血液ポンプの流量推定方法
【課題】血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができる血液ポンプの流量推定方法を提供する。
【解決手段】複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれを用いて補正項を含む一般流量推定式を作成するステップ及び患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機を用いて得られる測定データを補正項に代入して一般流量推定式から血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップを含む第1のステップと、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、血液ポンプ実機における流量推定式とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する第2のステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【解決手段】複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれを用いて補正項を含む一般流量推定式を作成するステップ及び患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機を用いて得られる測定データを補正項に代入して一般流量推定式から血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップを含む第1のステップと、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、血液ポンプ実機における流量推定式とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する第2のステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液ポンプの流量推定方法、血液ポンプの流量推定装置、血液ポンプシステム及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
重症心疾患の治療方法の一つとして、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療が行われている。このような治療を適切に行うためには、血液ポンプの流量を正確に知ることが必要である。このため、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計、電気的インピーダンス法による血流計などの血流計を患者の体内外に設置して、体内埋め込み型の血液ポンプの流量を測定することが行われている。
しかしながら、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計などの血流計は、患者の体内に設置することが必要であり、患者への負担も大きい。このため、これらの血流計を患者の体内に設置できるのは実際上、手術後一定期間に限られることになり、その後は、これらの血流計を用いることなく血液ポンプの流量を知る方法が必要となる。
また、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計、電気的インピーダンス法による血流計などの血流計は、血流測定のための手順が実際上煩雑で患者に与える負担も大きいため、やはりこれらの血流計を用いることなく血液ポンプの流量を知る方法が必要となる。
【0003】
図14及び図15は、このような要求を満たすための従来の血液ポンプシステムを説明するために示す図である。
従来の血液ポンプシステム901は、図14及び図15に示すように、モータ934の回転力を駆動源としてインペラ921を回転させて血液を送液する血液ポンプ905と、所定液体粘度における異なる複数のインペラ回転数の複数のモータ電流吐出量関係データからなる所定粘度関連吐出流量データを異なる複数の所定粘度について記憶する粘度回転数モータ電流吐出流量関連データ記憶部960と、血液パラメータ入力部957と、インペラ921の回転数を測定するインペラ回転数測定・算出機能としてのセンサ回路955と、モータ934に供給される電流を測定するモータ電流値計測機能と、液体粘度、インペラ回転数、モータ電流及び粘度回転数モータ電流吐出流量関連データ(所定粘度関連吐出流量データテーブル。図15参照。)を用いて液体粘度、モータ電流及びインペラ回転数から液体吐出流量を演算する吐出流量演算部958とを備えている。
【0004】
このため、血液ポンプシステム901によれば、図14及び図15に示すように、インペラ回転数、モータ電流及び血液の粘度を測定し、これらの測定値と所定粘度関連吐出流量データテーブルとに基づいて血液吐出流量を演算することとしているため、血流計を用いることなく血液ポンプの流量を推定することができるようになっている。
また、血液ポンプシステム901によれば、図14及び図15に示すように、所定粘度関連吐出流量データテーブルに基づいて血液吐出流量を演算することとしている、すなわち、必要な精度を満たす最小限の個別データをデータテーブルとして記憶し、演算対象電流値等に近いデータを用いて血液吐出流量を演算することとしているため、インペラ回転数、モータ電流、血液の粘度及び血液ポンプの流量の関係式から血液吐出流量を演算する場合に比べて、正確な流量を容易に得ることができるとされている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−210572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、体内埋め込み型の血液ポンプにおいては、構造上の制約から血液ポンプ特性の個体差をなくすることは容易ではない。従って、このような血液ポンプの流量を、上記した従来の血液ポンプシステム901の方法を用いて推定した場合には、血液ポンプ特性の個体差によって、血液ポンプの流量の推定精度が低下してしまうため、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療を適切に行うことができなくなる場合が生ずるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができる血液ポンプの流量推定方法及び血液ポンプの流量推定装置を提供することを目的とする。また、このような血液ポンプの流量推定装置を備えた血液ポンプシステムを提供することを目的とする。さらにまた、このような血液ポンプの流量推定装置を実現するために必要な記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の血液ポンプの流量推定方法は、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、血液ポンプ実機におけるモータの回転数、モータの消費電流及び血液ポンプ流量並びに液体の属性データの関係を記述する流量推定情報を作成する第1ステップと、患者の体内に埋め込んだ前記血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、前記流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する第2ステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
このため、本発明の血液ポンプの流量推定方法によれば、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機毎に流量推定情報を作成し、第2ステップで、この流量推定情報に基づいて当該血液ポンプ実機についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0010】
本発明の血液ポンプの流量推定方法において、「血液ポンプ実機」とは、流量推定を行う対象となる血液ポンプのことである。
また、後述する「複数の血液ポンプ」とは、「血液ポンプ実機」と同じ規格・型番の血液ポンプのうち予め血液ポンプの特性(後述する一般流量推定情報など)を測定したり評価したりする任意の複数の血液ポンプのことである。
【0011】
また、本発明の血液ポンプの流量推定方法において、「液体」とは、流量推定情報を作成する際に、血液ポンプに流す流体のことをいい、「試験液」の場合と「患者の血液」の場合とがある。
【0012】
(2)上記(1)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、流量推定情報が流量推定式であることが好ましい。
このような方法とすることにより、この流量推定式に、第2ステップで測定されたモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを代入することにより、容易に当該血液ポンプの流量推定を行うことができる。
【0013】
(3)上記(1)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、流量推定情報が流量推定テーブルであることも好ましい。
このような方法とすることにより、第2ステップで測定されたモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZに近似する流量推定テーブルの該当箇所を参照するとともに適当な補完計算を行うことにより、容易に当該血液ポンプの流量推定を行うことができる。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記第1ステップは、血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、前記流量推定情報を作成するステップであることが好ましい。
【0015】
流量推定情報を作成するステップは本来煩雑で手間がかかるステップである。流量推定情報を作成するためには、モータの回転数及びモータの消費電流並びに液体の属性データをそれぞれ変化させて血液ポンプの流量を測定する必要があるからである。
しかしながら、上記(4)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、試験液を用いて流量推定情報を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定情報の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0016】
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記第1ステップは、複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を流量計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むものであることも好ましい。
【0017】
このような方法とすることにより、上記(4)に記載の血液ポンプの流量推定方法の場合と同様に、試験液を用いて流量推定情報を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定情報の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0018】
また、上記(5)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、本来煩雑で手間のかかる流量推定情報の作成を、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、補正情報に実機毎で得られる測定データを代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとに分け、これらのステップのうち本来煩雑で手間のかかる前者のステップを予め複数の血液ポンプを用いて行い、比較的手間のかからない後者のステップ(前者のステップのようにモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させて測定する必要がない。)を血液ポンプ実機を用いて行うようにしているため、上記(4)に記載の血液ポンプの流量推定方法に比べて、全体としてさらに容易に流量推定情報を作成することが可能になる。
【0019】
なお、補正情報を含む一般流量推定情報は、流量推定情報を作成するために必要な情報であるが、この一般流量推定情報そのものは不定項である補正情報を含むため、この一般流量推定情報に、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZについての測定データを代入しても流量を推定することはできない。
【0020】
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、 前記第1ステップは、複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに患者の血液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を血流計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むものであることも好ましい。
【0021】
このような方法とすることにより、上記(5)に記載の血液ポンプの流量推定方法の場合と同様に、本来煩雑で手間のかかる流量推定情報の作成を、補正情報を含む一般流量推定情報そのものを作成するステップと、補正情報に実機毎で得られる測定データを代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとに分け、これらのステップのうち本来煩雑で手間のかかる前者のステップを予め複数の血液ポンプを用いて行い、比較的手間のかからない後者のステップを血液ポンプ実機を用いて行うようにしているため、上記(5)に記載の血液ポンプの流量推定方法の場合と同様に、全体として容易に流量推定情報を作成することができる。
【0022】
また、上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機を用いて得られた測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成することとしているため、実機使用環境下の当該血液ポンプ実機についての流量推定情報を作成することとなるため、血液ポンプの使用環境の違いによって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0023】
また、上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機を用いて得られた測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成し、その後、この流量推定情報に基づいて当該血液ポンプ実機についての流量推定を行うことができるようになるため、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0024】
なお、補正情報を含む一般流量推定情報は、上記(5)でも説明したとおり、流量推定情報を作成するために必要な情報であるが、この一般流量推定情報そのものは不定項である補正情報を含むため、この一般流量推定情報に、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZについての測定データを代入しても流量を推定することはできない。
【0025】
(7)上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記血流計として、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計又は電気的インピーダンス法による血流計を好ましく用いることができる。
【0026】
このような血流計を用いることにより、患者に埋め込んだ血液ポンプ実機における流量を測定することが可能になり、精度よく血液ポンプの流量推定を行うことができるようになる。
【0027】
(8)上記(6)又は(7)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、第2ステップで血液ポンプの流量を推定する場合に、血流計により血液ポンプの流量測定が可能である場合には、前記第2ステップを行う際に血液ポンプの流量を血流計を用いて測定することにより、前記血液ポンプ実機における流量推定情報を更新することが好ましい。
【0028】
このような方法とすることにより、血液ポンプ特性の経時変化があっても、最新の流量推定情報に適宜更新することができるようになり、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのをさらに効果的に抑制することができるようになる。
【0029】
(9)上記(5)〜(8)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法は、前記モータがDCモータである場合に特に好ましく用いることができる。
【0030】
DCモータにおいては、モータの消費電流Iと軸トルクとが比例する関係にある。また、血液ポンプの流量Qはこの軸トルクと一次の関係にある。このため、血液ポンプの流量Qはモータの消費電流Iと一次の関係になり、補正情報を含む一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を完成するのが容易になる。
