説明

衝撃吸収性及び耐応力腐食割れ性に優れた高強度アルミニウム合金押出材及びその製造方法

【課題】衝撃吸収性、耐応力腐食割れ性及び押出性に優れた生産性の高いアルミニウム合金押出材及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】Zn成分6.0〜7.2質量%、Mg成分1.0〜1.6質量%、Cu成分0.1〜0.4質量%、Mn、Cr、Zrの群の内から少なくとも一成分以上添加され、個々の成分が0.25質量%以下で且つ合計が0.15〜0.25質量%の範囲であり、Fe成分0.20質量%以下、Si成分0.10質量%以下であり、残部が実質的にアルミニウムであるアルミニウム合金からなり、押出材断面が中空形状であるとともに押出材断面積にて再結晶率が20%以下でかつ0.2%耐力が370〜450MPaの範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のバンパーリィンホースメント、クラッシュボックス、ドアビーム部材等の衝撃吸収性構造部材に適用するのに好適なAl−Zn−Mg系の高強度アルミニウム合金押出材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al−Zn−Mg系合金は、押出加工性に優れた高強度アルミニウム合金として知られている。
しかし、従来から高強度アルミニウム合金押出材として量産化、実用化されているのは0.2%耐力値が300MPaクラスであり、自動車の軽量化を目的にさらに高強度化を図ろうとすると、押出加工性が悪くなるだけでなく、靱性が低下して衝撃により割れやすくなり、また耐応力腐食割れ性も低下することから車両の衝撃吸収性構造部材に適用できないという技術的課題があった。
また、高強度化を図る手段としてMg成分やZn成分を増加すると押出加工後の焼入れ感受性が強く押出加工後の押出材を溶体化処理し急冷するいわゆるT6処理を施さなければならず生産性が悪かった。
これに対して、特開平9−310141号公報には、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金の押出材に関し、所定の溶融開始温度になるように成分設計したプレス端焼入れによる構造材料用高強度押出材を開示する。
しかし、同公報に開示するアルミニウム合金押出材は高強度と押出生産性との両立を図ることに言及しているものの、靭性に対する検討はなされていないため、合金成分と溶融開始温度との関係式は押出材表面欠陥に着目したものであり、高靭性を確保することが難しい。
特開2002−327229号公報にはバンパー補強材等に適する圧壊特性に優れるアルミニウム合金押出を開示する。
しかし、同公報によるとプレス焼入れ時の冷却速度が300℃/minと通常のファン空冷よりも非常に大きい冷却速度である。
このような焼入れ感受性の強いアルミニウム合金ではプレス焼入れ時に均一に冷却焼入れするのが難しく、高速噴射された冷却空気が直接当たる形材の部分とそうでない部分とに冷却差が生じて、押出材にねじれ等の形状ひずみが生じてしまう問題がある。
特に押出材が中空断面である場合には、中空部の空気による断熱作用にて上記ねじれ等の形状ひずみは非常に大きいものになり製品価値が失われる恐れも高い。
【0003】
【特許文献1】特開平9−310141号公報
【特許文献2】特開2002−327229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記背景技術に内在する技術的課題に鑑みて、衝撃吸収性、耐応力腐食割れ性及び押出性に優れた生産性の高いアルミニウム合金押出材及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来の合金設計では、高強度化は材料割れが発生しやすくなり、Al−Zn−Mg系合金においても耐力と靭性とには強い負の相関があるとされていた。
本発明者らは、アルミニウム合金成分と製造条件について鋭意検討した結果、所定のZn及びMg成分にて高強度化を図りつつ、繊維状組織化成分Mn、Cr、Zrの成分範囲及び均質化(HOMO)条件の制御により高い靭性(衝撃吸収性)を得ることを見い出した。
