説明

衝突予測装置

【課題】自車前方に存在する物体と自車とが衝突する危険性を精度良く予測可能な衝突予測装置を提供する。
【解決手段】車両前方の物体の位置を検出する物体検出手段と、車両内部または当該車両の外周面上で、且つ、当該車両の前端より後方に、物体を観測するための観測点を定める観測点設定手段と、観測点から見た物体の検出方向を示す検出角度を算出する検出角度算出手段と、検出角度の単位時間当たりの変化量を算出する変化量算出手段と、車両と物体とが衝突する危険性を変化量の値に基づいて予測する衝突判定手段とを備える、衝突予測装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突予測装置に関し、より特定的には車両に接近する物体が車両に衝突する危険性を予測する衝突予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車と車両周囲の物体との衝突の危険性を予測し、衝突の回避や乗員保護の支援を目的とした車両制御を当該予測結果に基づいて実行する装置(以下、衝突防止装置と呼称する)が開発されている。このような衝突防止装置を備えた車両において、当該装置で正確に衝突の危険性を予測できない場合、不要な車両制御が実行されて、当該車両の運転者が不快に感じることがある。
【0003】
このような課題を解決するビークル衝突警告システムが特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されるビークル衝突警告システムは、レーダーの受信機の位置を観測点として、検出された物体の角位置の変化率を算出する。検出物が自車に接触する場合、当該変化率は大きくなる。したがって、上記ビークル衝突警告システムは上記変化率の値が閾値を超えるか否かに応じて、当該物体と自車とが衝突するか否かを予測することができる。
【特許文献1】特開2000−504828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されるビークル衝突警告システムにおいて、仮に、検出物が存在する角位置がレーダーの受信機を観測点として算出されているとする。ここで、レーダーの受信機が車両の前端に取り付けられている場合、上記の観測点は車両の前端に位置する。
【0005】
上記のように車両前端に角位置の観測点が設定され、検出物が自車に衝突またはすれ違う場合、検出物の角位置の変化率が、時間とともに変化する様子を図16に示す。図16は、観測点が車両前端に設定された場合の、車両と検出物とが衝突するまでの推定時間、および角位置の変化率の関係を示すグラフである。図16に示すグラフにおいて、項目pは、車両と検出物とがすれ違う場合における当該検出物の角位置の変化率を示す。また、項目fLは、検出物が自車の右斜め前方から接近し、自車の前面左側に衝突する場合における当該検出物の角位置の変化率を示す。また、項目fRは、検出物が自車の右斜め前方から接近し、自車の前面右側に衝突する場合における角位置の変化率を示す。また、項目sFは、検出物が自車の右斜め前方から接近し、自車の右側面前方に衝突する場合における角位置の変化率を示す。また、項目sBは、検出物が自車の右斜め前方から接近し、自車の右側面前方に衝突する場合における角位置の変化率を示す。
【0006】
図16に示すように、検出物が自車のどの位置に衝突するかによって角位置の変化率の推移の様態は異なる。そして、角位置の変化率は、検出物が自車とすれ違う場合も、検出物と自車とが衝突する場合も、同様の様態で推移する場合がある。具体的には、図16に示すように、項目p、fR、sF、およびsBは何れも衝突するまでの時間が小さくなるほど指数的に大きな値となるよう推移する。ここで、特許文献1に示されるように、角位置の変化率が定められた閾値を超えた場合に自車および検出物が衝突する危険性がないと判定するものとして、自車と検出物との衝突をするためには、項目pより小さな値で閾値を設定する必要がある。しかしながら、項目sBは、実際には自車と衝突するにも拘わらず、項目pより常に大きな値で推移し続けるため、自車と検出物とが衝突しないと判定される。すなわち、従来技術では、車両に検出物が衝突するか否かを正確に予測できない場合があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、自車前方に存在する物体と自車とが衝突する危険性を精度良く予測可能な衝突予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明は、車両前方の物体の位置を検出する物体検出手段と、車両内部または当該車両の外周面上で、且つ、当該車両の前端より後方に、物体を観測するための観測点を定める観測点設定手段と、観測点から見た物体の検出方向を示す検出角度を算出する検出角度算出手段と、検出角度の単位時間当たりの変化量を算出する変化量算出手段と、車両と物体とが衝突する危険性を変化量の値に基づいて予測する衝突判定手段とを備える、衝突予測装置である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、車両の外周面のうち、物体が衝突する可能性のある外周面を衝突予想部位として推定する衝突部位推定手段と、衝突部位推定手段に推定された衝突予想部位に応じて、車両と物体とが衝突する危険性の予測に用いる閾値を設定する閾値設定手段とを、さらに備え、衝突判定手段は、変化量が閾値を満たしているか否かに応じて、車両と物体との衝突を予測する。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、車両の進行経路を算出する自車進行経路算出手段と、車両に対して相対的に移動する物体の進行経路を算出する検出物進行経路算出手段とを、さらに備え、衝突部位推定手段は、車両の進行経路および物体の進行経路に基づいて衝突予想部位を推定する。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、車両の進行経路と物体の進行経路とが互いに平行である場合、車両の前面を衝突予想部位とする。
【0012】
第5の発明は、第2の発明において、車両の進行経路と車両に対して相対的に移動する物体の進行経路との交点を衝突予想地点として推定する衝突地点推定手段を、さらに備え、衝突部位推定手段は、車両または物体の何れが先に衝突予想地点へ到達するかを判定し、当該判定結果に応じて衝突予想部位を推定する。
【0013】
第6の発明は、第5の発明において、物体が車両より先に衝突予想地点へ到達すると判定した場合、車両の前面を衝突予想部位とし、車両が物体より先に衝突予想地点へ到達すると判定した場合、車両の側面を衝突予想部位とする。
【0014】
第7の発明は、第2の発明において、車両と物体とが衝突する場合に当該衝突までに要する衝突予想時間を算出する衝突時間算出手段を、さらに備え、閾値設定手段は、衝突部位推定手段に推定された衝突予想部位および衝突時間算出手段により算出された衝突予想時間に応じて、閾値を設定する。
