説明

表面形状の特徴形状抽出演算方法、及び表面形状補正演算方法

【課題】 様々な表面形状に対して比較的に容易に適用可能な特徴形状抽出演算方法及び表面形状補正演算方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 この方法は、表面形状測定装置によって測定された被測定物の表面形状を表わす表面形状測定データ点群から、該被測定物の表面形状の所要の特徴形状を表わす特徴形状データ点群を抽出する特徴形状抽出演算方法であって、前記表面形状測定データ点群によって構成される仮想表面に接触可能な二次元もしくは三次元の形状を有する仮想接触子を想定し、前記仮想表面における複数の異なる位置において該仮想接触子を該仮想表面に接触させたことを仮想したときに、各位置において該仮想接触子が接触する前記仮想表面上の1以上の接触点における前記表面形状測定データ点群の中のデータ点を抽出して前記特徴形状データ点群とする特徴形状抽出演算方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面形状測定装置で測定して得られた表面形状測定データ点群から所要の特徴形状データ点群を抽出する演算方法、及び抽出された特徴形状データ点群により表面形状測定データ点群を補正する演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の幾何学的な形状を測定する表面形状測定装置(輪郭形状測定機、真円度測定機、空間座標測定機、歯車測定機、白色干渉計、レンズ形状測定機、表面性状測定機、AFM、STM、共焦点顕微鏡、SEMなど)により測定された2次元または3次元の表面形状測定データ点群から、測定表面の形状精度や表面に形成されたパターン形状のばらつきなどを評価することが行なわれている。このような例として、機能性フィルムの表面に所定の形状のパターンが複数形成されているときの各パターンの形状のばらつきを評価する場合が挙げられる。機能性フィルムは薄くて大きな柔軟性を有するので、測定時にはフィルム全体が歪んでいる虞がある。このような歪みがある状態で測定された測定データは、当然にその歪みを含んだデータとなり、歪み成分を除去しないままではその表面上に形成されたパターンの正確な評価は難しい。従って、歪み成分を除去するような演算処理が必要となる。また別の例としては、球体表面にディンプルが形成されたゴルフボールのような形状の物体の真球度を評価する場合が挙げられる。このような物体において、ディンプル部のデータを含む測定データにより評価を行なうとディンプル部の影響により、真球度の正確な評価ができなくなるので、測定データからディンプル部を除くような演算処理が必要となる。
【0003】
上述のような、ある表面を表面形状測定装置で測定して得られた表面形状測定データ点群から所望の特徴形状を表わす特徴形状データ点群を抽出する演算方法としては、以下のようなものが知られている。
【0004】
人手による判別により表面形状測定データ点群から特徴形状データ点群を抽出する方法。この方法では、データ点数が多いときには非常に煩雑な作業となり、また人による判断であるためその判断基準に個人差があり、評価が安定しないという問題がある。
【0005】
一定の閾値を設定して、この閾値により特徴形状データ点群を抽出する方法。この方法では、例えば先の機能性フィルムの例の場合で、フィルムの歪みの大きさが形成されたパターンの深さよりも大きいような場合には、単純な閾値の設定では特徴形状データ点群をうまく分離できないという問題がある。
【0006】
表面形状測定データ点群を二次微分演算して、その結果として現れるピークの位置及び大きさから表面に形成されたパターンのエッジを検出する方法(特許文献1)。この方法では、表面部とパターン部との境界が緩やかに変化しているような場合には、その境界を適切に判別することが困難となり、適用できる表面形状が限られる。
【0007】
表面形状測定データ点群に対してデジタルフィルタ処理を施して特徴形状データ点群を抽出する方法。適用されるこの種のデジタルフィルタとしては、ガウシアンフィルタがよく知られている(特許文献2)。この方法では、演算が複雑となり、また演算回数が比較的に多くなる傾向があり、特に3次元の表面形状測定データ点群に対してフィルタ処理を行なう場合には演算時間が非常に長くなり計算負荷が大きくなってしまうという問題がある。また、様々な表面形状を表わす表面形状測定データ点群に対して最適なフィルタを選択することは容易でない場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−292732号