特に驚くべきことに従来日本工業規格JIS7000系のようなAl−Zn−Mg系合金においてはZn成分の融点が比較的低いことからJIS6000系合金と異なりビレットの均質化処理温度が500℃未満でなければならないとされていたのに対して、500〜540℃の範囲にて均質化処理すると、焼入れ感受性が弱く押出加工時における押出後の空冷プレス端焼入れにて高強度が得られるのみならず、優れた高い靭性が得られることを見い出したものである。
本発明に係るアルミニウム合金押出材は、Zn成分6.0〜7.2質量%、Mg成分1.0〜1.6質量%、Cu成分0.1〜0.4質量%、Mn、Cr、Zrの群の内から少なくとも一成分以上添加され、個々の成分が0.25質量%以下で且つ合計が0.15〜0.25質量%の範囲であり、Fe成分0.20質量%以下、Si成分0.10質量%以下であり、残部が実質的にアルミニウムであるアルミニウム合金からなり、押出材断面が中空形状であるとともに押出材断面積にて再結晶率が20%以下でかつ0.2%耐力が370〜450MPaの範囲であることを特徴とする。
ここで残部が実質的にアルミニウムであるとしたのは、不純物としてFe成分0.20質量%以下、Si成分0.1質量%以下に抑える他に、本発明の趣旨の範囲内で微量のTi、B成分などが含まれてもよいとの意味である。
【0006】
アルミニウム合金押出材をバンバリインフォースメント等の衝撃吸収性構造部材に適用するには安定した衝撃特性が要求される。
Al−Zn−Mg系合金は、押出成形後に強度向上を目的にT5又はT6処理を施すことが一般であり、請求項1記載のアルミニウム合金押出材においては0.2%耐力が370〜450MPaに入るようにT5処理をする。
バンバリインフォースメント等の車両部品は、車両形状等に合わせるべく、押出材に曲げ加工等を施す場合が多く、その場合に、押出成形後にT1の状態で曲げ加工等を施し、その後にT5処理する工程を採用する。
従って、押出成形後に自然時効によりT1耐力値が変化するとT5処理後の機械的性質も変化する恐れがあり、それにより靱性が低下する場合も生じる。
本発明においてはMgZnの化学量論組成に対して過剰のMg量を0.3質量%以下に抑えることで自然時効における正の効果を抑制できることが明らかになった。
【0007】
アルミニウム合金押出材を車両部品に適用する場合に曲げ加工や車体への組付工程が必要なことから、耐応力腐食割れ性も重要な品質特性である。
本発明においては、Zn/Mg比を6.7以下に抑えることであるいは、11×[Cu成分量]+45×[Mn+Cr+Zrの成分合計]の値を8.0以上にすることで耐応力腐食割れ性が向上することも明らかになった。
【0008】
本発明に係るアルミニウム合金押出材に適した製造方法として、Zn成分6.0〜7.2質量%、Mg成分1.0〜1.6質量%、Cu成分0.1〜0.4質量%、Mn、Cr、Zrの群の内から少なくとも一成分以上添加され、個々の成分が0.25質量%以下で且つ合計が0.15〜0.25質量%の範囲であり、Fe成分0.20質量%以下、Si成分0.10質量%以下であり、残部が実質的にアルミニウムであるアルミニウム合金を用いてビレットを鋳造し、鋳造したビレットを500〜540℃の範囲で均質化処理し、押出加工及びその後空冷速度29〜80℃/minの範囲にてプレス端焼入れするのが好ましい。
ここでプレス端焼入れとは円柱ビレットを所定の温度に加熱して押出プレスを用いて直接又は間接押出すると押出ダイスから高温の押出材が押出されてくるがこの押出材をファン装置等を用いて空冷することで焼入れ効果を生じさせることをいう。
【0009】
次にアルミニウム合金成分について説明する。
Zn:6.0〜7.2質量%
Znは、主としてMgと結合し、析出強化により耐力を向上させ、6.0質量%未満では、耐力が370MPaに到達せず、7.2質量%を超えると耐応力腐食割れ性、耐食性が劣化する。
Mg:1.0〜1.6質量%
Mgは、Znと結合し、析出強化により耐力を向上させ、1.0質量%未満では耐力が370MPaに到達せず、1.6質量%を超えると押出性及び靱性を悪化させる。
ZnとMgは上記のように化合物として析出するが化学量論的にはMgZn組成になると推定されるが、このMgZn組成比に対して過剰のMgが0.3質量%を超えて存在すると押出成形後の自然時効において正の効果として作用し、時間経過とともに耐力値が上昇し、常温200時間経過にて5MPa以上の上昇となる。
T5処理後の機械的特性のバラツキは安定した衝撃吸収性の維持がしにくくなる。
Zn/Mg比は耐応力腐食割れ性に影響を与え、Zn成分6.0〜7.2質量%の範囲であってもZn/Mg比が6.7を超えると、少ない量のMg添加量でも応力腐食割れが発生しやすくなる傾向がある。