【0015】
第8の発明は、第7の発明において、閾値設定手段は、車両の側面が衝突予想部位である場合、衝突予想時間が短くなるほど閾値を段階的に大きな値に設定し、衝突判定手段は、変化量が閾値より大きい場合に物体と車両とが衝突すると予測し、変化量が閾値以下である場合に物体と車両とが衝突しないと予測する。
【0016】
第9の発明は、第1の発明において、観測点設定手段は、観測点を車両の後端中央に設定する。
【0017】
第10の発明は、第1の発明において、観測点設定手段は、観測点を車両の後端左隅に設定する。
【0018】
第11の発明は、第1の発明において、観測点設定手段は、観測点を車両の後端右隅に位置するよう設定する。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、車両に対向して接近する物体との衝突を予測する際、車両と物体とが衝突する場合の検出角度の単位時間当たりの変化量(以下、検出角度変化量と呼称する)の値は、当該物体が車両のどの部位に衝突する場合であっても、車両と物体とが衝突しない場合の検出角度変化量の値に比べて大きな値となる。したがって、車両と物体とが衝突する危険性を、観測変化量に基づいて正確に判定することができる。
【0020】
第2の発明によれば、物体が車両のどの部位へ衝突するかに応じて、衝突の危険性を判定するための閾値を変更することができる。したがって、車両と物体とが衝突する危険性を、適切に設定された閾値に基づいて正確に判定することができる。
【0021】
第3の発明によれば、簡単な処理で物体が衝突する可能性のある車両の部位を推定することができる。
【0022】
第4の発明によれば、簡単な処理で物体が車両の正面に衝突する可能性があることを推定することができる。
【0023】
第5の発明によれば、簡単な処理で物体が衝突する可能性のある車両の部位を推定することができる。
【0024】
第6の発明によれば、簡単な処理で物体が衝突する可能性のある車両の部位が、車両の前面であるか、または車両の側面であるか、推定することができる。
【0025】
第7の発明によれば、刻々と変化する物体および車両の状況に応じて、最適な閾値を設定することができる。
【0026】
第8の発明によれば、例えば、物体が車両の側面後方に衝突する場合など、検出角度の単位時間当たりの変化量が増加傾向となり易い軌道で物体が車両に接近する場合であっても、適切な閾値が設定されるため、当該物体と車両との衝突が正確に予測できる。
【0027】
第9の発明によれば、車両の前方から接近する物体との衝突の危険性を、より正確に判定することができる。
【0028】
第10の発明によれば、例えば、車両の右前方から接近する物体との衝突の危険性を、より正確に判定することができる。具体的には、観測点が車両の後端右隅に設定されている場合、観測点が車両の他の位置に設定されている場合に比べて、車両の右側から接近する物体および当該車両が衝突する場合の観測角変化量の値と、当該物体および当該車両が衝突しない場合の観測角変化量の値との差がより大きくなる。そのため、車両の右側から接近する物体との衝突の危険性を、観測角変化量の値に基づいて、より正確に判定することができる。
【0029】
第11の発明によれば、例えば、車両の左前方から接近する物体との衝突の危険性を、より正確に判定することができる。具体的には、観測点が車両の後端左隅に設定されている場合、観測点が車両の他の位置に設定されている場合に比べて、車両のひだ側から接近する物体および当該車両が衝突する場合の観測角変化量の値と、当該物体および当該車両が衝突しない場合の観測角変化量の値との差がより大きくなる。そのため、車両の左側から接近する物体との衝突の危険性を、観測角変化量の値に基づいて、より正確に判定することができる。
【0030】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る衝突予測装置について、図1から図15を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態では、衝突予測装置13が車両1に搭載される例について説明する。
【0031】
先ず、図1を参照して、衝突予測装置の機能構成について説明する。図1は、衝突予測装置の機能構成を示すブロック図である。図1に示すように、衝突予測装置13は車両1に搭載される。車両1は、衝突予測装置13の他に、レーダー装置10、車速計11、自車位置検出装置12、および警報装置14を備える。衝突予測装置13は、レーダー装置10、車速計11、自車位置検出装置12、および警報装置14と各々電気的に接続されている。なお、レーダー装置10、車速計11、自車位置検出装置12、衝突予測装置13、および警報装置14は何れも車両1のIG電源がオン状態である場合に動作するものとする。
【0032】
レーダー装置10は、典型的には、電磁波を放射し、車両の周囲に存在する物体からの反射波を受信して、当該物体の位置を検出するレーダー装置である。レーダー装置10は、車両1のフロントグリル内部などに配置され、車両1の前方に存在する物体を検出する。レーダー装置10は、車両1から検出物までの距離Lr、レーダー装置10から見た検出物の水平方向の方位、および検出物と車両1との相対速度Vrを測定する。レーダー装置10は、車両1から検出物までの距離、レーダー装置10から見た検出物の検出方向、および検出物の車両1との相対速度Vrを示すデータを衝突予測装置13に対して出力する。
【0033】
車速計11は、一般的に車両に搭載されている車両の走行速度を計測する装置である。車速計11は、車両1の走行速度(以下、自車速度Vsと呼称する)を計測し、当該計測値を衝突予測装置13に対して出力する。
【0034】
自車位置検出装置12は、典型的には、一般的に知られているカーナビゲーションシステムなどのGPS(Global Positioning System)を備える装置である。自車位置検出装置12は、予め地図情報を記憶し、衛星等から送信される信号に基づいて、当該地図上における車両1の絶対的な位置座標(以下、自車位置Psと呼称する)を測定する。厳密には、自車位置Psは、車両1において自車位置検出装置12が搭載されている位置を示す点である。また、自車位置検出装置12は、自車位置Psの変化方向等に基づいて車両1の進行方向Dを算出する。自車位置検出装置12は、測定した自車位置Ps、進行方向D、および自車位置Psの周囲の地図情報(以下、周囲地図と呼称する)を示すデータを衝突予測装置13に対して出力する。
【0035】
衝突予測装置13は、典型的にはマイクロコンピュータなどの情報処理装置、メモリなどの記憶装置、およびインターフェース回路などを備える処理装置である。詳細な処理の説明は後述するが、衝突予測装置13は、車両1と前方の物体との衝突をレーダー装置10から出力される上記データに基づいて予測する。ここで、衝突予測装置13は、物体の位置の変化を車両1の後端を基準点として観測し、当該観測結果に基づいて車両1と前方の物体との衝突の危険性を予測する。そして、衝突予測装置13は、車両と周囲の物体とが衝突する危険性が高いと予測した場合、警報装置14に対して、警報を発報させる指示信号を出力する。上記のように観測の基準点を車両1の後端に定めることにより、従来に比べ精度良く車両1と物体との衝突の危険性を予測することができる。