【0031】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記液体の、前記試験液の又は前記患者の血液の属性データは、前記液体の、前記試験液の又は前記患者の血液の粘度及び密度であることが好ましい。
【0032】
このような方法とすることにより、試験液や患者の血液の属性データとして粘度又は密度のいずれかだけを採用した場合と比較して、精度のよい血液ポンプの流量推定が可能になる。
【0033】
(11)上記(10)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記第2ステップで、「患者の血液の粘度及び密度」を測定する代わりに「患者の血液のヘマトクリット値」を測定し、このヘマトクリット値から換算して得られる「換算粘度及び換算密度」を用いて、血液ポンプの流量を推定することが好ましい。
【0034】
このような方法とすることにより、患者の血液の粘度や密度を測定することなく、ヘマトクリット値を測定するだけの簡便な方法で、血液ポンプの流量推定ができるようになる。
【0035】
(12)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記血液ポンプがモータ回転軸の軸封のためのメカニカルシール部を有する血液ポンプである場合に特に好ましく用いることができる。
【0036】
このようにモータ回転軸の軸封のための(すなわち、ポンプ部と駆動部とのシールのための)メカニカルシール部を有する血液ポンプは、ポンプ部と駆動部とが摺動自在に、かつ、良好にシールされることになるため、ポンプ部から駆動部に血液が洩れることが極力抑制され、血栓の生成が極力抑制されるようになり、血液ポンプの停止や血液ポンプの運転状態の変化が極力抑制されるようになる。
【0037】
その一方において、このようなメカニカルシール部には所定の与圧が必要とされる。この与圧強度には比較的大きな個体差が存在するため、血液ポンプ特性にも比較的大きな個体差が存在することになる。
しかしながら、本発明の血液ポンプの流量推定方法によれば、血液ポンプ実機毎に流量推定情報を作成することとしているため、このように血液ポンプ特性に比較的大きな個体差があったとしても、このような個体差の影響をなくすることができ、結果として、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができるようになる。
【0038】
また、このようなメカニカルシール部においては、モータの姿勢等の血液ポンプの使用環境によっても実際に摺動面にかかる与圧が比較的大きく変動するため、血液ポンプ特性も比較的大きく変動する。
しかしながら、本発明の上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込まれた血液ポンプ実機から得られる測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から当該血液ポンプ実機における流量推定情報を作成することとしているため、このように血液ポンプの使用環境によって血液ポンプ特性が比較的大きく変動したとしても、このような血液ポンプ特性の変動による影響を効果的に抑制することができ、結果として、使用環境による血液ポンプ特性の変動によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0039】
また、このようなメカニカルシール部は、経時変化により摺動特性が大きく変化する摺動面を有するため、血液ポンプ特性にも大きな経時変化が存在する。
しかしながら、本発明の上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込まれた血液ポンプ実機から得られる測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から当該血液ポンプ実機における流量推定情報を作成することとしているため、このように血液ポンプ特性に大きな経時変化があったとしても、このような血液ポンプ特性の経時変化による影響を効果的に抑制することができ、結果として、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0040】
(13)本発明の血液ポンプの流量推定方法は、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、予め作成しておいた血液ポンプ実機における流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することを特徴とする。
【0041】
このため、本発明の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、予め作成しておいた当該血液ポンプ実機における流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することとしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0042】
(14)本発明の血液ポンプの流量推定装置は、上記(1)〜(13)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法によって血液ポンプの流量を推定する機能を備えた血液ポンプの流量推定装置であって、前記血液ポンプ実機における流量推定情報を記憶してなる流量推定情報記憶部と、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、前記流量推定情報記憶部に記憶された前記流量推定情報に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する流量推定部とを備えたことを特徴とする。
【0043】
このため、本発明の血液ポンプの流量推定装置によれば、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、流量推定情報記憶部に記憶された当該血液ポンプ実機における流量推定情報に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することができるため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0044】
(15)本発明の血液ポンプシステムは、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプと、この血液ポンプの動作を制御する外部コントローラとを備えた血液ポンプシステムであって、上記(14)に記載の血液ポンプの流量推定装置をさらに備えたことを特徴とする。
【0045】
このため、本発明の血液ポンプシステムによれば、上記したように優れた血液ポンプの流量推定装置を備えているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0046】
(16)本発明の記憶媒体は、上記(14)に記載の血液ポンプの流量推定装置に用いるための記憶媒体であって、前記補正情報を含む一般流量推定情報又は前記流量推定情報を記憶してなることを特徴とする。
【0047】
このため、本発明の記憶媒体によれば、この記憶媒体を用いることによって、上記したように優れた血液ポンプの流量推定装置を実現することができるようになるため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】血液ポンプを示す断面図。
【図2】実施形態1に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図3】実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【図4】流量係数と換算電流との関係をモータの回転数ごとに示す図。
【図5】血液ポンプの流量を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差をモータの回転数ごとに示す図。
【図6】モータの回転数を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差(割合)を示す図。
【図7】血液ポンプ実機の推定流量と測定流量との差を示す図。
【図8】ヘマトクリット値と血液の粘度との関係を示す図。
【図9】ヘマトクリット値と血液の密度との関係を示す図。
【図10】実施形態2に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図11】実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【図12】実施形態3に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図13】実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【図14】従来の血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図15】従来の血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明が適用された血液ポンプの流量推定方法、血液ポンプの流量推定装置、血液ポンプシステム及び記憶媒体について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
まず、本発明の各実施形態を説明する前に、本発明の各実施形態において用いられる血液ポンプを、図1を用いて説明する。
【0050】
図1は、本発明の各実施形態において用いられる血液ポンプを示す断面図である。この血液ポンプ10は、図1に示すように、円筒形のモータを有する駆動部11と、この駆動部11に接続されるポンプ部12とを有している。ポンプ部12は、モータの回転軸を介して駆動されるインペラ13と、このインペラ13を覆うように駆動部11に接続されるポンプケーシング14とを有している。人体における心臓の左心室内の血液が人工血管及び流入口15を経てポンプケーシング14内に流入し、インペラ13により流動エネルギーを付与された後、ポンプケーシング14の側面に設けられた流出口16及び人工血管を経て大動脈に流出するように構成されている。
【0051】
この血液ポンプ10においては、駆動部11とポンプ部12との間にはメカニカルシール部17が設けられている。このため、この血液ポンプ10によれば、ポンプ部12と駆動部11とが摺動自在に、かつ、良好にシールされることになり、ポンプ部12から駆動部11に血液が洩れることが極力抑制される。その結果、血栓の生成が極力抑制されるようになり、血液ポンプの停止や血液ポンプの運転状態の変化が極力抑制される。
その一方、この血液ポンプ10においては、メカニカルシール部17が設けられているため、血液ポンプ特性には大きな個体差、使用環境依存性、経時変化が存在するようになる。このため、このような血液ポンプ10の流量推定を精度よく行うのは容易ではなく、従って、このような血液ポンプ10を用いた重症心疾患の治療を適切に行うためには、血液ポンプの流量推定を精度よく行うことのできる血液ポンプの流量推定方法が特に求められることになる。
【0052】
各実施形態においては、この血液ポンプ10として、軸流モータの場合よりも大きな血流量がとれる遠心式の血液ポンプを用いている。また、各実施形態においては、この血液ポンプ10のインペラ13を駆動するモータとしてDCモータを用いている。
【0053】
[実施形態1]
実施形態1は、本発明の請求項6に記載された血液ポンプの流量推定方法並びにこれが適用される血液ポンプの流量推定装置及び血液ポンプシステムについての実施形態である。
図2は、本発明の実施形態1に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図である。血液ポンプシステム100Aは、図2に示すように、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプ(血液ポンプ実機)10と、この血液ポンプ実機10の動作を制御する外部コントローラ20と、血液ポンプ実機10の流量推定を行う血液ポンプの流量推定装置30Aとを備えている。
外部コントローラ20は、血液ポンプ実機10を駆動するための駆動制御部(図示せず。)と、血液ポンプ実機10におけるメカニカルシール部の潤滑や冷却をするための循環液制御部(図示せず。)とを有し、これに加えて、モータの回転数Nを測定する回転数測定部21と、モータの消費電流Iを測定する消費電流測定部22とをさらに有している。
なお、実施形態1に係る血液ポンプシステム100Aにおいては、外部コントローラ20と血液ポンプの流量推定装置30Aとが別体として構成されているが、本発明はこれに限られず、外部コントローラが血液ポンプの流量推定機能を有するもの(図2中、20Aで示す。)であってもよい。
【0054】
血液ポンプの流量推定装置30Aは、試験液の又は患者の血液の属性データを入力するための属性データ入力部32と、モータの回転数、モータの消費電流、試験液の属性データ及び血液ポンプの流量に基づいて作成された、補正項を含む一般流量推定式を記憶する一般流量推定式記憶部33と、モータの回転数N0、モータの消費電流I0、患者の血液の属性データZ0及び血液ポンプの流量Q0についての測定データを補正項に代入して血液ポンプ実機10における流量推定式を作成する流量推定式作成部34と、流量推定式作成部34で作成された流量推定式を記憶する流量推定式記憶部35と、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、流量推定式記憶部35に記憶された流量推定式に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する流量推定部36と、これらを制御するための制御部31とを有している。また、血液ポンプ実機10の流量を測定する血流計50との接続部(図示せず。)をさらに有している。
【0055】
なお、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定装置30Aにおいては、流量推定式作成部34及び流量推定式記憶部35を備えているが、本発明はこれに限られず、これらの流量推定式作成部34及び流量推定式記憶部35を備えない血液ポンプの流量推定装置も含まれる。この場合には、流量推定部36が、一般流量推定式記憶部33に記憶された補正項を含む一般流量推定式と、測定されたモータの回転数N0、モータの消費電流I0、患者の血液の属性データZ0及び血液ポンプの流量Q0からなる測定データとから血液ポンプ実機10における流量推定式を、流量推定を行うたびに作成し、この血液ポンプ実機10における流量推定式に基づいて、血液ポンプ実機10における血液ポンプの流量Qを推定する。なお、この場合には、上記した測定データを記憶する測定データ記憶部を備えることが好ましい。
【0056】
図3は、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図である。実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法は、図3に示すように、第1ステップと第2ステップとからなっている。
【0057】
(第1ステップ)
第1ステップは、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップと、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップとからなる。
このうち、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10と同じ規格・型番を有する複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(図2では図示せず。)を用いて測定することにより、複数の血液ポンプ間における個体差が反映された補正項を含む一般流量推定式を作成するステップである。
試験液としては、例えば、水と、複数の粘度に調整された水及びグリセリンの混合溶液とを用いる。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
【0058】
また、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N0及びモータの消費電流I0並びに患者の血液の属性データZ0を(少なくとも1回)測定するとともに、そのときの血液ポンプの流量Q0を血流計50を用いて測定し、得られた測定データを補正項に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップである。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
【0059】
これらのステップのうち、一般流量推定式を作成するステップは、通常、血液ポンプ実機10の出荷前に複数の血液ポンプを用いて一括して行う。
また、これらのステップのうち、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10を患者の体内に埋め込んだ後、当該血液ポンプ実機10を用いて行う。
【0060】
(第1ステップにおける、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップ)
このステップは、複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(工業用流量計等)を用いて測定することにより、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップである。
【0061】
