説明

衝撃吸収装置

【課題】限りある閉空間の容積の中で最大限に衝撃を吸収する。
【解決手段】単位固体1が複数個集積されその形状が拘束具2で拘束された吸収体3を、吸収体3の体積より広い容積をもつ閉空間6内に配置した。閉空間6を区画する壁面に加わる衝撃により先ず単位固体1が拘束具2に拘束された状態で互いに相対移動するため、摩擦抵抗により衝撃が吸収される。さらに拘束具2を変形又は破断可能に構成すれば、上記のように衝撃が吸収された後、拘束具2の拘束が解除されて単位固体1が閉空間6内を移動することで衝撃が吸収される

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ドアトリム、フロントピラー、バンパーなどの内部に配置され、衝突時などの衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、エアバッグを始めとして種々の衝撃吸収装置が提案されている。例えば実開昭48−106023号公報には、シリンダ状の液圧緩衝器を内包したステアリングホイールが開示されている。この提案は、衝撃が加わった際にピストンが液体を圧縮することで衝撃を緩和しようとするものである。
【0003】また特開昭58−53560号公報には、エアピン孔をもつ中空蛇腹状の衝撃吸収体を備えたステアリングホイールが開示されている。この提案によれば、衝撃が加わり衝撃吸収体が圧縮された際に、エアピン孔から空気を逃散させつつ空気圧縮抵抗で衝撃エネルギーを吸収することができる。したがってスプリングバック(反力)が生じることなく、衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0004】また自動車のピラーやドアトリムなどの衝撃吸収構造として、その内部空間にポリプロピレン製の発泡体や樹脂リブなどの衝撃吸収部材を配設し、衝撃吸収部材の座屈や亀裂の発生により衝撃エネルギーを吸収しようとする試みがなされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで事故時などに人体が自動車のピラーなどに衝突する際には、人体は先ずピラーガーニッシュに衝突し、ピラーガーニッシュがくぼむように変形する。その応力により、ピラーガーニッシュと車体との間の閉空間に配置された衝撃吸収部材に座屈や亀裂が生じ、これにより衝撃が吸収される。
【0006】しかしながら、ピラーガーニッシュなどの変形は人体の外形に沿うように起こり、変形に伴って人体との接触面積が増大する。そのため変形に伴って人体に対する反力が増大するという不具合がある。このような不具合を防止するには、ピラーガーニッシュなどが変形した後に人体に接触する部分の背面にも衝撃吸収部材を配置する必要がある。また衝撃の吸収効率を高くするためには、ある程度以上の体積をもつ衝撃吸収部材を配置する必要があり、それが車室内のスペースを狭くする要因となっている。
【0007】本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、限りある閉空間の容積の中で最大限に衝撃を吸収することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する本発明の衝撃吸収装置の特徴は、単位固体が複数個集積されその形状が拘束具で拘束された吸収体が吸収体の体積より広い容積をもつ実質的な閉空間内に配置されてなり、閉空間を区画する壁面に加わる衝撃により先ず単位固体が拘束具に拘束された状態で互いに相対移動することで衝撃を吸収するように構成されたことにある。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明にいう実質的な閉空間とは、少なくとも一対の壁で挟まれた空間であればよく、必ずしも全面が隔壁で囲まれた密閉空間を意味するものではない。従来のポリプロピレン製の発泡体などからなる衝撃吸収部材では、衝撃が加わるとその初期から発泡体に永久変形が生じ、それによって吸収される荷重は変形量とほぼ比例関係にある。したがって発泡体の変形量と吸収される荷重との関係は、おおよそ図2に示すように表される。