【0036】
警報装置14は、典型的にはブザーなどの音声出力装置である。警報装置14は、衝突予測装置13の指示に応じて、車両1と周囲の物体とが衝突する危険性が高い場合に警告音を発する。
【0037】
次に、図2を参照して衝突予測装置13が実行する処理の詳細について説明する。図2は、衝突予測装置13が実行する処理を示すフローチャートの一例である。衝突予測装置13は、車両のIG電源がオンになった場合に図2に示す処理を開始する。
【0038】
ステップS1において、衝突予測装置13は、IG電源がオン状態であるか否かを判定する。衝突予測装置13は、IG電源がオン状態である場合、処理をステップS2へ進める。一方、衝突予測装置13は、IG電源がオン以外の状態である場合、処理を終了する。
【0039】
上記ステップS1の処理により、衝突予測装置13は、車両1のIG電源がオン状態である間、ステップS1から以下に説明するステップS14までの処理を繰り返しループして実行する。
【0040】
ステップS2において、衝突予測装置13は、自車位置Psおよび進行方向Dを検出する。具体的には、衝突予測装置13は、自車位置検出装置12から出力される自車位置Ps、進行方向D、および周囲地図を示すデータを取得し、記憶装置に記憶する。ステップS2の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS3へ進める。
【0041】
上記ステップS2の処理がループ処理で繰り返し実行されることにより、衝突予測装置13の記憶装置には各時刻における自車位置Psおよび進行方向Dの値が記憶される。
【0042】
ステップS3において衝突予測装置13は、検出物のうち1つを選択する。以下では、本ステップS3において選択された検出物を選択検出物と呼称する。ステップS3の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS4へ進める。
【0043】
上記ステップS3の処理により、衝突予測装置13は、レーダー装置10により検出された検出物各々について以下に説明するステップS4からステップS9までの処理を実行する。
【0044】
ステップS4において、衝突予測装置13は、検出物位置Ptをマッピングする。検出物位置Ptとは、レーダー装置10により検出された検出物の周囲地図上における絶対的な位置座標である。具体的には、先ず、衝突予測装置13は、レーダー装置10により出力されるから検出物までの距離、および検出方向を取得する。次に、衝突予測装置13は、周囲地図上における選択検出物の絶対的な位置を算出する。より具体的には、衝突予測装置13は、周囲地図上の絶対的な座標で示される自車位置Psおよび進行方向Dを基準とし、自車位置Psから選択検出物を検出したレーダー装置10までの距離、当該レーダー装置10から見た選択検出物の検出方向、および検出距離に基づいて、周囲地図上における検出物位置Ptを算出し、記憶装置に記憶する。なお、自車位置Psから選択検出物を検出したレーダー装置10までの距離は既知であり、衝突予測装置13は予め当該距離を記憶しているものとする。また、自車位置Psを基準として相対的な位置関係が既知である点の絶対座標を算出する方法は、従来既知の任意の手法を用いて良い。ステップS4の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS5へ進める。
【0045】
上記ステップS4の処理がループ処理で繰り返し実行されることにより、衝突予測装置13の記憶装置には各時刻における検出物位置Ptの値が記憶される。
【0046】
ステップS5において、衝突予測装置13は、検出角度θを算出し、記憶する。以下、図3を参照し、検出角度θの定義について説明する。なお、図3は、周囲地図座標系において車両1の位置、選択検出物である車両2の位置、および車両2の検出角度を示す平面図である。図3に示す通り、本実施形態では、選択検出物として車両2が選択されている場合を例に衝突予測装置13の処理を説明する。
【0047】
先ず、衝突予測装置13は、周囲地図上での観測点Poの絶対座標を自車位置Psに基づいて算出する。観測点Poは、検出角度θを決定するための点であり、車両1の後端中央に設定される。そして、衝突予測装置13は、予め自車位置検出装置12の搭載位置と車両1の後端との相対位置関係を予め記憶装置に記憶している。したがって、衝突予測装置13は、周囲地図上における観測点Poの絶対的な座標を、自車位置Psの絶対的な座標および当該相対位置関係に基づいて算出することができる。
【0048】
次に、衝突予測装置13は、周囲地図上で検出物位置Ptおよび観測点Poを結ぶ直線(以下、検出軸線と呼称する)と、観測点Poを通り車両1を前後方向へ貫通する直線(以下、車軸線と呼称する)とが成す角度を検出角度θとして算出する。なお、説明のため、検出角度θの値は、検出軸線が車軸線と一致しているときにθ=0となるものとし、検出軸線が観測点Poを中心として車軸線より車両1の進行方向を向いて右へ回転するほど大きな値となるものとする。衝突予測装置13は、算出した検出角度θの値を記憶装置に記憶する。ステップS5の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS6へ進める。
【0049】
上記ステップS5の処理が繰り返し実行されることにより、衝突予測装置13の記憶装置には各時刻における検出角度θの値が記憶される。なお、衝突予測装置13は、新しく検出角度θの値を算出する毎に、当該時点で記憶されている検出角度θの最も古いデータを上書きし、検出角度θの値を示すデータを定められた個数だけ常に記憶するものとする。
【0050】
ステップS6において、衝突予測装置13は、検出角度変化量θvを算出する。検出角度変化量θvとは、検出角度θの単位時間当たりの変化量を示す数値である。具体的には、先ず、衝突予測装置13は、記憶装置に最も新しく記憶された検出角度の値θ1、および2番目に新しく記憶された検出角度の値θ2を、記憶装置から読み出す。衝突予測装置13は、検出角度変化量θvを、検出角度θ1および検出角度θ2の値に基づいて下記の式(1)により算出する。なお、式(1)におけるΔtは、検出角度θ2が記憶されてから検出角度θ2が記憶されるまでに要する時間を示す。なお、Δtの値は、ステップS6の処理がループして再度実行されるまでに要する処理時間を実験的に求め、当該時間をΔtの値として衝突予測装置13に予め記憶させていても良いし、衝突予測装置13にタイマー機能を備え、当該機能により測定させても構わない。
θv=(θ2−θ1)/Δt …(1)
衝突予測装置13は、ステップS6の処理を完了すると、処理をステップS7へ進める。
【0051】