【特許文献2】特開2006−64617号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本願発明は、上述の種々の問題を解決し、様々な表面形状を表わす表面形状測定データ点群に対して比較的に容易に適用可能な特徴形状抽出演算方法及び表面形状補正演算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、
表面形状測定装置によって測定された被測定物の表面形状を表わす表面形状測定データ点群から、該被測定物の表面形状の所要の特徴形状を表わす特徴形状データ点群を抽出する特徴形状抽出演算方法であって、
前記表面形状測定データ点群によって構成される仮想表面に接触可能な二次元もしくは三次元の形状を有する仮想接触子を想定し、前記仮想表面における複数の異なる位置において該仮想接触子を該仮想表面に接触させたことを仮想したときに、各位置において該仮想接触子が接触する前記仮想表面上の1以上の接触点における前記表面形状測定データ点群の中のデータ点を抽出して前記特徴形状データ点群とする特徴形状抽出演算方法を提供する。
【0011】
この方法では、例えば円や球などの二次元又は三次元の仮想接触子を、表面形状測定データ点群によって構成される仮想表面にその複数の異なる位置で接触させて、そのときの接触点が仮想表面の特徴形状を表わしているとして、その接触点におけるデータ点を抽出するものであり、仮想接触子を、特徴形状としては抽出したくない、例えば仮想表面の凹みなどに接触しないようなものとすることにより、所要の特徴形状を表す特徴形状データ点群を抽出するものである。従来技術におけるデジタルフィルタに対応する役割を果たすこの仮想接触子は、仮想表面の形状との関係で、視覚的又は直感的な判断によりその形状寸法を設定することができ、その設定が従来のデジタルフィルタのパラメータ設定に比べて容易となる。
【0012】
上記本発明に係る方法は、以下のように規定することもできる。
表面形状測定装置によって測定された被測定物の表面形状を表わす表面形状測定データ点群から、該被測定物の表面形状の所要の特徴形状を表わす特徴形状データ点群を抽出する特徴形状抽出演算方法であって、
(a)前記表面形状測定データ点群によって構成される前記仮想表面に接触させたときに、前記仮想表面内の前記特徴形状に関係しない部分とは接触しないような寸法形状とされた仮想接触子を設定するステップと、
(b)前記表面形状測定データ点群の中から任意のデータ点を選択し、該データ点を接触中心データ点として設定するステップと、
(c)前記接触中心データ点に対して前記仮想接触子の仮想接触方向を設定するステップと、
(d)前記仮想接触子が前記仮想接触方向に延びる軸線上に位置付けされるように、前記表面形状測定データ点群に対する前記仮想接触子の相対位置を設定するステップと、
(e)前記仮想表面に前記仮想接触子が接触した状態となるように前記仮想接触子を前記仮想接触方向で移動させたときに、前記仮想接触子が接触することになる前記仮想表面の接触部分を表わしているデータ点を接触点データ点として前記表面形状測定データ点群から抽出するステップと、
(f)前記接触中心データ点を前記表面形状測定データ点群の中の別のデータ点に順次置き換えて前記(c)乃至(e)の各ステップを所定回数繰り返し、複数の前記接触点データ点を前記表面形状測定データ点群から抽出して前記特徴形状データ点群とするステップと、
を含む、特徴形状抽出演算方法。
【0013】
ここで「仮想接触方向」とは、上記から分かるように、仮想表面から離れた位置に想定する仮想接触子を仮想表面に接触させるための当該仮想接触子の移動方向を意味する。この点については、後述する実施例の説明でも述べる。
【0014】
より具体的には、前記(e)のステップは、前記仮想接触子を前記相対位置に配置したときの、前記表面形状測定データ点群の前記接触中心データ点及びその周囲のデータ点の各点から前記仮想接触子までの前記仮想接触方向とは逆方向での各距離を求め、該各距離のうちの最小距離を構成するデータ点を接触点データ点として抽出するステップであるようにすることができる。
【0015】
または、
前記相対位置は、前記仮想接触子と前記仮想表面が重なり合わずに離れている位置であり、
前記(e)のステップは、
(e−1)前記仮想接触子を前記相対位置に配置し、該仮想接触子が前記表面形状測定データ点群のいずれかのデータ点を越えるまで前記仮想接触子の位置を所定の第1間隔ずつ前記仮想接触方向に移動させるステップと、
(e−2)前記仮想接触子の位置を前記第1間隔分だけ前記仮想接触方向とは逆方向に移動するステップと、
(e−3)該仮想接触子が前記表面形状測定データ点群のいずれかのデータ点を越えるまで前記仮想接触子の位置を前記第1間隔よりも短い第2間隔ずつ前記仮想接触方向に移動させるステップと、