図4は、実施形態1に係る血液ポンプシステムにおける、血液ポンプの流量Qを規格化した流量係数φ(=血液ポンプの流量Q/(流路面積A・インペラ周速u))とモータの消費電流Iを規格化した換算電流ι(=モータの消費電流I/(試験液の密度ρ・角速度ω2))との関係を試験液の粘度μ(0.7cP,2.5cP,3.5cP,4.5cP)及びモータの回転数N(1000rpm,1400rpm,1800rpm,2200rpm)ごとに示す図である。
血液ポンプシステム100Aにおいては、図4に示すように、流量係数φは換算電流ιとほぼ一次の関係にあるため、これらのデータから最小二乗法にて一次式に近似してモータの回転数Nごとにおける関係式(1)を作成することができる。このときの各係数は試験液の粘度μの関数として表すことができる。
【0062】
ι=(C・μ+D)φ+(E・μ+F) ・・・(1)
【0063】
このとき、係数C、D、E、Fとしては、モータの回転数Nの関数として表現することができ、例えば以下のような関数とすることができる。
C(N)=−1.12×10−11N3+4.83×10−8N2−6.32×10−5N+2.76×10−2
D(N)=6.57×10−5N−9.39×10−3
E(N)=8.85×10−8N+6.34×10−4
F(N)=2.00×10−9N2−8.85×10−6N+1.38×10−2
【0064】
その後、この関係式(1)を展開することにより、以下に示す基本推定式(2)を得ることができる。
【0065】
【数1】
【0066】
図5は、血液ポンプの流量を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差をモータの回転数ごとに示す図である。図5に示すように、いずれの回転数においても、モータの消費電流における血液ポンプ実機10と任意の血液ポンプとの差は、血液ポンプ実機10の流量によらずほぼ一定であることがわかる。
図6は、モータの回転数を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差(割合)を示す図である。図6に示すように、モータの消費電流における血液ポンプ実機10と任意の血液ポンプとの差(割合)は、モータの回転数によらずほぼ一定であることがわかる。
【0067】
これらより、血液ポンプの流量Qは、モータの回転数、モータの消費電流によらず、任意の血液ポンプにおける流量から所定の値だけオフセットした値となることがわかる。従って、血液ポンプ実機10を用いてこのオフセット量を測定し、基本推定式(2)による推定結果にこのオフセット量に相当する補正を加えれば、血液ポンプ実機10における、より正確な流量推定結果が得られることになる。このため、後の血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップにおける補正処理が容易になるように、基本推定式(2)に補正項を組み込んだ以下の一般流量推定式(3)を作成しておく。
【0068】
【数2】
ここで、i*、μ*、φ*は、後のステップで測定される測定データi0、μ0、φ0が代入される変数項である。
【0069】
血液ポンプシステム100Aにおいては、このようにして作成した補正項を含む一般流量推定式(3)を一般流量推定式記憶部33に記憶させておく。
【0070】
(第1ステップにおける、血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップ)
このステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに患者の血液の属性データを測定するとともに、血液ポンプの流量を血流計50を用いて測定し、得られたデータを補正項に代入して一般流量推定式(3)から血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップである。
【0071】
上記したように、血液ポンプの流量Qは、モータの回転数、モータの消費電流によらず、任意の血液ポンプにおける流量から所定の値だけオフセットした値となっている。このため、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10について、モータの回転数N0及びモータの消費電流I0並びに患者の血液の属性データZ0を(少なくとも1回)測定するとともに、そのときの血液ポンプの流量Q0を血流計50を用いて測定し、得られた測定データを、一般流量推定式(3)の補正項に代入して、血液ポンプ実機10における流量推定式(4)を作成する。
【0072】
【数3】
【0073】
血液ポンプ実機10における流量推定式(4)の作成は流量推定式作成部34で行う。そして、得られた流量推定式(4)を流量推定式記憶部35に記憶する。
【0074】
(第2ステップ)
この第2ステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、流量推定式記憶部35に記憶しておいた流量推定式(4)とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定するステップである。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
なお、モータの回転数N及びモータの消費電流Iについては、流量推定を行うたびに自動測定を行うことにより測定データを取得し、患者の血液の属性データZ(μ,φ)については、属性データ入力部32を用いて入力することにより測定データを取得する。
【0075】
図7は、適切な条件下において、流量推定式(4)を用いて推定して得られた血液ポンプ実機の推定流量と実際に流量計を用いて測定して得られた測定流量との差を示す図である。これらの差は、図7に示すように、血液ポンプの流量が10リットル/分以下の範囲においては、臨床上許容範囲と考えられる目標値(±1リットル/分)より小さい値となっており、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、血液ポンプの流量を精度よく推定できることが確認できた。
【0076】
以上、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法を説明したが、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機10について流量推定式(4)を作成し、第2ステップで、この流量推定式(4)に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0077】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10を用いて流量推定式(4)を作成することにしているため、実機使用環境下の当該血液ポンプ実機10についての流量推定式(4)を作成することとなるため、血液ポンプの使用環境の違いによって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0078】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10を用いて流量推定式(4)を作成し、その後、この流量推定式(4)に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うことができるようになるため、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0079】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、本来煩雑で手間がかかる流量推定式(4)の作成を、補正項を含む一般流量推定式(3)を作成するステップと、補正項に実機毎の測定データを代入して血液ポンプ実機における流量推定式4)を作成するステップとに分け、これらのステップのうち煩雑で手間のかかる前者のステップを予め複数の血液ポンプを用いて行い、比較的手間のかからない後者のステップを血液ポンプ実機を用いて行うようにしているため、全体として容易に流量推定式(4)を作成することが可能となる。
【0080】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、第2ステップで血液ポンプの流量を推定する場合に、血流計50により血液ポンプ実機10の流量測定が可能である場合には、第2ステップを行う際に血液ポンプ実機10の流量を血流計50を用いて測定することにより、流量推定式(4)を常に最新の流量推定式(4)に適宜更新するようにしている。このため、血液ポンプ特性の経時変化があっても、最新の流量推定式(4)を用いて血液ポンプの流量推定を行うことができるようになり、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのをさらに効果的に抑制することができるようになる。
【0081】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、血流計50として、熱希釈法による血流計を用いている。この場合、血液モニタや超音波診断装置などを参照しながら、体循環系の血液がすべて血液ポンプ実機10を経由するように血液ポンプ実機10におけるモータの回転数を調節すれば、血流計50により得られた血液流量が血液ポンプ実機10における血液流量と略同等となるため、精度よく血液ポンプの流量推定を行うことができるようになる。なお、血流計50により流量の測定を行う際には、患者の体内にカテーテルを埋設する必要があるが、血液ポンプを埋め込む手術の後一定期間はこのようなカテーテルを埋め込むことは通常行われているため、患者にさらなる負担を与えることにもならない。
【0082】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、試験液や患者の血液の属性データとして粘度及び密度を用いている。このため、粘度又は密度のいずれかだけを採用した場合と比較して、精度のよい血液ポンプの流量推定が可能になる。
【0083】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、第2ステップで患者の血液の粘度及び密度を測定する代わりに、ヘマトクリット値を測定し、このヘマトクリット値から換算して得られる換算粘度及び換算密度を用いて、血液ポンプの流量を推定することとしてもよい。このような方法とした場合には、患者の血液の粘度や密度を測定することなく、ヘマトクリット値を測定するだけの簡便な方法で、血液ポンプの流量推定ができるようになる。
【0084】
図8は、血液のヘマトクリット値と血液の粘度との関係を示す図であり、図9は、血液のヘマトクリット値と血液の密度との関係を示す図である。図8及び図9に示すように、血液のヘマトクリット値と、血液の粘度及び密度との間には、強い相関関係がある。すなわち、患者の血液においても同様に、患者の血液のヘマトクリット値Htと、患者の血液の粘度μ及び密度ρとの間には、強い相関関係があるので、患者の血液の粘度μや密度ρを測定する代わりに患者の血液のヘマトクリット値Htを測定し、この患者の血液のヘマトクリット値Htから患者の血液の粘度μ及び密度ρを換算して求めることができる。
【0085】
以上説明したように、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法は、血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができる、優れた血液ポンプの流量推定方法であるため、このような優れた血液ポンプの流量推定方法を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0086】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定装置30Aは、上述したように血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法を用いて血液ポンプの流量推定を行なうことができるため、このような優れた血液ポンプの流量推定装置30Aを用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0087】
また、実施形態1に係る血液ポンプシステム100Aは、上述したように血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定装置30Aを備えた血液ポンプシステムであるため、このような優れた血液ポンプシステム100Aを用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0088】
さらにまた、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定装置30Aにおける一般流量推定式記憶部33に記憶させるべき一般流量推定式又は流量推定式記憶部35に記憶させるべき血液ポンプ実機10における流量推定式を所定の記憶媒体(例えばCD−ROM)に記憶させておけば、この記憶媒体に記憶させた流量推定式をコンピュータシステムに読み込ませることにより、このコンピュータシステムを血液ポンプの流量推定装置30Aとなすことができるようになる。このため、このような記憶媒体を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0089】
[実施形態2]
実施形態2は、本発明の請求項5に記載された血液ポンプの流量推定方法並びにこれが適用される血液ポンプの流量推定装置及び血液ポンプシステムについての実施形態である。
図10は、本発明の実施形態2に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図である。実施形態2に係る血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)は、図10に示すように、血流計との接続部を備えていない点を除いて、実施形態1に係る血液ポンプシステム100A(及び血液ポンプの流量推定装置30A)と同じ構成を有している。
【0090】
図11は、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図である。実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法は、図11に示すように、第1ステップと第2ステップとからなっている。
【0091】
(第1ステップ)
第1ステップは、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップと、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップとからなる。
このうち、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10と同じ規格・型番を有する複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(工業用流量計等)を用いて測定することにより、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップである。
試験液としては、例えば、水と、複数の粘度に調整された水及びグリセリンの混合溶液とを用いる。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法と同様である。
【0092】
また、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データを測定するとともに、血液ポンプの流量を流量計を用いて測定し、得られたデータを補正項に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップである。試験液としては、例えば、水、又は、水及びグリセリンの混合溶液を用いる。特に血液の粘度と同等の粘度となるように調整された溶液を用いるのが好ましい。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
【0093】
これらのステップのうち、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップは、実施形態1の場合と同様に、血液ポンプ実機10の出荷前に複数の血液ポンプを用いて一括して行う。
また、これらのステップのうち、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、実施形態1の場合とは異なり、血液ポンプ実機10の出荷前に、血液ポンプ実機10を用いて行う。
【0094】
(第2ステップ)
この第2ステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、先に作成した血液ポンプ実機10における流量推定式とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプ実機10における血液ポンプの流量Qを推定するステップである。この第2ステップは、実施形態1の場合と同様である。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
この第2ステップは、実施形態1の場合と同様に、血液ポンプ実機10を患者の体内に埋め込んだ後に行う。
【0095】
このため、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、実施形態1の場合と同様に、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機10について流量推定式を作成し、第2ステップで、この流量推定式に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0096】