ステップS7において、衝突予測装置13は、閾値設定処理のサブルーチン処理を実行する。閾値設定処理は検出角度変化量の閾値θvthを設定する処理である。詳細は後述ステップS8の処理で説明するが、衝突予測装置13は、検出角度変化量θvの値が閾値θvthを超えるか否かに応じて選択検出物と車両とが衝突するか否かを予測する。以下、図4を参照して閾値設定処理について説明する。図4は閾値設定処理を示すフローチャートの一例である。
【0052】
ステップS70において、衝突予測装置13は、衝突予想時間TTCを算出する。衝突予想時間TTCは、車両1と選択検出物とが衝突するまでに要すると推定される時間である。衝突予測装置13は、先ず、レーダー装置10から、車両1から検出物までの距離Lr、および検出物と車両1との相対速度Vrを取得する。そして、衝突予測装置13は、下記の式(2)に基づいて衝突予想時間TTCの値を算出する。
TTC=Lr/Vr …(2)
ステップS70の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS71へ進める。
【0053】
ステップS71において、衝突予測装置13は、進行角度αを算出する。進行角度αは、車両1の進行経路を示す直線と、選択検出物の進行経路を示す直線とが成す角度である。以下、車両1の進行経路を示す直線を自車進行経路線と呼称し、選択検出物の進行経路を示す直線を検出物進行経路線と呼称する。
【0054】
具体的には、先ず、衝突予測装置13は、自車進行経路線を算出する。衝突予測装置13は、例えば、周辺地図の座標系において、上述ステップS2の処理で予め記憶した最新の自車位置Psおよび当該最新の自車位置Psの直前に記憶した自車位置Psを結ぶ直線を表す直線式を自車進行経路線として算出する。次に、衝突予測装置13は、検出物進行経路線を算出する。衝突予測装置13は、例えば、周辺地図の座標系において、上述ステップS4の処理で予め記憶した最新の検出物位置Ptおよび当該最新の検出物位置Ptの直前に記憶した検出物位置Ptを結ぶ直線を表す直線式を検出物進行経路線として算出する。なお、上記の自車進行経路線および検出物進行経路線の算出方法は一例であり、車両1の進行経路を算出する方法は、従来既知の任意の手法を用いて良い。衝突予測装置13は、算出した自車進行経路線、および検出物進行経路線が成す角度を進行角度αとして、当該各線を表す直線式に基づいて算出する。
【0055】
上記処理により算出される自車進行経路線Bsおよび検出物進行経路線Btを図5に示す。なお、図5は、周囲地図座標系において車両1、車両2、自車進行経路線Bs、および検出物進行経路線Btを示す平面図である。図5に示すように自車進行経路線Bs、および検出物進行経路線Btが平行でない場合、当該各進行経路線は交差する。自車進行経路線Bsと検出物進行経路線Btとの交点を衝突予想地点Pcと呼称する。進行角度αの値は、自車進行経路線Bsおよび検出物進行経路線Btが平行であるときにα=0となり、検出物進行経路線Btが衝突予想地点Pcを中心として自車進行経路線Bsより車両1の進行方向を向いて右へ回転するほど大きな値となる。なお、検出物が静止物である場合には進行角度αの値は0として算出される。ステップS71の処理を完了すると、衝突予測装置13は処理をステップS72へ進める。
【0056】
ステップS72において、衝突予測装置13は、自車進行経路線Bsと検出物進行経路線Btとが平行であるか否かを判定する。具体的には、衝突予測装置13は、ステップS71において算出した進行角度α=0であるか否かを判定する。衝突予測装置13は、進行角度α=0である場合、自車進行経路線Bsと検出物進行経路線Btとが平行であると判定し、処理をステップS77へ進める。一方、衝突予測装置13は、進行角度α=0でない場合、自車進行経路線Bsと検出物進行経路線Btとが平行でないと判定し、衝突予測装置13は、処理をステップS73へ進める。
【0057】
上記ステップS72の処理によれば、自車進行経路線Bsと検出物進行経路線Btとが平行であると判定された場合、車両1と選択検出物とが接近して衝突するならば、選択検出物が車両1の前面に衝突する可能性があると推定することができる。また、上記ステップS72の処理によれば、車両1へ相対的に接近する検出物について、当該検出物が移動または静止しているかに拘わらず、選択検出物が車両1の前面に衝突する可能性があるか推定することができる。
【0058】
ステップS73において、衝突予測装置13は、衝突予想地点Pcを算出する。具体的には、衝突予測装置13は、周囲地図座標系において、ステップS71で算出した自車進行経路線Bsと、検出物進行経路線Btとの交点の座標を衝突予想地点Pcの座標として算出する。ステップS73の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS74へ進める。
【0059】
ステップS74において、衝突予測装置13は、自車衝突点到達時間TAsを算出する。自車衝突点到達時間TAsとは、車両1が衝突予想地点Pcへ到達するまでに要する時間である。具体的には、先ず、衝突予測装置13は、車速計11より出力される自車速度Vsを取得する。次に、周囲地図座標系において衝突予想地点Pcから自車位置Psまでの距離Ls(図5参照)を算出する。そして、衝突予測装置13は、下式(3)に基づいて自車衝突点到達時間TAsを算出する。
TAs=Ls/Vs …(3)
ステップS74の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS75へ進める。
【0060】
ステップS75において、衝突予測装置13は、検出物衝突点到達時間TAtを算出する。検出物衝突点到達時間TAtとは、選択検出物が衝突予想地点Pcへ到達するまでに要する時間である。具体的には、先ず、衝突予測装置13は、検出物速度Vtを算出する。例えば、衝突予測装置13は、ステップS4の処理により記憶された時系列の検出物位置Ptの値を微分して検出物速度Vtを算出する。次に、周囲地図座標系において衝突予想地点Pcから検出物位置Ptまでの距離Lt(図5参照)を算出する。そして、衝突予測装置13は、下式(4)に基づいて検出物衝突点到達時間TAtを算出する。
TAt=Lt/Vt …(4)
ステップS75の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS76へ進める。
【0061】
ステップS76において、衝突予測装置13は、検出物より車両1が衝突予想地点Pcに先着するか否かを判定する。具体的には、衝突予測装置13は、下式(5)で算出される自車衝突点到達時間TAsと検出物衝突点到達時間TAtとの差ΔTAの値が0より小さいか否かを判定する。
ΔTA=TAs−TAt …(5)
衝突予測装置13は、ΔTAの値が0より小さいと判定した場合、処理をステップS77へ進める。衝突予測装置13は、ΔTAの値が0以上であると判定した場合、処理をステップS78へ進める。
【0062】