を含み、前記仮想接触子が前記仮想接触方向で越えているデータ点を接触点データ点として抽出するステップであるようにすることもできる。
【0016】
これらの演算は、比較的に単純な演算であるので、演算負荷を小さくすることができ、従って演算時間を短くすることができる。また、コンピュータや回路への実装も容易となる。
【0017】
また、前記仮想接触方向は一定の方向であるようにすることができる。
【0018】
接触中心データ点を決める毎に仮想接触方向を設定する必要がないので、測定点データ点の抽出に係る演算負荷をさらに低減することができ、より高速な演算を実現することが可能となる。
【0019】
さらには、前記仮想接触方向は前記接触中心データ点とその周囲のデータ点とで構成される接触対象面の前記接触中心データ点における法線方向であるようにすることができる。
【0020】
特に表面の概形が複雑に変化している場合には、接触対象面の接触中心データ点における法線方向を仮想接触方向に設定するようにすることで、各接触中心データ点に対する仮想接触方向をより適切に設定することができるので、接触点データ点の抽出をより安定して行なうことが可能となる。
【0021】
具体的には、前記その周囲のデータ点は、前記仮想接触子を前記仮想接触方向の向きで前記表面形状測定データ点群上に投影したときに、該投影された面内に含まれるデータ点であるようにすることができる。
【0022】
このように仮想接触子との距離を求めるデータ点の範囲を決めることで、接触点の候補となるデータ点を過不足なく選択することができるので、不必要な演算が低減されると共に、誤った接触点が抽出される可能性が低減される。
【0023】
好ましくは、前記仮想接触子は円形又は球形とすることができる。
【0024】
より好ましくは、前記特徴形状データ点群に基づいて特徴形状を生成するステップをさらに含むようにすることができる。
【0025】
さらに具体的には、前記特徴形状を生成するステップは、前記特徴形状データ点群に対して曲線当てはめ処理を行なうことによってなされるようにすることができる。
【0026】
このような処理を行なうことで通常は不規則な間隔となる特徴形状データ点群のデータ間を補間して特徴形状を連続した曲線又は曲面とすることができるので、特徴形状の評価をより正確に行なうことができるようになる。
【0027】
また本発明は、上述の特徴形状抽出演算方法によって生成した前記特徴形状に基づいて前記表面形状測定データ点群を補正処理して表面形状補正データ点群を導出するステップを含むようにすることができる。
【0028】
より具体的には、前記補正処理は、前記表面形状測定データ点群から前記特徴形状を減算する処理であるようにすることができる。
【0029】
このような処理により、例えば、仮想表面の歪みやうねりの成分等を取り除くことができるので、表面に形成された特定のパターンなどをうねりの影響を受けないかたちでより正確に評価することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る方法のフローチャートである。
【図2a】本発明の第1の実施例の仮想表面を示す図である。
【図2b】本発明の第1の実施例の仮想接触子を示す図である。
【図2c】本発明の第1の実施例の特徴形状データ点群を示す図である。
【図2d】本発明の第1の実施例の特徴形状を示す図である。
【図2e】本発明の第1の実施例の補正後の表面形状測定データ点群を示す図である。
【図3a】特徴形状データ点群を抽出する第1の計算アルゴリズムを示す第1の図である。
【図3b】特徴形状データ点群を抽出する第1の計算アルゴリズムを示す第2の図である。
【図3c】特徴形状データ点群を抽出する第1の計算アルゴリズムを示す第3の図である。
【図3d】特徴形状データ点群を抽出する第1の計算アルゴリズムを示す第4の図である。
【図4a】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第1の図である。
【図4b】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第2の図である。
【図4c】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第3の図である。
【図4d】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第4の図である。
【図4e】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第5の図である。
【図4f】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第6の図である。