これは過剰に多いZnが偏析し、粒界と粒内との電位差が大きくなるためと推定される。
なお、Zn成分が6.0質量%でMg成分が1.6質量%のときにZn/Mg=3.75になる。
好ましいZn/Mg比は4.7以上〜6.7以下がよく、4.7未満ではMgが過剰になり過ぎ、過剰なMgが母相の格子を大きく歪ませるために変形抵抗が上昇し、押出性が低下する。
Cu:0.1〜0.4質量%
Cuは、微量の添加により粒界・粒内の電位差を緩和、耐応力腐食割れ性を改善する。また、耐力の向上にも寄与する。0.1質量%未満では効果が小さく0.4質量%を超えると押出性及び耐食性を悪化させる。
Mn,Cr,Zr:個々0.25質量%以下かつ合計0.15〜0.25質量%
Alと結合し、微細な化合物を形成することによって、再結晶を抑制し繊維状組織を得ることができる。
ここで、Mn、Cr、Zrにはそれぞれ単独でも繊維化元素として作用するが、複合的に添加する方が効果的で特にZrは焼入れ感受性への影響が小さい点で他のMn、Cr成分よりも多い方がよいがこの3成分は個々において0.25質量%未満に制御する必要があるとともに合計にて0.15質量%未満では効果が小さく、0.25質量%を超えると焼入れ感受性を強くし、空冷で十分な強度を得ることができない。また、化合物サイズも粗大となり、靱性を悪化させる。
上記のようにCu成分を0.1〜0.4質量%添加すると粒界と粒内との電位差を緩和し、Mn、Cr、Zr成分は表面再結晶深さを抑制することで耐応力腐食割れ性を向上するがその相乗効果が得られる点で、11×[Cu成分量]+45×[Mn+Cr+Zr成分合計]の値が8.0以上、望ましくは8.5以上にするのがよい。
Fe:0.20質量%以下
不回避的不純物であり、Al・Siと結合し、Al−Fe−Si系化合物を形成する。この化合物は破壊の起点となりやすく、靱性を悪化させるため、望ましくは0.10質量%以下とする。
Si:0.10質量%以下
不回避的不純物であり、Al・Feと結合し、Al−Fe−Si系化合物を形成する。この化合物は破壊の起点となりやすく、靱性を悪化させるため、望ましくは0.05質量%以下とする。
ビレットの均質化処理
均質化処理はビレット内のMg、Zn、Cu等の主成分の偏析を解消するとともに、靱性を悪化させる原因の一つである鋳造時に晶出したMn、Cr、Zr、Fe、Si系の粗大な化合物を分断・微細化するために行う。
均質化処理温度は、アルミ合金の成分(合金系)により異なり、Al−Zn−Mg系の7000系合金においては従来、450〜500℃が適正溶体化温度とされていた。
今回、主成分の偏析の解消にはこの温度域で十分であるが、晶出物を分断・微細化するためにはより高温で均質化処理することがよいことを見い出した。
従って、従来6000系に対する均質化処理温度とされていた500〜540℃の高温による均質化処理により靱性と耐力がともに向上することが明らかになった。
特にMn、Cr、Zr等偏析しやすい元素は総量を0.25質量%以下に制御しつつ、押出加工後の安定した繊維状組織を得るには、ビレット段階における均質化処理温度は高温の方がよく520℃を超えるのが理想的である。
一方、上限を540℃以下としたのは540℃を超えて所定の時間保持すると局部溶解を生じる恐れがあるからである。
また、均質化処理温度が500℃未満では、ビレット鋳造時の晶出物が充分には分断、微細化されずに靱性が低下する。
押出条件
Al−Zn−Mg系の高強度アルミニウム合金の押出成形は6000系合金に比較して押出性に劣り、押出条件も重要な因子の1つである。
ビレットの加熱温度は490〜530℃の範囲がよく、490℃未満では押出抵抗が大きいために押出加工ができなくなり、530℃を超えると耐力が低下する傾向にある。
押出金型のダイス温度は440〜500℃の範囲がよく、440℃未満では材料の温度が低下して押出ができなくなり、500℃を超えるとダイスが焼なましにより破損しやすくなる。
また、押出直後の押出材温度は580℃以下に抑えるのが好ましく、580℃を超えると押出材表面にピックアップが発生し、外観不良となりやすい。
押出材の中空断面形状
アルミニウム合金の押出成形は材料の高強度化に伴って急激に押出性が低下し、従来の0.2%耐力300MPa以上の高強度アルミニウム合金は、ソリッド(中実)断面あるいは断面ロ字形状等の比較的単純な中空断面形状の押出材しか実業上の生産ができなかった。