上記ステップS73からステップS76の処理によれば、車両1と選択検出物の何れが先に衝突予想地点Pcへ到達するか判定することができる。ここで、車両1が先に衝突予想地点Pcに到達する場合、検出物位置Ptが衝突予想地点Pcに到達した時点で、自車位置Psは衝突予想地点Pcを通過していると考えられるため、選択検出物が車両1と衝突するならば、選択検出物は車両1の側面に衝突すると推定される。一方、選択検出物が先に衝突予想地点Pcに到達する場合、自車位置Psが衝突予想地点Pcに到達した時点で、検出物位置Ptは衝突予想地点Pcを通過していると考えられるため、車両1が選択検出物に衝突するならば、車両1は前面で選択検出物と衝突すると推定される。
【0063】
ステップS77において、衝突予測装置13は、前面衝突閾値テーブルを読み出す。前面衝突閾値テーブルとは、選択検出物が車両1の前面に衝突する可能性があると推定された場合に、衝突予測装置13が参照する閾値テーブルである。閾値テーブルとは、検出角度変化量の閾値θvthと衝突予想時間TTCとの関係を示すデータテーブルである。
【0064】
図6は、前面衝突閾値テーブルの一例を示した図である。図6に示すように閾値テーブルは、列毎に衝突予想時間TTCおよび検出角度変化量の閾値θvthの値が各々並べられたデータテーブルである。閾値テーブルにおいて、衝突予想時間TTCの値は1列目に示され、各衝突予想時間TTCの値と対応する検出角度変化量の閾値θvthの値が2列目に示される。なお、図6に示すように前面衝突閾値テーブルにおいて、閾値θvthの値は、対応する衝突予想時間TTCの値に拘わらず0.01に設定されている。詳細は後述ステップS79において説明するが、衝突予測装置13は、閾値テーブルを参照し、衝突予想時間TTCの値に対応する検出角度変化量の閾値θvthの値を特定する。衝突予測装置13は、予め複数の閾値テーブルを記憶し、選択検出物が車両1のどの面へ衝突するかに応じて読み出す閾値テーブルを切り替える。本実施形態においては、衝突予測装置13が、前面衝突閾値テーブルと側面衝突閾値テーブルの2種の閾値テーブルを予め記憶している。そして、本ステップS77では、衝突予測装置13は、記憶装置に予め記憶装置に記憶した前面衝突閾値テーブルを読み出す。ステップS77の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS79へ進める。
【0065】
一方、ステップS78において、衝突予測装置13は、側面衝突閾値テーブルを読み出す。側面衝突閾値テーブルは、選択検出物が車両1の前面に衝突する可能性があると推定された場合に、衝突予測装置13が参照する閾値テーブルである。図7は、側面衝突閾値テーブルの一例を示した図である。図6および図7に示すように、前面衝突閾値テーブルと、側面衝突閾値テーブルとでは、各々、衝突予想時間TTCに対応する検出角度変化量の閾値θvthの値が異なる。図7に示すように、側面衝突閾値テーブルでは、衝突予想時間TTCの値が小さくなるほど、対応する閾値θvthの値が段階的に大きくなる。具体的には、側面衝突閾値テーブルでは、衝突予想時間TTCの値が1.03以上である場合、対応する閾値θvthの値は0.01に設定され、衝突予想時間TTCの値が0.58以上、且つ1.02以下である場合、対応する閾値θvthの値は0.02に設定され、衝突予想時間TTCの値が0.57未満である場合、対応する閾値θvthの値は0.0381に設定される。ステップS78の処理を完了すると、衝突予測装置13は、処理をステップS79へ進める。
【0066】
ステップS79において、衝突予測装置13は、閾値テーブルおよび衝突予想時間TTCに基づいて検出角度変化量の閾値θvthを設定する。具体的には、衝突予測装置13は、ステップS77またはステップS78で読み出した何れかの閾値テーブル中の1列目で、ステップS70の処理で算出した衝突予想時間TTCの値を探索する。そして、当該衝突予想時間TTCが記された行と同じ行の2列目に記された値を、検出角度変化量の閾値θvthの値として設定する。衝突予測装置13は、ステップS79の処理を完了すると、閾値設定処理を完了して、処理を図2のステップS8の処理へ進める。
【0067】
ステップS8において、衝突予測装置13は、検出角度θvの値が閾値θvthより大きいか否かを判定する。衝突予測装置13は、検出角度θvの値が閾値θvthより大きいと判定した場合、処理をステップS9へ進める。一方、衝突予測装置13は、検出角度θvの値が閾値θvth以下であると判定した場合、処理をステップS10へ進める。
【0068】
ステップS9において、衝突予測装置13は、衝突フラグをオンにする。衝突フラグとは、当該フラグがオン状態である場合に選択検出物が車両1に衝突すると予測されたか否かを示すフラグである。衝突予測装置13は、レーダー装置10により検出された検出物毎に衝突フラグを設定し、当該フラグの状態を記憶装置に保持する。本ステップS9では、衝突予測装置13は、選択検出物の衝突フラグをオン状態に設定し、当該状態を記憶する。衝突予測装置13は、ステップS9の処理を完了すると、処理をステップS11へ進める。
【0069】
ステップS10において、衝突予測装置13は、衝突フラグをオフにする。衝突予測装置13は、選択検出物の衝突フラグをオフ状態に設定し、当該状態を記憶する。衝突予測装置13は、ステップS10の処理を完了すると、処理をステップS11へ進める。
【0070】
ステップS11において、衝突予測装置13は、全ての検出物を選択したか否かを判定する。具体的には、衝突予測装置13は、レーダー装置10により検出された全ての検出物について上記ステップS3からステップS10の処理を実行したか否かを判定する。衝突予測装置13は、全ての検出物を選択していないと判定した場合、処理をステップS3へ戻し、未選択の検出物について上記ステップS3からステップS10の処理を実行する。一方、衝突予測装置13は、全ての検出物を選択したと判定した場合、処理をステップS12へ進める。
【0071】
ステップS12において、衝突予測装置13は、何れかの検出物の衝突フラグがオンであるか否かを判定する。具体的には、衝突予測装置13は、記憶装置に記憶した各検出物の衝突フラグの状態を読み出し、何れかの検出物の衝突フラグがオンであるか否かを判定する。衝突予測装置13は、何れかの検出物の衝突フラグがオン状態である場合、処理をステップS13へ進めて警報を発報する処理を行う。一方、衝突予測装置13は、全ての検出物の衝突フラグがオフ状態である場合、処理をステップS14へ進めて警報を発報しない処理を行う。
【0072】
ステップS13において、衝突予測装置13は、警報を発報する。具体的には、衝突予測装置13は、警報装置14に対して警報を発報する指示信号(以下、警報信号と呼称する。)を継続的に出力する。警報装置14は、衝突予測装置13からの指示信号に応じて警報音を出力する。衝突予測装置13は、ステップS13の処理を完了すると処理をステップS1へ戻す。
【0073】
