変化に基づいて前記第1の変化の第1の点に対応する要素を最初の要素とする解析対象となる数の第1の複数の要素を作成する一方、前記第2の変化に基づいて前記第2の変化の前記第1の点よりも後の第2の点に対応する要素を最初の要素とする前記解析対象となる数の第2の複数の要素を作成し、前記第1の複数の要素及び前記第2の複数の要素に基づいて逆畳み込み積分処理を伴って流体の動態に関する情報を算出する流体情報算出手段、
として機能させる流体解析プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−131041(P2011−131041A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200436(P2010−200436)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】