これに対して本発明においては、リブ3本の日字断面形状のみならず、図6に示すようなリブ4本の目字断面形状からなる中空断面押出材も実業上生産可能になる。
図6(a)に示した断面形状はa寸法が40mm<a≦75mmの場合で、b寸法がb≦120mm、リブの肉厚が3≦t≦8,1≦t≦6,1≦t31≦6,1≦t32≦6の範囲で実業生産が可能である。
図6(b)に示した断面形状はa寸法がa≦40mmの場合で、b寸法がb≦140mm、リブの肉厚が3≦t≦8,1≦t≦6,1≦t31≦6,1≦t32≦6の範囲で実業生産が可能である。
なお、図6に示した断面は模式化したもので外周リブから外側に立設リブが存在していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、Zn成分を6.0〜7.2%、Mg成分を1.0〜1.6質量%、Cu成分を0.1〜0.4質量%に設定し、σが370〜450MPa範囲に入るようにMg及びZn成分量を設定することで耐力のみならず優れた靭性及び押出性を確保することができる。
また、Zn/Mg比を6.7あるいは、11×Cu+45×(Mn+Cr+Zr)を8.0以上にすることで耐応力腐食割れ性が向上し、MgZnに対して過剰Mgを0.3質量%以下に抑えることで自然時効を抑制できる。
【0011】
特に、繊維化元素であるMn、Cr、Zrの成分量を総量で0.15〜0.25質量%に制御するとともに鋳造ビレットの均質化処理温度を500〜540℃の7000系合金としては高温に設定したことにより少ない添加量で押出材に安定した繊維状組織が発現するとともに焼入れ感受性を弱く抑えることができ、冷却速度29〜80℃/minの比較的緩やかな空冷でプレス端焼入れが可能になり、中空断面の押出材であっても形状変形を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1の表に示す、各アルミニウム合金の溶湯を調整し、直径204mmの円柱ビレットを鋳造し、図2の表中にHOMO保持温度と表示したビレットの均質化温度にて約12時間均質化処理をした。
なお、均質化処理後のビレット冷却速度は100℃/min以上であった。
次に3,000ton油圧押出プレスを用いて、図4に示すようにa=100mm×b=50mmで肉厚t=2mmの断面形状日の字形の押出材を押出加工した。
押出直後にファン空冷し、空冷後の24時間以内に95℃×4時間+150℃×7時間の2段人工時効処理(T5)したが、後述する実施例13、比較例13、14については比較の為に、ファン空冷後、常温で200時間放置した後に2段階人工時効(T5)処理した材料の耐力も評価した。
また、冷却速度は押出材が100℃以下になるまでの平均速度を示す。
図1〜3の表に示す実施例が本発明に係るアルミニウム合金押出材に相当する。
図1及び2の表中、化学成分は質量%の値を示す。
(MgZn)の値はZn成分値に対してMgZnとした場合のMg+Znの合計を示し、実際の合金におけるMg+Znの値から先のMgZnとした場合のMg+Znの値を差し引いた値を過剰Mg量として表示してある。
11×Cu+45×(Mn+Cr+Zr)の欄は11×[Cu成分量]+45×[Mn+Cr+Zrの成分合計]の値を示す。
【0013】
図3の表には図1の表に示したアルミニウム合金ビレットを用いた押出材の評価結果を示す。
実施例1〜17は本発明に係る押出材及び製造条件例を示し、比較例1〜17は下記の場合を示す。
比較例1は、Mg成分とZn成分及びMn、Cr、Zr成分の総量が下限より低い場合である。
比較例2は、Mg成分及びZn成分が上限を外れ、押出加工ができなかった。
比較例3は、ビレットの均質化温度(HOMO温度)が下限より低い場合である。
比較例4は、ビレットの均質化温度を上限を超える560℃で12時間保持したためにビレットにブリスター不具合が発生した例で、押出加工に供しなかった。
比較例5は、プレス端焼入れ速度が下限よりも遅い場合である。
比較例6は、Si、Fe成分が上限を超えた場合である。
比較例7は、Mn、Cr、Zrの総量が下限より低い場合である。
比較例8は、押出材を水焼入れによるT6処理した場合である。
比較例9は、ビレット温度が490℃未満の480℃と低く押出ができなかった。
比較例10は、押出直後の押出形材の表面温度が585℃と580℃を超えていたので材料表面にピックアップ不良が発生した。