【0010】一方、本発明の衝撃吸収装置では、侵入量と吸収される荷重との関係は図1に示すようになる。すなわち点P1 で人体が閉空間を区画する壁面に衝突すると、吸収体は拘束具で形状が拘束されているため、壁面の変形により単位固体は拘束具に拘束された状態で互いに相対移動して吸収体が変形し、その際の摩擦抵抗によって衝撃荷重が吸収される。したがって変形量は僅かであっても、吸収される荷重は大きい。
【0011】また、拘束具は変形又は破断可能に構成され、先ず単位固体が拘束具に拘束された状態で互いに相対移動することで衝撃を吸収し、次いで衝撃により拘束具の拘束が解除されて単位固体が閉空間内を移動することで衝撃を吸収するように構成することが望ましい。上記のように構成すれば、吸収体の変形量が点P2 を超えると、拘束具に変形あるいは破断が生じて単位固体の拘束が解除され、吸収体の単位固体はそれぞれ閉空間内を移動可能となる。したがって単位固体が移動する際の摩擦抵抗により衝撃荷重が吸収される。また単位固体と閉空間の隔壁との摩擦抵抗によってもある程度吸収される。したがって衝撃荷重が大きくなっても吸収体の変形によってそれが吸収されるため、グラフでは点P2 から点P3 のようになり、吸収体の変形量に関わらず衝撃を吸収することができる。。
【0012】そして吸収される衝撃エネルギーの合計量は、図1のグラフで囲まれた部分の面積に相当するから、従来の図2に示すものと比べると、吸収される衝撃エネルギーの合計量が格段に大きくなる。単位固体とは、単位固体どうしの相対移動により衝撃エネルギーを吸収できるものであり、棒、粒、ブロックなどが用いられる。容易に相対移動できる形状とすることが好ましく、棒状であれば円柱状、ブロックであれば球状などとすることが望ましい。またその材質としては、樹脂、金属、木材、ゴム、セラミックスなど固体であれば特に制限されない。
【0013】吸収体は、複数の単位固体が拘束具で形状が拘束されたものであり、閉空間の形状に応じた形状とされる。拘束具としては、テープ、袋、管などが例示される。この拘束具は、衝撃が加わった後単位固体の相対移動を許容するとともにある程度まで吸収体の形状を維持するものであり、次いで吸収体の変形が限度を超えると変形あるいは破断して単位固体の移動を可能とするものである。
【0014】例えば棒状の単位固体としては、樹脂、金属木材などの棒部材が例示される。その径は配置される閉空間の容積に応じて決められるが、自動車のピラーなどに配置する場合には、車体とピラーガーニッシュとで形成される閉空間の間隔は40〜50mmとなるので、30mm程度の径が用いることができる最大径となる。30mmより大きい径の棒状の単位固体を用いると、衝撃時に単位固体どうしが相対移動できる距離及び拘束具による拘束が解除された後の変形量が小さくなり、衝撃吸収能が低下するようになる。また径があまり小さすぎても衝撃吸収能が得にくくなるので、1〜30mm程度の径とすることが好ましく、3〜10mm程度が特に好ましい。
【0015】また単位固体は、中実及び中空のどちらも用いられるが、軽量化の観点から中空状とすることが好ましい。棒状の複数の単位固体は束ねられた状態で拘束されて吸収体とされる。このようにするには、束ねられた複数の単位固体をテープや紐で巻いて拘束する方法、単位固体どうしを接着剤で接着固定する方法、束ねられた複数の単位固体を高分子フィルムなどで被覆する方法、真空パックする方法、あるいは束ねられた複数の単位固体を筒状の拘束具中に挿入して保持する方法などが例示される。またこれらの拘束具の材質としては、樹脂、紙など永久変形あるいは破断しやすいもので、ある程度の強度を有するものが望ましい。
【0016】粒状あるいはブロック状の単位固体としては、樹脂ペレット、金属、木材、砂、セラミック粒、ガラスビーズなどが例示される。その形状は球状、直方体、三角錐、卵形など任意の形状とすることができる。またその大きさは、棒状の場合と同様に配置される閉空間の容積に応じて決められ、自動車のピラーに用いる場合には1〜30mm程度の径とすることが好ましく、3〜10mm程度が特に好ましい。