【図4g】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第7の図である。
【図4h】特徴形状データ点群を抽出する第2の計算アルゴリズムを示す第8の図である。
【図5a】本発明の第2の実施例の仮想表面を示す図である。
【図5b】本発明の第2の実施例の特徴形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る特徴形状抽出演算方法および表面形状補正演算方法について、図1に示すフローチャートに基づいて説明する。本明細書における表面形状測定装置とは、測定対象物の2次元、3次元の形状を測定することができる装置を意味し、例えば、輪郭形状測定機、真円度測定機、空間座標測定機、歯車測定機、白色干渉計、レンズ形状測定機、表面性状測定機、AFM、STM、共焦点顕微鏡、SEMなどの種々の装置が含まれる。従って、測定された表面形状測定データ点群も2次元(平面座標)又は3次元(空間座標)のデータである。まずは、表面形状測定データ点群により表わされる仮想表面の形状に合わせて二次元もしくは三次元の適切な形状を有する仮想接触子を設定する(S1)。ここで仮想表面とは、表面形状測定データ点群に基づいて表わされる仮想上の表面であり、データ点間を平面で繋いで表わしても良いし、最適にフィットする曲面を当てはめたて表わしても良い。仮想接触子の形状を選択するに際に、例えば表面形状測定データ点群又は該表面形状測定データ点群により表わされる仮想表面を画像としてモニタ上に表示し、該画像を参考に適当な寸法の形状を選択するようにしてもよい。また、仮想接触子も同時にモニタ上に表示して、モニタ上で仮想表面と形状を比較しながら最適な仮想接触子の寸法・形状を決めるようにしてもよい。仮想接触子の形状としては、典型的には円形又は球形が選択されるが、後に述べるように状況に応じて他のいかなる形状を選択しても良い。どのような寸法・形状の仮想接触子を設定するかは、表面形状測定データ点群が表す表面形状と、その中からどのような特徴形状を抽出するかによって異なる。
【0032】
次に、表面形状測定データ点群の中から任意のデータ点を選択し、このデータ点を接触中心データ点として設定する(S2)。
【0033】
さらに、設定された接触中心データ点に対して仮想接触子の仮想接触方向を設定する(S3)。ここで仮想接触方向とは、仮想接触子を仮想表面に接触させることを想定したときに、該仮想接触子をどの方向から仮想表面に向かって近づけて接触させるのかを規定している方向を意味する。仮想接触方向をどのような方向とするかは任意であるが、典型的には仮想表面のおおよその概形を表す表面の法線方向とする。例えば、被測定物が平板である場合には、その平板に垂直な方向とし、その方向を接触中心データ点の位置に関わらず、どの点でも一定とすることができる。また被測定物が円筒形の場合には、仮想接触方向は円筒の中心軸に垂直に交わる方向(放射方向)となるように接触中心データ点の位置に合わせて変化させるように設定することができる。被測定物の概形が複雑である場合には、接触中心データ点とその周囲のデータ点とで構成される部分表面に対する法線方向を接触中心データ点毎に求めて、その法線方向を仮想接触方向とすることができる。
【0034】
仮想接触子が仮想接触方向に延びる軸線状に位置づけられるように、表面形状測定データ点群に対する仮想接触子の相対位置を設定する(S4)。
【0035】
仮想接触子を仮想接触方向で接触中心データ点に向かって移動させていったときに、仮想接触子が接触することになる仮想表面の接触部分を表わしているデータ点を接触点データ点として表面形状測定データ点群から抽出する(S5)。この処理としては、例えば後に述べるような最短距離計算法や求根法などの種々の計算アルゴリズムがある。
【0036】
次の接触点データ点を求めるために、接触中心データ点を表面形状測定データ点の中の別のデータ点に置き換えて(S6)、S2乃至S5の処理を再び行なう。以降、順次接触中心データ点を置き換えていって、上記演算を繰り返し複数の接触点データ点を得る。このようにして得られた複数の接触点データ点を特徴形状データ点群として抽出する(S7)。
【0037】
抽出された特徴形状データ点群に基づいて、例えば曲線当てはめ処理を行なって特徴形状を生成する(S8)。
【0038】
また、表面に形成されたパターン形状を抽出したい場合などは、生成した特徴形状によって表面形状測定データ点群の補正を行ない、表面形状補正データ点群を得る(S9)。
【0039】
上述の特徴形状抽出演算方法及び表面形状補正演算方法について、具体的な実施例に基づいて更に詳細に説明する。
【0040】