比較例11は、ビレット温度が540℃と530℃を超えていたので押出後の押出材の温度が590℃と高くなり「ムシレ」外観不良が発生した。
比較例12は、ダイス温度が410℃と440℃未満であったので押出ができなかった。
比較例13は、Mg成分1.80で、Zn成分が7.50と7.2を超えていたので過剰Mgが0.41と0.3を超え、その結果、空冷後24時間以内のT5後の耐力が542MPaであったのが、押出後200時間放置したT5後の耐力が552MPaになり耐力が10Mpaも上昇した。
空冷後24時間以内のT5後の耐力が542MPaと450MPaより高かっために靱性が低下していた。
また、靱性が低下し、押出性も悪くなっている。
比較例14は、Mg成分1.81で、Znが5.84とこの場合もMg過剰が0.72となり、自然時効(常温×200時間)によるT5処理後の耐力上昇17MPaと高く、空冷後24時間以内のT5処理後耐力が高いため、靱性が低下した。
また、靱性が低下し、押出性も悪くなっている。
比較例15は、Zn/Mg比が7.12と6.7を超えているのでSCCの値がやや低くなっている。
比較例16及び17は11×Cu+45×(Mn+Cr+Zr)の値が8.0未満なのでSCCが悪く、再結晶率も高くなっている。
【0014】
判定方法としては機械的性質の場合に0.2%耐力(σ0.2)370MPa以上を「○」とし、押出性は4m/min以上を「○」とした。
靭性は図5に模式図を示すように、剛体治具(幅50mmで長さ150mm以上)と加圧プレートの間に押出材試験片(テストピース)を中リブが座屈方向と平行になるようにして挟み、座屈試験をした場合の荷重Fと変位Sの値から衝撃吸収量EAに基づいて図5(c)に示す試算式でf(E)値を求めた。
f(E)の値は押出材に割れが少なく粘りが高いほど高い値になり38以上の場合を判定「○」とした。
また耐応力腐食割れ性(SCC)は、それぞれ耐力相当の応力を負荷した試験片を酸化クロム36g/L、ニクロム酸カリウム30g/L、塩化ナトリウム3g/L、50℃水溶液に浸漬して、割れ発生までの時間を調査し、72時間以上を判定「○」とした。
再結晶率は押出材の断面を研磨後に再結晶部の面積比率を測定し、20%以下を「○」とした。
図12に本発明に係る押出材の断面の写真例を示す。
自然時効の正の効果の抑制は、押出空冷後24時間以内で人工時効したものの耐力に対して常温200時間経過後に人工時効したものの耐力の上昇値を評価し上昇5MPa以下を「○」とした。
過剰Mgは0.3以下を「○」と表示し、11×Cu+45×(Mn+Cr+Zr)の値は8.0以上を「○」と表示した。
【0015】
図1〜3に示した表の結果から、均質化温度を500〜540℃の高温にすることで空冷によるプレス端焼入れ及びその2段人工時効にて耐力、靭性及び耐応力腐食割れ性に優れていることが明らかになった。
図7に光学顕微鏡によるビレットの組織写真(上段100倍、下段400倍)を示し、HOMO温度480℃ではチル層(表面から厚さが1〜2mm程度)を中心に偏析物が多く、540℃では析出物が微細化している。
以下、より具体的に考察する。
比較例8に示した押出材は押出後に溶体化及び水焼入れしたT6処理材である。
T6処理すると耐力値は高くf(E)値も比較的高いが耐応力腐食割れ性(SCC)は24時間と悪くなっている。
これは焼入れ速度の速いT6処理では無析出帯(PFZ)が狭くなる為に耐力及び靭性は比較的高くなるものの、PFZ部に応力が集中し、SCC値が悪くなったと推定される。
また、実施例1〜5を比較すると、ビレットの均質化処理温(HOMO温度)が高い方がf(E)の値も高くなる傾向を示している。
これは再結晶率がほぼ同じであっても均質化処理温度が低いと鋳造時に発生したSi、Fe、Mn、Zr、Cr及びAl等との金属間化合物の晶出物が充分に分断されなかったためと推定される。
よって耐力、靭性及び耐応力腐食割れといった従来、相互に負の相関が強いとされていた物性値を共に改善するにはビレットの均質化処理温度を7000系合金としては従来想定されなかった500〜540℃の高温に設定し、かつ、押出後に冷却速度29〜80℃/minの比較的緩やかな空冷によるプレス端焼入れするのが効果であることが明らかになった。
実施例10〜17と比較例15とからZn/Mg比6.7以下でSCCが良いことが明らかになった。
なお、Zn、Mg成分とZn/Mg比の関係を図8に示す。