また、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法の場合とは異なり、試験液を用いて流量推定式を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定式の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0097】
実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法においては、第1ステップにおける本来煩雑で手間のかかる流量推定式の作成を、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップと、血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップとに分け、後者のステップを出荷前に行うようにしているため、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法に比べて、全体としてさらに容易に流量推定式を作成することができるようになっている。
【0098】
以上説明したように、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法は、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法であるため、このような優れた血液ポンプの流量推定方法を用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0099】
また、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定装置30Bは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法を用いて血液ポンプの流量推定を行うことができるため、このような優れた血液ポンプの流量推定装置30Bを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0100】
また、実施形態2に係る血液ポンプシステム100Bは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定装置30Bを備えた血液ポンプシステムであるため、このような優れた血液ポンプシステム100Bを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0101】
さらにまた、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定装置30Bにおける一般流量推定式記憶部33に記憶させるべき一般流量推定式又は流量推定式記憶部35に記憶させるべき血液ポンプ実機における流量推定式を所定の記憶媒体(例えばCD−ROM)に記憶させておけば、この記憶媒体に記憶させた式をコンピュータシステムに読み込ませることにより、このコンピュータシステムを血液ポンプの流量推定装置30Bとなすことができるようになる。このため、このような記憶媒体を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0102】
なお、実施形態2に係る血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)においては、一般流量推定式記憶部33及び流量推定式作成部34を省略することもできる。なぜなら、これらの各部は、出荷前に第1ステップを行う際に必要な機能であるため、出荷後の血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)においては必須ではないからである。
【0103】
[実施形態3]
実施形態3は、本発明の請求項4に記載された血液ポンプの流量推定方法並びにこれが適用される血液ポンプの流量推定装置及び血液ポンプシステムについての実施形態である。
図12は、本発明の実施形態3に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図である。実施形態3に係る血液ポンプシステム100C(及び血液ポンプの流量推定装置30C)は、図12に示すように、一般流量推定式記憶部33及び流量推定式作成部34を備えていない点を除いて、実施形態2に係る血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)と同じ構成を有している。
【0104】
図13は、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図である。実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法は、図13に示すように、第1ステップと第2ステップとからなっている。
【0105】
(第1ステップ)
第1ステップは、血液ポンプ実機10におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(工業用流量計等)を用いて測定することにより、血液ポンプ実機10における、モータの回転数、モータの消費電流、血液ポンプの流量及び液体の属性データの関係を記述する流量推定情報としての流量推定式を作成するステップである。試験液としては、例えば、水と、複数の粘度に調整された水及びグリセリンの混合溶液とを用いる。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
この第1ステップは、通常、血液ポンプ実機10の出荷前に血液ポンプ実機毎に行う。
【0106】
(第2ステップ)
第2ステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、流量推定式とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプ実機10における血液ポンプの流量Qを推定するステップである。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。実施形態1及び実施形態2の場合と同様である。
この第2ステップは、血液ポンプ実機10を患者の体内に埋め込んだ後に行う。
【0107】
このため、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機10について流量推定式を決定し、第2ステップで、この流量推定式に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0108】
第1ステップで流量推定式を作成するステップは、本来煩雑で手間のかかるステップである。流量推定式を決定するためには、モータの回転数及びモータの消費電流並びに液体の属性データをそれぞれ変化させて流量を測定する必要があるからである。
しかしながら、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、試験液を用いて流量推定式を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定式の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0109】
以上説明したように、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法は、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法であるため、このような優れた血液ポンプの流量推定方法を用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0110】
また、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定装置30Cは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法を用いて血液ポンプの流量推定を行うことができるため、このような優れた血液ポンプの流量推定装置30Cを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0111】
また、実施形態3に係る血液ポンプシステム100Cは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定装置30Cを備えた血液ポンプシステムであるため、このような優れた血液ポンプシステム100Cを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0112】
さらにまた、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定装置30Cにおける流量推定式記憶部35に記憶させるべき流量推定式を所定の記憶媒体(例えばCD−ROM)に記憶させておけば、この記憶媒体に記憶させた流量推定式をコンピュータシステムに読み込ませることにより、このコンピュータシステムを血液ポンプの流量推定装置30Cとなすことができるようになる。このため、このような記憶媒体を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0113】
以上、上記した各実施形態に基づいて本発明の血液ポンプの流量推定方法及び血液ポンプシステムを説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、以下に例示するような種々の変形が可能である。
【0114】
(a)上記した各実施形態においては、流量推定情報として流量推定式(及び一般流量推定式)を用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、流量推定情報として流量推定テーブル(及び一般流量推定テーブル)を用いることができ、同様の効果を得ることができる。
【0115】
(b)上記した各実施形態においては、血液ポンプとしてメカニカルシール部を備えた血液ポンプを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化があるその他の血液ポンプを用いた場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0116】
(c)上記した実施形態3においては、血液ポンプとして、DCモータを備えた血液ポンプを用いたが、DCモータに代えて他のモータを用いた血液ポンプを用いた場合にも、実施形態3の場合と同様の効果を得ることができる。
【0117】
(d)上記した各実施形態においては、血液ポンプとして遠心ポンプを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、その他の血液ポンプ(例えば、軸流ポンプ)を用いた場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0118】
(e)上記した実施形態1においては、血流計として熱希釈法による血流計を用いたが、この血流計に代えて他の血流計(例えば、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計、電気的インピーダンス法による血流計)を用いた場合にも、実施形態1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0119】
(f)上記した各実施形態において用いる工業用流量計としては、超音波流量計、電磁流量計、その他各種の工業用流量計を用ることができる。
【符号の説明】
【0120】
10…血液ポンプ(血液ポンプ実機)、11…駆動部、12…ポンプ部、13…インペラ、14…ポンプケーシング、15…流入口、16…流出口、17…メカニカルシール部、20…外部コントローラ、21…回転数測定部、22…消費電流測定部、30A、30B,30C…血液ポンプの流量推定装置、31…制御部、32…属性データ入力部、33…一般流量推定式記憶部、34…流量推定式作成部、35…流量推定式記憶部、36…流量推定部、50…血流計、100A,100B,100C…血液ポンプシステム、901…血液ポンプシステム、905…血液ポンプ、921…インペラ、934…モータ、955…センサ回路、957…血液パラメータ入力部、958…吐出流量演算部、960…粘度回転数モータ電流吐出流量関連データ記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液ポンプの流量推定方法、血液ポンプの流量推定装置、血液ポンプシステム及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
重症心疾患の治療方法の一つとして、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療が行われている。このような治療を適切に行うためには、血液ポンプの流量を正確に知ることが必要である。このため、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計、電気的インピーダンス法による血流計などの血流計を患者の体内外に設置して、体内埋め込み型の血液ポンプの流量を測定することが行われている。
しかしながら、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計などの血流計は、患者の体内に設置することが必要であり、患者への負担も大きい。このため、これらの血流計を患者の体内に設置できるのは実際上、手術後一定期間に限られることになり、その後は、これらの血流計を用いることなく血液ポンプの流量を知る方法が必要となる。
また、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計、電気的インピーダンス法による血流計などの血流計は、血流測定のための手順が実際上煩雑で患者に与える負担も大きいため、やはりこれらの血流計を用いることなく血液ポンプの流量を知る方法が必要となる。
【0003】
図14及び図15は、このような要求を満たすための従来の血液ポンプシステムを説明するために示す図である。
従来の血液ポンプシステム901は、図14及び図15に示すように、モータ934の回転力を駆動源としてインペラ921を回転させて血液を送液する血液ポンプ905と、所定液体粘度における異なる複数のインペラ回転数の複数のモータ電流吐出量関係データからなる所定粘度関連吐出流量データを異なる複数の所定粘度について記憶する粘度回転数モータ電流吐出流量関連データ記憶部960と、血液パラメータ入力部957と、インペラ921の回転数を測定するインペラ回転数測定・算出機能としてのセンサ回路955と、モータ934に供給される電流を測定するモータ電流値計測機能と、液体粘度、インペラ回転数、モータ電流及び粘度回転数モータ電流吐出流量関連データ(所定粘度関連吐出流量データテーブル。図15参照。)を用いて液体粘度、モータ電流及びインペラ回転数から液体吐出流量を演算する吐出流量演算部958とを備えている。
【0004】
このため、血液ポンプシステム901によれば、図14及び図15に示すように、インペラ回転数、モータ電流及び血液の粘度を測定し、これらの測定値と所定粘度関連吐出流量データテーブルとに基づいて血液吐出流量を演算することとしているため、血流計を用いることなく血液ポンプの流量を推定することができるようになっている。
また、血液ポンプシステム901によれば、図14及び図15に示すように、所定粘度関連吐出流量データテーブルに基づいて血液吐出流量を演算することとしている、すなわち、必要な精度を満たす最小限の個別データをデータテーブルとして記憶し、演算対象電流値等に近いデータを用いて血液吐出流量を演算することとしているため、インペラ回転数、モータ電流、血液の粘度及び血液ポンプの流量の関係式から血液吐出流量を演算する場合に比べて、正確な流量を容易に得ることができるとされている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−210572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、体内埋め込み型の血液ポンプにおいては、構造上の制約から血液ポンプ特性の個体差をなくすることは容易ではない。従って、このような血液ポンプの流量を、上記した従来の血液ポンプシステム901の方法を用いて推定した場合には、血液ポンプ特性の個体差によって、血液ポンプの流量の推定精度が低下してしまうため、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療を適切に行うことができなくなる場合が生ずるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができる血液ポンプの流量推定方法及び血液ポンプの流量推定装置を提供することを目的とする。また、このような血液ポンプの流量推定装置を備えた血液ポンプシステムを提供することを目的とする。さらにまた、このような血液ポンプの流量推定装置を実現するために必要な記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の血液ポンプの流量推定方法は、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、血液ポンプ実機におけるモータの回転数、モータの消費電流及び血液ポンプ流量並びに液体の属性データの関係を記述する流量推定情報を作成する第1ステップと、患者の体内に埋め込んだ前記血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、前記流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する第2ステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