図2aには、表面に微細な断面が矩形状の溝が周期的に形成されている機能性フィルムの表面形状を表面形状測定装置で測定したときの表面形状測定データ点群から構成される当該フィルムの仮想表面100が画像として示されている。ここでは説明を簡単にするために表面形状測定データ点群を二次元データとしているが、三次元データであってもよい。画像上の仮想表面100の溝102の大きさは、深さが約5μmで幅が約400μmとなっている。図から分かるようにこの機能性フィルムの仮想表面100は全体としてうねりを生じている。このうねりを機能性フィルムが有する特徴形状として抽出するために、機能性フィルムの表面形状測定データ点群に対して特徴形状抽出演算を行う場合について、以下に説明する。
【0041】
まず、事前に表面形状測定装置で測定されている機能性フィルムの表面形状測定データ点群をコンピュータに入力し、当該機能性フィルムの仮想表面100をモニタ上に表示する。
【0042】
次に、図2bに示すように、該仮想表面100に接触させながら移動させる仮想接触子110をモニタ上に設定する。どのような形状の可能接触子を設定するかによって演算結果は異なるので、所要の特徴形状に合わせて適切な形状の仮想接触子を設定する必要がある。例えば、本実施例では、機能性フィルム全体のうねりを特徴形状として抽出したいので、溝102部分の測定データを取り除くことができるように仮想接触子110は溝102の内部にまで侵入しない大きさとしている。すなわち直径が各溝102の幅よりも大きい円を仮想接触子110として設定している(図2b)。
【0043】
次に、表面形状測定データ点群から構成される仮想表面100の複数の異なる位置において仮想接触子110を仮想表面100に接触させたときに、仮想接触子110が接触する各接触点データ点を表面形状測定データ点群の中から抽出する。この抽出方法の具体的な例については後に詳細に説明する。このようにして求められた複数の接触点データ点が、この機能性フィルムの表面形状測定データ点群に含まれる特徴形状を表わす特徴形状データ点群120である。図2cから分かるように、表面形状測定データ点群から溝102部分のデータ点が除かれて上面の部分だけが特徴形状データ点群120として抽出されている。
【0044】
特徴形状データ点群120に基づいて表面形状測定データ点群に含まれる特徴形状の評価を行なうことが可能となるが、特徴形状データ点群120に曲線当てはめ処理を施すことにより特徴形状130を生成することもできる。曲線当てはめ処理により求められた特徴形状130は図2dに示すように、周期的に形成された溝102の影響を受けることなく、フィルム表面全体のうねりだけを的確に表現するものとなっており、この特徴形状130によりフィルムのうねりをより正確に評価することができる。さらには、上述のようにして求めた特徴形状130により表面形状測定データ点群を補正することで、溝102部分のうねりも補正することができ、表面に形成されたパターン形状などをより正確に評価することが可能となる。例えば、本実施例では、表面形状測定データ点群から特徴形状130を減算する補正処理を行なっている。これによって、表面形状測定データ点群から特徴形状130として抽出されたうねり成分を除去した表面形状補正データ点群を得ることができる。図3eに該表面形状補正データ点群により表わされる補正仮想表面140を示す。これによって、補正された溝106は溝自身の形状をより的確に表わすものとなり、溝の深さ分布、バラツキ、最大値、最小値等の評価がより容易且つ正確に行えるようになる。
【0045】
ここで、特徴形状データ点群を抽出する具体的な2つの計算アルゴリズムについて説明する。
【0046】
計算アルゴリズムの一実施例である最短距離計算法を用いた演算方法について図3a−dに基づいて説明する。図3aに示すように、仮想表面200を構成する表面形状測定データ点群204の中から任意の1点を選択し、そのデータ点を接触中心データ点P1として設定し、該接触中心データ点P1に対する仮想接触方向212を設定する(図3a)。次に図3bに示すように、選択された接触中心データ点P1から仮想接触方向212に延びる軸線250上に仮想接触子210を配置する。このとき、仮想接触子210は、表面形状測定データ点群204と仮想接触子210とが交わることがないように配置されているのが望ましい。次に図3cに示すように、仮想接触子210が仮想接触方向212で接触中心データ点P1に近づいてきたときに仮想接触子210と接触する可能性のあるデータ点P1−P5を表面形状測定データ点群204の中から選択し、選択された各データ点から仮想接触子210までの仮想接触方向212とは逆方向での各距離L1−L5を求める。接触する可能性のあるデータ点P1−P5は、仮想接触子210を仮想接触方向212で表面形状測定データ点群204上に投影したときの投影面内に含まれるデータ点としている。