また、実施例10〜17と比較例16、17とから11×Cu+45×(Mn+Cr+Zr)=8.0以上でSCCが良いことも明らかになり、これを検証すべく単回帰分析した結果を図11のグラフに示す(実施例1〜17、比較例1、7、16、17)。
これは、Cu成分を添加することで結晶粒界と粒内の電位差が緩和され、Mn,Cr、Zr成分で表面再結晶深さを抑制することで、SCC性が向上するためである。
【0016】
過剰Mg量と自然時効による耐力上昇の関係を統計的に検証した結果を図9、図10に基づいて説明する。
図9に示すn〜nの化学成分からなるアルミニウム合金を製作し、押出後のファン空冷後24時間以内に人工時効したものに対する自然時効200時間経過後の人工時効による耐力上昇値を測定し、単回帰分析した結果を図10のグラフに示す。
この結果から過剰Mg量と耐力上昇に強い正の相関があることが明らかになった。
実施例13、比較例13、14、図10の結果から過剰Mg量は0.3質量%以下がよい。
【0017】
図6に例を示した目字断面形状の押出材についても評価した結果、機械的性質、SCC、押出性については日字断面形状と同様であり、靱性については、日字断面よりも高い値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アルミニウム合金の成分を示す。
【図2】ビレットの均質化温度(HOMO)及び押出条件を示す。
【図3】押出材の評価結果を示す。
【図4】評価に供した押出材の断面例を示す。
【図5】靭性の評価方法を示す。
【図6】本発明に係るアルミニウム合金押出材を用いたバンパリインフォースメント断面例を示す。
【図7】ビレットの均質化温度と組織写真例を示す。
【図8】Zn−Mg成分量とZn/Mg比の関係を示す。
【図9】化学成分と自然時効200時間後の耐力上昇値の測定結果を示す。
【図10】過剰Mgと正の効果の関係を示す。
【図11】SCCと11×Cu+45×(Mn+Cr+Zr)との回帰分析結果を示す。
【図12】本発明に係る押出材の断面顕微鏡写真例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn成分6.0〜7.2質量%、Mg成分1.0〜1.6質量%、Cu成分0.1〜0.4質量%、Mn、Cr、Zrの群の内から少なくとも一成分以上添加され、個々の成分が0.25質量%以下で且つ合計が0.15〜0.25質量%の範囲であり、Fe成分0.20質量%以下、Si成分0.10質量%以下であり、残部が実質的にアルミニウムであるアルミニウム合金からなり、押出材断面が中空形状であるとともに押出材断面積にて再結晶率が20%以下でかつ0.2%耐力が370〜450MPaの範囲であることを特徴とするアルミニウム合金押出材。
【請求項2】
MgZnなる化学量論組成に対して過剰Mg成分量が0.3質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金押出材。
【請求項3】
Zn/Mg比は6.7以下であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金押出材。
【請求項4】
11×[Cu成分量]+45×[Mn+Cr+Zr成分の合計]は8.0以上であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金押出材。
【請求項5】
Zn成分6.0〜7.2質量%、Mg成分1.0〜1.6質量%、Cu成分0.1〜0.4質量%、Mn、Cr、Zrの群の内から少なくとも一成分以上添加され、個々の成分が0.25質量%以下で且つ合計が0.15〜0.25質量%の範囲であり、Fe成分0.20質量%以下、Si成分0.10質量%以下であり、残部が実質的にアルミニウムであるアルミニウム合金を用いてビレットを鋳造し、鋳造したビレットを500〜540℃の範囲で均質化処理し、押出加工及びその後空冷速度29〜80℃/minの範囲にてプレス端焼入れすることを特徴とするアルミニウム合金押出材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−119904(P2007−119904A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209149(P2006−209149)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
【Fターム(参考)】