このため、本発明の血液ポンプの流量推定方法によれば、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機毎に流量推定情報を作成し、第2ステップで、この流量推定情報に基づいて当該血液ポンプ実機についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0010】
本発明の血液ポンプの流量推定方法において、「血液ポンプ実機」とは、流量推定を行う対象となる血液ポンプのことである。
また、後述する「複数の血液ポンプ」とは、「血液ポンプ実機」と同じ規格・型番の血液ポンプのうち予め血液ポンプの特性(後述する一般流量推定情報など)を測定したり評価したりする任意の複数の血液ポンプのことである。
【0011】
また、本発明の血液ポンプの流量推定方法において、「液体」とは、流量推定情報を作成する際に、血液ポンプに流す流体のことをいい、「試験液」の場合と「患者の血液」の場合とがある。
【0012】
(2)上記(1)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、流量推定情報が流量推定式であることが好ましい。
このような方法とすることにより、この流量推定式に、第2ステップで測定されたモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを代入することにより、容易に当該血液ポンプの流量推定を行うことができる。
【0013】
(3)上記(1)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、流量推定情報が流量推定テーブルであることも好ましい。
このような方法とすることにより、第2ステップで測定されたモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZに近似する流量推定テーブルの該当箇所を参照するとともに適当な補完計算を行うことにより、容易に当該血液ポンプの流量推定を行うことができる。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記第1ステップは、血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、前記流量推定情報を作成するステップであることが好ましい。
【0015】
流量推定情報を作成するステップは本来煩雑で手間がかかるステップである。流量推定情報を作成するためには、モータの回転数及びモータの消費電流並びに液体の属性データをそれぞれ変化させて血液ポンプの流量を測定する必要があるからである。
しかしながら、上記(4)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、試験液を用いて流量推定情報を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定情報の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0016】
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記第1ステップは、複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を流量計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むものであることも好ましい。
【0017】
このような方法とすることにより、上記(4)に記載の血液ポンプの流量推定方法の場合と同様に、試験液を用いて流量推定情報を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定情報の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0018】
また、上記(5)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、本来煩雑で手間のかかる流量推定情報の作成を、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、補正情報に実機毎で得られる測定データを代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとに分け、これらのステップのうち本来煩雑で手間のかかる前者のステップを予め複数の血液ポンプを用いて行い、比較的手間のかからない後者のステップ(前者のステップのようにモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させて測定する必要がない。)を血液ポンプ実機を用いて行うようにしているため、上記(4)に記載の血液ポンプの流量推定方法に比べて、全体としてさらに容易に流量推定情報を作成することが可能になる。
【0019】
なお、補正情報を含む一般流量推定情報は、流量推定情報を作成するために必要な情報であるが、この一般流量推定情報そのものは不定項である補正情報を含むため、この一般流量推定情報に、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZについての測定データを代入しても流量を推定することはできない。
【0020】
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、 前記第1ステップは、複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに患者の血液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を血流計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むものであることも好ましい。
【0021】
このような方法とすることにより、上記(5)に記載の血液ポンプの流量推定方法の場合と同様に、本来煩雑で手間のかかる流量推定情報の作成を、補正情報を含む一般流量推定情報そのものを作成するステップと、補正情報に実機毎で得られる測定データを代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとに分け、これらのステップのうち本来煩雑で手間のかかる前者のステップを予め複数の血液ポンプを用いて行い、比較的手間のかからない後者のステップを血液ポンプ実機を用いて行うようにしているため、上記(5)に記載の血液ポンプの流量推定方法の場合と同様に、全体として容易に流量推定情報を作成することができる。
【0022】
また、上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機を用いて得られた測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成することとしているため、実機使用環境下の当該血液ポンプ実機についての流量推定情報を作成することとなるため、血液ポンプの使用環境の違いによって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0023】
また、上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機を用いて得られた測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成し、その後、この流量推定情報に基づいて当該血液ポンプ実機についての流量推定を行うことができるようになるため、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0024】
なお、補正情報を含む一般流量推定情報は、上記(5)でも説明したとおり、流量推定情報を作成するために必要な情報であるが、この一般流量推定情報そのものは不定項である補正情報を含むため、この一般流量推定情報に、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZについての測定データを代入しても流量を推定することはできない。
【0025】
(7)上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記血流計として、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計又は電気的インピーダンス法による血流計を好ましく用いることができる。
【0026】
このような血流計を用いることにより、患者に埋め込んだ血液ポンプ実機における流量を測定することが可能になり、精度よく血液ポンプの流量推定を行うことができるようになる。
【0027】
(8)上記(6)又は(7)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、第2ステップで血液ポンプの流量を推定する場合に、血流計により血液ポンプの流量測定が可能である場合には、前記第2ステップを行う際に血液ポンプの流量を血流計を用いて測定することにより、前記血液ポンプ実機における流量推定情報を更新することが好ましい。
【0028】
このような方法とすることにより、血液ポンプ特性の経時変化があっても、最新の流量推定情報に適宜更新することができるようになり、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのをさらに効果的に抑制することができるようになる。
【0029】
(9)上記(5)〜(8)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法は、前記モータがDCモータである場合に特に好ましく用いることができる。
【0030】
DCモータにおいては、モータの消費電流Iと軸トルクとが比例する関係にある。また、血液ポンプの流量Qはこの軸トルクと一次の関係にある。このため、血液ポンプの流量Qはモータの消費電流Iと一次の関係になり、補正情報を含む一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を完成するのが容易になる。
【0031】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記液体の、前記試験液の又は前記患者の血液の属性データは、前記液体の、前記試験液の又は前記患者の血液の粘度及び密度であることが好ましい。
【0032】
このような方法とすることにより、試験液や患者の血液の属性データとして粘度又は密度のいずれかだけを採用した場合と比較して、精度のよい血液ポンプの流量推定が可能になる。
【0033】
(11)上記(10)に記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記第2ステップで、「患者の血液の粘度及び密度」を測定する代わりに「患者の血液のヘマトクリット値」を測定し、このヘマトクリット値から換算して得られる「換算粘度及び換算密度」を用いて、血液ポンプの流量を推定することが好ましい。
【0034】
このような方法とすることにより、患者の血液の粘度や密度を測定することなく、ヘマトクリット値を測定するだけの簡便な方法で、血液ポンプの流量推定ができるようになる。
【0035】
(12)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法においては、前記血液ポンプがモータ回転軸の軸封のためのメカニカルシール部を有する血液ポンプである場合に特に好ましく用いることができる。
【0036】
このようにモータ回転軸の軸封のための(すなわち、ポンプ部と駆動部とのシールのための)メカニカルシール部を有する血液ポンプは、ポンプ部と駆動部とが摺動自在に、かつ、良好にシールされることになるため、ポンプ部から駆動部に血液が洩れることが極力抑制され、血栓の生成が極力抑制されるようになり、血液ポンプの停止や血液ポンプの運転状態の変化が極力抑制されるようになる。
【0037】
その一方において、このようなメカニカルシール部には所定の与圧が必要とされる。この与圧強度には比較的大きな個体差が存在するため、血液ポンプ特性にも比較的大きな個体差が存在することになる。
しかしながら、本発明の血液ポンプの流量推定方法によれば、血液ポンプ実機毎に流量推定情報を作成することとしているため、このように血液ポンプ特性に比較的大きな個体差があったとしても、このような個体差の影響をなくすることができ、結果として、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができるようになる。
【0038】
また、このようなメカニカルシール部においては、モータの姿勢等の血液ポンプの使用環境によっても実際に摺動面にかかる与圧が比較的大きく変動するため、血液ポンプ特性も比較的大きく変動する。
しかしながら、本発明の上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込まれた血液ポンプ実機から得られる測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から当該血液ポンプ実機における流量推定情報を作成することとしているため、このように血液ポンプの使用環境によって血液ポンプ特性が比較的大きく変動したとしても、このような血液ポンプ特性の変動による影響を効果的に抑制することができ、結果として、使用環境による血液ポンプ特性の変動によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0039】
また、このようなメカニカルシール部は、経時変化により摺動特性が大きく変化する摺動面を有するため、血液ポンプ特性にも大きな経時変化が存在する。
しかしながら、本発明の上記(6)に記載の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込まれた血液ポンプ実機から得られる測定データを補正情報に代入して一般流量推定情報から当該血液ポンプ実機における流量推定情報を作成することとしているため、このように血液ポンプ特性に大きな経時変化があったとしても、このような血液ポンプ特性の経時変化による影響を効果的に抑制することができ、結果として、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0040】
(13)本発明の血液ポンプの流量推定方法は、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、予め作成しておいた血液ポンプ実機における流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することを特徴とする。
【0041】
このため、本発明の血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、予め作成しておいた当該血液ポンプ実機における流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することとしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0042】
(14)本発明の血液ポンプの流量推定装置は、上記(1)〜(13)のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法によって血液ポンプの流量を推定する機能を備えた血液ポンプの流量推定装置であって、前記血液ポンプ実機における流量推定情報を記憶してなる流量推定情報記憶部と、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、前記流量推定情報記憶部に記憶された前記流量推定情報に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する流量推定部とを備えたことを特徴とする。
【0043】
このため、本発明の血液ポンプの流量推定装置によれば、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、流量推定情報記憶部に記憶された当該血液ポンプ実機における流量推定情報に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することができるため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0044】
(15)本発明の血液ポンプシステムは、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプと、この血液ポンプの動作を制御する外部コントローラとを備えた血液ポンプシステムであって、上記(14)に記載の血液ポンプの流量推定装置をさらに備えたことを特徴とする。
【0045】
このため、本発明の血液ポンプシステムによれば、上記したように優れた血液ポンプの流量推定装置を備えているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【0046】
(16)本発明の記憶媒体は、上記(14)に記載の血液ポンプの流量推定装置に用いるための記憶媒体であって、前記補正情報を含む一般流量推定情報又は前記流量推定情報を記憶してなることを特徴とする。
【0047】
このため、本発明の記憶媒体によれば、この記憶媒体を用いることによって、上記したように優れた血液ポンプの流量推定装置を実現することができるようになるため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することがなくなり、本発明の目的が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】血液ポンプを示す断面図。