一方、ステップS14において、衝突予測装置13は、警報を発報しない。具体的には、衝突予測装置13は、警報装置14に対して警報信号を出力しない状態にする。警報装置14に対して警報信号を継続出力していた場合には、衝突予測装置13は、当該警報信号の出力を停止し、当該停止状態を維持する。衝突予測装置13は、ステップS14の処理を完了すると処理をステップS1へ戻す。
【0074】
上記ステップS12からステップS14の処理によれば、レーダー装置10により検出された検出物が1つでも車両1と衝突すると予測された場合には、警報音が発せられるため、運転者は、当該検出物との衝突を察知して、当該衝突を回避する操作を行うことが可能となる。
【0075】
以下、車両1に車両2が接近または衝突する場合において、上記に説明した衝突予測装置13の処理に基づいて算出される車両2の検出角度変化量θvの値が変化する様子について、図8から図14を参照して説明する。
【0076】
先ず、図8から図11を参照して、車両2が車両1とすれ違う場合、および車両2が車両1の前面に衝突する場合の、検出角度変化量θvの値の推移について説明する。なお、図8は、車両1と対向して進行する車両2が車両1の右側をすれ違う軌道W_pを示す平面図である。図9は、車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の前面左側に衝突する軌道W_fLを示す平面図である。図10は、車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の前面右側に衝突する軌道W_fRを示す平面図である。上記軌道W_p、W_fL、および軌道W_fRで示される各軌道における車両2の検出角度変化量θvの推移を図11に示す。図11は、軌道W_p、軌道W_fL、および軌道W_fRの各軌道で車両2が車両1に接近する場合の検出角度変化量θvと衝突予想時間TTCとの関係を示すグラフである。
【0077】
上記衝突予測装置13のステップS72からステップS75の処理において説明したように、検出物の進行経路と車両1の進行経路とが平行である場合、および検出物が車両1の前面に衝突する場合、前面衝突閾値テーブルに基づいて閾値θvthの値を決定する。すなわち、車両2が上記の軌道W_p、軌道W_fL、または軌道W_fRの軌道で車両1に接近または衝突する場合、衝突予測装置13は、何れの場合についても前面衝突閾値テーブルに基づいて閾値θvthの値を決定する。図11に示すグラフには、衝突予測装置13が算出した閾値θvthの値をさらに示す。図11に示すように、前面衝突閾値テーブルに基づいて定められる閾値θvthの値は、衝突予想時間TTCの値に拘わらず0.1となる。
【0078】
図11に示すグラフによれば、軌道W_pのように車両1および車両2が衝突せずにすれ違う場合、検出角度の変化量θvは、衝突予想時間TTCが小さくなるほど指数的に増加し、常に閾値θvthより大きな値となる。したがって、衝突予測装置13は、車両2が軌道W_pのように車両1と衝突せずにすれ違う場合、車両1と車両2とが衝突しないと予測し、車両2の衝突フラグをオフに設定することができる。一方で、車両2が軌道W_fL、または軌道W_fRのように車両1の前面に衝突する場合、何れの軌道であっても検出角度の変化量θvは、衝突予想時間TTCが小さくなるほど指数的に減少し、常に閾値θvthを下回る。したがって、衝突予測装置13は、軌道W_fL、または軌道W_fRのように車両1および車両2が衝突する場合、車両2の衝突フラグをオンに設定することができる。
【0079】
次に、図12から図14を参照して、車両2が車両1の側面に衝突する場合の、検出角度変化量θvの値の推移について説明する。図12は、車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の右側面前方に衝突する軌道W_sFを示す平面図である。図13は、車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の右側面後方に衝突する軌道W_sBを示す平面図である。上記軌道W_sF、および軌道W_sBで示される各軌道における車両2の検出角度変化量θvの推移を図14に示す。図14は、軌道W_sF、および軌道W_sBにおける検出角度変化量θvと衝突予想時間TTCとの関係を示すグラフである。
【0080】
上記衝突予測装置13のステップS72からステップS75の処理において説明したように、検出物が車両1の側面に衝突する場合、側面衝突閾値テーブルに基づいて閾値θvthの値を決定する。すなわち、車両2が上記軌道W_sF、または軌道W_sBで車両1に衝突する場合、衝突予測装置13は、側面衝突閾値テーブルに基づいて閾値θvthの値を決定する。図14に示すグラフには、側面衝突閾値テーブルに基づいて定められる閾値θvthの値をさらに示す。図14に示すように、側面衝突閾値テーブルに基づいて定められる閾値θvthの値は、衝突予想時間TTCの値が小さくなるほど段階的に大きな値に変化する。
【0081】
図14に示すグラフによれば、軌道W_sBのように車両2が車両1の側面に衝突する場合、衝突予想時間TTCの値が小さくなるほど検出角度変化量θvの値は大きくなり、当該変化量θvの値は0.1を超える場合がある。すなわち、前面衝突閾値テーブルに基づいて閾値θvthが設定されていたならば、車両2と車両1とが衝突するにも拘わらず、衝突予測装置13は、当該衝突をしないと予測してしまう。しかしながら、上記の通り、車両1の側面に車両2が衝突する場合、側面衝突閾値テーブルに基づいて閾値θvthが設定されるため、衝突予想時間TTCの値が小さくなるほど閾値θvthの値も大きくなる。そのため、車両2が軌道W_sBで車両1の側面に衝突する場合であっても、検出角度の変化量θvは常に閾値θvthを下回る。なお、図14に示すように、車両2が軌道W_sFで車両1の側面に衝突する場合も同様に、検出角度の変化量θvは常に閾値θvthを下回る。このように、衝突予測装置13は、車両2が軌道W_sF、または軌道W_sBのように車両1の側面に衝突する場合、車両2の衝突フラグをオンに設定することができる。
【0082】
以上に説明した通り、本実施形態に係る衝突予測装置13によれば、観測点Poを車両の後端に設定しているため、車両と検出物とがすれ違う場合と、車両と検出物とが衝突する場合とで検出角度の変化量θvの推移の様態が異なるよう算出される。故に、衝突予測装置13によれば、車両と検出物とが衝突するか否かを、検出角度の変化量θvおよび閾値θvthに基づいて精度良く予測することができる。また、上記の通り、検出物が車両1のどの位置に衝突するかに応じて閾値テーブルが切り替えられるため、衝突予測装置13は、車両2が車両1の前面または側面の何れに衝突する場合であっても、検出物が車両1に衝突するか否かをより正確に判定することができる。
【0083】
なお、上記実施形態では、衝突予測装置13が観測点Poの位置を車両の後端中央とする例について説明したが、観測点Poの位置は車両の後端中央に限らず、車両前端より車両後方側に設定されていれば良い。