【0017】粒状あるいはブロック状の複数の単位固体を吸収体とするには、真空パックする方法、接着剤又は樹脂などを含浸させて固める方法、高分子フィルムで被覆する方法、袋状の拘束具内に充填する方法などがある。これらの拘束具の材質としては、樹脂、紙など永久変形あるいは破断しやすいもので、ある程度の強度を有するものが望ましい。
【0018】拘束具で形状が拘束された吸収体を閉空間内に配置するには、接着又は溶着により閉空間の壁面に接合する方法、クリップなどで固定する方法、あるいは物理的係合による方法など、衝撃が加わるまで吸収体の形状を保持できるものであれば特に制限されない。吸収体の体積は、閉空間の容積の40〜80%であることが望ましい。吸収体の体積が閉空間の容積の40%より小さいと、衝撃時に拘束具の拘束が解除された後に単位固体が閉空間内に広く分散するため、単位固体どうしの摩擦抵抗などによる衝撃吸収能が低下する。また吸収体の体積が閉空間の容積の80%を超えると、衝撃時に拘束具の拘束が解除された後の単位固体の相対移動量が小さくなり、衝撃吸収能が低下する。
【0019】また吸収体は、少なくとも衝撃の方向に対する前後方向で閉空間の内周表面に当接して配置されていることが望ましい。これにより衝撃を直ちに吸収体に伝達することができ、衝撃吸収効率が向上する。
【0020】
【実施例】(実施例1)本発明の一実施例の衝撃吸収装置を図3に示す。この衝撃吸収装置は、複数個の棒部材(単位固体)1が束ねられてテープ(拘束具)2で形状が固定された吸収体3からなり、自動車の車体(ピラー)4とピラーガーニッシュ5の間に形成された閉空間6内に保持固定されている。
【0021】棒部材1は、直径6mm、内径3mmのパイプ形状をなし、長さはピラーガーニッシュ5とほぼ同等であり、ポリプロピレンから形成されている。吸収体3は、図4に示すように、棒部材1が複数本束ねられて閉空間6の内周形状に相当する断面略多角形状とされ、布製のテープ2により複数箇所で締結することによりその形状が拘束されている。
【0022】この吸収体3は、ピラーガーニッシュ5の組付け時に配置され、ピラーガーニッシュ5と車体4の間で挟持されて、ピラーガーニッシュ5の背面と車体4の内面に当接している。また吸収体3の体積は、閉空間6の容積の80%を占めている。このように構成された本実施例の衝撃吸収装置では、人体がピラーガーニッシュ5に衝突すると、ピラーガーニッシュ5がくぼむように変形する。その応力により吸収体3は先ずテープ2で拘束された状態で変形し、棒部材1どうしがずれるように相対移動するため、その摩擦抵抗により衝撃が吸収される。
【0023】そしてピラーガーニッシュ5に人体からさらに荷重が加わって変形がさらに進行すると、棒部材1どうしがさらに相対移動し、テープ2が破断する。これにより複数の棒部材1は拘束が解除されて閉空間6内へ広がり、その際の摩擦抵抗によって衝撃がさらに吸収される。すなわち本実施例の衝撃吸収装置によれば、吸収される荷重とピラーガーニッシュ5の変形量とをグラフ化すると、図1に示すようにテープ2が破断するまでは点P1 から点P2 のようになり、テープ2が破断した後は変形に伴って棒部材1どうしが移動して衝撃を吸収するため、変形量に関わらず衝撃荷重が吸収され、点P2 から点P3 のようになる。
【0024】したがってこのグラフで囲まれた面積は大きく、吸収される荷重の合計量が大きい。そしてピラーガーニッシュ5は変形に伴って人体との接触面積が大きくなるが、荷重はほぼ一定の割合で吸収されるため、変形に伴って人体に対する反力が増大するような不具合がない。また本実施例の衝撃吸収装置によれば、従来のように閉空間6の容積を大きくして発泡体を充填するような必要がなくなり、車室内が狭くなるのを防止することができる。
【0025】(実施例2)図5に本実施例の衝撃吸収装置を示す。この衝撃吸収装置は、吸収体3の構造が異なること以外は実施例1と同様である。本実施例の吸収体3は、2×2×3mmの大きさの多くの樹脂ペレット(単位固体)10が高分子フィルム(拘束具)20で被覆されて、実施例1と同形状の吸収体3が形成されている。