【図2】実施形態1に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図3】実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【図4】流量係数と換算電流との関係をモータの回転数ごとに示す図。
【図5】血液ポンプの流量を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差をモータの回転数ごとに示す図。
【図6】モータの回転数を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差(割合)を示す図。
【図7】血液ポンプ実機の推定流量と測定流量との差を示す図。
【図8】ヘマトクリット値と血液の粘度との関係を示す図。
【図9】ヘマトクリット値と血液の密度との関係を示す図。
【図10】実施形態2に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図11】実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【図12】実施形態3に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図13】実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【図14】従来の血液ポンプシステムを説明するために示す図。
【図15】従来の血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明が適用された血液ポンプの流量推定方法、血液ポンプの流量推定装置、血液ポンプシステム及び記憶媒体について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
まず、本発明の各実施形態を説明する前に、本発明の各実施形態において用いられる血液ポンプを、図1を用いて説明する。
【0050】
図1は、本発明の各実施形態において用いられる血液ポンプを示す断面図である。この血液ポンプ10は、図1に示すように、円筒形のモータを有する駆動部11と、この駆動部11に接続されるポンプ部12とを有している。ポンプ部12は、モータの回転軸を介して駆動されるインペラ13と、このインペラ13を覆うように駆動部11に接続されるポンプケーシング14とを有している。人体における心臓の左心室内の血液が人工血管及び流入口15を経てポンプケーシング14内に流入し、インペラ13により流動エネルギーを付与された後、ポンプケーシング14の側面に設けられた流出口16及び人工血管を経て大動脈に流出するように構成されている。
【0051】
この血液ポンプ10においては、駆動部11とポンプ部12との間にはメカニカルシール部17が設けられている。このため、この血液ポンプ10によれば、ポンプ部12と駆動部11とが摺動自在に、かつ、良好にシールされることになり、ポンプ部12から駆動部11に血液が洩れることが極力抑制される。その結果、血栓の生成が極力抑制されるようになり、血液ポンプの停止や血液ポンプの運転状態の変化が極力抑制される。
その一方、この血液ポンプ10においては、メカニカルシール部17が設けられているため、血液ポンプ特性には大きな個体差、使用環境依存性、経時変化が存在するようになる。このため、このような血液ポンプ10の流量推定を精度よく行うのは容易ではなく、従って、このような血液ポンプ10を用いた重症心疾患の治療を適切に行うためには、血液ポンプの流量推定を精度よく行うことのできる血液ポンプの流量推定方法が特に求められることになる。
【0052】
各実施形態においては、この血液ポンプ10として、軸流モータの場合よりも大きな血流量がとれる遠心式の血液ポンプを用いている。また、各実施形態においては、この血液ポンプ10のインペラ13を駆動するモータとしてDCモータを用いている。
【0053】
[実施形態1]
実施形態1は、本発明の請求項6に記載された血液ポンプの流量推定方法並びにこれが適用される血液ポンプの流量推定装置及び血液ポンプシステムについての実施形態である。
図2は、本発明の実施形態1に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図である。血液ポンプシステム100Aは、図2に示すように、モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプ(血液ポンプ実機)10と、この血液ポンプ実機10の動作を制御する外部コントローラ20と、血液ポンプ実機10の流量推定を行う血液ポンプの流量推定装置30Aとを備えている。
外部コントローラ20は、血液ポンプ実機10を駆動するための駆動制御部(図示せず。)と、血液ポンプ実機10におけるメカニカルシール部の潤滑や冷却をするための循環液制御部(図示せず。)とを有し、これに加えて、モータの回転数Nを測定する回転数測定部21と、モータの消費電流Iを測定する消費電流測定部22とをさらに有している。
なお、実施形態1に係る血液ポンプシステム100Aにおいては、外部コントローラ20と血液ポンプの流量推定装置30Aとが別体として構成されているが、本発明はこれに限られず、外部コントローラが血液ポンプの流量推定機能を有するもの(図2中、20Aで示す。)であってもよい。
【0054】
血液ポンプの流量推定装置30Aは、試験液の又は患者の血液の属性データを入力するための属性データ入力部32と、モータの回転数、モータの消費電流、試験液の属性データ及び血液ポンプの流量に基づいて作成された、補正項を含む一般流量推定式を記憶する一般流量推定式記憶部33と、モータの回転数N0、モータの消費電流I0、患者の血液の属性データZ0及び血液ポンプの流量Q0についての測定データを補正項に代入して血液ポンプ実機10における流量推定式を作成する流量推定式作成部34と、流量推定式作成部34で作成された流量推定式を記憶する流量推定式記憶部35と、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、流量推定式記憶部35に記憶された流量推定式に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する流量推定部36と、これらを制御するための制御部31とを有している。また、血液ポンプ実機10の流量を測定する血流計50との接続部(図示せず。)をさらに有している。
【0055】
なお、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定装置30Aにおいては、流量推定式作成部34及び流量推定式記憶部35を備えているが、本発明はこれに限られず、これらの流量推定式作成部34及び流量推定式記憶部35を備えない血液ポンプの流量推定装置も含まれる。この場合には、流量推定部36が、一般流量推定式記憶部33に記憶された補正項を含む一般流量推定式と、測定されたモータの回転数N0、モータの消費電流I0、患者の血液の属性データZ0及び血液ポンプの流量Q0からなる測定データとから血液ポンプ実機10における流量推定式を、流量推定を行うたびに作成し、この血液ポンプ実機10における流量推定式に基づいて、血液ポンプ実機10における血液ポンプの流量Qを推定する。なお、この場合には、上記した測定データを記憶する測定データ記憶部を備えることが好ましい。
【0056】
図3は、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図である。実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法は、図3に示すように、第1ステップと第2ステップとからなっている。
【0057】
(第1ステップ)
第1ステップは、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップと、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップとからなる。
このうち、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10と同じ規格・型番を有する複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(図2では図示せず。)を用いて測定することにより、複数の血液ポンプ間における個体差が反映された補正項を含む一般流量推定式を作成するステップである。
試験液としては、例えば、水と、複数の粘度に調整された水及びグリセリンの混合溶液とを用いる。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
【0058】
また、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N0及びモータの消費電流I0並びに患者の血液の属性データZ0を(少なくとも1回)測定するとともに、そのときの血液ポンプの流量Q0を血流計50を用いて測定し、得られた測定データを補正項に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップである。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
【0059】
これらのステップのうち、一般流量推定式を作成するステップは、通常、血液ポンプ実機10の出荷前に複数の血液ポンプを用いて一括して行う。
また、これらのステップのうち、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10を患者の体内に埋め込んだ後、当該血液ポンプ実機10を用いて行う。
【0060】
(第1ステップにおける、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップ)
このステップは、複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(工業用流量計等)を用いて測定することにより、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップである。
【0061】
図4は、実施形態1に係る血液ポンプシステムにおける、血液ポンプの流量Qを規格化した流量係数φ(=血液ポンプの流量Q/(流路面積A・インペラ周速u))とモータの消費電流Iを規格化した換算電流ι(=モータの消費電流I/(試験液の密度ρ・角速度ω2))との関係を試験液の粘度μ(0.7cP,2.5cP,3.5cP,4.5cP)及びモータの回転数N(1000rpm,1400rpm,1800rpm,2200rpm)ごとに示す図である。
血液ポンプシステム100Aにおいては、図4に示すように、流量係数φは換算電流ιとほぼ一次の関係にあるため、これらのデータから最小二乗法にて一次式に近似してモータの回転数Nごとにおける関係式(1)を作成することができる。このときの各係数は試験液の粘度μの関数として表すことができる。
【0062】
ι=(C・μ+D)φ+(E・μ+F) ・・・(1)
【0063】
このとき、係数C、D、E、Fとしては、モータの回転数Nの関数として表現することができ、例えば以下のような関数とすることができる。
C(N)=−1.12×10−11N3+4.83×10−8N2−6.32×10−5N+2.76×10−2
D(N)=6.57×10−5N−9.39×10−3
E(N)=8.85×10−8N+6.34×10−4
F(N)=2.00×10−9N2−8.85×10−6N+1.38×10−2
【0064】
その後、この関係式(1)を展開することにより、以下に示す基本推定式(2)を得ることができる。
【0065】
【数1】
【0066】
図5は、血液ポンプの流量を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差をモータの回転数ごとに示す図である。図5に示すように、いずれの回転数においても、モータの消費電流における血液ポンプ実機10と任意の血液ポンプとの差は、血液ポンプ実機10の流量によらずほぼ一定であることがわかる。
図6は、モータの回転数を変化させたときのモータの消費電流における実機と任意の血液ポンプとの差(割合)を示す図である。図6に示すように、モータの消費電流における血液ポンプ実機10と任意の血液ポンプとの差(割合)は、モータの回転数によらずほぼ一定であることがわかる。
【0067】
これらより、血液ポンプの流量Qは、モータの回転数、モータの消費電流によらず、任意の血液ポンプにおける流量から所定の値だけオフセットした値となることがわかる。従って、血液ポンプ実機10を用いてこのオフセット量を測定し、基本推定式(2)による推定結果にこのオフセット量に相当する補正を加えれば、血液ポンプ実機10における、より正確な流量推定結果が得られることになる。このため、後の血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップにおける補正処理が容易になるように、基本推定式(2)に補正項を組み込んだ以下の一般流量推定式(3)を作成しておく。
【0068】
【数2】
ここで、i*、μ*、φ*は、後のステップで測定される測定データi0、μ0、φ0が代入される変数項である。
【0069】
血液ポンプシステム100Aにおいては、このようにして作成した補正項を含む一般流量推定式(3)を一般流量推定式記憶部33に記憶させておく。
【0070】
(第1ステップにおける、血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップ)
このステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに患者の血液の属性データを測定するとともに、血液ポンプの流量を血流計50を用いて測定し、得られたデータを補正項に代入して一般流量推定式(3)から血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップである。
【0071】
上記したように、血液ポンプの流量Qは、モータの回転数、モータの消費電流によらず、任意の血液ポンプにおける流量から所定の値だけオフセットした値となっている。このため、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10について、モータの回転数N0及びモータの消費電流I0並びに患者の血液の属性データZ0を(少なくとも1回)測定するとともに、そのときの血液ポンプの流量Q0を血流計50を用いて測定し、得られた測定データを、一般流量推定式(3)の補正項に代入して、血液ポンプ実機10における流量推定式(4)を作成する。
【0072】
【数3】
【0073】
血液ポンプ実機10における流量推定式(4)の作成は流量推定式作成部34で行う。そして、得られた流量推定式(4)を流量推定式記憶部35に記憶する。
【0074】
(第2ステップ)
この第2ステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、流量推定式記憶部35に記憶しておいた流量推定式(4)とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定するステップである。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
なお、モータの回転数N及びモータの消費電流Iについては、流量推定を行うたびに自動測定を行うことにより測定データを取得し、患者の血液の属性データZ(μ,φ)については、属性データ入力部32を用いて入力することにより測定データを取得する。
【0075】
図7は、適切な条件下において、流量推定式(4)を用いて推定して得られた血液ポンプ実機の推定流量と実際に流量計を用いて測定して得られた測定流量との差を示す図である。これらの差は、図7に示すように、血液ポンプの流量が10リットル/分以下の範囲においては、臨床上許容範囲と考えられる目標値(±1リットル/分)より小さい値となっており、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、血液ポンプの流量を精度よく推定できることが確認できた。
【0076】
以上、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法を説明したが、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機10について流量推定式(4)を作成し、第2ステップで、この流量推定式(4)に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0077】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10を用いて流量推定式(4)を作成することにしているため、実機使用環境下の当該血液ポンプ実機10についての流量推定式(4)を作成することとなるため、血液ポンプの使用環境の違いによって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0078】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10を用いて流量推定式(4)を作成し、その後、この流量推定式(4)に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うことができるようになるため、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができるようになる。