求めた各距離L1−L5を比較して、その中で最小距離を構成しているデータ点を求めて、その点を接触点として抽出する。この例ではL2が最小距離となるのでデータ点P2が接触点222となる。通常は、最小距離を構成するデータ点は一つのみとなるのでその一つのデータ点のみが接触点として抽出されることになるが、データ上複数の点が同時に最小距離を構成する場合には、それら全てのデータ点が接触点として抽出される。以上が接触点222を求める一連のステップであり、以降は接触中心データ点P1を別のデータ点に置き換えて上記一連のステップを繰り返して特徴形状データ点群を抽出する。図3dにおいては、最初の接触中心データ点P1の右隣のデータ点P2を次の接触中心データ点としているが、必ずしも接触中心データ点を一つずつずらしていく必要はなく、データ量及び計算量を抑えるために所定の間隔を開けて、例えば2点ずつとばして接触中心データ点を選択するようにしてもよい。また、表面形状測定データ点全体ではなく所定の範囲内のデータ点に対してだけ接触点を求める演算をするようにしてもよい。
【0047】
次に図4a−hに示す別の計算アルゴリズムである求根法について説明する。当該計算アルゴリズムにおいても、まずは図3に示す最短距離法と同様に接触中心データ点P1の設定、仮想接触方向312の設定、及び仮想接触子310の配置を行なう(図4a)。次に所定の第1間隔D1で仮想接触子310の位置を仮想接触方向312で仮想表面300に近づけ(図4b)、表面形状測定データ点群304のいずれのデータ点においても仮想接触子310が仮想接触方向312で越えていなければさらに第1間隔D1だけ仮想接触子310を仮想接触方向312に進める。仮想接触子310が表面形状測定データ点群304のいずれかのデータ点で超えたら(図4c)、一旦第1間隔D1分だけ仮想接触子310を戻して(図4d)、次に第1間隔D1よりも短い第2間隔D2で仮想接触子310を仮想接触方向312に進める(図4e)。ここでも先程と同様に仮想接触子310を第2間隔D2分ずつ表面形状測定データ点群304のいずれかの点を超えるまで進める。仮想接触子310が表面形状測定データ点群304のいずれかのデータ点を超えた時点で(図4f)、一旦第2間隔D2分だけ戻して(図4g)、さらに第2間隔D2よりも小さい第3間隔D3で仮想接触子310を仮想接触方向312に進める(図4h)。このような演算を繰り返して、表面形状測定データ点群304のいずれかの点と仮想接触子310の距離が所定値以下になった時点で、そのデータ点は仮想接触子310と接触している状態であるとみなして接触点322として抽出する。以上が接触点を求める一連のステップであり、以降は最短距離計算法と同様に接触中心データ点を別のデータ点に置き換えて上記一連のステップを繰り返して特徴形状データ点群を抽出する。
【0048】
図2に示す実施例では、評価対象となる表面がおおよそ平面であるので、仮想接触子110の仮想接触方向112は、場所によらず測定表面に対して垂直な方向、すなわち全ての接触中心データ点において図で見て下向きの方向で一定としている。本実施例のように全体的な形状が単純な形状の場合には、仮想接触方向を接触中心データ点ごとにその都度求める必要は必ずしもなく、所定の方向に事前に設定しておいても良い。
【0049】
別の実施例として、図5aに示す、円形の表面に複数の溝が形成された部材の表面形状測定データ点群に対する特徴形状抽出演算方法について説明する。このような形状の測定対象物に対しても、基本的には先の実施例と同様な方法で特徴形状の抽出演算を行なうことが可能である。ただし、仮想接触子410の仮想接触方向412は、選択された接触中心データ点に合わせて変える必要がある。すなわち、仮想接触方向412は、円形の仮想表面400上の接触中心データ点を通る法線方向としている。ただし、本実施例の測定対象物の概形は円形であるので、仮想接触方向412を、各接触中心データ点を通る法線方向、すなわち半径方向として予め設定しておいて、法線方向を求める演算処理を省略するようにしてもよい。図5bは、図5aに示す表面形状測定データ点群に対する特徴形状抽出演算により求められた特徴形状データ点群420及び特徴形状430を示している。
【0050】
なお上述の図2及び図5示した実施例では、測定対象物の仮想表面100、400の上面または外側に配置される仮想接触子110、410との関係で特徴形状を求めるようにしているが、仮想接触子110、410を測定対象物の仮想表面100、400の内側、すなわち図2aの仮想表面100の下側や図5aの円形状の仮想表面400の内側に配置して、特徴形状130、430の抽出演算を行なっても良い。
【0051】