【0084】
例えば、衝突予測装置13は、観測点Poの位置を図15に示すように車両の後端左隅に設定しても構わない。図15は、観測点Poが後端左隅に設定されている車両1を示す平面図である。観測点Poの位置を車両の後端左隅に設定すると、観測点Poの位置が車両後端中央である場合に比べて、車両1の右側から接近してくる検出物および車両1がすれ違う場合(上述軌道W_p)の検出角度の変化量θvと、車両1の右側から接近してくる検出物および車両が衝突する場合(上述軌道W_fL、W_fR、およびW_sF)の検出角度の変化量θvとの差がより大きくなる。したがって、衝突予測装置13は、観測点Poの位置を車両の後端左隅に設定した場合、車両1の右側に検出物が頻出する環境下、例えば、左側通行の道路上などにおいて、より精度良く車両と検出物との衝突を予測することができる。
【0085】
また、衝突予測装置13は、観測点Poの位置を車両の後端右隅に設定しても構わない。観測点Poの位置を車両の後端右隅に設定すると、観測点Poの位置が車両後端中央である場合に比べて、車両1の左側から接近してくる検出物および車両1がすれ違う場合(上述軌道W_p)の検出角度の変化量θvと、車両1の右側から接近してくる検出物および車両が衝突する場合(上述軌道W_fL、W_fR、およびW_sF)の検出角度の変化量θvとの差がより大きくなる。したがって、衝突予測装置13は、観測点Poの位置を車両後端右隅に設定した場合、車両1の左側に検出物が頻出する環境下、例えば、右側通行の道路上などでは、上記観測点Poの位置を車両後端左隅に設定した場合と同様に、より精度良く車両と検出物との衝突を予測することができる。
【0086】
上記の通り、観測点Poの位置は、車両の走行環境等に応じて車両1の後端などの適当な位置に設定されることが好ましいが、少なくとも観測点Poの位置が車両前端より車両後方側に設定されていれば、検出角度変化量θvの値が、観測点Poの位置が車両前端に設定されている場合に比べて小さな値となるため、従来に比べより精度良く車両と検出物との衝突を予測することができる。
【0087】
また、上記の実施形態では、衝突予測装置13が検出物が車両1のどの面に衝突するかに応じて閾値テーブルを切り替える例について説明したが、閾値テーブルを切り替えなくても検出物と車両1とが衝突するか否かを正確に判別可能な閾値θvthを設定可能な閾値テーブルを用意できる場合は、閾値テーブルを切り替える処理を省略しても構わない。すなわち、衝突予測装置13は、常に1つの閾値テーブルに基づいて閾値θvthを設定しても構わない。
【0088】
例えば、ステップS72からステップS73の処理を省略して、閾値θvthを、検出物が車両1のどの面に衝突するかに拘わらず常に側面衝突閾値テーブルに基づいて設定しても構わない。図14に、軌道W_pで車両2が車両1と衝突せずにすれ違う場合の検出角度変化量θvの値も合わせて示す。図14に示すように、仮に、軌道W_pのように車両1および車両2が衝突せずにすれ違う場合に閾値θvthの値が側面衝突閾値テーブルに基づいて決定されても、車両2の検出角度の変化量θvは、常に閾値θvthより大きな値となる。また、仮に、軌道W_fLおよび軌道W_fRのように車両2が車両1の前面に衝突する場合に閾値θvthの値が側面衝突閾値テーブルに基づいて決定されても、車両2の検出角度の変化量θvは、常に閾値θvthを下回る。このように、常に側面衝突閾値テーブルに基づいて閾値θvthを設定すれば、閾値テーブルを切り替えなくても検出物と車両1とが衝突するか否かを正確に判別可能な閾値θvthを設定することができる。
【0089】
また、上記実施形態では、前面衝突閾値テーブルにおいて衝突予想時間TTCの値に拘わらず閾値θvthの値が一定値となるよう設定され、側面衝突閾値テーブルにおいて閾値θvthの値が衝突予想時間TTCの値が短くなるほど段階的に大きな値に変化するよう設定される例について説明したが、各閾値テーブルにおける閾値θvthの設定は上記に限らず、各衝突予想時間TTCの値に応じた最適な閾値θvthの値を実験的に求めて設定して構わない。
【0090】
また、上記実施形態では、衝突予測装置13が自車位置検出装置12より得られる周囲地図情報に基づいて車両1および検出物の位置をマッピング処理する例について説明したが、衝突予測装置13は、周囲地図のような現実に即した地図情報を用いることなく、仮想的な地図(以下、仮想地図と呼称する。)を作成し、当該地図上に車両1および検出物の位置をマッピング処理しても構わない。すなわち、車両1は、必ずしも自車位置検出装置12を備える必要はない。このような仮想地図上でマッピング処理を行う場合、衝突予測装置13は、ステップS4において、車両1の走行速度等の移動情報、自車位置から選択検出物を検出したレーダー装置10までの距離、当該レーダー装置10から見た選択検出物の検出方向、および検出距離に基づいて、当該仮想地図上における選択検出物の絶対的な位置情報を算出する。
【0091】
また、上記実施形態では、衝突予測装置13が自車位置Psの変位に基づいて自車進行経路線Bsを算出する例について説明したが、衝突予測装置13は、検出物位置Ptだけでなく、周囲地図情報に含まれる道路情報を考慮して検出物進行経路線を算出しても構わない。例えば、車両1がカーブした道路を走行している場合、衝突予測装置13は、車両1がカーブに沿った経路を進行すると推定し、当該道路のカーブに沿った自車進行経路線Bsを算出しても良い。このように道路形状を考慮した自車進行経路線Bsを算出することによって、衝突予想地点Pcをより正確に推定し、車両1と検出物との衝突をより正確に推定することができる。
【0092】
また、上記実施形態では、衝突予測装置13が、検出物が衝突する可能性のある車両の部位が車両の前面または側面の何れであるか推定する例について説明したが、衝突予測装置13は、前面および側面に限らず、検出物が車両のどの部位に衝突するかをより詳細に判別しても構わない。例えば、衝突予測装置13は、検出物が車両1の前面に衝突すると推定した場合、検出物が車両前面の左側または右側のどちらに衝突するかをさらに推定しても構わない。また、このように検出物が衝突する可能性のある車両1の部位として2つ以上の部位を候補として推定判別する場合、衝突予測装置13は、当該候補とされる各部位に対応する閾値テーブルを複数記憶し、当該閾値テーブルを切り替える処理を行って良い。
【0093】
また、上記実施形態では、衝突予測装置13が、検出物が衝突する可能性のある車両の部位を自車進行経路線、および検出物進行経路線等に基づいて、推定する例について説明したが、衝突予測装置13は、検出物が衝突する可能性のある車両の部位を従来周知の他の手法に基づいて推定しても構わない。
【0094】
また、上記実施形態では、車両の周囲に存在する物体を検出する手段としてレーダー装置10を用いる例を示したが、車両の周囲に存在する物体を検出可能なものであれば他の装置をレーダー装置10の代わりに用いても構わない。例えば、車両周囲の画像に基づいて自車と車両周囲の物体の位置を検出可能な画像処理装置などを用いても構わない。