【0079】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、本来煩雑で手間がかかる流量推定式(4)の作成を、補正項を含む一般流量推定式(3)を作成するステップと、補正項に実機毎の測定データを代入して血液ポンプ実機における流量推定式4)を作成するステップとに分け、これらのステップのうち煩雑で手間のかかる前者のステップを予め複数の血液ポンプを用いて行い、比較的手間のかからない後者のステップを血液ポンプ実機を用いて行うようにしているため、全体として容易に流量推定式(4)を作成することが可能となる。
【0080】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、第2ステップで血液ポンプの流量を推定する場合に、血流計50により血液ポンプ実機10の流量測定が可能である場合には、第2ステップを行う際に血液ポンプ実機10の流量を血流計50を用いて測定することにより、流量推定式(4)を常に最新の流量推定式(4)に適宜更新するようにしている。このため、血液ポンプ特性の経時変化があっても、最新の流量推定式(4)を用いて血液ポンプの流量推定を行うことができるようになり、血液ポンプ特性の経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのをさらに効果的に抑制することができるようになる。
【0081】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、血流計50として、熱希釈法による血流計を用いている。この場合、血液モニタや超音波診断装置などを参照しながら、体循環系の血液がすべて血液ポンプ実機10を経由するように血液ポンプ実機10におけるモータの回転数を調節すれば、血流計50により得られた血液流量が血液ポンプ実機10における血液流量と略同等となるため、精度よく血液ポンプの流量推定を行うことができるようになる。なお、血流計50により流量の測定を行う際には、患者の体内にカテーテルを埋設する必要があるが、血液ポンプを埋め込む手術の後一定期間はこのようなカテーテルを埋め込むことは通常行われているため、患者にさらなる負担を与えることにもならない。
【0082】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、試験液や患者の血液の属性データとして粘度及び密度を用いている。このため、粘度又は密度のいずれかだけを採用した場合と比較して、精度のよい血液ポンプの流量推定が可能になる。
【0083】
実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法においては、第2ステップで患者の血液の粘度及び密度を測定する代わりに、ヘマトクリット値を測定し、このヘマトクリット値から換算して得られる換算粘度及び換算密度を用いて、血液ポンプの流量を推定することとしてもよい。このような方法とした場合には、患者の血液の粘度や密度を測定することなく、ヘマトクリット値を測定するだけの簡便な方法で、血液ポンプの流量推定ができるようになる。
【0084】
図8は、血液のヘマトクリット値と血液の粘度との関係を示す図であり、図9は、血液のヘマトクリット値と血液の密度との関係を示す図である。図8及び図9に示すように、血液のヘマトクリット値と、血液の粘度及び密度との間には、強い相関関係がある。すなわち、患者の血液においても同様に、患者の血液のヘマトクリット値Htと、患者の血液の粘度μ及び密度ρとの間には、強い相関関係があるので、患者の血液の粘度μや密度ρを測定する代わりに患者の血液のヘマトクリット値Htを測定し、この患者の血液のヘマトクリット値Htから患者の血液の粘度μ及び密度ρを換算して求めることができる。
【0085】
以上説明したように、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法は、血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制することができる、優れた血液ポンプの流量推定方法であるため、このような優れた血液ポンプの流量推定方法を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0086】
また、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定装置30Aは、上述したように血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法を用いて血液ポンプの流量推定を行なうことができるため、このような優れた血液ポンプの流量推定装置30Aを用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0087】
また、実施形態1に係る血液ポンプシステム100Aは、上述したように血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定装置30Aを備えた血液ポンプシステムであるため、このような優れた血液ポンプシステム100Aを用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0088】
さらにまた、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定装置30Aにおける一般流量推定式記憶部33に記憶させるべき一般流量推定式又は流量推定式記憶部35に記憶させるべき血液ポンプ実機10における流量推定式を所定の記憶媒体(例えばCD−ROM)に記憶させておけば、この記憶媒体に記憶させた流量推定式をコンピュータシステムに読み込ませることにより、このコンピュータシステムを血液ポンプの流量推定装置30Aとなすことができるようになる。このため、このような記憶媒体を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0089】
[実施形態2]
実施形態2は、本発明の請求項5に記載された血液ポンプの流量推定方法並びにこれが適用される血液ポンプの流量推定装置及び血液ポンプシステムについての実施形態である。
図10は、本発明の実施形態2に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図である。実施形態2に係る血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)は、図10に示すように、血流計との接続部を備えていない点を除いて、実施形態1に係る血液ポンプシステム100A(及び血液ポンプの流量推定装置30A)と同じ構成を有している。
【0090】
図11は、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図である。実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法は、図11に示すように、第1ステップと第2ステップとからなっている。
【0091】
(第1ステップ)
第1ステップは、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップと、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップとからなる。
このうち、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10と同じ規格・型番を有する複数の血液ポンプを準備し、これら複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(工業用流量計等)を用いて測定することにより、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップである。
試験液としては、例えば、水と、複数の粘度に調整された水及びグリセリンの混合溶液とを用いる。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法と同様である。
【0092】
また、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、血液ポンプ実機10におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データを測定するとともに、血液ポンプの流量を流量計を用いて測定し、得られたデータを補正項に代入して一般流量推定情報から血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップである。試験液としては、例えば、水、又は、水及びグリセリンの混合溶液を用いる。特に血液の粘度と同等の粘度となるように調整された溶液を用いるのが好ましい。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
【0093】
これらのステップのうち、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップは、実施形態1の場合と同様に、血液ポンプ実機10の出荷前に複数の血液ポンプを用いて一括して行う。
また、これらのステップのうち、血液ポンプ実機10における流量推定式を作成するステップは、実施形態1の場合とは異なり、血液ポンプ実機10の出荷前に、血液ポンプ実機10を用いて行う。
【0094】
(第2ステップ)
この第2ステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、先に作成した血液ポンプ実機10における流量推定式とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプ実機10における血液ポンプの流量Qを推定するステップである。この第2ステップは、実施形態1の場合と同様である。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
この第2ステップは、実施形態1の場合と同様に、血液ポンプ実機10を患者の体内に埋め込んだ後に行う。
【0095】
このため、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、実施形態1の場合と同様に、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機10について流量推定式を作成し、第2ステップで、この流量推定式に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0096】
また、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法の場合とは異なり、試験液を用いて流量推定式を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定式の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0097】
実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法においては、第1ステップにおける本来煩雑で手間のかかる流量推定式の作成を、補正項を含む一般流量推定式を作成するステップと、血液ポンプ実機における流量推定式を作成するステップとに分け、後者のステップを出荷前に行うようにしているため、実施形態1に係る血液ポンプの流量推定方法に比べて、全体としてさらに容易に流量推定式を作成することができるようになっている。
【0098】
以上説明したように、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定方法は、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法であるため、このような優れた血液ポンプの流量推定方法を用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0099】
また、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定装置30Bは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法を用いて血液ポンプの流量推定を行うことができるため、このような優れた血液ポンプの流量推定装置30Bを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0100】
また、実施形態2に係る血液ポンプシステム100Bは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定装置30Bを備えた血液ポンプシステムであるため、このような優れた血液ポンプシステム100Bを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0101】
さらにまた、実施形態2に係る血液ポンプの流量推定装置30Bにおける一般流量推定式記憶部33に記憶させるべき一般流量推定式又は流量推定式記憶部35に記憶させるべき血液ポンプ実機における流量推定式を所定の記憶媒体(例えばCD−ROM)に記憶させておけば、この記憶媒体に記憶させた式をコンピュータシステムに読み込ませることにより、このコンピュータシステムを血液ポンプの流量推定装置30Bとなすことができるようになる。このため、このような記憶媒体を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0102】
なお、実施形態2に係る血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)においては、一般流量推定式記憶部33及び流量推定式作成部34を省略することもできる。なぜなら、これらの各部は、出荷前に第1ステップを行う際に必要な機能であるため、出荷後の血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)においては必須ではないからである。
【0103】
[実施形態3]
実施形態3は、本発明の請求項4に記載された血液ポンプの流量推定方法並びにこれが適用される血液ポンプの流量推定装置及び血液ポンプシステムについての実施形態である。
図12は、本発明の実施形態3に係る血液ポンプシステムを説明するために示す図である。実施形態3に係る血液ポンプシステム100C(及び血液ポンプの流量推定装置30C)は、図12に示すように、一般流量推定式記憶部33及び流量推定式作成部34を備えていない点を除いて、実施形態2に係る血液ポンプシステム100B(及び血液ポンプの流量推定装置30B)と同じ構成を有している。
【0104】
図13は、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法を説明するために示す図である。実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法は、図13に示すように、第1ステップと第2ステップとからなっている。
【0105】
(第1ステップ)
第1ステップは、血液ポンプ実機10におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計(工業用流量計等)を用いて測定することにより、血液ポンプ実機10における、モータの回転数、モータの消費電流、血液ポンプの流量及び液体の属性データの関係を記述する流量推定情報としての流量推定式を作成するステップである。試験液としては、例えば、水と、複数の粘度に調整された水及びグリセリンの混合溶液とを用いる。試験液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。
この第1ステップは、通常、血液ポンプ実機10の出荷前に血液ポンプ実機毎に行う。
【0106】
(第2ステップ)
第2ステップは、患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機10におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、流量推定式とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプ実機10における血液ポンプの流量Qを推定するステップである。患者の血液の属性データとしては、粘度μ及び密度ρを用いる。実施形態1及び実施形態2の場合と同様である。
この第2ステップは、血液ポンプ実機10を患者の体内に埋め込んだ後に行う。
【0107】
このため、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、第1ステップで、流量推定を行うこととなる当該血液ポンプ実機10について流量推定式を決定し、第2ステップで、この流量推定式に基づいて当該血液ポンプ実機10についての流量推定を行うこととしているため、血液ポンプ特性の個体差によって流量推定結果の精度が劣化することを効果的に抑制することができる。
【0108】
第1ステップで流量推定式を作成するステップは、本来煩雑で手間のかかるステップである。流量推定式を決定するためには、モータの回転数及びモータの消費電流並びに液体の属性データをそれぞれ変化させて流量を測定する必要があるからである。
しかしながら、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法によれば、試験液を用いて流量推定式を作成することとしているため、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを出荷前に済ませておくことができるようになる。
また、このように煩雑で手間のかかる第1ステップを患者の体内に血液ポンプ実機を埋め込む前に行うことができるようになるため、患者への負担が大きくなることもない。
さらにまた、流量推定式の作成を血液ポンプ実機毎に行っておけば、当該血液ポンプ実機を患者の体内に埋め込んだらすぐに、当該血液ポンプ実機についての流量推定を精度よく行うことができるようになる。
【0109】