また、上述の実施例ではいずれも円形の仮想接触子110,410を設定したが、用途に合わせて他の形状の仮想接触子を設定してもよい。例えば、測定対象物の使用状態においてその表面上を直方体の物体が摺動するような場合には、仮想接触子を実際に摺動する物体の形状に合わせて直方体に設定して演算を行ない、その物体が摺動する際に影響する当該表面における特徴形状を抽出することも考えられる。
【0052】
本発明に係る方法における仮想接触子の選択は、測定対象物の表面形状を表す表面形状測定データ点群が表わす仮想表面の形状に合わせて、比較的に直感的に行なうことができる。例えば上述の2つ実施例では外表面のみを特徴形状として抽出するために溝102,402よりも大きな形状を仮想接触子と選択しているし、先の例では実際に摺動する物体の形状に合わせた直方体の形状を選択するようにしている。このように、本発明に係る方法では従来技術におけるデジタルフィルタに相当する仮想接触子の選択を比較的に容易に行なうことができる。しかしながら、評価対象となる表面形状が複雑な場合には、選択した仮想接触子による演算により求められた特徴形状が必ずしも満足のいくものでない場合がある。このようなときには、演算結果としての特徴形状を参考にしながら仮想接触子の形状を適宜変更して、最適な結果が得られる仮想接触子の形状を設定するようにする。
【0053】
以上、本発明に係る特徴形状抽出演算方法について、実施例に基づいて説明してきたが、本発明は実施例において説明した方法に限定されるものではない。例えば、目的とする特徴形状を抽出するのに上述の特徴形状抽出演算を必ずしも一回だけ適用しなければならないわけではなく、1回目の特徴形状抽出演算により特徴形状データ点群を求めておいて、該特徴形状データ点群を表面形状測定データ点群に置き換えて1回目とは異なる形状の仮想接触子を選択して2回目の特徴形状抽出演算をし、最終的な特徴形状データ点群を抽出するようにしてもよい。また、仮想表面を場所毎に区切って、各場所に異なる形状の仮想接触子を設定して特徴形状抽出演算をそれぞれの場所毎に行なうようにしても良い。さらには、特徴形状データ点群から特徴形状を生成する処理は、最小二乗当てはめ処理、関数当てはめ処理、非線形当てはめ処理、補間処理、フィルタ処理、数値解析などであっても良い。
【符号の説明】
【0054】
100,200,300、400 仮想表面
102、402 溝
204、304 表面形状測定データ点群
106 補正された溝
110、210、310、410 仮想接触子
120、420 特徴形状データ点群
130、430 特徴形状
140 補正表面形状
112、212、312、412 仮想接触方向
222、322 接触点
250 軸線
P1、P2、P3、P4、P5 データ点
L1、L2、L3,L4,L5 距離
D1 第1間隔
D2 第2間隔
D3 第3間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面形状測定装置によって測定された被測定物の表面形状を表わす表面形状測定データ点群から、該被測定物の表面形状の所要の特徴形状を表わす特徴形状データ点群を抽出する特徴形状抽出演算方法であって、
前記表面形状測定データ点群によって構成される仮想表面に接触可能な二次元もしくは三次元の形状を有する仮想接触子を想定し、前記仮想表面における複数の異なる位置において該仮想接触子を該仮想表面に接触させたことを仮想したときに、各位置において該仮想接触子が接触する前記仮想表面上の1以上の接触点における前記表面形状測定データ点群の中のデータ点を抽出して前記特徴形状データ点群とする特徴形状抽出演算方法。
【請求項2】
表面形状測定装置によって測定された被測定物の表面形状を表わす表面形状測定データ点群から、該被測定物の表面形状の所要の特徴形状を表わす特徴形状データ点群を抽出する特徴形状抽出演算方法であって、
(a)前記表面形状測定データ点群によって構成される前記仮想表面に接触させたときに、前記仮想表面内の前記特徴形状に関係しない部分とは接触しないような寸法形状とされた仮想接触子を設定するステップと、
(b)前記表面形状測定データ点群の中から任意のデータ点を選択し、該データ点を接触中心データ点として設定するステップと、
(c)前記接触中心データ点に対して前記仮想接触子の仮想接触方向を設定するステップと、
(d)前記仮想接触子が前記仮想接触方向に延びる軸線上に位置付けされるように、前記表面形状測定データ点群に対する前記仮想接触子の相対位置を設定するステップと、
(e)前記仮想表面に前記仮想接触子が接触した状態となるように前記仮想接触子を前記仮想接触方向で移動させたときに、前記仮想接触子が接触することになる前記仮想表面の接触部分を表わしているデータ点を接触点データ点として前記表面形状測定データ点群から抽出するステップと、