【0095】
また、上記実施形態では、衝突予測装置13が移動体である車両2と車両1との衝突を予測する例について説明したが、衝突予測装置13は、車両2のような移動体に限らず、静止物と車両1との衝突を上記に説明した処理に基づいて精度良く予測することが可能である。
【0096】
また、上記実施形態では、車両1が検出物と衝突すると予測された場合、警報装置14により警報を発報する例を示したが、当該予測の結果は警報装置の動作に限らず、他の機器の動作を制御するために用いられて構わない。例えば、車両1に搭載されたシートベルト装置などの安全装置や、ブレーキ装置などの制動装置を自動的に制御しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係る衝突予測装置は、自車前方に存在する物体と自車とが衝突する危険性を精度良く予測可能な衝突予測装置などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】衝突予測装置の機能構成を示すブロック図
【図2】衝突予測装置13が実行する処理を示すフローチャートの一例
【図3】周囲地図座標系において車両1の位置、検出物である車両2の位置、および車両2の検出角度を示す平面図
【図4】閾値設定処理を示すフローチャートの一例
【図5】周囲地図座標系において車両1、車両2、自車進行経路線Bs、および検出物進行経路線Btを示す平面図
【図6】前面衝突閾値テーブルの一例を示した図
【図7】側面衝突閾値テーブルの一例を示した図
【図8】車両1と対向して進行する車両2が車両1の右側をすれ違う軌道W_pを示す平面図
【図9】車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の前面左側に衝突する軌道W_fLを示す平面図
【図10】車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の前面右側に衝突する軌道W_fRを示す平面図
【図11】軌道W_p、軌道W_fL、および軌道W_fRにおける検出角度変化量θvと衝突予想時間TTCとの関係を示すグラフ
【図12】車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の右側面前方に衝突する軌道W_sFを示す平面図
【図13】車両2が車両1の右斜め前方から接近し、車両1の右側面後方に衝突する軌道W_sBを示す平面図
【図14】軌道W_sF、および軌道W_sBにおける検出角度変化量θvと衝突予想時間TTCとの関係を示すグラフ
【図15】観測点Poが後端左隅に設定されている車両1を示す平面図
【図16】観測点が車両前端に設定された場合の、車両と検出物とが衝突するまでの推定時間、および角位置の変化率の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0099】
1、2 車両
10 レーダー装置
11 車速計
12 自車位置検出装置
13 衝突予測装置
14 警報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の物体の位置を検出する物体検出手段と、
前記車両内部または当該車両の外周面上で、且つ、当該車両の前端より後方に、前記物体を観測するための観測点を定める観測点設定手段と、
前記観測点から見た前記物体の検出方向を示す検出角度を算出する検出角度算出手段と、
前記検出角度の単位時間当たりの変化量を算出する変化量算出手段と、
前記車両と前記物体とが衝突する危険性を前記変化量の値に基づいて予測する衝突判定手段とを備える、衝突予測装置。
【請求項2】
前記車両の外周面のうち、前記物体が衝突する可能性のある外周面を衝突予想部位として推定する衝突部位推定手段と、
前記衝突部位推定手段に推定された前記衝突予想部位に応じて、前記車両と前記物体とが衝突する危険性の予測に用いる閾値を設定する閾値設定手段とを、さらに備え、
前記衝突判定手段は、前記変化量が前記閾値を満たしているか否かに応じて、前記車両と前記物体との衝突を予測する、請求項1に記載の衝突予測装置。
【請求項3】
前記車両の進行経路を算出する自車進行経路算出手段と、
前記車両に対して相対的に移動する前記物体の進行経路を算出する検出物進行経路算出手段とを、さらに備え、
前記衝突部位推定手段は、前記車両の進行経路および前記物体の進行経路に基づいて前記衝突予想部位を推定する、請求項2に記載の衝突予測装置。
【請求項4】
前記衝突部位推定手段は、前記車両の進行経路と前記物体の進行経路とが互いに平行である場合、前記車両の前面を前記衝突予想部位とする、請求項3に記載の衝突予測装置。
【請求項5】
前記車両の進行経路と前記車両に対して相対的に移動する前記物体の進行経路との交点を衝突予想地点として推定する衝突地点推定手段を、さらに備え、
前記衝突部位推定手段は、前記車両または前記物体の何れが先に前記衝突予想地点へ到達するかを判定し、当該判定結果に応じて前記衝突予想部位を推定する、請求項3に記載の衝突予測装置。
【請求項6】
前記衝突部位推定手段は、前記物体が前記車両より先に前記衝突予想地点へ到達すると判定した場合、前記車両の前面を前記衝突予想部位とし、前記車両が前記物体より先に前記衝突予想地点へ到達すると判定した場合、前記車両の側面を前記衝突予想部位とする、請求項5に記載の衝突予測装置。
【請求項7】
前記車両と前記物体とが衝突する場合に当該衝突までに要する衝突予想時間を算出する衝突時間算出手段を、さらに備え、
前記閾値設定手段は、前記衝突部位推定手段に推定された前記衝突予想部位および前記衝突時間算出手段により算出された前記衝突予想時間に応じて、前記閾値を設定する、請求項2に記載の衝突予測装置。
【請求項8】
前記閾値設定手段は、前記車両の側面が前記衝突予想部位である場合、前記衝突予想時間が短くなるほど前記閾値を段階的に大きな値に設定し、
前記衝突判定手段は、前記変化量が前記閾値より大きい場合に前記物体と前記車両とが衝突すると予測し、前記変化量が前記閾値以下である場合に前記物体と前記車両とが衝突しないと予測する、請求項7に記載の衝突予測装置。
【請求項9】
前記観測点設定手段は、前記観測点を車両の後端中央に設定する、請求項1に記載の衝突予測装置。
【請求項10】
前記観測点設定手段は、前記観測点を車両の後端左隅に設定する、請求項1に記載の衝突予測装置。
【請求項11】
前記観測点設定手段は、前記観測点を車両の後端右隅に設定する、請求項1に記載の衝突予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−70047(P2010−70047A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239615(P2008−239615)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】