以上説明したように、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定方法は、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法であるため、このような優れた血液ポンプの流量推定方法を用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0110】
また、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定装置30Cは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定方法を用いて血液ポンプの流量推定を行うことができるため、このような優れた血液ポンプの流量推定装置30Cを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0111】
また、実施形態3に係る血液ポンプシステム100Cは、上述したように血液ポンプの個体差によって流量推定結果の精度が劣化するのを効果的に抑制できる、優れた血液ポンプの流量推定装置30Cを備えた血液ポンプシステムであるため、このような優れた血液ポンプシステム100Cを用いることによっても、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0112】
さらにまた、実施形態3に係る血液ポンプの流量推定装置30Cにおける流量推定式記憶部35に記憶させるべき流量推定式を所定の記憶媒体(例えばCD−ROM)に記憶させておけば、この記憶媒体に記憶させた流量推定式をコンピュータシステムに読み込ませることにより、このコンピュータシステムを血液ポンプの流量推定装置30Cとなすことができるようになる。このため、このような記憶媒体を用いることにより、体内埋め込み型の血液ポンプを用いた治療をより適切に行うことができるようになる。
【0113】
以上、上記した各実施形態に基づいて本発明の血液ポンプの流量推定方法及び血液ポンプシステムを説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、以下に例示するような種々の変形が可能である。
【0114】
(a)上記した各実施形態においては、流量推定情報として流量推定式(及び一般流量推定式)を用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、流量推定情報として流量推定テーブル(及び一般流量推定テーブル)を用いることができ、同様の効果を得ることができる。
【0115】
(b)上記した各実施形態においては、血液ポンプとしてメカニカルシール部を備えた血液ポンプを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、血液ポンプの個体差、使用環境依存性、経時変化があるその他の血液ポンプを用いた場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0116】
(c)上記した実施形態3においては、血液ポンプとして、DCモータを備えた血液ポンプを用いたが、DCモータに代えて他のモータを用いた血液ポンプを用いた場合にも、実施形態3の場合と同様の効果を得ることができる。
【0117】
(d)上記した各実施形態においては、血液ポンプとして遠心ポンプを用いたが、本発明はこれに限られるものではなく、その他の血液ポンプ(例えば、軸流ポンプ)を用いた場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0118】
(e)上記した実施形態1においては、血流計として熱希釈法による血流計を用いたが、この血流計に代えて他の血流計(例えば、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計、電気的インピーダンス法による血流計)を用いた場合にも、実施形態1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0119】
(f)上記した各実施形態において用いる工業用流量計としては、超音波流量計、電磁流量計、その他各種の工業用流量計を用ることができる。
【符号の説明】
【0120】
10…血液ポンプ(血液ポンプ実機)、11…駆動部、12…ポンプ部、13…インペラ、14…ポンプケーシング、15…流入口、16…流出口、17…メカニカルシール部、20…外部コントローラ、21…回転数測定部、22…消費電流測定部、30A、30B,30C…血液ポンプの流量推定装置、31…制御部、32…属性データ入力部、33…一般流量推定式記憶部、34…流量推定式作成部、35…流量推定式記憶部、36…流量推定部、50…血流計、100A,100B,100C…血液ポンプシステム、901…血液ポンプシステム、905…血液ポンプ、921…インペラ、934…モータ、955…センサ回路、957…血液パラメータ入力部、958…吐出流量演算部、960…粘度回転数モータ電流吐出流量関連データ記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、
血液ポンプ実機におけるモータの回転数、モータの消費電流及び血液ポンプの流量並びに液体の属性データの関係を記述する流量推定情報を作成する第1ステップと、
患者の体内に埋め込んだ前記血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、前記流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する第2ステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記流量推定情報が流量推定式であることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記流量推定情報が流量推定テーブルであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第1ステップは、血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、前記流量推定情報を作成するステップであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第1ステップは、
複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、
血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を流量計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第1ステップは、
複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに患者の血液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を血流計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記血流計は、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計又は電気的インピーダンス法による血流計であることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
第2ステップで血液ポンプの流量を推定する場合に、血流計により血液ポンプ実機の流量測定が可能である場合には、前記第2ステップを行う際に、血液ポンプの流量を血流計を用いて測定することにより、前記血液ポンプ実機における前記流量推定情報を更新することを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記モータがDCモータであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記液体、前記試験液又は前記患者の血液の属性データは、前記液体、前記試験液又は前記患者の血液の粘度及び密度であることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項11】
請求項10に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第2ステップで、「患者の血液の粘度及び密度」を測定する代わりに「患者の血液のヘマトクリット値」を測定し、この患者の血液のヘマトクリット値から換算して得られる「換算粘度及び換算密度」を用いて、血液ポンプの流量を推定することを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記血液ポンプがモータ回転軸の軸封のためのメカニカルシール部を有する血液ポンプであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項13】
モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、予め作成しておいた血液ポンプ実機における流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法によって血液ポンプの流量を推定する機能を備えた血液ポンプの流量推定装置であって、
前記血液ポンプ実機における流量推定情報を記憶してなる流量推定情報記憶部と、
モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、前記流量推定情報記憶部に記憶された前記流量推定情報に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する流量推定部とを備えたことを特徴とする血液ポンプの流量推定装置。
【請求項15】
モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプと、この血液ポンプの動作を制御する外部コントローラとを備えた血液ポンプシステムであって、
請求項14に記載の血液ポンプの流量推定装置をさらに備えたことを特徴とする血液ポンプシステム。
【請求項16】
請求項14に記載の血液ポンプの流量推定装置に用いるための記憶媒体であって、前記補正情報を含む一般流量推定情報又は前記流量推定情報を記憶してなることを特徴とする記憶媒体。
【請求項1】
モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、
血液ポンプ実機におけるモータの回転数、モータの消費電流及び血液ポンプの流量並びに液体の属性データの関係を記述する流量推定情報を作成する第1ステップと、
患者の体内に埋め込んだ前記血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、前記流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する第2ステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記流量推定情報が流量推定式であることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記流量推定情報が流量推定テーブルであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第1ステップは、血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、前記流量推定情報を作成するステップであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第1ステップは、
複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、
血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を流量計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第1ステップは、
複数の血液ポンプのそれぞれにおけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに試験液の属性データをそれぞれ変化させたときの血液ポンプの流量を流量計を用いて測定することにより、補正情報を含む一般流量推定情報を作成するステップと、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数及びモータの消費電流並びに患者の血液の属性データを測定するとともに血液ポンプの流量を血流計を用いて測定し、得られた測定データを補正情報に代入して前記一般流量推定情報から血液ポンプ実機における流量推定情報を作成するステップとを含むことを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記血流計は、熱希釈法による血流計、色素希釈法による血流計、電磁血流計、超音波血流計、経食道エコーによる血流計、経胸壁エコーによる血流計又は電気的インピーダンス法による血流計であることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
第2ステップで血液ポンプの流量を推定する場合に、血流計により血液ポンプ実機の流量測定が可能である場合には、前記第2ステップを行う際に、血液ポンプの流量を血流計を用いて測定することにより、前記血液ポンプ実機における前記流量推定情報を更新することを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記モータがDCモータであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記液体、前記試験液又は前記患者の血液の属性データは、前記液体、前記試験液又は前記患者の血液の粘度及び密度であることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項11】
請求項10に記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記第2ステップで、「患者の血液の粘度及び密度」を測定する代わりに「患者の血液のヘマトクリット値」を測定し、この患者の血液のヘマトクリット値から換算して得られる「換算粘度及び換算密度」を用いて、血液ポンプの流量を推定することを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法において、
前記血液ポンプがモータ回転軸の軸封のためのメカニカルシール部を有する血液ポンプであることを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項13】
モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプにおける血液ポンプの流量Qを、モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZに基づいて推定する血液ポンプの流量推定方法であって、
患者の体内に埋め込んだ血液ポンプ実機におけるモータの回転数N及びモータの消費電流I並びに患者の血液の属性データZを測定し、予め作成しておいた血液ポンプ実機における流量推定情報とこれらの値N,I,Zとに基づいて、血液ポンプの流量Qを推定することを特徴とする血液ポンプの流量推定方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の血液ポンプの流量推定方法によって血液ポンプの流量を推定する機能を備えた血液ポンプの流量推定装置であって、
前記血液ポンプ実機における流量推定情報を記憶してなる流量推定情報記憶部と、
モータの回転数N、モータの消費電流I及び患者の血液の属性データZから、前記流量推定情報記憶部に記憶された前記流量推定情報に基づいて、血液ポンプの流量Qを推定する流量推定部とを備えたことを特徴とする血液ポンプの流量推定装置。
【請求項15】
モータの回転力を駆動源として血液を送液する血液ポンプと、この血液ポンプの動作を制御する外部コントローラとを備えた血液ポンプシステムであって、
請求項14に記載の血液ポンプの流量推定装置をさらに備えたことを特徴とする血液ポンプシステム。
【請求項16】
請求項14に記載の血液ポンプの流量推定装置に用いるための記憶媒体であって、前記補正情報を含む一般流量推定情報又は前記流量推定情報を記憶してなることを特徴とする記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−119859(P2010−119859A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6454(P2010−6454)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2004−120941(P2004−120941)の分割
【原出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(392000796)株式会社サンメディカル技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2004−120941(P2004−120941)の分割
【原出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(392000796)株式会社サンメディカル技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】
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