(f)前記接触中心データ点を前記表面形状測定データ点群の中の別のデータ点に順次置き換えて前記(c)乃至(e)の各ステップを所定回数繰り返し、複数の前記接触点データ点を前記表面形状測定データ点群から抽出して前記特徴形状データ点群とするステップと、
を含む、特徴形状抽出演算方法。
【請求項3】
前記(e)のステップは、前記仮想接触子を前記相対位置に配置したときの、前記表面形状測定データ点群の前記接触中心データ点及びその周囲のデータ点の各点から前記仮想接触子までの前記仮想接触方向とは逆方向での各距離を求め、該各距離のうちの最小距離を構成するデータ点を接触点データ点として抽出するステップである、請求項2に記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項4】
前記相対位置は、前記仮想接触子と前記仮想表面が重なり合わずに離れている位置であり、
前記(e)のステップは、
(e−1)前記仮想接触子を前記相対位置に配置し、該仮想接触子が前記表面形状測定データ点群のいずれかのデータ点を越えるまで前記仮想接触子の位置を所定の第1間隔ずつ前記仮想接触方向に移動させるステップと、
(e−2)前記仮想接触子の位置を前記第1間隔分だけ前記仮想接触方向とは逆方向に移動するステップと、
(e−3)該仮想接触子が前記表面形状測定データ点群のいずれかのデータ点を越えるまで前記仮想接触子の位置を前記第1間隔よりも短い第2間隔ずつ前記仮想接触方向に移動させるステップと、
を含み、前記仮想接触子が前記仮想接触方向で越えているデータ点を接触点データ点として抽出するステップである、請求項2に記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項5】
前記仮想接触方向は一定の方向である、請求項2乃至4の何れかに記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項6】
前記仮想接触方向は前記接触中心データ点とその周囲のデータ点とで構成される接触対象面の前記接触中心データ点における法線方向である、請求項2乃至4の何れかに記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項7】
前記その周囲のデータ点は、前記仮想接触子を前記仮想接触方向の向きで前記表面形状測定データ点群上に投影したときに、該投影された面内に含まれるデータ点である、請求項3に記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項8】
前記仮想接触子は円形又は球形である、請求項1乃至6の何れかに記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項9】
前記特徴形状データ点群に基づいて特徴形状を生成するステップをさらに含む、請求項2乃至8の何れかに記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項10】
前記特徴形状を生成するステップは、前記特徴形状データ点群に対して曲線当てはめ処理を行なうことによってなされる、請求項9に記載の特徴形状抽出演算方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の特徴形状抽出演算方法によって生成した前記特徴形状に基づいて前記表面形状測定データ点群を補正処理して表面形状補正データ点群を導出するステップを含む、表面形状補正演算方法。
【請求項12】
前記補正処理は、前記表面形状測定データ点群から前記特徴形状を減算する処理である、請求項11に記載の表面形状補正演算方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図4f】
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【図4g】
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【図4h】
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【図5a】
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【図5b】
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【公開番号】特開2013−113613(P2013−113613A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257724(P2011−257724)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(501292142)株式会社小坂研究所 (16)
【Fターム(参考)】