【0026】本実施例の衝撃吸収装置では、人体がピラーガーニッシュ5に衝突すると、ピラーガーニッシュ5がくぼむように変形する。その応力により吸収体3は高分子フィルム20で拘束された状態で樹脂ペレット10どうしがずれるように相対移動するため、その摩擦抵抗により衝撃が吸収される。そしてピラーガーニッシュ5に人体からさらに荷重が加わって変形すると、樹脂ペレット10どうしがさらに相対移動し、高分子フィルム20が破断する。これにより無数の樹脂ペレット10は拘束が解除されて閉空間6内へ広がり、その際の摩擦抵抗によって衝撃がさらに吸収される。
【0027】なお上記実施例では、ピラーガーニッシュ5と車体4との間で吸収体3を挟持したが、図6に示すように、吸収体3の表面に別体のクリップ30を接着などで固定しておき、車体4に設けられた取付孔40にクリップ30を嵌合により固定してもよい。なおこの場合も、吸収体3にピラーガーニッシュ5が当接するようにピラーガーニッシュ5を組み付けることが望ましい。これにより上記実施例と同様に効率よく衝撃を吸収することができる。
【0028】
【発明の効果】すなわち本発明の衝撃吸収装置によれば、限りある閉空間の容積の中で最大限に衝撃を吸収することができる。したがって自動車のピラーなどに用いれば、安全性を確保しつつ車室内を広くすることができる。また形状の自由度が高いため、吸収体を容易に閉空間の形状に応じた形状とすることができ、組付が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の衝撃吸収装置による変形量と吸収荷重の関係を示すグラフである。
【図2】従来の衝撃吸収部材による変形量と吸収荷重の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施例の衝撃吸収装置の断面図である。
【図4】本発明の一実施例の衝撃吸収装置に用いた吸収体の要部斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施例の衝撃吸収装置の断面図である。
【図6】本発明の第2の実施例の衝撃吸収装置の他の態様を示す断面図である。
【符号の説明】
1:棒部材(単位固体) 2:テープ(拘束具) 3:吸収体
4:車体 5:ピラーガーニッシュ 6:閉空間
10:ペレット(単位固体) 20:高分子フィルム(拘束具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 単位固体が複数個集積されその形状が拘束具で拘束された吸収体が該吸収体の体積より広い容積をもつ実質的な閉空間内に配置されてなり、該閉空間を区画する壁面に加わる衝撃により先ず該単位固体が該拘束具に拘束された状態で互いに相対移動することで衝撃を吸収するように構成されたことを特徴とする衝撃吸収装置。
【請求項2】 前記拘束具は変形又は破断可能に構成され、先ず前記単位固体が前記拘束具に拘束された状態で互いに相対移動することで衝撃を吸収し、次いで衝撃により前記拘束具の拘束が解除されて前記単位固体が前記閉空間内を移動することで衝撃を吸収するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収装置。
【請求項3】 前記吸収体の体積は前記閉空間の容積の40〜80%であることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収装置。
【請求項4】 前記吸収体は少なくとも衝撃の方向に対する前後方向で前記閉空間の内周表面に当接して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−274471(P2000−274471A)
【公開日】平成12年10月3日(2000.10.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−81674
【出願日】平成11年3月25日(1999.3.25)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】